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特許7560369有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用キット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用キット
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/007 20060101AFI20240925BHJP
   A61C 13/01 20060101ALI20240925BHJP
   A61C 13/14 20060101ALI20240925BHJP
   A61C 13/20 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61C13/007
A61C13/01
A61C13/14 Z
A61C13/20 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021010273
(22)【出願日】2021-01-26
(65)【公開番号】P2022114121
(43)【公開日】2022-08-05
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】磯部 佐智乃
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 浩史
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-130570(JP,A)
【文献】特公平04-072546(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0245891(US,A1)
【文献】特開平09-259248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00-13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯の製造方法であって、
前記義歯床に配置された前記人工歯の歯型である人工歯型の3次元データと、前記有床義歯の3次元データとを準備する3次元データ準備工程と、
底壁と、前記底壁から上方に延びる側壁と、前記底壁と前記側壁とで囲まれかつ義歯床用材料が注入される造形空間と、前記側壁に設けられかつ切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、前記底壁に設けられかつ前記切削装置によって切削されて前記人工歯の配置溝が形成される被切削領域と、前記底壁に設けられかつ前記底壁を上下方向に貫通しかつ前記造形空間と連通する複数の通気孔とを有する成型用型を準備する成型用型準備工程と、
前記被保持部を介して前記成型用型を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記人工歯型の3次元データに基づいて、前記被切削領域に前記配置溝を切削形成する成型用型切削工程と、
前記成型用型の気体透過率よりも高い気体透過率を有する載置台に前記配置溝が切削形成された前記成型用型を載置して、前記通気孔を塞ぐ載置工程と、
前記配置溝に前記人工歯を配置する人工歯配置工程と、
前記配置溝に前記人工歯が配置された状態で前記造形空間に前記義歯床用材料を注入し、前記義歯床用材料を硬化させることによって、前記成型用型と前記人工歯と前記義歯床用材料の硬化物とが一体化された一体物を作製する義歯床用材料硬化工程と、
前記被保持部を介して前記一体物を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記有床義歯の3次元データに基づいて、前記硬化物を加工する一体物加工工程と、を包含する、製造方法。
【請求項2】
前記義歯床用材料は、加熱重合レジンであり、
前記義歯床用材料硬化工程では、前記義歯床用材料を加熱して前記義歯床用材料を硬化させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成型用型はアクリル系樹脂から形成され、
前記載置台は、シリコーンから形成されている、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
複数の前記通気孔は、平面視で、前記底壁の中央部に設けられた内側通気孔を含み、
前記被切削領域は、円弧形状でありかつ前記内側通気孔を囲うように配置されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
複数の前記通気孔は、平面視で、前記被切削領域の外側に設けられた外側通気孔を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記成型用型準備工程では、前記被保持部から下方に延びる突出部を有する前記成型用型を準備し、
前記成型用型切削工程では、切り欠き部を有しかつ円弧形状に形成された第1部材と、リング状に形成されかつ前記第1部材に着脱可能に設けられかつ前記第1部材と共に前記被保持部を挟持する第2部材とを有し、かつ、前記成型用型を保持するアダプターを準備し、前記アダプターの前記切り欠き部に前記突出部を配置させることによって前記成型用型を前記アダプターに取り付け、前記アダプターを介して前記成型用型を間接的に前記切削装置に取り付ける、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯を製造するための成型用型であって、
底壁と、
前記底壁から上方に延びる側壁と、
前記底壁と前記側壁とで囲まれ、義歯床用材料が注入される造形空間と、
前記側壁に設けられ、切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、を備え、
前記底壁には、前記切削装置によって切削されて前記人工歯の配置溝が形成される被切削領域と、前記底壁を上下方向に貫通しかつ前記造形空間と連通する複数の通気孔とが設けられている、成型用型。
【請求項8】
複数の前記通気孔は、平面視で、前記底壁の中央部に設けられた内側通気孔を含み、
前記被切削領域は、円弧形状でありかつ前記内側通気孔を囲うように配置されている、請求項7に記載の成型用型。
【請求項9】
複数の前記通気孔は、平面視で、前記被切削領域の外側に設けられた外側通気孔を含む、請求項8に記載の成型用型。
【請求項10】
前記成型用型の前記底壁および前記側壁はアクリル系樹脂から形成され、
前記造形空間には、前記義歯床用材料として加熱重合レジンが注入される、請求項7から9のいずれか一項に記載の成型用型。
【請求項11】
切り欠き部を有しかつ円弧形状に形成された第1部材と、リング状に形成されかつ前記第1部材に着脱可能に設けられかつ前記第1部材と共に前記被保持部を挟持する第2部材とを有し、かつ、前記成型用型を保持するアダプターに保持されたときに、前記被保持部から下方に延びかつ前記切り欠き部に位置する突出部を備えている、請求項7から10のいずれか一項に記載の成型用型。
【請求項12】
請求項7から11のいずれか一項に記載の成型用型と、
前記成型用型が載置されかつ複数の前記通気孔を塞ぐ載置台と、を含み
前記載置台の気体透過率は、前記成型用型の気体透過率よりも高い、有床義歯製造用のキット。
【請求項13】
前記載置台は、シリコーンから形成されている、請求項12に記載の有床義歯製造用のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の欠損した歯を代替するために、義歯床と義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯が用いられている。近年、コンピュータ支援設計(Computer-aided design:CAD)およびコンピュータ支援製造(Computer aided manufacturing:CAM)技術の導入により、義歯床の作製は、コンピュータで設計した切削加工用のデータに基づいて切削装置で機械的に行われるようになってきている。従来の3次元データから有床義歯を作製する場合は、例えばまず、歯科用樹脂材料等を所望の形状に切削して義歯床を作製する。次に、別途用意した人工歯を、義歯床に接合する。
【0003】
