(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ダイシングテープ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240925BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20240925BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240925BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20240925BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20240925BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240925BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240925BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240925BHJP
C09J 161/04 20060101ALI20240925BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240925BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/52 D
H01L21/52 E
C09J7/38
C09J7/25
C09J7/24
C09J133/00
C09J175/04
C09J163/00
C09J161/04
C09J11/04
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2020208544
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】角田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】古川 慧
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩和
(72)【発明者】
【氏名】田中 理恵
(72)【発明者】
【氏名】増田 晃良
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098369(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123804(WO,A1)
【文献】特開2019-009203(JP,A)
【文献】特開2020-053453(JP,A)
【文献】特開2018-056282(JP,A)
【文献】特許第7440633(JP,B2)
【文献】特開2019-016816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0040043(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0119584(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/52
C09J 7/38
C09J 7/25
C09J 7/24
C09J 133/00
C09J 175/04
C09J 163/00
C09J 161/04
C09J 11/04
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、該基材フィルム上に、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層とを備えたダイシングテープであって、
(1)前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)、並びにポリアミド樹脂(B)を含み、
該基材フィルム全体における前記樹脂(A)と前記樹脂(B)との質量比率(A):(B)が、72:28~95:5の範囲である樹脂組成物から構成され、
-15℃における5%伸長時の応力が、基材フィルムをMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)およびTD方向(MD方向に対して垂直な方向)のいずれの方向に伸張した場合においても、15.5MPa以上28.5MPa以下の範囲であり、
(2)前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含み、
前記アクリル系粘着性ポリマーは、主鎖のガラス転移温度(Tg)が-65℃以上-50℃以下の範囲であり、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲であり、
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物において、
前記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と前記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.02以上0.20以下の範囲であり、
架橋反応後の残存水酸基濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.18mmol以上0.90mmol以下の範囲であり、
活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85mmol以上1.60mmol以下の範囲である、
ことを特徴とするダイシングテープ。
【請求項2】
前記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり1.02mmol以上1.51mmol以下の範囲である請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項3】
前記アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量Mwは20万以上60万以下の範囲である請求項1または2に記載のダイシングテープ。
【請求項4】
前記アクリル系粘着性ポリマーの酸価は、0mgKOH/g以上9.0mgKOH/gの範囲である請求項1~3のいずれか一項に記載のダイシングテープ
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造工程で使用することのできるダイシングテープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造においては、ダイシング工程により半導体ウエハを半導体チップに個片化するために、ダイシングテープや、該ダイシングテープとダイボンドフィルムとが一体化されたダイシングダイボンドフィルムが使用される場合がある。ダイシングテープは、基材フィルム上に粘着剤層が設けられた形態をしており、粘着剤層上に半導体ウエハを配置し、半導体ウエハのダイシング時に個片化した半導体チップが飛散しないように固定保持する用途に用いられる。その後、半導体チップをダイシングテープの粘着剤層から剥離し、別途準備した接着剤や接着フィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。
【0003】
ダイシングダイボンドフィルムは、ダイシングテープの粘着剤層上にダイボンドフィルム(以下、「接着フィルム」あるいは「接着剤層」と称する場合がある)を剥離可能に設けたものである。半導体装置の製造においては、ダイシングダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上に半導体ウエハを貼着・配置して、半導体ウエハをダイボンドフィルムと共にダイシングして個々の接着フィルム付き半導体チップを得るために用いられる。その後、半導体チップをダイボンドフィルムと共にダイシングテープの粘着剤層からダイボンドフィルム付き半導体チップとして剥離(ピックアップ)し、ダイボンドフィルムを介して半導体チップをリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。
【0004】
上記ダイシングダイボンドフィルムは、生産性向上の観点から好適に用いられるが、ダイシングダイボンドフィルムを使用してダイボンドフィルム付き半導体チップを得る方法として、近年では、従来の高速回転するダイシングブレードによるフルカット切断方法に取って代わり、薄膜化する半導体ウエハをチップに個片化する際のチッピングが抑制できるとして、(1)DBG(Dicing Before Grinding)による方法、(2)ステルスダイシング(登録商標)による方法等が提案されている。
【0005】
上記(1)のDBGによる方法では、まず、ダイシングブレードを用いて半導体ウエハを完全に切断せずに、半導体ウエハの表面に所定の深さの分割溝を形成し、その後裏面研削を、研削量を適宜調整して行うことにより、複数の半導体チップを含む半導体ウエハの分割体あるいは複数の半導体チップに個片化可能な半導体ウエハを得る。その後、該半導体ウエハの分割体あるいは該半導体チップに個片化可能な半導体ウエハをダイシングダイボンドフィルムに貼り付け、ダイシングテープを低温下(例えば、-30℃以上0℃以下)にてエキスパンド(以下、「クールエキスパンド」と称する場合がある)することにより、上記分割溝に沿って、低温で脆性化されたダイボンドフィルムを個々の半導体チップに相当するサイズに割断、あるいは半導体ウエハと共に割断する。最後にダイシングテープの粘着剤層からピックアップにより剥離して、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得ることができる。
【0006】
上記(2)のステルスダイシングによる方法では、まず、半導体ウエハをダイシングダイボンドフィルムに貼り付け、半導体ウエハ内部にレーザー光を照射して選択的に改質領域(改質層)を形成させながらダイシング予定ラインを形成する。その後、ダイシングテープをクールエキスパンドすることにより、半導体ウエハに対して改質領域から垂直に亀裂を進展させ、上記ダイシング予定ラインに沿って、低温で脆性化されたダイボンドフィルムと共に個々に割断する。最後にダイシングテープの粘着剤層からピックアップにより剥離して、個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを得ることができる。
また、上記(1)のDBGによる方法においては、半導体ウエハ表面にダイシングブレードにより分断(割断)溝を形成する代わりにステルスダイシングにより半導体ウエハ内部に選択的に改質領域を設けて個片化可能な半導体ウエハを得ることもできる。これは、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)と呼ばれる方法である。
【0007】
上記ピックアップの工程においては、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハを割断した後、ダイシングテープを常温付近でエキスパンド(以下、「常温エキスパンド」と称する場合がある)して隣接する個々のダイボンドフィルム付き半導体チップ間の間隔(以下、「カーフ幅」と称する場合がある)を広げ、ダイシングテープの外周部分(半導体ウエハが貼着されていない部分)を熱収縮させて個々の半導体チップ間の間隔(カーフ幅)を広げたまま固定することにより、割断された個々のダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープの粘着剤層から剥離してピックアップすることができる。
【0008】
ところで、近年では、半導体ウエハの薄型化に伴って、半導体チップの多段積層工程におけるワイヤボンド時にチップ割れが発生し易くなっており、その課題対策として、スペーサ機能を兼ね備えたワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが提案されている。ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ダイボンディング時にワイヤを隙間なく埋め込む必要があり、上述した従来の汎用ダイボンドフィルムと比較して、厚さが厚く、流動性が高い(高温下での溶融粘度が低い)傾向にあるため、このようなワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムを従来のダイシングテープに積層して半導体チップの製造に供した際に、以下の問題があった。
【0009】
すなわち、上述したクールエキスパンド工程において、ダイシングテープに密着しているダイボンドフィルムあるいはダイボンドフィルム付き半導体ウエハに対し、クールエキスパンドされるダイシングテープから割断力(外部応力)を作用させるところ、低温下における引張応力が十分に大きいとは言えない従来のダイシングテープでは、該引張応力が、上記ワイヤ埋め込み型のダイボンドフィルム付き半導体ウエハを十分に割断できるだけの外部応力として十分にマージンがある大きさとは言い難く、ワイヤ埋め込み型のダイボンドフィルム付き半導体ウエハの割断予定箇所の一部が割断しない場合がある。また、半導体チップ間の間隔(カーフ幅)が十分に広がらず、割断された厚さが厚いダイボンドフィルム同士の再付着や半導体チップ同士の衝突が生じ、ピックアップ工程においてピックアップミスが誘発される場合がある。
【0010】
さらに、エキスパンド工程を経たダイシングテープの粘着剤層上のダイボンドフィルム付き半導体チップにおいて、そのダイボンドフィルムのエッジ部分がダイシングテープの粘着剤層から部分的に剥離する場合がある。半導体チップ表面に予め形成される配線回路が多層化するほど、当該配線回路と半導体チップの材料との熱膨張率差も一因となって半導体チップが反りやすくなるため、上記の部分的な剥離が助長されやすい。この部分的な剥離(以下、「浮き」と称する場合がある)の発生は、その程度が大きいと、後の洗浄工程等において、ダイシングテープからのダイボンドフィルム付き半導体チップの意図しない脱落の原因となるおそれや、後のピックアップ工程において、半導体チップの位置ずれや下記現象等によりピックアップミスの原因となるおそれがある。特にダイシングテープの粘着剤層が活性エネルギー線(例えば紫外線)硬化性の粘着剤組成物から構成される場合、ダイシングテープからダイボンドフィルム付き半導体チップをピックアップする前に、粘着剤層の粘着力を低下させるために、紫外線を照射して粘着剤層を硬化させるが、ダイボンドフィルム付き半導体チップのエッジ部分がダイシングテープの粘着剤層から大きく剥離すると、剥離した部分において粘着剤層が空気中の酸素に触れることにより、紫外線を照射しても粘着剤層が十分に硬化しない場合がある。このような場合、粘着層の粘着力が十分に低下しないため、ピックアップ工程において、突き上げ部の面積が大きい突き上げ治具でダイシングテープの下面側から突き上げて、該治具の上に位置する半導体チップをピックアップするために半導体チップ上部から吸着コレットを接触させた時に、ダイボンドフィルム付き半導体チップのエッジ部が、硬化が不十分な粘着剤層に再固着してしまい、ダイボンドフィルム付き半導体チップをダイシングテープの粘着剤層からピックアップできなくなる現象が生じやすい。
【0011】
したがって、ダイボンドフィルムに対しては、割断性と流動性のバランス制御および信頼性の向上の検討が精力的に進められる一方で、ダイシングテープに対しては、従来のダイボンドフィルムだけでなくワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような厚さが厚く、流動性が高いダイボンドフィルムを使用したとしても、エキスパンドによりダイボンドフィルムが半導体ウエハとともに良好に割断でき、ダイボンドフィルムの粘着剤層からの部分的な剥離が発生しにくく、最終的に良好なピックアップ性が達成できる性能が切望されている。
【0012】
上記のエキスパンド時の割断の不具合やエキスパンド後の部分的な剥離の発生を抑制する従来技術として、特許文献1には、エキスパンド工程にてダイシングテープ上のダイボンドフィルムについて良好に割断させるとともにダイシングテープからの浮きや剥離を抑制することを目的に、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有し、特定条件の引張試験において、5~30%の範囲の少なくとも一部の歪み値で15~32MPaの範囲内の引張応力を示し得るダイシングテープが開示されている。
【0013】
一方、ダイシングテープの取り扱いにおいて、ダイシングテープは加熱条件下でダイボンドフィルムに貼着されることがあるため、また、ダイシングダイボンドフィルムは加熱条件下で半導体ウエハに貼着されることがあるため、さらには、ダイシングダイボンドフィルムとしてプリカット加工する際に、余分なダイシングテープを切れることなく良好に剥離除去するために局所的に加熱処理されることがあるため等、ダイシングテープには一定の耐熱性も求められている。ダイシングテープの耐熱性が低いと、作業テーブル(ダイ)上に固着して剥がしにくくなる場合がある。また、熱によりダイシングテープに歪みや反り等の変形が生じると、薄膜化した半導体ウエハが変形してしまう可能性もある。このため、ダイシングテープに対しては、上述したダイボンドフィルム付き半導体ウエハの良好な割断性、ピックアップ工程に至るまでのダイボンドフィルムとの良好な密着性、良好なピックアップ性と共に耐熱性も要求される。
【0014】
上記の耐熱性を向上させる従来技術として、特許文献2には、耐熱性に優れ、且つ分断(割断)性と拡張性とのバランスのとれたダイシングフィルム基材を提供することを目的に、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体および前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(A)30質量部以上95質量部以下と、ポリアミドおよびポリウレタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(B)5質量部以上40質量部未満と、前記ポリアミド以外の帯電防止剤(C)0質量部以上30質量部以下と、を含有する(ただし、樹脂(A)、樹脂(B)および帯電防止剤(C)の合計を100質量部とする)樹脂組成物からなる層を少なくとも一層含むダイシングフィルム基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2019-16787号公報
【文献】特開2017-98369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1のダイシングテープに関しては、実施例において特定の引張応力特性を示し得るダイシングテープとアクリル樹脂を主体とする厚さ10μmのダイボンドフィルムとを積層したダイシングダイボンドフィルムに半導体ウエハ分割体を貼り合わせ、クールエキスパンドすることにより、ダイボンドフィルムが良好に分断(割断)されることが示されているが、まだ、割断後のダイボンドフィルムにおいて、ダイシングテープの粘着剤層からの浮きが生じた面積が20%程度になる場合があり、改善の余地があった。また、厚さが厚く、流動性が高いワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムに対する割断性、半導体チップのピックアップ性やダイシングテープの耐熱性については言及されておらず、これらの点については不明である。少なくとも実施例で示されるダイシングテープとしてのポリ塩化ビニル基材は耐熱性が十分とは言えない。
【0017】
また、特許文献2のダイシングフィルム基材に関しては、実施例において特定の樹脂組成物からなる層を少なくとも一層含むダイシングフィルム基材が、優れた耐熱性を有し、半導体ウエハの分断(割断)性と拡張性とのバランスに優れること、そして、ダイシングフィルムとして使用することによって、半導体製造時のダイシング工程および続く拡張工程を円滑に実施し、テープ残りや変形のない半導体の製造が可能となることが記載されているが、ワイヤ埋め込み型を含めたダイボンドフィルムやクールエキスパンドによるその割断性、あるいはダイボンドフィルムのダイシングテープの粘着剤層からの部分的な剥離(浮き)の発生といった課題については一切認識されておらず、また、半導体チップのピックアップ性も含め、これらの点については不明である。
【0018】
このように従来技術のダイシングテープは、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような流動性が高く、厚さが厚いダイボンドフィルムと貼合してダイシングダイボンドフィルムとして半導体チップの製造工程に供した場合において、クールエキスパンド時のダイボンドフィルム付き半導体ウエハの割断性、エキスパンド後のダイボンドフィルムの粘着剤層からの部分的な剥離(浮き)の抑制、半導体チップのピックアップ性および耐熱性等の多くの観点からは十分に満足しているとは言い難く、まだ改善の余地があった。
【0019】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、半導体製造工程用のダイシングテープとして、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような流動性が高く、厚さが厚いダイボンドフィルムを貼合して適用する場合においても、(1)耐熱性に優れ、(2)クールエキスパンドによりダイボンドフィルム付き半導体ウエハが良好に割断されると共に、常温エキスパンドによりカーフ幅を十分に確保することができ、(3)割断後のダイボンドフィルムにおいて、ダイシングテープの粘着剤層からの部分的な剥離(浮き)が十分に抑制され、割断された個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることができるダイシングテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、かかる目的のもと、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(1)ダイシングテープの基材フィルムとして、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)並びにポリアミド樹脂(B)とを特定の質量割合で含む樹脂から構成される、所定の引張応力物性値を有する樹脂フィルムを用い、(2)粘着剤組成物として、特定の範囲の水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマーを主成分として含み、残存水酸基濃度と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度を所定の範囲とした活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0021】
すなわち、本発明のダイシングテープは、
基材フィルムと、該基材フィルム上に、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層とを備え、
(1)前記基材フィルムは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)、並びにポリアミド樹脂(B)とを含み、
該基材フィルム全体における前記樹脂(A)と前記樹脂(B)との質量比率(A):(B)が、72:28~95:5の範囲である樹脂組成物から構成され、
-15℃における5%伸長時の応力が、基材フィルムをMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)およびTD方向(MD方向に対して垂直な方向)のいずれの方向に伸張した場合においても、15.5MPa以上28.5MPa以下の範囲であり、
(2)前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー、光重合開始剤、ならびに、前記水酸基と架橋反応するポリイソシアネート系架橋剤を含み、
前記アクリル系粘着性ポリマーは、主鎖のガラス転移温度(Tg)が-65℃以上-50℃以下の範囲であり、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲であり、
前記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物において、
前記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と前記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.02以上0.20以下の範囲であり、
架橋反応後の残存水酸基濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.18mmol以上0.90mmol以下の範囲であり、
活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85mmol以上1.60mmol以下の範囲である。
【0022】
ある一形態においては、前記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり1.02mmol以上1.51mmol以下の範囲を有する。
【0023】
ある一形態においては、前記アクリル系粘着性ポリマーは、20万以上60万以下の範囲の重量平均分子量Mwを有する。
【0024】
ある一形態においては、前記アクリル系粘着性ポリマーは、0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下の範囲の酸価を有する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、半導体製造工程用のダイシングテープとして、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような流動性が高く、厚さが厚いダイボンドフィルムを貼合して適用する場合においても、(1)耐熱性に優れ、(2)クールエキスパンドによりダイボンドフィルム付き半導体ウエハが良好に割断されると共に、常温エキスパンドによりカーフ幅を十分に確保することができ、(3)割断後のダイボンドフィルムにおいて、ダイシングテープの粘着剤層からの部分的な剥離(浮き)が十分に抑制され、(4)割断された個々のダイボンドフィルム付き半導体チップを良好にピックアップすることできるダイシングテープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルムの構成の一例を示した断面図である。
【
図2】本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
【
図3】本実施の形態が適用されるダイシングテープをダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
【
図4】ダイシングテープの製造方法について説明したフローチャートである。
【
図5】半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。
【
図6】ダイシングダイボンドフィルムの外縁部にリングフレーム(ウエハリング)、ダイボンドフィルム中心部に個片化可能に加工された半導体ウエハが貼り付けられた状態を示した斜視図である。
【
図7】(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および該半導体ウエハのダイシングダイボンドフィルムへの貼合工程の一例を示した断面図である。
【
図8】(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルムが貼合された複数の改質領域を有する薄膜半導体ウエハを用いた半導体チップの製造例を示した断面図である。
【
図9】本実施の形態が適用される
ダイシングテープを、ダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
【
図10】本実施の形態が適用される
ダイシングテープを、ダイボンドフィルムと貼り合わせた構成のダイシングダイボンドフィルムを用いて製造された半導体チップを用いた他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
【
図11】(a)~(c)は、ダイボンドフィルム(接着剤層)に対するダイシングテープの粘着剤層のUV照射後粘着力の測定方法を説明するための概略図である。
【
図12】ダイボンドフィルム(接着剤層)に対するダイシングテープの粘着剤層の-30℃における剪断接着力の測定方法を説明するための概略図である。
【
図13】エキスパンド後における半導体チップ間の間隔(カーフ幅)の測定方法を説明するための平面図である。
【
図14】
図13における半導体ウエハの中心部の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
(ダイシングテープおよびダイシングダイボンドフィルムの構成)
図1の(a)~(d)は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの基材フィルム1の構成の一例を示した断面図である。本実施の形態のダイシングテープの基材フィルム1は単一の樹脂組成物の単層(
図1の(a)1-A参照)であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体(
図1の(b)1-B参照)であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体(
図1の(c)1-C、(d)1-D参照)であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましい。
【0029】
図2は、本実施の形態が適用されるダイシングテープの構成の一例を示した断面図である。
