(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】カスタム歯科インプラントならびにカスタム歯科インプラントを作製するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
(21)【出願番号】P 2021519725
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 US2019055300
(87)【国際公開番号】W WO2020076887
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-15
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517264281
【氏名又は名称】デンツプライ シロナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジョー,ジェレミー イー.
【審査官】永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-279835(JP,A)
【文献】特表2009-509696(JP,A)
【文献】特公昭51-018758(JP,B2)
【文献】再公表特許第2007/108411(JP,A1)
【文献】特開2013-215394(JP,A)
【文献】特表2007-522847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
修復物を受け入れるか前記修復物の一体化部分を形成するように構築された咬合面部と、
所望のエマージェンスプロファイルを有するように構成された中央部と、
自然な抜歯窩の形状に実質的に一致するように構成され、かつ1つ以上の突起部を含む根尖部と、
前記中央部および/または突起部に沿って配置されているかそれらと一体化されており、かつ前記自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に前記自然な抜歯窩内でカスタム歯科インプラントを安定化させるように構成されている少なくとも1つのエネルギー蓄積装置と、
を備え、
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置の構造は、
(i)歯が交換される位置、(ii)歯槽骨の形状、(iii)存在する歯根膜線維の量、(iv)インプラント配置後に必要とされる初期安定性、(v)隣接する神経の位置、および(vi)前記カスタム歯科インプラントの支持のために必要とされる骨の品質または量からなる群から選択される情報に基づき、
少なくとも患者の歯槽骨の品質および量に基づいて決定された、前記カスタム歯科インプラントに必要な前記初期安定性を達成するために必要な量の柔軟性を有している、
顎の中に挿入するためのカスタム歯科インプラント。
【請求項2】
前記カスタム歯科インプラントは生体適合性材料および/またはセラミック材料で作られている、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項3】
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は前記カスタム歯科インプラントの内部と同じ材料で作られている、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項4】
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は前記カスタム歯科インプラントの外側シェルであるか前記外側シェルの一部である、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項5】
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置はバネ、コイル、梁、レバーまたはとげである、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項6】
前記カスタム歯科インプラントの突起部は前記自然な抜歯窩内への挿入中に曲げるために柔軟であるように構築されている、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項7】
前記カスタム歯科インプラントおよび/または前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は吸収性構造材料で作られている、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項8】
前記吸収性構造材料はヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムおよび/またはマグネシウムである、請求項7に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項9】
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は前記カスタム歯科インプラントの中央部および/または突起部を完全にまたは部分的に取り囲んでいる、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項10】
前記突起部は前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を形成している梁状形状として構成されている、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項11】
内部は歯科修復物を支持するためにネジ型歯科インプラントの抗回転特徴部、ネジ山および/または結合形状を模倣するように構築されている、請求項1に記載のカスタム歯科インプラント。
【請求項12】
少なくとも患者の歯槽骨の品質および量に基づいて、カスタム歯科インプラントに必要な初期安定性を決定する工程と、
前記初期安定性を達成するために前記カスタム歯科インプラントの少なくとも1つのエネルギー蓄積装置に必要な柔軟性の量を計算する工程と、
前記患者の歯の自然な抜歯窩の形状を表す3次元データを受信する工程と、
前記3次元データを分析して前記自然な抜歯窩の特性に関する情報を得る工程と、
(i)修復物を受け入れるか前記修復物の一体化部分を形成するための咬合面部、(ii)所望のエマージェンスプロファイルを有するように構成された中央部、(iii)1つ以上の突起部を含む根尖部、および(iv)前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を有するように前記カスタム歯科インプラントの3次元画像を設計することを含む、前記自然な抜歯窩の前記特性に基づいて前記カスタム歯科インプラントの前記3次元画像を設計する工程と、
