(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】架橋された脂肪族ポリケトン
(51)【国際特許分類】
C08G 73/02 20060101AFI20240925BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20240925BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C08G73/02
C08L79/02
C08J3/20 D CEZ
(21)【出願番号】P 2022546691
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 EP2021052734
(87)【国際公開番号】W WO2021156403
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】102020102926.8
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020134187.3
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521053101
【氏名又は名称】フロイデンベルク エスエー
【氏名又は名称原語表記】FREUDENBERG SE
【住所又は居所原語表記】Hohnerweg 2-4,69469 Weinheim, GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シャウバー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ズッター
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン ヘルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ハイアー
(72)【発明者】
【氏名】キラ トルキシウス
(72)【発明者】
【氏名】ティナ アンドレー
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥア ランツィナー
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-168057(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106633786(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤としての少なくとも1つのジアミン源によりイミン基を形成しながら脂肪族ポリケトンを架橋したマトリックスを含む成形体であって、前記ジアミン源が、
- 一般式(V):
【化1】
[式中、
R
19およびR
20は、互いに独立して、H、1~20個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、5~12個の炭素原子を有する置換または非置換アリール、F、およびClから選択されており、
R
21は、炭素環式基であり、これは、2~3個の炭素環原子を有しており、また1~4個の炭素原子を有する少なくとも1個のアルキル基で置換されていてもよい]のジ(アミノフェニル)化合物、
-
化合物
【化2】
またはこの化合物を重合導入して含有するオリゴマー/ポリマーから選択される、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、ならびに
- それらの混合物
から選択され、
ここで、前記架橋剤の割合は、脂肪族ポリケトンおよび架橋剤の総量に基づいて、0.05重量%~15重量%である、成形体。
【請求項2】
少なくとも1つの充填材および強化材、ならびに/またはそれらとは異なる添加剤を含む、請求項1記載の成形体。
【請求項3】
成形体を製造する方法であって、
i) 少なくとも1つの脂肪族ポリケトンと少なくとも1つの架橋剤とを含有する混合物を提供するステップ、
ii) ステップi)で得られた前記混合物から成形体を製造するステップ、および
iii) 前記脂肪族ポリケトンが架橋される温度で前記成形体を熱処理するステップ
を含み、
ここで、前記架橋剤が、
- 一般式(V):
【化3】
[式中、
R
19およびR
20は、互いに独立して、H、1~20個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、5~12個の炭素原子を有する置換または非置換アリール、F、およびClから選択されており、
R
21は、炭素環式基であり、これは、2~3個の炭素環原子を有しており、また1~4個の炭素原子を有する少なくとも1個のアルキル基で置換されていてもよい]のジ(アミノフェニル)化合物、
-
化合物
【化4】
またはこの化合物を重合導入して含有するオリゴマー/ポリマーから選択される、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、ならびに
- それらの混合物
から選択され
、
ここで、前記架橋剤の割合は、脂肪族ポリケトンおよび架橋剤の総量に基づいて、0.05重量%~15重量%である、前記方法。
【請求項4】
前記架橋剤が、式(V.a1):
【化5】
の化合物である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ステップi)で、前記少なくとも1つの脂肪族ポリケトン、前記少なくとも1つの架橋剤、場合により充填材および強化材、ならびに場合によりそれらとは異なるさらなる添加剤を溶融混合または乾式混合に供する、請求項3
または4記載の方法。
【請求項6】
ステップi)で、前記少なくとも1つの脂肪族ポリケトン、前記少なくとも1つの架橋剤、場合により充填材および強化材、ならびに場合によりそれらとは異なるさらなる添加剤を、押出機に供給し、可塑化しながら混合し、場合により造粒する、請求項3から
5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記脂肪族ポリケトンが、DIN ISO 1130によって測定して、240℃で、2cm
3/10分~200cm
3/10分の範囲の溶融粘度を有する、請求項3から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が添加溶媒を含有していない、請求項3から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ステップii)における温度が少なくとも220℃である、請求項3から
8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ステップii)における前記混合物を、押出成形、熱間プレス、射出成形、および/または3D印刷によって加工する、請求項3から
9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
ステップii)で得られた前記成形体を、ステップiii)で5分間~6時間熱処理に供する、請求項3から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ステップii)で得られた前記成形体を、ステップiii)で0.5分間~5時間熱処理に供する、請求項3から
10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
ステップiii)における前記熱処理を少なくとも160℃の温度で行う、請求項
11または
12記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの脂肪族ポリケトン(PK)と、
- 一般式(V):
【化6】
[式中、
R
19およびR
20は、互いに独立して、H、1~20個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、5~12個の炭素原子を有する置換または非置換アリール、F、およびClから選択されており、
R
21は、炭素環式基であり、これは、2~3個の炭素環原子を有しており、また1~4個の炭素原子を有する少なくとも1個のアルキル基で置換されていてもよい]のジ(アミノフェニル)化合物、
-
化合物
【化7】
またはこの化合物を重合導入して含有するオリゴマー/ポリマーから選択される、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、ならびに
- それらの混合物
から選択される少なくとも1つの架橋剤と
を含有
し、
ここで、前記架橋剤の割合は、脂肪族ポリケトンおよび架橋剤の総量に基づいて、0.05重量%~15重量%である、ポリマー混合物。
【請求項15】
自動車、海運、航空および宇宙飛行、鉄道車両、石油およびガス産業、食品および包装産業、ならびに医療技術の分野における、請求項1または2に定義されている成形体、または請求項3から
13までに定義されている方法によって得られる成形体の使用。
【請求項16】
請求項1または2記載の成形体からなるか、または前記成形体を含有する、電気的または化学的用途の、シーリング物品、スラストワッシャー、バックアップリング、バルブ、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、シーリングおよびOリング、パイプおよび導管、ケーブル、被覆および外被、ハウジング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋された脂肪族ポリケトン(PK)を含有するポリマーマトリックスを含む成形体、ならびにそのような成形体を製造するための方法に関する。さらに、本発明は、自動車、海運、航空および宇宙飛行、鉄道車両、石油およびガス産業、食品および包装産業、ならびに医療技術の分野における、殊に、そのような成形体を含むか、またはそのような成形体からなる、電気的または化学的用途の、シーリング物品、スラストワッシャー、バックアップリング、バルブ、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、シーリングおよびOリング、パイプおよび導管、ケーブル、被覆および外被、ならびにハウジングとしての使用に関する。
【0002】
発明の背景
熱可塑的に加工可能なプラスチック(熱可塑性樹脂)は、それらの製造の生産性、可逆的変形性を理由に、また多くの場合、それらの高品質な技術的特性に基づいて、広く普及しており、今日では、工業的生産における標準的な製品となっている。熱可塑性樹脂は、本質的に線状のポリマー鎖からなり、すなわち、熱可塑性樹脂は、架橋されておらず、一般に、少ししか分岐していないか、または分岐していない。しかし、熱可塑性樹脂には、それらの耐熱性に関して固有に条件付けられた制限があるため、ポリマー材料のすべての適用領域に最適であるわけではない。したがって、例えば、加工性、良好な機械的特性、または高い耐薬品性などの利点を犠牲にすることなく、熱可塑性プラスチックの耐熱性を高めることが望ましい。ここでは、高分子が共有結合によって互いに結合されている多重架橋ポリマー(熱硬化性樹脂、熱硬化性物質)が有利である。これらは、低温では、ガラス範囲とも称される硬弾性状態にある。熱硬化性樹脂がこの範囲を超えて加熱されると、一般に、すぐに熱分解の範囲に到達する。したがって、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂との両方の利点を組み合わせた材料を開発することに大きな関心が寄せられており、すなわち、これらの材料は、安価に変形させることができ、同時に高い耐熱変形性を示す。
【0003】
脂肪族ポリケトン(PK)は、良好な機械的特性、殊に、高い衝撃強度と、良好な耐媒体性とを有する熱可塑性樹脂である。これらは、エチレン基またはプロピレン基にそれぞれケト基(カルボニル基)が続く交互構造を有し、ここで、プロピレン基の割合は、一般に小さく、かつ可変である。PKは、特に、良好な強度特性、低温での高い衝撃強度値、高い機械的疲労強度、クリープ変形の低い傾向、ならびに良好な滑り挙動および摩耗挙動の点で優れている。
【0004】
脂肪族ポリケトン(PK)は、一酸化炭素とα-オレフィンとから製造される線状に構築されたポリマーであり、ここで、ポリマー鎖内のモノマー単位は、厳密に交互に配置されている。今日では、一酸化炭素およびエチレンのみから製造される古典的なポリケトンコポリマーの代わりに、ほぼポリケトンターポリマーのみが使用されている。これらのポリケトンターポリマーは、一酸化炭素と、エチレンと、好ましくは少量のプロピレンとからなる。
【0005】
【0006】
