(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】射出成形機および粘度測定方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240925BHJP
B29C 45/50 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/50
(21)【出願番号】P 2023115506
(22)【出願日】2023-07-13
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】合葉 修司
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-142204(JP,A)
【文献】特開2012-035459(JP,A)
【文献】特開2010-083074(JP,A)
【文献】特開平07-195461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
B29C 45/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度測定ユニットを着脱可能な射出シリンダと、
前記射出シリンダ内の射出軸と、
前記射出軸を駆動する射出駆動装置と、
前記射出軸を前後に駆動するように前記射出駆動装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記射出シリンダの内径または前記射出軸の外径をDとし、前記粘度測定ユニットに取り付けられたキャピラリーダイおよび/またはスリットダイについて、キャピラリー内径をd、スリット長さおよびスリット幅をそれぞれBおよびHとしたとき、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γ
k(kは自然数)のそれぞれを用いて、下記式(1)または(2)に基づき射出速度V
kを算出し、算出された射出速度のうち所定範囲内にあるV
kの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する、射出成形機。
【数1】
【数2】
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形機であって、
前記粘度測定ユニットは、
前記キャピラリーダイおよび/または前記スリットダイと、
前記キャピラリーダイおよび/または前記スリットダイを取り付けた測定シリンダと、
前記測定シリンダ内を流れる成形材料の圧力を測定する圧力センサと、
を備える、射出成形機。
【請求項3】
請求項2に記載の射出成形機であって、
前記粘度測定ユニットは、相異なる仕様の2以上のダイを取り付け可能に構成されている、射出成形機。
【請求項4】
請求項1に記載の射出成形機であって、
表示装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記所定範囲内にあるV
kの値を前記表示装置上に表示させる、射出成形機。
【請求項5】
請求項2に記載の射出成形機であって、
前記制御装置は、前記所定範囲内にあるV
kの値のそれぞれ毎に、前記射出駆動装置を動作させることにより、前記圧力センサから取得した測定値を用いて、前記V
kの値に応じた前記成形材料の粘度η
kを算出する、射出成形機。
【請求項6】
請求項5に記載の射出成形機であって、
表示装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記所定範囲内にあるV
kの値と、前記粘度η
kの値とを前記表示装置上に表示させる、射出成形機。
【請求項7】
請求項6に記載の射出成形機であって、
前記制御装置は、前記せん断速度の値γ
kと、前記粘度η
kの値との関係を示すグラフを描画して前記表示装置上に表示させる、射出成形機。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の射出成形機であって、
前記3つ以上のせん断速度の値γ
kは、1*10
1sec
-1以上5*10
5sec
-1以下(「*」は乗算を表す)の範囲内から選ばれた値であり、
前記射出速度の前記所定範囲は、0.05mm・sec
-1以上200mm・sec
-1以下である、射出成形機。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の射出成形機であって、
前記射出成形機は、スクリュプリプラ式射出成形機であり、
前記射出軸は、プランジャである、射出成形機。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の射出成形機であって、
前記射出成形機は、インラインスクリュ式射出成形機であり、
前記射出軸は、インラインスクリュである、射出成形機。
【請求項11】
射出速度V
k(kは自然数)の下で、射出成形機の射出シリンダから、圧力センサを有する粘度測定ユニットの測定シリンダを介して、前記測定シリンダに取り付けられたダイのキャピラリーまたはスリットに成形材料を流す工程と、
前記圧力センサにより、前記測定シリンダ内を流れる前記成形材料の圧力値を取得する工程と、
前記圧力値を用いて、前記射出速度V
kに応じた粘度η
kを算出する工程と、
を含み、
前記成形材料を流す工程は、前記射出成形機の制御装置により、下記式(1)または(2)に基づき、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γ
kのそれぞれに応じた射出速度V
kを算出し、算出された射出速度のうち所定範囲内にあるV
kの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する工程を含み、
下記式(1)および(2)中、Dは、前記射出シリンダの内径または前記射出シリンダ内の射出軸の外径を表し、dは、前記キャピラリーの内径を表し、BおよびHは、それぞれ、前記スリットの長さおよび幅を表す、粘度測定方法。
【数1】
【数2】
【請求項12】
請求項11に記載の粘度測定方法であって、
前記射出速度V
kを自動設定する工程において、前記3つ以上のせん断速度の値γ
kは、1*10
1sec
-1以上5*10
5sec
-1以下(「*」は乗算を表す)の範囲内から選ばれた値であり、前記射出速度の前記所定範囲は、0.05mm・sec
-1以上200mm・sec
-1以下である、粘度測定方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の粘度測定方法であって、
前記圧力値を取得する工程は、それぞれが前記測定シリンダを介した前記成形材料の導入先である2以上のダイを切り替えて個別に圧力値を取得する工程を含む、粘度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機、および、射出成形機を利用した粘度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形において、溶融樹脂の粘度は、製品の出来栄えを左右する主要な因子の1つである。溶融樹脂の粘度は、キャピラリーレオメータ等の専用の機器によって測定可能である。ただし、これらの機器を用いた測定では、実際の成形時における条件を厳密に再現することは一般に困難である。このような事情から、量産に使用する射出成形機上で溶融樹脂の粘度を測定したいという要求がある。例えば下記の特許文献1は、金型をノズルに接触させない状態での射出圧力をスクリュ後端のロードセルにより取得して溶融樹脂の粘度を算出する、インラインスクリュ射出成形機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粘度測定時の射出速度の設定に関し、特許文献1は、射出速度を所定の範囲内で一定とすることを提案しているものの、具体的にどのような数値を用いるのかの指針は与えられていない。現状、射出速度の設定は、射出成形機を使用するオペレータの判断に委ねられており、射出速度として、溶融樹脂の粘度測定に適切でない値が設定されてしまうこともあり得る。また、測定毎の射出速度の設定が一定であるとは限らないことから、材料のロット違い、または、測定日違いデータ間での単純な比較が容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]粘度測定ユニットを着脱可能な射出シリンダと、前記射出シリンダ内の射出軸と、前記射出軸を駆動する射出駆動装置と、前記射出軸を前後に駆動するように前記射出駆動装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記射出シリンダの内径または前記射出軸の外径をDとし、前記粘度測定ユニットに取り付けられたキャピラリーダイおよび/またはスリットダイについて、キャピラリー内径をd、スリット長さおよびスリット幅をそれぞれBおよびHとしたとき、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γ
k(kは自然数)のそれぞれを用いて、下記式(1)または(2)に基づき射出速度V
kを算出し、算出された射出速度のうち所定範囲内にあるV
kの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する、射出成形機。
【数1】
【数2】
[2][1]に記載の射出成形機であって、前記粘度測定ユニットは、前記キャピラリーダイおよび/または前記スリットダイと、前記キャピラリーダイおよび/または前記スリットダイを取り付けた測定シリンダと、前記測定シリンダ内を流れる成形材料の圧力を測定する圧力センサと、を備える、射出成形機。
[3][2]に記載の射出成形機であって、前記粘度測定ユニットは、相異なる仕様の2以上のダイを取り付け可能に構成されている、射出成形機。
[4][1]から[3]のいずれか1項に記載の射出成形機であって、表示装置をさらに備え、前記制御装置は、前記所定範囲内にあるV
kの値を前記表示装置上に表示させる、射出成形機。
[5][2]または[3]に記載の射出成形機であって、前記制御装置は、前記所定範囲内にあるV
kの値のそれぞれ毎に、前記射出駆動装置を動作させることにより、前記圧力センサから取得した測定値を用いて、前記V
kの値に応じた前記成形材料の粘度η
kを算出する、射出成形機。
[6][5]に記載の射出成形機であって、表示装置をさらに備え、前記制御装置は、前記所定範囲内にあるV
kの値と、前記粘度η
kの値とを前記表示装置上に表示させる、射出成形機。
[7][6]に記載の射出成形機であって、前記制御装置は、前記せん断速度の値γ
kと、前記粘度η
kの値との関係を示すグラフを描画して前記表示装置上に表示させる、射出成形機。
[8][1]から[7]のいずれか1項に記載の射出成形機であって、前記3つ以上のせん断速度の値γ
kは、1*10
1sec
-1以上5*10
5sec
-1以下(「*」は乗算を表す)の範囲内から選ばれた値であり、前記射出速度の前記所定範囲は、0.05mm・sec
-1以上200mm・sec
-1以下である、射出成形機。
[9][1]から[8]のいずれか1項に記載の射出成形機であって、前記射出成形機は、スクリュプリプラ式射出成形機であり、前記射出軸は、プランジャである、射出成形機。
[10][1]から[8]のいずれか1項に記載の射出成形機であって、前記射出成形機は、インラインスクリュ式射出成形機であり、前記射出軸は、インラインスクリュである、射出成形機。
