(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】積層体およびそれからなる繊維強化樹脂複合体ならびに繊維強化樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240925BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240925BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20240925BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240925BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B27/36 102
B32B27/12
B32B5/02 B
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2022566834
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2021042407
(87)【国際公開番号】W WO2022118666
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2020199553
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸介
(72)【発明者】
【氏名】角田 敦
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-126964(JP,A)
【文献】特開2020-147683(JP,A)
【文献】特開2016-222774(JP,A)
【文献】特開2020-147675(JP,A)
【文献】特開2006-083195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B29B11/16
C08J 5/04- 5/10
5/24
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強用繊維シートと熱可塑性樹脂シートとの積層体であって、熱可塑性樹脂シートが、(A)ポリプロピレン樹脂(A成分)1~99重量部および(B)
モノマー成分として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンからなるポリカーボネート樹脂またはモノマー成分として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよびポリジオルガノシロキサン化合物からなるポリカーボネート樹脂(B成分)99~1重量部からなる樹脂成分100重量部に対して(C)変性ポリオレフィン樹脂(C成分)を0.1~900重量部含有する樹脂組成物であり、かつ補強用繊維シートを構成する補強用繊維の含有量がA成分とB成分とからなる樹脂成分100重量部に対し151~900重量部であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
C成分が無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることを特徴とする請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物が、更に(D)スチレン系熱可塑性エラストマー(D成分)をA成分とB成分とからなる樹脂成分100重量部に対し1~20重量部含有することを特徴とする請求項1
または2に記載の積層体。
【請求項4】
補強用繊維シートが、織編物、不織布、一方向性シートのいずれかである請求項1~
3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
補強用繊維シートを構成する繊維が、炭素繊維およびガラス繊維から選ばれる少なくとも一種の繊維であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
補強用繊維シートを構成する繊維が、X線光電子分光法によって測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)との原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が0.15以上である炭素繊維であることを特徴とする請求項
5に記載の積層体。
【請求項7】
熱可塑性樹脂シートが網目状の中空繊維からなるものであることを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の積層体からなる繊維強化樹脂複合体。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の積層体を、熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、補強用繊維シートを構成する補強用繊維の耐熱温度未満の温度で、加圧処理することを特徴とする繊維強化樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびそれからなる繊維強化樹脂複合体ならびに繊維強化樹脂複合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、剛性、強度、低比重性および外観に優れ、電気・電子部品、家庭電化製品、自動車関連部品、インフラ関連部品、住設関連部品等に好適な積層体およびそれからなる繊維強化樹脂複合体ならびに繊維強化樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂複合体は、その軽量性や高い物性から、自動車、航空機部材や一般工業用材料その他の幅広い分野に用いられている。そしてこれらの複合体は、力学特性に加え表面外観品位などが要求されるため、強化繊維に十分に樹脂を含浸させ、ボイドなども低減する必要がある。
【0003】
強化繊維に樹脂を充分に含浸させる上で、これまでマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂が用いられてきた。一方、熱可塑性樹脂は、価格が安く熱硬化性樹脂に比べ、耐衝撃性、耐熱特性、リサイクル性が優れているものの、強化繊維への含浸が難しいこと、熱硬化性樹脂に比べ、高温高圧成形が必要であることなどの問題点を抱えているため、未だ広く使われていない。
【0004】
ポリプロピレン樹脂は、成形加工性、耐薬品性に優れ、しかも低比重であることから、電気・電子部品、家庭電化製品、ハウジング、包装材料、自動車部品など、工業的に幅広く用いられている。さらに近年、自動車軽量化の要望から、バンパー、内外装部品などの自動車用途にも幅広く用いられている。そのためポリプロピレン樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂複合体は、軽量性、剛性、強度を兼ね備えた素材になりうるとして、これまで様々な検討がなされている。しかしながらポリプロピレン樹脂は、炭素繊維との接着性が良くないため、単に両者を積層したのみでは十分な力学的物性が得られない。繊維長0.1~6mm程度の炭素繊維チョップドストランドと、ポリプロピレン樹脂の接着性を改良するために、無水マレイン酸等の酸無水物をグラフトした変性ポリプロピレンを配合した組成物が提案されている。(特許文献1、2)。またウレタン変性エポキシ樹脂とエポキシ樹脂とを主成分とする、炭素繊維束に用いるサイジング剤が提案されている(特許文献3)。また、繊維長1~6mm程度の炭素繊維とポリプロピレン樹脂の接着性を改良するために、重合体鎖に結合したカルボン酸塩を含むポリプロピレン樹脂を用いることが提案されている(特許文献4)。
【0005】
これらの変性ポリオレフィンは、チョップドストランド状炭素繊維の表面上に存在するカルボン酸などの官能基と溶融混練時に反応し、炭素繊維の表面にポリオレフィンを化学結合させることによって、チョップドストランド状炭素繊維との接着性を向上させることが知られている。しかし、溶融混練を経由しないシート状炭素繊維との複合体形成においては、シート状炭素繊維との密着性が不十分であり、結果として力学的特性が不十分となるという問題があった。
【0006】
一方、寸法安定性が充分でないポリプロピレン樹脂に、寸法安定性を付与するために、寸法安定性に優れたポリカーボネート樹脂をブレンドし溶融混練することが提案されている。その際、ポリプロピレン樹脂とポリカーボネート樹脂との相溶性を改良するため、特定の表面性を有するカーボンミルドファイバーを含有させることが提案されている(特許文献5)。この提案によれば、カーボンミルドファイバーと樹脂成分との接着性は向上する。しかし、溶融混練を経由しないシート状炭素繊維との複合体形成においては、シート状炭素繊維との密着性が不十分であり、結果として力学的特性が不十分となるという問題があった。また、ポリプロピレン樹脂にポリカーボネート樹脂を添加することで、接着性を向上させている事が知られている(特許文献6)。しかし、金属及び熱硬化性CFRPが使用されている製品を代替し、用途拡大をするには、更なる強度、剛性及び高外観が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭55-50041号公報
【文献】特開昭58-113239号公報
【文献】特開昭61-252371号公報
【文献】特開2010-150359号公報
【文献】特開2016-222774号公報
【文献】特許第6744414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記問題を解決し、熱可塑性樹脂と強化繊維との密着性に優れ、剛性、強度および外観に優れた積層体およびそれからなる繊維強化樹脂複合体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂および変性ポリオレフィン樹脂からなるポリプロピレン樹脂組成物からなる熱可塑性樹脂シートが、補強用繊維シートとの積層時に、非相溶による層状剥離や著しい物性低下を起こすことなく、剛性、強度および外観に優れた繊維強化樹脂複合体を得ることができることを見出し本発明に達した。
【0010】
すなわち本発明によれば、(1)補強用繊維シートと熱可塑性樹脂シートとの積層体であって、熱可塑性樹脂シートが、(A)ポリプロピレン樹脂(A成分)1~99重量部および(B)ポリカーボネート樹脂(B成分)99~1重量部からなる樹脂成分100重量部に対して(C)変性ポリオレフィン樹脂(C成分)を0.1~900重量部含有する樹脂組成物であり、かつ補強用繊維シートを構成する補強用繊維の含有量がA成分とB成分とからなる樹脂成分100重量部に対し151~900重量部であることを特徴とする積層体が提供される。
本発明のより好適な態様の一つは、(2)B成分が下記式〔1〕で表されるカーボネート構成単位を全カーボネート構成単位中1~100モル%含むポリカーボネート樹脂である上記構成(1)に記載の積層体である。
【0011】
【0012】
[上記一般式〔1〕において、R1およびR2は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合は、それらは同一でも異なっていても良く、aおよいbは夫々1~4の整数であり、Wは単結合もしくは下記一般式〔2〕で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【0013】
【0014】
(上記一般式〔2〕においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17およびR18は各々独立に水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基および炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19およびR20は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、R21,R22,R23,R24,R25およびR26は各々独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、cは1~10の整数、dは4~7の整数であり、eは自然数であり、fは0または自然数であり、e+fは150以下の自然数であり、Xは炭素数2~8の二価脂肪族基である。)]
本発明のより好適な態様の一つは、(3)C成分が無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることを特徴とする上記構成(1)または(2)に記載の積層体である。
【0015】
本発明のより好適な態様の一つは、(4)熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物が、更に(D)スチレン系熱可塑性エラストマー(D成分)をA成分とB成分とからなる樹脂成分100重量部に対し1~20重量部含有することを特徴とする上記構成(1)~(3)のいずれかに記載の積層体である。
