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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】飼育動物用敷材
(51)【国際特許分類】
   A01K 1/015 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
A01K1/015 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021050513
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148722
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 彩香
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】臼井 啓皓
(72)【発明者】
【氏名】阿部 信彦
(72)【発明者】
【氏名】中森 望
(72)【発明者】
【氏名】ケゥンラサミー ナッチャヤー
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-041039(JP,A)
【文献】特開平06-078642(JP,A)
【文献】米国特許第05897700(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K1/00-3/00
31/00-31/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥製紙汚泥と、
軽量気泡コンクリート破砕物と
を含み、
当該飼育動物用敷材に対して2.5質量倍の蒸留水を添加した懸濁液のpHが9~11となる、飼育動物用敷材。
【請求項2】
軽量気泡コンクリート破砕物は、粒子径D10が1mm以上であり、かつ粒子径D90が4mm以下である、請求項1記載の飼育動物用敷材。
【請求項3】
更に、バイオマス灰を含有する、請求項1又は2記載の飼育動物用敷材。
【請求項4】
乾燥製紙汚泥と、
軽量気泡コンクリート破砕物と
を含む混合物であって、該混合物に対して2.5質量倍の蒸留水を添加した懸濁液のpHが9~11となる混合物を調製する工程
を含む、飼育動物用敷材の製造方法。
【請求項5】
乾燥製紙汚泥と、
軽量気泡コンクリート破砕物と
を含む混合物であって、該混合物に対して2.5質量倍の蒸留水を添加した懸濁液のpHが9~11となる混合物とする、
製紙汚泥を含む飼育動物用敷材の細菌繁殖の抑制方法。
【請求項6】
細菌がグラム陽性菌及びグラム陰性菌から選択される1以上の細菌である、請求項5記載の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼育動物用敷材に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜、ペット、動物園の動物等の飼育動物は、その飼育施設内の床に、例えば、稲わら、麦わら、おが粉等の敷材を敷いて飼育環境の向上を図っている。敷材には、糞尿を吸収する機能、動物の脚部を保護するクッションや滑り止めの機能を有するが、糞尿の吸収限界を超えると、糞尿から発生する悪臭によってストレスや病気のリスクが高まるだけでなく、作業環境を悪化させ、ひいては安全な飼育環境を保つことができない。また、その使用後には堆肥化等で再利用を図る等環境に配慮した処理を推進しているが、その処理量には限界がある。更に、おが粉は、バイオマス燃料としての需要拡大や、国内林業、製材業の衰退、製材品輸入の増大、住宅着工率の低迷並びに木造建築比率の減少等の種々の要因により、その発生量が減少しているため、入手が困難となりつつある。
【0003】
そこで、製紙汚泥の吸水性に着目し、敷材への適用が検討されている。例えば、パルプ及び製紙汚泥を混合して製造された混合パルプを基材とし、この基材を造粒し、乾燥した動物の排せつ物処理用材料が提案されている(特許文献1)。また、含水率が40重量%以上の状態で粉砕された製紙スラッジを主材料とする造粒物を備える吸水処理材も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-313010号公報
