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特許7560490Si-Hとエポキシドとの反応のための熱誘発としての架橋型フラストレイテッドルイスペア
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】Si-Hとエポキシドとの反応のための熱誘発としての架橋型フラストレイテッドルイスペア
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/05 20060101AFI20240925BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240925BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08L83/05
C08L63/00 A
C08K5/55
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021571830
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 US2020035645
(87)【国際公開番号】W WO2020247338
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】62/856,774
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クルトマンシュ、マーク-アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ウンシル
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ、ヤンフー
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0031932(US,A1)
【文献】特開2016-074633(JP,A)
【文献】特開2001-226458(JP,A)
【文献】特開2000-234015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G 59/00- 59/72
77/00- 77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリルヒドリド、エポキシド、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの混合物を含む、組成物であって、
前記架橋型フラストレイテッドルイスペアが、
(a)フッ素化アリールボランであるルイス酸と、
(b)以下の構造:PR (式中、Rは、各出現において独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択される)を有する分子からなる群から選択されるルイス塩基と、
(c)前記ルイス酸及びルイス塩基に結合する架橋分子であって、二酸化炭素である架橋分子と、を含む、
組成物。
【請求項2】
前記組成物が、遷移金属を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(a)請求項1又は2に記載の組成物を提供するステップと、
(b)前記組成物を、前記架橋型フラストレイテッドルイスペアから前記ルイス酸を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む、ヒドロシリル化プロセス。
【請求項4】
ステップ(a)が、前記架橋型フラストレイテッドルイスペア、シリルヒドリド及びエポキシドを一緒に混合することを含む、請求項に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップ(a)の後及びステップ(b)の前に、前記組成物が、基材に塗布されるか、又は金型内に配置される、請求項3又は4に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の分野
本発明は、シリルヒドリドとエポキシドとの化学反応のための熱誘発としての架橋型フラストレイテッドルイスペア(bridged frustrated Lewis pair)の使用に関する。架橋型フラストレイテッドルイスペアは、加熱すると解離して、ルイス酸を放出する。ルイス酸は、シリルヒドリドとエポキシドとの化学反応のための触媒として機能する。
【0002】
序論
フラストレイテッドルイスペア(「FLP」)は、ルイス酸及びルイス塩基のペアのうち、立体的混雑(steric congestion)により、ルイス酸及びルイス塩基が互いに錯体化及び中和することができないペアを指す用語である。FLPのルイス酸及びルイス塩基は混合されると、混合して互いを中和するのではなく、互いから独立した状態を保つ。更に、FLPは、架橋型フラストレイテッドルイスペア(「B-FLP」)の形態で互いに間接的に結合することが見出されており、B-FLPでは、架橋分子がFLPの酸及び塩基の両方に結合し、ルイス酸とルイス塩基との間に架橋分子をもつ錯体を形成する。場合によっては、架橋分子の一部が、ルイス酸及びルイス塩基の各々と錯体化(complexed)し、更なる錯体化又は反応をブロックしている状態で、架橋分子は開裂し、ブロックされたルイス酸及びブロックされたルイス塩基を生成することができる。水素(H)は、B-FLPを形成すると、このような様式で開裂する架橋分子の一例である。
【0003】
B-FLPは、化学反応に使用する架橋分子を活性化するために使用されてきた。例えば、水素(H)は、水素添加反応に使用する水素を活性化するために、B-FLP中の架橋分子として使用され(例えば、JACS 2015,137,10018-10032を参照されたい)、二酸化炭素は、脱酸素ヒドロシリル化の二酸化炭素を活性化するために、B-FLP中の架橋分子として使用されてきた(例えば、JACS 2010,132,10660-10661を参照されたい)。化学反応のために活性化するのに使用するB-FLP中の架橋分子として使用される他の分子としては、亜酸化窒素(NO)、二酸化硫黄(SO)、アルケン、及びアルキンが挙げられる。例えば、Angew.Chem.Int.Ed.2009,48,6643-6646、Angew.Chem.Int.Ed.2015,54,6400-6441及びJACS 2015,137,10018-10032を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にこのような使用が架橋分子を伴う化学反応以外の化学反応を制御することを可能にする場合は、B-FLPの追加の使用を発見することは、驚くべきことであり、有用である。
