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特許7560481樹脂組成物及び当該組成物を用いた成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び当該組成物を用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240925BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240925BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K3/22
B29C48/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021563862
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2020044485
(87)【国際公開番号】W WO2021117531
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019224043
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】安本 憲朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 敬司
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156824(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/114983(WO,A1)
【文献】特開2007-084606(JP,A)
【文献】特開2016-195165(JP,A)
【文献】特開2017-045638(JP,A)
【文献】国際公開第2019/070040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B29C48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)と、無機系受酸剤(B)と、を含む樹脂組成物であり、前記樹脂組成物中の前記無機系受酸剤(B)の含有量が、前記テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)100質量部に対して0.01~0.075質量部である樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機系受酸剤(B)は、金属酸化物;金属水酸化物;複数種類の金属酸化物を含む固溶体;ステアリン酸金属塩;下記式(I)で表されるハイドロタルサイト類化合物;及び、陰イオン交換作用を発現するハイドロタルサイト様の層状化合物;から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。
式(I):M2+ 1-x3+ x(OH)2n- x/n・mH2O(I)
〔ただし、M2+、M3+はそれぞれ2価、3価の金属イオンを表し、An-はn価の陰イオンを表し、0<x≦0.33であり、m≧0である。〕
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物を成形した成形体。
【請求項4】
シート状又はフィルム状である請求項3に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び当該組成物を用いた成形体に関する。さらに詳細には、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体樹脂組成物及びそれを用いたフィルム状及びシート状の成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(以下、「THV樹脂」と称することがある。)は、耐薬品性、耐汚染性、撥水性、絶縁性、低摩擦性に優れることから、薬液、オイル、燃料等輸送ホース、ガスケット等に使用されている。また、THV樹脂は、溶融成形でフィルム化することが可能であることから、太陽電池用部材フィルム、離型フィルム、ガラス中間膜用フィルム等の各種用途に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、THV樹脂を主とする離型フィルムが開示されている。また、当該文献においては、上述のフィルムが半導体の製造工程内で離型フィルムとして用いられることが記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、燃料低透過性が求められる層にTHV樹脂が使用された燃料ホースが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-71382号