【0016】
本発明のより好適な態様の一つは、(5)補強用繊維シートが、織編物、不織布、一方向性シートのいずれかである上記構成(1)~(4)のいずれかに記載の積層体である。
【0017】
本発明のより好適な態様の一つは、(6)補強用繊維シートを構成する繊維が、炭素繊維およびガラス繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の繊維である上記構成(1)~(5)のいずれかに記載の積層体である。
【0018】
本発明のより好適な態様の一つは、(7)補強用繊維シートを構成する繊維が、X線光電子分光法によって測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)との原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が0.15以上である炭素繊維である上記構成(6)に記載の積層体である。
【0019】
本発明のより好適な態様の一つは、(8)熱可塑性樹脂シートが、網目状の中空繊維からなるものである上記構成(1)~(7)のいずれかに記載の積層体である。
【0020】
本発明のより好適な態様の一つは、(9)上記構成(1)~(8)のいずれかに記載の積層体からなる繊維強化樹脂複合体である。
【0021】
本発明のより好適な態様の一つは、(10)上記構成(1)~(8)のいずれかに記載の積層体を、熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、補強用繊維シートを構成する補強用繊維の耐熱温度未満の温度で、加圧処理することを特徴とする繊維強化樹脂複合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の積層体は、柔軟性が高く、金型等への追随性に優れた材料となる。また、この積層体を加熱加圧処理して得られる繊維強化樹脂複合体は、強度、剛性及び外観に優れ、電気・電子部品、家庭電化製品、自動車関連部品、インフラ関連部品、住設関連部品等に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明で用いる中空繊維の断面図の模式図である。
【
図2】本発明で用いる中空繊維の断面図を電子顕微鏡にて撮影したものである。
【
図3】本発明で用いる中空繊維の異型度の測定方法を示す概略図である。
【
図5】本発明の繊維強化樹脂複合体の断面図の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について具体的に説明する。
<積層体>
(A成分:ポリプロピレン樹脂)
本発明における熱可塑性樹脂シートを構成するポリプロピレン樹脂組成物のA成分として用いられるポリプロピレン樹脂は、プロピレンの重合体であるが、本発明においては、他のモノマーとの共重合体も含む。本発明のポリプロピレン樹脂の例には、ホモポリプロピレン樹脂がある。またプロピレンとエチレンとのブロック共重合体や、プロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとのブロック共重合体(「ブロックポリプロピレン」ともいう)、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体や、プロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとのランダム共重合体(「ランダムポリプロピレン」ともいう)が含まれる。なお、「ブロックポリプロピレン」と「ランダムポリプロピレン」を合わせて、「ポリプロピレン共重合体」ともいう。
【0025】
本発明においては、ポリプロピレン樹脂として上記のホモポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの1種あるいは2種以上を使用してよく、中でもホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンが好ましい。なお、ポリプロピレン樹脂にはC成分である変性ポリプロピレン樹脂は含まれない。
【0026】
ポリプロピレン共重合体に用いられる炭素数4~10のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、イソブチレン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセンが含まれる。
【0027】
ポリプロピレン共重合体中のエチレンの含有量は、全モノマー中、5重量%以下であることが好ましい。ポリプロピレン共重合体中の炭素数4~10のα-オレフィンの含有量は、全モノマー中20重量%以下であることが好ましい。
【0028】
ポリプロピレン共重合体は、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはプロピレンと1-ブテンとの共重合体であることが好ましく、特にプロピレンとエチレンとの共重合体が好ましい。
【0029】
本発明におけるポリプロピレン樹脂のメルトフローレイト(230℃、2.16kg)は、0.1~5g/10minであることが好ましく、0.2~4g/10minであることがより好ましく、0.3~3g/10minであることが特に好ましい。ポリプロピレン樹脂のメルトフローレイトが0.1g/10min未満では高粘度のため成形性に劣り、5g/10minを越えると十分な靭性が発現しない場合がある。なお、メルトフローレイトは「MFR」とも呼ばれる。MFRはISO1133に準拠して測定した。
(B成分:ポリカーボネート樹脂)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物のB成分として用いられるポリカーボネート樹脂は、通常、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られたものが挙げられる。その他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させたもの、または環状カーボネート化合物の開環重合法により重合させて得られるものが挙げられる。
【0030】
ここで使用されるジヒドロキシ成分としては、通常、芳香族ポリカーボネートのジヒドロキシ成分として使用されているものであればよく、ビスフェノール類でも脂肪族ジオール類でも良い。ビスフェノール類としては、下記式〔3〕で表されるビスフェノール類が好ましく用いられる。
【0031】
【0032】
[上記一般式〔3〕において、R1およびR2は夫々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合は、それらは同一でも異なっていても良く、aおよびbは夫々1~4の整数であり、Wは単結合もしくは下記一般式〔2〕で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。
【0033】
【0034】
(上記一般式〔2〕においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17およびR18は各々独立に、水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基および炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19およびR20は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる基を表し、R21,R22,R23,R24,R25およびR26は各々独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、複数ある場合は、それらは同一でも異なっていても良く、cは1~10の整数、dは4~7の整数であり、eは自然数であり、fは0または自然数であり、e+fは150以下の自然数であり、Xは炭素数2~8の二価脂肪族基である。)]
ビスフェノール類の具体例としては、例えば4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,3’-ビフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’-ジフェニル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’-(1,3-アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0035】
脂肪族ジオール類としては、例えば2,2-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、1,14-テトラデカンジオール、オクタエチレングリコール、1,16-ヘキサデカンジオール、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}メタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}エタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-1-フェニルエタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル}プロパン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ビフェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル}プロパン、2,2-ビス{3-t-ブチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}ブタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-4-メチルペンタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}オクタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}デカン、2,2-ビス{3-ブロモ-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{3,5-ジメチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、1,1-ビス{3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}ジフェニルメタン、9,9-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}フルオレン、9,9-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル}フルオレン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロペンタン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ジフェニルエ-テル、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、1,3-ビス[2-{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロピル]ベンゼン、1,4-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,3-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、4,8-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-5,7-ジメチルアダマンタン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(イソソルビド)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-マンニトール(イソマンニド)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-L-イジトール(イソイディッド)等が挙げられる。
【0036】
