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特許7560600導電性シート、樹脂成形品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】導電性シート、樹脂成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20240925BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240925BHJP
   H05B 3/36 20060101ALI20240925BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
H05B3/20 345
B29C45/14
H05B3/20 327Z
H05B3/36
H05B3/10 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023067449
(22)【出願日】2023-04-17
【審査請求日】2024-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】小泉 智暉
(72)【発明者】
【氏名】横山 崇
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0016791(KR,A)
【文献】特開2016-110757(JP,A)
【文献】登録実用新案第3186166(JP,U)
【文献】特開2002-295783(JP,A)
【文献】特開2009-117192(JP,A)
【文献】特開平11-74066(JP,A)
【文献】特開2022-28547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/20
B29C 45/14
H05B 3/36
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲領域を有する基体シートと、
前記基体シートの上に固着された導電性のワイヤにより形成された導電性パターンと、
前記導電性パターンを覆うように、前記基体シートの上に形成された保護シートとを備え、
前記ワイヤは、一部が前記屈曲領域を横断し、前記屈曲領域で屈曲させたときに、前記基体シートと前記保護シートのうち、外側になるシートの線膨張が内側になるシートの線膨張より大きく設定された、導電性シート。
【請求項2】
請求項1記載の導電性シートを前記屈曲領域で屈曲させたときの内側になるシートの外面の長さと外側になるシートの内面の長さが等しく設定された、請求項1記載の導電性シート。
【請求項3】
前記基体シートの線膨張をA1、前記保護シートの線膨張をA2、請求項1記載の導電性シートの厚みをd、前記導電性シートを前記屈曲領域で屈曲させたときの前記基体シートの屈曲部分を円弧とみなして、その半径をR、前記導電性シートを前記屈曲領域で屈曲させたときの成形温度をT1、そのときの室温をT2とすると、下記の式(1)又は(2)の関係を有するように設定された、請求項1記載の導電性シート。
(1)A1<A2の場合
【数1】
(2)A1>A2の場合
【数2】
【請求項4】
前記導電性パターンは、連続した1本のワイヤからなり、ヒータ部と接続端子部とを含む、請求項1記載の導電性シート。
【請求項5】
請求項1記載の導電性シートを前記屈曲領域で屈曲させたプレフォーム体と、
前記プレフォーム体の表面、裏面又は両面に積層された樹脂成形体とを備えた、樹脂成形品。
【請求項6】
固定型と、
型締めによって前記固定型との間にキャビティを形成する可動型と、を有する射出成形用金型のいずれかのキャビライ面に、請求項1記載の導電性シートを配置する工程と、
前記射出成形用金型を型締めする工程と、
前記キャビティ内に溶融樹脂を射出して樹脂成形体を成形すると同時に、前記樹脂成形体の表面に前記導電性シートを固着させる工程と、
前記射出成形用金型を型開きして、前記樹脂成形体を取り出す工程とを備えた、樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記導電性シートは、前記屈曲領域で屈曲させたプレフォーム体である、請求項6記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の導電性シートを前記屈曲領域で屈曲させた前記プレフォーム体を準備する工程と、