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置が前記自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に前記自然な抜歯窩内で前記カスタム歯科インプラントを安定化させるように、(i)歯が交換される位置、(ii)歯槽骨の形状、(iii)存在する歯根膜線維の量、(iv)インプラント配置後に必要とされる初期安定性、(v)隣接する神経の位置、および(vi)前記カスタム歯科インプラントの支持のために必要とされる骨の品質または量からなる群から選択される情報に基づいて、前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を前記カスタム歯科インプラントに沿っているかその中に一体化させ、かつ計算された前記柔軟性を有するように設計する工程と、
前記設計する工程に基づいて前記カスタム歯科インプラントを作製する工程と、を含む、カスタム歯科インプラントを調製する方法。
【請求項13】
前記3次元データを受信する前に前記歯をスキャンして前記自然な抜歯窩の前記形状を得る工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記歯を抜く前に前記歯をスキャンする工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記歯を抜いた後に前記歯をスキャンする工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
コンピュータ断層撮影(CT)機器、コーンビームコンピュータ断層撮影(CBCT)機器、口腔内デジタルスキャナおよび/または磁気共鳴画像(MRI)機器により前記スキャンする工程を行うことをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記カスタム歯科インプラントを前記自然な抜歯窩内に挿入する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記挿入する工程の前に前記自然な抜歯窩を外科的に整える工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記カスタム歯科インプラントの中央部および/または突起部を完全にまたは部分的に取り囲むように前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を設計する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記突起部を前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を形成している梁状形状として設計する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
修復物を支持するためにネジ型歯科インプラントの抗回転特徴部、ネジ山および/または結合形状を模倣するように内部を設計する工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
コンピュータシステムによって実行された場合に、前記コンピュータシステムに、
少なくとも患者の歯槽骨の品質および量に基づいて、カスタム歯科インプラントに必要な初期安定性を決定させ、
前記初期安定性を達成するために前記カスタム歯科インプラントの少なくとも1つのエネルギー蓄積装置に必要な柔軟性の量を計算させ、
前記患者の自然な抜歯窩の形状を表す3次元データを受信させ、
前記3次元データを分析して前記自然な抜歯窩の特性に関する情報を得させ、
前記自然な抜歯窩の前記特性に基づいて、前記カスタム歯科インプラント
の3次元画像が(i)修復物を受け入れるか前記修復物の一体化部分を形成するための咬合面部、(ii)所望のエマージェンスプロファイルを有するように構成された中央部、(iii)1つ以上の突起部を含む根尖部、および(iv)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を有するように、前記カスタム歯科インプラントの3次元画像を設計させ、
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置が前記自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に前記自然な抜歯窩内で前記カスタム歯科インプラントを安定化させるように、(i)歯が交換される位置、(ii)歯槽骨の形状、(iii)存在する歯根膜線維の量、(iv)インプラント配置後に必要とされる初期安定性、(v)隣接する神経の位置、および(vi)前記カスタム歯科インプラントの支持のために必要とされる骨の品質または量からなる群から選択される情報に基づいて、前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を前記カスタム歯科インプラントに沿っているかその中に一体化させ、かつ計算された前記柔軟性を有するように設計させる
命令を含む命令の順序を記憶している非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項23】
前記命令は前記コンピュータシステムによって実行された場合にさらに前記コンピュータシステムに前記設計に基づいて前記カスタム歯科インプラントを作製させる、請求項22に記載の非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項24】
少なくとも患者の歯槽骨の品質および量に基づいて、カスタム歯科インプラントに必要な初期安定性を決定し、
前記初期安定性を達成するために前記カスタム歯科インプラントの少なくとも1つのエネルギー蓄積装置に必要な柔軟性の量を計算し、
前記患者の自然な抜歯窩の形状を表す3次元データを受信し、
前記3次元データを分析して前記自然な抜歯窩の特性に関する情報を得、
前記自然な抜歯窩の前記特性に基づいて、前記カスタム歯科インプラントの3次元画像が(i)修復物を受け入れるか前記修復物の一体化部分を形成するための咬合面部、(ii)所望のエマージェンスプロファイルを有するように構成された中央部、(iii)1つ以上の突起部を含む根尖部、および(iv)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を有するように前記カスタム歯科インプラントの3次元画像を設計し、