これらの中で芳香族ビスフェノール類が好ましく、なかでも1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-スルホニルジフェノール、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、および1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼンが好ましい。殊に、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-スルホニルジフェノールおよび9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが好ましい。中でも強度に優れ、良好な耐久性を有する2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好適である。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本発明のB成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、分岐化剤を上記のジヒドロキシ化合物と併用して分岐化ポリカーボネート樹脂としてもよい。
【0038】
かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが挙げられる。また、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン等が挙げられる。また、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられる。中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0039】
これらのポリカーボネート樹脂は、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば、芳香族ジヒドロキシ成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。その製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0040】
カーボネート前駆物質として、例えば、ホスゲンを使用する反応では、通常、酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物またはピリジンなどのアミン化合物が用いられる。溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば、第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間である。カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は、生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また、反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0041】
重合反応においては末端停止剤を使用することがある。末端停止剤は分子量調節のために使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる末端停止剤としては、下記一般式〔4〕~〔6〕で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0042】
【0043】
[式中、Aは水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アルキルフェニル基(アルキル部分の炭素数は1~9)、フェニル基、またはフェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数1~9)であり、rは1~5、好ましくは1~3の整数である。]
【0044】
【0045】
【0046】
[式中、Yは-R-O-、-R-CO-O-または-R-O-CO-である、ここでRは、単結合または炭素数1~10、好ましくは1~5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10~50の整数を示す。]
上記一般式〔4〕で表される単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クレゾール、p-クミルフェノール、2-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール、およびイソオクチルフェノールなどが挙げられる。
【0047】
また、上記一般式〔5〕~〔6〕で表される単官能フェノール類は、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類であり、これらを用いてポリカーボネート樹脂の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、樹脂の吸水率を低くする効果があり好ましく使用される。
【0048】
上記一般式〔5〕の置換フェノール類としては、nが10~30、特に10~26のものが好ましい。その具体例としては例えば、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
【0049】
また、上記一般式〔6〕の置換フェノール類としては、Yが-R-CO-O-であり、Rが単結合である化合物が好ましく、nが10~30、特に10~26のものが好適である。その具体例としては例えば、ヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0050】
これら単官能フェノール類の内、上記一般式〔4〕で表される単官能フェノール類が好ましく、より好ましくはアルキル置換もしくはフェニルアルキル置換のフェノール類であり、特に好ましくはp-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールまたは2-フェニルフェノールである。これらの単官能フェノール類の末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル% 末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0051】
本発明のB成分として用いられるポリカーボネート樹脂は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸あるいはその誘導体を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。
【0052】
本発明のB成分として用いられるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、13,000~25,000の範囲が好ましく、13,000~21,000がより好ましく、16,000~21,000の範囲がさらにより好ましく、16,000~20,000の範囲が最も好ましい。分子量が25,000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて成形性に劣る場合があり、分子量が13,000未満であると機械的強度に問題が生じる場合がある。なお、本発明でいう粘度平均分子量は、まず次式にて算出される比粘度を塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
【0053】
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
本発明のB成分として用いられるポリカーボネート樹脂は、樹脂中の全Cl(塩素)量が好ましくは0~200ppm、より好ましくは0~150ppmである。ポリカーボネート樹脂中の全Cl量が200ppmを越えると、色相および熱安定性が悪くなる場合があるので好ましくない。
【0054】
B成分の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部中、99~1重量部であり、好ましくは50~5重量部、より好ましくは25~5重量部、最も好ましくは15~5重量部である。B成分が99重量部より多いと、繊維強化樹脂複合体とした時の外観改善が不十分となる。また、B成分が1重量部より少ないと、樹脂と強化繊維との密着性が低下し、繊維強化複合体としたときの強度が十分に発現せず、外観改善も不十分となる。
(C成分:変性ポリオレフィン樹脂)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物は、相溶化剤として、変性ポリオレフィン樹脂を含有する。変性ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン樹脂と強化繊維との界面密着性を向上させ、繊維強化樹脂複合体の強度を向上させる。
【0055】
変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された酸変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。変性されたポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、ポリプロピレン樹脂が好ましい。なお変性ポリプロピレン樹脂には、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等を含む。ポリオレフィン樹脂の変性には、グラフト変性や共重合化等の方法を使用することができる。
【0056】
ポリオレフィン樹脂を変性するために用いる不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、ソルビン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸等が挙げられる。また、その不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等がある。例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、アクリル酸メチル、メタクル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、マレイン酸モノエチルエステル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、N-ブチルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体が好ましく、特に無水マレイン酸または無水フタル酸が好適である。
【0057】
変性ポリプロピレン樹脂の結晶化温度(Tc)は、好ましくは90~125℃、より好ましくは110~120℃である。極限粘度は、好ましくは0.1~2.4dl/g、好ましくは0.2~1.6dl/gである。変性ポリオレフィン樹脂の結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。変性ポリオレフィン樹脂の極限粘度は、テトラリン中、135℃で測定することができる。変性ポリオレフィン樹脂のカルボン酸付加量は、0.1~14重量%の範囲であることが好ましく、0.8~8重量%の範囲であることがより好ましい。酸付加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂のIRスペクトルを測定し、1670cm-1~1810cm-1のピークの面積から求めることができる。
【0058】
変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.1~900重量部であり、好ましくは1~500重量部であり、より好ましくは5~300重量部であり、さらに好ましくは、50~150重量部である。変性ポリオレフィン樹脂の含有量が0.1重量部未満では繊維強化樹脂複合体の強度が向上せず、900重量部を超えるとシート加工性が悪化するため、繊維強化複合体としたときの強度が十分に発現せず、外観改善も不十分となる。
(D成分:スチレン系熱可塑性エラストマー)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、更にスチレン系熱可塑性エラストマーを添加することができる。スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリプロピレン樹脂とポリカーボネート樹脂との相溶性を向上させ、繊維強化樹脂複合体の強度(曲げ弾性率、曲げ強度)を向上させる。
【0059】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体等が挙げられ、その中でもスチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体が最も好適である。
【0060】
また、下記式(I)または(II)で表されるブロック共重合体も好適に用いられる。
X-(Y-X)n …(I)
(X-Y)n …(II)
一般式(I)および(II)におけるXはスチレン重合体ブロックで、式(I)においては分子鎖両末端で重合度が同じであってもよいし、異なっていてもよい。Yはイソプレン重合体ブロック、水添されたブタジエン重合体ブロックおよび水添されたイソプレン重合ブロックの中から選ばれた少なくとも1種である。また、nは1以上の整数である。
【0061】
