(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】シリルヒドリドとシロキサンとの熱開始酸触媒反応
(51)【国際特許分類】
C08L 83/05 20060101AFI20240925BHJP
C08K 5/18 20060101ALI20240925BHJP
C08K 5/55 20060101ALI20240925BHJP
C08G 77/08 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L83/05
C08K5/18
C08K5/55
C08G77/08
(21)【出願番号】P 2021571820
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 US2020035636
(87)【国際公開番号】W WO2020247329
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-19
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ、イェンフー
(72)【発明者】
【氏名】スウィアー、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ニウ、チェンピン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ナンクオ
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-537753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0236440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 5/18-5/55
C08G 77/00-77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルヒドリド、シロキサン、アリールボランを含むルイス酸触媒、及び
アニリン、p-アニシジン、4-メチルアニリン、4-フルオロアニリン、2-クロロ-4-フルオロアニリン、ジフェニルアミン、ジフェニルメチルアミン、トリフェニルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、1-アミノアントラセン、2-アミノアントラセン、9-アミノアントラセン及びβ-アミノスチレンからなる群から選択されるアミンの混合物を含む組成物であって、それぞれシリルヒドリド、シロキサン、アミン、及びルイス酸触媒の組み合わせた重量に基づいて、前記組成物中の前記シロキサンが、70重量%以上の濃度を有し、前記組成物中の前記シリルヒドリドが、5重量%以上の濃度を有する、組成物。
【請求項2】
前記ルイス酸触媒が、式
【化1】
[式中、Rは、各出現において独立して、H、F、Cl、CF
3から選択される]のアリールボランである、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ルイス酸触媒が、フッ素化アリールボランである、請求項
2に記載の組成物。
【請求項4】
前記シリルヒドリド及び前記シロキサンが、同じ分子である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、前記ルイス酸触媒のためのUV感光性遮断剤を含まない、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
(a)請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物を提供するステップと、
(b)前記組成物を、前記アミンから前記ルイス酸触媒を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む、プロセス。
【請求項7】
ステップ(a)が、アミン、ルイス酸触媒、シリルヒドリド、及びシロキサンを一緒に混合することを含み、ただし、前記ルイス酸触媒及びアミンが、シリルヒドリド及びシロキサンの両方と組み合わせる前に、前記アミンがルイス酸の触媒活性と錯体化し、遮断することができるように組み合わせる、請求項
6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記プロセスが、ステップ(a)の後、及びステップ(b)の前又はステップ(b)中に、前記組成物を基材に適用するステップ、又は前記組成物を成形型に配置するステップを更に含む、請求項
6又は7に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の分野
本発明は、シリルヒドリド、シロキサン、ルイス酸触媒、及びルイス酸触媒のためのアミン遮断剤を含む組成物に関する。組成物を加熱することにより、アミン遮断剤からルイス酸触媒が放出され、それがシリルヒドリドとシロキサンとの反応を誘発することができる。
【0002】
序論
強ルイス酸は、多数の反応のための既知の触媒である。例えば、シリルヒドリドとシリルエーテルとのPiers-Rubinsztajn(PR)反応は、強ルイス酸、特にトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(「BCF」)によって触媒される周知の反応である。同様のルイス酸触媒反応としては、シリルヒドリドとポリシロキサンとの転位反応、及びシリルヒドリドとシラノールとの転位反応が挙げられる。例えば、Chem.Eur.J.2018,24,8458-8469を参照されたい。
【0003】