【文献】特開2016-41039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製紙汚泥は、バイオマス成分であるセルロースを含み、また水分を吸収して湿潤状態となった場合にpHが8前後になるため、大腸菌等の細菌が繁殖しやすくなる。その結果、次のような問題が生ずる。即ち、例えば、乳牛は、飼育施設内で大半の時間を寝そべって過ごし長時間乳房が地面に接触しているため、この接触中に大腸菌等が乳房から侵入すると乳房炎を発症し、乳量や品質低下(雑菌混入)が生じる。乳房炎の治癒には抗生物質が摂取されるが、接種後、生乳から抗生物質が検出されなくなるまで出荷できず、生乳の生産量が減少してしまう。
本発明の課題は、製紙汚泥を含有するにも拘わらず、細菌の繁殖が抑制された飼育動物用敷材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討した結果、製紙汚泥に対して軽量気泡コンクリート破砕物を所定の方法で測定されるpHが特定範囲内となるように含有させることで、製紙汚泥を含有するにも拘わらず、細菌の繁殖が抑制された飼育動物用敷材が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕製紙汚泥と、
軽量気泡コンクリート破砕物と
を含み、
当該飼育動物用敷材に対して2.5質量倍の蒸留水を添加した懸濁液のpHが9~11となる、飼育動物用敷材。
〔2〕軽量気泡コンクリート破砕物は、粒子径D10が1mm以上であり、かつ粒子径D90が4mm以下である、前記〔1〕記載の飼育動物用敷材。
〔3〕更に、バイオマス灰を含有する、前記〔1〕又は〔2〕記載の飼育動物用敷材。
〔4〕製紙汚泥と、
軽量気泡コンクリート破砕物と
を含む混合物であって、該混合物に対して2.5質量倍の蒸留水を含む懸濁液のpHが9~11となる混合物を調製する工程
を含む、飼育動物用敷材の製造方法。
〔5〕製紙汚泥と、
軽量気泡コンクリート破砕物と
を含む混合物であって、該混合物に対して2.5質量倍の蒸留水を添加した懸濁液のpHが9~11となる混合物とする、
製紙汚泥を含む飼育動物用敷材の細菌繁殖の抑制方法。
〔6〕細菌がグラム陽性菌及びグラム陰性菌から選択される1以上の細菌である、前記〔5〕記載の抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製紙汚泥を含有するにも拘わらず、細菌の繁殖が抑制された飼育動物用敷材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の飼育動物用敷材について詳細に説明する。
本発明の飼育動物用敷材は、製紙汚泥を含有する。ここで、本明細書において「製紙汚泥」とは、製紙工場の排水処理汚泥(脱水汚泥)をいい、パルプ製造工程、紙製造工程、古紙処理工程等から発生するものを含む。具体的には、例えば、工場で発生するすべての排水処理汚泥を混合した混合汚泥、パルプ系の排水から加圧浮上装置や単純沈殿池、凝集沈殿池、繊維回収装置等で回収した繊維質を中心とした汚泥(DIPスラッジ)、活性汚泥装置で発生する余剰汚泥を挙げることができる。
【0010】
製紙汚泥は、水分の少ない乾燥製紙汚泥でも、水分の多い湿潤製紙汚泥でもよいが、後述の軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」とも称する)によるpH調整効果と熱伝導率の低減の観点から、乾燥製紙汚泥が好ましい。ここで、本明細書において「乾燥製紙汚泥」とは、水分含量が20質量%未満の製紙汚泥をいい、水分含量が20質量%を超える製紙汚泥を「湿潤製紙汚泥」とする。なお、本明細書において「水分含量」は、製紙汚泥100gを105℃で24時間乾燥し、質量減少量から算出するものとする。
製紙汚泥は、1種又は2種以上含有することが可能であり、乾燥製紙汚泥と湿潤製紙汚泥を組み合わせてもよい。
【0011】
また、本発明の飼育動物用敷材は、ALC破砕物を含有する。飼育動物用敷材中にアルカリ性多孔質無機材であるALC破砕物を含有させることで、飼育動物用敷材のpHを細菌が繁殖し難い弱アルカリ性とすることができるだけでなく、適度な通気性及び断熱(保温)効果を付与することができる。
【0012】
ALC破砕物は、珪石、セメント、生石灰、アルミニウム粉末等をオートクレーブ養生(例えば、180℃、1MPaの高圧蒸気での10時間養生)して得られたALCを破砕したものである。
ALCとして、廃ALCを使用しても構わない。廃ALCとしては、例えば、使用済のALCや、工場等でALCの製造・加工時に生じる屑や不良品を挙げることができる。
ALCは、1種又は2種以上含有することが可能であり、ALCと廃ALCを組み合わせてもよい。
【0013】
ALC破砕物は、例えば、ALCを破砕機で破砕することで得られる。破砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ロータリークラッシャーが挙げられる。破砕機には、粒度調整を目的に所望の篩目のスクリーンを装着してもよい。