[11]射出速度V
k(kは自然数)の下で、射出成形機の射出シリンダから、圧力センサを有する粘度測定ユニットの測定シリンダを介して、前記測定シリンダに取り付けられたダイのキャピラリーまたはスリットに成形材料を流す工程と、前記圧力センサにより、前記測定シリンダ内を流れる前記成形材料の圧力値を取得する工程と、前記圧力値を用いて、前記射出速度V
kに応じた粘度η
kを算出する工程と、を含み、前記成形材料を流す工程は、前記射出成形機の制御装置により、下記式(1)または(2)に基づき、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γ
kのそれぞれに応じた射出速度V
kを算出し、算出された射出速度のうち所定範囲内にあるV
kの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する工程を含み、下記式(1)および(2)中、Dは、前記射出シリンダの内径または前記射出シリンダ内の射出軸の外径を表し、dは、前記キャピラリーの内径を表し、BおよびHは、それぞれ、前記スリットの長さおよび幅を表す、粘度測定方法。
【数1】
【数2】
[12][11]に記載の粘度測定方法であって、前記射出速度V
kを自動設定する工程において、前記3つ以上のせん断速度の値γ
kは、1*10
1sec
-1以上5*10
5sec
-1以下(「*」は乗算を表す)の範囲内から選ばれた値であり、前記射出速度の前記所定範囲は、0.05mm・sec
-1以上200mm・sec
-1以下である、粘度測定方法。
[13][11]または[12]に記載の粘度測定方法であって、前記圧力値を取得する工程は、それぞれが前記測定シリンダを介した前記成形材料の導入先である2以上のダイを切り替えて個別に圧力値を取得する工程を含む、粘度測定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の少なくともいずれかの実施形態によれば、オペレータに起因するバラつきが低減された、より高精度の粘度測定を実行し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に適用可能な射出成形機の一例を模式的に示す図である。
【
図2】射出ノズル46に代えて粘度測定ユニット5をノズルシリンダ45に取り付けた状態の射出ユニット10を示す模式的な断面図である。
【
図3】粘度測定ユニット5の外観の一例を示す斜視図である。
【
図4】粘度測定ユニット5の外観の他の一例を示す斜視図である。
【
図5】粘度測定ユニット5の例示的な垂直断面を示す模式図である。
【
図6】
図5のVI-VI断面を模式的に示す図である。
【
図7】第1のキャピラリーダイ62の模式的な拡大断面図である。
【
図8】第2のキャピラリーダイ63の模式的な拡大断面図である。
【
図9】射出成形機1の制御装置7の機能を説明するためのブロック図である。
【
図10】粘度測定モードにおいて制御装置7のタッチパネルに表示される画像の一例を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る例示的な粘度測定方法の概略を示すフローチャートである。
【
図12】グラフ描画ボタン86の押下により操作盤のタッチパネルに表示されるグラフの一例を説明するための図である。
【
図13】直近の測定結果を示すグラフと、過去の測定結果を示すグラフとを重畳させた形で表示させた例を説明するための図である。
【
図14】バーグレー補正モードにおいて制御装置7のタッチパネルに表示される画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0009】
<1.射出成形機の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に適用可能な射出成形機の一例を示す。
図1に示す射出成形機1は、成形材料を射出する射出ユニット10と、金型の開閉を行う型締ユニット8と、これらユニットの動作を制御する制御装置7とを含む。
図1では、射出成形機1のうち射出ユニット10については、その模式的な断面を示している。
【0010】
図1に例示する構成において、射出ユニット10は、可塑化部2および射出部4の2つの部分を含む。これらのうち射出部4は、射出シリンダ41と、射出シリンダ41内に位置する射出軸42とを有する。本明細書において、「射出軸」は、射出シリンダ(バレルとも呼ばれる)の内部に配置された射出プランジャまたは射出スクリュを包括する用語として用いられる。これ以降の説明では、「射出プランジャ」を単に「プランジャ」と称する。射出スクリュの例は、後に説明するインラインスクリュ等である。
図1に示す例において、射出軸42は、射出シリンダ41の軸に沿って往復動作可能に構成されたプランジャである。
【0011】
射出部4は、射出駆動装置43をさらに有している。射出駆動装置43は、射出軸42(ここではプランジャ)を駆動する任意のアクチュエータである。射出駆動装置43として、油圧シリンダまたは電動シリンダを例示できる。
【0012】
図1に例示する構成において、射出シリンダ41、射出軸42および射出駆動装置43は、概ね直線状にこの順で配置されている。以下では、説明の便宜のために、射出部4の射出シリンダ41側を「前側」または「前方」、射出駆動装置43側を「後側」または「後方」のように呼ぶことがある。射出駆動装置43は、制御装置7からの指示に基づき、射出シリンダ41内部で射出軸42を前後に駆動する。
【0013】
図1に示す例において、射出シリンダ41の先端にはノズルシリンダ45が接続されている。
図1に示す例のように、射出シリンダ41およびノズルシリンダ45は、ヒータ47(例えばバンドヒータ)が外周面に巻かれることにより、所定の温度に加熱可能に構成され得る。
【0014】
ノズルシリンダ45は、射出シリンダ41とは反対側にノズル取付孔451を有する。ノズルシリンダ45は、射出ノズル46を着脱自在に構成される。例えば、ノズル取付孔451の内壁は、雌ねじ部を有する。この場合、射出ノズル46は、その後端部に、ノズル取付孔451の雌ねじ部に対応した形状の雄ねじ部が設けられることにより、ノズルシリンダ45に対して着脱可能とされる。射出シリンダ41およびノズルシリンダ45と同様に、射出ノズル46は、例えば、コイルヒータ等のヒータ48が外周面に巻かれることにより、所定の温度に加熱可能に構成され得る。
【0015】
この例では、ノズルシリンダ45の側面にジャンクション3が接続されており、ジャンクション3を介して、ノズルシリンダ45に可塑化部2が接続される。
図1に模式的に示すように、可塑化部2は、可塑化シリンダ21と、可塑化シリンダ21内に位置する可塑化スクリュ23と、逆止装置25と、可塑化スクリュ駆動装置27と、ヒータ29とを有する。可塑化シリンダ21は、ホッパー211をその後端部に有する。
【0016】
図1に模式的に示すように、ノズルシリンダ45の内部には、ジャンクション3と射出シリンダ41とを接続する供給流路と、射出シリンダ41と射出ノズル46とを接続する排出流路とが設けられている。すなわち、
図1に示す射出成形機1は、いわゆるスクリュプリプラ式射出成形機である。後の説明から理解されるように、本発明は、スクリュプリプラ式射出成形機に限定されず、インラインスクリュ式射出成形機にももちろん適用が可能である。
【0017】
図2は、射出ノズル46に代えて粘度測定ユニット5をノズルシリンダ45に取り付けた状態の射出ユニット10を示す。本実施形態において、ノズルシリンダ45は、ノズル取付孔451を有することにより、射出ノズル46を粘度測定ユニット5に換装可能である。
【0018】
粘度測定ユニット5は、内部に流路が形成された測定シリンダ50を含む。
図2に例示する構成において、測定シリンダ50は、後部シリンダ51、前部シリンダ52および締結手段53を有する。後部シリンダ51と前部シリンダ52は、締結手段53によって結合される。締結手段53の例は、後述する
図4および
図5に示す、カバーナット531である。前部シリンダ52の後端部には、カバーナット531の内側面に形成された雌ねじに対応した形状の雄ねじ部が形成され得る。前部シリンダ52は、締結手段53としての例えばカバーナット531により後部シリンダ51に結合され、前部シリンダ52と後部シリンダ51とが一体とされることにより、前部シリンダ52内の流路が後部シリンダ51内の流路と連通する。後述するように、前部シリンダ52には、キャピラリーダイおよびスリットダイの少なくとも一方が取り付けられる。前部シリンダ52には、流路内を流れる流体(典型的には溶融樹脂)の圧力を測定する圧力センサも取り付けられる。
【0019】
図2に模式的に示すように、後部シリンダ51の後端がノズルシリンダ45のノズル取付孔451に挿入されることにより、粘度測定ユニット5がノズルシリンダ45に結合される。このように、ノズルシリンダ45は、射出ノズル46だけでなく粘度測定ユニット5を着脱可能に構成されている。ここで、射出ノズル46および粘度測定ユニット5は、ノズルシリンダ45を用いて間接的に射出シリンダ41に着脱可能であるといえる。ノズルシリンダ45は、射出シリンダ41の一部として構成される場合もあり得る。その場合、射出ノズル46および粘度測定ユニット5は、直接的に射出シリンダ41に着脱可能であるといえる。本明細書における、「粘度測定ユニット5を着脱可能な射出シリンダ41」は、粘度測定ユニット5を直接的に着脱可能な射出シリンダ41と、粘度測定ユニット5を間接的に着脱可能な射出シリンダ41との両方を包含するように解釈される。
【0020】
後に詳しく説明するように、射出成形機1は、ノズルシリンダ45を介して射出シリンダ41に粘度測定ユニット5を取り付けた状態で、粘度測定ユニット5内を流れる成形材料(例えば溶融樹脂)の粘度を測定可能とされている。射出成形機1は、例えば、動作のモードを制御装置7の指示に基づき成形モードと粘度測定モードとの間で切替え可能に構成され得る。
【0021】
粘度測定モードでは、射出成形機1の制御装置7は、予め設定されたせん断速度の値と、射出シリンダ41の幾何学的性状から決まるパラメータの値とを用いて、所定の関係式に基づき射出速度を算出する。制御装置7は、さらに、その算出された値を粘度測定時の射出速度に自動で設定し、射出軸42をその射出速度の下で動作させて成形材料を粘度測定ユニット5から排出させる。
【0022】
この時、粘度測定ユニット5の圧力センサにより、成形材料である溶融樹脂の圧力の値を実際の成形時に近い状態で取得することができる。制御装置7は、圧力センサから得られた測定値と、粘度測定ユニット5に取り付けられたダイのキャピラリーまたはスリットの形状を規定するパラメータの値とに加えて、射出速度の算出に用いたせん断速度の値に基づき、所定の関係式から成形材料の粘度を算出する。算出された粘度の値は、射出成形機1のオペレータに提示される。オペレータは、測定で得られた粘度を参考にして実際の成形時の条件を決定することができる。
【0023】