一方、人工歯を義歯床に接合する作業は、依然として技工士が手作業で行うことが一般的である。すなわち、接着剤又は重合材料を用いて人工歯を一本ずつ地道に義歯床に接着することが一般的である。しかし、人工歯を一本ずつ義歯床に接着する作業は、例えば総義歯のように人工歯の本数が多い場合に、多大な時間や手間を要する。また、人工歯を接着する際、技工士は対合歯に対する位置合わせを行う必要があり、高度な技能が要求される。このため、技工士にとって負担が大きかった。さらに、技工士の技能に左右されて、有床義歯の品質にばらつきを生じるおそれがあった。かかる問題を解決すべく特許文献1には、義歯床と人工歯とを一体的に製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-130570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のように専用の成型用型に義歯床用材料を注入して義歯床と人工歯とを一体的に製造する場合、使用する義歯床用材料によっては重合の際に義歯床用材料の内部に比較的多くの気泡が発生することがあり得る。義歯床用材料の内部に気泡が存在する状態で重合が進むと、義歯床用材料の収縮が比較的大きくなり、その結果として硬化された義歯床用材料である硬化物にひび割れが発生することが起き得る。ひび割れが発生した硬化物は強度が低下しているため、かかる部材を用いて有床義歯を作製することはできない。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ひび割れや気泡の発生が抑制された有床義歯を作製することができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る製造方法は、義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯の製造方法である。前記製造方法は、前記義歯床に配置された前記人工歯の歯型である人工歯型の3次元データと、前記有床義歯の3次元データとを準備する3次元データ準備工程と、底壁と、前記底壁から上方に延びる側壁と、前記底壁と前記側壁とで囲まれかつ義歯床用材料が注入される造形空間と、前記側壁に設けられかつ切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、前記底壁に設けられかつ前記切削装置によって切削されて前記人工歯の配置溝が形成される被切削領域と、前記底壁に設けられかつ前記底壁を上下方向に貫通しかつ前記造形空間と連通する複数の通気孔とを有する成型用型を準備する成型用型準備工程と、前記被保持部を介して前記成型用型を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記人工歯型の3次元データに基づいて、前記被切削領域に前記配置溝を切削形成する成型用型切削工程と、前記成型用型の気体透過率よりも高い気体透過率を有する載置台に前記配置溝が切削形成された前記成型用型を載置して、前記通気孔を塞ぐ載置工程と、前記配置溝に前記人工歯を配置する人工歯配置工程と、前記配置溝に前記人工歯が配置された状態で前記造形空間に前記義歯床用材料を注入し、前記義歯床用材料を硬化させることによって、前記成型用型と前記人工歯と前記義歯床用材料の硬化物とが一体化された一体物を作製する義歯床用材料硬化工程と、前記被保持部を介して前記一体物を前記切削装置に直接的または間接的に取り付け、前記有床義歯の3次元データに基づいて、前記硬化物を加工する一体物加工工程と、を包含する。
【0008】
本発明の製造方法によると、複数の通気孔を有する成型用型を載置台に載置して、載置台によって通気孔を塞ぐ。そして、成型用型の造形空間に義歯床用材料を注入する。ここで、成型用型には通気孔が設けられているため、通気孔を介して義歯床用材料が成型用型の外部に流出し得るが、載置台によって通気孔が塞がれているため、造形空間に注入された義歯床用材料は流出しない。また、造形空間に注入された義歯床用材料を硬化させる際に、気泡が発生し得る。ここで、載置台の気体透過率は成型用型の気体透過率よりも高いため、義歯床用材料の内部で発生した気泡(即ち気体)は通気孔および載置台自体を介して成型用型の外部へと排出される。このように、義歯床用材料を硬化させる際に発生する気泡は義歯床用材料の外部へと排出されるため、成型用型と義歯床用材料とがより密着して収縮が抑えられ、その結果硬化された義歯床用材料にひび割れや気泡が発生することが抑制される。
【0009】
本発明の一実施形態により、義歯床と前記義歯床に配置された人工歯とを備えた有床義歯を製造するための成型用型が提供される。前記成型用型は、底壁と、前記底壁から上方に延びる側壁と、前記底壁と前記側壁とで囲まれ、義歯床用材料が注入される造形空間と、前記側壁に設けられ、切削装置に直接的または間接的に取り付けられる被保持部と、を備え、前記底壁には、前記切削装置によって切削されて前記人工歯の配置溝が形成される被切削領域と、前記底壁を上下方向に貫通しかつ前記造形空間と連通する複数の通気孔とが設けられている。
【0010】
ここに開示される成型用型を用いることで、義歯床用材料とより密着して収縮が抑えられ、その結果硬化された義歯床用材料にひび割れや気泡が発生することが抑制される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ひび割れや気泡の発生が抑制された有床義歯を作製することができる製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る有床義歯を示す斜視図である。
図2】一実施形態に係る有床義歯の製造方法を示すフローチャートである。
図3】一実施形態に係る有床義歯のSTLデータである。
図4】一実施形態に係る人工歯型のSTLデータである。
図5】一実施形態に係る成型用型の上面図である。
図6】一実施形態に係る成型用型の下面図である。
図7】一実施形態に係る成型用型の斜視図である。
図8】一実施形態に係るアダプターを示す平面図である。
図9】一実施形態に係るアダプターの本体部の平面図である。
図10】一実施形態に係るアダプターの本体部に成型用型が保持された状態を示す平面図である。
図11】一実施形態に係るアダプターの保持板の平面図である。
図12】一実施形態に係る切削装置の正面図である。
図13】一実施形態に係るツールマガジンの斜視図である。
図14】一実施形態に係る回転支持部材およびクランプの斜視図である。
図15】一実施形態に係る切削装置の制御系のブロック図である。
図16】一実施形態に係る成型用型の被切削領域に切削形成された配置溝を示す平面図である。
図17】一実施形態に係る載置台を示す斜視図である。
図18】一実施形態に係る載置台に成型用型が載置された状態を示す斜視図である。
図19】一実施形態に係る成型用型の配置溝に配置された人工歯を示す平面図である。
図20】一実施形態に係る一体物を示す平面図である。
図21】一実施形態に係る切削物を示す平面図である。
図22】他の一実施形態に係る成型用型の斜視図である。
図23】他の一実施形態に係る成型用型の上面図である。
図24】他の一実施形態に係る成型用型の斜視図である。
図25】他の一実施形態に係る成型用型の下面図である。
図26】他の一実施形態に係る載置台を示す斜視図である。
図27】他の一実施形態に係る載置台に成型用型が載置された状態を示す斜視図である。
図28】他の一実施形態に係るアダプターを示す平面図である。
図29】他の一実施形態に係るアダプターを示す斜視図である。
図30】他の一実施形態に係るアダプターに成型用型が保持された状態を示す平面図である。
図31】他の一実施形態に係るアダプターに成型用型が保持された状態を示す斜視図である。
図32】他の一実施形態に係るアダプターに成型用型が保持された状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しながら、本実施形態(第1実施形態)に係る有床義歯の製造方法、成型用型および有床義歯製造用のキットについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を特に限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。また、図面中のF、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味する。ただし、これらの方向は、便宜上定めた方向であり、本実施形態を何ら限定するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」」(A,Bは任意の数字)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0014】
図1は、有床義歯10を示す斜視図である。有床義歯10は、上顎用の総義歯(全部床義歯)である。有床義歯10は、義歯床20と、義歯床20に配置された複数の人工歯15と、を備えている。人工歯15は、義歯床20に接合されている。なお、図1には、人工歯15の側を上方に向けた状態、即ち患者に装着されるときとは上下が反転された状態を示している。人工歯15は、ここでは複数(合計14本)である。人工歯15は、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ジルコニア、グラスセラミックス、グラスファイバー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ハイブリッドレジン等の各種材料から形成されている。人工歯15は、複数の人工歯が一体化されたブリッジの形態であってもよい。義歯床20は、例えば、歯科用樹脂材料や歯科用セラミック材料等の義歯床用材料から形成されている。以下では、一例として有床義歯10を製造する手順を説明する。
【0015】