【0014】
ALC破砕物は、粒度が細かすぎると、製紙汚泥との混合時に発煙(粉じん)が発生したり、ダマになりやすく、また粒度が粗すぎると、蹄の間に挟まる可能性がある。そのため、本発明においては、粒度分布において、粒子径D10が1mm以上であり、かつ粒子径D90が4mm以下であるALC破砕物が好ましく使用される。粒子径D10は、混合時の発煙及びダマの抑制の観点から、1.2mm以上が好ましく、1.5mm以上が更に好ましい。また、粒子径D90は、蹄等の損傷防止の観点から、3.9mm以下が好ましく、3.8mm以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「粒度分布」とは、JIS Z 8801-1:2019「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に規定された篩を使用した篩分け法、及びJIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に基づき測定される、体積基準の粒度分布をいう。なお、粒度分布は、横軸を粒子径(μm)、縦軸を体積基準の頻度(%)とする分布曲線により表される。レーザ回折・散乱法粒度測定装置として、例えば、マイクロトラック(日機装株式会社製)を使用することができる。また、本明細書において「粒子径D10」とは、体積基準の粒度分布における累積10%粒子径をいい、また「粒子径D90」とは、体積基準の粒度分布における累積90%粒子径をいう。なお、上記した粒度分布の破砕物を採取するために、振動篩、回転式篩等の篩選別機を使用することが可能であり、所望の篩目を装着すればよい。
【0015】
本発明の飼育動物用敷材は、当該飼育動物用敷材のpHを所定の方法で測定したときに9~11の範囲内となる。これにより、飼育動物用敷材の細菌繁殖を抑制することができる。
細菌としては、グラム陽性菌及びグラム陰性菌から選択される1以上の細菌が好ましい。グラム陽性菌としては、例えば、黄色ブドウ球菌、枯草菌、連鎖球菌が挙げられる。また、グラム陰性菌としては、例えば、緑膿菌、大腸菌、レジオネラ菌、サルモネラ菌、赤痢菌が挙げられる。中でも、大腸菌や黄色ブドウ球菌に対して効果的である。例えば、乳牛の乳房炎は、大腸菌や黄色ブドウ球菌が原因であることが知られており、大腸菌の至適pHは7~8であり、黄色ブドウ球菌の至適pHは6.5~8である。一方、製紙汚泥は、バイオマス成分であるセルロースを含み、しかも湿潤状態におけるpHが8前後であるため、製紙汚泥を飼育動物用敷材に使用すると、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の細菌が繁殖しやすい。そのため、本発明においては、飼育動物用敷材のpHの下限値を、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の細菌が繁殖し難い9以上とし、pHの上限値を、飼育動物がアルカリ焼け(肌焼け)を生じ難い11以下とする。
【0016】
本発明の飼育動物用敷材のpHは、細菌繁殖及びアルカリ焼けのより一層の抑制の観点から、9.1~10.8が好ましく、9.2~10.5がより好ましい。
なお、飼育動物用敷材のpHは、農林水産省「茨城県 土壌・作物栄養診断マニュアル」の「I 土壌分析法」の「2 土壌の化学性」の「2-1 土壌pH」に準じて、当該飼育動物用敷材に対して2.5質量倍の蒸留水を添加した懸濁液についてpHメータを用いて測定するものとする。pHメータとして、例えば、スタンダード ToupH電極セット(HORIBA社製)を使用することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0017】
〔pH測定〕
飼育動物用敷材に対して2.5質量倍の蒸留水を加え、30分間振とうし、得られた懸濁液にガラス電極を浸漬して30秒後にpHを測定する。
【0018】
なお、懸濁液の振とうは、飼育動物用敷材が蒸留水と十分に撹拌される速度であればよく、例えば、100rpmである。また、測定温度は、通常室温であり、例えば、23℃である。
【0019】
本発明の飼育動物用敷材の熱伝導率は、乳牛の乳房の冷えによる乳量低下を防止する観点から、0.3W/m・K以下が好ましく、0.15~0.25W/m・Kがより好ましい。なお、飼育動物用敷材の熱伝導率は、JIS A 1412-2:1999「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部:熱流計法(HFM法)」に準じて測定するものとする。
