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特許7560489Si-Hとアルファ-ベータ不飽和エステルとの反応のための熱トリガとしての架橋型フラストレイテッドルイスペア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】Si-Hとアルファ-ベータ不飽和エステルとの反応のための熱トリガとしての架橋型フラストレイテッドルイスペア
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/05 20060101AFI20240925BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240925BHJP
   C08G 77/08 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L83/05
C08L83/07
C08K5/55
C08G77/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021571823
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 US2020035642
(87)【国際公開番号】W WO2020247335
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】62/856,773
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】コートマンシュ、マーク-アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ウンシル
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ、ヤンフー
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530601(JP,A)
【文献】特表2006-522206(JP,A)
【文献】Cornelia M.Momming, Edwin Otten et al.,Reversible Metal-Free Carbon Dioxide Binding by Frustrated Lewis Pairs,Angewandte Chmie,2009年,Vol.48, No.36,p.6643-6646
【文献】Andreas Berkefeld, Warren E.Piers and Masood Parvez,Tandem Frustrated Lewis Pair/Tris(pentafluorophenyl)borane-Catalyzed Deoxygenative Hydrosilylation of Carbon Dioxide,J. Am. Chem. Soc,2010年07月15日,Vol.132, No.31,p.10660-10661
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 5/55
C08G 77/00-77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルヒドリド、アルファ-ベータ不飽和エステル、及び架橋型フラストレイテッドルイスペア(Bridged Frustrated Lewis Pair)の混合物を含み、
前記架橋型フラストレイテッドルイスペアが、フッ素化アリールボランのルイス酸と、PR 及びNR (式中、Rは、各出現において独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択される)からなる群から選択されるルイス塩基と、二酸化炭素及びニトリルからなる群から選択される架橋分子と、を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、遷移金属を含まない、請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記アルファ-ベータエステルが、1つの(メタ)アクリレート又は2つ以上の(メタ)アクリレートの組み合わせである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(a)請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を提供するステップと、
(b)前記組成物を、前記架橋型フラストレイテッドルイスペアからルイス酸を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む、化学反応プロセス。
【請求項5】
ステップ(a)が、架橋型フラストレイテッドルイスペア、シリルヒドリド及びアルファ-ベータエステルを一緒に混合することを含む、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
ステップ(a)の後及びステップ(b)の前に、前記組成物が、基材に適用されるか、又は型内に配置される、請求項又はに記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の分野
本発明は、シリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの化学反応のための熱トリガとしての、架橋型フラストレイテッドルイスペア(bridged frustrated Lewis pair)の使用に関する。架橋型フラストレイテッドルイスペアは、加熱すると解離して、ルイス酸を放出する。ルイス酸は、シリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの化学反応のための触媒として機能する。
【0002】
序論
