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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/201 20110101AFI20240925BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B60R21/201
B60R21/207
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022050027
(22)【出願日】2022-03-25
(65)【公開番号】P2023142900
(43)【公開日】2023-10-06
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 隆己
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0327564(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03750759(EP,A1)
【文献】特開2004-291887(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0217892(US,A1)
【文献】特開2018-176863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設置されるエアバッグモジュールを備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグモジュールは、
袋状であって巻回または折り畳まれた所定の収納形態のエアバッグクッションと、
前記エアバッグクッションの所定箇所に挿入されるインフレータと、
前記エアバッグクッションを包み該エアバッグクッションの膨張圧で破断可能なラップ部材と、
を含み、
前記ラップ部材は、
前記エアバッグクッションの所定範囲を覆うメインラップと、
前記メインラップの一端から延びて該メインラップとともに前記エアバッグクッションに巻き付けられるタブと、
前記メインラップの他端側に設けられて前記タブが通される少なくとも1つのスリットと、
を有し、
前記エアバッグモジュールは、前記スリットに通した前記タブの先端側を前記車両の所定箇所に留めた状態で該車両に設置され
前記インフレータは、前記エアバッグクッションから突出して前記車両の所定箇所に締結されるスタッドボルトを有し、
前記タブは、前記先端側に設けられる所定の貫通孔を有し、
前記エアバッグモジュールは、前記タブの貫通孔を前記車両に締結したスタッドボルトに引っ掛けることで前記タブの先端側を車両の所定箇所に留めた状態になることを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
車両に設置されるエアバッグモジュールを備えた車両用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグモジュールは、
袋状であって巻回または折り畳まれた所定の収納形態のエアバッグクッションと、
前記エアバッグクッションの所定箇所に挿入されるインフレータと、
前記エアバッグクッションを包み該エアバッグクッションの膨張圧で破断可能なラップ部材と、
を含み、
前記ラップ部材は、
前記エアバッグクッションの所定範囲を覆うメインラップと、
前記メインラップの一端から延びて該メインラップとともに前記エアバッグクッションに巻き付けられるタブと、
前記メインラップの他端側に設けられて前記タブが通される少なくとも1つのスリットと、
を有し、
前記エアバッグモジュールは、前記スリットに通した前記タブの先端側を前記車両の所定箇所に留めた状態で該車両に設置され、
前記少なくとも1つのスリットは、平行に設けられた2つの切込みを含むことを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記メインラップは、所定箇所に前記エアバッグクッションの膨張圧で破断可能な脆弱部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記脆弱部は、前記スリットと平行に延びるよう設けられていることを特徴とする請求項に記載の車両用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載する車両用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に可動する安全装置であって、袋状のエアバッグクッションをガス圧で膨張展開させて乗員を受け止めて保護する。
【0003】
エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、前後方向からの衝突から運転者を守るために、ステアリングの中央にはフロントエアバッグ装置が設けられている。また、側面衝突等による車幅方向からの衝撃から乗員を守るために、サイドウィンドウの上方の天井付近にはカーテンエアバッグ装置が設けられ、シートの側部にはサイドエアバッグ装置が設けられている。
【0004】
