(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】電流検出器及びパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
G01R15/18 A
(21)【出願番号】P 2020203788
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】池田 康亮
(72)【発明者】
【氏名】松嵜 理
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203396828(CN,U)
【文献】特開2001-267157(JP,A)
【文献】実開昭60-078124(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2020/0066970(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォース端子を有するモジュール本体と、
前記フォース端子に導電性のネジでねじ止めされている電流検出器とを備え、
前記電流検出器は、
中央部にフレーム貫通孔が形成されたロゴスキーコイル実装フレームと、
前記ロゴスキーコイル実装フレーム上に絶縁性接合材を介して配置されており、前記フレーム貫通孔に対応した位置に基体貫通孔を有する基体、及び、前記基体に形成され、前記基体貫通孔と離隔して前記基体貫通孔を取り囲む位置に配置されたコイル部を有するロゴスキーコイルと、
前記コイル部と接続され、外部に向かって延びる検出用センス接続子と、
前記フレーム貫通孔内及び前記基体貫通孔内を通るように配置された筒状部、及び、前記筒状部の端部と連結された平板部を有し、平面的に見て中央部に前記筒状部及び前記平板部を貫通する接続子貫通孔が形成されており、前記接続子貫通孔の内表面には雌ネジが形成されている雌ネジ型接続子と、
少なくとも前記筒状部の前記雌ネジ、前記筒状部の端部、前記検出用センス接続子の先端部分、前記雌ネジ型接続子の前記平板部、及び、前記ロゴスキーコイル実装フレームの底部が露出した状態で、前記ロゴスキーコイル実装フレーム、前記ロゴスキーコイル、前記検出用センス接続子及び前記雌ネジ型接続子を封止する封止樹脂とを有し、
前記ロゴスキーコイル実装フレームの底部及び前記筒状部の一の端部を一のバスバーが覆っており、かつ、前記雌ネジ型接続子の前記平板部及び前記筒状部の他の端部を他のバスバーが覆っており、
前記一のバスバー、前記電流検出器及び前記他のバスバーは、前記ネジにより前記一のバスバー、前記電流検出器及び前記他のバスバーを貫通した状態で前記フォース端子にねじ止めされていることを特徴とするパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流検出器及びパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力損失の少ない電流検出器として、コイル(いわゆるロゴスキーコイル)を備える電流検出器が知られおり(例えば、特許文献1参照)、このようなコイルを備える電流検出器をパワーモジュールに適用することも知られている(例えば、特許文献2参照)。このようなパワーモジュールによれば、電流検出器としてシャント抵抗を用いた場合と比較して、検出対象電流が抵抗を流れることに起因した電力損失が少なくて済む。
【0003】
近年、電源装置(電力変換回路)やパワーモジュールの小型化の要請に伴い、パワーモジュール内に組み込まれる電流検出器の一層の小型化が求められている。そこで、シリコン基板等の基体に微細加工を施すMEMS技術を適用して電流検出器をより一層小型化することが考えられる。
【0004】
本発明の発明者らは、微細加工を施すMEMS技術を電流検出器に適用することを目的として鋭意研究を行った結果、高抵抗基体にコイルを形成した第1の先願に係る電流検出器800を発明し、特願2019―084827号としてすでに出願している。第1の先願に係る電流検出器800は、高抵抗のシリコン基体810の中央部に導電性の主電流導通部820が形成され、シリコン基体810の周縁部にコイル(ロゴスキーコイル)830が形成されたものである(
図12参照)。コイル830は、シリコン基体810の表面及び裏面に導体膜を形成し、当該導体膜同士をビアを介して接続することで形成されている。
【0005】