前記プレフォーム体の表面、裏面又は両面に、その表面、裏面又は両面の形状に対応した表面形状を有する樹脂成形体を固着させる工程とを備えた、樹脂成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
基体シートの一方の面に導電性のワイヤからなる導電性パターンが形成された導電性シートであるフィルムヒータがある。導電性のワイヤは、超音波融着により、基体シートの表面に、全長にわたって埋め込まれている(例えば、特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、基体シートの上に導電性パターンを有した導電性シートが提案されている。
【文献】特開2019-169417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の導電性シートを立体形状にする場合、フィルムの伸びとワイヤの伸びが異なることから、屈曲部分でワイヤが基体シートから剥がれたり、ワイヤの断線が生じたりすることがある。
【0004】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、立体形状にすることによって生じるワイヤの剥がれや断線を防止する導電性シート、樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、屈曲領域を有する基体シートと、基体シートの上に固着された導電性のワイヤにより形成された導電性パターンと、導電性パターンを覆うように、基体シートの上に形成された保護シートとを備え、ワイヤは、一部が屈曲領域を横断し、屈曲領域で屈曲させたときに、基体シートと保護シートのうち、外側になるシートの線膨張が内側になるシートの線膨張より大きくなるように設定されたものである。
【0006】
このように構成すると、導電性シートを屈曲させたときの外側と内側のシートの伸縮差が吸収されるため、導電性シートを屈曲させても保護シートが基体シートに固着し、ワイヤの剥がれを抑制することができる。
【0007】
第2の発明は、導電性シートを屈曲領域で屈曲させたときの内側になるシートの外面の長さと外側になるシートの内面の長さが等しくなるように設定されたものである。
【0008】
このように構成すると、保護シートと基体シートとの接触面にそれぞれの膨張差からくる応力がかかりにくくなるため、安定してワイヤの剥がれを防止することができる。
【0009】
第3の発明は、第1の発明の構成において、基体シートの線膨張をA1、保護シートの線膨張をA2、導電性シートの厚みをd、導電性シートを屈曲領域で屈曲させたときの基体シートの屈曲部分を円弧とみなして、その半径をR、導電性シートを屈曲領域で屈曲させたときの成形温度をT1、そのときの室温をT2とすると、下記の式(1)又は(2)の関係を有するように設定されたものである。
(1)A1<A2の場合
【数1】
(2)A1>A2の場合
【数2】
【0010】
このように構成すると、導電性シートを屈曲させるときに、基体シートと保護シートとの間に膨張差がある場合、導電性シートが線膨張の小さいシート側に反るため、その反りを利用し導電性シートの立体形状への成形を補助することができる。
【0011】
第4の発明は、第1の発明の構成において、導電性パターンは、連続した1本のワイヤからなり、ヒータ部と接続端子部とを含むものである。
【0012】
このように構成すると、ワイヤが保護シートに保護され、基体シートに密着するため、導電性シートを屈曲させてもワイヤが剥がれない。
【0013】
第5の発明は、第1の発明の導電性シートを屈曲領域で屈曲させたプレフォーム体と、プレフォーム体の表面、裏面又は両面に積層された樹脂成形体とを備えた、樹脂成形品である。
【0014】
このように構成すると、ワイヤが剥がれていないプレフォーム体が樹脂成形体に積層されるため、ワイヤが剥がれていない樹脂成形品となる。
【0015】
第6の発明は、固定型と、型締めによって固定型との間にキャビティを形成する可動型と、を有する射出成形用金型のいずれかのキャビライ面に、請求項1記載の導電性シートを配置する工程と、射出成形用金型を型締めする工程と、キャビティ内に溶融樹脂を射出して樹脂成形体を成形すると同時に、樹脂成形体の表面に導電性シートを固着させる工程と、射出成形用金型を型開きして、樹脂成形体を取り出す工程とを備えた、樹脂成形品の製造方法である。