フラストレイテッドルイスペア(「FLP」)は、ルイス酸及びルイス塩基のペアのうち、立体的混雑(steric congestion)により、ルイス酸及びルイス塩基が互いに錯化及び中和することができないペアを指す用語である。FLPのルイス酸及びルイス塩基は混合されると、混合して互いを中和するのではなく、互いから独立した状態を保つ。更に、FLPは、架橋型フラストレイテッドルイスペア(「B-FLP」)の形態で互いに間接的に結合することが見出されており、B-FLPでは、架橋分子がFLPの酸及び塩基の両方に結合し、ルイス酸とルイス塩基との間に架橋分子を有する錯化体を形成する。場合によっては、架橋分子は開裂し、ブロックされたルイス酸及びブロックされたルイス塩基を生成し、架橋分子の一部分が、ルイス酸及びルイス塩基の各々と錯化し、更なる錯化又は反応をブロックすることができる。水素(H)は、B-FLPを形成すると、このような様式で開裂する架橋分子の一例である。
【0003】
B-FLPは、化学反応に使用する架橋分子を活性化するために使用されてきた。例えば、水素(H)は、水素添加反応に使用する水素を活性化するために、B-FLP中の架橋分子として使用され(例えば、JACS 2015,137,10018-10032を参照されたい)、二酸化炭素は、脱酸素ヒドロシリル化のため二酸化炭素を活性化するために、B-FLP中の架橋分子として使用されてきた(例えば、JACS 2010,132,10660-10661を参照されたい)。化学反応のために活性化するのに使用するB-FLP中の架橋分子として使用される他の分子としては、亜酸化窒素(NO)、二酸化硫黄(SO)、アルケン、及びアルキンが挙げられる。例えば、Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,6643-6646、Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,6400-6441及びJACS 2015,137,10018-10032を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にこのような使用が架橋分子を伴う化学反応以外の化学反応を制御することを可能にする場合は、B-FLPの追加の使用を発見することは、驚くべきことであり、有用である。
【0005】
本発明は、ヒドロシリル化のような遷移金属触媒を必要としない反応において、シリルヒドリド(Si-H)とアルファ-ベータ不飽和エステルとの還元的硬化反応のための熱トリガとしての、B-FLPの驚くべきかつ予想外の使用を提供する。
【0006】
ヒドロシリル化反応は、硬化反応において、シリルヒドリドと不飽和結合とを反応させる1つの方法である。ヒドロシリル化は、典型的には、反応生成物中に望ましくないまま残る傾向がある遷移金属触媒の存在を必要とする。しかしながら、シリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルは、遷移金属触媒を必要とせずにルイス酸触媒の存在下で還元的硬化反応することが発見された。シリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの間の還元的硬化反応は、アルファ-ベータ不飽和エステルのカルボニル酸素にケイ素を付加して、新たなシリルエーテル結合を生成するか、又はアルファ-ベータ不飽和エステルのアルファ-炭素にケイ素を付加して、新たなケイ素-炭素結合を形成するかのいずれかの付加反応である。反応は、新たな付加生成物、特にガス状材料以外のいかなる副生成物も生成することなく、これらの付加生成物を生成する。また、これは、高価な白金触媒を必要とせず、白金触媒ヒドロシリル化よりも穏やかかつ速い付加反応を提供する利点も提供する。
【0007】
ルイス酸が触媒したシリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの還元的硬化は、コーティング、接着剤、及びシーラント用途におけるシロキサンの硬化に望ましい場合がある。しかしながら、還元的硬化反応は急速である傾向があり、それにより、反応が望まれるまで触媒がSi-H及び/又はアルファ-ベータ不飽和エステルから離して保持される二部型系として反応系を供給及び保存する必要がある。一成分系は、より容易に取り扱うことができ、二部型系よりも望ましいため、保存のための貯蔵安定性を提供するが、系を硬化させるために望まれるときに還元的硬化反応を引き起こす(トリガする)方法を有するような方法で、反応成分を一部型系で一緒に保存することができることが望ましい。
【0008】
本発明は、熱トリガされる潜在的なルイス酸触媒として、B-FLPがシリルヒドリド/アルファ-ベータ不飽和エステルの還元的硬化反応系において使用できることを発見した結果である。すなわち、ルイス酸触媒を含むB-FLPを、シリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルと組み合わせて、23℃で貯蔵安定性であるが、加熱されると急速に反応して、B-FLPからルイス酸を放出する一部型反応系を形成することができる。加熱されると、ルイス酸はB-FLPから解離し、ルイス酸が、シリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの付加反応を開始する反応触媒として機能することを可能にする。望ましくは、本発明の組成物は、ルイス酸をブロック解除することによって反応をトリガすることなく、UV光に曝露することができる。
【0009】
B-FLPは、分解されると再混合しにくいため、特に効率的なトリガ剤であることが見出された。これは、ルイス酸が遊離すると、B-FLPの再形成によって阻害されることなく反応を触媒し続けることを意味する。すなわち、ルイス塩基が溶液中に残留し、遊離ルイス酸と再混合して、ルイス酸を中和することができるため、ルイス塩基で直接阻害されたルイス酸に比べて利点がある。B-FLPは、ルイス酸と塩基との間の架橋錯化体の再形成を必要とし、この再形成はランダムに起こる可能性がはるかに低い。これは、ガス状であり、B-FLPが分解されると反応系から脱してしまうものなどの、逃げやすい架橋分子に特に当てはまる。結果として、B-FLPの使用により、B-FLPを解離させるのに十分に加熱されると、酸触媒は不可逆的に放出されて迅速な反応を触媒することが予想されるため、触媒阻害剤を形成妨害することなく、反応を本質的に不可逆的にトリガすることに対する前例のない制御を提供する。
【0010】
