(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】タンパク質中の遊離チオールを特定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240925BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
(21)【出願番号】P 2021532315
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 US2020013910
(87)【国際公開番号】W WO2020150492
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-13
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】エ スーク イェン
(72)【発明者】
【氏名】ブラムホール デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】チウ ハイボ
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-046825(JP,A)
【文献】XIANG et al.,Localization and Quantitation of Free Sulfhydryl in Recombinant Monoclonal Antibodies by Diffrential Labeling with 12C and 13C lodoacetic Acid and LC-MS Analysis,Anal. Chem.,2009年,Vol.81,PP.8101-8108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 30/00 - G01N 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質薬物産物中の遊離チオールを特定するための方法であって、以下を含む、方法:
タンパク質薬物産物を含む試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含む第1の標識で標識することと、
過剰な第1の標識を除去することと、
前記試料を変性および還元することと、
前記試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを含む第2の標識で標識することと、
前記試料を酵素的に消化することと、
表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含むUPLC-MS
2システムを使用して前記試料を分析することと、
前記第1のMS/MSレポーターおよび前記第2のMS/MSレポーターを定量化することであって、前記第1のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、前記第2のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関
し、5~6%の遊離チオールである閾値が設定され、前記閾値を下回る結果が、ジスルフィド結合切断の可能性を示さない、前記定量化すること。
【請求項2】
前記第1のMS/MSレポーターが、128
Daの質量を有し、前記第2のMS/MSレポーターが、131
Daの質量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1および第2の標識が、
からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質薬物産物中のジスルフィド不均一性を特定する方法であって、以下のステップを含む、方法:
タンパク質薬物産物を含む試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含む第1の標識で標識するステップと、
過剰な第1の標識を除去するステップと、
前記試料を変性および還元するステップと、
前記試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを含む第2の標識で標識するステップと、
前記試料を酵素的に消化するステップと、
表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含むUPLC-MS
2システムを使用して前記試料を分析するステップと、
前記第1のMS/MSレポーターおよび前記第2のMS/MSレポーターを定量化するステップであって、前記第1のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、前記第2のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関し、遊離チオールの検出が、前記タンパク質薬物産物がジスルフィド不均一性を有することを示
し、5~6%の遊離チオールである閾値が設定され、前記閾値を下回る結果が、ジスルフィド結合切断の可能性を示さない、前記定量化するステップ。
【請求項9】
前記第1および第2の標識が、
からなる群から選択される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する、請求項
8または
9に記載の方法。
【請求項11】
IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする、請求項
8~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質薬物産物を選択するための方法であって、以下のステップを含む、方法:
タンパク質薬物産物を含む試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含む第1の標識で標識するステップと、
過剰な第1の標識を除去するステップと、
前記試料を変性および還元するステップと、
前記試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを含む第2の標識で標識するステップと、
前記試料を酵素的に消化するステップと、
表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含むUPLC-MS
2システムを使用して前記試料を分析するステップと、
前記第1のMS/MSレポーターおよび前記第2のMS/MSレポーターを定量化するステップであって、前記第1のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、前記第2のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関
し、5~6%の遊離チオールである閾値が設定され、前記閾値を下回る結果が、ジスルフィド結合切断の可能性を示さない、前記定量化するステップと、
遊離チオールが
5個未満または全くない場合、前記タンパク質産物を選択するステップ。
【請求項15】
前記遊離チオールが、IgG分子の軽鎖にある、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記遊離チオールが、IgG分子の重鎖にある、請求項
14に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1個の遊離チオールがIgG分子の軽鎖にあり、少なくとも1個の遊離チオールがIgG分子の重鎖にある、請求項
14に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のMS/MSレポーターが126Da、127Da、128Da、129Da、130Da、または131Daの固有質量を有し、前記第2のMS/MSレポーターが126Da、127Da、128Da、129Da、130Da、または131Daの固有質量を有し、前記第1および第2のMS/MSレポーターがMS/MSスペクトル上で区別することができる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、概して、タンパク質、特に抗体中の遊離チオール基を特徴付けるシステムおよび方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年1月16日に出願された米国仮特許出願第62/792,994号の利益および優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