図2に示すように、ダイシングテープ10は、基材フィルム1の第1面の上に粘着剤層2を備えた構成を有している。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)には、離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えていても良い。基材フィルム1は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とを含有した樹脂組成物から構成される。粘着剤層2を形成する粘着剤としては、例えば、紫外線(UV)等の活性エネルギー線を照射することにより硬化・収縮して被着体に対する粘着力が低下する活性エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤等が使用される。
【0030】
係る構成のダイシングテープ10は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングテープ10の粘着剤層2上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハや、レーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハを貼り付けて保持(仮固定)し、クールエキスパンドにより半導体ウエハを個々の半導体チップに割断した後、常温エキスパンドにより半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張し、ピックアップ工程により、個々の半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られた半導体チップを、別途準備した接着剤や接着フィルムを介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。
【0031】
図3は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10をダイボンドフィルム(接着フィルム)3と貼り合わせて一体化した構成、いわゆるダイシングダイボンドフィルムの一例を示した断面図である。
図3に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着フィルム)3が剥離可能に密着、積層された構成を有している。
【0032】
係る構成のダイシングダイボンドフィルム20は、半導体製造工程においては、例えば、以下のように使用される。ダイシングダイボンドフィルム20の、ダイボンドフィルム3上に、ブレードにより表面に分割溝が形成された半導体ウエハや、レーザーにより内部に改質層が形成された半導体ウエハを貼り付けて保持(接着)し、クールエキスパンドにより半導体ウエハをダイボンドフィルム3と共に割断し、個々のダイボンドフィルム3付き半導体チップを得る。あるいは、ダイシングダイボンドフィルム20の、ダイボンドフィルム3上に、半導体ウエハを貼り付けて保持(接着)し、その状態でレーザーにより半導体ウエハの内部に改質層を形成した後、クールエキスパンドにより半導体ウエハをダイボンドフィルム3と共に割断し、個々のダイボンドフィルム3付き半導体チップを得る。次いで、常温エキスパンドによりダイボンドフィルム3付き半導体チップ間のカーフ幅を十分に拡張した後、ピックアップ工程により、個々のダイボンドフィルム3付き半導体チップをダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離する。得られたダイボンドフィルム(接着フィルム)3付き半導体チップを、ダイボンドフィルム(接着フィルム)3を介してリードフレームや配線基板、あるいは別の半導体チップ等の被着体に固着させる。なお、図示はしないが、ダイシングテープ10の粘着剤層2の表面(基材フィルム1に対向する面とは反対側の面)およびダイボンドフィルム3の表面(粘着剤層2に対向する面とは反対側の面)には、それぞれ離型性を有する基材シート(剥離ライナー)を備えていても良い。
【0033】
<ダイシングテープ>
(基材フィルム)
本発明のダイシングテープ10における第一の構成要件である基材フィルム1について、以下説明する。上記基材フィルム1は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(以下、単に「アイオノマー」と称する場合がある)からなる樹脂(A)、並びにポリアミド樹脂(B)とを含有した樹脂組成物から構成される樹脂フィルムである。
【0034】
上記基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との合計量は、上記の基材フィルム1の-15℃における5%伸長時の応力が、上記の範囲内である限り、特に限定されないが、基材フィルム1全体を構成する樹脂組成物全量に対して、75質量%以上占めることが好ましい。より好ましくは80質量%、特に好ましくは90質量%以上である。
【0035】
このような構成の基材フィルム1を用いたダイシングテープ10は、その粘着剤層2上にダイボンドフィルム3が密着された形態において、半導体装置の製造工程のクールエキスパンド工程さらには常温エキスパンド工程で使用するのに好適である。すなわち、クールエキスパンド工程により、ダイボンドフィルム3付きの個片化可能に加工された半導体ウエハを、ダイシング予定ラインに沿って良好に割断させて、所定のサイズの個々のダイボンドフィルム3付き半導体チップを歩留まり良く得るのに好適である。さらに、常温エキスパンド工程においても、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保する上で必要な拡張性を維持する。
【0036】
[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)]
本実施の形態の基材フィルム1において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシル基の一部、または全てが金属(イオン)で中和されたものである。なお、以下の説明において、「エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂」を、「アイオノマーからなる樹脂」、または、単に「アイオノマー」と表記する場合がある。
【0037】
上記アイオノマーを構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した少なくとも二元の共重合体であり、さらに第3の共重合成分が共重合した三元以上の多元共重合体であってもよい。なお、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、一種単独で用いてもよく、二種以上のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を併用してもよい。
【0038】
上記エチレン・不飽和カルボン酸二元共重合体を構成する不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸などが挙げられる。特に、アクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
【0039】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体が三元以上の多元共重合体である場合、上記二元共重合体を構成するエチレンと不飽和カルボン酸以外に、多元共重合体を形成する第3の共重合成分を含んでもよい。第3の共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等のアルキル部位の炭素数が1~12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が挙げられ、これら共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0040】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよく、二元共重合体、三元共重合体のいずれでもよい。中でも、工業的に入手可能な点で、二元ランダム共重合体、三元ランダム共重合体、二元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは三元ランダム共重合体のグラフト共重合体が好ましく、より好ましくは二元ランダム共重合体または三元ランダム共重合体である。
【0041】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の具体例としては、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体等の二元共重合体、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸2-メチル-プロピル共重合体等の三元共重合体が挙げられる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体として上市されている市販品を用いてもよく、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製のニュクレルシリーズ(登録商標)等を使用することができる。
【0042】
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中における、不飽和カルボン酸エステルの共重合比(質量比)は、1質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、エキスパンド工程における拡張性、および耐熱性(ブロッキング、融着)の観点から、5質量%以上15質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0043】
本実施の形態の基材フィルム1において、樹脂(A)として用いるアイオノマーは、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体に含まれるカルボキシル基が金属イオンによって任意の割合で架橋(中和)されたものが好ましい。酸基の中和に用いられる金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の金属イオンが挙げられる。これら金属イオンの中でも、工業化製品の入手容易性からマグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンが好ましく、ナトリウムイオンおよび亜鉛イオンがより好ましい。
【0044】
上記アイオノマーにおけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の中和度は、10モル%以上85モル%以下の範囲であることが好ましく、15モル%以上82モル%以下の範囲であることが好ましい。上記中和度を10モル%以上とすることで、ダイボンドフィルム付き半導体ウエハの割断性をより向上することができ、85モル%以下とすることで、フィルムの製膜性をより良好とすることができる。なお、中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の有する酸基、特にカルボキシル基のモル数に対する、金属イオンの配合比率(モル%)である。
【0045】
上記アイオノマーから成る樹脂(A)は、約85~100℃程度の融点を有するが、該アイオノマーから成る樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.2g/10分以上20.0g/10分の範囲であることが好ましく、0.5g/10分以上20.0g/10分以下の範囲であることがより好ましく、0.5g/10分以上18.0g/10分以下の範囲であることが更に好ましい。メルトフローレートが上記範囲内であると、基材フィルム1としての製膜性が良好となる。なお、MFRは、JIS K7210-1999に準拠した方法により190℃、荷重2160gにて測定される値である。
【0046】
本実施の形態の基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、上述したエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)の他に、ポリアミド樹脂(B)を更に含む。上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)が、72:28~95:5の範囲となるように混合した樹脂組成物により基材フィルム1を構成することで、該基材フィルム1の耐熱性を向上させることができるのみならず、低温下(例えば、-15℃)において伸張した際の引張応力をも増大させることができ、該引張応力を適切な範囲とすることにより、該基材フィルム1を用いたダイシングテープ10に対して、クールエキスパンド工程においては、ワイヤ埋め込み型のダイボンドフィルム3付き半導体ウエハを歩留まり良く個片化し得る良好な割断力を付与でき、さらには常温エキスパンド工程においては、半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保し得る良好な拡張性を維持できる。上記質量比率(A):(B)は、好ましくは74:26~92:8の範囲、より好ましくは80:20~90:10の範囲である。本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。
【0047】
[ポリアミド樹脂(B)]
上記ポリアミド樹脂(B)としては、例えば、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のカルボン酸と、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキシルジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミンとの重縮合体、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等の環状ラクタム開環重合体、6-アミノカプロン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重縮合体、あるいは上記環状ラクタムとジカルボン酸とジアミンとの共重合体等が挙げられる。
【0048】
上記ポリアミド樹脂(B)は、市販品を使用することもできる。具体的には、ナイロン4(融点268℃)、ナイロン6(融点225℃)、ナイロン46(融点240℃)、ナイロン66(融点265℃)、ナイロン610(融点222℃)、ナイロン612(融点215℃)、ナイロン6T(融点260℃)、ナイロン11(融点185℃)、ナイロン12(融点175℃)、共重合体ナイロン(例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン6/610、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610など)、ナイロンMXD6(融点237℃)、ナイロン46等が挙げられる。これらポリアミドの中でも、基材フィルム1としての製膜性および機械的特性の観点から、ナイロン6やナイロン6/12が好ましい。
【0049】
上記ポリアミド樹脂(B)の含有量は、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)と上記ポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)が72:28~95:5の範囲となる量である。上記ポリアミド樹脂(B)の質量比率が上記範囲未満の場合、基材フィルム1の耐熱性の向上効果および低温下における引張応力の増大の効果が不十分となるおそれがある。一方、上記ポリアミド樹脂(B)の質量比率が上記範囲を超える場合、基材フィルム1の樹脂組成物によっては安定な製膜が困難となるおそれがある。また、基材フィルム1の柔軟性が損なわれ、常温エキスパンド工程における拡張性が維持できないおそれや、ダイボンドフィルム3付き半導体チップをピックアップする際に、半導体チップの割れ等によるピックアップ不良が発生するおそれがある。上記ポリアミド樹脂(B)の含有量は、基材フィルム1全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)と上記ポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)が74:26~92:8の範囲となる量であることがより好ましい。
【0050】
なお、基材フィルム1が複数層から成る積層体である場合、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)と上記ポリアミド樹脂(B)との質量比率とは、各層におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との質量比率と、基材フィルム1(積層体)全体における各層の質量比率とから計算される基材フィルム1(積層体)全体における値を意味する。
【0051】
基材フィルム1全体におけるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との質量比率が上記範囲内であると、基材フィルム1の耐熱性を120~140℃程度までに向上させることができると共に、該基材フィルム1に対して、ダイシングテープ10の形に加工して半導体装置の製造工程に供した際のクールエキスパンド工程において、個片化可能に加工された半導体ウエハおよび該半導体ウエハに貼り付けられたダイボンドフィルム3の両方を、歩留まり良くダイシング予定ラインに沿って割断するのに適した引張応力を発現させることができる。さらに、常温エキスパンド工程においても、割断した半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保し得る拡張性を発現させることができる。
【0052】
[その他]
上記基材フィルム1を構成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂や各種添加剤が添加されてもよい。上記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体やポリエーテルエステルアミドを挙げることができる。このようなその他の樹脂は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)と上記ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、例えば20質量部以下の割合で配合することができる。また、上記添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、発泡剤、発泡助剤、無機充填剤、繊維強化材等を挙げることができる。このような各種添加剤は、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)と上記ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、例えば5質量部以下の割合で配合することができる。
【0053】
[基材フィルムの引張応力]
上記基材フィルム1は、-15℃における5%伸長時の引張応力が、基材フィルム1をMD方向(基材フィルムの製膜時における流れ方向)およびTD方向(MD方向に対して垂直な方向)のいずれの方向に伸張した場合においても、15.5MPa以上28.5MPa以下の範囲である。基材フィルム1の-15℃における5%伸長時の引張応力を上記の範囲内とすることで、基材フィルム1をダイシングテープ10の形に加工して半導体装置の製造工程に供した際のクールエキスパンド工程において、ダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化可能に加工された半導体ウエハおよび該半導体ウエハに貼り付けられたダイボンドフィルム3を、ダイシング予定ラインに沿って容易に割断することができるだけの十分な大きさの外部応力になり得る。さらに、常温エキスパンド工程においても、割断した半導体チップ間のカーフ幅を十分に確保し得る。またさらに、紫外線(UV)照射後のダイシングテープ10のダイボンドフィルム3に対する低角粘着力を適正に低下させることができる。その結果、ダイシング工程において、ダイボンドフィルム3付き半導体チップの割断歩留りを向上させることができる。さらに、ピックアップ工程においてピックアップミスの誘発を抑制させることができる。上記引張応力は、好ましくは16.0MPa以上27.4MPa以下の範囲、より好ましくは17.3MPa以上24.8MPa以下の範囲である。
【0054】
[基材フィルムの厚さ]
上記基材フィルム1の厚さは、特に限定されないが、ダイシングテープ10として用いることを考慮すると、例えば、70μm以上120μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは80μm以上100μm以下の範囲である。基材フィルム1の厚さが70μm未満であると、ダイシングテープ10をダイシング工程に供する際に、リングフレーム(ウエハリング)の保持が不十分となるおそれがある。また基材フィルム1の厚さが120μmを超えると、基材フィルム1の製膜時の残留応力の開放による反りが大きくなるおそれがある。
【0055】
[基材フィルムの構成]
上記基材フィルム1の構成は、特に限定されず、単一の樹脂組成物の単層であってもよいし、同一樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよいし、異なる樹脂組成物の複数層から成る積層体であってもよい。複数層から成る積層体とする場合、層数は、特に限定されないが、2層以上5層以下の範囲であることが好ましい。
上記基材フィルム1を複数層から成る積層体とする場合、例えば、本実施の形態の樹脂組成物を用いて製膜される層が複数積層された構成であってもよいし、本実施の形態の樹脂組成物を用いて製膜される層に、本実施の形態の樹脂組成物以外の他の樹脂組成物を用いて製膜される層が積層された構成であってもよい。但し、積層体全体における上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)と上記ポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)は、72:28~95:5の範囲となるように調整される必要がある。
【0056】
上記他の樹脂組成物を用いて製膜される層は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、エチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・一酸化炭素共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物、上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)等の樹脂組成物を用いて製膜される層が挙げられる。これらの中でも、本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層との密着性および汎用性の観点からは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸アルキルエステル三元共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体およびこれら共重合体のアイオノマーが好ましい。
【0057】
本実施の形態の基材フィルム1が積層構成からなる場合の例として、具体的には、以下の2層構成や3層構成等の基材フィルムが挙げられる。
2層構成としては、例えば、
(1)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
(2)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-2)]、
(3)[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)からなる樹脂層:(A-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
(4)[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる樹脂層:(C-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
等の同一樹脂層または異種樹脂層からなる2層(第1層/第2層)構成が挙げられる。
3層構成としては、例えば、
(5)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
(6)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB―2)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
(7)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)からなる樹脂層:(A-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
(8)[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]/[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体からなる樹脂層(C-1)]/[本実施の形態のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)の混合物からなる樹脂層:(AB-1)]、
等の同一樹脂層または異種樹脂層からなる3層(第1層/第2層/第3層)構成が挙げられる。
【0058】
[基材フィルムの製膜方法]
本実施の形態の基材フィルム1の製膜方法としては、従来から慣用の方法を採用することができる。アイオノマー樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)、必要に応じて他の成分を加えて溶融混錬した樹脂組成物を、例えば、Tダイキャスト成形法、Tダイニップ成形法、インフレーション成形法、押出ラミネート法、カレンダー成形法等の各種成形方法により、フィルム状に加工すればよい。また、基材フィルム1が複数層から成る積層体の場合は、各層をカレンダー成型法、押出法、インフレーション成型法等の手段によって別々に製膜し、それらを熱ラミネートもしくは適宜接着剤による接着等の手段で積層することにより積層体を製造することができる。上記接着剤としては、例えば、前述の各種エチレン共重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸グラフト物から選ばれる、単体もしくは任意の複数からなるブレンド物等が挙げられる。また、各層の樹脂組成物を共押出ラミネート法により同時に押出して積層体を製造することもできる。なお、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面は、後述する粘着剤層2との密着性向上を目的として、コロナ処理またはプラズマ処理等が施されてもよい。また、基材フィルム1の粘着剤層2と接する側の面と反対側の面は、基材フィルム1の製膜時の巻き取りの安定化や製膜後のブロッキングの防止を目的として、シボロールによるエンボス処理等が施されてもよい。
【0059】
(粘着剤層)
本発明のダイシングテープ10における第二の構成要件である活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含有する粘着剤層2について、以下説明する。
【0060】
[アクリル系粘着性ポリマー]
活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物に主成分として含まれるアクリル系粘着性ポリマーは、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーである。該アクリル系粘着性ポリマーは、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物の全質量において、90質量%以上占めることが好ましく、95質量%以上占めることがより好ましい。
【0061】
上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、詳細は後述するが、通常、ベースポリマーとして(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基含有単量体とを共重合して共重合体(水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー)を得、その共重合体が有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法により得られる。
【0062】
上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーの主鎖(主骨格)は、上述のように、共重合体成分として、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基含有単量体とを含む共重合体から構成される。そして、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)は、主鎖のガラス転移温度(Tg)が、-65℃以上-50℃以下の範囲となるように共重合体組成が調整される。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、アクリル系粘着性ポリマーを構成するモノマー(単量体)成分の組成に基づいて、下記一般式(1)に示すFoxの式より算出される理論値である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn 一般式(1)
[上記一般式(1)中、Tgはアクリル系粘着性ポリマーのガラス転移温度(単位:K)であり、Tgi(i=1、2、・・・n)は、モノマーiがホモポリマーを形成した際のガラス転移温度(単位:K)であり、Wi(i=1、2、・・・n)は、モノマーiの全モノマー成分中の質量分率を表す。]
ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は、例えば「Polymer Handbook」(J.Brandrup及びE.H.Immergut編、Interscience Publishers)等で見つけることができる。
【0063】
上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)の主鎖のガラス転移温度(Tg)が、-65℃未満の場合は、該共重合体らを含む粘着剤層2が過度に柔らくなり、紫外線照射後のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれや、ダイボンドフィルム表面に粘着剤残り(汚染)が生じるおそれがある。その結果、半導体チップの良品歩留まりが低下する。一方、上記ガラス転移温度(Tg)が-50℃を超える場合は、これらを含む粘着剤層2の靭性が低下するので、ダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が悪くなり、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性が悪くなるおそれや、低温下において半導体ウエハやダイボンドフィルム3が割断された際の衝撃力が十分に緩和できずに粘着剤層2とダイボンドフィルム3の界面に伝搬しやすくなるおそれがある。その結果、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きが生じやすくなり、半導体チップの良品歩留まりが低下する。上記ガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-63℃以上-51℃以下の範囲、より好ましくは-61℃以上-54℃以下の範囲である。
【0064】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、炭素数6~18のヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、または炭素数5以下の単量体である、ペンチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2-エチルヘキシルアクリレートを用いることが好ましく、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマー(共重合体)の主鎖を構成する単量体成分全量に対して、40質量%以上85質量%以下の範囲で含むことが好ましい。
【0065】
また、水酸基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記水酸基単量体を共重合する目的は、第一に、上記アクリル系粘着性ポリマーに対して、後述する活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を付加反応により導入するための付加反応点(-OH)とするため、第二に、後述するポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基(-NCO)と反応させて上記アクリル系粘着性ポリマーを高分子量化するための架橋反応点とするため、第三に、架橋反応後の粘着剤層2とダイボンドフィルム3との初期密着性を向上させるための活性点(極性点)とするため、であるところ、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合をアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基を利用して付加反応により導入する場合は、一つの目安として、上記水酸基単量体の含有量は、共重合体単量体成分全量に対して、15質量%以上31質量%以下の範囲で調整しておくことが好ましい。すなわち、上記共重合体における水酸基単量体の含有量を上記範囲内で調整しておくことは、本発明の粘着剤組成物に係る構成要件である、アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価、後述するポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)ならびに架橋反応後の残存水酸基濃度、および活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度を上述した所定の範囲に制御することが容易になるので、好適である。
【0066】
上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーを共重合した後に、該共重合体が側鎖に有する水酸基に対して付加反応することが可能なイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)を付加反応させる方法により得ることが、その反応追跡の容易さ(制御の安定性)や技術的難易度の観点から、最も好適である。このようなイソシアネート基および炭素-炭素二重結合を有する化合物(活性エネルギー線反応性化合物)としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物が挙げられる。具体的には、2―メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2―アクリロイルオキシエチルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
【0067】
上記付加反応においては、炭素-炭素二重結合の活性エネルギー線反応性が維持されるよう、重合禁止剤を使用することが好ましい。このような重合禁止剤としては、ヒドロキノン・モノメチルエーテルなどのキノン系の重合禁止剤が好ましい。重合禁止剤の量は、特に制限されないが、アクリル系粘着性ポリマー100質量部に対して、通常、0.01質量部以上0.1質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0068】
上記付加反応を行う際には、(1)後に添加するポリイソシアネート系架橋剤により上記アクリル系粘着性ポリマーを架橋させて、さらに高分子量化するために、(2)架橋反応後の粘着剤層2とダイボンドフィルム3との初期密着性を向上させるために、架橋反応後の粘着剤組成物中に所定量のヒドロキシル基が残存するようにしておく必要がある。また、一方で、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度を所定の範囲に制御する必要もある。これら両観点を勘案する必要があるところ、例えば、ヒドロキシル基を側鎖に有する共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を反応させる場合、一つの目安として、該(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物は、上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基含有単量体に対して、37モル%以上85モル%以下の範囲の割合となる量を用いて付加反応させることが好ましい。
【0069】
上記アクリル系粘着性ポリマーは、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体および水酸基含有単量体以外に、粘着力、ガラス転移温度(Tg)の調整等を目的として、必要に応じて他の共重合単量体成分が共重合されていてもよい。このような他の共重合単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のカルボキシル基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体、(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有単量体等の官能基を有する単量体が挙げられる。このような官能基を有する単量体の含有量は、特に限定はされないが、共重合単量体成分全量に対して0.5質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0070】
このような水酸基以外の官能基を有する単量体が共重合される場合は、該官能基を利用して上記アクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入することもできる。例えば、アクリル系粘着性ポリマーが側鎖にカルボキシル基を有する場合、(メタ)アクリル酸グリシジルや2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート等の活性エネルギー線反応性化合物と反応させる方法、アクリル系粘着性ポリマーが側鎖にグリシジル基を有する場合は、(メタ)アクリル酸等の活性エネルギー線反応性化合物と反応させる方法等により、上記アクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入することもできる。但し、水酸基以外の官能基を有する単量体を共重合し、該官能基を利用してアクリル系粘着性ポリマーに活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入する場合は、一つの目安として、同時に共重合される水酸基単量体の含有量は、共重合体単量体成分全量に対して、3質量%以上15質量%以下の範囲で調整しておくことが好ましい。そうすることで、アクリル系粘着性ポリマーの水酸基価、後述するポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)ならびに架橋反応後の残存水酸基濃度を上述した所定の範囲に制御することが容易になるので、好適である。
【0071】
さらに、上記官能基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、凝集力、および耐熱性等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の共重合単量体成分を含有してもよい。このような他の共重合単量体成分としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基含有単量体、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等の窒素原子含有環を有する単量体が挙げられる。これらの他の共重合単量体成分は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
本実施の形態において、上述した単量体を共重合した水酸基を有する好適な共重合体としては、具体的には、アクリル酸2―エチルヘキシルとアクリル酸2―ヒドロキシエチルとの二元共重合体、アクリル酸2―エチルヘキシルとアクリル酸2―ヒドロキシエチルとメタクリル酸との三元共重合体、アクリル酸2―エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとアクリル酸2―ヒドロキシエチルとの三元共重合体、アクリル酸2―エチルヘキシルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2―ヒドロキシエチルとの三元共重合体、アクリル酸2―エチルヘキシルとアクリル酸n-ブチルとアクリル酸2―ヒドロキシエチルとメタクリル酸との四元共重合体、アクリル酸2―エチルヘキシルとメタクリル酸メチルとアクリル酸2―ヒドロキシエチルとメタクリル酸との四元共重合体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。そして、これら好適な共重合体に対して、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物として、2―メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加反応させて活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーとするのが好適である。
【0073】
このようにして得られた活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲である。上記水酸基価が12.0mgKOH/g未満の場合、粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が小さくなり、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性が低下するおそれがある。その結果、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きが生じやすくなり、半導体チップの良品歩留まりが低下する。一方、上記水酸基価が55.0mgKOH/gを超える場合、粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が過剰に大きくなり、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性が必要以上に大きくなるおそれがある。その結果、紫外線照射後のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなり、半導体チップのピックアップ歩留まりが低下する。上記水酸基価は、好ましくは12.7mgKOH/g以上53.2mgKOH/g以下の範囲、より好ましくは17.0mgKOH/g以上39.0mgKOH/g以下の範囲である。
【0074】
また、上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、酸価が0mgKOH/g以上9.0mgKOH/g以下の範囲であることが好ましい。酸価が上記範囲内であると、紫外線照射による粘着剤層2の粘着力の低減効果を妨げることなく、クールエキスパンド工程におけるダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きを抑制することができる。上記酸価は、好ましくは2.0mgKOH/g以上8.2mgKOH/g以下の範囲、より好ましくは2.5mgKOH/g以上5.5mgKOH/g以下の範囲である。
【0075】
さらに、上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーは、好ましくは20万以上60万以下の範囲の重量平均分子量Mwを有する。アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量Mwが20万未満である場合には、塗工性等を考慮して、数千cP以上数万cP以下の高粘度の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物の溶液を得ることが難しく好ましくない。また、活性エネルギー線照射前の粘着剤層2の凝集力が小さくなって、活性エネルギー線照射後に粘着剤層2からダイボンドフィルム3付半導体チップを脱離する際、ダイボンドフィルム3付半導体ウエハを汚染するおそれがある。一方、重量平均分子量Mwが60万を超える場合には、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が低下し、初期密着力が低下するため、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きが生じるおそれがある。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。上記重量平均分子量Mwは、好ましくは33万以上55万以下の範囲、より好ましくは35万以上40万以下の範囲である。
【0076】
[架橋剤]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、上述した活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーの高分子量化のためにさらにポリイソシアネート系架橋剤を含有する。上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、例えば、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとキシリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、汎用性の観点から、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物およびまたはトリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとを反応させたアダクトポリイソシアネート化合物が好適に用いられる。
【0077】
上記ポリイソシアネート系架橋剤は、上述したポリマー主鎖のガラス転移温度(Tg)が-65℃以上-50℃以下の範囲、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲である、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーに対して、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.02以上0.20以下の範囲となるように、その添加量が調整される。このようにポリイソシアネート系架橋剤の添加量を調整することにより、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度を、0.18mmol以上0.90mmol以下の範囲に制御することができる。本発明において、「活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g」というのは、「後述する光重合開始剤を除いた粘着剤組成物(固形分)1g」、すなわち「アクリル系粘着性ポリマーとポリイソシアネート系架橋剤から構成される粘着剤組成物(固形分)1g」を意味する。なお、粘着剤組成物が後述するその他の成分を含む場合は、その他成分も粘着剤組成物の重量に加える。上記当量比(NCO/OH)は、好ましくは0.04以上0.19以下の範囲、より好ましくは0.07以上0.14以下の範囲である。
【0078】
ここで、上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物中におけるポリイソシアネート系架橋剤の含有量と該ポリイソシアネート系架橋剤の1分子あたりのイソシアネート基の平均個数とから計算により求められるイソシアネート基の全モル数を、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合が導入された後のアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基の全モル数で除した理論計算値である。該水酸基の全モル数は、例えば、ベースポリマーである水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーに対して、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合を導入するために(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物を用いて付加反応させた場合、ベースポリマーであるアクリル系粘着性ポリマーにおける水酸基の全モル数から、添加された(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基との架橋反応により理論的に消費される水酸基のモル数(=(メタ)アクリロイルオキシ基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル数)を差し引いた値である。
【0079】
また、同様に、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合および水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基の全モル数から、添加されたポリイソシアネート系架橋剤のイソシアネート基との架橋反応により理論的に消費される水酸基のモル数(=架橋剤のイソシアネート基のモル数)を差し引いた値を活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりに換算したものである。
【0080】
上記当量比(NCO/OH)が0.02未満である場合には、粘着剤層2の凝集力が不十分となり、紫外線照射後のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム3付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれや、ダイボンドフィルム表面に粘着剤残り(汚染)が生じるおそれや、ダイボンドフィルム3の割断性が悪くなるおそれがある。また、特に水酸基価が大きい場合、架橋反応後の残存水酸基濃度が大きくなり過ぎて、粘着剤層2とダイボンドフィルム3の初期密着性が必要以上に大きくなり、紫外線照射後のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム3付き半導体チップが粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれがある。その結果、半導体チップの良品歩留まりが低下する。一方、上記当量比(NCO/OH)が0.20を超える場合には、水酸基価の大きさによっては、粘着剤層2の架橋反応後の靭性が低下し過ぎて、すなわち、硬くなり過ぎて、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する濡れ性・追従性が悪くなり、ダイボンドフィルム3に対する初期密着性が悪くなるおそれや、クールエキスパンドにより半導体ウエハやダイボンドフィルム3が割断された際の衝撃力を十分に緩和できずに、該衝撃力が粘着剤層2とダイボンドフィルム3の界面に伝搬されやすくなるおそれがある。その結果、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きが生じやすくなり、半導体チップの良品歩留まりが低下する。
【0081】
上記ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)と上記アクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.02以上0.20以下の範囲内であると、ポリマー主鎖のガラス転移温度(Tg)が-65℃以上-50℃以下の範囲、水酸基価が12.0mgKOH/g以上55.0mgKOH/g以下の範囲であるアクリル系粘着性ポリマーを主成分とする活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度を、0.18mmol以上0.90mmol以下の範囲に制御することが容易となる。そうすることで、該水酸基とダイボンドフィルム3表面のシリカフィラー等との相互作用が高まり、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との初期密着性が適度に向上し、さらに、架橋反応後の粘着剤層2自身における靭性の必要以上の低下を抑制し、タック性と衝撃緩和性を適切に維持することができる。その結果、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きが抑制され、半導体チップの良品歩留まりが向上する。上記残存水酸基濃度は、好ましくは0.29mmol以上0.60mmol以下の範囲、より好ましくは0.30mmol以上0.37mmol以下の範囲である。
【0082】
上記活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物により粘着剤層2を形成した後に、上記ポリイソシアネート系架橋剤と上記水酸基を有するアクリル系粘着性ポリマーとを反応させるためのエージングの条件としては、特に限定はされないが、例えば、温度は23℃以上80℃以下の範囲、時間は24時間以上168時間以下の範囲で適宜設定すれば良い。
【0083】
[光重合開始剤]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物に対する活性エネルギー線の照射を感受して、ラジカルを発生させ、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーが有する炭素-炭素二重結合の架橋反応を開始させる。
【0084】
上記光重合開始剤としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、アルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤、オキシムエステル系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。アルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤、α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤、アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤等が挙げられる。ベンジルメチルケタール系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(例えば、商品名Omnirad651、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。α-ヒドロキシアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(商品名Omnirad1173、IGM Resins B.V.社製)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名Omnirad184、IGM Resins B.V.社製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(商品名Omnirad2959、IGM Resins B.V.社製)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン(商品名Omnirad127、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。アミノアルキルフェノン系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(商品名Omnirad907、IGM Resins B.V.社製)あるいは2-ベンジルメチル2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(商品名Omnirad369、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。アシルホスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド(商品名OmniradTPO、IGM Resins B.V.社製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(商品名Omnirad819、IGM Resins B.V.社製)、オキシムエステル系ラジカル重合開始剤としては、(2E)-2-(ベンゾイルオキシイミノ)-1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1-オン(商品名OmniradOXE-01、IGM Resins B.V.社製)等が挙げられる。これら光重合開始剤は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
上記光重合開始剤の添加量としては、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着性ポリマーの固形分100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下の範囲であることが好ましい。光重合開始剤の添加量が0.1質量部未満の場合には、活性エネルギー線に対する光反応性が十分ではないために活性エネルギー線を照射してもアクリル系粘着性ポリマーの光ラジカル架橋反応が十分に起こらず、その結果、活性エネルギー線照射後の粘着剤層2における粘着力低減効果が小さくなり、半導体チップのピックアップ不良が増大するおそれがある。一方、光重合開始剤の添加量が10.0質量部を超える場合には、その効果は飽和し、経済性の観点からも好ましくない。また、光重合開始剤の種類によっては、粘着剤層2が黄変し外観不良となる場合がある。
【0086】
また、このような光重合開始剤の増感剤として、ジメチルアミノエチルメタクリレート、4―ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の化合物を活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物に添加してもよい。
【0087】
[その他]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、その他に、活性エネルギー線硬化性化合物(例えば、多官能のウレタンアクリレート系オリゴマー等)、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤、レベリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0088】
[活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度]