第1の態様では、本発明は、シリルヒドリド、アルファ-ベータ不飽和エステル、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの混合物を含む、組成物である。
【0011】
第2の態様では、本発明は、(a)第1の態様の組成物を提供するステップと、(b)組成物を、架橋型フラストレイテッドルイスペアからルイス酸を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む、化学反応プロセスである。
【0012】
本発明は、コーティング、接着剤、及びエラストマーを調製するために有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
試験方法は、日付が試験方法番号と共に示されていない場合、本文書の優先日現在での直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含む。本明細書では、以下の試験方法の略語及び識別子が適用される。ASTMは、ASTMインターナショナル(ASTM International)を指し、ENは欧州規格(European Norm)を指し、DINは、ドイツ規格協会(Deutsches Institut fuer Normung)を指し、ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)を指す。
【0014】
商品名で識別される製品は、本出願の優先日に、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0015】
「複数の」とは、2つ以上を意味する。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、端点を含む。商品名で識別される製品は、本明細書に別途記載のない限り、本文書の優先日において、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0016】
本発明の組成物は、シリルヒドリド、アルファ-ベータ不飽和エステル、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの混合物を含む。
【0017】
「アルファ-ベータ不飽和エステル」は、エステル基及び鎖中のアルファ炭素とベータ炭素との間の二重結合を含有する分子を指し、炭素原子はエステルのカルボニル基へのそれらの近接に基づいて命名される。アクリレート及びメタクリレートは、アルファ-ベータ不飽和エステルの例である。アルファ-ベータ不飽和エステルは、ケイ素を含むことができ、例えば、アルファ-ベータ不飽和エステルを含有するポリシロキサンなどを含むことができる。
【0018】
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレート官能基を含有するケイ素含有分子をはじめとする、メタクリレート及びアクリレートからなる群を指す。
【0019】
「アルキル」は、水素原子を除去することによってアルカンから誘導される炭化水素基である。「置換アルキル」は、少なくとも1つの炭素又は水素の代わりに炭素及び水素以外の原子、又は化学的部分を有するアルキルである。
【0020】
「アリール」は、水素原子を除去することによって芳香族炭化水素から誘導される基である。「置換アリール」は、少なくとも1つの炭素又は水素の代わりに炭素及び水素以外の原子、又は化学的部分を有するアリールである。
【0021】
「シロキサン」は、少なくとも1つのシロキサン(Si-O-Si)結合を含有する分子を指す。「ポリシロキサン」は、複数のSi-O-Si結合を含有する分子である。ポリシロキサンは、典型的には、M、D、T、又はQ単位と呼ばれるシロキサン単位を含む。標準的なM単位は、式(CHSiO1/2を有する。標準的なD単位は、式(CHSiO2/2を有する。標準的なT単位は、式(CH)SiO3/2を有する。標準的なQ単位は、式SiO4/2を有する。M型、D型、及びT型単位は、水素、又はいくつかの他の部分で置き換えられる1つ以上のメチル基を有することができる。
【0022】
「シリルヒドリド」は、ケイ素-水素(Si-H)結合を含有する分子であり、複数のSi-H結合を含有することができる。
【0023】
「フラストレイテッドルイスペア」、又は「FLP」は、ルイス酸及びルイス塩基が、その立体的混雑により、互いに錯化及び完全中和(「ブロック」)を不可能にするルイス酸及びルイス塩基の系である。FLPは、当該技術分野において既知であり、JACS 2015,137,10018-10032などの論文及びその中で識別された論文で特徴付けられる。望ましくは、FLPは、混雑(congestion)により、摂氏20度(℃)で錯化及び中和を不可能にするルイス酸及びルイス塩基の系である。FLPは、当該技術分野において既知であるが、任意のルイスペアが、両方を溶解する溶媒中で、等モル量のルイス酸とルイス塩基とを20℃で混合することによって、FLPであるかどうかを判定することができる。ルイス酸及びルイス塩基の10モルパーセント超が解離したままである場合、ルイス酸及びルイス塩基は、FLPと見なすことができる。核磁気共鳴スペクトル法、又は好ましくは伝動率検出器若しくは光度検出器を用いたイオンクロマトグラフィなどの妥当な任意の手段によって解離の程度を判定する。
【0024】
本発明の組成物を加熱すると、B-FLPは、アルファ-ベータ不飽和エステルとシリルヒドリドとの反応を触媒するルイス酸を放出する。組成物を80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上であると同時に、概して300℃以下、250℃以下、240℃以下、230℃以下、220℃以下、210℃以下、200℃以下、175℃以下、150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、110℃以下、又は更には100℃以下の温度に加熱することにより、1時間以下で、好ましくは30分以下で、より好ましくは10分以下で、更により好ましくは5分以下で、なお更に好ましくは2分以下で、1分以下で、又は更には30秒以下で、組成物中の成分を反応及び硬化させる。
【0025】
