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  • 特許-抗PD-L1ワクチン組成物 図1
  • 特許-抗PD-L1ワクチン組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】抗PD-L1ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/46 20060101AFI20240925BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240925BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240925BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240925BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240925BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240925BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240925BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240925BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C07K14/46 ZNA
C07K16/28
A61K39/00 H
A61K39/395 N
A61P37/04
A61P35/00
A61P31/00
C12N15/115 Z
C12N15/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020570637
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2019055463
(87)【国際公開番号】W WO2019170686
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】1851895
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520341393
【氏名又は名称】ペプティノ ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】ルシール デサレ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ピエール サール
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フランソワ ザグリ
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526374(JP,A)
【文献】特表2017-523796(JP,A)
【文献】国際公開第2016/160792(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/172518(WO,A1)
【文献】特表2017-503503(JP,A)
【文献】特表2004-520817(JP,A)
【文献】国際公開第2017/211886(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/184590(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00- 19/00
A61K 38/00- 45/08
A61K 48/00- 51/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも12個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第1の配列または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基85~101に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも12個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第2の配列または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基111~127に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも12個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第3の配列または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基138~156に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも12個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第4の配列または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基208~223に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも12個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第5の配列
のいずれか1つを含むか、これらの配列からなるポリペプチドであって、PD-L1タンパク質とは異なっていて、PD-L1タンパク質の連続した30個を超えるアミノ酸残基の部分で構成されることはなく
ここで当該ポリペプチドが環状形態である、
ポリペプチド。
【請求項2】
前記第1の配列、前記第2の配列、前記第3の配列、前記第4の配列、前記第5の配列が、それぞれ、最大でPD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67、85~101、111~127、138~156、208~223で構成されている、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
PD-L1タンパク質の選択が、ヒトPD-L1タンパク質、マウスPD-L1タンパク質、サルPD-L1タンパク質、ウマPD-L1タンパク質、ウシPD-L1タンパク質、ブタPD-L1タンパク質、ヒツジPD-L1タンパク質、ヤギPD-L1タンパク質、ラクダPD-L1タンパク質、ヒトコブラクダPD-L1タンパク質、イヌPD-L1タンパク質、ネコPD-L1タンパク質からなるグループからなされる、請求項1又は2のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項4】
PD-L1タンパク質がヒトPD-L1タンパク質である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
- 前記第1の配列が、配列ID番号1、51、52、53のいずれかで構成され、
- 前記第2の配列が、配列ID番号2、54、55のいずれかで構成され、
- 前記第3の配列が、配列ID番号3、56、57、58、59で構成され、
- 前記第4の配列が、配列ID番号4または60で構成され、
- 前記第5の配列が、配列ID番5、61、62のいずれかで構成される、
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
担体分子に結合している、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリペプチド、またはその相補体をコードする核酸。