前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置が前記自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に前記自然な抜歯窩内で前記カスタム歯科インプラントを安定化させるように、(i)歯が交換される位置、(ii)歯槽骨の形状、(iii)存在する歯根膜線維の量、(iv)インプラント配置後に必要とされる初期安定性、(v)隣接する神経の位置、および(vi)前記カスタム歯科インプラントの支持のために必要とされる骨の品質または量からなる群から選択される情報に基づいて、前記少なくとも1つのエネルギー蓄積装置をカスタム歯科インプラントに沿っているかその中に一体化させ、かつ、計算された前記柔軟性を有するように設計する
ように動作可能な少なくとも1つのプロセッサを備える、カスタム歯科インプラントを設計するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本国際特許出願は、2018年10月12日に出願された米国特許出願第16/158,370号の利益を主張するものであり、その内容は全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は一般に、バネ付勢されたインプラントならびにそのようなバネ付勢されたインプラントを作製するための方法およびシステムに関し、より具体的には、埋入中に撓んで外圧およびひいては締まり嵌めを与えるために展開して安定性を達成することができる1つ以上のエネルギー蓄積装置を有するカスタム歯科インプラントならびにそのようなカスタム歯科インプラントを作製するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの天然歯は咀嚼中などに圧縮力が加えられた際にクッションとして機能する歯根膜線維によって顎骨内で支持することができる。虫歯、不慮の外傷、解剖学的異常および加齢などにより、患者の天然歯は抜かれたり失われたりすることがある。そのため、歯科インプラント装置を患者の骨構造に埋め込んで患者の物理的外観および/または歯の機能を改善させる場合がある。歯科治療において広く使用されている歯科インプラントは既成の製品である。歯は患者の歯根膜線維における外科手術後の快適さおよび治癒プロセスのために適切にフィットしなければならないため、いくつかの一般に使用されるインプラントは最適な代替物にならない場合がある。
【0004】
歯科インプラントの1種は非ネジ式インプラントシステムであり、1つの例はインプラントの外面形状を天然歯根の形状に似るように設計することができる非ネジ式歯根型インプラントシステム(以後、カスタム歯科インプラントと呼ぶ)である。この種のインプラントシステムは、複数回のドリリング処置を含む従来の歯科外科手術をなくすことができる。ここでは歯の解剖学的構造の修正を最小に抑えながらインプラントを抜歯と同時に配置することができる。
【0005】
しかしそのようなインプラントの埋入は、インプラントを完全に定着させるために大きな力の使用を必要とする場合がある。場合によってはハンマーを使用することがある。これは歯根の一般的なアンダーカットの解剖学的構造から生じ得る。歯根の基部は歯根の上側冠状部よりも幅広である場合があり、従って骨との接触を維持するためにインプラントの材料を基部において幅広にする場合がある。
【0006】
さらに従来のネジ込み式インプラントは、インプラントが完全に骨と結合するまで初期回転安定性を与えるためにインプラントのネジ山機能に依存する場合がある。非ネジ式歯根型インプラントは、その根の有機的形体によって必要とされるインプラントと骨との密接な接触を理由にネジ山特徴部に依存することができない。また非円筒状の形状により従来のネジ山を使用することができない。しかし配置中のインプラントの歯槽骨内への締まり嵌めまたはプレス嵌めでは限られた安定性しか得られない。いくつかの非ネジ式歯根型インプラントは骨結合中にインプラントを覆って保護するためにブリッジの使用に依存する場合がある。これらのブリッジは隣接する健康な歯に固定される場合があり、故に複数のインプラントを互いに隣接して配置すべき場合に使用が限られている。
【0007】
米国特許第8602780B2号は、元の歯を抜いた後に歯根膜の既存の生体細胞構造の中に一体化されるか、あるいはそれぞれの顎のインプラントを埋め込む骨構造の中へのワンピースとして一体化される、ヒトの元の歯根形状のかなりの部分を複製する工程を含むプロセスに基づいて製造されるカスタマイズされた歯科補綴物およびインプラントを開示している。
【0008】
米国特許第8,911,234B2号は、骨組織に埋め込まれるインプラントを開示しており、そのインプラントはその目的のために特別に形成または調整された窩洞に埋め込まれる。インプラント治療のために、インプラントに機械的振動を与え、それによりその表面の一部の熱可塑性材料を少なくとも部分的に液化させ、かつ窩洞壁の凸凹および穴の中に押し込んで、再凝固した際にインプラントと窩洞壁との形状嵌めおよび/または材料嵌め結合を形成することができる。
【0009】
米国特許出願公開第11,724,261号は、置換される歯根の3次元表面に実質的に一致するように成形された第1の製造された部分と置換される歯冠の3次元表面に実質的に一致するように成形された第2の製造された部分とを有する骨結合のためのカスタマイズされた歯科補綴物を示す。
【0010】
米国特許第9,539,062B2号は、歯の解剖学的構造のX線画像データおよび表面スキャンデータおよび/または特定の患者の歯の解剖学的構造の物理的印象などのイメージングデータを受信する工程と、そのイメージングおよび表面スキャンデータに基づいて患者の顎骨に位置している非機能的な天然歯の一部の3次元仮想モデルを形成する工程と、その仮想モデルに基づいて歯科インプラントを実質的に設計する工程と、その設計された歯科インプラントを記述しているデータを製造機械にエクスポートする工程と、その特定の患者のために歯科インプラントをカスタム製造する工程とを含む、カスタマイズされた歯科補綴物を設計および製造する方法を開示している。
【発明の概要】
【0011】
上記に関連する既存の限界ならびに他の限界は、埋入中に撓んで外圧およびひいては有刺嵌めを与えるために展開して安定性を達成することができるエネルギー蓄積機構を有するカスタム歯科インプラントならびにそのようなカスタム歯科インプラントを作製するための方法およびシステムによって克服することができる。
【0012】