第1の先願に係る電流検出器800によれば、コイル830を高抵抗のシリコン基体810に形成するため、MEMS技術を適用して電流検出器を形成することができ、電流検出器の小型化を実現することができる。また、高抵抗のシリコン基体810を用いるため、接地線から主電流導通部820に入り込むノイズがコイル830に与える影響を低減することができる。
【0006】
しかしながら、第1の先願に係る電流検出器800においては、中央部に導電性の主電流導通部820を備えるため、高温動作となったときに、主電流導通部820からシリコン基体810に熱が伝導し、温度特性によってシリコン基体810のインピーダンスが低下してノイズを低減する効果が薄れる場合があり、電流を高い精度で測定することが難しい場合があることがわかった。そこで、本発明の発明者らは、主電流導通部820を形成する代わりに基体910の中央部に貫通孔953を形成し、貫通孔953内に接続子CLを配置して主電流を導通させる第2の先願に係る電流検出器900を発明し(
図13参照)、こちらも特願2019-214442号としてすでに出願している。
【0007】
第2の先願に係る電流検出器900は、
図14に示すように、基体側貫通孔912を有する基体910と、基体910に形成され、基体側貫通孔912と離隔して基体側貫通孔912を取り囲む位置(周縁部)に配置されたコイル部930と、基体910を覆う絶縁部940と、絶縁部940の表面に設けられた接合部金属膜950と、接合部金属膜950に接合材960を介して接合され、回路基板に取り付けるための取付部970とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-189319号公報
【文献】特開2000-171491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、第2の先願に係る電流検出器900においては、貫通孔953内に配置された接続子CLから基体910の周縁部に形成されたコイル部930までの長さが場所によって大きく異なる。例えば、
図14において、断面で見て接続子CLの一方側のコイル部930までの長さL2は、他方側のコイル部930までの長さL1よりも長くなる。従って、接続子CLを流れる電流によって誘導される電流に偏りが生じ易く、高い精度で接続子CL流れる電流を検出することが難しい、という問題がある。さらにまた、樹脂封止したリング状の電流検出器を安定して固定することは難しいことから、樹脂封止したリング状の電流検出器を実装することは容易ではない、という問題もある。
【0010】
そこで本発明は、上記した問題を解決するためになされたものであり、小型化することが可能で、かつ、高い精度で電流検出が可能で、かつ、樹脂封止したリング状の電流検出器を容易に実装することが可能な電流検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電流検出器は、中央部にフレーム貫通孔が形成されたロゴスキーコイル実装フレームと、前記ロゴスキーコイル実装フレーム上に絶縁性接合材を介して配置されており、前記フレーム貫通孔に対応した位置に基体貫通孔を有する基体、及び、前記基体に形成され、前記基体貫通孔と離隔して前記基体貫通孔を取り囲む位置に配置されたコイル部を有するロゴスキーコイルと、前記コイル部と接続され、外部に向かって延びる検出用センス接続子と、前記フレーム貫通孔内及び前記基体貫通孔内を通るように配置された筒状部、及び、前記筒状部の端部と連結された平板部を有し、平面的に見て中央部に前記筒状部及び前記平板部を貫通する接続子貫通孔が形成されており、前記接続子貫通孔の内表面には雌ネジが形成されている雌ネジ型接続子と、少なくとも前記筒状部の前記雌ネジと前記検出用センス接続子の先端部分とが露出した状態で、前記ロゴスキーコイル実装フレーム、前記ロゴスキーコイル、前記検出用センス接続子及び前記雌ネジ型接続子を封止する封止樹脂とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のパワーモジュールは、フォース端子を有するモジュール本体と、本発明の電流検出器とを備え、前記電流検出器は、前記フォース端子に導電性のネジでねじ止めされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電流検出器及びパワーモジュールによれば、フレーム貫通孔内及び基体貫通孔内を通るように配置された筒状部、及び、筒状部の端部と連結された平板部を有し、平面的に見て中央部に筒状部及び平板部を貫通する接続子貫通孔が形成されており、接続子貫通孔の内表面には雌ネジが形成されている雌ネジ型接続子を備えるため、雌ネジ型接続子の筒状部からロゴスキーコイルのコイル部までの距離が均等になる。従って、雌ネジ型接続子及びネジを流れる電流によってコイル部に誘導される電流に偏りが生じ難く、雌ネジ型接続子及びネジに流れる電流を高い精度で検出することができる。