PR反応などのルイス酸触媒反応は、摂氏23度(℃)でさえも急速反応する傾向がある。これらの反応系は反応性が高いため、それらの用途は制限される。この反応は、コーティング及び接着剤などの用途において望ましい場合があるが、反応系は、適用前に反応を排除するために、多元系内で保管されなければならない。それでも、成分が組み合わされるとすぐに反応が非常に急速に起こり得るため、反応系を適用する時間がほとんどない。ルイス酸触媒反応を制御する方法を特定し、理想的には、23℃で安定であるが、所望に応じて反応するように誘発され得る形態で、反応物及びルイス酸触媒を含む一元系としてそれらを提供することが望ましい。
【0004】
紫外線(UV)感光性遮断剤は、UV光に曝露するとルイス酸を放出する遮断されたルイス酸を形成するために、ルイス酸と組み合わされる。UV光に曝露すると、遮断剤はルイス酸から解離し、ルイス酸を遊離して反応を触媒する。これらの遮断されたルイス酸を含む系による課題は、安定性を維持するために暗所に保持する必要があることである。更に、反応を開始するためにUV光に曝露する必要があり、厚い組成物では、組成物全体を通して急速に硬化を開始するためにUV光透過を得ることが困難であり得る。
【0005】
特に、アミンは、PR反応型の系ではルイス酸との組み合わせにおいて注目されている。しかしながら、アミンは、反応を完全に抑制することが報告されている。例えば、Chem.Comm.2010,46,4988-4990 at 4988を参照されたい。ほとんどのアミンは、ルイス酸触媒と本質的に不可逆的に錯体化(complex)するが、トリアリールアミンは例外であることが分かり、PR反応を触媒する際にルイス酸を損なうことがないと後に特定された。Chem.Eur.J.2018,24,8458-8469 at 8461及び8463を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UV光に曝露しても23℃で安定であるが、所望に応じて、好ましくは100℃未満の温度で反応するように誘発され得る、ルイス酸触媒反応のための一元系を調製する方法を特定することが望ましい。
【0007】
本発明は、UV光に曝露しても23℃で安定であるが、所望に応じて反応するように誘発され得る、ルイス酸触媒反応のための一元系を調製する方法を特定する問題に対する解決策を提供する。特に、本発明は、シリルヒドリドとシロキサンとの反応におけるこのような問題に対する解決策を提供する。更に、本発明は、望ましい90℃硬化速度、すなわち、30分以下、好ましくは15分以下、より好ましくは10分以下、更により好ましくは5分以下、その上更により好ましくは1分以下、かつ最も好ましくは30秒以下の90℃硬化速度、を有するように加熱すると反応するように誘発されるこのような溶液を提供する。
【0008】
本発明は、23℃でルイス酸触媒と錯体化し、ルイス酸触媒の活性を遮断するが、加熱するとルイス酸触媒を放出する特定のアミンを驚くことにかつ予想外に発見した結果である。結果として、特定のアミンは、23℃でルイス酸触媒を遮断するが、ルイス酸触媒を放出し、90℃以上、又は100℃以上などの高温で反応を触媒するルイス酸触媒のための熱により誘発され得る遮断剤である。これは、当該技術分野における以前の理解を考慮すると驚くべきことである。上述したように、現在の理解は、ルイス酸触媒と不可逆的に錯体化するか、又はルイス酸触媒反応においてルイス酸触媒を損なうことができないかのいずれかである。Chem.Comm.2010,46,4988-4990 at 4988並びにChem.Eur.J.2018,24,8458-8469 at 8461及び8463を参照されたい。
【0009】
ルイス酸触媒のための熱により誘発される遮断剤として働くアミンの本発見により、アミン遮断剤に加えて、ルイス酸触媒、シリルヒドリド、及びシロキサンを含む一成分反応系として機能する本発明の組成物を可能する。
【0010】
第1の態様では、本発明は、シリルヒドリド、シロキサン、ルイス酸触媒、及び以下の式:R1R2R3N[式中、窒素が、N=C-N結合の員ではなく、R1、R2、及びR3の各々が、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、及び共役部分からなる群から選択される]を有するアミンの混合物を含む組成物であって、R1、R2、及びR3の少なくとも1つは、共役炭素によって窒素に接続している共役部分である。
【0011】
第2の態様では、本発明は、(a)第1の態様の組成物を提供するステップと、(b)組成物を、アミンからルイス酸触媒を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含むプロセスである。
【0012】
本発明の組成物は、例えば、コーティング及び接着剤のための一成分系として適している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
試験方法は、日付が試験方法番号と共に示されていない場合、本文書の優先日現在での直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含む。本明細書では、以下の試験方法の略語及び識別子が適用される。ASTMは、ASTMインターナショナル(ASTM International)を指し、ENは欧州規格(European Norm)を指し、DINは、ドイツ規格協会(Deutsches Institut fuer Normung)を指し、ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)を指す。
【0014】