【0005】
本発明は、シリルヒドリド(Si-H)とエポキシド官能基との付加反応の熱誘発として、B-FLPの驚くべきかつ予想外の使用を提供する。
【0006】
ヒドロシリル化反応などの付加反応は、典型的には、遷移金属触媒の存在を必要とする。しかしながら、シリルヒドリド及びエポキシド官能基は、遷移金属触媒を必要とせずにルイス酸触媒の存在下で付加反応を起こすことが発見された。ルイス酸は、Piers-Rubinsztajn(「PR」)反応として知られるものであるシリルヒドリドとシリルエーテルとの反応を触媒することが知られている。しかしながら、PR反応とは異なり、シリルヒドリドとエポキシとの本反応は、シリルエーテルを必要とせず、本反応は、PR反応のようなガス状副生成物も生成しない。本発明はまた、遷移金属触媒を必要としないため、典型的な付加反応に勝る利点も提供する。
【0007】
PR反応と同様に、シリルヒドリドとエポキシドとのルイス酸触媒付加反応は、コーティング、接着剤、エラストマー、及び発泡用途においてシロキサンを硬化させるために望ましい場合がある。しかしながら、エポキシド/シリルヒドリド反応は急速である傾向があるため、それらの使用は、反応が所望されるまで、ルイス酸触媒がSi-H及び/又はエポキシドから離しておく二液型系(two-part system)として、反応系を供給及び貯蔵する必要がある。1成分系(one-component system)は、2液型系よりも取り扱いが容易であり、かつ望ましいため、反応成分を1液型系(one-part system)で一緒に組み合わせることができるが、誘発温度に加熱しない限りすぐにゲルに硬化しないことが望ましい。理想的には、1液型系は、保管のために貯蔵安定性であるか、又はハンドリング性時間を長くするために少なくとも23℃で遅延硬化を経験するが、系を急速に硬化させるために所望に応じて付加反応を誘発する手段を含む。
【0008】
PR反応性物質の系が存在し、その系では、ルイス酸触媒は、UV光で照射するまで触媒がPR反応を起こさないようにする紫外線(UV)感光性ブロッキング剤と錯体化する。しかしながら、このような系は、貯蔵安定性のために暗所に保管される必要があり、硬化を開始するためにUV光に曝露されなければならない。系内の反応を誘発するために、暗所で保管する必要性を回避し、光に曝露することが望ましい場合がある。
【0009】
本発明は、誘発温度に加熱すると熱により放出される潜在的なルイス酸触媒として、B-FLPがシリルヒドリド/エポキシド反応系において使用できることを発見した結果である。すなわち、B-FLPは、シリルヒドリド及びエポキシドと組み合わせて、貯蔵安定性であるか、又は23℃で少なくとも反応性が遅延しているが、加熱すると急速に反応し、B-FLPからルイス酸を放出する安定な1液型反応系を形成することができる。加熱すると、ルイス酸はB-FLPから解離し、ルイス酸が、シリルヒドリドとエポキシドとの付加反応を開始する反応触媒として作用することを可能にする。望ましくは、本発明の組成物は、ルイス酸を非ブロックすることによって反応を誘発することなく、UV光に曝露されてもよい。
【0010】
B-FLPは、いったん破壊されると再混合しにくいため、特に効率的なトリガ剤であることが見出された。これは、ルイス酸が遊離すると、B-FLPの再形成によって阻害されることなく反応を触媒し続けることを意味する。すなわち、ルイス塩基が溶液中に残留し、遊離ルイス酸と再混合して、ルイス酸を中和することができるため、ルイス塩基で直接阻害されたルイス酸に比べて利点である。B-FLPは、ルイス酸と塩基との間の架橋錯体の再形成を必要とし、この再形成はランダムに起こる可能性がはるかに低い。これは、ガス状であり、B-FLPが破壊されると反応系から避けてしまうものなどの、不安定な架橋分子に特に当てはまる。結果として、B-FLPの使用により、十分に加熱してB-FLPを解離させると、酸触媒は本質的に不可逆的に放出され、急速な反応を触媒することが予想されるため、触媒阻害剤を形成することなく、反応を不可逆的に誘発することに対する前例のない制御を提供する。
【0011】
第1の態様では、本発明は、シリルヒドリド、エポキシド、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの混合物を含む組成物である。
【0012】
第2の態様では、本発明は、(a)第1の態様の組成物を提供するステップと、(b)組成物を、架橋型フラストレイテッドルイスペアからルイス酸を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む化学反応プロセスである。
【0013】
本発明は、コーティング、接着剤、及びエラストマーを調製するために有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
試験方法は、日付が試験方法番号と共に示されていない場合、本文書の優先日現在での直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含む。本明細書では、以下の試験方法の略語及び識別子が適用される。ASTMは、ASTMインターナショナル(ASTM International)を指し、ENは欧州規格(European Norm)を指し、DINは、ドイツ規格協会(Deutsches Institut fuer Normung)を指し、ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)を指す。
【0015】
商品名で識別される製品は、本出願の優先日に、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0016】
「複数の」とは、2つ以上を意味する。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、端点を含む。商品名で識別される製品は、本明細書に別途記載のない限り、本文書の優先日において、それらの商品名でサプライヤーから入手可能な組成物を指す。
【0017】