本発明の一態様によれば、修復物を受け入れるか修復物の一体化部分を形成するように構築された咬合面部と、最適な審美のために歯肉の自然なエマージェンスプロファイルを模倣するための丸みのある形状を特徴とする中央部と、自然な抜歯窩の形状に一致するか実質的に一致するように構成された底/根尖部であって、底部は1つ以上の突起部を含む底/根尖部と、前記中央部および/または突起部に沿って配置されているかそれらと一体化されており、かつ自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に自然な抜歯窩内でカスタム歯科インプラントを安定化させるように構成されている少なくとも1つのエネルギー蓄積装置であって、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置の構造は、歯が交換される歯の本数または位置、歯槽骨の輪郭および形状、存在する歯根膜線維の量、インプラント配置後に必要とされる初期安定性、あらゆる隣接する神経または他の敏感な歯の解剖学的構造の位置、および歯科インプラント装置の支持のために必要とされる骨の品質または量などの情報に基づいている少なくとも1つのエネルギー蓄積装置とを備える、顎の中に挿入するためのカスタム歯科インプラントを提供することができる。
【0013】
本発明の別の態様によれば、(i)本カスタム歯科インプラントはチタン、チタン合金、ステンレス鋼材料および/またはセラミック材料などの天然骨と骨結合することができ、かつ生体適合性である材料で作られている、(ii)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は本カスタム歯科インプラントの内部と同じ材料で作られている、(iii)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は本カスタム歯科インプラントの外側シェルであるかその外側シェルの一部である、(iv)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置はバネ、コイルまたはとげである、(v)本カスタム歯科インプラントの突起部は自然な抜歯窩内への挿入中に曲げるために柔軟であるように構築されている、(vi)本カスタム歯科インプラントおよび/または少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は吸収性構造材料で作られている、(vii)吸収性構造材料はヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムおよび/またはマグネシウムである、(viii)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置は本カスタム歯科インプラントの中央部および/または突起部を完全にまたは部分的に取り囲んでいる、(ix)突起部は少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を形成している梁状形状として構成されている、(x)その内部は、ストックもしくはカスタム歯科アバットメント、クラウン、バー、ブリッジまたは同様の種類の支持修復物に嵌合するためのネジ型歯科インプラントの抗回転特徴部、ネジ山および/または結合形状を模倣するように構築されている、という特徴の1つ以上の組み合わせを含む、上記カスタム歯科インプラントを提供することができる。
【0014】
本発明の一態様によれば、患者の歯の自然な抜歯窩の形状を表す3次元データを受信する工程と、その3次元データを分析して抜歯部位の解剖学的構造、残っている歯根膜の量、神経の位置、周囲の骨の密度および骨の深さまたは量を含む自然な抜歯窩の特性に関する情報を得る工程と、自然な抜歯窩の形状に基づいて、(i)修復物を受け入れるか修復物の一体化部分を形成するための咬合面部、(ii)最適な審美のために歯肉の自然なエマージェンスプロファイルを模倣するための丸みのある形状を特徴とする中央部、(iii)1つ以上の突起部を含む底部、および(iv)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を有するカスタム歯科インプラントの3次元画像を設計する工程であって、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置はカスタム歯科インプラントの3次元画像に沿っているか一体化された状態で提供され、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置の構造は、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置が自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に自然な抜歯窩内でカスタム歯科インプラントを安定化させるように、歯が交換される歯の本数または位置、歯槽骨の輪郭および形状、存在する歯根膜線維の量、インプラント配置後に必要とされる初期安定性、あらゆる隣接する神経または他の敏感な歯の解剖学的構造の位置、および歯科インプラント装置の支持のために必要とされる骨の品質または量などの情報に基づいている工程と、前記設計する工程に基づいてカスタム歯科インプラントを作製する工程とを含む、カスタム歯科インプラントを調製する方法を提供することができる。
【0015】
本発明の別の態様によれば、(i)3次元データを受信する前に歯をスキャンして自然な抜歯窩の形状を得る工程をさらに含む、(ii)歯を抜く前に前記歯をスキャンする工程をさらに含む、(iii)歯を抜いた後に前記歯をスキャンする工程をさらに含む、(iv)コンピュータ断層撮影(CT)、コーンビームコンピュータ断層撮影(CBCT)、デジタル口腔内スキャンおよび/または磁気共鳴画像(MRI)機器によりスキャンする工程を行うことをさらに含む、(v)本カスタム歯科インプラントを自然な抜歯窩内に挿入する工程をさらに含む、(vi)前記挿入する工程の前に自然な抜歯窩を外科的に整える工程をさらに含む、(vii)本カスタム歯科インプラントの中央部および/または突起部を完全にまたは部分的に取り囲むように少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を設計する工程をさらに含む、(viii)突起部を少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を形成している梁状形状として設計する工程をさらに含む、(ix)その内部をネジ型歯科インプラントの抗回転特徴部、ネジ山および/または結合形状を模倣するように設計する工程をさらに含む、という特徴の1つ以上の組み合わせを含む上記方法を提供することができる。
【0016】
