IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソフトバンクモバイル株式会社の特許一覧 ▶ 東レ・デュポン株式会社の特許一覧

特許7560635繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法
<>
  • 特許-繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法 図1
  • 特許-繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法 図2
  • 特許-繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法 図3
  • 特許-繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法 図4
  • 特許-繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法 図5
  • 特許-繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/26 20060101AFI20240925BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20240925BHJP
   B64U 20/65 20230101ALI20240925BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240925BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240925BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20240925BHJP
   D04H 1/4326 20120101ALI20240925BHJP
   D21H 17/54 20060101ALI20240925BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20240925BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20240925BHJP
   H01M 50/231 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 10/61 20140101ALI20240925BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20240925BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240925BHJP
【FI】
D21H13/26
B64U50/19
B64U20/65
B32B27/34
B32B7/027
B32B5/02 A
D04H1/4326
D21H17/54
D21H27/30 B
H01M10/658
H01M50/231
H01M10/61
H01M50/342 201
H01M10/625
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023170445
(22)【出願日】2023-09-29
【審査請求日】2024-02-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 スヴェトラーナ
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴也
(72)【発明者】
【氏名】高柳 良基
(72)【発明者】
【氏名】町田 英明
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-188766(JP,A)
【文献】特開2005-133260(JP,A)
【文献】特開2019-035157(JP,A)
【文献】特開2023-051247(JP,A)
【文献】国際公開第2020/170888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 13/26
B64U 50/19
B64U 20/65
B32B 27/34
B32B 7/027
B32B 5/02
D04H 1/4326
D21H 17/54
D21H 27/30
H01M 10/658
H01M 50/231
H01M 10/61
H01M 50/342
H01M 10/625
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる複数の繊維であって、前記複数の繊維の質量に対する前記非熱可塑性ポリイミド樹脂の質量の割合は70%以上である、複数の繊維を含む、繊維構造体であって、
前記繊維構造体の質量に対する前記複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であり、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上であり、
前記繊維構造体の秤量は、40g/m以上150g/m以下である、
繊維構造体。
【請求項2】
前記複数の繊維のそれぞれの長さは、1.0mm以上10.0mm以下である、
請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
前記複数の繊維のそれぞれの幅は、1μm以上100μm以下である、
請求項2に記載の繊維構造体。
【請求項4】
実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む、繊維構造体であって、
前記繊維構造体の質量に対する前記複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であり、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上であり、
前記繊維構造体の秤量は、40g/m 以上150g/m 以下であり、
前記繊維構造体は、フィルム状、シート状又は板状の形状を有し、
前記複数の繊維は、
その長さ方向が前記繊維構造体の面内方向に略平行な向きに配された第1繊維と、
その長さ方向が前記繊維構造体の厚さ方向に略平行な向きに配された第2繊維と、
を含み、
走査電子顕微鏡を用いて観察された前記繊維構造体の断面において、前記第1繊維の個数に対する第2繊維の個数の割合は、30%未満である、
維構造体。
【請求項5】
実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む、繊維構造体であって、
前記繊維構造体の質量に対する前記複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であり、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上であり、
前記繊維構造体の秤量は、40g/m 以上150g/m 以下であり、
圧力が100kPaであり、常温である第1環境下において、JIS L 1927に準じて測定される前記繊維構造体の熱伝導率は、0.020W/m・K以上、0.040W/m・K以下である。
維構造体。
【請求項6】
実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む、繊維構造体であって、
前記繊維構造体の質量に対する前記複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であり、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上であり、
前記繊維構造体の秤量は、40g/m 以上150g/m 以下であり、
圧力が5kPaであり、温度が-60℃である第2環境下に配置されたMB型アルミケースの内部の中心部に配置された熱電対の温度を20℃以上30℃以下に維持するために必要なヒータの電力実効値から推定される前記繊維構造体の熱伝導率は、0.005W/m・K以上、0.030W/m・K以下であり、
前記ヒータの電力実効値は、前記MB型アルミケースの全体が、その表面にアルミニウム蒸着層を有する前記繊維構造体に覆われた状態で測定され、
前記ヒータの電力実効値の測定に用いられる前記繊維構造体の厚さは、9.0mmであり、
前記ヒータの電力実効値に測定に用いられる前記アルミニウム蒸着層の厚さは、150nmであり、