一般的なエアバッグ装置のエアバッグクッションは、巻回または折り畳まれた収納形態となって、車両の各部位に収納されている。このとき、エアバッグクッションは、破断可能なラッピング材料で包まれることが多い。例えば、特許文献1には、サイドエアバッグ13をラッピングシート14で包む技術が開示されている。このラッピングシート14は、不織布等から形成されていて、サイドエアバッグ13を包みつつ、インフレータ12のハーネス17を保持することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-291887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、ラッピングシート14の溶着予定部36、37等の各所に熱溶着が施されることで、ラッピングシート14によってサイドエアバッグ13の全体を袋状に覆う構成になっている。しかしながら、現在では、コストおよび労力の削減の観点から、より簡潔な構成で簡単にエアバッグクッションを包むことのできる技術が求められている。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、簡潔な構成かつ簡単にエアバッグクッションを包むことのできる車両用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両に設置されるエアバッグモジュールを備えた車両用エアバッグ装置であって、エアバッグモジュールは、袋状であって巻回または折り畳まれた所定の収納形態のエアバッグクッションと、エアバッグクッションの所定箇所に挿入されるインフレータと、エアバッグクッションを包みエアバッグクッションの膨張圧で破断可能なラップ部材と、を含み、ラップ部材は、エアバッグクッションの所定範囲を覆うメインラップと、メインラップの一端から延びてメインラップとともにエアバッグクッションに巻き付けられるタブと、メインラップの他端側に設けられてタブが通される少なくとも1つのスリットと、を有し、エアバッグモジュールは、スリットに通したタブの先端側を車両の所定箇所に留めた状態で車両に設置されることを特徴とする。
【0009】
上記構成のラップ部材であれば、縫製等を必要としない簡潔な構成で、エアバッグクッションを簡単に包むことができる。そのため、労力およびコストの削減を図りつつ、エアバッグクッションの収納形態を好適に保持することが可能になる。また、エアバッグクッションとの縫製箇所も設ける必要が無いため、エアバッグクッションの展開挙動に与える影響が少なく、エアバッグクッションをより安定した挙動で展開させることが可能になる。
【0010】
上記のインフレータは、エアバッグクッションから突出して車両の所定箇所に締結されるスタッドボルトを有し、タブは、先端側に設けられる所定の貫通孔を有し、エアバッグクモジュールは、タブの貫通孔を車両に締結したスタッドボルトに引っ掛けることでタブの先端側を車両の所定箇所に留めた状態になってもよい。
【0011】
上記構成によれば、タブをエアバッグクッションに巻き付けたうえでスタッドボルトに留めることで、エアバッグクッションの収納形態を好適に保持することが可能になる。
【0012】
上記の少なくとも1つのスリットは、平行に設けられた2つの切込みを含んでいてもよい。この構成によれば、タブはメインラップの2つのスリットに通すことでメインラップから脱落し難くなり、エアバッグクッションの収納形態を保持することが可能になる。また、タブは、引っ張ることでエアバッグクッションをよりきつく束ねることができ、車両への取付前においてもエアバッグクッションの形状が崩れることを防止できる。
【0013】
上記のメインラップは、所定箇所にエアバッグクッションの膨張圧で破断可能な脆弱部を有してもよい。
【0014】
上記構成によれば、ラップ部材は、エアバッグクッションの可動時にメインラップの脆弱部で破断することで、エアバッグクッションを円滑に解放することが可能になる。
【0015】
上記の脆弱部は、スリットと平行に延びるよう設けられていてもよい。脆弱部は、スリットと平行に設けられていることで、スリットに通されたタブからの力が直交方向にかかる。よって、エアバッグクッションの膨張展開時にタブを引っ張る力も脆弱部に対して直交方向にかかるため、脆弱部を迅速に破断させることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡潔な構成かつ簡単にエアバッグクッションを包むことのできる車両用エアバッグ装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る車両用エアバッグ装置を例示した図である。
図2図1(b)のエアバッグ装置を車両後方から見た斜視図である。
図3図2(b)のエアバッグモジュールを単独で例示した図である。
図4図3のラップ部材を例示した図である。
図5図4(b)のエアバッグモジュールをフレーム側板部に取り付ける過程を例示した図である。
図6図5(b)のエアバッグクッションが可動した状態を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用エアバッグ装置(以下、エアバッグ装置100)を例示した図である。図1(a)は、エアバッグクッション112の可動時の様子を例示している。図1(a)では、エアバッグ装置100およびシート102を、車両前方の車幅方向右側から例示している。本実施形態では、エアバッグ装置100は、シート102に搭載するサイドエアバッグとして実施されている。
【0020】
通常のシート102は車両の前方を向いているが、回転して後方を向くことも可能である。そのため、本実施形態においては、シート102に対して乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し、座標の軸を示すときは前後方向とする。また乗員が正規の姿勢でシート102に着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し、座標の軸を示すときは左右方向とする。更に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0021】