【請求項8】
活性物質として
- 請求項1~6のいずれか1項に記載の少なくとも1つのポリペプチド
を含む医薬組成物。
【請求項9】
抗体、または抗体の断片、またはアプタマーを調製するための、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリペプチドの利用。
【請求項10】
対象においてPD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発する方法で利用するための、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
対象においてPD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患を予防または治療する方法で利用するための、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは請求項8に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患が、がんまたは感染性疾患である、請求項11に従って利用するためのポリペプチドまたは医薬組成物
【請求項13】
前記PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患の選択が、
-切除できない転移性黒色腫、転移性進行非小細胞肺がん(NSCLC)、転移性進行NSCLC、プラチンに基づく化学療法と同時に進行中、またはその化学療法の後に進行中の転移性進行NSCLC、進行腎臓がん、転移性の進行腎臓がん、局所的に進行中であるか転移性の尿路上皮がん、プラチン誘導体に基づく化学療法に反応しない局所的に進行中であるか転移性の尿路上皮がん、前立腺がん、乳がん、大腸がん、またはPD-1-PD-L1軸によって抗腫瘍免疫応答が抑制されている他のあらゆるがんと、
- 細菌感染症と、
- 肺炎、髄膜炎、毒素性ショック症候群、食中毒、胃炎、潰瘍、淋病、おでき、膿瘍、とびひ、中耳炎、扁桃腺炎、尿路と生殖管の感染症、肺気管支感染症と、
- ウイルス感染症と、
- インフルエンザ、麻疹、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(VIH)による感染症、ヘルペス型ウイルス(例えばサイトメガロウイルス、エプスタイン-バーウイルス、ヘルペスウイルス)による感染症、ヒトパピローマウイルス(VPH)による感染症と、
- 真菌感染症と、
- ブラストミセス症、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、パラコクシジオイデス症、カンジダ症、クリプトコッカス症、アスペルギルス症、ムーコル症、ニューモシスチス症、
からなるグループからなされる、請求項11または12に従って利用するためのポリペプチドまたは医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD-L1タンパク質に対する免疫応答の誘発に有用なポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、がん抗原に対する自然免疫応答の強さが患者のよりよい予後と相関していること、そしてそれが多くのタイプの腫瘍に当てはまることが確立されている。さまざまな臨床所見が多数の実験的証拠に支持されていることから、がんの免疫監視という考え方を定義することができる。この考え方によれば、出現する腫瘍は一般に免疫系によって排除されるが、がん細胞が進化して免疫による検出を逃れる場合は別である。
【0003】
抗がん免疫療法は、免疫監視という考え方の直接的な応用であり、過去10年間に発展を遂げて目覚ましい成功を見ることで、以前は予後の悪さと関係していた広い範囲の悪性腫瘍の臨床での対処法が変革された。
【0004】
免疫療法の発展の最前線に位置するのが、免疫応答のチェックポイント阻害剤(ICB)であるモノクローナル抗体であり、多くのタイプの腫瘍に対する大きな活性と、応答の持続性と、化学療法抵抗性の転移性腫瘍における治療能力のおかげで、腫瘍学において大きな成功が見られている。
【0005】
チェックポイントを阻止する戦略の中で、(現時点での臨床における成功に関する)2つの最も重要な戦略は、特異的モノクローナル抗体により、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)を標的とすることと、プログラムされた細胞死タンパク質(PD-1)とこのプログラムされた細胞死タンパク質のリガンド(PD-L1)の間の相互作用を標的とすることである。特にPD-L1シグナル伝達の抑制が、T細胞の免疫を改善する1つの手段として、がんを治療する(抗腫瘍免疫)ためだけでなく、感染症(急性と慢性の持続性感染症)の治療のためにも提案された。
【0006】
現在までに、PD-1/PD-L1軸を標的とする特に下記の4つのICBが、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されている(概説に関しては例えばAbdin他(2018年)Cancers 第10巻、32ページを参照されたい):
(1)ペムブロリズマブ(切除できない転移性黒色腫または転移性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)に冒されていて、腫瘍がPD-L1を発現している人に対して承認された抗PD-1モノクローナル抗体(mAb));
(2)ニボルマブ(切除できない黒色腫または転移性黒色腫と、プラチンに基づく化学療法と同時に進行中、またはその化学療法の後に進行中の転移性進行NSCLCと、進行腎臓がんで特に転移性のものに対して承認された抗PD-1モノクローナル抗体(mAb));
(3)アテゾリズマブ(局所的に進行中であるか転移性で、プラチン誘導体に基づく化学療法に反応しない尿路上皮がんの治療に関して最近承認された抗PD-1モノクローナル抗体(mAb));
(4)アベルマブ(転移性メルケル細胞がんの治療に関して最近承認された抗PD-1モノクローナル抗体(mAb))。
【0007】
それに加え、いくつかの徴候においてすでに承認されているこれらICBは、他の形態のがんの治療の枠組みでも有用であることが将来認識される可能性がある。
【0008】
さらに、PD-L1を標的とするICBは、黒色腫、NSCLC、腎臓がんにおいて非常に有効であることが明らかにされている。
【0009】
しかしPD-1/PD-L1軸を標的とするICBとして市販または開発された製品はすべてモノクローナル抗体であるため、モノクローナル抗体による他の治療法と同じ制約がある。すなわち、高コスト、頻繁な再投与の必要性、投与したモノクローナル抗体に対する免疫反応の展開である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の1つの目的は、これらの欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ヒトPD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67、85~101、111~127、138~156、208~223に広がる配列から導出された複数のポリペプチドにより、これらポリペプチドを投与されたマウスがPD-L1タンパク質を中和する抗体を産生できたという発明者たちの予期せぬ発見から生まれた。
【0012】
したがって本発明は、