薬物候補から市販の製品へのモノクローナル抗体(mAb)の開発中に、安定性、翻訳後修飾、または抗体への他の変化に関する問題が発生し得る。抗体構造および機能の変化は、有効期間が短い、または患者内の免疫原性さえも低い等の問題を引き起こし得る。したがって、抗体構造を適切に特徴付け、生産全体を通してそれを監視することが重要である。抗体の品質管理および品質保証は、mAb製品の純度および安全性にとって重要である。
【0004】
ジスルフィド結合は、mAbの構造的完全性、安定性、および生物学的機能にとって重要である。非天然ジスルフィド結合は、mAbの構造および安定性の変化を引き起こし得る。抗原に対するmAbの結合親和性は、ジスルフィド結合が不完全である場合、最大50%まで影響され得る(Xiang,T.,et al.,Anal Chem,81:8101-8108(2009)(非特許文献1))。ジスルフィド結合の低解離エネルギーおよびヒンジ領域の高い可撓性は、ヒンジ領域における修飾および切断につながることが多い(Moritz,B.and Stracke,J.O.,Electrophoresis,36:769-785(2017)(非特許文献2))。加えて、非天然ジスルフィド結合構造をヒトに投与することは、望ましくない免疫応答を引き起こす可能性がある。したがって、ジスルフィド結合の分析は、mAbの品質管理評価に重要である。mAbジスルフィド結合を分析する現在の方法は、時間がかかり、労働集約的である。
【0005】
したがって、抗体、特にモノクローナル抗体中のジスルフィド結合を特徴付けるためのシステムおよび方法を提供することが、本発明の目的である。
【0006】
別の実施形態は、タンパク質薬物産物中のジスルフィド不均一性を特定するための方法を提供する。
【0007】
本発明の別の目的は、抗体を含むがこれに限定されない、タンパク質中の遊離チオールを特定するための方法および組成物を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Xiang,T.,et al.,Anal Chem,81:8101-8108(2009)
【文献】Moritz,B.and Stracke,J.O.,Electrophoresis,36:769-785(2017)
【発明の概要】
【0009】
遊離チオール(遊離スルフヒドリルとも称される)を特定するための組成物および方法が提供される。遊離チオールは、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合切断の結果として、タンパク質、例えばmAb中に存在し得る。遊離チオールの存在は、mAb製品の熱安定性を低下させ、それらの構造的完全性、安定性、および生物学的機能に影響を与え得る。したがって、mAb生産における遊離チオールを特徴付けることが重要である。タンパク質薬物産物中の部位特異的遊離チオールを特定するための方法が、本明細書に開示される。例示的な方法は、遊離チオールを特定するためのタグおよび天然ジスルフィド結合を特定するためのタグでペプチドを標識することと、標的MS2を使用してタグを分析することとを含む。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0010】
一実施形態は、タンパク質、例えば、抗体またはその抗体の断片中の遊離チオールの存在を特定するための方法を提供する。タンパク質薬物産物中の遊離チオールを特定するための例示的な方法は、タンパク質薬物産物を含有する試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含有する第1の標識で標識するステップを含む。過剰な標識は除去され得、試料は変性され、還元される。次いで、試料は、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを有する第2の標識で標識される。本方法は、試料を酵素的に消化することと、質量分析法、例えば、表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含む超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム(UPLC-MS2システム)を使用して試料を分析することと、を含む。次に、本方法は、第1のMS/MSレポーターおよび第2のMS/MSレポーターを定量化することを含み、第1のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、第2のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する。一実施形態において、第1のMS/MSレポーターは、128である質量を有し、第2のMS/MSレポーターは、131である質量を有する。タンパク質薬物産物は、典型的には、抗体、例えば、モノクローナル抗体またはキメラ抗体である。遊離チオールの存在は、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合分解の結果である可能性が高い。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0011】
別の実施形態は、タンパク質薬物産物を含有する試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含有する第1の標識で標識するステップを含む、タンパク質薬物産物中のジスルフィド不均一性を特定する方法を提供する。過剰な標識は除去され得、試料は変性され、還元される。次いで、試料は、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを有する第2の標識で標識される。本方法は、試料を酵素的に消化することと、質量分析法、例えば、表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含む超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム(UPLC-MS2システム)を使用して試料を分析することと、を含む。次に、本方法は、第1のMS/MSレポーターおよび第2のMS/MSレポーターを定量化することを含み、第1のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、第2のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する。アッセイがタンパク質薬物産物中の遊離チオールを検出する場合、タンパク質薬物産物は、ジスルフィド不均一性を含有する。これらの遊離チオールの存在は、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合分解の結果である可能性が高い。一実施形態において、第1のMS/MSレポーターは、128である質量を有し、第2のMS/MSレポーターは、131である質量を有する。タンパク質薬物産物は、典型的には、抗体、例えば、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、またはこれらの抗原結合断片である。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0012】