以下、本発明の実施形態の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した乗員を基準とした前後左右上下方向を、矢印F(Forward)、B(Back)、L(Left)、R(Right)、U(up)、D(down)で示す。
【0022】
図1(a)は、シート102のシートバック104のうち、表皮やシートパッド(例えばウレタン材)を省略して内部フレーム106のみを例示している。内部フレーム106は、シートバック104に内蔵された骨格となる部材である。シート102は、前列の左側に配置されることを想定している。しかし、当該エアバッグ装置100は、車両の前列、後列、さらには左右いずれか側のどのシートにも設置することが可能である。
【0023】
エアバッグ装置100は、車両に衝撃が発生した場合などの緊急時に、エアバッグクッション112を利用してシート102に着座した乗員を側方から拘束する。エアバッグクッション112は、乗員を受け止める袋状の部材であり、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製や接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
【0024】
インフレータ110はガス発生装置であって、衝撃発生時に車両側から発信される稼働信号を受けて可動し、エアバッグクッション112の内部にガスを供給する。本実施形態では、インフレータ110には、シリンダ型(円筒型)のものを採用している。インフレータ110は、エアバッグクッション112の内部の後方側に、長手方向を上下方向に向けて挿入されている。
【0025】
現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ110としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0026】
図1(b)は、図1(a)のエアバッグクッション112の可動前の様子を例示した図である。可動前のエアバッグクッション112は、巻回や折畳み等された収納形態となって、シート102のシートバック104の側部に内蔵されている。
【0027】
収納形態のエアバッグクッション112は、インフレータ110が挿入され、ラップ部材114で包まれた状態で、エアバッグモジュール108としてユニット化されている。
【0028】
エアバッグモジュール108は、内部フレーム106のフレーム側板部116に組み付けられる。フレーム側板部116は、内部フレーム106のうち、シートバック104の左右の側面に沿った部位である。フレーム側板部116は、車幅方向の左右に一対設けられている。
【0029】
本実施形態では、エアバッグモジュール108は、車幅方向左側のフレーム側板部116に組み付けている。なお、エアバッグモジュール108は、車幅方向右側のフレーム側板部に組み付けることも可能である。すなわち、エアバッグモジュール108は、シート102のうち衝突箇所に近いドア側の側部(ニアサイド)にも、衝突箇所から遠い車内側の側部(ファーサイド)にも、どちらにも設置可能である。
【0030】
エアバッグモジュール108には、収納形態のエアバッグクッション112を覆うラップ部材114が含まれている。ラップ部材114は、不織布等から構成されていて、収納形態のエアバッグクッション112を包み、エアバッグクッション112の膨張圧で破断してエアバッグクッション112を解放する。
【0031】
図2は、図1(b)のエアバッグ装置100を車両後方から見た斜視図である。図2(a)は、図1(b)のエアバッグ装置100をシート102の左後方上側から示している。収納形態のエアバッグクッション112は、フレーム側板部116に沿ってやや縦長の形状になっている。
【0032】
エアバッグモジュール108は、インフレータ110(図5(b)参照)のスタッドボルト118を利用してフレーム側板部116に組み付けられている。インフレータ110は、後述するクッション後部120に挿入された状態で、フレーム側板部116に対して、本体がシート102の幅方向の内側に位置するように取り付けられる。
【0033】
インフレータ110の本体からは、複数のスタッドボルト118が突出している。スタッドボルト118は、エアバッグクッション112から露出して、フレーム側板部116に締結される。このとき、スタッドボルト118は、先端側がフレーム側板部116の外側に貫通して延びていて、この先端側にラップ部材114のタブ130が引っ掛けて留められる。
【0034】
図2(b)は、図2(a)のタブ130をスタッドボルト118から外した状態の図である。タブ130には、スタッドボルト118に応じた貫通孔144が設けられている。タブ130は、フレーム側板部116を貫通したスタッドボルト118に貫通孔144を引っ掛けることで、フレーム側板部116に簡単に留めることが可能になっている。
【0035】
図3は、図2(b)のエアバッグモジュール108を単独で例示した図である。図3(a)は、図2(b)と同じ方向からエアバッグモジュール108を見た斜視図である。収納形態のエアバッグクッション112は、フレーム側板部116(図2(a)等参照)に組付けたときの位置関係に応じて、クッション後部120、クッション折返部122、およびクッション前部124の3つの部位に分けることができる。
【0036】
クッション後部120は、エアバッグクッション112が膨張展開したとき(図1(a)参照)の車両後側の部位であって、インフレータ110を内包していて、エアバッグモジュール108をフレーム側板部116に組付けたとき(図5(b)参照)にフレーム側板部116の幅方向の内側に位置する。
【0037】
クッション折返部122は、エアバッグモジュール108をフレーム側板部116に組み付けたとき(図5(b)参照)、クッション後部120から延びてフレーム側板部116の前縁126をわたってフレーム側板部116の外側に折り返される。