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも8個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第1の配列、またはこの第1の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列;および/または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基85~101に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも8個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第2の配列、またはこの第2の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列;および/または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基111~127に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも8個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第3の配列、またはこの第3の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列;および/または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基138~156に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも8個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第4の配列、またはこの第4の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列;および/または
- PD-L1タンパク質のアミノ酸残基208~223に広がる配列の中から選択された連続した少なくとも8個のアミノ酸残基、かつPD-L1タンパク質の配列全体の中から選択された最大で連続した30個のアミノ酸残基で構成される第5の配列、またはこの第5の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列
を含むか、これらの配列からなるポリペプチドであって、PD-L1タンパク質とは異なっていて、PD-L1タンパク質の連続した30個を超えるアミノ酸残基の部分で構成されることはなく、
第1の配列のバリアント配列、第2の配列のバリアント配列、第3の配列のバリアント配列、第4の配列のバリアント配列、第5の配列のバリアント配列のそれぞれからなる複数のポリペプチドにより、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発することが可能になるポリペプチドに関する。
【0013】
好ましい一実施態様では、本発明は、さらに特定すると、
- 配列ID番号1、51、52、53のいずれかで構成された第1の配列、またはこの第1の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列、および/または
- 配列ID番号2、54、55のいずれかで構成された第2の配列、またはこの第2の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列、および/または
- 配列ID番号3、56、57、58、59で構成された第3の配列、またはこの第3の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列、および/または
- 配列ID番号4または60で構成された第4の配列、またはこの第4の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列、および/または
- 配列ID番5、61、62のいずれかで構成された第5の配列、またはこの第5の配列と少なくとも75%が一致するバリアント配列
を含むか、これらの配列からなるポリペプチドであって、
第1の配列のバリアント配列、第2の配列のバリアント配列、第3の配列のバリアント配列、第4の配列のバリアント配列、第5の配列のバリアント配列のそれぞれからなる複数のポリペプチドにより、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発することが可能になるポリペプチドに関する。
【0014】
本発明は、上に規定したようなポリペプチドをコードする核酸、またはこの核酸の相補体にも関する。
【0015】
本発明は、薬、特にワクチンとして用いるための、
- 上に規定したような少なくとも1つのポリペプチド、または
- 上に規定したような少なくとも1つの核酸にも関する。本発明の特別な一実施態様では、上に規定したような薬、特にワクチンは、PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の化合物も含んでいる。
【0016】
本発明は、活性物質として、
- 上に規定したような少なくとも1つのポリペプチド、または
- 上に規定したような少なくとも1つの核酸
を、場合によっては医薬として許容可能な少なくとも1つのビヒクルとともに含む医薬組成物、特にワクチン組成物にも関する。本発明の特別な一実施態様では、上に規定したような医薬組成物、特にワクチン組成物は、PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の化合物も含んでいる。
【0017】
本発明は、抗体、または抗体の断片、またはアダプタマーを調製するための、上に規定したようなポリペプチドの利用にも関する。
【0018】
本発明は、抗体、または抗体の断片、またはアプタマーを調製する方法にも関係しており、この方法は、上に規定したようなポリペプチドを、抗体を産生する生物に投与する工程、または上に規定したようなポリペプチドに結合する抗体、または抗体の断片、またはアプタマーを親和性によって選択する工程を含んでいる。
【0019】
本発明は、特に上に規定したようなポリペプチドで、第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列のいずれか、またはそのそれぞれのバリアント配列に加えて2個を超えるアミノ酸残基を含まないものに対して特異的な抗PD-L1抗体、または抗PD-L1抗体の断片、または抗PD-L1アプタマーにも関する。
【0020】
本発明は、薬として用いるための、上に規定したような抗体、または抗体の断片、またはアプタマーにも関する。本発明の特別な一実施態様では、上に規定したような薬は、PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の化合物も含んでいる。
【0021】
本発明は、活性成分として、上に規定したような抗体、または抗体の断片、またはアプタマーを、場合によっては医薬として許容可能な少なくとも1つのビヒクルとともに含む医薬組成物にも関する。本発明の特別な一実施態様では、上に規定したような医薬組成物は、PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の化合物も含んでいる。
【0022】
本発明は、個体でPD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発するための方法で用いるための、上に規定したようなポリペプチド、または上に規定したような核酸、または上に規定したような医薬組成物にも関する。本発明の特別な一実施態様では、このポリペプチド、またはこの核酸、またはこの医薬組成物は、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発するのに有用な少なくとも1つの別の化合物と組み合わせて用いられる。
【0023】
本発明は、個体でPD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発する方法にも関係しており、この方法は、その個体に、上に規定したようなポリペプチド、または上に規定したような核酸、または上に規定したような医薬組成物を有効量で投与することを含んでいる。本発明の特別な一実施態様では、このポリペプチド、またはこの核酸、またはこの医薬組成物は、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発するのに有用な少なくとも1つの別の化合物と組み合わせて投与される。
