IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図1
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図2
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図3
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図4
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図5
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図6
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図7
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図8
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図9
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図10
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図11
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図12
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図13
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図14
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図15
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図16
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図17
  • 特許-ステータの製造方法及びクランプ治具 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ステータの製造方法及びクランプ治具
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
H02K15/04 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021012751
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116539
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】水島 大介
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-085806(JP,A)
【文献】特開2019-118200(JP,A)
【文献】特開2014-151360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアのスロットに前記ステータコアの径方向の内側から外側に向かって設けられた所定の位置に組み付けられた状態で、露出したコイルエンドが周方向に相互に逆向きに倒し込まれようにセグメントコイルを前記ステータコアに組み付けるセグメントコイル組み込み工程と、
前記ステータコアに組み込まれた前記セグメントコイルのうち前記コイルエンドが前記方向に隣接する一対のコイルエンドを前記方向に押圧するクランプ治具でクランプするクランプ工程と、
前記クランプ治具に設けられる開口部に露出した前記一対のコイルエンドを溶接する溶接工程と、を有し、
前記クランプ治具は、
前記溶接工程において溶接される前記コイルエンドの溶接面から離れるほど押圧力を高める加圧構造が設けられ、かつ、前記溶接面と直交するように設けられる前記コイルエンドの側面に接する側方押圧面と、
前記溶接面において前記開口部により露出する部分を除く領域に前記ステータコア側に向かう押圧力を加える下方向押圧面と、をさらに有し、
前記加圧構造は、前記溶接面に近い部分における前記コイルエンドの側面との距離が、前記溶接面から遠い部分における前記コイルエンドの側面との距離よりも遠くなるようなテーパー形状を有するステータの製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程の後に、前記一対のコイルエンドの前記溶接面に電流を流すようにプローブを接触させ、前記プローブの間の電位差を測定し、前記電位差と予め設定した閾値とを比較することで前記一対のコイルエンドに対する溶接の良否を判定する良否判定工程をさらに有する請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記テーパー形状部分は、前記クランプ治具における側方押圧力の印加方向に延在す面を基準面とした場合、当該基準面に対して85°以下の傾斜を有する請求項に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