【0020】
本発明の飼育動物用敷材中の製紙汚泥及びALC破砕物の含有量は、飼育動物用敷材のpHが上記範囲内となるように適宜選択することが可能であるが、例えば、次のとおりである。
製紙汚泥として湿潤製紙汚泥を含有する場合、本発明の飼育動物用敷材中のALC破砕物の含有量は、製紙汚泥及びALC破砕物の総量を100質量%として、通常45質量%であり、好ましくは50~99質量%であり、より好ましくは53~97質量%であり、更に好ましくは55~95質量%である。
製紙汚泥として乾燥製紙汚泥を含有する場合、本発明の飼育動物用敷材中のALC破砕物の含有量は、製紙汚泥及びALC破砕物の総量を100質量%として、通常15質量%であり、好ましくは18~99質量%であり、より好ましくは20~97質量%であり、更に好ましくは20~95質量%である。
このような含有量とすることで、十分な断熱性能及び吸水性能を保持しつつ、細菌の繁殖を十分に抑制することができる。
【0021】
また、本発明においては、飼育動物用敷材のpHを上記範囲内とするために、pH調整剤を含有させてもよい。
pH調整剤としては、例えば、消石灰、生石灰、水酸化マグネシウム、製紙汚泥焼却灰(PS灰)、石炭灰、火山灰を挙げることができる。中でも、消石灰、生石灰は高pHであることから、ALC破砕物の含有割合を低くでき、pH9未満の飼育動物用敷材のpHを上記範囲内とするためのpH調整剤として有用である。なお、pH調整剤の含有量は、所望の製紙汚泥含有量を維持しつつ、所望のpHとなるようにその種類に応じて適宜設定することができる。
【0022】
更に、本発明の飼育動物用敷材は、バイオマス灰を含有してもよい。これにより、含水率の高い製紙汚泥を用いる際に生じやすいダマの発生を抑制できるだけでなく、pH調整効果も期待できる。また、カルシウムやカリウムを多く含有しているため、使用済の飼育動物用敷材から堆肥を製造することが可能になるため、付加価値を付与することもできる。
ここで、本明細書において「バイオマス灰」とは、バイオマスの焼却灰であり、例えば、草木竹の焼却灰、食品残渣の焼却灰、バイオマス発電所等でバイオマスと石炭とを混焼した焼却灰を包含する概念であり、燃焼排ガスに含まれて気体として浮遊する煤塵を乾燥状態のままで集塵機により収集して得られるフライアッシュでも、ボトムアッシュでもよい。中でも、K2Oの含有量が比較的高く、有用な堆肥となる点で、草木竹の燃焼灰が好ましい。なお、K2O含有率は、2質量%以上が好ましく、3質量以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。また、バイオマスと石炭とを混焼した焼却灰は、バイオマスの比率が50質量%以上であるものが好ましい。
一般に、バイオマス発電の燃焼炉には、ストーカ式や流動床式があるが、流動床式である循環流動床式や加圧式流動床式の燃焼炉では炉内で脱硫を行うために石灰石が投入される。そのような燃焼炉からのバイオマス灰には、カルシウム成分が多く含まれており、例えばCaO含有率は、一般に5~45質量%である。また、投入した石灰石由来のカルシウム化合物として、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム等の形態が含まれる。バイオマス灰のフライアッシュは、これらカルシウム化合物の含有量がボトムアッシュよりも多い。したがって、バイオマス灰は、ダマの発生の抑制、及びpH調整効果の観点から、流動床式燃焼炉から排出されたフライアッシュが好ましい。
【0023】
バイオマス灰の使用量は、製紙汚泥及びALC破砕物の総量を100質量%として、ダマの抑制、カルシウム及びカリウムの高濃度化の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましく、またアルカリ焼けの抑制の観点から、10.0質量%以下が好ましく、9.0質量%以下がより好ましく、8.0質量%以下が更に好ましい。
【0024】
更に、本発明の飼育動物用敷材は、製紙汚泥焼却灰を含有してもよい。ここで、本明細書において「製紙汚泥焼却灰」とは、前述の製紙汚泥の焼却灰である。これにより、含水率の高い製紙汚泥を用いる際に生じやすいダマの発生を抑制できるだけでなく、pH調整効果も期待できる。また、製紙汚泥と製紙汚泥焼却灰の排出元が同一であるため、混合、運搬が容易であり、焼却設備や回収直後の焼却灰の余熱を利用して乾燥できる利点もある。
【0025】
本発明の飼育動物用敷材は、乳牛、牛、豚、産卵鶏、ブロイラー等の家畜、ペット、動物園の動物等の飼育動物の糞尿処理や飼育環境保持のための敷材として専ら使用されるものであり、特に乳牛に対して使用すると効果的である。
