(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】アポトーシスに耐性のある細胞株を使用してポリペプチドを生成する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240925BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240925BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240925BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240925BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240925BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12P21/08
C12N15/86 Z
C12N7/01
C12N5/10
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021535566
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 US2019067455
(87)【国際公開番号】W WO2020132231
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-15
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アリーナ, ティア アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, アテナ ダブリュー.
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522564(JP,A)
【文献】国際公開第2018/223108(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106480090(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えポリペプチドを生成する方法であって、
(a)ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれにおける機能喪失変異と、(b)前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、を含むHEK293細胞株を、前記ポリペプチドの生成に適した条件下で培養することを含み、
7.5のPEI:DNA比、及び1μg/mLのDNA濃度が、前記ポリヌクレオチドを用いたHEK293細胞株のトランスフェクションのために用いられる、方法。
【請求項2】
前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、染色体外ポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、前記HEK293細胞株の染色体に組み込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組換えポリペプチドが、抗体もしくはその抗原結合断片、抗原、酵素、またはワクチンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えポリペプチドが、抗体またはその抗原結合断片である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞株が、7日間で約650mg/Lの力価で前記組換えポリペプチドを生成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組換えポリペプチドを、前記細胞株から単離することをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスベクターを生成する方法であって、
(a)ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれにおける機能喪失変異、(b)ウイルスゲノム、ならびに(c)ウイルスキャプシドをコードする1以上のポリヌクレオチド、を含むHEK293細胞株を、前記ウイルスベクターの生成に適した条件下で培養することを含み、
7.5のPEI:DNA比、及び1μg/mLのDNA濃度が、前記1以上のポリヌクレオチドを用いたHEK293細胞株のトランスフェクションのために用いられる、方法。
【請求項9】
前記ウイルスベクターを前記細胞株から単離することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞株が、細胞培養培地中で培養される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞株が、約6.7~約7.3のpHで培養される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞株が、溶存酸素(DO)設定値約30%で培養される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞株が、約13W/m
3の体積当たりの電力入力(power input per volume)(P/V)を付与する撹拌速度で培養される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞株が、少なくとも約10Lの体積で培養される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞株が、少なくとも約25Lの体積で培養される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞株が、35Lバイオリアクター培養で培養される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞株を35Lバイオリアクター培養で60日間培養することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞株が、前記細胞株を35Lバイオリアクター培養での60日間の培養後、少なくとも85%の細胞生存率を維持する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞株が、約20L~約35Lの作業体積で前記35Lバイオリアクター培養で培養される、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞株が、流加培養条件下で培養される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞株が、灌流培養条件下で培養される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
細胞培養培地と、複数のトランスフェクションされたHEK293細胞とを含む細胞培養物
を生成するための方法であって、
7.5のPEI:DNA比、及び1μg/mLのDNA濃度を用いて、前記HEK293細胞をトランスフェクションする工程を含み、
前記複数の細胞のそれぞれが、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含
む、
方法。
【請求項23】
前記細胞が、35Lバイオリアクター培養に十分な細胞密度である、請求項22に記載の
方法。
【請求項24】
前記細胞が、35Lバイオリアクター培養に十分な細胞密度で、60日間維持される、請求項23に記載の
方法。
【請求項25】
前記細
胞が、前記細胞を35Lバイオリアクター培養での60日間の培養後、少なくとも85%の細胞生存率を維持する、請求項24に記載の
方法。
【請求項26】
前記複数の細胞が、2.67×10
7 W/m
3のエネルギー散逸速度(EDR)の剪断応力への曝露後に、75%超の細胞生存率を維持する、請求項22~25のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項27】
前記複数の細胞が、1μMスタウロスポリンへの70時間の曝露後、75%超の細胞生存率を維持する、請求項22~26のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項28】
前記複数の細胞のそれぞれが、前記Bax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに欠失を含む、請求項22~27のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項29】
前記細
胞が、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項30】
前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、染色体外ポリヌクレオチドである、請求項29に記載の
方法。
【請求項31】
前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、
細胞の染色体に組み込まれている、請求項29に記載の
方法。
【請求項32】
前記組換えポリペプチドが、抗体もしくはその抗原結合断片、抗原、酵素、またはワクチンである、請求項29~31のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項33】
前記組換えポリペプチドが、抗体またはその抗原結合断片である、請求項32に記載の
方法。
【請求項34】
7日間で約650mg/Lの力価で前記組換えポリペプチドを生成する、請求項29~33のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項35】
前記細
胞が組換えポリヌクレオチドをさらに含む、請求項22~28のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項36】
ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含む、単離されたトランスフェクションされたHEK293細胞株
を生成するための方法であって、
7.5のPEI:DNA比、及び1μg/mLのDNA濃度
を用いて、前記HEK293細胞
をトランスフェクション
する工程を含む、
方法。
【請求項37】
前記細胞株が、前記Bax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに欠失を含む、請求項36に記載の
方法。
【請求項38】
前記細胞株が、ウイルスゲノムと、ウイルスキャプシドをコードする1以上のポリヌクレオチドとをさらに含む、請求項36または請求項37に記載の
方法。
【請求項39】
前記細胞株が、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項36または請求項37に記載の
方法。
【請求項40】
前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、染色体外ポリヌクレオチドである、請求項39に記載の
方法。
【請求項41】
前記組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、前記細胞株の染色体に組み込まれ
る、請求項39に記載の
方法。
【請求項42】
前記組換えポリペプチドが、抗体もしくはその抗原結合断片、抗原、酵素、またはワクチンである、請求項39~41のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項43】
前記組換えポリペプチドが、抗体またはその抗原結合断片である、請求項42に記載の
方法。
【請求項44】
前記細胞株が、前記ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれのポリヌクレオチドおよび機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりも高い力価の前記組換えポリペプチドを生成する、請求項39~43のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項45】
前記細胞株が、前記ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりも剪断応力に対して耐性である、請求項36~44のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項46】
前記細胞株が、前記ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりもアポトーシスに対して耐性である、請求項36~45のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項47】
前記細胞株が、前記ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりもスタウロスポリンに対して耐性である、請求項36~46のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項48】
請求項36~47のいずれか一項に記載の方法によって細胞株を取得する工程を含む、請求項36~47のいずれか一項に記載の細胞
株と、細胞培養培地と、を含む細胞培養物
を生成するための方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年12月21日に出願された米国特許仮出願第62/784,051号に対する優先権利益を主張するものであり、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本開示は、組換えポリペプチドまたはウイルスベクターを生成する方法、ならびに例えば、前記方法において用途を見出し得る細胞株および細胞培養物に関する。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体(mAb)および他の組換えタンパク質は、免疫学、腫瘍学、神経科学などを含む多くの疾患適応症のための成功した治療薬として確立されている(例えば、Reichert(2017)mAbs.9:167-181;Singh et al.(2017)Curr.Clin.Pharmacol.13:85-99を参照されたい)。バイオテクノロジー産業において300を超えるmAbが開発中であり、mAb市場は2020年までに70 mAb製品に拡大すると予測されている(Ecker et al.(2015)mAbs.7:9-14)。業界が拡大し、標的がより複雑になるにつれて、多数のmAb変異体をスクリーニングし、所望の特徴を有する臨床候補を同定するために、より大きな抗体発見キャンペーンが必要とされる。
【0004】
カチオン性ポリマーであるポリエチレンイミン(PEI)を用いた哺乳動物細胞の一過性トランスフェクションは、抗体発見スクリーニング研究を含む、大分子開発のための組換えタンパク質を迅速に生成する一般的な方法となっている(Baldi et al.(2007)Biotechnol.Lett.29:677-684;Hacker et al.(2013)Protein Expr.Purif.92:67-76;Stuible et al.(2018)J.Biotechnol.281:39-47;Longo et al.(2013)Meth.Enzymol.529:227-240;Rajendra et al.(2015)Biotechnol.Prog.31:541-549)。ヒト胚性腎臓293(HEK293)宿主細胞 およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞は、高度にトランスフェクト可能であり、それらのトランスフェクションプロセスはスケーラブルであるので、一過性トランスフェクションにしばしば使用される。
【0005】
HEK293の生成物の品質は、CHO細胞由来のものと比較して異なり得るが(Ding et al.(2017)Appl.Microbiol.Biotechnol.101:1889-1898)、HEK293のトランスフェクションはCHOと比較して半分の時間でより高い力価を生成することができ(Delafosse et al.(2016)J.Biotechnol.227:103-111;Chiou et al.,(2014)Scalable transient protein expression.:Portner editor.Animal cell biotechnology:Methods and protocols.Totowa,NJ:Humana Press.p.35-55)、ハイスループットの自動化された小規模トランスフェクションに非常に適している(Vink et al.(2014)Methods 65:5-10;Bos et al.(2014)J.Biotechnol.180:10-16;Zhao et al.(2011)J.Struct.Biol.175:209-215;Girard et al.(2001)Biochem.Eng.J.7:117-119;Raymond et al.(2011)Methods 55:44-51;Nettelship et al.(2010)J.Struct.Biol.172:55-65)。CHOの大規模バイオリアクター培養およびトランスフェクションについて記載した多数の報告があるが、HEK293細胞については存在する所見が少なく、現在、大量のタンパク質を生産するための日常的なハイスループットトランスフェクションを支援するための、バイオリアクターにおける長期培養のHEK293のシードトレイン(seed train)に関する報告はない。
【0006】
特許出願、特許公報、およびUniProtKB/Swiss-Prot受託番号を含む、本明細書に引用される全ての参考文献は、各個々の参考文献が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0007】
組換えポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドを生成するために、HEK293由来細胞株などのヒト細胞株を培養するための最適な方法が依然として必要とされている。特に、HEK293細胞は、バイオリアクター内で培養した場合、剪断応力に対して感受性であり、生存率が低いことが見出されており、スピナーフラスコ(Mohd Zin et al.(2016)Fluid Mechanics:Open Access 3:1-5)および中空糸フィルター(Rockberg et al.(2018)Production of biopharmaceuticals in an intensified perfusion process of HEK 293 cells.Paper presented at:Cell Culture Engineering XVI.Tampa,Florida,USA)においても剪断応力に対してHEK293培養物が感受性であることが報告されている。したがって、バイオリアクターにおいてより高い生産性およびより堅牢な性能を提供するために、アポトーシスに対する耐性を有するHEK293細胞株が必要とされている。
【0008】
これらの要求および他の要求を満たすために、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株が本明細書で提供される。有利には、これらの細胞株およびその培養物は、限定するものではないが、抗体(または抗原結合抗体断片)、抗原、酵素、ワクチンおよびウイルスベクターを含む組換えポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチド生成物の生成に使用を見出すことができる。
【0009】
一態様では、組換えポリペプチドを生成する方法であって、(a)ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれにおける機能喪失変異と、(b)組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、を含むHEK293細胞株を、該ポリペプチドの生成に適した条件下で培養することを含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは染色体外ポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、HEK293細胞株の染色体に組み込まれる。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドは、抗体もしくはその抗原結合断片、抗原、酵素、またはワクチンである。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドは、抗体またはその抗原結合断片(例えば、診断用または治療用の抗体またはその抗原結合断片)である。いくつかの実施形態では、細胞株は、7日間で約650mg/Lの力価で組換えポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態では、本方法は、細胞株から組換えポリペプチドを単離することをさらに含む。
【0010】
別の態様では、ウイルスベクターを生成する方法であって、(a)ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれにおける機能喪失変異、(b)ウイルスゲノム、ならびに(c)ウイルスキャプシドをコードする1種以上のポリヌクレオチド、を含むHEK293細胞株を、該ウイルスベクターの生成に適した条件下で培養することを含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、細胞株からウイルスベクターを単離することをさらに含む。
【0011】
上記実施形態のいずれかのうちのいくつかの実施形態では、細胞株は細胞培養培地において培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は、約6.7~約7.3、約6.9~約7.1、約6.95~約7.05、または約7.0のpHにおいて培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は、溶存酸素(DO)設定値約30%で培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は、約13W/m3の体積当たりの電力入力(power input per volume)(P/V)を付与する撹拌速度で培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は、少なくとも約10Lの体積で培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は、少なくとも約25Lの体積で培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は35Lバイオリアクターで培養される。いくつかの実施形態では、本方法は、細胞株を35Lバイオリアクター内で60日間培養することを含む。いくつかの実施形態では、細胞株は、細胞株を35Lバイオリアクターでの60日間の培養後、少なくとも85%の細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、細胞株は、約20L~約35Lの作業体積で35Lバイオリアクター内で培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は流加培養条件下で培養される。いくつかの実施形態では、細胞株は灌流培養条件下で培養される。
