(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】長波吸収光開始剤
(51)【国際特許分類】
C07F 7/30 20060101AFI20240925BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20240925BHJP
C07F 7/22 20060101ALI20240925BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240925BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C07F7/30 CSP
A61K6/62
C07F7/22 H
C08F2/44 A
C08F2/50
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021015478
(22)【出願日】2021-02-03
【審査請求日】2024-02-02
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト モスツナー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カテル
(72)【発明者】
【氏名】パスカル フェスラー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ハース
(72)【発明者】
【氏名】ユディト ラデブナー
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト シュテューガー
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0239967(US,A1)
【文献】特表2018-534249(JP,A)
【文献】Organometallics,2020年,39(12),P.2257-2268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/
C08F 2/
A61K 6/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化48】
による化合物
[式中、変数は、以下の意味:
Mは、GeまたはSnであり、
RArは、
【化49】
であり
、
R
7は、
【化49-1】
であり、
nは、
2であり、
mは
、1である
、あるいは
Mは、Geであり、
RArは、
【化49-2】
であり、
R
7
は、
【化49-3】
であり、
nは、3であり、
mは、1である、あるいは
Mは、Geであり、
RArは、
【化49-4】
であり、
R
7
は、C
2~
C
8
アルキレンであり、
nは、2であり、
mは、0である
という意味を有する]。
【請求項2】
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、Geであり、
RArが、
【化56】
であり、
R
7が
、-C
4H
8-であり、
nが、2であり、
mが、0である
という意味を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1から2のいずれか一項に記載の少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの重合可能なモノマ
ーを含有する、組成物。
【請求項4】
重合可能なモノマーとしてラジカル重合可能なモノマーを含有する、請求項3に組成物。
【請求項5】
前記組成物の総質量に対して、0.001~3wt.
%の請求項1から
2のいずれか一項に記載の化合物を含有する、請求項
3または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物の総質量に対して、0.001~1wt.%の請求項1から2のいずれか一項に記載の化合物を含有する、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の総質量に対して、0.005~0.5wt.%の請求項1から2のいずれか一項に記載の化合物を含有する、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項8】
ラジカル重合可能なモノマーとして、少なくとも1つの単官能性もしくは多官能性(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物を含有する、請求項
4または
7に記載の組成物。
【請求項9】
各場合、前記組成物の総質量に対して、
(a)0.001~3wt.
%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)1~99.9wt.
%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)0~85wt.
%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0~70wt.
%の1つまたは複数の添加剤
を含有する、請求項
3から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
各場合、前記組成物の総質量に対して、
(a)0.001~1.0wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)5~95wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)5~80wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0.1~60wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する、請求項3から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
各場合、前記組成物の総質量に対して、
(a)0.005~0.5wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)10~90wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)10~75wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0.1~50wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する、請求項3から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
歯科材料とし
ての治療的な使用のための、請求項
3から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
歯科用セメント、充填複合物またはベニア材料としての請求項12に記載の治療的な使用のための組成物。
【請求項14】
歯科修復物、補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの生成または修復のための、請求項
3から11のいずれか一項に記載の組成物の、非治療的な使用。
【請求項15】
光開始剤としての、請求項1から
2のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合可能な材料を硬化させるための光開始剤として適している、アシルゲルマニウムおよびアシルスズ化合物に関する。その開始剤は、可視光で活性化され得ることを特徴とする。その開始剤は、接着剤、コーティング、セメント、複合物、成形パーツ、例えばロッド、プレート、ディスクまたはレンズを生成するため、特に歯科材料を生成するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
使用される光開始剤は、光重合反応性(photopolyreactive)樹脂の硬化において決定的な役割を演じる。光開始剤は、UV光または可視光を照射されると、光を吸収し、重合反応(polyreaction)を開始する種を形成する。ラジカル光重合の事象において、これらは、フリーラジカルである。
【0003】
光開始剤は、ラジカル形成の化学的機序に基づいて、2つのクラスに分けられる。ノリッシュI型光開始剤は、照射されると、単分子結合の切断によってフリーラジカルを形成する。ノリッシュII型光開始剤は、照射されると二分子反応を受け、励起状態では、その光開始剤は、第2の分子、いわゆる共開始剤(coinitiator)と反応し、電子およびプロトンの移動によって重合開始ラジカルを形成する。I型およびII型光開始剤は、UV光硬化のために使用されており、現在まで、ビスアシルジアルキルゲルマニウム化合物を除き、ほぼ例外なくII型光開始剤が、可視域について使用されてきた。
【0004】
とりわけ、層厚が小さい透明コーティングは、小さい波長のUV光によりUV硬化することができる。呈色または着色が強い場合、および層厚がより大きい場合には、UV硬化の限界に到達する。これらの場合、完全な硬化は、UV光では不可能である。例えば、光硬化性の歯科用充填複合物の硬化などにおいて、より大きい硬化深度が必要とされる場合、通常、照射のために可視光が使用される。このために最も頻繁に使用される光開始剤系は、α-ジケトンとアミン共開始剤の組合せであり、これは、例えばGB1 408 265に記載されている。
【0005】
US4,457,818およびUS4,525,256は、光開始剤としてカンファーキノンなどのα-ジケトンを含有する歯科材料を開示している。カンファーキノンは、468nmの波長の吸収極大を有し、したがって、強い黄色を有し、カンファーキノン/アミンで開始された材料は、硬化後に透明な黄色度を有することが多いという結果をもたらす。これは、明るい白色の色調を有する材料の場合には、特に不利である。
【0006】
EP1 905 415A1は、ノリッシュI型光開始剤としてビスアシルジアルキルゲルマニウム化合物を含有する、ラジカル重合可能な歯科材料を開示している。その開始剤は、歯科分野での硬化のために使用されることが多い青色光で活性化することができ、材料の変色をもたらさない。具体的に開示されている化合物は、411.5nm~418.5nmの範囲の吸収極大を有する。
【0007】
EP2 103 297A1は、光開始剤としていくつかのゲルマニウム原子を有するアシルゲルマニウム化合物を含有する、ラジカル重合可能な歯科材料を開示している。これらの開始剤は、低細胞傷害性および高活性によって特徴付けられ、材料の破壊的な変色なしに高い硬化深度を可能にする。具体的に開示されている1,6-ビス[4-(トリメチルゲルミルカルボニル)フェノキシ]ヘキサンは、400.5nmの吸収極大を有する。
歯科目的のための光開始剤として適している四官能性アシルゲルマンおよびスタンナンは、EP3 150 641A1から公知である。これらは、可視光を照射されると、高い硬化深度をもたらし、ビスアシルゲルマンよりも容易に生成することができる。不利益は、これらの開始剤が比較的高価であるということである。具体的に開示されている化合物は、288nm~419nmの範囲の吸収極大を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】英国特許第1408265号明細書