本発明の一態様によれば、コンピュータシステムによって実行された場合にコンピュータシステムに、患者の自然な抜歯窩の形状を表す3次元データを受信させ、その3次元データを分析して歯が交換される歯の本数または位置、歯槽骨の輪郭および形状、存在する歯根膜線維の量、インプラント配置後に必要とされる初期安定性、あらゆる隣接する神経または他の敏感な歯の解剖学的構造の位置、および歯科インプラント装置の支持のために必要とされる骨の品質または量などの情報を含む自然な抜歯窩の特性に関する情報を得させ、自然な抜歯窩の形状に基づいて、(i)修復物を受け入れるか修復物の一体化部分を形成するための咬合面部、(ii)最適な審美のために歯肉の自然なエマージェンスプロファイルを模倣するための丸みのある形状を特徴とする中央部、(iii)1つ以上の突起部を含む底部、および(iv)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を有するカスタム歯科インプラントの3次元画像を設計させる命令であって、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置はカスタム歯科インプラントの3次元画像に沿っているか一体化された状態で提供され、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置の構造は、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置が自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に自然な抜歯窩内でカスタム歯科インプラントを安定化させるように、歯が交換される歯の本数または位置、歯槽骨の輪郭および形状、存在する歯根膜線維の量、インプラント配置後に必要とされる初期安定性、あらゆる隣接する神経または他の敏感な歯の解剖学的構造の位置および歯科インプラント装置の支持のために必要とされる骨の品質または量などの情報に基づいている命令を含む命令の順序を記憶している非一時的コンピュータ可読媒体を提供することができる。
【0017】
本発明の別の態様によれば、上記命令はコンピュータシステムによって実行された場合にさらにコンピュータシステムに当該設計に基づいてカスタム歯科インプラントを作製させる、命令の順序を記憶している非一時的コンピュータ可読媒体を提供することができる。
【0018】
本発明の一態様によれば、患者の自然な抜歯窩の形状を表す3次元データを受信し、その3次元データを分析して抜歯部位の解剖学的構造、残っている歯根膜の量、神経の位置、軟組織の形状およびプロファイル、周囲の骨の密度、および骨の深さまたは量を含む自然な抜歯窩の特性に関する情報を得、自然な抜歯窩の形状に基づいて(i)修復物を受け入れるか修復物の一体化部分を形成するための咬合面部、(ii)最適な審美のために歯肉の自然なエマージェンスプロファイルを模倣するための丸みのある形状を特徴とする中央部、(iii)1つ以上の突起部を含む底部および(iv)少なくとも1つのエネルギー蓄積装置を有するカスタム歯科インプラントの3次元画像を設計するように動作可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、かつ少なくとも1つのエネルギー蓄積装置はカスタム歯科インプラントの3次元画像に沿っているか一体化された状態で提供され、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置の構造は、少なくとも1つのエネルギー蓄積装置が自然な抜歯窩の中への挿入中に撓んで外圧を与えるために展開して骨結合中に自然な抜歯窩内でカスタム歯科インプラントを安定化させるように、歯が交換される歯の本数または位置、歯槽骨の輪郭および形状、存在する歯根膜線維の量、インプラント配置後に必要とされる初期安定性、あらゆる隣接する神経または他の敏感な歯の解剖学的構造の位置、および歯科インプラント装置の支持のために必要とされる骨の品質または量などの情報に基づいている、カスタム歯科インプラントを設計するためのシステムを提供することができる。
【0019】
添付の図面を参照しながら本明細書中の様々な実施形態のさらなる特徴および利点ならびに構造および動作について以下に詳細に説明する。
【0020】
例示的な実施形態は、本明細書において以下に提供されている発明を実施するための形態および添付の図面からより十分に理解されるようになるであろう。図面の中では同様の要素は同様の参照符号によって表されており、それらは単に例示として与えられており、従って本明細書中の例示的な実施形態を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1a】本発明の例示的な実施形態を示す斜視図である。
【
図1b】本発明の別の例示的な実施形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明の例示的な実施形態の断面を示す断面図である。
【
図4】本発明のさらに別の実施形態を示す側面図である。
【
図5】本発明の別の例示的な実施形態の断面を示す断面図である。
【
図6】クラウンを有する本発明の一実施形態を示す斜視図である。
【
図7】本発明の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の例示的な実施形態に係るコンピュータシステムを示すブロック図である。
【
図9a】第1の構成の内部を有する本発明の例示的な実施形態の断面を示す断面図である。
【
図9b】第2の構成の内部を有する本発明の例示的な実施形態の断面を示す断面図である。
【
図9c】第3の構成の内部を有する本発明の例示的な実施形態の断面を示す断面図であり、前記第3の構成の上面図を示す。
【0022】
いくつかの図の中の異なる図は同じ構成要素を特定するために同じであってもよい少なくともいくつかの符号を有する場合があるが、そのような構成要素のそれぞれの詳細な説明は各図に関して以下で提供されていないことがある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
カスタム歯科インプラント
本明細書に記載されている例示的な態様に従ってカスタム歯科インプラントを実現することができる。
【0024】
天然歯はその天然歯槽骨に埋め込まれている。それは神経や血管を保持することができる歯髄を含んでおり、エナメルで覆われている象牙質によって囲まれている。歯の根の部分は歯を顎骨に固定する歯根膜との結合を提供するセメントの薄い層を有する。インプラント治療の間にインプラントを顎骨内の穴に挿入することができる。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、カスタム歯科インプラント1を個々に成形して患者の自然な抜歯窩の中に一体化させることができる。好ましくはカスタム歯科インプラント1は自然な抜歯窩の歯根膜または顎骨の中に一体化させることができる。その根を表すインプラント1の部分の形状は、自然な抜歯窩内に位置していた天然の歯根を複製するか実質的に複製するように構成されていてもよい。但し前記形状は、天然歯槽骨とのプレスもしくは有刺嵌めを提供するために修正されていてもよい。さらに自然な抜歯窩はインプラント治療前に外科的に整えられていてもよい。例えば損傷および感染された軟組織、歯または骨物質を再成形工程において取り除いてもよく、抜歯窩の得られた形状はカスタム歯科インプラント1を作製する際に使用してもよい。好ましくは、前記再成形は最小である。「自然な抜歯窩」という用語は以後、成形された抜歯窩および成形されていない抜歯窩の両方を指すように使用する場合がある。本明細書ではカスタム歯科インプラント1は複数のドリリング処置の必要性をなくすことができ、かつインプラントは抜歯窩の修正を最小にしながら抜歯と同時に配置することができ、従って患者および臨床医の両方から見て全体的なインプラント手順を単純化する。