シロキサンとシリルヒドリドとの反応は、以下の反応によって全般的に表される転位反応である:
【化1】
(式中、2つの任意の反応生成物が示されている)。この反応は、新たなシロキサン結合を形成し、架橋ポリシロキサン系を形成するのに有用である。
【0026】
本発明の組成物は、貯蔵安定性がある。「貯蔵安定性」とは、組成物が23℃で10時間以下、好ましくは15時間以下、更により好ましくは24時間以下、なおより好ましくは5日間以下でゲルを形成しないことを意味する。
【0027】
アルファ-ベータ不飽和エステル
アルファ-ベータ不飽和エステルは、分子中の1つの位置又は2つ以上の位置において、以下の組成の構造(アルファ-ベータ不飽和エステル基)を有する:
【化2】
(式中、Rは、示される酸素に結合した炭素を含有し、任意の他の原子を含有することができる)。例として、Rは、アルキル、置換アルキル、ベンジル、又はそれを酸素に結合する炭素を有するポリマー基であり得る。
【0028】
望ましくは、アルファ-ベータ不飽和エステル基は、ポリマーの一部であり得る。このようなポリマーは、1つのアルファ-ベータ不飽和エステル基又は2つ以上のアルファ-ベータ不飽和エステル基を含有し得る。アルファ-ベータ不飽和エステルは、(メタ)アクリレート、すなわち、以下に示すようなアクリレート及び/又はメタクリレート基を有する化合物から選択される。
【化3】
【化4】
【0029】
アルファ-ベータ不飽和エステル基は、典型的にはシロキサン基(Si-O-Si)又はポリシラン基(Si-Si)の一部であるケイ素原子に結合することができ、それ自体は、典型的にはポリシロキサン鎖の一部である。アルファ-ベータ不飽和エステル基がケイ素原子に結合するとき、酸素とケイ素との間の結合は、α-ベータ不飽和エステル基中の単結合酸素原子を介して、1個又は複数個(概して2個以上、3個以上であると同時に6個以下、5個以下、更には4個以下である)の炭素原子を介している。
【0030】
好適なアルファ-ベータ不飽和エステルの例としては、式MDMA Mを有するものなどのメタクリレート-ペンダントポリシロキサンが挙げられ、式中、DMAは、標準的なDシロキサン単位のメチル基のうちの1つがメタクリルオキシプロピル:
【化5】
で置換されているD型シロキサン単位であり、式中、下付き文字xは、1分子当たりのD単位の平均数であり、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、100以上、110以上、120以上、130以上、140以上、150以上、160以上、170以上、180以上、190以上、又は更に200以上の値であると同時に、概して1000以下、800以下であり、600以下、400以下、又は更には200以下の値であり、下付き文字yは、1分子当たりのDMAシロキサン単位の平均数であり、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、12以上、14以上、16以上、18以上、更には20以上の値であると同時に、概して50以下、40以下、30以下、20以下、又は更には10以下の値である。29Si核磁気共鳴スペクトル法によって下付き文字値を決定する。
【0031】
メタクリルオキシプロピル末端ポリジメチルシロキサンである好適なアルファ-ベータ不飽和エステルの例としては、商品名DMS-R11(125-250 cSt)、DMS-R18(50-90 cSt)、DMS-R11(8-14 cSt)、及びDMS-R31(1,000 cSt)でGelestから入手可能なもの、並びにSIVATE(商標)A200の名称でGelestから入手可能なアクリレート官能性シランが挙げられる。
【0032】
典型的には、組成物中のアルファ-ベータ不飽和エステルの濃度は、シリルヒドリド、アルファ-ベータ不飽和エステル及びB-FLPの総重量に基づいて、70重量パーセント(重量%)以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、更には90重量%以上であると同時に、典型的には90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、又は更には75重量%以下である。
【0033】
シリルヒドリド
シリルヒドリドは、1つ、好ましくは2つ以上のSi-H結合を含有する。Si-H結合は、典型的には、ポリシラン(複数のSi-H結合を含有する分子)又はポリシロキサンの一部である。複数のSi-H結合を含有するシリルヒドリドは、複数のアルファ-ベータ不飽和エステル結合と反応可能であるため、本発明の組成物中の架橋剤として望ましい。
【0034】
本発明のシリルヒドリドは、ポリマーであってもよい。シリルヒドリドは、直鎖状、分枝状であってもよく、又は直鎖状及び分枝状シリルヒドリドの組み合わせを含有してもよい。シリルヒドリドは、ポリシラン、ポリシロキサン、又はポリシランとポリシロキサンとの組み合わせであってもよい。
【0035】
望ましくは、シリルヒドリドは、1つのSi-H結合又は2つ以上のSi-H結合を有するポリシロキサン分子である。シリルヒドリドがポリシロキサンである場合、Si-H結合は、M型又はD型シロキサン単位のケイ素原子上にある。ポリシロキサンは、直鎖状であってもよく、M(≡SiO1/2)型及びD(=SiO2/2)型単位のみを含んでもよい。あるいは、ポリシロキサンは、分枝状であってもよく、T(-SiO3/2)型及び/又はQ(SiO4/2)型単位を含有してもよい。
【0036】
好適なシリルヒドリドの例としては、商品名DMS-H03、DMS-H25、DMS-H31、及びDMS-H41でGelestから入手可能なものなどの、ペンタメチルジシロキサン、ビス(トリメチルシロキシ)メチル-シラン、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、及びヒドリド末端ポリ(ジメチルシロキサン)が挙げられる。
【0037】
シリルヒドリドの濃度は、典型的には、0.2以上、0.5以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2.0以上、2.2以上、更には2.5以上である、Si-H基のアルファ-ベータ不飽和エステル基に対するモル比を提供するのに十分であると同時に、典型的には5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.8以下、2.5以下、2.3以下、2.0以下、1.8以下、1.6以下、1.4以下、1.2以下、又は更には1.0以下である。
