IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特許7560416積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム
<>
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図1
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図2
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図3
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図4
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図5
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図6
  • 特許-積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20240925BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20240925BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20240925BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240925BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240925BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240925BHJP
【FI】
B23K9/12 331Q
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
B33Y50/02
B33Y30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021118825
(22)【出願日】2021-07-19
(65)【公開番号】P2023014711
(43)【公開日】2023-01-31
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-053646(JP,A)
【文献】特開2000-094131(JP,A)
【文献】特開2021-003725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/04
B23K 9/032
B33Y 10/00
B33Y 50/02
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータにより、前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置の制御方法であって、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する工程と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する工程と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する工程と、を含み、
前記基本姿勢情報は、前記マニピュレータによる前記溶接トーチの可動範囲と、前記溶接トーチの溶接狙い位置精度と、前記溶接トーチが移動するビード形成軌道の精度と、前記溶加材の送給抵抗の変化量とのいずれかを含み、
前記要求条件は、前記溶着ビードの形成方向に沿ったビード長さ、前記溶着ビードの形状精度、積層造形時間、溶接条件のいずれか又はその組合せを含み、
前記基本姿勢を選択する工程は、前記要求条件を満足する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する際に、次式に示す評価関数Jが最小となるような基本姿勢を選択する、
積層造形装置の制御方法。
【数1】
ただし、
t:評価種類の数
Y:基本姿勢情報の評価値
Yg:要求条件の評価値
,W ,W ,W ,W ,W :係数
*,s (*:x,y,z):溶着ビードの形成開始点である基準設定位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
*,m (*:x,y,z):設定した軌跡と実際のマニピュレータ先端の軌跡との差分
*,f (*:x,y,z):溶着ビードの形成終了点である設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
*,s (*:x,y,z):溶着ビードの形成開始点である基準設定位置と実際のマニピュレータ先端の先端位置との差分
*,m (*:x,y,z):設定した軌跡と実際のマニピュレータ先端の軌跡との差分
*,f (*:x,y,z):溶着ビードの形成終了点である設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
【請求項2】