コポリマーの代わりにターポリマーを使用する理由は、ターポリマーの著しく低減された脆性にある。非常に低い欠落率(モノマー単位100万個あたり1つの欠落)を有するその厳密に交互に構築されたポリマー鎖および多数の極性ケト基を理由に、一酸化炭素とエチレンとからなるポリケトンコポリマーは、高結晶性であり、非常に硬いが、また、非常に脆いので、ポリマー材料としてのその用途の可能性が著しく限られている。合成中に少量のプロピレン(約5%)を添加することによって、結晶性を乱し、融点を255℃(一酸化炭素とエチレンとのコポリマー)から220℃(ターポリマー)に低下させて、脆くない非常に丈夫なポリマーを得ることに成功した。なかでも、脂肪族ポリケトンは、高い衝撃強度、低いクリープ挙動、高い耐薬品性、および良好なトライボロジー特性の点で優れている。しかし、PKには、先に挙げた、熱可塑性樹脂に典型的な、耐熱性に関して固有に与えられている制限もある。したがって、PKを約80℃~100℃の最大連続使用温度(ISO75に準拠した耐熱変形性HDT/A)に使用することは不利である。したがって、このポリマークラスの用途の可能性が著しく制限されている。
【0007】
したがって、脂肪族ポリケトンの連続使用温度を上げることができると有利であろう。PKの耐熱性および機械的安定性をさらに高めるために、ポリマー鎖を架橋することが提案された。この原理は、すでにポリアリールエーテルケトン(PAEK)に問題なく適用された。
【0008】
脂肪族ポリケトンは、芳香族環およびエーテル基を含まないという点で、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)とは異なる。ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、高い耐熱性および耐媒体性を有する半結晶性の高性能ポリマーである。これらは、交互になったケト基、エーテル基、およびアリール基からなる。PAEKの1つの利点は、熱可塑的加工性である。しかし、熱可塑性樹脂は、耐熱性の点で固有に与えられている制限がある。PAEKの耐熱性および機械的安定性を高めるために、ポリマー鎖を架橋することが提案された。従来技術では、PAEKをジアミンによって架橋する方法が架橋に使用される。その際、架橋されたポリマーにより高い安定性を付与することができるイミン結合(シッフ塩基)が形成される。ここでの欠点は、そのような架橋されたポリマーが流動性でないことである。したがって、これらは、ポリマーの溶融物から容易に熱可塑的に加工することができない。
【0009】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)をジアミンで化学的に架橋するための方法は、1980年代から知られている。ここで、ポリエーテルエーテルケトンは、パラフェニレンジアミンを結合することによって、溶媒としてのジフェニルスルホン中でまず修飾される。それに続いて、溶媒を乾燥およびさらなる洗浄によって分離する必要がある。問題は、記載されている方法において、またここでは共有結合の場合でも、橋架け結合がすでに形成されていることである。ここで、一方では耐熱性が上昇するが、他方ではガラス転移温度も上昇し、熱可塑的加工性が失われる。したがって、得られたポリマー塊は、溶融物から熱可塑的に架橋されるのではなく、熱間プレスによって架橋される。
【0010】
さらに、溶媒としてのジフェニルスルホン中でのPEEKおよびフェニレンジアミンの類似反応によってPAEKをまず修飾し、これを溶媒分離および洗浄後に熱間プレスによって架橋することが知られている。熱可塑的加工性についても記載されていない。調査から、これらの生成物が非架橋PEEKよりも安定性を有することが示されているが、これらは、なおも改善が必要である。
【0011】
国際公開第2010/011725号には、PAEKを架橋するための様々なアミン架橋剤が記載されている。しかし、この文書には、先に引用されている文献に従ったジフェニルアミンによるPAEKの架橋を説明する単一の合成例しか含まれておらず、ここでは、溶媒としてのジフェニルスルホン中でまず反応が起こる。
【0012】
非アミン架橋剤によってPAEKを架橋するための方法は、米国特許第6,887,408号明細書で提案されている。
【0013】
PAEKを架橋するために、ポリマー自体を架橋可能なアミノ基で官能化することも従来技術において提案された。そのような方法は、例えば、米国特許出願公開第2017/0107323号明細書に記載されている。ここでの欠点は、アミノ基によるPAEKの官能化が比較的煩雑であることである。さらに、官能化されたPAEKの架橋は、低分子架橋剤ほど単純かつ可変的に制御することはできない。
【0014】
国際公開第2020/056052号には、少なくとも1つの芳香族ポリマーと、少なくとも1つの芳香族ポリマーを架橋することができる少なくとも1つの架橋性化合物とを含む架橋可能なポリマー組成物が記載されている。フルオレン、ジフェニルメタン、およびジヒドロアントラセンの誘導体が架橋性化合物として使用される。
【0015】
低分子架橋剤としてのジアミンによるPAEKの架橋のための従来技術に記載されている方法は、高割合の溶媒の存在下で実施され、ここで、成形体の製造は熱間プレス(圧縮成形)によって行われる。これらの生成物は、同等の非架橋PAEKよりも温度安定性がある。しかし、このようにして架橋されたPAEKは、ポリマーが溶媒に溶解するとPAEKの結晶性が失われるため、比較的低い剛性を有するという欠点がある。さらなる加工において、結晶性は、架橋部位による鎖の固有の立体障害を理由に、たとえあったとしても、低割合でしか回復することができない。さらに、これらの方法は、溶媒の除去を理由に多数の作業ステップを必要とすることから全体的に非常に複雑であることが欠点である。さらなる欠点は、成形体が熱間プレスによって製造され、それによって、熱可塑的加工と比較して適用可能性が制限されることである。熱間プレスおよび同等の方法は、熱可塑性溶融物に変換され得ない非流動性の材料を用いて実施される。それによって、変形性が制限され、壁の薄い、または複雑な形状の成形体を製造することができない。これらの理由から、そのような方法は、非常に限定的にしか自動化することができない。したがって、公知の溶媒ベースの方法に基づいて、効率的かつ安価な工業的生産を行うことはできない。
【0016】
国際公開第2010/011725号には、極めて一般的な形で、架橋されたPAEKから押出成形によって成形体を製造することが記載されている。しかし、生成物の製造は実験室規模かつ熱間プレスでのみ行われるため、これは理論的なアプローチに過ぎない。低分子量の架橋剤によって架橋されたPAEKが押出成形可能であるという証拠はなく、その際に、有利な特性を有する生成物を得ることができないことは言うまでもない。また、PAEKとアミノ基を含む架橋剤とが押出機内で可塑化され、それに続いて成形ステップに供され得ることについても、当業者においては、成功への期待が十分にはない。一方では、成分を混合および加工しなくてはならない高い溶融温度で架橋がすでに開始するという問題がある。他方では、PAEKが、溶媒の不在下でそのようなアミン架橋剤を用いて混合可能かつ加工可能であるとは予想されていなかった。実際には、ポリマーへの低分子成分の組み込みにおいて、多くの場合、分離プロセスが観察される。しかし、安定した生成物を得るためには、ポリマーにおける架橋剤の均質な分布が必須である。
【0017】
国際公開第2020/030599号には、PAEKを含有する架橋された成形体を製造するための方法であって、架橋剤が、炭素環式基を有する脂肪族基を介して2個のアミノフェニル環が互いに結合されたジ(アミノフェニル)化合物である製造方法が記載されている。具体的には、架橋剤成分としては、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-5-アミンDAPI(CAS番号54628-89-6)、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-6-アミンを有する異性体混合物、またはCAS番号68170-20-7を有する異性体混合物が使用される。一方では、架橋剤を製造するための高いコストが欠点である。他方では、DAPIによって架橋されたPAEKの物理化学的特性は改善の必要がある。
【0018】
ポリアリールエーテルケトンと同様に、脂肪族ポリケトンは、アミンと反応してシッフ塩基を形成することができるケト基を含む。しかし、脂肪族ポリケトンは、高温でそれらのケト基をこれらの対応するエノール型に互変異性化し、次いで、これらのエノール基の制御不能なさらなる反応をもたらす傾向があるため、これらの反応は、通常、架橋に対して主要な競合となり、それによって、脂肪族ポリケトンへの先に挙げた方法の転用性がより低くなる。
【0019】
ただし、架橋された脂肪族ポリケトンを得ることが非常に望ましいであろう。というのも、これらは、なかでも、改善された機械的特性、ならびに改善された耐熱変形性、低減したクリープ挙動、および向上した耐薬品性の点で優れ得るからである。
【0020】
さらに、揮発性ジアミンは、高温で、使用者にとってかなりの危険性および高い環境負荷に関連しているため、先に記載の方法およびそこで使用される試薬を使用者または環境の危険性が伴わないように設計することがさらに望ましいであろう。
【0021】
本発明の根底にある課題は、先に記載の欠点を克服する方法および成形体を提供することである。
【0022】
したがって、改善された耐熱性と、より低い燃焼性と、高温でのより高い剛性(弾性率)とを有する、脂肪族ポリケトン(PK)をベースとする材料が提供されるべきである。さらに、これらは、薬品に対する良好な耐久性、および低いクリープ傾向を有するべきである。
【0023】
殊に、本発明の根底にある課題は、改善された安定性を有する材料を有するが、それにもかかわらず良好に加工可能である成形体を提供することである。ここで、これらの材料は、単純な手法で効率的かつ安価に製造可能であるべきであり、殊に熱可塑的に加工可能であるべきである。ここで、例えば熱間プレスなどの非効率的な方法を回避することができるのが望ましい。
【0024】
これらの方法はまた、できる限り環境に優しく、かつ使用者を危険に曝すことなく実施可能であるべきである。
【0025】
驚くべきことに、本発明の根底にある課題は、ポリケトンが、イミン基を形成しながら特別なジアミン源によって架橋される方法、成形体、およびシーリング物品によって解決される。ここでは、成形体を製造するために、ポリケトンとジアミン源とからの可塑化された混合物がまず成形方法に供され得る。それに続いて、成形体が架橋に供され得る。
【0026】
発明の概要
本発明の第1の対象は、架橋剤としての少なくとも1つのジアミン源によりイミン基を形成しながら脂肪族ポリケトンが架橋したマトリックスを含む成形体であって、前記ジアミン源が、
- 炭素環式基を有する脂肪族基を介して2個のアミノフェニル環が互いに結合されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)、および(III)
【化2】
【0027】
[式中、
R1、R2、R3、およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレン、およびフェニレンから選択され、
Raは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、ここで、アリール基は、非置換であるか、またはRcで置換されており、
Rbは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択され、
Rcは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択されている]
の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、これらを組み込んで含むオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択される、成形体である。
【0028】
本発明のさらなる対象は、成形体を製造する方法であって、
i) 少なくとも1つの脂肪族ポリケトンと少なくとも1つの架橋剤とを含有する混合物を提供するステップ、
ii) ステップi)で得られた混合物から成形体を製造するステップ、および
iii) 脂肪族ポリケトンが架橋される温度で成形体を熱処理するステップ
を含み、
ここで、架橋剤が、
- 炭素環式基を有する脂肪族基を介して2個のアミノフェニル環が互いに結合されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)、および(III)
【化3】