本実施の形態の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物は、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85mmol以上1.60mmol以下の範囲となるように調整される。活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりの活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が0.85mmol未満であると、上述した活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度が大きい場合に、紫外線照射後の粘着剤層2の粘着力が十分に低下せず、ピックアップ工程においてダイボンドフィルム3付き半導体チップを粘着剤層2から剥離しにくくなるおそれがある。一方、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりの活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が1.60mmolを超える場合は、上述した活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たりにおける架橋反応後の残存水酸基濃度を確保しにくくなるおそれや、アクリル系粘着性ポリマーの共重合組成によっては合成する際の重合または反応時にゲル化しやすくなり、合成が困難となる場合がある。なお、アクリル系粘着性ポリマーの炭素-炭素二重結合含有量を確認する場合、アクリル系粘着性ポリマーのヨウ素価を測定することで、炭素-炭素二重結合含有量を算出することができる。
【0089】
活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85mmol以上1.60mmol以下の範囲内であると、上記粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する初期密着性と粘着剤層2自身の靭性を向上させた活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物を含む粘着剤層2を適用した場合においても、紫外線照射後の粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する粘着力が十分に低下し、ダイボンドフィルム3付き半導体チップの粘着剤層2からの剥離(ピックアップ性)が良好となる。上記活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度は、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり、好ましくは1.02mmol以上1.51mmol以下の範囲である。
【0090】
[粘着剤層の厚さ]
本実施の形態の粘着剤層2の厚さは、特に限定されないが、5μm以上50μm以下の範囲であることが好ましく、6μm以上20μm以下の範囲がより好ましく、7μm以上15μm以下の範囲が特に好ましい。粘着剤層2の厚さが5μm未満の場合には、ダイシングテープ10の粘着力が過度に低下するおそれがある。この場合、クールエキスパンド工程において、ダイボンドフィルム3の粘着剤層2からの浮きが生じやすくなり、半導体チップの良品歩留まりが低下する。また、ダイシングダイボンドフィルムとして使用する時に、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との密着不良が生じる場合がある。一方、粘着剤層2の厚さが50μmを超える場合には、ダイシングテープ10をクールエキスパンドした際に生じる内部応力が、ダイボンドフィルム3付き半導体ウエハに外部応力として伝達し辛くなるおそれがあり、その場合、ダイシング工程において、ダイボンドフィルム3付き半導体チップの割断歩留りが低下するおそれがある。また、経済性の観点からも、実用上あまり好ましくない。
【0091】
(アンカーコート層)
本実施の形態のダイシングテープ10では、本発明の効果を損なわない範囲において、ダイシングテープ10の製造条件や製造後のダイシングテープ10の使用条件等に応じて、基材フィルム1と粘着剤層2との間に、基材フィルム1の組成に合わせたアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層を設けることにより、基材フィルム1と粘着剤層2との密着力が向上する。
【0092】
(剥離ライナー)
また、粘着剤層2の基材フィルム1とは逆の表面側(一方の表面側)には、必要に応じて剥離ライナーを設けてもよい。剥離ライナーとして使用できるものは、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂や、紙類等が挙げられる。また、剥離ライナーの表面には、粘着剤層2の剥離性を高めるために、シリコーン系剥離処理剤、長鎖アルキル系剥離処理剤、フッ素系剥離処理剤などによる剥離処理を施してもよい。剥離ライナーの厚さは、特に限定されないが、10μm以上200μm以下の範囲であるものを好適に使用することができる。
【0093】
(ダイシングテープの製造方法)
図4は、ダイシングテープ10の製造方法について説明したフローチャートである。まず、剥離ライナーを準備する(ステップS101:剥離ライナー準備工程)。次に、粘着剤層2の形成材料である粘着剤層2用の塗布溶液(粘着剤層形成用塗布溶液)を作製する(ステップS102:塗布溶液作製工程)。塗布溶液は、例えば、粘着剤層2の構成成分であるアクリル系粘着性ポリマーと架橋剤と希釈溶媒とを均一に混合撹拌することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0094】
そして、ステップS102で作製した粘着剤層2用の塗布溶液を用いて、剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さの粘着剤層2を形成する(ステップS103:粘着剤層形成工程)。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥温度は80℃以上150℃以下の範囲内、乾燥時間は0.5分間以上5分間以下の範囲内で行うことが好ましい。続いて、基材フィルム1を準備する(ステップS104:基材フィルム準備工程)。そして、剥離ライナーの上に形成された粘着剤層2の上に、基材フィルム1を貼り合わせる(ステップS105:基材フィルム貼合工程)。最後に、形成した粘着剤層2を例えば40℃の環境下で72時間エージングしてアクリル系粘着性ポリマーと架橋剤とを反応させることにより架橋・硬化させる(ステップS106:熱硬化工程)。以上の工程により基材フィルム1の上に基材フィルム側から順に粘着剤層2、剥離ライナーを備えたダイシングテープ10を製造することができる。なお、本発明では、粘着剤層2の上に剥離ライナーを備えている積層体もダイシングテープ10と称する場合がある。
【0095】
なお、上記基材フィルム1上に粘着剤層2を形成する方法として、剥離ライナーの上に粘着剤層2用の塗布溶液を塗布して乾燥し、その後、粘着剤層2の上に基材フィルム1を貼り合わせる方法を例示したが、基材フィルム1上に粘着剤層2用の塗布溶液を直接塗布して乾燥する方法を用いてもよい。安定生産の観点からは、前者の方法が好適に用いられる。
【0096】
上記ダイシングテープ10は、詳細は後述するが、ダイボンドフィルム3に対する粘着剤層2の23℃における紫外線照射後低角粘着力(剥離角度30°、剥離速度600mm/分)が0.95N/25mm以下であり、ダイボンドフィルム3に対する粘着剤層2の-30℃における紫外線照射前剪断接着力(引張速度1,000mm/分)が100.0N/100mm2以上であることが好ましい。
【0097】
本実施の形態のダイシングテープ10は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0098】
<ダイシングダイボンドフィルム>
本実施の形態のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用することもできる。ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、クールエキスパンドにより割断、個片化された半導体チップをリードフレームや配線基板(支持基板)に接着・接続するためのものである。また、半導体チップを積層する場合は、半導体チップ同士の接着剤層の役割もする。この場合、一段目の半導体チップはダイボンドフィルム(接着剤層)3により、端子が形成された半導体チップ搭載用配線基板に接着され、一段目の半導体チップの上に、さらにダイボンドフィルム(接着剤層)3により二段目の半導体チップが接着されている。一段目の半導体チップおよび二段目の半導体チップの接続端子は、ワイヤを介して外部接続端子と電気的に接続されるが、一段目の半導体チップ用のワイヤは、圧着(ダイボンディング)時にダイボンドフィルム(接着剤層)3、すなわち、前述したワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3の中に埋め込まれる。以下、本実施の形態のダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する場合のダイボンドフィルム(接着剤層)3について一例を示すが、特にこの例に限定されるものではない。
【0099】
(ダイボンドフィルム)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、熱により硬化する熱硬化型の接着剤組成物からなる層である。上記接着剤組成物としては、特に限定されるものでなく、従来公知の材料を使用することができる。上記接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、例えば、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、および該エポキシ樹脂に対する硬化剤としてフェノール樹脂を含む樹脂組成物に、硬化促進剤、無機フィラー、シランカップリング剤等が添加されてなる熱硬化性接着剤組成物が挙げられる。このような熱硬化性接着剤組成物からなるダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体チップ/支持基板間、半導体チップ/半導体チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性及び/又はワイヤ埋め込み性等も付与可能で、且つダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤によりモールドされた後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0100】
ワイヤが接着剤層中に埋め込まれない形態で使用される汎用ダイボンドフィルムとワイヤが接着剤層中に埋め込まれる形態で使用されるワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、その接着剤組成物を構成する材料の種類については、ほぼ同じであることが多いが、使用する材料の配合割合、個々の材料の物性・特性等を、それぞれの目的に応じて変更することにより、汎用ダイボンドフィルム用あるいはワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用としてカスタマイズされる。また、最終的な半導体装置としての信頼性に問題がない場合には、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムが汎用ダイボンドフィルムとして使用されることもある。すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムは、ワイヤ埋込用途に限定されず、配線等に起因する凹凸を有する基板、リードフレームなどの金属基板等へ半導体チップを接着する用途でも同様に使用可能である。
【0101】
(汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
まず、汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、汎用ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、20,000Pa・s以上40,000Pa・s以下の範囲、好ましくは25,000Pa・s以上35,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を52質量部以上90質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を5質量部以上25質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂の5質量部以上23質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0102】
[グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、共重合体ユニットとして、少なくとも、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。上記(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットは、適正な接着力確保の観点から、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、0.5質量%以上6.0質量%以下の範囲で含むことが好ましく、2.0質量%以上4.0質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。また、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、必要に応じ、ガラス転移温度(Tg)の調整の観点から、スチレンやアクリロニトリル等の他の単量体を共重合体ユニットとして含んでいてもよい。
【0103】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体のガラス転移温度(Tg)としては、-50℃以上30℃以下の範囲であることが好ましく、ダイボンドフィルムとしての取扱性の向上(タック性の抑制)の観点から、-10℃以上30℃以下の範囲であることがより好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこのようなガラス転移温度とするには、上記炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、エチル(メタ)アクリレートおよび/またはブチル(メタ)アクリレートを用いることが好適である。
【0104】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量Mwは、50万以上200万以下の範囲であることが好ましく、70万以上100万以下の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量Mwが上記範囲内であると、接着力、耐熱性、フロー性を適切なものとしやすい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0105】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である該グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と後述するエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、52質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0106】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等の二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂及び複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているその他のエポキシ樹脂を使用してもよい。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0107】
上記エポキシ樹脂の軟化点は、接着力、耐熱性の観点からは、70℃以上130℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、後述するフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上300以下の範囲であることが好ましい。
【0108】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記エポキシ樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と該エポキシ樹脂と後述するフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上25質量%以下の範囲であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0109】
[フェノール樹脂:エポキシ樹脂に対する硬化剤]
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール化合物と2価の連結基であるキシリレン化合物を、無触媒又は酸触媒の存在下に反応させて得ることができるフェノール樹脂が挙げられる。上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂等が挙げられる。これらフェノール樹脂は、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのフェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接続信頼性を向上させうる傾向にあるので、好適に用いられる。
【0110】
上記フェノール樹脂の軟化点は、接着力、耐熱性の観点からは、70℃以上90℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記フェノール樹脂の水酸基当量は、エポキシ樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上200以下の範囲であることが好ましい。
【0111】
上記熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該全フェノール樹脂成分中の水酸基が好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、より好ましくは0.8当量以上1.2当量以下の範囲となる量で、配合するのが好ましい。それぞれの樹脂の官能基当量に依るので、一概には言えないが、例えば、フェノール樹脂の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と該フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上23質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0112】
[硬化促進剤]
また、上記熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、具体的には、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられ、これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記硬化促進剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0113】
[無機フィラー]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の流動性を制御し、弾性率を向上させる観点から、必要に応じて無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を併用することもできる。これらの中でも、汎用性の観点からは、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が好適に用いられる。具体的には、例えば、平均粒子径がナノサイズであるアエロジル(登録商標:超微粒子乾式シリカ)が好適に用いられる。上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記無機フィラーの含有割合は、上述した樹脂成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、5質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0114】
[シランカップリング剤]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、例えば、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられ、これらは、1種又は2種以上を併用することもできる。上記シランカップリング剤の添加量は、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、1.0質量部以上7.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0115】
[その他]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルムとしての機能を損なわない範囲で、難燃剤やイオントラップ剤等を添加してもよい。難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、および臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス、含水酸化アンチモン、特定構造のリン酸ジルコニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、およびビピリジル系化合物等が挙げられる。
【0116】
(ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物)
続いて、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の一例について説明するが、特にこの例に限定されるものではない。接着剤組成物から形成されるダイボンドフィルム3のダイボンディング時の流動性の指標として、例えば、80℃でのずり粘度特性が挙げられるが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、一般に、80℃でのずり粘度は、200Pa・s以上11,000Pa・s以下の範囲、好ましくは2,000Pa・s以上7,000Pa・s以下の範囲の値を示す。上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物の好ましい態様の一例としては、接着剤組成物の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、(a)上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体を17質量部以上51質量部以下の範囲、上記エポキシ樹脂を30質量部以上64質量部以下の範囲、上記フェノール樹脂を19質量部以上53質量部以下の範囲で、樹脂成分全量が100質量部となるように調整されて含み、(b)硬化促進剤を上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲で含み、(c)無機フィラーを上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂との合計量100質量部に対して10質量部以上80質量部以下の範囲で含む接着剤組成物が挙げられる。
【0117】
[グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体]
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、共重合体ユニットとして、少なくとも、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、ダイボンディング時の流動性向上と硬化後の接着強度確保の両立を図る必要があるため、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニット比率が高く、分子量が低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニット比率が低く、分子量が高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)との併用が好ましく、併用のうち前者の(A)成分が一定量以上含まれることが好ましい。
【0118】
すなわち、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用接着剤組成物における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、具体的には、「(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットを、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、5.0質量%以上15.0質量%以下の範囲で含み、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下の範囲であり、重量平均分子量Mwが10万以上40万以下の範囲であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」と、「(メタ)アクリル酸グリシジルの共重合体ユニットを、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量中に、1.0質量%以上7.0質量%以下の範囲で含み、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以上30℃以下の範囲であり、重量平均分子量Mwが50万以上90万以下の範囲であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B)」との混合物からなることが好ましい。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される標準ポリスチレン換算値を意味する。
【0119】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量((A)と(B)の合計)中の60質量%以上90質量%以下の範囲であることが好ましい。また、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、必要に応じ、ガラス転移温度(Tg)の調整の観点から、スチレンやアクリロニトリル等の他の単量体を共重合体ユニットとして含んでいてもよい。
【0120】
上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全体のガラス転移温度(Tg)としては、-50℃以上30℃以下の範囲であることが好ましく、ダイボンドフィルムとしての取扱性の向上(タック性の抑制)の観点から、-10℃以上30℃以下の範囲であることがより好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体をこのようなガラス転移温度とするには、上記炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、 エチル(メタ)アクリレートおよび/またはブチル(メタ)アクリレートを用いることが好適である。
【0121】
上記ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体全量((A)と(B)の合計)の含有割合は、ダイボンディング時の流動性および硬化後の接着強度の観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である該グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と後述するエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、17質量%以上51質量%以下の範囲であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0122】
[エポキシ樹脂]
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のエポキシ樹脂として例示したものと同じものを使用することができる。これらは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムの場合、接着強度の確保とともに、接着面における空隙の発生を抑制しつつ、ワイヤの良好な埋め込み性を付与する必要があるため、その流動性や弾性率を制御する上で、2種類以上のエポキシ樹脂を組み合わせて使用することが好ましい。
【0123】
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)3に用いるエポキシ樹脂の好ましい態様としては、常温で液状であるエポキシ樹脂(C)と軟化点が98℃以下、好ましくは85℃以下であるエポキシ樹脂(D)との混合物から成るものが挙げられる。上記の常温で液状であるエポキシ樹脂(C)の含有割合は、エポキシ樹脂全量((C)と(D)の合計)中の15質量%以上75質量%以下の範囲であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。上記エポキシ樹脂のエポキシ当量は、後述するフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上300以下の範囲であることが好ましい。