【0016】
このように構成すると、射出成形による導電性シートの屈曲時もワイヤが保護シートに保護され、基体シートに密着するため、ワイヤが剥がれていない樹脂成形品を射出成形することができる。
【0017】
第7の発明は、第1の発明の導電性シートを屈曲領域で屈曲させたプレフォーム体である、第6の発明の樹脂成形品の製造方法である。
【0018】
このように構成すると、ワイヤが剥がれていないプレフォーム体が射出成形用金型にインサートされるため、ワイヤが剥がれていない樹脂成形品を得ることができる。
【0019】
第8の発明は、第1の発明の導電性シートを屈曲領域で屈曲させた前記プレフォーム体を準備する工程と、プレフォーム体の表面、裏面又は両面に、その表面、裏面又は両面の形状に対応した表面形状を有する樹脂成形体を固着させる工程とを備えた、樹脂成形品の製造方法である。
【0020】
このように構成すると、ワイヤが断線していないプレフォーム体が樹脂成形体に積層されるため、ワイヤが断線していない樹脂成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、導電性シートを立体形状に形成するときに、導電性シートに固着した導電性のワイヤが剥がれたり、断線したりすることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の第1実施形態及び第2実施形態によるフィルムヒータを示す概略平面図である。
図2図1で示したII―IIラインの概略断面図である。
図3】その(1)がこの発明の第1実施形態による図1で示したフィルムヒータを屈曲領域で屈曲させたときのII―IIラインの概略断面図であり、その(2)がこの発明の第2実施形態による図1で示したフィルムヒータを屈曲領域で屈曲させたときのII―IIラインの概略断面図である。
図4】フィルムヒータ成形品を製造する工程を示した図である。
図5】フィルムヒータ成形品を製造する他の工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、この発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
【0024】
図1を参照して、この発明の第1実施形態による導電性シートであるフィルムヒータ10は、平面視で長方形形状を有する基体シート11と、基体シート11の上に固着された導電性のワイヤ12により形成された導電性パターン13と、その導電性パターン13を覆うように基体シート11の上に形成された保護シート21とを備えている。フィルムヒータ10は、例えば、自動車のエンブレムやバンパーに組み込まれて融雪に利用される。基体シート11の端部には、基体シート11の短手方向に帯状に延びる屈曲領域Aがある。導電性パターン13は、基体シート11の短手方向に左右に一定の幅で整列するUターンを繰り返し、長手方向に等間隔となるように一筆書きに形成されたミアンダ状パターンである。このパターンがヒータ部14を構成する。ワイヤ12は、一部が屈曲領域Aを横断し、ワイヤ12の両端はパターンの1か所で合流し、2本が一定間隔で平行になって基体シート11のコーナー部の外縁から外方に延びている。この部分が接続端子部15を構成する。フィルムヒータ10の表面及び裏面には、適用される製品に応じて加飾層、転写層、接着層その他機能層が積層されてもよい。基体シート11は、長方形形状であるが、最終製品の形状に合わせた異形形状等他の形状でもよい。
【0025】
図2を参照して、ワイヤ12は、その断面の一部が基体シート11に埋め込まれるようにして、基体シート11の上に固着している。そのワイヤ12を覆うようにして基体シート11の上に保護シート21が重なり合わされている。ワイヤ12は、基体シート11と保護シート21に挟まれている。基体シート11へのワイヤ12の埋込み方法としては、例えば、超音波融着の原理を活用してワイヤ12を基体シート11の上に埋め込む方法が望ましい。超音波融着を行うに際しては、ワイヤ12を繰り出しながら熱可塑性樹脂からなる基体シート11の表面を溶融させ、ワイヤ12を基体シート11の上に埋め込むことが可能な配線描画装置を用いることができる。基体シート11へのワイヤ12の埋込みにより、基体シート11の上で導電性パターン13の位置決めを行う。
【0026】