【0014】
また、本発明の電流検出器及びパワーモジュールによれば、接続子貫通孔の内表面には雌ネジが形成されている雌ネジ型接続子を備えるため、電流検出器をネジでパワーモジュールにねじ止めすることで電流検出器をパワーモジュールに固定することができる。従って、樹脂封止したリング状の電流検出器を容易に実装することが可能となる。
【0015】
また、本発明の電流検出器及びパワーモジュールによれば、フレーム貫通孔に対応した位置に基体貫通孔を有する基体、及び、基体に形成され、基体貫通孔と離隔して基体貫通孔を取り囲む位置に配置されたコイル部を有するロゴスキーコイルを備えるため、基体に微細加工を施すMEMS技術を適用することができ、小型化されたロゴスキーコイルを形成することができる。従って、電源装置(電力変換回路)やパワーモジュールの小型化の要請に適した電流検出器及びパワーモジュールとなる。
【0016】
また、本発明の電流検出器及びパワーモジュールによれば、中央部にフレーム貫通孔が形成されたロゴスキーコイル実装フレームを備えるため、製造時において樹脂封止する際、ロゴスキーコイルをロゴスキーコイル実装フレーム上に配置することでロゴスキーコイルの位置を固定した状態とすることができる。その結果、樹脂封止する際にロゴスキーコイルの位置決めを高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る電流検出器1を説明するために示す図である。なお、
図1(a)は電流検出器1の斜視図を示し、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】実施形態に係る電流検出器1の内部構造を説明するために示す図である。なお、
図2においては、封止樹脂60の図示を省略し、かつ、製造時においてロゴスキーコイル実装フレーム10が外枠19と連結されている様子を表している。
【
図3】実施形態におけるロゴスキーコイル20を説明するために示す図である。
図3(a)はロゴスキーコイル20の平面図及び要部拡大平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のB-B断面図である。
【
図4】実施形態における雌ネジ型接続子50の斜視図である。
【
図5】実施形態における接続子延在部54,55,56及び検出用センス接続子40とコイル部22とが重なる領域R1~R4について説明するために示す図である。
【
図6】実施形態に係るパワーモジュール100を説明するために示す斜視図である。なお、符号120は端子を示す。
【
図7】ロゴスキーコイル実装フレーム準備工程を説明するために示す図である。
図7(a)は平面図を示し、
図7(b)は
図7(a)のC-C断面図を示す(
図8~
図11において同じ)
【
図8】ロゴスキーコイル実装フレームに絶縁性接合材を塗布した様子を示す図である。
【
図9】ロゴスキーコイル搭載工程を説明するために示す図である。
【
図10】雌ネジ型接続子及び検出用センス接続子搭載工程を説明するために示す図である。
【
図11】樹脂封止工程を説明するために示す図である。
【
図12】第1の先願に係る電流検出器800を示す側面図である。なお、符号Chipは半導体素子を示し、符号CLは接続子を示し、符号SUBは基板を示し、符号Sはソース電極を示し、符号Dはドレイン電極を示す。
【
図13】第1の先願に係る電流検出器800を基板SUBに実装した様子を説明するために示す斜視図である。
【
図14】第2の先願に係る電流検出器900の問題点を説明するために示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の電流検出器及びパワーモジュールについて、図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、各図面は模式図であり、必ずしも実際の寸法を厳密に反映したものではない。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
[実施形態]
1.実施形態に係る電流検出器1の構成
実施形態に係る電流検出器1は、