タンパク質薬物産物を含有する試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含有する第1の標識で標識するステップを含む、タンパク質薬物産物を選択するための方法。過剰な標識は除去され得、試料は変性され、還元される。次いで、試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを有する第2の標識で標識する。本方法は、試料を酵素的に消化することと、表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含む超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム(UPLC-MS
2システム)を使用して試料を分析することと、を含む。次に、本方法は、第1のMS/MSレポーターおよび第2のMS/MSレポーターを定量化することを含み、第1のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、第2のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する。遊離チオールが検出される場合、タンパク質薬物産物は、ジスルフィド不均一性を有する。本方法は、ジスルフィドの不均一性を示さないタンパク質薬物産物を選択することを含む。一実施形態において、第1のMS/MSレポーターは、128である質量を有し、第2のMS/MSレポーターは、131である質量を有する。タンパク質薬物産物は、典型的には、抗体、例えば、モノクローナル抗体、キメラ抗体、もしくは二重特異性抗体、またはこれらの抗原結合断片である。別の実施形態は、上述の方法を使用して選択されるタンパク質薬物産物を含有する薬学的組成物を提供する。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
[本発明1001]
タンパク質薬物産物中の遊離チオールを特定するための方法であって、以下を含む、方法:
タンパク質薬物産物を含む試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含む第1の標識で標識することと、
過剰な第1の標識を除去することと、
前記試料を変性および還元することと、
前記試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを含む第2の標識で標識することと、
前記試料を酵素的に消化することと、
表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含むUPLC-MS
2
システムを使用して前記試料を分析することと、
前記第1のMS/MSレポーターおよび前記第2のMS/MSレポーターを定量化することであって、前記第1のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、前記第2のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する、前記定量化すること。
[本発明1002]
前記第1のMS/MSレポーターが、128である質量を有し、前記第2のMS/MSレポーターが、131である質量を有する、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記第1および第2の標識が、
からなる群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1004]
IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1006]
IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1007]
IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1008]
5~6%の遊離チオールである閾値が設定され、前記閾値を下回る結果が、ジスルフィド結合切断の可能性を示さない、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1009]
タンパク質薬物産物中のジスルフィド不均一性を特定する方法であって、以下のステップを含む、方法:
タンパク質薬物産物を含む試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含む第1の標識で標識するステップと、
過剰な第1の標識を除去するステップと、
前記試料を変性および還元するステップと、
前記試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを含む第2の標識で標識するステップと、
前記試料を酵素的に消化するステップと、
表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含むUPLC-MS
2
システムを使用して前記試料を分析するステップと、
前記第1のMS/MSレポーターおよび前記第2のMS/MSレポーターを定量化するステップであって、前記第1のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、前記第2のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関し、遊離チオールの検出が、前記タンパク質薬物産物がジスルフィド不均一性を有することを示す、前記定量化するステップ。
[本発明1010]
前記第1および第2の標識が、
からなる群から選択される、本発明1009の方法。
[本発明1011]
IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する、本発明1009または1010の方法。
[本発明1012]
IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする、本発明1009~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする、本発明1009~1011のいずれかの方法。
[本発明1014]
IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする、本発明1009~1011のいずれかの方法。
[本発明1015]
タンパク質薬物産物を選択するための方法であって、以下のステップを含む、方法:
タンパク質薬物産物を含む試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含む第1の標識で標識するステップと、
過剰な第1の標識を除去するステップと、
前記試料を変性および還元するステップと、
前記試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを含む第2の標識で標識するステップと、
前記試料を酵素的に消化するステップと、
表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含むUPLC-MS
2
システムを使用して前記試料を分析するステップと、
前記第1のMS/MSレポーターおよび前記第2のMS/MSレポーターを定量化するステップであって、前記第1のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、前記第2のMS/MSレポーターの量が、前記タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する、前記定量化するステップと、
遊離チオールがほとんどまたは全くない場合、前記タンパク質産物を選択するステップ。
[本発明1016]
前記選択されたタンパク質薬物産物が、IgG分子中に5個未満の遊離チオール、4個未満の遊離チオール、3個未満の遊離チオール、または2個未満の遊離チオールを含有する、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記遊離チオールが、IgG分子の軽鎖にある、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記遊離チオールが、IgG分子の重鎖にある、本発明1016の方法。
[本発明1019]
少なくとも1個の遊離チオールがIgG分子の軽鎖にあり、少なくとも1個の遊離チオールがIgG分子の重鎖にある、本発明1016の方法。