本発明の実施形態によれば、予め設定されたせん断速度の値に基づいて、粘度測定モードで使用する射出速度が自動で設定されるので、オペレータの経験または勘に依存しない形での精度の高い粘度測定を実行することが可能になる。また、このとき、本発明の典型的な実施形態では、射出速度の算出に利用するせん断速度として、適切な範囲から選ばれた3つ以上の値が用意される。そして、これらせん断速度の値毎に射出速度を算出し、個々のせん断速度に対応した射出速度を粘度測定時の候補としてオペレータに提示する。ただし、計算によって得られるこれら射出速度のうち、所定の範囲から外れた値は、オペレータに提示されないようにしている。言い換えれば、粘度測定に適した射出速度(典型的には複数の射出速度)が射出成形機の側で自動で計算されて、粘度測定時の条件として設定される。これにより、粘度測定に適した射出速度の下で、より精度に優れた粘度測定の実行を期待することができる。
【0024】
<2.粘度測定ユニット5の詳細>
図3および
図4は、
図2に示す粘度測定ユニット5の外観の一例を示す。
図5は、測定シリンダ50内部の流路を含む面で粘度測定ユニット5を切断したときの断面の一例を模式的に示す。上述したように、粘度測定ユニット5は、後部シリンダ51、前部シリンダ52およびカバーナット531の3つの部材を有する測定シリンダ50を含んでいる。
図3~
図5に示す例のように、粘度測定ユニット5は、カバーナット531の外周面に巻き付けられたバンドヒータ67をさらに含んでいてもよい。
【0025】
図3に示すように、ここでは、粘度測定ユニット5は、流路切替ピン64と、固定プレート65とをさらに含んでいる。流路切替ピン64は、前部シリンダ52の中央付近に設けられた流路切替ピン取付孔522(
図5参照)の内部において前部シリンダ52の軸周りに回転自在に流路切替ピン取付孔522に挿入されている。固定プレート65は、前部シリンダ52の前面にボルト等によって固定される板状部材であり、中央付近に貫通孔を有する。
図3に示す例では、固定プレート65の中央付近に設けられた貫通孔から流路切替ピン64の一部が露出されている。固定プレート65は、流路切替ピン64の他の一部を覆うことにより、前部シリンダ52からの流路切替ピン64の脱落を防止する。
【0026】
図3に示す例では、前部シリンダ52は、その側面に開口する、第1穴部525および2つの第2穴部526を有している。第1穴部525は、後述する圧力センサ61を前部シリンダ52に取り付けるために設けられている。第2穴部526は、位置決めロッド66を挿入するための貫通孔である。第2穴部526のそれぞれは、前部シリンダ52側面の開口から前部シリンダ52の中央付近まで前部シリンダ52の内部において径方向に延びる。
図3では、これらの第2穴部526のうちの1つに、T字状の位置決めロッド66が差し込まれた状態が描かれている。ここでは、前部シリンダ52は、さらに、前面の2箇所に第3穴部527を有する。後述するように、これらの第3穴部527は、内部にヒータを配置するための空間を規定する。
【0027】
図4に示すように、ここでは、粘度測定ユニット5は、それぞれが測定シリンダ50に取り付けられた第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63をさらに有している。
図4に示す例では、これらのダイ62、63は、円筒状の前部シリンダ52の側面の周方向に間隔をあけて配置されている。
【0028】
図5を参照する。後部シリンダ51は、フランジ513と、プラグ部512とを有する。フランジ513は、カバーナット531によって後部シリンダ51と前部シリンダ52とが互いに結合された状態において、カバーナット531の後端の壁面531aと接する部分である。カバーナット531の壁面531aは、後部シリンダ51を前部シリンダ52に向けて押し付ける機能を有する。後部シリンダ51のプラグ部512は、粘度測定ユニット5のうちカバーナット531よりも後方に突出する部分であり、ノズルシリンダ45への粘度測定ユニット5の取り付け時にノズルシリンダ45のノズル取付孔451に挿入される。ノズル取付孔451の内壁に雌ねじ部が形成されている場合、プラグ部512の外周面には、ノズル取付孔451の雌ねじに対応する雄ねじ部が設けられる。この場合、これら雌ねじおよび雄ねじ部の嵌め合わせにより、プラグ部512は、ノズル取付孔451に結合される。
【0029】
後部シリンダ51は、後部シリンダ51の前後を貫く流路511を内部に有する。流路511は、測定シリンダ50を含む粘度測定ユニット5がノズルシリンダ45に取り付けられた状態においてノズルシリンダ45内部の流路に連通する(
図2参照)。また、
図5に示すように、後部シリンダ51の流路511は、後部シリンダ51と前部シリンダ52とが結合された状態において、前部シリンダ52内部の流路521とも連通する。
【0030】
上述したように、前部シリンダ52は、その側面に第1穴部525を有する。
図5に模式的に示すように、第1穴部525は、前部シリンダ52の軸方向に延びる流路521にまで達し、この第1穴部525内に圧力センサ61が配置される。圧力センサ61は、流路521を流れる成形材料の圧力の値を取得する圧力トランスデューサである。
図5に模式的に示すように、前部シリンダ52の流路521は、流路切替ピン取付孔522内の流路切替ピン64に設けられた流路641まで延びる。
【0031】
図6は、
図5のVI-VI断面を示す。
図6は、測定シリンダ50の軸方向に見たときの測定シリンダ50の断面を模式的に示す。
図6に網掛けの円で模式的に示すように、前部シリンダ52の前面に開口する第3穴部527のそれぞれの内部には、ヒータ68(カートリッジヒータ)が配置される。
【0032】
本発明の典型的な実施形態において、粘度測定ユニット5は、2以上のダイを取り付け可能に構成される。
図6に示す例では、測定シリンダ50の前部シリンダ52の側面に設けられた2つのダイ取付孔524の一方に第1のキャピラリーダイ62が、他方に第2のキャピラリーダイ63が取り付けられている。ここで、第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63は、相異なる仕様のダイである。より詳細には、第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63は、それぞれ、第1キャピラリー621および第2キャピラリー631を有し、キャピラリーの内径および有効長の少なくとも一方は、これらのダイの間で異なる。
【0033】
ここでは、前部シリンダ52は、それぞれが前部シリンダ52の中心から径方向に延びる2つの流路523を有する。
図6に模式的に示すように、流路523の一方は、第1のキャピラリーダイ62の第1キャピラリー621に連通し、他方は、第2のキャピラリーダイ63の第2キャピラリー631に連通している。
【0034】
図6に示す例では、2つの流路523のうち、第2キャピラリー631に連通する1つは、流路切替ピン取付孔522内部に配置された流路切替ピン64の流路641に接続されている。
図5および
図6から理解されるように、流路切替ピン64は、軸方向から径方向に90度折れ曲がる形状の流路641を有している。すなわち、
図6に示す状態において、射出ユニット10の射出部4から粘度測定ユニット5に送り出された成形材料は、上述の流路511および流路521、ならびに、流路切替ピン64の流路641を経由して第2のキャピラリーダイ63に到達し、第2キャピラリー631から前部シリンダ52の外部に排出される。
【0035】
図5に示すように、流路切替ピン64は、流路切替ピン64の前面に開口するソケット642を有する。ソケット642は、例えば六角穴であり、六角レンチの先端に整合した形状とされる。本実施形態では、流路切替ピン64は、前部シリンダ52の中心軸上に位置し、
図6に示す状態から、第2穴部526から位置決めロッド66を抜き、固定プレート65中央の貫通孔を介して六角レンチを流路切替ピン64のソケット642に差し込んで流路切替ピン64を軸周り反時計回りに回転させることにより、成形材料の流れる経路を第1のキャピラリーダイ62側に切り替えることができる。
【0036】
ここでは、流路切替ピン64は、その側面に凹部643を有する。
図6から理解されるように、凹部643は、流路切替ピン64の中心に関して流路641の出口とは対称の位置に設けられる。また、流路641の出口といずれかの流路523とが接続された時、第2穴部526も流路切替ピン64の中心に関して流路641の出口とは対称の位置にある。したがって、流路切替ピン64を回転させた後、もう1つの第2穴部526から位置決めロッド66を挿入し、流路切替ピン64の凹部643に位置決めロッド66の先端を差し込むことにより、流路切替ピン取付孔522内における流路切替ピン64の向きを固定することができる。これにより、流路切替ピン取付孔522内での流路切替ピン64の意図しない回転を防止できる。
【0037】
このように、本発明の射出成形機1は、粘度測定ユニット5が着脱可能とされることにより、相異なる仕様の2以上のダイの間で成形材料の排出先を切り替え可能に構成される。ここで説明した例では、前部シリンダ52が有する流路523、ダイ取付孔524および第2穴部526の数は、いずれも2つである。しかしながら、この例に限定されず、前部シリンダ52には、粘度測定に使用しようとするダイの個数に応じた数の流路523、ダイ取付孔524および第2穴部526が設けられ得る。粘度測定ユニット5は、3以上のダイを着脱可能に構成されてもよい。これら複数のダイは、
図6に示す例のように前部シリンダ52の中心軸に垂直な同一平面内に配置され得る。ただし、この例に限定されず、複数のダイは、前部シリンダ52の中心軸に沿って互いにずれた位置に配置されることもあり得る。粘度測定ユニット5は、後述するように、キャピラリーダイに代えて、あるいは、キャピラリーダイに加えて、スリットダイを着脱可能に構成されてもよい。
【0038】
本実施形態において、ダイ取付孔524のそれぞれの内壁には、雌ねじ部が形成され、第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63のそれぞれの外周面には、ダイ取付孔524の雌ねじ部に対応した形状の雄ねじ部が設けられる。また、第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63には、工具を挿入可能なソケット622および632がそれぞれ設けられる。ソケット622および632は、例えば六角穴であり、六角レンチの先端を受け入れ可能に構成される。この場合、六角レンチを利用してダイ取付孔524へのダイの着脱を容易に実行することができる。
【0039】
図7は、第1のキャピラリーダイ62の断面を拡大して模式的に示す。第1のキャピラリーダイ62は、第1キャピラリー621を有する。第1キャピラリー621は、所定の流入角、内径および有効長の断面円形状を有する。
図7中に示す「d
1」および「L
1」は、それぞれ、第1キャピラリー621の内径および有効長を表す。ここで、キャピラリーの流入角とは、キャピラリー入口に形成され得るテーパー部のテーパー角度の大きさを指す。
図7は、テーパー部を有しない形状の第1キャピラリー621を例示している。テーパー部を有しないキャピラリーの流入角は、180°である。
【0040】
図8は、第2のキャピラリーダイ63の断面を拡大して模式的に示す。ここでは、第2のキャピラリーダイ63は、
図7に示す例と同様に、テーパー部の設けられていない第2キャピラリー631を有している。第2キャピラリー631は、内径d
2と、第1キャピラリー621の有効長L
1よりも小さな有効長L
2とを有する。簡単のために、以下では、特に断りのない限り、第2キャピラリー631の内径d
2は、
図7に示す第1キャピラリー621の内径d