本発明の組成物は、シリルヒドリド、エポキシド、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの混合物を含む。組成物は、貯蔵安定性であるか、又は23℃で少なくとも遅延ゲル化を経験するが、ゲルを2分以内、好ましくは1分以内、更により好ましくは30秒以下で加熱すると、1液型反応系として有用である。「遅延ゲル化」は、ゲル化に23℃で3分以上かかることを意味する。「貯蔵安定性」とは、組成物が23℃で5時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは15時間以下、更により好ましくは24時間以下、その上より好ましくは1週間以下でゲル化しないことを意味する。
【0018】
「シリルヒドリド」は、ケイ素-水素(Si-H)結合を含有する分子であり、複数のSi-H結合を含有することができる。
【0019】
「アルキル」は、水素原子を除去することによってアルカンから誘導される炭化水素基である。「置換アルキル」は、少なくとも1つの炭素又は水素の代わりに炭素及び水素以外の原子、又は化学的部分を有するアルキルである。
【0020】
「アリール」は、水素原子を除去することによって芳香族炭化水素から誘導される基である。「置換アリール」は、少なくとも1つの炭素又は水素の代わりに炭素及び水素以外の原子、又は化学的部分を有するアリールである。
【0021】
「エポキシド」は、少なくとも1つを含有し、かつ2つ以上のエポキシド官能基を含有してもよく、「エポキシド官能性」(又は「エポキシド官能基」)が、2つの炭素原子及び1つの酸素原子を含有する3員環である。
【0022】
「フラストレイテッドルイスペア」、又は「FLP」は、ルイス酸及びルイス塩基が、その立体的混雑により、互いに錯体化及び完全中和(「ブロック」)を不可能にするルイス酸及びルイス塩基の系である。FLPは、当該技術分野において既知であり、JACS 2015,137,10018-10032などの論文及びその中で識別された論文で特徴付けられる。望ましくは、FLPは、混雑(congestion)により、摂氏20度(℃)で錯体化及び中和を不可能にするルイス酸及びルイス塩基の系である。FLPは、当該技術分野において既知であるが、任意のルイスペアが、両方を溶解する溶媒中で、等モル量のルイス酸とルイス塩基とを20℃で組み合わせることによって、FLPであるかどうかを判定することができる。ルイス酸及びルイス塩基の10モルパーセント超が解離したままである場合、そのとき、ルイス酸及びルイス塩基は、FLPとみなすことができる。核磁気共鳴分光法、又は好ましくは導電率検出器若しくは光度検出器を用いたイオンクロマトグラフィなどの合理的な任意の手段によって解離の程度を判定する。
【0023】
本発明の組成物を加熱すると、B-FLPは、新たなシロキシ(Si-O)結合を形成するエポキシドとシリルヒドリドとの反応を触媒するルイス酸を放出する。組成物を80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上の温度に加熱し、同時に、一般に、300℃以下、250℃以下、240℃以下、230℃以下、220℃以下、210℃以下、200℃以下、175℃以下、150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、110℃以下、又は更に100℃以下では、2分以下、好ましくは1分以下、及び更により好ましくは30秒以下で、組成物中の成分を反応及び硬化させる。
【0024】
エポキシドとシリルヒドリドとの反応は、以下の反応によって一般に表されるエポキシド官能基間の付加反応である。
【化1】
【0025】
本発明の組成物は、遅延ゲル化を提供し、望ましくは貯蔵安定性である。
【0026】
エポキシド
エポキシドは、1つ又は2つ以上のエポキシド官能基を有する任意の化合物であってもよいエポキシドは、例えば、1つ又は2つ以上のシロキサン(Si-O-Si)結合の形態のケイ素原子を含むことができる。エポキシドは、複数のシロキサン結合を有し、1つ又は2つ以上のエポキシド官能基を有するポリシロキサンであってもよい。
【0027】
ポリシロキサンは、複数のシロキサン結合を含有し、ポリシロキサンを構成するシロキシ(SiO)基によって特徴付けられてもよい。シロキシ基は、M型、D型、T型、又はQ型である。M型シロキシ基は、シロキシ基に結合した別の原子と共有される酸素原子に加えて、ケイ素原子に結合した3つの基が存在する≡SiO1/2として記載されてもよい。D型シロキシ基は、シロキシ基に結合した他の原子と共有される2つの酸素原子に加えて、ケイ素原子に結合した2つの基が存在する=SiO2/2として記載されてもよい。T型シロキシ基は、シロキシ基に結合した他の原子と共有される3つの酸素原子に加えて、1つの基がケイ素原子に結合している-SiO3/2として記載されてもよい。Q型シロキシ基は、ケイ素原子が、シロキシ基に結合した他の原子と共有される4つの酸素原子に結合しているSiO4/2として記載されてもよい。ケイ素原子に結合した基は、特に指定されない限り、メチル基とみなされる。例えば、「M」基は、トリメチルシロキシと同じである。「M」基は、2つのメチル基及びシロキシ基に結合した水素を有する。エポキシ官能性ポリシロキサンは、一般に、ポリシロキサンのケイ素原子に結合したエポキシ官能基を含有する有機基を有する。
【0028】
本発明に使用する好適なポリシロキサンエポキシドの例としては、以下の任意の1つ又は任意の組み合わせ又は2つ以上が挙げられる。
【0029】
MDCEP M、式中、下付き文字aは、Dシロキシ単位の平均数であり、典型的には、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、80以上90以上100以上110以上の値であり、同時に、一般に150以下、140以下、130以下、120以下であり、110以下、100以下、90以下、80以下、及び更には70以下であってもよく、下付き文字bは、1分子当たりのDCEPシロキシ単位の平均数であり、典型的には、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上の値であり、同時に、典型的には20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、又は更に8以下であり、DCEPは、Dシロキシ単位であり、メチル基のうちの1つは、環状エポキシド基、好ましくは末端環状エポキシド基を有するペンダント構造で置き換えられる。例えば、DHEPは、Dシロキシ単位であるDCEPであり、メチル基のうちの1つは、エチル-シクロヘキセンオキシドで置き換えられる。
【化2】
【0030】
