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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240925BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240925BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240925BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01L29/78 658G
H01L29/78 652T
H01L29/78 652H
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
H01L21/304 621B
H01L21/304 631
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020185690
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075117
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸川 勤博
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-181966(JP,A)
【文献】特開2018-203611(JP,A)
【文献】特開2017-205817(JP,A)
【文献】特開2017-195244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素半導体装置(1)の製造方法であって、
炭化珪素の半導体層(140)にトレンチ(TR)を形成するトレンチ形成工程と、
前記トレンチ内を充填するように炭化珪素のエピ膜(14b、42、44)を形成するエピ膜形成工程と、
前記半導体層の表面上に堆積した前記エピ膜の余剰部分(42、44)に欠陥を形成する欠陥形成工程と、
前記エピ膜の前記余剰部分を削って除去する除去工程と、を備える、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記半導体層が第1導電型であり、前記エピ膜が第2導電型であり、
前記トレンチ形成工程では、前記半導体層に複数の前記トレンチを形成して前記トレンチ間に残存する複数の第1導電型のメサ部(14a)を形成し、
これにより、複数の第1導電型の前記メサ部と、複数の前記トレンチに充填された複数の第2導電型の前記エピ膜と、によってスーパージャンクション構造が形成される、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記エピ膜の前記余剰部分は、前記半導体層の表面全体を覆う被覆部分(42)と、前記被覆部分から突出する複数の柱状部分(44)と、を有しており、
前記欠陥形成工程では、少なくとも前記被覆部分に欠陥を形成する、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分にイオンを注入して欠陥を形成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記イオンが非金属である、請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記欠陥形成工程では、前記半導体層の表面に対して斜め方向から前記エピ膜の前記余剰部分に前記イオンを注入する、請求項4又は5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分に前記イオンを多段で注入する、請求項4~6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分にレーザを照射して欠陥を形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分に前記レーザを集光して照射する、請求項8に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分に前記レーザを多段で照射する、請求項8又は9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記欠陥形成工程では、欠陥が形成された前記エピ膜の前記余剰部分の硬度が前記除去工程で用いられる砥粒材の硬度よりも小さくなるように、前記エピ膜の前記余剰部分の欠陥密度を調整する、請求項1~10のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低オン抵抗と高耐圧を両立する構造としてスーパージャンクション構造(以下、「SJ構造」という)が提案されている。