(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】PET装置及び校正方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20240925BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20240925BHJP
G01T 1/172 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G01T1/161 A
G01T1/161 Z
G01T1/17 E
G01T1/172
(21)【出願番号】P 2020211197
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-10-25
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャオリ リ
(72)【発明者】
【氏名】イ チャン
(72)【発明者】
【氏名】ケント・シー・バー
(72)【発明者】
【氏名】ペン ペン
【審査官】清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/145139(WO,A1)
【文献】特開2009-281816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0151084(US,A1)
【文献】特開2019-056700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299240(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出器視野(FOV)内に配置された放射線源から放出されたポジトロンの消滅によって生じる同時発生事象対を検出し、複数の処理ユニットからなる検出器と、
前記放射線源を介して取得されたデータに基づいて、前記処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを補正し、自己放射能を使用して、前記処理ユニットのセット間のタイミングオフセットを校正し、前記処理ユニットのセット内の前記補正された相対タイミングオフセットと、前記処理ユニットのセット間の前記校正されたタイミングオフセットとに基づいて、
総タイミングオフセットを決定することにより、前記検出器の校正を行う回路と
を備える、PET装置。
【請求項2】
前記回路は、前記相対タイミングオフセットと、前記校正されたタイミングオフセットの合計として、総タイミングオフセットを決定することにより、前記検出器の校正を行う、請求項1に記載のPET装置。
【請求項3】
前記回路は、前記放射線源を介して取得されたデータに基づいて、更に前記処理ユニットのセット内のタイミングウォークを補正する、請求項1に記載のPET装置。
【請求項4】
前記自己放射能は、前記PET装置のシンチレータアレイの一部である放射性材料の崩壊によって生じる放射線であり、
前記自己放射能の崩壊過程は、同時計数事象が放射によって起こる検出器内のコンプトン散乱によって生じる場合がある放射を含む、請求項1に記載のPET装置。
【請求項5】
前記放射線源は、前記検出器視野内の有限範囲消滅放射線源であり、
前記有限範囲消滅放射線源は、前記PET装置内の各結晶が処理ユニットの少なくとも1つの他のセット内の
複数の結晶と対になるような範囲の有限範囲放射源を含む、請求項1~4のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項6】
前記放射線源は、前記検出器視野内の有限範囲消滅放射線源であり、
前記有限範囲消滅放射線源は、最も狭い断面範囲が10mm未満である、請求項1~4のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項7】
前記回路は、処理ユニットごとの前記タイミングオフセットを、ニューラルネットワークを使用して計算する、請求項1~6のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項8】
前記処理ユニットのセットは、前記放射線源を介した同時計数によって対にされる、同時発生処理ユニットの対、および
前記放射線源を介した同時計数によって対にされる、処理ユニットのセットのうち少なくとも1つである、請求項1~7のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項9】
前記回路は、前記自己放射能及び前記放射線源から、データの一部を別々に取得する、請求項1に記載のPET装置。
【請求項10】
前記回路は、前記自己放射能および前記放射線源から、データの一部を同時に取得する、請求項1~9のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項11】
前記処理ユニットは、それぞれが複数の電子機器ボードを有する検出器ユニットである、請求項1~10のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項12】
前記処理ユニットのセットは、一つの領域に含まれる複数の検出器ユニットである、請求項1~10のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項13】
前記処理ユニットのセットは、一つの検出器ユニットである、請求項1~10のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項14】
前記処理ユニットは、それぞれが複数のASICを有する電子機器ボードである、請求項1~10のいずれか一つに記載のPET装置。
【請求項15】
飛行時間差(Time Of Flight:TOF)ポジトロン放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)においてタイミング校正を行う方法であって、
PETスキャナの検出器視野(FOV)内に放射線源を配置することにより、処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを取得し、前記処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを補正し、自己放射能を使用して、前記処理ユニットのセット間のタイミングオフセットを校正し、前記処理ユニットのセット内の前記補正された相対タイミングオフセットと、前記処理ユニットのセット間の前記校正されたタイミングオフセットとに基づいて、検出器の校正を行う、校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、PET装置及び校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TOF(Time OF Flight)PET(Positron Emission Tomography)装置における検出器のタイミング校正を行う方法として、ファントムなど外部放射線源を使用する方法がある。しかしながら、ファントムなど外部放射線源を用いて検出器のタイミング校正を行う方法は、ファントムが大きく、扱いが難しいか、またはファントムは複雑な機械的運動を必要とする場合がある。
【0003】
TOF PET装置における検出器のタイミング校正を行う別の方法として、検出器の自己放射能を用いる方法も考えられる。しかしながら、検出器の自己放射能を用いて検出器のタイミング校正を行う方法は、概して、非常に時間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】H.Rothfuss他、”Time alignment of time of flight positron emission tomography using the background activity of LSO”,2013 IEEE Nuclear Science Symposium and Medical Imaging Conference, Seoul, 2013年、pp. 1-3, doi: 10.1109/NSSMIC. 2013.6829400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面の開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、精度のよい校正を行うことである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係るPET装置は、放射線源と、検出器と、回路とを備える。放射線源は、