【0012】
別の態様では、細胞培養培地と、各細胞がヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含む複数のHEK293細胞と、を含む細胞培養物が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、細胞は、35Lバイオリアクター培養に十分な細胞密度である。いくつかの実施形態では、細胞は、35Lバイオリアクター培養に十分な細胞密度で、60日間維持される。いくつかの実施形態では、細胞株は、細胞株を35Lバイオリアクター培養での60日間の培養後、少なくとも85%の細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、複数の細胞は、2.67×107W/m3のエネルギー散逸速度(EDR)の剪断応力への曝露後、75%を超える細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、複数の細胞は、1μMスタウロスポリンへの70時間の曝露後、75%を超える細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、複数の細胞は各々、Bax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに欠失を含む。いくつかの実施形態では、細胞株は、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは染色体外ポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ヒト細胞株の染色体に組み込まれる。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドは、抗体もしくはその抗原結合断片、抗原、酵素、またはワクチンである。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドは、抗体またはその抗原結合断片(例えば、診断用または治療用の抗体またはその抗原結合断片)である。いくつかの実施形態では、細胞培養物は、7日間で約650mg/Lの力価で組換えポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態では、細胞株は、組換えポリヌクレオチドをさらに含む。
【0013】
別の態様では、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株(例えば、単離されたHEK293細胞株)が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、細胞株は、Bax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに欠失を含む。いくつかの実施形態では、細胞株は、ウイルスゲノムと、ウイルスキャプシドをコードする1種以上のポリヌクレオチドとをさらに含む。いくつかの実施形態では、細胞株は、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは染色体外ポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ヒト細胞株の染色体に組み込まれる。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドは、抗体もしくはその抗原結合断片、抗原、酵素、またはワクチンである。いくつかの実施形態では、組換えポリペプチドは、抗体またはその抗原結合断片(例えば、診断用または治療用の抗体またはその抗原結合断片)である。いくつかの実施形態では、細胞株は、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれのポリヌクレオチドおよび機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりも高い力価の組換えポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態では、細胞株は、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりも剪断応力に対して耐性である。いくつかの実施形態では、細胞株は、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりもアポトーシスに対して耐性である。いくつかの実施形態では、細胞株は、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含む対応する単離されたヒト細胞株よりもスタウロスポリンに対して耐性である。
【0014】
別の態様では、上記実施形態のいずれか1つに記載の細胞株と、細胞培養培地とを含む細胞培養物が本明細書で提供される。
【0015】
本明細書において説明される種々の実施形態の特性のうちの1つ、一部、または全てが、組み合わされて、本開示の他の実施形態を形成し得るということが理解されるものとする。本開示のこれらの実施形態および他の態様は、当業者には明らかとなると思われる。本開示のこれらの実施形態および他の実施形態は、以下の発明を実施するための形態によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A-1D】HEK293 DKO細胞株(実施例1に記載のようにBax遺伝子およびBak遺伝子をノックアウトしたもの))と、親HEK293細胞株との比較の図。
図1Aは、細胞株を1μMスタウロスポリンへ曝露して、アポトーシスを誘導した後の細胞生存率を示す図。
図1B~1Dは、DKOおよび親細胞株の剪断応力に対する感受性を評価するために、流動制限装置(flow constriction device)(FCD)を使用したことの効果を、FCD後の全溶解(
図1B)、FCD前後の生細胞密度(VCD)(
図1C)、およびFCD前後の生存率(
図1D)について示す図。
【0017】
【
図2A-2C】HEK293 DKO一過性トランスフェクションのN:P比およびDNA濃度の最適化を示す図。トランスフェクションを、N:P比5~12.5およびDNA濃度0.75~1.5μg/mLにわたって試験した(
図2A)。
図2Bおよび
図2Cは、30mLのチューブスピンスケールでN:P比7.5およびDNA濃度1μg/mLでHEK293およびHEK293 DKO細胞をトランスフェクトすることの、7日間の生成培養物にわたる生細胞密度(VCD)および生存率に対する効果(
図2B)、ならびに7日目の力価(
図2C)を示す。
【0018】
【
図3A-3E】1L振盪フラスコから制御された2LバイオリアクターへのHEK293 DKOシードトレインのスケールアップの効果を示す図。バイオリアクター#1:pH設定値7、不感帯±0.03およびDO設定値30%。バイオリアクター#2:pH設定値7、不感帯±0.4、およびDO設定値60%。1L振盪フラスコおよび2Lバイオリアクターを3~4日ごとに25日間継代させる。(
図3A)生細胞密度(VCD)および生存率、(
図3B)グルコースおよび乳酸、(
図3C)オフラインpH、ならびに(
図3D)pO
2。(
図3E)30mLチューブスピンからの7日目のトランスフェクション力価。
【0019】
【
図4A-4D】1L振盪フラスコから制御された35LバイオリアクターへのHEK293 DKOシードトレインのスケールアップを示す図。1L振盪フラスコおよび35Lバイオリアクターを3~4日ごとに60日間継代させた。(
図4A)生細胞密度(VCD)および生存率、(
図4B)グルコースおよび乳酸、ならびに(
図4C)オフラインpH。(
図4D)30mLチューブスピンからの7日目のトランスフェクション力価。
【0020】
【
図4E-4N】1L振盪フラスコおよび35Lバイオリアクターシードトレインから供給された細胞を使用して、60日間にわたって30mLチューブスピンでHEK293 DKO細胞をトランスフェクトした後の7日目の生成物品質属性を示す図。グリコシル化種:(
図4E)解析されたグリコシル化種、(
図4F)G0F、(
図4G)G1F、(
図4H)G2F、(
図4I)G0、および(
図4L)M5。電荷変異体(
図4J)酸性種、(
図4M)主要種、および(
図4K)塩基性種。サイズ変異体:(
図4N)高分子量種(HMWS)。
【0021】
【
図5A-5E】30mL振盪フラスコと比較した、制御されたambr15バイオリアクターにおけるHEK293 DKO一過性トランスフェクションの結果を示す図。(
図5A)7日間の生成培養物にわたる、生細胞密度(VCD)および生存率、(
図5B)グルコースおよび乳酸、(
図5C)浸透圧およびpH、(
図5D)pO
2、ならびに(
図5E)力価。
【0022】
【
図6A-6E】30mLチューブスピンから10Lウェーブバッグへの、HEK293 DKO一過性トランスフェクションのスケールアップの結果を示す図。(
図6A)7日間の生成培養物にわたる、生細胞密度(VCD)および生存率、(
図6B)グルコースおよび乳酸、(
図6C)浸透圧およびpH、ならびに(
図6D)pO
2。(
図6E)7日目の力価。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、アポトーシスおよび剪断応力に対する耐性が改善された細胞株(例えば、HEK293細胞株)を提供する。これらの細胞株は、バイオリアクター(例えば、シードトレインバイオリアクター)において堅牢な性能を示し、撹拌タンクバイオリアクターにおける35Lパイロットスケールでのヒト細胞株の長期培養または10Lウェーブバッグバイオリアクターにおける生成の改善を可能にすることが実証された。したがって、本開示の細胞株は、例えば、細胞培養および細胞培養の方法(例えば、組換えポリヌクレオチド、組換えポリペプチドおよびウイルスベクター生成の方法)において用途を見出すことができる。
【0024】
一態様では、組換えポリペプチドを生成する方法であって、(a)ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれにおける機能喪失変異と、(b)組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、を含むHEK293細胞株を、該ポリペプチドの生成に適した条件下で培養することを含む方法が本明細書で提供される。
【0025】
別の態様では、ウイルスベクターを生成する方法であって、(a)ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれにおける機能喪失変異、(b)ウイルスゲノム、ならびに(c)ウイルスキャプシドをコードする1種以上のポリヌクレオチド、を含むHEK293細胞株を、該ウイルスベクターの生成に適した条件下で培養することを含む方法が本明細書で提供される。
【0026】
別の態様では、細胞培養培地と、各細胞がヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含む複数のHEK293細胞と、を含む細胞培養物が本明細書で提供される。
【0027】
別の態様では、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株(例えば、単離されたHEK293細胞株)が本明細書で提供される。
I.定義
【0028】
本開示を詳細に説明する前に、本開示は、特定の組成物または生体系に限定されず、言うまでもなく多様であり得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語が特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定するようには意図されていないことも理解されたい。
【0029】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」、および「the」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「分子(a molecule)」への言及は、必要に応じて2つ以上のそのような分子の組合せを含む。
【0030】
本明細書で使用される「約」という用語は、この技術分野の当業者であれば容易に理解する、それぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」が付く値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体を対象とする実施形態を含む(かつ説明する)。値に関して本明細書で使用される「約」という用語は、最大でその値の90%~110%を包含する(例えば、約1.0~約3.0の第1および第2のTIRの相対的翻訳強度は、0.9~3.3の範囲にある相対的翻訳強度を指す)。
【0031】
本明細書に記載される本開示の態様および実施形態は、態様および実施形態を「含む」、態様および実施形態「からなる」、ならびに態様および実施形態「から本質的になる」を含むことを理解されたい。
【0032】
「ポリヌクレオチド」という用語は、単数形または複数形で使用されるとき、一般に、修飾されていないRNAもしくはDNAであっても、または修飾されたRNAもしくはDNAであってもよい、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指す。したがって、例えば、本明細書で定義されるポリヌクレオチドとしては、限定するものではないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域を含むDNA、一本鎖および二本鎖RNA、ならびに一本鎖および二本鎖領域を含むRNA、一本鎖、もしくはより典型的には二本鎖であってもよく、または一本鎖領域および二本鎖領域を含んでいてもよいDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が挙げられる。加えて、本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。このような領域内の鎖は、同じ分子由来であっても、または異なる分子由来であってもよい。これらの領域は、これらの分子のうちの1種以上の全てを含み得るが、より典型的には、これらの分子のうちのいくつかの領域のみを含む。三重らせん領域の分子のうちの1つは、多くの場合、オリゴヌクレオチドである。「ポリヌクレオチド」という用語は、具体的には、cDNAを含む。この用語は、1種以上の修飾塩基を含有するDNA(cDNAを含む)およびRNAを含む。したがって、骨格が安定性または他の理由のために修飾されたDNAまたはRNAが、本明細書で意図される用語としての「ポリヌクレオチド」である。さらに、イノシンなどのまれな塩基、またはトリチウム化塩基などの修飾塩基を含むDNAまたはRNAが、本明細書で定義される「ポリヌクレオチド」という用語に含まれる。一般に、「ポリヌクレオチド」という用語は、修飾されていないポリヌクレオチドの全ての化学的、酵素的、および/または代謝的に修飾された形態、ならびにウイルスおよび細胞(単純細胞および複雑細胞など)のDNAおよびRNAの特徴的化学形態を包含する。
【0033】
「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、本明細書において同義に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。ポリマーは、直鎖状であっても分枝状であってもよく、修飾アミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されていてもよい。これらの用語は、自然に修飾された、または介入により、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または任意の他の操作もしくは修飾、例えば、標識成分もしくは毒素とのコンジュゲーションにより修飾された、アミノ酸ポリマーも包含する。例えば、アミノ酸の1種以上の類似体(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ならびに当技術分野で公知の他の修飾を含有するポリペプチドもまたこの定義に含まれる。用語「ポリペプチド」および「タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、具体的には抗体を包含する。
【0034】
遺伝子内の「機能喪失変異」とは、対応する遺伝子産物の1種以上の機能を低減または排除する、遺伝子内の遺伝子操作または変異(例えば、置換、欠失、挿入、重複、フレームシフトまたは転座)を指す。いくつかの実施形態では、機能喪失変異は、対応する遺伝子産物の1種以上の機能を排除するヌル変異、例えば、コード配列の一部または全部を除去する欠失である。いくつかの実施形態では、機能喪失変異とは、遺伝子の発現における低下、例えば、RNAi(例えば、siRNAまたはshRNA)、CRISPRi、miRNA、モルホリノなどによるノックダウンをもたらす遺伝子操作のことを指す。
【0035】
「組換え」という用語は、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはウイルスベクターを改変するために使用される場合、ポリヌクレオチド/ポリペプチド/ウイルスベクターを天然に含有しないかまたは生成しない宿主細胞に導入されているか、または宿主細胞によって生成されたポリヌクレオチド/ポリペプチド/ウイルスベクターを指す。ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはウイルスベクター自体は、天然に存在しないもの(例えば、ヒト化抗体)であってもよく、または天然に存在してもよいが宿主細胞との関連では存在しないもの(例えば、典型的には自然界で抗体を生成しないヒト細胞型によって生成されるヒト抗体)であってもよい。
【0036】
本明細書で使用される、「宿主細胞」(または「組換え宿主細胞」)は、遺伝子的に変更されているか、または組換えプラスミドもしくはベクターなどの外因性もしくは非天然のポリヌクレオチドの導入によって遺伝子的に変更され得る細胞を指すことが意図される。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫も指すように意図されることを理解されたい。変異または環境的影響のいずれかに起因して、後続の世代においてある特定の改変が起こる場合があるため、このような子孫は、実際には、親細胞と同一でない場合があるが、本明細書で使用される用語「宿主細胞」の範囲内に依然として含まれる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「HEK293細胞株」は、その系統が最終的に元のHEK293細胞株、例えば、ATCCカタログ番号CRL-1573(商標)によって表される細胞株にまで遡ることができ、および/または記載されるようにヒト胎児腎臓細胞をアデノウイルス5型DNAの断片で形質転換すると生成することができる任意の細胞を指す(Graham et al.(1977)J.Gen.Virol.36:59-74)。この用語には、例えば、Bax遺伝子およびBak遺伝子に変異を導入することによって遺伝子改変され、必要に応じて組換えポリヌクレオチドをトランスフェクトされ、および/またはウイルスベクター(例えば、組換えウイルスベクター)に感染したHEK293細胞株が含まれる。HEK293細胞株は、19番染色体に組み込まれた4kbのアデノウイルスゲノム断片を有する偽三倍体であることが公知である(Louis et al.(1997)Virology 233:423-429)。HEK293ゲノムおよびトランスクリプトームの特徴は記載されている(Lin et al.(2014)Nat.Commun.5:4767 doi:10.1038/ncomms5767)。
【0038】
本明細書で使用される「培養培地」(「細胞培養培地」という用語を、本明細書では同義に使用することができる)は、本開示の細胞株の増殖を支援する任意の組成物またはブロスを指す。好適な培養培地は、液体または固体であり、任意の栄養素、塩、緩衝液、元素、ならびに細胞の増殖および生存を支援する他の化合物を含有してもよい。一般的な培養培地の栄養素は、窒素、炭素、アミノ酸、炭水化物、微量元素、ビタミン、およびミネラルの供給源を含み得る。これらの栄養素は、(規定された培養培地中の)個々の成分として、または複合エキスの構成成分(例えば、酵母エキスまたは植物/動物の加水分解物もしくはペプチド)として添加されてもよい。培養培地は、血清などの動物由来成分を含むことができ、または動物起源を含まないこともある。培養培地は化学的に規定することができる。培養培地は、急速な成長を支援するために栄養素に富んでいてもよく、またはより遅い成長を支援するために栄養素が最低限であってもよい。培養培地はまた、汚染生物の成長を阻害するか、または汚染生物を殺滅するために使用される任意の薬剤(例えば、抗生物質または抗真菌剤)を含有してもよい。培養培地はまた、誘導性プロモータまたは酵素の活性を制御するために使用される任意の化合物を含有してもよい。
【0039】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体など)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、およびそれらが所望の生物学的活性を呈する限り抗体断片を包含する。
【0040】
「単離」抗体とは、その自然環境の成分から同定および分離され、かつ/または回収された抗体である。その自然環境の汚染物質成分は、抗体の試験的、診断的、または治療的使用を妨害するであろう物質であり、それらとしては、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が挙げられる。いくつかの実施形態では、抗体は、(1)例えば、ローリー法によって決定して95重量%超、いくつかの実施形態では、99重量%超の抗体になるまで、(2)例えば、スピニングカップシークエネータを使用して、N末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15個残基を得るのに充分な程度まで、または(3)例えば、クマシーブルーまたはシルバー染色を使用して、還元または非還元条件下でSDS-PAGEによって均質性が得られるまで精製される。単離抗体は、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体を含む。しかし、通常、単離抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0041】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から成る、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖が1つのジスルフィド共有結合により重鎖に連結される一方で、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖および軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一方の端に可変ドメイン(VH)を有し、その後にいくつかの定常ドメインが続く。各軽鎖は、一方の端に可変ドメイン(VL)を有し;その他方の端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に界面を形成すると考えられている。