【0026】
カスタム歯科インプラント1は、インプラント埋入を支援すると共に、骨結合が完了するまでの初期安定性(例えば回転および/または横安定性)も提供するバネのようなエネルギー蓄積装置/機構10を備えていてもよい。本明細書では、カスタム歯科インプラント1は
図1aに示すようにインプラント1の外面22の周りに配置された1つ以上のエネルギー蓄積装置10を備えていてもよい。カスタム歯科インプラント1はセラミックなどの単材を含んでいてもよいが、製造性および使いやすさを促進するためにワンピースもしくはマルチピースシステムのいずれであってもよい。本明細書における一実施形態では、1つ以上のエネルギー蓄積装置10は弾性位置エネルギーの原理に依存していてもよい。物体、部材または特徴部は弾性的に変形することができ、その変形の結果はこの運動の位置エネルギーへの変換であってもよい。これは単純な線形バネの運動によってシミュレートまたは説明することができる。バネに蓄積された弾性位置エネルギーはフックの法則に従ってモデル化することができ、ここではバネによって生じる復元力はその変形の長さに比例している。これは方程式F=-k*xでモデル化されている。さらに、梁もしくは片持ち梁アームまたは様々な厚さおよび幅のようなより複雑な形状に蓄積されるエネルギーは、その形状のモーメントまたは慣性と共に弾性率のような様々な材料特性を含む方程式を用いてモデル化することができる。
【0027】
本明細書における一実施形態では、エネルギー蓄積装置10はカスタム歯科インプラント1の外面22の伸展部であってもよく、従ってカスタム歯科インプラント1の内部20(
図2)と同じ材料(例えばセラミック)で作られていてもよい。さらにインプラント1の全体的な形状は自然な抜歯窩よりも大きくてもよい。これは、必要とされる初期安定性を達成するためにエネルギー蓄積特徴部が撓む必要があることに起因する。インプラント1の底/根尖部32の形状は抜歯窩の輪郭を辿っていてもよいが、エネルギー蓄積特徴部の設計および包含により抜歯窩の体積を超えていてもよい(すなわち外面22は抜歯窩の輪郭を辿っていてもよく、エネルギー蓄積装置10はこの前記輪郭を超えていてもよい)。本発明に係る別の実施形態では、エネルギー蓄積装置10はカスタム歯科インプラント1の外側シェル18の一部であってもそれ自体であってもよく、ここでは本カスタム歯科インプラントの内部構成要素20は外側スリーブ18(
図5)に嵌合しているかそれに融合されていてもよい。本明細書における一実施形態では、内部構成要素20は真っ直ぐな壁または逆テーパー状嵌合部を有していてもよく、かつ内部構成要素を外側スリーブ18に容易に嵌め込み/挿入することができるようにアンダーカットを含んでいなくてもよい。さらなる例示的な実施形態では、インプラント1のチタンおよびセラミック材料を互いに融合させてもよい。チタンはその好ましい生体適合性および機械的特性を理由に使用される場合がある。そのような特性としては材料強度、骨結合性能および弾性が挙げられる。セラミックはその審美的外観、生体適合性および好ましい軟組織付着を理由に使用される場合がある。セラミックおよびチタンは各種高温接合技術を用いて、あるいはさらにはセメントまたは溝、スロットもしくは切り欠きのような機械的係止特徴部の使用によって互いに融合させてもよい。本明細書における別の実施形態では、内部20は咬合面部30の中に延在していてもよく、前記内部10は修復物24のために支持を提供するか、前記修復物24の一体化部分であるように構成されている(
図1aおよび
図6)。
図9a~
図9cは内部20のさらなる構成34、36および38を示す。内部は必ずしもインプラントに対してあらゆる特定の向きまたは軸で位置合わせされていなくてもよい。例えば、内部20の向きは垂直なインプラント軸に沿っていてもよいが、内部20はその材料壁の厚さが支持を提供するのに十分であるインプラント1の他の位置で方向づけられていてもよい。さらに、この内部20はそれが角のあるネジ溝概念を実現するために歯科修復物と嵌合することができるように方向づけられていてもよく、ここではこのネジアクセスホールは審美的観点から、すなわち舌側に隠されている。エネルギー蓄積装置10は、(i)インプラントを埋入するために必要とされる柔軟性を提供するか実質的に提供する、および/または(ii)埋入後に初期安定性を提供するのに十分なエネルギーを蓄積するように構成することができる例えばバネ、コイル、とげおよび/または他の手段であってもよい。本明細書では例えばバネ剛性率は2~50lbs/inであってもよい。インプラント部位を評価し、かつ例えば必要とされる初期安定性を決定することにより、エネルギー蓄積手段の柔軟性の量を得てもよい。初期安定性は、骨の品質および量ならびにプレパレーション部位が例えば臨床医によって決定されるような即時荷重の候補であるか否かに基づいて決定してもよい。本明細書における一実施形態では測定のためにOsstell ISQスケールを用いた場合に、これは60~70超の間で異なってもよい。本インプラントシステムのためのエネルギー蓄積システムにおいて必要とされる柔軟性の量は、有限要素分析または他のシミュレーションプログラムなどによるコンピュータモデリングを用いて計算することができる。エネルギー蓄積装置10はインプラント1の埋入中に撓むことができ、これにより従来のインプラントを埋入するために使用される力よりもインプラントを埋入するために必要とされる全体的な力を少なくするのを可能にする。挿入後に次いでエネルギー蓄積装置10は展開して歯根型の壁に向かって外圧を与えて安定性を達成することができる。
【0028】
本発明の一実施形態では、エネルギー蓄積装置10をインプラント1の底/根尖部32の設計の中に一体化させてもよく、ここではインプラント1の各突起部12(その根を表す本カスタム歯科インプラントの一部)は、
図3に示すように埋入中に曲げるために柔軟であるように構築されていてもよい。インプラント1が確実に位置エネルギーを蓄積することができるように、エネルギー蓄積装置10の曲げは当該材料の弾性部分に制限されていてもよい。エネルギー蓄積装置10が撓みに耐えることができずに必ず塑性破壊してしまう場合には、インプラントは適切に機能することができない場合がある。さらに別の実施形態では、
図4に示すようにモザイク状の界面14を含むハーネスが抜歯窩壁16および標準的なセラミック歯科インプラント28の壁に連結するように構成されていてもよい。このハーネスはカスタマイズされた歯科インプラント1の一部であってもよく、かつ抜歯窩壁16に連結していてもよい。
【0029】