【0038】
アルファ-ベータ不飽和エステル又はシリルヒドリドのいずれか(又はその両方)は、反応において架橋剤として機能することができる。架橋剤は、1分子当たり少なくとも2つの反応性基を有し、これらの反応性基を介して2つの異なる分子と反応して、それらの分子を一緒に架橋する。架橋剤中の反応性基間の直鎖の長さを増加させることは、得られた架橋生成物の柔軟性を増加させる傾向がある。対照的に、架橋剤中の反応性基間の直鎖の長さを短くすることは、得られた架橋生成物の柔軟性を低減させる傾向がある。概して、より高い柔軟な架橋生成物を得るためには、直鎖状架橋剤が望まれ、反応性部位間の長さは、所望の柔軟性を得るように選択される。より低い柔軟な架橋生成物を得るためには、架橋分子間の柔軟性を低減させるのにより短い直鎖状架橋剤又は更には分枝状架橋剤が望まれる。
【0039】
シリルヒドリドは、アルファ-ベータ不飽和エステルと同じ分子であってもよく、すなわち、アルファ-ベータ不飽和エステル及びシリルヒドリド官能基の両方を含有する単一分子は、シリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルの両方として機能し得る。あるいは、シリルヒドリドは、アルファ-ベータ不飽和エステルとは異なる分子であってもよい。シリルヒドリドは、アルファ-ベータ不飽和エステルを含まなくてもよい。アルファ-ベータ不飽和エステルは、シリルヒドリド基を含まなくてもよい。
【0040】
本発明の組成物(及び反応プロセス)は、2つ以上のシリルヒドリド、2つ以上の アルファ-ベータ不飽和エステル、並びに/又はシリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルの両方として機能する2つ以上の成分を含むことができる。
【0041】
典型的には、組成物中のシリルヒドリドの濃度は、シリルヒドリド、アルファ-ベータ不飽和エステル、及びB-FLPの総重量に基づいて、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、更には25重量%以上であると同時に、典型的には30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は更には5重量%以下である。
【0042】
架橋型フラストレイテッドルイスペア
架橋型フラストレイテッドルイスペア(「B-FLP」)は、FLPを含む錯化体であり、FLPのルイス酸及びルイス塩基は、両方とも架橋分子に結合して、ルイス酸とルイス塩基との間に存在する(すなわち、「架橋」)架橋分子と中和された錯化体を形成する。Hの場合など、架橋分子は開裂し、架橋分子の一部分がルイス酸をブロックし、架橋分子の別の部分がルイス塩基をブロックすることができる。あるいは、好ましくは、架橋分子はそのまま維持され、B-FLPは、FLPのルイス酸及びFLPのルイス塩基に同時に結合した架橋分子と安定した錯化体(少なくとも23℃で)になる。
【0043】
ルイス酸は、アルミニウムアルキル、アルミニウムアリール、トリアリールボランを含むアリールボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを含むフッ素化アリールボランなどの置換アリール及びトリアリールボランを含む)、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アルミニウム、ガリウムアルキル、ガリウムアリール、ハロゲン化ガリウム、シリリウムカチオン、及びホスホニウムカチオンからなる群から選択される。好適なアルミニウムアルキルの例としては、トリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウムが挙げられる。好適なアルミニウムアリールの例としては、トリフェニルアルミニウム及びトリス-ペンタフルオロフェニルアルミニウムが挙げられる。トリアリールボランの例としては、以下の式:
【化6】
(式中、Rは、各出現において独立して、H、F、Cl、及びCFから選択される)を有するものが挙げられる。好適なハロゲン化ホウ素の例としては、(CHCHBCl及び三フッ化ホウ素が挙げられる。好適なハロゲン化アルミニウムの例としては、三塩化アルミニウムが挙げられる。好適なガリウムアルキルの例としては、トリメチルガリウムが挙げられる。好適なガリウムアリールの例としては、トリフェニルガリウムが挙げられる。好適なハロゲン化ガリウムの例としては、トリクロロガリウムが挙げられる。好適なシリリウムカチオンの例としては、(CHCHSi及びPhSiが挙げられる。好適なホスホニウムカチオンの例としては、F-P(C が挙げられる。
【0044】
ルイス塩基は、以下の塩基:PR、P(NR、NR、N(SiR3-x、RC(NR)N、P(N-R)R、グアニジン(C(=NR)(NR)、アミジン(RC(=NR)NR)、ホスファゼン、及び
【化7】

(式中、Rは、各出現において独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択される)からなる群から選択される。構造PRの好適なルイスベイス(Lewis basis)の例としては、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、PhP(tBu)、(シクロヘキシル)P(tBu)、nBuP(tBu)、Me(tBu)、tBuP(i-Pr)、P(C11、P(iBu)、及びP(n-Bu)が挙げられる。構造RC(NR)Nの好適なルイスベイスの例としては、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ4.4.0デカ-5-エン、2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミドール[1,2-a]アゼピン(DBU)が挙げられる。好適なグアニジンの例としては、グアニジン、ビグアニジン、及び1,1-ジメチルグアニジンが挙げられる。好適なアミジンの例としては、ジエチルアミド、及びジイソプロピルアミドが挙げられる。好適なホスファゼンの例としては、tert-ブチルイミノ-トリ(ピロリジノ)ホスホレン(phosphorene)、tert-オクチルイミノ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホレン、及び2-tert-ブチルイミノ-2-ジエチルアミノ-1,3-ジメチルペルヒドロ-1,3,2-ジアザホスホリンが挙げられる。以下の構造の好適なルイスベイスの例としては