【0038】
クッション前部124は、エアバッグクッション112が膨張展開したときの車両前側の部位であって、膨張展開前(図5(b)参照)はクッション折返部122から延びてフレーム側板部116の外側に配置されている。
【0039】
図4は、図3のラップ部材114を例示した図である。図4(a)は、図3のラップ部材114を平面に広げた状態で例示している。ラップ部材114は、不織布等から形成されていて、収納形態のエアバッグクッション112(図4(b)参照)を包み、緊急時にはエアバッグクッション112の膨張圧で破断する。
【0040】
ラップ部材114は、広い面積のメインラップ128と、帯状のタブ130とを含んで構成されている。メインラップ128は、エアバッグクッション112のクッション後部120からクッション折返部122、そしてクッション前部124までの範囲を、フレーム側板部116(図5(b)参照)から見て外側から覆う。
【0041】
タブ130は、メインラップ128よりも幅の細い帯状の部位であり、メインラップ128の一端134から延び、エアバッグクッション112(図4(b)参照)に対してメインラップ128とは反対側から巻き付けられる。タブ130は、根本側と先端側とのそれぞれに、スタッドボルト118を挿入可能な貫通孔142、144が設けられている。タブ130は、メインラップ128のスリット146、148に通された後、先端側をスタッドボルト118に留めることで、エアバッグクッション112を束ねた状態に保持される。
【0042】
スリット146、148は、タブ130を通す部位であって、メインラップ128の他端136側に設けられている。本実施形態では、スリット146、148は、平行に設けられた2つの直線状の切込みとして実施されている。ラップ部材114は、タブ130をエアバッグクッション112に巻き付けたうえでメインラップ128の2つのスリット146、148に通すことで、エアバッグクッション112の収納形態を保持することが可能になる。
【0043】
ラップ部材114は、タブ130を引っ張ることで、エアバッグクッション112をよりきつく束ねてエアバッグクッション112のパッケージサイズを小さくすることが可能である。このとき、タブ130は、二つのスリット146、148に通されることで、メインラップ128から脱落し難くなっている。このように、ラップ部材114は、スリット146、148を利用することで、車両への取付前においてもエアバッグクッション112の形状が崩れることを防止可能になっている。
【0044】
なお、スリット146、148は、直線状の切込みとしてだけでなく、2つの長尺な開口を設けることによっても実現することができる。さらには、1つのスリット146のみを設けることによっても、タブ130を通すことでメインラップ128とタブ130とを連結させた状態で車両に設置することが可能である。
【0045】
メインラップ128は、エアバッグクッション112の膨張圧で破断可能な脆弱部150を有している。ラップ部材114は、エアバッグクッション112の可動時にメインラップ128が脆弱部150で破断することで、エアバッグクッション112を円滑に解放することが可能になる。
【0046】
脆弱部150は、例えば破線状の切込み線、刻み目状に並んだ切れ目、小さなノッチ(貫通孔)を並べた構成、さらには2つの不織布を溶着させた箇所等として実現することができる。
【0047】
脆弱部150は、例えばエアバッグクッション112(図5(b)参照)のなかでもフレーム側板部116の前側に位置する、クッション折返部122に重なる範囲に設けることができる。
【0048】
脆弱部150は、スリット146、148と平行に延びるよう設けることができる。脆弱部150は、スリット146、148と平行に設けられていることで、スリット146に通されたタブ130からの力が直交方向にかかる。よって、エアバッグクッション112の膨張展開時にタブ130を引っ張る力も脆弱部150に対して直交方向にかかるため、脆弱部150を迅速に破断させることが可能になる。
【0049】
図4(b)は、図3のエアバッグモジュール108のA-A断面図である。ラップ部材114は、タブ130の根本側の貫通孔142をスタッドボルト118に通すことで、エアバッグクッション112に巻き付けることができる。
【0050】
メインラップ128は、クッション後部120からクッション折返部122の表面の上を経由した後、クッション前部124の幅方向の外側から内側にかけてその外周を覆い、他端136がクッション折返部122の裏面に到達している。そして、他端136側のスリット146、148にタブ130が通され、これによってメインラップ128はエアバッグクッション112を覆った状態に保持される。
【0051】
図5は、図4(b)のエアバッグモジュール108をフレーム側板部116に取り付ける過程を例示した図である。図5(a)は、図4(b)のエアバッグモジュール108のスタッドボルト118をフレーム側板部116に通した状態の図である。
【0052】
エアバッグクモジュール108は、インフレータ110を内包したクッション後部120を、フレーム側板部116に対して、シートバック104(図1(b)参照)の幅方向の内側から組み付けることができる。
【0053】
図5(b)は、図5(a)のクッション折返部122を折り返した状態の図である。この図5(b)は、図2(a)のフレーム側板部116に組み付けたエアバッグモジュール108の水平断面に対応している。
【0054】
エアバッグモジュール108は、クッション折返部122をフレーム側板部116の前縁をわたって折返し、クッション前部124をフレーム側板部116の外側に配置させる。そして、スリット146、148に通されたタブ130の先端側の貫通孔144をスタッドボルト118の先端側に引っ掛けて留めることで、エアバッグモジュール108のフレーム側板部116への組付けが完了する。