1と同じであるとする。本実施形態の第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63のように、テーパー部の無いキャピラリーを有するダイを適用する場合、キャピラリー以外の部分の流路の径は、圧力損失を無視できる程度の大きさとされていればよい。
【0041】
<3.粘度測定モードにおける射出成形機1の動作例>
図9は、射出成形機1の制御装置7の機能を説明するためのブロック図である。制御装置7は、射出ユニット10および型締ユニット8を制御するほか、粘度測定ユニット5によって取得された、成形材料の圧力値に基づき、成形材料の粘度を算出する。
【0042】
図9に例示する構成において、制御装置7は、演算装置71と、記憶装置72と、入力装置73と、表示装置74とを有する。演算装置71は、CPU等の演算回路から構成され、射出成形機1の各部を制御するための種々の演算を行うほか、粘度測定に係る演算を行う。記憶装置72には、射出成形機1の各部を制御するためのプログラム、演算装置71による演算に必要なデータ等が格納される。記憶装置72は、RAM、ROMおよび補助記憶装置の任意の組み合わせにより実現され得る。これらの装置は、ハードウェアおよびソフトウェアの任意の組み合わせにより実現されてよい。
【0043】
入力装置73は、例えばキーボードのような入力インターフェースであり、表示装置74は、例えば液晶ディスプレイのような出力インターフェースである。入力装置73および表示装置74は、それぞれ単体の装置であってもよいし、タッチパネルのように、両者の機能が統合された単一のデバイスであってもよい。本実施形態では、入力装置73および表示装置74の機能を備えるデバイスとして、タッチパネルおよび複数の物理ボタンの両方を備える操作盤を例示する。
【0044】
本実施形態において、記憶装置72には、3つ以上の異なるせん断速度の値が予め格納されている。以下では、kを自然数として、これらせん断速度の値を包括的にγkと表記する。本実施形態において、せん断速度の値γkは、成形材料としての溶融樹脂が非ニュートン流体としての振る舞いを示す領域、すなわち、せん断速度の増大に応じて粘度が低下する領域から選ばれる。記憶装置72に予め記憶されるγkは、1*101sec-1以上5*105sec-1以下(「*」は乗算を表す)の範囲内で可能な限り広く散らばって分布する3つ以上の異なる値であるとよい。あるいは、記憶装置72に予め記憶されるγkは、1*101sec-1以上5*105sec-1以下の範囲内であって対数スケール上でなるべく等間隔に分布する3つ以上の異なる値であるとよい。記憶装置72に予め記憶されるγkが、1*101sec-1以上5*105sec-1以下の範囲内で可能な限り広く散らばって分布するとともに、対数スケールで表現したときになるべく等間隔に分布する3つ以上の異なる値であるとより有益である。
【0045】
本実施形態において、記憶装置72に予め記憶されるγkは、1*101sec-1以上5*105sec-1以下の範囲内から選ばれた値である。せん断速度の値γkとして、例えば、Rを1以上5以下の数として、R*101sec-1、R*102sec-1、R*103sec-1、R*104sec-1およびR*105sec-1の5つの値を採用することができる。
【0046】
以下に説明するように、本発明の典型的な実施形態では、JIS K 7199:1999に準じた方法で、見かけの粘度ηapを算出する。
【0047】
見かけの粘度η
ap(単位はPa・s)は、見かけのせん断応力τ
ap(単位はPa)を見かけのせん断速度γ
ap(単位はsec
-1)で割ることにより求められる。本実施形態では、見かけのせん断速度γ
apに代えて、上述のせん断速度γ
kを用い、見かけの粘度η
apとして下記の粘度η
kを算出する。すなわち、上述の範囲内にあるせん断速度γ
kが与えられたとき、下記の関係式(3)により、粘度η
kを求める。
【数3】
【0048】
キャピラリーダイを用いる場合、見かけのせん断応力τ
apは、そのダイのキャピラリーの幾何学的形状と、そのダイを使用してせん断速度γ
kの下で成形材料を流した時の成形材料の圧力Pの測定値(単位はPa)とから、下記の関係式(4)に基づいて算出できる。
【数4】
式(4)中、dは、キャピラリーダイが有するキャピラリーの内径であり(単位はmm)、Lは、キャピラリーの有効長(単位はmm)である。例えば、上述の第1のキャピラリーダイ62を用いるのであれば、式(4)中のdおよびLとして、それぞれ、第1キャピラリー621の内径d
1および有効長L
1(
図7参照)を適用すればよい。同様に、
図8に示す第2のキャピラリーダイ63を用いるのであれば、式(4)中のdおよびLとして、それぞれ、第2キャピラリー631の内径d
2および有効長L
2を適用する。なお、後述するバーグレー(Bagley)補正を行わない場合、見かけのせん断応力τ
apの算出にあたり、測定誤差の観点からは、第1のキャピラリーダイ62を使用した方が有利である。
【0049】
ここで、成形材料の射出速度をV(単位はmm・sec
-1)としたとき、単位時間にダイを通過する成形材料の体積である体積流量Q(単位はmm
3・sec
-1)と、見かけのせん断速度γ
apとの間には、下記式(5)の関係があることが知られている。下記式(5)中、Dは、射出シリンダの内径または射出軸の外径(単位はmm)を表す。
図2に例示する構成であれば、射出軸42の外径、すなわち、射出シリンダ41内に配置されたプランジャの外径をDとして採用すればよい。
【数5】
【0050】
上記式(5)中の見かけのせん断速度γ
apとして上述のせん断速度γ
kを用いれば、下記の関係式(1)を得る。
【数1】
【0051】
本実施形態では、上記式(1)を用いて、記憶装置72に予め保持しておいたせん断速度γkに応じた射出速度Vkをγk毎に算出する。すなわち、せん断速度γkとして例えば5つの値が記憶装置72に予め保持されているのであれば、5つの射出速度Vkが算出される。各Vkの算出は、演算装置71によって実行され得る。この処理は、記憶装置72に格納されたプログラムに記載の指示を演算装置71が読み出すことにより実行されてもよい。
【0052】
後述するように、本発明の典型的な実施形態では、このようにして得られた射出速度Vkの下で成形材料の圧力測定を行い、測定によって得られる圧力値を用いて、上記式(3)および式(4)から成形材料の粘度ηkを算出する。ただし、本実施形態では、上記式(1)から得られる射出速度Vkのうち、所定範囲外にあるVkについては、圧力測定の際の射出速度に採用しない。すなわち、予め設定されたせん断速度の数が例えば5つ(すなわち、k=5の場合)であっても、粘度測定に実際に適用される射出速度の数が5つよりも少ないことがあり得る。
【0053】
射出速度の所定範囲とは、例えば、0.05mm・sec-1以上200mm・sec-1以下の範囲である。射出速度Vkの値がこの範囲内にあれば、使用する金型の仕様に依存する部分はあるものの、1*106sec-1程度までの大きさのせん断速度γkに対応可能である。
【0054】
射出成形機1上での成形材料の粘度測定は、
図2に示すように、射出ユニット10の射出シリンダ41にノズルシリンダ45を介して粘度測定ユニット5を取り付けて行う。ここでは、粘度測定ユニット5の前部シリンダ52には、圧力センサ61に加えて、例えば、上述の第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63が取り付けられている。後述するように、キャピラリーダイに代えて、所定の形状のスリットを有するスリットダイを前部シリンダ52に取り付けて粘度の測定を実行してもよい。
【0055】
図10は、粘度測定モードにおいて制御装置7のタッチパネルに表示される画像の一例を示す。
図10に示すGUI8は、モード切替ボタン82を備えている。
図10は、制御装置7のタッチパネルに表示されたモード切替ボタン82を押下して、操作盤上の画面を「成形モード」から「粘度測定モード」に遷移させた後の状態を示している。なお、ノズルシリンダ45に接触スイッチまたは非接触スイッチを設け、粘度測定ユニット5の取り付けを機械的にまたは電気的に検知して射出成形機1のモードが粘度測定モードに自動的に切り替わるようにしてもよい。
【0056】
図11は、本発明の実施形態に係る例示的な粘度測定方法の概略を示すフローチャートである。
図11に示すように、本発明の実施形態に係る粘度測定方法は、概略的には、測定シリンダ50に取り付けられたダイのキャピラリーまたはスリットに成形材料を流す工程S1と、粘度測定ユニット5の圧力センサ61により、測定シリンダ50内を流れる成形材料の圧力値を取得する工程S2と、取得した圧力値を用いて、射出速度V
kに応じた粘度η
kを算出する工程S3とを含む。
【0057】
(キャピラリーまたはスリットに成形材料を流す工程S1)
図10に示す例において、GUI8は、上述のモード切替ボタン82に加えて、測定条件入力フォーム811を含んでいる。測定条件入力フォーム811は、測定シリンダ50に取り付けられたダイのキャピラリーの内径および有効長の入力欄を有する。
図10に示す例において、測定条件入力フォーム811中の「ダイ径」および「ダイ長さ」が、キャピラリーの内径および有効長にそれぞれ対応している。流路切替ピン取付孔522に挿入された流路切替ピン64の流路641が、例えば
図6に示す向きにあれば、測定シリンダ50に導入された成形材料は、流路641を介して第2のキャピラリーダイ63に選択的に流入する。したがって、この場合、射出成形機1のオペレータは、測定条件入力フォーム811中の「ダイ径」および「ダイ長さ」に、第2キャピラリー631の内径d
2の値と、有効長L
2の値とをそれぞれ入力する。
【0058】
また、
図10に示す例において、測定条件入力フォーム811は、粘度測定に使用する射出速度の入力欄も有している。ここでは、「射出速度1」~「射出速度5」の5つの欄が画面に表示されている。これらの欄は、従来、オペレータが射出速度の候補を手計算で求めてそれらを入力していた欄である。
【0059】
本実施形態では、これら「射出速度1」~「射出速度5」の欄に、予め設定されたせん断速度γkに基づいて制御装置7によって算出された射出速度Vkの値が粘度測定の際の射出速度の候補として自動で入力される。すなわち、本実施形態によれば、オペレータが自身の経験と勘とを頼りに射出速度を都度計算して射出成形機1に入力する必要がない。
【0060】
射出シリンダ41の内径または射出軸42の外径は、射出成形機1の仕様によって決まる既知のパラメータである。すなわち、上述の関係式(1)中のDの値は、既知であり、記憶装置72に予め保持されている。制御装置7の演算装置71は、測定条件入力フォーム811中の「ダイ径」および「ダイ長さ」の入力を受け付けると、Dの値(ここではプランジャの外径)を記憶装置72から呼び出し、関係式(1)に基づきγk毎のVkを算出し、粘度測定の際の射出速度に自動設定する。本実施形態では、制御装置7は、計算によって得られたVkの値を粘度測定の際の射出速度として「射出速度1」~「射出速度5」の5つの欄に表示させる。
【0061】
