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特許7560367回転電機の絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】回転電機の絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20240925BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20240925BHJP
   C01B 13/11 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 D
C01B13/11 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021004518
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022109151
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 一輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 竜志
(72)【発明者】
【氏名】田上 剣汰
(72)【発明者】
【氏名】山下 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】古里 友宏
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2016-0053023(KR,A)
【文献】特開2020-061797(JP,A)
【文献】特開2022-038676(JP,A)
【文献】実開昭56-158652(JP,U)
【文献】特開2018-200179(JP,A)
【文献】特開平11-347111(JP,A)
【文献】特開2005-128699(JP,A)
【文献】特開2020-204550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/12-31/20、
31/327-31/34、
C01B 13/00-13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、前記筐体に収容された固定子と、前記筐体に収容され前記固定子に対して回転する回転子と、前記筐体に収容された絶縁体と、前記筐体内に気流を発生させるファンと、を備えた回転電機における前記筐体内の、オゾン濃度、温度、湿度、および前記気流の風速を取得する取得ステップと、
前記オゾン濃度、温度、湿度、および前記風速に基づいて、前記絶縁体の劣化を診断する診断ステップと、
を含み、
前記診断ステップにおいて、前記オゾン濃度、前記温度、前記湿度、および前記風速でのオゾンの半減期に基づいて、所定の容積での単位時間あたりのオゾン分子の発生個数であるオゾン発生速度を算出し、前記オゾン発生速度に基づいて、前記筐体内で発生するコロナ放電の放電電力を算出する、
回転電機の絶縁劣化診断方法。
【請求項2】
筐体と、前記筐体に収容された固定子と、前記筐体に収容され前記固定子に対して回転する回転子と、前記筐体に収容された絶縁体と、前記筐体内に気流を発生させるファンと、を備えた回転電機における前記筐体内の、オゾン濃度、温度、湿度、および前記気流の風速を取得する取得部と、
前記オゾン濃度、温度、湿度、および前記気流の風速に基づいて、前記絶縁体の劣化を診断する診断部と、
を備え、
前記診断部は、前記オゾン濃度、前記温度、前記湿度、および前記風速でのオゾンの半減期に基づいて、所定の容積での単位時間あたりのオゾン分子の発生個数であるオゾン発生速度を算出し、前記オゾン発生速度に基づいて、前記筐体内で発生するコロナ放電の放電電力を算出する、