MDEP b’M、式中、下付き文字aは、1分子当たりのDシロキシ単位の平均数であり、上記で定義したとおりであり、下付き文字b’は、1分子当たりのDEPシロキシ単位の平均数であり、典型的には、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、又は10以上の値であり、同時に、典型的には20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、又は更に8以下であり、DEPは、Dシロキシ単位であり、メチル基のうちの1つは、直鎖状エポキシド基、好ましくは末端エポキシド基を有するペンダント構造で置き換えられる。DEP単位の例を以下に示す。
【化3】
【0031】
CEPCEP、式中、下付き文字cは、1分子当たりのDシロキシ単位の平均数であり、典型的には5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上、55以上、又は60以上の値を有し、同時に、典型的には100以下、90以下、80以下、70以下、65以下、又は60以下の値を有し、MCEPは、Mシロキシ単位であり、メチル基のうちの1つは、環状エポキシド基、好ましくは末端環状エポキシド基で置き換えられる。例えば、MHEPは、Mシロキシ単位であり、メチル基のうちの1つは、エチル-シクロヘキセンオキシドで置き換えられる。
【化4】
【0032】
EP 、式中、下付き文字x及びcは、1分子当たりの対応するシロキシ単位の平均モル数に対応し、下付き文字「x」は、典型的には6以上、7以上8以上9以上、及び更に10以上の値を有するが、同時に、典型的には20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、15以下、14以下、13以下、12以下、11以下、10以下、9以下、又は更に8以下の値を有し、下付き文字「c」は、典型的には、MHEPHEPについて上記下付き文字cに定義した値を有し、DEPは、上記で定義したとおりであり、T末端基を有する環状の環を形成する。
【0033】
エポキシドは、直鎖状エポキシド基若しくは環状エポキシド基、又は直鎖状及び環状エポキシド基の両方を含有してもよい。直鎖状エポキシド基は、エポキシド官能基の炭素原子を含有するが、3員環状エポキシド官能基を形成するように互いに直接結合することは、任意の他の方法で互いに直接的又は間接的に接続されていない。「環状エポキシド」基は、エポキシド官能基の炭素原子を含有しており、これらの炭素原子は、両方が互いに直接結合して3員環状エポキシド官能基を形成しており、また、直接又はより典型的には、他の原子を介して間接的に、第2の結合又は結合鎖内で互いに結合している。例えば、上記で特定されたDHEP単位のシクロヘキセンオキシド基は、2つのエポキシド官能基の炭素が互いに直接結合し、また、6員環の4つの他の炭素を介して間接的にも結合するため、「環状」エポキシドである。対照的に、上記で特定されたDEP単位は、2つのエポキシド官能基の炭素がエポキシド官能基中で直接にしか互いに結合しないため、「直鎖状」エポキシドを含有する。
【0034】
典型的には、組成物中のエポキシドの濃度は、シリルヒドリド、エポキシド、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの総合重量に基づいて、70重量パーセント(重量%)以上、75重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、更には90重量%以上であるが、同時に、典型的には90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、又は更には75重量%以下である。
【0035】
シリルヒドリド
シリルヒドリドは、1つ、好ましくは2つ以上のSi-H結合を含有する。Si-H結合は、典型的には、ポリシラン(複数のSi-H結合を含有する分子)又はポリシロキサンの一部である。複数のSi-H結合を含有するシリルヒドリドは、複数のエポキシド基と反応可能であるため、本発明の組成物中の架橋剤として望ましい。
【0036】
本発明のシリルヒドリドは、ポリマーであってもよい。シリルヒドリドは、直鎖状、分枝状であってもよく、又は直鎖状及び分枝状シリルヒドリドの組み合わせを含有してもよい。シリルヒドリドは、ポリシラン、ポリシロキサン、又はポリシランとポリシロキサンとの組み合わせであってもよい。
【0037】
望ましくは、シリルヒドリドは、1つのSi-H結合又は2つ以上のSi-H結合を有するポリシロキサン分子である。シリルヒドリドがポリシロキサンである場合、Si-H結合は、M型又はD型シロキサン単位のケイ素原子上にある。ポリシロキサンは、直鎖状であってもよく、M型及びD型単位のみを含んでもよい。あるいは、ポリシロキサンは、分枝状であってもよく、T(-SiO3/2)型及び/又はQ(SiO4/2)型単位を含有してもよい。
【0038】
好適なシリルヒドリドの例としては、商品名DMS-HM15、DMS-H03、DMS-H25、DMS-H31、及びDMS-H41でGelestから入手可能なものなどの、ペンタメチルジシロキサン、ビス(トリメチルシロキシ)メチル-シラン、テトラメチルジシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、D含有ポリ(ジメチルシロキサン)(例えば、MD 65M)、及びヒドリド末端ポリ(ジメチルシロキサン)が挙げられる。
【0039】
シリルヒドリドの濃度は、典型的には、0.2以上、0.5以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.2以上、1.4以上、1.6以上、1.8以上、2.0以上、2.2以上、更には2.5以上である、Si-H基のエポキシド基に対するモル比を提供するのに十分であるが、同時に、典型的には5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.8以下、2.5以下、2.3以下、2.0以下、1.8以下、1.6以下、1.4以下、1.2以下、又は更には1.0以下である。
【0040】
エポキシド又はシリルヒドリド(又はその両方)は、反応において架橋剤として機能することができる。架橋剤は、1分子中に少なくとも2つの反応性基を有し、これらの反応性基を介して2つの異なる分子と反応して、それらの分子を一緒に架橋する。架橋剤中の反応性基間の直鎖の長さを増加させることは、得られた架橋物の可撓性を増加させる傾向がある。対照的に、架橋剤中の反応性基間の直鎖の長さを短くすることは、得られた架橋物の可撓性を低減させる傾向がある。一般に、より高い可撓性の架橋物を得るためには、直鎖状架橋剤が所望され、反応性部位間の長さは、所望の可撓性を得るように選択される。より低い可撓性の架橋物を得るためには、架橋分子間の可撓性を低減させるのにより短い直鎖状架橋剤又は更には分枝状架橋剤が所望される。
