(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】近視制御用累進付加レンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20240925BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2023505747
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2021071412
(87)【国際公開番号】W WO2022029031
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】PCT/US2020/045459
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】サウリウス レイモンド ヴァルナス
(72)【発明者】
【氏名】レイ スティーブン スプラット
(72)【発明者】
【氏名】ティーモ クラッツァー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト ケルシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジークフリート ヴァール
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208969368(CN,U)
【文献】特表2019-525230(JP,A)
【文献】国際公開第2020/109431(WO,A1)
【文献】中国特許第107003540(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/06
G02C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ
(13)を有する累進付加レンズ(19)であって、度数変化面(23)が、少なくとも、
- 遠方視力に適合された前記累進付加レンズ(19)の上部に配置された指定遠方部分(1)、
- 近方部分(3)が近方視力に適合された近方屈折度数を有する近方基準点(7)を含む、前記累進付加レンズの下部に配置された指定近方部分(3)、及び
- 前記指定遠方部分(1)と前記指定近方部分(3)との間に延びる指定中間コリドー(9)
を提供し、
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)が、前記累進付加レンズ(19)の表面(23)上に重畳されている、累進付加レンズ(19)において、
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、前記近方基準点(7)より上方の垂直座標(y)において前記累進付加レンズ(19)の鼻限界から側頭限界まで延びる想定線(15)よりも下方に位置する、前記表面(23)の全ての領域から除外されており、前記垂直座標(y)が、前記近方基準点(7)の上方の距離にあり、前記距離が、1.5mm~3mmの範囲にある、ことを特徴とする、累進付加レンズ(19)。
【請求項2】
前記累進付加レンズ(19)が、円形アンカット累進付加レンズである、ことを特徴とする、請求項1に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項3】
前記指定近方部分(3)の左側及び右側に対して、平均付加度数が0.125Dを超えない周辺ゾーン(11)が存在し、前記近方部分(3)の前記左側及び前記右側に対する周辺ゾーン(11)間の間隔が25mm以下である、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の累進屈折力レンズ(19)。
【請求項4】
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が除外されていない前記累進付加レンズの部分において、前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が少なくとも前記表面(23)のゾーン内に存在し、前記ゾーンにおいて、重みA、B(RMSブラー)と共に加えられる二乗平均球面誤差(SphErr)及び二乗平均非点収差誤差(AstErr)により、前記累進付加レンズの着用者が経験する生理的ブラーが、0.25Dの閾値を超えている、ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項5】
前記重みA、Bの値が、1/2~1の範囲にある、ことを特徴とする、請求項4に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項6】
- 前記遠方部分(1)が、遠方屈折度数を有する遠方基準点(5)を含み、
- 前記近方基準点(3)における前記近方屈折度数が、前記遠方屈折度数に第1の付加度数を加えたものによって与えられ、
-
近視デフォーカスを提供する各マイクロレンズ(13)が、少なくとも前記第1の付加度数と同じ
強さの第2の付加度数を提供する、
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の累進付加レンズ。
【請求項7】
前記累進付加レンズ(19)上にフィッティングクロス(17)が設けられ、前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、4~6mmのより小さい半径及び17mm~18mmのより大きい半径を有する半環を形成する前記遠方部分(1)の領域にわたって分布され、少なくとも4mmの半径を有する前記遠方基準点(5)の周囲の領域には
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)がない、ことを特徴とする、請求項6に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項8】
前記表面(23)上に重畳された前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、前記表面(23)上の領域を覆うマイクロレンズアレイを形成し、前記領域のうち
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)によって覆われる割合が少なくとも30%である、ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項9】
前記表面(23)上に重畳された前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、マイクロレンズアレイを形成し、
- 前記アレイの端部に配置されていない
近視デフォーカスを提供する各マイクロレンズ(13)が、少なくとも4つの
近視デフォーカスを提供する隣接マイクロレンズを有し、
-
近視デフォーカスを提供する隣接マイクロレンズ(13)の中心間の距離が、1.3mm~2.0mmの範囲にあり、
- 各マイクロレンズ(13)が、半長軸と半短軸との算術平均が0.25mm~0.75mmの範囲にある楕円である、
ことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項10】
前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズが(13)が重畳された前記表面が、前記度数変化面(23)である、ことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の累進付加レンズ(19)。