図3の(1)は、この発明の第1実施形態によるフィルムヒータ10を、保護シート21を上面として屈曲領域Aで下方に向かって屈曲させた状態のII―IIラインの概略断面図である。屈曲によって基体シート11が伸ばされ、屈曲後の基体シート11の外面30の長さは屈曲前の基体シート11の外面30の長さより長くなっている。
【0027】
この発明の第1実施形態によるフィルムヒータ10を、屈曲領域Aで熱をかけて屈曲させたとき、内側になる基体シート11の外面30の長さと外側になる保護シート21の内面41の長さが等しくなるように構成することができる。具体的には、室温からガラス転移点までの温度の間は熱膨張により膨張し、その膨張差を利用して、長さが等しくなる。更に、ガラス転移点を超える温度がかかることにより、分子配列が変わり、その形状で保持される。
【0028】
このように構成すると、保護シート21と基体シート11との接触面にそれぞれの膨張差からくる応力がかかりにくくなるため、安定してワイヤ12の剥がれを防止することができる。
【0029】
この発明の第1実施形態による基体シート11の線膨張をA1、保護シート21の線膨張をA2、フィルムヒータ10の厚みをd、フィルムヒータ10を屈曲したときの基体シート11の屈曲部分を円弧とみなして、その半径をR(図3の(1)参照)、屈曲領域で屈曲させたときの成形温度をT1、そのときの室温をT2とすると、下記の式(1)の関係を有するように構成することができる。
(1)
【数1】
【0030】
このように設定することにより、フィルムヒータ10を屈曲させたときに、基体シート11と保護シート21との間の膨張差により、線膨張の小さい基体シート11側に反るため、その反りを利用し導電性シートの立体形状への成形を補助することができる。
【0031】
基体シート11には、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂シートが使用される。例えば、樹脂成形体17と同一の種類からなる熱可塑性樹脂シートを使用すれば、樹脂成形体17に基体シート11を固着し易くなる。特に、成形性、機械的強度、柔軟性、耐候性に優れる熱可塑性樹脂シートを用いるのがよい。
【0032】
基体シート11の厚みは、ワイヤ12の直径の3倍~4倍であることが好ましい。ワイヤ12の直径の3倍より薄いと基体シート11へワイヤ12の埋込みにより、基体シート11のワイヤ12が埋め込まれた面と反対の面にワイヤ12の形が浮き出てしまい、その反対の面に積層された加飾層に亀裂が入ったり、その反対の面が成形品の外観となった場合に見栄えが悪くなったりするおそれがある。ワイヤ12の直径の4倍より厚いとフィルムヒータ10の立体形状への成形が難しくなる。例えば、直径が0.2mmのワイヤ12の場合、基体シート11の厚みは0.6mm~0.8mmが好ましい。
【0033】
保護シート21には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂シートが使用される。例えば、樹脂成形体17と同一の種類からなる熱可塑性樹脂シートを使用すれば、樹脂成形体17に保護シート21を固着し易くなる。特に、成形性、機械的強度、柔軟性、耐候性に優れる熱可塑性樹脂シートを用いるのがよい。
【0034】
保護シート21の厚みは、ワイヤ12の直径の1倍~2倍であることが好ましい。ワイヤ12の直径の1倍より薄いと基体シート11の上に固着されたワイヤ12を覆ったときにワイヤ12の形が浮き出てしまい、保護シート21の上に積層された加飾層に亀裂が入ったり、保護シート21が成形品の外観となった場合に見栄えが悪くなったりするおそれがある。ワイヤ12の直径の2倍より厚いとフィルムヒータ10の立体形状への成形が難しくなる。例えば、直径が0.2mmのワイヤ12の場合、保護シート21の厚みは0.2mm~0.4mmが好ましい。
【0035】
ワイヤ12には、製造する成形品の使用用途や目的に合わせて各種導電性金属材料を選択することができる。例えば、純銅、又は銅に銀や鉛、錫、アルミ、ニッケル、ベリリウム、ジルコニウム等を単独又は複数組み合わせてある銅合金等の材料が挙げられる。特に、抵抗値の低い純銅や機械的強度に優れた合金がよい。
【0036】
ワイヤ12の直径は、好ましくは0.05mm~0.2mm、更に好ましくは0.15mm~0.2mmがよい。0.05mmより細いと、抵抗値が高くなるためヒータとしての性能が下がり、又、立体形状に成形するときに断線するおそれがある。0.2mmより太いとフィルムヒータ10の立体形状への成形が難しくなる。ワイヤ12の長さは、導電性パターン13のパターン形態等に応じたものとすることができる。