前記ヒータの電力実効値に測定に用いられる前記MB型アルミケースの寸法は、長さ140mm、幅60mm及び高さ140mmである、
維構造体。
【請求項7】
湿式法により作製された複数の不織布を積層し、積層された前記複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させた後、前記ポリイミド前駆体をイミド化させて得られる繊維構造体であって、
複数の不織布のそれぞれは、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維であって、前記複数の繊維の質量に対する前記ポリイミド樹脂の質量の割合は70%以上である、複数の繊維を含み、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上である、
繊維構造体。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか一項に記載の繊維構造体を備える、
断熱材。
【請求項9】
前記繊維構造体の表面の少なくとも一部に配され、輻射熱を反射する反射部をさらに備える、
請求項8に記載の断熱材。
【請求項10】
実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む、繊維構造体と、
前記繊維構造体の表面の少なくとも一部に配され、輻射熱を反射する反射部と、
を備え、
前記繊維構造体の質量に対する前記複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であり、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上であり、
前記繊維構造体の秤量は、40g/m 以上150g/m 以下である、
断熱材。
【請求項11】
物品を収容するための収容部を備え、
前記収容部は、
前記物品が載置される載置面を有する第1部材と、
前記第1部材の前記載置面の側に配され、前記第1部材とともに、前記物品を収容するための空間を形成する第2部材と、
を備え、
前記第2部材は、請求項1から請求項7までの何れか一項に記載の繊維構造体を有する、
収容装置。
【請求項12】
前記収容部は、
前記空間の内部の気体の圧力が予め定められた値よりも大きくなった場合に、前記空間の内部の気体を、前記空間の外部に排出するための排出部材、
をさらに備える、
請求項11に記載の収容装置。
【請求項13】
請求項11に記載の収容装置と、
前記収容装置の前記空間の内部に配される蓄電装置と、
を備える、電池。
【請求項14】
請求項13に記載の電池と、
前記電池に蓄積された電気エネルギーを利用して推進力を発生させる推進力発生装置と、
を備える、飛行体。
【請求項15】
物品を収容するための収容部を備え、
前記収容部は、
前記物品が載置される載置面を有する第1部材と、
前記第1部材の前記載置面の側に配され、前記第1部材とともに、前記物品を収容するための空間を形成する第2部材と、
を備え、
前記第2部材は、
実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む、繊維構造体であって、
前記繊維構造体の質量に対する前記複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であり、
前記繊維構造体の厚さは、1mm以上であり、
前記繊維構造体の秤量は、40g/m 以上150g/m 以下である、
繊維構造体を有する、
収容装置。
【請求項16】
前記収容部は、
前記空間の内部の気体の圧力が予め定められた値よりも大きくなった場合に、前記空間の内部の気体を、前記空間の外部に排出するための排出部材、
をさらに備える、
請求項15に記載の収容装置。
【請求項17】
請求項15に記載の収容装置と、
前記収容装置の前記空間の内部に配される蓄電装置と、
を備える、電池。
【請求項18】
請求項17に記載の電池と、
前記電池に蓄積された電気エネルギーを利用して推進力を発生させる推進力発生装置と、
を備える、飛行体。
【請求項19】
湿式法により作製された複数の不織布を積層し、1mm以上の厚さを有する積層体を作製する積層段階と、
前記積層体を構成する前記複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させる分散段階と、
前記ポリイミド前駆体をイミド化させるイミド化段階と、
を有し、
複数の不織布のそれぞれは、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維であって、前記複数の繊維の質量に対する前記ポリイミド樹脂の質量の割合は70%以上である、複数の繊維を含む、
繊維構造体を生産する方法。
【請求項20】
前記積層段階は、前記複数の不織布のそれぞれに印加される圧力が50Pa未満となるように、前記複数の不織布を積層する段階を含み、
前記分散段階は、前記複数の不織布のそれぞれに印加される圧力が50Pa未満となるように、前記複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させる段階を含み、
前記イミド化段階は、前記複数の不織布のそれぞれに印加される圧力が50Pa未満となるように、前記ポリイミド前駆体をイミド化させる段階を含む、
請求項19に記載の繊維構造体を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体、断熱材、収容装置、電池、飛行体、繊維構造体を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~2には、非熱可塑性ポリイミド樹脂からなる繊維を集積及び加圧して得られたポリイミド繊維紙が開示されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2019-035157号公報
[特許文献2] 特開2023-051247号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様においては、繊維構造体が提供される。上記の繊維構造体は、例えば、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む。上記の繊維構造体において、繊維構造体の質量に対する複数の繊維の質量の割合は、例えば、70質量%以上である。上記の繊維構造体において、繊維構造体の厚さは、例えば、1mm以上である。上記の繊維構造体において、繊維構造体の秤量は、例えば、40g/m以上150g/m以下である。
【0004】
上記の何れかの繊維構造体において、複数の繊維のそれぞれの長さは、1.0mm以上10.0mm以下であってよい。上記の何れかの繊維構造体において、複数の繊維のそれぞれの幅は、1μm以上100μm以下であってよい。
【0005】
上記の何れかの繊維構造体は、フィルム状、シート状又は板状の形状を有してよい。上記の何れかの繊維構造体において、複数の繊維は、その長さ方向が繊維構造体の面内方向に略平行な向きに配された第1繊維を含んでよい。複数の繊維は、その長さ方向が繊維構造体の厚さ方向に略平行な向きに配された第2繊維を含んでよい。上記の何れかの繊維構造体において、走査電子顕微鏡を用いて観察された繊維構造体の断面において、第1繊維の個数に対する第2繊維の個数の割合は、30%未満であってよい。
【0006】
上記の何れかの繊維構造体において、圧力が100kPaであり、常温である第1環境下において、JIS L 1927に準じて測定される繊維構造体の熱伝導率は、0.020W/m・K以上、0.040W/m・K以下であってよい。
請求項1に記載の繊維構造体。
【0007】
上記の何れかの繊維構造体において、圧力が5kPaであり、温度が-60℃である第2環境下に配置されたMB型アルミケースの内部の中心部に配置された熱電対の温度を20℃以上30℃以下に維持するために必要なヒータの電力実効値から推定される繊維構造体の熱伝導率は、0.005W/m・K以上、0.030W/m・K以下であってよい。ヒータの電力実効値は、例えば、MB型アルミケースの全体が、その表面にアルミニウム蒸着層を有する繊維構造体に覆われた状態で測定される。ヒータの電力実効値の測定に用いられる繊維構造体の厚さは、例えば、9.0mmである。ヒータの電力実効値に測定に用いられるアルミニウム蒸着層の厚さは、例えば、150nmである。ヒータの電力実効値に測定に用いられるMB型アルミケースの寸法は、例えば、長さ140mm、幅60mm及び高さ140mmである。
【0008】