【0041】
シリルヒドリドは、エポキシドと同じ分子であってもよく、すなわち、エポキシド及びシリルヒドリド官能基の両方を含有する単一分子は、シリルヒドリド及びエポキシドの両方としてロールを提供することができる。あるいは、シリルヒドリドは、エポキシドとは異なる分子であってもよい。シリルヒドリドは、エポキシド基を含まなくてもよい。エポキシドは、シリルヒドリド基を含まなくてもよい。
【0042】
本発明の組成物(及び反応プロセス)は、2つ以上のシリルヒドリド、2つ以上のエポキシド、並びに/又はシリルヒドリド及びシロキサンの両方として機能する2つ以上の成分を含むことができる。
【0043】
典型的には、組成物中のシリルヒドリドの濃度は、シリルヒドリド、エポキシド、及び架橋型フラストレイテッドルイスペアの総合重量に基づいて、5重量%以上、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、更には25重量%以上であるが、同時に、典型的には30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は更には5重量%以下である。
【0044】
架橋型フラストレイテッドルイスペア
架橋型フラストレイテッドルイスペア(「B-FLP」)は、FLPを含む錯体体であり、FLPのルイス酸及びルイス塩基は、両方とも架橋分子に結合して、ルイス酸とルイス塩基との間に存在する(すなわち、「架橋」)架橋分子と中和された錯体を形成する。Hの場合のように、架橋分子の一部がルイス酸をブロックし、架橋分子の別の部分がルイス塩基をブロックしている状態で、架橋分子は開裂することができる。あるいは、好ましくは、架橋分子はそのまま維持され、B-FLPは、FLPのルイス酸及びFLPのルイス塩基に同時に結合した架橋分子と安定した錯体(少なくとも23℃で)である。
【0045】
ルイス酸は、アルミニウムアルキル、アルミニウムアリール、トリアリールボランを含むアリールボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを含むフッ素化アリールボランなどの置換アリール及びトリアリールボランを含む)、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化アルミニウム、ガリウムアルキル、ガリウムアリール、ハロゲン化ガリウム、シリウムカチオン、及びホスホニウムカチオンからなる群から選択される。好適なアルミニウムアルキルの例としては、トリメチルアルミニウム及びトリエチルアルミニウムが挙げられる。好適なアルミニウムアリールの例としては、トリフェニルアルミニウム及びトリス-ペンタフルオロフェニルアルミニウムが挙げられる。トリアリールボランの例としては、以下の式:
【化5】
(式中、Rは、各出現において独立して、H、F、Cl、及びCFから選択される)を有するものが挙げられる。好適なハロゲン化ホウ素の例としては、(CHCHBCl及びボロントリフルオリドが挙げられる。好適なハロゲン化アルミニウムの例としては、三塩化アルミニウムが挙げられる。好適なガリウムアルキルの例としては、トリメチルガリウムが挙げられる。好適なガリウムアリールの例としては、トリフェニルガリウムが挙げられる。好適なハロゲン化ガリウムの例としては、トリクロロガリウムが挙げられる。好適なシリウムカチオンの例としては、(CHCHSi及びPhSiが挙げられる。好適なホスホニウムカチオンの例としては、F-P(C が挙げられる。
【0046】
ルイス塩基は、以下の塩基:PR、P(NR、NR、N(SiR3-x、RC(NR)N、P(N-R)R、グアニジン(C(=NR)(NR)、アミジン(RC(=NR)NR)、ホスファゼン、及び
【化6】
(式中、Rは、各出現において独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択される)からなる群から選択される。
構造PRの好適なルイスベイス(Lewis basis)の例としては、トリ(t-ブチル)ホスフィン、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン、PhP(tBu)、(シクロヘキシル)P(tBu)、nBuP(tBu)、Me(tBu)、tBuP(i-Pr)、P(C11、P(iBu)、及びP(n-Bu)が挙げられる。構造RC(NR)Nの好適なルイスベイスの例としては、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ4.4.0デカ-5-エン、2,3,4,6,7,8,9,10-オクタヒドロピリミドール[1,2-a]アゼピン(DBU)が挙げられる。好適なグアニジンの例としては、グアニジン、ビグアニジン、及び1,1-ジメチルグアニジンが挙げられる。好適なアミジンの例としては、ジエチルアミド、及びジイソプロピルアミドが挙げられる。好適なホスファゼンの例としては、tert-ブチルイミノ-トリ(ピロリジノ)ホスホン、tert-オクチルイミノ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホレン(phosphorene)、及び2-tert-ブチルイミノ-2-ジエチルアミノ-1,3-ジメチルペルヒドロ-1,3,2-ジアザホスホリンが挙げられる。以下の構造の好適なルイスベイス(Lewis basis)の例としては、
【化7】
1,3-ジメシチル-イミダゾール-4,5-ジヒドロ-2-イリデン、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン、及び1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-4,5-ジヒドロイミダゾール-2-イリデンが挙げられる。
【0047】
本発明の最も広い範囲内の架橋分子としては、B-FLPを形成するために、FLPのルイス酸及びルイス塩基に同時に結合してブロックする任意の分子が挙げられる。架橋分子とルイス酸及びルイス塩基との相互作用は、ルイス酸及びルイス塩基が、23℃で架橋分子(又はその一部)によってブロックされるが、少なくともルイス酸が、120℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは100℃以上、更により好ましくは90℃以上、80℃以上、又は更には70℃以上、同時に、望ましくは300℃以下、240℃以下、220℃以下、200℃以下、180℃以下、160℃以下、150℃以下、125℃以下、又は更には100℃以下の温度で非ブロックされるようなものである。B-FLPのルイス酸を非ブロックすることは、23℃でゲル化するのに必要な1/10未満の時間でのB-FLP硬化を含有する本発明の組成物によって証明することができる。