【0024】
本発明は、個体でPD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発するための薬を調製するための、上に規定したようなポリペプチドの利用にも関する。本発明の特別な一実施態様では、薬は、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発するのに有用な少なくとも1つの別の化合物も含んでいる。
【0025】
本発明は、個体でPD-1タンパク質またはPD-L1タンパク質に関係または起因する疾患を予防または治療する方法で用いるための、上に規定したようなポリペプチド、または上に規定したような核酸、または上に規定したような医薬組成物、または上に規定したような抗体、または抗体の断片、またはアプタマーにも関する。本発明の特別な一実施態様では、このポリペプチド、またはこの核酸、またはこの医薬組成物、またはこの抗体、またはこの抗体の断片、またはこのアプタマーは、PD-1タンパク質またはPD-L1タンパク質に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の療法と組み合わせて用いられる。
【0026】
本発明は、個体でPD-L1タンパク質の発現に関係または起因する疾患を予防または治療する方法にも関係しており、この方法は、その個体に、上に規定したようなポリペプチド、または上に規定したような核酸、または上に規定したような医薬組成物、または上に規定したような抗体、または抗体の断片、またはアプタマーを有効量で投与することを含んでいる。本発明の特別な一実施態様では、この方法は、PD-1タンパク質またはPD-L1タンパク質の発現に関係する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の療法を含んでいる。
【0027】
本発明は、個体でPD-L1タンパク質に関係または起因する疾患を予防または治療する薬を調製するための、上に規定したようなポリペプチド、または上に規定したような核酸、または上に規定したような抗体、または抗体の断片、またはアプタマーの利用にも関する。本発明の特別な一実施態様では、薬は、PD-1タンパク質またはPD-L1タンパク質の発現に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防するための少なくとも1つの別の化合物を含んでいる。
【0028】
本発明は、
- 上に規定したようなポリペプチドまたは核酸と、
- PD-L1タンパク質に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための少なくとも1つの別の化合物を、個体でPD-1タンパク質またはPD-L1タンパク質の発現に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するため、同時に、または別々に、または時間的な広がりの中で用いるための組み合わせ製品として含む製品にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
準備として、「含む」という用語は、「中にある」、または「含有する」、または「包含する」を意味することに注意されたい。すなわち、物体が1つの要素または複数の要素を「含んでいる」とき、言及されている以外の要素もその物体に含まれている可能性がある。逆に、「からなる」という表現は、「で構成されている」を意味する。すなわち、物体が1つの要素または複数の要素「からなる」とき、その物体は言及されている以外の要素を含んでいてはならない。
【0030】
ポリペプチド
【0031】
PD-L1タンパク質の定義
【0032】
PD-L1タンパク質は、PD-1タンパク質のリガンドタンパク質であり、分化クラスター274(CD274)とも呼ばれ、当業者には周知である。
【0033】
PD-L1タンパク質の好ましい種と配列
【0034】
好ましいのは、本発明のPD- L1タンパク質の選択が、ヒトPD- L1タンパク質、マウスPD-L1タンパク質、サルPD-L1タンパク質、ウマPD-L1タンパク質、ウシPD-L1タンパク質、ブタPD-L1タンパク質、ヒツジPD-L1タンパク質、ヤギPD-L1タンパク質、ラクダPD-L1タンパク質、ヒトコブラクダPD-L1タンパク質、イヌPD-L1タンパク質、ネコPD-L1タンパク質からなるグループからなされることである。特に好ましいのは、PD-L1タンパク質がヒトPD-L1タンパク質であることである。
【0035】
好ましいのは、
- ヒトPD-L1タンパク質(hPD-1)が、UniProt/Swissprotデータベースの中で参照記号Q9NZQ7として記載されているようなものであり、配列ID番号6で構成されていること、
- サルPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号NP_001077358.1として記載されているようなものであり、配列ID番号7で構成されていること、
- マウスPD-L1タンパク質(mPD-1)が、UniProt/Swissprotデータベースの中で参照記号Q9EP73として記載されているようなものであり、配列ID番号8で構成されていること、
- ウマPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号XP_001492892.1として記載されているようなものであり、配列ID番号9で構成されていること、
- ウシPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号NP_001156884.1として記載されているようなものであり、配列ID番号10で構成されていること、
- ブタPD-L1タンパク質が、UniProt/Swissprotデータベースの中で参照記号Q4QTK1として記載されているようなものであり、配列ID番号11で構成されていること、
- ヒツジPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号XP_011980010.1として記載されているようなものであり、配列ID番号12で構成されていること、
- ヤギPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号XP_005683750.1として記載されているようなものであり、配列ID番号13で構成されていること、
- ラクダPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号XP_014416021.1またはXP_010958932.1として記載されているようなものであり、配列ID番号14または15で構成されていること、
- ヒトコブラクダPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号XP_010991731.1として記載されているようなものであり、配列ID番号16で構成されていること
- イヌPD-L1タンパク質が、UniProt/Swissprotデータベースの中で参照記号E2RKZ5として記載されているようなものであり、配列ID番号17で構成されていること、
- ネコPD-L1タンパク質が、Genbankデータベースの中で参照記号XP_006939101.1として記載されているようなものであり、配列ID番号18で構成されていることである。
【0036】
アミノ酸残基の番号付け
【0037】