前記ブロック共重合体におけるX成分の含有量は、好ましくは20~80重量%、より好ましくは25~70重量%の範囲にあることが望ましい。この量が20重量%未満では樹脂組成物の剛性が低下する傾向がある。また80重量%を超えると成形加工性および衝撃強度が低下する傾向がある。このようなブロック共重合体の具体例としては、スチレン-水添ブタジエン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添イソプレン-スチレントリブロック共重合体、スチレン-水添ブタジエンジブロック共重合体、スチレン-水添イソプレンジブロック共重合体、スチレン-イソプレンジブロック共重合体などが挙げられる。
【0062】
スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、25万以下が好ましく、22万以下がより好ましく、20万以下がさらに好ましい。重量平均分子量が25万を超えると、成形加工性が低下し、ポリプロピレン樹脂への分散性も悪化する場合がある。また、重量平均分子量の下限については特に限定されないが、4万以上が好ましく、5万以上がより好ましい。なお、重量平均分子量は以下の方法で測定した。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を算出する。
【0063】
スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、樹脂成分100重量部に対し、1~20重量部であることが好ましく、より好ましくは3~15重量部であり、さらに好ましくは5~13重量部、最も好ましくは5~10重量部である。スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、1重量部未満では繊維強化樹脂複合体の強度が向上せず、20重量部を超えると繊維強化樹脂複合体の成形時にガスが発生し、成形加工性が低下してしまう場合がある。
(その他の成分)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、リン系熱安定剤、フェノール系熱安定剤、イオウ含有酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、相溶化剤、難燃剤、染顔料などが挙げられる。以下これら添加剤について具体的に説明する。
(リン系熱安定剤)
リン系熱安定剤としては、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物、およびホスフェート化合物のいずれも使用可能である。
【0064】
ホスファイト化合物としては、さまざまなものを用いることができる。具体的には例えば下記一般式〔7〕で表わされるホスファイト化合物、下記一般式〔8〕で表わされるホスファイト化合物、および下記一般式〔9〕で表わされるホスファイト化合物を挙げることができる。
【0065】
【0066】
[式中R31は、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアルカリール基、炭素数7~30のアラルキル基、またはこれらのハロ、アルキルチオ(アルキル基は炭素数1~30)またはヒドロキシ置換基を示し、3個のR31は互いに同一または互いに異なるいずれの場合も選択でき、また2価フェノール類から誘導されることにより環状構造も選択できる。]
【0067】
【0068】
[式中R32、R33はそれぞれ、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアルキルアリール基、炭素数7~30のアラルキル基、炭素数4~20のシクロアルキル基、炭素数15~25の2-(4-オキシフェニル)プロピル置換アリール基を示す。なお、シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基で置換されていないもの、またはアルキル基で置換されているもののいずれも選択できる。]
【0069】
【0070】
[式中R34、R35は炭素数12~15のアルキル基である。なお、R34およびR35は互いに同一または互いに異なるいずれの場合も選択できる。]
ホスホナイト化合物としては下記一般式〔10〕で表わされるホスホナイト化合物、および下記一般式〔11〕で表わされるホスホナイト化合物を挙げることができる。
【0071】
【0072】
【0073】
[式中、Ar1、Ar2は、炭素数6~20のアリール基、炭素数6~20のアルキルアリール基、または炭素数15~25の2-(4-オキシフェニル)プロピル置換アリール基を示し、4つのAr1は互いに同一、または互いに異なるいずれも選択できる。または2つのAr2は互いに同一、または互いに異なるいずれも選択できる。]
上記一般式〔7〕で表されるホスファイト化合物の好ましい具体例としては、ジフェニルイソオクチルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイトが挙げられる。
【0074】
上記一般式〔8〕で表されるホスファイト化合物の好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。好ましくはジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを挙げることができる。かかるホスファイト化合物は1種、または2種以上を併用することができる。
【0075】
上記一般式〔9〕で表されるホスファイト化合物の好ましい具体例としては、4,4’-イソプロピリデンジフェノールテトラトリデシルホスファイトを挙げることができる。
【0076】
上記一般式〔10〕で表されるホスホナイト化合物の好ましい具体例としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。なかでも、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイトがより好ましい。このテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイトは、2種以上の混合物が好ましい。具体的には、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイトおよび、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイトの1種もしくは2種以上を併用して使用可能であるが、好ましくはかかる3種の混合物である。
【0077】
上記一般式〔11〕で表されるホスホナイト化合物の好ましい具体例としては、ビス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイトビス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられる。ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。
【0078】
このビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトは、2種以上の混合物が好ましい。具体的にはビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、およびビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイトの1種もしくは2種を併用して使用可能である。好ましくはかかる2種の混合物である。また、2種の混合物の場合その混合比は、重量比で5:1~4の範囲が好ましく、5:2~3の範囲がより好ましい。
【0079】
一方、ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができる。好ましくはトリメチルホスフェートである。
【0080】
上記のリン系熱安定剤の中で、さらに好ましい化合物としては、以下の一般式〔12〕および〔13〕で表される化合物を挙げることができる。
【0081】
【0082】
[式〔12〕中、R36およびR37は、それぞれ独立して炭素原子数1~12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。]
【0083】
【0084】
[式〔13〕中、R41、R42、R43、R44、R47、R48およびR49はそれぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~12のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R45は、水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を示し、およびR46は水素原子またはメチル基を示す。]
式〔12〕中、R36およびR37は、好ましくは炭素原子数1~12のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~8のアルキル基である。
【0085】
式〔12〕で表される化合物としては具体的に、トリス(ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。特にトリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0086】
式〔13〕で表される化合物としては具体的に、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)と2,6-ジ-tert-ブチルフェノールから誘導されるホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とフェノールから誘導されるホスファイトが挙げられる。特に2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)とフェノールから誘導されるホスファイトが好ましい。
【0087】
リン系熱安定剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.001~3.0重量部、より好ましくは0.01~2.0重量部、さらに好ましくは0.05~1.0重量部である。リン系熱安定剤の含有量が0.001重量部未満では機械特性が十分に発現せず、3.0重量部を超えても機械特性を十分に発現しない場合がある。
(フェノール系熱安定剤)
本発明に使用されるフェノール系熱安定剤としては、一般的にヒンダードフェノール、セミヒンダードフェノール、レスヒンダードフェノール化合物が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂に対して熱安定処方を施すという観点で特にヒンダードフェノール化合物がより好適に用いられる。
【0088】
かかるヒンダードフェノール化合物としては、具体例としては、例えばビタミンE、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジメチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス2[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどを挙げることができる。これらを好ましく使用できる。
【0089】
より好ましくは、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、およびテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。さらに、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネートが好ましい。
(イオウ含有酸化防止剤)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、酸化防止剤としてイオウ含有酸化防止剤を使用することもできる。特に樹脂組成物が回転成形や圧縮成形に使用される場合には好適である。
【0090】
かかるイオウ含有酸化防止剤の具体例としては、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(β-ラウリルチオプロピオネート)エステル、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)などを挙げることができる。より好ましくは、ペンタエリスリトールテトラ(β-ラウリルチオプロピオネート)エステルを挙げることができる。
【0091】
上記に挙げたリン系熱安定剤、フェノール系熱安定剤、およびイオウ含有酸化防止剤はそれぞれ単独または2種以上併用することができる。フェノール系熱安定剤およびイオウ含有酸化防止剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0.0001~1重量部であることが好ましい。より好ましくは0.0005~0.5重量部であり、さらに好ましくは0.001~0.2重量部である。