本発明の第2の態様においては、繊維構造体が提供される。上記の繊維構造体は、例えば、湿式法により作製された複数の不織布を積層し、積層された複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させた後、ポリイミド前駆体をイミド化させて得られる。上記の繊維構造体において、複数の不織布のそれぞれは、例えば、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む。上記の繊維構造体の厚さは、例えば、1mm以上である。
【0009】
本発明の第3の態様においては、断熱材が提供される。上記の断熱材は、例えば、第1の態様又は第2の態様に係る何れかの繊維構造体を備える。
【0010】
上記の断熱材は、輻射熱を反射する反射部を備えてもよい。上記の断熱材において、上記の反射部は、例えば、繊維構造体の表面の少なくとも一部に配される。
【0011】
本発明の第4の態様においては、収容装置が提供される。上記の収容装置は、例えば、物品を収容するための収容部を備える。上記の収容装置において、収容部は、例えば、物品が載置される載置面を有する第1部材を備える。上記の収容装置において、収容部は、例えば、第1部材の載置面の側に配され、第1部材とともに、物品を収容するための空間を形成する第2部材を備える。上記の収容装置において、第2部材は、例えば、第1の態様又は第2の態様に係る何れかの繊維構造体を有する。
【0012】
上記の収容装置において、収容部は、空間の内部の気体の圧力が予め定められた値よりも大きくなった場合に、空間の内部の気体を当該空間の外部に排出するための排出部材を備えてよい。
【0013】
本発明の第5の態様においては、電池が提供される。上記の電池は、例えば、上記の第4の態様に係る収容装置を備える。上記の電池は、例えば、収容装置の空間の内部に配される蓄電装置を備える。
【0014】
本発明の第6の態様においては、飛行体が提供される。上記の飛行体は、例えば、上記の第5の態様に係る電池を備える。上記の飛行体は、例えば、電池に蓄積された電気エネルギーを利用して推進力を発生させる推進力発生装置を備える。
【0015】
本発明の第7の態様においては、繊維構造体を生産する方法が提供される。上記の方法は、例えば、湿式法により作製された複数の不織布を積層し、1mm以上の厚さを有する積層体を作製する積層段階を有する。上記の方法は、例えば、積層体を構成する複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させる分散段階を有する。上記の方法は、例えば、ポリイミド前駆体をイミド化させるイミド化段階を有する。上記の方法において、複数の不織布のそれぞれは、例えば、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む。
【0016】
上記の何れかの方法において、積層段階は、複数の不織布のそれぞれに印加される圧力が50Pa未満となるように、複数の不織布を積層する段階を含んでよい。上記の何れかの方法において、分散段階は、複数の不織布のそれぞれに印加される圧力が50Pa未満となるように、複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させる段階を含んでよい。上記の何れかの方法において、イミド化段階は、複数の不織布のそれぞれに印加される圧力が50Pa未満となるように、ポリイミド前駆体をイミド化させる段階を含んでよい。
【0017】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】飛行体100のシステム構成の一例を概略的に示す。
図2】蓄電池110の断面図の一例を概略的に示す。
図3】蓄電池110の平断面図の一例を概略的に示す。
図4】断熱部材410の厚さ方向の断面の一例を概略的に示す。
図5】蓄電池110の製造方法の一例を概略的に示す。
図6】断熱部材220の製造方法の一例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において例示される一実施形態(本実施形態と称される場合がある。)によれば、複数の繊維を含む繊維構造体が提供される。上記の複数の繊維のそれぞれは、例えば、実質的にポリイミド樹脂からなる短繊維である。本実施形態において、繊維構造体は、上記の短繊維を主成分として含み、繊維構造体の質量に対する複数の繊維の質量の割合は、例えば、70質量%以上である。
【0020】
上記の繊維構造体は、例えば、厚さが1mm以上であり、秤量が40g/m以上150g/m以下である。これにより、軽量で断熱特性に優れた材料が得られる。また、ポリイミド樹脂は、電気絶縁性、耐熱性、耐寒性、難熱性、耐薬品性、機械特性に優れている。そのため、上記の繊維構造体は、成層圏を飛行可能な飛行体に搭載される断熱装置の断熱材として特に適した組成、構造及び/又は物性を備える。
【0021】
断熱装置の断熱材として、真空断熱パネル(VIPと称される場合がある。)が用いられる場合がある。しかしながら、VIPが成層圏を飛行可能な飛行体に搭載される断熱装置の断熱材として用いられた場合、飛行体の上昇及び下降に伴う圧力変動によりVIP内部の残留空気が膨張し、VIPが破損する可能性がある。特に、断熱装置が飛行体に搭載される電池の断熱に用いられる場合、断熱装置のVIPが破損すると、電池が極低温環境に曝露され、電池の充放電特性が大幅に低下する。
【0022】
一方、ポリイミドフィルムは、上述された優れた特性を有し、航空・宇宙分野、自動車分野、通信分野などの幅広い分野において用いられている。しかしながら、ポリイミドフィルムは、フィルムが持つ特性上、断熱性を向上させることが難しい。
【0023】
これに対して、本発明者らは、湿式法により作製された複数の不織布を積層し、積層された複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させた後、当該ポリイミド前駆体をイミド化させることで、実質的にポリイミド樹脂からなる繊維を主成分とし、厚さが1mm以上であり、秤量が40g/m以上150g/m以下である繊維構造体が得られることを見出した。また、本発明者らは、実質的にポリイミド樹脂からなる繊維を主成分とし、厚さが1mm以上であり、秤量が40g/m以上150kg/m以下である繊維構造体が優れた断熱性を有することを見出した。さらに、本発明者らは、これらの繊維構造体が成層圏環境において優れた断熱性を有することを見出した。
【0024】
上記の繊維構造体は、秤量が40g/m以上150g/m以下であり、上述されたVIPと比較して非常に軽量である。加えて、上記の繊維構造体は、ポリイミド樹脂を主成分とすることから、断熱材として機能するだけでなく耐火材としても機能し得る。つまり、電池用の断熱材としてVIPが用いられた場合には、別途、耐火材が必要となるが、上記の繊維構造体が電池用の断熱材として用いられた場合には、追加の耐火材が不要となる又は追加の耐火材の質量を減少させることができる。その結果、上記の繊維構造体が電池用の断熱材として用いられることで、電池の単位質量当たりのエネルギー密度[Wh/kg-蓄電セル]、及び/又は、活物質の単位質量あたりの容量[mAh/g-活物質]が向上し得る。
【0025】
以上のとおり、本実施形態によれば、例えば、充電式電池における質量当たりのエネルギー量を改善することができ、より軽量でより多くの電力を蓄えることができる充電式電池を実現できる。充電式電池は、例えば、災害現場へ持ち込まれ、被災者へのエネルギー供給などに活用され得る。そのため、本実施形態に係る繊維構造体、断熱材、収容装置、電池及び飛行体、並びに、これらの製造方法は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」又は目標13「気候変動に具体的な対策を」などの達成に貢献できる。
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
本明細書において、数値範囲が「A~B」と表記される場合、当該表記はA以上B以下を意味する。また、「置換又は非置換」とは、「任意の置換基で置換されている、又は、置換基で置換されていない」ことを意味する。上記の置換基の種類は、明細書中で言及されない限り、特に制限されない。また、上記の置換基の個数は、明細書中で言及されない限り、特に制限されない。
【0028】
(飛行体100の概要)
図1は、飛行体100のシステム構成の一例を概略的に示す。本実施形態において、飛行体100は、蓄電池110と、電力制御回路120と、1又は複数の電動機130と、1又は複数のプロペラ140と、1又は複数のセンサ150と、制御装置160とを備える。本実施形態において、蓄電池110は、1又は複数(1以上と称される場合がある。)の蓄電パック112を有する。
【0029】