本明細書では、PD-L1タンパク質のアミノ酸残基の番号付けは、PD-L1の遺伝子のオープンリーディングフレームによってコードされる全PD-L1(すなわちそのシグナルペプチドが含まれる)のN末端を形成する第1のアミノ酸残基(一般にはメチオニン(M))から始まる。さらに、ここで利用するPD-L1タンパク質のアミノ酸残基の番号付けは、ヒトPD-L1タンパク質を参照して定義されることが好ましい。したがって当業者にとって、本発明で参照する位置番号に対応するPD-L1タンパク質のアミノ酸残基を明らかにするのは容易である。ある位置番号に対応するアミノ酸残基を明らかにしたいPD-L1タンパク質の配列をヒトPD-L1タンパク質(特に配列ID番号6)とアラインメントし、アラインメントされたこれら2つの配列の間の一致率を最適化した後、探している位置番号に対応するアミノ酸残基が、ヒトPD-L1タンパク質の配列でその位置番号を持つアミノ酸残基とアラインメントされたアミノ酸残基であると同定するだけで十分である。
【0038】
第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列
【0039】
第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列は、PD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67、85~101、111~127、138~156、208~223に広がる配列からそれぞれ選択された少なくとも8個、9個、10個、11個、12個のアミノ酸で構成されていること、または少なくともPD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67、85~101、111~127、138~156、208~223に広がる配列からそれぞれ構成されていることが好ましい。
【0040】
本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列は、それぞれ、PD-L1タンパク質の完全な配列から選択された最大で29個、28個、27個、26個、25個、24個、23個、22個、21個、20個の連続したアミノ酸残基で構成されていること、または最大でPD-L1タンパク質のアミノ酸残基55~67、85~101、111~127、138~156、208~223で構成されていることが同様に好ましい。
【0041】
好ましいのは、
- 本発明の第1の配列が、配列ID番号1、51、52、53のいずれかで構成され、
- 本発明の第2の配列が、配列ID番号2、54、55のいずれかで構成され、
- 本発明の第3の配列が、配列ID番号3、56、57、58のいずれかで構成され、
- 本発明の第4の配列が、配列ID番号4または60で構成され、
- 本発明の第5の配列が、配列ID番号5、61、62のいずれかで構成されていることである。
【0042】
これらの配列に対応するヒトPD-L1タンパク質のアミノ酸残基を下記の表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
バリアント配列
【0045】
本発明のバリアント配列は、上記の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列のうちの1つと少なくとも75%一致しているが、上記の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列のうちの1つと少なくとも80%、または85%、または90%、または95%、または98%一致することが好ましい。
【0046】
本明細書では、2つのペプチド配列の間の一致率は、配列の全長にわたって最適なアラインメントを実現し、各配列の中でアミノ酸が同じであるアラインメントされた位置の数を明らかにし、この数を、2つの配列のうちのより長いほうに含まれるアミノ酸の総数で割ることによって求めることができる。最適なアラインメントは、2つの配列の間で最も大きな一致率を与えるアラインメントである。
【0047】
本発明のバリアント配列は、配列ID番号1、配列ID番号2、配列ID番号3、配列ID番号4、第5の配列、配列ID番号51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62のいずれかと少なくとも75%、または80%、または85%、または90%、または95%、または98%一致することが同様に好ましい。
【0048】
本発明のバリアント配列で構成されるポリペプチドは、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発できるはずである。すなわちこのようなペプチドを動物(マウス、ラット、ウサギなど)に投与すると、PD-L1タンパク質(特に、バリアント配列が最も大きな一致率を示す配列が属するのと同じ種のPD-L1タンパク質)に対する抗体の産生を引き起こす。なおこのペプチドは、必要な場合には1個または2個のシステインをこのペプチドに、および/またはそのN末端に、および/またはそのC末端に付加した後に、場合によってはシステイン間に少なくとも1つのジスルフィド架橋を形成することによって環化されていて、場合によっては担体分子(特に担体タンパク質、例えばKLH(スカシガイのヘモシアニン))に結合されている。当業者は、抗体がPD-L1に向かうかどうかを明らかにする方法、特にELISA検査を実施して明らかにする方法をよく知っている。ペプチドの投与によって誘発される抗体は、阻止物質または中和物質であることが好ましい。すなわち抗体は、PD-L1タンパク質が、例えばインビトロで測定したその活性の全体または一部を発揮するのを妨げること、特にその活性の少なくとも10%、25%、50%、75%を妨げることが好ましい。本明細書では、PD-L1の活性は、PD-1タンパク質への結合であることが好ましい。この活性は、下記の実施例2のようにして測定することができる。
【0049】
本発明のバリアント配列の選択は、
- VYRSMISYGGADYKRIT(配列ID番号19)
- YRSMISYGGADYKRI(配列ID番号63)
- NQRILVVDPVTSEHELTSQ(配列ID番号20)
- YSTFRRLDPEENHTAE(配列ID番号21)
- YSTFRRLDPEENHTA(配列ID番号64)
からなるグループからなされることが好ましい。
【0050】
VYRSMISYGGADYKRIT(配列ID番号19)は、VYRCMISYGGADYKRIT(配列ID番号3)で4位のシステイン(C)をセリン(S)で置き換えることによって導出される。
【0051】
YRSMISYGGADYKRI(配列ID番号63)は、YRCMISYGGADYKRI(配列ID番号59)で3位のシステイン(C)をセリン(S)で置き換えることによって導出される。
【0052】
NQRILVVDPVTSEHELTSQ(配列ID番号20)は、NQRILVVDPVTSEHELTCQ(配列ID番号4)で最後から2番目の位のシステイン(C)をセリン(S)で置き換えることによって導出される。
【0053】
YSTFRRLDPEENHTAE(配列ID番号21)は、YCTFRRLDPEENHTAE(配列ID番号5)で2位のシステイン(C)をセリン(S)で置き換えることによって導出される。
【0054】
YSTFRRLDPEENHTA(配列ID番号64)は、YCTFRRLDPEENHTA(配列ID番号61)で2位のシステイン(C)をセリン(S)で置き換えることによって導出される。
【0055】
ポリペプチドの長さ
【0056】
本発明のポリペプチドは、最大で200個、または150個、または100個、または90個、または80個、または70個、または60個、または50個、または40個、または30個のアミノ酸残基を含むことが好ましい。このポリペプチドはPD-L1タンパク質とは異なっており、PD-L1タンパク質の連続した30個を超えるアミノ酸残基の部分で構成されることはない。当業者であればよくわかるように、本発明のポリペプチドをPD-L1タンパク質の最大で連続した30個のアミノ酸残基からなる2つ以上の部分で構成することは排除されないが、これらの部分が、PD-L1タンパク質の連続した30個を超えるアミノ酸残基の部分を再構成しないことが条件である。