【請求項11】
近視デフォーカス提供マイクロレンズ(13)を有する累進付加レンズ(19)の製造方法であって、
- 度数変化面(23)を有する累進付加レンズ(19)を提供することであって、前記度数変化面(23)が、少なくとも、遠方視力に適合された前記累進付加レンズ(19)の上部に配置された指定遠方部分(1)、近方部分(3)が近方視力に適合された近方屈折度数を有する近方基準点(7)を含む、前記累進付加レンズ(19)の下部に配置された指定近方部分(3)、及び前記指定遠方部分(1)と前記指定近方部分(3)との間に延びる指定中間コリドー(9)、を提供する、ことと、
- 前記累進付加レンズ(19)の表面(23)上に
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳することと、
からなるステップを含む、方法において、
前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を重畳する際に、
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)の重畳が、前記近方基準点(7)より上方の垂直座標(y)において前記累進付加レンズ(19)の鼻限界から側頭限界まで延びる想定線(15)よりも下方に位置する、前記表面(23)の全ての領域から除外されており、前記垂直座標(y)が、前記近方基準点(7)の上方の距離にあり、前記距離が、1.5mm~3mmの範囲にある、ことを特徴とする、方法。
【請求項12】
円形アンカット累進付加レンズ(19)が製造される、ことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記累進付加レンズ(19)として、前記指定近方部分(3)の左側及び右側に対して、平均付加度数が0.125Dを超えない周辺ゾーン(11)を有し、前記近方部分(3)の前記左側及び前記右側に対する前記周辺ゾーン(11)間の間隔が25mm以下である、累進付加レンズ(19)が提供される、ことを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)が、前記累進付加レンズ(19)の前記表面(23)に、前記累進付加レンズ(19)の
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が除外されていない部分において、RMSブラーが0.25Dの閾値を超える前記表面(23)の領域内に前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が存在するように重畳されている、ことを特徴とする、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記遠方部分(1)が、前記近方部分(3)に加えて
、遠方屈折度数を提供する遠方基準点(5)を含み、前記近方基準点(7)における前記近方屈折度数が、前記遠方屈折度数
に第1の付加度数を加えたものによって与えられ、前記重畳された
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)の各々が、少なくとも
前記第1の付加度数と同じ
強さの第2の付加度数を提供する、ことを特徴とする、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記
累進付加レンズ
(19)上にフィッティングクロス(17)が設けられ、前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が前記表面(23)上に重畳されるときに、前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、4~6mmのより小さい半径及び17mm~18mmのより大きい半径を有する半環を形成する前記遠方部分(1)の領域にわたって分布され、少なくとも4mmの半径を有する前記遠方基準点(5)の周囲の領域には
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)がない、ことを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、前記表面(23)上の領域を覆うマイクロレンズアレイを形成するように前記表面(23)上に重畳されており、前記重畳することが、
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)によって覆われる前記領域の割合が少なくとも30%であるように行われる、ことを特徴とする、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)が、前記表面(23)上にマイクロレンズアレイを形成するように重畳されており、
- 前記アレイの端部に配置されていない
近視デフォーカスを提供する各マイクロレンズ(13)が、少なくとも4つの
近視デフォーカスを提供する隣接マイクロレンズを有し、
-
近視デフォーカスを提供する隣接マイクロレンズ(13)の中心間の距離が、1.3mm~2.0mmの範囲にあり、
-
近視デフォーカスを提供する各マイクロレンズ(13)が、半長軸と半短軸との算術平均が0.25mm~0.75mmの範囲にある楕円である、
ことを特徴とする、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が、前記度数変化面(23)上に重畳されている、ことを特徴とする、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記累進付加レンズ(19)を提供すること、及び前記累進付加レンズ(19)の前記表面上に前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を重畳することが、累進付加レンズの数値表現に対して行われ、前記累進付加レンズの前記数値表現に基づいてモールド(31)が作製され、前記累進付加レンズ(19)が、前記モールド(31)を使用するモールディング又はキャスティングによって製造される、ことを特徴とする、請求項11~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記累進付加レンズ(19)を提供すること、及び前記累進付加レンズの前記表面上に前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を重畳することが、
-
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)なしの累進付加レンズ(19)を提供すること、
- 前記累進付加レンズの前記表面上に更なる材料(21)を
付けること、及び
- 前記
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を形成するように前記更なる材料(21)を成形すること、
によって行われる、ことを特徴とする、請求項11~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
近視デフォーカス
を提供
するマイクロレンズ
(13)を有する累進付加レンズの数値表現を確立するためのコンピュータプログラムであって、命令を有するプログラムコードを含み、前記命令が、コンピュータによって実行されると、前記コンピュータに少なくとも、
