(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/223 20060101AFI20240925BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H01S5/223
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2022508421
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010942
(87)【国際公開番号】W WO2021187543
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2020049780
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/高効率加工用GaN系高出力・高ビーム品質半導体レーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】丹生 貴大
(72)【発明者】
【氏名】川口 真生
(72)【発明者】
【氏名】萩野 裕幸
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-108139(JP,A)
【文献】特開平01-120884(JP,A)
【文献】特開2007-012729(JP,A)
【文献】特開2006-093682(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013698(WO,A1)
【文献】特開2002-319744(JP,A)
【文献】特開2002-231704(JP,A)
【文献】特開平10-075012(JP,A)
【文献】特開平07-007219(JP,A)
【文献】特開平03-119777(JP,A)
【文献】特開平01-211990(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0002914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リッジを有する半導体レーザ素子であって、
p型第1クラッド層と、
前記p型第1クラッド層上に配置されるp型第2クラッド層とを備え、
前記p型第1クラッド層は、1以上のAl
xGa
1-xN層の各々及び1以上のAl
yGa
1-yN層(0≦x<y≦
0.1)の各々が交互に積層される超格子構造を有し、
前記p型第2クラッド層は、Al
zGa
1-zN(0≦z<y)からなり、
前記p型第1クラッド層は、
前記p型第2クラッド層が配置されない平坦部と、
前記平坦部から上方に突出し、前記p型第2クラッド層が配置される突出部とを有し、
前記リッジは、前記突出部と、前記突出部上に配置される前記p型第2クラッド層とを含み、
前記突出部の前記平坦部から突出する高さは、前記平坦部における前記p型第1クラッド層の厚みより小さい
半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記平坦部の最上面には、前記p型第1クラッド層の超格子構造の最も上に積層された層が露出している
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記p型第2クラッド層上に配置されるp型第3クラッド層を備える
請求項1又は2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記p型第2クラッド層の厚みは、前記p型第3クラッド層の厚みより小さい
請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記p型第3クラッド層は、1以上ののAl
vGa
1-vN層の各々及び1以上のAl
wGa
1-wN層(0≦v<w≦1)の各々が交互に積層される超格子構造を有する
請求項3又は4に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記p型第1クラッド層の前記突出部の前記高さは、前記p型第1クラッド層の超格子構造の周期膜厚以下である
請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リッジを有する半導体レーザ素子に関する。
【0002】
なお、本願は、平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/高効率加工用GaN系高出力・高ビーム品質半導体レーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願である。
【背景技術】
【0003】
従来、リッジを有する半導体レーザ素子が使用されている。リッジは、例えば半導体積層体をエッチングすることによって形成される。エッチングを所望の位置で停止させるためのエッチングストップ層を有する半導体レーザ素子の一例として、特許文献1に開示された半導体レーザ素子がある。
【0004】
特許文献1に記載された半導体レーザ素子は、活性層上に順次積層されるクラッド層及び絶縁層を有し、かつ、リッジを有している窒化物系半導体レーザ素子である。クラッド層は、第1クラッド層及び第2クラッド層と、これらの層の間に配置されるエッチング停止層とを有する。ここで、活性層から出射するレーザ光の波長におけるエッチング停止層の屈折率と絶縁層の屈折率との差は、0以上0.4以下である。
【0005】