選択された前記基本姿勢で前記ビード形成パスに沿って前記溶着ビードを形成する前記マニピュレータの動作をシミュレーションにより求める工程と、
前記シミュレーションにより求めた前記マニピュレータの動作が、予め登録された前記マニピュレータの許容不可姿勢を含むかを判定する工程と、
前記許容不可姿勢を含むと判定された場合に、選択された前記基本姿勢を他の基本姿勢に修正する工程と、
を含む、請求項1に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項3】
前記基本姿勢情報は、前記マニピュレータを移動させるスライダ装置と、前記溶着ビードが形成されるベースを支持するポジショナ装置との少なくとも一方と、前記マニピュレータとの連動情報を更に含む、請求項1又は2に記載の積層造形装置の制御方法。
【請求項4】
アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータにより、前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置であって、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する要求条件抽出部と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する基本姿勢選択部と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する制御指令生成部と、
を備え、
前記基本姿勢情報は、前記マニピュレータによる前記溶接トーチの可動範囲と、前記溶接トーチの溶接狙い位置精度と、前記溶接トーチが移動するビード形成軌道の精度と、前記溶加材の送給抵抗の変化量とのいずれかを含み、
前記要求条件は、前記溶着ビードの形成方向に沿ったビード長さ、前記溶着ビードの形状精度、積層造形時間、溶接条件のいずれか又はその組合せを含み、
前記基本姿勢選択部は、前記要求条件を満足する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する際に、次式に示す評価関数Jが最小となるような基本姿勢を選択する、
積層造形装置。
【数2】
ただし、
t:評価種類の数
Y:基本姿勢情報の評価値
Yg:要求条件の評価値
,W ,W ,W ,W ,W :係数
*,s (*:x,y,z):溶着ビードの形成開始点である基準設定位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
*,m (*:x,y,z):設定した軌跡と実際のマニピュレータ先端の軌跡との差分
*,f (*:x,y,z):溶着ビードの形成終了点である設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
*,s (*:x,y,z):溶着ビードの形成開始点である基準設定位置と実際のマニピュレータ先端の先端位置との差分
*,m (*:x,y,z):設定した軌跡と実際のマニピュレータ先端の軌跡との差分
*,f (*:x,y,z):溶着ビードの形成終了点である設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
【請求項5】
アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータを備え、前記マニピュレータにより前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置の制御手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する機能と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する機能と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する機能と、
を実現させ、
前記基本姿勢情報は、前記マニピュレータによる前記溶接トーチの可動範囲と、前記溶接トーチの溶接狙い位置精度と、前記溶接トーチが移動するビード形成軌道の精度と、前記溶加材の送給抵抗の変化量とのいずれかを含み、
前記要求条件は、前記溶着ビードの形成方向に沿ったビード長さ、前記溶着ビードの形状精度、積層造形時間、溶接条件のいずれか又はその組合せを含み、
前記基本姿勢を選択する機能は、前記要求条件を満足する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する際に、次式に示す評価関数Jが最小となるような基本姿勢を選択する機能である、
プログラム。
【数3】
ただし、
t:評価種類の数
Y:基本姿勢情報の評価値
Yg:要求条件の評価値
,W ,W ,W ,W ,W :係数
*,s (*:x,y,z):溶着ビードの形成開始点である基準設定位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
*,m (*:x,y,z):設定した軌跡と実際のマニピュレータ先端の軌跡との差分
*,f (*:x,y,z):溶着ビードの形成終了点である設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