本実施形態において、飛行体100は、蓄電池110に蓄積された電気エネルギーを利用して飛行する。飛行体100としては、飛行機、飛行船又は風船、気球、ヘリコプター、ドローンなどが例示される。
【0030】
本実施形態において、蓄電池110は、電力制御回路120を介して、外部の充電装置(図示されていない。)から電気エネルギーを受領し、当該電気エネルギーを1以上の蓄電パック112に蓄積する。外部の充電装置は、飛行体100に搭載された発電装置であってもよい。上記の発電装置としては、太陽光発電装置、燃料電池などが例示される。また、蓄電池110は、電力制御回路120を介して、1以上の蓄電パック112に蓄積された電気エネルギーを電動機130に供給する。
【0031】
本実施形態において、蓄電パック112は、電気エネルギーを蓄積する(蓄電パック112の充電と称される場合がる)。また、蓄電パック112は、蓄積された電気エネルギーを放出する(蓄電パック112の放電と称される場合がある)。蓄電パック112は、二次電池であってよい。
【0032】
蓄電パック112の質量エネルギー密度は、350[Wh/kg‐蓄電パック]以上であることが好ましく、400Wh/kg‐蓄電パック]以上であることがより好ましく、500Wh/kg‐蓄電パック]以上であることがより好ましく、600Wh/kg‐蓄電パック]以上であることがより好ましく、700[Wh/g‐蓄電パック]以上であることがさらに好ましい。これにより、飛行体の電源の用途に特に適した蓄電パック112が得られる。
【0033】
蓄電パック112の体積エネルギー密度は、300[Wh/m‐蓄電パック]以上1200[Wh/m‐蓄電パック]以下であってもよく、400[Wh/m‐蓄電パック]以上1000[Wh/m‐蓄電パック]以下であってもよい。蓄電パック112が飛行体100の電源の一部として飛行体100に搭載される場合、蓄電パック112の体積エネルギー密度は、600[Wh/m‐蓄電パック]以下であってもよく、800[Wh/m‐蓄電パック]以下であってもよい。
【0034】
本実施形態において、電力制御回路120は、蓄電池110の電力の入力及び出力を制御する。電力制御回路120は、制御装置160からの命令に基づいて、蓄電池110の電力の入力及び出力を制御してよい。電力制御回路120は、例えば、制御装置160からの制御信号に基づいて動作する複数のスイッチング素子を含む。
【0035】
本実施形態において、電動機130は、電力制御回路120を介して、蓄電池110から電気エネルギーを受領する。電動機130は、蓄電池110から受領した電気エネルギーを利用して、プロペラ140を回転させる。これにより、電動機130は、蓄電パック112に蓄積された電気エネルギーを利用して、飛行体100の推進力を発生させることができる。
【0036】
本実施形態において、センサ150は、飛行体100の位置及び姿勢に関する各種の物理量を測定する。飛行体100の位置及び姿勢に関する各種の物理量を測定するためのセンサとしては、GPS信号受信機、加速度センサ、角加速度センサ、ジャイロセンサなどが例示される。センサ150は、蓄電池110の状態に関する各種の物理量を測定してよい。蓄電池110の状態に関する各種の物理量を測定するためのセンサとしては、温度センサ、電流センサ、電圧センサなどが例示される。
【0037】
本実施形態において、制御装置160は、飛行体100を制御する。制御装置160は、電力制御回路120を制御することで、蓄電池110の電力の入出力を制御してよい。例えば、制御装置160は、蓄電池110の出力電流、出力電圧、入力電流、入力電圧などを制御する。これにより、制御装置160は、飛行体100の位置及び姿勢を制御することができる。制御装置160は、センサ150からの出力に基づいて電力制御回路120を制御することで、飛行体100の位置及び姿勢を制御してよい。
【0038】
蓄電池110は、電池の一例であってよい。蓄電パック112は、物品又は蓄電装置の一例であってよい。電動機130は、推進力発生装置の一例であってよい。
【0039】
(別実施形態の一例)
本実施形態においては、飛行体100が蓄電池110を備える場合を例として、飛行体100の詳細が説明された。しかしながら、飛行体100は本実施形態に限定されない。他の実施形態において、飛行体100に搭載される電池が一次電池であってもよい。
【0040】
(蓄電池110の概要)
図2及び図3を用いて、蓄電池110の一例が説明される。図2は、蓄電池110の断面図の一例を概略的に示す。図3は、蓄電池110の平断面図の一例を概略的に示す。本実施形態において、図2図3におけるB-B'断面の一例を示し、図3図2におけるA-A'断面の一例を示す。
【0041】
本実施形態において、蓄電池110は、例えば、蓄電パック112と、断熱装置200とを備える。本実施形態において、断熱装置200は、例えば、ベースプレート210と、断熱部材220と、反射部材230と、溶着部材240とを有する。本実施形態によれば、ベースプレート210及び断熱部材220により、断熱装置200の内部に、蓄電パック112を収容するための収容空間260が形成される。
【0042】
本実施形態において、ベースプレート210は、例えば、載置面212と、ベント弁214とを含む。本実施形態において、断熱部材220は、例えば、断熱部材220の面内方向に略平行な向きに配された短繊維222を含む。断熱部材220は、断熱部材220の厚さ方向に略平行な向きに配された短繊維224を含んでよい。
【0043】
一実施形態によれば、複数の短繊維222が、化学的又は物理的に結合される。例えば、複数の短繊維222が、接着剤(図示されていない。)により接着される。他の実施形態によれば、複数の短繊維222及び複数の短繊維224が、化学的又は物理的に結合される。例えば、複数の短繊維222及び複数の短繊維224が、接着剤(図示されていない。)により接着される。
【0044】
図2及び/又は図3において、載置面212の法線方向は、図中、z方向として示される。同様に、載置面212の面内方向は、図中、x方向又はy方向として示される。
【0045】
(断熱装置200の詳細)
本実施形態において、断熱装置200は、蓄電パック112を収容する。断熱装置200は、例えば、蓄電パック112を断熱することにより、蓄電パック112を保護する。
【0046】
本実施形態において、ベースプレート210は、蓄電パック112を支持又は保持する。ベースプレート210は、断熱部材220とともに収容空間260を形成する。上述されたとおり、蓄電パック112は、断熱装置200の収容空間260の内部に配される。蓄電パック112は、例えば、ベースプレート210の載置面212に載置される。一実施形態において、蓄電パック112は、載置面212に接して配される。他の実施形態において、蓄電パック112は、他の部材を介して載置面212の上に配される。
【0047】
本実施形態において、ベント弁214は、収容空間260の内部と、収容空間260の外部との間における物質の移動を制御する。ベント弁214は、収容空間260の内部の気体の圧力が予め定められた値よりも大きくなった場合には閉じており、収容空間260の内部の気体の圧力が予め定められた値よりも大きくなった場合には開くように構成される。これにより、ベント弁214は、収容空間260の内部の気体の圧力が予め定められた値よりも大きくなった場合に、収容空間260の内部の気体を収容空間260の外部に排出することができる。
【0048】
本実施形態において、断熱部材220は、収容空間260の内部と、収容空間260の外部との間の熱の移動を抑制する。断熱部材220は、例えば、フィルム状、シート状又は板状の形状を有する。断熱部材220は、ベースプレート210の載置面212の側に配される。断熱部材220は、ベースプレート210とともに収容空間260を形成する。断熱部材220の詳細は後述される。
【0049】
本実施形態において、反射部材230は、輻射熱を反射する。反射部材230は、例えば、断熱部材220の表面の少なくとも一部に配される。断熱部材220がフィルム状、シート状又は板状の形状を有する場合、反射部材230は、例えば、断熱部材220の2つの面のうち、収容空間260の側の面とは反対側の面の少なくとも一部に配される。反射部材230は、例えば、フィルム状、シート状又は板状の形状を有する。
【0050】
反射部材230としては、金属箔、金属蒸着層、金属蒸着フィルム、ラミネートフィルムなどが例示される。上記の部材に用いられる金属としては、アルミニウムが例示される。ラミネートフィルムは、例えば、(i)複数の樹脂層と、(ii)当該複数の樹脂層に含まれる2個の樹脂層の間に配され、輻射熱を反射する反射層とを含む。反射層としては、金属層が例示される。金属層としては、アルミニウム層が例示される。これにより、ラミネートフィルムが反射部材230として用いられた場合、反射部材230は、蓄電パック112の熱暴走により発生したガス又は炎に耐えられるだけの強度を有し得る。