【0042】
「定常ドメイン」という用語は、抗原結合部位を含有する可変ドメインである免疫グロブリンの他の部分と比較してより保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の部分を指す。定常ドメインは、重鎖のCH1、CH2およびCH3ドメイン(総称して、CH)、ならびに軽鎖のCHL(またはCL)ドメインを含有する。
【0043】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖の可変ドメインは、「VH」と称されることがある。軽鎖の可変ドメインは、「VL」と称されることがある。これらのドメインは、一般に、抗体の最も可変性の高い部分であり、抗原結合部位を含有する。
【0044】
「可変」という用語は、可変ドメインのある特定の部分の配列が抗体間で広く異なり、かつ各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合および特異性において使用されるという事実を指す。しかし、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均等に分布してはいない。これは、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの両方における、超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々、ベータ-シート構造を接続し、かついくつかの場合では、ベータ-シート構造の一部を形成するループを形成する3つのHVRによって接続されたベータシート立体配置を大いに採用する4つのFR領域を含む。各鎖内のHVRは、FR領域によって近接して互いに結び付いており、他方の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,National Institute of Health,Bethesda,Md.(1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与していないが、抗体の抗体依存性細胞毒性への関与などのさまざまなエフェクター機能を呈する。
【0045】
任意の哺乳類種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてカッパ(「κ」)およびラムダ(「λ」)と呼ばれる2つの明らかに異なる型のうちの一方に割り当てられ得る。
【0046】
IgG「アイソタイプ」または「サブクラス」という用語は、本明細書で使用される場合、それらの定常領域の化学的および抗原的特性によって定義される免疫グロブリンのサブクラスのうちのいずれかを意味する。
【0047】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)は、異なるクラスに割り当てられ得る。免疫グロブリンには5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、γ、ε、γ、およびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構成は周知であり、例えば、Abbas et al.Cellular and Mol.Immunology,4th ed.(W.B.Saunders,Co.,2000)に一般に記載されている。抗体は、抗体と1種以上の他のタンパク質またはペプチドとの共有または非共有会合によって形成される、より大きい融合分子の一部であり得る。
【0048】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、および「全抗体」という用語は、本明細書において同義に使用され、以下に記載のように、その実質的にインタクトな形態の抗体を指し、抗体断片をさすものではない。これらの用語は、具体的には、Fc領域を含有する重鎖を含む抗体を指す。
【0049】
本明細書における目的のための「裸抗体」は、細胞傷害性部分または放射標識にコンジュゲートされていない抗体である。
【0050】
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体断片は、抗原結合断片である。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体;一本鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0051】
抗体のパパイン消化により、各々単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と、容易に結晶化するその能力を反映して命名された残りの「Fc」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片が生成される。ペプシンで処理すると、2つの抗原結合部位を有し、依然として抗原を架橋する能力を有するF(ab’)2断片が得られる。
【0052】
「Fv」とは、完全な抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。一実施形態では、二本鎖Fv種は、密接に非共有会合した1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種において、1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインは、軽鎖および重鎖が二本鎖Fv種における構造に類似の「二量体」構造で会合し得るように、可動性ペプチドリンカによって共有結合し得る。各可変ドメインの3つのHVRが相互作用してVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を画定するのは、この立体配置においてである。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的なHVRを3つしか含まないFvの半分)であっても、全結合部位よりも低い親和性であるが、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0053】
Fab断片は、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含有し、軽鎖定常ドメインおよび第1の重鎖定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab’断片は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、抗体ヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む数個の残基の付加によって、Fab断片とは異なる。Fab’-SHとは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を有するFab’の本明細書における呼称である。F(ab’)2抗体断片は、元々は、その間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生成されたものであった。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0054】
「一本鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHおよびVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖内に存在する。一般に、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、scFvが抗原結合に望ましい構造を形成することが可能になる。scFvに関する概説については、例えば、Pluckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,(Springer-Verlag,New York,1994),pp.269-315を参照されたい。
【0055】
「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する抗体断片を指し、これらの断片は、同じポリペプチド鎖内の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続した重鎖可変ドメイン(VH)(VH-VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカを使用することにより、これらのドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合させられ、2つの抗原結合部位が作製される。ダイアボディは二価または二重特異性であり得る。ダイアボディについては、例えば、以下により詳細に説明されている:欧州特許出願公開第404,097号明細書;国際公開第1993/01161号パンフレット;Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003);およびHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)。トリアボディおよびテトラボディについては、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)にも記載されている。
【0056】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば、その集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る可能な変異、例えば、天然に存在する変異を除いて同一である。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。ある特定の実施形態では、このようなモノクローナル抗体は、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、該標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの単一の標的結合ポリペプチド配列の選択を含むプロセスによって得られたものである。例えば、この選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、または組換えDNAクローンのプールなどの複数のクローンからの特有のクローンの選択であり得る。選択された標的結合配列が、例えば、標的への親和性を改善し、標的結合配列をヒト化し、細胞培養におけるその生成を改善し、インビボでのその免疫原性を低減し、多重特異性抗体を作製するなどのようにさらに変更されてもよく、かつ変更された標的結合配列を含む抗体が本開示のモノクローナル抗体でもあることを理解されたい。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向する。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体製剤は、それらが典型的には他の免疫グロブリンで汚染されていないという点で有利である。
【0057】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含有するキメラ抗体である。一実施形態では、ヒト化抗体は、レシピエントのHVR由来の残基が、所望の特異性、親和性、および/または能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)のHVR由来の残基により置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含み得る。これらの改変を加えて、抗体の性能をさらに洗練させることができる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には、2つの可変ドメインのうちの実質的に全てを含み、超可変ループのうちの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRのうちの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的には、ヒト免疫グロブリンのFcの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、例えば、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988);and Presta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。また、例えば、Vaswani and Hamilton,Ann.Allergy,Asthma&Immunol.1:105-115(1998);Harris,Biochem.Soc.Transactions 23:1035-1038(1995);Hurle and Gross,Curr.Op.Biotech.5:428-433(1994);ならびに米国特許第6,982,321号明細書、および第7,087,409号明細書も参照されたい。
【0058】
「ヒト抗体」とは、ヒトによって産生された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有し、および/または本明細書に開示されヒト抗体を作製するための技術のうちのいずれかを使用して作製された抗体である。このヒト抗体の定義では、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体は具体的に除外されている。ヒト抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術、例えば、ファージディスプレイライブラリを使用して作製され得る。Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581(1991)。Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985);Boerner et al.,J.Immunol.,147(1):86-95(1991)に記載されている方法もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である。van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.,5:368-74(2001)もまた参照されたい。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してそのような抗体を産生するように改変されているが、その内因性遺伝子座が無効化されているトランスジェニック動物、例えば、免疫化されたキセノマウスに抗原を投与することによって調製することができる(例えば、XENOMOUSE(商標)技術に関する米国特許第6,075,181号明細書および第6,150,584号明細書を参照されたい)。例えば、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により生成されるヒト抗体に関する、Li et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)もまた参照されたい。
【0059】
用語「超可変領域」、「HVR」、または「HV」とは、本明細書で使用される場合、配列が超可変性であり、かつ/または構造的に画定されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般的に、抗体は、6個のHVRを含み、VHに3個(H1、H2、H3)、VLに3個(L1、L2、L3)含む。天然抗体において、H3およびL3が6つのHVRのうち最も高い多様性を呈し、特にH3が抗体に優れた特異性を与える上で特有の役割を果たすと考えられる。例えば、Xu et al.,Immunity 13:37-45(2000);Johnson and Wu,Methods in Molecular Biology 248:1-25(Lo,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,2003)を参照されたい。実際には、重鎖のみからなる天然に存在するラクダ抗体は、軽鎖の不在下で機能的であり、安定している。例えば、Hamers-Casterman et al.,Nature 363:446-448(1993);Sheriff et al.,Nature Struct.Biol.3:733-736(1996)を参照されたい。
【0060】
いくつかのHVR描写が本明細書で使用され、本明細書に包含される。Kabat相補性決定領域(Complementarity Determining Region:CDR)は、配列の可変性に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)。Chothiaは、そうではなく、構造的ループの位置を指す(Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。AbM HVRは、Kabat HVRとChothia構造的ループとの間の妥協案を示し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用される。「接触」HVRは、利用可能な複合体結晶構造の分析に基づく。これらのHVRのそれぞれに由来する残基を以下に記載する。
【0061】
HVRは、以下の「伸長HVR」を含み得る:VLにおいて、24~36または24~34(L1)、46~56または50~56(L2)、および89~97または89~96(L3)、ならびにVHにおいて、26~35(H1)、50~65または49~65(H2)、および93~102、94~102、または95~102(H3)。可変ドメイン残基は、これらの定義の各々について、Kabatら、(上記)に従ってナンバリングされる。
【0062】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書で定義されるHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0063】
「Kabatのような可変ドメイン残基ナンバリング」または「Kabatのようなアミノ酸位置ナンバリング」という用語、およびそれらの変形は、Kabatら、(上記)における抗体の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインの編集に使用されるナンバリングシステムを指す。このナンバリングシステムを使用しても、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFRもしくはHVRの短縮、またはそれへの挿入に対応するより少ないアミノ酸または追加のアミノ酸を含有し得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入(Kabatに従った残基52a)を含み、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatに従った残基82a、82b、および82cなど)を含み得る。残基のKabatナンバリングは、所与の抗体に対して、抗体の配列と「標準の」Kabatによってナンバリングされた配列との相同領域におけるアライメントによって決定され得る。
【0064】
Kabatナンバリングシステムは一般に、可変ドメイン(およそ軽鎖の残基1~107および重鎖の残基1~113)内の残基に言及するときに使用される(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EUナンバリングシステム」または「EU指標」は、一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域における残基について言及する際に使用される(例えば、Kabat et al.、上記で報告されるEU指標)。「KabatのようなEU指標」とは、ヒトIgG1 EU抗体の残基ナンバリングを指す。
【0065】
「直鎖状抗体」という表現は、Zapata et al.(1995 Protein Eng,8(10):1057-1062)に記載の抗体を指す。簡潔には、これらの抗体は、相補的軽鎖ポリペプチドと一緒になって一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。直鎖状抗体は、二重特異性または単一特異性であり得る。
II.細胞株
【0066】
ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株(例えば、単離HEK293細胞株)が本明細書で提供される。
【0067】
ヒトBax 遺伝子(Bcl2l4としても公知)は、アポトーシス促進性Bcl-2ファミリーメンバーをコードする。アポトーシス中、BaxおよびBakはミトコンドリア膜を透過し、膜電位の喪失およびシトクロムcの放出をもたらし、最終的にプログラムされた細胞死を引き起こすカスパーゼタンパク質の活性化をもたらす(Taylor et al.(2008)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.9:231-241)。BaxまたはBakのいずれかは、ミトコンドリア外膜を、アポトーシスのミトコンドリア経路または内因性経路の際に透過性にするために必要とされる。いくつかの実施形態では、ヒトBax遺伝子は、NCBI遺伝子ID番号581によって記載される遺伝子を指す。いくつかの実施形態では、ヒトBax遺伝子は、以下のヒトBaxアイソフォームの1種以上をコードする。X1(例えば、NCBIアクセッション番号XP_016882566.1を参照されたい)、ゼータ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_001278360.1を参照されたい)、ラムダ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_001278359.1を参照されたい)、ガンマ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_001278358.1を参照されたい)、1(例えば、NCBIアクセッション番号NP_001278357.1を参照されたい)、シグマ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_620119.2を参照されたい)、デルタ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_620118.2を参照されたい)、アルファ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_620116.2を参照されたい)、およびベータ(例えば、NCBIアクセッション番号NP_004315.1を参照されたい)。