ただし、Vkの算出に用いるパラメータの値によっては、粘度測定に適当でない結果が得られることがある。極端な場合には、射出速度Vkとして、射出駆動装置43の仕様の外の値が得られることもあり得る。そこで、本実施形態では、制御装置7によって算出された射出速度Vkのうち、所定範囲内(例えば0.05mm・sec-1以上200mm・sec-1以下の範囲内)にあるVkの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定するようにしている。言い換えれば、制御装置7は、所定範囲内にあるVkの値を表示装置74上に表示させ、所定範囲から外れたVkが得られた場合には、所定範囲外のそれらVkの値については「射出速度1」~「射出速度5」の欄に表示させない。
【0062】
ここでは、せん断速度γ
kとして予め5つの値を用意しているので、GUI8上に表示される射出速度の候補は、最大でも5つである。例えば、「射出速度1」~「射出速度5」の欄のいくつかが、数字の入らないブランクとして表示されることもあり得る。
図10に示す例では、「射出速度1」~「射出速度4」として、それぞれ、0.2mm/s、2mm/s、20mm/s、200mm/sがGUI8上に提示されている一方で、「射出速度5」の欄は、数値の入っていないブランクとされている。
【0063】
なお、後述するように、GUI8上に表示される射出速度の候補が少なくとも3つとなるようにせん断速度γkの値を選んでおくと有利である。上述の式(1)に代入するdおよびDの値として、例えば、次のようなケースが想定される。
(a)Dが12mm以上22mm以下の範囲内であってdが1mm以上3mm以下の範囲内
(b)Dが23mm以上27mm以下の範囲内であってdが1mm以上4mm以下の範囲内
(c)Dが28mm以上32mm以下の範囲内であってdが1.5mm以上4mm以下の範囲内
(d)Dが33mm以上39mm以下の範囲内であってdが1.5mm以上5mm以下の範囲内
(e)Dが40mm以上60mm以下の範囲内であってdが2mm以上5mm以下の範囲内
これらの各場合において、式(1)に代入するγkの値として、例えば、R*101sec-1、R*102sec-1、R*103sec-1、R*104sec-1およびR*105sec-1(Rは1以上5以下の数)の5つを採用したとすると、算出される5つのVkの値のうちの少なくとも3つは、0.05mm・sec-1以上200mm・sec-1以下の範囲内に入る。
【0064】
なお、式(1)に代入するγ
k、dおよびDの値によっては、V
kとして切りの良い数字が得られないこともある。この場合は、算出されたV
kの値の範囲に応じた丸めを制御装置7に実行させてもよい。例えば、V
kの計算結果が1未満であれば計算結果を0.01の位で四捨五入し、1以上10未満の範囲内であれば0.1の位で四捨五入し、10以上であれば1の位で四捨五入してもよい。そのうえで、所定範囲内(この場合は、例えば0.1mm・sec
-1以上200mm・sec
-1以下の範囲内)の値をV
kとして採用し、粘度測定の際の射出速度の候補として自動で設定されるようにしてもよい。
図10は、上述のRの値を5に等しいとし、γ
kとして、5*10
1sec
-1、5*10
2sec
-1、5*10
3sec
-1、5*10
4sec
-1および5*10
5sec
-1の5つの値を採用し、d=2mm、D=16mmとしたときの例である。ただし、
図10では、適当な丸めを実行した後に小さな値から順に「射出速度1」~「射出速度4」の欄に設定値が入力されている。γ
kの値が5*10
5sec
-1のとき、V
kは上述の範囲外となるので、ここでは、「射出速度5」の欄は、数字の入らないブランクとされている。
【0065】
このように、本発明の実施形態に係る粘度測定方法は、制御装置7により、所定の関係式、例えば上述の関係式(1)に基づいてVkを算出し、所定範囲内にあるVkの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する工程を含む。粘度測定の際の射出速度を自動で算出し、かつ、粘度測定に適当な射出速度の値を選択的に自動で設定するようにしたことにより、オペレータの経験および勘によらない、精度に優れた粘度測定を実行し得る。なお、測定条件入力フォーム811に例えば「自動入力ボタン」を設けてもおいてよい。オペレータが自動入力ボタンを押下することにより、予め設定されたせん断速度γkに基づいて制御装置7によって算出された射出速度Vkの値が粘度測定の際の射出速度の候補として「射出速度1」~「射出速度5」の欄に自動で入力されるようにしてもよい。
【0066】
オペレータは、GUI8上に表示された射出速度の候補のうちの1つを選択する。例えば、「射出速度1」~「射出速度5」の欄(
図10に示す例であれば、「射出速度1」~「射出速度4」の欄)に表示された射出速度のうちの1つをオペレータがタッチすることにより、射出駆動装置43に渡すべきV
kの値が演算装置71に取得される。所定範囲内にあるV
kの値を選択的に表示装置74上に表示させることにより、粘度測定に不適当な射出速度をオペレータが誤って選択してしまうことを防止できる。
【0067】
オペレータによって射出速度が選択され、GUI8の測定開始ボタン83が押下されると、制御装置7は、選択された射出速度Vkで射出軸42が駆動されるように射出駆動装置43に制御信号を送る。すなわち、入力されたデータおよび設定値に基づき、成形材料が粘度測定ユニット5から射出されて成形材料の粘度測定が実行される。
【0068】
射出シリンダ41内部で射出軸42の先端が射出速度V
kの下でノズルシリンダ45に向けて移動させられることにより、射出シリンダ41内部の成形材料がノズルシリンダ45を介して測定シリンダ50内部の流路に向けて送り出される。射出成形機1の射出部4は、射出駆動装置43に加えて、エンコーダ44(
図9参照)を有していてもよい。エンコーダ44は、射出軸42としてのプランジャの、射出シリンダ41内での軸方向に沿った位置を読み取るセンサである。エンコーダ44で読み取った、射出軸42の位置情報と、例えばタイマーによる計時とにより、射出軸42の移動速度(射出速度に相当)を算出可能である。上述の式(3)を利用した粘度の算出には、設定値としての射出速度V
kを用いてもよいし、エンコーダ44の出力に基づいて算出した射出速度の実測値を用いてもかまわない。
【0069】
(測定シリンダ内を流れる成形材料の圧力値を取得する工程S2)
測定シリンダ50内部の流路に導入された成形材料は、圧力センサ61が取り付けられた前部シリンダ52を含む測定シリンダ50を介して、前部シリンダ52に取り付けられたキャピラリーダイに流入する。ここでは、測定シリンダ50に導入された成形材料は、流路511、521および641を順に通過して(
図5参照)、第2のキャピラリーダイ63に到達する。
【0070】
本実施形態における粘度の算出では、粘度測定ユニット5内を流れる成形材料の圧力の実測値が用いられる。成形材料が前部シリンダ52の流路521を通過する過程で、制御装置7は、圧力センサ61により、流路521を流れる成形材料の圧力の測定値を取得することができる。なお、圧力センサ61によって検出される圧力値は、成形材料の射出中に変動し得る。粘度の算出に使用する圧力値としては、検出される圧力値がほぼ一定になった時点の値を採用してよい。あるいは、射出軸42の駆動開始から一定期間経過後の所定の期間の時間的平均であってもよい。射出の後半では、成形材料の圧力はほぼ一定の範囲に収まることが期待されるからである。
【0071】
なお、測定シリンダ50中の流路における圧力センサ61の取り付け位置は、第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63よりも上流側であればよい。ただし、第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63のなるべく近くに圧力センサ61が位置していることが有利である。本実施形態では、圧力センサ61は、第1穴部525に固定されることにより、前部シリンダ52の流路521内を流れる成形材料の圧力を測定するようにされている。
【0072】
(射出速度V
kに応じた粘度η
kを算出する工程S3)
制御装置7の演算装置71は、圧力センサ61によって得られる測定値を受け取り、上述の関係式(3)および(4)に基づき、現在選択されている射出速度V
kの値に応じた粘度η
kを算出する。制御装置7は、計算によって得られた粘度η
kの値をオペレータに提示する。
図10に示す例では、粘度η
kの値が、圧力の測定に使用した射出速度V
kの値およびせん断速度γ
kの値とともに測定結果表示テーブル812の「今回」の行に表示されている。測定結果表示テーブル812は、GUI8のうち、現在の粘度測定によって得られたデータと、その時の測定に用いたパラメータとが表示させられる部分である。
【0073】
上述の、圧力の測定および粘度の算出は、射出速度の設定を変えて複数回実行され得る。本発明の典型的な実施形態では、所定範囲内にあるV
kの値のそれぞれ毎に圧力の測定および粘度の算出を行う。
図10に示す例であれば、制御装置7は、「射出速度1」~「射出速度4」の欄に示された射出速度毎に射出駆動装置43を動作させ、各射出速度の下での圧力の測定および粘度の算出を実行する。すなわち、V
kの値に応じた少なくとも4つの測定結果が得られる。制御装置7は、射出速度V
k、せん断速度γ
kおよび粘度η
kの値を測定毎に測定結果表示テーブル812に一覧表示する。
【0074】
このように、本実施形態では、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γkを記憶装置72に保持させておき、例えばダイのキャピラリーの内径dを入力すれば、射出軸42の仕様に応じた複数の射出速度が自動で入力されるようにしている。そのため、適切なせん断速度をオペレータが選んで射出速度を都度計算して入力するという手間を省くことができる。また、せん断速度γkとして、オペレータの経験または勘によらない値を予め用意しておくようにしているので、裏付けのある数値が粘度測定の際の射出速度Vkの算出に使用されることになり、測定条件のオペレータ毎のばらつきを排除し得る。すなわち、オペレータに依存しない、より精度の良い粘度測定を実現し得る。また、他のオペレータによって過去に得られた粘度の測定結果との比較も容易になる。
【0075】
なお、例えばダイのキャピラリーの内径dと、適切な射出速度Vkの値とを対応付けてテーブルの形で記憶装置72に保持させておき、そのテーブルの参照により、dの値に応じた射出速度Vkが自動で入力されるようにすることも可能である。しかしながら、本実施形態のように、キャピラリーの内径dの入力を受けて射出速度Vkを演算装置71に算出させるようにすることにより、これまでにない仕様のキャピラリーダイを新たに使用するような場合であっても、適切な射出速度を自動で提示させることができるという利点が得られる。
【0076】
粘度η
kの測定結果が得られたら、粘度η
kの値と、せん断速度の値γ
kとの関係を示すグラフを制御装置7に描画させるようにしてもよい。
図10に示す例において、GUI8は、選択ボタン851、選択解除ボタン852およびグラフ描画ボタン86を含んでいる。オペレータは、例えば、測定結果表示テーブル812に表示されたデータの1以上の行に対するタップ操作により、それらの行を仮選択することができる。次に、測定結果表示テーブル812の1以上の行が仮選択された状態でオペレータが選択ボタン851を押下することにより、仮選択された行が選択される。なお、選択解除ボタン852は、この時の選択を解除するためのボタンである。測定結果表示テーブル812中の1以上の行が選択された状態でグラフ描画ボタン86が押下されると、制御装置7は、選択された行のデータに基づき、せん断速度の値γ