【文献】米国特許第4,457,818号明細書
【文献】米国特許第4,525,256号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1905415号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2103297号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3150641号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、一般式(I)
【化1】
による化合物
[式中、
Mは、GeまたはSnであり、
RArは、
【化2】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、各場合において互いに独立に、-H、-F、-Cl、-OR
6、-SR
6、-N(R
6)
2、-CF
3、-CN、-NO
2、-COOR
6、-CONHR
6、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキル、C
2~20アルケニル、C
1~20アルキルオキシまたはC
2~20アルケンオキシラジカル(O、Sまたは-NR
6-によって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基および/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、R
6は、H、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキルまたはC
2~20アルケニルラジカルであり、R
7は、化学結合、n価の芳香族ラジカル、または分岐、環式もしくは好ましくは直鎖C
1~20アルキレンラジカル(O、Sまたは-NR
6-によって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基、=Oおよび/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、nは、2または3であり、mは、0または1である
という意味を有する]を提供する。その化合物は、ラジカル重合のため、特に歯科材料の生成のための光開始剤として、特に適している。
本発明の目的は、公知の開始剤の不利益を有しておらず、改善された硬化特徴によって特徴付けられ、現況技術と比較して生成が容易な、可視光によるラジカル重合のための光開始剤を提供することである。さらに、その開始剤は、特に、大きい硬化深度を可能にするはずである。
【0010】
この目的は、一般式(I)
【化3】
による多官能性芳香族アシルゲルマニウムおよびアシルスズ化合物
[式中、変数は、以下の意味:
Mは、GeまたはSnであり、
RArは、
【化4】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、各場合において互いに独立に、-H、-F、-Cl、-OR
6、-SR
6、-N(R
6)
2、-CF
3、-CN、-NO
2、-COOR
6、-CONHR
6、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキル、C
2~20アルケニル、C
1~20アルキルオキシまたはC
2~20アルケンオキシラジカル(O、Sまたは-NR
6-によって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基および/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
R
6は、各場合において互いに独立に、H、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキルまたはC
2~20アルケニルラジカルであり、
R
7は、化学結合、n価の芳香族ラジカル、またはn価の分岐、環式もしくは好ましくは直鎖C
1~20アルキレンラジカル(O、Sまたは-NR
6-によって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基、=Oおよび/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
nは、2または3であり、
mは、0または1である
という意味を有する]によって本発明に従って達成される。
【0011】
R7基は、括弧内の基によってn回置換されており、またはR7が化学結合である場合には、括弧内の基の2個を接続する。
【0012】
式(I)および本明細書に示される残りの式は、すべての立体異性体、および例えばラセミ体などの様々な立体異性体の混合物を包含する。式(I)は、化学原子価の理論と適合性がある化合物だけに及ぶ。ラジカルが、例えば1個または複数のO原子または基によって中断されているという指示は、これらの原子または基が、各場合、ラジカルの炭素鎖に挿入されることを意味すると理解されるべきである。したがって、これらの原子または基は、両側がC原子に隣接しており、末端にはあり得ない。C1ラジカルは、中断されず、分岐でも環式でもあり得ない。芳香族炭化水素ラジカルとは、通常の命名法に従って、芳香族および非芳香族基を含有するラジカルも意味する。R7が化学結合である場合、nは、2にしかなり得ない。
【0013】
炭素原子およびヘテロ原子を含有する炭化水素ラジカルの場合、ヘテロ原子の数は、置換基にかかわらず、常に炭素原子の数未満である。
【0014】
すべての場合、前述の名前が挙げられている基は、好ましくは0~3個の、特に好ましくは0~2個の原子または基によって中断され、特に非常に好ましくは中断されていない。
【0015】
明確に示されていなくても、アルキルおよびアルキレンは直鎖および分岐基を表すが、すべての場合において、直鎖アルキルラジカルが好ましい。
【0016】
芳香族ラジカルとは、6~18個、特に好ましくは6~14個の炭素原子を有するラジカル、特に非常に好ましくは6個の炭素原子を有するラジカル、特にp-フェニレン基(n=2)またはベンゼン-1,3,5-トリイル基(n=3)を意味する。
【0017】
前述のラジカルにおいて置換基として存在することができる、好ましい重合可能な基は、ビニル、(メタ)アクリルおよび(メタ)アクリルアミド、特に好ましくは(メタ)アクリル、特に非常に好ましくはメタクリル(H2C=C(-CH3)-CO-)基である。ラジカルR1~R5およびR7は、好ましくは0~3個、より好ましくは0~1個の重合可能な基で置換されており、特に非常に好ましくは非置換である。重合可能な基は、好ましくは配列した末端を有する。
【0018】
式(I)の変数は、好ましくは、以下の意味:
Mが、GeまたはSnであり、
RArが、
【化5】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5が、各場合において互いに独立に、-H、-F、-Cl、-OR
6、-CF
3、-CN、-COOR
6、-CONHR
6、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキル、C
2~20アルケニル、C
1~20アルキルオキシまたはC
2~20アルケンオキシラジカル(OまたはSによって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基および/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
R
6が、H、芳香族ラジカル、または分岐、環式もしくは好ましくは直鎖C
1~10アルキルラジカル、C
2~10アルケニルラジカルであり、
R
7が、化学結合、n価のベンゼンラジカル、分岐または直鎖のn価のC
1~10アルキレンラジカル(OまたはSによって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基、=Oおよび/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
nが、2であり、
mが、0または1である
という意味を有する。
【0019】
式(I)の変数は、特に好ましくは、以下の意味:
Mが、GeまたはSnであり、
RArが、
【化6】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5が、各場合において互いに独立に、-HまたはC
1~3アルキルラジカル、好ましくはメチルであり、
R
7が、化学結合、-CO-、n価のベンゼンラジカルまたはn価の直鎖C
1~6アルキルラジカルであり、
nが、2であり、
mが、0または1である
という意味を有する。
【0020】
R
2およびR
4が、各場合、Hであり、R
1、R
3およびR
5が、各場合、Hまたはメチルであり、最も好ましくはメチルである化合物が、特に非常に好ましい。この場合、RArは、
【化7】
である。
【0021】
個々の変数について示される、好ましい、特に好ましい、および特に非常に好ましい定義は、各場合において互いに独立に選択することができる。すべての変数が、好ましい、特に好ましい、および特に非常に好ましい定義を有する化合物は、特に、本発明に従って必然的に適している。
【0022】
本発明の実施形態によれば、m=1である、式(I)の化合物が好ましい。これらの化合物は、式(II):
【化8】
によって表すことができる。式(II)の好ましい化合物は、式(II)の変数が、以下の意味:
Mが、GeまたはSnであり、
RArが、
【化9】
であり、
R
7が、
【化10】
であり、
nが、2である
という意味を有する、化合物である。
【0023】
本発明のさらなる実施形態によれば、式(II)の変数は、好ましくは以下の意味:
Mは、Geであり、
RArは、
【化11】
であり、
R
7は、
【化12】
であり、
nは、3である
という意味を有する。
【0024】
本発明のさらなる実施形態によれば、R
7が-CO-であり、m=0であり、n=2である、式(I)の化合物が好ましい。これらの化合物は、式(III):
【化13】
によって表すことができる。
【0025】
本発明のさらなる実施形態によれば、m=0である、式(I)の化合物が好ましい。これらの化合物は、式(IV):
【化14】
によって表すことができる。
【0026】
式(IV)の好ましい化合物は、式(IV)の変数が以下の意味:
Mが、Geであり、
RArが、
【化15】
であり、
R
7が、C
2~C
8アルキレン、特に好ましくは-C
4H
8-であり、
nが、2である
という意味を有する、化合物である。
【0027】
本発明のさらなる実施形態によれば、R
7が、化学結合であり、m=0であり、n=2である、式(I)の化合物が好ましい。これらの化合物は、式(V):
【化16】
によって表すことができる。
【0028】
式(V)の好ましい化合物は、式(V)の変数が以下の意味:
Mが、Geであり、
RArが、
【化17】
である
という意味を有する、化合物である。
【0029】
本発明のさらなる実施形態によれば、式(I)の変数は、以下の意味:
Mは、Geであり、
RArは、
【化18】
であり、
R