図1(a)に示すように、略正方形の表面S1及び裏面S2、略長方形(厳密には裏面S2側がやや広い台形形状)の側面S3、S4、S5,S6で構成された略直方体形状をしており、中央部に表面S1から裏面S2に貫通する接続子貫通孔53が形成されている。接続子貫通孔53の内表面には雌ネジが形成されている。実施形態に係る電流検出器1は、封止樹脂60で封止されており、表面S1には、後述する雌ネジ型接続子50の平板部52が露出している。裏面S2には筒状部51の端部、及び、ロゴスキーコイル実装フレーム10の底部11が露出している(
図1(b)参照)。また、側面S3においては、中央付近における電流検出器1の厚さ方向のやや上方に所定の間隔をあけて一対の検出用センス接続子40が外側に向かって延びている。
【0020】
実施形態に係る電流検出器1は、
図1及び
図2に示すように、ロゴスキーコイル実装フレーム10と、ロゴスキーコイル20と、検出用センス接続子40と、雌ネジ型接続子50と、封止樹脂60とを備える。
【0021】
ロゴスキーコイル実装フレーム10は、中央部にフレーム貫通孔13が形成された金属製(例えば、銅製)のフレームである。ロゴスキーコイル実装フレーム10は、底部11と、3つのフレーム延在部16,17,18(
図2参照)とを有する。
底部11は中央にフレーム貫通孔13が形成された略矩形のリング形状をしている。矩形の4つの角部には各角部を覆うように形成された耳部を有する。底部11の上側の面にはロゴスキーコイル20を載置するためのロゴスキーコイル載置面が形成されている。底部11の下側の面は、封止樹脂60から露出している。
【0022】
3つのフレーム延在部16,17,18は、
図2に示すように、底部11(ロゴスキーコイル20が配置されている領域)の側面S4,S5,S6側の3辺から外側に向かって延びるように形成されている。3つのフレーム延在部16,17,18は、それぞれ傾斜部14と平坦部12とで構成されている。傾斜部14は、
図1(b)に示すように、断面で見て底部11から斜め上方に折れ曲がって伸びている。平坦部12は、3つの傾斜部14のそれぞれの端部から水平方向に向かって延びている。3つのフレーム延在部16,17,18の各平坦部12には、上方(接続子延在部が配置される側)に向かって突出した凸部15が設けられている。3つのフレーム延在部16,17,18は、製造過程において、
図2に示すように、先端部が外枠19と接続されている。すなわち、ロゴスキーコイル実装フレーム10は、リードフレームから外枠19を切り離して形成されたものである。
【0023】
ロゴスキーコイル20は、
図1(b)に示すように、ロゴスキーコイル実装フレーム10上に絶縁性接合材70を介して配置されており、
図3に示すように、フレーム貫通孔13に対応した位置に基体貫通孔23を有する基体21、基体21に形成され、基体貫通孔23と離隔して基体貫通孔23を取り囲む位置に配置されたコイル部22、及び戻し線24を有する。
【0024】
基体21は、中央部に矩形状の基体貫通孔23が形成されており、
図3(b)に示すように、基体本体30の表面(基体21とコイル部22との間を含む)には絶縁膜31が形成されている。絶縁膜31の厚さは、0.1μm~10μmの範囲内にある。
【0025】
基体21の材料は、半導体基体又は絶縁基体であるが、実施形態においては、矩形平板状の高抵抗のシリコン基体であり、具体的には、FZ(Floating Zone)法で形成されたシリコン基体である。基体21を高抵抗のシリコン基体としているため、従来から一般的に用いられてきたシリコン基体に用いるMEMS技術を十分に活用することができる。
【0026】
基体21の比抵抗は、100Ωcm~1×107Ωcmの範囲内にあり、100Ωcm~220000Ωcmであることがより好ましい。これにより、接地線を介して筒状部51及びネジBにノイズ(コモンモードノイズ)が入り込んだ場合であっても、ノイズが基体21を通してコイル部22、ひいては積分器に入り込むことを確実に防ぐことができる。すなわち、基体21そのものがノイズフィルタとしての役割をすることになり、一般的にノイズ対策として必要なYコンデンサやコモンモードチョーク等を用いなくても(用いた場合にはより一層)電流検出におけるノイズの影響を低減することができる。
【0027】
基体21の比抵抗を100Ωcm~1×107Ωcmの範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、基体21の比抵抗が100Ωcm未満の場合には、電流検出器を電源装置(電力変換回路)に組み込んで使用した場合において接地線を介して筒状部51及びネジBにノイズ(コモンモードノイズ)が入り込んだときに、筒状部51及びネジBに入り込んだノイズが基体21を通してコイル部22(及び積分器)に入り込んでしまい、筒状部51及びネジBに流れる電流を高い精度で測定することが難しいからである。また、基体21の比抵抗を1×107Ωcm以下としたのは、1×107Ωcm以上の高抵抗のシリコン基体を製造するのは実際上困難であるからである。