*,s (*:x,y,z):溶着ビードの形成開始点である基準設定位置と実際のマニピュレータ先端の先端位置との差分
*,m (*:x,y,z):設定した軌跡と実際のマニピュレータ先端の軌跡との差分
*,f (*:x,y,z):溶着ビードの形成終了点である設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置の制御方法、積層造形装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して、三次元構造物を造形する技術が知られている(特許文献1参照)。特許文献1には、溶接トーチを移動させながら複雑な三次元自由曲面を有する造形物を製作する場合に、その曲面性によって溶加材の溶滴が溶着面上から流れ落ちることを、溶接トーチの真下の溶着面を略水平にすることで抑制する技術が記載されている。これによれば、複雑な三次元自由形状であっても、溶着面上に確実に溶着ビードを形成できる、と特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-275945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、複雑な形状に積層造形する場合には、造形時における溶接トーチに対する造形物の姿勢は様々に変更される。
しかしながら、アーム先端に溶接トーチが取り付けられた溶接ロボット(マニピュレータ)を用いて造形物を造形する場合、溶着ビードの積層方向、積層の順番等には様々なバリエーションがあるので、マニピュレータの姿勢を常に固定しつつ造形を行うことは難しい。そこで、造形物を保持するポジショナの姿勢を様々に変化させる方法も考えられるが、造形物が大きいほどポジショナによる姿勢変更は困難となる。また、ロボットアームの先端の動作は、狙い位置の精度、及び直線移動の精度に大きく影響し、マニピュレータの姿勢によっては許容できない誤差が生じ得る。
【0005】
そこで本発明は、先端に溶接トーチが取り付けられたマニピュレータを用いて造形物を積層造形する場合であっても、各積層パスにおいて、溶着ビードの形成を適切なマニピュレータの姿勢の下で行え、造形精度及び生産性を向上できる積層造形装置の制御方法、積層造形装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成からなる。
(1) アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータにより、前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置の制御方法であって、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する工程と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する工程と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する工程と、
を含む、積層造形装置の制御方法。
(2) アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータにより、前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置であって、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する要求条件抽出部と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する基本姿勢選択部と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する制御指令生成部と、
を備える、積層造形装置。
(3) アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータを備え、前記マニピュレータにより前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置の制御手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する機能と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する機能と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する機能と、
を実現させるプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、先端に溶接トーチが取り付けられたマニピュレータを用いて造形物を積層造形する場合であっても、各積層パスにおいて、溶着ビードの形成を適切なマニピュレータの姿勢の下で行える。これにより、造形精度及び生産性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、造形物を製造する積層造形装置の全体構成図である。
図2図2は、制御部の概略的な機能ブロック図である。
図3図3は、造形物のビード形成軌道に応じた溶接トーチの姿勢を示す説明図である。