7は、化学結合であり、
nは、2であり、
mは、1である
という意味を有する。
【0030】
本発明による一般式(I)の芳香族アシルゲルマニウムまたはアシルスズ化合物は、現況技術では知られていない。その化合物の合成は、好ましくは、対応する芳香族トリスアシル金属エノラート(TrAME)から出発して行われ(M=Geである場合、トリスアシルゲルマニウムエノラート(TrAGeE)から出発し、M=Snである場合、トリスアシルスズエノラート(TrASnE)から出発する)、それらは、対応するテトラアシル金属化合物、すなわち対応するテトラアシルゲルマン(TAGe、M=Ge)またはテトラアシルスタンナン(TASn、M=Sn)と、カリウムtert-ブチレート(KOtBu)との反応によって得ることができる。
【化19】
【0031】
さらに、トリスアシル金属エノラート(TrAME)の合成は、ワンポット反応で行うことができ、したがって、テトラキス(トリメチルシリル)ゲルマンまたはスタンナンは、まずKOtBuと反応して、対応するトリス(トリメチルシリル)ゲルマニドまたはスタンニドを形成し、それが次に3当量の芳香族酸フッ化物とさらに反応して、トリスアシル金属エノラート(TrAME)を形成する。
【化20】
【0032】
本発明による一般式(I)の多官能性芳香族アシルゲルマニウムおよびアシルスズ化合物は、次に、トリスアシル金属エノラート(TrAME)を用いて生成することができる。
【0033】
したがって、本発明による一般式(II)のオクタ/ドデカアシルゲルマニウムおよびスズ化合物は、トリスアシル金属エノラートと二酸または三酸塩化物との反応によって得ることができる。
【化21】
【0034】
オクタアシルゲルマニウム誘導体の具体例。
【化22】
【0035】
本発明による一般式(III)のヘキサアシルケトンゲルマニウムおよびスズ化合物は、トリスアシル金属エノラートとカルボニル化合物との反応によって得ることができる。
【化23】
【0036】
ヘキサアシルジゲルマニウムケトン誘導体の具体例。
【化24】
【0037】
本発明による一般式(IV)のヘキサアシル/ノナアシルゲルマニウムおよびスズ化合物は、トリスアシル金属エノラートと、α,ω-ジハロアルカンまたはトリハロアルカンとの反応によって生成することができる。
【化25】
【0038】
ヘキサアシルジゲルマニウム誘導体の具体例。
【化26】
【0039】
本発明による一般式(V)のヘキサアシルジゲルマニウムおよび二スズ化合物は、トリスアシル金属エノラートと、例えばジハライドなどのトランスメタル化試薬との反応によって得ることができる。
【化27】
【0040】
ヘキサアシルジゲルマニウム誘導体の具体例は、
【化28】
である。
【0041】
式(I)の特に好ましい化合物の具体例は、
【化29-1】
【化29-2】
【化29-3】
である。
【0042】
本発明による一般式(I)の化合物は、驚くべきことに、構造的に類似の公知の光開始剤と比較して、より大きい波長に明らかにシフトしている可視光の吸収域を有する。したがってそれらの化合物により、より長波の光を用いて重合を開始することができ、より大きい硬化深度が可能になる。さらに、式(I)の化合物は、可視域吸収の非常に高い消衰係数によって特徴付けられる。したがって、それらの化合物は、可視光によって開始される重合反応のための光開始剤として、低濃度で既に有効である。式(I)の光開始剤はさらに、非常に良好な漂白挙動を有し、すなわち重合中、非常に急速に、実際に完全に脱色される。さらに、それらの化合物は、合成によって容易に得られる。
【0043】
本発明による一般式(I)の化合物は、特に、重合反応のための光開始剤として、特に重付加およびチオール-エン反応のための、さらには特にラジカル重合のための開始剤として適している。これについて、それらの化合物は、好ましくは、少なくとも1つの重合可能なバインダーと合わせられる。重付加によって重合することができるモノマーに基づくバインダーが好ましく、ラジカル重合可能なモノマーに基づくバインダーが、特に好ましい。式(I)の少なくとも1つの化合物および少なくとも1つのモノマーを含有する組成物も同様に、本発明の主題である。
【0044】
単官能性もしくは多官能性(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物は、ラジカル重合可能なモノマーとして、特に適している。単官能性(メタ)アクリレートとは、1個の重合可能な基を有する化合物を意味し、多官能性(メタ)アクリレートとは、2個またはそれよりも多い、好ましくは2~3個の重合可能な基を有する化合物を意味する。
【0045】
好ましい例は、メチル、エチル、ヒドロキシエチル、ブチル、ベンジル、テトラヒドロフルフリルまたはイソボルニル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加生成物)、ジ-、トリ-またはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ならびにグリセロールジ-およびグリセロールトリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ならびにそれらの混合物である。
【0046】
2個またはそれよりも多い、好ましくは2~3個のラジカル重合可能な基を有する少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマーを含有する組成物が、特に好ましい。多官能性モノマーは、架橋特性を有する。
【0047】
加水分解に対して安定なモノマー、例えば加水分解に対して安定なモノ(メタ)アクリレート、例えばメシチルメタクリレート、または2-(アルコキシメチル)アクリル酸、例えば2-(エトキシメチル)アクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、N-一置換もしくは二置換アクリルアミド、例えばN-エチルアクリルアミド、N,N-ジメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドもしくはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドなど、N-一置換メタクリルアミド、例えばN-エチルメタクリルアミドもしくはN-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなど、ならびにN-ビニルピロリドンまたはアリルエーテルも、有利には、ラジカル重合可能なモノマーとして使用することができる。
【0048】
加水分解に対して安定な架橋モノマーの好ましい例は、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸およびジイソシアネート、例えば2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネートのウレタン、架橋ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサンなど、または商業的に入手可能なビスアクリルアミド、例えばメチレンビスアクリルアミドもしくはエチレンビスアクリルアミド、ビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタンもしくは1,4-ビス(アクリロイル)-ピペラジン(対応するジアミンと(メタ)アクリル酸クロリドとの反応によって合成することができる)などである。希釈モノマーとして使用することができる、室温で液体であるモノマーが好ましい。
【0049】
低収縮のラジカル開環重合可能なモノマー、例えば単官能性もしくは多官能性ビニルシクロプロパンまたは二環式シクロプロパン誘導体、好ましくはDE196 16 183C2もしくはEP1 413 569A1に記載されているもの、または環式アリルスルフィド、好ましくはUS6,043,361およびUS6,344,556に記載されているものなども、ラジカル重合可能なバインダーとしてさらに使用することができる。これらは、有利には、先に列挙されるジ(メタ)アクリレートクロスリンカーと組み合わせて使用することもできる。好ましい開環重合可能なモノマーは、ビニルシクロプロパン、例えば1,1-ジ(エトキシカルボニル)-もしくは1,1-ジ(メトキシカルボニル)-2-ビニルシクロプロパン、または1-エトキシカルボニル-もしくは1-メトキシカルボニル-2-ビニルシクロプロパンカルボン酸とエチレングリコール、1,1,1-トリメチロールプロパン、1,4-シクロヘキサンジオールもしくはレゾルシノールとのエステルである。好ましい二環式シクロプロパン誘導体は、2-(ビシクロ[3.1.0]ヘキサ-1-イル)アクリル酸メチルまたはエチルエステル、および3位におけるそれらの二置換生成物、例えば(3,3-ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ-1-イル)アクリル酸メチルまたはエチルエステルである。好ましい環式アリルスルフィドは、2-(ヒドロキシメチル)-6-メチレン-1,4-ジチエパンもしくは7-ヒドロキシ-3-メチレン-1,5-ジチアシクロオクタンと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物、または非対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(Bayer AGのDesmodur(登録商標)VP LS2294)である。
【0050】
さらに好ましいラジカル重合可能なモノマーは、ビニルエステル、ビニルカーボネートおよびビニルカルバメートである。さらに、スチレン、スチレン誘導体、ジビニルベンゼン、不飽和ポリエステル樹脂およびアリル化合物またはラジカル重合可能なポリシロキサン(これは、適切なメタクリルシラン、例えば3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランなどから生成することができ、例えばDE199 03 177C2に記載されている)も、ラジカル重合可能なモノマーとして使用することができる。スチレン誘導体とは、ビニル基ではなくスチレンのフェニル基が、簡単な基、例えばC1~C10アルキル、Cl、Br、OH、CH3O、CHO、C2H5O、COOHまたはカルボン酸エステル基によって一置換または多置換されている化合物を意味する。
【0051】
さらに、前述の名前が挙げられているモノマーと、接着性モノマーとも呼ばれるラジカル重合可能な酸基含有モノマーとの混合物も、ラジカル重合可能なバインダーとして使用することができる。好ましい酸基含有モノマーは、重合可能なカルボン酸、例えばマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシンまたは4-ビニル安息香酸である。
【0052】
ラジカル重合可能なホスホン酸モノマー、特にビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチル-ペンチル-ホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸または2-[2-ジヒドロキシホスホリル)-エトキシメチル]-アクリル酸エチルまたは2,4,6-トリメチルフェニルエステルは、接着性モノマーとして、特に適している。