【0068】
ヒトBak 遺伝子(BCL2アンタゴニスト/キラー1、Bak1、Cdn1、Bcl2l7、、およびBak-様としても公知)は、アポトーシス促進性Bcl-2ファミリーメンバーをコードする。アポトーシス中、BaxおよびBakはミトコンドリア膜を透過し、膜電位の喪失およびシトクロムcの放出をもたらし、最終的にプログラムされた細胞死を引き起こすカスパーゼタンパク質の活性化をもたらす(Taylor et al.(2008)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.9:231-241)。いくつかの実施形態では、ヒトBak 遺伝子は、NCBI遺伝子ID番号578によって記載される遺伝子を指す。いくつかの実施形態では、ヒトBak 遺伝子は、以下のヒトBakアイソフォームの1種以上をコードする。X1(例えば、NCBIアクセッション番号XP_011513082.1を参照されたい)、X2(例えば、NCBIアクセッション番号XP_011513081.1を参照されたい)および標準アイソフォーム(例えば、NCBIアクセッション番号NP_001179.1を参照されたい)。
【0069】
いくつかの実施形態では、機能喪失変異は、1つ以上の置換、挿入、欠失および/またはフレームシフト変異を含む。いくつかの実施形態では、機能喪失変異は欠失を含む。ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子におけるさまざまな機能喪失変異が知られている。例えば、BaxおよびBakの変異は、さまざまな癌において記載されている。例えば、BaxおよびBakについてのOMIMエントリー600040および600516、ならびにCOSMIC(Catalogue of Somatic Mutations in Cancer)エントリー(それぞれcancer.sanger.ac.uk/cosmic/gene/analysis?ln=BAXおよびcancer.sanger.ac.uk/cosmic/gene/analysis?ln=BAK1)を参照されたい。いくつかの実施形態では、BaxまたはBakにおける機能喪失変異は、限定するものではないが、アポトーシスの促進、ミトコンドリア膜電位の喪失、ミトコンドリア外膜細孔形成およびシトクロムcの放出を含む、BaxまたはBakの1つ以上の機能(例えば、アポトーシス促進機能)を低減または排除する。いくつかの実施形態では、BaxまたはBakにおける機能喪失変異は、BaxまたはBakタンパク質の発現を低減または排除する。いくつかの実施形態では、BaxまたはBakにおける機能喪失変異は、例えば、RNAi、CRISPRi、miRNA、モルホリノなどによる、BaxまたはBakタンパク質の発現を低減または排除する遺伝子操作を指す。いくつかの実施形態では、Baxの機能喪失変異は、Bakの機能喪失変異を有する細胞におけるアポトーシスおよび/またはミトコンドリア膜電位の喪失、ミトコンドリア外膜孔形成、またはシトクロムcの放出に対する感受性を阻害し、および/またはBakの機能喪失変異は、Baxの機能喪失変異を有する細胞におけるアポトーシスおよび/またはミトコンドリア膜電位の喪失、ミトコンドリア外膜孔形成、またはシトクロムcの放出に対する感受性を阻害する。例えば、Bax機能が損なわれている場合にBak機能を低下させることは、正常なBax機能の状況でBak機能を低下させることよりもアポトーシスに対する感受性に対してはるかに劇的な効果を有することが実証されている(例えば、Chandra,D.et al.(2005)J.Biol.Chem.280:19051-19061を参照されたい)。
【0070】
ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を有するHEK293細胞株を操作する技術は公知である。いくつかの実施形態では、本明細書に例示するように、ジンクフィンガーヌクレアーゼ技術(Cost et al.(2010)Biotechnol.Bioeng.105:330-340)を使用して、BaxおよびBakに機能喪失変異(例えば、欠失)を導入することができる。ヒト細胞に変異を導入するための他の技術としては、限定するものではないが、CRISPR/Cas9、TALEN、PCRによる部位特異的突然変異誘発、化学的突然変異誘発、挿入突然変異誘発などが挙げられる。
【0071】
いくつかの実施形態では、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株は、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれの機能的コピーを含むHEK293細胞株、またはヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のうちの1つのみの機能的コピーを含むHEK293細胞株と比較して、アポトーシスに対する耐性の増加、剪断応力に対する耐性の増加、スタウロスポリンに対する耐性の増加、および組換えポリペプチド(例えば、細胞培養において)の生成の増加のうちの1つ以上を示す。
組換えポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗原、酵素およびワクチン
【0072】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株(例えば、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株)は、組換えポリヌクレオチドを含む。例えば、いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、組換えポリペプチド(例えば、抗体または抗体断片の1つ以上の鎖)をコードする。
【0073】
いくつかの実施形態において、組換えポリヌクレオチド(例えば、組換えポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチド)は染色体外ポリヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、宿主細胞ゲノムへのポリヌクレオチドの組み込みなしに細胞株に導入される。いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは一過性トランスフェクションによって細胞株に導入される。一過性トランスフェクションは、組換えポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに組み込むことなく細胞株に導入することが知られている。そのため、ポリヌクレオチドは宿主細胞ゲノムと共に複製されず、(例えば、細胞分裂、分解などに起因する)有限期間後に失われる。HEK293細胞株を一過性にトランスフェクトするための方法は当技術分野で公知であり(例えば、de Los Milagros Bassani Molinas et al.(2014)Cytotechnology 66:493-514を参照されたい)、HEK293細胞の一過性トランスフェクションのためのキットは市販されている(例えば、Thermo Fisher Scientificによって販売されている一過性HEK293細胞トランスフェクションのためのExpi293(商標)発現系を参照されたい)。
【0074】
他の実施形態では、組換えポリヌクレオチド(例えば、組換えポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチド)は、宿主細胞ゲノム、例えばヒト細胞株の染色体上に組み込まれる。いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、安定なトランスフェクションによって細胞株に導入される。安定なトランスフェクションは、非ゲノムDNAの安定な遺伝を介して、または組換えポリヌクレオチドの宿主細胞ゲノムへの組み込みを介して(例えば、宿主細胞染色体上への組み込みによって)、組換えポリヌクレオチドを細胞株に導入することが知られている。いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、ランダムな組み込みによって宿主細胞ゲノムに組込まれる。例えば、組換えポリヌクレオチドは選択マーカー(例えば、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、G418などの抗生物質に対する耐性を付与するタンパク質をコードするもの)をコードすることができ、組換えポリヌクレオチドをトランスフェクトされた細胞は、選択マーカーを介して(例えば、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、G418などの抗生物質を含む細胞培養培地を使用して、選択マーカーを発現しない細胞を殺滅させることによって、)1回以上の選択に供することができる。HEK293細胞へのランダムな組み込みのための技術およびキットは、当技術分野で公知である;例えば、www.thermofisher.com/us/en/home/references/gibco-cell-culture-basics/transfection-basics/transfection-methods/stable-transfection.htmlを参照されたい。いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、部位特異的な組み込みまたは標的化された組み込みによって宿主細胞ゲノムに組み込まれる。例えば、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)、Cre-Lox組換え、またはFLP-FRT組換えなどの技術を使用して、組換えポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムの標的部位に組み込むことができる。HEK293細胞における部位特異的な組み込みまたは標的化された組み込みを使用するための技術およびキットは、当技術分野において公知であり(例えば、Callesen et al.(2016)PLoS One 11:e0161471を参照されたい)、Flp-In(商標)293細胞株は、Thermo Fisher Scientificから入手可能である。
【0075】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリヌクレオチドは、組換えポリペプチドをコードする。例示的な組換えポリペプチドを下記に列挙する。いくつかの実施形態では、本開示のHEK293細胞株によって生成される組換えポリペプチドは、例えば、原核生物、真菌、昆虫または非ヒト哺乳動物細胞で生成される同等のポリペプチドの修飾と比較して、ヒト細胞での生成に特徴的な1つ以上の翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)を含む。例えば、HEK293細胞において発現される類似のタンパク質とCHO細胞において発現される類似のタンパク質との間におけるグリコシル化の違いが実証されている(例えば、Croset et al.(2012)J.Biotechnol.161:336-348を参照されたい)。いくつかの実施形態では、本開示のHEK293細胞株によって生成される組換えポリペプチドは、
図4Eに示される例示的および非限定的なグリカンの1種以上を含むグリコシル化修飾を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリヌクレオチドは、抗原をコードする。いくつかの実施形態では、抗原は、ポリペプチド抗原である。いくつかの実施形態では、抗原は、ペプチド抗原である。いくつかの実施形態では、抗原は、治療用抗原または診断用抗原である。
【0077】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリヌクレオチドは、酵素をコードする。いくつかの実施形態では、酵素は、治療用酵素または診断用酵素である。
【0078】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリヌクレオチドは、ワクチンをコードする。いくつかの実施形態では、ワクチンは、ペプチドワクチンである。いくつかの実施形態では、ワクチンは、弱毒生、不活化、トキソイド、またはサブユニット/組換えワクチンである。いくつかの実施形態では、ワクチンは、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、ロタウイルス、天然痘、水痘、黄熱病、A型肝炎、B型肝炎、インフルエンザ、ポリオ、狂犬病、Hib疾患、ヒトパピローマウイルス、百日咳、肺炎球菌疾患、髄膜炎菌性疾患、帯状疱疹、破傷風、およびジフテリアの1種以上に対するものである。
【0079】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリヌクレオチドは、ウイルスゲノムを含み、および/またはウイルスキャプシドをコードする。下記のセクションIVにおいてより詳細に記載されるように、本開示の細胞株は、とりわけ、ウイルスベクターを生成する方法において用途を見出すことができる。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、ウイルスゲノム(例えば、目的のウイルスベクターのウイルスゲノム)と、ウイルスキャプシドをコードする1種以上のポリヌクレオチドとを含む。例えば、HEK293細胞株は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの生成のためにアデノウイルスに感染させることができるパッケージング細胞株を作製するために、それらのゲノム中にAAV遺伝子(例えば、RepおよびCap遺伝子)を含むように改変されている(例えば、Qiao et al.(2002)J.Virol.76:13015-13027を参照されたい)。HEK293細胞株はまた、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの生成のための生成細胞株を作製するために、そのゲノム中にAAV遺伝子(例えば、RepおよびCap遺伝子)ならびにアデノウイルス遺伝子(例えば、E1A/E1B)を含むように改変されている(例えば、Yuan et al.(2011)Hum.Gene Ther.22:613-624を参照されたい)。
【0080】
いくつかのの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、発現ベクターを含む。発現ベクターには、以下のエレメントの1つ以上が含まれる:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモータ、および転写終結配列のうちの1つ以上が含まれる。
【0081】
本開示の組換えポリペプチドは、直接的にのみではなく、異種ポリペプチドとの融合ポリペプチドとしても組み換え的に生成され得る。この異種ポリペプチドは、好ましくは、成熟タンパク質またはポリペプチドのN末端にて特異的切断部位を有するシグナル配列または他のポリペプチドである。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞によって認識およびプロセシング(例えば、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。哺乳動物細胞発現において、哺乳動物シグナル配列、ならびにウイルス分泌リーダー、例えば、単純ヘルペスgDシグナルが利用可能である。
【0082】
いくつかの実施形態では、発現ベクターは複製起点を含む。一般に、ベクターにおいて、この配列は、宿主染色体DNAとは無関係にベクターの複製を可能にするものであり、複製起点または自己複製配列を含む。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターに必要とされない(SV40起点は、初期プロモータを含有するため、典型的に使用され得る)。他の実施形態では、ベクターは複製起点を含まない(例えば、組換えポリヌクレオチドが宿主細胞染色体上に組み込まれる場合)。
【0083】
いくつかの実施形態では、安定なトランスフェクションに関して上記で示唆したように、発現ベクターは選択遺伝子または選択マーカーを含む。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素に対する耐性を付与する、(b)栄養要求性欠乏を補完する、または(c)複合培地から入手できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。選択スキームの一例は、宿主細胞の増殖を停止する薬物を利用する。異種遺伝子による形質転換に成功した細胞は、薬物耐性を付与し、それ故に選択レジメンで生き残るタンパク質を生成する。哺乳動物細胞に適した選択マーカーの別の例は、抗体をコードする核酸を取り込む能力がある細胞の同定を可能にするもの、例えばDHFR、グルタミンシンテターゼ(GS)、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン-Iおよび-II、好ましくは霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなどである。例えば、DHFR遺伝子で形質転換された細胞は、形質転換体を、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトレキサート(Mtx)を含有する培養培地中で培養することによって同定される。これらの条件下で、DHFR遺伝子は、任意の他の共形質転換された核酸とともに増幅される。代替として、GS遺伝子で形質転換された細胞は、形質転換体を、GS阻害剤であるL-メチオニンスルホキシミン(Msx)を含有する培養培地中で培養することによって同定される。これらの条件下で、GS遺伝子は、任意の他の共形質転換された核酸とともに増幅される。GS選択/増幅系は、上述のDHFR選択/増幅系と組み合わせて使用することができる。代替として、目的のDNA配列、野生型DHFR遺伝子、および別の選択可能なマーカー、例えば、アミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼ(APH)で形質転換または共形質転換された宿主細胞(具体的には、内因性DHFRを含有する野生型宿主)は、アミノグリコシド系抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、またはG418などの選択マーカー用の選択剤を含有する培地中での細胞増殖によって選択することができる。例えば、米国特許第4,965,199号明細書を参照されたい。
【0084】
いくつかの実施形態では、ベクターは、プロモータを含む。発現ベクターおよびクローニングベクターは、一般に、宿主生物によって認識され、かつ組換えポリヌクレオチドに作動可能に連結されるプロモータを含有する。哺乳動物宿主細胞中でのベクターからの抗体転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2型など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、シミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから、または異種哺乳動物プロモータ、例えば、アクチンプロモータもしくは免疫グロブリンプロモータから、ヒートショックプロモータから得られるプロモータによって、このようなプロモータが宿主細胞系と適合性であることを条件として、制御され得る。SV40ウイルスの初期プロモータおよび後期プロモータは、SV40ウイルス複製起点も含有するSV40制限断片として好都合に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモータは、HindIII E制限断片として好都合に得られる。ウシパピローマウイルスをベクターとして使用して哺乳動物宿主においてDNAを発現させるための系は、米国特許第4,419,446号明細書に開示されている。この系の変形は、米国特許第4,601,978号明細書に記載されている。チミジンキナーゼプロモータの制御下で、マウス細胞における単純ヘルペスウイルスからのヒトβ-インターフェロンcDNAの発現に関して、Reyes et al.,Nature 297:598-601(1982)も参照されたい。代替として、ラウス肉腫ウイルス長末端反復配列をプロモータとして使用することができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、発現ベクターはエンハンサーエレメントを含む。哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン、およびインスリン)由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている。しかし、典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーが使用される。例としては、複製起点の後半側のSV40エンハンサー(bp100~270)、サイトメガロウイルス初期プロモータエンハンサー、複製起点の後半側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核プロモータの活性化のための増強エレメントに関しては、Yaniv,Nature 297:17-18(1982)も参照されたい。エンハンサーは、抗体コード配列の5’位または3’位でベクターにスプライシングされ得るが、好ましくは、プロモータから5’部位に位置する。
【0086】
いくつかの実施形態では、発現ベクターは、転写ターミネータ、例えば、転写の終結およびmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は一般的に、真核細胞またはウイルスのDNAまたはcDNAの5’非翻訳領域、時折、3’非翻訳領域から入手可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分内のポリアデニル化断片として転写されたヌクレオチドセグメントを含有する。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号パンフレットおよびそれに開示される発現ベクターを参照されたい。
抗体および抗体断片
【0087】
いくつかの実施形態では、本開示の組換えポリヌクレオチドは抗体またはその抗原結合断片をコードする。例えば、いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチドは、抗体もしくは抗体断片、または一本鎖抗体もしくは抗体断片の重鎖および軽鎖をコードする。本開示の細胞株または細胞培養物を使用して、抗体または抗体断片を作製するためにするための例示的な方法は、下記のセクションIVに詳細に記載される。