特許文献1は、このようなSJ構造を備えた炭化珪素半導体装置の一例を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-140258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなSJ構造を形成するためには、n型の半導体層に複数のトレンチを形成してトレンチ間に残存する複数のn型のメサ部を形成し、さらに、複数のトレンチの各々にp型のエピ膜を充填して複数のp型のエピ膜を形成することが行われる。これにより、複数のn型のメサ部と複数のp型のエピ膜と、によってSJ構造が形成される。
【0005】
トレンチ内にp型のエピ膜を充填するときに、n型の半導体層の表面上にもp型のエピ膜が堆積する。n型の半導体層の表面上に堆積したp型のエピ膜は、半導体装置を構成する部分ではなく、余剰部分である。このため、このp型のエピ膜の余剰部分は、研削又は研磨技術を利用して後の工程で除去される。
【0006】
しかしながら、炭化珪素の硬度が高いことから、エピ膜の余剰部分を除去するための加工時間が長くなるという問題がある。
【0007】
上記した課題は、SJ構造を形成する場合に限って生じるものではない。上記した課題は、炭化珪素の半導体層にトレンチを形成し、そのトレンチ内に炭化珪素のエピ膜を形成するときに広く生じ得る。本明細書は、トレンチ内にエピ膜を充填する工程を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法において、エピ膜の余剰部分を短時間で除去する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する炭化珪素半導体装置(1)の製造方法は、炭化珪素の半導体層(140)にトレンチ(TR)を形成するトレンチ形成工程と、前記トレンチ内を充填するように炭化珪素のエピ膜(14b、42、44)を形成するエピ膜形成工程と、前記半導体層の表面上に堆積した前記エピ膜の余剰部分(42、44)に欠陥を形成する欠陥形成工程と、前記エピ膜の前記余剰部分を削って除去する除去工程と、を備えることができる。この製造方法では、前記除去工程を実施する前に、前記エピ膜の前記余剰部分に欠陥を形成し、前記エピ膜の前記余剰部分の実質的な硬度を低下させる。これにより、前記除去工程では、前記エピ膜の前記余剰部分を短時間で除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置の要部断面図を模式的に示す。
図2】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置を製造する過程の要部断面図を模式的に示す。
図3】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置を製造する過程の要部断面図を模式的に示す。
図4】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置を製造する過程の要部断面図を模式的に示す。
図5】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置を製造する過程の要部断面図を模式的に示す。
図6】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置を製造する過程の要部断面図を模式的に示す。
図7】本明細書が開示する炭化珪素半導体装置を製造する過程の要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書が開示する技術要素を、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0011】
本明細書が開示する炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素の半導体層にトレンチを形成するトレンチ形成工程と、前記トレンチ内を充填するように炭化珪素のエピ膜を形成するエピ膜形成工程と、前記半導体層の表面上に堆積した前記エピ膜の余剰部分に欠陥を形成する欠陥形成工程と、前記エピ膜の前記余剰部分を削って除去する除去工程と、を備えることができる。この製造方法は、炭化珪素半導体装置を製造する様々な工程で利用することができ、スーパージャンクション構造を形成する工程以外の工程でも利用することができる。上記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分の少なくとも一部に欠陥を形成すればよい。この製造方法では、前記除去工程を実施する前に、前記エピ膜の前記余剰部分に欠陥を形成し、前記エピ膜の前記余剰部分の実質的な硬度を低下させる。これにより、前記除去工程では、前記エピ膜の前記余剰部分を短時間で除去することができる。
