(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】水硬性組成物用の促進混和剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/04 20060101AFI20240925BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240925BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240925BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20240925BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20240925BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240925BHJP
C04B 24/30 20060101ALI20240925BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20240925BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240925BHJP
C04B 103/10 20060101ALN20240925BHJP
【FI】
C04B24/04
C04B24/12 A
C04B24/06 A
C04B24/18 B
C04B24/22 B
C04B24/26 D
C04B24/30 C
C04B24/38 C
C04B28/02
C04B103:10
(21)【出願番号】P 2023043746
(22)【出願日】2023-03-20
(62)【分割の表示】P 2020516396の分割
【原出願日】2018-09-21
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】102017000107064
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】501292728
【氏名又は名称】マペイ ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】MAPEI S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ、 ジョルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ブロッチ、 アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】スクインジ、 マルコ
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-508709(JP,A)
【文献】特開平06-040756(JP,A)
【文献】特開2008-201612(JP,A)
【文献】特開2010-235399(JP,A)
【文献】特開昭58-181752(JP,A)
【文献】特開2008-169055(JP,A)
【文献】特開2009-203145(JP,A)
【文献】特表平09-500605(JP,A)
【文献】特開2001-158650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C-S-Hシードをベースとする水硬性組成物用の促進混和剤の調製方法であって、ポルトランドセメント
ベースの水硬性結合剤または主にケイ酸塩ベースの他の水硬性結合剤の水性懸濁液中で、カルボン酸、そのカルシウム塩、ポリエタノールアミン、またはそれらの混合物の存在下、水/結合剤の比(W/B)が1~6の範囲で、
20℃~90℃の範囲の温度で、2時間~300時
間水和することを含み、粉砕段階を含ま
ず、前記水和は、前記水硬性結合剤を、前記カルボン酸、そのカルシウム塩、ポリエタノールアミン、またはそれらの混合物に添加することを含む、促進混和剤の調製方法。
【請求項2】
前記カルボン酸が、ギ酸または酢酸またはそれらのカルシウム塩である
、請求項1に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項3】
水和がギ酸カルシウムの存在下で行われる、請求項1または2に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項4】
前記ポリエタノールアミンが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンおよびジエタノールイソプロパノールアミンから選択される、請求項1に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項5】
前記カルボン酸
またはそのカルシウム塩、およびポリエタノールアミンが、ポルトランドセメントまたは主にケイ酸塩ベースの他の水硬性結合剤の重量の2%~40%の範囲の量で存在する、請求項1~4のいずれか1項に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項6】
分散剤、粘度制御剤
または安定化剤が、水和の間または水和反応の終わりに添加される、請求項1~5のいずれか1項に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項7】
前記分散剤が、グルコン酸およびその塩、ポリエーテルカルボキシレート系ポリマー、リグニンスルホネート、ナフタレンスルホネートおよびメラミンスルホネートとホルムアルデヒドとの縮合物、ならびに多糖類およびホスホン化ポリマーの誘導体である、請求項6に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項8】
前記粘度制御剤が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)から選択される多糖誘導体、および/または平均分子量が500,000g/molを超える、(メタ)アクリルアミドおよびスルホン化モノマーの非イオン性モノマーから誘導される構造単位を含有する(コ)ポリマー、または変性ポリ尿素である、請求項6に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項9】
前記安定化剤が、シュウ酸、またはクエン酸およびリンゴ酸から選択されるヒドロキシカルボン酸、またはそれらの塩である、請求項6に記載の促進混和剤の調製方法。
【請求項10】
カルボン酸、そのカルシウム塩、ポリエタノールアミンまたはそれらの混合物の存在下で、ポルトランドセメントベースの水硬性結合剤または主にケイ酸塩ベースの他の水硬性結合剤の水性懸濁液中での水和を含み、粉砕段階を含まない、C-S-Hシードに基づく水硬性組成物用の促進混和剤の調製方法