【0048】
好適な架橋分子の例としては、二酸化炭素、水素分子(H)、ニトリル、アルケン、アルキン、ケトン、エステル、及びアルデヒドが挙げられる。望ましくは、架橋分子は、10個以下、好ましくは9個以下の炭素原子を含有し、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、及び更には1個以下又は0個の炭素原子を含有してもよいが、同時に、架橋分子は、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、及び更には6個以上の炭素原子を含有してもよい。本明細書で先に述べたように、架橋分子の一部がルイス酸をブロックし、架橋分子の一部がルイス塩基をブロックしている状態で、B-FLPにおいて、いくつかの架橋分子は開裂することができる。架橋分子は、FLPのルイス酸及びルイス塩基を架橋しながら、非開裂のままであることが好ましい。その点において、架橋分子は、好ましくはHでない。より好ましくは、架橋分子は、FLPのルイス酸及びルイス塩基を架橋しながら開裂するいかなる分子も含まない。
【0049】
B-FLPは、本発明の組成物中で望ましくは「安定」であり、これは、23℃以下の温度で解離してルイス酸を放出しないことを意味する。B-FLPは、30℃以下、50℃以下、70℃以下、更には80℃以下の温度で安定であってもよい。同時に、B-FLPは、120℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは110℃以上、100℃以上、90℃以上、及び更には80℃以上の温度で解離する。B-FLPが、核磁気共鳴分光法(ルイス酸に応じて適宜H及び31P、11B及び/又は27Al)による遊離ルイス酸の証拠を調べることによって解離するかどうかを判定する。あるいは、B-FLPの解離は、所定温度でB-FLPを含まない同一組成物よりも速く硬化する組成物によって検出することができる。
【0050】
B-FLPを調製するための1つの方法は、FLPのルイス酸及びルイス塩基とを、溶媒中の架橋分子と一緒に、23℃で混合することによる。混合することにより、B-FLPの形成を促進する。B-FLPは、通常、溶媒を蒸発させるか、又はB-FLPが溶媒から沈殿した場合、そのとき、濾過することによって溶媒から単離されてもよい。B-FLPは、23℃以下で長期間保存することができる。B-FLPは、シリルヒドリド及びシロキサンと混合して、本発明の組成物を形成することができる。
【0051】
典型的なブロックされたルイス酸系とは対照的に、本発明のB-FLPのルイス酸は、架橋分子を介してルイス塩基と錯体化させ、そのため2分子と錯体化させる。従来技術は、紫外線(UV)光に感光性であるブロッキング剤とルイス酸とを直接錯体化させ、そのためUV光を照射すると、ブロッキング剤がルイス酸から解離することを示唆している。本発明のB-FLPは、UV感光性ブロッキング剤を必要とせず、UV光を照射するとルイス酸をB-FLPから遊離させる成分を含まなくてもよい。本発明のB-FLP及び組成物は、光酸発生剤を含まなくてもよく、UV放射へ曝露するとルイス酸を生成するいかなる他の成分も含まなくてもよい。
【0052】
本発明の組成物は、典型的には、組成物中のシリルヒドリドとエポキシドとの総合重量に基づいて、0.1重量部/百万重量部(ppm)以上、1ppm以上、10ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、200ppm以上、300ppm以上、400ppm以上、500ppm以上、600ppm以上、700ppm以上、800ppm以上、900ppm以上1000ppm以上であるが、同時に、典型的には10,000ppm以下、5,000ppm以下、1,000ppm以下であるルイス酸濃度を提供するのに十分なB-FLPを含有する。
【0053】
本発明の組成物は、UV光に曝露されたときでも貯蔵安定性があるか、又は少なくとも遅延硬化を示す1成分反応系の利点を提供する。望ましくは、本発明のB-FLPの安定性は、UV光への曝露に依存しない(すなわち、これから独立している)。
【0054】
本発明の組成物は、水を含まなくてもよい。あるいは、本発明の組成物は、組成物の重量に基づいて、好ましくは1重量パーセント(重量%)以下、0.75重量%以下、0.5重量%以下、0.25重量%以下0.1重量%以下、0.05重量%以下又は更には0.01重量%以下の濃度で水を含むことができる。
【0055】
任意選択成分
本発明の組成物は、シリルヒドリド、エポキシド、及びB-FLPからなることができる。あるいは、本発明の組成物は、1つの任意選択成分又は2つ以上の任意選択成分の組み合わせを含むことができる。任意選択成分は、組成物の重量に基づいて、望ましくは50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は更には1重量%以下の濃度で存在する。
【0056】
可能な任意選択成分の例としては、ヒドロカルビル溶媒(典型的には、組成物重量に基づいて10重量%以下、5重量%以下、更には1重量%以下の濃度で)、カーボンブラック又は二酸化チタンなどの顔料、SiO2を含む金属酸化物などの充填剤(典型的には、組成物重量に基づいて50重量%以下の濃度で)、水分捕捉剤(moisture scavengers)、蛍光増白剤、安定剤(酸化防止剤及び紫外線安定剤など)、及び腐食防止剤からなる群から選択される1つの成分又は2つ以上の成分の組み合わせが挙げられる。本発明の組成物はまた、このような追加成分を1つ又は2つ以上の組み合わせを含まなくてもよい。
【0057】
特に、本発明の組成物は、組成物重量に対して1重量%以下、0.5重量%以下の水を含有することができる。望ましくは、組成物は、水を含まない。
【0058】
化学反応プロセス
本発明は、(a)本発明の組成物を提供するステップと、(b)組成物を、B-FLPからルイス酸を解離するのに十分な温度に加熱するステップと、を含む化学反応プロセスを含む。本発明の組成物を加熱すると、ルイス酸は、B-FLPから放出され、上記に述べたように、シリルヒドリドとエポキシドとの反応を触媒する。本発明の組成物は、B-FLP、シリルヒドリド、及びエポキシドを一緒に混合することによって、ステップ(a)において提供され得る。上述したように、シリルヒドリド及びエポキシドは、同じ分子であってもよい。
【0059】