図2は、有床義歯10を製造する手順を示したフローチャートである。本実施形態の製造方法は、3次元データ準備工程(ステップS10)と、成型用型準備工程(ステップS20)と、成型用型切削工程(ステップS30)と、載置工程(ステップS40)と、人工歯配置工程(ステップS50)と、義歯床用材料硬化工程(ステップS60)と、一体物加工工程(ステップS70)と、を包含する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。また、3次元データ準備工程(ステップS10)と成型用型準備工程(ステップS20)との順番は逆であってもよい。載置工程(ステップS40)と人工歯配置工程(ステップS50)との順番は逆であってもよい。以下、各工程について詳述する。
【0016】
まず、3次元データ準備工程(ステップS10)では、少なくとも1種類または2種類の3次元データを準備する。3次元データは、例えばSTL(Standard Triangulated Language)データである。本工程は、第1のSTLデータ準備工程(ステップS11)と、第2のSTLデータ準備工程(ステップS12)と、を包含する。STLデータは、例えば、コンピュータ支援設計装置(CAD装置)によって作成される。CAD装置は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。CADソフトの一例として、3Shape社製の3shape dental system(商標)が挙げられる。
【0017】
ステップS11では、第1のSTLデータとして、有床義歯10を表すSTLデータ(以下、有床義歯10のSTLデータという。)10Aを準備する。有床義歯10のSTLデータ10Aは、後述するステップS70で一体物13を切削する際に用いられる。図3は、有床義歯10のSTLデータ10Aの一例である。有床義歯10のSTLデータ10Aは、義歯床20を表すSTLデータ20Aと、義歯床20に配置された人工歯15を表すSTLデータ15Aと、を含んでいる。有床義歯10のSTLデータ10Aは、通常、患者ごとに作成される。ただし、例えば用途等によっては、市販されている模擬的な有床義歯10のSTLデータをそのまま利用することもできる。
【0018】
ステップS12では、第2のSTLデータとして、人工歯15の歯並び(歯列)を表す、人工歯型46のSTLデータ(以下、人工歯型46のSTLデータという。)16Aを準備する。人工歯型46のSTLデータ16Aは、後述するステップS30で成型用型40を切削する際に用いられる。人工歯型46のSTLデータ16Aは、成型用型40に人工歯15を配置するための人工歯型46(図16参照)を形成する際に用いられる。図4は、人工歯型46のSTLデータ16Aの一例である。人工歯型46のSTLデータ16Aは、複数の配置溝46A(図16参照)のSTLデータ17Aを含んでいる。配置溝46AのSTLデータ17Aには、配置される人工歯15のサイズ、位置、向き等が反映されている。人工歯型46は配置溝46Aから構成される。人工歯型46のSTLデータ16Aには、有床義歯10に含まれる全ての人工歯15(ここでは合計14個)が現れている。人工歯型46のSTLデータ16Aは、典型的には有床義歯10のSTLデータ10Aに基づいて作成される。有床義歯10のSTLデータ10Aと、人工歯型46のSTLデータ16Aとは、人工歯15の配置位置の情報が共通している。
【0019】
次に、成型用型準備工程(ステップS20)では、成型用型40を準備する。図5は、成型用型40の上面図である。図6は、成型用型40の下面図である。成型用型40は、有床義歯10を製造するための型枠である。成型用型40は、アダプター30(図8参照)を介して、切削装置60(図12参照)に間接的に取り付け可能なように構成されている。ただし、成型用型40は、切削装置60に直接的に取り付け可能なように構成されていてもよい。成型用型40は、後述するステップS30およびステップS70において、それ自体が切削装置60で切削加工される消耗品である。成型用型40は、後述する有床義歯製造用のキットに含まれ得る。
【0020】
成型用型40は、成形容易性や軽量性等の観点から、例えば樹脂材料で構成されている。樹脂は、熱硬化性であってもよく熱可塑性であってもよい。特に限定されるものではないが、樹脂材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、等が例示される。これらの樹脂材料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂材料は、ブレンドして用いてよく、あるいは別々の箇所を構成する材料として用いてもよい。また、成型用型40は、セラミック材料や金属材料から形成されていてもよい。耐熱性の観点から、成型用型40はアクリル系樹脂のうちポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)から構成されているとよい。図6に示すように、成型用型40は、PMMAからなるメイン部材40Aと補強部材40Bとの組合せで構成されている。メイン部材40Aと、補強部材40Bとは、インサート成形の手法によって一体化されている。
【0021】
図5に示すように、メイン部材40Aは、底壁45と、第1側壁41と、第2側壁42と、第3側壁43と、第4側壁44と、を備えている。底壁45の表面は、平坦である。第1側壁41は、底壁45の後部から上方に延びている。第2側壁42は、底壁45の前部から上方に延びている。第1側壁41および第2側壁42は、相互に対向している。第3側壁43は、底壁45の左部から上方に延びている。第3側壁43は、第1側壁41の左端と第2側壁42の左端とを接続している。第3側壁43は、第4側壁44から離れる方向に湾曲している。第4側壁44は、底壁45の右部から上方に延びている。第4側壁44は、第1側壁41の右端と第2側壁42の右端とを接続している。第4側壁44は、第3側壁43から離れる方向に湾曲している。第3側壁43および第4側壁44は、相互に対向している。第1側壁41の上面41Aと、第2側壁42の上面42Aと、第3側壁43の上面43Aと、第4側壁44の上面44Aとは面一に形成されている。即ち、底壁45から上面41A~44Aの高さは相互に同じである。本実施形態において、第1側壁41~第4側壁44は、底壁45から上方に延びる側壁の一例である。
【0022】
図5に示すように、メイン部材40Aは、開口47と造形空間48とを備えている。開口47は、底壁45と対向する位置に形成されている。即ち、メイン部材40Aは、上方が開口している。造形空間48は、底壁45と、第1側壁41と、第2側壁42と、第3側壁43と、第4側壁44と、によって囲まれた空間である。造形空間48は、平面視において有床義歯10よりも大きい。造形空間48の深さ、即ち、底壁45から第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44Aまでの長さは、有床義歯10の最大厚み(人工歯15の延伸方向の最大長さ)よりも長い。造形空間48には、後述するステップS60で、後述する義歯床用材料が注入される。造形空間48の内壁面は、義歯床用材料と同種の樹脂材料で形成されているとよい。特に、底壁45は、義歯床用材料と同種の樹脂材料で形成されているとよい。これにより、後述するステップS60で義歯床用材料の硬化物21(図20参照)との接合性が高められる。
【0023】
図5に示すように、底壁45には、切削装置60(図12参照)によって切削されて人工歯15の配置溝46A(図16参照)が形成される被切削領域55と、底壁45を上下方向に貫通しかつ造形空間48と連通する複数の通気孔58(図7も参照)とが設けられている。被切削領域55には、後述するステップS30で配置溝46Aが形成される。配置溝46Aには、後述するステップS50で人工歯15が配置される。被切削領域55は、円弧形状に形成されている。被切削領域55は、通気孔58を囲うように配置されている。通気孔58は、平面視で、底壁45の中央部に設けられている。本実施形態では、9個の通気孔58が設けられているが、その数は9個に限定されない。また、通気孔58は、平面視で被切削領域55の外側の領域に設けられていてもよい。特に限定されるものではないが、通気孔58の直径は、概ね2mm~4mm、例えば3mmである。また、底壁45に対する通気孔58の割合(即ち通気孔58の開口率)は、概ね3%~8%、例えば4%~5%である。
【0024】
図5に示すように、メイン部材40Aは、第1被保持部51と、第2被保持部52と、を備えている。第1被保持部51と、第2被保持部52とは、アダプター30に保持される部位である。第1被保持部51と、第2被保持部52とは、アダプター30を介して切削装置60に保持される。第1被保持部51および第2被保持部52は、被保持部の一例である。第1被保持部51は、第1側壁41の後部に設けられている。第2被保持部52は、第2側壁42の前部に設けられている。第1被保持部51の上面と、第2被保持部52の上面とは、同一平面内にある。第1被保持部51の下面と、第2被保持部52の下面とは、同一平面内にある。本実施形態では、第1被保持部51の長さL51と、第2被保持部52の長さL52とが、相互に異なっている。第1被保持部51の長さL51は、第2被保持部52の長さL52よりも長い。ただし、長さL51、L52は、同じであってもよい。
【0025】