【0124】
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記エポキシ樹脂の含有割合は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3において熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点から、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と該エポキシ樹脂と後述するフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、30質量%以上64質量%以下の範囲であることが好ましく、35質量%以上50質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0125】
[フェノール樹脂:エポキシ樹脂に対する硬化剤]
エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、特に限定されないが、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のフェノール樹脂として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記フェノール樹脂の軟化点は、接着力、流動性の観点からは、70℃以上115℃以下の範囲であることが好ましい。また、上記フェノール樹脂の水酸基当量は、エポキシ樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、100以上200以下の範囲であることが好ましい。
【0126】
上記熱硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とフェノール樹脂との硬化反応を十分に進行させるという観点からは、フェノール樹脂は、全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たり、当該全フェノール樹脂成分中の水酸基が好ましくは0.5当量以上2.0当量以下、ダイボンディング時の流動性との両立という観点から、より好ましくは0.6当量以上1.0当量以下の範囲となる量で、配合するのが好ましい。それぞれの樹脂の官能基当量に依るので、一概には言えないが、例えば、フェノール樹脂の含有割合は、接着剤組成物中の樹脂成分である上記グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体と上記エポキシ樹脂と該フェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、19質量%以上53質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0127】
[硬化促進剤]
また、上記熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を添加することができる。このような硬化促進剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の硬化促進剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記硬化促進剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.01質量部以上0.07質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0128】
[無機フィラー]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の取扱い性の向上、ダイボンディング時の流動性の調整、チクソトロピック性の付与、接着強度の向上等の観点から、必要に応じて無機フィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の無機フィラーとして例示したものと同じものを同様に使用することができるが、これらの中でも、汎用性の観点からは、シリカフィラーが好適に用いられる。上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3における上記無機フィラーの含有割合は、ダイボンディング時の流動性、クールエキスパンド時の割断性および接着強度の観点から、上述した樹脂成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体とエポキシ樹脂とフェノール樹脂との合計量を基準の100質量部とした場合、10質量%以上80質量%以下の範囲であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下の範囲がより好ましい。
【0129】
上記無機フィラーは、ダイボンドフィルム(接着剤層)3のクールエキスパンド時の割断性を向上し、硬化後の接着力を十分に発現させる目的で、平均粒子径の異なる2種類以上の無機フィラーを混合することが好ましい。具体的には、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下の範囲である無機フィラーを、無機フィラーの全質量を基準として80質量%以上の割合を占める主たる無機フィラー成分として使用することが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の流動性が過度に高くなることによる半導体チップ製造工程での接着剤層3の発泡の抑制や硬化後の接着強度の向上が必要な場合には、平均粒子径が0.1μm未満である無機フィラーを、無機フィラーの全質量を基準として20質量%以下の配合量で上記の主たる無機フィラー成分と併用してもよい。
【0130】
[シランカップリング剤]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、被着体に対する接着力を向上させる観点から、必要に応じて、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用のシランカップリング剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。上記シランカップリング剤の添加量は、接着面における空隙の発生を抑制する観点から、上記エポキシ樹脂と上記フェノール樹脂の合計100質量部に対して、0.5質量部以上2.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0131】
[その他]
またさらに、上記熱硬化性樹脂組成物には、ダイボンドフィルム3としての機能を損なわない範囲で、難燃剤やイオントラップ剤等を添加してもよい。これら難燃剤やイオントラップ剤としては、上述の汎用ダイボンドフィルム用接着剤組成物用の難燃剤やイオントラップ剤として例示したものと同じものを同様に使用することができる。
【0132】
(ダイボンドフィルム(接着剤層)の厚さ)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さは、特に限定されないが、接着強度の確保、半導体チップ接続用のワイヤを適切に埋め込むため、あるいは基板の配線回路等の凹凸を十分に充填するため、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましい。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが5μm未満であると、半導体チップとリードフレームや配線基板等との接着力が不十分となるおそれがある。一方、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが200μmを超えると経済的でなくなる上に、半導体装置の小型薄膜化への対応が不十分となりやすい。なお、接着性が高く、また、半導体装置を薄型化できる点で、フィルム状接着剤の膜厚は10μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、20μm以上75μm以下の範囲が特に好ましい。
【0133】
より具体的には、汎用ダイボンドフィルム(接着剤層)として使用する場合の厚さとしては、例えば、5μm以上30μm未満の範囲、特に10μm以上25μm以下の範囲が好ましく、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム(接着剤層)として使用する場合の厚さとしては、例えば、30μm以上100μm以下の範囲、特に40μm以上80μm以下の範囲であることが好ましい。
【0134】
(ダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、例えば、次の通りにして製造される。まず、剥離ライナーを準備する。なお、該剥離ライナーとしては、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上に配置する剥離ライナーと同じものを使用することができる。次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の形成材料であるダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を作製する。塗布溶液は、例えば、上述したようなダイボンドフィルム(接着剤層)3の構成成分であるグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂に対する硬化剤、無機フィラー、硬化促進剤、およびシランカップリング等を含む熱硬化性樹脂組成物と希釈溶媒とを均一に混合分散することにより作製することができる。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン等の汎用の有機溶剤を使用することができる。
【0135】
次に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3用の塗布溶液を仮支持体となる上記剥離ライナーの剥離処理面上に該塗布溶液を塗布して乾燥し、所定厚さのダイボンドフィルム(接着剤層)3を形成する。その後、別の剥離ライナーの剥離処理面をダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に貼り合わせる。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、ロールコーター、リバースコーター等を用いて塗布することができる。また、乾燥条件としては、例えば、乾燥温度は60℃以上200℃以下の範囲内、乾燥時間は1分間以上90分間以下の範囲内で行うことが好ましい。なお、本発明では、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の両面あるいは片面に剥離ライナーを備えている積層体もダイボンドフィルム(接着剤層)3と称する場合がある。
【0136】
上記ダイボンドフィルム3に対する上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の23℃における紫外線照射後低角粘着力は、ピックアップ性向上の観点から、好ましくは0.95N/25mm以下、より好ましくは0.85N/25mm以下、更に好ましくは0.70N/25mm以下である。上記紫外線照射後低角粘着力は、ピックアップ性向上の観点から、小さければ小さい程好ましいが、ダイボンドフィルム3付きの半導体チップ30aをダイシングテープ10からピックアップする前の段階において、意図せずダイボンドフィルム3付きの半導体チップ30aがダイシングテープ10から剥離したり、ずれたりすることを抑制でき、ピックアップをより良好に行うことができるという観点から、0.05N/25mm以上であることが好ましい。また、上記ダイボンドフィルム3に対する上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の-30℃における紫外線照射前剪断接着力は、エキスパンド後のダイボンドフィルム3のダイシングテープ10の粘着剤層2からの部分的な剥離(浮き)の抑制およびピックアップ性向上の両立の観点から、好ましくは100.0N/100mm2以上、より好ましくは105.0N/100mm2以上140N/100mm2以下の範囲、更に好ましくは107.7N/100mm2以上123.0N/100mm2以下の範囲である。
【0137】
尚、上記ダイボンドフィルム3に対する上記ダイシングテープ10の粘着剤層2の23℃における紫外線照射後低角粘着力及び-30℃における紫外線照射前剪断接着力は、それぞれ、実施例に記載した試験方法を使用して測定することができる。また、ピックアップ性に支障をきたさない限りは、上記紫外線照射前剪断接着力測定試験において、破壊モードが前記接着剤層の凝集破壊であってもよい。
【0138】
(ダイシングダイボンドフィルムの製造方法)
上記ダイシングダイボンドフィルム20の製造方法としては、特に限定されないが、従来公知の方法により製造することができる。例えば、上記ダイシングダイボンドフィルム20は、先ずダイシングテープ10およびダイボンドフィルム20を個別にそれぞれ準備し、次に、ダイシングテープ10の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離ライナーをそれぞれ剥離し、ダイシングテープ10の粘着剤層2とダイボンドフィルム(接着剤層)3を、例えば、ホットロールラミネーター等の圧着ロールにより圧着して貼り合わせればよい。貼り合わせ温度としては、特に限定されず、例えば10℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、貼り合わせ圧力(線圧)としては、例えば0.1kgf/cm以上100kgf/cm以下の範囲であることが好ましい。なお、本発明では、ダイシングダイボンドフィルム20は、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に剥離ライナーが備えられた積層体もダイシングダイボンドフィルム20と称する場合がある。ダイシングダイボンドフィルム20において、粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に備えられた剥離ライナーは、ダイシングダイボンドフィルム20をワークに供する際に、剥離すればよい。
【0139】
上記ダイシングダイボンドフィルム20は、ロール状に巻かれた形態や、幅が広いシートが積層している形態であってもよい。また、これらの形態のダイシングテープ10を予め定められた大きさに切断して形成されたシート状またはテープ状の形態であってもよい。
【0140】
例えば、特開2011-159929号公報に開示されるように、剥離基材(剥離ライナー)上に半導体素子を構成するウエハの形状にプリカット加工した接着剤層(ダイボンドフィルム3)および粘着フィルム(ダイシングテープ10)を多数、島状に形成させたフィルムロール状の形態として製造することもできる。この場合、ダイシングテープ10は、ダイボンドフィルム(接着剤層)3よりも大径の円形に形成され、ダイボンドフィルム(接着剤層)3は、半導体ウエハ30よりも大径の円形に形成されている。このようなフィルムロール状の形態としてプリカット加工が施される際に、余分なダイシングテープ10を切れることなく連続的かつ良好に剥離除去するために、ダイシングテープ10が局所的に加熱およびまたは冷却処理される場合がある。ここで、加熱の温度は、適宜選択されるが、30℃~120℃であることが好ましい。加熱時間は、適宜選択されるが、0.1~10秒であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性を有するため、仮に120℃の高温で加熱処理が施されても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0141】
<半導体チップの製造方法>
図5は、本実施の形態のダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法について説明したフローチャートである。また、
図6は、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40が、中心部のダイボンドフィルム(接着剤層)3上に個片化可能に加工された半導体ウエハが貼り付けられた状態を示した概略図である。またさらに、
図7(a)~(f)は、レーザー光照射により複数の改質領域が形成された半導体ウエハの研削工程および該半導体ウエハのダイシングダイボンドフィルムへの貼合工程の一例を示した断面図である。
図8(a)~(f)は、ダイシングダイボンドフィルムが貼合された複数の改質領域を有する薄膜半導体ウエハを用いた半導体チップの製造例を示した断面図である。
【0142】
(ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法>
ダイシングダイボンドフィルム20を使用した半導体チップの製造方法は、特に限定されず、前述した方法のいずれかの方法に依ればよいが、ここでは、SDBG(Stealth Dicing Before Griding)による製造方法を例に挙げて説明する。
【0143】
まず、
図7(a)に示すように、例えばシリコンを主成分とする半導体ウエハWの第一面Wa上に複数の集積回路(図示はしない)を搭載した半導体ウエハWを準備する(
図5のステップS201:準備工程)。そして、粘着面Taを有するウエハ加工用テープ(バックグラインドテープ)Tが半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされる。
【0144】
次いで、
図7(b)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープTとは反対側、つまり半導体ウエハの第二面Wb側から半導体ウエハWに対して、その格子状の分割予定ラインXに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30bが形成される(
図5のステップS202:改質領域形成工程)。改質領域30bは、半導体ウエハWをクールエキスパンド工程により半導体チップ単位に割断・分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハWにおいてレーザー光照射によって分割予定ラインに沿って改質領域30bを形成する方法については、例えば、特許第3408805号公報、特開2002-192370号公報、特開2003-338567号公報等に開示されている方法を参照することができる。
【0145】
次いで、
図7(c)に示すように、ウエハ加工用テープTに半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが予め定められた厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄膜化される。ここで、半導体ウエハ30の厚さは、半導体装置の薄型化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下の厚さに調節される。これによって、後工程のクールエキスパンドにより、複数の半導体チップ30aへの個片化を容易にする改質領域30bをその内部に有する薄膜の半導体ウエハ30が得られる(
図5のステップS203:研削・薄膜化工程)。なお、本研削・薄膜化工程において、半導体ウエハ30の研削後の最終厚さ、レーザー光照射の走査回数(投入パワー)、ウエハ加工用テープTの物性等の違いによって、研削ホイールの研削負荷が加えられた際に、半導体ウエハ30が、改質領域30bを起点として垂直方向に亀裂が成長し、この段階で既に個々の半導体チップ30aへと割断される場合と、亀裂が成長せずに割断されない場合がある。
【0146】
次いで、
図7(d)、(e)に示すように、ウエハ加工用テープTに保持された複数の改質領域30bをその内部に有する薄膜の半導体ウエハ30(半導体ウエハ30が既に半導体チップ30aに割断されている場合は複数の半導体チップ30a)が別途準備したダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム3に対して貼り合わせられる(
図5のステップS204:貼合工程)。本工程においては、円形にカットしたダイシングダイボンドフィルム20の粘着剤層2およびダイボンドフィルム(接着剤層)3から剥離ライナーを剥離した後、
図6に示すように、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の外縁部(粘着剤層2露出部)にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けるとともに、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上中央部に積層されたダイボンドフィルム(接着剤層)3の上に個片化可能に加工された薄膜の半導体ウエハ30(半導体ウエハ30が既に半導体チップ30aに割断されている場合は複数の半導体チップ30a)を貼り付ける。この後、
図7(f)に示すように、薄膜の半導体ウエハ30(半導体ウエハ30が既に半導体チップ30aに割断されている場合は複数の半導体チップ30a)からウエハ加工用テープTが剥がされる。貼り付けは、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。貼り付け温度は、特に限定されず、例えば、20℃以上130℃以下の範囲であることが好ましく、半導体ウエハ30の反りを小さくする観点からは、40℃以上100℃以下の範囲内であることがより好ましい。貼り付け圧力は、特に限定されず、0.1MPa以上10.0MPa以下の範囲であることが好ましい。本発明のダイシングテープ10は、一定の耐熱性を有するため、貼り付け温度が高温であっても、その取扱いにおいて特に問題となることはない。
【0147】
続いて、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の粘着剤層2上にリングフレーム40が貼り付けられた後、
図8(a)に示すように、個片化可能に加工された薄膜の半導体ウエハ30(半導体ウエハ30が既に半導体チップ30aに割断されている場合は複数の半導体チップ30a)を伴う当該ダイシングダイボンドフィルム20がエキスパンド装置の保持具41に固定される。
図8(b)に示すように、薄膜の半導体ウエハ30は、複数の半導体チップ30aに個片化可能なように、ダイシング予定ラインXに沿って、その内部に複数の改質領域30bが形成されている。
【0148】
次いで、相対的に低温(例えば、-30℃以上0℃以下)の条件下での第1のエキスパンド工程、すなわち、クールエキスパンド工程が、
図8(c)に示すように行われ、半導体ウエハ30が複数の半導体チップ30aへと個片化されるとともに、ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3が半導体チップ30aの大きさに対応した小片のダイボンドフィルム(接着剤層)3aに割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる(
図5のステップS205:クールエキスパンド工程)。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、個片化可能に加工された半導体ウエハ30が貼り合わされたダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10が、半導体ウエハ30の径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化可能に加工された半導体ウエハ30および該半導体ウエハ30に貼り付けられたダイボンドフィルム3に外部応力として伝達される。この外部応力により、半導体ウエハ30は、その内部に形成された格子状の複数の改質領域30bを起点として垂直方向に亀裂が成長し、個々の半導体チップ30aへと割断されるとともに、低温で脆性化されたダイボンドフィルム3も半導体チップ30aと同じサイズの小片のダイボンドフィルム3aへと割断される。なお、半導体ウエハ30が研削・薄膜化工程で既に個々の半導体チップ30aに割断されている場合は、半導体チップ30aに密着している低温で脆性化されたダイボンドフィルム3のみが、クールエキスパンドにより半導体チップ30aの大きさに対応した小片のダイボンドフィルム3aに割断されて、ダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0149】
上記クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば、-30℃以上0℃以下であり、好ましくは-20℃以上-5℃以下の範囲であり、より好ましくは-15℃以上-5
℃以下の範囲であり、特に好ましくは-15℃である。上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(中空円柱状の突き上げ部材が上昇する速度)は、好ましくは0.1mm/秒以上1000mm/秒以下の範囲であり、より好ましくは10mm/秒以上300mm/秒以下の範囲である。また、上記クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量(中空円柱状の突き上げ部材の突き上げ高さ)は、好ましくは3mm以上16mm以下の範囲である。
【0150】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、まず、その基材フィルム1を特定量のポリアミド樹脂を含むエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを主成分とする樹脂組成物から構成することにより、-15℃における5%伸張時の引張応力を適正な範囲とすることができるので、クールエキスパンドによりダイシングテープ10の全方向への引張により生じた内部応力は、個片化可能に加工された半導体ウエハ30および該半導体ウエハ30に貼り付けられたダイボンドフィルム3に外部応力として効率的に伝達され、その結果、半導体ウエハ30とダイボンドフィルム3が同時に歩留まり良く割断される。さらに、本発明のダイシングテープ10は、その粘着剤層2を特定のガラス転移温度(Tg)と水酸基価を有するアクリル系粘着性ポリマーを主成分とする粘着剤組成物から構成し、ポリイソシアネート系架橋剤の添加量を制御することにより、架橋反応後の粘着剤組成物の靭性および残存水酸基濃度を適正な範囲とすることができるので、低温下におけるダイボンドフィルム3と粘着剤層2の界面において適切な衝撃緩和性と初期粘着力とが付与され、その結果、クールエキスパンドにより個片化可能に加工された半導体ウエハ30やダイボンドフィルム3が割断された時の衝撃力が粘着剤層2により緩和され、半導体チップ30aを保持している小片のダイボンドフィルム3a(接着剤層)のエッジ四方の粘着剤層2からの浮き、剥がれが抑制されるのである。
【0151】
上記クールエキスパンド工程の後、エキスパンド装置の中空円柱形状の突き上げ部材が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0152】
次いで、相対的に高温(例えば、10℃以上30℃以下)の条件下での第2のエキスパンド工程、すなわち、常温エキスパンド工程が、
図8(d)に示すように行われ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備える円柱状のテーブル(図示しない)が、ダイシングダイボンドフィルム20の下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10がエキスパンドされる(
図5のステップS206:常温エキスパンド工程)。常温エキスパンド工程によりダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を十分に確保することにより、CCDカメラ等による半導体チップ30aの認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接する半導体チップ30a同士が接触することによって生じるダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30a同士の再接着を防止することができる。その結果、後述するピックアップ工程において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が向上する。
【0153】
上記常温エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15℃以上30℃以下の範囲である。常温エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(円柱状のテーブルが上昇する速度)は、例えば0.1mm/秒以上50mm/秒以下の範囲であり、好ましくは0.3mm/秒以上30mm/秒以下の範囲である。また、常温エキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3mm以上20mm以下の範囲である。
【0154】