「複数の」とは、2つ以上を意味する。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、端点を含む。商品名で識別される製品は、本明細書に別途記載のない限り、本文書の優先日において、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0015】
本発明の組成物は、シラノール及び/又はシリルエーテル、シリルヒドリド、ルイス酸、並びにアミンの混合物を含む。組成物は、23℃で安定であるが、100℃未満の温度でも硬化するように加熱誘発され得る反応性混合物として有用である。
【0016】
「シロキサン」は、少なくとも1つのシロキサン(Si-O-Si)結合を含有する分子を指す。望ましくは、本発明のシロキサンは、複数のSi-O-Si結合を含有する分子を指す「ポリシロキサン」である。ポリシロキサンは、典型的には、M、D、T、又はQ単位と呼ばれるシロキサン単位を含む。標準M単位は、式(CH3)3SiO1/2を有する。標準D単位は、式(CH3)2SiO2/2を有する。標準T単位は、式(CH3)SiO3/2を有する。標準Q単位は、式SiO4/2を有する。M型、D型、及びT型単位は、水素、又はいくつかの他の部分で置き換えられる1つ以上のメチル基を有することができる。
【0017】
「シリルヒドリド」は、ケイ素-水素(Si-H)結合を含有する分子であり、複数のSi-H結合を含有することができる。
【0018】
「アルキル」は、水素原子を除去することによってアルカンから誘導される炭化水素基である。「置換アルキル」は、少なくとも1つの炭素又は水素の代わりに炭素及び水素以外の原子、又は化学的部分を有するアルキルである。
【0019】
「アリール」は、水素原子を除去することによって芳香族炭化水素から誘導される基である。「置換アリール」は、少なくとも1つの炭素又は水素の代わりに炭素及び水素以外の原子、又は化学的部分を有するアリールである。
【0020】
「共役」は、1セットの交互に連なる炭素-炭素の単結合及び二重結合及び/又は三重結合を指し、そのp-軌道は、炭素結合間で非局在化電子を可能にするように接続されている。「共役炭素」は、共役される1セットの交互に連なる炭素-炭素の単結合及び二重結合の炭素を指す。「非共役」は、共役系の一部ではない炭素を指す。「芳香族」は、環状平面共役分子を指す。
【0021】
「遮断剤」は、いくつかの方法で第2の成分の活性を防止するために、第2の成分に結合する成分である。例えば、触媒上の遮断剤は、触媒を触媒活性から排除し、遮断剤と錯体化する。
【0022】
シロキサンとシリルヒドリドとのルイス酸触媒反応は、以下の反応によって一般に表される転位反応である。
Si’-H+Si-O-Si+ルイス酸→Si’-O-Si+Si-H+ルイス酸
【0023】
この転位反応は、新しいシロキサン結合を形成し、架橋ポリシロキサン系を形成するのに有用である。Piers-Rubinsztajn(PR)反応などの他のルイス酸触媒反応に勝るこの反応の特に望ましい特性は、この反応が典型的に、反応を使用してシロキサンポリマーを硬化させるときに気泡を生成する可能性のある揮発性の副生成物を生成しないことである。したがって、反応は、透明な硬化組成物及びフィルムを作製するのに理想的である。
【0024】
本発明は、シリルヒドリド、シロキサン、ルイス酸触媒、及び特定のアミンの混合物を含む組成物を含む。本発明の特定のアミンは、23℃でルイス酸触媒のための遮断剤として作用するが、高温(例えば、80℃以上又は90℃以上)でルイス酸触媒を放出することが発見された。結果として、本発明の組成物は、23℃で安定であるが、高温でルイス酸触媒反応を起こすように熱により誘発される。このような組成物は、23℃で「安定である」ルイス酸触媒反応のための「安定である」一成分反応系を提供するという本発明の目的を達成する。23℃で「安定である」とは、反応系は、23℃で、1時間以下、好ましくは3時間以下、より好ましくは6時間以下、更により好ましくは12時間以下、かつ更により好ましくは24時間以下でゲル化しないことを意味する。以下の実施例セクションにおける「23℃安定性試験」を使用して貯蔵安定性を評価する。本発明の組成物は更に、23℃で安定であるが、所望に応じて加熱によって誘発されるルイス酸触媒反応のための一成分反応系を提供する。特に、本発明の組成物は、90℃で30分以下、好ましくは10分以下、より好ましくは5分以下、かつ更により好ましくは1分以下で硬化する。以下の実施例セクションにおける「90℃での硬化速度」試験を使用して、90℃での硬化速度を決定する。
【0025】
シロキサン
望ましくは、シロキサン成分は、複数のシロキサン結合を含有するポリシロキサンである。ポリシロキサンは、複数のシロキシ(SiO)基を含む。シロキシ含有基は、典型的には、M、D、T、又はQ基として指定される。ポリシロキサンは、直鎖状であってもよく、M(≡SiO1/2)型及びD(=SiO2/2)型単位のみを含んでもよい。あるいは、ポリシロキサンは、分枝状であってもよく、T(-SiO3/2)型及び/又はQ(SiO4/2)型単位を含有してもよい。典型的には、M、D、T、及びQ単位は、酸素が結合していないケイ素原子に結合したメチル基を有し、各ケイ素原子に対する4の価数を提供し、各酸素は、別の単位のケイ素に結合する。これらをM、D、T及びQ「型」単位と呼ぶと、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリール基からなる群から選択されるものなどの基が、1つ以上のメチルの代わりにケイ素原子に結合し得ることを意味する。例えば、MHは、典型的なM単位の1つのメチルが水素で置き換えられるM型単位である。
【0026】