図5に示すように、第1被保持部51には、第1凹部51Aが形成されている。第1凹部51Aは、第1側壁41の略中央に形成されている。第1凹部51Aは、第2側壁42に向かって凹んでいる。第1凹部51Aは、上下方向に貫通している。第1凹部51Aには、後述するステップS30において、ねじ33(図8参照)が挿入される。第2被保持部52には、第2凹部52Aと、第3凹部52Bと、が形成されている。第2凹部52Aは、第3凹部52Bよりも左方に形成されている。第2凹部52Aは、第1凹部51Aよりも左方に位置している。第3凹部52Bは、第1凹部51Aよりも右方に位置している。第2凹部52Aと、第3凹部52Bとは、第1側壁41に向かって凹んでいる。第2凹部52Aと、第3凹部52Bとは、上下方向に貫通している。第2凹部52Aと、第3凹部52Bには、後述するステップS30において、ねじ33が挿入される。
【0026】
図6に示すように、第1被保持部51の下面には、2つの突起部51Xが設けられている。2つの突起部51Xは、第1凹部51Aの左右に形成されている。突起部51Xは、第1被保持部51から離れるように下方に延びている。突起部51Xは、後述するステップS30において、アダプター30の嵌合溝32X(図9参照)にそれぞれ嵌め込まれる。第2被保持部52の下面には、突起部52Xが設けられている。突起部52Xは、第2凹部52Aと第3凹部52Bとの略中間に形成されている。突起部52Xは、第2被保持部52から離れるように下方に延びている。突起部52Xは、後述するステップS30において、アダプター30の嵌合溝32Y(図9参照)に嵌め込まれる。
【0027】
図6に示すように、補強部材40Bは、メイン部材40Aの下面に取り付けられている。補強部材40Bは、平面視で略U字形状に形成されている。補強部材40Bは、底壁45の下面に沿って配置されている。補強部材40Bは、造形空間48の内壁面を構成しない。補強部材40Bは、下面視で通気孔58と重ならない。本実施形態では、補強部材40Bは、メイン部材40Aと同種の材料(例えば同種の樹脂材料)で構成されていが、補強部材40Bは、メイン部材40Aと異なる樹脂材料で構成されていてもよい。また、補強部材40Bは必須ではなく、省略することもできる。
【0028】
次に、成型用型切削工程(ステップS30)では、切削装置60を用いて、成型用型40の底壁45の被切削領域55を切削し、被切削領域55に人工歯型46を構成する配置溝46Aを切削形成する。本工程は、例えば、切削データの作成工程(ステップS31)と、成型用型40のアダプター30への取り付け工程(ステップS32)と、切削装置60の準備工程(ステップS33)と、成型用型40の切削加工工程(ステップS34)と、を包含する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。
【0029】
ステップS31では、3次元データ準備工程(ステップS10)で準備した人工歯型46の3次元データ(典型的にはSTLデータ)16Aに基づいて、人工歯型46の切削データを作成する。切削データは、いわゆる、NCデータである。切削データは、例えば、CAD装置と通信可能に接続されたコンピュータ支援製造装置(CAM装置)によって作成される。
【0030】
ステップS32では、成型用型40をアダプター30に取り付ける。図8は、アダプター30を示す平面図である。アダプター30は、成型用型40を切削装置60に取り付けるための取付具である。アダプター30は、本体部32と、保持板37と、を備えている。本体部32は、第1部材の一例である。保持板37は、第2部材の一例である。成型用型40は、本体部32と保持板37との間に挟持される。図9および図10は、本体部32の平面図である。なお、図10は、本体部32に成型用型40が保持された状態を示している。図11は、保持板37の平面図である。成型用型40は、第1被保持部51および第2被保持部52を介してアダプター30に保持される。アダプター30は、後述する有床義歯製造用のキットに含まれ得る。
【0031】
図9に示すように、本体部32は、第1部分32Aと、第2部分32Bと、第3部分32Cと、第4部分32Dと、を有している。第1部分32Aには、第2部分32Bから離れる方向に凹む2つの嵌合溝32Xが形成されている。2つの嵌合溝32Xには、成型用型40の2つの突起部51X(図6参照)が嵌め込まれる。第2部分32Bには、第1部分32Aから離れる方向に凹む嵌合溝32Yが形成されている。嵌合溝32Yには、成型用型40の突起部52X(図6参照)が嵌め込まれる。第3部分32Cは、第1部分32Aの左端と第2部分32Bの左端とを接続している。第4部分32Dは、第1部分32Aの右端と第2部分32Bの右端とを接続している。第1部分32A~第4部分32Dの内部には、開口32Hが形成されている。成型用型40の造形空間48(図5参照)は、開口32H内に配置される。第1部分32Aには、成型用型40の第1被保持部51(図5参照)が対向される。第2部分32Bには、成型用型40の第2被保持部52(図5参照)が対向される。
【0032】
図10に示すように、本体部32の第1部分32Aには、1つのねじ孔34Aが形成されている。本体部32に成型用型40が保持されたとき、ねじ孔34Aは、平面視で成型用型40の第1被保持部51(図5参照)に形成された第1凹部51Aに重なる。本体部32の第2部分32Bには、2つのねじ孔34Bが形成されている。本体部32に成型用型40が保持されたとき、2つのねじ孔34Bは、平面視で、成型用型40の第2被保持部52(図5参照)に形成された第2凹部52Aおよび第3凹部52Bに重なる。このため、成型用型40(詳しくは、第1被保持部51および第2被保持部52)は、ねじ33で締結されない。
【0033】
図11に示すように、保持板37の外形は、リング状である。保持板37は、本体部32に着脱可能に設けられている。保持板37は、第1部分37Aと、第2部分37Bと、第3部分37Cと、第4部分37Dと、を有している。第1部分37Aは、本体部32の第1部分32Aと対向する部位である。第1部分37Aは、成型用型40の第1被保持部51(図5参照)を本体部32に向かって押圧する部位である。第2部分37Bは、本体部32の第2部分32Bと対向する部位である。第2部分37Bは、成型用型40の第2被保持部52(図5参照)を本体部32に向かって押圧する部位である。第3部分37Cは、本体部32の第3部分32Cと対向する部位である。第4部分37Dは、本体部32の第4部分32Dと対向する部位である。第1部分37A~第4部分37Dの内部には、開口37Hが形成されている。成型用型40の造形空間48(図5参照)は、開口37H内に配置される。
【0034】
保持板37の第1部分37Aには、平面視で本体部32のねじ孔34Aと重なる位置に、ねじ孔38Aが形成されている。保持板37の第2部分37Bには、平面視で本体部32のねじ孔34Bと重なる位置に、ねじ孔38Bが形成されている。
【0035】
図8に示すように、本体部32に成型用型40を保持し、保持板37で押圧した状態で、本体部32のねじ孔34A、34Bと、保持板37のねじ孔38A、38Bとを貫通させるように、ねじ33を挿入し、合計3箇所のねじ孔34にそれぞれ、ねじ33を締結する。これにより、本体部32と保持板37とが締結される。成型用型40の第1被保持部51は、本体部32の第1部分32Aと保持板37の第1部分37Aとに挟持される。成型用型40の第2被保持部52は、本体部32の第2部分32Bと保持板37の第2部分37Bとに挟持される。本実施形態では、成型用型40をアダプター30で安定して保持することができるため、切削加工時の位置ずれ、特にはクランプ66のXY平面(図14参照)内での位置ずれを抑制することができる。
【0036】
ステップS33では、切削装置60を準備する。図12は、切削装置60の正面図である。図12は、カバー62を開けた状態を示している。以下の切削装置60に関する説明において、左方、右方とは、切削装置60の正面にいる作業者(技工士)から見た左方、右方をそれぞれ意味する。また、切削装置60から作業者に近づく方を前方、遠ざかる方を後方とする。切削装置60は、相互に直交する軸を、X軸、Y軸、Z軸としたとき、X軸とY軸とで構成される平面に配置されている。X軸は左右方向に延びた軸である。Y軸は前後方向に延びた軸である。Z軸は上下方向に延びた軸である。また、符号θx、θy、θzは、それぞれX軸回り、Y軸回り、Z軸回りの回転方向を示している。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、切削装置60の設置態様を何ら限定するものではない。
【0037】
図12に示すように、切削装置60は、ケース本体61と、カバー62と、スピンドル63と、ツールマガジン64(図13も参照)と、回転支持部材65(図14も参照)と、クランプ66(図14参照)と、制御装置90と、を備えている。ケース本体61は、箱状に形成されており、内部に加工空間61Aを有している。ケース本体61の前部は開口している。カバー62は、ケース本体61の前端に沿って上下方向に移動可能に構成されている。カバー62は、加工空間61Aを開閉自在に構成されている。カバー62が上方に移動することで、ケース本体61の加工空間61Aと外部とが連通される。カバー62には、窓62Aが設けられている。作業者は、例えば切削加工時に、窓62Aから内部の加工空間61Aを視認することができる。