(離型剤)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、その成形時の生産性向上や成形品の歪みの低減を目的として、更に離型剤を配合することができる。かかる離型剤としては公知のものが使用できる。
【0092】
例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1-アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。
【0093】
中でも好ましい離型剤として脂肪酸エステルが挙げられる。かかる脂肪酸エステルは、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステルである。かかる脂肪族アルコールは、1価アルコールであっても2価以上の多価アルコールであってもよい。また該アルコールの炭素数としては、好ましくは3~32の範囲、より好適には5~30の範囲である。
【0094】
かかる一価アルコールとしては、例えばドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、テトラコサノール、セリルアルコール、およびトリアコンタノールなどが例示される。
【0095】
かかる多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリグリセロール(トリグリセロール~ヘキサグリセロール)、ジトリメチロールプロパン、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールなどが挙げられる。本発明の脂肪酸エステルにおいては多価アルコールがより好ましい。
【0096】
一方、脂肪族カルボン酸は炭素数3~32であることが好ましく、特に炭素数10~22の脂肪族カルボン酸が好ましい。
【0097】
該脂肪族カルボン酸としては、例えばデカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、ベヘン酸、イコサン酸、およびドコサン酸などの飽和脂肪族カルボン酸、並びにパルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、およびセトレイン酸などの不飽和脂肪族カルボン酸を挙げることができる。上記の中でも脂肪族カルボン酸は、炭素原子数14~20であるものが好ましい。なかでも飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。特にステアリン酸およびパルミチン酸が好ましい。
【0098】
ステアリン酸やパルミチン酸など上記の脂肪族カルボン酸は通常、牛脂や豚脂などに代表される動物性油脂およびパーム油やサンフラワー油に代表される植物性油脂などの天然油脂類から製造されるため、これらの脂肪族カルボン酸は、通常、炭素原子数の異なる他のカルボン酸成分を含む混合物である。したがって本発明の脂肪酸エステルの製造においてもかかる天然油脂類から製造され、他のカルボン酸成分を含む混合物の形態からなる脂肪族カルボン酸、殊にステアリン酸やパルミチン酸が好ましく使用される。
【0099】
本発明に用いられる脂肪酸エステルは、部分エステルおよび全エステル(フルエステル)のいずれであってもよい。しかしながら部分エステルでは、通常、水酸基価が高くなり高温時の樹脂の分解などを誘発しやすいことから、より好適にはフルエステルである。本発明の脂肪酸エステルにおける酸価は、熱安定性の点から好ましく20以下、より好ましくは4~20の範囲、更に好ましくは4~12の範囲である。尚、酸価は実質的に0を取り得る。また脂肪酸エステルの水酸基価は、0.1~30の範囲がより好ましい。更にヨウ素価は、10以下が好ましい。尚、ヨウ素価は実質的に0を取り得る。これらの特性はJIS K 0070に規定された方法により求めることができる。
【0100】
離型剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.005~2重量部、より好ましくは0.01~1重量部、更に好ましくは0.05~0.5重量部である。
(紫外線吸収剤)
本発明の熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物は紫外線吸収剤を含有することができる。
【0101】
ベンゾフェノン系では、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5-ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンソフェノン、および2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。
【0102】
ベンゾトリアゾール系では、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-クミル-6-ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)、2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾ-ルが挙げられる。並びに2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や、2-(2’―ヒドロキシ-5-アクリロキシエチルフェニル)―2H―ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2-ヒドロキシフェニル-2H-ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。
【0103】
ヒドロキシフェニルトリアジン系では、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-メチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-エチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-プロピルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4-ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。
【0104】
環状イミノエステル系では、例えば2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-(4,4’-ジフェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2,2’-(2,6-ナフタレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)などが例示される。
【0105】
シアノアクリレート系では、例えば1,3-ビス-[(2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。
【0106】
さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/またはヒンダードアミン構造を有する光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。上記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。
【0107】
上記の中でも紫外線吸収能の点においてはベンゾトリアゾール系およびヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましく、耐熱性や色相(透明性)の点では、環状イミノエステル系およびシアノアクリレート系が好ましい。上記紫外線吸収剤は単独であるいは2種以上の混合物で用いてもよい。
【0108】
紫外線吸収剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、好ましくは0.01~2重量部、より好ましくは0.02~2重量部、さらに好ましくは0.03~1重量部、更に好ましくは0.05~0.5重量部である。
(ヒンダードアミン系光安定剤)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物は、ヒンダードアミン系光安定剤を含有することができる。ヒンダードアミン系光安定剤は一般にHALS(Hindered Amine Light Stabilizer)と呼ばれ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン骨格を構造中に有する化合物である。
【0109】
例えば、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルアセトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)マロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)テレフタレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)カーボネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)オキサレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)マロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アジペート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)テレフタレート、N,N’-ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル-1,3-ベンゼンジカルボキシアミド、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)エタン、α,α'-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルトリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシラート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシラート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、および1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β',β'-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物などが挙げられる。
【0110】
ヒンダードアミン系光安定剤は、ピペリジン骨格中の窒素原子の結合相手により大きく分けて、N-H型(窒素原子に水素が結合)、N-R型(窒素原子にアルキル基(R)が結合)、N-OR型(窒素原子にアルコキシ基(OR)が結合)の3タイプがある。ポリカーボネート樹脂に適用する際、ヒンダードアミン系光安定剤の塩基性の観点から、低塩基性であるN-R型、N-OR型を用いるのがより好ましい。上記ヒンダードアミン系光安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0111】
ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、0~1重量部であることが好ましく、0.05~1重量部がより好ましく、さらに好ましくは0.08~0.7重量部、特に好ましくは0.1~0.5重量部である。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が1重量部より多いとガス発生による外観不良やポリカーボネート樹脂の分解による物性低下が起こる場合があり好ましくない。また、0.05重量部未満であると、十分な耐光性が発現しない場合がある。
(難燃剤)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、難燃剤を配合して難燃性を付与することができる。かかる難燃剤としては従来、熱可塑性樹脂の難燃剤として知られる各種の化合物が適用できるが、より好適には、(i)ハロゲン系難燃剤(例えば、臭素化ポリカーボネート化合物など)(ii)リン系難燃剤(例えば、モノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、およびホスファゼン化合物など)、(iii)金属塩系難燃剤(例えば有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ホウ酸金属塩系難燃剤、および錫酸金属塩系難燃剤など)、(iv)シリコーン化合物からなるシリコーン系難燃剤である。尚、難燃剤として使用される化合物の配合は難燃性の向上のみならず、各化合物の性質に基づき、例えば帯電防止性、流動性、剛性、および熱安定性の向上などがもたらされる。