【0053】
さらに、重合可能な酸性のリン酸エステル、特にリン酸一水素または二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一水素または二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、ジペンタエリスリトール-ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、ジペンタエリスリトール-ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、およびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イルも、接着性モノマーとして適している。
【0054】
さらに、重合可能なスルホン酸、特にビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸または3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸も、接着性モノマーとして適している。
【0055】
単官能性または多官能性メルカプト化合物、および二官能性または多官能性不飽和モノマー、とりわけアリルまたはノルボルネン化合物の混合物を含有するチオール-エン樹脂は、重付加により硬化可能なバインダーとして、特に適している。
【0056】
単官能性または多官能性メルカプト化合物の例は、o-、m-またはp-ジメルカプトベンゼン、およびエチレン、プロピレングリコールもしくはブチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトールの、チオグリコール酸または3-メルカプトプロピオン酸のエステルである。
【0057】
二官能性または多官能性アリル化合物の例は、アリルアルコールと、ジカルボン酸もしくはトリカルボン酸、例えばマロン酸、マレイン酸、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくは没食子酸とのエステル、ならびに単官能性もしくは三官能性アリルエーテル、例えばジアリルエーテル、α,ω-ビス[アリルオキシ]アルカン、レゾルシノールもしくはヒドロキノンジアリルエーテルおよびピロガロールトリアリルエーテルなど、または例えば1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、テトラアリルシランもしくはテトラアリルオルトシリケートなどの他の化合物である。
【0058】
二官能性または多官能性ノルボルネン化合物の例は、シクロペンタジエンまたはフランと二官能性または多官能性(メタ)アクリレートとのディールス-アルダー付加生成物、ならびに5-ノルボルネン-2-メタノールまたは5-ノルボルネン-2-オールと、ジカルボン酸またはポリカルボン酸、例えばマロン酸、マレイン酸、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸または没食子酸など、ジイソシアネートまたはポリイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネートまたはその環式三量体、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートとの、エステルおよびウレタンである。
【0059】
本発明による組成物はまた、有利には、一般式(I)のアシルゲルマニウム化合物に加えて、UVまたは可視域のための1つまたは複数の公知の光開始剤をさらに含有することができる(J.P. Fouassier, J.F. Rabek (Ed.), Radiation Curing in Polymer Science and Technology, Vol. II, Elsevier Applied Science, London and New York 1993を参照されたい)。特に、ノリッシュI型光開始剤、とりわけアシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシド、例えば、商業的に入手可能な化合物である2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドおよびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドなどとの組合せが適している。モノアシルトリアルキル、ジアシルジアルキルゲルマニウム、トリアシルアルキルおよびテトラアシルゲルマニウム化合物、例えばベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムまたはビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム、およびテトラベンゾイルゲルマニウムなどが、特に適している。さらに好ましい混合物は、一般式(I)の化合物を、芳香族ジアリールヨードニウムまたはトリアリールスルホニウム塩、例えば商業的に入手可能な化合物である4-オクチルオキシフェニル-フェニル-ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートまたはイソプロピルフェニル-メチルフェニル-ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートと組み合わせて含有する開始剤の組合せである。
【0060】
さらに、本発明による組成物は、二重硬化のための一般式(I)の化合物に加えて、アゾ化合物、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス-(4-シアノ吉草酸)、またはペルオキシド、例えばジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、tert-ブチルペルオクトエート、tert-ブチルペルベンゾエートもしくはジ-(tert-ブチル)ペルオキシドを含有することもできる。ペルオキシドを用いることによって開始を促進するために、芳香族アミンとの組合せを使用することもできる。好ましい酸化還元系は、過酸化ベンゾイルと、アミン、例えばN,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルまたは構造的に関係する系との組合せである。さらに、ペルオキシドおよび還元剤、例えばアスコルビン酸、バルビツレートもしくはスルフィン酸などからなる酸化還元系、またはヒドロペルオキシドと、還元剤および触媒金属イオンとの組合せ、例えばクメンヒドロペルオキシド、チオ尿素誘導体および銅(II)アセチルアセトネートの混合物なども、二重硬化に適している。
【0061】
本発明による組成物は、さらに有利には、1つまたは複数の有機または好ましくは無機フィラーを含有することができる。繊維状フィラー、特に微粒子フィラーが好ましい。
【0062】
ナノファイバー、ガラス繊維、ポリアミド繊維および炭素繊維は、繊維状フィラーとして好ましい。ナノファイバーとは、100nm未満の長さを有する繊維を意味する。繊維状フィラーは、特に、複合材料の生成に適している。
【0063】
好ましい無機フィラーは、オキシドに基づく非晶質の球状ナノ微粒子フィラー、例えば発熱性シリカまたは沈殿シリカ、ZrO2およびTiO2、またはSiO2、ZrO2および/もしくはTiO2の混合オキシド、マイクロ微粒子フィラー、例えば石英、ガラスセラミックまたはガラス粉末、ならびに放射線不透過性フィラー、例えば三フッ化イッテルビウム、ナノ微粒子酸化タンタル(V)または硫酸バリウムである。三フッ化イッテルビウムは、好ましくは、200~800nmの粒径を有する。
【0064】
微粒子フィラーは、好ましくは0.01~15μmの粒径を有する。ナノ微粒子フィラーは、好ましくは10~100nmの粒径を有し、マイクロ微粒子フィラーは、好ましくは0.2~5μmの粒径を有する。放射線不透過性フィラーは、それらがナノ微粒子フィラーでない限り、好ましくは0.2~5μmの粒径を有する。
【0065】
別段指定されない限り、すべての粒径は、重量平均粒径(D50値)であり、0.1μm~1000μmの範囲の粒径の決定は、好ましくは、静的光散乱を用いることによって、例えばLA-960静的レーザー散乱粒径分布分析器(Horiba、日本)を使用して行われる。ここで、655nmの波長を用いるレーザーダイオードおよび405nmの波長を用いるLEDが、光源として使用される。異なる波長を有する2つの光源を使用することにより、被験物の粒径分布全体を、わずか1回の測定に通過させて測定することが可能になり、その測定は、湿式測定として行われる。この目的では、フィラーの0.1~0.5%水性分散液が生成され、その散乱光が、フローセル中で測定される。粒径および粒径分布を算出するためには、散乱光の分析が、Mie理論に従ってDIN/ISO13320により行われる。5nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは水性粒子分散液からの動的光散乱(DLS)によって、好ましくは633nmの波長を用いるHe-Neレーザーを使用して、散乱角度90°で25℃において、例えばMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern UK)を使用して行われる。
【0066】
0.1μmよりも小さい粒径も、SEMまたはTEM顕微鏡写真を用いることによって決定することができる。透過型電子顕微鏡検査(TEM)は、好ましくは、Philips CM30 TEMを使用して、加速電圧300kVで行われる。被験物の調製のために、粒子分散液の液滴を、炭素でコーティングされている50Åの厚さの銅格子(メッシュ幅300メッシュ)に適用し、次に溶媒を蒸発させる。粒子を計測し、算術平均を算出する。
【0067】
フィラー粒子と架橋重合マトリックスとの間の結合を改善するために、フィラーは、好ましくは表面修飾される。SiO2ベースのフィラーは、好ましくは、メタクリレート官能化シラン、特に好ましくは3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾される。例えばZrO2またはTiO2の非シリケートフィラーの表面修飾では、官能化酸性ホスフェート、例えば、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシルなどを使用することもできる。
【0068】
さらに、本発明による組成物は、必要に応じて、さらなる添加剤および溶媒を含有することができる。添加剤は、好ましくは、安定剤、連鎖移動試薬、UV吸収剤、染料または顔料、および滑沢剤から選択される。好ましい溶媒は、水、エタノール、アセトン、酢酸エチルおよびそれらの混合物である。
【0069】
式(I)による開始剤は、高い光重合反応性によって特徴付けられ、すなわち、ラジカル重合を開始し、したがって組成物を硬化させるために、少量の式(I)の化合物の照射で既に十分である。したがって、それらの開始剤は、低濃度で使用することができる。本発明による組成物は、組成物の総質量に対して、好ましくは0.001~3wt.%、特に好ましくは0.001~1wt.%、特に非常に好ましくは0.005~0.5wt.%の少なくとも1つの式(I)の化合物を含有する。
