(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】医療用部材
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20240925BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20240925BHJP
C04B 35/111 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
A61F2/28
C04B35/486
C04B35/111
(21)【出願番号】P 2021075273
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 万平
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-173906(JP,A)
【文献】特開2004-298407(JP,A)
【文献】特開2014-204671(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
C04B 35/486
C04B 35/111
C12N 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含み、
前記貫通孔を形成する内周面と、前記ハニカム構造体の外周面から前記貫通孔の軸心に向かって研磨して得られる観察対象面との稜線を起点とする、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下であ
り、
前記観察対象面において、前記稜線の真直度は20μm以下である、
医療用部材。
【請求項2】
軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含み、
前記貫通孔を形成する内周面と、前記ハニカム構造体の外周面から前記貫通孔の軸心に向かって研磨して得られる観察対象面との稜線を起点とする、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下であり、
前記内周面は、2乗平均平方根傾斜(RΔqi)が1.3以下の焼成面である
、
医療用部材。
【請求項3】
軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含み、
前記貫通孔を形成する内周面と、前記ハニカム構造体の外周面から前記貫通孔の軸心に向かって研磨して得られる観察対象面との稜線を起点とする、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下であり、
前記内周面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδci)が1.7μm以下の焼成面である
、
医療用部材。
【請求項4】
前記観察対象面において、前記稜線の真直度は20μm以下である、請求項2または3に記載の医療用部材。
【請求項5】
前記外周面は、2乗平均平方根傾斜(RΔqo)が0.04以上の焼成面である、請求項1~4のいずれかに記載の医療用部材。
【請求項6】
前記外周面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδco)が0.04μm以上の焼成面である、請求項1~5のいずれかに記載の医療用部材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の医療用部材の製造方法であって、
累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下の酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも一方を主成分とする粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を容器に収容し、撹拌してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを予備加熱する工程と、
予備加熱した前記スラリーを脱泡処理する工程と、
前記スラリーを、外周側が加熱手段によって囲繞された成形型に注入して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程とを含む、
医療用部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の医療用部材を含む、細胞培養担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用部材およびその製造方法ならびに細胞培養担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気孔を有するセラミックス構造体は、その気孔を利用して、骨腫瘍摘出、外傷などによる骨の欠損や細胞の培養に生体組織補填材、あるいは細胞培養担体として使用されている。多孔質体は、気孔の多方向性を有するものの、大きさや分布を制御することが製造上困難である。そのため、細胞がスムーズに侵入しないことが多く、細胞の成長が促進されない。貫通孔が全て同じ方向であるハニカム状構造体は、他方向からの細胞の侵入が困難となり、部位によるムラが生じやすい。
【0003】