【0028】
コイル部22は、
図3(a)に示すように、基体21の周縁部(外周付近)に形成されている。コイル部22において、一方の端部が電極接続片29と接続されており、そこから基体21の周縁部に沿って、らせん状(進行方向に向かって時計回りに旋回するらせん状)に基体21の厚さを径としたコイルが形成されている。そして、基体21の周縁部(基体貫通孔23の周囲)に沿ってほぼ一周した位置で、コイル部22の他方の端部が戻し線24と接続されている。
【0029】
コイル部22は、
図3(a)の右下図に示すように、基体21の両面にそれぞれ形成された導体膜25,26を、基体21の厚さ方向に並列に複数形成されたビア27を介して接続することによって形成されたものである。コイル部22は、空芯コイルであるロゴスキーコイルである。このため、インピーダンスが小さく、電流測定による電力損失が小さくなる。また、磁束が飽和せず大電流の測定に対応することができる。
【0030】
戻し線24は、一方の端部がコイル部22と接続され、平面的に見て基体21の基体貫通孔23及びコイル部22の外側位置(コイル部22よりも基体21の周端部側)に配置されている。また、戻し線24の他方の端部が、電極接続片29と並んで配置されている電極接続片28と接続されている。従って、コイル部22は、電極接続片29から基体貫通孔23を囲むようにほぼ一周し、そこから折り返して、戻し線24は、コイル部22の外側位置(コイル部22よりも基体21の周端部側)をほぼ一周して電極接続片29の外側位置を過ぎた位置で、コイル部22の内側位置に入り込み、電極接続片28と接続されている。
【0031】
なお、ロゴスキーコイルの特性上、コイル部22で囲まれた面積を貫く磁束に対応した誘導電流が生じるが、戻し線24によって、戻し線24で囲まれた面積を貫く逆向きの磁束に対応した逆方向成分の誘導電流が生じて打ち消しあうため、基体貫通孔23内を通して配置される雌ネジ型接続子50の筒状部51及びネジBに導通する電流を正確に検出することができる。
【0032】
一対の検出用センス接続子40は、
図2に示すように、コイル部22の電極接続片28,29とそれぞれ接続され、
図1(a)に示すように、水平方向に側面S3の方向に封止樹脂60の外側まで延びている。一対の検出用センス接続子40は外部の図示しない積分器と接続される。
【0033】
雌ネジ型接続子50は、
図1及び
図4に示すように、筒状部51と平板部52とを有し、平面的に見て中央部に筒状部51及び平板部52を貫通する接続子貫通孔53が形成されており、接続子貫通孔53の内表面には雌ネジが形成されている。
【0034】
筒状部51は、フレーム貫通孔13内及び基体貫通孔23内を通るように配置されている。筒状部51の中央部には筒状部51を貫通する接続子貫通孔53が形成されており、接続子貫通孔53の内表面には雌ネジが形成されている(
図1(b)参照)。筒状部51は、裏面S2においては、筒状部51の雌ネジ53周辺が封止樹脂60から露出しており、表面S1においては、雌ネジ53周辺が封止樹脂60から露出されているとともに平板部52と連結されている。筒状部51は、平面的に見てフレーム貫通孔13及び基体貫通孔23の形状(矩形形状)に合わせた形状となっており、角部がR面となるように面取りされている(
図4参照)。
【0035】
平板部52は、筒状部51の端部(ロゴスキーコイル実装フレーム10側とは反対側の端部)と連結され、表面S1に沿って広がっている(
図1(b)及び
図4参照)。平板部52は、平面的に見て筒状部51の周囲を囲む領域58、及び、そこから側面S4,S5、S6に向かってそれぞれ延在する部分(接続子延在部54,55,56)で構成されている。筒状部51の周囲を囲む領域58は、平面的に見て電流検出器1の各側面S3~S6のそれぞれの中央側に角がくるように形成された菱形から側面S3側の角を切り落とした形状をしている。
【0036】
3つの接続子延在部54,55,56は、
図2及び
図5に示すように、平面的に見て接続子貫通孔53からロゴスキーコイル20のコイル部22が形成されている領域を横断して外側に(それぞれ側面S4,S5,S6に)向かって延びている。2つの接続子延在部54,56は、それぞれ側面S4,S6に向かって互いに反対方向に延びている。接続子延在部55は、側面S5に向かって延びており、側面S3に向かって延びている検出用センス接続子40とは反対方向に延びている。