【0051】
本実施形態において、溶着部材240は、ベースプレート210と、反射部材230とを結合する。溶着部材240は、例えば、溶着により、ベースプレート210と、反射部材230とを結合する。溶着部材240は、ベースプレート210と、断熱部材220とを結合してもよい。溶着部材240は、例えば、溶着により、ベースプレート210と、断熱部材220とを結合する。溶着部材240としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂が例示される。
【0052】
本実施形態において、収容空間260は、その内部に蓄電パック112を収容する。上述されたとおり、ベースプレート210の載置面212の上に断熱部材220が配されることで、ベースプレート210の載置面212の側に収容空間260が形成される。
【0053】
(断熱部材220の詳細)
本実施形態において、断熱部材220は、繊維構造体を有する。断熱部材220は、実質的に繊維構造体からなる部材であってよい。断熱部材220の質量に対する繊維構造体の質量の割合は、70質量%以上であってよい。
【0054】
断熱部材220は、例えば、フィルム状、シート状又は板状の形状を有する。断熱部材220は、フィルム状、シート状又は板状の形状を有する繊維構造体であってもよい。
【0055】
(繊維構造体の詳細)
(繊維構造体の組成)
上記の繊維構造体は、複数の繊維を含む。上記の繊維構造体の質量に対する複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上であってよい。上記の繊維構造体の質量に対する、特定の特徴を有する繊維の質量の割合が70質量%以上であってもよい。特定の特徴の詳細は後述される。上記の割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0056】
上記の繊維構造体は、複数の繊維と、当該繊維同士を接着するための接着剤とを含んでよい。接着剤として用いられる樹脂の種類は特に限定されるものではないが、接着剤としては、ポリイミド樹脂、ビスマレイイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが例示される。上記の繊維構造体の質量に対する接着剤の質量の割合は、30質量%以下であってよい。上記の割合は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0057】
上記の繊維構造体は、パルプ成分を実質的に含まなくてもよい。パルプ成分は、例えば、直径(幅と称される場合がある。)に対する長さの比率が300を超える繊維(長繊維と称される場合がある。)として定義される。上記の繊維構造体の質量に対するパルプ成分の質量の割合は、30質量%未満であってよい。上記の割合は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0058】
(繊維)
繊維構造体に含まれる複数の繊維のそれぞれは、実質的にポリイミド樹脂からなる繊維であってよい。複数の繊維の質量に対するポリイミド樹脂の質量の割合は、70質量%以上であってよい。複数の繊維のそれぞれは、ポリイミド樹脂の原材料中に存在したり、ポリイミド樹脂の製造工程において不可避的に混入したりする不純物(不可避不純物と称される場合がある。)を含んでもよい。上記のポリイミド樹脂は、非熱可塑性ポリイミド樹脂であってよい。
【0059】
繊維構造体に含まれる複数の繊維のそれぞれの長さは、1.0mm以上10.0mm以下であってよい。繊維の長さは、当該繊維の長手方向の大きさを示す。上記の繊維構造体の質量に対する、1.0mm以上10.0mm以下の長さを有する繊維(短繊維と称される場合がある。)の質量の割合は、70質量%以上であってよい。
【0060】
複数の繊維のそれぞれの長さは、好ましくは1.0mm以上10.0mm以下であり、より好ましくは2.0mm以上5.0mm以下である。繊維の長さが上記の数値範囲に合致する場合、上記の繊維構造体が優れた断熱特性を示す。上記の繊維構造体は、特に、成層圏環境下において優れた断熱特性を示す。
【0061】
繊維構造体に含まれる複数の繊維のそれぞれの幅は、1μm以上100μm以下であってよい。繊維の幅は、当該繊維の短手方向の大きさ又は当該繊維の直径を示す。上記の繊維構造体の質量に対する、1μm以上100μm以下の幅を有する繊維の質量の割合は、70質量%以上であってよい。
【0062】
複数の繊維のそれぞれの幅は、好ましくは3μm以上75μm以下であり、より好ましくは5μm以上50μm以下である。繊維の幅が上記の数値範囲に合致する場合、上記の繊維構造体が優れた断熱特性を示す。上記の繊維構造体は、特に、成層圏環境下において優れた断熱特性を示す。
【0063】
繊維構造体に含まれる複数の繊維のそれぞれは、長さが1.0mm以上10.0mm以下であり、幅が1μm以上100μm以下の短繊維であってよい。上記の繊維構造体の質量に対する、上記の長さ及び幅を有する短繊維の質量の割合は、70質量%以上であってよい。
【0064】
複数の繊維のそれぞれは、ポリイミド樹脂の削り出し工程により得られる短繊維であってよい。ポリイミド樹脂の削り出し工程は、例えば、下記の手順により実施される。まず、ポリイミドフィルムのロールを準備する。例えば、帯状のポリイミドフィルムを筒状に巻き付けることで、ポリイミドフィルムのロールを作製する。次に、ポリイミドフィルムのロールを回転させる。次に、ポリイミドフィルムを削るための刃物を、回転しているポリイミドフィルムのロールの側面に押し当てる。これにより、ポリイミドフィルムの厚さと、削り出し幅に応じたポリイミド繊維の束が得られる。その後、上記のポリイミド繊維の束を切断する。これにより、ポリイミド樹脂の短繊維が得られる。
【0065】
ポリイミド繊維の束を作製する工程において、ポリイミドフィルムの厚さ、及び/又は、削り幅を調整することで、上記の短繊維の幅が調整され得る。上記の短繊維の長さは、ポリイミド繊維の束を切断する工程において調整され得る。
【0066】
(ポリイミド樹脂)
本実施形態において、ポリイミド樹脂は、例えば、芳香族ジアミン成分と芳香族酸無水物成分とを有機溶媒中で重合させることにより得られる。芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル及び3,4'-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の成分が例示される。上記の芳香族ジアミン成分以外の芳香族ジアミン成分がポリイミド樹脂の原料として用いられてもよい。芳香族酸無水物成分としては、4,4'-オキシジフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物及び3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の成分が例示される。上記の芳香族酸無水物成分以外の芳香族酸無水物成分がポリイミド樹脂の原料として用いられてもよい。
【0067】
(繊維構造体の構造)
上記の繊維構造体は、例えば、フィルム状、シート状又は板状の形状を有する。上記の繊維構造体の厚さは、1mm以上であってよい。繊維構造体の厚さは、例えば、当該繊維構造体の幅、長さ及び高さのそれぞれの測定値のうちの最小値として定義される。繊維構造体の厚さは、好ましくは1mm以上20mm以下であり、より好ましくは3mm以上15mm以下である。
【0068】
繊維構造体の厚さが上記の数値範囲に合致する場合、当該繊維構造体は、優れた断熱特性を示す。上記の繊維構造体は、特に、成層圏環境下において優れた断熱特性を示す。繊維構造体の断熱特性の詳細は後述される。
【0069】
上記の繊維構造体は、上記の繊維の集積体であってよい。上記の繊維構造体は、例えば、湿式法により作製された複数の不織布を積層し、積層された複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させた後、ポリイミド前駆体をイミド化させて得られる。上記の不織布のそれぞれは、複数の繊維を含んでよい。
【0070】
不織布に含まれる複数の繊維のそれぞれは、上述された繊維構造体に含まれる複数の繊維と同様の構成を有してよい。不織布に含まれる複数の繊維のそれぞれは、実質的にポリイミド樹脂からなる繊維であってよい。不織布に含まれる複数の繊維の質量に対するポリイミド樹脂の質量の割合は、70質量%以上であってよい。複数の繊維のそれぞれは、上述された不可避不純物を含んでよい。
【0071】