【文献】特開2016-11715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、THV樹脂を溶融成形する場合、高温条件下でTHV樹脂が分解するため、酸性ガスが発生しやすく、成形設備に用いられている部材に、劣化や錆の発生をもたらすという懸念がある。すなわち、酸性ガスの発生に対しては特別な対策が施されることが望ましいが、このような対策が施されていない一般的な熱可塑性樹脂を成形するような汎用成形設備でのTHV樹脂の溶融成形は好ましくない。また、上述のような対策として耐腐食性を高めた成形設備も存在するが、コスト等を考慮するとこれらの対策は必ずしも容易に導入できるものではない。
【0007】
一方、溶融成形時の樹脂の分解を抑制するために、酸化防止剤等の有機物から成る熱安定剤を添加することがある。しかし、THV樹脂の溶融成形温度は高温であるため、熱安定剤が気化したり、THV樹脂と熱安定剤との相溶性が乏しいために白濁し、成形体の外観が損なわれたりすることがある。THV樹脂は耐薬品性や耐汚染性に優れることから、物品の保護フィルムや建築材料等、良外観が要求される用途への展開が期待されている。このため、添加物の影響によって成形体の外観が劣化することは好ましくない。
【0008】
以上のように、汎用的な成形設備で加工することができ、かつ成形品の外観が損なわれないTHV樹脂組成物の開発が求められている。
【0009】
上述の課題を解決すべく、本発明は、成形体の外観を損なうことなく、汎用的な成形設備で溶融成形することが可能な樹脂組成物及び当該組成物を用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、無機系受酸剤が、THV樹脂中に分散することで樹脂組成物を成形した際における白濁化や黄変を抑制し、成形体の透明性を維持できると共に、THV樹脂の熱分解によって生じる酸性ガスを捕捉し、酸性ガスの拡散を防ぐことを見出し本発明に至った。
<1> テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)と、無機系受酸剤(B)と、を含む樹脂組成物であり、前記樹脂組成物中の前記無機系受酸剤(B)の含有量が、前記テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)100質量部に対して0.01~0.1質量部である樹脂組成物。
<2> 前記無機系受酸剤(B)は、金属酸化物;金属水酸化物;複数種類の金属酸化物を含む固溶体;ステアリン酸金属塩;下記式(I)で表されるハイドロタルサイト類化合物;及び、陰イオン交換作用を発現するハイドロタルサイト様の層状化合物;から選ばれる少なくとも1種である、前記<1>に記載の樹脂組成物。
式(I):M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(I)
〔ただし、M2+、M3+はそれぞれ2価、3価の金属イオンを表し、An-はn価の陰イオンを表し、0<x≦0.33であり、m≧0である。〕
<3> 前記<1>又は<2>に記載の樹脂組成物を成形した成形体。
<4> シート状又はフィルム状である前記<3>に記載の成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形体の外観を損なうことなく、汎用的な成形設備で溶融成形することが可能な樹脂組成物及び当該組成物を用いた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態を用いて詳細に説明するが、本発明は以下に示す各実施形態に限定されるものではない。
【0013】
《THV樹脂組成物》
本実施形態の樹脂組成物(以下、「THV樹脂組成物」と称することがある。)は、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)(以下、「THV樹脂(A)」と称することがある)と、無機系受酸剤(B)と、を含む樹脂組成物であり、前記樹脂組成物中の前記無機系受酸剤(B)の含有量が、前記テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)100質量部に対して0.01~0.1質量部である。
【0014】
本実施形態の樹脂組成物は、THV樹脂(A)に対して特定量の無機系受酸剤(B)を用いることで、溶融成形時にTHV樹脂(A)の分解によって生じる酸性ガスを捕捉し、その拡散を防ぐことができる。また、無機系受酸剤は、有機系酸化防止剤等と異なり、THV樹脂の加工温度(約280℃以上)でも揮発しにくい。このため、溶融成形時における酸性ガスの発生が少なく、一般的な熱可塑性樹脂を成形する汎用的な成形設備を用いた場合であっても、設備内の部材などに影響が少ない。