ポリシロキサンは、10以上、好ましくは20以上、より好ましくは30以上の重合度(DP)を有することができ、40以上、50以上、75以上、100以上、250以上、500以上、1000以上、2,000以上、4,000以上、6,000以上、及び8,000以上であってもよいが、同時に、典型的には10,00以下、好ましくは8,000以下、6,000以下、4,000以下、2,000以下、1,000以下、800以下、600以下、400以下、200以下、又は更には100以下である。DPは、分子中に存在するシロキシ基の数に対応し、ケイ素-29核磁気共鳴(29Si NMR)分光法によって判定することができる。
【0027】
シロキサン成分は、Si-H結合を含有してもよく、これは、シリルヒドリド成分としても機能してもよいことを意味する。実際に、シロキサン成分及びシリルヒドリド成分は、本発明において同じ分子であってもよい。あるいは、シロキサン成分及びシリルヒドリド成分は、異なる分子であってもよい。実際に、シロキサン分子は、Si-H結合を含まなくてもよく、かつ/又はシリルヒドリド成分は、Si-O-Si結合を含まなくてもよい。
【0028】
Si-H結合を有さない好適なシロキサンの例としては、Dow Chemical Companyから入手可能なXIAMETER(商標)PMX-200シリコン流体が挙げられる。
【0029】
Si-H結合を含有する好適なシロキサンの例としては、ポリ(メチルヒドロシロキサン)及びポリ(ジメチルシロキサン-コ-メチルヒドロシロキサン)、トリメチルシリル末端が挙げられ、これらは両方ともSigma-Aldrichから入手可能である。Si-H結合を含有する好適なシロキサンの更なる例としては、商品名DMS-H03、DMS-H25、DMS-H31、及びDMS-H41でGelestから入手可能なものなどの、ペンタメチルジシロキサン、ビス(トリメチルシロキシ)メチル-シラン、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、及びヒドリド末端ポリ(ジメチルシロキサン)が挙げられる。
【0030】
典型的には、組成物中のシロキサンの濃度は、組成物中のシリルヒドリド、シロキサン、アミン、及びルイス酸触媒の総合重量に基づいて、70重量パーセント(重量%)以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、更には90重量%以上であるが、同時に、典型的には90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、又は更には75重量%以下である。
【0031】
シリルヒドリド
シリルヒドリドは、1つ、好ましくは2つ以上のSi-H結合を含有する。Si-H結合は、典型的には、ポリシラン(複数のSi-H結合を含有する分子)又はポリシロキサンの一部である。複数のSi-H結合を含有するシリルヒドリドは、複数のシロキサン結合と反応可能であるため、本発明の組成物中の架橋剤として望ましい。
【0032】
本発明のシリルヒドリドは、ポリマーであってもよい。シリルヒドリドは、直鎖状、分枝状であってもよく、又は直鎖状及び分枝状シリルヒドリドの組み合わせを含有してもよい。シリルヒドリドは、ポリシラン、ポリシロキサン、又はポリシランとポリシロキサンとの組み合わせであってもよい。
【0033】
望ましくは、シリルヒドリドは、1つのSi-H結合又は2つ以上のSi-H結合を有するポリシロキサン分子である。シリルヒドリドがポリシロキサンである場合、Si-H結合は、M型又はD型シロキサン単位のケイ素原子上にある。ポリシロキサンは、直鎖状であってもよく、M型及びD型単位のみを含んでもよい。あるいは、ポリシロキサンは、分枝状であってもよく、T型及び/又はQ型単位を含有してもよい。
【0034】
好適なシリルヒドリドの例としては、商品名DMS-H03、DMS-H25、DMS-H31、及びDMS-H41でGelestから入手可能なものなどの、ペンタメチルジシロキサン、ビス(トリメチルシロキシ)メチル-シラン、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン(tetramethycyclotetrasiloxane)、及びヒドリド末端ポリ(ジメチルシロキサン)が挙げられる。
【0035】
シリルヒドリドの濃度は、典型的には、0.2以上、0.5以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2.0以上、2.2以上、更には2.5以上である、Si-H基のシロキサン結合に対するモル比を提供するのに十分であるが、同時に、典型的には5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.8以下、2.5以下、2.3以下、2.0以下、1.8以下、1.6以下、1.4以下、1.2以下、又は更には1.0以下である。
【0036】
シロキサン又はシリルヒドリド(又はその両方)は、反応において架橋剤として機能することができる。架橋剤は、1分子中に少なくとも2つの反応性基を有し、これらの反応性基を介して2つの異なる分子と反応して、それらの分子を一緒に架橋する。架橋剤中の反応性基間の直鎖の長さを増加させることは、得られた架橋物の可撓性を増加させる傾向がある。対照的に、架橋剤中の反応性基間の直鎖の長さを短くすることは、得られた架橋物の可撓性を低減させる傾向がある。一般に、より高い可撓性の架橋物を得るためには、直鎖状架橋剤が所望され、反応性部位間の長さは、所望の可撓性を得るように選択される。より低い可撓性の架橋物を得るためには、架橋分子間の可撓性を低減させるのにより短い直鎖状架橋剤又は更には分枝状架橋剤が所望される。
【0037】
シリルヒドリドは、シロキサンと同じ分子であってもよく、すなわち、シロキサン結合及びシリルヒドリド官能基の両方を含有する単一分子は、シリルヒドリド及びシロキサンの両方として役割を果たすことができる。あるいは、シリルヒドリドは、シロキサンとは異なる分子であってもよい。シリルヒドリドは、シロキサン結合を含まなくてもよい。シロキサンは、シリルヒドリド基を含まなくてもよい。