【0029】
[式中、
R1、R2、R3、およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレン、およびフェニレンから選択され、
Raは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、ここで、アリール基は、非置換であるか、またはRcで置換されており、
Rbは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択され、
Rcは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択されている]
の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、これらを組み込んで含むオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択される、方法である。
【0030】
本発明の対象はまた、この方法によって得られる成形体である。
【0031】
さらなる対象は、少なくとも1つのポリケトン(PK)と、
- 炭素環式基を有する脂肪族基を介して2個のアミノフェニル環が互いに結合されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)、および(III)
【化4】
【0032】
[式中、
R1、R2、R3、およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレン、およびフェニレンから選択され、
Raは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、ここで、アリール基は、非置換であるか、またはRcで置換されており、
Rbは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択され、
Rcは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択されている]
の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、ならびにこれらを組み込んで含むオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択される少なくとも1つの架橋剤と
を含有する、ポリマー混合物である。
【0033】
本発明のさらなる対象は、自動車、海運、航空および宇宙飛行、鉄道車両、石油およびガス産業、食品および包装産業、ならびに医療技術の分野における、殊に、本発明による成形体からなるか、または本発明による方法によって得られた成形体からなるか、またはそのような成形体を含有する、電気的または化学的用途の、シーリング物品、スラストワッシャー、バックアップリング、バルブ、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、シーリングおよびOリング、パイプおよび導管、ケーブル、被覆および外被、ならびにハウジングとしての、前記で、および以下に定義されるような成形体、または前記で、および以下に定義される方法によって得られる成形体の使用である。
【0034】
発明の概要
以下では、「架橋剤」および「ジアミン源」という用語は、同義語として使用される。
【0035】
本発明による成形体および本発明による方法には、以下の利点がある:
- 例えば揮発性芳香族アミンなどの環境および健康に潜在的に有害な物質は、本発明による方法では回避される。
【0036】
- 本発明によって使用される架橋されたポリケトンおよび本発明による成形体は、非架橋PKよりも向上した耐熱性およびより高い最大使用温度の点で優れている。
【0037】
- 本発明による方法は、低いコストの点で優れている。本発明によって使用されるジアミン源は、一般に製造コストが低い市販の原料である。
【0038】
- ポリアミドは、低分子量のポリアミドおよびジアミンの供給源として機能することができる。反応条件に応じて、どの架橋成分がポリアミドから形成されるかを調整することができる。したがって、ポリアミドをジアミン源として使用することによって、低沸点の脂肪族ジアミンによってPKを架橋することもでき、これは、通常であれば方法技術的/安全技術的/環境技術的な理由から実行することができない。
【0039】
- 本発明による方法は、2つの成分(好ましくは2つの顆粒)が運ばれ、混合されればよいのみであるため、技術的に単純に実施可能である。
【0040】
- 本発明による成形体は、良好なトライボロジー特性、殊に、非常に良好な摩耗挙動を有する。これらは、例えば、攻撃的な、および研磨性の媒体用のコンベヤ装置におけるシーリングおよび滑り軸受材料として、研磨摩耗条件下での使用のための材料に適切である。
【0041】
- 本発明による成形体は、より少ない膨潤を示す。
【0042】
- 長く確立されている成分が使用されることから、これらのポリマーのREACH登録は必要ない。
【0043】
- 本発明による方法は、持続可能なものである。架橋されていない残留物は、良好かつ単純にリサイクルすることができ、廃棄に送る必要がない。
【0044】
ポリケトン
基本的に、任意の脂肪族ポリケトンをポリマー成分として使用することができる。本発明によると、脂肪族ポリケトン(PK)は、一酸化炭素とα-オレフィンとから生成される線状に構築されたポリマーであり、ここで、ポリマー鎖内のモノマー単位は、好適には厳密に交互に配置されている。脂肪族ポリケトンは、芳香族環およびエーテル基を含まないという点で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリアリールエーテルケトン(PAEK)とは異なる。本発明によると好ましいPKは、ポリケトンターポリマーである。これらのポリケトンターポリマーは、一酸化炭素と、エチレンと、好ましくは少量のプロピレンとからなる。
【0045】
【0046】
本発明によると、脂肪族ポリケトンは、交互になったアルキレン単位とケト基とからなる線状ポリマー鎖を有する。アルキレン単位は、好適には、主成分としてのエチレン単位、特に好ましくは、1-メチルエチレン単位と組み合わされた主成分としてのエチレン単位を含む。脂肪族ポリケトンは、それらの平均分子量、ならびに製造に使用される出発物質である、一酸化炭素、エチレン、およびさらなるアルケン、例えば、プロピレンまたは1-もしくは2-ブチレンの比率について異なり得る。脂肪族ポリケトンは、イミン結合を形成しながら結合され得るケト基を有する。本発明によると、例えばそれらの分子量またはそれらの組成が異なる、様々な脂肪族ポリケトンの混合物も使用することができる。しかし、単一のPKを使用することが好ましい。なぜなら、それによって、より高い結晶性およびそれに関連する温度安定性を実現することができるからである。
【0047】
好ましい実施形態では、脂肪族ポリケトンは、60000g/mol~100000g/molの範囲の平均分子量Mn(数平均)または132000g/mol~320000g/molの範囲の平均分子量Mw(質量平均)を有する(GPC測定で特定)。脂肪族ポリケトンの多分散度は、好ましくは2.2~3.2である。脂肪族ポリケトンは、好ましくはさらに、10~14℃のガラス転移点、218~226℃の融点、および/または170~182℃の再結晶化温度を有する(DSCによって特定、DIN EN ISO 11357-1~3、20℃/分の加熱速度)。本発明によって架橋されるPKは、特に有利な特性、殊に、改善された機械的および化学的特性を有することが判明した。
【0048】
好ましくは、脂肪族ポリケトン(PK)は、240℃で、2cm3/10分~200cm3/10分の範囲、殊に6cm3/10分~60cm3/10分の範囲のメルトフローインデックス(MFR)を有する。測定は、DIN ISO 1133によって行われ、ここで、材料は、240℃で溶融され、2.16kgのスタンプ負荷がかけられ、その後、流動性が決定される。特に適切な脂肪族ポリケトンの例は、例えば、HyosungのM330Aである。メルトフローインデックスは、一般に、ポリマー鎖の分子量と相関関係にある。本発明によると、良好な熱可塑的加工性および混和性が達成され、また高い安定性と、ここでは殊に、高い剛性とを有する均質な生成物も同様に得ることができることから、そのようなメルトフローインデックスが有利であることが判明した。
【0049】
適切なPKは、市販されており、例えば、Hyosung Corporation Co., LtdのM230A(240℃および2.16kgでMFR=150g/10分)、M330A(240℃および2.16kgでMFR=60g/10分)、M340A(240℃および2.16kgでMFR=60g/10分)、M630A(240℃および2.16kgでMFR=6g/10分)およびM640A(240℃および2.16kgでMFR=6g/10分)、ならびにAKRO-PLASTIC GmbHのAKROTEK(登録商標)PK-VM(240℃および2.16kgでMFR=60g/10分)、AKROTEK(登録商標)PK-HM(240℃および2.16kgでMFR=6g/10分)およびAKROTEK(登録商標)PK-XM(240℃および2.16kgでMFR=2g/10分)である。
【0050】
特にここでは、先に挙げたようなメルトフローインデックスを有するPKと、PKおよび架橋剤の総量に対して、0.05重量%~15重量%、殊に0.1重量%~5重量%の量の架橋剤とを使用することが好ましい。好ましい実施形態では、架橋剤の割合は、PKおよび架橋剤の総量に基づいて、0.1~1.5重量%、殊に0.4~1.0重量%である。出発材料の比率および特性が上記のとおりである場合、生成物の特に良好な加工性が達成可能である。殊に、高い引張弾性率を特徴とする剛性が特に高い。さらに、そのようなPKは、混合の提供(=ステップi))中に架橋反応があまりにも速く進行することなく、架橋剤との熱可塑的混合をなおも可能にする温度で加工することができる。それによって、成形体を製造するための成形プロセス(=ステップii))で非常に良好に使用可能な可塑化された塊が得られる。そのようにして得られた成形体は、それに続いて、熱可塑的処理(=ステップiii)に供することができ、ここで、PKの架橋によって最終的な材料特性が達成される。
【0051】
本発明によると、好ましくは、成形体は、PKをベースとする成形体である。ここで、「PKをベースとする」とは、PKが成形体の実質的な構造化ポリマー成分であることを意味する。一実施形態では、PKが成形体の唯一のポリマー成分であることが好ましい。さらなる実施形態では、PKは、さらなるポリマー、殊に熱可塑性ポリマーとの混合物中に存在する。好ましいさらなるポリマーは、なかでも、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ならびに他の熱可塑性エラストマー、ポリエステル、液晶ポリエステル(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリカーボネート(PC)である。ここで、PKと、さらなるポリマー、殊に、熱可塑性のさらなるポリマーとの好ましい質量比は、1:1~100:1、好適には5:1~100:1、特に好ましくは10:1~100:1である。さらに、成形体は、例えば繊維などの充填剤、および/または加工助剤などの通常の添加剤、および/または官能性成分を含有し得る。ここで、架橋されたPKは、場合により存在する添加剤が均一に分布したマトリックスを形成する。
【0052】
架橋剤
好ましくは、少なくとも1つの架橋剤は、架橋剤の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、殊に少なくとも90重量%、特に少なくとも99重量%の、
- 炭素環式基を有する脂肪族基を介して2個のアミノフェニル環が互いに結合されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)、および(III)の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、これらを組み込んで含むオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択されるジアミン源を含有する。
【0053】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、架橋剤の総重量に基づいて、少なくとも80重量%、殊に少なくとも90重量%、特に少なくとも99重量%の、少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、これらを組み込んで含むオリゴマー/ポリマー、ならびにそれらの混合物から選択されるジアミン源を含有する。