化学反応プロセスは、ステップ(a)で提供される組成物の重量に基づいて、水の非存在下で、又は1重量パーセント(重量%)以下、0.75重量%以下、0.5重量%以下、0.25重量%以下、0.1重量%以下、0.05重量%以下若しくは更には0.01重量%以下である水の濃度で実行することができる。
【0060】
組成物は、例えば、熱により誘発される硬化反応を起こすコーティング剤として、又は流体が金型内に配置され、加熱されて硬化を誘発して成形物品を形成する、成形用途のための反応性組成物としての用途を有する。このような用途では、本発明のプロセスは、ステップ(a)の後及びステップ(b)の前に、組成物が、基材に塗布されるか、又は金型内に配置されるステップを更に含む。
【実施例
【0061】
B-FLP(1)の合成.グローブボックス内で、電磁撹拌棒を装着したシュレンクフラスコに、トリ(t-ブチル)ホスフィン(200ミリグラム(mg)、1.0ミリモル(mmol)、1当量(equiv))及びトリス-ペンタフルオロフェニルボラン(「BCF」)(500mg、1mmol、1当量)を入れ、成分を10ミリリットル(mL)のトルエンに溶解する。シュレンクフラスコを封止し、グローブボックスから取り出す。シュレンクフラスコをシュレンクラインに接続する。次のステップの間ずっと、シュレンクフラスコの内容物を撹拌する。シュレンクラインを窒素でパージし、次いで、ライン中の二酸化炭素を2分間気泡化する。シュレンクフラスコを二酸化炭素雰囲気にさらし、次いで、セプタムでフラスコのキャップを交換する。セプタムを通して針を挿入し、二酸化炭素ガスの出口を作りだし、二酸化炭素循環を改善する。5分後、反応混合物から白色固形物が沈殿する。フラスコを封止し、室温で更に1時間撹拌する。フラスコをグローブボックスに移動させる。20mLのヘキサンを添加し、ガラスフリットを通した濾過によって白色固形物を分離する。白色固形物をヘキサンで3回洗浄する(各時間10m)。白色固形物は、B-FLP(1)(540mg、収率71%)である。B-FLP(1)は、UV光に曝露されたときでも分解せずに保存することができる。H、31P、及び11B核磁気共鳴分光法(NMR)によって固形物を特性決定して、不純物及び出発材料の不存在を確認する。B-FLP(1)の予想される反応及び構造は、以下のとおりである。
【化8】
【0062】
B-FLP(2)の合成.グローブボックス内で、電磁撹拌棒を装着したシュレンクフラスコに、トリ(シクロヘキシル)ホスフィン(546ミリグラム(mg)、1.9ミリモル(mmol)、1当量(equiv))及びトリス-ペンタフルオロフェニルボラン(998mg、1.9mmol、1当量)を入れ、成分を10ミリリットル(mL)のトルエンに溶解する。シュレンクフラスコを封止し、グローブボックスから取り出す。シュレンクフラスコをシュレンクラインに接続する。次のステップの間ずっと、シュレンクフラスコの内容物を撹拌する。シュレンクラインを窒素でパージし、次いで、ライン中の二酸化炭素を2分間気泡化する。シュレンクフラスコを二酸化炭素雰囲気にさらし、次いで、セプタムでフラスコのキャップを交換する。セプタムを通して針を挿入し、二酸化炭素ガスの出口を作りだし、二酸化炭素循環を改善する。5分後、反応混合物から白色固形物が沈殿する。フラスコを封止し、室温で更に1時間撹拌する。フラスコをグローブボックスに移動させる。20mLのヘキサンを添加し、ガラスフリットを通した濾過によって白色固形物を分離する。白色固形物をヘキサンで3回洗浄する(各時間10m)。白色固形物は、B-FLP(2)(1.2g、収率76%)である。B-FLP(2)は、UV光に曝露されたときでも分解せずに保存することができる。H、31P、及び11B核磁気共鳴分光法(NMR)によって固形物を特性決定して、不純物及び出発材料の不存在を確認する。B-FLP(2)の予想される反応及び構造は、以下のとおりである。
【化9】
【0063】
MD60.5 7.5Mの合成:機械的撹拌機(mechanical stir)を取り付けた三ツ口フラスコに、60グラムの脱イオン水、15グラムのヘプタン、及び0.075グラムのトシル酸を添加する。270グラムのジメチルジクロロシラン、28グラムのメチルジクロロシラン、及び15グラムのトリメチルクロロシランの混合物を、30分かけて撹拌しながら、反応溶液に滴下する。23℃で1時間撹拌した後、反応溶液を80ミリリットルの脱イオン水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、活性炭層を通して濾過する。ロータリーエバポレータ(Rotovap)によって揮発物を除去して、重合生成物MD60.5 7.5Mを得る。
【0064】
MD60.5EP 7.5Mの合成.500mLの3N乾燥フラスコに、80g(0.118mol SiH)のMD60.5 7.6M、2重量百万分率(ppm)のPt(Karstedt触媒)を、MD60.5 7.6M及び70gのトルエンの重量に対して添加し、続いて80℃に加熱する。20.2g(0.177mol)のAGE(アリルグリシジルエーテル)を30gのトルエン中に80℃で30分以内に滴下し、次いで反応混合物を加熱して(約110℃で)6時間還流する。29Si NMRによって経時的にサンプルを監視すると、反応物がなくなり、反応が完了したときが明らかになる。反応が完了すると、ロータリーエバポレータによって溶媒及び過剰なAGEを除去して、90gの生成物MD60.5EP 7.5Mを収率96%で得る。
【0065】
MD60.5HEP 7.5Mの合成:500mLの3N乾燥フラスコに、110.7g(0.163mol SiH)のMD60.5 7.6M、2ppmのPt(Karstedt触媒)を、MD60.5 7.6M及び80gのトルエンの重量に対して添加し、続いて80℃に加熱する。30.4g(0.245mol)の4-ビニル-シクロヘキセンオキシドを30gのトルエン中に80℃で30分以内に滴下し、次いで反応混合物を加熱して(約110℃で)6時間還流する。29Si NMRによって経時的にサンプルを監視すると、反応物がなくなり、反応が完了したときが明らかになる。反応が完了すると、ロータリーエバポレータによって溶媒及び過剰なAGEを除去して、127gの生成物MD60.5HEP 7.5Mを収率90%で得る。
【0066】