【0112】
難燃剤の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、好ましくは0.01~30重量部であり、より好ましくは0.05~28重量部、さらに好ましくは0.08~25重量部である。難燃剤の含有量が0.01重量部未満の場合、十分な難燃性が得られない場合があり、30重量部を超えた場合、衝撃強度および耐薬品性の低下が大きい場合がある。
(染顔料)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、更に各種の染顔料を含有し多様な意匠性を発現する成形品を提供できる。蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。また極微量の染顔料による着色、かつ鮮やかな発色性を有する繊維強化樹脂組成物もまた提供可能である。
【0113】
蛍光染料(蛍光増白剤を含む)としては、例えば、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、およびジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。これらの中でも耐熱性が良好でポリカーボネート樹脂の成形加工時における劣化が少ないクマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、およびペリレン系蛍光染料が好適である。
【0114】
上記ブルーイング剤および蛍光染料以外の染料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更に本発明の樹脂組成物はメタリック顔料を配合してより良好なメタリック色彩を得ることもできる。メタリック顔料としては、各種板状フィラーに金属被膜または金属酸化物被膜を有するものが好適である。
【0115】
上記の染顔料の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対して、0.00001~1重量部が好ましく、0.00005~0.5重量部がより好ましい。
(他の樹脂)
熱可塑性樹脂シートを構成するポリプロピレン樹脂組成物には、他の樹脂を本発明の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。
【0116】
かかる他の樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリプロピレン樹脂以外のポリオレフィン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。
(その他充填材)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、他の充填材を本発明の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。
【0117】
かかる他の充填材としては、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラストナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩が挙げられる。また、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填剤が挙げられる。
(その他の添加剤)
本発明の熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物には、成形品に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本発明の目的を損なわない限り、通常の配合量である。かかる添加剤としては、摺動剤(例えばPTFE粒子)、蛍光染料、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、帯電防止剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、ラジカル発生剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、およびフォトクロミック剤などが挙げられる。
(樹脂組成物の製造方法)
熱可塑性樹脂シートを構成する樹脂組成物を製造する方法に特に制限はなく、周知の方法を用いることができる。たとえば、溶液状態で各成分を混合し、溶剤を蒸発させるか、溶剤中に沈殿させる方法が挙げられる。工業的見地からみると溶融状態で各成分を混練する方法が好ましい。溶融混練には一般に使用されている一軸または二軸の押出機、各種のニーダー等の混練装置を用いることができる。特に二軸の高混練機が好ましい。溶融混練に際しては、混練装置のシリンダー設定温度は200~360℃の範囲が好ましく、より好ましくは200℃~300℃の範囲であり、さらに好ましくは230~280℃である。混練に際しては、各成分は予めタンブラーもしくはヘンシェルミキサーのような装置で各成分を均一に混合してもよいし、必要な場合には混合を省き、混練装置にそれぞれ別個に定量供給する方法も用いることができる。
(熱可塑性樹脂シート)
本発明で用いられる熱可塑性樹脂シートは、補強用繊維シートを重ね合わせ、熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、補強用繊維シートを構成する補強用繊維の耐熱温度未満の温度で、加圧処理することにより、熱可塑性樹脂シートが溶融し、補強用繊維の周囲に空隙なく配置され繊維強化樹脂複合体となる。
【0118】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂シートの形態は、特に制限はないが、上記目的を達成するためには長さ・幅・厚さの三次元のうち少なくとも一次元が1~300μmの範囲にあることが好ましく、1~100μmがより好ましく、1~50μmが更により好ましく、1~30μmが最も好ましい。このような形態を持ちうるものとしてフィルム、不織布および以下に挙げる網目状繊維シートが挙げられ、なかでも熱可塑性樹脂シートの補強用繊維の周囲への含浸性という観点から網目状繊維シートが好ましい。
(網目状繊維シート)
本発明においては、熱可塑性樹脂シートを網目状繊維シートとすることで、網目構造を持たない繊維からなる通常の不織布と比較して、強化繊維とのより高い密着性を得ることができる。さらに補強用繊維との高い密着性を得る上では、中空繊維の断面形状が不規則な非円形断面である、異形繊維であることが好ましい。なおここで中空とは、公知の中空繊維のように明らかな空隙が有るものばかりでは無く、繊維内部に気泡が有る程度のものであっても構わない。
【0119】
本発明で述べる中空繊維は、その繊維内部に気泡を有するのであるが、例えば
図1に模式的に示すように、内部に非連続の気泡を有し、かつ不規則な非円形断面の繊維状物であることが好ましい。
【0120】
さらに具体的には、
図2の電子顕微鏡写真に示したように、内部に複数のそれも形状の異なる気泡を有し、かつ扁平形状の繊維状物であることが好ましい。
【0121】
なお、ここで異形繊維内部の気泡とは、繊維内部に存在する閉鎖した空間(空隙)のことを指す。通常、合成繊維内部の空隙は、中空繊維などにみられるように、繊維軸方向に連続した同じ断面形状を有する空隙である。これと異なり本発明の好ましい空隙は、非連続の気泡状の形態をとっている。本発明においては、このような非連続の、しかも繊維の長さ方向において断面形状の異なる気泡を、中空繊維の内部に有していることが好ましい。本発明の好ましい形状である非連続の気泡状の空隙が存在する場合、通常の連続した空隙の場合と異なり、均一に熱可塑性樹脂の流動性を向上させることが可能になる。その結果として連続した空隙に比べ、強化繊維との複合化において、特に優れた含浸性を発現することができる。
【0122】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、上記のようにその繊維内部に気泡を有するものであるが、単繊維横断面における中空率としては0.5~40%の範囲であることが好ましい。ここで中空率とは繊維断面において複数の気泡が含まれている場合、その気泡の面積を合計した面積が、繊維断面中に占める割合をいう。さらには繊維の中空率としては1~30%、特には5~20%の範囲であることが好ましい。繊維の中空率が0.5%未満の場合、強化繊維との複合化の際の含浸性が不十分となる場合があり、40%を超える場合には、不織布構造体の強度が低下することに加え、紡糸などの繊維の製造工程において、特に異形繊維である場合に、繊維切断が多く発生し、製造効率が低下する傾向にある。
【0123】
なおこの中空率は、走査電子顕微鏡(SEM)にて倍率100倍で得られた画像の繊維断面写真から、繊維の中空部を含む全断面積に対する中空部の面積を中空率として求めたものである。本発明ではこのような中空部が存在することにより、繊維断面の壁部分が薄くなり溶解しやすく特に細かい部分に対する成形性が向上する。しかし繊維の中空率が大きすぎると中空繊維全体の熱伝導率が小さくなり、成形効率が低下する傾向にある。
【0124】
また個々の気泡の大きさとしては0.1~100μmの範囲にあることが好ましい。特には0.5~50μmの範囲内であることが好ましい。気泡の大きさが0.1μmより小さくなると、強化繊維との複合化の際の含浸性が不十分となる場合があり、100μmより大きくなると、強化繊維との複合化が均一に起こらないばかりでなく、強化繊維プラスチック内部に欠点(気泡)が残ってしまう場合がある。
【0125】
本発明では、異形繊維が好ましく用いられるが、その異形繊維の外周断面における不規則な非円形断面は、楕円や正多角形などの規則的な断面よりも、断面形状に乱れがある形状であることが好ましい。通常の合成繊維においては、その断面形状は紡糸口金の形状に依存するため、規則的な断面であることが一般的である。不規則な口金形状では溶融紡糸の際の断糸の発生率が高くなるからである。しかし断面の異形状態が規則的なものの場合、不織布を構成する際に、繊維の異形部分に別の繊維が収まって最密充填化され、かえって空隙が減少することがある。本発明の網目状の繊維は、上記と異なり異形であって、口金形状に依存しない断面形状の繊維であることが好ましい。本発明の熱可塑性樹脂シートを構成する繊維は、例えば後に述べるように発泡剤を用いたスリット紡糸にて得られる異形繊維であることが好ましい。
【0126】
そしてこのように不規則な外側断面や網目状の形態を有することにより、各異形繊維の重なり部分において必ず空隙が発生するばかりではなく、繊維間空隙もまた様々な形状を取ることになる。繊維間の空隙が一様とならず、繊維の重なりも少なくなるのである。また、不規則な形状により曲げ剛性や物質の密度がランダムになる。そしてこのようにランダムとなることにより、強化繊維との複合化において、結果的には均一な機械特性を有することができるのである。
【0127】
本発明で用いる中空繊維の端面角度としては60度未満であることが好ましく、1~55度であることがより好ましく、3~45度であることがさらに好ましい。この端面角度は、上記の中空率の測定と同じく、走査電子顕微鏡(SEM)にて倍率100倍で得られた画像の繊維断面写真から求めるものであり、繊維断面の両端部を結ぶ直線(長軸)に対して直交する方向に最も厚みのある部分に直線(短軸)を定め、該短軸の両端と、短軸から近い側の長軸端部の三点を結んだ三角形の長軸端部の角度を求めて、端面角度とした。この端面角度が60度未満であることにより補強用繊維間に熱可塑性樹脂からなる中空繊維が侵入しやすくなり、より高い含浸性を確保することが可能となる場合がある。
【0128】
本発明で好ましく用いられる異形繊維としては、単繊維の横断面において、異型度が1より大きく20以下であることが好ましい。さらには異形度が2~10であることが好ましい。ここで、繊維の断面形状の異型度とは、
図3に示される単繊維横断面の外接円直径D1と内接円直径D2との比D1/D2で定義される数値である。この異型度が上記好ましい範囲にある場合に、強化繊維との複合化の際に優れた含浸性を発現することができる。より具体的にはこの異型度は、上記の中空率等の測定と同じく、走査電子顕微鏡(SEM)にて倍率100倍で得られた画像の繊維断面写真から求めるものであり、維横断面における外接円の直径D1と、内接円の直径D2を測定し、その比(D1/D2)を異型度として算出する。端面角度とは逆に、この異型度の値は大きいことにより補強用繊維間に熱可塑性樹脂からなる中空繊維が侵入しやすくなり、より高い含浸性を確保することが可能となる。
【0129】
本発明の網目状繊維シートの製造方法においては、まず異形繊維を得るために、発泡剤を添加した熱可塑性樹脂をスリットダイから押出し、成形する。この時、スリットダイから吐出された熱可塑性樹脂は薄いシート状になるのであるが、本発明で用いる熱可塑性樹脂には発泡剤が添加されているために、スリットダイから吐出された際に樹脂中で発泡し、薄いシートの外部に気泡が通じることにより、網目状シートが形成されることになる。同時に網目状シートを構成する各繊維は、異形繊維となるのである。また逆に外部に出ずに、樹脂内部に留まった気泡は、異形繊維内部の空隙を形成する。