【0054】
架橋剤の量は、所望の架橋度の観点で調整される。好ましくは、架橋剤の割合は、脂肪族ポリケトンおよび架橋剤の総量に基づいて、0.05重量%~15重量%、殊に0.1重量%~5重量%である。好ましい実施形態では、架橋剤の割合は、0.1~1.5重量%、殊に0.4~1.0重量%である。そのような架橋剤割合を有する生成物の安定性が特に有利であり得ることが判明した。
【0055】
好ましい実施形態では、架橋剤は、1013mbarで、少なくとも300℃、特に少なくとも350℃、特定の実装形態では少なくとも400℃の沸点を有する。これは、そのような架橋剤が、必要な高い加工温度で比較的低い蒸気圧しか有しないため、有利である。好ましくは、架橋剤の沸点は、1013mbarで、300℃~500℃の範囲、殊に350℃~500℃の範囲にある。架橋剤の融点は、有利には、脂肪族ポリケトン(PK)の融点よりも低い。それによって、良好な加工性および使用者への低い危険性が達成される。
【0056】
好ましい実施形態では、架橋剤として使用されるジアミン源は、少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマーである。
【0057】
以下で、ポリアミドという用語は、少なくとも2個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと同義的に使用される。
【0058】
以下でポリアミドが架橋剤と称される場合、これらがPKを架橋することができる限り、この用語はまた、(例えば、PKのケト基と反応することが可能なアミノ基を形成しながらのアミド基の加水分解開裂からの)より低い分子量を有する本発明による方法における反応中に形成される生成物も含む。この点で、PKと架橋剤とからの混合物を提供するために使用されるポリアミドと、これからなる任意のアミノ基含有オリゴマーおよびジアミンモノマーとの両方が、架橋剤として機能することができる。
【0059】
以下では、ホモポリアミドおよびコポリアミドをポリアミドという表記で要約する。本発明の文脈において、ポリアミドを表すために、当技術分野ではいくらか一般的な略語を使用し、これらは、文字PAと、その後に続く数字および文字からなる。これらの略語の一部は、DIN EN ISO 1043-1で定義されている。H2N-(CH2)z-COOHのタイプのアミノカルボン酸または対応するラクタムから誘導可能なポリアミドは、PA Zとして識別され、ここで、Zは、モノマーにおける炭素原子の数を表す。よって、例えば、PA6は、ε-カプロラクタムまたはε-アミノカプロン酸からのポリマーを表す。H2N-(CH2)x-NH2およびHOOC-(CH2)y-COOHのタイプのジアミンおよびジカルボン酸から誘導可能なポリアミドは、PA xyとして識別され、ここで、xは、ジアミンにおける炭素原子の数を表し、yは、ジカルボン酸における炭素原子の数を表す。コポリアミドを表すために、これらの構成要素は、スラッシュで区切って、それらの量割合の順で列挙されている。よって、例えばPA66/610は、ヘキサメチレンジアミンと、アジピン酸と、セバシン酸とからのコポリアミドである。芳香族または脂環式基を有する本発明によって使用されるモノマーには、以下の文字の略語が使用される:T=テレフタル酸、I=イソフタル酸、MXDA=m-キシリレンジアミン、IPDA=イソホロンジアミン、PACM=4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、MACM=2,2’-ジメチル-4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)。
【0060】
ポリアミドは、それらを製造するために使用されるモノマーによって説明することができる。ポリアミド形成ポリマーは、ポリアミド形成に適切なモノマーである。
【0061】
好ましい実施形態では、架橋剤は、少なくとも2個のアミド基を有するポリマーを含有し、ここで、このポリマーは、重合導入された形態のポリアミド形成モノマーを含有し、これらのモノマーは、
A) 非置換または置換芳香族ジカルボン酸および非置換または置換芳香族ジカルボン酸の誘導体、
B) 非置換または置換芳香族ジアミン、
C) 脂肪族または脂環式ジカルボン酸、
D) 脂肪族または脂環式ジアミン、
E) モノカルボン酸、
F) モノアミン、
G) 少なくとも3価のアミン、
H) ラクタム、
I) w-アミノ酸、および
K) A)からI)とは異なる、それらと共縮合することができる化合物、ならびにそれらの混合物
から選択される。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、好適には最大260℃の融点を有するポリアミドが架橋剤として使用される。殊に、脂肪族ポリアミドが使用される。ただし、ここでは、構成要素A)またはB)のうちの少なくとも1つと、構成要素C)またはD)のうちの少なくとも1つが存在する必要がある。ただし、特定の実施形態では、少なくとも1つの構成要素A)および少なくとも1つの構成要素D)が存在する必要がある。
【0063】
芳香族ジカルボン酸A)は、好ましくは、それぞれ非置換または置換のフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはジフェニルジカルボン酸、ならびに先に挙げた芳香族ジカルボン酸の誘導体および混合物から選択される。置換芳香族ジカルボン酸A)は、好適には、少なくとも1個のC1~C4アルキル基を有する。特に好ましくは、置換芳香族ジカルボン酸A)は、1個または2個のC1~C4アルキル基を有する。これらは、好適には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、特に好ましくは、メチル、エチルおよびn-ブチル、極めて特に好ましくは、メチルおよびエチル、殊にメチルから選択される。置換芳香族ジカルボン酸A)はまた、例えば、5-スルホイソフタル酸、その塩、および誘導体などの、アミド化を妨害しないさらなる官能基を有していてもよい。これらのなかでも、5-スルホイソフタル酸ジメチルエステルのナトリウム塩が好ましい。好ましくは、芳香族ジカルボン酸A)は、非置換テレフタル酸、非置換イソフタル酸、非置換ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、および5-スルホイソフタル酸から選択される。特に好ましくは、芳香族ジカルボン酸A)としては、テレフタル酸、イソフタル酸、またはテレフタル酸とイソフタル酸との混合物が使用される。
【0064】
芳香族ジアミンB)は、好ましくは、ビス(4-アミノフェニル)メタン、3-メチルベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノトルエン、m-キシリレンジアミン、N,N’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジアミン、ビス(4-メチルアミノフェニル)メタン、2,2-ビス(4-メチルアミノフェニル)プロパン、またはそれらの混合物から選択される。特に好ましくは、芳香族ジアミンとしてm-キシリレンジアミンが使用される。
【0065】
脂肪族または脂環式ジカルボン酸C)は、好適には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン-1,11-ジカルボン酸、ドデカン-1,12-ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸、シスおよびトランス-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シスおよびトランス-シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シスおよびトランス-シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シスおよびトランス-シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、シスおよびトランス-シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0066】
脂肪族または脂環式ジアミンD)は、好適には、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、5-メチルノナンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、3,3’-ジメチル-4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン、およびそれらの混合物から選択される。
【0067】
特に好ましくは、ジアミンD)は、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、[3-(アミノメチル)-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル]メタンアミン、アミノ化された二量体脂肪酸、ならびにそれらの混合物から選択される。本発明の好ましい実施形態では、水溶液は、ヘキサメチレンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、3,3’-ジメチル-4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン(MACM)、イソホロンジアミン(IPDA)、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つのジアミンD)を含有する。
【0068】
モノカルボン酸E)は、本発明によって使用されるポリアミドオリゴマーのエンドキャッピングとして機能する。基本的に、ポリアミド縮合の反応条件下で利用可能なアミノ基の少なくとも一部と反応することができるすべてのモノカルボン酸が適切である。適切なモノカルボン酸E)は、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸、および芳香族モノカルボン酸である。これらには、酢酸、プロピオン酸、n-、イソまたはtert-酪酸、吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバル酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、メチル安息香酸、1-ナフタレンカルボン酸、2-ナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、大豆、亜麻仁、トウゴマおよびヒマワリ由来の脂肪酸、アクリル酸、メタクリル酸、第3級飽和モノカルボン酸(例えば、Royal Dutch Shell plc社のVersatic(登録商標)酸)、ならびにそれらの混合物がある。
【0069】
モノカルボン酸E)として不飽和カルボン酸またはそれらの誘導体を使用する場合、水溶液に市販の重合阻害剤を添加することが有用であり得る。特に好ましくは、モノカルボン酸E)は、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、およびそれらの混合物から選択される。極めて特に好ましい実施形態では、水溶液は、モノカルボン酸E)として酢酸のみを含有する。さらなる極めて特に好ましい実施形態では、水溶液は、モノカルボン酸E)としてプロピオン酸のみを含有する。さらなる極めて特に好ましい実施形態では、水溶液は、モノカルボン酸E)として安息香酸のみを含有する。
【0070】
モノアミンF)は、ここで、本発明によって使用されるポリアミドオリゴマーのエンドキャッピングとして機能する。基本的に、ポリアミド縮合の反応条件下で利用可能なカルボン酸基の少なくとも一部と反応することができるすべてのモノアミンが適切である。適切なモノアミンF)は、脂肪族モノアミン、脂環式モノアミン、および芳香族モノアミンである。これらには、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、へプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン、およびそれらの混合物がある。
【0071】