図4図4は、溶接トーチの姿勢の例を(A)~(E)に示す説明図である。
図5図5は、ウィービング溶接時の溶接トーチの姿勢を示す模式図である。
図6図6は、マニピュレータの適切な基本姿勢を選択して制御指令を生成するまでの手順を示すフローチャートである。
図7図7は、溶接トーチが装着された溶接ロボットと、ワークを回転自在に支持するポジショナ装置と、溶接ロボットを載置して水平方向に移動させるスライダ装置とを備える溶接システムの駆動形態の例を(A)~(D)に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<積層造形装置の構成>
図1は、造形物を製造する積層造形装置の全体構成図である。積層造形装置100は、造形部11と、造形部11を制御する制御部13とを備える。
造形部11は、先端軸に溶接トーチ15を有する溶接ロボット17と、溶接ロボット17を駆動するロボット駆動部21と、溶接トーチ15へ溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部23と、溶接電流及び溶接電圧を供給する溶接電源部25と、を備える。
【0010】
(造形部)
溶接ロボット17は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けた溶接トーチ15の先端には溶加材Mが支持される。溶接トーチ15の位置や姿勢は、ロボット駆動部21からの指令により、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能になっている。図示はしないが、ロボットアームの先端軸には、溶接トーチ15をウィービング動作させるウィービング機構が設けられていてもよい。
【0011】
溶接トーチ15は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるガスメタルアーク溶接用のトーチである。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0012】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶接電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ15は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0013】
溶加材供給部23は、溶加材Mが巻回されたリール27を備える。溶加材Mは、溶加材供給部23からロボットアーム等に取り付けられた繰り出し機構(不図示)に送られ、必要に応じて繰り出し機構により正逆送給されながら溶接トーチ15へ送給される。
【0014】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定される溶接ワイヤが利用可能である。さらに、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル基合金等の溶加材Mを、求められる特性に応じて使用することができる。
【0015】
ロボット駆動部21は、溶接ロボット17を駆動して溶接トーチ15を移動させる。また、溶接トーチ15の移動とともに、連続供給される溶加材Mが溶接電源部25からの溶接電流及び溶接電圧によって溶融させられる。
【0016】
つまり、溶接ロボット17は、アークを発生させつつワイヤ状の溶加材Mを溶融及び凝固させる溶接トーチ15をアーム先端に保持したマニピュレータである。このマニピュレータの駆動によって溶接トーチ15を移動させながら、溶接トーチ15に連続送給される溶加材Mをアークにより溶融及び凝固させ、ベースプレート29上に溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードBを形成する。
【0017】
(制御部)
制御部13は、図示しない入出力部と、記憶部と、演算部とを含んで構成されるコンピュータ装置である。
入出力部には、溶接ロボット17、溶接電源部25及び溶加材供給部23等が接続される。記憶部には、後述する駆動プログラムを含む各種の情報が記憶される。記憶部は、ROM,RAM等のメモリ、ハードディスク,SSD(Solid State Drive)等のドライブ装置、CD,DVD,各種メモリーカード等の記憶媒体に例示されるストレージからなり、各種情報の入出力が可能となっている。制御部13には、作製しようとする造形物に応じた造形プログラムが、ネットワーク等の通信線、又は各種の記憶媒体等を介して入力される。造形プログラムは、溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画に基づいて作成され、多数の命令コードにより構成される。
【0018】
制御部13は、記憶部に記憶された造形プログラムを実行して、溶接ロボット17、溶加材供給部23及び溶接電源部25等を駆動し、造形プログラムに応じた溶着ビードBを形成する。つまり、制御部13は、ロボット駆動部21により溶接ロボット17を駆動させて、造形プログラムに設定された溶接トーチ15の軌道(溶接軌道)に沿って溶接トーチ15を移動させるとともに、設定された溶接条件に応じて溶加材供給部23及び溶接電源部25を駆動して、溶接トーチ15の先端の溶加材Mをアークによって溶融、凝固させる。