また、有機系酸化防止剤はTHV樹脂と混合した際に馴染みにくく白濁化の原因となる場合がある。一方、無機系受酸剤は、THV樹脂中に分散しやすく、屈折率がTHV等の樹脂と比較的近い。このため、樹脂組成物を成形した際における白濁化や黄変を抑制することができ、THV樹脂を成形体とした際にその外観を損なうことなく、THV樹脂成形体の透明性を維持することができる。
【0015】
<テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)>
本実施形態におけるテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(A)(THV樹脂(A))は、テトラフルオロエチレン(別名「四フッ化エチレン」、以下、「TFE」と称することがある。)と、ヘキサフルオロプロピレン(別名「六フッ化プロピレン」;以下、「HFP」と称することがある。)と、フッ化ビニリデン(以下、「VDF」と称することがある。)との共重合体である。
THV樹脂(A)は、TFEモノマー、HFPモノマー及びVDFモノマーの三種からなる共重合体に限定されない。すなわち、THV樹脂(A)は、TFEモノマー、HFPモノマー及び、VDFモノマーの他に、他のモノマーを含むものであってもよい。他のモノマーとしては、例えば、(パーフルオロヘキシル)エチレン、(パーフルオロブチル)エチレン、(パーフルオロオクチル)エチレン、[4-(ヘプタフルオロイソプロピル)パーフルオロブチル]エチレン等が挙げられ、THV樹脂(A)にはこれら他のモノマーを第4モノマーとして使用した共重合体等も含まれる。
【0016】
THV樹脂(A)中のTFEモノマーとHFPモノマーとVDFモノマーの共重合におけるモノマー比(各モノマーに由来する構成単位のモル比)は、特に限定されないが、好ましくは、全モノマーの割合を100としたときのTFEモノマーの割合が90以下、HFPモノマーの割合が1以上、VDFの割合が9以上の範囲内であり;さらに好ましくは、TFEの割合が60~90、HFPの割合が1~10、VDFの割合が9~30である。TFEモノマーの割合が90以下であると、相対的にHFPモノマー、VDFモノマーの割合が増大することで軟化しやすくなり、溶融成形性が向上する。また、TFEモノマーの割合が30以上であると、分子鎖の一部にポリテトラフルオロエチレン様の構造が形成され、フッ素樹脂に特徴的な耐薬品性、耐候性、防汚性等がさらに向上する。
【0017】
THV樹脂(A)の融点は、特に限定はないが、耐熱性の観点から、100℃~250℃が好ましく、150℃~250℃がさらに好ましい。
THV樹脂(A)のガラス転移温度としては、フィルム・シート状に成形した際の柔軟性の観点から、-10℃~30℃が好ましく、0℃~20℃がさらに好ましい。
【0018】
THV樹脂(A)は、任意のTFE/HFP/VDF比のTHV樹脂を単独で使用してもよいし、2種類以上の異なるTFE/HFP/VDF比のTHV樹脂と混合して使用してもよい。
さらに、THV樹脂組成物の透明性を阻害しない範囲で、必要に応じTHV樹脂(A)以外の樹脂を添加してもよい。また、TFE/HFP/VDFのように3種のモノマーの共重合体であるTHV樹脂(A)と、TFE/HFP/VDF/それ以外の第4モノマーの共重合体であるTHV樹脂(A)とを併用してもよい。THV樹脂(A)以外の樹脂としては、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
他の樹脂を用いる場合、THV樹脂組成物中の他の樹脂の含有量は、THV樹脂(A)100質量部に対して0.2質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がさらに好ましい。
【0019】
<無機系受酸剤(B)>
本実施形態のTHV樹脂組成物は、THV樹脂(A)に対して特定量の無機系受酸剤を含有する。
ここで、「無機系受酸剤」とは無機系化合物を含む受酸剤を意味する。すなわち、無機系受酸剤(B)は、酸性ガス等の酸を取り込む、または酸を中和することによって、酸を捕捉できる無機化合物の総称である。
【0020】