適切な少なくとも3価のアミンG)は、N’-(6-アミノヘキシル)ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-(12-アミノドデシル)-ドデカン-1,12-ジアミン、N’-(6-アミノヘキシル)ドデカン-1,12-ジアミン、N’-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]ドデカン-1,12-ジアミン、N’-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]ドデカン-1,12-ジアミン、3-[[[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンアミン、3-[[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチルアミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンアミン、3-(アミノメチル)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンアミンから選択される。好ましくは、少なくとも3価のアミンG)は使用されない。
【0072】
適切なラクタムH)は、ε-カプロラクタム、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、2-ピロリドン(γ-ブチロラクタム)、カプリルラクタム、エナントラクタム、ラウリルラクタム、およびそれらの混合物である。
【0073】
適切なω-アミノ酸I)は、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、およびそれらの混合物である。
【0074】
A)~I)とは異なる、それらと共縮合することができる適切な化合物K)は、少なくとも3価のカルボン酸、ジアミノカルボン酸などである。適切な化合物K)は、さらに、4-[(Z)-N-(6-アミノヘキシル)-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-(6-アミノヘキシル)-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、(6Z)-6-(6-アミノヘキシルイミノ)-6-ヒドロキシヘキサンカルボン酸、4-[(Z)-N-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、4-[(Z)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、およびそれらの混合物である。
【0075】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、ポリアミド、それらのコポリマー、およびそれらの混合物から選択される架橋剤が使用され、ここで、架橋剤は、200℃~250℃の溶融範囲、好適には220℃~240℃の溶融範囲、殊に220℃~230℃の溶融範囲を有する。
【0076】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、およびこれらを組み込んで含むオリゴマー/ポリマーから選択される。適切な化合物は、その沸点が300℃超の化合物である。好ましい実施形態では、これらの化合物は、ステップi)で液体として存在する。したがって、これらは、溶融混合において内部溶媒として機能することができる。好ましくは、飽和脂環式化合物は、アミノ化された脂肪酸二量体(二量体脂肪酸)である。
【0077】
本明細書で使用される場合、「脂肪酸二量体」という用語は、2つ以上の一価または多価不飽和脂肪酸の反応の二量体化された生成物を指す。そのような脂肪酸二量体は、当技術分野でよく知られており、典型的には混合物として存在する。
【0078】
アミノ化された二量体脂肪酸(アミノ化された二量体化脂肪酸または二量体酸としても知られている)は、不飽和脂肪酸のオリゴマー化によって生成される混合物を表す。出発物質としては、不飽和C12~C22脂肪酸が使用することができる。二量体脂肪酸を製造するために使用されるC12~C22脂肪酸の二重結合の数および位置に応じて、二量体脂肪酸のアミノ基は、主に24~44個の炭素原子を有する炭化水素基によって互いに結合されている。これらの炭化水素基は、非分岐状または分岐状であり得て、二重結合、C6脂環式炭化水素基、またはC6芳香族炭化水素基を有し得て、ここで、脂環式基および/もしくは芳香族基も縮合して存在し得る。好適には、二量体脂肪酸のアミノ基を結合する基は、芳香族炭化水素基を有さず、極めて特に好ましくは不飽和結合を有しない。C18脂肪酸の二量体、すなわち、36個の炭素原子を有する脂肪酸二量体が特に好ましい。これらは、例えば、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸、ならびにそれらの混合物を二量体化することによって得ることができる。二量体化に続いて、場合により、水素化およびそれに続いてアミノ化が起こる。
【0079】
特定の実施形態では、飽和脂環式化合物は、
【化6】
である。
【0080】
特定の実施形態では、飽和脂環式化合物は、
【化7】
である。
【0081】
特定の実施形態は、少なくとも1つのアミノ化された二量体脂肪酸を組み込んで含むポリマーである。さらなるより特定的な実施形態は、化合物
【化8】
または
【化9】
を組み込んで含むポリマーである。
【0082】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも1個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する飽和脂環式化合物とを含有する混合物である。
【0083】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも1個のアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと、少なくとも2個の第1級アミノ基を有する少なくとも1つの飽和脂環式化合物を重合導入して含有するオリゴマー/ポリマーとを含有する混合物である。
【0084】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、式(I)、(II)、および(III)
【化10】
【0085】
[式中、
R1、R2、R3、およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R13、R14、R15、R16、R17、およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレン、およびフェニレンから選択され、
Raは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、ここで、アリール基は、非置換であるか、またはRcで置換されており、
Rbは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択され、
Rcは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択されている]
の化合物から選択されるジアミン化合物である。
【0086】
C1~C4アルキル基の例は、殊に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、2-ブチル、sec-ブチル、およびtert-ブチルである。
【0087】
C1~C6アルキル基の例は、殊に、先に挙げたC1~C4アルキル基、ならびにn-ペンチルおよびn-ヘキシルである。
【0088】
好適には、C1~C4ハロアルキルは、1個、2個、3個、4個、または5個、好適には1個、2個、または3個のハロゲン置換基を好適に有する先に挙げたC1~C4アルキル基のうちの1つを表す。これには、例えば、トリフルオロメチルがある。
【0089】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素、好ましくは、フッ素、塩素、および臭素を表す。
【0090】
非置換C6~C14アリールは、好適には、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、ナフタセニル、殊に、フェニルまたはナフチルを表す。好適には、置換C6~C14アリールは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから好適に選択される、1個、2個、3個、4個、または4個より多くの基を有する。C1~C4アルキルで置換されたC6~C14アリールの例は、トリル、キシリル、メシチルである。
【0091】
好適には、C1~C6アルキレンは、-CH2-、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-、または-C(CH3)2-を表す。
【0092】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、式(I)または(II)
[式中、
R2、R3、R5、R6、R7、R8、R10、およびR11は水素を表し、
R1およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
R9およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、ここで、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、非置換であるか、またはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるか、またはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレン、およびフェニレンから選択され、
Raは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、ここで、アリール基は、非置換であるか、またはRcで置換されており、
Rbは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択され、かつ
Rcは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから選択されている]
の化合物である。
【0093】
特に好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、式(I.a)または(II.a)
【化11】
の化合物であり、
式中、
R
1、R
4、R
9およびR
12、ならびにXは、以下の意味を有する:
【表1】
【0094】
さらなる好ましい実施形態では、架橋剤は、式(III.a)および(III.b):
【化12】
の化合物から選択される。
【0095】
特定の実施形態では、架橋剤は、(III.a1)および(III.b1):
【化13】
の化合物から選択される。
【0096】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、炭素環式基を有する脂肪族基を介して2個のアミノフェニル環が互いに結合されたジ(アミノフェニル)化合物である。
【0097】
架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、互いに結合された2個のアミノフェニル環を有する。したがって、これらの化合物は第1級ジアミンである。ここで、本発明の一実施形態では、各フェニル環は、単一のアミノ基のみを有する。しかし、同様に、フェニル環が、互いに独立して、2個または3個のアミノ基を有することも考えられる。これらの化合物は、低分子量であり、ポリマーではない。フェニル環は、アミノ基に加えて、アルキル基またはハロゲン基などのさらなる置換基を有し得る。2個のアミノフェニル環は、脂肪族基を介して互いに結合されている。脂肪族基は、炭素および水素のみからなり、芳香族ではない。架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、2個のフェニル環を除いて、好ましくは、さらなる二重結合または三重結合を有していない。脂肪族基は炭素環式基を有する。炭素環式基は、ここでは例えば、4~7個の炭素原子、好ましくは5個または6個の炭素原子を有し得る炭化水素環である。炭素環式基は、ここで、フェニル環の二重結合を含み得る。好ましくは、炭素環式基は、単一の脂肪族炭化水素環のみを有する。好ましくは、脂肪族基は、合計5~15個の炭素原子、殊に6~8個の炭素原子を有する。炭素環式基間の脂肪族基を理由に、2個のフェニル環は共役していない。
【0098】
本発明によると、驚くべきことに、そのようなジ(アミノフェニル)化合物によって架橋されたPKが特に有利な特性を有することが判明した。殊に、架橋されたPKは、改善された熱安定性および向上した機械的安定性を有する。