【0012】
上記製造方法では、前記半導体層が第1導電型であり、前記エピ膜が第2導電型であってもよい。この場合、前記トレンチ形成工程では、前記半導体層に複数の前記トレンチを形成して前記トレンチ間に残存する複数の第1導電型のメサ部を形成してもよい。これにより、複数の第1導電型の前記メサ部と、複数の前記トレンチに充填された複数の第2導電型の前記エピ膜と、によってスーパージャンクション構造が形成される。この製造方法によると、スーパージャンクション構造を短時間で形成することができる。
【0013】
上記製造方法では、前記エピ膜の前記余剰部分は、前記半導体層の表面全体を覆う被覆部分と、前記被覆部分から突出する複数の柱状部分と、を有していてもよい。この場合、前記欠陥形成工程では、少なくとも前記被覆部分に欠陥を形成してもよい。面方向に連続して広がった形態の前記被覆部分の実質的な硬度を低下させるので、前記エピ膜の前記余剰部分を短時間で除去することができる。
【0014】
上記製造方法の前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分にイオンを注入して欠陥を形成してもよい。この場合、前記イオンが非金属であってもよい。金属汚染を防止しながら前記エピ膜の前記余剰部分に欠陥を形成することができる。
【0015】
上記製造方法の前記欠陥形成工程では、前記半導体層の表面に対して斜め方向から前記エピ膜の前記余剰部分に前記イオンを注入してもよい。チャネリングを抑えることができるので、注入エネルギーに基づいて前記余剰部分の所定深さに欠陥を形成することができる。
【0016】
上記製造方法の前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分に前記イオンを多段で注入してもよい。前記余剰部分の厚み方向の広範囲に欠陥を形成することができるので、前記エピ膜の前記余剰部分をより短時間で除去することができる。
【0017】
上記製造方法の前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分にレーザを照射して欠陥を形成してもよい。この場合、前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分に前記レーザを集光して照射してもよい。前記エピ膜の前記余剰部分に効率的に欠陥を形成することができる。なお、欠陥形成は、レーザの照射のみで実施されてもよく、イオン注入とレーザ照射を組み合わせて実施されてもよい。
【0018】
上記製造方法の前記欠陥形成工程では、前記エピ膜の前記余剰部分に前記レーザを多段で照射してもよい。前記余剰部分の厚み方向の広範囲に欠陥を形成することができるので、前記エピ膜の前記余剰部分をより短時間で除去することができる。
【0019】
上記製造方法の前記欠陥形成工程では、欠陥が形成された前記エピ膜の前記余剰部分の硬度が前記除去工程で用いられる砥粒材の硬度よりも小さくなるように、前記エピ膜の前記余剰部分の欠陥密度を調整してもよい。前記半導体層及び前記トレンチ内に充填された前記エピ膜へのダメージを抑えながら、前記エピ膜の余剰部分を効率的に除去することができる。
【実施例
【0020】
図1に、炭化珪素半導体装置1の要部断面図を模式的に示す。炭化珪素半導体装置1は、MOSFETと称されるパワー半導体素子であり、炭化珪素層10、炭化珪素層10の裏面を被覆するドレイン電極22、炭化珪素層10の表面を被覆するソース電極24、及び、炭化珪素層10の表面から深部に向けて伸びるトレンチ内に設けられている複数の絶縁トレンチゲート30を備えている。
【0021】
炭化珪素層10は、特に限定されるものではないが、例えば4Hの炭化珪素であって表面の結晶面が(0001)のSi面に対してオフ角だけ傾斜している。オフ角は、特に限定されるものではないが、例えば4°である。炭化珪素層10は、n+型のドレイン領域12、ドリフト領域14、p型のボディ領域16、n+型のソース領域18、及び、p+型のボディコンタクト領域19を有している。
【0022】
ドレイン領域12は、炭化珪素層10の下層部に配置されており、炭化珪素層10の裏面に露出している。ドレイン領域12は、炭化珪素層10の裏面を被膜するドレイン電極22にオーミック接触している。
【0023】
ドリフト領域14は、ドレイン領域12とボディ領域16の間に設けられており、複数のn型部分領域14aと複数のp型部分領域14bを有している。n型部分領域14aとp型部分領域14bは、炭化珪素層10の横断面内において少なくとも一方向に沿って交互に繰り返すように配置されており、SJ構造を構成している。複数のn型部分領域14aと複数のp型部分領域14bは、特に限定されるものではないが、平面視したときにストライプ状に配置されている。