kと、粘度η
kの値との関係を示すグラフを描画して表示装置74上に表示させる。例えば、制御装置7は、グラフ描画ボタン86の押下を検出して、両対数の、あるいは、片対数のレオロジー曲線(フローカーブと呼ばれることもある)をオペレータに提示する。
【0077】
図12は、グラフ描画ボタン86の押下により操作盤のタッチパネルに表示されるグラフの一例を示す。
図12は、相異なる3つの射出速度V
kの下での粘度η
kの測定結果をグラフの形で表示させた例である。
図12に示すグラフの横軸は、せん断速度γ
kを表し、縦軸は、粘度η
kを表している。
【0078】
図12に例示するように、粘度η
kの測定結果をせん断速度γ
k(あるいは射出速度V
k)に対応付けた形でグラフとしてオペレータに提示させることにより、オペレータは、成形の現場において成形材料の粘度特性を視覚的に、および、直感的に把握することが可能になる。すなわち、オペレータは、成形のたびに粘度を測定することなく、成形材料の粘度特性を容易に把握することができるようになる。グラフのデータは、例えば画像データとして、記憶装置72の補助記憶装置またはフラッシュメモリ等の外部記憶媒体75(
図9参照)に保存可能であってもよい。
【0079】
図12に示すように、ある1つのダイについて、粘度の測定に使用されるV
kの値が3つ以上であること、言い換えれば、プロットされる点が3つ以上あることが好ましい。せん断速度の値γ
kを横軸に、粘度η
kを縦軸にとったときに少なくとも直線でのフィッティングが可能になるからである。プロットされる点が4つ以上であってもよい。この場合、曲線回帰が可能になる。
【0080】
このように、粘度特性をグラフの形でオペレータに提示するには、少なくとも3つの異なる値の射出速度の下での成形材料の粘度測定が必要になる。このとき、粘度の測定に使用する射出速度の値に偏りがないこと、言い換えれば、粘度の測定の際に使用する射出速度の設定値が適切に分散していることが望ましい。このような、粘度測定に適した複数の射出速度を設定するには、通常、オペレータに高度な知識が要求される。そのため、経験の浅いオペレータにとっては、成形材料の粘度特性をグラフの形で取得することは、それほど容易なことではない。また、熟練したオペレータであっても、3つ以上の有効かつ互いに異なる射出速度を求めることは、煩雑であり、手間と時間を要する作業である。
【0081】
しかしながら、本発明の実施形態によれば、上述したように、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γkに基づき、これらγkに応じた複数の射出速度が自動で設定されるようにしている。そのため、オペレータによる煩雑な計算の必要を排しながらも適切な射出速度の下での粘度の測定を実現でき、成形材料の粘度特性を示すグラフをオペレータの熟練度によらずに取得することが可能である。
【0082】
制御装置7は、過去の粘度測定によって得られたデータに基づくグラフを描画可能に構成されていてもよい。
図10に例示する構成において、GUI8は、測定結果表示テーブル812に加えて、過去の粘度測定によって得られたデータを射出速度毎に一覧表示する読込結果表示テーブル813を含んでいる。
図10に示すように、ここでは、GUI8は、データ読込ボタン841も含んでおり、制御装置7は、データ読込ボタン841の押下を検出すると、記憶装置72の補助記憶装置または外部記憶媒体75に保存されているデータを参照してそれらを読込結果表示テーブル813に表示させる。
【0083】
オペレータは、測定結果表示テーブル812中のデータの選択と同じ要領で、読込結果表示テーブル813中のデータを選択できる。なお、測定結果表示テーブル812および読込結果表示テーブル813からのデータの選択において、仮選択のステップが省略されてもよい。例えば、これらテーブルへのオペレータによるタップ操作等により、テーブル中の行をオペレータが直接に選択できるようにしてもよい。この場合、選択ボタン851は、GUI8から省略され得る。
【0084】
読込結果表示テーブル813の複数の行が選択された状態でグラフ描画ボタン86がオペレータによって押下されたことを検出すると、制御装置7は、選択された行のデータに基づき、過去の粘度測定の結果をグラフの形で表示装置74上に表示させる。このとき、読込結果表示テーブル813に含まれるデータに加えて、測定結果表示テーブル812に含まれるデータをも選択できるようにし、測定結果に係る複数のグラフを1つの画面に重畳して表示させるようにしてもよい。
【0085】
図13は、直近の測定結果を示すグラフと、過去の測定結果を示すグラフとを重畳させた形で表示させた例を示す。
図13に示す例では、射出速度を共通としながらも、例えば異なるヒータ温度の下での測定で得られたデータがグラフC1~C3として画面に表示されている。このように、本実施形態によれば、測定時の条件が異なるデータ間、例えば測定日違いデータ間での粘度の比較も容易であり、材料のロット違い等による成形材料の振る舞いの差異等も視覚的に把握することが可能になる。また、射出成形機1の各部のヒータ温度の調節等により、成形材料の振る舞いを、良好な結果が得られた過去の成形時における振る舞いに近づけること(成形条件のチューニング)も容易になる。したがって、より適した条件を選択しての量産が可能になる。
【0086】
(成形材料の排出先の切り替え)
図5および
図6を参照しながら説明したように、本実施形態では、流路切替ピン取付孔522内に配置された流路切替ピン64を測定シリンダ50の軸周りに回転させて流路641の出口の向きを変えることにより、成形材料の排出先を複数のダイの間で変えることができる。本発明の実施形態に係る射出成形機1によれば、射出部4に大きな変更を加えること無く、成形材料の排出先を複数のダイの間で容易に切り替えることができる。例えばバーグレー補正を実施しようとする場合には、粘度の算出にあたり、2回の圧力測定が必要となる上、ダイの切り替えが必要である。以下に説明するように、本発明の実施形態によれば、粘度測定のための装置を複数台用意する必要なく、射出成形機1上で比較的容易にバーグレー補正を実施し得る。
【0087】
バーグレー補正は、ダイのキャピラリーの入口および出口で生じる圧力損失を考慮して真のせん断応力τを求めるための補正である。成形材料の粘度をより正確に知りたい場合は、バーグレー補正を実施することが有利である。上述したように、GUI8は、モード切替ボタン82を含んでいる。制御装置7は、モード切替ボタン82の押下により、
図10に示す「シンプル測定モード」から、
図14に示す「バーグレー補正モード」に画面を遷移させるように構成されていてもよい。このように、射出成形機1の「測定モード」は、2以上のモードを有していてもよい。射出成形機1の「測定モード」は、後述するラビノビッチ補正を実施するモードをさらに有していてもよい。
【0088】
図14に例示する、「バーグレー補正モード」の測定条件入力フォーム811は、「ダイ長さ」の入力欄を2つ有している。例えば、上述の第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63が測定シリンダ50に取り付けられている場合、2つの「ダイ長さ」の入力欄に、第1キャピラリー621の有効長L
1と、第2キャピラリー631の有効長L
2とを入力する。
【0089】
キャピラリーを成形材料が通過する時、一般に、キャピラリーの入口、内部および出口で圧力損失が発生する。キャピラリーダイ使用時の成形材料の圧力値Pから、そのキャピラリーの有効長が仮に0mmであるとしたときの推定圧力P
0を差し引くことにより、キャピラリー入口およびキャピラリー出口における圧力損失が発生しなかったと仮定したときの圧力値(P-P
0)を推定できる。このとき、バーグレー補正を考慮した真のせん断応力τは、以下の式(6)で表される。
【数6】
【0090】
ここで、推定圧力P
0は、あるキャピラリーダイを使用した時に得られる圧力値と、そのダイとは異なる仕様の他のあるキャピラリーダイを使用した時に得られる圧力値とが分かれば求めることができる。例えば、上述の第1のキャピラリーダイ62を使用した時の成形材料の圧力値がP
1、第2のキャピラリーダイ63を使用した時の成形材料の圧力値がP
2であったとすれば、第1のキャピラリーダイ62に関する推定圧力P
0を下記の式(7)により求めることができる。
【数7】
【0091】
上記の式(7)から明らかなとおり、バーグレー補正を行う場合には、使用するダイを切り替えて少なくとも2回の圧力測定を行い、第1のキャピラリーダイ62使用時の圧力値P1と、第2のキャピラリーダイ63使用時の圧力値P2とを把握しておく必要がある。したがって、バーグレー補正を行いたい場合には、使用するダイを簡便に切り替えられると有益である。
【0092】
図5を参照しながら説明したように、本発明の実施形態によれば、成形材料の排出先を第1のキャピラリーダイ62および第2のキャピラリーダイ63の間で簡便に切り替えることができる。すなわち、
図6から理解されるように、第2穴部526から位置決めロッド66を抜き、流路切替ピン64を適切な角度だけ回転させてから、もう1つの第2穴部526から位置決めロッド66を挿入して位置決めロッド66の先端を流路切替ピン64の凹部643に差し込む。これにより、成形材料の排出先を第2のキャピラリーダイ63から第1のキャピラリーダイ62に切り替えることができる。
【0093】
まず、成形材料の排出先を第2のキャピラリーダイ63として成形材料の圧力値P2を取得する。圧力値P2の取得が完了したら、例えば、制御装置7は、ダイの切り替えを促すメッセージを操作盤のタッチパネルに表示させる。オペレータは、流路切替ピン64の向きを切り替えて、成形材料の排出先を他方のダイ(ここでは第1のキャピラリーダイ62)に切り替える。制御装置7は、例えばオペレータからの入力により、ダイの切り替えの完了を受けて、先ほどと同一の射出速度Vkの下で、第1のキャピラリーダイ62を使用した、成形材料の圧力の測定を実行する。
【0094】
成形材料の排出先を第1のキャピラリーダイ62に切り替えて成形材料を第1のキャピラリーダイ62の第1キャピラリー621に流すことにより、圧力センサ61によって成形材料の圧力値P1を取得できる。したがって、射出成形機1自体に大きな変更を加えることなく、簡易な操作でバーグレー補正を実施し得る。このように、成形材料の圧力値を取得する工程は、それぞれが測定シリンダ50を介した成形材料の導入先である2以上のダイを切り替えて個別に圧力値を取得する工程を含んでいてもよい。なお、第2キャピラリー631の内径d2と第1キャピラリー621の内径d1とが相違する場合には、キャピラリー毎に適切な射出速度Vkが自動設定され得る。
【0095】
ダイの切り替えは、相異なる仕様の2つのキャピラリーダイ間の切り替えに限定されない。粘度測定ユニット5は、例えば、成形材料の排出先をキャピラリーダイと、断面矩形状のスリットを有するスリットダイとの間で切り替え可能に構成されてもよい。あるいは、粘度測定ユニット5は、成形材料の排出先を複数のスリットダイの間で切り替え可能に構成されてもよい。
【0096】
本実施形態では、前部シリンダ52のダイ取付孔524の内壁に雌ねじ部が形成されている。すなわち、ダイ取付孔524の雌ねじ部に対応した形状の雄ねじ部を外周面に有するスリットダイを第1のキャピラリーダイ62または第2のキャピラリーダイ63に代えて前部シリンダ52に取り付けることも容易である。