【0057】
当業者には明らかなように、本発明のポリペプチドは、本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列、バリアント配列それぞれの複数の反復(例えば2回、または3回、または4回、または5回、または10回、または20回の反復)を含むことができる。
【0058】
第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列、バリアント配列に追加される配列
【0059】
さらに、本発明のポリペプチドは、PD-L1タンパク質に由来しない追加配列も含むことができる。
【0060】
これらの追加配列は、特に、本発明のポリペプチドと似ているがこれら追加配列を含まない場合のポリペプチドと比べて、本発明のポリペプチドよりも改善された構造、または改善された溶解度を可能にする物理化学的特徴をもたらすことができよう。
【0061】
追加配列は、ペプチド結合(すなわちペプチドリンカー)の1つ以上の配列も含むことができ、それは特に担体分子への結合に役立つ。ペプチド結合のこのような配列は、典型的には、1~10個、特に4~6個のアミノ酸残基を含んでいる。
【0062】
さらに、PD-L1タンパク質に由来しないこれらの配列は、別のタンパク質に属するエピトープも含むことができ、これら別のタンパク質に対する免疫応答を誘発すること、または生じさせることができよう。
【0063】
それに加え、本発明のポリペプチドは、外来性Tエピトープ(普遍的であることが好ましい)の配列を含むことができる。そうすると本発明のポリペプチドの免疫原性を増強することができる。
【0064】
本発明のポリペプチドは、担体タンパク質(例えばウイルス型粒子(VLP))の少なくとも1つの配列も含むことができる。それは特に、TNFについて国際出願WO 05/117983の中に記載されている。
【0065】
ポリペプチドの環化
【0066】
本発明のポリペプチドは、直線状の形態または環状の形態にすることができる。本発明のポリペプチドは、環状の形態であることが好ましい。この環化は、当業者に知られているあらゆるタイプが可能である。
【0067】
本発明による環化の戦略を選択するにあたっては、特に本発明のポリペプチドの中に含まれるエピトープが抗原に最もよく提示されるよう考慮することと、ポリペプチドの一部(配列内の環化)にしか関係しないようにすることができる。したがって本明細書では、本発明のポリペプチドが環状の形態であるときには、このポリペプチドの一部だけが環の中に含まれるようにでき、ポリペプチドの残部は直線状の形態である。
【0068】
ポリペプチドの中に存在する官能基に応じ、この環化は異なる複数のやり方で実施することができる。例えばC末端からN末端まで、またはN末端から1つの側鎖まで、または1つの側鎖からC末端まで、さらには2つの側鎖間を環化することができる。ポリペプチドを環化するさまざまなやり方のうちで、ラクタム化、ラクトン化、ジスルフィド結合形成を挙げることができる。特に、システイン間、すなわち2つのシステインの-SH基の間にジスルフィド結合を形成するとき、これらシステインは、本発明のバリアント配列の中、または本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列の中にすでに存在していてもよいし、これら配列の中と、そのN末端および/またはC末端に付加してもよい。
【0069】
翻訳後修飾、アミノ酸類似体
【0070】
それに加え、本発明のポリペプチドは、特に脂肪酸またはリン酸化による翻訳後修飾(例えばグリコシル化、メチル化、アシル化)を含むことができる。特に本発明のポリペプチドのN末端をアセチル化することと、C末端をアミド化によって修飾することができる。
【0071】
本発明のポリペプチドは、1つ以上のアミノ酸の類似体またはアミノ酸の誘導体も含むことができ、そのアミノ酸は、天然に存在しないか、標準的ではなく、特にノルロイシン(Nle)である。
【0072】
担体分子
【0073】
本発明のポリペプチドは、特に共有結合によって担体分子(特に担体タンパク質)に固定されるか結合していることが同様に好ましい。
【0074】
特に、担体分子として、スカシガイのヘモシアニン(KLH)というタンパク質、B型肝炎表面抗原(HBsAg)、ウシ血清アルブミン(BSA)、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリア毒素(DT)が可能である。
【0075】
本発明のジフテリア毒素(DT)は、CRM 197、CRM 176、CRM 228、CRM 45、CRM 9、CRM 102、CRM 103、CRM 107からなるグループから選択されることが好ましい。
【0076】
担体分子はCRM 197であることが特に好ましい。
【0077】
担体分子(特に担体タンパク質)への本発明のポリペプチドの結合は、ヘテロ二機能性カップリング剤を用いて実現することができ、その例は、N-γ-マレイミドブチリルオキシスクシンイミド(GMBS)のエステルとスルホGMBS誘導体、m-マレイミドベンゾイル-n-ヒドロキシスクシンイミド(MBS)のエステルとスルホMBS誘導体、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸スクシンイミジル(SMCC)、カルボジイミド、ビスジアゾニウム-ベンジジン(BDB)、グルタルアルデヒド)である。
【0078】
GMBS、MBS、SMCCのいずれかを用いるときには、システイン(C)に固定されることが好ましく、システインが本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列、バリアント配列いずれの中にも存在しない場合には、システインを特にN末端またはC末端に付加することができる。さらに、システインが本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列いずれかの中の望ましくない位置に存在しているときには、システインが別のアミノ酸(セリンなど)で置換されたバリアント配列を代わりに使用することができる。それが、配列ID番号19、20、21、63、64のそれぞれについて、配列ID番号3、4、5、59、61との比較で示されている。
【0079】
BDBを用いるときには、チロシン(Y)に固定されることが好ましく、チロシンが本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列、バリアント配列いずれの中にも存在しない場合には、特にN末端またはC末端に付加することができる。さらに、チロシンが本発明の第1の配列、第2の配列、第3の配列、第4の配列、第5の配列いずれかの中の望ましくない位置に存在しているときには、チロシンが別のアミノ酸(フェニルアラニン(F)など)で置換されたバリアント配列を代わりに用いることができる。
【0080】
さらに、担体分子(特に担体タンパク質)への本発明のポリペプチドの結合は、ペプチド結合またはペプチドリンカーを用いて実現することもでき、一方の側が本発明のポリペプチドに、他方の側が担体分子に結合される。このようなペプチド結合は、典型的には、1~10個、特に4~6個のアミノ酸残基を含んでいる。
【0081】
本発明のポリペプチドは、下記の式で構成されるグループから選択された1つの式によって表わされる構造に従って担体タンパク質CRM 197に固定されることが特に好ましい。
【0082】
【表2】
上記の構造体の中で、
- CRM197は担体タンパク質を表わし、
- GMBは、N-γ-マレイミドブチリルを表わし、
- アセチル+は、N末端がアセチル化されていることを示し、
- アミド+は、C末端がアミド化によって修飾されていることを示し、