【化8】
1,3-ジメシチル-イミダゾール-4,5-ジヒドロ-2-イリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン、及び1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデンが挙げられる。
【0045】
本発明の最も広い範囲内の架橋分子としては、B-FLPを形成するために、FLPのルイス酸及びルイス塩基に同時に結合してブロックする任意の分子が挙げられる。架橋分子とルイス酸及びルイス塩基との相互作用は、ルイス酸及びルイス塩基が、23℃で架橋分子(又はその一部分)によってブロックされるが、少なくともルイス酸が、120℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは100℃以上、更により好ましくは90℃以上、80℃以上、又は更には70℃以上であると同時に、望ましくは300℃以下、240℃以下、220℃以下、200℃以下、180℃以下、160℃以下、150℃以下、125℃以下、又は更には100℃以下の温度でブロック解除されるようなものである。B-FLPのルイス酸をブロック解除することは、23℃でゲル化するのに必要な時間の1/10未満で硬化する、B-FLPを含有する本発明の組成物によって証明することができる。
【0046】
好適な架橋分子の例としては、二酸化炭素、水素分子(H)、ニトリル、アルケン、アルキン、ケトン、エステル、及びアルデヒドが挙げられる。望ましくは、架橋分子は、10個以下、好ましくは9個以下の炭素原子を含有するものであり、また、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、及び更には1個以下又は0個の炭素原子を含有してもよいのと同時に、架橋分子は、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、及び更には6個以上の炭素原子を含有してもよい。本明細書で先に述べたように、B-FLPにおいて、いくつかの架橋分子は開裂し、架橋分子の一部分がルイス酸をブロックし、架橋分子の一部分がルイス塩基をブロックすることができる。架橋分子は、FLPのルイス酸及びルイス塩基を架橋しながら、非開裂のままであることが好ましい。その点において、架橋分子は、好ましくは水素(H)でない。より好ましくは、架橋分子には、FLPのルイス酸及びルイス塩基を架橋しながら開裂するいかなる分子も含まれない。
【0047】
B-FLPは、本発明の組成物中で望ましくは「安定」であり、これは、23℃以下の温度で解離してルイス酸を放出しないことを意味する。B-FLPは、30℃以下、50℃以下、70℃以下、更には80℃以下の温度で安定であることができる。同時に、B-FLPは、120℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは110℃以上、100℃以上、90℃以上、及び更には80℃以上の温度で解離する。B-FLPが、核磁気共鳴スペクトル法(ルイス酸に応じて適宜H及び31P、11B及び/又は27Al)による遊離ルイス酸の証拠を調べることによって解離するかどうかを判定する。あるいは、B-FLPの解離は、所与の温度でB-FLPを含まない同一組成物よりも速く硬化する組成物によって検出することができる。
【0048】
B-FLPを調製するための1つの方法は、FLPのルイス酸及びルイス塩基を、溶媒中の架橋分子と一緒に、23℃で混合することによる。混合することにより、B-FLPの形成を促進する。B-FLPは、通常、溶媒を蒸発させるか、又はB-FLPが溶媒から沈殿した場合、濾過することによって溶媒から単離することができる。B-FLPは、23℃以下で長期間保存することができる。B-FLPは、シリルヒドリド及びシロキサンと混合して、本発明の組成物を形成することができる。
【0049】
本発明の組成物は、典型的には、組成物中のシリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの総重量に基づいて、0.1重量部/百万重量部(ppm)以上、1ppm以上、10ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、200ppm以上、300ppm以上、400ppm以上、500ppm以上、600ppm以上、700ppm以上、800ppm以上、900ppm以上1000ppm以上であると同時に、典型的には10,000ppm以下、5,000ppm以下、1,000ppm以下であるルイス酸濃度を提供するのに十分なB-FLPを含有する。
【0050】
典型的なブロックされたルイス酸系とは対照的に、本発明のB-FLPのルイス酸は、架橋分子を介してルイス塩基と錯化され、そのため2分子と錯化される。従来技術は、紫外線(UV)光に感光性であるブロッキング剤とルイス酸とを直接錯化させ、そのためUV光を照射すると、ブロッキング剤がルイス酸から解離することを示唆している。本発明のB-FLPは、UV感光性ブロッキング剤を必要とせず、UV光を照射するとルイス酸をB-FLPから遊離させる成分を含まなくてもよい。本発明のB-FLP及び組成物は、光酸発生剤を含まなくてもよく、UV放射に曝露するとルイス酸を生成するいかなる他の成分も含まなくてもよい。
【0051】
本発明の組成物は、UV光に曝露されたときであっても貯蔵安定性がある一成分反応系の利点を提供する。従来技術とは異なり、組成物は反応のためにUV光を必要とせず、組成物をUV光への曝露からブロックして貯蔵安定性を維持する必要がない。望ましくは、本発明のB-FLPの安定性は、UV光への曝露に依存しない(すなわち、これから独立している)。