【0055】
図6は、図5(b)のエアバッグクッション112が可動した状態を例示した図である。車両のセンサーが衝撃を検知し、インフレータ110からガスが供給されると、エアバッグクッション112はクッション後部120(図5(b)参照)から膨張展開を開始する。このときの膨張圧によって、ラップ部材114は脆弱部150が破断し、メインラップが部分128aと部分128bとに分かれてエアバッグクッション112を解放する。
【0056】
クッション後部120はフレーム側板部116の内側の側面を押すため、エアバッグクッション112はフレーム側板部116から乗員側に向かう反力を早期に得ることができる。これによって、エアバッグクッション112は、シートバック104(図1(b)参照)のシートパッドや表皮などを効率よく押しのけることが可能になる。
【0057】
特に、エアバッグクッション112は、膨張展開時においてフレーム側板部116から車幅方向の内側に向かう反力を早期に得ることで、エアバッグクッション112の全体の膨張展開が完了する前に乗員をいったん車幅方向の内側に押し戻す、いわゆるプリプッシュ機能を実現して、乗員拘束力を向上させることが可能になる。
【0058】
クッション後部120からクッション折返部122にガスが流入すると、クッション折返部122の折返しを解消する動きが生じ、クッション前部124を車両前方に移動させるようにして膨張展開が進む。そして、エアバッグクッション112は、フレーム側板部116から得た反力等も利用して、シートバック104(図1(b)参照)の内部から乗員の側方に向かって迅速に膨張展開する。
【0059】
本実施形態のエアバッグクッション112は、フレーム側板部116に対してシート102の幅方向の内側と外側とに配置し、エアバッグクッション112をシートバック104の内部の限られた空間に効率良く収納することが可能になっている。
【0060】
特に、本実施形態では、ラップ部材114を利用して、縫製等を必要としない簡潔な構成で、エアバッグクッション112を簡単に包むことが可能になっている。例えば、ラップ部材114は、タブ130をエアバッグクッション112に巻き付けてメインラップ128のスリット146、148に通し、タブ130の先端側の貫通孔144をスタッドボルト118に引っ掛けて留めるだけで、エアバッグクッション112の収納形態を保持することができる。
【0061】
以上のように、ラップ部材114を利用することで、労力およびコストの削減を図りつつ、エアバッグクッション112の収納形態を好適に保持することが可能になる。また、ラップ部材114は、エアバッグクッション112との縫製箇所を設けていないことで、エアバッグクッション112の展開挙動に与える影響が少なく、エアバッグクッション112をより安定した挙動で展開させることができる。
【0062】
なお、ラップ部材114は素材に不織布を用いていると説明したが、ラップ部材114は他の素材によっても実現することができる。例えば、ラップ部材114は、熱溶着布や、エアバッグクッション112の基布と同じ素材によっても実現可能である。ここで、ラップ部材114の素材に熱溶着布を用いた場合は、複数の端材の縁同士を熱溶着して一枚のメインラップを形成することも可能である。この場合、エアバッグクッション112の膨張圧で端材の縁同士が剥がれるため、その縁同士を脆弱部として利用することも可能である。
【0063】
本実施形態では、タブ130はメインラップ128と一体に設けた帯状の部位として実現しているが、タブ130の他の例としては、メインラップ128とは別素材で形成したストラップや、紐状の構成等としても実現することができる。これら構成であっても、エアバッグクッション112に巻き付け、メインラップ128のスリット146、148に通すことで、十分に機能することができる。
【0064】
また、タブ130は、スタッドボルト118を利用して留める構成だけでなく、フレーム側板部116の他の突出部に引っ掛けたり、他の締結具を利用してフレーム側板部116や周辺部位に接続したりすることによっても、機能することができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、当該エアバッグ装置100をサイドエアバッグとして実施しているが、当該エアバッグ装置100はドライバエアバッグやカーテンエアバッグ、さらにはニーエアバッグ等としても実施することができる。これらエアバッグ装置においても、ラップ部材114でそのエアバッグクッションを包み、タブ130をスタッドボルト118や周囲の部位を利用して車両に留めることで、エアバッグクッションの収納形態を好適に保持することが可能である。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0067】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、車両に搭載する車両用エアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
100…エアバッグ装置、102…シート、104…シートバック、106…内部フレーム、108…エアバッグモジュール、110…インフレータ、112…エアバッグクッション、114…ラップ部材、116…フレーム側板部、118…スタッドボルト、120…クッション後部、122…クッション折返部、124…クッション前部、128…メインラップ、128a、128b…部分、130…タブ、134…一端、136…他端、142、144…貫通孔、146、148…スリット、150…脆弱部
図1
図2
図3
図4
図5
図6