【0038】
本発明の組成物(及び反応プロセス)は、2つ以上のシリルヒドリド、2つ以上のシロキサン、並びに/又はシリルヒドリド及びシロキサンの両方として機能する2つ以上の成分を含むことができる。
【0039】
典型的には、組成物中のシリルヒドリドの濃度は、組成物中のシリルヒドリド、シロキサン、アミン、及びルイス酸触媒の総合重量に基づいて、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、更には25重量%以上であるが、同時に、典型的には30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は更には5重量%以下である。
【0040】
ルイス酸触媒
ルイス酸触媒は、望ましくはアルミニウムアルキル、アルミニウムアリール、アリールボラン、トリアリールボランを含むアリールボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランなどの置換アリール及びトリアリールボランを含む)、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アルミニウム、ガリウムアルキル、ガリウムアリール、ハロゲン化ガリウム、シリウムカチオン、及びホスホニウムカチオンからなる群から選択される。好適なアルミニウムアルキルの例としては、トリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウムが挙げられる。好適なアルミニウムアリールの例としては、トリフェニルアルミニウム及びトリス-ペンタフルオロフェニルアルミニウムが挙げられる。トリアリールボランの例としては、以下の式:
【化1】
(式中、Rは、各出現において独立して、H、F、Cl、及びCF
3から選択される)を有するものが挙げられる。好適なハロゲン化ホウ素の例としては、(CH
3CH
2)
2BCl及びボロントリフルオリドが挙げられる。好適なハロゲン化アルミニウムの例としては、三塩化アルミニウムが挙げられる。好適なガリウムアルキルの例としては、トリメチルガリウムが挙げられる。好適なガリウムアリールの例としては、テトラフェニルガリウムが挙げられる。好適なハロゲン化ガリウムの例としては、トリクロロガリウムが挙げられる。好適なシリウムカチオンの例としては、(CH
3CH
2)
3Si
+X
-及びPh
3Si
+X
-が挙げられる。好適なホスホニウムカチオンの例としては、F-P(C
6F
5)
3
+X
-が挙げられる。
【0041】
ルイス酸は、典型的には、組成物中のシロキサン及びシリルヒドリドの総合重量に対して、10重量百万分率(ppm)以上、50ppm以上、150ppm以上、200ppm以上、250ppm以上、300ppm以上、350ppm以上、400ppm以上、450ppm以上、500ppm以上、550ppm以上、600ppm以上、70ppm以上、750ppm以上、1000ppm以上、1500ppm以上、2000ppm以上、4000ppm以上、5000ppm以上、更に7500ppm以上であるが、同時に、典型的には10,000以下、7500ppm以下、5000ppm以下、1500ppm以下、1000ppm以下、又は750ppm以下の濃度で組成物中に存在する。
【0042】
アミン
アミンの選択は、23℃でルイス酸と錯体化し、その温度で反応組成物中のルイス酸の触媒活性を阻害しなければならず、更に、反応組成物を90℃で急速に(10分以内、好ましくは5分以内、より好ましくは1分以内)ゲル化するような高温でルイス酸を放出しなければならないため重要である。反応組成物を23℃及び90℃で監視して、ゲル時間を決定することができる(以下の実施例セクションを参照)。あるいは、又は追加的に、示差走査熱量測定によって、硬化反応発熱が起こる温度を特徴付けることができる(Tpeak、手順については以下の実施例セクションを参照)。組成物のTpeak値は、適切なアミンが存在する場合、同一のアミンを含まない組成物のTpeakに対して増加すべきであるが、望ましくは、90℃で急速に硬化するのに十分な解離を反映するように、130℃未満、好ましくは120℃未満、より好ましくは110℃未満のままである。
【0043】
アミンは、ルイス酸触媒を損なわないことが報告されているトリアリールアミンを除いて、ルイス酸触媒と不可逆的に錯体化すると報告されている。理論に束縛されるものではないが、本発明は、部分的には、共役炭素を介してアミンの窒素に結合している1つ以上の共役部分を有することによって、共役部分がアミンの自由電子を非局在化させ、ルイス塩基として弱めるのを助けることを発見した結果であるように思われる。結果として、共役炭素を介してアミンの窒素に結合している少なくとも1つの共役部分を有するアミンは、23℃で4時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは10時間以下、更により好ましくは12時間未満に反応組成物のゲル化を損なうように、23℃でルイス酸触媒と錯体化し、遮断するが、同時に90℃で加熱するとルイス酸触媒を放出し、10分以下、好ましくは5分以下、より好ましくは1分以下に組成物をゲル化するのに十分な弱さで錯体化することが発見された。
【0044】
十分に弱いルイス塩基であるため、本発明のアミンは、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの共役部分を有し、窒素上の自由電子対が共役部分と解離し、ルイス塩基としてアミンを弱めることができるように、共役炭素を介してアミンの窒素に結合している3つの共役部分を有してもよい。好ましくは、共役部分は、芳香族部分である。