であって、前記水和が、前記水硬性結合剤を、前記カルボン酸、そのカルシウム塩、ポリエタノールアミン、またはそれらの混合物に添加することを含み、水和反応が20℃~90℃の範囲の温度で行われる、促進混和剤の調製方法。
【請求項11】
前記水和反応が、20℃~80℃の範囲の温度で、大気圧で撹拌タンクまたは反応器中で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
撹拌が、連続的または不連続的になされ、アンカーまたはローター撹拌機でなされ、任意に超分散システムと結合してなされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
懸濁液の乾燥重量の3%~40%の範囲の量の炭酸ナトリウムが、水和で得られた懸濁液に添加される、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ポルトランドセメント、および粉砕粒状高炉スラグ、フライアッシュ、焼成クレーまたはそれらの混合物から選択される補助セメント質材料、に基づく水硬性結合剤に基づく組成物の製造のための、請求項1~9のいずれか1項に記載の調製方法により製造された促進混和剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、ポルトランドセメントおよび他の補助セメント質材料をベースとする水
硬性組成物用の硬化促進剤を含む新規な混和剤である。
【背景技術】
【0002】
硬化促進剤は、短い硬化時間でセメント混合物の機械的強度を増加させるために建設業
界で広く使用されている混和剤である。それらの使用は鋼材のより迅速な取り外し、従っ
てそのより迅速な回収および再使用の必要性、または構造材が配置後数日で既にかなりの
荷重を受けている場合には、作業がより迅速に進行することを可能にする必要性によって
決定される。低温はセメント水和反応を遅くし、その結果、構造体が自立するのに十分な
機械的強度値に達するのに長い硬化時間が必要とされるので、促進混和剤の使用は、最も
寒い気候の地理的領域および期間において最も広く行われている。促進混和剤はセメント
水和反応速度を促進するので、短い硬化時間で機械的強度を増加させるが、長い時間をか
けて水と反応するセメントの総量には影響を及ぼさず、したがって、製品の最終機械的強
度を実質的に変化させない。
【0003】
塩化物、フッ化物、炭酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、チオ硫酸塩およびチオシアネートを含
む多くの無機化合物が促進特性を有することが知られている。促進剤として使用される有
機化合物としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、尿素、グリオキサール
およびギ酸塩が挙げられる。
【0004】
塩化物および硝酸塩、特に塩化カルシウムおよび硝酸カルシウムは最も有効な促進剤の
1つであるが、鉄筋の腐食を促進するという欠点を有し、その結果、鉄筋コンクリートに
おけるそれらの使用は排除される。ギ酸カルシウムは前記危険性を示さず、セメント塊の
少量の重量パーセンテージが添加される場合、硬化促進剤として作用する。その使用に関
する最大限の限界は水中でのその低い溶解度にあり、これは水溶液中でのその使用を妨げ
、したがって、混合の際にコンクリートに直接添加される粉末形態で使用されなければな
らない。
【0005】
トリエタノールアミンのような他の有機促進剤は低用量(セメント重量の0.025重
量%)でセメント水和促進剤として作用するが、高用量(セメント重量の0.06重量%
)では水和速度を低下させる。
【0006】
促進剤の作用は主に、セメントを構成するケイ酸塩相、特にポルトランドセメントの主
要成分であるケイ酸三カルシウム、3CaO・SiO2に対して行われる。セメント化学
ではC3S(C=CaO、S=SiO2)と略されるケイ酸三カルシウムの重要性は、ポルトラ
ンドセメントの最も豊富な成分(50~70%)であり、とりわけセメント質ペーストの
硬化に寄与するためである。この相と水との反応のために、セメントは硬化し、数時間で
、流し込み可能な可塑性の塊から、かなりの機械的応力に耐えることができる硬化した凝
集体に変化する。ケイ酸三カルシウムの水和反応は次の通りである。
C3S+(3-x+y)・H2O→(3-x)・Ca(OH)2 +CxSHy
水によるC3Sの水和によって形成される生成物、すなわちケイ酸カルシウム水和物は
成分が不確定な化合物であり、種々の成分(C=CaO、S=SiO2、H=H2O)の割合は、時
期および硬化状態によって変化する。この理由のために、そして明確な結晶構造が存在し
ないので、前記化合物は一般的に、「ケイ酸カルシウム水和物ゲル」の名称およびC-S-
Hの表記によって示される。C-S-Hはセメント顆粒を覆い、大きな表面積を特徴とする
多孔質製品であり、数ミクロンまでの長さおよび数十分の1ミクロンの厚さを有する繊維
状粒子の塊として存在し、その連結がセメントの結合特性を決定するのに寄与する。
【0007】
上記促進剤の作用メカニズムは未だ完全には解明されていないが、前記化合物は、表面
吸着プロセス、イオンキレート化、不溶性塩の沈殿、および水和相の微細構造の改質によ
って、C3S水和反応を促進すると考えられる。硬化促進剤に関する科学文献および特許
文献の広範な総説は、Collepardi, M., "Scienzae Tecnologia del Calcestruzzo", Hoep
li Editore, Milano, 1987, pp. 335-337, in Ramachandran, V.S., "Concrete Admixtur
es Handbook - Second edition", Noyes Publications, Park Ridge, N.Y., 1995, pp. 1
85-273 and pp. 1047-1049, and Cheung, J. et al., "Impact of Admixtures on the Hy
dration Kinetics of Portland Cement", Cement and Concrete Research, 41, 2011, pp
. 1289-1309に見ることができる。
【0008】
C-S-HはC3Sの水和促進剤として作用し得ることが報告されている(Kondo, R., Da
imon, M., J. Am. Ceram. Soc. 52, 1969)。これらの結果は硝酸カルシウム溶液およびメ
タケイ酸ナトリウム溶液からの沈殿によって得られる合成C-S-Hを使用して最近確認さ
れた(Thomas, J.J. et al., J. Phys. Chem., 113, 2009, pp. 4327-4334)。ポルトラ
ンドセメントペーストへの前記沈殿物の添加はセメントのC3Sの水和によるC-S-H生
成物用の結晶化シードとして作用し、セメント粒子上および混和剤の毛管多孔性中の両方
で、その核形成および沈殿を促進し、その結果、硬化した集塊の機械的強度の促進された