例えば、特許文献1には、貫通孔の方向が一方向に位置されてなるハニカム状構造体と、少なくとも1つの貫通孔を有する微小成形物の集合体であって、貫通孔の方向が三次元方向にランダムに位置されてなるランダム状構造体との組み合わせからなるセラミックス構造体が記載されている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載のハニカム状構造体を製造する場合、ハニカム状に押出成形された成形体を焼成しても、十分に緻密化することができない。そのため、機械的強度が乏しくなる。さらに、ハニカム状構造体の貫通孔を形成する内壁面に、多数の大きな凹部が存在すると、内壁面上で培養された細胞を容易に剥離することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の課題は、優れた機械的強度を有し、培養された細胞を容易に剥離することができる医療用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る医療用部材は、軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含む。貫通孔を形成する内周面と、ハニカム構造体の外周面から貫通孔の軸心に向かって研磨して得られる観察対象面との稜線を起点とする、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下である。
【0008】
本開示に係る医療用部材の製造方法は、累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下の酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも一方を主成分とする粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を容器に収容し、撹拌してスラリーを得る工程と;スラリーを予備加熱する工程と;予備加熱したスラリーを脱泡処理する工程と;スラリーを、外周側が加熱手段によって囲繞された成形型に注入して成形体を得る工程と;成形体を焼成する工程とを含む。
【0009】
本開示に係る細胞培養担体は、上記の医療用部材を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る医療用部材は、上記のように、軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含み、特定の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下である。したがって、本開示に係る医療用部材は、優れた機械的強度を有し、培養された細胞を容易に剥離することができる。さらに、本開示に係る医療用部材の製造方法によれば、優れた機械的強度を有し、培養された細胞を容易に剥離することができる医療用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る医療用部材を示す模式図である。
【
図3】(A)は本開示の一実施形態に係る医療用部材に形成された貫通孔を示す部分破断斜視図であり、(B)は(A)に示す領域Xの拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示に係る医療用部材は、上記のように、軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含む。本開示に係る医療用部材を、
図1に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、本開示の一実施形態に係る医療用部材は、ハニカム構造体1aを含む。ハニカム構造体1aは緻密質セラミックスで形成されており、緻密質セラミックスであれば限定されない。このような緻密質セラミックスの原料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)などが挙げられる。これらの原料は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
緻密質セラミックスが、例えば、酸化アルミニウムを主成分とする原料で形成される場合鉄、珪素、カルシウムおよびマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素が、さらに含まれていてもよい。これらの元素の含有量は限定されない。この場合、鉄の含有量はFe2O3換算で50質量ppm以下、珪素の含有量はSiO2換算で300質量ppm以下、カルシウムおよびマグネシウムの含有量は、CaOおよびMgO換算した合計で350質量ppm以下であるのがよい。緻密質セラミックスが、例えば、酸化ジルコニウムを主成分とする原料で形成される場合、安定化剤として、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化ディスプロシウム(Dy2O3)、酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の少なくともいずれか1種を含んでいてもよい。緻密質セラミックスに含まれる安定化剤の含有量は、例えば、2モル%以上5モル%以下である。
【0015】