- シクロ()は、C末端とN末端のアミノ酸残基の側鎖間がラクタム型の環化をされていることを示し、
- シクロS-S()は、C末端とN末端に存在するシステインのスルフヒドリル基の間がジスルフィド架橋によって環化されていることを示し、
- 括弧([X]n)は、1つ以上のポリペプチドが担体タンパク質に固定されていることを示し、
- 下線部は本発明のポリペプチドを表わし、その配列ID番号が右欄に示されている。
【0083】
したがって本発明のポリペプチドは、配列ID番号22~50からなるグループから選択された配列で構成されることが特に好ましい。
【0084】
ポリペプチドの調製
【0085】
本発明のポリペプチドは、先行技術で知られているあらゆる方法、特に化学合成によって調製することができる。真核細胞または原核細胞の中で本発明の核酸を発現させることによって本発明のポリペプチドを調製することも可能である。
【0086】
ポリペプチドの活性
【0087】
本発明のポリペプチド(必要な場合には担体分子に結合させる)は、免疫原性である。すなわちこのポリペプチドは、投与を受ける個体(特に哺乳動物)が特に液性タイプの免疫反応(すなわち抗体の産生)を誘発する可能性、または引き起こす可能性がある。特に、本発明のポリペプチドにより、PD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発すること、特に抗PD-L1抗体、好ましくは阻止型または中和型の抗PD-L1抗体の産生を誘発することができる。すなわちこれら抗体は、例えばインビトロで測定するとき、PD-L1タンパク質が、その活性の全体または一部を発揮すること、特にその活性の少なくとも10%、25%、50%、75%を妨げる。本明細書では、PD-L1の活性はPD-1タンパク質への結合であることが好ましく、その活性は、下記の実施例2に示されているようにして測定することができる。
【0088】
核酸
【0089】
本発明の核酸はRNAまたはDNAだが、DNAが好ましい。本発明の核酸は、真核生物および/または原核生物(特に哺乳動物またはウイルス)のプロモータ配列に機能可能に結合していることが好ましい。さらに、本発明の核酸は、ベクター(プラスミド、ウイルスなど)の中に含めることができる。
【0090】
抗体、抗体の断片、アプタマー
【0091】
本発明の抗体、抗体の断片、アプタマーが、上に規定したようなポリペプチドに特異的に向かうと言われるのは、本発明のこれら抗体、抗体の断片、アプタマーが特異的に向かうポリペプチドに結合することが可能な条件において、上に規定したポリペプチドを含んでいない別のポリペプチドに実質的に結合しないときである。
【0092】
本発明の抗体としてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が可能だが、モノクローナル抗体が好ましい。さらに、本明細書では、「抗体の断片」は、この断片の出所である抗体のうちで抗原に結合する部分の少なくとも一部を含んでいる。「抗体の断片」は特に、Fab、Fab'、F(ab')2、ジスルフィドで安定化されたFv(dsFv)、二量体化したV領域(ディア抗体)、三量体化したV領域、四量体化したV領域、五量体化したV領域、一本鎖Fv(scFv)、相補性決定領域(CDR)である。
【0093】
抗体として、あらゆる種類の抗体、特にヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ラクダ抗体が可能である。さらに、抗体がヒト抗体でないときには、ヒト化することもできる。すなわち、これら抗体の定常部の一部または全体を、ヒトの対応する定常部で置き換えることもできる。
【0094】
本発明の抗体は、当業者に周知の技術に従って本発明のポリペプチドで動物を免疫化することによって得られる。
【0095】
本明細書では、アプタマーは、分子標的(タンパク質など)に特異的に結合することのできる核酸(特にRNA)である。アプタマーは、当業者に周知のSELEX技術を利用して、本発明のポリペプチドから得ることができる。
【0096】
治療での利用
【0097】
疾患
【0098】
本発明のPD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患は、がんまたは感染性疾患である。
【0099】
より好ましいのは、PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質の発現に関係または起因する疾患の選択が、
- 切除できない転移性黒色腫、転移性進行非小細胞肺がん(NSCLC)、転移性進行NSCLCで、特にプラチンに基づく化学療法と同時に進行中のもの、またはその化学療法の後に進行中のもの、進行腎臓がんで特に転移性のもの、局所的に進行中であるか転移性の尿路上皮がんで、特にプラチン誘導体に基づく化学療法に反応しないもの、前立腺がん、乳がん、大腸がん、PD-1/PD-L1軸が抗腫瘍免疫応答の抑制において重要な役割を果たす他のあらゆるがんと、
- 細菌感染症、例えば肺炎、髄膜炎、毒素性ショック症候群、食中毒、胃炎、潰瘍、淋病、おでき、膿瘍、とびひ、中耳炎、扁桃腺炎、尿路と生殖管の感染症、肺気管支感染症と、
- ウイルス感染症、例えばインフルエンザ、麻疹、B型肝炎、C型肝炎、ヒト免疫不全ウイルス(VIH)による感染症、ヘルペス型ウイルス(例えばサイトメガロウイルス、エプスタイン-バーウイルス、ヘルペスウイルス)による感染症、ヒトパピローマウイルス(VPH)による感染症と、
- 真菌感染症、例えばブラストミセス症、コクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、パラコクシジオイデス症、カンジダ症、クリプトコッカス症、アスペルギルス症、ムーコル症、ニューモシスチス症
で構成されるグループからなされることである。
【0100】
個体
【0101】
本発明の1つまたは複数の個体は動物であり、哺乳動物または有袋類であることが好ましく、ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ヒトコブラクダ、イヌ、ネコのいずれかであることがより好ましく、ヒトであることが最も好ましい。本発明では、本発明のポリペプチドが、このポリペプチドを用いるか投与せねばならない個体と同じ種に属するPD-L1タンパク質に由来することが好ましかろう。
【0102】
投与
【0103】
本発明のポリペプチド、または医薬組成物、または薬、または製品は、経口経路、粘膜経路(特に舌下)、非経口経路、腹腔内経路、経皮経路、皮内経路、皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路、動脈内経路のいずれかで投与されるか、投与可能な形態にされる。
【0104】
用量
【0105】
本発明の範囲では、本発明のポリペプチドは、例えば1 ng~1 g、好ましくは1μg~1 mgの用量で投与することができる。
【0106】
医薬として許容可能なビヒクル
【0107】
本明細書では、「医薬として許容可能なビヒクル」は、個体に、医薬活性成分と組み合わせて投与することのできる化合物(特に賦形剤)の全体を包含する。
【0108】
アジュバント
【0109】
さらに、本発明のポリペプチドは、特にワクチンまたは予防で使用されるときには、アジュバントと関連させること、または組み合わせることができる。あるいは本発明の医薬組成物、または薬、または製品は、アジュバントを含むことができる。アジュバントは、ポリペプチドを投与したとき、動物またはヒトの個体で免疫応答を増大させるのに適したあらゆるタイプが可能である。例えばフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、Montanide ISA 51 VGアジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、リン酸アルミニウムアジュバント、リン酸カルシウムアジュバントが可能であり、その中でもMontanide ISA 51 VGアジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、リン酸アルミニウムアジュバントが好ましい。アジュバントの溶液とポリペプチドを含む溶液を体積で1/1の混合物を実現することにより、アジュバントを本発明のポリペプチドと組み合わせることができる。