図1がその模式図である。
図2の電子顕微鏡写真は、本発明のこのような工程により生じる異形繊維の集合体の断面写真である。このように本発明では、熱可塑性樹脂は発泡剤を含有するのであるが、発泡剤とは発泡性の物質であって、溶融した樹脂がスリットダイから押出される際に気体となる物質であれば良い。この発泡剤は必ずしも自らが発泡する物質であるとは限らず、樹脂自体がかかる気体を発生する性質を有する発泡剤を兼ねても良く、また気体を発生することを助ける物質であっても良い。具体的な網目状繊維シートを得る方法としては、例えば、窒素ガス、炭酸ガスの如き常温で気体の不活性ガスなどの物質を溶融熱可塑性樹脂中に混練する方法、水などの如く常温では液体を呈するが、熱可塑性樹脂の溶融温度では気体となる物質を溶融熱可塑性樹脂と混練する方法、例えば、ジアゾ化合物、炭酸ソーダなどの分解により気体を発生する物質を溶融熱可塑性樹脂と混練する方法、例えば、ポリカーボネートの如き溶融熱可塑性樹脂の一部(例えばポリエステル、ポリアミド)と反応して気体を発生する重合体をそのような溶融熱可塑性樹脂と混練する方法などを採用しうる。
【0130】
いずれの方法であっても熱可塑性樹脂が溶融状態でスリットダイから押出される際、該樹脂と共に気体がダイから発生すればよく、上記した種々の発泡性物質と熱可塑性樹脂とは、スリットダイから押し出される前に十分に混練されていることが好ましい。この混練が充分でないと均一でかつ所望する物性を有する網目状繊維シートや異形繊維が得難くなる恐れがある。
【0131】
同時に本発明の製造方法では繊維内部に気泡を発生させることが好ましい。この目的のための発泡剤としては、不活性ガスであることが特に適している。不活性ガスを用いた場合には、溶融紡糸時の高温・高圧の条件下では、熱可塑性樹脂中に不活性ガスが少量ながら溶解する。そしてスリットダイから押し出される際には、不活性ガスを用いた場合に特に、微小な、しかも多数の気泡が発生することになるのである。本発明においては、このような紡糸工程途中の気泡の発生によって、さらには、溶解していた不活性ガスの溶出により、異形繊維の内部に不連続な気泡を、安定して生じさせることができる。
【0132】
ダイより吐出された樹脂は速やかに冷却することが好ましい。この冷却は網目状繊維シート段階での網目の大きさや、最終的に得られる異形繊維の繊維径や形状を定める要因ともなるため、十分に管理することが望ましい。例えば、繊維径が大きく網目の大きい網目状繊維シートを製造したい場合は冷却を少なくすればよい。繊維径を小さく網目を細くする場合は逆にするとよい。この冷却は一般的には空気冷却の方法が好ましく、その風量を変化させる事で網目や繊維径の調節がなされるが、水等の液体を使用したり、冷却した固体と接触させたりすることも可能である。
【0133】
さらにこの網目状繊維シートの製造方法としては、熱可塑性樹脂を発泡剤と共にスリットダイより溶融状態で押出した後に、吐出された樹脂を十分な速さで引取ることが好ましい。この引取り速度が十分でない場合得られる網目状繊維シートや異形繊維の強度が弱くなったり、極端な場合はシートに大きな穴の開いた状態となり、均一な異形繊維が得られないおそれがある。この引取速度の目安はドラフト率で表現され、通常10倍以上であり、20~400倍であることが好ましい。さらには300倍以下、特には20~200倍のドラフト率で引取られることが好ましい。ここでドラフト率が低すぎると繊維が太くなりすぎる傾向にある。逆に高すぎても糸切れが発生し、安定な網目状繊維シートの製造が困難になる傾向にある。ここでドラフトとは、繊維を伸張して樹脂の分子を配向させ、強度を向上させることである。またここで用いるドラフト率は、ダイを通る樹脂の線速度に対する引取り速度の比で表現されるものである。引取りの途中で、後に述べる延展を行う場合には、延展を行わない場合の速度に換算しドラフト率とする。
【0134】
さらに本発明で用いる網目状繊維シートの網目の大きさや、異形繊維の繊維径を調節する一つの方法に、樹脂の溶融粘度を変える方法がある。この溶融粘度を変える方法としては、例えば温度条件を変える方法、樹脂の重合度を変える方法、可塑剤などを使用する方法、またはこれらの組合せによる方法等があるが、温度条件を変える方法が最も簡単であり好ましい。また、紡糸での発泡性物質の添加量や温度条件、ドラフト率等により、前述の異形繊維の異型度や中空率、中空空隙の形状については、調整が可能である。
【0135】
本発明の異形繊維は、上記のような網目状繊維シートの状態を、その製造の途中工程で経るものであることが好ましい。網目状繊維シートの形態を経ることにより、容易に大きな倍率でのドラフトや延展が可能となり、安定的な生産性を確保できるのである。結果として、十分な強度を持った異形繊維が容易に得られる。本発明においては、不織布構造体中の異形繊維が内部に気泡を含有し、その断面形状が不規則な非円形断面であることが好ましい。しかし通常このような異形繊維は強度が弱く、工業的に安定して生産することが非常に困難であった。しかし上述のように一旦網目状繊維シートの形態を経ることによって、断糸等が少ない高強度の異形繊維を、安定して製造することができる。
【0136】
また、このような網目状繊維シートは、下記に述べる延展工程により、さらに均一かつ高強度の網目状繊維シートとすることができ、補強用繊維シートへの含浸性に優れるため、成形後の複合体について高い物性を得ることができる。ここで延展工程とは、網目状繊維シートをヨコ方向に延伸して、網目を拡げる工程のことをいう。その具体的な方法としては、例えば、網目状繊維シートをその両端を把持しながらヨコ方向に拡げる方法や円形状のスリットから押出された網目状繊維シートをスリットの直径方向に拡げる方法などがある。特に多数枚のシートを積層して、その両端を把持しつつヨコ方向に拡げる方法が好ましい。工業生産性が他の方法に比べ高いばかりでなく、積層により厚さ方向や幅方向の均一性が向上する。ヨコ方向へ拡げる方法は、上記の通り、両端のみを把持して拡げる方法、幅方向に幾つかのゾーンに分け、各ゾーンを拡げる方法、その他の方法等、いずれの方法であってもよい。上記の延展を行う場合、一枚の網目状繊維シートにそのまま行ってもよく、2枚以上積層して行ってもよい。2枚以上積層する場合、その枚数は2~2000枚、好ましくは10~1000枚の範囲が好ましい。なお、積層する網目状繊維シートは、同種の物でも良いし、異種ポリマーで作製した複数の網目状繊維シートを一緒に積層してもよい。さらには、短繊維からなる不織布ウェブや、スパンボンド不織布等の長繊維不織布などを組み合わせることも可能である。
(補強用繊維シート)
本発明の積層体に用いられる補強用繊維シートを構成する補強用繊維としては、耐熱性が350℃以上の補強用繊維であることが好ましい。
【0137】
具体的には、強度の高い炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維や、芳香族ポリアミド繊維等の有機合成繊維を用いることができる。さらにはこれらを単独または2種以上を併用しても良い。金属繊維としては、例えばステンレス繊維を挙げることができ、導電性・機械的特性において好ましい。また、強化繊維の表面に金属などを被覆したり蒸着させたりしてもよい。例えば、ニッケルコート炭素繊維は導電性において好ましい。特には高強度、高弾性率である炭素繊維やガラス繊維が好ましく、さらには高剛性の積層体を得るためには炭素繊維、より具体的にはポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系などの炭素繊維を挙げることが可能である。特には、PANを原料としたPAN系炭素繊維が、工業規模における生産性および機械的特性に優れており好ましい。
【0138】
また本発明で用いる補強用繊維としては、一方向に長い繊維形状であれば良く、一般的なファイバーやフィラメントのみでなく、いわゆるウィスカー等も含む概念である。
【0139】
より具体的に本発明に好適に用いられる補強用繊維を例示すると、ガラスファイバー、扁平断面ガラスファイバー、カーボンファイバー、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、およびセピオライトなどの無機充填材からなる繊維状物、アラミド繊維、ポリイミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維およびポリベンズチアゾール繊維などの耐熱有機繊維に代表され耐熱有機繊維、並びにこれらの繊維に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した繊維などが例示される。
【0140】
異種材料を表面被覆した繊維としては繊維状の形態であれば足り、例えば金属コートガラスファイバー、金属コートガラスフレーク、酸化チタンコートガラスフレーク、および金属コートカーボンファイバーなどが例示される。異種材料の表面被覆の方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の各種メッキ法(例えば、電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、およびスパッタリング法などを挙げることができる。
【0141】
これらの補強用繊維の中でも、ガラス繊維、炭素繊維およびアラミド繊維から選ばれる1種であることが好ましく、炭素繊維およびガラス繊維から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。またこれらの補強用の強化繊維は、1種のみを使用してもよく、複数種を使用してもよい。
【0142】
補強用繊維の太さ、いわゆる繊度としては、平均直径として3~20μmのものを使用することが好ましく、さらには5~15μmであることが好ましい。このような範囲では繊維の物性が高いだけではなく、最終的にマトリックスとなる熱可塑性樹脂中での分散性にも優れる。また、生産性の面から、この補強用繊維は、1000~50000本の単繊維が繊維束となったものであることも好ましい。
【0143】
また本発明の積層体に用いる補強用の繊維としては、最終的に樹脂を補強するためにも強度は高い方が好ましく、繊維の引張強度としては、3500MPa~7000MPaであることや、モジュラスとしては220GPa~900GPaであることが好ましい。最終的に高強度の成形品が得られる観点からも、補強用繊維としては特には炭素繊維が好ましく、PAN系炭素繊維であることがより好ましい。
【0144】
炭素繊維の表面はマトリックス樹脂との相溶性を高め、ポリプロピレン樹脂とポリカーボネート樹脂の分散性を向上する目的で酸化処理されることが好ましい。機構はまだ明らかではないが、炭素繊維の表面を酸化処理することで、表面の極性が向上し、非極性であるプロピレン樹脂と炭素繊維の密着性はより低下することになる。結果として、相対的に極性の高いポリカーボネート樹脂との密着性が向上するものと考えられる。
【0145】
酸化処理の度合は炭素繊維上の表面酸素濃度(O/C)によって定量することができる。炭素繊維上の表面酸素濃度(O/C)は、X線光電子分光法によって測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)との原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が0.15以上であることが好ましく、0.18以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。表面酸素濃度が0.15未満である場合、炭素繊維とポリカーボネート樹脂との密着性が不十分となる場合があり、好ましくない。なお、表面酸素濃度の上限は特に限定されないが、炭素繊維の取扱性、生産性のバランスから一般的に0.5以下であることが好ましい。
【0146】
酸化処理方法は特に限定されないが、例えば、(1)炭素繊維を酸もしくはアルカリまたはそれらの塩、あるいは酸化性気体により処理する方法、(2)炭素繊維化可能な繊維または繊維状炭素充填材を、含酸素化合物を含む不活性ガスの存在下、700℃以上の温度で焼成する方法、および(3)炭素繊維を酸化処理した後、不活性ガスの存在下で熱処理する方法などが好適に例示される。
【0147】
これらの補強用繊維の積層体中での存在形態としては、長繊維や短繊維のいずれの形態でも用いることが可能である。しかし、樹脂の補強の観点からは長繊維形状であることが好ましく、逆に得られる複合体の物性を等方性とする観点からは、短繊維を主とする構成であることが好ましい。ここで短繊維とは、長繊維ではない不連続繊維であることをいう。短繊維として用いる場合には、補強用繊維シートが、あらかじめ繊維の配向をランダムにした繊維集合体や不織布であることが好ましい。
【0148】