上記のように、クラッド層にエッチング停止層が配置され、リッジを有する半導体レーザ素子において安定した出力特性を得るには、リッジを形成する凸部の形成領域だけでなく凸部が形成されていない非形成領域においても、光閉じ込め作用が必要である。ここで、半導体レーザ素子の出力特性として、例えば、キンクレベル(電流に対するレーザ光の出力特性が急激に変化する電流レベル)、レーザ光の水平方向拡がり角などが挙げられる。特許文献1に開示された半導体レーザ素子においては、エッチング停止層の屈折率と、絶縁層の屈折率との差を0.4以下としている。これにより、絶縁層によってエッチング停止層の光閉じ込め作用を補うことで、凸部の形成領域だけでなく非形成領域においても、光閉じ込め作用を得ようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された半導体レーザ素子においては、エッチング停止層として用いられているAlGaN層と、GaN層とのエッチング速度の違いである選択比(つまり、GaNのエッチング速度のAlGaNエッチング速度に対する比)を利用して、エッチングを停止させている。AlGaN層においては、Al濃度の差によりエッチング速度に差が生じるため、通常は高Al組成比のAlGaNがエッチング停止層に用いられる。高Al組成比のAlGaN層をエッチング停止層に用いる場合は、選択比が大きくなるため、エッチング停止層においてエッチングが停止する。しかしながら、高Al組成比のAlGaN層は、電気抵抗が高いため、半導体レーザ素子の高抵抗化の原因となる。一方、低Al組成比のAlGaNをエッチング停止層に用いる場合には、選択比が小さいためにエッチングが十分に停止しない。
【0008】
本開示は、上記の課題に鑑み、高抵抗化を抑制しつつ、所望の位置でエッチングを停止させることができる半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示に係る半導体レーザ素子の一態様は、リッジを有する半導体レーザ素子であって、p型第1クラッド層と、前記p型第1クラッド層上に配置されるp型第2クラッド層とを備え、前記p型第1クラッド層は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦1)の各々が交互に積層される超格子構造を有し、前記p型第2クラッド層は、AlzGa1-zN(0≦z<y)からなり、前記p型第1クラッド層は、前記p型第2クラッド層が配置されない平坦部と、前記平坦部から上方に突出し、前記p型第2クラッド層が配置される突出部とを有し、前記リッジは、前記突出部と、前記突出部上に配置される前記p型第2クラッド層とを含み、前記突出部の前記平坦部から突出する高さは、前記平坦部における前記p型第1クラッド層の厚みより小さい。
【発明の効果】
【0010】
高抵抗化を抑制しつつ、所望の位置でエッチングを停止させることができる半導体レーザ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の全体構成を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法の半導体積層工程を示す模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法のマスク形成工程を示す模式的な断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法の第1のエッチング工程を示す模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法の第2のエッチング工程を示す模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の製造方法の絶縁層形成工程を示す模式的な断面図である。
【
図7A】
図7Aは、比較例のドライエッチングによって形成されたリッジ側面及びエッチング面の形状の第1例を示す模式的な断面図である。
【
図7B】
図7Bは、比較例のドライエッチングによって形成されたリッジ側面及びエッチング面の形状の第2例を示す模式的な断面図である。
【
図8】
図8は、選択エッチングによって形成されたリッジ側面及びエッチング面の形状例を模式的に示す断面図である。
【
図9A】
図9Aは、実施の形態1に係るリッジの側面の形状の第1例を示す模式的な断面図である。
【
図9B】
図9Bは、実施の形態1に係るリッジの側面の形状の第2例を示す模式的な断面図である。
【
図10】
図10は、GaNのAlGaNに対する選択比のAlGaNにおけるAl濃度依存性を示すグラフである。
【
図11】
図11は、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造に加わるピエゾ電界を示す模式図である。
【
図12】
図12は、超格子構造とバルクAlGaNとの選択比の違いを示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施の形態2に係る半導体レーザ素子の全体構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態を、図面に基づき説明する。なお、下記に開示される実施の形態はすべて例示であって、本開示に係る半導体レーザ素子に制限を加える意図はない。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、及び、構成要素の配置位置や接続形態などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。
【0013】
また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0014】
また、下記に開示される実施の形態では、必要以上の詳細な説明を省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項についての詳細な説明や、実質的に同一の構成についての重複する説明を、省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になるのを避けることで、当業者の理解を容易にするためである。
【0015】
また、以下の実施の形態において、「上部」及び「下部」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではない。また、「上部」及び「下部」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る半導体レーザ素子について説明する。
【0017】
[1-1.全体構成]
まず、本実施の形態に係る半導体レーザ素子の全体構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10の全体構成を示す模式的な断面図である。
図1には、半導体レーザ素子10が有するリッジ180の長手方向(つまり、レーザ光の共振方向)に垂直な断面が示されている。