【0070】
本発明による一般式(I)の化合物は、ポリマー、複合物、セメント、コーティング材料、プライマーまたは接着剤を生成するための光開始剤として、特に適している。それらの化合物は、医療分野における適用に、とりわけ歯科材料、例えば充填複合物、固定セメント、接着剤、義歯材料、ベニア材料、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレーまたはコーティングを生成するための材料の生成に、特に適している。
【0071】
本発明による組成物のための使用のさらなる医療分野は、外科手術分野において、例えば、組織再生のための材料として、または補聴器の生成のための材料として、および眼科学において、例えば、眼内レンズまたはコンタクトレンズの生成のための材料として見出される。例えば骨の組織再生のための材料とは、例えば、ヒドロキシアパタイトの、例えば骨材料を組み込むための骨格構造を形成するポリマーネットワークを意味する。このようなポリマーネットワークは、有利には、本発明による式(I)の化合物を光開始剤として使用して生成することができる。これらの化合物は活性が高いので、非常に低濃度で使用することができ、このことは、材料の生物学的適合性に関して有利である。
【0072】
本発明による式(I)の化合物および本発明による組成物の可能な使用は、医療分野に限定されない。技術適用の場合、一般式(I)による化合物は、光造形法もしくは3D印刷において、例えば成形体、プロトタイプもしくは素地の生成において、コーティング材料の生成のため、またはマイクロエレクトロニクスにおいて、例えばフォトレジスト技術において、光開始剤として使用することができる。
【0073】
本発明による組成物は、好ましくは以下の構成物:
(a)0.001~3wt.%、好ましくは0.001~1.0wt.%、特に好ましくは0.005~0.5wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)1~99.9wt.%、好ましくは5~95wt.%、特に好ましくは10~90wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)0~85wt.%、好ましくは5~80wt.%、特に好ましくは10~75wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0~70wt.%、好ましくは0.1~60wt.%、特に好ましくは0.1~50wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する。
【0074】
本明細書に特定されるすべての百分率は、別段指定されない限り、組成物の総質量に関する。
【0075】
セメントとして、特に歯科用セメントとしての使用のための組成物は、好ましくは、
(a)0.001~3wt.%、好ましくは0.001~1.0wt.%、特に好ましくは0.005~0.5wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)5~70wt.%、好ましくは10~60wt.%、特に好ましくは20~55wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)20~80wt.%、好ましくは20~70wt.%、特に好ましくは40~60wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0.1~10wt.%、好ましくは1.0~10wt.%、特に好ましくは1.00~5wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する。
【0076】
複合物として、特に歯科用充填複合物としての使用のための組成物は、好ましくは、
(a)0.001~3wt.%、好ましくは0.001~1.0wt.%、特に好ましくは0.005~0.5wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)5~70wt.%、好ましくは10~50wt.%、特に好ましくは20~40wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)30~85wt.%、好ましくは40~80wt.%、特に好ましくは45~77wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0.1~10wt.%、好ましくは0.5~5wt.%、特に好ましくは0.5~3wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する。
【0077】
コーティング材料として、特に歯科用コーティング材料としての使用のための組成物は、好ましくは、
(a)0.001~5wt.%、好ましくは0.001~3.0wt.%、特に好ましくは0.05~3.0wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)10~99.9wt.%、好ましくは15~99.9wt.%、特に好ましくは30~99.9wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)0~70wt.%、好ましくは0~60wt.%、特に好ましくは0~20wt.%の少なくとも1つのナノ微粒子フィラー、および
(d)0.1~10wt.%、好ましくは0.1~5wt.%、特に好ましくは0.1~3wt.%の1つまたは複数の添加剤、
(e)0~70wt.%、好ましくは0~60wt.%、特に好ましくは0~50wt.%の溶媒
を含有する。
【0078】
接着剤として、特に歯科用接着剤としての使用のための組成物は、好ましくは、
(a)0.001~5wt.%、好ましくは0.001~3.0wt.%、特に好ましくは0.05~1.0wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b1)1~95wt.%、好ましくは5~80wt.%、特に好ましくは20~80wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(b2)1~20wt.%、好ましくは1.0~15wt.%、特に好ましくは2~15wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能な接着性モノマー、
(c)0~40wt.%、好ましくは0~30wt.%、特に好ましくは1~10wt.%の少なくとも1つのナノ微粒子フィラー、および
(d)0.1~10wt.%、好ましくは0.1~5wt.%、特に好ましくは0.3~5wt.%の1つまたは複数の添加剤、
(e)0~70wt.%、好ましくは5~60wt.%、特に好ましくは10~55wt.%の溶媒
を含有する。
【0079】
光造形法または3D印刷のための材料として、特に歯科材料としての使用のための組成物は、好ましくは、
(a)0.001~3wt.%、好ましくは0.001~1.0wt.%、特に好ましくは0.005~1.0wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)1~99.9wt.%、好ましくは20~98wt.%、特に好ましくは30~95wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマーまたは樹脂、
(c)0~85wt.%、好ましくは1~70wt.%、特に好ましくは3~60wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0.1~70wt.%、好ましくは0.5~60wt.%、特に好ましくは1.0~50wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する。
【0080】
歯科目的のための本発明による組成物は、特に、歯科医が、損傷した歯を修復するために口腔内適用するのに適しており、すなわち治療的な使用のために、例えば歯科用セメント、充填複合物およびベニア材料として適している。しかしその組成物は、非治療的に(口腔外で)、例えば歯科修復物、例えば補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジの生成または修復において使用することもできる。
【0081】
本発明の別の主題は、ラジカル重合可能な材料、好ましくは医療技術的材料、特に歯科材料を生成するための、式(I)による化合物の使用である。
【0082】
本発明を、実施例を参照しながら、以下により詳細に説明する。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
1,2-ビス(トリスメシトイルゲルミル)テレフタレート1の合成
第1の段階:トリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートTMGeの合成(方法A)
【化30】
ジメトキシエタン(DME)25mLを、テトラキス(トリメチルシリル)シラン(Me
3Si)
4Si 2.18g(6.79mmol、1.5当量)およびカリウムtert.ブチレートKOtBu 0.76g(6.79mmol、1.5当量)を含有するフラスコに添加した。次に、カリウムシラニドを形成するための反応混合物を、1時間撹拌した。第2のフラスコ中、テトラキス(メシトイル)ゲルマン3.00g(4.53mmol、1.0当量)を、DME 30mLに溶解させた。これに、シリンジを用いることによってカリウムシラニド溶液をゆっくり添加し、反応溶液を2時間撹拌した。反応を、NMR分光法を用いることによってモニタリングした。そうして得られたトリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラート溶液は、さらなる反応のために-30℃で数週間にわたって貯蔵することができる。
【0084】
第1の段階:トリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートTMGeの合成(方法B)
【化31】
DME 35mLを、テトラキス(トリメチルシリル)ゲルマン(Me
3Si)
4Ge 3.00g(8.21mmol)およびKOtBu 1.01g(9.03mmol、1.1当量)を含有するフラスコに添加した。次に、反応混合物を1時間撹拌した。次に、フッ化メシトイル1.36g(8.21mmol、1.0当量)を添加し、混合物をさらに10分間撹拌した。添加を、同量のフッ化メシトイル(合計2.73g、2.0当量)で2回反復し、次に、混合物をさらに2時間撹拌した。そうして得られたトリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラート溶液は、さらなる反応のために-30℃で数週間にわたって貯蔵することができる。
収量:
方法A:2.8g(96%)。(ゲルマニウムエノラートTMGeは、DMEの分子を含有する)
方法B:2.9g(99%)。
【0085】
1H-NMR: δH (400 MHz, THF-D8): 6.39 (s, 6H, アリール-H), 3.43 (s, 3.2H, CH2), 3.27 (s, 4.5H, CH3), 2.15 (s, 9H, pCH3), 2.04 (s, 18H, oCH3).