【0045】
トリアリールアミンは、各々共役炭素を介してアミン窒素に結合している3つの芳香族共役部分を有する。結果として、トリアリールアミンは、窒素自由電子を最適に非局在化して弱ルイス塩基を生成するアミンの例である。これは、トリアリールアミンがルイス酸触媒を損なわないことを報告している先行技術と一致する。それにもかかわらず、トリアリールアミンは、驚くべきことに、23℃でルイス酸触媒に対する遮断効果を有し、23℃でルイス酸触媒反応を阻害することが発見されており、本発明での使用に適したアミンの最も広い範囲の範囲内である。望ましくは、本発明のアミンは、23℃でより大きな遮断効果(したがって、より長い貯蔵安定性)を達成するために、トリアリールアミンよりも強ルイス塩基である。その点に関して、本発明のアミンは、共役炭素を介してアミンの窒素に結合している1つ、2つ、又は3つの共役部分を有してもよいが、アミンはトリアリールアミン以外であることが望ましい。本発明の組成物は、トリアリールアミンを含まなくてもよい。
【0046】
ルイス塩基としてのアミンの強度を弱める共役部分の機能は、共役部分に結合することができる置換基で更に調整可能である。共役部分上の電子求引基(ハロゲンなど)を含むことにより、窒素電子が非局在化共役系に更に引き込まれ、ルイス塩基としてアミンの強度を弱める。共役部分上の電子供与基を含むことにより、逆の効果を有し、電子供与基を有さない共役部分を持つ同じアミンと比較して、得られるアミン強度をルイス塩基として増加させる。
【0047】
アミンは、貯蔵安定性を達成するために、23℃でルイス酸触媒に結合し、遮断するのに十分な強さである必要がある。アミンは、強ルイス塩基である場合よりも弱ルイス塩基である場合、より低い温度で酸を放出する。したがって、アミンの窒素に結合している部分の選択は、所望の温度で、貯蔵安定性及び反応性を達成するように選択されてもよい。
【0048】
好適なアミンは、アミジン、グアニジン、及びN-メチルイミダゾールなどのN=C-N結合の員ではないアミン窒素を有さなければならないことが更に発見された。望ましくは、組成物は、N=C-N結合を有するアミンを含まない。例えば、組成物は、アミジン及びグアニジンを含まなくてもよい。
【0049】
一般に、アミンは、以下の式:R1R2R3N[式中、R1、R2、及びR3の各々は、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、及び共役部分からなる群から選択される]を有し、R1、R2、及びR3の少なくとも1つは、共役炭素によって窒素に接続している共役部分である。R1、R2、及びR3のうちの1つ、2つ、又は3つは、共役炭素によって窒素に接続している共役部分であってもよい。望ましくは、共役部分は、芳香族部分である。
【0050】
本発明での使用に好適なアミンの例としては、アニリン、4-メチルアニリン、4-フルオロアニリン、2-クロロ-4-フルオロアニリン、ジフェニルアミン、ジフェニルメチルアミン、トリフェニルアミン、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、1-アミノアントラセン、2-アミノアントラセン、9-アミノアントラセン、β-アミノスチレン、1,3,5-ヘキサトリエン-1-アミン、N,N-ジメチル-1,3,5-ヘキサトリエン-1-アミン、3-アミノ-2-プロペナール、及び4-アミノ-3-ブテン-2-オンからなる群から選択される任意の1つのアミン又は2つ以上のアミンの任意の組み合わせが挙げられる。
【0051】
組成物中のアミンの濃度は、23℃で全てのルイス酸触媒と錯体化し、遮断することができるように、ルイス酸触媒の濃度と少なくともモル当量である。アミンの濃度は、ルイス酸触媒のモル濃度を超えてもよいが、好ましくは、ルイス酸触媒の総モルに対して、110モルパーセント(mol%)以下、105mol%以下を好み、より好ましくは103mol%以下、かつ最も好ましくは101mol%以下の濃度で存在するが、100mol%以上でも存在する。
【0052】
アミン及びルイス酸は、組成物中に錯体を形成し、他の組成物成分との反応を触媒することをルイス酸が十分に遮断して、23℃で貯蔵安定性となる。加熱すると、アミンはルイス酸を放出して、ルイス酸が反応を触媒することができる。
【0053】
任意選択成分
本発明の組成物は、シリルヒドリド、シロキサン、ルイス酸触媒、及びアミンからなることができる。あるいは、本発明の組成物は、1つの任意選択成分又は2つ以上の任意選択成分の組み合わせを更に含むことができる。任意選択成分は、組成物の重量に基づいて、望ましくは50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は更には1重量%以下の濃度で存在する。
【0054】
可能な任意選択成分の例としては、ヒドロカルビル溶媒(典型的には、組成物重量に基づいて10重量%以下、5重量%以下、更には1重量%以下の濃度で)、カーボンブラック又は二酸化チタンなどの顔料、SiO2を含む金属酸化物などの充填剤(典型的には、組成物重量に基づいて50重量%以下の濃度で)、水分捕捉剤(moisture scavengers)、蛍光増白剤、安定剤(酸化防止剤及び紫外線安定剤など)、及び腐食防止剤からなる群から選択される1つの成分又は2つ以上の成分の組み合わせが挙げられる。本発明の組成物はまた、このような追加成分を1つ又は2つ以上の組み合わせを含まなくてもよい。
【0055】
特に、本発明の組成物は、組成物重量に対して1重量%以下、0.5重量%以下の水を含有することができる。望ましくは、組成物は、水を含まない。
【0056】
反応プロセス