[本発明1020]
本発明1015~1020のいずれかにおいて選択されるタンパク質産物を含む、薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aは、4つのIodoTMTsixplex試薬の概略図である。
図1Bは、iodoTMT標識でペプチドを標識するための例示的なワークフローの概略図である。
【
図2】
図2は、標的MS
2を使用してiodoTMT標識ペプチドを分析するための例示的なワークフローの概略図である。
【
図3】
図3A~
図3Bは、データ依存性実行(
図3A)または包含リスト(
図3B)を有する標的MS
2で実行されたiodoTMT標識ペプチドのMS
2分析からのクロマトグラム結果である。X軸は時間を表し、Y軸は相対存在量を表す。
【
図4】
図4A~
図4Bは、iodoTMT標識ペプチドのMS
2分析の、具体的にはTMTタグ128/131を見ているクロマトグラム結果である。
図4Aは、完全クロマトグラムであり、
図4Bは、TMTタグ128/131への拡大表示である。X軸は時間を表し、Y軸は相対存在量を表す。
【
図5A】
図5A~
図5Gは、抗体の異なるロットからのiodoTMT標識ペプチドのMS
2分析からのクロマトグラム結果である。X軸は時間を表し、Y軸は相対存在量を表す。
【
図6】
図6は、タンパク質試料1の10%、5%、1%、0.5%、または0.1%をタンパク質試料2にスパイクしたスパイクイン試験からの様々なシステイン残基の相対的存在量を示す棒グラフである。
【
図7】
図7は、生産プロセスAの抗体ロット1~3および生産プロセスBの抗体ロット4~6における様々なシステインジスルフィド結合対の相対的存在量を示す棒グラフである。ジスルフィド結合対は、2つのシステインを接続する曲線によって示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書に記載の組成物および方法、ならびに記載される実験条件は変化し得るので、本開示は、これらに限定されないことを理解されたい。また、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみのためであり、限定することを意図するものではないと理解されるべきである。
【0015】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。なお、本明細書に記載されるものと類似または同等のあらゆる組成物、方法、および材料は、本発明の実施または試験に使用することができる。言及されている全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0016】
本発明を説明する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)、用語「1つ(a)」、「1つ(an)」、「その(the)」、および同様の指示対象の使用は、本明細書で別段の指示がなされるか、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方をカバーするように解釈されるべきである。
【0017】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、単に、範囲内に含まれる各別々の値を個別に参照する簡略法としての役割を果たすことのみを意図しており、各個別の値は、本明細書に別々に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0018】
用語「約」の使用は、記載された値を約+/-10%の範囲で上回るまたは下回る値を表すように意図され、他の実施形態では、値は、記載された値を約+/-5%の範囲で上回るまたは下回る値の範囲であってもよく、他の実施形態では、値は、記載された値を約+/-2%の範囲で上回るまたは下回る値の範囲であってもよく、他の実施形態では、値は、記載された値を約+/-1%の範囲で上回るまたは下回る値の範囲であってもよい。前述の範囲は、文脈によって明確にされることが意図され、さらなる制限は示唆されない。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実行され得る。本明細書に提供される任意のおよび全ての実施例、または例示的な言語(例えば、「等」)の使用は、単に本発明をより良く明らかにすることを意図しており、特に別段の請求がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言語も、任意の請求されていない要素を本発明の実施に不可欠であると示すものとして解釈されるべきではない。
【0019】
「タンパク質」は、ペプチド結合によって互いに連結される2つ以上のアミノ酸残基を含む分子を指す。タンパク質は、ポリペプチドおよびペプチドを含み、グリコシル化、脂質結合、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、アルキル化、ヒドロキシル化、およびADP-リボシル化等の修飾も含み得る。タンパク質については、タンパク質ベースの薬物を含む、科学的または商業的に関心を持つことができ、タンパク質には、とりわけ、酵素、リガンド、受容体、抗体、ならびにキメラまたは融合タンパク質が含まれる。タンパク質は、周知の細胞培養方法を使用して様々な種類の組換え細胞によって産生され、一般に、それがエピソームとして存在してもよく、または細胞のゲノムに組み込まれてもよい遺伝子操作技術(例えば、キメラタンパク質をコードする配列、またはコドン最適化配列、イントロンレス配列など)によって細胞に導入される。
【0020】
「抗体」は、ジスルフィド結合により相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖、および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)および重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)からなる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配列される、3つのCDRおよび4つのFRからなる。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化免疫グロブリンおよび非グリコシル化免疫グロブリンの両方を指すことを含む。「抗体」という用語は、抗体を発現するためにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体等の組換え手段によって調製、発現、作成または単離された抗体分子を含む。抗体という用語はまた、2つ以上の異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンを含む二重特異性抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、参照により本出願に組み込まれる米国特許第8,586,713号に記載されている。
【0021】
「ヒンジ領域」は、ジスルフィド結合によってこれら2つの鎖を連結するIgGおよびIgA免疫グロブリンクラスの重鎖の中央部分における可撓性アミノ酸伸長を指す。IgG免疫グロブリンでは、ヒンジ領域は、CH1定常ドメインとCH3定常ドメインとの間に位置する。ヒンジ領域は、抗体に柔軟性を提供し、抗原へのより容易な結合を可能にする。
【0022】