13C-NMR: δC (100 MHz, THF-D8): 262.77 (GeCOMes), 148.62 (アリール-C1), 135.18 (アリール-C2), 131.63 (アリール-C3) 128.44 (アリール-C4), 72.77 (-CH2-), 58.95(-CH3), 21.30 (アリール-pCH3), 20.03 (アリール-oCH3).
融点:154~156℃。
UV-VIS:λ[nm](ε[L mol-1cm-1])=427(3454)、353(3030)。
IR:ν[cm-1]=1604、1590、1555、1535(m、νC=O)。
元素分析:算出値:C:63.47%、H:6.74%、実測値:C:63.53%、6.75%。
【0086】
第2の段階:1,2-ビス(トリスメシトイルゲルミル)テレフタレート1の合成
【化32】
トルエン60mLに溶解させたテレフタロイルクロリド0.51g(2.55mmol、0.66当量)を、方法Aに従って生成したトリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートの溶液に、撹拌を伴って-30℃で添加した。反応溶液を、室温にゆっくり加熱し、NMR分光法による反応のモニタリングにより、1,2-ビス(トリスメシトイルゲルミル)テレフタレート1の形成が示された。飽和NH
4Cl溶液50mLを用いる反応バッチの水系後処理後、有機相を分離し、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。次に、溶液を濾別し、揮発性構成成分を真空中で除去した。固体残留物を、アセトンから再結晶化させ、1.37g(収率52%)の1,2-ビス(トリスメシトイルゲルミル)テレフタレート1を、黄色の結晶固体として得た。
【0087】
1H-NMR: δH (400 MHz, CDCl3): 7.22 (s, 4H, アリール-H), 6.56 (s, 12H, アリール-H), 2.15 (s, 18H, pCH3), 2.11 (s, 36H, oCH3).
13C-NMR: δC (100 MHz, CDCl3): 231.61, 222.24 (GeC=O), 141.94, 141.33, 140.12, 133.11, 128.87, 128.61 (アリール-C), 21.23 (アリール-pCH3), 19.35 (アリール-oCH3).
融点:245~247℃。
UV-VIS:λ[nm](ε[L mol-1cm-1])=434sh(1645)、377(5252)。
IR:ν[cm-1]=1658、1643、1632、1619、1607(m、νC=O)。
元素分析:算出値:C:70.38%、H:6.08%、実測値:C:70.42%、6.10%。
【0088】
生成された1,2-ビス(トリスメシトイルゲルミル)テレフタレート1は、376nmにおいてわずかε=1984L mol-1cm-1のバンドを示す、現況技術から公知のテトラキス(メシトイル)ゲルマンよりもかなり高い値である、377nmにおいて消衰係数5252L mol-1cm-1の吸収バンドを示した。その消衰係数は、408nmにおいてε=724L mol-1cm-1のバンドを示す、非常に有効な市販の光開始剤であるビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムの消衰係数よりもかなり高かった。
【0089】
(実施例2)
1,2-ビス(トリスメシトイルスタンニル)テレフタレート2の合成
第1の段階:トリス(メシトイル)スズエノラートTMSnの合成(方法A)
【化33】
ジメトキシエタン(DME)25mLを、テトラキス(トリメチルシリル)シラン(Me
3Si)
4Si 2.04g(6.36mmol、1.5当量)およびカリウムtert.ブチレートKOtBu 0.71g(6.36mmol、1.5当量)を含有するフラスコに添加した。次に、カリウムシラニドを形成するための反応混合物を、1時間撹拌した。第2のフラスコ中、テトラキス(メシトイル)スタンナン3.00g(4.24mmol、1.0当量)を、DME 30mLに溶解させた。これに、カリウムシラニド溶液を、シリンジを用いることによってゆっくり添加し、反応溶液を2時間撹拌した。反応を、NMR分光法を用いることによってモニタリングした。そうして得られたトリス(メシトイル)スズエノラート溶液は、さらなる反応のために-30℃で数週間にわたって貯蔵することができた。結晶を得るために、1当量のクラウンエーテル18-クラウン-6を添加した。
【0090】
第2の段階:トリス(メシトイル)スズエノラートTMSnの合成(方法B)
【化34】
DME 35mLを、テトラキス(トリメチルシリル)スタンナン(Me
3Si)
4Sn 3.00g(7.29mmol)およびKOtBu 0.90g(8.02mmol、1.1当量)を含有するフラスコに添加した。次に、反応混合物を1時間撹拌した。次に、フッ化メシトイル3.64g(21.87mmol、3.0当量)を添加し、混合物をさらに30分間撹拌した。そうして得られたトリス(メシトイル)スズエノラート溶液は、さらなる反応のために-30℃で数週間にわたって貯蔵することができた。結晶を得るために、1当量のクラウンエーテル18-クラウン-6を添加した。
収量:
方法A:3.1g(85%)(スズエノラートTMSnは、18-クラウン-6の分子を含有する)
方法B:5.3g(84%)
【0091】
1H-NMR: δH (400 MHz, C6D6): 6.68 (s, 6H, アリール-H), 3.28 (s, 24H (CH2-CH2-O)-), 2.42 (s, 18H, oCH3), 2.17 (s, 9H, pCH3).
13C-NMR: δC (100 MHz, C6D6): 286.90 (GeCOMes), 151.17 (アリール-C1), 135.41 (アリール-C2), 130.76 (アリール-C3) 128.91 (アリール-C4), 70.23 (CH2-CH2-O)-, 21.19 (アリール-pCH3), 19.76 (アリール-oCH3).