本開示において主成分とは、緻密質セラミックスを構成する成分の合計100質量%における60質量%以上を占める成分を意味する。各成分は、CuKα線を用いたX線回折装置で同定して確認できる。各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めればよい。
【0016】
本開示において緻密質セラミックスとは、相対密度が96%以上であるセラミックスを意味する。相対密度とは、JIS R 1634-1998に準拠して緻密質セラミックスの見掛密度を求め、この見掛密度を緻密質セラミックスの理論密度で除して100を掛けた値であり、下記の式(I)で算出される。
相対密度(%)={(緻密質セラミックスの見掛密度)/(緻密質セラミックスの理論密度)}×100 (I)
【0017】
緻密質セラミックスの理論密度を求める場合、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定された緻密質セラミックスの成分が、例えば、α-Al2O3、SiO2、CaOおよびMgOであれば、ICP発光分光分析装置などにより求めた上記各金属元素の含有量の値を用いて、それぞれ、α-Al2O3、SiO2、CaOおよびMgOに換算する。
【0018】
そして、α-Al2O3、SiO2、CaOおよびMgOの各含有量がそれぞれa質量%、b質量%、c質量%、d質量%であるとすると、これら酸化物のそれぞれの理論密度の値(α
α-Al2O3=3.987g/cm3、SiO2=2.648g/cm3、CaO=3.340g/cm3、MgO=3.585g/cm3)を用いて、以下の式(II)により緻密質セラミックスの理論密度(T.D)を求めることができる。
T.D=1/(0.01×(a/3.987+b/2.648+c/3.340+d/3.585)) (II)
【0019】
一実施形態に係る医療用部材1は、緻密質セラミックスのハニカム構造体1aを含むことによって、優れた機械的強度を有する。ハニカム構造体1aの形状は、後述するように、軸方向に複数の貫通孔2が存在し得るような形状であれば限定されない。ハニカム構造体1aは、
図1に示すように、円柱状を有していてもよく、角柱状など他の形状を有していてもよい。
【0020】
ハニカム構造体1aは、
図2に示すように、軸方向に複数の貫通孔2を有する。
図2は、
図1に示す医療用部材の平面図である。貫通孔2の径は限定されず、例えば50μm以上500μm以下である。軸方向に垂直な貫通孔2の断面が楕円形である場合、貫通孔2の径は、長径と短径との平均値である。軸方向に垂直な貫通孔2の断面が六角形などの角状である場合、貫通孔2の径は、円相当径である。
【0021】
図3(A)は一実施形態に係る医療用部材に形成された貫通孔2を示す部分破断斜視図であり、
図3(B)は
図3(A)に示す領域Xの拡大説明図である。
図3(A)および(B)は、一実施形態に係る医療用部材1に形成されたハニカム構造体1aの外周面から貫通孔2の軸心Cに向かって研磨した状態を示している。
【0022】
一実施形態に係る医療用部材1において、得られた研磨面を観察対象面2bとしたとき、貫通孔2の内周面2aと観察対象面2bとの稜線2cを起点とする、深さdが10μm以上20μm以下の凹部2dの個数が、稜線2cの長さ1mm当たり2個以下である。このように、2個以下であると、細胞が侵入し得る凹部2dが少ない。したがって、培養された細胞を容易に剥離することができる。凹部2dの個数は1個以下であるのがよい。
【0023】
凹部2dは、例えば、陥没状を有する。ハニカム構造体1aの外周面から軸心Cに向かって研磨するのは、凹部2dの深さdの測定を容易にするためである。深さdの方向は、観察対象面2b内において、稜線2cを起点としてハニカム構造体1aの外周面と観察対象面2bとの境界である外縁2eに向かう方向である。
【0024】
観察対象面2bにおいて稜線2cの真直度は、例えば20μm以下であってもよい。真直度とは、稜線2cの幾何学的に正しい直線からの狂いの大きさを意味する。真直度は、光学顕微鏡で観察対象面2bを撮影した画像(例えば、横方向1.2mm、縦方向1.4mm)を対象に、例えば、「挟むものさし」というフリーソフトを用いて稜線2cの真直度を測定することができる。貫通孔2の軸方向を画像の縦方向に合わせ、内周面2aを挟んだ左右の稜線2cの少なくともいずれかが画像に含まれるようにし、幾何学的に正しい直線の長さは、1.4mmとすればよい。
【0025】
稜線2cの真直度が20μm以下であれば、大きな陥没状の凹部2dが内周面2aにほとんど存在しない状態である。したがって、貫通孔2の内周面2aで培養された細胞を、より剥離しやすくすることができる。
【0026】
貫通孔2の内周面2aは、2乗平均平方根傾斜(RΔqi)が1.3以下の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、内周面2aは破砕層がなく、2乗平均平方根傾斜(RΔqi)が制御された状態になっている。その結果、脱粒する粒子がほとんど存在しない。したがって、このような粒子がコンタミネーションとなって、細胞培養の障害となるおそれが低減する。特に、内周面2aの2乗平均平方根傾斜(RΔqi)は、1以下の焼成面であってもよい。
【0027】