【0038】
スピンドル63は、切削加工時に加工ツール78を把持する。スピンドル63は、加工ツール78を回転させて、成型用型40の底壁45の被切削領域55(図5参照)を切削する。スピンドル63は、ツール把持部71と、ツール把持部71の上端に設けられた回転部72と、を備えている。ツール把持部71は、加工ツール78の上端部を把持するものである。回転部72は、ツール把持部71に把持された加工ツール78を回転させるものである。回転部72は、上下方向に延びている。回転部72には、第1駆動モータ72a(図15参照)が接続されている。第1駆動モータ72aは、制御装置90に接続されており、制御装置90によって制御される。第1駆動モータ72aが駆動することで、回転部72は、Z軸回りθzに回転可能に構成されている。回転部72の回転に伴い、ツール把持部71に把持された加工ツール78はZ軸回りθzに回転する。また、回転部72には、図示しない第1駆動機構が設けられている。回転部72は、第1駆動機構によって左右方向および上下方向に移動するように構成されている。
【0039】
図13は、ツールマガジン64の斜視図である。図13に示すように、ツールマガジン64は、箱状に形成されている。ツールマガジン64の上面64Aには、加工ツール78を収容する複数の貫通孔81が形成されている。加工ツール78は、その上部が露出された状態で貫通孔81に挿通されている。加工ツール78を交換する際には、ツール把持部71によって把持されている加工ツール78を空いている貫通孔81に戻す。そして、ツール把持部71および回転部72を次に使用する加工ツール78の上方の位置まで移動させ、加工ツール78の上端をツール把持部71が把持する。
【0040】
図14は、回転支持部材65およびクランプ66の斜視図である。図14に示すように、ツールマガジン64には、回転支持部材65を回転可能に支持する第1回転軸83が設けられている。第1回転軸83は左右方向に延びており、回転支持部材65に連結している。ツールマガジン64には、図示しない第2駆動機構が設けられている。第1回転軸83は、第2駆動機構によって、X軸回りθxに回転可能に構成されている。第1回転軸83がX軸回りθxに回転することに伴って、回転支持部材65はX軸回りθxに回転する。回転支持部材65は、クランプ66を回転可能に支持している。回転支持部材65は、平面視で略U字形状に形成されている。回転支持部材65は、第1回転軸83と連結されている。回転支持部材65は、前後方向に延びた第1部分65Aと、第1部分65Aの後端から左方に延びた第2部分65Bと、第1部分65Aの前端から左方に延びた第3部分65Cとを備えている。クランプ66は、第2部分65Bおよび第3部分65Cに回転可能に支持されている。第3部分65Cには、クランプ66をY軸回りθyに回転させる第2駆動モータ67が設けられている。
【0041】
クランプ66は、切削加工時に成型用型40を保持する部材である。本実施形態では、クランプ66は、成型用型40に取り付けられたアダプター30を保持する。クランプ66は、アダプター30を介して、成型用型40を間接的に保持する。なお、図14では、アダプター30の図示は省略している。成型用型40は、クランプ66によって保持された状態で、切削装置60によって切削加工される。
【0042】
図15は、制御装置90のブロック図である。制御装置90は、切削に関する制御を行う装置である。図12に示すように、制御装置90は、ケース本体61の内部に設けられている。ただし、制御装置90の一部は、ケース本体61の外部に配置され、有線または無線を介して切削装置60と通信可能に接続された汎用パーソナルコンピュータ等であっていてもよい。制御装置90のハードウェア構成は特に限定されない。制御装置90は、例えば、制御プログラムの命令を実行するCPUと、CPUが実行するプログラムを格納したROMと、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAMと、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置と、を備えている。
【0043】
制御装置90は、第1駆動モータ72aと第2駆動モータ67とに通信可能に接続され、それらを制御可能に構成されている。制御装置90は、第1駆動モータ72aの駆動を制御することで、スピンドル63の回転部72の回転を制御する。制御装置90は、回転部72を左右方向および上下方向に移動するように制御する。制御装置90は、第2駆動モータ67の駆動を制御することで、クランプ66のY軸回りθyの回転を制御する。制御装置90は、第1回転軸83をX軸回りθxに回転するように制御する。
【0044】
制御装置90は、記憶部91と、切削制御部92と、を備えている。制御装置90は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。記憶部91は、CAM装置と通信可能に接続されている。CAM装置によって作成された切削データは、記憶部91に記憶される。切削データには、スピンドル63の動作、および、成型用型40を保持するクランプ66の動作を座標値によって定義した加工工程が、典型的には複数記録されている。
【0045】
ステップS34では、成型用型40を切削装置60で切削加工する。切削制御部92は、記憶部91に記憶された切削データに基づいて、スピンドル63およびクランプ66の動作を制御し、切削加工の制御を行う。切削制御部92は、スピンドル63によって回転する加工ツール78の先端78a(図12参照)を、成型用型40の底壁45の被切削領域55(図5参照)に接触させることで、人工歯型46を構成する配置溝46A(図16参照)を切削する。図16は、成型用型40の底壁45に切削された配置溝46Aを示す平面図である。人工歯型46は、人工歯15を嵌め合わせるための複数の(ここでは合計14個の)配置溝46Aから構成されている。配置溝46Aは、例えば、2~5mm程度の深さを有している。
【0046】
次に、載置工程(ステップS40)では、配置溝46Aが切削形成された成型用型40を載置台95に載置する。成型用型40は、成型用型40の底壁45に形成された通気孔58を塞ぐように載置台95に載置される。なお、本工程は、成型用型40にアダプター30を取り付けたまま行ってもよいし、アダプター30を取り外してから行ってもよい。載置台95は、後述する有床義歯製造用のキットに含まれ得る。
【0047】
図17は、載置台95を示す斜視図である。図17に示すように、載置台95は略直方体形状に形成されている。載置台95の上面95Aには、下方に向けて凹む凹部96が形成されている。図18に示すように、凹部96には、成型用型40が嵌め込まれる。即ち、凹部96は、成型用型40の外形に沿った形状をしている。凹部96には、成型用型40の下部の一部が嵌め込まれる。図17に示すように、凹部96は、成型用型40の補強部材40Bと接触する第1部分96Aと、成型用型40の底壁45(即ちメイン部材40A)のうち通気孔58が形成されている部分と接触する第2部分96Bと、成型用型40の第1側壁41~第4側壁44の下端部と接触する第3部分96Cとを含む。第2部分96Bは、第1部分96Aより上方に位置する。凹部96(即ち第3部分96C)は、例えば、5mm~20mm程度の深さを有している。載置台95は、後述する義歯床用材料が重合する際に発生する気泡(気体)が透過可能に形成されている。載置台95は、成型用型40の気体透過率よりも高い気体透過率を有する。載置台95の気体透過率(例えば酸素透過率)は、例えば、概ね10000ml/m~100000ml/mである。これに対し、成型用型40の気体透過率(例えば酸素透過率)は、例えば、概ね10ml/m~100ml/mである。載置台は、例えば、シリコーンから形成されている。なお、図18に示す例では、底壁45に形成される配置溝46Aの図示を省略している。なお、成型用型40および載置台95の気体透過率(機体透過度)は、例えば日本工業規格JIS K 7126を用いて測定される。
【0048】
次に、人工歯配置工程(ステップS50)では、配置溝46Aが削り出された成型用型40を切削装置60から取り出し、成型用型40に人工歯15を配置する。なお、本工程は、成型用型40にアダプター30を取り付けたまま行ってもよいし、アダプター30を取り外してから行ってもよい。人工歯15としては、従来この種の用途に用いられているものを、特に限定なく使用することができる。
【0049】
図19は、成型用型40の配置溝46Aに配置された人工歯15を示す平面図である。図19に示すように、複数の人工歯15は、ステップS34で成型用型40の底壁45に切削形成された配置溝46Aに配置される。詳しくは、複数の人工歯15は、成型用型40に形成された複数の配置溝46Aに合うように、それぞれ配置される。これにより、それぞれの人工歯15が予め定められた位置に所定の向きで嵌め込まれる。切削装置60で配置溝46Aを切削することにより、技工士が人工歯15の配列や配置の向きを間違うリスクを軽減することができる。本実施形態では、人工歯15は、歯根の側を上方に向けて配置溝46Aに配置される。言い換えれば、人工歯15は、歯冠の側(下歯と接する方)を下側に向けて配置溝46Aに配置される。人工歯15を配置溝46Aに嵌め合わせる作業では、歯科用接着剤等を使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0050】