【0019】
このように、造形プログラムに基づいて溶着ビードBを順次に形成することで、所望の3次元形状の造形物30が造形される。
【0020】
本構成の制御部13は、積層計画で定めた溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件に応じて、溶接ロボット(マニピュレータ)17を、造形精度及び生産性が向上する適切な姿勢にする機能を備える。
【0021】
図2は、制御部13の概略的な機能ブロック図である。
制御部13は、それぞれ詳細を後述するビード形成パス・要求条件抽出部31と、基本姿勢選択部33と、制御指令生成部35とを備える。また、制御部13は、マニピュレータの基本姿勢が登録された基本姿勢データベース(基本姿勢情報)37を有しており、必要に応じて設けられるポジショナ装置及びスライダ装置と、基本姿勢とを関連付けた連動情報データベース39と、シミュレーション部34を有していてもよい。連動情報データベース39とシミュレーション部34との詳細は後述する。
【0022】
図3は、造形物のビード形成軌道に応じた溶接トーチの姿勢を示す説明図である。
連続する溶接線を区分した溶接パスPS1,PS2,PS3では、それぞれの溶接方向TDが異なるため、溶接トーチ15の姿勢はそれぞれの溶接パスで異なっている。図3では、後退法で溶着ビードBを形成する場合を示しているが、前進法であれば溶接トーチ15の傾斜角度θが逆向き(鉛直線に対して反対側に傾斜した状態)になる。
【0023】
前述した溶接ロボット17は、溶接パスPS1,PS2,PS3のそれぞれで溶接トーチ15を各姿勢に設定する。その際、多軸ロボットである溶接ロボット17は、その冗長自由度によって、同じ溶接トーチ15の姿勢であってもロボットアームの姿勢(以下、マニピュレータ姿勢という)は複数のパターンが存在する。それぞれのパターンは、任意に選択可能であり、いずれか1つのパターンで溶接トーチ15の姿勢が設定される。
【0024】
複数パターンのマニピュレータ姿勢は、溶接トーチ15の可動域、溶接トーチ15の溶接狙い位置精度、溶接トーチ15が移動するビード形成軌道の精度、溶加材の送給抵抗の変化量、等の各種特性がそれぞれ異なる。そこで、溶接パスPS1,PS2,PS3のそれぞれで、複数パターンのマニピュレータ姿勢の中から最適となるパターンを選択することで、造形精度及び生産性を共に向上させることが期待できる。
【0025】
図4は、溶接トーチ15の姿勢の例を(A)~(E)に示す説明図である。
溶接トーチ15の姿勢は、例えば図4の(A)~(C)に示すように、溶接トーチを鉛直方向に沿って配置してロボットアームの向きを異ならせた状態、図4の(D),(E)に示すように、溶接トーチをベースプレート29の板面法線方向から傾斜させた状態、等の種々の姿勢が考えられる。それぞれの溶接トーチの姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で設定される複数のマニピュレータ姿勢により実現できる。
【0026】
例えば、図3に示す溶接パスPS1においては、図4の(D)に示す溶接トーチ15の姿勢に近いため、この溶接トーチ15の姿勢に対応する複数のマニピュレータ姿勢のうち、溶接パスPS1の他の制約条件にも適したものを選択すればよい。
【0027】
図5は、ウィービング溶接時の溶接トーチの姿勢を示す模式図である。
図3に示す溶接パスPS1においても、例えば、図5に示すようにウィービング溶接を実施する場合には、図4の(C)に示すような溶接方向に沿った溶接トーチ15の姿勢が好ましい。そのため、この場合には溶接トーチ15の姿勢に対応する複数のマニピュレータ姿勢のうち、溶接パスPS1の他の制約条件にも適した姿勢を選択すればよい。
【0028】
上記のような制約条件は、溶接パスPS1,PS2,PS3等のそれぞれの溶接パスにおいて必要とされるもので、以下、「要求条件」という。要求条件としては、溶着ビードの形成方向に沿ったビード長さ、溶着ビードの形状精度、積層造形時間、溶接条件、等が挙げられる。これらの要求条件は、予め定めた造形物の製造手順を示す積層計画から抽出できる。
【0029】
<選択した基本姿勢に基づく造形>
次に、造形物を積層造形する積層計画を、適切なマニピュレータ姿勢の造形で実施する手順を説明する。
図6は、マニピュレータの適切な基本姿勢を選択して制御指令を生成するまでの手順を示すフローチャートである。
まず、図1に示す積層造形装置100が備える溶接ロボット(マニピュレータ)17の基本姿勢を複数登録する(S1)。この登録工程では、図4に例示した溶接トーチ15の種々の姿勢を実現する複数のマニピュレータ姿勢を求める。このようなマニピュレータ姿勢を「基本姿勢」という。そして、溶接ロボット17が、その基本姿勢を採った場合に生じる特性(前述した、溶接トーチ15の可動域、溶接狙い位置精度、ビード形成軌道の精度、溶加材の送給抵抗の変化量等)と関連付けて、図2に示す基本姿勢データベース37に登録する。各特性は、積層造形に先立って実験又は解析的に求めておけばよい。例えば、BOP(Bead on Plate)溶接試験等の要素試験によれば、再現性や造形時の狙い位置精度を確認できる。また、基本姿勢の登録は、対応できる溶接トーチ15の可動域の広さ等の各種の特性に対応付けて行うことが好ましい。これらの対応付け情報があることで、適切な基本姿勢を選択する際に参考となる。