検出器視野(FOV)内に配置される。検出器は、ポジトロンの消滅によって生じる同時発生事象対を検出し、複数の処理ユニットからなる。回路は、前記放射線源を介して取得されたデータに基づいて、前記処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを補正し、自己放射能を使用して、前記処理ユニットのセット間のタイミングオフセットを校正し、前記処理ユニットのセット内の前記補正された相対タイミングオフセットと、前記処理ユニットのセット間の前記校正されたタイミングオフセットに基づいて、総タイミングオフセットを決定することにより、前記検出器の校正を行う。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係るPETスキャナの概略図である。
【
図2A】
図2Aは、対向する各検出器に対する外部放射源の例示的位置を示す概略図である。
【
図3】
図3は、対向する各検出器に対する外部放射源の対の別の例示的位置を示す概略図である。
【
図4】
図4は、対向する各検出器に対する外部放射源の別の例示的位置を示す概略図である。
【
図5】
図5は、対向する各検出器に対する外部放射源の別の例示的位置を示す概略図である。
【
図6A】
図6Aは、検出器リング内の外部ポジトロン放射源の種々の実施形態を示す概略図である。
【
図6B】
図6Bは、検出器リング内の外部ポジトロン放射源の種々の実施形態を示す概略図である。
【
図6C】
図6Cは、検出器リング内の外部ポジトロン放射源の種々の実施形態を示す概略図である。
【
図6D】
図6Dは、検出器リング内の外部ポジトロン放射源の種々の実施形態を示す概略図である。
【
図7A】
図7Aは、検出器リング内の内部放射源の種々の実施形態を示す概略図である。
【
図7B】
図7Bは、検出器リング内の内部放射源の種々の実施形態を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、外部放射源から得た相関オフセット補正を適用する前の内部放射線タイミング分布を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、ウォーク補正(非線形ウォーク補正を含む)を適用した後の、同じデータに関する分布を示す図である。
【
図9】
図9は、タイミング校正の種々のステージの例示的配置を示す概略図である。
【
図10】
図10は、タイミング校正の種々のステージの別の例示的配置を示す概略図である。
【
図11】
図11は、TOF PETシステムで使用される、立ち上がりの弁別器を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、ルテチウムバックグラウンド放射線データからのDU14とDU33との間のTOF差ヒストグラムを示す図である。
【
図12B】
図12Bは、ルテチウムバックグラウンド放射線データからのDU14とDU33との間のTOF差ヒストグラムを示す図である。
【
図13】
図13は、ルテチウムバックグラウンド放射線データからのDU14とDU33との間のTOF差ヒストグラムを示す図である。
【
図14】
図14は、Ge線源およびバックグラウンド放射線データからのDU14とDU33との間のTOF差ヒストグラムを示す図である。
【
図15A】
図15Aは、短時間タイミング校正前の、DU対間のタイミングオフセットを示す図である。
【
図15B】
図15Bは、短時間タイミング校正後の、DU対間のタイミングオフセットを示す図である。
【
図16】
図16は、ウォークの影響を回避するためにエネルギーウィンドウを適用することによってカウントを制限する場合と、ウォーク補正を行うことによって全てのカウントを受け取る場合との、利用可能なカウントの差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、PET装置及び校正方法の実施形態について詳細に説明する。
【0009】
PETでは、生体の画像が作成される。PETスキャナは、種々の生物過程および機能を示す画像を作成する。典型的には、PETスキャンでは、最初に、患者にPET同位元素と呼ばれる放射性物質が投与される。投与されるPET同位元素は、患者の体内である種の生理的過程に関わるようになると、トレーサとして作用する場合がある。典型的なポジトロン放射PET同位元素としては、
11C、
13N、
15O、および
18Fが挙げられる。ポジトロン(及び中性子)が、体内の不安定核から放射されると、近隣組織内の電子と結合して消滅する。消滅イベントにより、反対方向へ放出する1対のガンマ光子が生じる。ガンマ光子は、
図1に示されているような、検出器リングによって検出される。検出器リング300は、それぞれが、シンチレータブロックおよび光子センサを備える多数の検出器(例えば、101)で構成されている場合がある。例えば、検出器101は、シンチレータブロック102と、光子センサ103とで構成されている。
【0010】
PET検出の一態様は、TOF PETであり、これは、1対の同時発生光子の到着時間を測定するものである。TOF PETでは、放射イベント(例えば、ガンマ光子)を検出するとすぐに、検出場所のシンチレータブロックは、検出した放射イベントの時間を記録する。到着時間の取り込みにより、各イベントの放射位置のより確率の高い場所に、より多くの重みが与えられ、それにより、再構成画像の統計的不確実性を減らすことになる。
【0011】
PETでは、各検出器は、エネルギーおよびタイムスタンプを、検出した各ガンマ線に割り当てる。エネルギーウィンドウが、511keV周辺の範囲内でエネルギーを選択するために適用され、同時計数タイミングウィンドウが、ガンマ線の同時発生対を決定するために適用される。各同時発生対により、ガンマ線を検出した2つの検出器素子を結ぶ同時計数線(Line-Of-Response:LOR)が画定される。検出されたLORから画像を作成するために、再構成方法が適用される。
【0012】
TOF PETでは、同時発生対の各ガンマ線のタイムスタンプの違いを使用して、各イベントの消滅位置のより確率の高い場所に、より多くの重みが優先的に与えられ、それにより、再構成画像の統計的不確実性を減らすことになる。再構成画像に対する有意な改良を提供するために、各LORに対して記録された測定時間差は、通常、数百ピコ秒の範囲の精度で、非常に正確でなければならない。検出器内の異なる光子センサのケーブル長、またはタイミング応答差などの不可避の製造公差があるため、校正は、測定時間差の精度を充分に保証する必要がある。
【0013】
一アプローチとしては、システム内の各LORに対する時間差を個別に校正することが考えられる。しかし、PETスキャナは、通常、何万もの検出器素子を備え、LORの数は何億ものオーダーであるので、このアプローチは実用的ではない。従来技術の一般的なアプローチは、各検出器素子に対するオフセット補正を行うことである。各検出器素子に対して、検出ガンマ線が、同時発生対の一部であるかどうかが判断される前に、オフセット補正値が、その素子に対する測定タイムスタンプに付与される。同時発生対の2つのガンマ線に対するオフセット補正値は、再構成で使用するその対のTOF差を計算するときにも適用される。一般に、タイミングオフセット値は、「符号付き」値であり、これは、正または負である場合があることを意味する。
【0014】
タイミング差を測定する、TOF PETシステムでは、N個の検出器素子がシステム内にある場合、タイミング差の正確な測定を可能にするために、(N-1)のタイミングオフセット値が、決定される必要がある。例えば、ある素子に対するタイミングオフセット値が任意にゼロに設定され、その任意にゼロに設定された素子を基準にして他の(N-1)のオフセット値が決定される場合がある。あるいは、N個の検出器素子全てに対する平均オフセット値がゼロであるといった追加の条件を伴って(再度、(N-1)の独立値のみがあることを意味する)、Nのオフセット値が計算される場合がある。このように、同じ追加タイミングオフセット値が、全ての測定値に付与される場合、いずれの測定タイミング差も変化しない。
【0015】
上記のいくつかの非限定例について、以下に示す。これらの例は、例示のためのみのものであり、必ずしも、臨床PETシステムの好適な実施形態を表しているわけではない。
【0016】
図2Aに示すように、2つの検出器素子D10とD30との間に置かれた消滅放射源50の例について考察する。同時発生イベントにより、検出器素子間で1つのLOR60が発生する。この例では、消滅放射線源50は、D10とD30から等距離に置かれている(等距離以外の選択肢も同様に有効である)。D10によって測定された時間は、t
D10で示され、D30によって測定された時間は、t
D30で示される。時間測定中のノイズまたは不確実性により、時間差(t
D10- t
D30)の分布が作られ、この分布は、
図2Bに示すようなヒストグラムとしてプロットされることがあるものである。