【0037】
ワイヤ12の基体シート11への埋込み量は、基体シート11の厚みの1/3とし、かつ、ワイヤ12の直径の2/5~4/5程度で、好ましくは1/2~3/4である。
【0038】
樹脂成形体17には、製造する成形品の使用用途や目的に適した特性を有する材料が使用される。例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジェンスチレン、PC―ABSアロイ等が挙げられる。
【0039】
この発明の第1実施形態によるフィルムヒータ10を自動車のエンブレムやバンパーに使用する場合には、基体シート11はポリカーボネート、保護シート21はポリエチレンテレフタレート、ワイヤ12は銀入り銅合金、樹脂成形体17は光を透過する必要があるパーツの場合はポリカーボネート、強度を必要とするパーツの場合はPC―ABSを使用するのが適している。
【0040】
次に、この発明の第2実施形態について、図を参照しながら先の実施形態とは異なる点を中心に説明する。
【0041】
この発明の第2実施形態による導電性シートであるフィルムヒータ10は、基体シート11と保護シート21の線膨張の大小関係及び保護シート21の材料が異なる以外は第1実施形態によるフィルムヒータ10と同じである。
【0042】
図3の(2)は、この発明の第2実施形態によるフィルムヒータ10を、基体シート11を上面として屈曲領域Aで下方に向かって屈曲させた状態のII―IIラインの概略断面図である。屈曲によって基体シート11が伸ばされ、屈曲後の基体シート11の外面の長さは屈曲前の基体シート11の外面の長さより長くなっている。
【0043】
この発明の第2実施形態によるフィルムヒータ10を、屈曲領域Aで屈曲させたとき、内側になる保護シート21の外面の長さと外側になる基体シート11の内面の長さが等しくなるように構成することができる。
【0044】
このように構成すると、保護シート21と基体シート11との接触面にそれぞれの膨張差からくる応力がかかりにくくなるため、安定してワイヤ12の剥がれを防止することができる。
【0045】
この発明の第2実施形態による基体シート11の線膨張をA1、保護シート21の線膨張をA2、フィルムヒータ10の厚みをd、フィルムヒータ10を屈曲したときの基体シート11の屈曲部分を円弧とみなして、その半径をR(図3の(2)参照)、屈曲領域で屈曲させたときの成形温度をT1、そのときの室温をT2とすると、下記の式(2)の関係を有するように構成することができる。
(2)
【数2】
【0046】
このように設定することにより、フィルムヒータ10を屈曲させたときに、基体シート11と保護シート21との間の膨張差により、線膨張の小さい保護シート21側に反るため、その反りを利用し導電性シートの立体形状への成形を補助することができる。
【0047】
保護シート21には、負熱膨張性フィラー等の無機系の樹脂シートが使用される。特に、成形性、機械的強度、柔軟性、耐候性に優れる無機系の樹脂シートを用いるのがよい。
【0048】
保護シート21の厚みは、ワイヤ12の直径の1倍~2倍であることが好ましい。ワイヤ12の直径の1倍より薄いと基体シート11の上に固着されたワイヤ12を覆ったときにワイヤ12の形が浮き出てしまい、保護シート21の上に積層された加飾層に亀裂が入ったり、保護シート21が成形品の外観となった場合に見栄えが悪くなったりするおそれがある。ワイヤ12の直径の2倍より厚いとフィルムヒータ10の立体形状への成形が難しくなる。例えば、直径が0.2mmのワイヤ12の場合、保護シート21の厚みは0.2mm~0.4mmが好ましい。
【0049】
次に、樹脂成形品であるフィルムヒータ成形品18を製造する工程を説明する。
【0050】
図4の(1)を参照して、射出成形用金型22は、可動型23と固定型24を備えている。本実施形態では、射出成形用金型22の左側の金型を可動型23、右側の金型を固定型24とし、可動型23が水平方向(図4の(1)における紙面の左右方向)に移動することで、固定型24に接近し、又は固定型24から離れる。可動型23は、フィルムヒータ10を屈曲領域Aで屈曲させたプレフォーム体16の形状に対応するキャビライ面26を備え、固定型24は、溶融樹脂28を射出するための樹脂流路25を備えている。射出成形用金型22が左右に型開きした状態で、可動型23のキャビライ面26にプレフォーム体16を配置する。
【0051】