無機系受酸剤(B)は、特に限定はなく、受酸作用(酸捕捉能)を備えた無機系化合物であれば公知のものから適宜選定することができる。ただし、無機系受酸剤(B)における酸捕捉のメカニズムについては特に限定されるものではない。これら無機系受酸剤の中でも、金属酸化物、金属水酸化物、複数種類の金属酸化物を含む固溶体、ステアリン酸金属塩、後述する式(I)で示されるハイドロタルサイト類化合物、陰イオン交換作用を発現するハイドロタルサイト様の層状化合物等が好ましく、金属酸化物、複数種類の金属酸化物を含む固溶体、後述する式(I)で示されるハイドロタルサイト類化合物、陰イオン交換作用を発現するハイドロタルサイト様の層状化合物が特に好ましい。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物は、これら無機系受酸剤(B)をTHV樹脂に対し特定量添加することによって、溶融成形時にTHV樹脂の分解で発生する酸性ガスによる成形設備の腐食や劣化の抑制と、成形体の外観維持との両立を図ることができる。なお、無機系受酸剤(B)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
無機系受酸剤(B)の例としては、特に限定はないが、以下に例示される無機系化合物が挙げられる。なお、無機系受酸剤(B)には、下記無機系化合物を主成分として含み、不純物などを含むものも含まれる。
金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などが挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。
ステアリン酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。
複数種類の金属酸化物からなる固溶体としては、例えば、酸化マグネシウム-酸化アルミニウム系固溶体などが挙げられる。
【0023】
下記式(I)で示されるハイドロタルサイト類化合物について、2価の金属イオンとしてはマグネシウムイオン(Mg2+)、亜鉛イオン(Zn2+)が挙げられ、3価の金属イオンとしては、アルミニウムイオン(Al3+)、鉄イオン(Fe3+)が挙げられる。また、n価の陰イオンとしては、例えば、1価又は2価の陰イオンが挙げられ、具体的には、炭酸イオン(CO 2-)、硝酸イオン(NO )などが挙げられる。このようなハイドロタルサイト類化合物としては、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び炭酸イオンの組合せが好ましく、例えば、酸化マグネシウム-酸化アルミニウムを主成分とするハイドロタルサイトが挙げられる。
【0024】
式(I):M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mH
〔ただし、M2+、M3+はそれぞれ2価、3価の金属イオンを表し、An-はn価の陰イオンを表し、0<x≦0.33であり、m≧0である。〕
【0025】
陰イオン交換作用を発現するハイドロタルサイト様の層状化合物としては、例えば、前記酸化マグネシウム-酸化アルミニウムを主成分とするハイドロタルサイトを焼成することで得られる層状化合物などが挙げられる。
【0026】
また、無機系受酸剤(B)は、その屈折率が、好ましくは1.9以下であり、さらに好ましくは1.6以下である。屈折率が1.6以下であると、THV樹脂との屈折率差が大きくならず、成形体が白濁することを効果的に回避できる。
【0027】
無機系受酸剤(B)の粒径は特に限定されるものではないが、THV樹脂成形体の透明性の維持、受酸剤の分散性及び酸捕捉性能の観点から、50%平均粒子径が0.1μm~1μmであることが好ましく、0.3μm~0.6μmがさらに好ましい。
【0028】
無機系受酸剤(B)のTHV樹脂組成物への添加方法は、特に限定されるものではなく、THV樹脂原料の造粒工程で予め添加してもよいし、THV樹脂組成物のシート(成形体)を製造する工程で、未添加のTHV樹脂原料と無機系受酸剤(B)とを溶融混合しながら添加してもよい。
【0029】
無機系受酸剤(B)のTHV樹脂組成物への含有量は、THV樹脂(A)100質量部に対して0.01~0.1質量部である。無機系受酸剤(B)の含有量が、0.1質量部以下であると、受酸剤によるTHV樹脂組成物の白濁及び、受酸剤の熱劣化による着色を防ぐことができる。また、無機系受酸剤(B)の含有量が、0.01質量%以上であると、充分な酸性ガス捕捉効果が得られる。
【0030】
(その他)
本実施形態のTHV樹脂組成物は、透明性、色調、光沢性、耐熱性、耐候性等や本発明の効果を、実用上損なわない範囲で、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、流滴剤、親水剤及び撥液剤等を添加することができる。また、これら添加剤等は、THV樹脂組成物を混練する際に添加してもよいし、THV樹脂組成物を成形してフィルム又はシート(成形体)を製造した後、表面に塗布してもよい。
また、本実施形態のTHV樹脂組成物は、耐熱性、耐候性等や本発明の効果を、実用上損なわない範囲で、必要に応じ顔料を添加することができる。