「Fc融合タンパク質」は、2つ以上のタンパク質の一部または全部を含み、そのうちの1つは免疫グロブリン分子のFc部分であり、それ以外の場合、自然界で一緒に見出されない。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合した特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製については、例えば、Rath,T.,et al.,Crit Rev Biotech,35(2):235-254(2015)、Levin,D.,et al.,Trends Biotechnol,33(1):27-34(2015))“Receptor Fc fusion proteins”により記載されており、Fc部分に結合した受容体の1つ以上の細胞外ドメイン(複数可)を含み、これは、いくつかの実施形態では、ヒンジ領域、続いて免疫グロブリンのCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、Fc融合タンパク質は、1つ以上のリガンド(複数可)に結合する2つ以上の別個の受容体鎖を含む。例えば、Fc融合タンパク質は、例えば、IL-1トラップまたはVEGFトラップなどのトラップである。
【0023】
「ジスルフィド結合」という用語は、各々がシステインに結合した2つのSH基の酸化によって形成される結合を指す。ジスルフィド結合は、多くのタンパク質の折り畳みおよび安定性において重要な役割を果たす。IgGは、合計16個の分子間または分子内ジスルフィド結合によって共有結合した2つの重鎖(HC)および2つの軽鎖(LC)を含む。IgG mAbは、32個のシステイン残基、各LC上の5個のシステイン残基、および各HC上の11個のシステイン残基を含有する。各LCは、1つの可変ドメインおよびジスルフィド結合接続を有する1つの定常ドメインを含有する。LC上の5番目のシステインは、HCの3番目または5番目のシステインのいずれかに連結されて、鎖間ジスルフィド結合を形成する。重鎖は、N末端可変ドメイン(VH)、およびCH1とCH2との間のヒンジ領域を有する3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)を含む(Vidarsson,G.,et al.,Front Immunol,5:520 (2014))。各HC上の6番目および7番目のシステインは、結合して、ヒンジ領域を形成する。免疫グロブリンのヒンジ領域は、免疫グロブリン分子のY字型構造を形成するのに役立つ。Y字型形状は、抗原結合に必要な免疫グロブリン分子の柔軟性を可能にする。
【0024】
「LC-MS」という用語は、液体クロマトグラフィー-質量分析法を指し、液体クロマトグラフィー(またはHPLC)の物理的分離能力と質量分析法(MS)の質量分析能力とを組み合わせる分析化学技術である。MS/MSまたはMS2という用語は、タンデム質量分析法を指す。
【0025】
「遊離チオール」および「遊離スルフヒドリル」という用語は、互換的に使用される。
【0026】
II.遊離チオールを特定する方法
抗体を含むがこれに限定されない、タンパク質中の遊離チオールを特定するための方法が提供される。チオールまたはスルフヒドリルは、一般に、-SH基を含有する有機化合物を指す。タンパク質において、近接する任意の2つのシステインは、一緒に自然に対にならないシステインでさえ、共有結合を形成する。2つのシステイン間のこの共有結合は、ジスルフィド結合と称される。ジスルフィド結合は、IgG三次構造、安定性、および生物学的機能にとって重要である。遊離チオールまたは遊離スルフヒドリルは、ジスルフィド結合の一部ではないタンパク質中のシステインを指し、タンパク質中の不適切な構造形成を示し得、タンパク質薬物効力、半減期、安定性、またはタンパク質薬物に対する副作用である結果となり得る。遊離スルフヒドリル(遊離チオールとも称される)は、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合分解の結果としても生じ得る。遊離スルフヒドリルの増加は、より低い熱安定性をもたらし得、抗原に対する抗体の結合親和性に最大50%の影響を与え得る。遊離スルフヒドリルまたは遊離チオールを特定するための方法が本明細書に開示される。
【0027】
A.部位特異的遊離チオールを特定するための方法
遊離チオールは、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合切断の結果としてmAb中に存在し得る。遊離チオールの存在は、mAb製品の熱安定性を低下させ、それらの構造的完全性、安定性、および生物学的機能に影響を与え得る。したがって、mAb生産における遊離チオールを特徴付けることが重要である。タンパク質薬物産物中の部位特異的遊離チオールを特定するための方法が、本明細書に開示される。例示的な方法は、遊離チオールを特定するためのタグおよび天然ジスルフィド結合を特定するためのタグでペプチドを標識することと、標的MS2を使用してタグを分析することとを含む。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0028】
一実施形態は、タンパク質、例えば、抗体またはその断片中の遊離チオールの存在を特定するための方法を提供する。タンパク質薬物産物中の遊離チオールを特定するための例示的な方法は、タンパク質薬物産物を含有する試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含有する第1の標識で標識するステップを含む。過剰な標識は除去され得、試料は変性され、還元される。次いで、試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを有する第2の標識で標識する。本方法は、試料を酵素的に消化することと、質量分析法、例えば、表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含む超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム(UPLC-MS2システム)を使用して試料を分析することと、を含む。次に、本方法は、第1のMS/MSレポーターおよび第2のMS/MSレポーターを定量化することを含み、第1のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、第2のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する。一実施形態において、第1のMS/MSレポーターは、128である質量を有し、第2のMS/MSレポーターは、131である質量を有する。タンパク質薬物産物は、典型的には、抗体、例えば、モノクローナル抗体またはキメラ抗体である。遊離チオールの存在は、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合分解の結果である可能性が高い。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0029】
別の実施形態は、タンパク質薬物産物を含有する試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含有する第1の標識で標識するステップを含む、タンパク質薬物産物中のジスルフィド不均一性を特定する方法を提供する。過剰な標識は除去され得、試料は変性され、還元される。次いで、試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを有する第2の標識で標識する。本方法は、試料を酵素的に消化することと、質量分析法、例えば、表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含む超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム(UPLC-MS2システム)を使用して試料を分析することと、を含む。次に、本方法は、第1のMS/MSレポーターおよび第2のMS/MSレポーターを定量化することを含み、第1のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、第2のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する。アッセイがタンパク質薬物産物中の遊離チオールを検出する場合、タンパク質薬物産物は、ジスルフィド不均一性を含有する。これらの遊離チオールの存在は、不完全なジスルフィド結合形成またはジスルフィド結合分解の結果である可能性が高い。一実施形態において、第1のMS/MSレポーターは、128である質量を有し、第2のMS/MSレポーターは、131である質量を有する。タンパク質薬物産物は、典型的には、抗体、例えば、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、またはこれらの抗原結合断片である。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0030】