絶縁劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の絶縁劣化診断方法および絶縁劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機においては、絶縁体を介してコロナ放電が発生すると絶縁体が劣化する場合がある。そこで、従来、絶縁体の劣化を診断する絶縁劣化診断方法が知られている。例えば、回転電機内のオゾン濃度を回転電機内の温度および湿度を用いて補正して、補正後のオゾン濃度に基づいて絶縁性の劣化を診断する絶縁劣化診断方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-061797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の絶縁劣化診断装置では、コロナ放電の検出の精度の向上が図れれば有益である。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、回転電機に対する絶縁性の劣化の診断の精度の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の回転電機の絶縁劣化診断方法は、筐体と、前記筐体に収容された固定子と、前記筐体に収容され前記固定子に対して回転する回転子と、前記筐体に収容された絶縁体と、前記筐体内に気流を発生させるファンと、を備えた回転電機における前記筐体内の、オゾン濃度、温度、湿度、および前記気流の風速を取得する取得ステップと、前記オゾン濃度、温度、湿度、および前記風速に基づいて、前記絶縁体の劣化を診断する診断ステップと、を含み、前記診断ステップにおいて、前記オゾン濃度、前記温度、前記湿度、および前記風速でのオゾンの半減期に基づいて、所定の容積での単位時間あたりのオゾン分子の発生個数であるオゾン発生速度を算出し、前記オゾン発生速度に基づいて、前記筐体内で発生するコロナ放電の放電電力を算出する
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態の回転電機の絶縁劣化診断方法によれば、回転電機に対する絶縁性の劣化の診断の精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の回転電機システムの構成を例示的に示す図である。
図2図2は、実施形態の回転電機における固定子の固定子巻線を例示的に示す断面図である。
図3図3は、実施形態の絶縁劣化診断装置の構成を例示的に示すブロック図である。
図4図4は、実施形態の絶縁劣化診断装置の演算部が実行する絶縁劣化診断処理を例示的に示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態の回転電機におけるコロナ放電の放電電力と絶縁被膜の劣化状態との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態を開示する。以下に示される実施形態の構成(技術的特徴)、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、いずれも一例である。
【0010】
<回転電機システム1>
図1は、実施形態の回転電機システム1の構成を例示的に示す図である。図1に示されるように、回転電機システム1は、全閉外扇形の回転電機100と、絶縁劣化診断装置200と、を備える。回転電機100は、例えば三相誘導電動機である。なお、回転電機100は、上記に限定されない。絶縁劣化診断装置200は、回転電機100の絶縁劣化の診断を行う。
【0011】
<回転電機100の構成>
図1に示すように、回転電機100は、回転動作を行う回転電機本体2と、冷却器3と、筐体5と、を備える。筐体5は、回転電機本体2と冷却器3とに亘って設けられている。また、回転電機100の内部には、回転電機本体2と冷却器3とに亘って、冷却用気体(以下、単に気体と呼ぶ)で満たされた閉空間4が設けられている。気体は、例えば空気である。発熱体の一例である固定子13の発熱によって加熱された閉空間4の内部の気体が冷却器3にて外気と熱交換されることにより、回転電機本体2が冷却される。
【0012】
回転電機本体2は、フレーム11aと、回転子12と、固定子13と、を有する。
【0013】
フレーム11aは、上端開口の箱型に形成されている。フレーム11aは、回転子12の一部と固定子13とを収容している。なお、フレーム11aの上端には、仕切板11cが設置されて、フレーム11aの上端は仕切板11cによって塞がれている。フレーム11aと仕切板11cとによって、第1の筐体5aが構成される。フレーム11aは、筐体部材とも称される。
【0014】
回転子12は、ロータシャフト14と、回転子鉄心15と、を有する。ロータシャフト14のうち軸方向の両端部の間の部分には、回転子鉄心15が固定されている。
【0015】
ロータシャフト14は、二つの軸受16を介してフレーム11aに回転可能に支持されている。二つの軸受16は、ロータシャフト14の軸方向において回転子鉄心15の両側に位置する。軸受16は、例えば、すべり軸受やころがり軸受等である。
【0016】