次に、義歯床用材料硬化工程(ステップS60)では、義歯床用材料を注入し硬化させることによって、成型用型40と人工歯15と義歯床用材料の硬化物21とを一体化する。なお、本工程は、成型用型40にアダプター30を取り付けたまま行ってもよいし、アダプター30を取り外してから行ってもよい。本工程は、例えば、義歯床用材料の準備工程(ステップS61)と、義歯床用材料の注入工程(ステップS62)と、一体物の作製工程(ステップS63)と、を包含する。本実施形態では、ステップS62とステップS63とを各1回行うことで、成型用型40と人工歯15と義歯床用材料の硬化物21とを一体化する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。
【0051】
ステップS61では、義歯床用材料を準備する。義歯床用材料としては、従来から義歯床の成型に用いられている公知の材料を、特に限定なく使用することができる。義歯床用材料としては、例えば、義歯床用レジン(義歯床用樹脂組成物ともいう。)等の歯科用樹脂材料、歯科用ワックス、歯科用セラミック材料、石膏等が挙げられる。義歯床用材料は、歯科用硬化性組成物であってもよい。義歯床用レジンは、重合性化合物を含みうる。義歯床用レジンとしては、例えば、65℃未満の温度で重合が開始される常温重合レジン、65℃以上(例えば80℃以上)の加熱にて重合が開始される加熱重合レジン、光照射によって重合が開始される光重合レジン等が挙げられる。なかでも、機械的強度に優れることや、比較的安価でかつ入手容易なこと等から、加熱重合レジンを好ましく使用することができる。
【0052】
義歯床用レジンは、成型用型40の材質と同種の樹脂を含むとよい。例えば成型用型40の造形空間48がPMMA等のアクリル系樹脂製である場合は、義歯床用レジンとしてアクリル系レジンを用いることが好ましい。ただし、義歯床用レジンとしては、例えばポリカーボネート系レジン、ポリアミド系レジン、ポリエステル系レジン等を用いることもできる。アクリル系レジンは、日本工業規格JIS T6501:2012に規定されるように、例えば、(1)メタクリル酸エステルの単独重合体およびメタクリル酸エステルを含む共重合体のうちの少なくとも一方を主成分(質量比で最も割合の高い成分。以下同じ。)とする粉末、(2)メタクリル酸エステルの単量体を主成分とする液体、または(1)と(2)との混合物である。アクリル系レジンは、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体を主成分とする粉末と、メタクリル酸メチル(MMA)を主成分とする液体と、の組合せであってもよい。アクリル系レジンは、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂を主成分とする粉末と、メタクリル酸メチル(MMA)を主成分とする液体と、の組合せであってもよい。アクリル系レジンは、上記以外の成分、例えば、反応開始剤、着色剤、安定剤、可塑剤、滑剤、界面活性剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0053】
アクリル系レジンとして、上記(1)と上記(2)との混合物を用いる場合は、まず、上記(1)の粉末と上記(2)の液体とを予め定められた比率で混和し、流動性の組成物を調製する。組成物には、(1)の粉末と上記(2)の液体とが反応することによって発生した気泡が混在しうる。このため、好適な一態様では、組成物から気泡を除去(脱泡)する。脱泡は、例えば、バイブレーターで組成物に振動を照射すること、超音波照射装置で組成物に超音波を照射すること、加圧装置で組成物に圧力を加えること、等によって行いうる。
【0054】
ステップS62では、成型用型40に形成された配置溝46Aに人工歯15が配置された状態で上記用意した義歯床用材料を造形空間48に注入する。本実施形態では、成型用型40の開口47から義歯床用材料を流し入れ、造形空間48に充填する。ここで、成型用型40の底壁45には複数の通気孔58が形成されているが、成型用型40は載置台95に載置されて通気孔58は載置台95によって塞がれているため、造形空間48に注入された義歯床用材料は通気孔58を介して成型用型40の外部に流出しない。義歯床用材料の注入量は、義歯床用材料の液面が第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44Aよりも下方に位置する量である。本実施形態において、義歯床用材料の注入量は、製造する有床義歯10の義歯床20よりも大きな硬化物を形成できる量である。即ち、義歯床用材料の液面が第1側壁41~第4側壁44の上面41A~44Aよりも僅かに下方に位置する量である。義歯床用材料の注入量は、造形空間48内に配置された全ての人工歯15が完全に埋没する量である。
【0055】
ステップS63では、義歯床用材料を硬化させて、一体物13(図20参照)を作製する。義歯床用材料が加熱重合レジンの場合には、義歯床用材料を加熱して義歯床用材料を硬化させる。一体物13は、成型用型40と、人工歯15と、義歯床用材料の硬化物21と、を含み、これらが一体化されたものである。一体物13の作製は、例えば義歯床用材料(詳しくは、義歯床用材料に含まれる重合性化合物)を重合させることによって行われる。義歯床用材料の重合は、例えば、次のようにして行われる。
【0056】
まず、加圧式の重合器(例えば、プレッシャーポット)を用意する。次に、ステップS62で義歯床用材料を注入した状態の成型用型40を、重合器内に静置する。次に、重合器と成型用型40との間に水を注入する。注入する水の量は、成型用型40の造形空間48に水が浸入しないように調整する。次に、重合器の蓋を閉じて、重合器内を密閉空間とする。
【0057】
次に、義歯床用材料が重合反応を生じるように、重合器内を所定の条件に調整する。例えば義歯床用材料が義歯床用レジンの場合、重合器内の加圧条件は、概ね0.01~0.5MPa、例えば0.1~0.3MPa、一例では0.2MPaとしてもよい。また、例えば義歯床用材料が常温重合レジンの場合、重合器内の水は、室温よりも高い温度、例えば30~60℃程度、一例では50℃にまで加温してもよい。例えば義歯床用材料が加熱重合レジンの場合、重合器内の水は、予備重合では概ね50℃~70℃程度、例えば、55℃~65℃程度にまで加温してもよい。本重合では概ね70℃~100℃程度、例えば、75℃~85℃程度にまで加温してもよい。そして所定の時間、上記条件のまま重合器を保持する。保持する時間は、予備重合では概ね20分以上、例えば30分~90分程度、本重合では概ね30分以上、例えば30分~40分程度、一例では40分としてもよい。これにより、義歯床用材料が重合して、曲げ強度および硬度のうちの少なくとも一方が向上する。また、義歯床用材料の硬化物21と人工歯15とが強固に接合される。また、義歯床用材料の硬化物21と成型用型40の底壁45および第1側壁41~第4側壁44とが強固に接合される。その結果、一体物13が作製される。なお、義歯床用材料が重合反応する際には、気泡(気体)が発生する。特に加熱重合レジンを用いた場合には、常温重合レジンと比較してより多くの気泡が発生する。また、気泡は成型用型40の中央部により多く発生する傾向にある。ここで、成型用型40の開口47は塞がれていないため、成型用型40の上面付近において発生する気泡は開口47から外部に排出される。また、成型用型40の底壁45には複数の通気孔58が形成され、通気孔58を塞ぐように載置台95が設けられているため、成型用型40の内部で発生した気泡は通気孔58および載置台95を介して成型用型40の外部に排出される。これにより、硬化物21の内部に気泡が閉じ込められてボイドが発生することが抑制される。また、気泡を排出することによって、成型用型40と義歯床用材料とがより密着して収縮が抑えられ、その結果硬化物21にひび割れや気泡が発生することが抑制される。
【0058】
図20は、一体物13の一例である。一体物13は、例えば切削加工時に分離しない程度の一体性を有する。なお、義歯床用材料の硬化物21は、後述するステップS70で加工され、義歯床20となる部位である。義歯床用材料の硬化物21と成型用型40とは、結合力(日本工業規格JIS T6506:2005に準拠した値をいう。)が、概ね10N以上、好ましくは30N以上、例えば50N以上であるとよい。
【0059】
次に、一体物加工工程(ステップS70)では、一体物13を加工して、有床義歯10を得る。加工は、切削加工、研磨加工、研削加工、および切断加工、のうちの1つまたは2つ以上を含みうる。本工程は、例えば、切削データの作成工程(ステップS71)と、一体物13のアダプター30への取り付け工程(ステップS72)と、切削装置60の準備工程(ステップS73)と、一体物13の切削加工工程(ステップS74)と、有床義歯10の作製工程(ステップS75)と、を包含する。なお、任意の段階においてその他の工程を含むことは妨げられない。また、他の実施形態において、ステップS71~S74は必須ではなく、省略することもできる。すなわち、本工程は、全てを技工士が手作業で行うこともできる。