図1に示される半導体レーザ素子10は、リッジ180を有する半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子10は、主に、基板100と、n型半導体層110と、活性層120と、p型半導体層130と、p型コンタクト層140と、絶縁層150と、p電極160と、n電極170とを備える。
【0018】
基板100は、半導体レーザ素子10の基台となる板状部材である。本実施の形態では、基板100は、n型GaN基板であり、III-V族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる基板として用いられる。基板100は、n型GaN基板に限定されず、例えば、サファイヤ基板、SiC基板などであってもよい。基板100上にエピタキシャル成長させる手法としては、有機金属気相成長法(以下、MOCVD)などが挙げられる。
【0019】
n型半導体層110は、基板100の上方に配置される第1導電型半導体層の一例である。本実施の形態では、第1導電型は、n型である。n型半導体層110は、n型クラッド層111と、n側光ガイド層112とを含む。なお、n型半導体層110は、これらの層以外の層を含んでよい。例えば、n型半導体層110は、基板100とn型クラッド層111との間に配置されるバッファ層などを含んでもよい。
【0020】
n型クラッド層111は、基板100の上方に配置される第1導電型クラッド層の一例である。本実施の形態ではn型クラッド層111は、例えば、n型のドーパントとしてSi等を含むAl0.05Ga0.95Nからなる。n型クラッド層111の厚みは、例えば、3000nmである。なお、n型クラッド層111は、例えば、1以上のn型AlGaN層の各々と1以上のn型GaN層の各々とが交互に積層された超格子構造を有してもよい。言い換えると、n型クラッド層111は、1以上の積層体が積層された超格子構造を有し、1以上の積層体の各々には、n型AlGaN層及びn型GaN層が積層されていてもよい。
【0021】
n側光ガイド層112は、第1導電型クラッド層の上方に配置される第1導電側光ガイド層の一例である。本実施の形態では、n側光ガイド層112は、n型のドーパントとしてSi等を含み、n型クラッド層111側から順に積層された厚み250nmのGaN層と、厚み100nmのIn0.05Ga0.95N層とを有する。
【0022】
活性層120は、第1導電型半導体層の上方に配置される発光層の一例である。本実施の形態では、活性層120は、InGaNからなる単一量子井戸構造を有している。つまり、活性層120は、2層のバリア層と、当該2層のバリア層の間に配置されるウェル層とを有する。ウェル層のIn組成を調整することで、半導体レーザ素子10が出射するレーザ光の波長を400nm以上460nm以下程度の範囲内で調整することができる。本実施の形態では、ウェル層は、厚み8nmのGaN層であり、バリア層は、厚み15nmのIn0.03Ga0.97N層である。なお、活性層120は、複数のバリア層と複数のウェル層とが交互に積層された多重量子井戸構造を有してもよい。言い換えると、活性層120は、複数のウェル層の各々が、複数のバリア層のうち、隣り合う2層のバリア層の間に配置された多重量子井戸構造を有してもよい。
【0023】
p型半導体層130は、活性層120の上方に配置される第2導電型半導体層の一例である。第2導電型は、第1導電型と異なる導電型であり、本実施の形態では、p型である。本実施の形態では、p型半導体層130は、p側光ガイド層131と、p型オーバーフロー制御層(以下、p型OFS層)132と、p型第1クラッド層133と、p型第2クラッド層134と、p型第3クラッド層135とを有する。
【0024】
p側光ガイド層131は、活性層120の上方に配置される第2導電側光ガイド層の一例である。本実施の形態では、p側光ガイド層131は、p型のドーパントとしてMg等が含まれており、活性層120側から順に積層された厚み70nmのIn0.05Ga0.95N層と、厚み15nmのGaN層とを有する。
【0025】
p型OFS層132は、活性層120の上方に配置され、キャリアが活性層120から漏れ出ることを抑制するための第2導電型のオーバーフロー制御層である。本実施の形態では、p型OFS層132は、p側光ガイド層131の上方に配置され、活性層120から電子が漏れ出ることを抑制する層であり、p型のドーパントとしてMg等を含む厚み5nmのAl0.4Ga0.6N層である。
【0026】
p型第1クラッド層133は、活性層120の上方に配置される第2導電型第1クラッド層の一例である。本実施の形態では、p型第1クラッド層133は、p型OFS層132の上方に配置される。p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦1)の各々が交互に積層される超格子構造を有する。言い換えると、p型第1クラッド層133は、1以上の積層体が積層された超格子構造を有し、1以上の積層体の各々には、p型AlxGa1-xN層及びAlyGa1-yN層(0≦x<y≦1)が積層されている。p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦0.5)の各々が交互に積層される超格子構造を有してもよい。また、p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦0.2)の各々が交互に積層される超格子構造を有してもよい。また、p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦0.1)の各々が交互に積層される超格子構造を有している。本実施の形態では、p型第1クラッド層133は、10層の厚み3nmのGaN層と、10層の厚み3nmのAl0.05Ga0.95N層とが交互に積層される超格子構造を有し、p型のドーパントとしてMg等を含む。
【0027】