発達および改善された耐久性特性をもたらすことが実証された。
【0009】
国際公開第2010026155号パンフレットは、硬化促進剤として有用なC-S-
Hを製造するためのプロセスを説明している。そこではカルシウムイオンおよびシリケー
トまたはシリカイオンを含む水性液体から、セメント混合物用の分岐ポリマー超可塑剤(
「くし状ポリマー」)が存在するもとで、カルシウムシリケート水和物を沈殿させている
。
【0010】
前記化合物の例は、マレイン酸、アクリル酸およびビニルオキシブチル-ポリエチレン
グリコール-5800のターポリマーに基づく約40,000g/molの分子量(Mw
)を有するポリカルボキシレートエーテル、約73,000g/molの分子量(Mw)
を有する、マレイン酸、アクリル酸およびビニルオキシブチル-ポリエチレングリコール-
12000のターポリマー、ならびにメタクリル酸およびメタクリル酸メトキシポリエチ
レングリコール-5,000のコポリマーに基づく、約40,000g/molの分子量
(Mw)を有するポリカルボキシレートエーテルである。
【0011】
国際公開第2010026155号パンフレットに記載された方法の1つの欠点は高濃
度のアルカリおよび硝酸アニオンの存在であり、これらは、反応副生成物として最終生成
物中に残存する。存在するアルカリ金属は、ある種の骨材中に存在するアモルファスシリ
カ部分と反応して、硬化したコンクリートに亀裂および構造の劣化を引き起こす点までの
張力を生じさせる膨張反応(ASR-アルカリシリカ反応)を生じさせるので、コンクリ
ート劣化の潜在的な原因となる。硝酸塩アニオンは、鉄筋を腐食させるので、鉄筋コンク
リートの製造におけるその混和剤の使用は排除される。
【0012】
前記方法によって製造される製品の市販の例は製品マスターX-シード100(BAS
F)であり、そのデータシートは5%のアルカリ含量を示す。
【0013】
米国特許第5,709,743号は、水性懸濁液の形態で、シリカ質水硬性結合剤の懸
濁液の水和および粉砕によって得られる、シリカ質結合剤用の硬化および硬化促進剤の使
用を特許請求している。C-S-Hシードの促進効果に基づく混和剤は0.6~25の水対
結合剤重量比(W/B)を形成するような量の水の存在下で、5℃~90℃の温度で、ポ
ルトランドセメントまたはシリケート相に富む他の水硬性結合剤を水和し、得られた懸濁
液を、所望の粒径が得られるまで微粉砕ミル中で粉砕プロセスに供することによって得ら
れる。別法として、水和および粉砕段階が同時であり得、そして例えば、コランダムボー
ルを有する磁器ミル中で実施され得る。最終生成物は、5重量%~55重量%の範囲の固
形分と、2日後に最初の高さの少なくとも60%に達する沈降とを有する。
【0014】
この方法の欠点はセメントおよび水懸濁液を湿式粉砕する必要があり、大規模な工業的
ミルを必要とし、かなりのエネルギー消費および維持コストを伴うことである。
【0015】
ポルトランドセメントのケイ酸塩相に主に作用する今日までに開発された硬化促進剤は
、ポルトランドセメントが部分的にまたは全体的に代替結合剤、特に、ポルトランドセメ
ントの消費を低減するために使用される、石炭運転火力発電所からのフライアッシュまた
は鋳鉄製造プロセスで得られる地上造粒高炉スラグのような他のタイプの製造に由来する
工業的副産物に置き換えられる水力システムに対して等しく有効ではない。
【0016】
これらの補助セメント質材料はより長い硬化時間(混合後60日)における機械的強度
の発達にのみ寄与するが、短い硬化時間(24時間以下)ではそのような寄与はしない。
その結果、15~20%以下のポルトランドセメントを補足セメント質材料で置き換える
ことができ、さもなければ、コンクリート硬化段階において過剰な初期遅延が生じ、短い
硬化時間で機械的性質が低下し、建設プロセスが許容できないほど遅くなる。実際に、注
入されたコンクリートが自立するのに十分な機械的強度値に達するまで、鋼型は取り外す
ことができず、建設作業を進めることができない。
【発明の概要】
【0017】
本発明は水性懸濁液中のC-S-Hシードに基づく新規な混和剤であって、ポルトランド
セメントまたは他のケイ酸塩ベースの水硬性結合剤から得られ、セメント混合物の機械的
強度の急速な発達を促進するのに非常に有効であり、同時に、今日までに開発された促進
混和剤の欠点を全く示さない促進混和剤を製造することができる混和剤に関する。
【0018】
本発明は、前記混和剤を得るための方法に関する。特に、本発明による方法は国際公開
第2010026155号パンフレットに記載されている方法とは異なり、最終生成物に
アルカリまたは硝酸イオンを導入せず、したがって、生成物がコンクリートに使用される
場合に、アルカリ骨材反応および鉄筋の腐食を促進する危険性を増大させない。さらに、
本発明による方法は米国特許第5,709,743号とは異なり、C-S-Hシードの最大
効力および得られる懸濁液の安定性を確実にするための粉砕段階を必要としない。
【0019】
本発明による混和剤は単独または炭酸ナトリウムとの配合物のいずれかで、フライアッ
シュおよび粉砕粒状高炉スラグのような補助セメント質材料を活性化するのに特に有効で
あり、ポルトランドセメントがほとんどまたは全く存在しない場合でさえ、それらの硬化
を促進する。この特性は、短い硬化時間で機械的強度を損なうことなく、水硬性組成物中
の補助セメント質材料の置換割合をかなり増加させる。
【0020】
本発明の重要な態様は、ポルトランドセメント(またはケイ酸塩ベースの他の水硬性結
合剤)の水和反応が、カルボン酸またはそのカルシウム塩、ポリエタノールアミンまたは
それらの混合物の存在下、水性懸濁液中で行われることである。驚くべきことに、水硬性
結合剤の水和反応を、米国特許第5,709,743号に記載されているような純水中で
行う代わりに、前記化合物、特にギ酸、酢酸またはそれらのカルシウム塩、モノエタノー
ルアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン、イソプロパノールアミンま
たはそれらの混合物の水溶液中で行うことによって、最終生成物の促進特性が驚くほど改
善され、こうして得られた生成物の得られた水性懸濁液は完全に安定であり、もはや沈降
プロセスの対象ではないことが見出された。
【0021】
これらの結果は、本発明による生成物の形成をもたらす合成プロセスを特徴付ける水熱
条件下での、反応媒体で極めて豊富であるカルシウムイオンと有機物質(カルボン酸また
はアミノ化合物)との間の化合物の形成に起因すると思われる。一般にMOF(Metal-Organi
c Frameworks)と呼ばれるこれらの化合物は、本質的に、硬質有機結合剤と配位した金属
イオンからなる結晶性材料であり、非常に高い多孔度を有する1次元、2次元または3次
元構造を生成する。物質中の空の空間は、その体積の90%に達することができ、600
0m2/gを超え得る非常に大きな内表面積を有する(Zhou, H., Long, J.R. and Yaghi,