【0110】
別の療法
【0111】
本明細書では、「別の療法」という表現は、本発明のポリペプチドとは異なる少なくとも1つの別の化合物を用いる薬物療法、または非薬物療法(例えば放射線療法、特に抗がん放射線療法)を意味する。
【0112】
別の化合物
【0113】
本発明のPD-L1タンパク質に対する免疫応答を誘発するのに役立つ別の化合物として、特に、PD-L1タンパク質に由来する本発明のポリペプチドとは異なるポリペプチド、またはPD-1に由来するポリペプチドが可能である。
【0114】
さらに、PD-L1タンパク質またはPD-1タンパク質に関係または起因する疾患、またはがん、または感染性疾患を予防または治療するための別の化合物として、抗がん化学療法の化合物、抗がん免疫療法の化合物、例えばモノクローナル抗体、抗生剤、抗ウイルス剤(特にインターフェロン型のもの)、抗真菌剤のいずれかが可能である。
【0115】
それに加え、本発明の化合物は、特にワクチンで用いられるときや、ワクチンまたはワクチン組成物の中に含まれているときには、PD-L1タンパク質とは異なる標的(例えばPD-1タンパク質)に対する免疫応答を誘発するための別の抗原と組み合わせることができる。このタイプの組み合わせは多価ワクチンの調製に有用である。
【0116】
本明細書では、「組み合わせて」または「組み合わせ製品」という表現は、上に規定したようなポリペプチドと、上に規定したような別の化合物を同一の医薬組成物の中、または同じ薬の中で組み合わせて投与できること、したがって一緒に投与できること、または別々に投与できること、すなわち異なる投与経路および/または異なる投与計画で投与できることを意味する。ただしそれらが別々に投与されるときには、上に規定したようなポリペプチドと上に規定したような別の化合物の予防活性または治療活性の期間の全体または一部が重なっていることが条件である。
【0117】
したがってポリペプチドと別の化合物が別々に投与されるときには、上に規定したようなポリペプチドは、上に規定したような別の化合物を投与してから24時間後に投与されることが好ましく、2時間後に投与されることがより好ましく、1時間後に投与されることがさらに好ましく、場合によってはその投与はその後数日間継続する。逆に、上に規定したような別の化合物は、上に規定したようなポリペプチドを投与してから24時間後に投与されることが好ましく、2時間後に投与されることがより好ましく、1時間後に投与されることがさらに好ましく、場合によってはその投与はその後数日間継続する。本発明の別の好ましい一実施態様では、上に規定したようなポリペプチドと上に規定したような別の化合物を別々に投与するときには、それらを実質的に同時に投与する。
【0118】
本発明を以下の非限定的な図面と実施例を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1図1は、ペプチドPPV-09-01、PPV-09-02、PPV-09-03、PPV-09-04、PPV-09-05、PPV-09-06を用いて免疫化したSWISSマウス(群ごとにn=8)の血清(1/500に希釈)の中に存在する抗hPD-L1抗体の相対量を表わす(ELISAによる光学密度の測定)。ODが0.2単位の位置にある水平な線は有意性の閾値を表わす。
【0120】
図2図2は、ペプチドPPV-09-01、PPV-09-02、PPV-09-03、PPV-09-04、PPV-09-05、PPV-09-06を用いて免疫化したウサギ(群ごとにn=4)からの精製した抗体を用いて得られたPD-1/PD-L1相互作用の中和率を表わす。
【実施例
【0121】
実施例1:hPD-L1に由来するペプチドで免疫化したマウスの血清によるヒトPD-L1(hPD-L1)タンパク質全体の認識
【0122】
ヒトPD-L1タンパク質に由来する6つのペプチドを化学合成によって作製した後、これらの端部にシステインを付加し、ジスルフィド架橋を形成することによって環化した。次いでこれらのペプチドを、カップリング剤GMBSを用いて担体タンパク質CRM 197(C反応性材料197)にカップルさせた。
【0123】
各複合体について、特定の病原生物がいないSWISSマウス(Janvier Labs社、ル・ジュネ-サン-ティル、フランス国)を、ヒトPD-L1に由来する100μg相当のペプチド(PPV-09-01、PPV-09-02、PPV-09-03、PPV-09-04、PPV-09-05、PPV-09-06;表1参照)をMontanide ISA 51 VGアジュバントの中で乳化したものを用いて皮下経路で免疫化した(複合体ごとにn=8)。マウスは15日間の間隔で4回皮下注射を受けた(0日目、15日目、30日目、45日目)。
【0124】
【表3】
アミノ酸残基は、ヒトPD-L1タンパク質の配列(Swissprot Q9NZQ7)に基づいて注釈が付けられている
【0125】
抗PD-L1抗体の相対量をマウス血清(1/500に希釈)の中で54日目にELISAによって評価する。
【0126】
調べた複合体全体が、ヒトPD-L1タンパク質を認識する抗体を産生することが観察される(図1)。しかし複合体PPV-09-03は他のものと比べて免疫原性が小さい。
【0127】
実施例2:ヒトPD-L1に由来するペプチドによって免疫化したウサギの血清から精製した抗体によるヒトPD-L1の生物活性の中和
【0128】
PPV-09-01、PPV-09-02、PPV-09-03、PPV-09-04、PPV-09-05、PPV-09-06のそれぞれを用いて免疫化したウサギの血清(群ごとにn=4)から精製したIgGの中和能力を、PD-1/PD-L1相互作用の中和に関する細胞試験(Promega社、J1250)で評価した。この試験は、2つの細胞系、すなわち
-ヒトPD-1遺伝子と、応答エレメントNFAT-REの制御下にあるルシフェラーゼ遺伝子を発現するJurkat実効細胞系、
- ヒトPD-L1遺伝子と、抗原に依存してTCRを活性化することのできる表面タンパク質を発現するCHO-K1細胞系
の間の相互作用に基づいている。
【0129】
2つの系統を同時に培養すると、PD-1タンパク質がPD-L1タンパク質と相互作用し、TCRを通じたシグナル伝達とルシフェラーゼの発現を抑制する(まったく発光しない)。逆に、PD-1とPD-L1の相互作用を中和する抗PD-L1抗体を添加すると、抑制シグナルが発生し、TCRが活性化されて発光する。
【0130】
実施した実験の記述:
【0131】
プレートの準備(1日目):細胞培養のためにCHO-K1細胞で処理した96ウエルの平底プレートへの播種。プレートを37℃で20時間インキュベートする。
【0132】
サンプルのインキュベーションと現像(2日目):CHO-K1細胞を含むプレートに、調べる抗体サンプルと、エフェクタ細胞Jurkatを分配する。その後プレートを37℃で6時間インキュベートする。
【0133】
各ウエルへのBio-Glo(商標)現像反応剤の添加。周囲温度で30分間のインキュベーション。ルミノメータを用いた発光の測定。
【0134】
PPV-09-01、PPV-09-02、PPV-09-03、PPV-09-04、PPV-09-05、PPV-09-06を用いて免疫化したウサギのIgGは、PD-1タンパク質とPD-L1タンパク質の相互作用をさまざまな程度(約10%~約50%)で中和することが観察される(図2)。
図1
図2
【配列表】
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