- 前記累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得させ、前記累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得させ、
- 前記累進付加レンズ(19)の上部に配置された少なくとも遠方部分(1)を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化させ、前記遠方部分(1)が、前記遠方屈折度数を有する遠方基準点(5)を含み、近方部分(3)が、前記累進付加レンズの下部に配置され、前記近方部分(3)が、前記近方屈折度数を有する近方基準点(7)を含み、中間コリドー(9)が、前記遠方部分(1)と前記近方部分(3)の間に延びており、
- 前記累進付加レンズの表面上に
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳させ、
- 前記重畳された
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を有する前記最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、前記累進付加レンズの前記数値表現として確立させる、
コンピュータプログラムにおいて、
前記命令が、前記コンピュータに、前記近方基準点(7)より上方の垂直座標(y)において前記累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線(15)よりも下方に位置する、前記表面の全ての領域から
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が除外されるように、前記
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳させ、前記垂直座標(y)が前記近方基準点(7)の上方の距離にあり、前記距離が1.5mm~3mmの範囲にある
ことを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項23】
円形アンカット累進付加レンズ(19)の数値表現が確立される、ことを特徴とする、請求項22に記載のコンピュータプログラム。
【請求項24】
プログラムコードが記憶された不揮発性コンピュータ可読記憶媒体であって、前記プログラムコードが
、近視デフォーカス
を提供
するマイクロレンズ
(13)を有する累進付加レンズの数値表現を確立するための命令を含み、前記命令が、コンピュータによって実行されると、前記コンピュータに少なくとも、
- 前記累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得させ、前記累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得させ、
- 前記累進付加レンズ(19)の上部に配置された少なくとも遠方部分(1)を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化させ、前記遠方部分(1)が、前記遠方屈折度数を有する遠方基準点(5)を含み、近方部分(3)が、前記累進付加レンズの下部に配置され、前記近方部分(3)が、前記近方屈折度数を有する近方基準点(7)を含み、中間コリドー(9)が、前記遠方部分(1)と前記近方部分(3)の間に延びており、
- 前記累進付加レンズの表面上に
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳させ、
- 前記重畳された
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を有する前記最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、前記累進付加レンズの前記数値表現として確立させる、
不揮発性コンピュータ可読記憶媒体において、
前記プログラムコードが、前記コンピュータに、前記近方基準点(7)より上方の垂直座標(y)において前記累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線(15)よりも下方に位置する、前記表面の全ての領域から
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が除外されるように、前記
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳させる命令を含み、前記垂直座標(y)が、前記近方基準点(7)の上方の距離にあり、前記距離が、1.5mm~3mmの範囲にある、ことを特徴とする、不揮発性コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項25】
記憶された前記プログラムコードが、円形アンカット累進付加レンズ(19)の数値表現を確立するための命令を含む、ことを特徴とする、請求項24に記載の不揮発性コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項26】
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を有する累進付加レンズの数値表現を確立するためのデータ処理システムであって、プロセッサと、少なくとも1つのメモリと、を備え、前記メモリに記憶されたコンピュータプログラムの命令によって、前記プロセッサが、少なくとも、
- 前記累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得し、前記累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得し、
- 前記累進付加レンズ(19)の上部に配置された少なくとも遠方部分(1)を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化し、前記遠方部分(1)が、前記遠方屈折度数を有する遠方基準点(5)を含み、近方部分(3)が、前記累進付加レンズの下部に配置され、前記近方部分(3)が、前記近方屈折度数を有する近方基準点(7)を含み、中間コリドー(9)が、前記遠方部分(1)と前記近方部分(3)の間に延びており、
- 前記累進付加レンズの表面上に
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳し、
- 前記重畳された
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を有する前記最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、前記累進付加レンズの前記数値表現として確立する、
ように構成されている、データ処理システムにおいて、
前記メモリに記憶された前記命令によって、前記プロセッサが、前記近方基準点(7)より上方の垂直座標(y)において前記累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線(15)よりも下方に位置する前記表面の全ての領域から
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が除外されるように、前記