O.M., Chem. Rev, 2012, 112 (2), pp. 673-674)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例4の試料の環境制御型電子顕微鏡写真である。
【
図2】比較例2の試料の環境制御型電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例14の試料および実施例5の試料のXPRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に従って使用されるカルボン酸またはそのカルシウム塩およびポリエタノールア
ミンの量は、ポルトランドセメントまたは他の主にケイ酸塩ベースの水硬性結合剤の重量
の2%~40%、好ましくは5%~25%、さらにより好ましくは10%~20%の広い
範囲内で変化する。ポルトランドセメント及び規格UNI-EN197-1:2006に
記載されているその他のセメントの全種類は、本発明に便利に使用できる。
【0024】
セメントの例は、クリンカーおよび石膏(タイプCEM I)のみに基づくもの、石灰石セメ
ント(タイプCEM II/A-L、CEM II/B-L、CEM II/A-LL、CEM II/B-LL)、高炉スラグ
セメント(タイプCEM II/A-S、CEM II/B-S)、およびポゾランセメント(タイプCEM IV
/A、CEM IV/B)である。最も高いケイ酸塩相含有量を有するセメントは、水和によって最
大量のC-S-Hシードを生成することができるので、当然好ましい。
【0025】
本発明の目的に有用な方法で結合剤の水和を発現させるのに必要な水の量は、W/B=1~
W/B=6、好ましくはW/B=1.5~W/B=4、さらにより好ましくはW/B =2~W/B=3の範囲
の水/結合剤比の広い範囲内で変化する。
【0026】
本発明による化合物を含有する水溶液中の結合剤の水和は、好ましくは撹拌タンクまた
は反応器中で、大気圧および10℃~90℃、好ましくは20℃~80℃、さらにより好
ましくは40℃~60℃の範囲の温度で、2時間~300時間の範囲の時間行われる。
【0027】
撹拌はアンカーまたはローター撹拌機を用いて連続的または不連続的であり得、これは
反応の間の塊の均質化を保証するために有効でなければならない。補助的な超分散系は、
従来の撹拌系と都合よく結びつけることができる。
【0028】
操作上の観点から、反応器またはタンクは、本発明による化合物が溶解される定められ
た量の水で満たされる。温度を反応のために定められた値に調節し、水硬性結合剤を撹拌
しながら徐々に添加する。
【0029】
水和反応は、分散剤、粘度制御剤または安定剤のような補助成分の存在下で実施して、
最終生成物に所望の特性を与えることができる。使用することができる分散剤には、例え
ば、グルコン酸およびその塩、ポリエーテルカルボキシレート系ポリマー、リグニンスル
ホネート、ナフタレンスルホネートおよびメラミンスルホネートとホルムアルデヒドとの
縮合物、多糖誘導体およびホスホン化ポリマーが含まれる。使用することができる粘度制
御剤は、炭酸ナトリウム;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHE
C)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)を含む群から選択される多糖誘
導体、および/または(メタ)アクリルアミドおよびスルホン化モノマーの非イオン性モ
ノマーから好ましくは誘導される構造単位を含有する、平均分子量が500,000g/
molを超える、好ましくは1,000,000g/molを超える(コ)ポリマーまた
は変性ポリ尿素である。ヒドロキシカルボン酸またはその塩、例えばクエン酸、リンゴ酸
またはシュウ酸を安定剤として使用することができる。あるいは、前記補助成分が水和反
応の終わりに添加することができる。
【0030】
水和段階中または水和段階の終わりに炭酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムを添加する
と、ポルトランドセメントが存在しなくても、フライアッシュ、粉砕粒状高炉スラグおよ
び焼成クレーなどの補助セメント質材料の水硬性が効果的に促進される。したがって、炭
酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムと組み合わせて、本発明による混和剤は、「ジオポリ
マー」またはアルカリ活性化結合剤として知られる、ポルトランドセメントを使用しない
水硬性混合物剤、すなわちアルミノケイ酸塩構造単位が炭酸ナトリウムに由来するナトリ
ウムイオンと縮合する結合剤系の製造に都合よく使用することができる。添加される炭酸
ナトリウムの使用可能な量は、水和懸濁液の乾燥重量の3%~40%、好ましくは5%~
30%、さらにより好ましくは10%~20%の範囲である。
【0031】
本発明による促進剤は場合により炭酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムと組み合わせて
、「ジオポリマー」結合剤に基づく混和剤の活性化剤として、また通常の可塑化および超
可塑化混和剤と組み合わせて使用することができ、この態様は、アルカリシリケートおよ
びアルカリ水酸化物に基づくものなどの一般的な「ジオポリマー」活性化剤が可塑剤およ
び超可塑剤の使用と相容れないことが知られているので、最新技術のかなりの改善を表す
ことに留意されたい。
【0032】
本発明による促進剤は混合水および他の混和剤と一緒にコンクリート製造ユニットに添
加することができ、または場合により乾燥後に固体形態で、混和剤の他の成分、例えばセ
メント、フライアッシュまたは他の補助セメント質材料と予備混合することができる。本
発明による促進剤は、クリンカー粉砕段階中に添加することもできる。本発明による促進
剤の典型的な用量は、セメントミックスの製造に使用されるセメント質材料の重量の1%
~60%、好ましくは2%~45%、さらにより好ましくは5%~35%の範囲でよい。
【実施例】
【0033】
本発明の詳細な特徴は、以下の実施例に記載される。
【0034】
実施例1
ギ酸カルシウム56gを80℃の1400gの水に溶解し、得られた溶液を、ギ酸カル
シウムが完全に溶解するまで、2000mlのガラスビーカー中で機械的撹拌機を用いて
撹拌しながら維持した。規格UNI-EN197-1:2006の分類に従うポートラン
ドセメントタイプ52.5Rの560gを、温度80℃で30秒以内に当該液体に添加し
た。
使用した52.5Rセメントの特性を以下の表に示す。
【0035】
【0036】
撹拌下、80℃の温度で6時間、水和反応を続けた。反応の間、生成物は流体懸濁液の
形態のままであり、その灰色は、時間が経つにつれてより青白くなる傾向があった。反応
の終わりに、生成物を冷却し、プラスチック容器に移した。約2000gの生成物が得ら
れ、105℃で測定した乾燥物質含量は32%であり、一定重量であった。