【0088】
いくつかの実施形態では、抗体(または抗体断片)は診断用抗体である。例えば、抗体を使用して、例えば、ELISA、ウェスタンブロッティング、免疫組織化学(IHC)、フローサイトメトリ、または他の免疫アッセイによって、試料中の1種以上の診断用抗原を検出することができる。非限定的な例として、例えば、さまざまな癌の治療において使用される診断アッセイのために、HER2(例えば、HER2を過剰発現する腫瘍を同定するための、DAKO Corp.のHercepTestを参照されたい)、エストロゲンおよびプロゲステロン受容体(例えば、、ERまたはPRを過剰発現する腫瘍を同定するための、DAKO Corp.のER/PR pharmDxキットを参照されたい)、ならびにPD-L1(例えば、PD-L1を発現する腫瘍を同定するためのVentana SP263およびSP142アッセイを参照されたい)を検出するために診断用抗体が使用されている。
【0089】
いくつかの実施形態では、抗体(または抗体断片)は治療用抗体である。例示的な治療用抗体としては、限定するものではないが、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標)、Bristol-Myers Squibb)、ペンブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)、Merck)、アベルマブ(BAVENCIO(登録商標)、Merck)、デュルバルマブ(IMFINZI(登録商標)、Astra-Zeneca/Medimmune)、アレムツズマブ(Campath)、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標)、Genentech)、セツキシマブ(ERBITUX(登録商標)、Imclone);パニツムマブ(VECTIBIX(登録商標)、Amgen)、リツキシマブ(RITUXAN(登録商標)、Genentech/Biogen Idec)、ペルツズマブ(PERJETA(登録商標)、2C4、Genentech)、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標)、Genentech)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標)、Genentech)、オビヌツズマブ(GAZYVA(登録商標)、Genentech)、オクレリズマブ(OCREVUS(登録商標)、Genentech)、トシツモマブ(Bexxar、Corixia)、ゲムツズマブオゾガマイシン(MYLOTARG(登録商標)、Wyeth)、アポリズマブ、アセリズマブ(aselizumab)、アトリズマブ、バピネオズマブ、ビバツズマブメルタンシン(bivatuzumab mertansine)、カンツズマブメルタンシン、セデリズマブ(cedelizumab)、セルトリズマブペゴール、シドフシツズマブ(cidfusituzumab)、シドツズマブ(cidtuzumab)、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、エプラツズマブ、エルリズマブ(erlizumab)、フェルビズマブ、フォントリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、ラベツズマブ、リンツズマブ、マツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、モトビズマブ(motovizumab)、ナタリズマブ、ニモツズマブ、ノロビズマブ(nolovizumab)、ヌマビズマブ(numavizumab)、オクレリズマブ、オマリズマブ、パリブズマブ、パソコリズマブ(pascolizumab)、ペクフシツズマブ(pecfusituzumab)、ペクツズマブ(pectuzumab)、ペキセリズマブ、ラリビズマブ(ralivizumab)、ラニビズマブ、レスリビズマブ(reslivizumab)、レスリズマブ、レシビズマブ(resyvizumab)、ロベリズマブ、ルプリズマブ、シブロツズマブ(sibrotuzumab)、シプリズマブ、ソンツブマブ(sontuzumab)、タカツズマブ トテラキセタン(tacatuzumab tetraxetan)、タドシズマブ(tadocizumab)、タリズマブ、テフィバズマブ(tefibazumab)、トシリズマブ、トラリズマブ(toralizumab)、ツコツズマブ セルモロイキン(tucotuzumab celmoleukin)、ツクシツズマブ(tucusituzumab)、ウマビズマブ(umavizumab)、ウルトキサズマブ、ウステキヌマブ、ビジリズマブ、および組換え完全ヒト型配列の、インターロイキン-12 p40 タンパク質を認識するように遺伝子改変された完全長IgG1 λ抗体である、抗インターロイキン-12(ABT-874/J695、Wyeth Research and Abbott Laboratories)が挙げられる。治療的使用のためにEMAまたはFDAによって承認されたモノクローナル抗体の非限定的なリストは、www.actip.org/products/monoclonal-antibodies-approved-by-the-ema-and-fda-for-therapeutic-use/に見出すことができる。
【0090】
抗体および抗体断片の特徴を、下記に非限定的に記載する。
特定の抗体ベースの方法
【0091】
モノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を使用して作製することができ、ヒト-ヒトハイブリドーマに関しては、例えば、Hongo et al.,Hybridoma,14(3):253-260(1995)、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling et al.、Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier,N.Y.,1981)、およびNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)にさらに記載された。さらなる方法としては、ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒト天然IgM抗体の生成について、例えば米国特許第7,189,826号明細書に記載される方法が挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)およびVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)に記載されている。所望のモノクローナル抗体がハイブリドーマから単離されると、それらをコードしているポリヌクレオチドを発現ベクターへとサブクローニングすることができ、本明細書に記載される方法のいずれかによってHEK293細胞株中で発現させることで抗体を生成することができる。
ライブラリ由来の抗体
【0092】
本開示の抗体は、所望される活性(複数可)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって、単離することができる。例えば、実施例3に記載の方法などのファージディスプレイライブラリを作製し、所望の結合特性を有する抗体についてこのようなライブラリをスクリーニングするためのさまざまな方法が当技術分野で公知である。さらなる方法は、例えば、Hoogenboom et al.Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2001)に概説されており、例えば、the McCafferty et al.,Nature 348:552-554;Clackson et al.,Nature 352:624-628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992);Marks and Bradbury,Methods in Molecular Biology 248:161-175(Lo,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2003);Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004);Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004);およびLee et al.,J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)にさらに記載されている。
【0093】
特定のファージディスプレイ法では、VHおよびVL遺伝子のレパートリはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により別々にクローニングされ、ファージライブラリ内でランダムに再結合され、次いでWinter et al.,Ann.Rev.Immunol.,12:433-455(1994)に記載されているような、抗原結合ファージに対してスクリーニングすることが可能である。ファージは、典型的には、抗体断片を一本鎖Fv(scFv)断片またはFab断片のいずれかとしてディスプレイする。免疫源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性抗体を提供する。代替として、ナイーブレパートリは、Griffiths et al.,EMBO J,12:725-734(1993)によって記載されるように、(例えば、ヒトから)クローニングされて、いかなる免疫化も伴うことなく、広範囲の非自己抗原および自己抗原に対する単一抗体源を提供することができる。最後に、ナイーブライブラリは、幹細胞から再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダムな配列を含むPCRプライマーを使用して、非常に可変的なCDR3領域をコードし、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)に記載されているように、インビトロで再配列を達成することによって、合成的に作製することもできる。ヒト抗体ファージライブラリについて記載する特許公報としては、例えば:米国特許第5,750,373号明細書、ならびに米国特許出願公開第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号、および第2009/0002360号明細書が挙げられる。
【0094】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体または抗体断片は、本明細書ではヒト抗体またはヒト抗体断片と見なされる。
キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体
【0095】
特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号明細書;およびMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)に開示されている。一例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサルなどの非ヒト霊長類に由来の可変領域)、およびヒト定常領域を含む。さらなる例では、キメラ抗体は、クラスまたはサブクラスが親抗体のそれから変化させられた「クラス切り替え」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0096】
特定の実施形態では、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体が、親の非ヒト抗体の特異性および親和性を保持しながら、ヒトに対する免疫原性を低下させるためにヒト化される。通常、ヒト化抗体は、HVR、例えばCDR(またはその一部)が非ヒト抗体に由来する1つ以上の可変ドメインを含み、FR(またはその一部)はヒト抗体配列に由来する。必要に応じて、ヒト化抗体はまた、ヒト定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性または親和性を回復するか、または向上させるために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換されている。
【0097】
ヒト化抗体およびそれらの作製方法は、例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)に概説されており、例えば、Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988);Queen et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 86:10029-10033(1989);米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号、および第7,087,409号明細書;Kashmiri et al.,Methods 36:25-34(2005)(SDR(a-CDR)のグラフティングについて記載);Padlan,Mol.Immunol.28:489-498(1991)(「表面再構成」を記載);Dall’Acqua et al.,Methods 36:43-60(2005)(「FRシャッフリング」を記載);ならびにOsbourn et al.,Methods 36:61-68(2005)およびKlimka et al.,Br.J.Cancer,83:252-260(2000)(FRシャッフリングへのアプローチである「ガイドセレクション(guided selection)を記載」)にさらに記載されている。
【0098】
ヒト化に使用することができるヒトフレームワーク領域としては、限定するものではないが、「ベストヒット(best-fit)」法を使用して選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims et al.J.Immunol.151:2296(1993)を参照されたい);軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);およびPresta et al.J.Immunol.,151:2623(1993)を参照されたい);ヒト成熟(体細胞性変異された)フレームワーク領域またはヒト生殖系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)を参照されたい);ならびにFRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Baca et al.,J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)およびRosok et al.,J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)を参照されたい)。
【0099】
特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知のさまざまな技術を使用して作製することができる。ヒト抗体は一般的に、van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)およびLonberg,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)に記載されている。ヒト抗体は、例えば、非限定的に、本明細書に記載される方法のいずれかによって、発現ベクターからHEK293細胞株中で発現させることによって作製することができる。
【0100】
ヒト抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって作製することもできる。その後、このような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせることができる。抗体ライブラリからヒト抗体を選択するための技術を以下に記載する。
抗体断片
【0101】
抗体断片は、酵素消化などの伝統的な手段または組換え技術によって作製することができる。特定の状況下では、全抗体ではなく抗体断片を使用することが有利である。より小さいサイズの断片により、迅速なクリアランスが可能になり、固形腫瘍へのアクセスの改善がもたらされ得る。特定の抗体断片に関する概説については、Hudson et al.(2003)Nat.Med.9:129-134を参照されたい。
【0102】
抗体断片を作製するためにさまざまな技術が開発されている。従来、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解消化により得られていた(例えば、Morimoto et al.,Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117(1992);およびBrennan et al.,Science,229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は、現在、組換え宿主細胞から直接生成させることができる。Fab、Fv、およびScFv抗体断片は全て、E.coliで発現され、E.coliから分泌され得るため、これらの断片の容易な大量生成が可能になる。抗体断片は上記の抗体ファージライブラリから単離することができる。代替として、Fab’-SH断片は、E.coliから直接回収され、化学的にカップリングして、F(ab’)2断片を形成することができる(Carter et al.,Bio/Technology 10:163-167(1992))。別のアプローチに従って、F(ab’)2断片は、組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含む、インビボ半減期が増加したFabおよびF(ab’)2断片については、米国特許第5,869,046号明細書に記載されている。抗体断片を作製するための他の技術は、当業者には明らかである。特定の実施形態では、抗体は、一本鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号パンフレット;米国特許第5,571,894号明細書;および第5,587,458号明細書を参照されたい。FvおよびscFvは、定常領域を欠くインタクトな結合部位を有する唯一の種であり、したがって、それらは、インビボでの使用中の非特異的結合の低減に好適であり得る。scFv融合タンパク質を構築して、scFvのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかでのエフェクタータンパク質の融合をもたらすことができる。上記の「Antibody Engineering」、Borrebaeck編を参照されたい。抗体断片はまた、例えば、米国特許第5,641,870号明細書に記載されているような「直鎖状抗体」であり得る。このような直鎖状抗体は、単一特異性または二重特異性であり得る。
多重特異性抗体
【0103】
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有し、これらのエピトープは、通常、異なる抗原由来である。このような分子が通常2つの異なるエピトープのみに結合する(すなわち、二重特異性抗体、BsAb)一方で、三重特異性抗体などのさらなる特異性を有する抗体は、本明細書で使用される場合、この表現に包含される。二重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0104】
二重特異性抗体の作製方法は、当技術分野で公知である。完全長二重特異性抗体の伝統的な作製は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づき、これらの2つの鎖は、異なる特異性を有する(Millstein et al.,Nature,305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖および軽鎖のランダムな分類のため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、10個の異なる抗体分子の混合物を生成する可能性があり、これらのうちの1つのみが正しい二重特異性構造を有する。通常親和性クロマトグラフィー工程によって行われるこの正しい分子の精製は、幾分厄介であり、生成物収率は低い。同様の手順が、国際公開第93/08829号パンフレット、およびTraunecker et al.,EMBO J.,10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0105】
二重特異性抗体を作製するための当技術分野で公知の1つのアプローチは、「ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)」または「空洞への突起挿入(protuberance-into-cavity)」アプローチである(例えば、米国特許第5,731,168号明細書を参照されたい)このアプローチにおいて、2つの免疫グロブリンポリペプチド(例えば、重鎖ポリペプチド)が各々界面を含む。一方の免疫グロブリンポリペプチドの界面が他方の免疫グロブリンポリペプチドの対応する界面と相互作用し、それにより、2つの免疫グロブリンポリペプチドの会合を可能にする。これらの界面は、一方の免疫グロブリンポリペプチドの界面に位置する「ノブ」または「突起(protuberance)」(これらの用語は、本明細書で同義に使用され得る)は、他方の免疫グロブリンポリペプチドの界面に位置する「ホール」または「空洞(cavity)」(これらの用語は、本明細書で同義に使用され得る)に対応するように操作することができる。いくつかの実施形態では、ホールは、ノブと同一または同様の大きさのものであり、2つの界面が相互作用するときに、一方の界面のノブが他方の界面の対応するホール内に位置付け可能であるように好適に位置付けられる。理論に拘束されることを望むものではないが、これは、ヘテロ多量体を安定させ、かつ他の種、例えば、ホモ多量体よりもヘテロ多量体の形成を好むと考えられる。いくつかの実施形態では、このアプローチを使用して、2つの異なる免疫グロブリンポリペプチドのヘテロ多量体化を促進し、異なるエピトープに対する結合特異性を有する2つの免疫グロブリンポリペプチドを含む二重特異性抗体を作製することができる。
【0106】