ステータコアのスロットに前記ステータコアの径方向の内側から外側に向かって設けられた所定の位置に組み付けられた状態で、露出したコイルエンドが周方向に相互に逆向きに倒し込まれるようにセグメントコイルを前記ステータコアに組み付けるセグメントコイル組み込み工程と、
前記ステータコアに組み込まれた前記セグメントコイルのうち前記コイルエンドが前記径方向に隣接する一対のコイルエンドを前記径方向に押圧するクランプ治具でクランプするクランプ工程と、
前記クランプ治具に設けられる開口部に露出した前記一対のコイルエンドを溶接する溶接工程と、を有し、
前記クランプ治具は、前記溶接工程において溶接される前記コイルエンドの溶接面から離れるほど押圧力を高める加圧構造を、前記溶接面と直交するように設けられる前記コイルエンドの側面に接する側方押圧面に有し、
前記加圧構造は、前記コイルエンドの前記溶接面に対向する下面の傾斜に合わせた傾きをもって形成されるステータの製造方法。
【請求項5】
ステータコアのスロットに前記ステータコアの径方向の内側から外側に向かって設けられた所定の位置に組み付けられた状態で露出したコイルエンドが周方向に相互に逆向きに倒し込まれようにセグメントコイルの前記コイルエンドのうち前記コイルエンドが方向に隣接する一対のコイルエンドを前記方向に押圧するクランプ治具であって、
前記一対のコイルエンドをコイルエンドが隣り合う方向から押圧力を加えた状態で前記コイルエンドの溶接面を露出させる開口部と、
前記一対のコイルエンドの溶接面により露出する部分を除く領域に前記ステータコア側に向かう押圧力を加える下方向押圧面と、
前記溶接面と直交するように設けられる前記コイルエンドの側面に接する側方押圧面と、を有し、
前記側方押圧面は、前記溶接面から離れるほど押圧力を高める加圧構造を有し、
前記加圧構造は、前記溶接面に近い部分における前記コイルエンドの側面との距離が、前記溶接面から遠い部分における前記コイルエンドの側面との距離よりも遠くなるようなテーパー形状を有するクランプ治具。
【請求項6】
前記ステータコアの内周側に設けられる内周リングと、
前記内周リングの外側に設けられ、前記内周リングが回転可能に接する外周リングと、
前記ステータコアの外周側から押圧力を加える径プッシャと、を有し、
前記内周リングは、
前記下方向押圧面のうち前記一対のコイルエンドのうち内周側に位置する内周側コイルエンドに押圧力を加える内周側下方向押圧面と、
前記側方押圧面のうち前記内周側コイルエンドに接する内周側側方押圧面と、を有し、
前記外周リングは、
前記下方向押圧面のうち前記一対のコイルエンドのうち外周側に位置する外周側コイルエンドに押圧力を加える外周側下方向押圧面を有し、
前記径プッシャは、
前記側方押圧面のうち前記外周側コイルエンドに接する外周側側方押圧面を有し、
前記内周側側方押圧面と前記外周側側方押圧面とのうち少なくとも一方に前記加圧構造が形成される請求項に記載のクランプ治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの製造方法及びクランプ治具に関し、例えば、ステータコアに組み込まれるセグメントコイルのうち隣り合うコイルエンドが溶接されたステータの製造方法及び当該溶接時に用いるクランプ治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータには、ステータコア内の電流経路を構成するセグメントコイルが組み込まれる。そして、このセグメントコイルは、分割した電線として組み込まれるため、これら分割された電線を一体の電流経路とするため、セグメントコイルの端部を溶接することが求められる。そこで、このセグメントコイルの溶接方法の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の接合方法は、コイルエンドの接合方法であって、コイルエンドに先細り形状の先細り部が形成されている場合に、先細り部に嵌合する一対の爪部が設けられた一対の第1の押さえ治具をステータコアの軸方向に沿ってコイルエンドに接近させて一対の先細り部を押圧し、一対の爪部を一対の先細り部に周方向から挟持するように嵌合させて一対の先細り部の軸方向の位置を固定し、一対の先細り部を一対の第2の押さえ治具によって径方向の内側および外側から挟持して一対の先細り部を接触させ一対の先細り部の径方向の位置を固定し、一対の先細り部の接触部を溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-85806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにして、接合されたコイルエンドに対しては、接合面積を測定する電位差測定を行う。