【0037】
比較例1
表1の52.5Rセメント560gを、実施例1に記載したのと同じ手順によって80
℃で水1400gに添加した。水和反応を、撹拌下、80℃の温度で6時間続けた。反応
の間、生成物は流体懸濁液の形態のままであり、その灰色は、時間が経つにつれてより青
白くなる傾向があった。反応の終わりに、生成物を冷却し、プラスチック容器に移した。
約1950gの生成物が得られ、105℃で測定した乾燥物質含量は31.5%であり、
一定重量であった。
【0038】
実施例2
実施例1と比較例1の製品は、規格UNI-EN197-1:2006に規定されてい
る通り、プラスチックモルタル試験において、標準砂と砂/セメント比=3を用いて硬化
促進剤として評価した。プラスチックモルタルを製造するために使用したセメントは、表
1と同じCEMI 52.5Rセメントであった。所望の加工性を達成するために、ポリ
エーテルカルボキシレート系ポリマーをベースとする超可塑化混和剤Dynamon SP1(Ma
pei)を使用した。全ての混合物は、水/セメント比W/C = 0.42で調製し、種々の
場合に混合水として混合物と共に導入された水を計測した。
【0039】
広がり測定(spreading measurement)の後、4cm×4cm×16cmの寸法を有する
プリズム状試験片をモルタルで作製し、標準的な実験室条件(20℃および95% R/H)下
で硬化させた。それらの圧縮強度は、7時間および24時間の硬化後に測定した。モルタ
ルの組成および特性を以下の表2に示す。他の2つのミックス(ミックス3およびミック
ス4)を比較のために作製した。ミックス3は、比較例1の生成物に、実施例1の生成物
によってミックスに導入されたのと同じ量のギ酸カルシウム(2.5g)を別々に添加す
ることによって作製した。ミックス4は、実施例1で導入されたのと同じ量(2.5g)
のギ酸カルシウムのみを含有する。実施例1および比較例1の混和剤の割合は、いずれの
場合も、セメントの重量のパーセンテージとして乾燥物質6.2%であった。
【0040】
【0041】
表2の結果から分かるように、本発明の実施例1の混和剤を含有するミックス1は、機
械的強度を最も急速に発揮するものである(7時間硬化後14.5MPa)。
ミックス2で使用した比較例1の生成物をギ酸カルシウムなしで合成し、7時間の硬化後
、本発明による生成物の機械的強度の約半分(7時間の硬化後7.8MPa)を発揮させ
た。比較例1の生成物に、実施例1の生成物と共に導入された量(2.5g)と同量のギ
酸カルシウムを添加しても、機械的強度の発達は実質的に変化せず、7時間後の機械的強
度値は7.8MPaから8.0MPaに増加した。ミックスに直接添加されたギ酸カルシ
ウムの適度な寄与は、ギ酸カルシウムのみを含有するミックス4の低い強度値によっても
確認され、これは7時間後にわずか1.4MPaの機械的強度が生じた。24時間の硬化
後、全てのミックスが同じ水/セメント比を有するので、全ての試験片は予想されたのと
同等の機械的強度値に達した。
【0042】
この実施例の結果は、純水(比較例1)の代わりにギ酸カルシウム溶液(本発明による
実施例1)中で水硬性結合剤の水和反応を実施することによって、最終生成物の促進特性
が驚くほど改善され、この改善が同じ条件下で、等量のギ酸カルシウムと、ポルトランド
セメントを水のみの中で水和することによって得られた混和剤との単なる組合せの効果を
大幅に超えることを実証する(比較例1)。
【0043】
実施例3
この実施例では、実施例1の合成でのギ酸カルシウム(CaF)を、以下の表3に示す
処方に従って、他の物質で置き換えた。具体的には、100%酢酸カルシウム(CaAC)
(レシピ3A)、ジエタノールアミン(DEA)85%水溶液(レシピ3B)、およびト
リエタノールアミン(TEA)85%水溶液(レシピ3C)を使用した。使用したセメン
トの種類は実施例1のものと同じであり、合成方法も同様である。比較として、ギ酸カル
シウムを、セメント水和促進剤として一般に使用される等量の100%硝酸カルシウム(
CaN)(レシピ3COMP)で置き換えた実施例1の合成と同じ条件下で合成を行った。
【0044】
【0045】
以下の表4は、表3の処方に従って合成された生成物を用いて製造されたモルタルの特
性を示す。
【0046】
【0047】
表4の結果から分かるように、酢酸カルシウム、モノエタノールアミンおよびトリエタ
ノールアミンで製造された混和剤を用いて製造された混合物はすべて、短い硬化時間(7
時間)で非常に高い機械的強度を発揮し、これは酢酸カルシウムのものと同一である。混
和剤3COMPは最も強力なセメント促進剤の1つ硝酸カルシウムを用いて製造されるが
、水のみを用いて合成された生成物(比較例1、表2、ミックス2)と同一の、はるかに
低い機械的強度を発揮した。
【0048】
実施例4
ギ酸カルシウム56gを室温(22℃)で1400gの水に溶解し、得られた溶液を、
ギ酸カルシウムが完全に溶解するまで2000mlのガラスビーカー中で機械的撹拌機を
用いて撹拌しながら維持した。表1に報告された特性を有する560gのポルトランドセ
メントタイプ52.5Rを30秒で前記溶液に添加した。水和反応を、撹拌下、22℃の
温度で288時間続けた。反応の間、生成物は流体懸濁液の形態のままであり、その灰色
は、時間が経つにつれてより青白くなる傾向があった。反応の終わりに、生成物をプラス
チック容器に移した。約2000gの生成物が得られ、105℃で測定した乾燥物質含量
は40%であり、一定重量であった。生成物の5gアリコートを遠心分離して水相を分離
した。分離した固体物質をアセトンで繰り返し洗浄して水和反応を抑制し、60℃のスト
ーブ中で15分間放置して乾燥させ、淡灰色の乾燥粉末を得た。
【0049】
比較例2
表1の52.5Rセメント560gを、実施例1に記載したのと同じ手順によって22
℃で水1400gに添加した。水和反応を22℃の温度で288時間撹拌しながら続けた
。反応の間、生成物は流体懸濁液の形態のままであり、その灰色は、時間が経つにつれて
より青白くなる傾向があって。反応の終わりに、生成物をプラスチック容器に移した。約
1950gの生成物が得られ、105℃で測定した乾燥物質含量は37%であり、一定重
量であった。生成物の5gアリコートを遠心分離して水相を分離した。分離した固体物質
をアセトンで繰り返し洗浄して水和反応を抑制し、60℃のストーブ中で15分間放置し
て乾燥させ、淡灰色の乾燥粉末を得た。
【0050】
実施例5
実施例4および比較例2の試料は遠心分離し、アセトンで洗浄し、乾燥した後、ESEM(
環境制御型電子顕微鏡)により微細構造分析のために分析した。結果を以下の図に示す。
図1は10%ギ酸カルシウム対セメントの存在下で合成された実施例4の生成物の画像を
示し、一方、
図2は、ギ酸カルシウムなしで合成された比較例2の生成物の画像を示す。
【0051】
図1および2における画像の比較は、2つの生成物の微細構造における有意な差異を実
証する。実際、ギ酸カルシウムなしで合成された比較例2(