図5に示すように、平面的に見て3つの接続子延在部54,55,56のそれぞれがコイル部22と重なる領域R1,R2,R3の面積はそれぞれ等しくなっている。また、
平面的に見て3つの接続子延在部54,55,56がコイル部22と重なる領域R1,R2,R3の面積は、一対の検出用センス接続子40の両方がコイル部22と重なる領域R4の面積の合計とそれぞれ等しくなっている。
【0037】
3つの接続子延在部54,55,56はそれぞれ、3つのフレーム延在部16,17,18と重なる領域に延びている。3つの接続子延在部54,55,56の先端部分にはそれぞれ、フレーム延在部16,17,18の先端部に形成された凸部15と対応する孔57が形成されており、凸部15と孔57はそれぞれ係合されている。
【0038】
封止樹脂60は、耐熱性・高絶縁性の樹脂やセラミックス等により形成されている。
【0039】
このような電流検出器1は、
図6に示すように、モジュール本体110上にねじ止めされている(実施形態に係るパワーモジュール100)。具体的には、3つのフォース端子を有するモジュール本体110の上面に、それぞれバスバーBUS2を介して3つの電流検出器1を配置する。フォース端子は雌ネジが形成されており、電流検出器1の雌ネジとそれぞれ対応した位置に電流検出器1を配置する。そして、各電流検出器1の上にバスバーBUS1を配置し、導電性のネジBでねじ止めする。これにより、3つの電流検出器1はそれぞれ、フォース端子に導電性のネジBでねじ止めすることができる。
【0040】
電流検出器1は、モジュール本体110のフォース端子から筒状部51及びネジBに流れる電流を検出する。筒状部51及びネジBに電流が流れると、コイル部22に誘導電流が流れ、検出用センス接続子40を介して増幅器(図示せず)に流れる。当該増幅器で増幅することで筒状部51及びネジBに流れる電流を検出する。
【0041】
2.実施形態における電流検出器の製造方法
実施形態における電流検出器の製造方法は、
図7~
図11に示すように、ロゴスキーコイル実装フレーム準備工程と、ロゴスキーコイル搭載工程と、雌ネジ型接続子及びセンス接続子搭載工程と、樹脂封止工程とをこの順序で含む。
【0042】
(1)ロゴスキーコイル実装フレーム準備工程
まず、3つのフレーム延在部16,17,18の先端がそれぞれ外枠19と連結されているロゴスキーコイル実装フレーム10のリードフレーム10’を所定の治具(図示せず)に設置する(
図7参照)。
【0043】
(2)ロゴスキーコイル搭載工程
次に、ロゴスキーコイル実装フレーム10の底部11の上面の所定の領域(ロゴスキーコイル載置面)に例えばディスペンサーで絶縁性接合材70を塗布する(
図8参照)。次に、ロゴスキーコイル20を電極接続片28,29が上面となるように、底部11上に絶縁性接合材70(絶縁性接着剤)を介して配置する(
図9参照)。
【0044】
(3)雌ネジ型接続子及び検出用センス接続子搭載工程
次に、ロゴスキーコイル20の電極接続片28,29上及び3つのフレーム延在部16,17,18の所定の領域にディスペンサーで導電性接合材(例えば、はんだ)を塗布する。次に、一対の検出用センス接続子40のそれぞれの端部が電極接続片28,29上に配置し、一対の検出用センス接続子40水平方向に延在するように検出用センス接続子40を配置する。また、3つのフレーム延在部16,17,18それぞれの凸部15と、3つの接続子延在部54,55,56それぞれに形成された孔57が係合するとともに、筒状部51がフレーム貫通孔13及び基体貫通孔23の内側を貫通するように雌ネジ型接続子50を配置する(
図10参照)。このとき、筒状部51の裏面S2側の表面と、ロゴスキーコイル実装フレーム10の底部11とは同一平面となるように配置される。
【0045】
(4)樹脂封止工程
次に、リードフレーム10’の外枠19を把持した状態でトランスファーモールドによって、封止樹脂60で封止する。次に、外枠19とフレーム延在部16,17,18との連結を切断する(
図11参照)。
【0046】
このようにして、実施形態に係る電流検出器1を製造することができる。
【0047】
3.実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100の効果