また、補強用繊維を短繊維(不連続繊維)として用いる場合には、その長さは300μm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることが更に好ましく、20mm以上であることが最も好ましい。また短繊維として用いる場合は100mm以下であることが好ましく、さらには80mm以下であることが、特には60mm以下であることが好ましい。このような繊維を不織布形状として用いた場合には、強度や寸法に対する異方性が改善される。
【0149】
一方補強用繊維を長繊維として用いる場合には、一方向性シートや、織物、編物、組紐、などのさまざまな形態で用いることができる。ただし最終的に得られる複合体の強度補強の面からは、一方向性シート(いわゆるUDシート)として用いることが好ましい。あるいは補強用繊維の一部または全部が一方向性繊維シートや一方向性テープであって、それらを部分的に用いることが好ましい。長繊維として用いる場合の特に好ましい形態としては、2軸や3軸等の織物であることも好ましい。さらにはこれらの繊維形態としては、部分的に1種または2種以上の形態を組み合わせて使用することも可能である。
【0150】
本発明に用いられる補強用繊維シートを構成する補強用繊維の含有量は、A成分とB成分との合計100重量部に対し、151~900重量部であり、好ましくは300~800重量部、より好ましくは400~700重量部、さらに好ましくは550~650重量部である。補強用繊維の含有量が151重量部未満では、繊維強化樹脂複合体の強度が十分に発揮されず、900重量部を超えると強化繊維の滑落が多数発生し、強度が不均一となる。
(積層方法)
さらに本発明の積層体は、上記のような熱可塑性樹脂シートと補強用繊維シートとを重ね合わせ、熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、補強用繊維シートを構成する補強用繊維の耐熱温度未満の温度で、加圧処理することにより繊維強化樹脂複合体とすることが可能である。
【0151】
熱可塑性樹脂シートと補強用繊維シートとの重量比率としては45:55~20:80の範囲であることが好ましく、35:65~25:75の範囲であることがより好ましい。また熱可塑性樹脂シートとしては、直径8mmの測定子のピーコックを使用して、荷重1.25N/cm2の条件下の厚さを測定した時の厚さは0.05~0.5mmが好ましく、0.1~0.3mmがより好ましく、目付は2~100g/m2の範囲内であることが好ましい。補強用繊維シートとしては、厚さは0.05~1.0mm、目付は100~2000g/m2の範囲内であることが好ましい。
【0152】
本発明の積層体は、このような薄い熱可塑性樹脂シートと補強用繊維シートとを複数枚重ねたものであって、重ね方としては交互に配列したものであることが、さらには表裏の最表面には熱可塑性樹脂シートを配置することが好ましい。補強用繊維シートの枚数は、好ましくは1枚~5枚、より好ましくは1枚~3枚、さらに好ましくは1枚~2枚である。
図4に、本発明の積層体の断面図の模式図を示す。
図4中、符号5は熱可塑性樹脂シート層で、符号6は補強用繊維シート層である。
<繊維強化樹脂複合体>
本発明の繊維強化樹脂複合体は、前述の本発明の積層体からなる。本発明の繊維強化樹脂複合体は、積層体を加圧処理することにより得られ、補強用繊維シートが熱可塑性樹脂シートを介して重ね合わさった構造を有する。積層体の熱可塑性樹脂シートの一部は、補強用繊維シートに含浸しているが、基本的には、積層体と同様な断面形状を有する。
図5に本発明の繊維強化樹脂複合体の断面図の模式図を示す。
図5中、符号5は熱可塑性樹脂シート層で、符号6は補強用繊維シート層である。
<繊維強化樹脂複合体の製造方法>
本発明の繊維強化樹脂複合体は、本発明の積層体を加圧処理することにより得られる。具体的には、前述の積層体を、熱可塑性樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂の溶融温度以上、補強用繊維シートを構成する補強用繊維の耐熱温度未満の温度で、加圧処理することにより製造することができる。
【0153】
この方法により、補強用繊維の周囲を熱可塑性樹脂によって包囲するのであるが、複合体の物性を向上させるためにも空隙が存在しないことが好ましい。加圧処理の温度としては使用する熱可塑性樹脂にもよるが200~340℃、さらには240~330℃の範囲であることが好ましい。処理時間としては1~30分程度が好ましく、1~10分程度がより好ましく、特には3~10分の範囲であることが好ましい。加工時のプレス圧力としては2~30MPa、さらには5~20MPaの範囲内であることが好ましい。
【0154】
本発明者らが現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0155】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(I)熱可塑性樹脂シートの評価
(I-1)目付(繊維状シートの場合)
JIS L 1913に準じて測定した。
(I-2)異型度(繊維状シートの場合)
図3に示される単繊維横断面の外接円直径D1と内接円直径D2との比(D1/D2)を算出し、異型度とした。なお異形度は繊維20本分の異形度の平均値で表した。
(I-3)中空率(繊維状シートの場合)
デジタル化した繊維断面写真を、画像解析システム、ピアス-2(ピアス(株)製)を用い、繊維の断面積(中空部を含む)と中空部面積を測定し、その面積比から中空率(%)を算出した。なお中空率は繊維20本分の中空率の平均値で表した。
(I-4)平均厚み(フィルム状シートの場合)
直径8mmの測定子のピーコックを使用して、荷重1.25N/cm
2の条件下の厚さを測定した。なお測定はフィルムの両端部および中心部の三点を測定し、これらの平均値を平均厚みとした。
(II)積層体および繊維強化樹脂複合体の評価
(II-1)成形加工性
実施例および比較例で得られた積層体を予熱したホットプレスに挿入して、温度250℃およびプレス時間10分の条件下、15MPaのプレス圧にて、繊維強化樹脂複合体を成形するときの成形加工性を以下の基準で評価を実施した。
【0156】
○: 成形時にガス発生がなく、表面外観の良い成形品が得られる
△: 成形時にややガス発生するが、表面外観には影響しない
×: 成形時にガス発生が多く、表面外観の悪い成形品が得られる
(II-2)空隙数
実施例および比較例で得られた積層体を予熱したホットプレスに挿入して、表3~表5に示す条件(温度、プレス時間、プレス圧)にて、繊維強化樹脂複合体を得た。得られた繊維強化樹脂複合体の断面を走査電子顕微鏡(SEM、JEOL社製、JSM-6100)にて、倍率100倍で観察し、空隙数を断面中の気泡の数で評価した。気泡の大きさは強化繊維径より大きなものをカウントし、数は3個以下であれば強化繊維への樹脂の含浸性は良好である。
(II-3)曲げ弾性率
実施例および比較例で得られた積層体を予熱したホットプレスに挿入して、表3~表5に示す条件(温度、プレス時間、プレス圧)にて、繊維強化樹脂複合体を得た。得られた繊維強化樹脂複合体から、長さ80mm、幅10mmのサイズを切り出しサンプル片とし、ISO178に準拠して曲げ弾性率を測定した(測定条件:試験速度2mm/min、試験温度23℃)。なおサンプル片はお互いが垂直になるような二方向で切り出し、曲げ弾性率はその二方向の曲げ弾性率の平均値として評価を実施した。
(II-4)曲げ強度
実施例および比較例で得られた積層体を(II-2)と同様な方法でサンプル片を作成し、ISO178に準拠して曲げ強度を測定した(測定条件:試験速度2mm/min、試験温度23℃)。なおサンプル片はお互いが垂直になるような二方向で切り出し、曲げ強度はその二方向の曲げ強度の平均値として評価を実施した。
(II-5)外観
実施例および比較例で得られた積層体(II-2)と同様なサンプル片を作製し、目視でサンプルを確認し、以下の基準で評価をした。
【0157】
〇:繊維が均一に積層されており、表面外観が良好である。
【0158】
△:繊維が一部不均一に積層されているが、表面外観には影響しない。
【0159】
×:繊維が不均一に積層されており、表面外観が悪い。
[使用組成]
実施例では、下記の成分を使用した。
(A成分)(ポリプロピレン樹脂)
A-1:ホモポリプロピレン樹脂[(株)サンアロマー製「VS200A」、MFR(230℃、2.16kg荷重)=0.5g/10min]
A-2:ホモポリプロピレン樹脂[(株)プライムポリマー製「プライムポリプロJ105G」、MFR(230℃、2.16kg荷重)=9g/10min]
(B成分)(ポリカーボネート樹脂)
B-1:モノマー成分として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンからなるポリカーボネート樹脂[MVR(300℃、1.2kg荷重)=8.5cm3/10min]
B-2:モノマー成分として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび下記式〔14〕で表されるポリジオルガノシロキサン化合物(式中の平均繰り返し数 p=約37)からなる共重合ポリカーボネート樹脂[MVR(300℃、1.2kg荷重)=5.5cm3/10min、ポリジオルガノシロキサン成分含有量8.2%]
【0160】
【0161】
(C成分:変性ポリオレフィン樹脂)
C-1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂[三菱化学(株)製、「SCONA TPPP 9212GA」(製品名)]
C-2:無水マレイン酸とα-オレフィンとの共重合体である酸変性オレフィンワックス[三菱化学(株)製「ダイヤカルナDC30M」(製品名)]
(D成分:スチレン系熱可塑エラストマー)
D-1:スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体[スチレン含有量:65wt%、MFR:0.4g/10min、(株)クラレ製 セプトン2104(製品名)]
(補強用繊維)
FI-1:炭素繊維一方向テープ[東邦テナックス(株)製「F-22」、繊維径=7μm]
FI-2:炭素繊維織布[東邦テナックス(株)製「W3101」、目付=200g/m2、厚さ0.25mm、繊維径=7μm]
FI-3:ニッケルコート炭素繊維テープ[東邦テナックス(株)製「HTS40 MC」、繊維径=7.5μm、幅10mm]
FI-4:ガラス繊維織布[日東紡株式会社製「WF150」、目付=144g/m2、厚さ0.22mm、繊維径=13μm]
FI-5:アラミド繊維不織布[帝人株式会社製「テクノーラ EF200」、目付=200g/m2、繊維径=12μm]
FI-6:炭素繊維シート[東邦テナックス(株)製:HT C422 6mm、長径7μm、カット長6mmの炭素繊維を加圧して幅300mm、長さ300mmのシート状にしたもの]
[製造例1~9、11~14](熱可塑性樹脂の繊維で構成されたシートの製造)
表1に記載のポリプロピレン樹脂組成物を、80℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、発泡剤として窒素ガスを溶融混合し(窒素封入圧=3MPa)、二軸押出機から表に記載の押出温度で押出し、ダイ出口で急冷しながら表に記載の紡糸速度で引取り、中空網目状繊維シートとして巻き取った。この中空網目状繊維シートの評価を表1に示す。
[製造例10](熱可塑性樹脂シート(フィルム状)の製造)
表1に記載のポリプロピレン樹組成物を、80℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、二軸押出機から表に記載の押出温度で押出し、ダイ出口で急冷しながら表に記載の厚みのフィルム状の熱可塑性樹脂シートを作成した。このフィルム状シートの評価を表1に示す。
[製造例15]
表1に記載のポリプロピレン樹脂組成物を、80℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、発泡剤として窒素ガスを溶融混合し(窒素封入圧=3MPa)、二軸押出機から表に記載の押出温度で押出し、ダイ出口で急冷しながら表に記載の紡糸速度で引取り、中空網目状繊維シートとして巻き取った。得られた中空網目状繊維シートを7枚積層してベルトにより送り出し、その両端を把持しつつヨコ方向に延展倍率7倍で延展させた後、150℃加熱処理を施し、巻き取った。この中空網目状繊維シートの評価を表1に示す。
[実施例1~18、比較例1~6]
製造例1~15で得られた熱可塑性樹脂シートおよび補強用繊維シートを表2および表3に示す割合となるように積層し、積層体とした。
【0162】
積層体を予熱したホットプレスに挿入して、表2および表3に示すプレス条件(温度、プレス時間、プレス圧)にて、繊維強化樹脂複合体(FRP成形体)を得た。なお積層の際に、補強用繊維が偏らないように配慮し、また繊維強化樹脂複合体の厚みは、予め加熱加圧後に目的の厚みになるように、熱可塑性繊維シートおよび補強用繊維の量を調整した。最終的に得られた繊維強化樹脂複合体の評価を表2および表3に示す。
【0163】
【0164】
【0165】
【符号の説明】
【0166】
1.異形繊維断面
2.気泡
3.外接円
4.内接円
5.熱可塑性樹脂シート層
6.補強用繊維シート層