具体的には、セグメントコイルそれぞれの端部に酸化膜を形成してから、セグメントコイルの端部同士をレーザー溶接し、レーザー溶接された2つのセグメントコイル間に電流を印加して電位差を測定する。この測定手法によって電位差測定を行う場合、溶接されていないコイルエンド同士が電気的に接触していると、溶接個所以外で通電してしまうため、測定結果に誤差が生じる。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、この測定誤差を小さくするための提案が開示も示唆もされていない。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、セグメントコイル端部に設けられる溶接箇所の溶接面積の測定誤差を小さくすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるステータの製造方法の一態様は、ステータコアのスロットに前記ステータコアの径方向の内側から外側に向かって設けられた所定の位置に組み付けられた状態で露出したコイルエンドが周方向に相互に逆向きに倒し込まれようにセグメントコイルを前記ステータコアに組み付けるセグメントコイル組み込み工程と、前記ステータコアに組み込まれた前記セグメントコイルのうち前記コイルエンドが前記周方向に隣接する一対のコイルエンドを前記周方向に押圧するクランプ治具でクランプするクランプ工程と、前記クランプ治具に設けられる開口部に露出した前記一対のコイルエンドを溶接する溶接工程と、を有し、前記クランプ治具は、前記溶接工程において溶接される前記コイルエンドの溶接面から離れるほど押圧力を高める加圧構造を、前記溶接面と直交するように設けられる前記コイルエンドの側面に接する側方押圧面に有する。
【0008】
本発明にかかるクランプ治具の一態様は、ステータコアのスロットに前記ステータコアの径方向の内側から外側に向かって設けられた所定の位置に組み付けられた状態で露出したコイルエンドが周方向に相互に逆向きに倒し込まれようにセグメントコイルの前記コイルエンドのうち前記コイルエンドが前記周方向に隣接する一対のコイルエンドを前記周方向に押圧するクランプ治具であって、前記一対のコイルエンドをコイルエンドが隣り合う方向から押圧力を加えた状態で前記コイルエンドの溶接面を露出させる開口部と、前記一対のコイルエンドの溶接面により露出する部分を除く領域に前記ステータコア側に向かう押圧力を加える下方向押圧面と、前記溶接面と直交するように設けられる前記コイルエンドの側面に接する側方押圧面と、を有し、前記側方押圧面は、前記溶接面から離れるほど押圧力を高める加圧構造を有する。
【0009】
本発明にかかるステータの製造方法及びクランプ治具は、コイルエンドにおいて、溶接箇所から離れるほど高い圧力が加わるように一対のコイルエンドをクランプした状態でコイルエンドの溶接を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、セグメントコイル端部に設けられる溶接箇所の溶接面積の測定誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかるステータコアの概略図である。
図2】セグメントコイルの接合対象部分を示した図である。
図3】実施の形態1にかかるステータの製造工程を説明するフローチャートである。
図4】実施の形態1にかかるコイルエンドの溶接面積検査工程を説明する図である。
図5】実施の形態1にかかるクランプ治具のステータコア対向面の概略図である。
図6】実施の形態1にかかるクランプ治具の形状を説明する断面図である。
図7】実施の形態1にかかるクランプ治具の内周リング側の構造を説明する図である。
図8】実施の形態1にかかるクランプ治具の外周リング側の構造及び径プッシャの構造を説明する図である。
図9】実施の形態1にかかるクランプ治具によってコイルエンドをクランプした状態を説明する図である。
図10】実施の形態1にかかるクランプ治具の内周リング側の加圧構造部分の傾きとセグメントコイルの傾きとの関係を説明する図である。
図11】実施の形態1にかかるクランプ治具の外周リング側の構造とセグメントコイルの傾きとの関係を説明する図である。
図12】実施の形態1にかかるクランプ治具の径プッシャ側の加圧構造部分の傾きとセグメントコイルの傾きとの関係を説明する図である。