ロータシャフト14の軸方向の両端部は、フレーム11aからフレーム11aの外部に突出している。ロータシャフト14の軸方向の一方の端部には、結合部14aが設けられている。結合部14aは、回転機械(不図示)と結合される。また、ロータシャフト14の軸方向の他方の端部には、外扇17が固定されている。外扇17は、ロータシャフト14と一体に回転する。また、ロータシャフト14における二つの軸受16と回転子鉄心15とのそれぞれの間には、内扇18が固定されている。内扇18は、ロータシャフト14と一体に回転する。内扇18は、回転することにより、固定子13および回転子12と冷却器3(より具体的には後述する熱交換器31)との間で気体を循環させる。すなわち、内扇18は、筐体5内に気流を発生させる。内扇18は、ファンの一例である。
【0017】
固定子13は、固定子鉄心19と、固定子巻線20と、を有する。固定子鉄心19は、ロータシャフト14の径方向における回転子鉄心15の外側に位置し、回転子鉄心15を囲む円筒状に形成されている。固定子巻線20は、ロータシャフト14の軸方向に延びるように固定子鉄心19の内周面19aに形成された複数のスロット23(図2参照)内を貫通して、くさび22(図2参照)によって、固定子鉄心19に固定されている。
【0018】
冷却器3は、熱交換器31と、外扇カバー32と、出口ガイド33と、を有する。
【0019】
熱交換器31は、複数の冷却管41と、入口端板42と、出口端板43と、冷却器カバー45とを有する。複数の冷却管41は、互いに並列に配置されている。入口端板42と出口端板43とは、冷却管41の軸方向の両端部を支持している。冷却器カバー45は、入口端板42と出口端板43とに亘って設けられて、冷却管41を収納している。
【0020】
入口端板42と、出口端板43と、冷却器カバー45とは、フレーム11bを構成している。フレーム11bは、回転電機本体2の上端部に固定されている。フレーム11bの下端には、仕切板11cが設置されて、フレーム11bの下端は、仕切板11cによって塞がれている。フレーム11bと仕切板11cとによって、第2の筐体5bが構成される。即ち、筐体5は、冷却器3を収容する第2の筐体5bと、回転電機本体2を収容する第1の筐体5aと、によって構成される。第1の筐体5aと第2の筐体5bとは仕切板5cによって仕切られている。フレーム11bは、筐体部材とも称される。
【0021】
冷却管41、入口端板42、出口端板43、冷却器カバー45、およびフレーム11aは、互いに接続されて、閉空間4を形成している。閉空間4におけるフレーム11a内の空間4aと冷却器カバー45内の空間4bとは、いずれも仕切板11cに形成された入口10aおよび二つの出口10bで互いに連通している。入口10aは、フレーム11aにおける、固定子13の上方の部分に形成されている。二つの出口10bは、フレーム11aにおける内扇18の斜め上方の部分に形成されている。即ち、入口10aは、二つの出口10bの間に位置している。
【0022】
また、冷却器カバー45内には、二つのガイド板44が設けられている。二つのガイド板44は、入口端板42と出口端板43との間で、冷却管41の軸方向に互いに間隔を空けて並べられている。二つのガイド板44は、冷却器カバー45内の空間4bの底部から上方に延びて、冷却器カバー45内の空間4bのうち上部連通空間4cを除く空間を冷却管41の軸方向に仕切っている。
【0023】
外扇カバー32は、入口端板42に固定され、外扇17を収納している。外扇カバー32には、吸込口37が設けられており、外扇17が回転することにより、外気が吸込口37から外扇カバー32内に流入する。また、外扇17により外扇カバー32内に流入した外気が複数の冷却管41の内側に流入するように、外扇カバー32が入口端板42と接続されている。また、外扇カバー32内には、吸込口37から外扇カバー32内に流入した外気が外扇17を通過して複数の冷却管41に流れるように外気をガイドするガイド部材46が設けられている。
【0024】
出口ガイド33は、出口端板43に固定されている。出口ガイド33は、複数の冷却管41から流出する外気が所定の方向に流れるようにガイドする。
【0025】