【0052】
本発明の組成物は、水を含まなくてもよい。あるいは、本発明の組成物は、組成物の重量に基づいて、好ましくは1重量パーセント(重量%)以下、0.75重量%以下、0.5重量%以下、0.25重量%以下0.1重量%以下、0.05重量%以下又は更には0.01重量%以下の濃度で水を含んでもよい。
【0053】
任意選択成分
本発明の組成物は、シリルヒドリド、アルファ-ベータ不飽和エステル、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアからなってもよい。あるいは、本発明の組成物は、1つの任意選択成分又は2つ以上の任意選択成分の組み合わせを更に含んでもよい。任意選択成分は、組成物の重量に基づいて、望ましくは50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は更には1重量%以下の濃度で存在する。
【0054】
可能な任意選択成分の例としては、ヒドロカルビル溶媒(典型的には、組成物重量に基づいて10重量%以下、5重量%以下、更には1重量%以下の濃度で)、カーボンブラック又は二酸化チタンなどの顔料、SiO2を含む金属酸化物などの充填剤(典型的には、組成物重量に基づいて50重量%以下の濃度で)、水分捕捉剤(moisture scavengers)、蛍光増白剤、安定剤(酸化防止剤及び紫外線安定剤など)、及び腐食防止剤からなる群から選択される1つの成分又は2つ以上の成分の組み合わせが挙げられる。本発明の組成物はまた、いずれか1つのこのような追加成分又は2つ以上のこのような追加成分のいずれかの組み合わせを含まなくてもよい。
【0055】
特に、本発明の組成物は、組成物重量に対して1重量%以下、0.5重量%以下の水を含有してもよい。望ましくは、組成物は、水を含まない。
【0056】
化学反応プロセス
本発明は、(a)本発明の組成物を提供するステップと、(b)組成物を、B-FLPからルイス酸を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む、化学反応プロセスを含む。本発明の組成物を加熱すると、ルイス酸は、B-FLPから放出され、上記に述べたように、シリルヒドリドとアルファ-ベータ不飽和エステルとの反応を触媒する。本発明の組成物は、B-FLP、シリルヒドリド、及びアルファ-ベータ不飽和エステルを一緒に混合することによって、ステップ(a)において提供され得る。上述したように、シリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルは、同じ分子であってもよい。
【0057】
化学反応プロセスは、水の非存在下で、又は、ステップ(a)で提供される組成物の重量に基づいて、1重量パーセント(重量%)以下、0.75重量%以下、0.5重量%以下、0.25重量%以下、0.1重量%以下、0.05重量%以下若しくは更には0.01重量%以下である水の濃度で実行することができる。
【0058】
組成物は、例えば、熱トリガされる硬化反応を起こすコーティング剤としての用途、又は流体が金内に配置され、加熱されて硬化をトリガして成形物品を形成する、成形用途のための反応性組成物としての用途を有する。このような用途では、本発明のプロセスは、ステップ(a)の後及びステップ(b)の前に、組成物が、基材に適用されるか、又は金内に配置されるステップを更に含む。
【実施例
【0059】
材料
MD50MA 2.6Mは、以下の構造を有する:
(CHSiO1/2((CHSiO2/250((CH)(CHCHCHOC(O)C(CH)CH)SiO2/22.61/2Si(CH
以下の方法でMD50MA 2.6Mを調製する:熱電対、機械的撹拌機、Dean Starkトラップ適応水冷凝縮器及び窒素バブラーを備えた1リットルの四つ口フラスコを準備する。466.6gのシラノール末端ポリジメチルシロキサン(Dow Chemical Companyから入手可能なXIAMETER(商標)PMX-0930)、75.8gの3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(Gelest)、21.4gのDow Corning 200流体(0.65 cSt)、及び124gのヘプタンをフラスコに投入する。激しく撹拌しながら、0.40ミリリットル(mL)のトリフル酸をフラスコに添加する。76℃まで加熱する。Dean Starkトラップ内に水、メタノール、及びヘプタンを回収する。約4時間後に、還流温度は、117℃に上昇する。熱源を除去し、15.6gの炭酸カルシウム及び32gの硫酸ナトリウムを、溶液温度101℃でフラスコに添加する。ポット温度を23℃に冷却する。フラスコ内容物を2時間撹拌した後、0.45マイクロメートルのフィルター膜を通して、フラスコ内容物を濾過する。濾液を80℃及び1トル未満の圧力で30分間ロータリーエバポレータにかけ(Rotovap)、透明かつ無色の液体として456.7gのMD50MA 2.6Mを得る。
【0060】
MD166MA 14Mは、以下の構造を有する:
(CHSiO1/2((CHSiO2/2166((CH)(CHCHCHOC(O)C(CH)CH)SiO2/2141/2Si(CH
以下の方法でMD166MA 14Mを調製する:熱電対、機械的撹拌機、Dean Starkトラップ適応水冷凝縮器及び窒素バブラーを備えた1リットルの四つ口フラスコを準備する。558.9gのシラノール末端ポリジメチルシロキサン(Dow Chemical Companyから入手可能なXIAMETER(商標)PMX-0930)、18.5gの3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン(Gelest)、6.1gのDow Corning 200流体(0.65 cSt)、及び121gのヘプタンをフラスコに投入する。激しく撹拌しながら、0.35ミリリットル(mL)のトリフル酸をフラスコに添加する。73℃まで加熱する。Dean Starkトラップ内に水、メタノール、及びヘプタンを回収する。約1時間後に、還流温度は、90 ℃に上昇する。11.0gの水をフラスコに添加し、共沸蒸留プロセスを継続する。約2時間後に、還流温度は、96℃に上昇する。熱源を除去し、22.8gの炭酸カルシウム及び50gの硫酸ナトリウムを、フラスコに添加する。ポット温度を23℃に冷却する。フラスコ内容物を3時間撹拌した後、0.45マイクロメートルのフィルター膜を通して、フラスコ内容物を濾過する。濾液を80℃及び1トル未満の圧力で1時間ロータリーエバポレータにかけ、透明かつ無色の液体として586.9gのMD166MA 14Mを得る。