図2)の生成物は数ミクロン
の寸法を有する粒子のセットの形態をとるが、10%ギ酸カルシウムの存在下で合成され
た実施例4の生成物(
図1)は、非常に多数のサブミクロン粒子がより大きな粒子と会合
している、完全に異なる構造を示す。この結果は、本発明による生成物の合成中にセメン
ト水和生成物の微細構造を改質する際のギ酸カルシウムの驚くべき効果を実証している。
【0052】
比表面積は、Beckman-Coulter SA3100装置を用いて、実施例4および比較例2の微
細構造分析に使用したものと同じサンプルについてBET技術によって測定した。解析の
結果は実施例3のサンプルについて154m2/gの比表面積値、および比較例2のサン
プルについて27m2/gの値を示し、純水中で合成されたものと比較して、10%ギ酸
カルシウムの存在下での合成生成物の比表面積の大幅な増大を実証する。これらの相違は
、実施例4および比較例2の製品を用いたプラスチックモルタル試験で評価した2つの製
品の促進特性に有意な影響を及ぼす。試験は、実施例2で報告したのと同じ方法で行った
。結果を以下の表5に示す。
【0053】
【0054】
理解されるように、10%ギ酸カルシウムで合成された、本発明による実施例4の混和
剤を含有するミックス10は、純水中で合成された比較例2の混和剤で製造されたミック
ス11のものよりも約10倍大きい機械的強度を、6時間および7時間の硬化後に発揮し
た。
【0055】
実施例6
112gのギ酸カルシウムを室温(22℃)で1400gの水に溶解し、得られた溶液
を、ギ酸カルシウムが完全に溶解するまで2000mlのガラスビーカー中で機械的撹拌
機を用いて撹拌しながら維持した。表1に報告された特性を有する560gのポルトラン
ドセメントタイプ52.5Rをこの溶液に30秒で添加した。水和反応を、撹拌下、22
℃の温度で60時間続けた。反応の間、生成物は流体懸濁液の形態のままであり、その灰
色は、時間が経つにつれてより青白くなる傾向がある。反応の終わりに、生成物をプラス
チック容器に移した。約2000gの生成物が得られ、105℃で測定した乾燥物質含量
は40%であり、一定重量であった。
【0056】
比較例3
表1に示した特性を有する52.5Rポルトランドセメント100gを、22℃で10
00mlの水中に分散させ、20mm~40mmの直径を有するアルミナボール4kgを
装填した8リットルの体積を有するアルミナジャー中で60時間水和した。ジャーの回転
速度は米国特許第5,709,743号の実施例A1に報告されているように、70rp
mであった。105℃で一定重量まで測定して、13%の乾燥物質含量を有する水和セメ
ントの懸濁液約1100gが得られた。
【0057】
比較例4
表1に報告した特性を有する52.5ポルトランドセメント560gを、22℃の140
0mlの水中に分散させ、20mm~40mmの直径を有するアルミナボール4kgを装
填した8リットルの体積を有するアルミナジャー中で60時間水和した。ジャーの回転速
度は米国特許第5,709,743号の実施例A1に報告されているように、70rpm
であった。105℃で一定重量まで測定して、39%の乾燥物質含量を有する水和セメン
トの懸濁液約1550gが得られた。
【0058】
実施例7
実施例6および比較例3および4の生成物を、表1の特性を有する同じ52.5Rポル
トランドセメントを使用して、プラスチックモルタル試験で試験した。
【0059】
異なる混和剤の用量は、乾燥ベース上の同量の混和剤、すなわちセメントの重量の5%
が全ての場合に添加されることを確実にするように調節された。
【0060】
超可塑化混和剤Dynamon SP1(Mapei)を使用して、所望の加工性を達成した。全
ての混和剤は、水/セメント比=0.42で作られ、様々な場合に混合水として混和剤と
共に導入された水を計測した。広がり測定の後、4cm×4cm×16cmの寸法を有す
るプリズム状試験片をモルタルにし、標準的な実験室条件(20℃および95% R/H)下で
硬化させた。6時間および7時間の硬化後に圧縮強度を測定し、その結果を以下の表6に
示す。
【0061】
【0062】
表6に示す結果は実施例6の生成物が米国特許第5,709,743号の教示に従って
合成された比較例3および4の生成物よりも、短い硬化時間(6時間および7時間)での
機械的強度の発達を大幅に促進し、これはセメント水和段階の間の湿式粉砕工程の手段に
よって生成物の微細度を増加させることを含むことを実証する。
【0063】
実施例8
ギ酸カルシウム112gを60℃の1400gの水に溶解し、得られた溶液を、ギ酸カ
ルシウムが完全に溶解するまで、2000mlのガラスビーカー中で、機械的撹拌機を用
いて撹拌しながら維持した。表1に示した特性を有する560gのポルトランドセメント
タイプ52.5Rを、60℃の温度で30秒でこの溶液に添加した。水和反応を撹拌しな
がら8時間続けた。反応全体を通して、製品は液体中断の形にとどまり、そのグレー色は
時間が経つにつれて色が薄くなる傾向があった。反応の終わりに、生成物を冷却し、プラ
スチック容器に移した。約2050gの流体水性分散液が得られ、105℃で測定した乾
燥物質含量は39%であり、一定重量であった。
【0064】
実施例9
実施例8の生成物を使用して、セメント混合物を作製し、ここでセメントは、化石燃料
熱燃焼プラントに由来するフライアッシュで徐々に置換された。前記副産物は、セメント
に由来するケイ酸カルシウム水和物C-S-Hに非常に類似したセメント製品を形成する補
助セメント原料であるので、セメント混合物中のセメントの一部を置き換えるために使用
される。セメント質混合物中にフライアッシュを使用する利点は、セメントのより低い用
量に由来するより低い環境影響、および前記副産物がセメント質集塊の耐久性において生
じる改善である。しかしながら、セメント質混合物中のフライアッシュの反応はよりゆっ
くりと進行し、その結果、長い硬化時間(90日以上)ではセメントのみに基づく混合物
と非常に類似した機械的強度を生じるが、短期強度ははるかに低く、したがって、新鮮な
コンクリートを含有する型枠を迅速に取り除くことはできず、したがって、作業の進行を
遅らせる。
従って、大量のフライアッシュをセメント質混合物中に導入することが望ましいが、セメ
ントの重量の15~20%の割合は上記の理由のために超えるべきではない。
プラスチックモルタルを製造するために使用したセメントは表1と同じ52.5Rセメン
トであり、一方、規格ASTM C618に従ってF型に分類可能な、使用したフライアッシュ
の組成を以下の表7に示す。
【0065】
【0066】
超可塑化混和剤Dynamon SP1(Mapei)を使用して、所望の加工性を達成した。全
ての混和剤は水/結合剤比W/B=0.42で作られ、ここで、「結合剤」はセメントとフラ
イアッシュの合計を意味する。混合水は、39%の乾燥重量を有する実施例8の生成物と
の混和剤に導入された水を含めることによって計算された。広がり測定の後、4cm×4