p型第1クラッド層133は、p型第2クラッド層134が配置されない平坦部133aと、平坦部133aから上方に突出し、p型第2クラッド層134が配置される突出部133bとを有する。突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、平坦部133aにおけるp型第1クラッド層133の厚みより小さい。本実施の形態では、p型第1クラッド層133の突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、p型第1クラッド層133の超格子構造の周期膜厚以下である。また、平坦部133aの最上面には、p型第1クラッド層133の超格子構造の最も上に積層された層が露出している。つまり、突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、0nmより大きく3nm未満である。また、平坦部133aにおけるp型第1クラッド層133の厚みは、57nmより大きく、60nm未満である。突出部133bは、リッジ180に含まれる。
【0028】
p型第2クラッド層134は、第2導電型第1クラッド層上に配置される第2導電型第2クラッド層の一例である。p型第2クラッド層134は、リッジ180に含まれる。p型第2クラッド層134は、AlzGa1-zN(0≦z<y)からなる。本実施の形態では、p型第2クラッド層134は、厚み100nmの、GaN層からなり、p型のドーパントとしてMg等を含む。p型第2クラッド層134よりも、p型第1クラッド層133の方が、p型のドーパントとして含まれるMg等の濃度が高くてもよい。また、p型第2クラッド層134の厚みは、後述するp型第3クラッド層135の厚みより小さくてもよい。これにより、光閉じ込め効果を十分に確保することができる。
【0029】
p型第3クラッド層135は、第2導電型第2クラッド層上に配置される第2導電型第3クラッド層の一例である。p型第3クラッド層135は、リッジ180に含まれる。本実施の形態では、p型第3クラッド層135は、p型第2クラッド層134上に配置される。p型第3クラッド層135は、1以上のAlvGa1-vN層の各々及び1以上のAlwGa1-wN層(0≦v<w≦1)の各々が交互に積層される超格子構造を有する。本実施の形態では、p型第3クラッド層135は、100層の厚み3nmのGaN層と、100層の厚み3nmのAl0.05Ga0.95N層とが交互に積層される超格子構造を有し、p型のドーパントとしてMg等を含む。
【0030】
p型コンタクト層140は、第2導電型半導体層上に配置され、第2導電側電極とオーミック接触する第2導電型コンタクト層の一例である。本実施の形態では、p型コンタクト層140は、p型第3クラッド層135上に配置され、p電極160とオーミック接触するコンタクト層である。p型コンタクト層140は、リッジ180に含まれる。本実施の形態では、p型コンタクト層140は、p型のドーパントとしてMg等を含む厚み50nmのGaN層である。
【0031】
絶縁層150は、p型半導体層130とp電極160との間に配置される絶縁部材である。本実施の形態では、リッジ180の側面と、p型第1クラッド層133の平坦部133aの上面とに配置され、リッジ180の上面(つまり、p型コンタクト層140の上面)には配置されない。なお、絶縁層150は、リッジ180の上面の一部に配置されてもよい。本実施の形態では、絶縁層150は、SiO2からなる。なお、絶縁層150は、SiO2以外からなってもよく、例えば、SiN、Ta2O5、TiO2、NbO5からなってもよい。また、絶縁層150は、これらの材料からなる絶縁膜が積層された積層膜であってもよい。
【0032】
図1に示されるように、リッジ180は、突出部133bと、突出部133b上に配置されるp型第2クラッド層134とを含む。本実施の形態では、リッジ180は、さらに、p型第3クラッド層135と、p型コンタクト層140とを含む。リッジ180は、例えば、基板100上に積層されたp型第1クラッド層133、p型第2クラッド層134、p型第3クラッド層135、及び、p型コンタクト層140の一部をドライエッチングなどを用いて除去することによって形成される。
【0033】
p電極160は、第2導電型コンタクト層上に配置され、第2導電型コンタクト層とオーミック接触する第2導電側電極の一例である。本実施の形態では、p電極160は、p型コンタクト層140上及び絶縁層150上に配置される。p電極160は、例えば、Al、Pd、Ti、Pt、Auなどの導電性材料を用いて形成される。
【0034】
n電極170は、基板100の下面(つまり、基板100の主面のうち、第1導電型半導体層が積層されていない方の主面)に配置される第1導電側電極の一例である。n電極170は、例えば、Al、Pd、Ti、Pt、Auなどの導電性材料を用いて形成される。
【0035】
[1-2.製造方法]
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10の製造方法について、
図2~
図6を用いて説明する。
図2~
図6は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10の製造方法の各工程を示す模式的な断面図である。
図2~
図6には、半導体レーザ素子10が有するリッジ180の長手方向(つまり、レーザ光の共振方向)に垂直な断面が示されている。
【0036】
まず、
図2に示されるように、基板100上に、n型半導体層110、活性層120、p型半導体層130、及び、p型コンタクト層140を、この順に、MOCVDなどによって積層することで、半導体積層体を形成する。
【0037】
続いて、
図3に示されるように、前工程で形成した半導体積層体上にマスク200を形成する。具体的には、半導体積層体の最上面(つまり、p型コンタクト層140の上面)に、例えば、化学気相成長法などを用いてSiO
2を成膜し、フォトリソグラフィー工程を用いて
図3に示されるようなマスク200を形成する。マスク200は、半導体レーザ素子10のリッジ180に対応する位置に形成される。
【0038】
続いて、
図4に示されるように、半導体積層体のうち、マスク200で覆われていない領域をエッチングする。具体的には、例えば、Cl
2、SiCl
4などの塩素系ガスを用いて、p型コンタクト層140の上面から、p型第2クラッド層134の途中までドライエッチングする。このとき、光干渉計による膜厚モニタリングや、エッチング速度からの時間計算などを用いて、ドライエッチングの深さを管理することで、p型第2クラッド層134の途中でドライエッチングを停止させる。
【0039】
続いて、