【0017】
校正前に、測定ヒストグラム70は、tmeasuredの中間値を有する(これは、単純平均として計算されるか、または、例えば、測定ヒストグラムへのガウス関数の最小自乗法フィッティングによって決定される場合がある)。放射源は、2つの検出器から等距離であるので、2つの検出器に対する飛行時間差は等しく、予想される時間差はゼロである。
【0018】
時間差分布の測定により、単一の式、(tD10+tOffsetD10)-(tD30+tOffsetD30)=tmeasured+tOffsetD10-tOffsetD30=0、を書くことができる。
【0019】
式中、tOffsetD10およびtOffsetD30は、それぞれ、D10およびD30のオフセット補正値である。1つの式と、2つの未知数があるのみなので、tOffsetD10およびtOffsetD30の決定を可能にするために、他の条件が、適用される必要がある。
【0020】
1つの例として、tOffsetD10=0を選び、結果として、tOffsetD30=tmeasuredとなる場合が考えられる。別の例として、(tOffsetD10+tOffsetD30)/2=0を選び、結果として、tOffsetD10=-tmeasured/2、およびtOffsetD30=tmeasured/2となる場合がある。
【0021】
これらの2つのいずれかを選択すること(または条件の他の可能な選択)により、結果として、予想された値(ゼロ)が中心である補正タイミングヒストグラム80となる。この単純な例では、2個の検出器(すなわち、N=2)を用いて、そのうちの1つは、1つの(すなわち、N-1の)独立オフセット値を決定でき、タイミング差(すなわち、TOF)を正確に測定するためにシステムを校正できる。
【0022】
検出器の数が4つに増え、かつ消滅放射線源が検出器間で、それらから等距離に置かれた場合、2つのLORが発生し、結果として、各LORに対する測定平均時間差のそれぞれに関する2つの等式になる。N=4の検出器で、全タイミング校正のために、3つの(N-1=3)独立したオフセット値が、決定される必要がある。2つの等式からの3つの未知数を決定することは、明らかに不可能である。これは、単一の固定位置での単一の有限範囲の放射源を用いるタイミング校正を行うことに関して実質的な問題であるということを意味する。
【0023】
この問題を解決するための1つの方法が、
図3に示されている。第2放射源55は、検出器D30とD40との間で、それらから等距離に置かれている(再度、等距離の選択肢は、図解を簡単にするためのものであり、必然的な選択肢ではない)。この第2放射源により、追加のLOR65を発生するので、互いに対するタイミングオフセット値に関する第3の等式を書くことができる。3つの未知数を伴う3つの等式を得ることにより、システムのタイミング応答を全て校正するために必要とされる3つの(N-1=3)独立したオフセット値を解くことを可能にする。ここで、検出器素子のそれぞれの対が、一連のLORによって対となることが可能になる(4つの検出器素子で、検出器素子の6つの可能な組み合わせが存在する)ので、すなわち、
D10は、LOR60によってD30と直接的に対になり、
D20は、LOR62によってD40と直接的に対になり、
D30は、LOR65によってD40と直接的に対になり、
D10は、LOR60と、LOR65とによって(D30を通って)D40と間接的に対になり、
D10は、LOR60と、LOR65と、LOR62とによって(D30とD40とを通って)D20と間接的に対になり、
D20は、LOR62と、LOR65とによって(D40を通って)D30と間接的に対になるので、
システムに対して必要とされるタイミング差の全てを決定することが可能である。
【0024】
この例は、3つ以上の検出器があるときに、各素子のある程度の「1対多数」対が、測定において必要とされることを意味する。この場合、追加の放射源により、検出器D30およびD40の1対多数対がもたらされる。
【0025】
図4および
図5は、検出器のグループ内の1対多数対の2つの例を示し、これは、追加の対を伴うグループ内で、必要とされる独立したオフセット値の決定を可能にするものである。例えば、
図5では、検出器の第1グループを連結するLOR67は、5つの独立したオフセット補正値の計算を可能にする。同様に、検出器の第2セットを連結するLOR69は、追加の5つの独立したオフセット値の計算を可能にし、決定されるオフセット値の総数は10となる。この総数10は、必要とされる11個の独立したオフセット値に1つ不足している。この不足は、単一の有限範囲放射源50によるLORの2つのセットの間で交差対がないために発生する。この例は、グループまたはセット内の1対多数対が、そのセット内の相対オフセット値の決定を可能にするが、セットの交差対もまた、システムのタイミング応答を全て校正するのに必要であることを意味する。検出器素子のセット間の1対多数対および交差対に対する必要条件は、後述するように従来技術において、いくつかの方法で対処された。
【0026】
完全なタイミング校正には、校正される全検出器素子の1対多数対が必要である。従来の校正方法は、概して、外部および/または内部放射源を使用する。
【0027】
外部放射源を使用するいくつかの方法を、
図6Aから6Dに示す。これらの方法の全てが、検出器素子の各セットにわたる交差対を含む、必要とされる1対多数対を実現している。例えば、セット内の検出器素子は、単一の検出器モジュールのシンチレータアレイ内の個々のシンチレータ素子である場合がある。この場合、交差対は、記載の外部放射源方法がモジュール間のギャップにわたる対、すなわち、検出器リングの反対側の2つ以上の検出器モジュール内のシンチレータと対にされるいくつかのシンチレータ素子によるLORを提供することを意味する。
【0028】
以下にて、「ファントム」とは、スキャナ校正またはスキャナ性能評価のために、スキャナの検出器視野に置かれる特別に設計された物体である。PETでは、ファントムは、通常、ポジトロン放射源(例えば、Ge-68、F-18、またはNa-22)、および、多くの場合、取り囲む材料を含み、放射されたポジトロンが、その取り囲む材料内の電子との消滅を通して、短時間内に背合わせの511keVの光子に変換されることを確実にする。ファントムは、放射線源用の単にホルダまたはマウントのようにシンプルなものである場合がある。ファントムはまた、放射された放射線を散乱するか、または、放射された放射線を部分的に吸収することを意図した材料を含む場合がある。一例として、PETでは、円筒ファントムが使用されることが多い。充填可能な円筒ファントムは、中心ボイドおよび可閉ポートを有するアクリル製の円筒物で構成される場合がある。使用中、中心ボイドは、水と混合された(F-18によって標識された)フッ化デオキシグルコース(FDG)などの放射性液体で充填される。あるいは、放射源が密封されている円筒ファントムが使用される場合がある。この場合、プラスチック円筒シェルは、Ge-68などの同位元素が加えられて、その後に硬化される硬化エポキシで充填されることがある。円筒ファントムは、放射線を放射し、円筒物の材料もまた、放射線を散乱および減衰させる。ファントムは、校正の目的で、もしくは心臓の拍動または呼吸運動などの臓器の動きをシミュレートするために、可動する部分を含む。
【0029】
図6Aは、大型の円筒ファントム51を使用する方法を示す。例えば、このファントムは、直径約20cmであり、スキャナの体軸方向視野と同じだけ長さがあり、かつGe-68を含有するエポキシで充填されている円筒物である場合がある。代表的なLOR61によって示されているように、ファントムを介した各LORは、シンチレータブロック102内の各シンチレータ素子と、いくつかの異なる検出器モジュール101内のシンチレータ素子を含む多数の他のシンチレータ素子とを対にする。
図6Aに示す方法の欠点は、ファントム自体が20kgの重さがある場合があるために扱いが難しく、また、ファントムを使用しないときに、職員および患者を保護するために、厳重な遮蔽(例えば、約150kgの鉛)が必要であることである。
【0030】
図6Bは、可動ファントム52を使用する方法を示す。この場合、ファントムは、消滅放射線のロッド状の放射源(例えば、鋼製スリーブ内のGe-68)、およびスキャナの検出器視野内で環状の軌道で動きをもたらす装置で構成されている場合がある。放射線源が回転する際、代表的なLOR61は、シンチレータブロック102内の各シンチレータ素子と、いくつかの異なる検出器モジュール101内のシンチレータ素子を含む多数の他のシンチレータ素子とを対にする。放射源の動きをもたらす装置の複雑性コストおよびメンテナンスが、この方法の欠点である。
【0031】