【0099】
好ましい実施形態では、架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、2個のフェニル環のうちの1つのみが炭素環式基と環化している環化化合物である。環化(縮合)とは、環状分子の環にさらなる環を接合することを表す。2個の環化された環は、2個の炭素原子を共有しており、したがって、フェニル環の1つのC-C二重結合を共有している。そのような環化された架橋剤の使用には、特に堅く規則的な結合をPK鎖間に形成することができ、それによって、生成物の特に高い温度安定性および剛性を達成することができるという利点がある。
【0100】
架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物のアミノ基は、基本的に、フェニル基の任意の位置、すなわち、2つのフェニル環の脂肪族化合物に対して、オルト位、メタ位、またはパラ位に存在し得る。各フェニル基が単一のアミノ基のみを有する実施形態では、2個のアミノ基ができる限り遠く互いに離れていることが好ましい。これは、2個のアミノ基が、脂肪族化合物に対してパラ位で、および/またはフェニル環の4位および4’位に結合している場合に達成することができる。したがって、好ましい実施形態では、ジアミノジフェニル化合物は4,4’-ジアミノジフェニル化合物である。一般に、できる限り遠く互いに離れているアミノ基の利点は、架橋剤が同じPKポリマー鎖と2つの結合をもたらす不所望な分子内反応の形成が低減されることであり得る。架橋剤によるそのような分子内反応は、架橋作用することなくPKの結晶構造を乱し得て、それによって、生成物の安定性を低下させ得る。
【0101】
本発明の好ましい実施形態では、架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、不斉化合物である。
【0102】
本発明の好ましい実施形態では、架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、一般式(IV)
【化14】
【0103】
[式中、
R19およびR20は、互いに独立して、H、1~20個の炭素原子、殊に1~4個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、殊にメチルまたはエチル、5~12個の炭素原子を有する置換または非置換アリール、F、およびClから選択され、ここで、Zは、炭素環式基を有する脂肪族基である]
の化合物である。ここで、各フェニル環は、互いに独立して選択される、1個、2個、または3個の基R19またはR20を有し得る。好ましくは、フェニル環は、基R19および/またはR20を1つだけ有する。特に好ましくは、基R19およびR20は、それぞれHである。さらなる基R19およびR20なしの架橋剤は、比較的良好に利用可能であり、安定性のより高い架橋されたPKへと加工することができる。
【0104】
基Zは、2つまたは1つの結合を介して各フェニル基と結合され得る。好ましくは、基Zは、2つの結合を介してフェニル基と結合されており、1つの結合を介して第2のフェニル基と結合されている。
【0105】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、架橋剤は、一般式(IV.a)
【化15】
【0106】
[式中、
xは、基ZへのR19で置換されたフェニル環の結合の数に応じて、3または4を表し、
yは、基ZへのR20で置換されたフェニル環の結合の数に応じて、3または4を表し、
基R19は、それぞれの場合で、互いに独立して、水素、1~20個の炭素原子を有する非置換または置換アルキル、5~14個の炭素原子を有する非置換または置換アリール、F、およびClから選択され、
基R20は、それぞれの場合で、互いに独立して、水素、1~20個の炭素原子を有する非置換または置換アルキル、5~14個の炭素原子を有する非置換または置換アリール、F、およびClから選択され、
Zは、炭素環式基を有する脂肪族基であり、ここで、Zは、1つまたは2つの結合を介して2個のフェニル環それぞれに結合されている]
の化合物である。
【0107】
好ましくは、Zは、2つの結合を介して、R19で置換されたフェニル環に結合している。化合物(IV.a)では、xは3を表す。好ましくは、Zは、1つの結合を介して、R20で置換されたフェニル環に結合している。化合物(IV.a)では、yは4を表す。特に、xは3を表し、yは4を表す。殊に、Zは、2個のフェニル環とともにインダン骨格を形成し、これにフェニル環が結合している。
【0108】
式(IV)および(IV.a)の化合物では、1~20個の炭素原子を有するアルキルは、好適には、C1~C6アルキルおよびさらにn-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、アラキニル、およびそれらの構造異性体について先に記載した定義を含む。1~4個の炭素原子を有するアルキル、殊にメチルまたはエチルが特に好ましい。
【0109】
1~20個の炭素原子を有する置換アルキルは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、およびC1~C4アルコキシから好適に選択される少なくとも1個(例えば、1個、2個、3個、4個、または4個より多く)の置換基を有する。特に、置換アルキルは、1個、2個、3個、4個、または5個、好適には1個、2個、または3個のハロゲン置換基を好適に有するC1~C4ハロアルキルを表す。これには、例えば、トリフルオロメチルがある。
【0110】
式(IV)および(IV.a)の化合物では、5~14個の炭素原子を有する非置換アリールは、好適には、フェニル、ナフチル、アントラセニル、およびフェナントレニル、殊に、フェニルまたはナフチルを表す。5~12個の炭素原子を有する非置換アリールは、殊に、フェニルまたはナフチルである。好適には、5~14個の炭素原子を有する置換アリールまたは5~12個の炭素原子を有する置換アリールは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキル、およびC1~C4ハロアルキルから好適に選択される、1個、2個、3個、4個、または4個より多くの基を有する。5~14個の炭素原子を有する置換アリールまたは5~12個の炭素原子を有する置換アリールの例は、トリル、キシリル、メシチルである。
【0111】
式(IV.a)の化合物では、基R19は、水素、1~4個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、F、およびClから好適に選択される。特に好ましくは、基R19は、水素、および1~4個の炭素原子を有する非置換アルキルから選択される。
【0112】
式(IV.a)の化合物では、基R20は、水素、1~4個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、F、およびClから好適に選択される。特に好ましくは、基R20は、水素、および1~4個の炭素原子を有する非置換アルキルから選択される。
【0113】
好ましくは、各フェニル環は、水素とは異なる基R19またはR20を、有しないか、1個有するか、または2個有する。特定の実施形態では、基R19およびR20はすべて水素を表す。基R19およびR20がすべて水素を表す式(IV.a)の化合物は、比較的良好に利用可能であり、安定性のより高い架橋されたPKへと加工することができる。
【0114】
好ましい実施形態では、架橋剤は、一般式(V)
【化16】
【0115】
[式中、
R19およびR20は、互いに独立して、H、1~20個の炭素原子、殊に1~4個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、殊にメチルまたはエチル、5~12個の炭素原子を有する置換または非置換アリール、F、およびClから選択され、
R21は、炭素環式基であり、これは、2~3個の炭素環原子を有し、また1~4個の炭素原子を有する少なくとも1個のアルキル基、特にメチルまたはエチルで置換され得る]
の化合物である。特に好ましくは、基R19およびR20は、それぞれHである。したがって、炭素環式基R21は、ペンチル基またはヘキシル基である。そのような架橋剤には、架橋されたPKの温度安定性と機械的安定性との特に良好な組み合わせを得ることができるという利点がある。
【0116】
好ましい実施形態では、架橋剤は、一般式(V.a):
【化17】
【0117】
[式中、R21は、先に記載した通りに選択されている]
の化合物である。そのような架橋剤には、架橋されたPKの温度安定性と機械的安定性との特に良好な組み合わせを得ることができるという利点がある。
【0118】
好ましい実施形態では、架橋剤は、式(V.a1):
【化18】
を有する。
【0119】
この化合物は、実施された試験において、架橋されたPKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらした。化学名は、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-5-アミン(CAS番号54628-89-6)である。
【0120】
さらなる好ましい実施形態では、架橋剤は、式(V.b1):
【化19】
を有する。
【0121】
この化合物も同様に、実施された試験において、架橋されたPKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらす。化学名は、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-6-アミンである。
【0122】
さらなる好ましい実施形態では、架橋剤は、式(V.a1)および(V.b1)の化合物の混合物を含有する。この架橋剤も同様に、実施された試験において、架橋されたPKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらす。
【0123】
さらなる好ましい実施形態では、架橋剤は、式(VII):
【化20】
を有する。
【0124】
この架橋剤も同様に、実施された試験において、架橋されたPKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらす。化学名は、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンアミン(CAS番号68170-20-7)である。ここで、アミノ基は、インダンの芳香族環においてすべての位置に存在していてもよい。アミノ基がインダンの芳香族環において異なる位置にある1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンアミンの混合物も同様に含まれる。
【0125】
本発明によると、できる限り均一な材料特性を得るために、単一の特定の架橋剤を使用することが好ましい。しかし、2つ以上の架橋剤の混合物を使用することも可能である。
【0126】
本発明による方法は、ポリケトンのポリマー鎖が互いに共有結合および分子内で結合される架橋反応に関する。
【0127】
ステップi)
ステップ(i)では、ポリケトンと架橋剤とを含有する混合物が提供される。ステップ(i)で提供される混合物は、従来の配合方法によって製造することができる。ステップi)では、好ましくは、少なくとも1つのポリケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により充填材および強化材、ならびに場合によりそれらとは異なるさらなる添加剤を溶融混合または乾式混合(配合)に供する。
【0128】
溶融物における混合または溶融混合では、ポリマーは、それらの溶融温度を超えて加熱され、圧延、混錬、または押出成形によって集中的に混合される。ここで、ステップ(i)における温度は、好ましくは、混合物が、良好に加工可能であり、かつ配合に適切な粘度を有するように調整される。さらに、ステップ(i)における温度は、好ましくは、ポリケトンと架橋剤との間で実質的な反応が起こらないように調整される。さらに、PKと架橋剤との間の反応がすでに起こっている温度における滞留時間は、できる限り短く保たれるべきである。反応するカルボニル基の反応性が隣接するフェニレン基のメソメリー効果によって低下するPAEKとは対照的に、本発明によって記載されている架橋剤によるPKのアミン架橋は、好適には、すでに溶融物において開始する。本発明によると、従来技術に記載されている方法の場合のように、架橋剤がアミン結合を介してPKにすでに共有結合されている必要はない。これは、本発明によると、中間体の不所望なさらなる反応およびそれから生じる早期の架橋を防止するために正確に制御する必要があるそのようなさらなる反応ステップを省略することができるため、有利である。