また、回転電機100は、オゾン濃度計211と、温度計212と、湿度計213と、風速計214と、を備える。オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214は、筐体5のうち第1の筐体5aに収容されている。オゾン濃度計211、温度計212、および湿度計213は、例えば、固定子鉄心19から突出した固定子巻線20の端部の近傍に設置されている。オゾン濃度計211は、例えば、第1の筐体5a内のオゾン濃度を計測する。温度計212は、第1の筐体5a内の温度を計測する。湿度計213は、第1の筐体5a内の湿度を計測する。風速計214は、第1の筐体5a内の気流の風速(気体の速度)を計測する。風速計214は、例えば、内扇18の下流側に配置されている。ここで、第1の筐体5a内の風速は、回転電機100の定速回転運転時には、略一定の値となる。なお、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214の設置位置は、図1に示される位置に限定されない。また、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214は、一例として、測定対象の測定時のみ第1の筐体5aに収容(設置)される。すなわち、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214は、第1の筐体5aに常時収容(設置)されていなくてもよい。なお、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214は、第1の筐体5aに常時収容(設置)されていてもよい。
【0026】
<回転電機100における気体の流れ>
次に、回転電機100の内部における気体の流れについて説明する。
【0027】
まず、閉空間4内の冷却用気体(気体)について説明する。閉空間4におけるフレーム11a内の空間4aの気体は、ロータシャフト14と一体に回転する二つの内扇18により圧送されて、回転子12および固定子13に沿って流れて回転子12および固定子13を冷却した後、固定子鉄心19の径方向外側に流出する。このとき、気体は、回転子12および固定子13のそれぞれに設けられた通風路を通過する。固定子鉄心19の径方向外側に流出した気体は、気流F1を形成して、入口10aを経由して冷却器3内の空間4bに流入する。冷却器3の空間4bに流入した気体は、冷却管41の外側を通過する過程で、冷却管41内を流れる外気と熱交換し冷却されながら、二つのガイド板44の間を上昇して上部連通空間4cに流出する。
【0028】
上部連通空間4cの気体は、冷却管41の軸方向に互いに反対方向に分流して、入口端板42とガイド板44との間と、出口端板43とガイド板44との間とを、それぞれ冷却管41内の外気と熱交換し冷却されながら下降する。その後、気体は、気流F2,F3を形成して、出口10bを介してフレーム11a内の空間4aに戻り、再びそれぞれ内扇18に流入する。
【0029】
次に、外気の流れを説明する。外気は、ロータシャフト14と一体に回転する外扇17により吸込口37から外扇カバー32内に流入し、外扇カバー32内を通過して入口端板42に到達する。入口端板42に到達した外気は、入口端板42で開口している各冷却管41内に流入し、冷却管41内で冷却管41外側の気体から熱を受けて温度上昇しながら冷却管41内を通過した後、出口端板43側の開口から冷却器3の外部に流出する。このように、冷却管41の内側の外気と冷却管41の外側の気体との間で熱交換が行われることにより、回転子12および固定子13の冷却が行われる。
【0030】
<固定子13の巻線構造>
次に、図2を用いて、固定子13の巻線構造を説明する。図2は、実施形態の回転電機100における固定子13の固定子巻線20を例示的に示す断面図である。
【0031】
図2に示すように、固定子13を構成する固定子鉄心19には、内周面19aに沿って、複数のスロット23が形成される。スロット23の内部には、固定子巻線20が上下2層に巻回される。固定子巻線20の表面は、絶縁被膜21によって被覆されている。絶縁被膜21は、絶縁体の一例である。
【0032】
固定子巻線20の上方には、くさび22が嵌合される。くさび22は樹脂部材等の絶縁部材で形成される。くさび22は、回転電機100が回転した際の振動によって、固定子巻線20が、スロット23から脱落するのを防止する。
【0033】
<絶縁劣化診断装置200の構成>
次に、図3を用いて、絶縁劣化診断装置200を説明する。図3は、実施形態の絶縁劣化診断装置200の構成を例示的に示すブロック図である。
【0034】
図3に示されるように、絶縁劣化診断装置200は、演算部201と、記憶装置202と、通信部203と、入出力部204と、を備える。演算部201と、記憶装置202、通信部203、および入出力部204は、情報および信号を授受可能に接続されている。