【0060】
ステップS71では、3次元データ準備工程(ステップS10)で準備した有床義歯10の3次元データ(典型的にはSTLデータ)10Aに基づいて、有床義歯10の切削データを作成する。有床義歯10の切削データは、切削装置60がどのような手順で一体物13を切削し、有床義歯10の形状を削り出すか、を示したプログラムのデータである。作成された切削データは、記憶部91に記憶される。ステップS72では、成型用型40をアダプター30に取り付ける。成型用型40のアダプター30への取り付けは、ステップS32と同様に行うことができる。
【0061】
ステップS73では、切削装置60を準備する。切削装置60は、ステップS33で準備した装置と同じであってもよいし、異なっていてもよい。ステップS74では、一体物13を切削装置60で切削加工する。切削制御部92は、スピンドル63によって回転する加工ツール78の先端78a(図12参照)を、一体物13の硬化物21の部分に接触させることで、余分な硬化物を削り取る。また、切削制御部92は、加工ツール78の先端78aを、一体物13の成型用型40に接触させることで、成型用型40の一部、例えば底壁45と第1側壁41~第4側壁44のうちの一部または全部を、削り取ってもよい。ただし、成型用型40の第1被保持部51と第2被保持部52とは、少なくとも一部が削り取られずに、切削加工の後においてもアダプター30に保持されている。
【0062】
図21は、切削装置60で一体物13を切削加工することによって得られた切削物11の一例である。切削物11は、成型用型40の第1被保持部51と第2被保持部52と、義歯床20用に切削加工された硬化物21と、硬化物21に接合された人工歯15と、第1被保持部51と硬化物21とを連結する第1連結部12Aと、第2被保持部52と硬化物21とを連結する第2連結部12Bと、を含んでいる。
【0063】
ステップS75では、切削物11から有床義歯10を得る。例えば、切削物11から、成型用型40の第1被保持部51と第2被保持部52とを除去する。一例では、技工士が刃を有するカッター等の道具を利用して、切削物11の第1被保持部51と第2被保持部52とを切り離す。例えば切削物11のように第1連結部12Aおよび第2連結部12Bを有する場合は、これらを取り除くことで第1被保持部51と第2被保持部52とを除去する。好適な一態様では、例えば第1被保持部51と第2被保持部52とを除去した部分の断面等を研磨して、さらに硬化物21の表面を均す。このように、上述した各工程を順に行うことによって、義歯床20と人工歯15とを備える有床義歯10(図1参照)を作製することができる。
【0064】
以上のように、本実施形態の有床義歯10の製造方法によると、複数の通気孔58を有する成型用型40を載置台95に載置して、載置台95によって通気孔58を塞ぐ。そして、成型用型40の造形空間48に義歯床用材料を注入する。ここで、成型用型40には通気孔58が設けられているため、通気孔58を介して義歯床用材料が成型用型40の外部に流出し得るが、載置台95によって通気孔58が塞がれているため、造形空間48に注入された義歯床用材料は流出しない。また、造形空間48に注入された義歯床用材料を硬化させる際に、気泡が発生し得る。ここで、載置台95の気体透過率は成型用型40の気体透過率よりも高いため、義歯床用材料の内部で発生した気泡は通気孔58および載置台95自体を介して成型用型40の外部へと排出される。このように、義歯床用材料を硬化させる際に発生する気泡(気体)は義歯床用材料の外部へと排出されるため、成型用型40と義歯床用材料とがより密着して収縮が抑えられ、その結果硬化された義歯床用材料にひび割れや気泡が発生することが抑制される。
【0065】
本実施形態の製造方法によると、義歯床用材料は、加熱重合レジンであり、義歯床用材料硬化工程では、義歯床用材料を加熱して義歯床用材料を硬化させる。加熱重合レジンを加熱して重合させる際には、より多くの気泡が発生し得るため、成型用型40に設けられた通気孔58および載置台95を介して気泡を排出することで、成型用型40と加熱重合レジンとがより密着して加熱重合レジンの収縮をより効果的に抑えることができる。
【0066】
本実施形態の製造方法によると、成型用型40の底壁45および第1側壁41~第4側壁44はアクリル系樹脂から形成され、載置台95は、シリコーンから形成されている。成型用型40がアクリル系樹脂から形成されることにより、成型用型40と義歯床用材料(例えば加熱重合レジン)がより強固に接着する。即ち、義歯床用材料を成型用型40の造形空間48に従った形状で硬化させることができる。また、載置台95がシリコーンから形成されていることにより、載置台95を介して義歯床用材料を硬化させる際に発生する気泡をより確実に外部に排出することができる。特に加熱重合レジンを加熱して重合させる際には、より多くの気泡が発生し得るため、成型用型40に設けられた通気孔58を介して気泡を排出することで、加熱重合レジンの収縮をより効果的に抑えることができる。
【0067】
本実施形態の製造方法によると、複数の通気孔58は、平面視で、底壁45の中央部に設けられ、被切削領域55は、円弧形状でありかつ通気孔58を囲うように配置されている。義歯床用材料を硬化させる際に発生する気泡は、その性質上成型用型40の中央部において多く発生する傾向にある。このため、成型用型40の底壁45の中央部に通気孔58を設けることで、より確実に気泡を成型用型40の外部に排出することができる。
【0068】
本実施形態の製造方法によって製造された有床義歯10は、患者の総義歯として用いることができる。
【0069】
本実施形態の製造方法では、成型用型40を好適に用いることができる。また、成型用型40を備える有床義歯製造用のキットを好適に用いることができる。一実施形態に係る有床義歯製造用のキットは、例えば、1つまたは複数の成型用型40と、載置台95と、を備えている。他の実施形態に係る有床義歯製造キットは、1つまたは複数の成型用型40と、載置台95と、アダプター30と、を備えている。
【0070】
本実施形態の成型用型40の底壁45には、切削装置60によって切削されて人工歯15の配置溝46Aが形成される被切削領域55と、底壁45を上下方向に貫通しかつ造形空間48と連通する複数の通気孔58とが設けられている。これにより、義歯床用材料の内部で発生した気泡(気体)は通気孔58を介して成型用型40の外部へと排出される。このように、義歯床用材料を硬化させる際に発生する気泡は義歯床用材料の外部へと排出されるため、成型用型40と義歯床用材料とがより密着して収縮が抑えられ、その結果硬化された義歯床用材料にひび割れや気泡が発生することが抑制される。
【0071】
<第2実施形態>
第2実施形態では、有床義歯10の製造に用いるアダプター130、成型用型140および載置台195が第1実施形態の部材と異なる点を除いて第1実施形態と同様である。即ち、第2実施形態に係るアダプター130、成型用型140および載置台195を用いた場合にも第1実施形態に係る有床義歯10の製造方法と同様の効果が得られる。以下の第2実施形態の説明では、第1実施形態と共通する部材には共通の符号を使用するものとする。また、重複する説明は、省略または簡潔化する。
【0072】
図22は、第2実施形態に係る成型用型140の斜視図である。第2実施形態に係る成型用型準備工程(ステップS20)では、成型用型140を準備する。成型用型140は、構造的には成型用型40と異なるが、その用途、機能および材質等は成型用型40と同じである。成型用型140は、アダプター130(図28参照)を介して、切削装置60(図12参照)に間接的に取り付け可能なように構成されている。
【0073】
図23に示すように、成型用型140は、平面視で円形状に形成されている。成型用型140は、底壁145と、第1側壁141と、第2側壁142と、第3側壁143と、第4側壁144と、を備えている。底壁145の表面は、平坦である。第1側壁141は、底壁145の後部から上方に延びている。第2側壁142は、底壁145の前部から上方に延びている。第1側壁141および第2側壁142は、相互に対向している。第3側壁143は、底壁145の左部から上方に延びている。第3側壁143は、第1側壁141の左端と第2側壁142の左端とを接続している。第3側壁143は、第4側壁144から離れる方向に湾曲している。第4側壁144は、底壁145の右部から上方に延びている。第4側壁144は、第1側壁141の右端と第2側壁142の右端とを接続している。第4側壁144は、第3側壁143から離れる方向に湾曲している。第3側壁143および第4側壁144は、相互に対向している。第1側壁141の上面141Aと、第2側壁142の上面142Aと、第3側壁143の上面143Aと、第4側壁144の上面144Aとは面一に形成されている。即ち、底壁145から上面141A~144Aの高さは相互に同じである。本実施形態において、第1側壁141~第4側壁144は、底壁145から上方に延びる側壁の一例である。
【0074】
図22に示すように、成型用型140は、開口47と造形空間48とを備えている。造形空間48は、底壁145と、第1側壁141と、第2側壁142と、第3側壁143と、第4側壁144と、によって囲まれた空間である。