図13】実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてコイルエンドをクランプする際のクランプ治具及びステータコアの動きを説明する図である。
図14】実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてコイルエンドをクランプする際のクランプ治具及びステータコアの動きを説明する図である。
図15】実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてコイルエンドをクランプする際のクランプ治具及びステータコアの動きを説明する図である。
図16】実施の形態1にかかるクランプ治具を用いて溶接を行ったコイルエンドの状態を説明する図である。
図17】比較例にかかるクランプ治具を用いて溶接を行ったコイルエンドの状態を説明する図である。
図18】溶接面積に対して検査工程で測定される電位差のばらつきを説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0013】
実施の形態1
図1に実施の形態1にかかるステータ1の概略図を示す。また、図2にセグメントコイル4の接合対象部分を示した図を示す。図1及び図2に示すように、モータ用のステータ1は、円環状のステータコア2と、ステータコア2の内側にコイル3を形成するための複数のセグメントコイル4とを有する。ステータコア2は、ステータコア2は薄い円環状の鉄板を重ね合わせて形成される。ステータコア2の内側には、U字状に形成された複数のセグメントコイル4がステータコア2の周方向に沿って配列されている。そして、複数のセグメントコイル4は、ステータコア2の径方向に沿って内側から外側に向かって順番に積層されている。このようにして組み付けられた複数のセグメントコイル4によってコイル3が形成されている。
【0014】
また、ステータコア2の径方向に隣接する一対のセグメントコイル4の一対のコイルエンド5は、ステータコア2の周方向に相互に逆向きに倒し込まれている。コイルエンド5の先端には、先細り形状に形成される。また、コイルエンド5は、先端部がステータコア2と平行に切断されたような形状に形成されている。これにより、コイルエンド5のステータコア2の軸方向に沿った高さを短縮している。隣接する一対のコイルエンド5の先端は、溶接部分6において、互いに溶接することで電気的に接続される。
【0015】
このステータ1では、ステータコア2の周方向に一対のコイルエンドの溶接部(絶縁皮膜が除去された箇所)が間隔をもって配置される。ここで、コイルエンドを先細り形状に形成することにより、ステータコア2の周方向に隣接する該溶接部の絶縁距離を拡大することができる。絶縁距離の拡大により、セグメントコイル4の渦電流損を低減することができる。以下、隣接する一対のコイルエンド5の溶接工程及び溶接工程で用いるクランプ治具について説明する。
【0016】
図3に実施の形態1にかかるステータの製造工程を説明するフローチャートを示す。図3に示すように、実施の形態1にかかるステータ1の製造工程では、まず、ステータコア2にコイル3を組み込むセグメントコイル組み込み工程を行う(ステップS0)。より具体的には、コイル組み込み工程では、ステータコア2のスロットにステータコア2の径方向の内側から外側に向かって設けられた所定の位置に組み付けられた状態で、露出したコイルエンドが周方向に相互に逆向きに倒し込まれようにセグメントコイルをステータコアに組み付ける。
【0017】
続いて、セグメントコイル4のコイルエンド5の絶縁膜が除去された箇所に酸化膜を形成する酸化膜形成工程を行う(ステップS1)。次いで、クランプ治具によりコイルエンド5の溶接部分6をクランプする(ステップS2)。そして、溶接部分6をクランプした状態でレーザー溶接により一対のコイルエンドを溶接する(ステップS3)。このステップS3により溶接は終了するが、実施の形態1にかかるステータ1の製造工程では、この後に溶接部分6における溶接面積の検査を行い溶接後のステータ1の良品と不良品の判定を行う。
【0018】
この検査工程では、まず、溶接した一対のコイルエンドの溶接面に電流を流すようにプローブを接触させ、コイルエンドの間の電位差を測定し(ステップS4)、電位差と予め設定した閾値とを比較する(ステップS5)ことで一対のコイルエンドに対する溶接の良否を判定する良否判定工程(ステップS6、S7)を行う。
【0019】