【0024】
ボディ領域16は、ドリフト領域14上に設けられており、炭化珪素層10の上層部に配置されている。ボディ領域16は、ドリフト領域14のn型部分領域14aとソース領域18の間に設けられており、n型部分領域14aとソース領域18の双方に接しており、n型部分領域14aとソース領域18を隔てている。ボディ領域16のドーパント濃度は、所望のゲート閾値電圧に応じて調整されている。
【0025】
ソース領域18は、ボディ領域16上に設けられており、炭化珪素層10の上層部に配置されており、炭化珪素層10の表面に露出している。ソース領域18は、絶縁トレンチゲート30の側面に接している。ソース領域18は、炭化珪素層10の表面を被膜するソース電極24にオーミック接触している。
【0026】
ボディコンタクト領域19は、ボディ領域16上に設けられており、炭化珪素層10の上層部に配置されており、炭化珪素層10の表面に露出している。ボディコンタクト領域19は、炭化珪素層10の表面を被膜するソース電極24にオーミック接触している。
【0027】
絶縁トレンチゲート30は、炭化珪素層10の上層部に形成されているトレンチ内に充填されており、ソース領域18とボディ領域16を貫通してドリフト領域14のn型部分領域14aに達している。絶縁トレンチゲート30は、ゲート電極32及びゲート絶縁膜34を有している。ゲート電極32は、不純物を含むポリシリコンで形成されており、ゲート絶縁膜34を介して炭化珪素層10に対向している。特に、ゲート電極32は、ドリフト領域14のn型部分領域14aとソース領域18を隔てる部分のボディ領域16にゲート絶縁膜34を介して対向している。ゲート絶縁膜34は、酸化シリコンで形成されており、トレンチの内壁を被覆している。
【0028】
次に、図1を参照し、炭化珪素半導体装置1の動作を説明する。ソース電極24の電位よりもドレイン電極22の電位が正となる状態で、絶縁トレンチゲート30のゲート電極32の電位がソース電極24よりも正であり、且つ閾値よりも高く制御されると、炭化珪素半導体装置1はターンオンする。このとき、ソース領域18とドリフト領域14のn型部分領域14aを隔てる部分のボディ領域16に反転層が形成される。ソース領域18から供給される電子は、その反転層のチャネルを経由してドリフト領域14のn型部分領域14aに達する。n型部分領域14aに達した電子は、n型部分領域14aを経由してドレイン領域12に流れる。SJ構造を構成する複数のn型部分領域14aのドーパント濃度は比較的に濃い。このため、炭化珪素半導体装置1は低いオン抵抗という特性を有することができる。
【0029】
絶縁トレンチゲート30のゲート電極32の電位がソース電極24の電位と同一となるように制御されると、反転層のチャネルが消失し、炭化珪素半導体装置1はターンオフする。SJ構造を構成する複数のn型部分領域14aと複数のp型部分領域14bは完全空乏化され、ドリフト領域14の広い範囲が空乏化される。また、ドリフト領域14はSJ構造を有することから、ドリフト領域14の電界分布が厚み方向に平準化される。このため、ドリフト領域14は大きい電位差を負担することができるので、炭化珪素半導体装置1は高耐圧という特性を有することができる。
【0030】
次に、炭化珪素半導体装置1の製造方法のうちのSJ構造を形成する工程について説明する。炭化珪素半導体装置1の製造するための他の工程については、公知の製造技術を利用することができる。
【0031】
まず、図2に示すように、n型の炭化珪素基板であるドレイン領域12を準備する。次に、特に限定されるものではないが、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等のエピタキシャル成長技術を利用して、ドレイン領域12の表面から炭化珪素のn型エピ層140を成長させる。なお、n型エピ層140は半導体層の一例である。
【0032】
次に、図3に示すように、特に限定されるものではないが、RIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチング技術を利用して、n型エピ層140の表面から深部に向けて伸びる複数のトレンチTRを形成する(トレンチ形成工程)。これにより、トレンチTR間に残存するn型エピ層140の一部によって複数のメサ部が形成され、この複数のメサ部がn型部分領域14aとなる。
【0033】
次に、図4に示すように、特に限定されるものではないが、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等のエピタキシャル成長技術を利用して、複数のトレンチTRの各々を充填するように炭化珪素のp型のエピ膜を形成する(エピ膜形成工程)。複数のトレンチTRの各々に充填されたp型エピ膜がp型部分領域14bとなる。これにより、複数のn型部分領域14aと複数のp型部分領域14bによってSJ構造が形成される。