119Sn(C6D6):δ[ppm]=450.04(SnCOMes)。
融点:165~167℃。
UV-VIS:λ[nm](ε[L mol-1cm-1])=427(3454)、353(3030)。
IR:ν[cm-1]=1607、1581、1562(m、νC=O)。
元素分析:算出値:C:58.41%、H:6.65%、実測値:C:58.43%、6.69%。
【0092】
第2の段階:1,2-ビス(トリスメシトイルスタンニル)テレフタレート2の合成
【化35】
トルエン60mLに溶解させたテレフタロイルクロリド0.47g(2.33mmol、0.55当量)を、方法Aに従って生成したトリス(メシトイル)スズエノラートの溶液に、撹拌を伴って-30℃で添加した。反応溶液を、室温にゆっくり加熱し、NMR分光法による反応のモニタリングにより、オクタアシルスタンナン2の形成が示された。次に、揮発性構成成分を、真空中で反応混合物から除去した。固体残留物をトルエンに溶解させ、不溶性塩部分を濾別し、濾液を真空中で濃縮乾燥させた。最後に、固体残留物を、ジクロロメタンおよびジエチルエーテル(2:1)の混合物中で再結晶化させ、1.60g(収率60%)の1,2-ビス(トリスメシトイルスタンニル)テレフタレート2を、赤色の結晶固体として得た。
【0093】
1H-NMR: δH (400 MHz, CDCl3): 7.48 (s, 4H, アリール-H), 6.61 (s, 12H, アリール-H), 2.18 (s, 18H, pCH3), 2.10 (s, 36H, oCH3).
13C-NMR: 241.98, 235.36 (SnC=O), 143.53, 143.29, 139.85, 131.69, 128.98, 128.87 (アリール-C), 21.12 (アリール-pCH3), 18.75 (アリール-oCH3).
融点:175~177℃。
UV-VIS:λ[nm](ε[L mol-1cm-1])=470sh(1000)、400(3200)。
IR:ν[cm-1]=1665、1625、1603(m、νC=O)。
元素分析:算出値:C:65.20%、H:5.63%、実測値:C:65.23%、5.66%。
【0094】
生成された1,2-ビス(トリスメシトイルスタンニル)テレフタレート2は、398nmにおいてε=1736L mol-1cm-1のバンドを示す、現況技術から公知のテトラキス(メシトイル)スタンナン、または408nmにおいてε=724L mol-1cm-1のバンドを示す、非常に有効な市販の光開始剤であるビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムよりもかなり高い値である、400nmにおいて消衰係数4000L mol-1cm-1の吸収バンドを示した。
【0095】
(実施例3)
1,3,5-トリス(トリスメシトイルゲルミル)トリカルボニルベンゼン3の合成
【化36】
方法A:
トリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートを、実施例1と同様に方法Aに従って、(Me
3Si)
4Si 2.18g(6.79mmol、1.5C)、KOtBu 0.76g(6.79mmol、1.5当量)、テトラキス(メシトイル)ゲルマン3.00g(4.53mmol、1.0当量)およびジメトキシエタン(DME)25mLを用いて生成した。次に、この溶液を、ベンゼン-1,3,5-トリカルボニルトリクロリド0.40g(1.50mmol、0.33当量)およびトルエン60mLの混合物に、シリンジを介して-30℃で添加した。添加が完了した後、混合物を室温にゆっくり加熱し、反応を、NMR分光法を用いることによってモニタリングすると、3の形成が示された。飽和NH
4Cl溶液50mLを用いる反応バッチの水系後処理後、有機相を分離し、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。次に、溶液を濾別し、揮発性構成成分を真空中で除去した。固体残留物を、アセトンから再結晶化させ、1.20g(収率52%)の1,3,5-トリス(トリスメシトイルゲルミル)トリカルボニルベンゼン3を、分析的に純粋な黄色の結晶固体として得た。
【0096】
方法B:
トリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートを、実施例1と同様に方法Bに従って、(Me3Si)4Ge 3.00g(8.21mmol)、KOtBu 1.01g(9.03mmol、1.1当量)、フッ化メシトイル4.09g(24.63mmol、3.0当量)およびDME 35mLを用いて生成した。次に、この溶液を、ベンゼン-1,3,5-トリカルボニルトリクロリド0.72g(2.71mmol、0.33当量)およびトルエン60mLの混合物に、シリンジを介して-30℃で添加した。添加が完了した後、混合物を室温にゆっくり加熱し、反応を、NMR分光法を用いることによってモニタリングすると、3の形成が示された。飽和NH4Cl溶液50mLを用いる反応バッチの水系後処理後、有機相を分離し、無水Na2SO4上で乾燥させた。次に、溶液を濾別し、揮発性構成成分を真空中で除去した。固体残留物を、アセトンから再結晶化させ、2.86g(収率62%)のトリス(トリスメシトイルゲルミル)トリカルボニルベンゼン3を、分析的に純粋な黄色の結晶固体として得た。
【0097】
1H-NMR: δH (400 MHz, CDCl3): 6.05 (s, 3H, アリール-H), 6.35 (s, 18H, アリール-H), 2.14 (s, 27H, pCH3), 2.12 (s, 54H, oCH3).
13C-NMR: 231.05, 219.52 (GeC=O), 141.47, 140.67, 139.78, 133.19, 132.66, 128.94 (アリール-C), 21.26 (アリール-pCH3), 19.41 (アリール-oCH3).
融点:189~192℃。
UV-VIS:λ[nm](ε[L mol-1cm-1])=434sh(1776)、381(5142)。
IR:ν[cm-1]=1654、1639、1606(m、νC=O)
元素分析:算出値:C:69.87%、H:6.04%、実測値:C:69.89%、6.05%。
【0098】
生成されたトリス(トリスメシトイルゲルミル)トリカルボニルベンゼン3は、376nmにおいてわずかε=1984L mol-1cm-1のバンドを示す、現況技術から公知のテトラキス(メシトイル)ゲルマン、または408nmにおいてε=724L mol-1cm-1のバンドを示す、非常に有効な市販の光開始剤であるビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムよりもかなり高い値である、381nmにおいて消衰係数5142L mol-1cm-1の吸収バンドを示した。
【0099】
(実施例4)
1,4-ビス(トリスメシトイルゲルミル)ブタン4の合成
【化37】
方法A:
トリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートを、実施例1と同様に方法Aに従って、(Me
3Si)
4Si 2.18g(6.79mmol、1.5C)、KOtBu 0.76g(6.79mmol、1.5当量)、テトラキス(メシトイル)ゲルマン3.00g(4.53mmol、1.0当量)およびジメトキシエタン(DME)25mLを用いて生成した。次に、この溶液を、1,4-ジブロモブタン0.54g(2.49mmol、0.55当量)およびトルエン60mLの混合物に、シリンジを介して-30℃で添加した。添加が完了した後、混合物を室温にゆっくり加熱し、反応を、NMR分光法を用いることによってモニタリングすると、4の形成が示された。飽和NH
4Cl溶液50mLを用いる反応バッチの水系後処理後、有機相を分離し、無水Na
2SO
4上で乾燥させた。次に、溶液を濾別し、揮発性構成成分を真空中で除去した。固体残留物を、n-ペンタンから再結晶化させ、1.60g(収率65%)の1,4-ビス(トリスメシトイルゲルミル)ブタン4を、分析的に純粋な黄色の結晶固体として得た。
【0100】
方法B:
トリス(メシトイル)ゲルマニウムエノラートを、実施例1と同様に方法Bに従って、(Me3Si)4Ge 3.00g(8.21mmol)、KOtBu 1.01g(9.03mmol、1.1当量)、フッ化メシトイル4.09g(24.63mmol、3.0当量)およびDME 35mLを用いて生成した。次に、この溶液を、1,4-ジブロモブタン0.98g(4.51mmol、0.55当量)およびトルエン60mLの混合物に、シリンジを介して-30℃で添加した。添加が完了した後、混合物を室温にゆっくり加熱し、反応を、NMR分光法を用いることによってモニタリングすると、3の形成が示された。飽和NH4Cl溶液50mLを用いる反応バッチの水系後処理後、有機相を分離し、無水Na2SO4上で乾燥させた。次に、溶液を濾別し、揮発性構成成分を真空中で除去した。固体残留物を、アセトンから再結晶化させ、3.34g(収率75%)の1,4-ビス(トリスメシトイルゲルミル)ブタン4を、分析的に純粋な黄色の結晶固体として得た。
【0101】
1H-NMR: δH (400 MHz, CDCl3): 6.68 (s, 12H, アリール-H), 2.26 (s, 18H, pCH3), 2.04 (s, 36H, oCH3), (bs, 8H, -(CH2)4-).