ここで、この検査工程についてより詳細に説明する。そこで、図4に実施の形態1にかかるコイルエンドの溶接面積検査工程を説明する図を示す。図4では、溶接後のコイルエンド5の溶接部分6の断面図を示した。図4に示すように、溶接部分6では、内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11とが酸化膜12を介して接している。そして、レーザー溶接により形成される溶接箇所13において内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11が電気的に導通した状態となっている。そして、検査工程では、溶接後に形成される溶接箇所13を介して一対のコイルエンドに電流が流れるように、内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11とにプローブを接触させて、電流を流す。そして、内周側コイルエンド10に接触させたプローブにより計測される電位と外周側コイルエンド11に接触させたプローブにより計測される電位との電位差を計測する。
【0020】
しかし、溶接工程において内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11との間に形成されている酸化膜12の厚みにばらつきが生じる。検査工程では、溶接箇所13の抵抗の大きさに起因して生じる電位差を計測することで、溶接箇所13の接合面積を検査するものである。しかし、酸化膜12の酸化膜12の厚みにばらつきが生じると、酸化膜12を介して検査用の電流が酸化膜12側を流れることがある。そのため、酸化膜12の厚みのばらつきは、検査工程において計測される電位差のばらつきとなる。つまり、このような検査される電位差のばらつきは、検査工程の検査精度の低下に繋がる。そこで、実施の形態1にかかるステータ1の製造方法では、以下で説明する実施の形態1にかかるクランプ治具を用いることで、溶接工程における酸化膜12の膜厚ばらつきを抑制する。この実施の形態1にかかるクランプ治具について以下で詳細に説明する。
【0021】
図5に実施の形態1にかかるクランプ治具のステータコア対向面の概略図を示す。図5に示すように、実施の形態1にかかるクランプ治具は、内周リング20、外周リング23及び径プッシャ25を有する。内周リング20は、外周リング23よりも内周側に設けられるリングである。そして、内周リング20と外周リング23とは、相対的に回転可能に連結される。
【0022】
ここで、クランプ治具は、図5の領域Aに内周側コイルエンド10及び外周側コイルエンド11をクランプするクランプ構造が構成される。そこで、クランプ治具のクランプ構造について詳細に説明する。そこで、図6に実施の形態1にかかるクランプ治具の形状を説明する断面図を示す。
【0023】
図6に示すように、内周リング20は、側方押圧面(内周側側方押圧面21)及び下方押圧面(例えば、内周側下方向押圧面22)を有する。内周側側方押圧面21は、コイルエンド5の溶接面と直交するように設けられるコイルエンド5の側面に接する側方押圧面のうち内周リング20側に形成されるものである。内周側下方向押圧面22は、溶接面において開口部27により露出する部分を除く領域にステータコア2側に向かう押圧力を加える面である。より具体的には、内周側下方向押圧面22は、下方向押圧面のうち一対のコイルエンドのうち内周側に位置する内周側コイルエンド10に押圧力を加える。
【0024】
外周リング23は、下方押圧面(例えば、外周側下方向押圧面24)を有する。外周側下方向押圧面24は、溶接面において開口部27により露出する部分を除く領域にステータコア2側に向かう押圧力を加える面である。より具体的には、外周側下方向押圧面24は、下方向押圧面のうち一対のコイルエンドのうち外周側に位置する外周側コイルエンド11に押圧力を加える。
【0025】
径プッシャ25は、側方押圧面(例えば、外周側側方押圧面26)を有する。この径プッシャ25は、外周リング23から内周リング20に向かう方向の押圧力を加える。そして外周側側方押圧面26は、径プッシャ25の内周リング20側の端部に設けられる。外周側側方押圧面26は、溶接面と直交するように設けられるコイルエンド5の側面に接する。より具体的には、外周側側方押圧面26は、側方押圧面のうち外周側コイルエンド11に接する。
【0026】
そして、実施の形態1にかかるクランプ治具では、内周側側方押圧面21及び外周側側方押圧面26の少なくとも一方に溶接工程において溶接されるコイルエンド5の溶接面から離れるほど押圧力を高める加圧構造が形成される。図6に示す例では、内周側側方押圧面21及び外周側側方押圧面26の両方に加圧構造が形成される。
【0027】
加圧構造は、溶接面(例えば、内周側コイルエンド10及び外周側コイルエンド11の図6上の上側の面)に近い部分におけるコイルエンド5の側面との距離が、溶接面から遠い部分におけるコイルエンド5の側面との距離よりも遠くなるようなテーパー形状を有する。また、このテーパー形状の部分は、クランプ治具における側方押圧力の印加方向に延在する面を基準面RSとした場合、当該基準面RSに対して85°以下の傾斜を有する。図6に示す例では、基準面RSと内周側側方押圧面21のテーパー形状部分とがなす角θが85°以下となる。


【0028】