他の実施形態では、インプラント1は同様の「エネルギー蓄積」特性を含むことができるが、インプラント1および/またはエネルギー蓄積装置10はヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、マグネシウムなどの吸収性構造材料から製造されていてもよい。これらの実施形態はセラミックまたは金属材料から作られていてもよく、かつ多孔性もしくは微細構造表面などのさらなる特徴を含めて骨結合を高め、かつ外科手術/埋入中に使用される二次的移植片材料の必要性の代わりとなる骨再生機能を促進してもよい。
【0030】
カスタム歯科インプラントを作製するための方法
これまで
図1のカスタム歯科インプラントについて説明してきたが、次に本カスタム歯科インプラントを作製する方法について
図7を参照しながらさらに説明する。
【0031】
次に
図7を参照すると、カスタム歯科インプラント1を患者の自然な抜歯窩の中に成形および一体化させることができる。突起部12の形状は、歯槽骨内に位置していた天然の歯根に一致するか実質的に一致することができる。本発明の一実施形態では、カスタム歯科インプラント1を作製する方法は、(i)患者の歯または歯列の解剖学的形状をスキャンする工程と、(ii)歯の3次元(3D)表示をデータレコードとして得る工程と、(iii)得られた3次元データに基づいてカスタム歯科インプラント1を製造する工程とを含んでもよい。本明細書における一実施形態では、スキャンする工程は抜歯前に行ってもよい。本明細書における別の実施形態では、スキャンする工程は本明細書の下で考察されているように抜歯後に行ってもよい。
【0032】
工程S100では置換される歯を抜いて清浄してもよい。次いで抜いた歯を工程S300においてスキャンして、工程S400において抜いた歯の3D画像を得てもよい。あるいはコンピュータ断層撮影(CT)、コーンビームコンピュータ断層撮影(CBCT)または磁気共鳴画像(MRI)および口腔内スキャンなどを用いて抜歯前に歯をスキャンしてもよく、ここではSTLフォーマットまたは、「ボクセル」フォーマットなどのボリュームデータなどの表面記述を歯の3D表示に変換してもよい。
【0033】
工程S400において歯の3D画像を得た後に、まだ抜歯されていなければ工程S405において歯を抜いてもよい。抜歯窩の画像も直接得てもよい。次いで工程S500においてその3D画像を分析してエネルギー蓄積装置10を設計する際に使用するための歯および/または自然な抜歯窩に関する情報を得てもよい。この情報は、(i)自然な抜歯窩のサイズ/形状、隣接する歯の解剖学的構造の位置、残っている歯根膜の量、神経の位置、周囲の骨の密度、軟組織の形状およびプロファイルならびに骨の深さまたは量、(ii)安定なインプラントを提供するために必要とされるエネルギー、(iii)必要とされるインプラントの解剖学的構造、(iv)インプラントおよびエネルギー蓄積特徴部の最適な形状を含んでもよい。
【0034】
前記分析後に、工程S600において得られた情報に基づいて1つ以上のエネルギー蓄積装置10を設計してもよい。この設計は、各エネルギー蓄積装置10がカスタム歯科インプラント1の底部32において中央部26および/または突起部12を完全にまたは部分的に取り囲んで
図1aおよび
図1bに示されている撓みおよび安定性を提供することができるようなものであってもよい。中央部26は、治療されている患者のエマージェンスプロファイルに対応し得る所定のエマージェンスプロファイルを有するように構成されていてもよい。本発明の別の例示的な実施形態では、この設計は、インプラントの突起部12を様々な梁状形状(極小突起部)12b(
図3)に分けて埋入中に撓みを可能にし得るようなものであってもよい。本明細書における例示的な一実施形態では、突起部12はインプラント埋入アクセスに沿って垂直に方向づけられた梁であってもよく、かつ極小突起部12bはISQおよび/または他の安定性測定などのプロトコルによって記載されているような理想的なインプラント安定性および必要とされる剛性を達成するために最適化されていてもよい。
【0035】
インプラント20の内部は、抗回転特徴部などの特徴部、雌ネジ山および
図9a~
図9cに示されているさらなる補綴選択肢のための結合部を含む既存のネジ型歯科インプラント設計を模倣するように設計されていてもよい。前記特徴部はインプラント1の中心軸と異なる軸または同じ軸上にあってもよい。さらにインプラント1のカスタム性すなわち患者個別性により、これらの修復構成要素のいくつかは、審美的必要性および隣接する歯の解剖学的構造によって決定される理想的なクラウンに嵌合させるようにインプラントの上部を設計することにより、カスタム歯科インプラント1の設計の中に一体化されていてもよい。
【0036】
本発明のさらに別の例示的な実施形態では、この設計は、自然な抜歯窩16の壁と標準的な歯科インプラント28の壁との間のモザイク状バネ構造/界面14などの「ハーネス」を含んでいてもよい。このモザイク状バネ構造は埋入および安定性のためにバネ付勢を与えるように構成されていてもよいが、骨の増殖を促進するために移植片として機能するための材料(リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、マグネシウムおよび他の生体吸収性材料など)および形状も特徴としてもよい。さらにインプラント1の各突起部12は、所定の軸に沿った運動を可能にする片持ち梁として機能するための内蔵されたバネまたは梁のような特徴部を有していてもよい。これは挿入中の柔軟性を可能にするためのアンダーカット特徴部にコンプライアンスを付加することにより機能してもよい。
【0037】
この設計後に、工程S700に示すようにカスタム歯科インプラント1を製造してもよい。それは付加製造法のみ、あるいは付加法、除去法および/または成形法の組み合わせを用いて製造してもよい。それは歯科医師の医院、研究室または集中製造場所において、例えばミリング、研磨またはラピッドプロトタイピングによって製造してもよい。また例えば鋳造などの従来の研究室手順を用いてそれを作製してもよい。本明細書における一実施形態では、修復物24は当該技術分野において標準的な手順を用いて製造してもよい。
【0038】
また本カスタム歯科インプラントは、個々の患者の既存の歯根膜細胞構造の中に一体化されるかそれによって取り込まれるのに適した生体適合性材料の薄い層で被覆されていてもよい。
【0039】
なお本明細書に記載されている方法は完全におよび/または部分的に自動化されていてもよい。カスタム歯科インプラント1の製造後に、S800に示すようにそれを抜歯窩の中に挿入/埋め込んでもよい。
【0040】
カスタム歯科インプラントを作製するためのコンピュータシステム
これまでカスタム歯科インプラント1について説明してきたが、次に本明細書中の例示的な実施形態の少なくともいくつかに従って用いることができるコンピュータシステム100のブロック図を示す