図5に示されるように、半導体積層体のうち、マスク200で覆われていない領域をさらにエッチングすることでリッジ180を形成する。具体的には、酸素を数%添加した塩素系ガスを用いてドライエッチングを行うことで、p型第2クラッド層134の途中から、p型第1クラッド層133の上面まで除去する。この際、p型第1クラッド層133の方が、p型第2クラッド層134よりエッチング速度が遅いため、p型第1クラッド層133の上面付近で容易にエッチングを停止させることができる。例えば、平均Al組成2.5%のバルクAlGaN層(つまり、一様なAlGaNからなる層)では、上記エッチング条件においてGaN層に対する選択比は5.5程度である。一方、GaN層及びAlGaN層かならる超格子構造を有する平均Al組成2.5%の超格子層では、上記エッチング条件においてGaN層に対する選択比は8.5程度となる。このように、同じ平均Al組成比を有する層であっても、超格子層の方がバルク層よりエッチング速度が遅い。本実施の形態に係るエッチングの詳細については、後述する。
【0040】
以上のように、p型第1クラッド層133と、p型第2クラッド層134との選択比を利用してp型第1クラッド層133でエッチングを停止できる。しかしながら、p型第1クラッド層133を全くエッチングすることなく、p型第1クラッド層133の上面でエッチングを停止させることは困難である。マスク200が形成されていない領域のp型第2クラッド層134を完全に除去するためには、p型第1クラッド層133もわずかながらエッチングされる。これにより、
図5に示されるように、p型第1クラッド層133に、平坦部133aと、突出部133bとが形成される。突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、平坦部133aにおけるp型第1クラッド層の厚みより小さい。このように平坦部の最上面の積層方向における位置を、p型第1クラッド層の上方部分の範囲内に精密に制御できる。このため、例えば、半導体ウェハ上に各半導体層及び各電極を形成して、複数の半導体レーザ素子10を同時に製造する場合であっても、各半導体レーザ素子10の特性を均一化することができる。また、本実施の形態では、p型第1クラッド層133の突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、p型第1クラッド層133の超格子構造の周期膜厚以下である。平坦部133aの最上面には、p型第1クラッド層133の超格子構造の最も上に積層された層が露出している。このように、平坦部の最上面の積層方向における位置が、超格子構造を形成する周期膜厚以下の範囲内に制御されることで、半導体レーザ素子における平坦部の最上面の積層方向における位置をさらに精密に制御できる。
【0041】
続いて、
図6に示されるように、絶縁層150を形成する。本実施の形態では、絶縁層150は、リッジ180の側面と、p型第1クラッド層133の平坦部133aの上面とに、例えば、化学気相成長法と、フォトリソグラフィー工程とを用いて形成される。
【0042】
続いて、p電極160及びn電極170が形成される。
図1に示されるように、p電極160は、p型コンタクト層140上及び絶縁層150上に形成され、n電極170は、基板100の下面に形成される。p電極160及びn電極170は、例えば、真空蒸着法及びリフトオフ法などを用いて形成される。
【0043】
以上のように、半導体レーザ素子10を製造することができる。
【0044】
[1-3.エッチング]
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10のリッジ180を形成する際に行うエッチングについて比較例と比較しながら説明する。まず、選択エッチングでない比較例のドライエッチングについて、
図7A及び
図7Bを用いて説明する。
図7A及び
図7Bは、それぞれ、比較例のドライエッチングによって形成されたリッジ側面300及びエッチング面310の形状の第1例及び第2例を示す模式的な断面図である。
図7A及び
図7Bにおいては、リッジの長手方向(レーザ光の共振方向)に垂直な断面が示されている。
【0045】
選択エッチングを用いない場合には、リッジ形成において、ドライエッチングの条件によっては、リッジ側面300とエッチング面310との境界は、
図7A及び
図7Bに示されるような形状になることがある。
図7Aに示される例では、エッチング面310とリッジ側面300との境界に傾斜が緩やかな形状(言い換えると、ラウンド形状)を有する緩斜面部300aが形成される。緩斜面部300aが形成される、エッチング面310とリッジ側面300との境界付近には、エッチングによる反応生成物が堆積しやすい。この反応生成物によってエッチングが阻害されることで、緩斜面部300aが形成される。
【0046】
また、
図7Bに示される例では、エッチング面310とリッジ側面300との境界に溝(言い換えると、サブトレンチ)300bが形成される。この溝300bは、リッジ側面300に沿ってエッチングガスが伝わり、エッチング面310に吹き付けられることで局所的に過剰にエッチングされることで形成される。
【0047】
一方、本実施の形態に係るリッジ180の形成工程と同様に選択エッチングを行う場合について
図8を用いて説明する。
図8は、選択エッチングによって形成されたリッジ側面300及びエッチング面310の形状例を模式的に示す断面図である。
図8においては、リッジの長手方向(つまり、レーザ光の共振方向)に垂直な断面が示されている。
図8に示されるように、選択エッチングにおいては、エッチング速度の速い層と遅い層とが積層されているため、上記の比較例における傾向(つまり、緩斜面部300a又は溝300bが形成される傾向)が抑えられる。このため、リッジ側面300及びエッチング面310の形状が
図8に示されるような形状に近くなる。これにより、ドライエッチングによって形成されるリッジ180の形状が単純化されるため、シミュレーション等による設計が容易になる。また、実際に形成されるリッジ180の形状と設計上の形状との誤差も抑えられるようになる。
【0048】
なお、選択エッチングを用いる場合、エッチング速度の変化によって、リッジ180の側面の形状が変化し得る。以下、選択エッチングを用いる場合のリッジ180の側面形状について、
図9A及び
図9Bを用いて説明する。