テーブルの上昇によってダイシングテープ10が常温エキスパンドされた後、テーブルはダイシングテープ10を真空吸着する。そして、テーブルによるその吸着を維持した状態で、テーブルがワークを伴って下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。エキスパンド状態解除後にダイシングテープ10上のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのカーフ幅が狭まることを抑制するうえでは、ダイシングテープ10がテーブルに真空吸着された状態で、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を熱風吹付により加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させて、エキスパンドで生じたダイシングテープ10の弛みを解消することで緊張状態を保つことが好ましい。上記加熱収縮後、テーブルによる真空吸着状態が解除される。上記熱風の温度は、基材フィルム1の物性と、熱風吹き出し口とダイシングテープとの距離、および風量等に応じて調整すれば良いが、例えば200℃以上250℃以下の範囲が好ましい。また、熱風吹き出し口とダイシングテープとの距離は、例えば15mm以上25mm以下の範囲であることが好ましい。また、風量は、例えば35L/分以上45L/分以下の範囲が好ましい。なお、ヒートシュリンク工程を行う際、エキスパンド装置のステージを、例えば3°/秒以上10°/秒以下の範囲の回転速度で回転させながら、ダイシングテープ10の半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分に沿って熱風吹付を行う。
【0155】
本発明のダイシングテープ10は、その基材フィルム1として、特定量のポリアミド樹脂を含むエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを主成分とする樹脂組成物から構成された樹脂フィルムを用いているので、一定の耐熱性を有している。そのため、上記ヒートシュリンク工程において、高温の熱風を吹き付けられても、熱シワ等が発生することはなく、ダイシングテープ10の円周部分を問題なく加熱収縮させることができる。
【0156】
続いて、ダイシングテープ10に対して、基材フィルム1側から活性エネルギー線を照射することにより、粘着剤層2を硬化・収縮させ、粘着剤層2のダイボンドフィルム3aに対する粘着力を低下させる(
図5のステップS207:活性エネルギー線照射工程)。ここで、上記後照射に用いる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、電子線、β線、γ線等が挙げられる。これらの活性エネルギー線の中でも、紫外線(UV)および電子線(EB)が好ましく、特に紫外線(UV)が好ましく用いられる。上記紫外線(UV)を照射するための光源としては、特に限定されないが、例えば、ブラックライト、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ又はシンクロトロン放射光等も用いることができる。上記紫外線(UV)の照射光量は、特に限定されず、例えば100mJ/cm
2以上2,000J/cm
2以下の範囲であることが好ましく、300mJ/cm
2以上1,000J/cm
2以下の範囲であることがより好ましい。
【0157】
ここで、本発明のダイシングテープ10は、上述したように、その粘着剤層2の低温下におけるダイボンドフィルム(接着剤層)3に対する密着性を向上させているが、その一方で、粘着剤層2を構成する活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物において、活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度を、活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物1g当たり0.85mmol以上1.60mmol以下の範囲に制御しているので、紫外線(UV)照射後の粘着剤層2は、炭素-炭素二重結合の三次元架橋反応により架橋密度が大きくなり、すなわち、貯蔵弾性率が大きく上昇するとともにガラス転移温度も上昇し、体積収縮も大きくなるので、ダイボンドフィルム3aに対する粘着力を十分に低下させることができるのである。その結果、後記のピックアップ工程において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aのピックアップ性が良好となる。
【0158】
続いて、上述のエキスパンド工程により割断、個片化されたそれぞれのダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ダイシングテープ10の紫外線(UV)照射後の粘着剤層2から剥がし取る所謂ピックアップを行う(
図5のステップS208:剥離(ピックアップ)工程)。
【0159】
上記ピックアップの方法としては、例えば、
図8(e)に示すように、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aをダイシングテープ10の基材フィルム1の第2面を突き上げピン(ニードル)60によって突き上げるとともに、
図8(f)に示すように、突き上げられたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを、ピックアップ装置(図示しない)の吸着コレット50により吸引してダイシングテープ10の粘着剤層2から剥がし取る方法等が挙げられる。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aが得られる。
【0160】
ピックアップ条件としては、実用上、許容できる範囲であれば特に限定されず、通常は、突き上げピン(ニードル)60の突き上げ速度は、1mm/秒以上100mm/秒以下の範囲内で設定されることが多いが、半導体チップ30aの厚さ(半導体ウエハの厚さ)が100μm以下と薄い場合には、薄膜の半導体チップ30aの損傷抑制の観点から、1mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定することが好ましい。生産性を加味した観点からは、5mm/秒以上20mm/秒以下の範囲内で設定できることがより好ましい。
【0161】
また、半導体チップ30aが損傷せずにピックアップが可能となる突き上げピンの突き上げ高さは、例えば、上記と同様の観点から、100μm以上600μm以下の範囲内で設定できることが好ましく、半導体薄膜チップに対する応力軽減の観点から、100μm以上450μm以下の範囲内で設定できることがより好ましい。生産性を加味した観点からは、100μm以上350μm以下の範囲内で設定できることがとりわけ好ましい。このような突き上げ高さをより小さくできるダイシングテープはピックアップ性に優れていると言える。
【0162】
以上、説明したように、特定のポリアミド樹脂含有エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーを主成分とする基材フィルム1と特定の活性エネルギー線硬化性粘着剤組成物からなる粘着剤層2とから構成される本発明のダイシングテープ10は、半導体製造工程において、ダイシングテープ10の粘着剤層2の上にダイボンドフィルム(接着剤層)3が剥離可能に密着、積層されたダイシングダイボンドフィルム20の形として使用した場合、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムのような流動性が高く、厚さが厚いダイボンドフィルムを貼合して適用する場合であっても、各工程の加熱処理に耐えうる耐熱性を備え、クールエキスパンドによりダイボンドフィルム3付き半導体ウエハ30が良好に割断されると共に、常温エキスパンドによりカーフ幅を十分に確保することができ、割断後のダイボンドフィルム3aにおいて、ダイシングテープ10の粘着剤層2からの部分的な剥離(浮き)が十分に抑制され、割断された個々のダイボンドフィルム3a付き半導体チップ30aを良好にピックアップすることできる。
【0163】
なお、
図8(a)~(f)で説明した製造方法は、ダイシングダイボンドフィルム20を用いた半導体チップ30aの製造方法の一例(SDBG)であり、ダイシングテープ10をダイシングダイボンドフィルム20の形として使用する方法は、上記の方法に限定されない。すなわち
、ダイシングダイボンドフィルム20は、ダイシングに際して、半導体ウエハ30に貼り付けられるものであれば、上記の方法に限定されることなく使用することができる。
【0164】
中でも、本発明のダイシングテープ10は、DBG、ステルスダイシング、SDBG等といった薄膜半導体チップを得るための製造方法において、ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルムと一体化してダイシングダイボンドフィルムとして用いるためのダイシングテープとして好適である。もちろん、汎用ダイボンドフィルムと一体化して用いることも可能である。
【0165】
<半導体装置の製造方法>
本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された半導体装置について、以下、具体的に説明する。
【0166】
半導体装置(半導体パッケージ)は、例えば、上述のダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを半導体チップ搭載用支持部材または半導体チップに加熱圧着して接着させ、その後、ワイヤボンディング工程と封止材による封止工程等の工程を経ることにより得ることができる。
【0167】
図9は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10とワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された積層構成の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図9に示す半導体装置70は、半導体チップ搭載用支持基板4と、硬化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a1、3a2と、一段目の半導体チップ30a1と、二段目の半導体チップ30a2と、封止材8とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板4、硬化されたダイボンドフィルム3a1および半導体チップ30a1は、半導体チップ30a2の支持部材9を構成している。
【0168】
半導体チップ搭載用支持基板4の一方の面には、外部接続端子5が複数配置されており、半導体チップ搭載用支持基板4の他方の面には、端子6が複数配置されている。半導体チップ搭載用支持基板4は、半導体チップ30a1および半導体チップ30a2の接続端子(図示せず)と、外部接続端子5とを電気的に接続するためのワイヤ7を有している。半導体チップ30a1は、硬化されたダイボンドフィルム3a1により半導体チップ搭載用支持基板4に外部接続端子5に由来する凹凸を埋め込むような形で接着されている。半導体チップ30a2は、硬化されたダイボンドフィルム3a2により半導体チップ30a1に接着されている。半導体チップ30a1、半導体チップ30a2およびワイヤ7は、封止材8によって封止されている。このようにワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム3aは、半導体チップ30aを複数重ねる積層構成の半導体装置に好適に使用される。
【0169】
また、
図10は、本実施の形態が適用されるダイシングテープ10と汎用ダイボンドフィルム3とを一体化したダイシングダイボンドフィルム20を用いて製造された半導体チップが搭載された他の半導体装置の一態様の模式断面図である。
図10に示す半導体装置80は、半導体チップ搭載用支持基板4と、硬化されたダイボンドフィルム3aと、半導体チップ30aと、封止材8とを備えている。半導体チップ搭載用支持基板4は、半導体チップ30aの支持部材であり、半導体チップ30aの接続端子(図示せず)と半導
体チップ搭載用支持基板4の主面に配置された外部接続端子(図示せず)とを電気的に接続するためのワイヤ7を有している。半導体チップ30aは、硬化されたダイボンドフィルム3aにより半導体チップ搭載用支持基板4に接着されている。半導体チップ30aおよびワイヤ7は、封止材8によって封止されている。
【実施例】
【0170】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0171】
1.基材フィルム1の作製
基材フィルム1(a)~(s)を作製するための材料として下記の樹脂をそれぞれ準備した。
【0172】
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A))
・樹脂(IO1)
エチレン/メタクリル酸/アクリル酸2-メチル-プロピル=80/10/10の質量比率からなる三元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:60mol%、融点:86℃、MFR:1g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.96g/cm3
・樹脂(IO2)
エチレン/メタクリル酸=85/15の質量比率からなる二元共重合体、Zn2+イオンによる中和度:23mol%、融点:MFR:5g/10分(190℃/2.16kg荷重)、融点:91℃、密度:0.95g/cm3
【0173】
(ポリアミド樹脂(B))
・樹脂(PA1)
ナイロン6、融点:225℃、密度:1.13g/cm3
・樹脂(PA2)
ナイロン6-12、融点:215℃、密度:1.06g/cm3
【0174】
(その他樹脂(C))
・樹脂(EMAA1)
エチレン/メタクリル酸=91/9の質量比率からなる二元共重合体、融点:99℃、MFR:3g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.93g/cm3
・樹脂(EMAA2)
エチレン/メタクリル酸=91/9の質量比率からなる二元共重合体、融点:98℃、MFR:5g/10分(190℃/2.16kg荷重)、密度:0.93g/cm3
・樹脂(PP)
ランダム共重合ポリプロピレン、融点138℃
・樹脂(EVA)
エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル含有量20質量%、融点82℃、密度:0.94g/cm3
・樹脂(PVC)
塩化ビニル、融点95℃
【0175】
(基材フィルム1(a))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=95:5の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(a)用樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、1種(同一樹脂)3層Tダイフィルム成形機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(a)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=95:5である。
【0176】
(基材フィルム1(b))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(b)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。
【0177】
(基材フィルム1(c))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=85:15の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(c)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=85:15である。
【0178】
(基材フィルム1(d))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=80:20の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(d)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=80:20である。
【0179】
(基材フィルム1(e))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=74:26の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(e)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=74:26である。
【0180】
(基材フィルム1(f))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=72:28の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(f)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=72:28である。
【0181】
(基材フィルム1(g))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=72:28の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(g)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(g)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=81:19である。
【0182】
(基材フィルム1(h))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)、その他樹脂(C)として(EMAA1)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=85:15の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(h)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記その他樹脂(C)の(EMAA1)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂の3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(h)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/20μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=85:15である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は75質量%である。
【0183】
(基材フィルム1(i))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)、その他樹脂(C)として(EMAA2)を準備した。まず、第1層、第3層用の樹脂として、上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(i)の第1層、第3層用の樹脂組成物を得た。また、第2層用の樹脂として、上記その他樹脂(C)の(EMAA2)を単独で用いた。それぞれの樹脂組成物および樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(i)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=35μm/20μm/35μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。また、層全体における樹脂(A)と樹脂(B)の合計量の含有割合は78質量%である。
【0184】
(基材フィルム1(j))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、第1層、第2層用の樹脂として、上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(j)の第1層、第2層用の樹脂組成物を得た。それぞれの樹脂組成物を、1種(同一樹脂)2層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、同一樹脂の2層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(j)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層=45μm/45μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。
【0185】
(基材フィルム1(k))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。まず、第1層用の樹脂として、上記アイオノマー樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=90:10の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(k)の第1層用の樹脂組成物を得た。続いて、第2層用の樹脂として、上記アイオノマー樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=80:20の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(k)の第2層用の樹脂組成物を得た。それぞれの樹脂組成物を、2種(同一樹脂)2層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、2種類の樹脂の2層構成の厚さ100μmの基材フィルム1(k)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層=50μm/50μmとした。層全体としてのアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=90:10である。
【0186】
(基材フィルム1(l))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=70:30の質量比率でドライブレンドした。次いで、二軸押出機の樹脂投入口にドライブレンドした混合物を投入して、ダイス温度230℃で溶融混練することで、基材フィルム1(l)用樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、Tダイフィルム成形機を用いて、押出機に投入し、加工温度240℃の条件で成形し、単層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(l)を作製した。
【0187】
(基材フィルム1(m))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)、ポリアミド樹脂(B)として(PA2)を準備した。上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA2)を、(A):(B)=88:12の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(m)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=88:12である。
【0188】
(基材フィルム1(n))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO2)、ポリアミド樹脂(B)として(PA1)を準備した。上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO2)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=92:8の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(n)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=92:8である。
【0189】
(基材フィルム1(o))
アイオノマーからなる樹脂(A)として(IO1)を準備した。ポリアミド樹脂(B)=(PA1)をドライブレンドしなかったこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂(アイオノマーからなる樹脂(A)のみ)の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(o)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。
【0190】
(基材フィルム1(p))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=97:3の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(a)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(p)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=97:3である。
【0191】
(基材フィルム1(q))
上記アイオノマーからなる樹脂(A)=(IO1)および上記ポリアミド樹脂(B)=(PA1)を、(A):(B)=70:30の質量比率でドライブレンドしたこと以外は、基材フィルム1(q)と同様にして、同一樹脂の3層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(q)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層2に接する面側)/第2層/第3層=30μm/30μm/30μmとした。層全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)の総量とポリアミド樹脂(B)の総量の質量比率は、(A)の総量:(B)の総量=70:30である。
【0192】
(基材フィルム1(r))
その他樹脂(C)として、(PP)および(EVA)を準備した。第1層および第3層用の樹脂として(PP)を、第2層用の樹脂として(EVA)を用い、それぞれの樹脂を、2種(2種類の樹脂)3層Tダイフィルム成型機を用いて、それぞれの押出機に投入し、加工温度150℃の条件で成形し、2種3層構成の厚さ80μmの基材フィルム1(r)を作製した。各層の厚さは、第1層(粘着剤層に接する面側)/第2層/第3層=8μm/64μm/8μmとした。
【0193】
(基材フィルム1(s))
その他樹脂(C)として、(PVC)を準備した。この樹脂を、Tダイフィルム成形機を用いて、押出機に投入し、加工温度150℃の条件で成形し、単層構成の厚さ90μmの基材フィルム1(s)を作製した。
【0194】
[基材フィルムの-15℃における5%伸長時の応力]
上記で作製した基材フィルム1(a)~(s)について、-15℃の温度環境下において、5%伸長した際の応力を求めた。試験片として、Tダイでの溶融成型時における押し出し方向をMD方向、MD方向と垂直方向をTD方向とした場合、(1)MD方向に70mm長さ、TD方向に10mm幅の大きさに裁断した試験片、(2)TD方向に70mm長さ、MD方向に10mm幅の大きさに裁断した試験片、の2種を準備した。続いて、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用い、試験片をミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で-15℃、1分間置いた後に、チャック間距離を50mm、伸長速度(引張速度)を300mm/分として、試験片を長さ方向に伸長し、初期長さ(チャック間距離の50mm)に対して5%伸長した際の強度を(単位はN)測定した。得られた強度を、テープの断面積(単位はmm2)で除した数値を、-15℃における5%伸長時の応力(単位はMPa)とした。
【0195】
[基材フィルムの耐熱性]
上記で作製した基材フィルム1(a)~(s)について、140℃における耐熱性を評価した。MD方向に100mm長さ、TD方向に30mm幅の大きさに裁断した試験片を準備し、試験片の中央部において、MD方向に長さ60mmの標線をマジックで記入した。各試験片をMD方向が上下となるように恒温槽(140℃に調整)内に吊るし、各試験片の下側に、5gの荷重を掛け、140℃の環境下で2分間保存した後、その標線長さL1(mm)を測定し、加熱試験前の標線長さL0(=60mm)に対する変化率を算出した。
変化率(%)=[(L1-L0)/L0]×100
以下の基準に従い、基材フィルム1の耐熱性を評価し、B以上の評価を耐熱性が良好であると判断した。
A:変化率が±10%の範囲内であった。
B:変化率が±10%の範囲を超え、±14%の範囲内であった。
C:変化率が±14%の範囲を超えていた。
【0196】
2.粘着剤組成物の溶液の調製
ダイシングテープ10の粘着剤層2用の粘着剤組成物として、下記の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)~(r)の溶液を調製した。
なお、これら粘着剤組成物のベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)を構成する共重合モノマー成分として、
・アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA、分子量:184.3、Tg:-70℃)、
・アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA、分子量:116.12、Tg:-15℃)、
・アクリル酸ブチル(BA、分子量:128.17、Tg:-54℃)、
・メタクリル酸メチル(MMA、分子量:100.12:Tg:105℃)、
・メタクリル酸(MAA、分子量:86.06:Tg:130℃)、
を準備した。
また、ポリイソシアネート系架橋剤として、東ソー株式会社製の
・TDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:8.05質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.89質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.8個/1分子、分子量:656.64)、
・HDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートHL、固形分濃度:75質量%、溶液中のイソシアネート基含有量:12.8質量%、固形分中のイソシアネート基含有量:17.07質量%、計算上のイソシアネート基の数:平均2.6個/1分子、分子量:638.75)、
を準備した。
【0197】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液)
共重合モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA)、アクリル酸-2ヒドロキシエチル(2-HEA)、メタクリル酸メチル(MMA)を準備した。これらの共重合モノマー成分を、2-EHA/2-HEA/MMA=78.5質量部/21.0質量部/0.5質量部(=425.94mmol/180.85mmol/5.81mmol)の共重合比率となるように混合し、溶媒として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用い溶液ラジカル重合により、水酸基を有するベースポリマー(アクリル酸エステル共重合体)の溶液を合成した。得られたベースポリマーのFoxの式より算出したTgは-60℃である。
【0198】
次に、このベースポリマーの固形分100質量部に対し、昭和電工株式会社製の活性エネルギー線反応性化合物として、昭和電工株式会社製のイソシアネート基と活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合とを有する2-イソシアネートエチルメタクリレート(商品名:カレンズMOI、分子量:155.15、イソシアネート基:1個/1分子、二重結合基:1個/1分子)21.0質量部(135.35mmol:2-HEAに対して74.8mol%)を配合し、2-HEAの水酸基の一部と反応させて、炭素-炭素二重結合を側鎖に有するアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液(固形分濃度:50質量%、重量平均分子量Mw:38万、固形分水酸基価:21.1mgKOH/g、固形分酸価:2.7mgKOH/g、炭素-炭素二重結合含有量:1.12mmol/g)を合成した。なお、上記の反応にあたっては、炭素-炭素二重結合の反応性を維持するための重合禁止剤としてヒドロキノン・モノメチルエーテルを0.05質量部用いた。
【0199】
続いて、上記で合成したアクリル系粘着性ポリマー(A)の溶液200質量部(固形分換算100質量部)に対して、IGM Resins B.V.社製のα-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(商品名:Omnirad184)を2.0質量部、IGM Resins B.V.社製のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(商品名:Omnirad819)を0.4質量部、架橋剤として東ソー株式会社製のTDI系のポリイソシアネート系架橋剤(商品名:コロネートL-45E、固形分濃度:45質量%)を2.56質量部(固形分換算1.15質量部、1.75mmol)の比率で配合し、酢酸エチルにて希釈、撹拌して、固形分濃度22質量%の活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を調製した。活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)における、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は0.13、残存水酸基濃度は0.32mmol/g、炭素-炭素二重結合含有量は1.11mmol/gであった。
【0200】
(活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(t)の溶液)
アクリル系粘着性ポリマー(A)に対して、それぞれ表3~6に示したように共重合モノマー成分の共重合比率、活性エネルギー線反応性化合物の配合量、および共重合モノマー成分を適宜変更し、アクリル系粘着性ポリマー(B)~(Q)の溶液をそれぞれ合成した。合成したアクリル系粘着性ポリマー(B)~(Q)における、ベースポリマーのTg、重量平均分子量Mw、酸価および水酸基価は、それぞれ表3~6に示す通りである。続いて、これらのアクリル系粘着性ポリマーの溶液を用いて、アクリル系粘着性ポリマー(A)~(Q)の固形分換算100質量部に対して、それぞれ表3~6に示したように光重合開始剤およびポリイソシアネート系架橋剤を適宜配合して、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(t)の溶液を調製した。活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(t)における、ポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)、残存水酸基濃度および炭素-炭素二重結合含有量は、それぞれ表3~6に示す通りである。
【0201】
3.接着剤組成物の溶液の調製
ダイシングダイボンドフィルム20のダイボンドフィルム(接着剤層)3用の接着剤組成物として、下記の接着剤組成物3(a)~3(d)の溶液を調製した。
【0202】
(接着剤組成物3(a)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(a)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)26質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)36質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)25質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)12質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC2050-HLG、平均粒子径:0.50μm)15質量部、アドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)14質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)1質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0203】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として重量平均分子量Mwが低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体37質量部、重量平均分子量Mwが高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体9質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.7質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.3質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.03質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(a)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=31.5質量%:42.5質量%:26.0質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して20.5質量%であった。
【0204】
(接着剤組成物3(b)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(b)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:YDF-8170C、エポキシ当量:159、分子量:310、常温で液状)21質量部、東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)33質量部、架橋剤としてエア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)46質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)18質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0205】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として重量平均分子量Mwが低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体16質量部、重量平均分子量Mwが高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体64質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)1.3質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.6質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.05質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(b)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=44.4質量%:30.0質量%:25.6質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して10.0質量%であった。
【0206】
(接着剤組成物3(c)の溶液)
ワイヤ埋め込み型ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物溶液3(c)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として株式会社プリンテック製のビスフェノール型エポキシ樹脂(商品名:R2710、エポキシ当量:170、分子量:340、常温で液状)11質量部、DIC株式会社製のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(商品名:HP-7200H、エポキシ当量280、軟化点83℃)40質量部、DIC株式会社製のビスフェノールS型エポキシ樹脂(商品名:EXA-1514、エポキシ当量300、軟化点75℃)18質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、軟化点:77℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)1質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE200C-10、水酸基当量:200、軟化点:71℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:4質量%)20質量部、エア・ウォーター株式会社製のフェノール樹脂(商品名:HE910-10、水酸基当量:101、軟化点:83℃、吸水率:1質量%、加熱質量減少率:3質量%)10質量部、無機フィラーとしてアドマテックス株式会社製のシリカフィラー分散液(商品名:SC1030-HJA、平均粒子径:0.25μm)24質量部、日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径:0.016μm)0.8質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0207】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂として重量平均分子量Mwが低いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体30質量部、重量平均分子量Mwが高いグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体7.5質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)0.57質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)0.29質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.023質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(c)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=27.3質量%:50.2質量%:22.5質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して18.0質量%であった。
【0208】
(接着剤組成物3(d)の溶液)
汎用ダイボンドフィルム用として、以下の接着剤組成物3(d)の溶液を調製、準備した。まず、熱硬化性樹脂として東都化成株式会社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:YDCN-700-10、エポキシ当量210、軟化点80℃)54質量部、架橋剤として三井化学株式会社製のフェノール樹脂(商品名:ミレックスXLC-LL、水酸基当量:175、吸水率:1.8%)46質量部、無機フィラーとして日本アエロジル株式会社製のシリカ(商品名:アエロジルR972、平均粒子径0.016μm)32質量部、からなる樹脂組成物に、溶媒としてシクロヘキサノンを加えて撹拌混合し、更にビーズミルを用いて90分間分散した。
【0209】
次いで、上記樹脂組成物に、熱可塑性樹脂としてグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体274質量部、シランカップリング剤としてGE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-1160)5.0質量部、GE東芝株式会社製のγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン(商品名:NUC A-189)1.7質量部、および硬化促進剤として四国化成株式会社製の1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(商品名:キュアゾール2PZ-CN)0.1質量部加え、攪拌混合し、100メッシュのフィルターでろ過した後、真空脱気し、固形分濃度20質量%の接着剤組成物3(d)の溶液を調製した。樹脂成分全量(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および架橋剤の合計質量)における各樹脂成分の含有割合は、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エポキシ樹脂:フェノール樹脂=73.3質量%:14.4質量%:12.3質量%であった。また、無機フィラーの含有量は樹脂成分全量に対して8.6質量%であった。
【0210】
4.ダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20の作製
(実施例1)
剥離ライナー(厚さ38μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面側に乾燥後の粘着剤層2の厚さが8μmとなるように、上記活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物(a)の溶液を塗布して100℃の温度で3分間加熱することにより溶媒を乾燥させた後に、粘着剤層2上に基材フィルム1(a)の第1層側の表面を貼り合わせ、ダイシングテープ10の原反を作製した。その後、ダイシングテープ10の原反を23℃の温度で96時間保存して粘着剤層2を架橋、硬化させた。
【0211】
次いで、ダイボンドフィルム(接着剤層)3形成用の接着剤組成物3(a)の溶液を準備し、剥離ライナー(厚さ38μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面側に乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さが50μmとなるように、上記接着剤組成物3(a)の溶液を塗布して、まず90℃の温度で5分間、続いて140℃の温度で5分間の2段階で加熱することにより溶媒を乾燥させ、剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を作製した。なお、必要に応じ、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の乾燥面側には保護フィルム(例えばポリエチレンフィルム等)を貼り合わせても良い。
【0212】
続いて、上記で作製した剥離ライナーを備えたダイボンドフィルム(接着剤層)3を、剥離ライナーごと直径335mmの円形にカットし、該ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接着剤層露出面(剥離ライナーの無い面)を、剥離ライナーを剥離した上記ダイシングテープ10の粘着剤層2面に貼り合わせた。貼り合わせ条件は、23℃、10mm/秒、線圧30kgf/cmとした。
【0213】
最後に、直径370mmの円形にダイシングテープ10をカットすることにより、直径370mmの円形のダイシングテープ10の粘着剤層2の上中心部に直径335mmの円形のダイボンドフィルム(接着剤層)3が積層されたダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a))を作製した。
【0214】
(実施例2~14)
基材フィルム1(a)を、それぞれ表1~3に示した基材フィルム1(b)~1(n)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(b)~DDF(n))を作製した。ただし、実施例10および実施例12についてのみ、粘着剤層2の厚さを、それぞれ7μm、15μmとした。
【0215】
(実施例15~27)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表3~5に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(b)~2(n)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(o)~DDF(aa))を作製した。
【0216】
(実施例28)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを6μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(bb))を作製した。
【0217】
(実施例29)
乾燥後の粘着剤層2の厚さを20μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(cc))を作製した。
【0218】
(実施例30)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(b)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを30μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(dd))を作製した。
【0219】
(実施例31)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(c)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ee))を作製した。
【0220】
(実施例32)
接着剤組成物3(a)の溶液を接着剤組成物3(d)の溶液に変更し、乾燥後のダイボンドフィルム(接着剤層)3の厚さを20μmに変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ff))を作製した。
【0221】
(比較例1~6)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(o)に変更し、活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表6に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(o)~2(t)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(gg)~DDF(ll))を作製した。
【0222】
(比較例7~12)
活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(a)の溶液を、それぞれ表7に示した活性エネルギー線硬化性アクリル系粘着剤組成物2(o)~2(t)の溶液に変更したこと以外はすべて実施例2と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(mm)~DDF(rr))を作製した。
【0223】
(比較例13)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(o)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ss))を作製した。
【0224】
(比較例14)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(p)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(tt))を作製した。
【0225】
(比較例15)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(q)に変更したこと以外はすべて実施例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(uu)を作製した。
【0226】
(比較例16)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(r)に変更したこと以外はすべて比較例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(vv))を作製した。
【0227】
(比較例17)
基材フィルム1(a)を基材フィルム1(s)に変更したこと以外はすべて比較例1と同様にしてダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ww))を作製した。
【0228】
5.ダイシングダイボンドフィルムの評価方法
実施例1~32および比較例1~17で作製したダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ww))について、以下に示す方法で各種測定および評価を行った。
【0229】
5.1 ダイボンドフィルム(接着剤層)3の80℃でのずり粘度の測定
接着剤組成物3(a)~3(d)の溶液から形成した各ダイボンドフィルム(接着剤層)3について、下記の方法により、80℃でのずり粘度を測定した。即ち、剥離ライナーを除去したダイボンドフィルム(接着剤層)3を総厚さが200~210μmとなるように70℃で複数枚貼り合わせて積層体を作製した。次いで、その積層体を、厚み方向に10mm×10mmの大きさに打ち抜いて測定サンプルとした。続いて、動的粘弾性装置ARES(レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー社製)を用いて、直径8mmの円形アルミプレート治具を装着した後、測定サンプルをセットした。測定サンプルに35℃で5%の歪みを与えながら、昇温速度5℃/分の条件で測定サンプルを昇温しながらずり粘度を測定し、80℃でのずり粘度の値を求めた。
【0230】
5.2 ダイボンドフィルム(接着剤層)3に対するダイシングテープ10の粘着剤層2のUV照射後粘着力の測定
各実施例および比較例で作製したダイシングテープ10とダイボンドフィルム(接着剤層)3を別々に準備した。ダイシングテープ10は幅(基材フィルム1のTD方向)30mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)300mmの大きさに、また、ダイボンドフィルム20は幅30mm、長さ100mmの大きさに裁断した。ダイシングテープ10の剥離ライナーを剥がした粘着剤層2面の端から100mmの部分に、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の接着剤層露出面(剥離ライナーの無い面)を、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、2kgゴムローラを使用して圧着しながら、綺麗に重ねて貼り合わせた。この積層体を5℃の環境で24時間養生した後、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離ライナーを剥がした面に、2kgゴムローラを使用して、王子タック株式会社製のOPPフィルム基材片面粘着テープ11(商品名:イージーカットテープ207H、厚さ70μm)の粘着剤層側の面を圧着しながら貼り合わせて裏打ちをした。この積層体を、幅が25mmとなるように新品のカッターの刃であらためて裁断し、
図11(a)に示すような試験片とした。次いで、
図11(b)に示すように、上記試験片のOPPフィルム基材片面粘着テープ11側の面を、角度自在タイプ粘着・皮膜剥離解析装置(型式:VPA-2S、協和界面科学株式会社製)用の平板クロスステージの中央に、マクセル株式会社製の紙両面粘着テープ12(商品名:No.5486、厚さ140μm)を用いて、2kgゴムローラにより圧着しながら固定した。続いて、ダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10の基材フィルム1側からメタルハライドランプを用いて、中心波長365nmの紫外線(UV)を照射した(照射強度:70mW/cm
2、積算光量150mJ/cm
2)後、該試験片が固定された平板クロスステージを角度自在タイプ粘着・皮膜剥離解析装置に装着し、温度23℃、湿度50%RHの環境にて、
図11(c)(装置を真上から見た概略図)に示すように、剥離角度30°、剥離速度600mm/分の条件で、ダイシングテープ10側を引っ張り(実際には、平板クロスステージが移動)、ダイボンドフィルム(接着剤層)3に対するダイシングテープ10の低角(剥離角度30°)粘着力(単位はN/25mm)を測定した(試験片N=3の平均値)。
【0231】
5.3 ダイボンドフィルム3(接着剤層)に対するダイシングテープ10の粘着剤層2の-30℃における剪断接着力
ダイシングテープ10とダイボンドフィルム(接着剤層)3を別々に準備した。ダイシングテープ10は、基材フィルム1側に、裏打ちテープとしてマクセル株式会社製のPETフィルム基材片面粘着テープ14(商品名:No.626001、厚さ55μm)の粘着剤層側の面を、2kgゴムローラを使用して圧着しながら貼り合わせた後、幅(基材フィルム1のTD方向)10mm、長さ(基材フィルム1のMD方向)100mmの大きさに裁断した。また、ダイボンドフィルム20は幅30mm、長さ100mmの大きさに裁断した。なお、ダイボンドフィルム20としては、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の乾燥面側には保護フィルム(ポリエチレンフィルム)を備えたものを使用した。まず、ダイボンドフィルム20の剥離ライナーを丁寧に剥がした面を、半導体ウエハW(シリコンミラーウエハ、幅40mm、長さ100mm、厚さ0.725mm)の表面に、2kgゴムローラを使用して圧着しながら貼り合わせた後、2枚のガラス板に挟んで、40℃の温度下で2kgの荷重を1分間かけて圧着した。次いで、このダイボンドフィルム(接着剤層)3が接着された半導体ウエハWの両端面をSUS板15に、マクセル株式会社製のPETフィルム基材片面粘着テープ14(商品名:No.626001、厚さ55μm)を用いてしっかりと固定し、ダイボンドフィルム(接着剤層)3の保護フィルムを剥がして、剪断接着力試験の被着体とした。次いで、この被着体のダイボンドフィルム(接着剤層)3の表面に、ダイシングテープ10の剥離ライナーを剥がした粘着剤層2面を、端から長さ方向10mm部分が密着するように、すなわち、密着面の大きさが10mm×10mm(密着面積:100mm
2)となるように貼り合わせ、2kgゴムローラで圧着し、温度23℃、湿度50%RHの環境にて20分間養生して、
図12(固定用のPETフィルム基材片面粘着テープ14は図示せず)に示すような試験対象物を得た。続いて、ミネベアミツミ株式会社製の引張圧縮試験機(型式:MinebeaTechnoGraph TG-5kN)を用い、試験対象物をミネベアミツミ株式会社製の恒温槽(型式:THB-A13-038)内で-30℃、1分間置いた後に、速度1,000mm/分で垂直方向に引張り、そのときに要する剪断方向の接着力(単位はN/100mm
2)を測定した(試験片N=3の平均値)。
【0232】
5.4 ダイシングダイボンドフィルム20のステルスダイシング性の評価
5.4.1 半導体ウエハ割断性およびダイボンドフィルム(接着剤層)割断性