【0034】
図4に示されるように、エピ膜形成工程では、n型エピ層140の表面上にもp型エピ膜が堆積する。n型エピ層140の表面上に堆積したp型エピ膜は、炭化珪素半導体装置を構成する部分ではなく、余剰部分である。このp型エピ膜の余剰部分は、n型エピ層140の表面全体を覆う被覆部分42と、n型部分領域14aの上方であって被覆部分42から突出する複数の柱状部分44と、を有している。
【0035】
次に、図5に示されるように、イオン注入技術を利用してp型エピ膜の余剰部分にイオンを注入して欠陥を形成する(欠陥形成工程)。イオン種としては、金属汚染を防止するために非金属イオンが用いられ、特に限定されるものではないが、例えばアルゴンイオンが用いられる。欠陥形成工程では、n型エピ層140の表面に対して斜め方向からp型エピ膜の余剰部分にイオンを注入する。このような斜めイオン注入を実施することにより、チャネルリングが抑制され、余剰部分の所定深さにイオンを注入することができる。また、欠陥形成工程では、少なくとも余剰部分のうちの被覆部分42に欠陥を形成する。さらに、欠陥形成工程では、イオンを多段で注入し、余剰部分の複数の深さに欠陥を形成する。この例に代えて、欠陥形成工程では、余剰部分の少なくとも一部に欠陥を形成してもよい。
【0036】
次に、図6に示されるように、特に限定されるものではないが、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の研削又は研磨技術を利用して、p型エピ膜の余剰部分、即ち、被覆部分42と柱状部分44を削って除去する(除去工程)。上記したように、この除去工程を実施する前に、p型エピ膜の余剰部分に欠陥が形成されているので、p型エピ膜の余剰部分の実質的な硬度が低下している。このため、除去工程では、p型エピ膜の余剰部分を短時間で除去することができる。このように、本実施例の製造方法では、SJ構造を短時間で形成することができるので、製造コストを低下させることができる。
【0037】
上記したように、欠陥形成工程では、少なくとも余剰部分のうちの被覆部分42に欠陥が形成されている。被覆部分42は、面方向に連続して広がった形態を有している。このため、このような被覆部分42は、研削又は研磨技術を利用して除去するときに加工時間が長くなる傾向にある。本実施例の製造方法では、このような被覆部分42に欠陥を形成して実質的な硬度を低下させているので、除去工程において被覆部分42を短時間で除去することができる。また、欠陥形成工程では、イオンを多段で注入して余剰部分の複数の深さに欠陥が形成されている。被覆部分42の複数の深さに欠陥が形成されてもよいし、柱状部分44の複数の深さに欠陥が形成されてもよい。このように、p型エピ膜の余剰部分の厚み方向の広範囲に欠陥が形成されているので、除去工程においてp型エピ膜の余剰部分を短時間で除去することができる。
【0038】
除去工程で用いられる砥粒材の硬度は、欠陥が形成されていない炭化珪素の硬度よりも小さく、欠陥形成工程で欠陥が形成されたp型エピ膜の余剰部分の硬度よりも大きい。換言すると、欠陥形成工程では、欠陥が形成されたp型エピ膜の余剰部分の硬度が除去工程で用いられる砥粒材の硬度よりも小さくなるように、p型エピ膜の余剰部分の欠陥密度が調整される。これにより、除去工程において、SJ構造(欠陥が形成されていない領域)へのダメージを抑えながら、p型エピ膜の余剰部分を効率的に除去することができる。
【0039】
上記した実施例では、イオン注入技術を利用してp型エピ膜の余剰部分に欠陥を形成する例を説明した。この例に代えて、又は、この例に加えて、図7に示すように、p型エピ膜の余剰部分にレーザを照射して欠陥を形成してもよい。さらに、図7に示すように、レーザを集光してエネルギー密度を高めることで、硬度の高い炭化珪素に対しても効率的に欠陥を形成することができる。なお、レーザ照射を利用する場合においても、欠陥を形成する位置及び欠陥密度については、イオン注入技術と同様であってもよい。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
1:炭化珪素半導体装置、 10:炭化珪素層、 12:ドレイン領域、 14:ドリフト領域、 14a:n型部分領域、 14b:p型部分領域、 16:ボディ領域、 18:ソース領域、 19:ボディコンタクト領域、 22:ドレイン電極、 24:ソース電極、 30:絶縁トレンチゲート、 32:ゲート絶縁膜、 34:ゲート電極、 42:被覆部分、 44:柱状部分、 140:n型エピ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7