cm×16cmの寸法を有するプリズム状試験片を作製し、標準的な実験室条件(20℃
および95% R/H)下で硬化させた。それらの圧縮強度は、7時間、24時間および90日
の硬化後に測定した。結果を以下の表8に示す。
【0067】
【0068】
表8に示すプラスチックモルタル試験の結果は、本発明による混和剤がフライアッシュ
を大量に含有する混和剤においてさえ、それらの最終的な長期強度(90日)に影響を及
ぼすことなく、短い硬化時間(7時間)で機械的強度の発達を促進することを示す。実際
、実施例8の促進剤の存在下では、ポルトランドセメントのみで製造された混和剤とは異
なり、セメント質混合物中へのフライアッシュの導入によって引き起こされる短い硬化時
間での遅延を排除することが可能であるだけでなく、その値を増大させることも可能であ
る。実際、32%のセメントをフライアッシュで置き換えることにより、7時間後の強度
は1.2MPa(ミックス15)から7.3MPa(ミックス16)に増加し、その44%
を置き換えることにより4.3MPa(ミックス17)に増加した。67%の置換割合(
ミックス18)については、7時間の硬化後の圧縮強度がポルトランドセメントのみを含
む参照ミックス(ミックス15)の圧縮強度と同じである。本発明による実施例8の促進
剤が存在しない場合、それが依然として柔らかすぎるため(ミックス19)、7時間後で
は不可能である。
【0069】
実施例10
実施例8の生成物を使用して、セメント混合物を作製し、ここでセメントは、粉砕粒状
高炉スラグ(GGBFS)によって徐々に置き換えられた。前記副産物は、セメントに由
来するケイ酸カルシウム水和物C-S-Hに非常に類似したセメント製品を形成する補助セ
メント原料であるので、セメント混合物中のセメントの一部を置き換えるために使用され
る。
フライアッシュの場合のように、セメント質混合物中にGGBFSを使用する利点は、セ
メントのより低い用量に由来するより低い環境影響、および前記副産物がセメント質コン
グロマリットの耐久性において生じる改善である。しかしながら、セメント質混合物中の
スラグの反応はよりゆっくりと進行し、その結果、長い硬化時間(90日以上)ではセメ
ントのみに基づく混合物の機械的強度に非常に類似した機械的強度を生じるが、短期間の
強度はるかに低く、したがって、新鮮なコンクリートを含む型枠を迅速に取り除くことは
できず、したがって、作業の進行を遅らせる。従って、大量のGGBFSをセメント質混
合物中に導入することが望ましいが、セメントの重量の15~20%の割合は上記の理由
のために超えるべきではない。プラスチックモルタルを製造するために使用したセメント
は表1と同じ52.5Rセメントであったが、使用したスラグの組成を以下の表9に示す
。
【0070】
【0071】
超可塑化混和剤Dynamon SP1(Mapei)を使用して、所望の加工性を達成した。全
ての混合物は水/結合剤比W/B=0.42で作られ、ここで、「結合剤」はセメントとスラ
グの合計を意味する。混合水は、39%の乾燥重量を有する実施例7の生成物との混合物
に導入された水を含めることによって計算された。広がり測定の後、4cm×4cm×1
6cmの寸法を有するプリズム状試験片を作製し、標準的な実験室条件(20℃および9
5% R/H)下で硬化させた。それらの圧縮強度は、7時間、24時間および90日の硬化後
に測定した。結果を以下の表10に示した。
【0072】
【0073】
表10に示すモルタル試験の結果は、本発明の実施例8の混合物が大量のスラグを含有
する混合物においてさえ、それらの最終的な長期強度(90日)を損なうことなく、短い
硬化時間(7時間)での機械的強度の発達を促進することを示す。実際、実施例8の促進
剤の存在下では、スラグをセメント質混合物に導入することによって引き起こされる短い
硬化時間での遅延を排除するだけでなく、ポルトランドセメントのみで作られた混合物と
は異なり、短い硬化時間(7時間)での機械的強度値を増加させることも可能である。実
際、セメントの32%がスラグで置き換えられると、7時間後の強度は1.2MPa(ミ
ックス15)から9.8MPa(ミックス20)に増加し、44%が置き換えられると、
5.5MPa(ミックス21)に増加する。67%の置換値(ミックス22)については
、7時間の硬化後の圧縮強度がポルトランドセメントのみを用いた参照混合物(ミックス
15)の圧縮強度よりも依然として大きい。本発明による実施例8の促進剤が存在しない
場合、7時間後には、試料が依然として柔らかすぎる(混合物23)ので、脱型は不可能
である。
【0074】
実施例11
112gのギ酸カルシウムを、1700gの水に60℃で溶解し、得られた溶液を、ギ
酸カルシウムが完全に溶解するまで、2000mlのガラスビーカー中で、機械的撹拌機
を用いて撹拌しながら維持した。表1に報告された特性を有する560gのポルトランド
セメントタイプ52.5Rを、60℃の温度で30秒でこの溶液に添加した。水和反応を
撹拌しながら8時間続けた。反応全体を通して、生成物は流体懸濁液の形態で存在し、そ
の灰色は、時間が経つにつれてより青白くなる傾向があった。反応の終わりに、生成物を
冷却し、プラスチック容器に移した。約2370gの流体水性分散液が得られ、その乾燥
物質含量は105℃で一定重量まで測定して34%であり、粘度は、20℃で測定して2
000cPである。
【0075】
合成で得られた生成物を、各750gの3つのアリコートに分割した。それらのうちの
1つは何もせずに維持し、一方、粉末炭酸ナトリウムNa2CO3の異なるアリコートが他の
2つに添加された。撹拌下で添加を行い、混合物の水性懸濁液に粉末状炭酸塩を10分で
添加した。炭酸ナトリウムの添加は、水性懸濁液の粘度の増加をもたらした。添加終了後
30分間撹拌を続けた。以下の表11に示したサンプルが調整された。
【0076】
【0077】
実施例12
実施例11のサンプルを使用して、セメント混合物を作製し、ここで、化石燃料熱燃焼
プラントに由来し、標準ASTM C618に従ってF型として分類可能であり、表7に示され
る組成を有するフライアッシュによってセメントは完全に置換された。超可塑化混和剤Dy
namon SP1(Mapei)を使用して、所望の加工性を達成した。広がり測定の後、4c
m×4cm×16cmの寸法を有するプリズム状試験片を作製し、標準的な実験室条件(
20℃および95%R/H)下で硬化させた。それらの圧縮強度は、7日間および28日間の
硬化後に測定した。結果を以下の表12に示した。
【0078】
【0079】
表12のプラスチックモルタル試験の結果は、実施例11の混和剤と炭酸ナトリウムと
の組み合わせによって生成される機械的強度の発達に対する好ましい効果を実証する。フ
ライアッシュ単独では水硬性を示さず、実際、フライアッシュのみに基づくミックス24
は、28日間の硬化後でさえも機械的強度を発現しない。炭酸ナトリウムを含まない実施
例11の混和剤の添加は、フライアッシュの適度な活性化を生じた(2.5MPa、28
日間の硬化後、ミックス25)。炭酸ナトリウムと本発明による混和剤との組み合わせは