貫通孔2の内周面2aは、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδci)が1.7μm以下の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、内周面2aは破砕層がなく、切断レベル差(Rδci)が制御された状態になっている。その結果、脱粒する粒子がほとんど存在しない。したがって、このような粒子がコンタミネーションとなって、細胞培養の障害となるおそれが低減する。特に、内周面2aの切断レベル差(Rδci)は、1.4μm以下の焼成面であってもよい。
【0028】
ハニカム構造体1aの外周面は、2乗平均平方根傾斜(RΔqo)が0.04以上の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、ハニカム構造体1aの外周面は破砕層がなく、適度な親水性を有する。その結果、ハニカム構造体1aの外周面も細胞の培養に使用する際に、細胞の播種後の定着性が向上する。特に、ハニカム構造体1aの外周面の2乗平均平方根傾斜(RΔqo)は、0.2以上の焼成面であってもよい。
【0029】
ハニカム構造体1aの外周面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδco)が0.04μm以上の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、ハニカム構造体1aの外周面は破砕層がなく、適度な親水性を有する。その結果、ハニカム構造体1aの外周面も細胞の培養に使用する際に、細胞の播種後の定着性が向上する。特に、外周面の切断レベル差(Rδco)は、0.25μm以上の焼成面であってもよい。
【0030】
2乗平均平方根傾斜(RΔqi、RΔqo)および切断レベル差(Rδci、Rδco)は、JIS B 0601:2001に準拠し、形状解析レーザー顕微鏡((株)キーエンス製、VK-X1100またはその後継機種)を用いて測定することができる。測定条件としては、まず、照明方式を同軸落射方式とする。倍率を480倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有り、測定対象とする内周面2aおよび外周面から1か所当たりの測定範囲を、例えば、710μm×533μmに設定する。測定範囲毎に、測定範囲の長手方向に沿って測定対象とする線を略等間隔に4本引いて、線粗さ計測を行えばよい。測定範囲はそれぞれ軸方向の中央部1箇所、合計2箇所とし、計測の対象とする長さは、例えば、560μmである。
【0031】
次に、本開示に係る医療用部材の製造方法を説明する。本開示の一実施形態に係る医療用部材の製造方法は、下記の工程(a)~(e)を含む。
工程(a):累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下の酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも一方を主成分とする粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を容器に収容し、撹拌してスラリーを得る工程。
工程(b):スラリーを予備加熱する工程。
工程(c):予備加熱したスラリーを脱泡処理する工程。
工程(d):スラリーを、外周側が加熱手段によって囲繞された成形型に注入して成形体を得る工程。
工程(e):成形体を焼成する工程。
【0032】
工程(a)は、原料を容器に収容し、撹拌してスラリーを得る工程である。原料は、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも一方を主成分とする粉末、ワックス、分散剤および可塑剤である。
【0033】
酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの少なくとも一方を主成分とする粉末は、累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下である。このような粉末を使用することによって、例えば、相対密度が96%以上である緻密質セラミックスが得られ、かつ貫通孔2の内周面2aに凹部2dが形成されるのが低減される。特に使用する粉末の平均粒径を小さくすることで凹部2dをより低減することができる。主成分の粉末の純度は限定されず、例えば、99.5質量%以上の純度を有する粉末を使用してもよい。
【0034】
累積分布曲線とは、2次元のグラフで横軸を粒径、縦軸を粒径の累積百分率とした場合における粒径の累積分布を示す曲線を意味する。累積分布曲線は、レーザー回折散乱法により、例えば、マイクロトラック・ベル社製の粒子径分布測定装置(MT3300またはその後継機種)を用いて求めることができる。
【0035】
上記粉末100質量部に対して、ワックスが13質量部以上14質量部以下、分散剤が0.4質量部以上0.5質量部以下、可塑剤が1.4質量部以上1.5質量部以下の割合で使用される。ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、蜜蝋などが挙げられる。分散剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。可塑剤としては、例えば、高級脂肪酸、フタル酸エステルなどが挙げられる。
【0036】
上記粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を、例えば、90℃以上140℃以下に加熱された容器内に収容する。このとき、ワックス、分散剤および可塑剤は、液体となっている。容器は、例えば樹脂製である。容器を撹拌機にセットし、容器を3分間自公転させること(自公転混練処理)により、上記粉末、ワックス、分散剤および可塑剤が撹拌されて、スラリーが得られる。