続いて、クランプ治具のクランプ構造について図7及び図8を参照してより具体的に説明する。そこで、図7は、実施の形態1にかかるクランプ治具の内周リング20側の構造を説明する図である。図7に示すように、内周リング20は、ステータコア2側に向かって突出する凸部を有し、この凸部に内周側下方向押圧面22及び内周側側方押圧面21が形成される。図7に示す例では、内周側側方押圧面21のテーパー形状部分にハッチングを付した。また、図7に示す例では、図6とは異なり、内周側側方押圧面21のテーパー形状部分は内周側側方押圧面21の下側の一部にのみ形成される。また、内周リング20には、開口部27の一部を構成する凹部が形成される。
【0029】
なお、図7に示すように、外周リング23にはステータコア2側に突出する突起部28を有する。突起部28は、外周側コイルエンド11の端部の位置を決めるためのものである。また、図8は、実施の形態1にかかるクランプ治具の外周リング23側の構造及び径プッシャ25の構造を説明する図である。図8に示すように、開口部27の一部を構成する凹部が形成される。また、外周リング23には、外周側下方向押圧面24が形成される。また、径プッシャ25の端部には、外周側側方押圧面26が形成される。図8に示す例では、図6とは異なり、外周側側方押圧面26のテーパー形状部分は外周側側方押圧面26の下側の一部にのみ形成される。
【0030】
また、図9に実施の形態1にかかるクランプ治具によってコイルエンドをクランプした状態を説明する図を示す。図9に示すように、コイルエンド5のうち内周側コイルエンド10は、内周リング20によって保持される。また、コイルエンド5のうち外周側コイルエンド11は、外周リング23及び外周リング23によって保持される。このとき、実施の形態1にかかるクランプ治具では、外周側側方押圧面26及び内周側側方押圧面21によりクランプしたコイルエンド5の下面(溶接面と対向する面)側により大きな押圧力が加わるようにコイルエンド5をクランプする。
【0031】
また、コイルエンド5は、クランプ治具の押圧力が加わる押圧方向に延在する基準面RSに対して所定の角度θbをもって傾くように形成される。そのため、クランプ治具では、内周側側方押圧面21及び外周側側方押圧面26をこの角度θbに合わせるように傾斜するように形成する。そこで、内周側側方押圧面21及び外周側側方押圧面26の周方向の傾きを図10図12を用いて説明する。
【0032】
図10は、実施の形態1にかかるクランプ治具の内周リング20側の加圧構造部分の傾きとセグメントコイルの傾きとの関係を説明する図である。図11は、実施の形態1にかかるクランプ治具の外周リング23側の構造とセグメントコイルの傾きとの関係を説明する図である。図12は、実施の形態1にかかるクランプ治具の径プッシャ側の加圧構造部分の傾きとセグメントコイルの傾きとの関係を説明する図である。
【0033】
図10に示すように、内周リング20の内周側側方押圧面21は、コイルエンド5の溶接面に対向する下面の傾斜に合わせた傾きをもって形成される。また図11に示すように、外周側コイルエンド11の端部は、外周リング23の突起部28で固定される。また、図12に示すように、径プッシャ25の外周側側方押圧面26は、コイルエンド5の溶接面に対向する下面の傾斜に合わせた傾きをもって形成される。このように内周側側方押圧面21及び外周側側方押圧面26を内周側コイルエンド10及び外周側コイルエンド11の傾きに合わせて傾斜して形成することで、クランプ対象のコイルエンドに押圧力をコイルエンドに加えることができる。
【0034】
続いて、実施の形態1にかかるクランプ治具によってコイルエンド5をクランプする際の動作について説明する。実施の形態1にかかるクランプ工程では、クランプ治具とステータ1との両方を動かすことで、クランプ治具によるコイルエンド5のクランプを行う。そこで、図13図15を参照して、クランプ工程について説明する。
【0035】
図13は、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてコイルエンドをクランプする際のクランプ治具及びステータコアの動きを説明する図である。特に、図13は、外周リング23とステータコア2との動きにより外周リング23の突起部28に外周側コイルエンド11の端部をはめ込む動作を説明するものである。図13に示すように、この動作では、ステータ1を回転させながら上昇させることで外周側コイルエンド11を突起部28にはめ込む。
【0036】