試験片の圧縮強度を漸進的に改善し(ミックス26および27)、この結果はミックス2
7と同じ用量で添加された炭酸ナトリウム単独がフライアッシュ(ミックス28)の機械
的強度の発達に何ら寄与しないことを念頭に置くと、明らかに驚くべきことである。
【0080】
実施例13
実施例11のサンプルを用いてセメント混合物を作製し、セメントを表9に示す組成を
有する粉砕粒状高炉スラグ(GGBFS)で完全に置き換えた。超可塑化混和剤Dynamon
SP1(Mapei)を使用して、所望の加工性を達成した。広がり測定の後、4cm×4
cm×16cmの寸法を有するプリズム状試験片を作製し、標準的な実験室条件(20℃
および95% R/H)下で硬化させた。それらの圧縮強度を24時間、7日および28日の硬
化後に測定した。結果を以下の表13に示した。
【0081】
【0082】
表13のプラスチックモルタル試験の結果は、本発明による混和剤と炭酸ナトリウムと
の組み合わせによって生成される機械的強度の発達に対する好ましい効果を実証している
。フライアッシュの場合のように、溶鉱炉スラグ単独では水硬性を示さず、実際には、G
GBFSのみに基づくミックス29が28日間の硬化後でさえ、機械的強度を発現しない
。炭酸ナトリウムと本発明による混和剤との組み合わせは、24時間の硬化後の試験片の
圧縮強度を漸進的に改善する(ミックス31および32)。ミックス31と同じ用量で添
加された炭酸ナトリウム単独が、24時間後(ミックス33)のGGBFSの機械的強度
の発達を全く促進しないことを念頭に置くと、この結果は明らかに驚くべきことである。
【0083】
実施例14
ギ酸カルシウム112gを60℃の1653gの水に溶解し、得られた溶液を、ギ酸カ
ルシウムが完全に溶解するまで、2000mlのガラスビーカー中で、機械的撹拌機を用
いて撹拌しながら維持した。次に、セメント質混合物用の超可塑剤として一般に使用され
る、メタクリル酸とメタクリル酸のポリオキシエチレンエステルとのコポリマーに基づく
ポリマー分散剤の37%水溶液75gを添加した。前記ポリマーは、ゲル浸透クロマトグ
ラフィーによって測定された、Mw=80,000ダルトンの重量平均分子量Mw、エステ
ル基に対する酸基の比A/E=7、およびポリオキシエチレン鎖長5,000ダルトンによっ
て特徴付けられる。表1に報告された特性を有する560gのポルトランドセメントタイ
プ52.5Rを、得られた透明溶液に60℃の温度で30秒で添加した。水和反応を撹拌
しながら8時間続けた。反応全体を通して、生成物は流体懸濁液の形態で存在し、その灰
色は、時間が経つにつれてより青白くなる傾向があった。反応の終わりに、生成物を冷却
し、プラスチック容器に移した。約2400gの流体水性分散液が得られ、105℃で一
定重量まで測定された乾燥物質含量は33%であり、20℃で測定した粘度は400cP
であった。理解されるように、分散ポリマーの存在は同じ条件下で合成されたが、分散ポ
リマーなしの実施例11の生成物との比較から明らかなように、最終生成物の粘度はかな
り減少した。
【0084】
比較例5
セメント質混合物用の超可塑剤として一般に使用される、メタクリル酸とメタクリル酸
のポリオキシエチレンエステルとのコポリマーに基づくポリマー分散剤の37%水溶液1
50gを、水1607gに添加した。前記ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーによ
って測定された、Mw=80,000ダルトンに達する重量平均分子量Mw、エステル基に
対する酸基の比A/E=7、およびポリオキシエチレン鎖長5,000ダルトンによって特徴
付けられる。表1に報告された特性を有する560gのポルトランドセメントタイプ52
.5Rを、得られた透明溶液に60℃の温度で30秒で添加した。水和反応を撹拌しなが
ら8時間続けた。反応全体を通して、生成物は流体懸濁液の形態で存在し、その灰色は、
時間が経つにつれてより青白くなる傾向があった。反応の終わりに、生成物を冷却し、プ
ラスチック容器に移した。約2300gの流体水性分散液が得られ、その乾燥物質含量は
105℃で一定重量まで測定して32%であり、粘度は20℃で400cPであった。
【0085】
実施例15
実施例14および比較例5の生成物を、表1の特性を有する同じ52.5Rポルトラン
ドセメントを使用して、プラスチックモルタル試験で評価した。比較のために、セメント
のみに基づく参照ミックスを作製した。超可塑化混和剤Dynamon SP1(Mapei)を使
用して、所望の加工性を達成した。全ての混合物は、水/セメント比=0.42で作られ
、様々な場合に混合水として混合物と共に導入された水を計測した。広がり測定の後、4
cm×4cm×16cmの寸法を有するプリズム状試験片をモルタルで調製し、標準的な
実験室条件(20℃および95%R/H)下で硬化させた。6、8、10および24時間の硬
化後に圧縮強度を測定し、その結果を以下の表14に示す。
【0086】
【0087】
表14に示す結果は、本発明による混和剤の促進効果がポリエーテルカルボキシレート
ベースの分散剤の添加によって実質的に影響されないことを示す。実際、実施例15の混
和剤を含有するミックス34は、参照(ミックス36)と比較してかなりの促進効果を示
す。逆に、超可塑剤のみに基づく比較例5の生成物を含有するミックス(ミックス35)
は分散ポリマー単独では加速効果を全く発揮しないが、実際には参照ミックスと比較して
水和の初期遅延を引き起こすことを実証する。
【0088】
実施例16
実施例14および比較例5のサンプルを、X‘Celerator検出器を備えたPANalytical X'
Pert Pro MPD回折装置を用いてXRPD技術によって分析した。試料は、40kVの電圧
および40mAの電流を有するCoアノードによって生成されたCo-K
α1.2照射に粉
末を暴露することによって得られた。回折スペクトルを
図3に示すが、実施例14に対応
する試料のスペクトルは上方に黒い線で表され、比較例5に関連するスペクトルは下方に
灰色の線で表されている。理解されるように、ギ酸カルシウムの存在下で合成された実施
例14の生成物に対応するスペクトルは、比較例5の試料のスペクトルには存在しない幾
つかのピーク(6.78Å、5.20Åおよび4.14Å)を示し、ここで、ギ酸カルシ
ウムは合成中に添加されなかった。しかしながら、前記ピークは結晶性ギ酸カルシウムの
ピークに対応しないが、380~390(オングストローム)
3または790(オングスト
ローム)
3の体積を有する正方晶または斜方晶セルで一貫して指標付けされ、カルシウム
陽イオンがギ酸結合剤と配位してMOF(有機金属骨格)に典型的な三次元結晶構造を生
成する様々な多形構造を示す。純水中で合成されたものと比較して、本発明による生成物
の比表面積が著しく増加することによって確認されるこれらの構造の高い多孔性(実施例
5に記載のBETデータを参照)は、本発明による生成物の改善された促進効果および安
定性の根本的な理由であると考えられる。