【0035】
記憶装置202は、各種の情報を記憶する。記憶装置202は、公知の記憶媒体である。
【0036】
通信部203は、他の装置と通信するための通信インターフェースである。例えば、通信部203は、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214と有線通信する。なお、通信部203は、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214と無線通信してもよい。
【0037】
入出力部204は、作業者等の操作者からの操作指示を受け付ける入力部と、画像を表示する表示部と、を備える。入力部は、例えば、キーボード、マウス、などである。表示部は、例えば、液晶表示装置や、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどである。入出力部204は、入力部と表示部とを一体に備えたタッチパネル付ディスプレイであってもよい。
【0038】
演算部201は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、を有する。すなわち、演算部201は、コンピュータである。CPUは、ROM等に記憶されたプログラムを読み出して実行する。また、CPUは、各種演算処理を並列処理可能に構成されている。RAMは、CPUがプログラムを実行して種々の演算処理を実行する際に用いられる各種データを一時的に記憶する。演算部201は、演算部や情報処理部とも称される。
【0039】
演算部201は、機能的構成として、取得部201aと、診断部201bと、を有する。これらの機能的構成は、CPUがROM等に記憶されたプログラムを実行した結果として実現される。なお、上記の機能的構成の一部または全部が専用のハードウェア(回路)によって実現されてもよい。
【0040】
取得部201aは、各種情報や信号を取得する。例えば、取得部201aは、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214から、第1の筐体5a内の、オゾン濃度、温度、湿度、および風速を取得する。
【0041】
診断部201bは、取得部201aによって取得された情報(オゾン濃度、温度、湿度、風速)に基づいて、絶縁被膜21の劣化を診断する。
【0042】
<劣化診断方法>
以下に、絶縁被膜21の劣化の診断方法である劣化診断方法を説明する。
【0043】
(オゾンの発生と分解)
まずは、オゾンの発生と分解とについて説明する。オゾンの自然分解において、単位体積あたりのオゾン分子(オゾン濃度)の時間経過にともなう変化は、微分方程式として記述することができる。まず、オゾンの分解定数(以後、オゾン分解定数とも称する)をλとし、時刻をtとし、t=0のときのオゾン分子数をNとすると、時刻tにおけるオゾン分子数N(t)は、次の微分方程式(式(1))に従う。
【数1】
この式(1)の解は、初期条件であるN(0)=Nから、
【数2】
となる。
一方、オゾン分子が、単位時間、単位体積あたりにq個生成され、オゾン分解定数λで分解されると考えると、オゾンの発生と分解は、次の微分方程式(式(3))で与えられる。なお、筐体5からのオゾンの漏れを考慮する場合は(λ)に替えて(λ+α)とすればよい。αは、所定の定数である。
【数3】
この式(3)の解は、次式(4)で示される。
【数4】
十分に時間が経ったとき(平衡時)の分子数は、q/λとなり、平衡状態に達した後で測定したオゾン濃度[О]と所定の容積Vとから、所定の容積Vでのオゾン分子数はV[О]となる。ここで、所定の容積V全体での単位時間あたりのオゾン発生個数をQとし、発生したオゾンは速やかに所定の容積内に拡散するものとする。所定の容積V全体での単位時間あたりのオゾン発生個数=オゾン発生速度とする。よって、以降では、オゾン発生速度にもQが用いられる。Q=qVおよびq/λ=[О]より、オゾン発生速度(すなわち、所定の容積V全体での単位時間あたりのオゾン発生個数)Qは、次式(5)により求めることができる。
【数5】
【0044】
(オゾン分解定数の推定)
オゾン分解定数については文献(Half-life time of ozone as a function of air movement and conditions in a sealed container)に示される次式(11)を用いる。
Y=2274.4+0.483×x1-8.49×x2-51.64×x3-12.01×x4 ・・・(式11)