本発明は、(a)本発明の組成物を提供するステップと、(b)組成物を、アミンからルイス酸触媒を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む化学反応プロセスを含む。
【0057】
ステップ(a)は、アミン、ルイス酸触媒、シリルヒドリド、及びシロキサンを一緒に混合することを含んでもよい。しかしながら、ルイス酸触媒及びアミンは、シリルヒドリド及びシロキサンの両方と組み合わせる前に、アミンがルイス酸の触媒活性と錯体化し、遮断することができるように組み合わせる。ルイス酸が一方の反応物質との反応を触媒しなければ、反応物のうちの1つ(すなわち、シリルヒドリド又はシロキサン)の存在下でルイス酸/アミン錯体を調製することが可能である。アミン及びルイス酸は、トルエンなどの溶媒中で組み合わせて、遮断されたルイス酸錯体を形成してもよく、次いでその錯体をシリルヒドリド及びシロキサンと組み合わせてもよい。
【0058】
ステップ(b)は、一般に、組成物を80℃以上、好ましくは90℃以上の温度に加熱することを必要とするが、同時に、一般に300℃以下、250℃以下、200℃以下、150℃以下の温度に加熱することによって達成してもよく、100℃以下であってもよい。
【0059】
本発明の組成物は、コーティングとして特に有用である。組成物はまた、成形物品を形成する有用な形態であり得る。このような用途において、本発明のプロセスは、ステップ(a)の後、及びステップ(b)の前又はステップ(b)中に、組成物を基材に適用することを更に含むことができる。
【実施例】
【0060】
MDH
65M シリルヒドリド/シロキサン.三ツ口フラスコにメカニカルスターラーを取り付け、40グラム(g)の脱イオン水、10gのヘプタン、及び0.05gのトシル酸を添加する。200gのメチルジクロロシラン及び10gのトリメチルクロロシランの混合物を30分かけて撹拌しながらこれに滴下する。23℃で更に60分間撹拌する。反応溶液を毎回50ミリリットル(mL)の脱イオン水で3回洗浄する。溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、活性炭で濾過する。ロータリーエバポレータ(Rotovap)によって揮発物を除去して、MDH
65M シリルヒドリド/シロキサンを得る。これらの材料は、組成物のシリルヒドリド及びシロキサン成分の両方として機能する。
【0061】
MHD376MH シリルヒドリド/シロキサン.これは、GelestからDMS-H31として市販されている。
【0062】
触媒溶液
当モル量のBCF及びアミン(1:1モル比)並びに約12グラムの最終溶液を提供するのに十分な量で、トルエン中の5重量%のBCFをトルエン中の5重量%の特定アミン(表1及び2を参照)と組み合わせることによって触媒溶液を調製する。最終溶液を30秒間超音波処理し、23℃で12時間静置する。0.5~1.0グラムのテトラヒドロフランを最終溶液に添加して、BCF-アミン錯体の溶解を補助し、実施例の組成物に使用するために触媒溶液を形成する。
【0063】
23℃安定性試験.バイアル瓶に組成物を調製し、次いで、バイアル瓶を封止して、23℃で保管する。バイアルを反転させ、内容物が流動しているかどうかを決定するために内容物を注視することによって、バイアル瓶の内容物の流動性を確認する。1時間間隔で8時間、及び24時間の間隔後に流動性を確認する。バイアル内容物が反転すると1~2秒で流動しなくなることで証明されるように、ゲル化が起こる時間を記録する。ゲル化が起こる時間は、「23℃貯蔵寿命」である。試験中、組成物は、周囲(紫外線を含む)光にさらされる。
【0064】
90℃での硬化速度.90℃での硬化速度は、90℃で表面に粘着性のないゲル又は硬化フィルムを形成するのにかかる時間である。グラシン紙基材上に組成物の125マイクロメートルのフィルムをコーティングする。フィルムを90℃のオーブンに入れる。30秒毎にフィルムの粘着性を確認する。不粘着性フィルムを達成するのに必要な時間が、90℃での硬化速度である。
【0065】
Tpeak.Tpeakは、反応系中に最大反応発熱が存在する温度である。サンプル組成物の示差走査熱量測定(DSC)によってTpeakを決定する。組成物の10ミリグラムのサンプルをDSCパンに充填し、10℃~250℃の温度ランプを使用して、毎分10℃の速度でDSCを実施することによってDSCによる特徴付けをする。Tpeakは、最大発熱がDSC曲線において明らかである温度である。
【0066】
比較例(Comp Ex)A~D:異なるルイス酸触媒の効果
比較例A~Dは、シリルヒドリドとシロキサンとの転位反応のための触媒としてのBCFの有効性を示す。比較例A~Dは、阻害剤を有さない2つの異なるルイス酸触媒を有する組成物の23℃貯蔵寿命を示し、シリルヒドリドとシロキサンとの反応を触媒する際に、BCFが超塩基触媒1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(「DBU」)又は白金(Karstedt触媒の形態の「Pt」)のいずれかよりも有効であることを明らかにする。低充填レベルでは、BCFは、DBUよりも1桁速くMDH
65Mを硬化させ、Pt触媒と同等の充填では、23℃でほぼ2桁速くMDH
65Mを硬化させる。これらの結果を考慮すると、BCFはこの反応のために非常に有効なルイス酸触媒であることが証明されているため、更なる実験でBCFを使用する。
【0067】
比較例A(DBU、1000ppm).最小量のトルエンに溶解した1000ppmのDBUの溶液を、10gの歯科用カップ中の2グラム(g)のMDH
65Mにマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。23℃でゲル化するのに約50分かかった。