まず、半導体ウエハ(シリコンミラーウエハ、厚さ750μm、外径12インチ)Wを準備し、一方の面に市販のバックグラインドテープを貼り付けた。次いで、半導体ウエハWのバックグラインドテープを貼り付けた側と反対面から、株式会社ディスコ製のステルスダイシングレーザソー(装置名:DFL7361)を使用し、割断後の半導体チップ30aの大きさが4.7mm×7.2mmのサイズとなるように、格子状の分割予定ラインに沿って、以下の条件にて、レーザー光を照射することにより、半導体ウエハWの所定の深さの位置に改質領域30bを形成した。
・レーザー照射条件
(1)レーザー発振器型式:半導体レーザー励起Qスイッチ固体レーザー
(2)波長:1342nm
(3)発振形式:パルス
(4)周波数:90kHz
(5)出力:1.7W
(6)半導体ウエハの載置台の移動速度:700mm/秒
【0233】
次いで、株式会社ディスコ製のバックグラインド装置(装置名:DGP8761)を使用し、バックグラインドテープに保持された当該改質領域30bが形成された厚さ750μmの半導体ウエハWを研削、薄膜化することにより、厚さ30μmの半導体ウエハ30を得た。続いて、以下の方法によりクールエキスパンド工程を実施することで、ステルスダイシング性の指標項目の一つである半導体ウエハ割断性および接着剤層割断性を評価した。具体的には、上記方法により得られた改質領域30bが形成された厚さ30μmの半導体ウエハ30のバックグラインドテープが貼り付けられた側とは反対面に、各実施例および比較例で作製したダイシングダイボンドフィルム20から剥離ライナーを剥離することによって露出させた接着剤層3が密着するように、株式会社ディスコ製のラミネート装置(装置名:DFM2800)を使用し、当該半導体ウエハ30に対してダイシングダイボンドフィルム20をラミネート温度70℃、ラミネート速度10mm/秒の条件にて貼り合わせるとともに、ダイシングテープ10の外縁部の粘着剤層2露出部にリングフレーム(ウエハリング)40を貼り付けた後、バックグラインドテープを剥離した。なお、ここで、ダイシングダイボンドフィルム20は、その基材フィルム1のMD方向と半導体ウエハ30の格子状の分割予定ラインの縦ライン方向(基材フィルム1のTD方向と半導体ウエハ30の格子状の分割予定ラインの横ライン方向)とが一致するように、半導体ウエハ30に貼り付けられている。
【0234】
上記リングフレーム(ウエハリング)40に保持された改質領域30b形成後の半導体ウエハ30を含む積層体(半導体ウエハ30/接着剤層3/粘着剤層2/基材フィルム1)を株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)に固定した。次いで、以下の条件にて、半導体ウエハ30を伴うダイシングダイボンドフィルム20のダイシングテープ10(粘着剤層2/基材フィルム1)をクールエキスパンドすることによって、半導体ウエハ30および接着剤層3を割断した。これにより、ダイボンドフィルム(接着剤層)3付き半導体チップ30aを得た。なお、本実施例では、下記の条件にてクールエキスパンド工程を実施したが、基材フィルム1の物性および温度条件等によってエキスパンド条件(「エキスパンド速度」および「エキスパンド量」等)を適宜調整した上でクールエキスパンド工程を実施すればよい。
・クールエキスパンド工程の条件
温度:-15℃、冷却時間:80秒、
エキスパンド速度:300mm/秒、
エキスパンド量:11mm、
(4)待機時間:0秒
【0235】
クールエキスパンド後の半導体ウエハ30及び接着剤層3について、半導体ウエハ30の表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察することによって、割断予定の辺のうち、割断されていない辺の数を計測した。そして、半導体ウエハ30と接着剤層3のそれぞれについて、割断予定の辺の総数と未割断の辺の総数とから、割断予定の辺の総数に占める、割断された辺の数の割合を、割断率(%)として算出した。前記光学顕微鏡による観察箇所は、半導体ウエハ30の全面に対して行った。以下の基準に従って、半導体ウエハ30と接着剤層3のそれぞれについて割断性を評価し、B以上の評価を割断性が良好と判断した。
A:割断率が95%以上100%以下であった。
B:割断率が90%以上95%未満であった。
C:割断率が90%未満であった。
【0236】
5.4.2 ダイボンドフィルム(接着剤層)3のダイシングテープ10の粘着剤層2からの剥離(浮き)
上記クールエキスパンド状態を解除した後、再度、株式会社ディスコ製のエキスパンド装置(装置名:DDS2300 Fully Automatic Die Separator)を用い、そのヒートエキスパンダーユニットにて、以下の条件にて、常温エキスパンド工程を実施した。
・常温エキスパンド工程の条件
温度:23℃、
エキスパンド速度:30mm/秒、
エキスパンド量:9mm、
(4)待機時間:15秒
【0237】
次いで、エキスパンド状態を維持したまま、ダイシングテープ10を吸着テーブルで吸着させ、吸着テーブルによるその吸着を維持した状態で吸着テーブルをワークとともに下降させた。そして、以下の条件にて、ヒートシュリンク工程を実施し、ダイシングテープ10における半導体チップ30a保持領域より外側の円周部分を加熱収縮(ヒ-トシュリンク)させた。
・ヒートシュリンク工程の条件
熱風温度:200℃、
風量:40L/min、
熱風吹き出し口とダイシングテープ10との距離:20mm、
ステージの回転速度:7°/秒
【0238】
続いて、吸着テーブルによる吸着からダイシングテープ10を解放した後、割断された個々の半導体チップの四方周辺において、ダイボンドフィルム(接着剤層)3がダイシングテープ10の粘着剤層2から剥離している状態を、半導体ウエハ30の表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率50倍にて観察した。ダイボンドフィルム(接着剤層)3の剥離の状態は、いずれの位置の半導体チップ30aにおいてもほぼ同様な状態として観察されたため、該評価におけるダイボンドフィルム付き半導体チップの観察数は半導体ウエハ30の中央部に位置する所定の20個とし、その平均的な剥離状態を観察した。以下の基準に従って、エキスパンドした際のダイシングダイボンドフィルム20におけるダイボンドフィルム(接着剤層)3のダイシングテープ10の粘着剤層2からの剥離(浮き)のレベルを評価し、B以上の評価を良好と判断した。
A:ダイボンドフィルムの粘着剤層からの剥離は観察されなかった。
B:ダイボンドフィルムの粘着剤層からの剥離が半導体チップの四方周辺においてわずかに観察されたが、剥離が観察された部分の面積の割合は半導体チップの全面積に対して20%未満であった。
C:ダイボンドフィルムの粘着剤層からの剥離が半導体チップの四方周辺において明確に観察され、剥離が観察された部分の面積の割合は半導体チップの全面積に対して20%以上であった。
【0239】
5.4.3 ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の拡張性(カーフ幅)
上記ダイボンドフィルム(接着剤層)3のダイシングテープ10の粘着剤層2からの剥離(浮き)のレベルを評価するために、常温エキスパンド工程において、吸着テーブルによる吸着からダイシングテープ10を解放した際に、同時に、その状態での隣り合う半導体チップ30a間の距離(カーフ幅)を、半導体ウエハ30の表面側から、株式会社キーエンス製の光学顕微鏡(形式:VHX-1000)を用い、倍率200倍にて観察、測定することにより、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の拡張性について評価した。
【0240】
具体的には、
図11に示す半導体ウエハ30の中心部31における隣接する4つの半導体チップ30aで形成される一つの割断十字ライン部の4ヶ所(基材フィルム1のMD方向:カーフMD1とカーフMD2の2ヶ所、基材フィルム1のTD方向:カーフTD1とカーフTD2の2ヶ所、
図12参照)、左部32における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD3~カーフMD5の3ヶ所、TD方向:カーフTD3~カーフTD6の4ヶ所、図示せず)、右部33における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD6~カーフMD8の3ヶ所、TD方向:カーフTD7~カーフTD10の4ヶ所、図示せず)、上部34における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD9~カーフMD12の4ヶ所、TD方向:カーフTD11~カーフTD13の3ヶ所、図示せず)、および下部35における隣接する6つの半導体チップ30aで形成される二つの割断十字ライン部の7ヶ所(MD方向:カーフMD13~カーフMD16の4ヶ所、TD方向:カーフTD14~カーフTD16の3ヶ所、図示せず)の計32ヶ所(MD方向において16ヶ所、TD方向において16ヶ所)について、隣り合う半導体チップ30a間の離間距離を測定し、MD方向16ヶ所の平均値をMD方向カーフ幅、TD方向16ヶ所の平均値をTD方向カーフ幅としてそれぞれ算出した。以下の基準に従って、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10の拡張性を評価し、B以上の評価を拡張性が良好と判断した。
A:MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれの値も30μm以上であった。
B:MD方向カーフ幅の値が30μm以上、TD方向カーフ幅の値が25μm以上30μm未満であった。
C:MD方向カーフ幅、TD方向カーフ幅のいずれかの値が25μm未満であった。
【0241】
5.5 ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10のピックアップ性の評価
上記エキスパンド工程により割断、個片化されたダイボンドフィルム(接着剤層)3a付き半導体チップ30aを保持しているダイシングテープ10の基材フィルム1側から、照射強度70mW/cm2にて積算光量が150mJ/cm2となるように中心波長365nmの紫外線(UV)を照射し粘着剤層2を硬化させることにより、ピックアップ性の評価試料とした。
【0242】
続いて、ファスフォードテクノロジ株式会社製(旧株式会社日立ハイテクノロジーズ製)のピックアップ機構を有する装置(装置名:ダイボンダDB-830P)を用いて、ピックアップ試験を行った。ピックアップ用コレットのサイズは4.5×7.1mm、突上げピンのピン本数は12本とし、ピックアップの条件については、突き上げピンの突き上げ速度を10mm/秒、突き上げピンの突き上げ高さを200μmとした。ピックアップのトライのサンプル数を所定の位置の50個(チップ)とし、以下の基準に従って、ダイシングダイボンドフィルム20におけるダイシングテープ10のピックアップ性を評価し、B以上の評価をピックアップ性が良好と判断した。
A:50チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が48個以上50個以下であった。
B:50チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が45個以上48個未満であった。
C:50チップを連続的にピックアップし、チップ割れ又はピックアップミスが発生しなかった個数(ピックアップ成功個数)が45個未満であった。
【0243】
6.評価結果
実施例1~32および比較例1~17で作製したダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ww))に対する各評価結果について、ダイシングテープ10およびダイシングダイボンドフィルム20の構成および使用した基材フィルム1の構成等と合わせて表1~9に示す。
【0244】
【0245】
【0246】
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
【0251】
【0252】
【0253】
表1~6に示すように、本発明の要件を満たす基材フィルム1(a)~(n)、および粘着剤組成物2(a)~2(n)を含有する粘着剤層2を備えたダイシングテープ10を用いて作製した実施例1~32のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ff))については、半導体装置の製造工程に供した場合、ステルスダイシング性およびピックアップ性のいずれの評価においても好ましい結果が得られることが確認された。また、耐熱性の評価も良好であった。
【0254】
実施例を詳細に比較した場合、実施例2~4、実施例7、8、実施例10~14、実施例20、22、23および実施例30~32のダイシングダイボンドフィルム20については、ステルスダイシング性およびピックアップ性の評価においてハイレベルで両立可能であり、特に優れていることが分かった。耐熱性については、実施例3~6のダイシングダイボンドフィルム20の評価結果から明らかなように、基材フィルム1におけるポリアミド樹脂(B)の含有比率が大きくなるとより良好となることが分かった。
【0255】
実施例1および実施例9のダイシングダイボンドフィルム20については、基材フィルム1のTD方向の-15℃における5%伸長時の応力が、それぞれ15.8MPa、16.0MPaとやや小さいため、ダイボンドフィルム3の割断性がやや劣っていた。また、ダイシングテープ10の拡張性もやや劣っていた。また、実施例16のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物におけるポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.02と範囲の下限値であるため、粘着剤層2の凝集力がやや小さくなり、ダイボンドフィルム3の割断性がやや劣っていた。また、UV照射後の低角粘着力がやや大きく、ピックアップ性もやや劣っていた。また、さらに実施例26のダイシングダイボンドフィルム20についても同様に、粘着剤組成物における当量比(NCO/OH)がやや小さいため、粘着剤層2の凝集力がやや小さくなり、ダイボンドフィルム3の割断性がやや劣っていた。また、粘着剤組成物の活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、0.85mmol/gと範囲の下限値であるため、UV照射後の低角粘着力がやや大きく、さらに、アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量Mwの影響も相まって、ダイボンドフィルム3の浮きもやや見られ、ピックアップ性もやや劣っていた。
【0256】
また、実施例5および実施例6のダイシングダイボンドフィルム20については、基材フィルム1全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)が、それぞれ74:26、72:28とポリアミド樹脂(B)の含有比率がやや大きいため、基材フィルム1の剛性の影響によりUV照射後の低角粘着力がやや大きく、ピックアップ性がやや劣っていた。また、実施例17のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が、0.90mmol/gと範囲の上限値であるため、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや大きく、ピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例18のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物の活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、0.85mmol/gと範囲の下限値であるため、UV照射後の低角粘着力がやや大きく、ピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例21のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物におけるアクリル系粘着性ポリマーの主鎖のガラス転移温度がやや高い一方で、アクリル系粘着性ポリマーの共重合成分であるアクリル酸ブチル(BA)がダイボンドフィルム3との相互作用が強いためと推察されるが、ダイボンボンドフィルム3の浮きは見られないものの、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや大きく、UV照射後の低角粘着力もやや大きく、ピックアップ性がやや劣っていた。
【0257】
また、実施例15および実施例19のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物におけるポリイソシアネート系架橋剤が有するイソシアネート基(NCO)とアクリル系粘着性ポリマーが有する水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.20と範囲の上限値であるため、粘着剤層2がやや硬くなり、-30℃におけるダイボンドフィルムに対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや小さく、ダイボンドフィルム3の浮きがやや見られた。その影響により実施例15のダイシングダイボンドフィルム20については、ピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例19のダイシングダイボンドフィルム20については、ダイボンドフィルム3の浮きがやや見られたものの、粘着剤組成物の活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、1.51mmol/gと大きいため、ピックアップ性は、かろうじてAレベル(ピックアップ成功個数48個)を確保した。また、さらに実施例24のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が、0.18mmol/gと範囲の下限値であるため、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや小さく、ダイボンドフィルム3の浮きがやや見られ、その影響によりピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例25のダイシングダイボンドフィルム20については、アクリル系粘着性ポリマーの重量平均分子量Mwがやや大きいため、-30℃におけるダイボンドフィルムに対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや小さく、ダイボンドフィルム3の浮きがやや見られ、その影響によりピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例27のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物におけるアクリル系粘着性ポリマーのベースポリマーのガラス転移温度がやや高いため、-30℃におけるダイボンドフィルムに対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや小さく、ダイボンドフィルム3の浮きがやや見られ、その影響によりピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例28のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤層2の厚さがやや薄いため、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力がやや小さく、ダイボンドフィルム3の浮きがやや見られ、その影響によりピックアップ性がやや劣っていた。また、さらに実施例29のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤層2の厚さがやや厚いため、ダイシングテープ10の拡張性がやや劣り、UV照射後の低角粘着力もやや大きく、その影響によりピックアップ性がやや劣っていた。
【0258】
これに対し、表7に示すように、本発明の要件を満たさない基材フィルム1(o)、および本発明の要件を満たさない粘着剤組成物2(o)~2(t)を含有した粘着剤層2を備えたダイシングテープ10を用いて作製した比較例1~6のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(gg)~DDF(ll))については、いずれも耐熱性が不十分であり、ステルスダイシング性4項目のいずれかの評価、およびピックアップ性の評価において、実施例1~32のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ff))よりも劣る結果であることが確認された。同様に、表9に示すように、本発明の要件を満たさない基材フィルム1(r)、1(s)、および本発明の要件を満たさない粘着剤組成物2(o)を含有した粘着剤層2を備えたダイシングテープ10を用いて作製した比較例16、17のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(vv)、DDF(ww))についても、耐熱性が不十分であり、ステルスダイシング性4項目のいずれかの評価、およびピックアップ性の評価において、実施例1~32のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ff))よりも劣る結果であることが確認された。
【0259】
また、表8に示すように、本発明の要件を満たす基材フィルム1(b)を使用しているが、本発明の要件を満たさない粘着剤組成物2(o)~(t)を含有した粘着剤層2を備えたダイシングテープ10を用いて作製した比較例7~12のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(mm)~DDF(rr))については、耐熱性、半導体ウエハ30の割断性、ダイボンドフィルム3の割断性、およびダイシングテープ10の拡張性は良好であったが、ステルスダイシング性4項目のいずれかの評価、およびピックアップ性の評価において、実施例1~32のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ff))よりも劣る結果であることが確認された。
【0260】
また、表9に示すように、本発明の要件を満たす粘着剤組成物2(a)を含有した粘着剤層2を使用しているが、本発明の要件を満たさない基材フィルム1(o)~(q)を含有した粘着剤層を備えたダイシングテープ10を用いて作製した比較例13~15のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ss)~DDF(uu))については、耐熱性の評価およびステルスダイシング性4項目のいずれかの評価、ならびにピックアップ性の評価において、実施例1~32のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(a)~DDF(ff))よりも劣る結果であることが確認された。
【0261】
具体的には、ポリアミド樹脂(B)を含まず、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)のみから構成された基材フィルム1(o)を使用した比較例1~6および比較例13のダイシングダイボンドフィルム20については、いずれも耐熱性が不十分であり、さらに基材フィルム1の-15℃におけるTD方向の5%伸長時の応力が、12.5MPaと小さく、範囲の下限値である15.5MPaを下回るため、ダイボンドフィルム3の割断性およびダイシングテープ10の拡張性が大幅に劣っており、ピックアップ性の悪化に与える影響が大きいことが分かった。また、比較例1および比較例4のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物における当量比(NCO/OH)が、それぞれ0.47、0.33と範囲の上限値である0.20を超えているため、粘着剤層2が硬くなり、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力が小さく、ダイボンドフィルム3の浮きが見られ、その影響によりピックアップ性が大幅に劣っていた。一方、比較例3のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物における当量比(NCO/OH)が、0.01と範囲の下限値である0.02を下回るため、粘着剤層2の凝集力が小さくなり、UV照射後の低角粘着力が大きく、ピックアップ性が大幅に劣っていた。また、さらに比較例2のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が、1.21mmol/gと範囲の上限値を超えるため、加えて、粘着剤組成物の活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、0.80mmol/gと範囲の下限値を下回るため、UV照射後の低角粘着力が大きくなり、ピックアップ性が大幅に劣っていた。また、さらに比較例5のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物における架橋反応後の残存水酸基濃度が、0.95mmol/gと範囲の上限値を超えるため、粘着剤組成物の活性エネルギー線反応性炭素-炭素二重結合濃度が、0.58mmol/gと範囲の下限値を大幅に下回るため、加えて、粘着剤組成物のアクリル系粘着性ポリマーの酸価が大きい影響も相まって、UV照射後の低角粘着力が大きくなり、ピックアップ性が大幅に劣っていた。比較例6のダイシングダイボンドフィルム20については、粘着剤組成物におけるアクリル系粘着性ポリマーの主鎖のガラス転移温度が40℃と範囲の上限値を超えるため、粘着剤層2が硬くなり、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力が小さく、ダイボンドフィルム3の浮きが見られ、その影響によりピックアップ性が大幅に劣っていた。
【0262】
また、比較例1~6とそれぞれ同じ粘着剤組成物を含む粘着剤層2を備えた比較例7~12のダイシングダイボンドフィルム20についても、ダイボンドフィルム3の浮きおよびピックアップ性の評価結果は上記と同等であった。
【0263】
また、基材フィルム1がポリアミド樹脂(B)を含まず、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーからなる樹脂(A)のみから構成された、本発明の範囲外である比較例13、および基材フィルム1全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)が97:3とポリアミド樹脂(B)の含有比率が小さく、本発明の範囲外である比較例14のダイシングダイボンドフィルム20については、耐熱性が不十分であり、さらに基材フィルム1の-15℃におけるTD方向の5%伸長時の応力が、それぞれ12.5MPa、15.0MPaと小さく、範囲の下限値である15.5MPaに満たないため、ダイボンドフィルム3の割断性およびダイシングテープ10の拡張性が不十分となり、その結果、ピックアップ性が大幅に劣っていた。また、さらに基材フィルム1全体におけるアイオノマーからなる樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との質量比率(A):(B)が70:30とポリアミド樹脂(B)の含有比率が大きく、本発明の範囲外である比較例15のダイシングダイボンドフィルム20については、耐熱性は良好であったものの、基材フィルム1の剛性の影響により、UV照射後の低角粘着力が大きくなり、ピックアップ性が大幅に劣っていた。
【0264】
また、従来のダイシングダイボンドフィルムとして例示した比較例16のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(vv))については、PP/EVA/PPの3層構成の基材フィルム1の-15℃における5%伸長時の応力が、MD方向において10.8MPa、TD方向において10.3MPaと極めて小さく、範囲の下限値である15.5MPaに満たないため、ダイボンドフィルム3の割断性およびダイシングテープ10の拡張性が不十分となり、加えて、粘着剤組成物における当量比(NCO/OH)が、0.47と範囲の上限値である0.20を超えているため、粘着剤層2が硬くなり、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力が小さく、ダイボンドフィルム3の浮きが見られ、それらの影響によりピックアップ性が大幅に劣っていた。その結果、ピックアップ性が大幅に劣っていた。また、さらに従来のダイシングダイボンドフィルムとして例示した比較例16のダイシングダイボンドフィルム20(DDF(ww))については、PVC単層構成の基材フィルム1の-15℃における5%伸長時の応力が、MD方向において45.6MPa、TD方向において42.8MPaと極めて大きく、範囲の上限値である28.5MPaを超えているため、ダイシングテープ10の拡張性が不十分となり、加えて、粘着剤組成物における当量比(NCO/OH)が、0.47と範囲の上限値である0.20を超えているため、粘着剤層2が硬くなり、-30℃におけるダイボンドフィルム3に対するUV照射前粘着剤層2の剪断接着力が小さく、ダイボンドフィルム3の浮きが見られ、それらの影響によりピックアップ性が大幅に劣っていた。
【符号の説明】
【0265】
1…基材フィルム、
2…粘着剤層、
3、3a1、3a2…ダイボンドフィルム(接着剤層、接着フィルム)、
4…半導体チップ搭載用支持基板、
5…外部接続端子、
6…端子、
7…ワイヤ、
8…封止材、
9…支持部材、
10…ダイシングテープ、
11…OPPフィルム基材片面粘着テープ(裏打ちテープ)、
12…紙両面粘着テープ(固定テープ)、
13…平板クロスステージ、
14…PETフィルム基材片面粘着テープ(裏打ちテープ、固定テープ)、
15…SUS板、
20…ダイシングダイボンドフィルム、
W、30…半導体ウエハ、
30a、30a1、30a2…半導体チップ、
30b…改質領域、
31…半導体ウエハ中心部
32…半導体ウエハ左部
33…半導体ウエハ右部
34…半導体ウエハ上部
35…半導体ウエハ下部
40…リングフレーム(ウエハリング)、
41…保持具、
50…吸着コレット、
60…突き上げピン(ニードル)
70、80…半導体装置