ここで、上記式(11)においては、Y=オゾン半減期、x1=初期オゾン濃度、x2=風量、x3=温度、x4=湿度である。
上記文献では、様々な環境条件(温度、湿度、風量)の下でのオゾンの自然分解の半減期が求められている。オゾンの自然分解については先に示した式(2)にしたがうので、(式11)の半減期の定義から、
【数6】
が得られる。すなわち、
【数7】
である。
したがって、オゾンの半減期(t1/2)の測定結果(算出結果)からλを求めることができる。上記文献では様々な環境条件の下でオゾンの半減期(t1/2)が測定されているので、それを用いてλに対する温度、湿度および風量の影響を検討することができる。すなわち、回転電機100の筐体5内の温度、湿度および風量が分かれば、λが求まる。ここで、本実施形態では、風量として内扇18の風量が用いられる。内扇18の風量は、風速および内扇18の羽根の径から求めることができる。
【0045】
(コロナ放電によるオゾンの発生)
大気中での放電によるオゾン生成反応は次のようになると考えられる。ここで、「k」
は反応速度定数を表す。
【数8】
とkとは、放電状態すなわち電子のエネルギ分布のみで決まる反応速度定数であり、k2とkとは、気体の温度で決まる反応速度定数である。
【0046】
さらに、
【数9】
である。
【0047】
式(31)は、式(22)と同じオゾン生成過程で第三物体がN(窒素)の場合であり、kとk´との比は、1:0.89となり、第三物体としての酸素と窒素との効果には大差がない。式(32)は、電子によるNからからN *への励起であり、式(33)は、N *によるO(酸素)の解離であり、式(34)および式(35)は、N *の脱励起であり、式(36)は、N *によるにOの分解反応である。ここで、kN1は、E/nで決まり、kN2、kN3、k´N3およびkN4は主に気体温度で決まる。ここで、E/nは換算電界であり、Eは電界であり、nは空気密度である。オゾン生成の初期過程では、式(21),(22)に式(31)~(35)を加えればよい。したがって、最大オゾン収率(Yo/W)maxは、次式(37)のようになる。ここで、Yoは、オゾン発生量、Wは放電電力を表す。
【数10】
ここで、上記式(37)におけるxは全圧に対する酸素の分圧比であり、cは所定の定数である。すなわち、
【数11】
である。
したがって、
【数12】
である。
すなわち、オゾン濃度が低濃度の場合、単位時間当たりのオゾン収量(=オゾン発生量)は放電電力Wに比例する。上記のオゾン発生速度と合わせて考えると、
【数13】
となり、オゾン濃度と放電電力Wとの関係はオゾン分解定数に依存する。上記式(40)のcは、所定の定数である。
【0048】
以上から、筐体5内のオゾン濃度、温度、湿度、および風速から、コロナ放電の放電電力Wを求めることができる。ここで、放電電力Wと絶縁体(絶縁被膜21)の放電面積との関係は、例えば実験で取得され、それらの関係を示す関係式が記憶装置202に記憶される。これにより、算出された放電電力Wと絶縁体の劣化状態との関係が求まる。また、以上から分かるように、コロナ放電の放電電力Wの算出においては、気体(酸素、窒素)の反応速度係数が使用される。
【0049】
なお、オゾン濃度は、回転電機100の運転中に計測される。オゾンは、熱分解されやすいので、オゾン濃度は、回転電機100内においてできるだけ低い温度の部位で計測した方が望ましい。なお、運転停止中に、運転中のオゾン濃度を推定してもよい。例えば、オゾン濃度の測定時の筐体5内の温度および湿度と、運転時の温度、湿度、流速および運転停止からオゾン測定までの時間の情報と、を用いて、温度、湿度の減衰特性を考慮して、測定オゾン濃度から、運転中のオゾン濃度を推定してよい。
【0050】
<絶縁劣化診断処理>
次に、絶縁劣化診断装置200の演算部201が実行する絶縁劣化診断処理を図4および図5に基づいて説明する。絶縁劣化診断処理は、上記の絶縁劣化方法を用いて劣化診断を行う。
【0051】
図4は、実施形態の絶縁劣化診断装置200の演算部201が実行する絶縁劣化診断処理を例示的に示すフローチャートである。図5は、実施形態の回転電機100におけるコロナ放電の放電電力と絶縁被膜21の劣化状態との関係を示す図である。
【0052】
まず、図4に示されるように、取得部201aが、オゾン濃度計211、温度計212、湿度計213、および風速計214から、第1の筐体5a内の、オゾン濃度、温度、湿度、および風速を取得する(S101:取得ステップ)。ここで、取得される第1の筐体5a内の気流の風速は、風速計214が設置された場所の風速である。