図8を参照する。様々な実施形態をこの例示的なコンピュータシステム100の観点から本明細書において説明する場合があるが、この説明を読んだ後に、他のコンピュータシステムおよび/またはアーキテクチャを用いて本開示を実装する方法が当業者には明らかになるであろう。
【0041】
コンピュータシステム100は、置換される歯の3D画像を得るためのCBCT、MRIおよび/または口腔内スキャナなどのスキャナを備えていてもよい。本コンピュータシステムは少なくとも1つのコンピュータプロセッサ122も備えていてもよい。本コンピュータシステムは3D画像を受信するように構成されていてもよく、プロセッサ122は、コンピュータシステム100のディスプレイ128上でレンダリングすることができる本カスタム歯科インプラントおよび対応する1つ以上のエネルギー蓄積装置10を作製するために、前記3D画像を分析するように構成されていてもよい。本明細書における一実施形態では、コンピュータシステム100は、仕上げられたカスタム歯科インプラント1を作製するためにキーボード、マウスまたはタッチスクリーンモニターなどの入力装置130を介して臨床医から入力を受け取ってもよい。プロセッサ122は通信インフラ124(例えば、通信バス、クロスオーバーバー(cross-over bar)装置またはネットワーク)に接続されていてもよい。
【0042】
ディスプレイインタフェース(または他の出力インタフェース)126は、ディスプレイ装置128上への表示のためにビデオグラフィックス、テキストおよび通信インフラ124(またはフレームバッファー(図示せず))からの他のデータを転送してもよい。
【0043】
カスタム歯科インプラント1を作製する1つ以上の工程は、コンピュータ可読プログラム命令の形態で非一時的記憶装置に記憶されていてもよい。手順を実行するために、プロセッサ122は記憶装置に記憶されている適当な命令をメモリにロードし、次いでロードした命令を実行する。
【0044】
コンピュータシステム100は、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)であってもよいメインメモリ132も備えていてもよく、かつ補助メモリ134も備えていてもよい。補助メモリ134は、例えばハードディスクドライブ136および/または取り外し可能な記憶ドライブ138(例えば、フロッピーディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブおよびフラッシュメモリドライブなど)を備えていてもよい。取り外し可能な記憶ドライブ138は周知の方法で取り外し可能な記憶装置140から/に読み出しおよび/または書き込みしてもよい。取り外し可能な記憶装置140は、取り外し可能な記憶ドライブ138によって書き込みおよび読み出しすることができる例えばフロッピーディスク、磁気テープ、光ディスクおよびフラッシュメモリ装置などであってもよい。取り外し可能な記憶装置140としては、コンピュータ実行可能ソフトウェア命令および/またはデータを記憶している非一時的コンピュータ可読記憶媒体が挙げられる。
【0045】
さらなる他の実施形態では、補助メモリ134としてはコンピュータ実行可能プログラムまたはコンピュータシステム100にロードされる他の命令を記憶している他のコンピュータ可読媒体が挙げられる。そのような装置は、取り外し可能な記憶装置144およびインタフェース142(例えば、プログラムカートリッジおよびカートリッジインタフェース)、取り外し可能なメモリチップ(例えば、消去可能プログラム可能リードオンリーメモリ(「EPROM」)またはプログラム可能なリードオンリーメモリ(「PROM」))および関連するメモリソケット、ならびにソフトウェアおよびデータを取り外し可能な記憶装置144からコンピュータシステム100の他の部分に転送することができる他の取り外し可能な記憶装置144およびインタフェース142を備えていてもよい。
【0046】
コンピュータシステム100はソフトウェアおよびデータをコンピュータシステム100と外部装置との間で転送するのを可能にする通信インタフェース146も備えていてもよい。通信インタフェース146を介して転送されるソフトウェアおよびデータは信号の形態であってもよく、その信号は通信インタフェース146によって送信および/または受信することができるものであればよい電子信号、電磁信号、光信号または別の種類の信号であってもよい。信号は通信路148(例えばチャネル)を介して通信インタフェース146に提供してもよい。通信路148は信号を運ぶことができ、ワイヤまたはケーブル、ファイバーオプティクス、電話線、セルラーリンクまたは無線周波数(「RF」)リンクなどを用いて実装されていてもよい。通信インタフェース146は、ソフトウェアまたはデータあるいは他の情報をコンピュータシステム100とリモートサーバまたはクラウドベースの記憶装置(図示せず)との間で転送するために使用してもよい。
【0047】
1つ以上のコンピュータプログラムまたはコンピュータ制御ロジックはメインメモリ132および/または補助メモリ134に記憶されていてもよい。またコンピュータプログラムは通信インタフェース146を介して受信されてもよい。コンピュータプログラムは、コンピュータプロセッサ122によって実行された場合に、コンピュータシステム100に本明細書に記載されている方法を実行させるコンピュータ実行可能命令を含んでいてもよい。それに従ってコンピュータプログラムはコンピュータシステム100を制御してもよい。
【0048】
別の実施形態では、ソフトウェアは非一時的コンピュータ可読記憶媒体に記憶されており、かつ取り外し可能な記憶ドライブ138、ハードディスクドライブ136および/または通信インタフェース146を用いてコンピュータシステム100のメインメモリ132および/または補助メモリ134にロードされてもよい。制御ロジック(ソフトウェア)はプロセッサ122によって実行された場合に、コンピュータシステム100に本明細書に記載されている方法の全てまたはいくつかを実行させてもよい。
【0049】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される同じ意味を有する。本開示の実践または試験において本明細書に記載されているものと同様もしくは同等である方法および材料を使用してもよいが、好適な方法および材料は上に記載されている。本明細書において言及されている全ての文献、特許出願、特許および他の参考文献は、適用法および規制によって可能な程度までそれら全体が参照により組み込まれる。本開示はその趣旨または必須の属性から逸脱することなく他の特定の形態で具体化してもよく、従って本実施形態はあらゆる点において例示的なものであり限定的なものではないものとみなすことが望ましい。本明細書の中で利用されているあらゆる見出しは単に便宜上のものであり、法的もしくは限定的効果は有していない。