【0037】
工程(b)では、工程(a)で得られたスラリーを予備加熱する。予備加熱を行うことによって、スラリーの流動性が高くなり、工程(c)で得られる効果をより高くすることができる。予備加熱は、例えば、120℃以上180℃以下の温度で行われる。
【0038】
工程(c)では、工程(b)で予備加熱したスラリーを脱泡処理に供する。脱泡処理を行うことによって、スラリーに含まれる気泡が低減するため、相対密度がより高い緻密質セラミックスを得ることができる。脱泡処理は、例えば、得られたスラリーをシリンジに充填し、脱泡治具を用いて、シリンジを1分間自公転させながら行う。
【0039】
工程(d)では、工程(c)で脱泡処理したスラリーを成形型に注入して成形体を得る。成形型としては、外周側が加熱手段によって囲繞された成形型を使用する。このように、外周側が加熱手段によって囲繞された成形型を使用することによって、
図1(B)および(C)に示すようなハニカム構造体が得られる。加熱手段は限定されず、例えば、ヒーターなどが挙げられる。加熱手段によって、例えば、成形型に注入されるときのスラリーの温度との差が50℃以内になるように加熱されるのがよい。成形体の形状は限定されず、
図1(A)に示すように、円柱状を有していてもよく、角柱状など他の形状を有していてもよい。
【0040】
工程(e)では、工程(c)で得られた成形体を焼成する。焼成は、例えば、大気雰囲気、1400℃以上1700℃以下で、1時間以上3時間以下保持すればよい。このようにして、軸方向に複数の貫通孔を有する緻密質セラミックスのハニカム構造体を含む一実施形態に係る医療用部材が得られる。このようにして得られた一実施形態に係る医療用部材では、貫通孔を形成する内周面と、ハニカム構造体の外周面から貫通孔の軸心に向かって研磨して得られる観察対象面との稜線を起点とする、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下である。
【0041】
一実施形態に係る医療用部材の大きさは限定されず、円柱状の場合、例えば、直径は10mm以上15mm以下であり、高さ(厚み)は、1mm以上5mm以下である。角柱状の場合、例えば、上面(底面)の最も幅の広い部分が10mm以上15mm以下であり、高さ(厚み)は、1mm以上5mm以下である。
【0042】
本開示に係る医療用部材は、例えば、細胞培養担体などとして使用される。例えば、本開示に係る医療用部材を含む細胞培養担体は、優れた機械的強度を有し、培養された細胞を容易に剥離することができる。
【0043】
本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良、組合せなどが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を具体的に説明するが、本開示はこの実施例に限定されない。
【0045】
(実施例1)
原料粉末として、純度が99.7質量%である酸化アルミニウム粉末(累積分布曲線における累積95体積%の粒径:6.5μm)を用いた。累積分布曲線における累積95体積%の粒径は、マイクロトラック・ベル社製粒子径分布測定装置(MT3300)を用いて測定した。この原料粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を樹脂製の容器内に収容し、90℃に加熱して混合した。次いで、撹拌機の所定位置に容器を載置し、容器を3分間自公転させること(自公転混練処理)により、スラリーを得た。原料粉末100質量部に対して、ワックスを13.5質量部、分散剤を0.45質量部、可塑剤を1.45質量部とした。
【0046】
次いで、得られたスラリーを、150℃で予備加熱した。予備加熱したスラリーをシリンジに充填し、脱泡治具を用いてシリンジを1分間自公転させながら、スラリーを脱泡処理した。次いで、脱泡処理したスラリーを、外周側が加熱手段によって囲繞された成形型に注入した。加熱手段で100℃に加熱しながら、成形型からスラリーを射出して成形体を得た。
【0047】
得られた成形体を脱脂して焼成し、医療用部材を得た。焼成は、大気雰囲気中、1600℃で2時間行った。得られた医療用部材の表面について構造を顕微鏡で観察すると、
図1(B)および(C)に示すようなハニカム構造を有しており、複数の貫通孔が形成されていた。さらに、得られた医療用部材は、96%の相対密度を有しており、緻密質セラミックスで形成されていることがわかった。
【0048】
さらに、得られた医療用部材について、
図2(B)に示す凹部2dの個数を、下記の手順でカウントした。まず、ハニカム構造体1a(医療用部材1)の外周面から貫通孔2の軸心Cに向かって研磨して、算術平均粗さRaが0.01μm以上0.1μm以下の観察対象面2bを得た。
【0049】
次いで、観察対象面2bを走査型電子顕微鏡で撮影した。撮影した画像(横方向2.3mm、縦方向1.7mm)を対象に、フリーソフト「挟むものさし」を用いて、存在する凹部の深さを測定した。凹部のうち、深さdが10μm以上20μm以下の凹部2dの個数をカウントしたところ、稜線2cの長さ1mm当たり2個であった。
【符号の説明】
【0050】
1 医療用部材
1a ハニカム構造体
2 貫通孔
2a 内周面
2b 観察対象面
2c 稜線
2d 凹部
2e 外縁