【0068】
比較例B(Pt、100ppm).最小量のトルエンに溶解した100ppmのKarstedt触媒の溶液(ジビニル含有ジシロキサンから誘導される有機白金化合物、Sigma-Aldrichから入手可能)を、10gの歯科用カップ中の2グラム(g)のMDH
65Mにマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。ゲル化するのに約2時間かかった。
【0069】
比較例C(BCF、500ppm).最小量のトルエンに溶解した500ppmのBCFの溶液を、10gの歯科用カップ中の2グラム(g)のMDH
65Mにマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。ゲル化するのに約4分かかった。
【0070】
比較例D(BCF、100ppm).最小量のトルエンに溶解した100ppmのBCFの溶液を、10gの歯科用カップ中の2グラム(g)のMDH
65Mにマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。ゲル化するのに約6分かかった。
【0071】
比較例E~G:アミン窒素に結合する、共役炭素を欠いているアミンの遮断剤としての効果
比較例E~Gは、BCFがアミン窒素に結合している共役炭素を持たないアミン遮断剤と錯体化されることを除いて、BCFの500ppmの充填(比較例Cと同様)を使用する。組成物は、23℃貯蔵寿命及び90℃硬化速度に対する遮断剤の効果について特徴付けられる。比較例E~Gは、23℃貯蔵寿命は長いが、90℃硬化速度は許容できないほど長いこと(2時間超)を明らかにする。これらの結論は、アミンがルイス酸触媒と本質的に不可逆的に錯体化し、反応触媒としてルイス酸の有効性を阻害するという先行技術の結論と一致する。
【0072】
比較例E~Gの手順.500ppmのBCFを導入するために、アミン阻害剤と錯体化されるBCFを含有する十分な触媒溶液を、10gの歯科用カップ中の2グラム(g)のMD
H
65Mにマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。上記の試験方法について記載されているように、サンプルの90℃硬化速度を決定する。表1は、これらのサンプルのアミン阻害剤、23℃貯蔵寿命、及び90℃硬化速度を特定する。
【表1】
【0073】
比較例H及び実施例(Ex)1~4:アミン窒素に結合する、共役炭素を有するアミンの遮断剤としての効果
比較例Hは、2つの異なる反応物が存在する反応において、BCFルイス酸触媒に阻害剤(遮断剤)を有さない基準として機能する。実施例1~4は、ルイス酸触媒を23℃で遮断しながら、更にルイス酸触媒を90℃で遊離させるアミン窒素に結合している共役炭素を有するアミン遮断剤の有効性を明らかにする。比較例H及び実施例1~3は全て、500ppmのBCFを使用する。実施例4は、300ppmのBCFを使用する。実施例1は、前の比較例のMDH
65M反応物を使用する。比較例H及び実施例2~4は、反応物重量に対する重量%で、30重量%のMDH
65M及び70重量%のMHD
376MHの反応物ブレンドを使用する。サンプルは、ゲル化又は硬化すると、透明であり、気泡を含まなかった。
【0074】
実施例1.500ppmのBCFを導入するために、アニリンと錯体化されるBCFを含有する十分な触媒溶液を、10gの歯科用カップ中の2グラム(g)のMDH
65Mにマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。上記の試験方法について記載されているように、サンプルの90℃硬化速度を決定する。表2は、これらのサンプルのアミン阻害剤、23℃貯蔵寿命、及び90℃硬化速度を特定する。
【0075】
比較例H.最小量のトルエンに溶解した500ppmのBCFを含有する十分な触媒溶液を、10gの歯科用カップ中の1.4gのMHD376MH及び0.6gのMDH
65Mの混合物にマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。上記の試験方法について記載されているように、サンプルの90℃硬化速度を決定する。表2は、これらのサンプルのアミン阻害剤、23℃貯蔵寿命、及び90℃硬化速度を特定する。
【0076】
実施例2~3.500ppmのBCFを導入するために、表2で特定される阻害剤と錯体化されるBCFを含有する十分な触媒溶液を、10gの歯科用カップ中の1.4gのMHD376MH及び0.6gのMDH
65Mの混合物にマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。上記の試験方法について記載されているように、サンプルの90℃硬化速度を決定する。表2は、これらのサンプルのアミン阻害剤、23℃貯蔵寿命、及び90℃硬化速度を特定する。
【0077】
実施例4.300ppmのBCFを導入するために、アニリンと錯体化されるBCFを含有する十分な触媒溶液を、10gの歯科用カップ中の1.4gのM
HD
376M
H及び0.6gのMD
H
65Mの混合物にマイクロピペットで添加する。カップを素早く振盪し、23℃で放置し、ポリプロピレンピペットで触れることによって硬化を監視し、混合物が完全にゲル化するときに記録する。上記の試験方法について記載されているように、サンプルの90℃硬化速度を決定する。表2は、これらのサンプルのアミン阻害剤、23℃貯蔵寿命、及び90℃硬化速度を特定する。
【表2】
【0078】
実施例は、アミン窒素に結合している共役炭素を有するアミンが、ルイス酸触媒を遮断して、23℃で安定である組成物を提供するが、加熱するとルイス酸を放出して、90℃で急速(10分未満)硬化を提供することを明らかにする。