【0030】
次に、ビード形成パス・要求条件抽出部31は、積層計画から溶接パスと、その溶接パスで必要とされる要求条件とを抽出する(S2)。積層計画には、造形物を造形するために溶接トーチ15を移動させる軌道、溶接条件、溶加材供給速度等の設計情報が含まれている。溶接トーチ15を移動させる軌道は、図3に示したように、溶接方向TD(トーチ移動方向)が切り替わるタイミングで区分して抽出してもよい。その場合、区分された溶接パスPS1,PS2,PS3毎に独立して要求条件を設定できる。区分する溶接パスの長さ、範囲等は任意に設定可能である。
【0031】
また、要求条件の抽出については、例えば、溶着ビードを壁状に形成する場合には、壁形成に必要とされる形状精度等を抽出する。別の例では、壁に囲まれた内側部分を溶着ビードで充填する場合には、壁と干渉することなく造形できる溶接トーチの傾斜角度等を抽出する。これらの要求条件は、造形時における基本姿勢の選択に利用される。その他の要求条件としては、ビード長さ、造形時間(タクトタイム)、溶接条件(トーチ角度や送給速度)、等が挙げられる。抽出した要求条件は、各条件を総合してベクトル等で表現してもよい。
【0032】
次に、基本姿勢選択部33は、抽出した要求条件を満足する基本姿勢を選択する(S3)。例えば、溶接パスPS1においては、適用する溶接トーチ15の姿勢、及び要求条件を積層計画から求め、設定したい溶接トーチ15に対応するマニピュレータ姿勢(基本姿勢)の候補を、基本姿勢データベース37を参照して求める。そして、求めた複数の基本姿勢のうち、要求条件を満足する基本姿勢を選択する。
【0033】
そして、制御指令生成部35は、選択した基本姿勢に基づいて溶着ビードを形成する制御指令を生成する(S4)。生成された制御指令は、積層造形を行うための一連の動作を指示する駆動プログラムに組み込まれる。
【0034】
上記は基本的な手順であるが、基本姿勢の各情報に加えて、例えば、式(1)に例示するように、係数(Wa,Wb,Wc)で重み付けして、統合した評価値Yを併せて保存してもよい。ここでは係数を3つとしているが、これに限らない。
【0035】
【数1】
【0036】
ここで、e*,s(*:x,y,z)は、溶着ビードの所定の形成開始点におけるマニピュレータ先端の位置精度(例えば、基準設定位置と実際の先端位置との差分)、e*,m(*:x,y,z)は、溶接トーチの移動中におけるマニピュレータ先端の軌跡倣い精度(例えば、設定した軌跡と実際の軌跡との差分)、e*,f(*:x,y,z)は溶着ビードの所定の形成終了点におけるマニピュレータ先端の位置精度(例えば、設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分)とする。つまり、式1は、溶着ビードの形成開始点から所定の軌道に沿って溶着ビードを積層して、形成終了点で積層を終えるまでの一連の動作に関わる狙い位置の精度に関する評価例である。
【0037】
次に、要求条件の一例を説明する。ここでは、位置精度に関する要求条件Ygを係数(W,W,W,…)で重み付けして、統合した評価値Yを併せて保存する。係数の数は任意である。
【0038】
【数2】
【0039】
ここで、E*,sは、溶着ビードの所定の形成開始点におけるマニピュレータ先端の要求位置精度(例えば、基準設定位置と実際の先端位置との差分)、E*,mは、溶接トーチの移動中におけるマニピュレータ先端の要求軌跡倣い精度(例えば、設定した軌跡と実際の軌跡との差分)、E*,fは、溶着ビードの所定の形成終了点におけるマニピュレータ先端の要求位置精度(例えば、設定狙い位置と実際のマニピュレータ先端位置との差分)とする。
【0040】
上記の要求条件に基づいて、その要求条件を満足する基本姿勢を選択する際、評価関数を定めて、評価関数が最小となるような基本姿勢を選択するという形式をとってもよい。例えば、以下に式1、式2を利用した評価関数Jを一例として示す。
【0041】
【数3】
【0042】
ここで、tは評価種類の数を表しており、例えば、t=1~nまでのn種類の評価値について、それぞれ要求条件との一致度合いを評価関数Jとしている。この評価関数Jが小さいほど、その基本姿勢が要求条件を満たしていることになる。
【0043】
また、要求条件を満たす基本姿勢を選択した後、選択した基本姿勢に基づくマニピュレータの動作をシミュレーションにより求めて検証してもよい。その場合、図2に示すシミュレーション部34は、基本姿勢選択部33が選択した基本姿勢の情報と、ビード形成パス・要求条件抽出部31が抽出した積層計画に基づく情報と用いて、選択された基本姿勢でビード形成パスに沿って溶着ビードを形成する溶接ロボット17の動作を解析的に求める。
【0044】