図6Cは、円筒形消滅ターゲット53およびポジトロンの別々の放射源(例えば、Ge-68、図には示さず)で構成されるファントムを使用する方法を示し、これは他と比べて遮蔽されておらず、その結果、ポジトロンが放射源から離れて、消滅ターゲット53内の電子と共に消滅し、背合せの511keVの消滅放射線を発生させる。例えば、消滅ターゲットは、直径約20cmであり、かつスキャナの体軸方向視野と同じだけ長さがあるプラスチック円筒シェルである場合がある。上記の方法と同様に、ファントムを介した、61で表されているLORは、シンチレータブロック102内の各シンチレータ素子と、いくつかの異なる検出器モジュール101内のシンチレータ素子を含む多数の他のシンチレータ素子とを対にする。大きなサイズの消滅ターゲットは、扱いが難しい場合があるため、この方法にとって欠点となる。大きなサイズは、使用しないときの保管にも、不便である場合がある。
【0032】
最後に、
図6Dは、1対多数対が、散乱媒体の大きなかたまりで消滅放射線の放射源を取り囲むことによって形成される方法を示す。この場合、ファントム54は、内径から外径まで約10cmの鋼製円筒物によって取り囲まれたGe-68ロッド放射源を含むことがある。この方法には、いくつかの欠点がある。まず、ファントムが、かなり重く、扱いが難しい場合がある。次に、511keVのガンマ線の減衰および散乱での低効率に起因して、1対多数対を形成するのに、放射源から放射されるガンマ線のごく少数しか実際に利用可能ではないので、データ収集は時間が長く、かつオフセットを推定する反復方法の収束には時間がかかる場合がある。さらに、散乱場所における不確実性により、精度、特に、最新式のシステムで達成可能な時間軸分解能(~200ps)が低下する。
【0033】
内部放射源を使用する従来の方法を、
図7Aから7Bに示す。
【0034】
図7Aは、代表的なLOR61によって示されるように、自己放射能を使用して、シンチレータブロック102内の各素子と、検出器リング周囲の多数の素子とを対にする方法を示す。概して、充分な精度に達するためにデータ収集の時間が必要とされる。また、Lu-176からの自己放射能が、非常に広いエネルギースペクトルを形成するので、認められるイベントのエネルギー範囲は、2つのかなり狭いウィンドウ(1つは約511keV、もう1つは約307keV)に限定され、この際、Lu-176の強い放射の1つが存在する。これらのエネルギーウィンドウの適用の結果、利用可能なカウントが極端に減少する。
【0035】
この結果を、
図16に示す。この図に示されるデータは、Lu-176を含んでいるシンチレータ結晶を使用するPETシステムで取得したものである。全Lu-176同時発生エネルギースペクトルは、900で示されている。全スペクトル900では、カウントは78,416,224であった。2つのエネルギーウィンドウを適用した後の、同時発生エネルギースペクトルは、950で示されている。スペクトル950の幅は、同時発生対の1つのイベントが、511keVウィンドウ(この場合、435から625keV)にあり、もう1つのイベントは、307keVウィンドウ(この場合、250から350keV)にあるといった同時確率が比較的低いために著しく減少している。エネルギーウィンドウスペクトル950では、カウントは、10,241,786である。このように、2つのエネルギーウィンドウの適用は、測定タイミングオフセットのウォークの結果を低減するために役に立ったが、利用可能なカウントを、全スペクトル900の約13%のカウントに減らすことにもなった。
【0036】
図7Bは、自己放射能を使用する別法を示す。この方法では、代表的なLOR61で示されているような、隣接シンチレータブロック102を連結するLORが使用される。データ収集時間が長いといった難点に加えて、LORを隣接モジュールに限定することには、別の著しい欠点がある。全てのシンチレータ素子が、隣接ブロックのシンチレータ素子にLORによって連結される必要があるが、放射される自己放射能の透過度は制限される(主に、202keVおよび307keVガンマ線であり、PETで検出される511keVガンマ線よりかなり低いエネルギーである)。したがって、方法は、概して20mm未満幅のブロックの校正に限定される。
【0037】
要約すると、従来のTOF PET技術の欠点は、概ね、2つの方法で説明される場合がある。外部放射線源を使用する方法については、ファントムが大きく、扱いが難しいか、またはファントムは複雑な機械的運動を必要とする。他方では、自己放射能を使用する方法は、概して、非常に時間がかかる。
【0038】
本明細書で提示される実施形態は、有意な利益のある新規な方法で、単一の静置「有限範囲」外部放射源と、自己放射能との組み合わせを利用する。校正方法は、タイミング校正を2つのステップに分ける。第1ステップでは、単一の静置有限範囲外部放射源を使用して、処理ユニットのグループ内の「相対タイミングオフセット」を取得する。第2ステップでは、「自己放射能」を使用して、処理ユニットのグループ間のオフセットを取得する。その場合、総オフセットは、「相対タイミングオフセット」と「処理ユニットオフセット」との合計である。
【0039】
単一の静置有限範囲の外部放射源を使用することにより、従来のTOF PET方法における外部放射源方法の主要な欠点を取り除く。さらに、処理を2つのステップに分けることにより、自己放射能処理に必要とされるデータの総量を大幅に減らすことが可能になり、それにより、従来のTOF PETにおける自己放射能方法の主要な欠点を取り除くことになる。
【0040】
自己放射能ステップに必要とされるカウントの数は、2つの理由で著しく減らされる。まず、外部放射源ステップで相対オフセットを決定することによって、自己放射能ステップで決定されるオフセットは、「処理ユニットオフセット」のみである。これは、処理ユニット内の全シンチレータ結晶からの全カウントを集約することが可能であり、それによって、収集時間が低減されることを意味する。一例として、1つの処理ユニットのシンチレータアレイが、10×10=100の結晶を有する場合、処理ユニットレベルで所望の精度を達成するのに必要とされるカウントの数は、結晶レベルで外部放射源ステップにおいて同じ精度を達成するカウントの数に比べて100分の1に減少される。加えて、外部放射源ステップによる結果を使用する自己放射能タイミングデータを事前補正することによって、自己放射能データの分布の幅は大幅に減少される。この効果は、外部放射源ステップで得られる相対オフセット補正が、ウォーク補正、および、特に非線形ウォーク補正を含む場合には、さらに大きなものになる。
【0041】
上述したオフセット値は、検出器システムの種々のコンポーネントの遅れの変動に関連する。このような変動の1つの発生源は、タイミング信号を発生するタイミング弁別器におけるエネルギーに依存するものである場合がある。
図11は、TOF PETシステムで使用されることが多い、立ち上がりの弁別器を示す。時間tは、信号レベルが閾値の値を越えるときに付与される。
図11は、同時に検出器素子と相互作用する3つの異なるエネルギーガンマ線によって発生する信号の一例を示す。3つの異なる信号は、エネルギーE
1、E
2、およびE
3(E1>E2>E3)に対応する。3つのガンマ線が同時に到達するものの、閾値の値を超える時間(それぞれ、t
1、t
2、およびt
3)は異なる。この現象は、タイミングウォークと呼ばれることが多い。
【0042】
「自己放射能」ステップの前にウォークを補正することはまた、
図16に示すような、狭いエネルギーウィンドウでのイベントに解析を限定すること(従来技術で行われていた)よりも、取得されるカウントの全てを使用することを可能にする。このことは、さらに、必要とされる収集時間も減らす。
【0043】
図8Aは、外部放射源から得た相対オフセット補正を適用する前の自己放射能タイミング分布を示し、
図8Bは、第1ステップからのタイミング補正(非線形ウォーク補正を含む)を適用した後の同じデータに関する分布を示す。この場合、タイミング分布の幅は、2倍以上減少される。処理ユニットオフセットで同じ統計的不確実性を実現するために、分布幅のこの減少の効果は、カウントの数を4倍以上増加させることとほぼ等価なものである。したがって、2つのステップに処理を分割し、かつ計算を行う前に、第2ステップでデータを事前補正することにより、提示された例では(結晶レベルの自己放射能を使用するが、初めにデータを事前補正しない場合と比べて)、自己放射能ステップで必要とされるデータの数(または収集時間)は、おおよそ100x4=400分の1に減少される。これにより、収集時間を、全ての校正のために自己放射能を使用する場合の数時間から、本明細書に記載される方法での1分程度までにし、また、大型の、または可動の外部放射源を用いずに行われた。
【0044】
タイミングオフセット校正には、校正される全ての処理ユニットが、同時発生イベントによって共に対にされることが必要である。1つの処理ユニットは、
図9および