13C-NMR: 237.45 (GeC=O), 142.16, 139.30, 132.49, 128.83, (アリール-C), 27.52, 16.75 (CH2-C), 21.26 (アリール-pCH3), 19.10 (アリール-oCH3).
融点:180~181℃。
UV-VIS:λ[nm](ε[L mol-1cm-1])=400(1982)、382(2628)。
IR:ν[cm-1]=1650、1632、1627、1606(m、νC=O)
元素分析:算出値:C:70.88%、H:6.88%、実測値:C:70.89%、6.87%。
【0102】
生成された1,4-ビス(トリスメシトイルゲルミル)ブタン4は、376nmにおいてわずかε=1984L mol-1cm-1のバンドを示す、現況技術から公知のテトラキス(メシトイル)ゲルマン、または408nmにおいてε=724L mol-1cm-1のバンドを示す、非常に有効な市販の光開始剤であるビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムよりもかなり高い値である、382nmにおいて消衰係数2628L mol-1cm-1の吸収バンドを示した。
【0103】
(実施例5)
実施例4からの1,4-ビス(トリスメシトイルゲルミル)ブタン4を使用する光硬化性複合物の生成
ジメタクリレートであるビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)およびビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.0
2,6]デカン(DCP)、それぞれの光開始剤およびフィラー(シラン化ガラスフィラーGM27884、0.7μm、Schott)の混合物(質量%で特定される)から、ロールミル(「Exakt」モデル、Exakt Apparatebau、Norderstedt)を用いることによって、光硬化複合物C1およびC2(参照複合物)を生成した(表1)。
表1:複合物C1およびC2の組成
【表1】
【0104】
材料の曲げ強度(FS)および曲げ弾性率(FM)の決定を、ISO規格ISO4049(歯学-ポリマーベースの充填、修復および合着材料)に従って行った。このために、試験片を調製し、それを410nmおよび460nmの波長の光を同時に用いて照射チャンバ(Honle、Grafelfing)内で40秒間、2回照射し、そうして硬化させた。曲げ強度(FS)および曲げ弾性率(FM)を、37℃の温度の水(WS)中で24時間貯蔵した後、測定した(表2)。
表2:重合化複合物C1およびC2の曲げ強度(FS、MPa)および曲げ弾性率(FM、GPa)
【表2】
【0105】
表2の結果は、得ることがかなり困難であり、したがって非常に高価な市販の光開始剤であるビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムと比較しても、本発明による1,4-ビス(トリスメシトイルゲルミル)ブタン4の重合開始作用が非常に良好であることを実証している。
例えば、本発明は以下を提供する。
(項目1)
一般式(I)
【化38】
による化合物
[式中、変数は、以下の意味:
Mは、GeまたはSnであり、
RArは、
【化39】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、各場合において互いに独立に、-H、-F、-Cl、-OR
6、-SR
6、-N(R
6)
2、-CF
3、-CN、-NO
2、-COOR
6、-CONHR
6、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキル、C
2~20アルケニル、C
1~20アルキルオキシまたはC
2~20アルケンオキシラジカル(O、Sまたは-NR
6-によって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基および/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
R
6は、各場合において互いに独立に、H、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキルまたはC
2~20アルケニルラジカルであり、
R
7は、化学結合、n価の芳香族ラジカル、または分岐、環式もしくは好ましくは直鎖C
1~20アルキレンラジカル(O、Sまたは-NR
6-によって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基、=Oおよび/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
nは、2または3であり、
mは、0または1である
という意味を有する]。
(項目2)
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、GeまたはSnであり、
RArが、
【化40】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5が、各場合において互いに独立に、-H、-F、-Cl、-OR
6、-CF
3、-CN、-COOR
6、-CONHR
6、分岐、環式または好ましくは直鎖C
1~20アルキル、C
2~20アルケニル、C
1~20アルキルオキシまたはC
2~20アルケンオキシラジカル(OまたはSによって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基および/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
R
6が、H、芳香族ラジカル、または分岐、環式もしくは好ましくは直鎖C
1~10アルキルラジカル、C
2~10アルケニルラジカルであり、
R
7が、化学結合、分岐または直鎖のn価のC
1~10アルキレンラジカル(OまたはSによって1回または複数回中断されていてよく、1つまたは複数の重合可能な基、=Oおよび/またはラジカルR
6によって置換されていてよい)であり、
nが、2であり、
mが、0または1である
という意味を有する、項目1に記載の化合物。
(項目3)
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、GeまたはSnであり、
RArが、
【化41】
であり、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5が、各場合において互いに独立に、-HまたはC
1~3アルキルラジカル、好ましくはメチルであり、
R
7が、化学結合、-CO-、n価のベンゼンラジカルまたはn価の直鎖C
1~6アルキルラジカルであり、
nが、2であり、
mが、0または1である
という意味を有する、項目1に記載の化合物。
(項目4)
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、GeまたはSnであり、
RArが、
【化42】
であり、
R
7が、
【化43】
であり、
nが、2であり、
mが、1である
という意味を有する、項目1に記載の化合物。
(項目5)
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、Geであり、
RArが、
【化44】
であり、
R
7が、
【化45】
であり、
nが、3であり、
mが、1である
という意味を有する、項目1に記載の化合物。
(項目6)
式(I)の変数R
7、mおよびnが、以下の意味:R
7=-CO-であり、m=0であり、n=2であるという意味を有する、項目1から3のいずれか一項に記載の化合物。
(項目7)
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、Geであり、
RArが、
【化46】
であり、
R
7が、C
2~C
8アルキレン、特に好ましくは-C
4H
8-であり、
nが、2であり、
mが、0である
という意味を有する、項目1に記載の化合物。
(項目8)
式(I)の変数が、以下の意味:
Mが、Geであり、
RArが、
【化47】
であり、
R
7が、化学結合であり、
nが、2であり、
mが、0または1である
という意味を有する、項目1に記載の化合物。
(項目9)
項目1から8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの重合可能なモノマー、好ましくはラジカル重合可能なモノマーを含有する、組成物。
(項目10)
前記組成物の総質量に対して、0.001~3wt.%、好ましくは0.001~1wt.%、特に好ましくは0.005~0.5wt.%の項目1から8のいずれか一項に記載の化合物を含有する、項目9に記載の組成物。
(項目11)
ラジカル重合可能なモノマーとして、少なくとも1つの単官能性もしくは多官能性(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物を含有する、項目9または10に記載の組成物。
(項目12)
各場合、前記組成物の総質量に対して、
(a)0.001~3wt.%、好ましくは0.001~1.0wt.%、特に好ましくは0.005~0.5wt.%の一般式(I)の少なくとも1つの化合物、
(b)1~99.9wt.%、好ましくは5~95wt.%、特に好ましくは10~90wt.%の少なくとも1つのラジカル重合可能なモノマー、
(c)0~85wt.%、好ましくは5~80wt.%、特に好ましくは10~75wt.%の少なくとも1つのフィラー、および
(d)0~70wt.%、好ましくは0.1~60wt.%、特に好ましくは0.1~50wt.%の1つまたは複数の添加剤
を含有する、項目9から11のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)
歯科材料として、好ましくは歯科用セメント、充填複合物またはベニア材料としての治療的な使用のための、項目9から12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
歯科修復物、補綴、人工歯、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの生成または修復のための、項目9から12のいずれか一項に記載の組成物の、非治療的な使用。
(項目15)
光開始剤としての、項目1から8のいずれか一項に記載の化合物の使用。