実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、フレーム貫通孔13内及び基体貫通孔23内を通るように配置された筒状部51、及び、筒状部51の端部と連結された平板部52を有し、平面的に見て中央部に筒状部51及び平板部52を貫通する接続子貫通孔53が形成されており、接続子貫通孔53の内表面には雌ネジが形成されている雌ネジ型接続子50を備えるため、雌ネジ型接続子50の筒状部51からロゴスキーコイル20のコイル部22までの距離が均等になる。従って、雌ネジ型接続子50及びネジBを流れる電流によってコイル部22に誘導される電流に偏りが生じ難く、雌ネジ型接続子50及びネジBに流れる電流を高い精度で検出することができる。
【0048】
また、実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、接続子貫通孔53の内表面には雌ネジが形成されている雌ネジ型接続子50を備えるため、電流検出器1をネジBでパワーモジュールにねじ止めすることで電流検出器1をパワーモジュールに固定することができる。従って、樹脂封止したリング状の電流検出器を容易に実装することが可能となる。
【0049】
また、実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、フレーム貫通孔13に対応した位置に基体貫通孔23を有する基体21、及び、基体21に形成され、基体貫通孔23と離隔して基体貫通孔23を取り囲む位置に配置されたコイル部22を有するロゴスキーコイル20を備えるため、基体21に微細加工を施すMEMS技術を適用することができ、小型化されたロゴスキーコイル20を形成することができる。従って、電源装置(電力変換回路)やパワーモジュールの小型化の要請に適した電流検出器となる。
【0050】
また、実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、中央部にフレーム貫通孔13が形成されたロゴスキーコイル実装フレーム10を備えるため、製造時において樹脂封止する際、ロゴスキーコイル20をロゴスキーコイル実装フレーム10上に配置することでロゴスキーコイル20の位置を固定した状態とすることができる。その結果、樹脂封止する際にロゴスキーコイル20の位置決めを高い精度で行うことができる。
【0052】
また、実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、平面的に見て接続子延在部54,55,56がコイル部22と重なる面積は、一対の検出用センス接続子40の両方がコイル部22と重なる領域の面積の合計と等しいため、一対の検出用センス接続子40がコイルに与える影響と、接続子延在部55がコイル部22に与える影響(例えば、コイル部22に発生する誘導電流)を互いに打ち消しあうことができる。その結果、ノイズが小さくなり、高い精度で電流検出を行うことができる。
【0053】
また、実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、接続子延在部54,55,56とフレーム延在部16,17,18とはそれぞれ係合されているため、製造時において、ロゴスキーコイル実装フレーム10、ロゴスキーコイル実装フレーム10に接合されているロゴスキーコイル20、及び、雌ネジ型接続子50の位置を固定することができる。その結果、ロゴスキーコイル実装フレーム10、ロゴスキーコイル20、及び、雌ネジ型接続子50を高い精度で位置決めすることができる。
【0054】
また、実施形態に係る電流検出器1及びパワーモジュール100によれば、フレーム延在部16,17,18は、接続子延在部54,55,56側(上側)に突出した凸部15を有し、接続子延在部54,55,56は、15凸部に対応した孔57を有し、凸部15と孔57とは係合されているため、製造時において、ロゴスキーコイル実装フレーム10、ロゴスキーコイル20、及び、雌ネジ型接続子50を確実に位置決めすることができる。
【0055】
また、実施形態に係るパワーモジュール100によれば、電流検出器1は、フォース端子に導電性のネジBでねじ止めするため、樹脂封止したリング状の電流検出器をモジュール本体110上に容易に実装することができる。また、電流検出器1の筒状部51及びネジBに流れる電流をコイル部22を用いて検出することができる。
【0056】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0057】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0058】
(2)上記実施形態においては、電流検出器をパワーモジュールに実装したが、本発明はこれに限定されるものではない。一般的な電力変換回路、電気回路、電気機器等、導体部材に流れる適宜の回路、機器等に実装してもよい。このとき、基板等に雌ネジが形成されているときには電流検出器をねじ止めして固定することができる。また、実装せずに独立した電流検出器として用いてもよい。