【0075】
図23に示すように、底壁145には、切削装置60(図12参照)によって切削されて人工歯15の配置溝46A(図16参照)が形成される被切削領域155と、底壁145を上下方向に貫通しかつ造形空間48と連通する複数の通気孔158(図22も参照)とが設けられている。被切削領域155には、ステップS30で配置溝46Aが形成される。被切削領域155は、円弧形状に形成されている。被切削領域155は、後述する内側通気孔158Aを囲うように配置されている。通気孔158は、平面視で底壁145の中央部に設けられた内側通気孔158Aと、平面視で被切削領域155の外側に設けられた外側通気孔158Bとを含む。内側通気孔158Aは被切削領域155より内側、かつ、被切削領域155の左側の前端と右側の前端とを通る直線LLよりも少なくとも一部が後方に位置する。本実施形態では、29個の内側通気孔158Aと18個の外側通気孔158Bが設けられているが、その数は限定されない。また、内側通気孔158Aは放射状に配置されているが、配置の態様は放射状に限定されない。特に限定されるものではないが、通気孔158の直径は、概ね2mm~4mm、例えば2.5mmである。また、底壁145に対する通気孔158の割合(即ち通気孔158の開口率)は、概ね3%~8%、例えば4%~5%である。
【0076】
図22に示すように、成型用型140は、被保持部151と、被保持部151から下方に延びる突出部152(図24参照)と、を備えている。被保持部151は、アダプター130に保持される部位である。突出部152は、アダプター130の後述する切り欠き部138(図29参照)に配置される部位である。被保持部151は、アダプター130を介して切削装置60に保持される。図23に示すように、被保持部151の外形は、平面視で円形状である。被保持部151は、成型用型140の全周に亘って設けられている。被保持部151は、第1側壁141、第2側壁142、第3側壁143および第4側壁144の全周に亘って設けられている。突出部152は、第2側壁142の前部かつ被保持部151の下方に設けられている。図25に示すように、突出部152は、第2側壁142から前方に向けて延びる。突出部152の前面152A(図24参照)と被保持部151の側面151Sとは面一に形成されている。突出部152は、アダプター130の後述する本体部132が係止する第1係止面152Bと第2係止面152Cとを有する。
【0077】
図26は、第2実施形態に係る載置台195の斜視図である。第2実施形態に係る載置工程(ステップS40)では、配置溝46Aが切削形成された成型用型140を載置台195に載置する。成型用型140は、成型用型140の底壁145に形成された通気孔158を塞ぐように載置台195に載置される。載置台195は、構造的には載置台95と異なるが、その用途、機能および材質等は載置台95と同じである。
【0078】
図26は、載置台195を示す斜視図である。図26に示すように、載置台195は略円柱形状に形成されている。載置台195の上面195Aには、下方に向けて凹む凹部196が形成されている。図27に示すように、凹部196には、成型用型140が嵌め込まれる。即ち、凹部196は、成型用型140の外形に沿った形状をしている。凹部196には、成型用型140の下部の一部が嵌め込まれる。成型用型140が凹部196に嵌め込まれたとき、例えば、被保持部151の下面151A(図25参照)と載置台195の上面195Aとが接触する。図26に示すように、凹部196は、成型用型140の底壁145と接触する第1部分196Aと、突出部152と接触する第2部分196Bと、成型用型140の第1側壁141~第4側壁144の下端部と接触する第3部分196Cとを含む。第2部分196Bは、第1部分196Aより上方に位置する。凹部196(即ち第3部分196C)は、例えば、5mm~20mm程度の深さを有している。なお、図27に示す例では、底壁145に形成される配置溝46Aの図示を省略している。
【0079】
図28は、第2実施形態に係るアダプター130の平面図である。第2実施形態に係る成型用型切削工程(ステップS30)および一体物加工工程(ステップS70)では、成型用型140をアダプター130に取り付ける。成型用型140は、アダプター130を介して切削装置60に保持される。アダプター130は、成型用型140を切削装置60に取り付けるための取付具である。アダプター130は、本体部132と、保持板137と、を備えている。本体部132は、第1部材の一例である。保持板137は、第2部材の一例である。成型用型140は、本体部132と保持板137との間に挟持される。成型用型140は、被保持部151を介してアダプター130に保持される。
【0080】
図29に示すように、本体部132は円弧形状に形成されている。本体部132は、成型用型140を下方から保持する。本体部132は、切り欠き部138を有する。本体部132の内部には、開口132Hが形成されている。開口132Hは、切り欠き部138と連続する。図30に示すように、成型用型140の造形空間48(図22も参照)は、開口132H内に配置される。図31および図32に示すように、成型用型140の突出部152は、切り欠き部138に配置される。このとき、突出部152の第1係止面152Bおよび第2係止面152Cは、本体部132に係止する。
【0081】
図29に示すように、保持板137の外形は、リング状である。保持板137は、本体部132に着脱可能に設けられている。保持板137は、成型用型140を上方から本体部132に向けて押圧する部材である。保持板137の内部には、開口137Hが形成されている。成型用型140の造形空間48(図22参照)は、開口137H内に配置される。保持板137は、ビス139を介して本体部132に固定される。なお、成型用型140は、ビス139で締結されない。図31に示すように、本体部132に成型用型140を保持し、保持板137で成型用型140を押圧した状態で、ビス139によって本体部132と保持板137とを相互に固定する。これにより、成型用型140の被保持部151は、本体部132と保持板137とに挟持される。本実施形態では、成型用型140をアダプター130で安定して保持することができる。また、突出部152を切り欠き部138に配置することによって、アダプター130に対する成型用型140の位置決めを容易に行うことができるため、誤った方向に成型用型140を取り付けることが防止される。
【0082】
本実施形態の製造方法によると、複数の通気孔158は、平面視で、底壁145の中央部に設けられた内側通気孔158Aを含み、被切削領域155は、円弧形状でありかつ内側通気孔158Aを囲うように配置されている。義歯床用材料を硬化させる際に発生する気泡は、その性質上成型用型140の中央部において多く発生する傾向にある。このため、成型用型140の底壁145の中央部に内側通気孔158Aを設けることで、より確実に気泡を成型用型140の外部に排出することができる。
【0083】
本実施形態の製造方法によると、複数の通気孔158は、平面視で、被切削領域155の外側に設けられた外側通気孔158Bを含む。これにより、成型用型140の全体に亘って気泡を外部に排出することができる。
【0084】
本実施形態の製造方法によると、成型用型切削工程では、アダプター130の切り欠き部138に成型用型140の突出部152を配置させることによって成型用型140をアダプター130に取り付け、アダプター130を介して成型用型140を間接的に切削装置60に取り付ける。このように、切り欠き部138と突出部152とによってアダプター130と成型用型140との位置合わせを容易に行うことができる。
【0085】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0086】
上述した各実施形態では、成型用型40および成型用型140を用いて、上顎用の総義歯である有床義歯10を製造する方法を説明した。しかし、これには限定されない。ここに開示される製造方法は、例えば、下顎用の総義歯の製造や部分義歯の製造にも適用することができる。ここに開示される製造方法は、例えば、弾力性の高い熱可塑性樹脂で構成され、金属製のクラスプを有しない、所謂、ノン・クラスプデンチャーの製造にも適用することができる。また、成型用型40および成型用型140の材質、形状等は、適宜に変形、変更することができる。
【0087】
上述した各実施形態では、例えば通気孔58は底壁45に形成されていたが、これに限定されない。例えば、通気孔58は、底壁45に加えまたは代えて、第1側壁41~第4側壁44の少なくともいずれか一つに設けられていてもよい。この場合、載置台95は、第1側壁41~第4側壁44に設けられた通気孔58を塞ぐことが可能な形状を有する。
【符号の説明】
【0088】
10 有床義歯
13 一体物
15 人工歯
20 義歯床
30 アダプター
40 成型用型
45 底壁
46A 配置溝
48 造形空間
51 第1被保持部(被保持部)
52 第2被保持部(被保持部)
55 被切削領域
58 通気孔
60 切削装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32