図10の電子機器構成の任意のステージでの1つの素子である場合がある。校正される処理ユニットは、直接的に同時発生イベントによって対にされる場合がある。校正される処理ユニットはまた、間接的に同時発生イベントによって対にされる場合もある。例えば、処理ユニット1がユニット2と対にされ、ユニット2がユニット3と対にされて、ユニット1とユニット3とが間接的に対にされる。
【0045】
小さく、軽量の有限範囲外部放射源(例えば、小さいが、有限の直径線源)を、処理ユニット内の相対結晶オフセットおよびウォークを校正するために、(放射源の動き、または複数の放射源なしで)使用することができる。
【0046】
自己放射能(低活性レベルであっても)は、(相対結晶オフセットおよびウォークを補正した後に)処理ユニットオフセットを測定するのに使用することができる。相対結晶オフセットおよびウォークの事前補正は、初期のタイミング分布を狭め、結果として、特定の処理ユニットオフセット精度を実現するために必要なカウント数を減らし、自己放射能に対する収集時間を適切なものにする。さらに、例えば、511keV付近のエネルギーの狭い範囲に限定する代わりに、ウォーク補正により、自己放射能からの全てのイベントを使用することが可能になる。
【0047】
その場合、総オフセットは、相対結晶オフセットと処理ユニットオフセットとの合計である。
【0048】
利点には、大きな有限範囲の放射源、放射源の動き、または複数の放射源の必要性を低減することが含まれる。小さな有限範囲の放射源は、扱いや遮蔽が簡単であり、かつ取り換えコストが低い。さらに、処理ユニットオフセットは、自己放射能だけを使用して、定期的に再校正することが可能である。
【0049】
初期の全タイミング校正の間に、対向する処理ユニット対内のタイミングオフセットおよびタイミングウォークは、消滅放射線、例えば、ポジトロン放射線源をスキャナ中心に置くことによって校正される。この線源は、結晶の各ステージが対向する処理ユニット内の結晶の2つ以上のステージと対にされるのに、充分に厚みがある必要がある。対向する処理ユニット対内の相対タイミングオフセットおよびタイミングウォークを補正した後に、処理ユニット間のタイミングオフセットは、結晶内の自己放射能を使用して校正される。
【0050】
ここで、自己放射能は、シンチレータアレイの一部である(結晶内、結晶の表面、反射体材料内、などの)放射性材料の崩壊からもたらされる放射線である。典型的な自己放射能は、シンチレータ材料の天然に存在する同位元素からのバックグラウンド放射線である。LYSOのLu-176は、バックグラウンド放射線の一例である。自己放射能は、シンチレータ材料に意図的に添加またはドープされる場合がある。別の例としては、Co-60が、シンチレータ材料に添加することができる材料である。
【0051】
自己放射能に関する必要条件には、崩壊プロセスが、同時計数イベントが生じる場合がある少なくとも2つの(ほぼ)同時の放射(例えば、ガンマの直後のβ)を含むこと、または、崩壊プロセスが、放射によって起こる検出器内のコンプトン散乱によって同時計数イベントが生じる場合がある1つの放射を含むこと、半減期が10年を超すものであり、それによりスキャナの寿命にわたって効果のある自然活性があること、活性が、1cm3あたり100から1000Bqの範囲であること、それによりデータ収集時間が実用的であり、かつ偶発イベントの発生が多過ぎないこと、放射のエネルギーが数百keVから1MeVであること、および、候補には、Luー176およびCo-60が挙げられる、ことなどがある。
【0052】
日々の臨床使用の間、事前のタイミング校正によるタイミングオフセット補正およびタイミングウォーク補正は、処理ユニットレベルでのタイミングオフセットの再校正の前に適用される。処理ユニットごとのタイミングオフセットは、自己放射能と、消滅放射線、例えば、中心のポジトロン放射線源とを使用して、一緒に計算されるか、または処理ユニットごとのタイミングオフセットは、スキャナが使用されていない間に、自己放射能を使用して校正される場合がある。1つの処理ユニットは、
図9および
図10の電子機器構成の任意のステージでの1つの素子である場合がある。
【0053】
本明細書全体を通して、「1つの実施形態」と「一実施形態」について言及することは、その実施形態に関連して説明される特定の部位、構造、材料、または特徴が、本出願の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味するが、全ての実施形態において、それらが存在することを意味するものではない。
【0054】
したがって、本明細書全体を通して様々な場面で表現される「1つの実施形態では」または「一実施形態では」という語句は、必ずしも本出願の同一の実施形態を指しているというわけではない。さらに、特定の部位、構造、材料、または特徴は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせられてもよい。
【0055】
本発明の実施形態におけるPETスキャナは、異なる電子機器構成を有する場合がある。非限定的な例示的配置は、
図9および
図10に示される。
【0056】
この際、PETスキャナ、すなわち全体のスキャナは、通常、リング状の形態である。
【0057】
領域は、高度なデータ処理、データ転送、クロック制御、信号処理などで構成される四分区間などのスキャナの比較的大きな部分である。スキャナは、いくつかの領域を有していてもよい。クロック分布に基づくタイミングオフセット/ドリフトは、領域ベースである場合がある。
【0058】
検出器ユニット(Detector Unit:DU)は、相対的に独立しているモジュールであり、データ転送、クロック制御、信号処理などで構成される。一領域は、10から20個のDUを有していていもよい。クロック分布に基づくタイミングオフセット/ドリフトは、DUベースである場合がある。
【0059】
ボードは、電子機器ボードであり、いくつかのチャンネル向けの信号処理回路で構成される。DUは、5から20個のボードを有していていもよい。電源装置に基づくタイミングオフセット/ドリフトは、ボードベースである場合がある。
【0060】
ASICは、最小の信号処理ユニットであり、通常、1つのタイミング処理チャンネル、およびいくつかのエネルギー処理チャンネルで構成される。ボードは、1から10個の特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)を有していてもよい。タイミングオフセット/ドリフトは、ASICベースである場合がある。
【0061】
結晶は、スキャナ内の最小の素子である。ASICは、数十個の結晶に対して信号処理を行ってもよい。
【0062】
これまで述べたように、実施形態において、検出器300は複数の処理ユニットから構成され、実施形態に係る回路(処理回路)は、放射線源を介して取得されたデータに基づいて、処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを補正し、続いて自己放射能を使用して、処理ユニットのセット間のタイミングオフセットを校正する。続いて、実施形態に係る回路は、処理ユニットのセット内の補正された相対タイミングオフセットと、処理ユニットのセット間の校正されたタイミングオフセットとの合計として、総タイミングオフセットを決定することにより、検出器300の校正を行う。
【0063】
ここで、かかる「処理ユニット」としては、様々な実施形態が考えられる。一例として、
図9に示されているように、処理ユニットは、それぞれが複数の電子機器ボードを有する検出器であってもよい。すなわち、実施形態に係る回路は、はじめに放射線源を用いて検出器のセット内の相対タイミングオフセットを補正し、続いて自己放射能を使用して、検出器のセット間のタイミングオフセットを校正してもよい。また、別の例として、
図10に示されているように、処理ユニットのセットは、上述の一つの領域(例えば、高度なデータ処理、データ転送、クロック制御、信号処理などで構成される四分区間などのスキャナの比較的大きな部分)に含まれる複数の検出器ユニットであってもよい。かかる場合、実施形態に係る回路は、はじめに放射線源を用いて一つの領域内の相対タイミングオフセットを補正し、続いて自己放射能を使用して、領域間のタイミングオフセットを校正してもよい。また、別の例として、実施例に係る処理ユニットとしては、それぞれが複数のASICを有する電子機器ボードであってもよい。また、別の例として、実施例に係る処理ユニットのセットは、一つの検出器ユニットであってもよい。すなわち、処理ユニットのセットは、検出器ユニット単位であってもよい。
【0064】
タイミング校正は、通常、異なるステージで行われる。電子機器構成の各ステージでの素子の数は、ほぼ1桁、拡大・縮小される。同じ統計的不確実性に対して、各ステージでのタイミングオフセットを校正するための収集時間および解析時間は大幅に変化する。例えば、DUは、500から1000個の結晶を含む場合があるので、DUオフセットの校正に必要な収集時間は、結晶オフセットを校正するよりも、おおよそ√(500から1000)または20から30倍短い(これは、計算時間を無視したものである)。