【0059】
(3)上記実施形態において、接続子延在部を3本形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。接続子延在部を1本、又は2本にしてもよいし、設けなくてもよい。なお、2本の場合には、互いに反対方向に延在する位置に設けるのが好ましく、1本の場合、検出用センス接続子40の反対方向に延在する位置に設けるのが好ましい。
【0060】
(4)上記実施形態において、3本の接続子延在部をそれぞれ電流検出器の側面に向かって延ばしたが、本発明はこれに限定されるものではない。接続子延在部を電流検出器の角部に向かって延ばしてもよい。
【0061】
(5)上記実施形態において、フレーム延在部を3本形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。フレーム延在部を1本、又は2本にしてもよいし、設けなくてもよい
【0062】
(6)上記実施形態において、貫通孔が矩形の電流検出器を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。貫通孔が多角形の電流検出器や円形の電流検出器等その他適宜の形状の貫通孔を有する電流検出器を用いてもよい。
【0063】
(7)上記実施形態において、外形が矩形の電流検出器を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。外形が多角形の電流検出器や円形の電流検出器等その他適宜の形状の外形を有する電流検出器を用いてもよい。
【0064】
(8)上記実施形態において、基体として、FZ法で形成された高抵抗のシリコン基体を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。基体として、MCZ法で形成されたシリコン基体を用いてもよいし、比抵抗が100Ωcm~220000Ωcmの範囲内にある、その他の方法で形成されたシリコン基体であってもよい。なお、シリコン基体の比抵抗の上限を220000Ωcmとしたのは、物性的にこれ以上の比抵抗を有するシリコン基体を製造することが困難だからである。
【0065】
(9)上記実施形態において、基体をシリコン基体としたが、本発明はこれに限定されるものではない。基体をSiC基体としてもよい。この場合には、基体のうち少なくとも導体部材とコイルとの間の領域の比抵抗が100Ωcm~1×107Ωcmの範囲内にある必要がある。基体がSiC基体である場合にはバンドギャップが広く比抵抗が高い基体としやすいだけでなく、近年、SiC基体に対するMEMS加工技術も進んできており、加工しやすい。また、GaN基体、サファイア基体等のシリコン基体やSiC基体以外の半導体基体であってもよい。また、半導体基体以外の絶縁性基体を用いてもよい。
【0066】
(10)上記実施形態において、戻し線を、平面的に見て、コイルで囲まれている領域の外側に配置したが、本発明はこれに限定されるものではない。戻し線を、平面的に見て、コイルで囲まれている領域の内側に配置してもよいし、コイルで囲まれている領域の内側と外側とを横断するように配置してもよい。コイルで囲まれている領域の内側と外側とを横断するように配置した場合には、平面的に見て、戻し線がコイルで囲まれている領域の内側に配置されている部分における戻し線とコイルとの間の領域の面積を、戻し線がコイルで囲まれている領域の外側に配置されている部分における戻し線とコイルとの間の領域の面積と等しくする方が好ましい。この場合には、コイルで囲まれた領域を貫く磁束によって生じる誘導電流と、戻し線で囲まれた面積を貫く磁束によって生じる誘導電流とをより均等に打ち消しあうため、導体部材に導通する電流をより正確に検出することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…電流検出器、10…ロゴスキーコイル実装フレーム、13…フレーム貫通孔、15…凸部、16,17,18…フレーム延在部、20…ロゴスキーコイル、21…基体、22…コイル部、23…基体貫通孔、40…検出用センス接続子、50…雌ネジ型接続子、51…筒状部、52…平板部、53…接続子貫通孔、54,55,56…接続子延在部、57…孔、60…封止樹脂、70…絶縁性接合材、100…パワーモジュール、110…モジュール本体、R1,R2,R3…接続子延在部とコイル部が重なる領域、B…ネジ