いくつかの実施形態では、ノブは、小さいアミノ酸側鎖をより大きい側鎖で置き換えることによって構築され得る。いくつかの実施形態では、ホールは、大きいアミノ酸側鎖をより小さい側鎖で置き換えることによって構築され得る。ノブまたはホールは、元の界面に存在してもよく、または合成的に導入することもできる。例えば、ノブまたはホールは、界面をコードする核酸配列を変更させて、少なくとも1つの「元の」アミノ酸残基を少なくとも1つの「移入」アミノ酸残基で置き換えることによって合成的に導入され得る。核酸配列を変更させるための方法としては、当技術分野で周知の標準の分子生物学技術を挙げることができる。さまざまなアミノ酸残基の側鎖体積を、以下の表に示す。いくつかの実施形態では、元の残基は、小さい側鎖体積(例えば、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グリシン、セリン、トレオニン、またはバリン)を有し、ノブを形成するための移入残基は、天然に存在するアミノ酸であり、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンを含み得る。いくつかの実施形態では、元の残基は、大きい側鎖体積(例えば、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン)を有し、ホールを形成するための移入残基は、天然に存在するアミノ酸であり、アラニン、セリン、トレオニン、およびバリンを含み得る。
aアミノ酸の分子量は、水の分子量を差し引いたものである。値は、Handbook of Chemistry and Physics,43
rd ed.Cleveland,Chemical Rubber Publishing Co.,1961によるものである。
b値は、Zamyatnin,Prog.Biophys.Mol.Biol.24:107-123,1972によるものである。
c値は、Chothia,J.Mol.Biol.105:1-14,1975によるものである。アクセス可能な表面積は、この参考文献の
図6~
図20に定義されている。
【0107】
いくつかの実施形態では、ノブまたはホールを形成するための元の残基は、ヘテロ多量体の三次元構造に基づいて特定される。三次元構造を得るための当技術分野で公知の技術としては、X線結晶学およびNMRを挙げることができる。いくつかの実施形態では、界面は、免疫グロブリン定常ドメインのCH3ドメインである。これらの実施形態では、ヒトIgG
1のCH3/CH3界面は、4つの逆平行β鎖上に位置する各ドメイン上に16個の残基を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、変異残基は、好ましくは、ノブがパートナーCH3ドメイン内の補償ホールではなく周囲の溶媒によって収容され得る危険性を最小限に抑えるように、これらの2つの中央逆平行β鎖上に位置する。いくつかの実施形態では、2つの免疫グロブリンポリペプチド内の対応するノブおよびホールを形成する変異は、以下の表に提供される1つ以上の対に対応する。
変異は、元の残基、続いて、Kabatのナンバリングシステムを使用した位置、次に、移入残基で表示されている(残基は全て一文字のアミノ酸コードで示されている)。複数の変異は、コロンで区切られている。
【0108】
いくつかの実施形態では、免疫グロブリンポリペプチドは、上の表2に列記される1つ以上のアミノ酸置換を含むCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、表2の左側の欄に列記される1つ以上のアミノ酸置換を含むCH3ドメインを含む第1の免疫グロブリンポリペプチドと、表2の右側の欄に列記される1つ以上の対応するアミノ酸置換を含むCH3ドメインを含む第2の免疫グロブリンポリペプチドとを含む。ノブおよびホール形成対の非限定的な例として、いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、T366W変異を含むCH3ドメインを含む第1の免疫グロブリンポリペプチドと、T366S、L368AおよびY407V変異を含むCH3ドメインを含む第2の免疫グロブリンポリペプチドとを含む。
【0109】
各半抗体は、米国特許第7,642,228号明細書に記載されているように、操作されたノブ(突起)またはホール(空洞)のいずれかを重鎖内に有することができる。手短に言えば、CH3ノブ変異体を最初に作製することができる。次いで、パートナーCH3ドメイン上のノブに近接している残基366、368および407をランダム化することによって、CH3ホール変異体のライブラリを作製することができる。特定の実施形態では、IgG1またはIgG4骨格中に、ノブ変異がT366Wを含み、ホール変異がT366S、L368AおよびY407Vを含む。他の免疫グロブリンアイソタイプにおける同等の変異は、当業者によって作製可能である。さらに、当業者には、二重特異性抗体に使用される2つの半抗体が同じアイソタイプであることが好ましいことが容易に理解されると思われる。
【0110】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体を作製するための例示的かつ非限定的な技術をセクションIVに提供する。
【0111】
2を超える結合価を有する抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tuft et al.J.Immunol.147:60(1991)。
【0112】
いくつかの実施形態では、2鎖タンパク質は、多重特性性抗体または二重特異性抗体の一部である。多重特性抗体または二重特異性抗体は、本開示の2つ以上の一価抗体を含有する。
【0113】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の第1の抗原結合ドメインは、1つ以上の重鎖定常ドメインを含み、この1つ以上の重鎖定常ドメインは、第1のCH1(CH1
1)ドメイン、第1のCH2(CH2
1)ドメイン、第1のCH3(CH3
1)ドメインから選択され、二重特異性抗体の第2の抗原結合ドメインは、1つ以上の重鎖定常ドメインを含み、この1つ以上の重鎖定常ドメインは、第2のCH1(CH1
2)ドメイン、第2のCH2(CH2
2)ドメイン、および第2のCH3(CH3
2)ドメインから選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの第1の抗原結合ドメインの1つ以上の重鎖定常ドメインは、第2の抗原結合ドメインの別の重鎖定常ドメインと対形成される。いくつかの実施形態では、CH3
1およびCH3
2ドメインはそれぞれ、突起または空洞を構成し、CH3
1ドメインにおける突起または空洞が、CH3
2ドメインにおける空洞または突起にそれぞれ位置決め可能である。いくつかの実施形態では、CH3
1およびCH3
2ドメインは、前記突起と空洞との間の界面で会合する。CH3
1およびCH3
2ドメインにおけるアミノ酸置換の例示的なセットが本明細書の表2に示されている。いくつかの実施形態では、CH2
1およびCH2
2ドメインはそれぞれ、突起または空洞を構成し、CH2
1ドメインにおける突起または空洞が、CH2
2ドメインにおける空洞または突起にそれぞれ位置決め可能である。いくつかの実施形態では、CH2
1およびCH2
2ドメインは、前記突起と空洞との間の界面で会合する。いくつかの実施形態では、IgGのCH3
1および/またはCH3
2ドメインは、米国特許第8,216,805号明細書の
図5に示されているアミノ酸ナンバリングによる347、349、350、351、366、368、370、392、394、395、398、399、405、407、および409からなる群から選択される残基における1つ以上のアミノ酸置換を含有する。いくつかの実施形態では、突起は、アルギニン(R)残基、フェニルアラニン(F)残基、チロシン(Y)残基、およびトリプトファン(W)残基からなる群から選択される1つ以上の導入残基を含有する。いくつかの実施形態では、空洞は、アラニン(A)残基、セリン(S)残基、トレオニン(T)残基、およびバリン(V)残基からなる群から選択される1つ以上の導入残基を含む。いくつかの実施形態では、CH3および/またはCH2ドメインはIgG(例えば、IgG1サブタイプ、IgG2サブタイプ、IgG2Aサブタイプ、IgG2Bサブタイプ、IgG3、サブタイプ、またはIgG4サブタイプ)に由来する。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体の一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T366Yを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換Y407Tを含む。いくつかの実施形態では、一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T366Wを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換Y407Aを含む。いくつかの実施形態では、一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換F405Aを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T394Wを含む。いくつかの実施形態では、一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T366YおよびF405Aを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T394WおよびY407Tを含む。いくつかの実施形態では、一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T366WおよびF405Wを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T394SおよびY407Aを含む。いくつかの実施形態では、一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換F405WおよびY407Aを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T366WおよびT394Sを含む。いくつかの実施形態では、一方のCH3ドメインは、アミノ酸置換F405Wを含み、他方のCH3ドメインは、アミノ酸置換T394Sを含む。変異は、元の残基、続いてKabatナンバリングシステムを使用した位置、次に、移入残基で表示されている。米国特許第8,216,805号明細書の
図5のナンバリングも参照されたい。
単一ドメイン抗体
【0114】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部、または軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部を含む単一のポリペプチド鎖である。特定の実施形態では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.、Waltham、Mass.;例えば、米国特許第6,248,516 B1号明細書を参照されたい)。一実施形態では、単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てまたは一部からなる。
抗体変異体
【0115】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体のアミノ酸配列の改変(複数可)が企図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を向上させることが望ましい場合がある。本抗体のアミノ酸配列変異体は、本抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な変化を導入することによって、またはペプチド合成によって調製することができる。そのような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、および/または挿入、および/または置換を含む。欠失、挿入、および置換の任意の組合せにより、最終構築物に到達することができるが、但し、最終構築物が所望の特性を有することを条件とする。主題の抗体のアミノ酸配列が作製されるときにアミノ酸の変更がその配列に導入されてもよい。
Fc領域変異体
【0116】
特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸改変が本明細書に提供される抗体のFc領域に導入され、それにより、Fc領域変異体が作製され得る。Fc領域変異体は、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc領域)を含み得る。
【0117】
特定の実施形態では、本開示は、全てではなく、いくつかのエフェクター機能を有することにより、インビボでの抗体の半減期が重要ではあるが、特定のエフェクター機能(補体およびADCCなど)が不要または有害である用途に望ましい候補となる抗体変異体を企図する。CDCおよび/またはADCC活性の低下/消失を確認するために、インビトロおよび/またはインビボの細胞毒性アッセイを実施することができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイを実行して、抗体がFcγR結合を欠いている(そのため、ADCC活性を欠いている可能性が高い)が、FcRn結合能力を保持することを確認することができる。ADCCを媒介するための主要な細胞であるNK細胞は、Fc(RIIIのみを発現するが、一方で単球は、Fc(RI、Fc(RII、およびFc(RIIIを発現する。造血細胞におけるFcRの発現については、Ravetch and Kinet、「Annu.Rev.Immunol.9:457-492(1991)の464頁の表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号明細書(例えば、Hellstrom et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 83:7059-7063(1986)を参照されたい)およびHellstrom et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 82:1499-1502(1985);米国特許第5,821,337号明細書(Bruggemann,et al.,J.Exp.Med.166:1351-1361(1987)を参照されたい)に記載されている。代替としては、非放射性アッセイ法を採用してもよい(例えば、ACTI(商標)フローサイトメトリ用非放射性細胞毒性アッセイ(CellTechnology,Inc.Mountain View、CA)、および CytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性試験法(Promega、Madison、WI)を参照されたい)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(Natural Killer:NK)細胞が含まれる。代替として、または追加として、目的とする分子のADCC活性は、例えばClynes et al.Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 95:652-656(1998)に開示されるような動物モデルにおいて、インビボで評価することができる。また、抗体がC1qに結合することができず、CDC活性を欠いていることを確認するために、C1q結合アッセイを実施してもよい。例えば、国際公開第2006/029879号パンフレットおよび第WO2005/100402号パンフレットのC1qおよびC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996);Cragg et al.,Blood 101:1045-1052(2003);およびCragg and Glennie,Blood 103:2738-2743(2004)を参照されたい)。FcRn結合およびインビボクリアランス/半減期決定もまた、当技術分野において公知の方法を使用して実行することができる(例えば、Petkova,et al.,Int’l.Immunol.18(12):1759-1769(2006)を参照されたい)。
【0118】
エフェクター機能が低下した抗体としては、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327および329の1つ以上の置換を有する抗体が挙げられる(米国特許第6,737,056号明細書)。このようなFc変異体としては、アミノ酸位置265、269、270、297および327のうち2つ以上での置換を有するFc変異体が挙げられ、残基265および297がアラニンに置換されている、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む(米国特許第7,332,581号明細書)。
【0119】
FcRへの結合が改善または減少した特定の抗体変異体が記載されている。(例えば、米国特許第6,737,056号明細書;国際公開第2004/056312号パンフレット、およびShields et al.,J.Biol.Chem.9(2):6591-6604(2001)を参照されたい。)
【0120】
特定の実施形態では、抗体変異体は、ADCCを改善する1つ以上のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298、333、および/または334位(残基のEUナンバリング)での置換を有するFc領域を含む。例示的な一実施形態では、抗体は、そのFc領域に以下のアミノ酸置換:S298A、E333AおよびK334Aを含む。
【0121】
いくつかの実施形態では、例えば、米国特許第6,194,551号明細書、国際公開第99/51642号パンフレット、およびIdusogie et al.J.Immunol.164:4178-4184(2000)に記載されるように、変更された(すなわち、改善されたか、または減少したかのいずれか)C1q結合および/または補体依存性細胞毒性(CDC)をもたらす変更が、Fc領域において行われる。
【0122】
半減期が増大し、母体IgGを胎児に移入する役割を果たす新生児型Fc受容体(FcRn)(Guyer et al.,J.Immunol.117:587(1976)およびKim et al.,J.Immunol.24:249(1994))への結合が向上した抗体が、米国特許出願公開第2005/0014934A1号明細書(Hintonら)に記載されている。それらの抗体は、Fc領域とFcRnとの結合を改善する1つ以上の置換をその中に有するFc領域を含む。このようなFc変異体としては、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424または434のうち1つ以上における置換、例えばFc領域残基434の置換を伴うもの(米国特許第7,371,826号明細書)が挙げられる。Fc領域の変異体の他の例に関して、Duncan&Winter,Nature 322:738-40(1988);米国特許第5,648,260号明細書;米国特許第5,624,821号明細書;および国際公開第94/29351号パンフレットも参照されたい。
抗体誘導体
【0123】
本開示の抗体は、当技術分野で公知の、容易に入手可能な、追加の非タンパク質性部分を含有するように、さらに改変され得る。特定の実施形態では、抗体の誘導体化に好適な部分は、水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、限定するものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が挙げられる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中での安定性のため、製造上の利点を有すると思われる。ポリマーは、任意の分子量であってもよく、分枝型であっても、非分枝型であってもよい。抗体に付着しているポリマーの数は様々であり、複数のポリマーが付着している場合には、それらは同じ分子であっても、異なった分子であってもよい。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数および/またはタイプは、限定するものではないが、改良される抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が定義された条件下で治療に使用されるかどうかなどの考慮事項に基づいて決定することができる。
III.細胞培養物
【0124】
ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株(例えば、単離されたHEK293細胞株)を含む細胞培養物が本明細書で提供される。上記のセクションIIに記載される例示的な細胞株を含む本開示のHEK293細胞株のいずれも、本開示の細胞培養物において用途を見出すことができる。
【0125】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物は、本開示の複数のHEK293細胞と、細胞培養培地とを含む。HEK293細胞を培養するのに適した細胞培養培地は当技術分野で公知であり、市販されている;例えば、FreeStyle(商標)293発現培地(Gibco)、Expi293(商標)発現培地(Gibco)、および必要に応じて血清を補添されたATCC製剤化イーグル最小必須培地(ATCCカタログ番号30-2003)を参照されたい。細胞培養培地には、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)薬物など)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終密度で存在する無機化合物と定義される)、ならびにグルコースまたは等価エネルギー源が補添され得る。任意の他の必要な補添物質も、適切な濃度で含むことができる。
【0126】
いくつかの実施形態では、細胞培養物の細胞は、35Lバイオリアクター培養に十分な細胞密度である。例えば、いくつかの実施形態では、細胞培養物の細胞は、7、14、21、30、45、または60日間、35Lバイオリアクター培養に十分な細胞密度で維持される。いくつかの実施形態では、細胞培養物の細胞は、(例えば、流加培養で)約0.4×106細胞/mL~約6×106細胞/mLの細胞密度である。いくつかの実施形態では、細胞培養物の細胞は、(例えば、灌流培養で)約0.4×106細胞/mL~約1.0×108細胞/mL の細胞密度である。
【0127】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物は、2.67×107W/m3のエネルギー散逸速度(EDR)の剪断応力への曝露後に、50%超、60%超、または75%超の細胞生存率を維持する。特定の実施形態では、本開示の細胞培養物は、2.67×107W/m3エネルギー散逸速度(EDR)の剪断応力への曝露後に、75%超の細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物の細胞は、2.67×107W/m3のエネルギー散逸速度(EDR)の剪断応力への曝露後に、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、または30%未満の全溶解を示す。細胞を剪断応力に曝露するための例示的なアッセイとしては、限定するものではないが、細胞を流動制限装置(FCD;Ma et al.(2002)Biotechnol.Bioeng.75:197-203;およびMollet et al.(2007)Biotechnol.Bioeng.98:772-788)に通過させることが挙げられる。