【0065】
しかし、タイミング校正は、一定のステージでのみ行われる必要がある場合がある。初期のタイミング校正の後に、タイミングドリフトは、タイミングドリフトの原因によって一定のステージで発生する。したがって、メンテナンスタイミング校正は、タイミングドリフトが起こるステージでのみ行われる必要があるので、非常に急速に行われる場合がある。
【0066】
タイミングウォークは、オフセット補正にエネルギー依存的な条件を含むことによって補正され得る。タイミングウォークの補正により、より良好な時間分解能(すなわち、測定タイミング差がより狭い分布)が得られる。通常、PETでは、イメージングは、511keV周辺の狭いウィンドウで検出されるガンマ線のみを使用して行われる。狭いエネルギーウィンドウでのイベントのみが使用される場合、線形ウォーク補正(すなわち、線形でエネルギーに依存するウォーク補正)は、通常、充分である。例えば、線形ウォーク補正を含むオフセットは、toffset=toffset(E=511)+W1(E-511)で書き出すことができる。式中、W1は、線形ウォーク補正係数である。ウォーク補正は、toffset=toffset(E=511)+W1(E-511)+W2(E-511)2+…+Wn(E-511)nなどの、非線形条件を含むように、拡張することができる。式中、W1からWnは、ウォーク補正係数である。
【0067】
ここで、本明細書で提示される方法は、(総収集時間を実用的な範囲に減らすために)校正の「自己放射能」部分で非常に大幅なエネルギー範囲にわたるイベントを使用するので、非線形ウォーク補正により、性能が実質的に改良される。ウォーク補正に使用される任意の関数は、テイラー級数展開によって表すことができるので、これは、fを関数として、toffset=f(E)とするのと同等であるが、fの関数形は非線形となり得る。
【0068】
初期の全タイミング校正の間に、結晶ごとのタイミングオフセットおよび結晶ごとのタイミングウォークが校正される。この線源は、結晶の各ステージが対向するDU内の結晶の2つ以上のステージと対にされるのに充分に厚みがある必要がある。ポジトロン放射線源および自己放射能を用いるデータは、別々に、または同時に取得される場合がある。
【0069】
一実施形態では、ポジトロン放射線源および自己放射能を用いるデータは、別々に取得される場合がある。ポジトロン放射源は、Ge-68線源、F18-FDG線源、またはNa-22線源のうち、少なくとも1つであってもよい。
【0070】
特に、ポジトロン放射線源を用いるデータ収集の間に、開示の方法は、ポジトロン放射線源をスキャナ検出器視野(Field Of View:FOV)の中心に置き、ポジトロン放射線源を用いる同時計数データを取得する。標準的な臨床データ収集FOVおよび同時計数タイミングウィンドウが使用される場合がある。ポジトロン放射線源を用いる同時計数イベントの数は、結晶のそれぞれに対するTOF差ヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要がある。
【0071】
自己放射能を用いるデータ収集の間に、開示の方法は、スキャナからの全ての放射線源を取り除き、自己放射能を用いて同時計数データを取得する。標準的な臨床データ収集FOVが、使用される場合がある。同時計数タイミングウィンドウは、ガンマ粒子などの放射粒子のスキャナ全体での移動に対処するのに充分に大きいものである必要がある。自己放射能を用いる同時計数イベントの数は、DUのそれぞれに関するTOF差ヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要がある。
【0072】
さらに別の実施形態では、ポジトロン放射線源および自己放射能を用いるデータは、同時に取得される場合がある。
【0073】
特に、開示の方法は、ポジトロン放射線源および自己放射能を用いて同時計数データを取得する。標準的な臨床データ収集FOVが使用される場合がある。同時計数タイミングウィンドウは、放射粒子のスキャナ全体での移動に対処するのに充分に大きいものである必要がある。ポジトロン放射線源を用いる同時計数イベントの数は、結晶のそれぞれに対するTOF差ヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要があり、自己放射能を用いる同時計数イベントの数は、DUのそれぞれに対するTOF差ヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要がある。
【0074】
データ解析の間、ポジトロン放射線源イベントと自己放射能イベントとを用いるデータが同時に取得される場合、それらは、TOF差によって切り離される場合がある。自己放射能イベントが広い有効範囲を有するのと同時に、線源イベントは狭いFOVに集中するときに、FOVを使用して線源イベントと自己放射能イベントとを切り離すこともできる。
【0075】
データ解析の間、タイミング補正は、対向するDU対内の結晶ごとの非エネルギー依存相対タイミングオフセット、結晶ごとのタイミングウォーク補正係数、DU間の非エネルギー依存タイミングオフセットの3つの異なる要素に分割される。対向するDU対内の結晶ごとの非エネルギー依存相対タイミングオフセット、および結晶ごとのタイミングウォーク補正係数は、ポジトロン放射線源データから計算されるが、DU間の非エネルギー依存タイミングオフセットは、自己放射能データから計算される。下記の説明において、対向するDU対内の相対タイミングオフセット、およびDU間のタイミングオフセットは、非エネルギー依存条件を意味する。
【0076】
対向するDU対内のタイミング校正に関して、方法は、N個のDUを備えるPETスキャナ向けに、ポジトロン放射線源を用いる同時計数データをN/2DU対に分割する。対向するDU対内の相対タイミングオフセット、およびタイミングウォーク補正係数は、異なるDU対向けに、同時に校正される場合がある。線源が完全に中心でない場合、消滅位置補正は、全てのイベントのTOF差に適用される。対向するDU対内の結晶ごとの相対タイミングオフセットは、i)各結晶に対するタイミングヒストグラムのピーク位置を見いだすことによってタイミングオフセットを計算する、ii)上記で校正した結晶ごとのタイミングオフセットに対するTOF差を補正する、続いて、ステップi)とステップii)を、シーケンスが収束するまで繰り返す、iii)DU対内の結晶ごとの最後のタイミングオフセットは、全ての繰り返しで校正された結晶ごとのタイミングオフセットの合計であることによって、繰り返し計算することができる。
【0077】
対向するDU対内の結晶ごとの相対タイミングオフセットの補正の後に、i)各特定の結晶のタイミング対エネルギー曲線をプロットし、この特定の結晶と、反対側の任意の結晶とを連結するLORを考慮にいれ、ii)その結晶のタイミング-エネルギー曲線に、適切なフィッティング(例えば、線形フィッティングまたは指数関数的フィッティング)を適用することによって、結晶ごとのウォーク補正係数を計算して、結晶ごとのタイミングウォーク補正係数を計算することができる。
【0078】
DU間のタイミングオフセット校正に関して、方法は、DU対内のタイミングオフセット補正およびタイミングウォーク補正を、放射線同時計数データに適用する。TOF差に対するイベント位置補正は、DU対のTOF差ヒストグラムが対称であるため必須ではない。しかし、イベント位置補正は、より狭いタイミングヒストグラムを実現するために、全てのイベントのTOF差に適用することができる。DUごとのタイミングオフセットは、i) DUに対する、タイミングヒストグラムのピーク位置を見いだすことによって、タイミングオフセットを計算する、ii)上記で校正したDUごとのタイミングオフセットに対するTOF差を補正する、続いて、ステップi)とステップii)を、シーケンスが収束するまで繰り返す、iii)DUごとの最後のタイミングオフセットは、全ての繰り返しで校正されたDUごとのタイミングオフセットの合計であることによって、繰り返し計算することができる。
【0079】
別の実施形態では、DUごとのタイミングオフセットは、解析的に計算される場合がある。特に、データ収集FOVによってカバーされる各DU対に対するTOF差ヒストグラムが計算される。各DU対に対するタイミング中心は、TOF差ヒストグラムのピーク位置を見いだすことによって計算される。等式のセットが、DU対ごとにタイミング中心から形成される場合がある。変数は、DUごとのタイミングオフセットである。等式の係数マトリックスのランクは、DUの数に等しいものである必要がある。DUごとのタイミングオフセットは、上記の等式を解くことによって計算することができる。DUごとのタイミングオフセットは、DU対ごとのタイミング中心から、ニュートラルネットワークを使用して計算することができる。