図9A及び
図9Bは、それぞれ、本実施の形態に係るリッジ180の側面の形状の第1例及び第2例を示す模式的な断面図である。
図9A及び
図9Bにおいては、リッジの長手方向(つまり、レーザ光の共振方向)に垂直な断面が示されている。
図9A及び
図9Bにおいては、p型第1クラッド層133の平坦部133a及び突出部133bの図示は省略されている。
【0049】
図9A及び
図9Bに示されるように、選択エッチングによるエッチング速度の変化に応じて、リッジ180の側面のうち、p型第2クラッド層134の側面134sの傾斜が変わってもよい。ドライエッチングの条件によっては、p型第2クラッド層134の側面134sの傾斜が大きくなる場合(
図9A参照)も小さくなる場合(
図9B参照)もある。
【0050】
本実施の形態に係るエッチング条件下ではAl濃度に対するエッチング速度の変化が小さいため、GaNのAlGaNに対するエッチング選択比は1.0~1.5程度である。しかしながら、AlGaN層において、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造を用いることでエッチング速度を低下させることができる。つまり、GaN層のAlGaN層に対する選択比を高めることができる。
【0051】
超格子構造を用いることによる選択比の向上は、(1)GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造のGaN層へのAl拡散、(2)超格子構造のGaN層にかかるピエゾ電界、の2つの効果によってもたらされる。以下、超格子構造を用いることによる選択比の向上について、
図10~
図12を用いて説明する。
図10は、GaNのAlGaNに対する選択比のAlGaNにおけるAl濃度依存性を示すグラフである。
図10のグラフの横軸がAlGaNにおけるAl濃度を示し、縦軸が、酸素を添加した塩素系ガスを用いたエッチング条件下におけるGaNのバルクAlGaNに対する選択比を示す。
【0052】
図10に示されるように、Al濃度が2.5%程度以上の場合は、Al濃度に対して選択比が線形的に増加しているが、Al濃度0%である場合、つまり、GaNの場合の選択比は、その線形の傾向から外れている。このような選択比の特性は、GaNに対してAlが少しでも含まれると、副次的に形成される酸化アルミニウムによってエッチングが阻害され、エッチング速度が低下することに起因する。
【0053】
ここで、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造を形成する際には、熱によって超格子構造のAlGaN層に含まれるAlがGaN層に拡散される。これにより、超格子構造に含まれるGaN層にも微量のAlが含まれ、Alが含まれないGaN層よりエッチング速度が低下する。このため、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造では選択比が大きくなる。
【0054】
また、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造では、GaN層とAlGaN層との間における格子定数の不整合による歪みが生じる。この歪みにより生じた圧電分極によって周期的なピエゾ電界が発生する。このようなピエゾ電界を
図11を用いて説明する。
図11は、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造に加わるピエゾ電界を示す模式図である。
図11には、ピエゾ電界の向きが矢印520が示され、エッチング時に印加されるバイアス電界の向きを示す矢印530も併せて示されている。
図11に示されるように、GaN層500及びAlGaN層501からなる超格子構造では、GaN層500及びAlGaN層501において、それぞれ、圧縮歪み及び引張歪みが生じる。つまり、
図11の各層に示される水平方向(つまり、横方向)の矢印の向きに応力が生じる。これに伴い、各層において矢印520で示される向きのピエゾ電界が生じる。
図11に示されるように、このピエゾ電界の向きは、超格子構造のGaN層500中ではエッチングのバイアス電界の向きと反対向きであるため、バイアス電界の少なくとも一部が相殺され、GaN層500におけるエッチング速度が低下する。逆に、超格子構造のAlGaN層501中では、ピエゾ電界の向きがエッチングのバイアス電界の向きと同じ向きであるが、エッチングガスに含まれる酸素により酸化アルミニウムが形成されエッチングを阻害するため、AlGaN層501においてはエッチング速度が向上しない。これらの結果により、GaN層500及びAlGaN層501からなる超格子構造では選択比が大きくなる。
【0055】
以上で述べた超格子構造における選択比について、
図12を用いて説明する。
図12は、超格子構造とバルクAlGaNとの選択比の違いを示すグラフである。
図12のグラフは、
図10のグラフのうちAl濃度が10%以下の範囲が拡大されたグラフである。
【0056】
例えば、GaN層とAl
0.05Ga
0.95N層とからなる超格子構造の選択比は、GaN層の選択比とバルクAl
0.05Ga
0.95N層の選択比との平均値(
図12の点P1参照)となるように推測される。しかしながら、上述したように、Alが含まれないGaN層と、微量のAlが拡散したGaN層とでは選択比が大きく異なる。
図12に示されるように、GaN層では、選択比は1であるが(
図12の点P0参照)、微量のAlが拡散したGaN層では、選択比は、3以上に向上する(
図12の点P2参照)。したがって、超格子構造におけるGaN層のように、微量のAlが拡散したGaN層と、Al
0.05Ga
0.95N層とからなる超格子構造の選択比は、
図12の点P2の選択比と、Al濃度が5%の場合の選択比との平均である点P3で示される選択比にまで向上することが説明できる。さらに、上述したとおり、超格子構造のGaN層中ではエッチングのバイアス電界と反対向きのピエゾ電界が生じるため、エッチング速度が低下する。このため、GaN層と、Al
0.05Ga
0.95N層とからなる超格子構造の選択比が、
図12の点P4で示される選択比まで上昇する。したがって、GaN層と、Al
0.05Ga
0.95N層とからなる超格子構造の選択比は、GaN層の選択比と、Al
0.05Ga