湿式法によれば、紙と同様の製法により不織布が作製される。湿式法によれば、乾式法と比較して短い繊維を用いて不織布を作製することができる。また、湿式法により作製された不織布に含まれる短繊維は、多くの場合、当該短繊維の長さ方向が当該不織布の面内方向に略平行となるように配される。不織布の面内方向は、例えば、不織布の厚さ方向に垂直な方向として定義される。
【0072】
本実施形態によれば、上記の繊維構造体の製造工程において、湿式法により作製された複数の不織布が積層されるので、上記の繊維構造体は、上述された短繊維222を含む。上記の繊維構造体は、上述されたパルプ成分(長繊維)を含んでもよい。上記の繊維構造体は、上述されたパルプ成分を実質的に含まなくてもよい。走査電子顕微鏡を用いて観察された繊維構造体の断面において、短繊維222の個数に対する短繊維224の個数の割合は、30%未満であってよい。なお、上記の繊維構造体は、上述されたパルプ成分又は長繊維を含んでもよく、当該パルプ成分又は長繊維を実質的に含まなくてもよい。
【0073】
繊維構造体の厚さをtとすると、走査電子顕微鏡による観察エリアの幅はNt(Nは、0.05以上10以下である。)であってよい。観察エリアの高さはMt(Mは、0.5以上1以下である。)であってよい。観察エリアの幅は、繊維構造体の面内方向に略平行であってよく、観察エリアの高さは、繊維構造体の厚さ方向に略平行であってよい。
【0074】
本実施形態によれば、上記の繊維構造体の製造工程において、積層された複数の不織布の内部にポリイミド前駆体を分散させた後、ポリイミド前駆体をイミド化させる工程が含まれる。これにより、上記の繊維構造体の主な破壊モードが凝集破壊モードとなる。つまり、上記の繊維構造体の製造工程において複数の不織布が積層されているにもかかわらず、複数の不織布の層間における界面破壊が抑制される。
【0075】
(繊維構造体の物性)
上記の繊維構造体の秤量は、40g/m以上150g/m以下であってよい。繊維構造体の秤量は、例えば、試料片の重さ及び面積を計測し、試料片の重さを試料片の面積で除することにより導出される。
【0076】
上記の繊維構造体の秤量は、好ましくは40g/m以上120g/m以下であり、より好ましくは40g/m以上100g/m以下である。繊維構造体の秤量が上記の数値範囲に合致する場合、当該繊維構造体は、優れた断熱特性を示す。上記の繊維構造体は、特に、成層圏環境下において優れた断熱特性を示す。上記の数値範囲に合致する秤量を有する繊維構造体は、成層圏を飛行可能な飛行体に搭載される断熱装置の断熱材として特に適している。
【0077】
(繊維構造体の断熱特性)
断熱部材220を構成する繊維構造体は、上述された新規な構成により優れた断熱特性を有する。具体的には、上記の繊維構造体は、熱伝導率が非常に小さい。
【0078】
一実施形態において、圧力が100kPaであり、常温(例えば、15℃以上25℃以下である。)の環境下(第1環境下と称される場合がある。)において、定常法により測定される繊維構造体の熱伝導率は、0.020W/m・K以上、0.040W/m・K以下である。上記の熱伝導率は、例えば、JIS L 1927に準じて測定される。上記の第1環境下における上記の熱伝導率は、好ましくは、0.025W/m・K以上、0.035W/m・K以下であり、さらに好ましくは、0.027W/m・K以上、0.033W/m・K以下である。
【0079】
他の実施形態において、圧力が5kPaであり、温度が-60℃である環境下(第2環境下と称される場合がある。)に配置されたMB型アルミケースの内部の中心部に設置した熱電対の温度を20℃以上30℃以下に維持するために必要なヒータの電力実効値から推定される繊維構造体の熱伝導率は、0.005W/m・K以上、0.030W/m・K以下である。上記の第2環境下における上記の熱伝導率の推定値は、好ましくは、0.010W/m・K以上、0.020W/m・K以下であり、さらに好ましくは、0.012W/m・K以上、0.018W/m・K以下である。
【0080】
(成層圏環境下における熱伝導率の推定手順)
上記の第2環境下における繊維構造体の熱伝導率の推定値は、成層圏環境下における繊維構造体の熱伝導率の推定値を示す。一般的に、物体の熱伝導率は、圧力が100kPaであり、常温の条件下において、JIS L 1927に準拠して測定される。しかしながら、成層圏環境下においては圧力が非常に小さいことから、JIS L 1927に準拠して繊維構造体の熱伝導率を測定することができない。そこで、本実施形態において、成層圏環境下における繊維構造体の熱伝導率は、下記の手順により推定される。
【0081】
まず、MB型アルミケース(株式会社タカチ電機工業製、MB14-6-14)を準備する。上記のMB型アルミケースの寸法は、長さ140mm、幅60mm及び高さ140mmである。MB型アルミケースは、蓄電パック112を模した物品の一例であってよい。
【0082】
次に、MB型アルミケースの内部に、5.4Ωフィルムヒータ(MINCO製 HK5417R5.3L12B)を設置する。ヒータは、MB型アルミケースの底面の中央近傍に設置される。また、MB型アルミケースの内部に12個のサーミスタ(RS PRO製 827-5937)を設置する。上記のサーミスタは、MB型アルミケースの8個の角部のそれぞれと、MB型アルミケースの天面の中央近傍の2箇所と、ヒータ上と、MB型アルミケース内部の略中心位置とに配される。MB型アルミケース内部の略中心位置に配されるサーミスタは、例えば、MB型アルミケースの天面から吊り下げられる。天面の中央近傍に配された2個のサーミスタのうちの1つは、例えば、フィルムヒータを制御するために用いられる。ケース内部の略中心位置に配されたサーミスタの出力は、例えば、フィルムヒータの電力実効値を計算するために用いられる。
【0083】
次に、熱伝導率の推定対象となる繊維構造体を準備する。繊維構造体の厚さは、例えば、9.0mmである。次に、熱伝導率の推定対象となる繊維構造体の一方の側の面に、厚さが150nmのアルミニウム蒸着層を形成する。アルミニウム蒸着層の作製手順は、任意の公知の手順が採用され得る。その後、上記のMB型アルミケースの外表面の全体を、表面にアルミニウム蒸着層を有する上記の繊維構造体で覆う。これにより、成層圏環境下における熱伝導率を推定するためのサンプルが準備される。
【0084】
次に、恒温槽(ESPEC会社製、MZH-32H)の内部に、上記のサンプルを配置する。上記の恒温槽としては、1辺の長さが1500mmである立方体の容器が用いられる。
【0085】
次に、恒温槽の内部の圧力を常圧(具体的には、100kPaである。)に調整する。また、恒温槽の内部の温度を-60℃に調整する。次に、ヒータに10.5Vの電圧を印加し、当該ヒータの電流値の測定を開始する。また、デジタル温度調節器(ミスミ製 MTCTR)を用いて、MB型アルミケース内部の略中心位置に設置されたサーミスタにより測定される温度が20℃以下になるとヒータがONになり、当該温度が30℃以下になるとヒータがOFFになるように、ヒータの動作を制御する。その後、デジタル温度調節器を用いて、ヒータのON/OFFサイクルが略一定となるまでヒータの出力時間を測定する。また、上記の測定結果に基づいて、圧力が100kPaであり、温度が-60℃である条件におけるヒータの電力実効値を導出する。
【0086】
次に、恒温槽の内部の温度を-60℃に維持したまま、恒温槽の内部の圧力を高度60,000フィードに相当する圧力(具体的には、5kPaである。)に調整する。恒温槽の内部の圧力を調整する間もヒータに10.5Vの電圧を印加したままにしておき、当該ヒータの電流値の測定を開始する。また、デジタル温度調節器(ミスミ製 MTCTR)を用いて、MB型アルミケース内部の略中心位置に設置されたサーミスタにより測定される温度が20℃以下になるとヒータがONになり、当該温度が30℃以下になるとヒータがOFFになるように、ヒータの動作を制御する。その後、デジタル温度調節器を用いて、ヒータのON/OFFサイクルが略一定となるまでヒータの出力時間を測定する。また、上記の測定結果に基づいて、圧力が5kPaであり、温度が-60℃である条件におけるヒータの電力実効値を導出する。
【0087】
次に、圧力が100kPaであり、温度が-60℃である環境下(上述された第1環境下である。)におけるヒータの電力実効値(第1電力実効値と称される場合がある。)と、圧力が5kPaであり、温度が-60℃である環境下(上述された第2環境下である。)におけるヒータの電力実効値(第2電力実効値と称される場合がある。)とを比較する。また、上記の比較結果と、第1環境下における繊維構造体の熱伝導率とに基づいて、第2環境下における繊維構造体の熱伝導率を推定する。
【0088】