【0128】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物の細胞は、1μMのスタウロスポリンへの70時間の曝露後、50%超、60%超、75%超、または80%超の細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物の細胞は、1μMのスタウロスポリンへの60時間の曝露後、70%超、75%超、80%超、または85%超の細胞生存率を維持する。いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物の細胞は、1μMスタウロスポリンへの50時間の曝露後、80%超、85%超、または90%超の細胞生存率を維持する。特定の実施形態では、本開示の細胞培養物の細胞は、1μMスタウロスポリンへの70時間の曝露後、75%超の細胞生存率を維持する。
【0129】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物(例えば、本明細書に記載の組換えポリペプチドを生成する本開示のHEK293細胞株を含む)は、組換えポリペプチド(例えば、抗体、例えば、ヒトIgG1抗体)を、7日間で少なくとも約500mg/L、少なくとも約550mg/L、少なくとも約600mg/L、または約600mg/Lの力価で生成する。特定の実施形態では、本開示の細胞培養物(例えば、本明細書に記載の組換えポリペプチドを生成する本開示のHEK293細胞株を含む)は、7日間で約650mg/Lの力価で組換えポリペプチドを生成する。いくつかの実施形態では、HEK293細胞株は、組換えポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドを一過性にトランスフェクトされる。いくつかの実施形態では、細胞培養物は、30mL細胞培養物(例えば、約2×106細胞/mLで播種)である。
IV 生成方法
【0130】
組換えポリペプチドを生成する方法であって、組換えポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む本開示のHEK293細胞株を、ポリペプチドの生成に適した条件下で培養することを含む方法が本明細書で提供される。ウイルスベクターを生成する方法であって、ウイルスゲノムと、ウイルスキャプシドをコードする1種以上のポリヌクレオチドとを含む本開示のHEK293細胞株を、ウイルスベクターの生成に適した条件下で培養することを含む方法も本明細書で提供される。
【0131】
本開示の細胞株のいずれか(例えば、セクションIIに記載)または本開示の細胞培養物(例えば、セクションIIIに記載)を、本開示の方法において使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、細胞株は、ヒトBax遺伝子およびBak遺伝子のそれぞれに機能喪失変異を含むHEK293細胞株である。
【0132】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、細胞培養培地中で培養される。例示的かつ非限定的な細胞培養培地および細胞培養培地の説明は、上記のセクションIIIに提供されている。
【0133】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、約6.7~約7.3、約6.8~約7.2、約6.9~約7.1、約6.95~約7.05、または約7のpHで培養される。特定の実施形態では、本開示の細胞株は、pH設定値7.0、不感帯±0.03で培養される。いくつかの実施形態では、培養pHは、酸としてCO2および塩基として1 M炭酸ナトリウムを使用して制御される。
【0134】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、溶存酸素(DO)設定値約30%において培養される。いくつかの実施形態では、培養DOは、オープンパイプスパージャ(open pipe sparger)を介して空気および純酸素ガスをスパージングすることによって制御される。
【0135】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、約13W/m
3の体積当たりの電力入力(P/V)を付与する撹拌速度で培養される。体積当たりの電力入力は、以下の式を使用して計算することができる。
式中、
【0136】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、少なくとも約10L、少なくとも約15L、少なくとも約20L、少なくとも約25L、少なくとも約30L、少なくとも約35L、少なくとも約50L、少なくとも約60L、少なくとも約75L、または約100Lの体積で培養される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、約10L~約35L、約15L~約35L、約20L~約35L、約25L~約35L、約35L~約100L、または約10L~約100Lの体積で培養される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、少なくとも約10L、少なくとも約15L、少なくとも約20L、少なくとも約25L、少なくとも約30L、または少なくとも約35Lの体積を有するバイオリアクターで培養される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、少なくとも約20L、少なくとも約25L、少なくとも約30L、または少なくとも約35Lの作業体積で培養される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、約10L~約35L、約15L~約35L、約20L~約35L、または約25L~約35Lの作業体積で培養される。バイオリアクター体積が作業体積以上であることを条件として、バイオリアクター体積と作業培養体積との上記の全ての組み合わせが企図される。例えば、特定の実施形態では、細胞株は、約20L~約35Lの作業体積で35Lバイオリアクター培養で培養される。
【0137】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、少なくとも7日間、少なくとも14日間、少なくとも21日間、少なくとも28日間、少なくとも35日間、少なくとも50日間、または少なくとも60日間培養される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、7日間、14日間、21日間、28日間、35日間、50日間または60日間培養される。バイオリアクター体積が作業体積以上であることを条件として、バイオリアクター体積、作業培養体積、および培養期間の上記の全ての組み合わせが企図される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、35Lバイオリアクター培養物で少なくとも35日間、少なくとも50日間、または少なくとも60日間培養される。特定の実施形態では、本開示の細胞株は、35Lバイオリアクター培養で60日間培養される。いくつかの実施形態では、本開示の細胞培養物は、細胞株を35Lバイオリアクター培養での60日間の培養後、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%の細胞生存率を維持する。特定の実施形態では、本開示の細胞培養物は、細胞株を35Lバイオリアクター培養での60日間の培養後、少なくとも85%の細胞生存率を維持する。
【0138】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、流加培養条件下で培養される。流加培養下では、培養中に1種以上の化合物または栄養素が細胞培養物に添加される。生産後、培養物を収穫し、生成物を収集する。
【0139】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞株は、灌流培養条件下で培養される。灌流培養下で、新鮮な培養培地を培養物に供給し、廃棄物/副生成物を連続的に除去する。灌流培養は、流加培養よりも高い細胞密度での培養を可能にすることが知られている。
【0140】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、本開示の細胞株から生成物、例えば、組換えポリペプチドおよび/またはウイルスベクターを単離することをさらに含む。生成物の単離および精製の例示的かつ非限定的な方法は、下記に、より詳細に記載される。
【0141】
細胞培養および組換えポリヌクレオチド/ポリペプチド生成のための技術を、下記に非限定的な様式で記載する。
宿主細胞の選択およびトランスフェクション
【0142】
宿主細胞は、上記のセクションIIに記載される例示的な選択マーカーの使用を含むさまざまな手段によって培養中に選択することができる。
【0143】
ヒト細胞株(例えば、HEK293細胞株)のトランスフェクションに適した技術は、当技術分野で公知である。いくつかの実施形態では、HEK293細胞は、ポリエチレンイミン(PEI)を使用して細胞にDNAを導入することによってトランスフェクトされる。HEK293細胞のPEIトランスフェクションのための例示的な方法は、本明細書に記載され、当技術分野で公知である(例えば、www.addgene.org/protocols/transfection/を参照されたい。)。
宿主細胞の培養
【0144】
本開示の宿主細胞は、さまざまな培地において培養することができる。ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地が、宿主細胞の培養に好適である。さらに、Ham et al.,Meth.Enz.58:44(1979),Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255(1980)、米国特許第4,767,704号;第4,657,866号;第4,927,762号;第4,560,655号;または第5,122,469号明細書;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号パンフレット;または米国再発行特許第30,985号明細書に記載の培地のいずれかを、宿主細胞の培養培地として使用することができる。これらの培地のうちのいずれかには、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジンなど)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)薬物など)、微量元素(通常マイクロモル範囲の最終密度で存在する無機化合物と定義される)、ならびにグルコースまたは等価エネルギー源が補添され得る。
生物学的に活性なポリペプチドの精製
【0145】
細胞から調製された組換えポリペプチド(例えば、抗体)は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、および親和性クロマトグラフィーを使用して精製することができ、親和性クロマトグラフィーが典型的に好ましい精製工程のうちの1つである。親和性リガンドとしてのプロテインAの好適性は、本抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用することができる(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1-13(1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプおよびヒトγ3に対して推奨される(Guss et al.,EMBO J.5:15671575(1986))。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御細孔ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスにより、アガロースで達成され得るよりも速い流速および短い処理時間が可能になる。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、N.J.)が精製に有用である。タンパク質を精製するための他の技術、例えば、イオン交換カラム上での分別、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)上でのクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなど)上でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、および硫酸アンモニウム沈殿もまた、回収される抗体に応じて利用可能である。
【0146】
一般に、研究、試験、および臨床で使用するための抗体を調製するためのさまざまな方法論が当技術分野で十分に確立されており、上述の方法論と一致しており、かつ/または当業者によって目的とする特定の抗体に適切であると見なされている。
ウイルスベクターの精製
【0147】
細胞から調製されたウイルスベクターは、例えば、生成されたウイルスベクターの種類に応じて、さまざまな手段を使用して精製することができる。精製されたウイルスベクター調製物とは、粒子が天然に存在した場合、または最初に調製された場合にさらに存在し得る他の成分の少なくともいくつかを欠くウイルスベクター/粒子の調製物を指す。したがって、例えば、単離されたウイルスベクター/粒子は、培養溶解物または生成培養物上清などの供給源混合物から、それらを濃縮するための精製技術を使用して調製することができる。濃縮は、さまざまな方法で、例えば、溶液中に存在するDNase耐性粒子(DRP)もしくはゲノムコピー(gc)の割合によって、または感染性によって測定することができ、または供給源混合物中に存在する第2の潜在的干渉物質、例えば生成培養汚染物質を含む汚染物質またはヘルパーウイルスを含む工程内汚染物質、培地成分などに関連して測定することができる。
【0148】
アデノウイルスベクター/粒子の作製のための多数の方法が当技術分野で公知である。例えば、ガッティッド(gutted)型アデノウイルスベクターの場合、アデノウイルスベクターゲノムおよびヘルパーアデノウイルスゲノムをパッケージング細胞株(例えば、293細胞株)にトランスフェクトすることができる。いくつかの実施形態では、ヘルパーアデノウイルスゲノムは、そのパッケージングシグナルに隣接する組換え部位を含み得、両方のゲノムは、リコンビナーゼを発現するパッケージング細胞株にトランスフェクトすることができ(例えば、Cre/loxPシステムを使用してもよい)、その結果、目的のアデノウイルスベクターは、ヘルパーアデノウイルスよりも効率的にパッケージングされる(例えば、e.g.,Alba,R.et al.(2005)Gene Ther.12 Suppl 1:S18-27を参照されたい)。AAVベクターは、例えば、以前に記載されたように(Xiao et al.(1998)J.Virol.72:2224-2232)、ヒト293細胞のトリプルプラスミド共トランスフェクションによって作製することができる。例示的な単離/精製方法では、AAVベクターを前述のようにカラム精製することができる(Passini et al.,(2001)J.Virol.75:12382-12392)。
【0149】
レンチウイルスベクター/粒子の作製のための多数の方法が当技術分野で公知である。例えば、第3世代レンチウイルスベクターの場合、gagおよびpol遺伝子を有する目的のレンチウイルスゲノムを含むベクターを、rev遺伝子を含むベクターと共にパッケージング細胞株(例えば、293細胞株)に共トランスフェクトすることができる。目的のレンチウイルスゲノムはまた、Tatの非存在下で転写を促進するキメラLTRを含む(Dull,T.et al.(1998)J.Virol.72:8463-71を参照されたい)。レンチウイルスベクターは、さまざまな方法(例えば、Segura MM,et al.,(2013)Expert Opin Biol Ther.13(7):987-1011)を使用して収集および精製することができる。
【0150】
HSV粒子の作製のための多数の方法が当技術分野で公知である。HSVベクター/粒子は、標準的な方法を用いて収集および精製することができる。例えば、複製欠損HSVベクターの場合、前初期(IE)遺伝子の全てを欠く目的のHSVゲノムを、ICP4、ICP27およびICP0などのウイルス生成に必要な遺伝子を提供する補完細胞株にトランスフェクトすることができる(例えば、Samaniego,L.A.et al.(1998)J.Virol.72:3307-20を参照されたい)。HSVベクターは、さまざまな方法(例えば、Goins et al.,(2014)Herpes Simplex Virus Methods in Molecular Biology 1144:63-79)を使用して収集および精製することができる。
【実施例】
【0151】
本開示は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解されることになる。しかし、これらは、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に記載の実施例および実施形態が例示のみを目的とするものであり、それを考慮に入れたさまざまな改変または変化が当業者に提案され、本出願精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることは理解されよう。
実施例1:より堅牢なHEK293細胞株の作製および試験
【0152】
上記のように、HEK293細胞は剪断応力に感受性であり、バイオリアクター内で培養した場合に低い生存率をもたらす傾向がある。アポトーシスに対する耐性を有する細胞株は、バイオリアクターにおいてより高い生産性およびより堅牢な性能を示すと仮定した。抗アポトーシスHEK293細胞株(HEK293 DKO)を、ジンクフィンガーヌクレアーゼ技術(Cost et al.(2010)Biotechnol.Bioeng.105:330-340)を使用して、アポトーシス促進性遺伝子BaxおよびBakを欠失させることによって操作した。アポトーシス中、BaxおよびBakはミトコンドリア膜を透過し、最終的にプログラムされた細胞死を引き起こすカスパーゼタンパク質の活性化をもたらす(Taylor et al.(2008)Nat.Rev.Mol.Cell Biol.9:231-241)。CHO細胞株におけるBaxおよびBakの欠失は、より高い培養生存率およびトランスフェクション力価と相関することが以前に示されていた(Macaraeg et al.(2013)Biotechnol.Prog.29:1050-1058)。BaxおよびBakの抑制または欠失を伴う培養物の生存率および生産性の改善が報告されている(Cost et al.(2010)Biotechnol.Bioeng.105:330-340;Lim et al.(2006)Metab.Eng.8:509-522;Grav et al.(2015)Biotechnol.J.10:1446-1456)。これらの研究は、野生型と比較して、CHO DKO生成培養物において、より高い生存率(Cost et al.(2010)Biotechnol.Bioeng.105:330-340;Macaraeg et al.(2013)Biotechnol.Prog.29:1050-1058;Lim et al.(2006)Metab.Eng.8:509-522))、より高いDNA取り込みレベル(Macaraeg et al.(2013)Biotechnol.Prog.29:1050-1058)、より高いトランスフェクション効率(Macaraeg et al.(2013)Biotechnol.Prog.29:1050-1058)、より大きなミトコンドリア質量(Misaghi et al.(2013)Biotechnol.Prog.29:727-737)、および改善されたミトコンドリア膜電位(Misaghi et al.(2013)Biotehcnol.Prog.29:727-737)の観察を報告した。
【0153】
HEK293 DKOを、バイオリアクターにおいてより高い生産性および堅牢な性能を示すHEK293細胞株を作製するために試験および特徴付けした。
方法
細胞培養
【0154】
HEK293 DKO細胞株を、ジンクフィンガーヌクレアーゼ技術Cost et al.(2010)Biotechnol.Bioeng.105:330-340)を使用することによって作製した。HEK293細胞およびHEK293 DKO細胞を、表1のシードトレイン培地を使用して、以前に記載されたように(Bos et al.(2015)Biotechnol.Bioeng.112:1832-1842)、振盪フラスコ中でシードトレインとして培養した。
スタウロスポリンアッセイ
【0155】
振盪フラスコ中のHEK293およびHEK293 DKOシードトレイン培養物を0.8×106細胞/mLで播種し、未処理か、または1μMスタウロスポリン(Sigma、カタログ番号S6942)で処理した。生存率のために培養物を毎日サンプリングした。
流動制限装置(FCD)
【0156】
FCD(Mollet et al.(2007)Biotechnol.Bioeng.98:772-788)を使用して、HEK293およびHEK293 DKO細胞に対する剪断応力の影響を評価した。手短に言うと、シリンジポンプ(ハーバード装置、型番33)を使用して、流速70mL/分またはエネルギー散逸速度(EDR)2.67×10
7W/m
3で細胞をFCDに通過させた。FCDを通過する前に、全細胞試料(陽性対照)を水中0.2g/Lサポニン(Amresco、カタログ番号0163)で1:1に希釈して細胞を溶解し、-80℃で保存した。FCDを通過させた後、培養物を830×gで遠心分離し、上清を0.2g/Lサポニンで1:1に希釈し、-80℃で保存した。試料を解凍し、Cedex Bio HT Analyzer(Roche)を使用して乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)についてアッセイした。FCD後の全溶解(%)は、以下の式1を使用して計算した。FCDを通過する前後の生細胞密度(VCD)および生存率用にも培養物をサンプリングした。
トランスフェクション
【0157】
一過性トランスフェクションを、50mLチューブスピンまたは125mL振盪フラスコにおいて30mLの作業体積で、22Lウェーブバッグにおいて10Lの作業体積で、またはambr15マイクロバイオリアクターにおいて12mLの作業体積で行った。
【0158】
30mLのトランスフェクションのために、細胞を、50mLチューブスピン(Optimum Processing、カタログ番号SV92050)または125mLバッフルなし振盪フラスコ(Corning、カタログ番号431143)中の25.5mLの生成培地(表1参照)に2×106細胞/mLで播種し、振盪インキュベーターにおいて、37℃、5%CO2で、それぞれ225rpm、軌道直径50mm(Kuhner、型番ISF1-X)または125rpm、軌道直径25mm(例えば、Kuhner、Innova)で、トランスフェクションの2時間前に平衡化した。全てのトランスフェクションは、標準的なヒトIgG1(huIgG1)抗体をコードするDNAを用いて行った。トランスフェクトするために、表示量のDNAおよび7.5 mM の25kDaの直鎖状PEI(Polyplus-transfection、カタログ番号101)を、3mLの無血清培地(例えば、Opti-MEM I還元血清培地(ThermoFisher、カタログ番号31985062))中で15分間インキュベートした後、平衡化細胞に添加した。加水分解物、アミノ酸および塩、ならびにグルコースを含有する2.6mL溶液を、トランスフェクションの24時間後に添加した。このプロセスを、より小さい作業体積またはより大きい作業体積に対して比例的に規模を調整した。