0.95N層の選択比との平均値より大幅に大きくなる。
【0057】
以上のように、GaN層と、AlGaN層とからなる超格子構造を用いることで、低い平均Al組成比を有する層でも、選択比を大きくできる。したがって、低Al組成比でもエッチングストップ層として用いることができるAlGaN層(超格子層)を実現できる。
【0058】
また、一般的に高Al組成比のAlGaN層をエッチングストップ層として用いると、AlGaN層が高抵抗層となるため半導体レーザ素子の駆動電圧上昇の要因となる。しかしながら、GaN層及びAlGaN層からなる超格子構造を有するp型第1クラッド層133をエッチングストップ層として用いることで、バルクAlGaN層と同程度の選択比をより低い平均Al組成比のp型第1クラッド層133で実現できる。したがって、超格子構造を有するp型第1クラッド層133を用いることで、バルクAlGaN層をp型第1クラッド層133として用いる場合より、p型第1クラッド層133の抵抗値を低減できるため、半導体レーザ素子10の駆動電圧を抑えることができる。
【0059】
[1-4.効果等]
以上のように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10は、リッジ180を有する。半導体レーザ素子10は、p型第1クラッド層133と、p型第1クラッド層133上に配置されるp型第2クラッド層134とを備える。p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦1)の各々が交互に積層される超格子構造を有し、p型第2クラッド層134は、AlzGa1-zN(0≦z<y)からなる。p型第1クラッド層133は、p型第2クラッド層134が配置されない平坦部133aと、平坦部133aから上方に突出し、p型第2クラッド層134が配置される突出部133bとを有する。リッジ180は、突出部133bと、突出部133b上に配置されるp型第2クラッド層134とを含み、突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、平坦部133aにおけるp型第1クラッド層133の厚みより小さい。
【0060】
このように、p型第1クラッド層133が超格子構造を有することで、比較的低いAl組成比で、GaN層に対するエッチングの選択比を高めることができる。したがって、p型第1クラッド層133において、確実にエッチングを停止できる。これにより、エッチングによりリッジ180を形成する場合に、p型第1クラッド層133がエッチングされることで形成される突出部133bの平坦部133aから突出する高さを、平坦部133aにおけるp型第1クラッド層133の厚み以下に抑制できる。このように平坦部133aの最上面の積層方向における位置が、p型第1クラッド層133の上方部分の範囲内に収まるように精密に制御できる。このため、例えば、半導体ウェハ上に各半導体層及び各電極を形成して、複数の半導体レーザ素子10を同時に製造する場合であっても、各半導体レーザ素子10の特性を均一化することができる。より具体的には、各半導体レーザ素子10の光及び電流の閉じ込め効果のばらつきを抑制できる。また、複数のリッジ180を有するアレイ型の半導体レーザ素子においては、各リッジ180における出力特性を均一化できる。また、p型第1クラッド層133のGaN層に対するエッチングの選択比を高めることで、平坦部の最上面と突出部の側面との間に緩斜面部又は溝が形成されることを抑制できる。
【0061】
また、p型第1クラッド層133が超格子構造を有することで、p型第1クラッド層133のAl組成比を抑制しつつ、選択比を大きくできるため、p型第1クラッド層133の高抵抗化を抑制できる。
【0062】
また、半導体レーザ素子10において、平坦部133aの最上面には、p型第1クラッド層133の超格子構造の最も上に積層された層が露出していてもよい。
【0063】
このように平坦部133aの最上面にp型第1クラッド層133の超格子構造の最も上に積層された層が露出する場合、平坦部133aの最上面の積層方向における位置が、超格子構造を形成する最上層の厚みの範囲内に制御されている。つまり、半導体レーザ素子10における平坦部133aの最上面の積層方向における位置を一層精密に制御できる。したがって、半導体レーザ素子の出力特性を一層安定化させることができる。
【0064】
また、半導体レーザ素子10は、p型第2クラッド層134上に配置されるp型第3クラッド層135を備えてもよい。
【0065】
これにより、活性層120への光閉じ込め効果を高めることができる。
【0066】
また、半導体レーザ素子10において、p型第2クラッド層134の厚みは、p型第3クラッド層135の厚みより小さくてもよい。
【0067】
これにより、p型第2クラッド層134の屈折率が、p型第1クラッド層133の平均屈折率より高い場合にも、p型第3クラッド層135によって、活性層120への十分な光閉じ込め効果を得ることが可能となる。
【0068】
また、半導体レーザ素子10において、p型第3クラッド層135は、1以上のAlvGa1-vN層の各々及び1以上のAlwGa1-wN層(0≦v<w≦1)の各々が交互に積層される超格子構造を有してもよい。
【0069】
これにより、p型第3クラッド層135の電気抵抗を低減できるため、半導体レーザ素子10の駆動電圧を低減できる。
【0070】
また、半導体レーザ素子10において、p型第1クラッド層133の突出部133bの平坦部133aから突出する高さは、p型第1クラッド層133の超格子構造の周期膜厚以下であってもよい。
【0071】
このように、突出部の平坦部から突出する高さが、p型第1クラッド層133の超格子構造の周期膜厚以下である場合、平坦部の最上面の積層方向における位置が、超格子構造を形成する周期膜厚以下の範囲内に制御されている。つまり、半導体レーザ素子における平坦部の最上面の積層方向における位置を一層精密に制御できる。したがって、半導体レーザ素子の出力特性をより一層安定化させることができる。
【0072】
また、半導体レーザ素子10において、p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦0.5)の各々が交互に積層される超格子構造を有してもよい。
【0073】