【0061】
MD 65Mは、以下の構造を有し:
(CHSiO1/2(CHHSiO2/2651/2Si(CH
以下のプロセスによって得ることができる:機械的撹拌機を三つ口フラスコに固定し、40グラム(g)の脱イオン水、10gのヘプタン、及び0.05gのトシル酸を添加する。200gのメチルジクロロシランと10gのトリメチルクロロシランとの混合物を攪拌しながら、これに30分かけて滴下する。23℃で更に60分間撹拌する。反応溶液を各回50ミリリットル(mL)の脱イオン水で3回洗浄する。溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、活性炭を通して濾過する。ロータリーエバポレータにかけることにより揮発物を除去して、MD 65Mシリルヒドリドを得る。
【0062】
B-FLP(1).グローブボックス内で、磁気撹拌棒を装着したシュレンクフラスコに、トリ(t-ブチル)ホスフィン(200ミリグラム(mg)、1.0ミリモル(mmol)、1当量(equiv))及びトリス-ペンタフルオロフェニルボラン(500mg、1mmol、1当量)を入れ、成分を10ミリリットル(mL)のトルエンに溶解する。シュレンクフラスコを封止し、グローブボックスから取り出す。シュレンクフラスコをシュレンクラインに接続する。次のステップの間全体にわたって、シュレンクフラスコの内容物を撹拌する。シュレンクラインを窒素でパージし、次いで、ライン中を通る、二酸化炭素を2分間バブリングする。シュレンクフラスコを二酸化炭素雰囲気にさらし、次いで、フラスコのキャップをセプタムと交換する。セプタムを通して針を挿入し、二酸化炭素ガスの出口を作りだし、二酸化炭素循環を改善する。5分後、反応混合物から白色固形物が沈殿する。フラスコを封止し、室温で更に1時間撹拌する。フラスコをグローブボックスに移動させる。20mLのヘキサンを添加し、ガラスフリットを通した濾過によって白色固形物を単離する。白色固形物をヘキサンで3回洗浄する(各回10m)。白色固形物は、B-FLP(1)(540mg、収率71%)である。B-FLP(1)は、UV光に曝露されたときであっても分解せずに保存することができる。H、31P、及び11B核磁気共鳴スペクトル法(NMR)によって固形物を特定して、不純物及び出発材料の不存在を確認する。B-FLP(1)の予想される反応及び構造は、以下のとおりである。
【化9】
【0063】
硬化時間法
23℃での硬化(ゲル)時間を決定するために、組成物がゲルになるまで23℃で調製及び保存された反応組成物を監視する。硬化時間は、ゲルを形成するのに必要な時間である。試料ゲルの流動性を監視することによって、試料がゲル化する時点を判定する。バイアルを反転させ、内容物を見て、それが流動しているかどうかを判定することによって、バイアルの内容物の流動性を確認する。8時間の時間間隔で、及び24時間の間隔よりも後に流動性を確認する。反転時にバイアル内容物が1~2秒で流動することができないことによって証明されるように、ゲル化が生じる時間を記録する。試験中、組成物は、周囲(紫外線を含む)光にさらされる。
【0064】
90℃での硬化時間を決定するために、125マイクロメートルの反応組成物フィルムをグラシン放出フィルム基材上に引き伸ばし、90℃のオーブンに入れる。フィルムが90℃でゲルになるのに要する時間。
【0065】
比較例(Comp Ex)A:ルイス酸なしの反応物
1.68gのMD 65M及び10gのMD50MA 2.6Mを歯科用カップ内で混合し、Si-H対アルファ-ベータ不飽和エステル基のモル比3を有する混合物を形成する。得られた混合物は、23℃で硬化するのに5日超を要し、90℃にて1時間で硬化しない。
【0066】
比較例Aは、シリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルが、それ自体で23℃又は90℃で硬化しないことを示す。
【0067】
比較例B:トリス-ペンタフルオロフェニルボランを有する反応物
1.68gのMD 65M及び10gのMD50MA 2.6Mを歯科用カップ内で混合し、Si-H対アルファ-ベータ不飽和エステル基のモル比3を有する混合物を形成する。100万重量部の混合物当たり500重量部の、トルエン中に溶解したトリス-ペンタフルオロフェニルボランを添加して、反応組成物を形成する。得られた反応組成物は、23℃にて4~5時間で、及び90℃にて5分間で硬化する。
【0068】
比較例Bは、シリルヒドリド及びアルファ-ベータ不飽和エステルが、500ppmのルイス酸触媒の存在下、23℃で貯蔵安定性ではないことを示す。
【0069】
実施例(Ex)1
1.68gのMD 65M及び10gのMD50MA 2.6Mを歯科用カップ内で混合し、混合物を形成する。100万重量部の混合物当たり500重量部の、トリス-ペンタフルオロフェニルボランを提供するのに十分なB-FLP(1)(トルエン中に溶解)を添加して、Si-H対アルファ-ベータ不飽和エステル基のモル比3を有する反応組成物を形成する。得られた反応組成物は、23℃にて5日間超で、及び90℃にて20分間で硬化する。実施例1は、ルイス酸をB-FLPとして導入することによって、反応混合物が23℃で貯蔵安定性であるが、90℃ではなお迅速に反応することを示す。
【0070】
実施例2
1.68gのMD 65M及び10gのMD166MA 14Mを歯科用カップ内で混合し、Si-H対アルファ-ベータ不飽和エステル基のモル比3を有する混合物を形成する。100万重量部の混合物当たり500重量部の、トリス-ペンタフルオロフェニルボランを提供するのに十分なB-FLP(1)(トルエン中に溶解)を添加して、反応組成物を形成する。得られた反応組成物は、23℃にて5日間超で、及び90℃にて20分間で硬化する。実施例2は、ルイス酸をB-FLPとして導入することによって、反応混合物が23℃で貯蔵安定性であるが、90℃ではなお迅速に反応することを示す。