タンパク質薬物産物を含有する試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第1のMS/MSレポーターとを含有する第1の標識で標識するステップを含む、タンパク質薬物産物を選択するための方法。過剰な標識は除去され得、試料は変性され、還元される。次いで、試料を、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基と、MSニュートラルスペーサーアームと、固有のレポーターイオン質量を有する第2のMS/MSレポーターとを有する第2の標識で標識する。本方法は、試料を酵素的に消化することと、表面チャージハイブリッドカラムおよびギ酸緩衝液移動相を含む超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析システム(UPLC-MS2システム)を使用して試料を分析することと、を含む。次に、本方法は、第1のMS/MSレポーターおよび第2のMS/MSレポーターを定量化することを含み、第1のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の遊離チオールの量と相関し、第2のMS/MSレポーターの量は、タンパク質薬物産物中の結合チオールの量と相関する。遊離チオールが検出される場合、タンパク質薬物産物は、ジスルフィド不均一性を有する。本方法は、ジスルフィドの不均一性を示さないタンパク質薬物産物を選択することを含む。別の実施形態において、選択されたタンパク質薬物産物は、5個未満の遊離チオール、4個未満の遊離チオール、3個未満の遊離チオール、2個未満の遊離チオールを含有するIgGである。いくつかの実施形態において、遊離チオールは、IgG分子の軽鎖にある。いくつかの実施形態において、遊離チオールは、IgG分子の重鎖にある。いくつかの実施形態において、軽鎖中に少なくとも1個の遊離チオール、およびIgG分子の重鎖中に少なくとも1個の遊離チオールが存在する。一実施形態において、第1のMS/MSレポーターは、128である質量を有し、第2のMS/MSレポーターは、131である質量を有する。タンパク質薬物産物は、典型的には、抗体、例えば、モノクローナル抗体、キメラ抗体、もしくは二重特異性抗体、またはこれらの抗原結合断片である。別の実施形態は、上述の方法を使用して選択されるタンパク質薬物産物を含有する薬学的組成物を提供する。一実施形態において、本方法は、IgG分子中の32個全てのシステイン残基の完全なカバレッジを提供する。他の実施形態において、本方法は、IgG分子中の重鎖および軽鎖上の16個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各軽鎖上の5個のシステイン残基をカバーする。別の実施形態において、本方法は、IgG分子の各重鎖上の11個のシステイン残基をカバーする。
【0031】
1.ヨードアセチルタグ
一実施形態において、ペプチドは、天然ジスルフィド結合および遊離チオール残基を特定するために、タグで標識され得る。タグは、システイン含有ペプチドを標識するヨードアセチルタグであり得る。例示的なタグとしては、Thermo Scientific(商標)Iodoacetyl Tandem Mass Tag(商標)(iodoTMT(商標))が挙げられるが、これらに限定されない。ヨードアセチルタグは、システイン残基上に遊離スルフヒドリル基を不可逆的に標識する。タグには、スルフヒドリル反応性ヨードアセチル基、質量ノーマライザーアーム(mass normalizer arm)、およびMS/MSレポーターが含まれる。13Cおよび15Nの組み合わせからなる合計5つの同位体原子を、各試薬中の質量ノーマライザーアームおよびMS/MSレポーター領域に組み込むが、
図1Aのアスタリスクによって標識されるように、異なる場所に分散させる。結果として、各試薬は、同じ公称親質量であるが、MS/MSスペクトル上で区別することができるMS/MSレポーター領域の固有質量、127Da、128Da、130Da、および131Daを有する。一実施形態において、遊離チオールは、126、127、128、129、130、または131Daの質量を有する標識でタグ付けされる。別の実施形態において、天然ジスルフィド結合は、遊離チオールを検出するために使用される質量標識とは異なる質量を有する標識でタグ付けされる。非限定的な例としては、127Daの質量を有する標識でタグ付けされた遊離チオール、および130Daの質量を有する標識でタグ付けされた天然ジスルフィド結合が挙げられる。
【0032】
例示的なワークフローを、
図1Bに提供する。一実施形態において、ペプチド試料のアリコートは、第1のタグと混合され、インキュベートされる。過剰な試薬は試料から除去され得、試料は変性され、還元され得る。一実施形態において、第2の質量タグは、試料を変性させた後に試料に添加される。試料は、第2のタグの添加後に、酵素的に消化され得る。酵素消化のための例示的な方法について、上記で論じられた。別の実施形態において、2つの試料を、さらなる分析の前に一緒に添加することができる。いくつかの実施形態において、最大3対のタグを、一度の実行で分析することができる。
【0033】
2.MS/MS
一実施形態において、ヨードアセチルタグ標識ペプチドは、質量分析、例えば、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)-MS/MSを使用して分析される。一実施形態において、UPLCは、エチレン架橋ハイブリッド(BEH)カラムまたは表面チャージハイブリッド(CSH)カラム上で実行される。緩衝液は、トリフルオロ酢酸(TFA)緩衝液またはギ酸(FA)緩衝液であり得る。液体クロマトグラフィーは、約90分間~約150分間実行することができる。緩衝液および実行時間は、分析される特定の試料について最適化され得ることが理解されよう。いくつかの実施形態において、この実行は、約40分の再平衡ステップを含む。好ましい実施形態において、UPLCは、40分の再平衡ステップを伴って、FA緩衝液を使用して150mmのCSHカラム上で150分間実行される。
【0034】
UPLCを使用してペプチドを分離した後、それらは、質量分析法を使用して分析され得る。好ましい実施形態において、標的MS
2分光法が使用される。質量分析器は、例えば、Thermo Scientific Q Exactive hybrid quadrupole Orbitrap(登録商標)質量分析器であってもよい。標的MS
2の例示的なワークフローを
図10に示す。ペプチドは、質量分析器に導入され、並列反応モニタリングを使用して分析され得る。一実施形態において、前駆体質量フィルタリングは、Q1で実施され、続いて、HCD細胞における断片化、およびOrbitrap(登録商標)質量分析器における高分解能/高質量精度(HR/HA)断片イオン検出が行われる。いくつかの実施形態において、ペプチドはMS
1で捕捉されて、正しい質量で正しいペプチドであることを検証する。レポーター標識は、MS
2のOrbitrap (登録商標)におけるペプチドから分離され、次いでOrbitrapにおいて定量化される。検出された質量タグに対応する各システインの相対存在量を計算することができる。
【0035】
一実施形態において、包含質量は、MS2スキャンに含まれる。例えば、関心対象のまたは重要なある特定のシステインの質量は、包含リストにプログラムされ得る。一実施形態において、包含リストを使用することにより、関心対象の残基をより強力に定量化することができる。別の実施形態において、除外質量は、MS2スキャンから除外される。例えば、安定であるか、または稀にスクランブル化結合を形成することが知られている特定のシステインの質量は、スキャンから除外され得る。
【0036】