【0129】
一実施形態では、ステップi)で、少なくとも1つのポリケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により充填材および強化材、ならびに場合によりそれらとは異なるさらなる添加剤を、押出機に供給し、可塑化しながら混合し、場合により造粒する。
【0130】
溶融混合におけるステップi)の温度は、好ましくは220~260℃の範囲にある。
【0131】
さらなる実施形態では、ステップi)で、好ましくは、少なくとも1つのポリケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により充填材および強化材、ならびに場合によりそれらとは異なるさらなる添加剤が乾式混合に供される。先に挙げた成分は、あらゆる既知の乾式混合技術で混合することができる。ポリケトンと、少なくとも1つの架橋剤と、場合により充填材および強化材と、場合によりそれらとは異なるさらなる添加剤との乾燥混合物(乾燥ブレンド)が得られる。
【0132】
ステップi)における乾式混合時の温度は、PKの軟化範囲よりも低く、好ましくは0℃~100℃の範囲にある。
【0133】
混合物の製造時に、ポリマーにおける架橋剤の均一な分布を達成するために、撹拌装置または混錬装置などの適切な手段によって集中的な混合が行われる。これは、安定性の観点から均一な材料特性を得るのに非常に重要である。好ましくは、架橋可能な混合物は、製造後に、組成を変化させるさらなる中間ステップなしで、ステップ(ii)においてさらに加工される。
【0134】
混合(配合)時に、中間生成物、例えば顆粒を得ることができる。これらの中間体は、80℃未満、好適には50℃未満の範囲の温度で、特に周囲温度以下で、長期間安定であり、例えば、中間貯蔵することができ、かつ/または他の場所に輸送してさらに加工することができる。
【0135】
本発明の特に好ましい実施形態では、混合物は溶媒を含有していない。特に、混合物に外部溶媒は添加されない。本発明によると、驚くべきことに、PKと架橋剤との混合物は、溶媒の使用なしで加工することができ、ここで、均質混合が行われることが判明した。
【0136】
好ましくは、混合物は、これが液体または流動性(可塑化)形態にある温度に加熱される。ここで、均質な混合物を得るためには、その際に有意な架橋が起こらないような温度および滞留時間を選択することが好ましい。
【0137】
好ましい実施形態では、ステップi)における混合物の製造のために、架橋剤がPKに連続的に添加される。ここで、これらの成分は、液体または固体形態で存在し得る。このようにして、特に均一な混合物を得ることができる。ここで、架橋剤の添加は、好ましくは、均質混合しながら、例えば、撹拌、混錬、圧延、および/または押出成形しながら行われる。好ましい実施形態では、架橋剤は、濃縮物の形態で供給される。これには、架橋剤をより良好に投与することができるという利点があり、それによって、混合物の均一性を改善することができる。全体として、架橋剤を連続的に添加することによって、特に均質な混合物を得ることができ、それによって、特に規則的な架橋が達成される。それによって、熱的または機械的負荷下で生成物の不均質性および場合により損傷をもたらし得る、架橋度の異なる領域が生じることを回避することができる。このようにして、温度安定性および機械的安定性に関して特に良好な特性を達成することができる。
【0138】
ステップ(ii)
ステップ(ii)では、混合物から成形体が製造される。ここで、成形体を製造するステップ(ii)は、混合物を硬化した架橋状態で保持される3次元形状にするあらゆる方策を含む。好適には、成形体の製造は、熱可塑性樹脂に一般的な成形方法によって行われる。ここで、成形体の製造は、架橋前および/または架橋中に行われることが好ましい。ここで、ステップii)で使用される混合物が少ない割合の架橋された生成物をすでに含有しているかは、一般に重大ではない。特に好ましくは、成形は、混合物が、架橋前に、殊に、熱間プレス、押出成形、射出成形、および/または3D印刷によって、有利に熱可塑的に加工可能かつ成形可能であることから、ステップ(iii)の前に行われる。
【0139】
ステップi)で成分の混合が乾式混合によって行われる場合、ステップii)で、乾燥混合物が溶融され、先に記載されているように、成形ステップに供される。
【0140】
一実施形態では、ステップi)およびii)は、別々に続けて進行する。
【0141】
好ましい実施形態では、成形体の製造は、ステップ(ii)で熱可塑的変形によって行われる。これは、混合物を架橋されていない状態および/または少なくとも有意に架橋されていない状態で溶融物から形成することができることを意味する。というのも、そうでなければ、熱可塑的加工はもはや不可能であろう。あまりにも多くの架橋点が存在する場合、PK中間体は、もはや流動性がなくなり、もはや容易に熱可塑的に形成することができなくなる。混合物は、成形前に、短時間だけ高い加工温度に曝す必要がある。したがって、熱可塑的加工は、好ましくは、設備における混合物の滞留時間ができる限り短くなるように実施される。ここで、加工は、架橋反応のかなりの部分、ここで例えば、架橋の80%超、90%超、または95%超が、成形後に初めて、すなわちステップ(iii)で行われるように、実施されることが好ましい。
【0142】
好ましい実施形態では、混合物は、ステップ(ii)で、押出成形、熱間プレス、射出成形、および/または3D印刷によって加工され、その際に変形される。これらの方法は、熱可塑性ポリマー組成物の単純かつ効率的な加工にとりわけ適切である。「変形」とは、最初に付与された形状を後にもう一度変えることである。典型的な変形方法は、曲げ、エンボス、延伸、および深絞りなどである。
【0143】
ここで、押出成形は、公知の方法によって行うことができる。押出成形では、固体状の塊から粘性の硬化可能な塊までが、圧力下で成形開口部(ノズル、ダイ、またはマウスピースとも称される)から連続的に押し出される。ここで、押出物と称される、開口部の断面を有する本体が、理論上任意の長さで生じる。好ましくは、押出成形は、少なくとも220℃、好ましくは220℃~265℃、殊に230℃~250℃の温度で行われる。
【0144】
熱間プレスは、予め加熱されたキャビティに成形材料が導入される方法である。それに続いて、プランジャーを使用してキャビティを閉じる。圧力によって、成形材料は、金型で定められた形状になる。好ましくは、熱間プレスは、少なくとも220℃、好ましくは220℃~265℃、殊に230℃~250℃の温度で行われる。
【0145】
射出成形(多くの場合、射出成型または射出成型法とも称される)は、プラスチック加工で使用される成形方法である。ここで、プラスチックは射出成形機によって可塑化され、圧力下で鋳型である射出成形金型に射出される。金型内で、材料は、冷却によって再び固体状態になり、金型を開いた後に、成形体として取り出される。金型の中空空間(キャビティ)によって、生成物の形状および表面構造が決定される。
【0146】
3D印刷では、例えば、熱溶解積層法(英語:Fused Deposition Modeling、FDM)として知られる方法を利用して、本発明による成形材料を成形することができる。FDMは、基本的に、3つの要素である、印刷ベッド(これに所望の対象を印刷)、フィラメントスプール(印刷材料を提供)、および印刷ヘッド(押出機とも称される)に基づく。熱可塑性成形材料からなるフィラメントは、この方法の最中に広げられ、押出機に供給され、そこで溶融され、印刷プレート上に層ごとに堆積される。
【0147】
特に好ましくは、加工は、押出成形およびそれに続く射出成形によって行われる。PKと架橋剤との混合物は、まだ液体形態で存在していない場合には、前記の方法において溶融する。この混合物は、ステップ(ii)で、好適には、押出機、射出成型機、または熱間プレスに導入され、高温、例えば、220℃~250℃の範囲で溶融され、所望の形状にされる。
【0148】
ステップ(iii)
ステップ(iii)は、PKが架橋される温度で成形体を熱処理することによって、架橋された成形体を得ることを含む。これによって、PKは、架橋剤と分子間架橋することができる。ポリアミドは、加水分解されて、ジアミン成分に分解される。架橋において、PK鎖の2個のケト基と架橋剤の遊離ジアミンの2個のアミノ基との間で、2つのイミン結合の形成が起こる。イミンの形態で得られる橋かけ部は、イミン窒素が水素原子を有するのではなく有機分子と結合しているため、シッフ塩基とも称される。ここで、架橋は、できる限り完全に行われるため、使用される架橋剤のできる限りすべてのアミノ基が、PKのカルボニル基と反応する。完全な架橋の利点は、向上した耐熱変形性および向上した剛性(弾性率)である。それにもかかわらず、部分的な架橋だけでも「架橋された」という用語に包含されるべきである。すべてのPK鎖を完全に網目構造に統合するために十分な量の架橋剤が使用されなかった場合、部分的な架橋のみが存在し得る。この場合、材料は、一般に、完全に架橋された材料よりも高い破断ひずみを有する。イミン結合は、成形体に高い安定性を付与する。本発明によると、好ましくは、成形体は、PKをベースとする成形体である。ここで、「PKをベースとする」とは、PKが成形体の実質的な構造化ポリマー成分であることを意味する。一実施形態では、PKが成形体の唯一のポリマー成分であることが好ましい。
【0149】
本発明によって使用可能な架橋剤は、比較的高い融点および沸点を有するため、ステップ(iii)における温度を比較的高く調整することができる。これは、そのような架橋反応が一般に高温で都合が良いことから有利である。しかし、好適には、この温度は、PKの溶融範囲よりも低く、まだ完全には架橋されていない成形体の軟化点よりも低い。
【0150】
驚くべきことに、本発明によるシステムでは、架橋反応は、すでにポリマーおよび成形体の溶融範囲よりも低い温度で起こることが判明した。これは、架橋反応が一般に、好ましくはポリマーおよび成形体の溶融範囲よりも高い温度で起こるであろうと想定されていることから、予想外であった。
【0151】
さらに、従来技術では、そのような架橋反応が数分または数時間以内に比較的迅速に起こることが想定されている。本発明によると、ステップ(iii)における成形体の加熱が架橋温度に応じて、好適には少なくとも1時間、例えば1時間~2日間までの期間にわたって実施される場合、架橋されたPKが特に有利な特性を有し得ることが判明した。そのような熱処理によって、熱安定性、弾性係数、および引張強度をかなり向上させることができることが判明した。
【0152】
殊に、高温におけるサンプルの剛性は熱処理によって改善できることが判明した。ここで、一定期間の熱処理によって剛性を著しく改善することができ、それに続いて飽和が起こると、さらなる熱後処理では、剛性が改善されないか、またはわずかに改善されるにすぎないことが観察された。しかし、さらなる熱後処理では、一般に、耐熱変形性の改善が示される。より長い熱後処理においても、耐熱変形性が上昇し得ることが判明した。
【0153】
好ましい実施形態では、ステップ(ii)で得られた成形体は、比較的短時間にわたって熱処理に供される。ステップ(iii)における成形体の熱処理は、好適には最大6時間、例えば、5分間~6時間、さらにより好ましくは0.5分間~5時間、殊に1時間~4時間行われる。ここで、並行して進行する脂肪族ポリケトンの自己架橋反応を低減できることが有利である。
【0154】
あるいは、ステップ(iii)において成形体をより長い時間、好適には少なくとも6時間、殊に2日間よりも長く熱処理に供することも好都合であり得る。本発明のさらなる実施形態では、熱処理は、2~10日間の期間にわたって、殊に2~6日間実施される。好ましくは、熱処理は、酸素を排除して行われる。
【0155】
好ましい実施形態では、ステップ(iii)における熱処理は、少なくとも160℃、好ましくは少なくとも180℃の温度で行われる。好ましくは、ステップ(iii)における温度は、160℃~240℃、特に好ましくは190℃~230℃、殊に190℃~210℃である。そのような温度では、熱可塑的に製造された物品が、例えば成形体の不所望な変形によって悪影響を受けることなく、効率的な三次元架橋が十分に迅速に進行することができる。
【0156】
成形体は、架橋後に冷却され、それらの使用に供給することができるか、またはさらに加工することができる。
【0157】
先に記載されているように、ステップ(i)における混合物および成形体のどちらも、充填材および強化材、ならびに/または場合によりそれらとは異なる添加剤を含有し得る。ここで、架橋されたPKは、場合により存在する充填材および強化材、ならびに/または添加剤が均一に分布したマトリックスを形成する。