再現された溶接ロボット17の動作は、多軸ロボットの冗長自由度に応じて複数のパターンが存在し得る。これら複数の動作パターンの中には、回避すべき特異な姿勢・状態(許容不可姿勢)が生じることもあるので、そのような許容不可姿勢が生じる動作パターンを予め抽出しておき、基本姿勢データベース37に登録しておくことが好ましい。そうすることで、基本姿勢選択部33が基本姿勢を選択する際に、動作パターンに許容不可姿勢が含まれる基本姿勢を選択肢から除外できる。具体的には、選択した基本姿勢で動作パターンをシミュレーションにより求め、その結果が予め登録された許容不可姿勢を含むかを判定する。許容不可姿勢を含むと判定された場合には、選択された基本姿勢を他の基本姿勢に修正する。このように、シミュレーションにより溶接ロボット17の動作パターンを再現することで、許容不可姿勢を含まない溶接ロボット17の動作を選定できる。シミュレーションの演算は、市販の汎用ソフトウェアにより実行できる。
【0045】
<ポジショナ装置とスライダ装置との連動>
次に、溶接ロボット17に加えてポジショナ装置とスライダ装置とを連動させて造形する場合について説明する。
図7は、前述した溶接トーチ15が装着された溶接ロボット17と、ワークWを回転自在に支持するポジショナ装置41と、溶接ロボット17を載置して水平方向に移動させるスライダ装置43とを備える溶接システム200の駆動形態の例を(A)~(D)に示す説明図である。
【0046】
図7に示す場合には、マニピュレータ(溶接ロボット17)の基本姿勢に加えて、ポジショナ装置41及びスライダ装置43と溶接ロボット17とを連動させる条件(連動情報)を組み合わせて選択する。つまり、ポジショナ装置41及びスライダ装置43との連動情報と、基本姿勢の情報に組合せてデータベースに登録する。この場合、基本姿勢の種類が増えるため、姿勢選択の自由度を向上できる。
【0047】
各装置による具体的な駆動形態は、次の通りである。
図7の(A)においては、溶接ロボット17とスライダ装置43とを固定したままとし、ポジショナ装置41だけを回転駆動する。これによれば、ポジショナだけ動作させるので、溶接トーチ15の狙い位置ずれが少なく、高い造形精度でワークWの周面に円周方向に沿った溶着ビードBを形成できる。
図7の(B)においては、溶接ロボット17を固定したままとし、ポジショナ装置41を回転駆動し、スライダ装置43を駆動する。これによれば、スライダが動作することで、実質的に溶接トーチ15が左右奥行方向に動かせることと同じになる。したがって、ワークWの周面に溶着ビードBを形成する際のトーチ可動域を広げられる。
図7の(C)においては、ポジショナ装置41とスライダ装置43とを固定したままとし、溶接ロボット17だけを駆動する。これによれば、溶接ロボット17だけ動作させるので、精密に狙い位置の調整ができ、良好な造形精度でワークWの周面に溶着ビードBを形成できる。
図7の(D)においては、スライダ装置43を固定したままとし、溶接ロボット17を駆動し、ポジショナ装置41を回転駆動する。これによれば、図7の(C)の場合と比較して、ポジショナ装置41の回転が加わることで、積層できる範囲や取れる姿勢の柔軟性が向上して、トーチ可動域が広がり、生産効率が高められる。
【0048】
図7の(A)~(D)の駆動形態における、造形精度、生産効率、溶接トーチの可動域の広さを比較した結果を表1に示す。表中の「○」は良好、「△」は低下又は制限が認められるものを表す。
【0049】
【表1】
【0050】
図7の(A)~(D)に示す駆動形態においては、駆動形態毎に造形精度、生産効率、溶接トーチの可動域の広さ、等の特性が異なる。そこで、溶接パス毎に優先すべき特性が確実に得られるように、基本姿勢及び連動情報を選択する。上記した特性は一例であって、さらにポジショナ装置、スライダ装置の位置調整精度、対応可能な移動速度等の他の特性があってもよい。
【0051】
このように、基本姿勢と連動情報とを組み合わせて連動情報データベース39に登録しておく。これにより、基本姿勢及び連動情報の種類が増加し、選択の自由度を高められる。また、溶接ロボット17、ポジショナ装置41、スライダ装置43の姿勢・状態のうち、それらの組合せによっては回避すべき特異な組合せ(この場合も「許容不可姿勢」という)が生じ得る。そこで、このような特異な組合せを予め連動情報データベース39に登録しておくことで、基本姿勢選択部33が基本姿勢を選択する際に、許容不可姿勢が含まれる選択肢を除外できる。
【0052】
例えば、溶着ビードの形成時に、トーチ角度を所定の一定角度で傾けておく要求条件がある場合は、図7の(A),(B)のケースのように、溶接方向に対する溶接トーチの傾斜角を各パスで同じにすることができる。また、ポジショナ装置41、スライダ装置43の備える特性も考慮して形状精度を優先する場合には、図7の(A)と(B)のうち(A)を選択し、生産効率(生産速度)を優先する場合には、図7の(C)と(D)のうち(C)を選択する、等といった選択もできる。
【0053】
以上のように、先端に溶接トーチが取り付けられたマニピュレータを用いて造形物を積層造形する場合であっても、各積層パスにおいて、溶着ビードの形成を適切なマニピュレータの姿勢の下で行うことができる。これにより、造形精度及び生産性を向上できる。
【0054】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータにより、前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置の制御方法であって、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する工程と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する工程と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する工程と、