【0080】
さらに別の実施形態では、DUごとのタイミングオフセットは、ニューラルネットワークを使用して計算することができる。特に、ニューラルネットワークへの入力は、(例えば)各列が単一のDUに対するタイミングヒストグラムに相当する配列である場合がある。出力は、各DUに対するオフセットである。ニューラルネットワークは、任意の従来のタイミングオフセット校正方法を使用して生成されるターゲットオフセットデータを使用して訓練することができる。訓練は、多数のシステムからのデータを必要とする。少数のシステムしか構築されていない状態でネットワークが訓練されなければならないときには、データ強化(後述する)を使用して、大量の追加の訓練データセットを生成してもよい。
【0081】
特に、データ強化は、(例えば、3から4つの)任意の既存のシステムからデータを取得し、従来のタイミングオフセット校正を使用して各システムを校正し、校正を使用して、各DU対に対する補正されたタイミングヒストグラムを生成し、多数のシステムの実現(数百または数千)のために、各DUに対するランダムタイミングオフセットを生成し、かつ、そのランダムタイミングオフセットを、補正されたタイミングヒストグラムに適用して、それぞれのシステムの実現におけるDUに対する強化データセットを構築する。これらの強化データセットに関するターゲットオフセットは、各DUに対して生成されたランダムタイミングオフセット由来の既知のものである。
【0082】
ニューラルネットワーク設計は、(必要とされるパラメータの数を減らすために)畳み込みニューラルネットワークである場合がある。この場合、畳み込み層は、単一のDUからのヒストグラム(例えば、上述のように各列が、単一のDUからのヒストグラムに相当する場合、入力マトリックスの列)でのみ機能する一次元のものである。
【0083】
開示の方法により、自己放射能を用いる短時間タイミング校正を行うことができる。
【0084】
特に、処理ユニットごとのタイミングオフセットが計算される。本明細書では、処理ユニットはDUであるか、DU内の電子機器処理ユニットである場合がある。自己放射能を用いるデータ収集は、スキャナからの全ての放射線源を取り除き、自己放射能を用いる同時計数データを取得する。標準的な臨床データ収集FOVが、使用される場合がある。同時計数タイミングウィンドウは、放射粒子のスキャナ全体での移動に対処するのに充分に大きいものである必要がある。自己放射能を用いる同時計数イベントの数は、処理ユニットのそれぞれに対するTOFヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要がある。
【0085】
データ解析では、初期のタイミング校正からのタイミングオフセット補正およびタイミングウォーク補正は、短時間タイミング校正を行う前に適用される。短時間タイミング校正で処理ユニットごとにタイミングオフセットを校正するデータ解析手順は、初期の全タイミング校正でDUごとにタイミングオフセットを校正するデータ解析手順と同じである。
【0086】
別の実施形態では、開示の方法により、自己放射能およびポジトロン放射線源を用いる短時間タイミング校正を行うことができる。DUよりも小さい処理ユニットに対するタイミングオフセットが校正を必要とする場合、短時間タイミング校正を初期のタイミング校正と同様に計算することができる。
【0087】
データ収集は、ポジトロン放射線源を用いる同時計数イベントの数が処理ユニットのそれぞれに対するTOF差ヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要があり、かつ、自己放射能を用いる同時計数イベントの数は、処理ユニットのそれぞれに対するTOFヒストグラムからのピーク位置を校正するのに充分な数である必要があることを除いて、初期のタイミング校正と同じである。
【0088】
データ解析は、初期のタイミング校正と類似のものである。
【0089】
初期のタイミング校正からのタイミングオフセット補正およびタイミングウォーク補正は、短時間タイミング校正を行う前に適用される。対向するDU対内の処理ユニットごとのタイミングオフセットは、初期の全タイミング校正と同様に、中心データでポジトロン放射線源を使用して計算される。DU間のタイミングオフセットは、初期の全タイミング校正と同様に自己放射能を使用して校正される。
【0090】
図12Aおよび
図12Bは、DU間のタイミングオフセットを計算する場合の、ルテチウムバックグラウンド放射線データからのDU対のTOF差ヒストグラムの例を示す。TOF差は、(第1ヒットのタイムスタンプ-第2ヒットのタイムスタンプ)として計算される。
【0091】
DU対のTOF差ヒストグラムのタイミング中心は、全曲線へのガウスフィッティング、またはピーク領域へのパラボラフィッティングによって見いだすことが可能である。DU対のTOF差ヒストグラムのタイミング中心は、ニュートラルネットワーク(Neutral Network:NN)を使用して見いだすことも可能である。
【0092】
DUごとのタイミングオフセットを決定するための等式として、以下の式が成り立つ。
【0093】
【0094】
ここで、Tdiffdistanceは、TOF差に対するイベント位置補正であり、DU14とDU33とのタイミングオフセット差を計算するときには打消しあう。
【0095】
図13は、DU間のタイミングオフセットを計算する場合の、ルテチウムバックグラウンド放射線データからのDU対のTOF差ヒストグラム計算の別の方式を示す。TOF差は、(DU14のタイムスタンプ-DU33のタイムスタンプ)として計算される。DU対のTOF差ヒストグラムのタイミング中心は、全曲線へのガウスフィッティング、またはピーク領域へのパラボラフィッティングによって見いだすことが可能である。DU対のTOF差ヒストグラムのタイミング中心は、ニュートラルネットワーク(NN)を使用して見いだすことも可能である。
【0096】
DUごとのタイミングオフセットの等式として、以下の式が成り立つ。
【0097】
【0098】
図14は、同時に取得された、ルテチウムバックグラウンド放射線データ、およびGe線源データからのDU対のTOF差ヒストグラムの例を示す。TOF差は、(DU14のタイムスタンプ-DU33のタイムスタンプ)として計算される。ポジトロン放射線源データとルテチウム自己放射能データとは、飛行時間差(TOF)の差によって切り離される場合がある。
【0099】
DU対間のタイミングオフセットは、短時間タイミング校正後に大幅に減少する。例えば、
図15Aは、短時間タイミング校正の前のDU対間のタイミングオフセットを示し、
図15Bは、短時間タイミング校正の後のDU対間のタイミングオフセットを示す。本明細書で論じる一実施形態によれば、TOF PETスキャナ向けのタイミング校正の、正確、簡便、かつ迅速な方法が提供される。
【0100】
TOF PETスキャナ向けに、再構成画像の統計ノイズを効果的に低減して、画像の質を向上させるために、本明細書で論じる種々の実施形態は、良好な時間分解能を提供し、かつ日々の臨床使用の間の正確なタイミング補正を維持するために使用されて、TOF PETスキャナのアーチファクトの数を低減させた画像を実現することが可能である。
【0101】
一実施形態によれば、タイミングオフセット校正は、同時発生イベントによって校正される全ての処理ユニットをまとめて対にすることによって行われる。
【0102】
別の実施形態によれば、タイミングオフセット校正は、充分な数のグループ間の同時発生ガンマ光子が結晶の全てに対する充分なタイミングオフセット校正をもたらすまで、同時発生ガンマ光子による重なり合う結晶のグループをまとめて対にすることによって行われる。
【0103】
一実施形態によれば、初期の全タイミング校正の間、(1)DU対または各DU内のタイミングオフセットおよびタイミングウォークは、スキャナFOVに有限範囲ポジトロン放射源を配置することによって校正され、かつ(2)DU対または各DU内のタイミングオフセットおよびタイミングウォークの補正後に、DU対または各DU間のタイミングオフセットは、自己放射能(例えば、ルテチウム)を使用して校正される。
【0104】
一実施形態によれば、ステップ(1)において、有限範囲放射源は、好ましくは、結晶が他のDU内の多数の結晶と対にされるのに充分に厚みがあるものである。
【0105】
別の実施形態によれば、日々の臨床使用の間に、(1)初期のタイミング校正からのタイミングオフセット補正およびタイミングウォーク補正は、日々の臨床使用の間にタイミング校正を行う前に適用され、(2)処理ユニットごとのタイミングオフセットは、自己放射能(例えば、ルテチウム)と、スキャナFOV内の有限範囲ポジトロン放射源とを一緒に使用して計算され、および/または(3)処理ユニットごとのタイミングオフセットは、スキャナが使用されていない間に、自己放射能(例えば、ルテチウム)を使用して校正される。