【0158】
適切な充填材および強化材は、例えば、ガラス布、ガラスマット、ガラスフリース、ガラスシルクロービングまたはカットガラスシルク、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、石英粉、窒化ケイ素およびホウ素、アモルファスシリカ、アスベスト、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、カオリン、雲母、長石、タルク、およびそれらの混合物の形態のガラス繊維から選択される。
【0159】
適切な添加剤は、酸化防止剤、UVおよび熱安定剤、潤滑剤および離型剤、染料および顔料などの着色剤、核形成剤、軟化剤、ならびに混合物から選択される。
【0160】
例えば、充填材および強化材は、成形体を製造するために使用される成分の総重量に対して、80重量%まで、例えば、0.1重量%~80重量%、特に1重量%~60重量%の量で使用することができる。
【0161】
例えば、添加剤は、それぞれ成形体を製造するために使用される成分の総重量に対して、それぞれ、20重量%まで、例えば、0.1重量%~20重量%、より特には0.1重量%~18重量%の量で使用することができる。
【0162】
成形体は、殊に、本発明の文脈で記載されている本発明による方法によって得ることができる。成形体は、好ましくは、本発明の文脈において架橋されたPKについて記載されている有利な特性を有する。本発明の文脈において、成形体という用語は、定義された三次元形状を有する架橋されたPKからの生成物を表す。ここで、成形体は、定義された対象である必要はなく、例えば、コーティングであってもよい。成形体は、例えば複合材料または積層体として、架橋されたPKからなっていても、またはこれを含んでいてもよい。
【0163】
好ましい実施形態では、本発明による成形体は、事後的にアニーリングされる。第1の変形例では、本発明による成形体は、5分間~6時間の期間にわたって事後的にアニーリングされる。第2の変形例では、本発明による成形体は、6時間超~数日間までの期間にわたって事後的にアニーリングされる。様々な変形例を通じて、それぞれ他の有利な特性を達成することができる。
【0164】
好ましくは、成形体は、5分間~6時間の期間にわたって事後的にアニーリングされ、非架橋PKからの成形体と比較して、増加した引張弾性率、増加した降伏応力、および増加した降伏ひずみを特徴とする有利な改善された機械的特性を有する。好ましくは、5分間~6時間の期間にわたって事後的にアニーリングされた本発明による成形体は、少なくとも1800MPa、殊に少なくとも1900MPa、特に好ましくは少なくとも2000MPaの引張弾性率を有する。好ましくは、5分間~6時間の期間にわたって事後的にアニーリングされた本発明による成形体は、少なくとも65MPa、殊に少なくとも68MPa、特に好ましくは少なくとも70MPaの降伏強度を有する。好ましくは、5分間~6時間の期間にわたって事後的にアニーリングされた本発明による成形体は、少なくとも20%、特に好ましくは少なくとも23%の改善された降伏ひずみを有する。
【0165】
好ましくは、成形体は、6時間超~数日間の期間にわたって事後的にアニーリングされ、非架橋PKからの成形体と比較して、高い引張弾性率および増加した引張強度を特徴とする、有利な増加した剛性を示す。しかし、架橋が強過ぎると、降伏ひずみがかなり低下する。好ましくは、6時間超~数日間の期間にわたって事後的にアニーリングされた成形体は、少なくとも2000MPa、殊に少なくとも2250MPa、特に好ましくは少なくとも2500MPaの引張弾性率を有する。殊に、引張弾性率は、2000MPa~3000MPaまたは2250MPa~3000MPaである。それに対して、非架橋PKの引張弾性率は、1400~1800MPaである。引張弾性率は、DIN EN ISO 527-2によって決定される。
【0166】
材料の破断ひずみは架橋の増加に伴って減少し得るため、成形体におけるPKを完全には架橋しないことが望ましい場合がある。したがって、架橋度は、好ましくは、例えば、架橋剤の割合ならびに熱処理の種類および期間によって、所望の用途に関して調整される。
【0167】
ここで、架橋度は、好ましくは、直接測定されるのではなく、成形体が所望の特性を有するかどうか、例えば高温引張試験などの適切な試験方法によって決定される。非常に高い温度では、動的弾性率を決定することが推奨される。
【0168】
これらの成形体は、高い機械的安定性、ここでは殊に、高い剛性が要求される技術分野で殊に使用可能である。これらは、殊に、自動車、海運、航空および宇宙飛行、鉄道車両、石油およびガス産業、食品および包装産業、ならびに医療技術の分野における用途について、殊に、シーリング物品、好ましくは、シーリングおよびOリング、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、ベアリング、バックアップリング、バルブ、スラストワッシャー、結合要素、スナップフック、パイプまたは導管、ケーブル、被覆および外被、ハウジング、またはそれらの構成要素として適切である。これらは、殊に、高い耐薬品性と摩耗に対する耐久性とが必要とされる使用に適切である。これは、殊に、石油およびガス輸送、航空および宇宙飛行技術、ならびに化学産業、ここでは安全関連部品の製造の用途、ならびに発電および自動車産業の分野に関する。同様に考えられ得る用途は、エレクトロニクス分野のコネクタおよび絶縁体である。というのも、架橋によって良好な絶縁特性がもたらされるからである。
【0169】
本発明による方法、成形体、およびシーリング物品によって、本発明の根底にある課題が解決される。これらは、良好な加工性と組み合わさった、非架橋PKと比較して改善された耐熱性およびより高い機械的安定性を有する。殊に、これらの成形体は、殊にガラス転移温度超で高い剛性を有する。高い剛性は、高温でのクリープ挙動の低減と関連している。改善された耐熱性は、最高温度と連続使用温度との両方において示される。ここで、これらの生成物は、架橋を理由に材料が溶融せず、燃焼材料が滴り落ちないため、非常に良好な耐薬品性および低減された燃焼性を示す。
【0170】
さらに、本発明による成形体は、熱可塑的成形方法によって単純かつ効率的に製造することができる。例えば、製造は単純な押出成形によって行うことができる。さらに、使用される架橋剤は、比較的高い沸点を有し、揮発性が低いため、これらの方法は、環境にも優しく、かつ使用者を危険に曝すことなく実施可能である。
【0171】
本発明は、以下の実施例に基づいて説明されるべきであるが、具体的に記載されている実施形態に限定されることはない。
【0172】
実施例
【図面の簡単な説明】
【0173】
【
図1】標準的なベース材料(熱処理なしのPK(黒い曲線))と比較した、本発明による2つの成形体(1.00%のDAPIを有するPK、1時間熱によって後処理、実施例2に記載(濃い灰色の曲線)および1.00%のDAPIを有するPK、2時間熱によって後処理、実施例3に記載(薄い灰色の曲線))のレオロジー調査の結果を示す。貯蔵弾性率G′(記号:正方形)および損失弾性率G″(記号:三角形)がY軸に図示されている。測定時間は、X軸に図示されている。
【
図2】標準のベース材料(熱処理なしのPK、正方形で示される測定点)と比較した、本発明による成形体(1.00%のDAPIを有するPK、熱処理、星印で示される測定点)の温度上昇に伴う複素動的弾性率の変化を示す。
【0174】
記載されている基準に関しては、特に明記されていない限り、出願日に有効な版が適用される。
【0175】
略語:
DAPI:1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-6-アミンおよびその異性体
PK:脂肪族ポリケトン(MVR:60cm3/10分(@240℃/2.16kg)、Smp:220℃)
実施例1
CAS番号68170-20-7のDAPI異性体混合物(式VIIの架橋剤)を、二軸配合機によって、約220℃の融点および60cm3/10分のMVR(240℃および重量負荷2.16kg)を有する市販のPKに混合し、ストランドを細かく刻んで顆粒にする。
【0176】
この顆粒を、射出成型において加工して試験片にし、それに続いて、同様に、真空オーブン内で1時間の期間にわたって熱による後処理に供する。
【0177】
熱による後処理の完了後に、ISO 527-2によって引張試験を実施し、値を非架橋PKベース材料と比較した(表1)。
【0178】
【0179】
化学的な後架橋によって、PKの引張弾性率は、非架橋ベース材料と比較して約13%増加した。さらに、非架橋ベース材料と比較して、降伏応力が約11%増加しており、降伏ひずみが約24%増加している。
【0180】
実施例2
CAS番号68170-20-7のDAPI異性体混合物(式VIIの架橋剤)を、二軸配合機によって、約220℃の融点および60cm3/10分のMVR(240℃および重量負荷2.16kg)を有する市販のPKに混合し、ストランドを細かく刻んで顆粒にする。
【0181】
この顆粒を、射出成型において加工して試験片にし、それに続いて、同様に、真空オーブン内で2時間の期間にわたって熱による後処理に供する。
【0182】
熱による後処理の完了後に、ISO 527-2によって引張試験を実施し、値を非架橋PKベース材料と比較した(表2)。
【0183】
【0184】
化学的な後架橋によって、PKの引張弾性率は、非架橋ベース材料と比較して約14%増加した。さらに、非架橋ベース材料と比較して、降伏応力が約13%増加しており、降伏ひずみが31%増加している。
【0185】
引張試験に加えて、Anton PaarレオメータのタイプMCR-302で、架橋剤DAPIによる脂肪族ポリケトンの化学的後架橋を示すレオロジー調査を実施した。標準的なベース材料(熱処理なしのPK)と比較して、本発明による2つの成形体(1.00%のDAPIを有するPK、1時間熱によって後処理、実施例2に記載および1.00%のDAPIを有するPK、2時間熱によって後処理、実施例3に記載)を調査した。試験条件は、表3に列挙されている。
【0186】
【0187】
実施例4
CAS番号68170-20-7のDAPI異性体混合物(式VIIの架橋剤)を、二軸配合機によって、約220℃の融点および60cm3/10分のMVR(240℃および重量負荷2.16kg)を有する市販のPKに混合し、ストランドを細かく刻んで顆粒にする。
【0188】
この顆粒を、射出成型において加工して試験片にし、それに続いて、同様に、保護ガス雰囲気下で加熱オーブン内で6日間の期間にわたって熱による後処理に供する。
【0189】
熱による後処理の完了後に、ISO 527-2によって引張試験を実施し、値を非架橋PKベース材料と比較した(表4)。
【0190】
【0191】
後架橋によって、PKの引張弾性率は、非架橋ベース材料と比較して2倍超になった。架橋された材料は、延性挙動をもはや示さなくなり、最大強度は、非架橋材料よりも約10MPa高くなる。材料の弾性は架橋点によって大幅に制限され、それによって、破断ひずみが2.5%に減少する。
【0192】
非架橋PKベース材料は、約220℃で溶融するが、後架橋された材料では、それ以上の溶融は観察されない。
【0193】
非架橋ベース材料および後架橋されたPKを、TスイープにおいてDMAによって試験し、ここで、
図2に図示される結果が得られた。動的機械分析(DMA)は、プラスチックの物理的特性を決定するための熱的方法である。温度勾配(温度スイープ)は、動的弾性率の変化を示し、したがって、同様に、測定された温度範囲にわたる剛性も示す。
【0194】
温度勾配は、以下の条件下で試験片ストリップ(幅約4mm、厚さ約3mm、長さ約45mm)を用いて測定した:加熱速度2K/分、接触力0.5N、周波数1.0Hz、平均ひずみ0.5%、ひずみ振幅+/-0.1%。これらの結果は、
図2にグラフで図示されている。
【0195】
図2は、標準のベース材料PK(熱処理なしのPK、正方形で図示される測定点)と比較した、本発明による成形体(1.0%のDAPIを有するPK、熱処理、星印で図示される測定点)の温度上昇に伴う複素動的弾性率の変化を示す。
【0196】
これらの結果は、本発明によって架橋されたPKが有利な熱特性を有することを示す。この材料は、ISO 527-2による引張試験ですでに証明されているように、増加した弾性率(表4を参照)および増加した耐熱変形性を示す。約210℃以降の非架橋PKにおける弾性率の大幅な低下が材料の溶融によるものである一方で、架橋された材料における弾性率の損失は、溶融によるものではなく、材料における亀裂の形成によるものである。