【0031】
<成形体の製造方法>
本実施形態のTHV樹脂組成物は、様々な形状に成形することができ、例えば、フィルム状又はシート状とすることができる。ここでは、本実施形態のTHV樹脂組成物を用いたフィルムの製造方法について述べる。
【0032】
フィルムの製造方法としては、公知の方法を用いることができるが、例えば、押出機とフィードブロックダイ又はマルチマニホールドダイ等の各種Tダイとを用いた溶融押出し法等によって樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。押出機としては、単軸スクリュー型、二軸スクリュー型、タンデム型等が一般的なものとして使用できるが、押出機系内における樹脂の滞留を防止する点で、単軸スクリュー型押出機が好ましい。
【0033】
前記単軸スクリュー型押出機に使用するスクリュー形状としては、過度なせん断発熱を伴わない構成であれば、特に限定されないが、過剰なせん断をかけずに溶融押出しする上で、フルフライトスクリューがさらに好ましい。
【0034】
前記スクリューの圧縮比の範囲は、好ましくは1.8~3.0、さらに好ましくは2.1~2.7である。当該圧縮比が1.8以上であると、THV樹脂が十分に可塑化されず、一部の樹脂が未溶融物のままスクリーンメッシュに捕捉され、目が詰まることで樹脂圧が上がることを抑制でき、その他、シート中に未溶融物が欠点として混入することを抑制することができる。さらに、当該圧縮比が3.0以下であると、過剰なせん断発熱によって、酸性ガス発生量が多くなり過ぎてしまうことも抑制することができる。
【0035】
前記押出機のスクリュー長(L)とスクリュー(バレル)径(D)との比(L/D)は、THV樹脂の可塑化に必要十分なL/Dを備えた押出機であれば、特に限定されないが、好ましくは20~40、さらに好ましくは25~35である。L/Dが20以上であると、樹脂がスクリュー領域で十分可塑化させることができ、未溶融物が発生し、欠点としてシート中に混入されるのを抑制することができる。また、L/Dが40以下であると、過剰なせん断が与えられにくく、酸性ガス発生量の増加を抑制することができる。
【0036】
押出機のスクリュー先端と前記Tダイとの間には、ブレーカープレートを備えることができる。ブレーカープレートの開口率は好ましくは40~60%、さらに好ましくは42~58%である。ブレーカープレートの開口率を40%以上とすることで、樹脂への背圧を抑え樹脂の押出機内の滞留を抑えることができる。また、開口率を60%以下とすることで、フィルムの欠点数を長時間に渡り、安定的に低く保つことが可能となる。
なお、開口率とは押出機の樹脂流通部に露出する部分を基準とし、樹脂貫通孔も含めた全体の面積に対して、樹脂貫通孔が形成された部分の面積を意味する。
【0037】
ブレーカープレートの樹脂貫通口径は、好ましくは3.7~7.0mmである。樹脂貫通口径を3.7mm以上とすることで、樹脂への背圧を抑え樹脂の押出機内の滞留を抑えることができる。また7.0mm以下とすることで、シートの欠点数を長時間に渡り、安定的に低く保つことが可能となる。
【0038】
ブレーカープレートに配置されたスクリーンメッシュは、目開きが異なる2枚以上のスクリーンメッシュを組み合わせることが好ましい。スクリーンメッシュは、目開きが同じスクリーンメッシュを併用することもできる。一般には樹脂流通部の上流側(スクリュー近傍側)から下流側(ブレーカープレート開口側)に向かい、目開きの大きいスクリーンメッシュ、目開きの小さいスクリーンメッシュの順に配置することが好ましい。さらに、目開きが最小のメッシュの下流には、樹脂圧力によるメッシュの破れを防止する目的で、当該メッシュより粗いメッシュを配置することが好ましい。具体的には、目開きが最小のスクリーンメッシュの下流側に、それより目開きが大きい粗いスクリーンメッシュを導入することができる。前記スクリーンメッシュの配置位置としては、スクリュー先端部から10~100mm下流側に設置されることが好ましい。本実施形態のTHV樹脂組成物のシート製造では、スクリーンメッシュの最小の目開きは、好ましくは0.03~0.2mm、さらに好ましくは0.03~0.15mmである。スクリーンメッシュの最小の目開きを0.03mm以上とすることで、樹脂の剪断発熱による劣化を抑制することができる。また、スクリーンメッシュの最小の目開きを0.2mm以下とすることで、樹脂中に混入するコンタミネーション、原料の劣化物等を低減することができる。
目開きの大きいスクリーンメッシュは、粗大な欠点を取り除く役割を担い、目開きは、好ましくは0.15~0.6mmである。
【0039】