【0097】
キャピラリーダイに代えてスリットダイを使用して粘度を測定する場合、見かけのせん断応力τ
apは、スリットの有効長をL(単位はmm)とすれば、上述の式(4)に代えて下記の式(8)から算出できる(ここでは、簡単のために、スリットの流入角は180°であるとする。)。下記の式(8)中、P
sは、スリットダイ使用時の成形材料の圧力値(単位はPa)である。また、下記の式(8)中、Hは、スリット長さ(単位はmm)を表し、Bは、スリット幅(単位はmm)を表す。なお、本明細書における「スリット長さ」および「スリット幅」は、JIS K 7199:1999における「スリットのすき間」および「スリットの幅」にそれぞれ対応する。
【数8】
【0098】
見かけのせん断速度γ
apを表す式としては、上述の式(5)に代えて下記の式(9)を用いればよい。
【数9】
【0099】
上記式(9)中の見かけのせん断速度γ
apとして、予め設定されるせん断速度γ
kを用いれば、結局、下記の関係式(2)を得る。
【数2】
【0100】
キャピラリーダイを適用する場合と同様に、制御装置7は、せん断速度γkを用いて上記式(2)に基づき算出される射出速度Vkのうち、所定範囲内にあるVkの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する。また、制御装置7は、それらVkから選択された射出速度の下で射出駆動装置43を動作させ、圧力センサ61からの測定値を受け取ることにより、上述の式(3)から、Vkに応じた粘度ηkを算出することができる。
【0101】
仕様の異なる2つのスリットダイを用いてバーグレー補正を行う場合には、上述の式(6)に代えて下記の式(10)を適用して真のせん断応力τを求めればよい。式(10)中の推定圧力P
0を求めるには、上述の式(7)中のP
1およびP
2を第1のスリットダイ使用時の成形材料の圧力値および第2のスリットダイ使用時の成形材料の圧力値にそれぞれ読み替え、L
1およびL
2(L
2<L
1であるとする。)を第1のスリットダイのスリットの有効長および第2のスリットダイのスリットの有効長にそれぞれ読み替えればよい。
【数10】
【0102】
複数のダイを切り替えて使用する場合、同じ射出速度V
kの下であっても、キャピラリーまたはスリットの幾何学的形状の違いによって実際のせん断速度の大きさは変化し得る。
図12および
図13を参照しながら説明した例のように粘度の測定結果をグラフにしてオペレータに提示する場合には、射出速度V
kの算出に用いるせん断速度γ
kの値を複数のダイの間で揃えておくと測定結果の比較が容易になるので便宜である。
【0103】
制御装置7は、例えばオペレータによる選択により、バーグレー補正に代えて、あるいは、バーグレー補正に加えて、ラビノビッチ(Rabinowitsch)補正を行うように構成されてもよい。バーグレー補正およびラビノビッチ補正の少なくとも一方、好ましくは両方を行うことにより、より正確な粘度測定を行うことができる。
【0104】
上述した見かけのせん断速度γapは、測定対象である成形材料の構造粘度指数nが1であるとき、すなわち、成形材料がニュートン流体であった場合のせん断速度の値である。しかしながら、実際の成形材料は、一般に非ニュートン流体であるので、真のせん断速度γと見かけのせん断速度γapとの間には、ずれが生じる。ラビノビッチ補正は、構造粘度指数nによって定まる所定の係数を見かけのせん断速度γapに乗じることにより、真のせん断速度γを得る補正である。
【0105】
キャピラリーダイを用いた場合の、ラビノビッチ補正により得られる真のせん断速度γは、以下の式(11)で表される。スリットダイを用いた場合であれば、ラビノビッチ補正により得られる真のせん断速度γは、以下の式(12)で表される。
【数11】
【数12】
【0106】
ここで、構造粘度指数nは、下記の式(13)により求められる。
【数13】
【0107】
バーグレー補正およびラビノビッチ補正により、それぞれ、真のせん断応力τおよび真のせん断速度γが得られる。このとき、真の粘度ηは、τをγで除した値(τ/γ)として求まる。ラビノビッチ補正は、常に実施されてもよいし、ラビノビッチ補正の実施の有無をオペレータが任意に切り替え可能とされていてもよい。計算コストおよびメモリスペースの節約を優先する場合には、ラビノビッチ補正が省略されてもよい。なお、バーグレー補正を行わずにラビノビッチ補正のみ行う場合には、真のせん断応力τに代えて、見かけのせん断応力τapを計算に用いればよい。
【0108】
このように、本実施形態では、成形材料の導入先を流路切替ピン64の向きに応じて2つの流路523の間で切り替えることが可能であり、粘度測定ユニット5は、粘度の測定に使用するダイを択一的に選択可能に構成されている。上述した例では、流路切替ピン64は、工具を利用して手動で回転可能とされている。しかしながら、この例に限定されず、流路切替ピン64は、油圧シリンダもしくは空気圧シリンダ、または、電動モータ等の任意のアクチュエータにより、流路切替ピン取付孔522内において自動で回転可能とされてもよい。流路切替ピン64の回転によるダイの切り替えは、制御装置7により制御されてもよい。制御装置7の制御によって流路切替ピン64の回転が自動で実行されるようにすることにより、粘度測定の途中でのオペレータによる手動での切り替えが不要となるので、粘度測定をより効率よく行うことができる。
【0109】
粘度測定ユニット5の使用は、複数種のダイを切り替えて粘度測定を行う場合に特に有効である。ここでは、有効長のみが異なる2種類のダイが粘度測定ユニット5に取り付けられた例を主に説明したが、この例に限定されず、バーグレー補正を行うにあたり、有効長以外の仕様の異なる複数のダイを使用してもよい。
【0110】
バーグレー補正を行わない場合であっても、仕様の異なる複数のダイを切り替えて粘度測定を実行することが有利になることもあり得る。例えば、ある成形材料についてせん断速度と粘度との関係を調べる場合、射出速度を変えて複数回の粘度測定を行うことになる。しかしながら、射出成形機の仕様上の制約により、使用可能な射出速度には上限および下限が存在し、射出成形機の仕様によっては所望のせん断速度を実現できない場合がある。このような場合、キャピラリーダイの場合には、キャピラリー内径の異なるダイに切り替えることにより、スリットダイの場合には、スリット長さおよびスリット幅の少なくとも一方が異なるダイに切り替えることにより、所望のせん断速度の下での粘度測定が可能になり得る。
【0111】
なお、
図4および
図6に例示するように、粘度測定ユニット5がノズルシリンダ45を介して射出シリンダ41に取り付けられた状態においてダイ取付孔524がおおむね下方を向くようにされていると、ダイから排出される成形材料を回収しやすく(成形材料が飛散しにくく)、有益である。
図6から理解されるように、正面視において、ダイ取付孔524の中心軸に平行な直線と、前部シリンダ52の中心を通る鉛直線とのなす角度が40°程度以下であることが好ましい。前部シリンダ52の中心を通る鉛直線は、重力の方向に平行な直線である。
【0112】
粘度測定ユニット5は、前部シリンダ52と後部シリンダ51とがカバーナット531によって一体とされて射出シリンダ41に取り付けられてもよいし、ノズルシリンダ45を介して後部シリンダ51を射出シリンダ41に取り付けた後で後部シリンダ51に前部シリンダ52が一体とされることにより完成させられてもよい。前部シリンダ52と後部シリンダ51とを結合する締結手段53として、カバーナット531に代えてボルト等が適用されてもよい。流路切替ピン64をはじめとする、前部シリンダ52に取り付けられる各部材は、前部シリンダ52と後部シリンダ51とが一体とされた後に前部シリンダ52に取り付けられてもよいし、これらが一体とされる前に前部シリンダ52に取り付けられていてもよい。
【0113】
<4.その他>
以上のとおり、本発明の実施形態によれば、複数のダイを取り付け可能に構成され、かつ、成形材料の排出先をこれらの間で択一的に切り替えることが可能に構成された粘度測定ユニット5を用いて、オペレータの経験または勘に依存しない形で精度良く粘度の値を取得可能である。以下、射出成形機1の構成例の他の部分を簡単に説明する。
【0114】
図9を参照する。制御装置7は、成形材料の粘度の算出のほか、射出成形機1の各部の動作の制御を実行する。より詳細には、制御装置7は、射出成形時および粘度測定時に、
図1に示す、射出ユニット10の可塑化スクリュ駆動装置27、逆止装置25および射出駆動装置43の動作を制御して、成形材料の溶融、計量および射出を実行させる。
【0115】
制御装置7は、ヒータ29、47、48、67および68の制御により、可塑化シリンダ21、射出シリンダ41、ノズルシリンダ45、射出ノズル46、粘度測定ユニット5を所望の温度に加熱する。ただし、実際の製品の成形の際に使用する成形モードが選択されている時は、ヒータ67、68は使用されず、粘度測定モードが選択されている時は、ヒータ48は使用されない。射出成形機1の各部に配置されたこれらヒータ29、47、48、67、68は、熱電対等の温度センサを有し得る。ヒータ29、47、48、67および68は、温度センサにより取得された測定値に基づき制御装置7によってフィードバック制御されてもよい。
【0116】
図1を参照しながら説明したように、射出成形機1は、射出ユニット10に加えて、成形材料が注入される金型の開閉と型締とを行う型締ユニット8も有する。型締ユニット8は、金型を保持するとともに、金型を開閉および型締め可能に構成され、成形材料の注入時、金型を閉じて所定の型締め力を金型に付与する。射出ノズル46から金型のキャビティ内に射出された成形材料が冷却された後、型締ユニット8は、金型を開いて成形品を排出し、金型を再度閉じる。型締ユニット8には、直圧式やトグル式等の公知の構成を採用できる。
【0117】
射出ユニット10は、成形材料の射出において、ポリマー顆粒を可塑化させ、所定量を計量した後に、射出ノズル46または粘度測定ユニット5から成形材料を射出する。原料としてのポリマー顆粒は、ホッパー211から可塑化シリンダ21に投入される。本明細書における「成形材料」は、ポリマー顆粒に限定されず、射出成形機によって射出可能な材料を広く包含する。本明細書における「成形材料」には、樹脂を主とする材料のほか、バインダーとしての樹脂を金属粉末に添加したMIM材、バインダーとしての樹脂をセラミック粉末に添加したCIM材も含まれる。成形材料は、熱可塑性であってもよいし、熱硬化性であってもよい。熱硬化性の成形材料の例は、熱硬化性液状材料であるLIM材である。
【0118】
可塑化シリンダ21は、中空の筒体であり、バンドヒータ等のヒータ29によって所定の温度に加熱される。可塑化シリンダ21内に供給された成形材料は、ヒータ29からの熱と、可塑化スクリュ23の回転によるせん断熱とによって溶融させられ、可塑化スクリュ23の回転に伴って可塑化シリンダ21の前方へと送られる。
【0119】
可塑化部2の可塑化スクリュ駆動装置27は、可塑化スクリュ23を回転させる任意のアクチュエータであり、例えば油圧モータまたは電動モータである。
図1および
図2に例示する構成において、可塑化部2は、逆止装置25も有する。逆止装置25は、可塑化スクリュ23を軸方向に沿って前進させる任意のアクチュエータであり、例えば油圧シリンダもしくは空気圧シリンダ、または、電動シリンダである。逆止装置25は、成形材料の計量完了時に可塑化スクリュ23を前進させて可塑化スクリュ23の先端によって流路を塞ぐことにより、射出時の成形材料の可塑化シリンダ21内部への逆流を防止する機能を有する。