例えば、第2電力実効値が第1電力実効値の1/2であった場合、第2環境下における繊維構造体の断熱効果は、第1環境下における繊維構造体の断熱効果の2倍であると推定することができる。そのため、例えば、第2電力実効値が第1電力実効値の1/2であった場合、第2環境下における繊維構造体の熱伝導率は、第1環境下における繊維構造体の熱伝導率の2倍であると推定され得る。
【0089】
断熱装置200は、収容装置又は収容部の一例であってよい。ベースプレート210は、第1部材の一例であってよい。載置面212は、物品が載置される載置面の一例であってよい。ベント弁214は、排出部材の一例であってよい。断熱部材220は、断熱材又は第2部材の一例であってよい。短繊維222は、第1繊維の一例であってよい。短繊維224は、第2繊維の一例であってよい。反射部材230は、反射部の一例であってよい。断熱部材220及び反射部材230の組み合わせは、断熱材の一例であってよい。
【0090】
(別実施形態の一例)
本実施形態においては、ベースプレート210及び反射部材230が、溶着部材240により溶着される場合を例として、断熱装置200の詳細が説明された。しかしながら、断熱装置200は本実施形態に限定されない。他の実施形態において、断熱装置200は、溶着部材240を備えなくてよい。
【0091】
図4は、断熱部材410の厚さ方向の断面の一例を概略的に示す。断熱部材410は、断熱部材220の他の例であってよい。本実施形態において、断熱部材410は、1以上のポリイミド層420と、1以上のエアロゲル層430とを備える。
【0092】
ポリイミド層420は、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む。一実施形態おいて、1以上のポリイミド層420の少なくとも1つは、厚さが1mm未満の不織布であってもよい。ポリイミド層420は、乾式法により作製された不織布であってもよく、湿式法により作製された不織布であってもよい。他の実施形態において、1以上のポリイミド層420の少なくとも1つは、上述された繊維構造体であってもよく、上述された繊維構造体を含む層であってもよい。さらに他の実施形態において、1以上のポリイミド層420の少なくとも1つは、ポリイミド樹脂の発泡体であってよい。
【0093】
エアロゲル層430は、実質的にシリカエアロゲルからなる層であってよく、シリカエアロゲルを含む不織布であってもよい。上記の不織布の材料としては、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリイミド繊維、アラミド繊維などが例示される。
【0094】
(蓄電池110の製造方法)
図5は、蓄電池110の製造方法の一例を概略的に示す。本実施形態によれば、まず、ステップ512(ステップがSと省略される場合がある。)において、蓄電パック112が準備される。次に、S514において、断熱部材220が準備される。断熱部材220を準備する工程の詳細は後述される。次に、S516において、ベースプレート210、反射部材230及び溶着部材240が準備される。例えば、断熱部材220の一方の面の表面に反射部材230が形成される。その後、S518において、蓄電池110が組み立てられる。具体的には、例えば、ベースプレート210の載置面212の上に蓄電パック112が載置される。また、ベースプレート210の載置面212の側に、断熱部材220が配される。断熱部材220は、蓄電パック112を覆うように配される。断熱部材220は、例えば、断熱部材220の面のうち反射部材230が形成されている面の反対側の面と、蓄電パック112の表面とが接するように配される。これにより、蓄電池110が作製される。
【0095】
(断熱部材220の製造方法)
図6は、断熱部材220の製造方法の一例を概略的に示す。図6は、図5におけるS514の一例であってよい。
【0096】
本実施形態によれば、まず、S612において、ポリイミド樹脂の短繊維が準備される。ポリイミド樹脂の短繊維は、上述されたポリイミド樹脂の削り出し工程により得られる。上述されたとおり、ポリイミド樹脂の短繊維は、実質的にポリイミド樹脂からなる。上記のポリイミド樹脂は、非熱可塑性ポリイミド樹脂であってよい。
【0097】
また、上記の削り出し工程により削り出されたポリイミド繊維が、長手方向に繊維の長さが1.0mm以上10mm以下になるように切断される。これにより、ポリイミド樹脂の短繊維が得られる。
【0098】
次に、S614において、ポリイミド樹脂の短繊維がシート状に加工される。これにより、ポリイミド樹脂の短繊維を主成分として含む繊維ウェッブ(フリースと称される場合がある。)を作製する。上記のフリースは、湿式法により作製された不織布(湿式不織布と称される場合がある。)であってよい。
【0099】
湿式不織布の作製手順は特に限定されるものではないが、湿式不織布の作製手順は、例えば、スラリー形成工程及び抄紙工程を含む。湿式不織布の作製手順の詳細は、例えば、下記のとおりである。
【0100】
まず、スラリー形成工程において、水と、水溶性高分子化合物と、ポリイミド樹脂の短繊維とが混合され、ポリイミド樹脂の短繊維が水中に分散したスラリーが作製される。上記のスラリーは、紙又は湿式不織布の生産に用いられる各種の添加剤を含んでもよい。上記の添加剤としては、分散剤、消泡剤、粘度調整剤などが例示される。次に上記スラリーを用いて次に、抄紙工程において、公知の抄紙技術を用いて上記のスラリーを処理することにより、水溶性高分子をバインダーとしてポリイミド樹脂の短繊維が仮止めされた湿式不織布(仮止め紙、繊維ウェッブ、フリースなどと称される場合がある。)が作製される。抄紙工程において得られる仮止め紙の厚みは、例えば、1.0mm以下である。
【0101】
上記の水溶性高分子化合物は、水溶性であり、且つ、分解温度がポリイミドのガラス転移点よりも小さな高分子化合物であればよく、その種類は特に限定されない。水溶性高分子化合物としては、デンプン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ガゼイン、ビニロン、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル、及び/又は、これらの誘導体などが例示される。
【0102】
次に、S622及びS624において、複数の仮止め紙が積層された積層体の内部に、ポリイミドの前駆体溶液を含侵させる。これにより、その内部にポリイミドの前駆体が分散した仮止め紙の積層体が得られる。
【0103】
本実施形態においては、S622において、複数の仮止め紙を積層して積層体を作製した後、S624において、積層体の内部にポリイミドの前駆体溶液を含侵させる場合を例として、ポリイミドの前駆体を含む積層体を作製する手順の詳細が説明される。しかしながら、ポリイミドの前駆体を含む積層体を作製する手順は本実施形態に限定されない。他の実施形態によれば、複数の仮止め紙のそれぞれの内部にポリイミドの前駆体溶液を含侵させた後、当該複数の仮止め紙を積層することで、ポリイミドの前駆体を含む積層体を作製する。
【0104】
ポリイミド前駆体としては、イミド化反応により非熱可塑性ポリイミドとなるポリアミック酸が例示される。ポリイミド前駆体は、(i)芳香族ジアミン成分と芳香族酸無水物成分とを有機溶媒中で重合させることにより得られる非熱可塑性ポリイミドの前駆体であってもよく、(ii)縮重合後に、重合の時とは異なる溶媒へ置換した非熱可塑性ポリイミド前駆体であってもよい。
【0105】
次に、S626において、積層体の内部に分散しているポリイミド前駆体をイミド化させる。具体的には、ポリイミドの前駆体を含む積層体を加熱する。S626において、ポリイミドの前駆体を含む積層体は、ポリイミド樹脂の短繊維の仮止めに用いられた水溶性高分子の分解温度以上であって、且つ、ポリイミド前駆体のイミド化が促進される温度以上の温度に加熱される。ポリイミドの前駆体を含む積層体は、例えば、300℃以上に加熱される。
【0106】
これにより、ポリイミド前駆体は、仮止め紙に含まれる短繊維を結合するポリイミド樹脂となる。また、積層体を構成する複数の仮止め紙が、ポリイミド樹脂により結合される。その結果、ポリイミド樹脂を主成分とした1.0mm以上の厚みを有する繊維構造体が得られる。また、上記の手順によれば、主な破壊モードが凝集破壊モードである繊維構造体が得られる。
【0107】
(仮止め紙に印加される圧力)