HEP40HEPの合成:500mLの3N乾燥フラスコに、100g(0.6464mol)のM40(GelestからDMS-HM15として市販)、2ppmのPt(Karstedt触媒)を、MD60.5 7.6M及び80mLのトルエンの重量に対して添加し、続いて80℃に加熱する。12g(0.0.097mol)の4-ビニルシクロヘキセンエポキシドを20mLのトルエン中に80℃で25分以内に滴下し、次いで反応混合物を加熱して(約110℃で)6時間還流する。29Si NMRによって経時的にサンプルを監視すると、反応物がなくなり、反応が完了したときが明らかになる。反応が完了すると、ロータリーエバポレータによって溶媒及び過剰なAGEを除去して、103gの生成物MHEP40HEPを収率95%で得る。
【0067】
MD117HEP 11.8M.本材料は、GelestからECMS-924として市販されている。
【0068】
MD 65Mの合成:機械的撹拌機を取り付けた三ツ口フラスコに、40グラムの脱イオン(DI)水、10グラムのヘプタン、及び0.05グラムのトシル酸を添加する。200グラムのメチルジクロロシラン及び10グラムのトリメチルクロロシランの混合物を、30分以内に撹拌しながら、反応溶液に滴下する。23℃で1時間撹拌した後、反応溶液を50mLの脱イオン水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、活性炭層を通して濾過する。ロータリーエバポレータによって揮発物を除去して、重合生成物MD 65Mを得る。
【0069】
試験方法
23℃ゲル化時間.組成物を調製し、バイアル瓶に入れ、バイアル瓶を封止して、23℃で保管する。最初の10分間は1分毎に、次いで最初の1時間は10分毎に、次いで最初の8時間は1時間毎に、次いで24時間毎に、バイアル瓶を反転させる。23℃でのゲル化時間とは、バイアルを反転させる1~2以内に組成物が流動しなくなるほど十分に粘性を帯びるために必要な時間である。試験中、組成物は、周囲(紫外線を含む)光にさらされる。
【0070】
熱硬化時間.組成物を調製し、グラシン紙上に125マイクロメートルの厚フィルムとしてコーティングする。フィルムを指定された温度でオーブンに入れ、最初の1分間は10秒毎に、次いで最初の10分間は1分毎に、次いでその後は10分毎に監視し、フィルムの粘着性がなくなるときを判定する。粘着性がなくなるのに必要な時間は、加熱されている温度の硬化時間である。
【0071】
環状エポキシドを使用する組成物
比較例(Comp Ex)A
23℃でSpeedMixerを使用して、歯科用カップ中でMD60.5HEP 7.5M、MD 65M、及び500ppm(混合物重量に基づく)のBCF(テトラヒドロフラン中の5重量%溶液として送達)を混合することによって混合物を形成する。MD60.5HEP 7.5M及びMD 65Mの量は、1.5:1であるSiH:EPのモル濃度比を提供する。混合物は、23℃でBCFを添加後、1分以内にゲル化した。
【0072】
比較例Aは、エポキシド及びシリルヒドリドがルイス酸の存在下で23℃で急速に反応することを示す。これらは、明らかに、貯蔵安定性の反応性組成物ではない。
【0073】
実施例(Ex)1:MD60.5HEP+MD 65M+B-FLP(1)
500ppmのBCFの代わりに500ppmのB-FLP(1)を使用する以外は、比較例Aを繰り返す。組成物(実施例1)は、20分の23℃でのゲル化時間及び0.2分の95℃での硬化時間を有する。実施例1は、95℃で急速硬化を提供しながら、B-FLPが23℃でゲル化を劇的に遅延させることを示す。
【0074】
実施例2:MD117HEP 11.8M+MD 65M+B-FLP(1)
MD60.5HEP 7.5Mの代わりにMD117HEP 11.8Mを使用する以外は、実施例1を繰り返す。組成物(実施例2)は、2時間の23℃でのゲル化時間及び0.2分の95℃での硬化時間を有する。実施例2は、95℃で急速硬化を提供しながら、B-FLPが23℃でゲル化を劇的に遅延させることを示す。
【0075】
実施例3:MHEP40HEP+MD 65M+B-FLP(1)
MD60.5HEP 7.5Mの代わりにMHEP40HEPを使用する以外は、実施例1を繰り返す。組成物(実施例3)は、3時間の23℃でのゲル化時間及び0.5分の95℃での硬化時間を有する。実施例3は、95℃で急速硬化を提供しながら、B-FLPが23℃でゲル化を劇的に遅延させることを示す。
【0076】
実施例4:MD60.5HEP+MD 65M+B-FLP(2)
B-FLP(1)の代わりにB-FLP(2)を使用する以外は、実施例1を繰り返す。組成物(実施例4)は、4日間にわたる23℃でのゲル化時間、60分にわたる95℃での硬化時間、及び2分の215℃での硬化時間を有する。実施例4は、215℃で急速硬化を提供しながら、B-FLPが23℃でゲル化を劇的に遅延させることを示す。実施例4はまた、B-FLPにおける異なる架橋基が、急速な硬化が発生する温度を調整することができることも示す。急速硬化を達成するためにより高温に加熱する必要があることからも明らかなように、B-FLP(2)の架橋基は、B-FLP(1)の架橋基よりも高い温度でルイス酸(BCF)を放出する。
【0077】
実施例5:MD117HEP 11.8M+MD 65M+B-FLP(2)
B-FLP(1)の代わりにB-FLP(2)を使用する以外は、実施例2を繰り返す。組成物(実施例5)は、4日間にわたる23℃でのゲル化時間、60分にわたる95℃での硬化時間、及び8分の215℃での硬化時間を有する。実施例5は、215℃で急速硬化を提供しながら、B-FLPが23℃でゲル化を劇的に遅延させることを示す。実施例5はまた、B-FLPにおける異なる架橋基が、急速な硬化が発生する温度を調整することができることも示す。急速硬化を達成するためにより高温に加熱する必要があることからも明らかなように、B-FLP(2)の架橋基は、B-FLP(1)の架橋基よりも高い温度でルイス酸(BCF)を放出する。
【0078】
直鎖状エポキシドを使用する組成物
比較例B
MD60.5HEP 7.5Mの代わりにMD60.5EP 7.5Mを使用する以外は、比較例Aを繰り返す。混合物は、23℃でBCFを添加後、45分以内にゲル化した。
【0079】
比較例Bは、直鎖状エポキシド及びシリルヒドリドが、ルイス酸の存在下で23℃で反応するが、比較例Aの環状エポキシド材料ほど急速ではないが、依然として1時間以内に反応することを示す。結果として、比較例Bは、貯蔵安定性とはみなされない。
【0080】
実施例6:MD60.5EP+MD 65M+B-FLP(1)
BCFの代わりにB-FLP(1)を使用する以外は、比較例Bを繰り返す。組成物(実施例6)は、4日間にわたる23℃でのゲル化時間、20分の95℃での硬化時間、及び0.5分の150℃での硬化時間を有する。実施例6は、B-FLPが95℃で急速硬化及び150℃で更なる急速硬化を提供しながら、23℃でゲル化を劇的に遅延させることを示す。