【0053】
次に、診断部201bが、取得部201aによって取得された第1の筐体5a内の温度、湿度、および風速に基づいてオゾン分解定数λを算出する(S102)。オゾン分解定数λは、式(14)から求まる。次に、診断部201bが、オゾン濃度およびオゾン分解定数λに基づいてオゾン発生速度Qを算出する(S104)。オゾン発生速度Qは、式(5)から求まる。次に、診断部201bが、オゾン発生速度Qに基づいてコロナ放電の放電電力を算出する(S104)。放電電力Wは、式(40)および式(5)を用いて求めることができる。
【0054】
次に、診断部201bが、算出された放電電力Wに基づいて、絶縁体の劣化状態、具体的には絶縁被膜21の劣化状態を判定する(S105)。このとき、診断部201bは、図5に示されるコロナ放電の放電電力Wと絶縁被膜21の劣化状態との関係から絶縁被膜21の劣化状態を判定する。すなわち、診断部201bは、コロナ放電の放電電力が大きい程、絶縁被膜21の劣化が激しい、すなわち劣化度合いが大きいと判定する。診断部201bは、判定結果すなわち診断結果を入出力部204から出力する(S106)。また、診断部201bは、絶縁被膜21の劣化が規定の状態を超えた場合には、入出力部204から警告を出力する。S102~S106は、診断ステップを構成する。
【0055】
ここで、上述のとおり、本実施形態では、一例として、第1の筐体5a内の風速は、回転電機100の定速回転運転時には、略一定の値となる。このため、回転電機100の定速回転運転時における絶縁劣化診断処理においては、第1の筐体5a内の風速の計測は、少なくとも1回行われればよい。このとき、例えば、風速計214による第1の筐体5a内の風速の測定が1回行われ、その測定結果(風速)が記憶装置202に記憶される。これにより、S101において、取得部201aは、記憶装置202に記憶された風速を取得(読み出し)することができる。この場合、取得部201aは、1回目の絶縁劣化診断処理においては、S101にて、風速を風速計214から取得するとともに記憶装置202に記憶させ、2回目以降の絶縁劣化診断処理においては、S101にて、風速を記憶装置202から取得してよい。また、別例として、取得部201aは、絶縁劣化診断処理の前に、風速計214から取得した風速を記憶装置202に記憶させ、1回目を含む毎回の絶縁劣化診断処理において、風速を記憶装置202から取得してもよい。なお、取得部201aは、1回目を含む毎回の絶縁劣化診断処理において、風速計214から風速を取得してもよい。
【0056】
<実施形態の効果>
以上のように、本実施形態の絶縁劣化診断方法は、筐体5と、筐体5に収容された固定子13と、筐体5に収容され固定子13に対して回転する回転子12と、筐体5に収容された絶縁被膜21(絶縁体)と、筐体5内に気流を発生させる内扇18(ファン)と、を備えた回転電機100に対する絶縁劣化診断方法である。絶縁劣化診断方法は、取得ステップと、診断ステップと、を含む。取得ステップでは、取得部201aが、回転電機100における筐体5内の、オゾン濃度、温度、湿度、および気流の風速を取得する。診断ステップでは、診断部201bが、オゾン濃度、温度、湿度、および気流の風速に基づいて、絶縁被膜21の劣化を診断する。よって、絶縁被膜21の劣化の診断に、オゾン濃度、温度、湿度の他に筐体5内の気流の風速も用いられるので、絶縁被膜21の劣化の診断をオゾン濃度、温度、湿度だけで行う場合に比べて、診断の精度を向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、診断ステップにおいて、診断部201bが、筐体5内で発生するコロナ放電の放電電力Wを、オゾン濃度、温度、湿度、および風速に基づいて算出し、放電電力Wに基づいて絶縁被膜21絶縁体の劣化を診断する。よって、診断の精度を一層向上させることができる。
【0058】
なお、上記実施形態では、絶縁体の一例として固定子鉄心19の絶縁被膜21の例が示されたが、これに限定されない。例えば、回転子12に巻線としての回転子巻線が設けられている場合には、回転子巻線の絶縁被膜が絶縁体の一例であってもよい。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
5…筐体、12…回転子、13…固定子、18…内扇(ファン)、21…絶縁被膜(絶縁体)、100…回転電機、200…絶縁劣化診断装置、201a…取得部、201b…診断部。
図1
図2
図3
図4
図5