次に、図4の(2)を参照して、固定型24と可動型23を型締めして、固定型24と可動型23の間にキャビティ27を形成する。固定型24の樹脂流路25からキャビティ27内に溶融樹脂28を射出して樹脂成形体17を成形すると同時に、フィルムヒータ成形品18が成形される。成形されたフィルムヒータ成形品18をそのまま型締めした状態で冷却して固化させる。
【0052】
次に、図4の(3)を参照して、射出成形用金型22を型開きして、フィルムヒータ成形品18を取り出す。このようにして、プレフォーム体16と樹脂成形体17が射出成形と同時に成形されたフィルムヒータ成形品18が製造される。
【0053】
図5を参照して、プレフォーム体16の屈曲した外側のシート面に、そのプレフォーム体16の外側のシート面の形状に対応した樹脂成形体17を積層させる。積層には、必要によりプレフォーム体16と樹脂成形体17の間に、接着層を介在させ固着させてもよい。接着層には、例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、ゴム系、ポリエステル系、セルロース系、エマルジョン等の接着剤が使用される。このようにして、フィルムヒータ成形品18が製造される。
【0054】
以上から、上記のように構成されるフィルムヒータ10では、フィルムヒータ10を立体形状に成形するときに、ワイヤ12が基体シート11に密着するため、屈曲によるワイヤ12の剥がれや断線を防止することができる。そして、上記のように構成されるフィルムヒータ10を用いたフィルムヒータ成形品18の製造方法では、ワイヤ12が断線していないフィルムヒータ成形品18を製造することができる。
【0055】
尚、この発明の第1実施形態及び第2実施形態では、ワイヤ12が基体シート11に直接埋め込まれているが、接着層等基体シート11の上に他の層が形成され、その層にワイヤ12を固着させてもよい。
【0056】
又、この発明の第1実施形態及び第2実施形態では、保護シート21が基体シート11に直接固着されているが、接着層等基体シート11の上に他の層が形成され、その層に保護シート21を固着させてもよい。
【0057】
更に、この発明の第1実施形態及び第2実施形態では、基体シート11の上に1本のワイヤ12により1つの導電性パターン13が設けられているが、ワイヤ12が屈曲領域を横断するように構成すれば、ワイヤの本数もパターンの数や形状も上記の実施形態に限定されない。
【0058】
更に、この発明の第1実施形態及び第2実施形態では、フィルムヒータ10の端部に屈曲領域が設けられているが、ワイヤ12の一部が屈曲領域を横断していれば、基体シート11の上の他の場所にあってもよい。
【0059】
更に、この発明の第1実施形態及び第2実施形態では、フィルムヒータ成形品18を製造する他の工程において、プレフォーム体16の屈曲した外側のシート面の上に、樹脂成形体17が積層されているが、樹脂成形体17はプレフォーム体16の表面、裏面又は両面に積層することができる。
【0060】
10 フィルムヒータ
11 基体シート
12 ワイヤ
13 導電性パターン
14 ヒータ部
15 接続端子部
16 プレフォーム体
17 樹脂成形体
18 フィルムヒータ成形品
21 保護シート
22 射出成形用金型
23 可動型
24 固定型
26 キャビライ面
27 キャビティ
30,40 外面
31,41 内面
A 屈曲領域

【要約】
【課題】立体形状にすることによって生じるワイヤの剥がれや断線を防止する導電性シート、樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性シートであるフィルムヒータ10は、平面視で長方形形状を有する基体シート11と、基体シート11の上に固着された導電性のワイヤ12により形成された導電性パターン13と、その導電性パターン13を覆うように基体シート11の上に形成された保護シート21とを備えている。フィルムヒータ10は、例えば、自動車のエンブレムやバンパーに組み込まれて融雪に利用される。基体シート11の端部には、基体シート11の短手方向に帯状に延びる屈曲領域Aがある。導電性パターン13は、基体シート11の短手方向に左右に一定の幅で整列するUターンを繰り返し、長手方向に等間隔となるように一筆書きに形成されたミアンダ状パターンである。このパターンがヒータ部14を構成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5