【0106】
2つの異なる実装形態に従って、(1)有限範囲ポジトロン放射源および自己放射能(例えば、ルテチウム)を用いたデータが、別々に取得され、(2)有限範囲ポジトロン放射源および自己放射能(例えば、ルテチウム)を用いたデータが、同時に取得される。
【0107】
有利には、少なくとも本明細書に開示される実施形態を使用すると、(1)初期の全タイミング校正の間に、放射線源を移動させたり、大型の有限範囲放射線源を使用したりする必要がなく、(2)短時間タイミング校正を、日々の臨床使用の間に外部放射線源を用いることなく実行することができ、(3)簡略化された方法は、位置依存タイミング補正を必要とすることなく行われ、(4)校正は、同時処理および簡便な方法のため、比較的速く行われる。
【0108】
本明細書に記載される方法およびシステムは、いくつかの技術において実行可能であるが、概して、本明細書に記載される校正を行うために処理回路に適応できる。一実施形態では、処理回路は、単独で、または特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、汎用の論理アレイ(Generic Array of Logic:GAL)、プログラマブル論理アレイ(Programmable Array of Logic :PAL)、(例えば、ヒューズを使用する)論理ゲートの1回限りのプログラムを可能にする回路、または再プログラマブル論理ゲートの組み合わせで、実装される。
【0109】
さらに、処理回路は、コンピュータプロセッサを含み、埋め込みおよび/または外部不揮発性コンピュータ可読メモリ(例えば、RAM、SRAM、FRAM(登録商標)、PROM、EPROMおよび/またはEEPROM)を有し、コンピュータプロセッサを制御して本明細書に記載される処理を行うためのコンピュータ命令(バイナリ実行可能命令および/または解釈されたコンピュータ命令)を記憶する。コンピュータプロセッサ回路は、各々がシングルスレッドまたはマルチプルスレッドをサポートし、かつ各々がシングルコアまたはマルチコアを有する単一のプロセッサまたはマルチプロセッサを実装する場合がある。
【0110】
ニューラルネットワークが使用される一実施形態では、人工ニューラルネットワークを訓練するのに使用される処理回路は、本明細書に記載される校正を行う訓練された人工ニューラルネットワークを実装するのに使用される処理回路と同じである必要はない。例えば、処理回路およびメモリが、訓練された人工ニューラルネットワーク(例えば、相互接続および重みによって定義された)を作成するのに使用され、FPGAが、訓練された人工ニューラルネットワークを実装するのに使用されてもよい。さらに、訓練された人工ニューラルネットワークの訓練および使用には、性能を向上させるために、シリアル実装形態またはパラレル実装形態(例えば、グラフィックプロセッサアーキテクチャなどのパラレルプロセッサアーキテクチャに訓練されたニューラルネットワークを実装することによって)を使用してもよい。
【0111】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、精度のよい校正を行うことができる。
【0112】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0113】
以上の実施形態に関し、発明の一側面および選択的な特徴として以下の付記を開示する。
【0114】
(付記1)
本発明の一つの側面において提供されるPET装置は、検出器と、回路とを備える。検出器は、検出器視野(FOV)内に配置された放射線源から放出されたポジトロンの消滅によって生じる同時発生事象対を検出し、複数の処理ユニットからなる。回路は、前記放射線源を介して取得されたデータに基づいて、前記処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを補正し、自己放射能を使用して、前記処理ユニットのセット間のタイミングオフセットを校正し、前記処理ユニットのセット内の前記補正された相対タイミングオフセットと、前記処理ユニットのセット間の前記校正されたタイミングオフセットとに基づいて、前記検出器の校正を行う。
【0115】
(付記2)
前記回路は、前記相対タイミングオフセットと、前記校正されたタイミングオフセットの合計として、総タイミングオフセットを決定することにより、前記検出器の校正を行ってもよい。
【0116】
(付記3)
前記回路は、前記放射線源を介して取得されたデータに基づいて、更に前記処理ユニットのセット内のタイミングウォークを補正してもよい。
【0117】
(付記4)
前記タイミングウォークは、非線形タイミングウォークであってもよい。
【0118】
(付記5)
前記自己放射能は、前記PETスキャナのシンチレータアレイの一部である放射性材料の崩壊によって生じる放射線であってもよい。
【0119】
(付記6)
前記自己放射能の崩壊過程は、同時計数事象が前記崩壊過程によって生じる、少なくとも2つのほぼ同時に起こる放射を含んでもよい。
【0120】
(付記7)
前記自己放射能は、前記PETスキャナのシンチレータアレイの一部である放射性材料の崩壊によって生じる放射線であってもよく、
前記自己放射能の崩壊過程は、同時計数事象が放射によって起こる検出器内のコンプトン散乱によって生じる場合がある放射を含んでもよい。
【0121】
(付記8)
前記自己放射能は、シンチレータ、適所に反射体を保持している接着剤、前記反射体自体、または検出器ハウジングのうち少なくとも1つから放出されるものであってもよい。
【0122】
(付記9)
前記自己放射能は、Lu-176、またはCo-60であってもよい。
【0123】
(付記10)
前記放射線源は、前記検出器視野内の有限範囲消滅放射線源であり、前記有限範囲消滅放射線源は、前記スキャナ内の各結晶が処理ユニットの少なくとも1つの他のセット内の多数の結晶と対になるような範囲の有限範囲放射源を含んでもよい。
【0124】
(付記11)
前記放射線源は、前記検出器視野内の有限範囲消滅放射線源であり、
前記有限範囲消滅放射線源は、最も狭い断面範囲が10mm未満であってもよい。
【0125】
(付記12)
前記有限範囲消滅放射線源は、線源であってもよい。
【0126】
(付記13)
前記有限範囲消滅放射線源は、ポジトロン放射源であってもよい。
【0127】
(付記14)
前記回路は、処理ユニットごとの前記タイミングオフセットを、ニューラルネットワークを使用して計算してもよい。
【0128】
(付記15)
前記有限範囲消滅放射線源は、Ge-68線源、F18-FDG線源、またはNa-22線源のうち、少なくとも1つであってもよい。
【0129】
(付記16)
前記処理ユニットのセットは、処理ユニットの対であってもよい。
【0130】
(付記17)
前記処理ユニットのセットは、前記放射線源を介した同時計数によって対にされる、同時発生処理ユニットの対、および処理ユニットのセットのうち少なくとも1つであってもよい。
【0131】
(付記18)
前記回路は、前記自己放射能及び前記放射線源から、データの一部を別々に取得してもよい。
【0132】
(付記19)
前記回路は、前記自己放射能および前記放射線源から、データの一部を同時に取得してもよい。
【0133】
(付記20)
前記処理ユニットは、それぞれが複数の電子機器ボードを有する検出器ユニットであってもよい。
【0134】
(付記21)
前記処理ユニットのセットは、一つの領域に含まれる複数の検出器ユニットであってもよい。
【0135】
(付記22)
前記処理ユニットのセットは、一つの検出器ユニットであってもよい。
【0136】
(付記23)
前記処理ユニットは、それぞれが複数のASICを有する電子機器ボードであってもよい。
【0137】
(付記24)
本発明の一つの側面において提供される校正方法は飛行時間差(Time Of Flight:TOF)ポジトロン放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)においてタイミング校正を行う方法であって、PETスキャナのFOV内に放射線源を配置することにより、処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを取得し、前記処理ユニットのセット内の相対タイミングオフセットを補正し、自己放射能を使用して、前記処理ユニットのセット間のタイミングオフセットを校正し、前記処理ユニットのセット内の前記補正された相対タイミングオフセットと、前記処理ユニットのセット間の前記校正されたタイミングオフセットとに基づいて、検出器の校正を行う。
【符号の説明】
【0138】
300 検出器リング
101 検出器
102 シンチレータブロック
103 光子センサ