細胞数、力価および生成物品質の測定
【0159】
生細胞密度(VCD)、生存率、代謝産物、pHおよび/またはガスについて1~4日毎に培養物をサンプリングし、Vi-CELL Cell Counter(Beckman Coulter)、BioProfile FLEX Analyzer(Nova Biomedical)またはABL90 FLEX(Radiometer)を使用して測定した。上清試料からのHuIgG1抗体力価を、プロテインA HPLCアッセイを使用して決定した。凝集レベル、酸性および塩基性変異体、ならびにさまざまなグリコフォームを含むHuIgG1抗体生成物の品質属性を、それぞれ、サイズ排除HPLC、画像化キャピラリー等電点電気泳動(icIEF)、および親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)HPLCを使用して決定した。
N:P実験
【0160】
上記のようにトランスフェクションを行った。最も高い力価をもたらす条件を決定するために、完全な要因実験により、PEI:DNA(N:P)比5、7.5、10および12.5、ならびにDNA濃度0.75、1.0、1.25および1.5μg/mLを試験した。N:P比7.5およびDNA濃度1μg/mLが、最高力価をもたらした(
図2A)ので、その後の全てのトランスフェクションに使用した。
2Lおよび35Lバイオリアクターのシードトレイン
【0161】
HEK293 DKO細胞をシードトレインとして、2つの制御された2Lバイオリアクター(Applikon)で25日間培養した。バイオリアクター#1は、pH設定値7.0、不感帯±0.03およびDO設定値30%空気飽和を使用し、バイオリアクター#2は、pH設定値7.0、不感帯±0.4およびDO設定値60%空気飽和を使用した。培養pHは、酸としてCO2および塩基として1M炭酸ナトリウムを使用して制御し、DOは、オープンパイプスパージャを介して空気および純酸素ガスをスパージングすることによって制御した。温度を37℃の設定値に維持し、ピッチブレードインペラ(pitched blade impeller)を使用して275rpmで撹拌した。
【0162】
その後、HEK293 DKO細胞をシードトレインとして35Lバイオリアクター(Chemglass)中で60日間、pH設定値7.0、不感帯±0.03およびDO設定値30%空気飽和を用いて培養した。培養pHおよびDOは、2Lバイオリアクターと同じように制御した。温度を設定値37℃に維持し、フラットブレードインペラを使用して50 rpmで撹拌した。
ambr15マイクロバイオリアクターシステム
【0163】
最終作業体積12mL、の温度設定値37℃、およびDO設定値30%空気飽和を用いて、上記のようにambr15マイクロバイオリアクターシステム(Hsu,W.T.et al.(2012)Cytotechnology 64:667-678を参照されたい)でトランスフェクションを行った。反復実験における4つの事例の要因実験では、ピッチブレードインペラを使用して、撹拌速度630rpm対1400rpm、および設定値7.0の周囲でpH不感帯±0.03対±0.3を評価した。培養pHは、酸としてCO2および塩基として0.5M炭酸ナトリウムを使用して制御し、DOは、スパージチューブを介して空気および純酸素ガスをスパージングすることによって制御した。1~2日ごとに、消泡剤(Dow Corning)を各ambr15バイオリアクターに添加した。
ウェーブバッグバイオリアクターシステム
【0164】
ウェーブバッグバイオリアクターシステムは、加熱された揺動プラットフォーム(GE Healthcare、型番20/50EHT)、ガス混合ボックス(Dasgip、型番MX4/4)、ならびに入口および出口ガスフィルタおよびサンプリングポートを備えた22L公称体積ウェーブバッグ(例えば、ThermoまたはMeissner;カスタム品)からなっていた。最終作業体積10L、温度設定値37℃、揺動速度20rpm、揺動角度8°、および直接的なpH制御はせずに、流量27標準リットル/時(slph)で空気中5% CO2のガスオーバーレイで、上記のようにトランスフェクションを実施した。
結果
【0165】
アポトーシスを受けるHEK293 DKO細胞株の感受性、および剪断応力に対するその感受性を試験した。アポトーシスを誘導するために、スタウロスポリンをHEK293およびHEK293 DKO培養物に添加した。スタウロスポリンを添加すると、HEK293 DKO細胞は、HEK293細胞と比較して高い生存率を維持した(
図1A)。このことから、HEK293 DKO細胞はアポトーシスに対してより耐性であると推測された。
【0166】
剪断応力の影響を評価するために、HEK293およびHEK293 DKO培養物を流動制限装置(FCD;Ma et al.(2002)Biotechnol.Bioeng.75:197-203;Mollet et al.(2007)Biotechnol.Bioeng.98:772-788)に通過させた。FCDは、制御された流量で細胞を狭い流路に通過させることによって、2.67×10
7 W/m
3のエネルギー散逸速度(EDR)に相当する激しい流体力および増加した剪断応力を細胞に与えた。FCDを通過した後、HEK293 DKO細胞は、HEK293細胞と比較して、より高い細胞密度、より高い生存率、および溶解の減少を示し(
図1B~1D)、HEK293 DKO細胞がHEK293細胞よりも剪断応力に対して耐性であることを示した。したがって、HEK293 DKO細胞株は、BaxおよびBakの欠失によって所望の表現型特性を実証している。
【0167】
PEI(N)対DNA(P)の比およびPEIおよびDNAの量は、一過性トランスフェクションの生産性に有意に影響を与え得る(Delafosse et al.(2016)J.Biotechnol.227:103-111;Macaraeg et al.(2013)Biotechnol.Prog.29:1050-1058;Choosakoonkriang et al.(2003)Journal of Pharmaceutical Sciences 92:1710-1722;Bertschinger et al.(2008)Mol.Biotechnol.40:136-143)。最も高い力価を生じるHEK293 DKO一過性トランスフェクション条件を決定するために、30mLのチューブスピンの生成培養物を2×10
6細胞/mLで播種し、要因実験を行って、さまざまなN:P比(5、7.5、10、12.5)およびDNA濃度(0.75、1.0、1.25、1.5μg/mL)を試験した。N:P比7.5およびDNA濃度1μg/mLにより、最も高い力価が得られた(
図2A)。
【0168】
この最適化された条件を使用して、HEK293 DKO一過性トランスフェクション性能を30mLチューブスピンのHEK293と比較した。両方の細胞型は、トランスフェクションにおいて同様の増殖および生存率を示し、HEK293 DKOおよびHEK293培養物について、最終日の生存率はそれぞれ68.5%および74.9%であった(
図2B)。これは、これらのトランスフェクション培養物の生存率低下がアポトーシスではなく壊死によって誘導されることを示唆する。生産性に関して、HEK293 DKO培養物は、HEK293培養物よりも40%高い力価を発現した(
図2C)。理論に拘束されることを望むものではないが、生産性の差は、HEK293培養物に対する剪断応力の亜致死効果、またはBaxおよびBakを欠失させる生物学的効果に起因し得ると考えられる。最適化されたN:P比7.5およびDNA濃度1μg/mLを、スケールアップ/ダウンの対照として30mLスケールの全てのさらなるHEK293 DKOトランスフェクションに使用した。
【0169】
要約すると、HEK293 DKO細胞株は、HEK293親細胞株よりもアポトーシスおよび剪断応力に対して耐性であった。この特性により、HEK293 DKO細胞株は、組換えタンパク質のハイスループット一過性生成に有利になり、および生物製剤、ウイルスベクター、およびワクチンの安定な生成などの他のHEK293用途に有利になる可能性がある。
実施例2:HEK293シードトレインのスケールアップ
【0170】
細胞塊を効率的に生成して、大規模(10L)トランスフェクションを支援するために、HEK293 DKOシードトレインを、複数の振盪フラスコではなく35L制御バイオリアクターで培養した。定期的に継代された(すなわち、3~4日ごとに分割)作業体積20~35Lのシードトレインバイオリアクターは、2×106細胞/mLで週に2回播種された40~70Lのトランスフェクションを開始するのに十分な細胞を提供する。これにより、ハイスループットの大規模な一過性生産運転の日常的な実行が可能になる。
【0171】
35LバイオリアクターでHEK293 DKOシードトレインを試験する前に、2つの2Lバイオリアクターで異なるpHおよび溶存酸素(DO)制御条件を最初に評価した。バイオリアクター#1は、pH設定値7.0、不感帯±0.03およびDO設定値30%を使用した。これらはCHO安定細胞株培養の典型的な条件である(Li et al.(2010)mAbs.2:466-477;Li et al.(2012)Biotechnol.Bioeng.109:1173-1186;Yuk et al.(2011)Biotechnology Progress 27:1397-1406)。バイオリアクター#2は、振盪フラスコのpHおよびDO条件により近い傾向の、pH設定値7.0、不感帯±0.4、およびDO設定値60%を使用した。HEK293 DKO細胞を振盪フラスコおよび2Lバイオリアクター内で並行して3~4日ごとに合計25日間継代し、増殖および代謝産物をモニターした。
【0172】
2LバイオリアクターHEK293 DKOシードトレインを、振盪フラスコシードトレインと比較したところ、両方とも同様のピーク細胞密度まで増殖し、同様の生存率を維持した(
図3A)。これは、シードトレイン全体にわたる同様のグルコース消費および乳酸生成と相関する(
図3B)。バイオリアクター#2は、振盪フラスコと同様のpHおよびDOの傾向を示した(
図3Cおよび3D)。シードトレインからの細胞を、30mLのチューブスピントランスフェクションに4週間にわたって毎週使用した。興味深いことに、振盪フラスコのシードトレインから供給された細胞からの力価と比較して、振盪フラスコのpHおよびDO条件を模倣したバイオリアクター#2から供給された細胞からは、やや低い力価が観察され、より厳密な制御(
図3E)を用いたバイオリアクター#1から供給された細胞からは同様の力価が観察された。振盪フラスコシードトレインにおける異なる混合は、細胞の高い生産性を説明し得る。バイオリアクターでは、狭いpH不感帯条件が、シードトレイン細胞および/またはそれらの使用済み培地に影響を与え、トランスフェクションにより適していた可能性がある。これは、(1)一過性トランスフェクション中のDNA/PEI複合体と細胞表面とのより最適な静電荷相互作用をもたらす、(2)DNA/PEI複合体の核への細胞内輸送を促進する、または(3)組換えタンパク質の転写、翻訳、および分泌を増強する、生物学的改変を必然的に伴う。
【0173】
続いて、HEK293 DKOシードトレインを、バイオリアクター#1条件(pH設定値7.0、狭い不感帯±0.03およびDO設定値30%)を使用し、本発明者らの2Lバイオリアクターの体積当たりの電力入力(13W/m3)と一致させて、35Lバイオリアクターにスケールアップした。HEK293 DKOの振盪フラスコおよび35Lバイオリアクターシードトレインを並行して3~4日ごとに合計60日間継代し、増殖および代謝産物について定期的にモニターした。HEK293 DKO細胞は、解凍後最大150日間、同等のトランスフェクション生産性を示したが、バイオリアクターの故障/セットアップ(大きな労働力を要する操作)の頻度と、液体-空気界面でのバイオリアクターのガラス壁上の細胞残屑がバイオリアクター内での連続継代から蓄積しないことを確実にすることとのバランスをとるために、バイオリアクターに60日間の期間を選択した。これは、新しい振盪フラスコを継代ごとに使用した振盪フラスコシードトレイン手順とは対照的である。
【0174】
バイオリアクターHEK293 DKOシードトレインは、振盪フラスコシードトレインと比較してわずかに高いピーク細胞密度および低い生存率を達成した(
図4A)。予想通り、pH制御により、バイオリアクターシードトレインは、振盪フラスコよりも多くのグルコースを消費し、多くの乳酸を生成した(
図4B)。このグルコース消費は、2Lバイオリアクターシードトレインとは異なり(
図3B)、スパージングおよび混合を含むスケール差のためと思われる。バイオリアクターの継代中のpHスパイクを除いて、バイオリアクターシードトレインはそのpH7.0、不感帯±0.03を維持した(
図4C)。バイオリアクターは、DO設定値30%および類似の2Lバイオリアクターと同様の傾向を維持した。9週間にわたって毎週、シードトレインからの細胞を30mLのチューブスピントランスフェクションに使用した。バイオリアクターと振盪フラスコシードトレインとの間の上記の違いにもかかわらず、振盪フラスコおよび35Lバイオリアクターから供給された細胞は、9週間のトランスフェクションにわたって同様の力価(
図4D)および生成物品質(
図4E~4N)を生じた。HEK293 DKO細胞株は、シードトレインのバイオリアクターにおいて堅牢な性能を示した。バイオリアクターシードトレインは、50%以下のシードトレイン培養物を使用して生成培養物を播種することを可能にするピーク細胞密度まで増殖し(2×10
6細胞/mLで)、生成における使用済み培地の体積を最小化する。シードトレインによる50%超の使用済み培地を生産に持ち越すと、一過性タンパク質発現に悪影響を及ぼすことが示された(Tuvesson et al.(2008)Cytotechnol.56:123-136)。
【0175】
これらのデータは、HEK293 DKOシードトレインを35Lバイオリアクターで最大60日間培養して毎週のトランスフェクションを供給できることを実証している。これは、撹拌タンク、制御されたバイオリアクターにおける、パイロットスケール(35L)でのHEK293シードトレインの長期培養を記載した最初の報告である。1.8Lバイオリアクターで10日間HEK293細胞を培養した報告があるが(Liste-Calleja et al.(2015)Appl.Microbiol.Biotechnol.99:9951-9960)、本明細書で実証されたシードトレイン戦略は、最大60日間35Lの培養を支援して、日常的なハイスループット大規模一過性トランスフェクションを供給する。
【0176】
多数の論文が、高密度で播種したトランスフェクションから高力価を達成することを記載している(Rajendra et al.(2015)Biotechnol.Bioeng.112:977-986;Backliwal et al.(2008)Biotechnol.Bioeng.99:721-727;Rajendra et al.(2011)J.Biotechnol.153:22-26;Blaha et al.(2015)Protein Expr.Purif.109:7-13;Sun et al.(2008)Biotechnol.Bioeng.99:108-116;Jain et al.(2017)Protein Expr.Purif.134:38-46)。しかし、これらの報告では、生成培養物を異なる日に複数回播種または希釈し、高い培養密度を得るために遠心分離および培地交換に依存した。これは、シードトレイン培養物を培地で希釈することによって、生成培養物をトランスフェクションの日にのみ播種した、ハイスループット操作をより助長するアプローチである本明細書に記載のトランスフェクションプロセスとは異なる。
実施例3:HEK293のトランスフェクションおよび生産の最適化およびスケールアップ
【0177】
Ambr15バイオリアクターは、CHO安定細胞株プロセス開発に使用されてきた(Wales and Lewis(2010)Bioprocessing J.9:22-25)。しかし、現時点では、ambr15バイオリアクターにおけるHEK293培養物のトランスフェクション生産条件の最適化について記載した報告はない。
【0178】
最適なパラメータを特定し、制御されたバイオリアクターにおけるHEK293 DKO細胞のトランスフェクションの実現可能性を評価するために、上記のようなさまざまな撹拌およびpH条件で、ambr15マイクロバイオリアクターにおいてトランスフェクションを実施した。反復実験における4つの事例の要因実験では、撹拌速度630対1400、および設定値7.0の周囲でpH不感帯±0.03対±0.3において評価した。高撹拌および低撹拌を、2つのスケールアップ/ダウン戦略(Hsu,W.T.et al.(2012)Cytotechnology 64:667-678)に基づいて選択した:(1)630rpmは、2Lバイオリアクターの体積当たりの電力入力(P/V)(13 W/m3)と一致し、(2)1400rpmは、2Lバイオリアクターの最大剪断(インペラ先端速度によって表される)(0.26m/秒)と一致する。pH不感帯は、バイオリアクターおよび振盪フラスコ条件を模倣するように選択した。トランスフェクト培養物を増殖および代謝産物についてモニターした。機器の制限のために、対照の事例にはチューブスピンの代わりに30mL振盪フラスコを使用した。
【0179】
振盪フラスコおよびチューブスピンは、30mLスケールで同等の力価を生じた(データ非掲載)。より高い生細胞密度および生存率は、630rpmでのambrの撹拌および厳密な±0.03 pH不感帯付近のpH制御と相関した(
図5A)。全ての容器にわたる同様のグルコース消費にもかかわらず、ambrバイオリアクター培養物は、振盪フラスコ培養物と比較して最終乳酸レベルが低く(
図5B)、HEK293 DKO細胞の代謝がpH制御によって異なり、乳酸が生産終了近くで消費されたことを示した。±0.3の広いpH不感帯は、より少ない塩基添加による低浸透圧レベルと相関し、振盪フラスコ培養物と同様のpH傾向を示した(
図5C)。予想通り、酸素レベルは最も高く、1400rpmのambrの撹拌を伴う振盪フラスコに最も類似していた(
図5D)。最大収率は、630rpmの撹拌および±0.30の広いpH不感帯で、ambrバイオリアクターにおいて生じた(
図5E)。理論に拘束されることを望むものではないが、これらのより高い力価は、(1)トランスフェクション中の細胞とDNA/PEI複合体とのより最適な相互作用、またはタンパク質発現をより助長する条件、を可能にする630rpmでのより低いレベルの剪断応力、および(2)生産終了近くでpHを維持するための塩基添加の減少をもたらす、より低い浸透圧およびより低い最終乳酸と直接相関する広い±0.3pH不感帯、によるものであり得ると考えられる。
【0180】
次に、広い±0.3pH不感帯がambrバイオリアクターにおける高収率と相関することを知って、HEK293 DKO細胞のトランスフェクションをスケールアップし、10Lウェーブバッグおよび30mLチューブスピンにおいて直接pH制御なしで評価した。空気中5%CO2のガスオーバーレイで、直接pH制御なしでウェーブバッグおよびチューブスピンを操作した。トランスフェクト培養物を増殖および代謝産物についてモニターした。
【0181】
30mLチューブスピン中のトランスフェクト細胞は、10Lウェーブバッグと比較して、より高い細胞密度およびより高い最終生存率に達した(
図6A)。しかし、これらの細胞数は、細胞集塊によって混同されている可能性がある。HEK293 DKO 10Lウェーブバッグトランスフェクションは、30mL チューブスピン培養物と比較して、より有意な集塊形成(データ非掲載)、より高い最終日乳酸レベル(
図6B)、およびより低い酸素レベル(
図6D)を示した。細胞集塊、乳酸および酸素の違いにもかかわらず、両方の容器型からの細胞は、同様の速度でグルコースを消費し(
図6B)、同様の浸透圧およびpHプロファイルを示し(
図6C)、同等の最終力価を生じた(
図6E)。これらのデータは、大規模な10Lウェーブバッグおよび30mLチューブスピンにおいて同様の力価を生じたHEK293 DKOトランスフェクション方法を実証する。撹拌タンクバイオリアクターの代わりに、生成のために記載のウェーブバッグシステムを使用すると、プローブおよびオンライン測定、ならびに製造運転間の洗浄および滅菌工程の必要性がなくなる。これは、治療候補同定のためのバイオ医薬品研究努力用材料を生産するための、ハイスループット大規模トランスフェクション実行に関する大きなリソース節約および運用上の利点を提供する。
【0182】
組み合わせて、本明細書に記載の最適化されたHEK293 DKO 35Lバイオリアクターシードトレインおよび10L一過性トランスフェクションプロセスは、組換えタンパク質のハイスループット生成を可能にし、治療用臨床候補の同定につながる調査研究を支援する。
【0183】
HEK293細胞の一過性トランスフェクションは、治療用候補を同定するための抗体および大分子発見キャンペーンのための、組換えタンパク質を迅速に生成する方法として確立されてきた。抗アポトーシスHEK293細胞株を、アポトーシス促進遺伝子BaxおよびBakを欠失させることによって操作した。HEK293 Bax Bakダブルノックアウト(HEK293 DKO)細胞株はアポトーシスおよび剪断応力に耐性であり、細胞を使用して35Lバイオリアクターシードトレインおよび10L高力価一過性生産プロセスを最適化および実行した。定期的に継代されたバイオリアクターシードトレイン(すなわち、3~4日ごとに分割)は、pH設定値7.0、狭いpH不感帯±0.03、およびDO設定値30%を使用した場合に最も生産性が高かった。35Lのバイオリアクターシードトレインは、最大70Lのトランスフェクションを週に2回、最大60日間開始するのに十分な細胞を提供した。これは、日常的なトランスフェクションのための細胞を供給する、パイロット規模のバイオリアクターにおけるHEK293シードトレインの長期培養の最初の報告であると考えられる。一過性製造プロセスを最適化するために、ambr 15マイクロバイオリアクターを使用してpHおよび撹拌パラメータを試験し、pH設定値7.0、広いpH不感帯±0.4、および630 rpmの撹拌を使用した場合に最も高い力価が生じることが分かった。広いpH不感帯に類似のpHを目標として、直接的なpH制御なしで、一過性の製造プロセスを10Lウェーブバッグにスケールアップした。試験した全ての規模でのHEK293 DKO一過性トランスフェクションは、7日間で最大650mg/Lの高い抗体力価を生じた。HEK293 DKOの35Lバイオリアクターシードトレインおよび10L高力価製造プロセスの開発は、研究および前臨床研究のための組換えタンパク質の効率的でハイスループットな生成を可能にする。