を含む積層造形装置の制御方法。
この積層造形装置の制御方法によれば、溶着ビードの形成を、適切なマニピュレータ姿勢で行えるので、造形精度と生産性とを共に向上できる。
【0056】
(2) 前記基本姿勢情報は、前記マニピュレータによる前記溶接トーチの可動範囲と、前記溶接トーチの溶接狙い位置精度と、前記溶接トーチが移動するビード形成軌道の精度と、前記溶加材の送給抵抗の変化量とのいずれかを含む、(1)に記載の積層造形装置の制御方法。
この積層造形装置の制御方法によれば、基本姿勢ごとに、これらの情報が対応付けられることで、適切な基本姿勢を選択しやすくなる。
【0057】
(3) 前記要求条件は、前記溶着ビードの形成方向に沿ったビード長さ、前記溶着ビードの形状精度、積層造形時間、溶接条件のいずれか又はその組合せを含み、
前記基本姿勢の選択において前記要求条件を満足する前記マニピュレータの基本姿勢が選択される、(1)又は(2)に記載の積層造形装置の制御方法。
この積層造形装置の制御方法によれば、基本姿勢が対応できるビード長さ、保証できる形状精度、等を勘案して基本姿勢が選択されることで、マニピュレータの過度な負担を抑制できる。
【0058】
(4) 選択された前記基本姿勢で前記ビード形成パスに沿って前記溶着ビードを形成する前記マニピュレータの動作をシミュレーションにより求める工程と、
前記シミュレーションにより求めた前記マニピュレータの動作が、予め登録された前記マニピュレータの許容不可姿勢を含むかを判定する工程と、
前記許容不可姿勢を含むと判定された場合に、選択された前記基本姿勢を他の基本姿勢に修正する工程と、を含む、(1)~(3)のいずれか1つに記載の積層造形装置の制御方法。
この積層造形装置の制御方法によれば、マニピュレータにとって負荷の大きい、又は不得意な姿勢下で造形することを抑制できる。
【0059】
(5) 前記基本姿勢情報は、前記マニピュレータを移動させるスライダ装置と、前記溶着ビードが形成されるベースを支持するポジショナ装置との少なくとも一方と、前記マニピュレータとの連動情報を更に含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載の積層造形装置の制御方法。
この積層造形装置の制御方法によれば、スライダやポジショナとの連動情報をさらに含むことで、採り得る基本姿勢の種類が増加して、基本姿勢の選択の自由度を向上できる。
【0060】
(6) アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータにより、前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置であって、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する要求条件抽出部と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する基本姿勢選択部と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する制御指令生成部と、
を備える、積層造形装置。
この積層造形装置によれば、溶着ビードの形成を、適切なマニピュレータ姿勢で行えるので、造形精度と生産性とを共に向上できる。
【0061】
(7) アークを発生させつつワイヤ状の溶加材を溶融及び凝固させる溶接トーチがアーム先端に保持されたマニピュレータを備え、前記マニピュレータにより前記溶接トーチを移動させて溶着ビードを形成する積層造形装置の制御手順を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記溶着ビードを形成するビード形成軌道及び溶接条件を定めた積層計画から、前記溶着ビードのビード形成パスと、当該ビード形成パスで必要とされる要求条件とを抽出する機能と、
前記溶接トーチの姿勢に応じた前記マニピュレータの複数の基本姿勢が登録された基本姿勢情報から、前記要求条件に適応する前記マニピュレータの基本姿勢を選択する機能と、
前記ビード形成パスに沿って選択された前記基本姿勢で前記溶着ビードを形成する制御指令を生成する機能と、
を実現させるプログラム。
このプログラムによれば、溶着ビードの形成を、適切なマニピュレータ姿勢で行えるので、造形精度と生産性とを共に向上できる。
【符号の説明】
【0062】
11 造形部
13 制御部
15 溶接トーチ
17 溶接ロボット
21 ロボット駆動部
23 溶加材供給部
25 溶接電源部
27 リール
29 ベースプレート
30 造形物
31 ビード形成パス・要求条件抽出部
33 基本姿勢選択部
34 シミュレーション部
35 制御指令生成部
37 基本姿勢データベース
39 連動情報データベース
41 ポジショナ装置
43 スライダ装置
100 積層造形装置
200 溶接システム
B 溶着ビード
M 溶加材
PS1,PS2,PS3 溶接パス
TD 溶接方向
W ワーク
θ 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7