C.関心対象のタンパク質
一実施形態では、関心対象のタンパク質は、タンパク質薬物産物であり、または原核細胞もしくは真核細胞における発現に好適な関心対象のタンパク質である。例えば、タンパク質は、抗体もしくはその抗原結合断片、キメラ抗体もしくはその抗原結合断片、ScFvもしくはその断片、Fc融合タンパク質もしくはその断片、成長因子もしくはその断片、サイトカインもしくはその断片、または細胞表面受容体の細胞外ドメインもしくはその断片であり得る。複合体中のタンパク質は、単一のサブユニットからなる単純なポリペプチド、または2つ以上のサブユニットを含む複合体マルチサブユニットタンパク質であり得る。関心対象のタンパク質は、バイオ医薬品、食品添加物もしくは防腐剤、または精製および品質基準の対象となる任意のタンパク質製品であり得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体断片、一本鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディまたはテトラボディ、二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-IG)と称される二重特異性四価免疫グロブリンG様分子、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG1抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG2抗体である。一実施形態において、抗体は、IgG4抗体である。別の実施形態において、抗体は、キメラヒンジを含む。さらに他の実施形態において、抗体は、キメラFcを含む。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG4抗体である。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG1抗体である。一実施形態において、抗体は、キメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。
【0038】
いくつかの実施形態では、抗体は、抗プログラム細胞死1抗体(例えば、米国特許出願公開第US2015/0203579A1号に記載の抗PD1抗体)、抗プログラム細胞死リガンド1(例えば、米国特許出願公開第US2015/0203580A1号に記載の抗PD-L1抗体)、抗Dll4抗体、抗アンジオポエチン-2抗体(例えば、米国特許第9,402,898号に記載の抗ANG2抗体)、抗アンジオポエチン様3抗体(例えば、米国特許第9,018,356号に記載の抗AngPtl3抗体)、抗血小板由来成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,265,827号に記載の抗PDGFR抗体)、抗Erb3抗体、抗プロラクチン受容体抗体(例えば、米国特許第9,302,015号に記載の抗PRLR抗体)、抗補体5抗体(例えば、米国特許出願公開第US2015/0313194A1号に記載の抗C5抗体)、抗TNF抗体、抗上皮成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,132,192号に記載の抗EGFR抗体、または米国特許出願公開第US2015/0259423A1号に記載の抗EGFRvIII抗体)、抗プロタンパク質コンバーターゼサブチリシンケキシン-9抗体(例えば、米国特許第8,062,640号または米国特許第9,540,449号に記載の抗PCSK9抗体)、抗成長および分化因子-8抗体(例えば、米国特許第8,871,209号または同第9,260,515号に記載の抗ミオスタチン抗体としても知られる抗GDF8抗体)、抗グルカゴン受容体(例えば、米国特許出願公開第US2015/0337045A1号または同第US2016/0075778A1号に記載の抗GCGR抗体)、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、インターロイキン4受容体抗体(例えば、米国特許出願公開第US2014/0271681A1号または米国特許第8,735,095号または同第8,945,559号に記載の抗IL-4R抗体)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、米国特許第7,582,298号、同第8,043,617号または同第9,173,880号に記載の抗IL6R抗体)、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗インターロイキン33(例えば、米国特許第9,453,072号または同第9,637,535号に記載の抗IL33抗体)、抗呼吸器多核体ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第9,447,173号に記載の抗RSV抗体)、抗分化抗原群3(例えば、米国特許第9,447,173号および同第第9,447,173号、および米国出願第62/222,605号に記載の抗CD3抗体)、抗分化抗原群20(例えば、米国特許第9,657,102号および同第US20150266966A1号、および米国特許第7,879,984号に記載の抗CD20抗体)、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗分化抗原群48(例えば、米国特許第9,228,014号に記載の抗CD48抗体)、抗Fel d1抗体(例えば、米国特許第9,079,948号に記載)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開第US2015/0337029A1号に記載の抗MERS抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第US2016/0215040号)、抗ジカウイルス抗体、抗リンパ球活性化遺伝子3抗体(例えば、抗LAG3抗体、または抗CD223抗体)、抗神経成長因子抗体(例えば、米国特許出願公開第US2016/0017029号および米国特許第8,309,088号および同第9,353,176号に記載の抗NGF抗体)、ならびに抗タンパク質Y抗体からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、抗CD3x抗CD20二重特異性抗体(米国特許出願公開第US2014/0088295A1号および同第US20150266966A1号に記載)、抗CD3x抗ムチン16二重特異性抗体(例えば、抗CD3x抗Muc16二重特異性抗体)、ならびに抗CD3x抗前立腺特異性膜抗原二重特異性抗体(例えば、抗CD3x抗PSMA二重特異性抗体)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アダリムマブ-atto、ado-トラスツズマブ、アレムツズマブ、アリロクマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベバシズマブ、ベズロトキサマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、セルトリズマブペゴル、セミプリマブ、セツキシマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エミシズマブ-kxwh、エムタンシネアリロクマブ、エビナクマブ、エボロクマブ、ファシヌマブ、ゴリムマブ、グセルマブ、イブリツモマブチウキセタン、イダルシズマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-abda、インフリキシム-dyyb、イピリムマブ、イキセキズマブ、メポリズマブ、ネシツムマブ、ネスバクマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レスリズマブ、リヌクマブ、リツキシマブ、サリルマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、トレボグルマブ、ウステキヌマブ、およびベドリズマブからなる群から選択される。