フィルム製造に用いるTダイの流路は、樹脂が滞留し難い仕様であれば、その形状において特に限定されないが、好適に使用することが可能な例として、コートハンガーダイが挙げられる。樹脂の吐出方向としては、水平方向に横出しする形態と水平方向に直行する方向に下出しする形態とが主なものとして挙げられるが、どちらの形態も好適に用いることができる。
【0040】
フィルム製造に係る押出機の温度設定は、THV樹脂の種類と流動性とによって様々であるが、押出機下流部において、好ましくは200~300℃、さらに好ましくは260~290℃である。当該温度が200℃以上であると、十分に樹脂を可塑化させることでき、300℃以下であると過剰な加熱によって酸性ガスの発生量が高くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0041】
こうしてTダイから押し出されたフィルムは、直ぐにダイスに近接した冷却ロールに接触し、冷却されながら引き取られる。THV樹脂は冷却時に一部結晶化することから、透明性を求める場合は、溶融状態から結晶化が進行する前に冷却ロールで急冷させることが好ましい。Tダイの出口とフィルムが冷却ロールに接触する点とを最短距離で結んだ距離は、200mm以下が好ましく、さらに好ましくは150mm以下、特に好ましくは100mm以下である。当該距離が200mm以下であると、必要以上にTHV樹脂の結晶化が進行し、シートの透明性が低下することを抑制することができる。一方で、意匠性等を求める場合には、デザイン、幾何学模様等が彫刻されたロールやエンボス調のロールを使用することができる。
【0042】
冷却ロールによる冷却方式としては、ハードクロムメッキ、ダイヤモンドライクカーボン等の硬質表面のロール2本を、任意のフィルム厚みを得るのに適した隙間を設け、その間にフィルム状の溶融樹脂を接触させながら引き取ることで冷却する方法、前記硬質表面のロールとシリコン等のゴムロールとを圧着させ、その間にフィルム状の溶融樹脂を接触させながら引き取ることで冷却する方法のいずれも用いることができる。
【0043】
上述のようにして引き取られたフィルムは、フィルム表面に傷を与えない範囲で、適宜ガイドロールを通過し、任意の幅にスリットした後、十分冷却された状態で紙管等に巻き取られる。ダイスから押し出されてから紙管等に巻き取られるまでの工程内で、フィルム表面にコロナ処理、プラズマ処理、シランカップリング剤等の化学薬品による表面化学処理を施してもよいし、別工程で前記表面処理を実施してもよい。
【0044】
なお、本明細書において、シートは厚め、フィルムは薄めのものを指すにとどまり、「シート」と「フィルム」を明確に区別しない。
【0045】
《THV樹脂成形体》
THV樹脂成形体は優れた耐薬品性、耐候性、意匠性が求められる用途に好適に使用することができる。THV樹脂成形体は、フィルム又はシート単独若しくは、他の基材との積層物として用いることも可能である。
【0046】
なお、本明細書で、外観が損なわれた状態とは、受酸剤の添加過多による分散不良と白濁、及び受酸剤の熱劣化による茶褐色の着色を指す。前述の白濁では、JIS K7105に準拠して測定されるフィルムのヘイズ値が上昇するが、この数値は用途に応じて、製造方法等、例えばエンボス調のロールでフィルム表面に凹凸を付与する等して調整することがある。また、意図してヘイズ値を調整した場合は外観不良として扱わない。
【0047】
さらに、看板保護フィルム、加飾フィルムをはじめとした透明性、意匠性が求められる用途にあっては、ヘイズメーターによってJIS K7105に準拠して測定されるフィルムのヘイズ値は、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。ヘイズ値が5%以下の場合、当該THV樹脂組成物フィルムの下層に配置される図柄や意匠等の視認性が十分に得られる。
【0048】
また、透明性、意匠性が求められる用途において、THV樹脂組成物フィルムは、色差計によって測定されるL表色系の内のbが、好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.0以下である。bが2.0を超えると、巨視的にフィルム自身が黄色であると認められることがある。
【0049】
例えば、シート状のTHV樹脂成形体を押出成形等の高温下で製造するときの酸性ガスの発生低減効果は、任意の場所における酸性ガス濃度を測定する装置を用いて確認することができる。当該測定装置は、十分な定量精度を有するものであれば、特に限定されない。使用可能な測定装置の一例としては、ガラス管内に酸性ガスの吸収剤が充填され、ガスの定量回収及びそのガス濃度を得られる酸性ガス濃度検知器が挙げられる。フッ素樹脂の場合、フッ化水素ガス用のガス検知管を使用することが好ましい。
【0050】
<用途>