S622においては、仮止め紙に印加される圧力が50Pa未満となるように、各種の設定が調整されてよい。これにより、秤量が40g/m以上150g/m以下である繊維構造体を有する断熱部材220が作製され得る。S622、S624及びS626の少なくとも1つにおいて、仮止め紙又は積層体に印加される圧力が50Pa未満となるように、各種の設定が調整されてよい。これにより、秤量が40g/m以上150g/m以下である繊維構造体を有する断熱部材220が作製され得る。S622、S624及びS626において仮止め紙又は積層体に印加される圧力が50Pa未満である場合、秤量の小さな繊維構造体が作製される。秤量の小さな繊維構造体は、飛行体用の断熱部材220の材料として特に適した性質を有する。
【0108】
S622は、積層段階の一例であってよい。S624は、分散段階の一例であってよい。S626は、イミド化段階の一例であってよい。
【実施例
【0109】
蓄電池110又は断熱部材220をさらに具体的に説明することを目的として、下記の実施例により蓄電池110又は断熱部材220の詳細が説明される。しかしながら、下記の実施例に対して多様な変更または改良が加えられてよく、蓄電池110及び断熱部材220は下記の実施例に限定されるものではない。
【0110】
(実施例1)
実施例1においては、下記の手順に従って、繊維構造体を作製した。まず、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、カプトン100H)をロール状に巻き取り、ポリイミドフィルムのロールを準備した。ポリイミドフィルムの厚さは25μmであった。上述された手順に従って、ポリイミドフィルムのロールから、ポリイミド樹脂の短繊維を削り出した。カナダ標準ろ水度試験器(JIS P 8226-2:2011)により測定された短繊維の長さの平均値(個数基準)は、3mmであった。同様に、光学顕微鏡による観察により測定された短繊維の幅の平均値(個数基準)は、50μmであった。
【0111】
次に、分解温度がポリイミドのガラス転移温度よりも低い水溶性高分子と上記ポリイミド樹脂の短繊維からなるスラリーを用いて抄紙し、ポリイミド樹脂の短繊維が水溶性高分子で仮止めされたロール状の繊維紙を得た。上記の繊維紙の厚さは0.4mmであった。
【0112】
次に、上記のロール状の繊維紙から、200mm×300mmのシートを24枚切り出した。24枚のシートを積層し、20Paの圧力を印加することで、積層体を得た。
【0113】
次に、ポリイミドの前駆体溶液を準備し、上記の積層体の全体を浸漬させた。これにより、その内部にポリイミドの前駆体が分散した積層体が得られた。
【0114】
次に、ポリイミドの前駆体を含む積層体を、380℃の温度で15分間加熱した。これにより、ポリイミド樹脂を主成分とする繊維構造体が得られた。
【0115】
(厚さ)
ダイヤルシックネスゲージ(Hタイプ)を用いて、実施例1で得られた繊維構造体の厚さを測定した。表1に示されるとおり、実施例1で得られた繊維構造体の厚さは、9mmであった。
【0116】
(秤量)
実施例1で得られた繊維構造体の質量を測定した。繊維構造体の質量の測定値を繊維構造体の面積で除することで、繊維構造体の坪量を導出した。なお、実施例1で得られた繊維構造体の面積は、上述されたシートの面積と同一であり、200mm×300mmである。表1に示されるとおり、実施例1で得られた繊維構造体の秤量は、90g/mであった。
【0117】
(第1環境下における熱伝導率)
定常法により、実施例1で得られた繊維構造体の第1環境下における熱伝導率を測定した。具体的には、カトーテックス(株)製KES-F7 IIサーモラボ(JIS L 1927準拠)を用いて、定常法により、上記の熱伝導率を測定した。表1に示されるとおり、実施例1で得られた繊維構造体の第1環境下における熱伝導率は、0.03W/m・Kであった。
【0118】
(第2環境下における熱伝導率)
上述された手順に従って、実施例1で得られた繊維構造体の第2環境下における熱伝導率を推定した。具体的には、まず、実施例1で得られた繊維構造体の一方の表面に、アルミニウム蒸着層を形成した。アルミニウム蒸着層の厚さは、150nmであった。次に、MB型アルミケース(株式会社タカチ電機工業製、MB14-6-14)を準備した。また、上述された手順に従って、MB型アルミケースの内部に、12個のサーミスタと、5.4Ωフィルムヒータ(MINCO製 HK5417R5.3L12B)とを設置した。
【0119】
上記のMB型アルミケースを恒温槽(ESPEC会社製、MZH-32H)の内部に設置した後、上記の5.4Ωフィルムヒータを、デジタル温度調節器(ミスミ製 MTCTR)を介して電源に接続した。上記の恒温槽の寸法は、幅1500mm、長さ1500mm及び高さ1500mmであった。
【0120】
次に、第1環境下におけるヒータ電力実効値を測定した。具体的には、まず、恒温槽の内部の圧力を100kPaに調整した。また、恒温槽の内部の温度を-60℃に調整した。次に、ヒータに10.5Vの電圧を印加し、当該ヒータの電流値の測定を開始した。また、上記のデジタル温度調節器を用いて、MB型アルミケース内部の略中心位置に設置されたサーミスタにより測定される温度が20℃以下になるとヒータがONになり、当該温度が30℃以下になるとヒータがOFFになるように、ヒータの動作を制御した。その後、デジタル温度調節器を用いて、ヒータのON/OFFサイクルが略一定となるまでヒータの出力時間を測定した。
【0121】
ヒータの出力時間に基づいて第1環境下におけるヒータ電力実効値を導出した。表1に示されるとおり、第1環境下におけるヒータ電力実効値は、19.5Wであった。
【0122】
次に、第2環境下におけるヒータ電力実効値を測定した。具体的には、恒温槽の内部の圧力を5kPaに調整した点を除き、第1環境下におけるヒータ電力実効値と同様の手順により、第2環境下におけるヒータ電力実効値を測定した。表1に示されるとおり、第2環境下におけるヒータ電力実効値は、9.7Wであった。
【0123】
第1環境下におけるヒータ電力実効値と、第2環境下におけるヒータ電力実効値との比率に基づいて、実施例1で得られた繊維構造体の第2環境下における熱伝導率を推定した。表1に示されるとおり、実施例1で得られた繊維構造体の第2環境下における熱伝導率の推定値は、0.006W/m・Kであった。なお、第2環境下における熱伝導率の推定値第2環境下での熱伝導特性の一例であってよい。
【0124】
(比較例1)
繊維構造体を作製する代わりに、厚さが7mmの発泡ポリイミド樹脂(BOYD社製、SOLIMIDE TA-301)を準備した点を除き、実施例1と同様の手順により、第1環境下における熱伝導率を測定し、第2環境下における熱伝導率とを推定した。測定結果及び推定結果を表1に示す。また、発泡ポリイミド樹脂の厚さ及び秤量のカタログ値を表1に示す。
【0125】
(参考例1)
繊維構造体を作製する代わりに、厚さが10mmの真空断熱パネル(パナソニック株式会社製、U-Vacuaシリーズ TZB9830E)を準備した点を除き、実施例1と同様の手順により、第1環境下における熱伝導率を測定し、第2環境下における熱伝導率とを推定した。測定結果及び推定結果を表1に示す。また、真空断熱パネルの厚さ及び秤量のカタログ値を表1に示す。なお、上記の真空断熱パネルは、実質的に空気が残存しておらず、第2環境下においても破損することはなかった。
【0126】
【表1】
【0127】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0128】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず」、「次に」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0129】
100 飛行体、110 蓄電池、112 蓄電パック、120 電力制御回路、130 電動機、140 プロペラ、150 センサ、160 制御装置、200 断熱装置、210 ベースプレート、212 載置面、214 ベント弁、220 断熱部材、222 短繊維、224 短繊維、230 反射部材、240 溶着部材、260 収容空間、410 断熱部材、420 ポリイミド層、430 エアロゲル層
【要約】      (修正有)
【課題】優れた断熱性を有する繊維構造体を提供する。
【解決手段】繊維構造体が、実質的にポリイミド樹脂からなる複数の繊維を含む。繊維構造体の質量に対する複数の繊維の質量の割合は、70質量%以上である。繊維構造体の厚さは、1mm以上である。繊維構造体の秤量は、40g/m以上150g/m以下である。複数の繊維のそれぞれの長さは、1.0mm以上10.0mm以下であってよい。複数の繊維のそれぞれの幅は、1μm以上100μm以下であってよい。JISL1927に準じて測定される繊維構造体の熱伝導率は、0.020W/m・K以上、0.040W/m・K以下であってよい。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6