【0039】
いくつかの実施形態において、関心対象のタンパク質は、Fc部分および別のドメイン、(例えば、Fc融合タンパク質)を含有する組換えタンパク質である。いくつかの実施形態において、Fc融合タンパク質は、Fc部分に結合された受容体の1つ以上の細胞外ドメイン(複数可)を含有する受容体Fc融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、Fc部分は、ヒンジ領域、続いてIgGのCH2およびCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態において、受容体Fc融合タンパク質は、単一のリガンドまたは複数のリガンドのいずれかに結合する2つ以上の異なる受容体鎖を含有する。例えば、Fc融合タンパク質は、TRAPタンパク質、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIl-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプト;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,927,004号を参照されたい)、またはVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含むアフリバセプトまたはziv-アフリバセプト;米国特許第7,087,411号および同第7,279,159号を参照されたい)である。他の実施形態では、Fc融合タンパク質は、Fc部分に結合した抗体の可変重鎖断片および可変軽鎖断片などの1つ以上の抗原結合ドメイン(複数可)のうちの1つ以上を含有するScFv-Fc融合タンパク質である。
【0040】
D.ジスルフィドの不均一性がほとんどまたは全くないmAbの生産
一実施形態は、遊離チオールをほとんどまたは全く含有しないタンパク質薬物産物を生産する方法を提供する。例示的な方法は、抗体を産生するために好適な条件下で細胞培養において抗体を産生する細胞を培養すること、抗体を抽出するために好適な条件下で抗体を精製すること、抗体を安定化させるために好適な条件下で抗体を賦形剤と混合すること、細胞培養から抗体の試料を得ること、細胞培養から抗体を精製すること、または精製抗体に賦形剤を添加した後、開示される方法に従った抗体のジスルフィド結合を特徴付けること、および抗体の交差したヒンジスルフィド結合の量を減少させるために1つ以上の細胞培養、精製または賦形剤条件を変更することを含む。
【0041】
抗体中の遊離チオールの量を減少させるように変更される1つ以上の細胞培養、精製、または賦形剤条件としては、温度、pH、酸素レベル、反応性酸素種、界面活性剤、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、細胞培養のアミノ酸非含有戦略は、ジスルフィド結合形成に影響を及ぼし得る。
【0042】
一実施形態において、抗体を産生する細胞は、チャイニーズハムスター卵巣細胞である。別の実施形態において、細胞は、ハイブリドーマ細胞である。実施形態において、タンパク質薬物産物は、IgGモノクローナル抗体であり、その断片である。
【0043】
一実施形態では、タンパク質薬物産物は、遊離チオールを含まない。別の実施形態では、タンパク質薬物産物は、IgG分子中に5個未満の遊離チオール、4個未満の遊離チオール、3個未満の遊離チオール、2個未満の遊離チオールを含有する。いくつかの実施形態において、遊離チオールは、IgG分子の軽鎖にある。いくつかの実施形態において、遊離チオールは、IgG分子の重鎖にある。いくつかの実施形態において、軽鎖中に少なくとも1個の遊離チオール、およびIgG分子の重鎖中に少なくとも1個の遊離チオールが存在する。
【実施例】
【0044】
実施例1:部位特異的遊離チオールの分析
方法
システイン標識
図1Bからのワークフローに従った。すなわち、対照試料および抗体試料をiodo-TMT試薬で標識した(
図1A)。過剰な試薬を除去し、試料を変性させ、0.5MのTCEPを使用して還元し、1時間インキュベートした。変性および還元後、第2の標識を試料に加えた。次いで、試料を組み合わせ、酵素的に消化し、UPLC-MS/MSを使用して分析した。UPLC条件は以下の通りであった。試料について、40分の再平衡ステップを含む150mmのCSHカラム上で150分間実行された。FA緩衝液を使用した。
【0045】
スパイクイン試験
スパイクイン試験のために、同じタンパク質の2つの異なる試料のアリコートを調製した。タンパク質はGuanHClを使用して変性され、還元された。試料は、2つの異なるIodoTMTタグで標識された。次に、スパイクイン濃度勾配を調製した。タンパク質試料1の10%、5%、1%、0.5%、または0.1%を、タンパク質試料2のアリコートに加えた。次いで、試料を酵素的に消化し、UPLC/MS-MSを使用して分析した(
図2)。
【0046】
結果:
表1は、部位特異的遊離チオールを特定するためにiodo-TMTタグで標識したRegeneron抗体の標的MS2分析の結果を示す。この表に見られるように、16個全てのシステイン残基を特定した。
【0047】
図3A~3Bは、同じ試料についてのデータ依存性MS
2実行および標的MS
2実行(包含リストを有する)の比較を示す。これらの図に示すように、標的MS
2は、特定のシステインの包含リストを用いて実行され、特定のシステイン残基をより強力に定量化するのに役立ち得る。さらに、標的化MS
2と結合したiodo-TMTタグの使用は、標識システインのより良好な分離を可能にする。
図4A~4Bは、128Da標識システインおよび131Da標識システインの明確な分離を示す。開示される方法は、標識されたIAA法などの現在の方法に見られるような重なり合う同位体パターンの問題のない非常に明確な分離を有する。
【0048】
開示される方法の有用性をさらに示すために、異なるロットの同じ抗体製品を比較した。
図5A~5Gは、同じ抗体の異なるロットにおける遊離チオールおよびジスルフィド結合システインの相対存在量を示す。
【0049】
方法の追加の検証を、スパイクイン試験を使用して行った。様々な割合の標識タンパク質試料1を、標識タンパク質試料2に加えた。
図6は、スパイクイン試験の結果を示す。システインの大部分は、タンパク質試料2にスパイクしたタンパク質試料1の量によって予測されるであろう遊離チオールの予測量を示し、これは、この方法が遊離チオールの相対存在量を予測するのに有効であることを示している。
【0050】
【0051】
表2には、Regeneron抗体製品の遊離チオールおよびジスルフィド結合存在量の結果がまとめられている。部位特異的遊離チオールの割合が、各システイン部位について計算された。16個全てのシステインを特定し、定量化した。5~6%の遊離チオールである閾値を設定し、この閾値を下回るものは、ジスルフィド結合切断の可能性を示さない。
図7は、異なるロットのRegeneron抗体製品におけるジスルフィド結合対の相対存在量を示す。
【0052】
開示される方法および結果は、部位特異的な全遊離チオール定量のために、およびジスルフィドスクランブル化位置の潜在的な指標として使用することができる。加えて、半分子または凝集をもたらす鎖内ジスルフィドを特定するために使用することができる。
【0053】
【0054】
上述の明細書において、本発明は、その特定の実施形態に関連して記載されており、多くの詳細は、例示の目的のために提示されたが、本発明は、追加の実施形態の影響を受けやすく、本明細書に記載の詳細の一部は、本発明の基本原則から逸脱することなく、かなり変動し得ることは、当業者には明らかであろう。
【0055】
本明細書で引用された全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。本発明は、その趣旨または本質的な特性から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化されてもよく、したがって、前述の明細書ではなく、本発明の範囲を示す添付の特許請求の範囲を参照する必要がある。