図14は、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてコイルエンドをクランプする際のクランプ治具及びステータコアの動きを説明する図である。特に、図14は、内周リング20とステータコア2との動きにより内周リング20に設けられた外周側側方押圧面26に内周側コイルエンド10の端部をはめ込む動作を説明するものである。図14に示すように、この動作では、内周リング20をステータコア2と同じ方向、かつ、ステータコア2よりも速い速度で回転させる。これにより、内周側コイルエンド10の端部が内周側側方押圧面21が形成される部分にはめ込まれる。なお、図13で示した動作と図14で示した動作は、同時に行っても良く、別個の動作として行っても良い。
【0037】
図15は、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてコイルエンドをクランプする際のクランプ治具及びステータコアの動きを説明する図である。特に、図15は、径プッシャ25によりクランプするコイルエンドに押しつける動作について説明する。図15に示すように、径プッシャ25を内周リング20及び外周リング23で固定された一対のコイルエンドの側面に押し当てることで、コイルエンドの下側に溶接面側よりも高い押圧力が加わることになる。
【0038】
続いて、実施の形態1にかるクランプ治具を用いてクランプした状態で行う溶接工程を経た酸化膜12の状態について説明する。そこで、図16に実施の形態1にかかるクランプ治具を用いて溶接を行ったコイルエンドの状態を説明する図を示す。図16では、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてクランプした状態でレーザー溶接後に酸化膜12が残存する領域B1の拡大図と領域B1中で酸化膜が比較的薄くなる領域B2の状態を示した。図16に示すように、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いることで、内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11とを溶接した後でも酸化膜12が比較的良好な状態で残存することがわかる。
【0039】
酸化膜12の残存状況が良好であることをより明確に説明するために、図17に比較例にかかるクランプ治具を用いて溶接を行ったコイルエンドの状態を説明する図を示す。この比較例では、クランプ対象の内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11とに高さ方向で均一、或いは、高さ方向の中心部付近でより押圧力が高くなるクランプ治具を用いた。この比較例にかかるクランプを用いてクランプした状態でレーザー溶接後に酸化膜12が残存する領域C1の拡大図と領域C1中で酸化膜が比較的薄くなる領域C2の状態を図17では示した。図17に示すように領域C2では、酸化膜12が壊れ、内周側コイルエンド10及び外周側コイルエンド11を構成する金属が酸化膜12を介さずに接触してしまっていることがわかる。この接触具合が測定結果のばらつきの原因となる。
【0040】
続いて、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いることで測定結果のばらつきを抑制できることについて説明する。そこで、図18に溶接面積に対して検査工程で測定される電位差のばらつきを説明するグラフを示す。図18では、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いてクランプして溶接した後の溶接面積と測定される電位差との関係を示すグラフを上図、比較例にかかるクランプ治具を用いてクランプして溶接した後の溶接面積と測定される電位差との関係を示すグラフを下図に示した。図18に示すように、実施の形態1にかかるクランプ治具を用いた方が同一の溶接面積であった場合に計測される電位差のばらつきが小さなことがわかる。
【0041】
上記説明より、実施の形態1にかかるクランプ治具は、内周側コイルエンド10と外周側コイルエンド11とを溶接する際に、溶接面から遠くなる位置ほど高い押圧力を加える加圧構造を有する。これにより、溶接後に残存する酸化膜12の状態を良好に保津ことが出来る。そして、良好な状態に保たれた酸化膜12により、実施の形態1では、溶接面積の検査を行う際に測定される電位差のばらつきを抑制して、検査精度を高めることができる。
【0042】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0043】
1 ステータ
2 ステータコア
3 コイル
4 セグメントコイル
5 コイルエンド
6 溶接部分
10 内周側コイルエンド
11 外周側コイルエンド
12 酸化膜
13 溶接箇所
20 内周リング
21 内周側側方押圧面
22 内周側下方向押圧面
23 外周リング
24 外周側下方向押圧面
25 径プッシャ
26 外周側側方押圧面
27 開口部
28 突起部
RS 基準面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18