本発明の飼育動物用敷材は、動物の飼育場所の全面又は一部に散布、例えば、牛の繋ぎ飼いの場合は、蹄や乳付近にのみ散布してもよい。
散布時期は特に限定されないが、除糞や清掃後に散布するとより効果的である。なお、飼育動物用敷材が減少してきた場合は、必要に応じて新たな飼育動物用敷材を追加してもよい。
【0026】
糞尿を含んだ使用済の飼育動物用敷材は、ALC破砕物を含有するため、ろ過が容易であり、フィルタープレス等で固液分離が可能である。
本発明の飼育動物用敷材に含まれるALCは、リン酸吸収係数が高いため、糞尿中のリンが吸着されている。したがって、回収した液体分は、水質汚濁原因物質であるリン濃度がALCによって低減されているため、新たな排水処理を要することなく廃棄することが可能である。また、回収された固体分は、通常の敷材と同様に廃棄可能であるが、ALCが有する吸水性、低比重、通気性、弱アルカリ性、高比表面積、陽イオン吸着能(CEC)、発酵性等の特性により、堆肥として利用することができる。即ち、ALCの吸水性に起因して高含水物の堆肥化を促進することができる。ALCの通気性、多孔質構造に起因して好気性発酵が促進され、更に弱アルカリ性を維持することで、好気性細菌が活性化し、発酵期間の短縮と、難分解性木質系材料の堆肥化をより一層促進することができる。更に、高比表面積に起因してアンモニア等の臭気成分を吸着できるとともに、陽イオン物質、リン酸等の肥料成分を保持して流出を防止することができる。加えて、好気発酵により、衛生害虫の発生を防止することもできる。
【0027】
本発明の飼育動物用敷材は、製紙汚泥と、上記したALC破砕物とを含む混合物であって、所定の方法で測定されるpHが上記範囲内となる混合物を調製することによって製造される。また、このような混合物とすることで、製紙汚泥を含む飼育動物用敷材の細菌繁殖を抑制することができる。なお、飼育動物用敷材には製紙汚泥及びALC破砕物以外の他の成分が含まれていてもよい。製紙汚泥、ALC破砕物、他の成分及びpHの具体的構成は、上記において説明したとおりである。
【実施例
【0028】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
1.pH
農林水産省「茨城県 土壌・作物栄養診断マニュアル I 土壌分析法」の「2 土壌の化学性 2-1 土壌pH」に準じてpHメータを用いて測定した。具体的には、以下のとおりである。
【0030】
〔pH測定〕
23℃の恒温室で、飼育動物用敷材に対して2.5質量倍の蒸留水を加え、100rpmの速度で30分間振とうし、得られた懸濁液にガラス電極を浸漬して30秒後にpHを測定した。
【0031】
2.含水率
製紙汚泥100gを105℃で24時間乾燥し、質量減少量から算出した。
【0032】
3.吸水率
「新改版 農芸化学実験書(増補)第一巻 第4編 土壌実験法 第7節 土壌の水分 4.容水量」の「c.Hilgard法」に準じて測定した。
【0033】
4.かさ比重
小目盛単位が1mLの100mLメスシリンダーを用いて、該メスシリンダーに充填した飼育動物用敷材の質量から算出した。
【0034】
5.熱伝導率
JIS A 1412-2:1999「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部:熱流計法(HFM法)」に準じて測定した。
【0035】
6.放湿性
水を1時間吸収させて飽和した試料を、23℃、湿度50%の恒温室に5日間静置した際の水分減少量から算出した。
【0036】
本実施例で使用した原料は、以下のとおりである。
1)ALC破砕物:D10が1.0mmであり、かつD90が3.7mmであるALC破砕物
2)湿潤製紙汚泥(湿潤PS)
3)乾燥製紙汚泥(乾燥PS)
4)バイオマス灰:循環流動床炉による発電を実施しているバイオマス発電施設のフライアッシュ(pH12.97)
5)おが粉 :牧場使用品
【0037】
本実施例で使用した原料の物性を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1~11及び比較例1
表1に示す成分を、ホバートミキサー5リットル(ホバートジャパン社製)を用いて低速1.5分、高速1.5分で混合し、サンプルを得た。そして、サンプルの物性を測定した。その結果を表2に示す。なお、表2中、ALC破砕物の内割とは、ALC破砕物及びPSの総量に占める割合をいい、添加材の外割とは、ALC破砕物及びPSの総量に対する添加割合をいう。
【0040】
【表2】
【0041】
表2から、本実施例の飼育動物用敷材は、いずれもpHが9~11の範囲内であり、細菌の繁殖を抑制できるだけなく、十分な吸水性能を有することがわかる。