本実施形態のTHV樹脂組成物を成形して得られた成形体(例えば、フィルム又はシート)は、例えば、下記用途に使用することができる。
- 建築物の壁材、屋根材、テント材、膜材
- 看板、標識、道路用防音壁の保護フィルム
- 自動車、鉄道車両、航空機、船舶の内外装部品に使用される加飾フィルム、撥水フィルム、撥油フィルム、着雪防止フィルム、着氷防止フィルム
【実施例
【0051】
以下に実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0052】
<原料>
本実施例及び比較例に使用した原料を以下に示す。
(THV樹脂)
・3M社製 “ダイニオン THV樹脂815GZ”(融点225℃)
【0053】
(無機系受酸剤)
・酸化マグネシウム:協和化学工業社製 “キョーワマグ MF150”
・酸化マグネシウム-酸化アルミニウムを主成分とする固溶体:協和化学工業社製“KW-2200”
・ハイドロタルサイト類化合物:ADEKA社製 “アデカスタブ AP-582”
・ハイドロタルサイト類化合物:協和化学工業社製 “DHT-4C”(陰イオン交換作用を発現するハイドロタルサイト様の層状化合物に該当)
【0054】
(酸化防止剤)
・フェノール系酸化防止剤:BASF社製 “Irganox1010”
・フェノール系酸化防止剤:BASF社製 “Irganox1076”
・フェノール系酸化防止剤:住友化学社製 “スミライザーGA-80”
【0055】
<実施例1>
THV樹脂原料(“ダイニオン THV樹脂815GZ”)100質量部に対し、酸化マグネシウム(“キョーワマグ MF150”)0.01質量部を予備混合した後、東洋精機製作所製「ラボプラストミルマイクロ」を用い、280℃で溶融混合し、金属製キャストロールで引取り、厚み0.05mmのグロス調フィルムを得た。
フィルム作製時の酸性ガス発生量及び得られたフィルムの光学性能について後述する基準に従って測定及び評価した。結果を下記表に示す。
【0056】
<実施例2~20、比較例1~16>
各原料及び添加量を下記表2~6に示すものに変更した以外は実施例1の方法に従い、シートを作製した。また、フィルム作製時の酸性ガス発生量及び得られたフィルムの光学性能についても、下記表2~6に示した。なお、表2~6において受酸剤又は酸化防止剤の添加量は、THV樹脂原料100質量部に対する受酸剤又は酸化防止剤の添加量を示す。
【0057】
<フィルム評価>
(酸性ガス発生量の測定)
ガス採取器(北川式ガス採取器AP-20;光明理化学工業株式会社製)、フッ化水素用ガス検知管(北川式ガス検知管No.156Sフッ化水素;光明理化学工業株式会社製)を用い、i)上述の「ラボプラストミルマイクロ」に設けられたベント口(脱気用の孔)の直上10mmの位置(下記表中「ベント口直近」)、ii)同装置のTダイのリップより1m離れた位置(下記表中「作業環境」)における酸性ガス発生量を測定した。
【0058】
(ヘイズ)
樹脂シートの透明性は、JIS K7105に従い、日本電色工業株式会社製のヘイズ Meter“NDH7000”を使用し、測定したヘイズ値をもとに、下記表1に記載の基準に従い判定した。なお、測定に際しては、樹脂シートから任意の5点から切り出した試料を用い、その算術平均の値を採用した。
【0059】
(色調:b
日本電色工業社製ZE6000を使用し、L表色系の内のbを透過法にて測定した。計測したbについて、樹脂シートの色調は、下記表1に記載の基準で性能を判定した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
実施例1~20の結果から、表中に記載の添加量の無機系受酸剤をTHV樹脂に添加することによって、酸性ガス発生量抑制能に優れ、外観も損なわれないことが認められた。
【0067】
比較例1、5、8、11の結果から、無機系受酸剤の添加量が少ない場合、フィルム外観が損なわれないものの、酸性ガス発生量の抑制が不十分であることが認められた。
また、比較例2~3、6~7、9~10、12~13において、無機系受酸剤の添加量が過多である場合、フィルム外観が損なわれることがわかった。さらに、比較例14~16では、有機化合物を含む酸化防止剤を添加した場合は、該添加量では酸性ガス発生の抑制が不十分な上、フィルムが濁り、光学特性が損なわれることが認められた。
【0068】
上述のように、本発明のTHV樹脂組成物は、無機系受酸剤の添加によって外観を損なうことなく、THV樹脂の溶融成形時に発生する酸性ガスを抑制することができた。すなわち、耐腐食性設備ではない、汎用の成形設備にて、THV樹脂を溶融成形することが可能である。
【0069】
2019年12月11日に出願された日本国特許出願2019-224043号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。