このように、p型第1クラッド層133のAl組成比を0.5以下に抑制できるため、p型第1クラッド層133における電気抵抗を抑制できる。
【0074】
また、半導体レーザ素子10において、p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦0.2)の各々が交互に積層される超格子構造を有してもよい。
【0075】
このように、p型第1クラッド層133のAl組成比を0.2以下に抑制できるため、p型第1クラッド層133における電気抵抗をさらに抑制できる。
【0076】
また、半導体レーザ素子10において、p型第1クラッド層133は、1以上のAlxGa1-xN層の各々及び1以上のAlyGa1-yN層(0≦x<y≦0.1)の各々が交互に積層される超格子構造を有してもよい。
【0077】
このように、p型第1クラッド層133のAl組成比を0.1以下に抑制できるため、p型第1クラッド層133における電気抵抗をさらに抑制できる。
【0078】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、p型半導体層130と絶縁層150との間に酸化被膜が配置される点において、実施の形態1に係る半導体レーザ素子10と相違する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子10とは異なる構成を中心に
図10を用いて説明する。
【0079】
図13は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10aの全体構成を示す断面図である。
図13には、半導体レーザ素子10aが有するリッジ180の長手方向(つまり、レーザ光の共振方向)に垂直な断面が示されている。
【0080】
図13に示されるように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子10aは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子10と同様に、基板100と、n型半導体層110と、活性層120と、p型半導体層130と、p型コンタクト層140と、絶縁層150と、p電極160と、n電極170とを備える。本実施の形態に係る半導体レーザ素子10aは、酸化被膜400をさらに備える。
【0081】
酸化被膜400は、p型半導体層130と、絶縁層150との間に配置される酸化膜である。より詳しくは、酸化被膜400は、p型第1クラッド層133の平坦部133aの上面、及び、リッジ180の側面と、絶縁層150との間に配置される。
【0082】
酸化被膜400は、例えば、実施の形態1に係る半導体レーザ素子10の製造方法において説明したリッジ180を形成する工程のうち、酸素を数%添加した塩素系ガスを用いて選択エッチングを行う際に形成することができる。酸化被膜400は、窒化物半導体(ここでは、GaN又はAlGaN)が酸化されて形成されたものであるため、酸化アルミニウム又は、酸化ガリウムからなる。酸化被膜400の膜厚は、100nm以下である。また、酸化被膜400の膜厚は、10nm以上であってもよい。また、酸化被膜400は、窒化物半導体が完全に酸化された膜に限定されず、一部が酸化された膜であってもよい。例えば、酸化被膜400は、AlαGa1-αOβN1-β(0≦α<1、0<β≦1)で表される組成を有する膜であってもよい。
【0083】
以上のような構成を有する半導体レーザ素子10aにおいても、実施の形態1に係る半導体レーザ素子10と同様の効果が奏される。
【0084】
(その他の実施の形態)
以上、本開示に係る半導体レーザ素子について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を各実施の形態に施したもの、又は、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0085】
例えば、上記各実施の形態においては、第1導電型及び第2導電型は、それぞれ、n型及びp型であったが、第1導電型及び第2導電型は、それぞれ、p型及びn型であってもよい。つまり、基板100と活性層120との間に、p型半導体層が積層され、活性層120の上方にn型半導体層が積層されてもよい。
【0086】
また、上記各実施の形態では、半導体レーザ素子10は、n側光ガイド層112、p側光ガイド層131、p型OFS層132、及びp型第3クラッド層135を備えたが、これらの各層は、必須の構成要素ではない。つまり、本開示に係る半導体レーザ素子は、これらの層の少なくとも一つを備えなくてもよい。
【0087】
また、上記各実施の形態においては、半導体レーザ素子は、一つのリッジを有したが、複数のリッジを有してもよい。
【0088】
また、上記各実施の形態において、p型第1クラッド層133及びp型第3クラッド層135は、同様の層からなる超格子構造を有してもよい。つまり、p型第1クラッド層133が有するAlxGa1-xN層及びAlyGa1-yN層が、それぞれ、p型第3クラッド層135が有するAlvGa1-vN層及びAlwGa1-wN層と同様の組成を有してもよい。さらに言い換えると、Al組成比x、y、v、wについて、x=v、y=wが成り立ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示に係る半導体レーザ素子は、安定した出力特性を有し、高抵抗化が抑制された低駆動電圧の半導体レーザ素子として、例えば、加工用レーザ装置の光源などとして利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
10、10a 半導体レーザ素子
100 基板
110 n型半導体層
111 n型クラッド層
112 n側光ガイド層
120 活性層
130 p型半導体層
131 p側光ガイド層
132 p型オーバーフロー制御層(p型OFS層)
133 p型第1クラッド層
133a 平坦部
133b 突出部
134 p型第2クラッド層
134s 側面
135 p型第3クラッド層
140 p型コンタクト層
150 絶縁層
160 p電極
170 n電極
180 リッジ
200 マスク
300 リッジ側面
300a 緩斜面部
300b 溝
310 エッチング面
400 酸化被膜
500 GaN層
501 AlGaN層
520、530 矢印