【0120】
可塑化部2から送り出された成形材料は、可塑化部2と射出部4とを接続するジャンクション3と、ノズルシリンダ45とを介して射出部4の射出シリンダ41に導入される。射出シリンダ41は、バンドヒータ等のヒータ47によって所定の温度に加熱される中空の筒体である。ジャンクション3も、ヒータによって所定の温度に加熱され得る。
【0121】
射出シリンダ41に送られた成形材料は、射出シリンダ41の内部において射出軸42の前方に一時的に貯留されることにより、所望の量に計量される。上述したように、ここでは、射出軸42は、射出シリンダ41内に往復動作自在に設けられた略円柱状のプランジャである。
【0122】
成形材料の計量後、逆止装置25により可塑化シリンダ21の内部で可塑化スクリュ23が前進させられ、可塑化スクリュ23先端が、可塑化シリンダ21とジャンクション3とを結ぶ流路を閉塞する。可塑化スクリュ23の前進によって可塑化部2への成形材料の逆流が防止された後、射出軸42が前進し、ノズルシリンダ45を経由して射出ノズル46へと成形材料が送られる。このようにして、成形材料が射出ノズル46から射出される。
【0123】
粘度測定モードでは、射出ノズル46に代えて粘度測定ユニット5が射出ユニット10に装着された状態で、成形モードの選択時と同様に、成形材料の溶融、計量および射出が行われる。本実施形態において、粘度測定時の計量値は、射出ユニット10で計量可能な最大値とされる。すなわち、成形材料の計量時、射出軸42は、限界位置に達するまで後退させられる。ただし、計量の設定値は、計量可能な最大値に限定されず、安定した測定が行える範囲内で適宜に決定されてよい。
【0124】
射出軸42によって押し出された成形材料は、ノズルシリンダ45を通り、粘度測定ユニット5内部の流路511、流路521、流路641および流路523を順に通過して、複数のダイのうちの1つから排出される。このとき、圧力センサ61により、流路521内を流れる成形材料の圧力が測定される。
【0125】
次に、
図10および
図14に示すGUI8の他の詳細を説明する。GUI8は、粘度測定時に表示装置74に表示される画面の一例である。粘度測定用のGUI8へは、通常の射出成形用のGUIから移動可能である。
【0126】
ここでは、粘度測定モードのGUI8は、測定結果表示テーブル812と、読込結果表示テーブル813とを含んでいる。上述したように、測定結果表示テーブル812は、現在の粘度測定によって得られたデータと、その時の測定に用いたパラメータとが表示させられる部分である。
【0127】
測定条件入力フォーム811は、粘度の算出にあたって必要なデータおよび粘度測定に係る設定値の入力欄を有する。上述した例では、オペレータは、入力装置73としてのタッチパネルを介して、ダイの仕様(例えばキャピラリーダイの場合にはキャピラリーの内径および有効長)、任意に設定可能な測定名等を入力する。ただし、本実施形態では、射出速度の欄には、予め設定された複数のせん断速度γkに対応した複数のVkが自動で入力されるようにされている。ある形態においては、制御装置7は、射出速度をV1、V2、V3、・・・と順に変更して複数回の粘度測定を行う。なお、せん断速度γkに対応したVkが自動で設定されるモードに加えて、オペレータが射出速度として任意の値を手動入力できるモードを付加的に用意しておいてもかまわない。
【0128】
読込結果表示テーブル813は、過去の粘度測定によって得られたデータが射出速度毎に一覧表示させられる部分である。オペレータは、測定結果表示テーブル812に示されたデータと、読込結果表示テーブル813に示されたデータとを比較することができる。これらのデータの比較は、成形材料の特性の把握を容易にする。
【0129】
測定結果表示テーブル812および読込結果表示テーブル813に表示されるデータには、例えば、射出速度、せん断速度、成形材料の圧力の測定値、粘度、温度、測定名のデータが含まれ得る。これらのうち射出速度および温度のそれぞれについては、設定値または実測値の一方が表示されるようにしてもよいし、設定値および実測値の両方が表示されるようにしてもよい。実測値が設定値とほぼ同じになると見込まれる場合には、実測値の表示が省略されてもよい。
【0130】
測定結果表示テーブル812および読込結果表示テーブル813に表示されるデータは、測定結果に係るデータの一部であってもよい。測定結果表示テーブル812および読込結果表示テーブル813に表示されるデータの項目は、オペレータによって任意に選択可能とされてもよい。
【0131】
GUI8は、上述したボタン群のほかに、データクリアボタン842、保存ボタン87、設定ボタン88および閉ボタン89を含んでいる。これらのうちデータクリアボタン842は、測定結果表示テーブル812および読込結果表示テーブル813に表示されているデータのリセットを演算装置71に指示するボタンである。
【0132】
保存ボタン87が押下されると、測定結果に係るデータが記憶装置72の補助記憶装置に、または、フラッシュメモリ等の外部記憶媒体75に、CSV形式等の任意の形式で保存される。出力および保存されるデータには、測定毎の、ダイの仕様、射出速度、せん断速度、圧力の測定値、粘度、温度および測定名のデータ等が含まれてよい。バーグレー補正等の補正を実施した場合に、補正前の粘度および補正後の粘度の両方のデータが外部記憶媒体75に保存されるようにしてもよい。
【0133】
設定ボタン88は、所定の設定画面を呼び出すためのボタンである。本実施形態では、粘度測定毎に変更する必要のない条件については、測定条件入力フォーム811を含む、
図10に示すような画面とは別の画面で設定するようにしている。例えば、射出軸42としてのプランジャの直径、せん断速度γ
k、射出速度V
kの範囲、昇温待ち時間等は、設定ボタン88の押下により表示される画面から入力するようにされている。これらのパラメータについては、値の変更時にパスワード入力等の認証を要するようにしてもよい。射出成形機1の仕様で決まる、プランジャの直径等のパラメータについては、射出成形機1の機種に関するデータの参照により自動で入力されるようにしてもよく、この場合はこれらのパラメータについての入力欄が省略されてもよい。
【0134】
閉ボタン89は、粘度測定用のGUI8から成形モード用のGUIに画面を遷移させるためのボタンである。閉ボタン89が押下されると、粘度測定用のGUI8が閉じられ、通常の射出成形用のGUIに移行する。
【0135】
なお、本実施形態では、射出成形機1各部のヒータ温度は、成形モード用のGUIから設定されるようにしている。しかしながら、この例に限定されず、ヒータ温度に係る入力欄を粘度測定用のGUI8の測定条件入力フォーム811に設けておいてもよい。ヒータ29、47、67、68の設定温度としては、通常、同一の温度が入力される。粘度測定を行うにあたっては、成形材料の流される各部の温度が安定していることが望ましい。その意味で、成形モード用のGUIから粘度測定用のGUI8に移行した後、任意に設定した昇温待ち時間が経過するまで粘度測定を開始できないように制限を設け、温度の安定性を担保してもよい。本実施形態によれば、実際の成形時の温度を粘度測定時の温度におおむね揃えることができるので、より実際の成形に即した粘度データを取得することができる。
【0136】
本発明は、既にいくつかの例が具体的に示されているように、図面に示される実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。例えば、粘度測定ユニット5を取付可能な射出ユニット10を含む射出成形機1は、可塑化部2と射出部4とを一体に構成した、いわゆるインラインスクリュ式射出成形機であってもよい。インラインスクリュ式射出成形機は、射出シリンダと、射出シリンダ内部に配置された射出軸42としてのインラインスクリュとを有する。インラインスクリュは、射出成形機1における可塑化スクリュ23の機能と、射出軸42としてのプランジャの機能とを兼ね備える。ただし、本実施形態の射出成形機1のように、可塑化スクリュ23を前進させることにより射出シリンダ41からの成形材料の逆流を防止する逆止装置25を有するスクリュプリプラ式射出成形機は、インラインスクリュ式射出成形機と比較して、成形材料の計量および射出の安定性に優れる。本実施形態によれば、スクリュプリプラの方式の採用により、成形材料の粘度のより正確な測定を期待できる。
【0137】
以上、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態およびその変形は、発明の範囲および要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0138】
1...射出成形機、2...可塑化部、3...ジャンクション、4...射出部、5...粘度測定ユニット、7...制御装置、8...型締ユニット、10...射出ユニット、21...可塑化シリンダ、23...可塑化スクリュ、25...逆止装置、27...可塑化スクリュ駆動装置、29...ヒータ、41...射出シリンダ、42...射出軸、43...射出駆動装置、44...エンコーダ、45...ノズルシリンダ、46...射出ノズル、47、48...ヒータ、50...測定シリンダ、51...後部シリンダ、52...前部シリンダ、53...締結手段、61...圧力センサ、62...第1のキャピラリーダイ、63...第2のキャピラリーダイ、64...流路切替ピン、65...固定プレート、66...位置決めロッド、67、68...ヒータ、71...演算装置、72...記憶装置、73...入力装置、74...表示装置、75...外部記憶媒体、82...モード切替ボタン、83...測定開始ボタン、86...グラフ描画ボタン、87...保存ボタン、88...設定ボタン、89...閉ボタン、211...ホッパー、451...ノズル取付孔、511...流路、512...プラグ部、513...フランジ、521...流路、522...流路切替ピン取付孔、523...流路、524...ダイ取付孔、525...第1穴部、526...第2穴部、527...第3穴部、531...カバーナット、531a...壁面、621...第1キャピラリー、622...ソケット、631...第2キャピラリー、641...流路、642...ソケット、643...凹部、811...測定条件入力フォーム、812...測定結果表示テーブル、813...読込結果表示テーブル、841...データ読込ボタン、842...データクリアボタン、851...選択ボタン、852...選択解除ボタン
【要約】 (修正有)
【課題】より高精度の粘度測定が可能な射出成形機および粘度測定方法を提供する。
【解決手段】射出成形機は、粘度測定ユニットを着脱可能な射出シリンダと、射出シリンダ内の射出軸と、射出軸を駆動する射出駆動装置と、射出軸を前後に駆動するように射出駆動装置を制御する制御装置とを備え、制御装置は、射出シリンダの内径または射出軸の外径をDとし、粘度測定ユニットに取り付けられたキャピラリーダイついて、キャピラリー内径をdとしたとき、予め設定された3つ以上のせん断速度の値γ
k(kは自然数)のそれぞれを用いて、下記式(1)に基づき射出速度V
kを算出し、算出された射出速度のうち所定範囲内にあるV
kの値を粘度測定の際の射出速度に自動設定する。
【選択図】
図10