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳し、前記垂直座標(y)が前記近方基準点(7)の上方の距離にあり、前記距離が1.5mm~3mmの範囲にあるように構成されている、ことを特徴とする、データ処理システム。
【請求項27】
前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラムの前記命令によって、前記プロセッサが、円形アンカット累進付加レンズ(19)の数値表現を確立するように構成されている、ことを特徴とする、請求項26に記載のデータ処理システム。
【請求項28】
近視デフォーカス
を提供
するマイクロレンズ
(13)を有する累進付加レンズの数値表現を確立するコンピュータ実施方法であって、少なくとも、
- 前記累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得し、前記累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得することと、
- 前記累進付加レンズ(19)の上部に配置された少なくとも遠方部分(1)を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化することであって、前記遠方部分(1)が、前記遠方屈折度数を有する遠方基準点(5)を含み、近方部分(3)が、前記累進付加レンズの下部に配置され、前記近方部分(3)が、前記近方屈折度数を有する近方基準点(7)を含み、中間コリドー(9)が、前記遠方部分(1)と前記近方部分(3)の間に延びている、ことと、
- 前記累進付加レンズの表面上に
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)を重畳することと、
- 前記重畳された
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)を有する前記最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、前記累進付加レンズの前記数値表現として確立することと、
からなるステップを含む、コンピュータ実施方法において、
前記近方基準点(7)より上方の垂直座標(y)において前記累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線(15)よりも下方に位置する前記表面の全ての領域から、
近視デフォーカスを提供するマイクロレンズ(13)が除外されるように、前記
近視デフォーカスを提供する複数のマイクロレンズ(13)が重畳され、前記垂直座標(y)が前記近方基準点(7)の上方の距離にあり、前記距離が1.5mm~3mmの範囲にある、ことを特徴とする、コンピュータ実施方法。
【請求項29】
円形アンカット累進付加レンズ(19)の数値表現が確立される、ことを特徴とする、請求項28に記載のコンピュータ実施方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、累進付加レンズ及び累進付加レンズの製造方法に関する。加えて、本発明は、累進付加レンズの数値表現を確立するためのコンピュータプログラム、そのようなコンピュータプログラムを有する不揮発性コンピュータ可読記憶媒体、累進付加レンズの数値表現を確立するためのデータ処理システム、及び累進付加レンズの数値表現を確立するコンピュータ実施方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの東アジア諸国では、近視は、いくつかの大都市では、18~19歳の間では100%に近い近視の発生率が報告されている、流行比率に達している(Jung S-K,Lee JH,Kakizaki Hらによる、Prevalence of myopia and its association with body stature and educational level in 19-year-old male conscripts in Seoul,South Korea.Invest Ophthalmol Vis Sci.2012;53:5579-5583)。2010年には全世界で約20億人の近視が存在していたと推定されており、最近の疫学的モデリングでは、この数字は2050年には50億人にまで増加すると示唆している(Holden,BA,Fricke,TR,Wilson,DAらによる、Global Prevalence of Myopia and High Myopia and Temporal Trends from 2000 through 2050.Ophthalmology 2016,123:1036-1042)。更に、若年層では強度近視(SER≦-5.00D、ここでSERは球面等価屈折(Spherical Equivalent Refraction)を表す)が増加傾向にあり、白内障、緑内障、網膜剥離、近視黄斑症などの眼疾患のリスクを実質的に増大し、これらは全て回復不能な視力損失を引き起こす可能性がある(Wong TY,Ferreira A,Hughes Rらによる、Epidemiology and disease burden of pathologic myopia and myopic choroidal neovascularization:an evidence-based systematic review.Am J Ophthalmol 2014;157:9-25)。疫学モデルでは、強度近視は、2010年での約3億人から2050年には10億人まで世界的に増加することが予測されている(Holdenら、2016)。これは、視覚障害治療及び生産性低下において、社会に対する非常に高いコストにつながることは不可避である。
【0003】
二焦点レンズ及び累進付加レンズは、通常は就学開始と一致して進行する若年性近視の主な原因の1つと考えられている近方視力作業中の調節遅れを低減する目的で、臨床試験が行われている。若年性近視の進行を制御するための累進付加レンズの臨床試験の最近のベイズメタ分析では、PAL(累進付加レンズ:Progressive Addition Lenses)は、最初の1年間の近視の進行を遅らせるのに中程度の効果があり、PALの10の無作為化臨床試験(RCT)の平均近視眼性障害は28%であったが、その効果は24ヶ月後には20%にまで弱まり、36ヶ月後にはわずか15%にまで低下した(Varnas,Gu & Metcalfe(2020)、準備中)。近視の進行を遅らせる効果を高め、経時的に弱まる効果を克服するために、PAL設計を補強することが必要とされている。
【0004】
窩上に同時近視デフォーカスを提供する二焦点コンタクトレンズを用いたRCTにおいて、近視の進行を抑制することに明らかに成功したという報告が存在する(Lam CS,Tang WC,Tse DYらによる、Defocus Incorporated Soft Contact(DISC)lens slows myopia progression in Hong Kong Chinese schoolchildren:a 2-year randomised clinical trial.Br J Ophthalmol 2014;98:40-45;Cheng X,Xu J,Chehab Kら、Soft Contact Lenses with Positive Spherical Aberration for Myopia Control,Optom Vis Sci 2016;93:353-366、Aller TA,Liu M & Wildsoet CF,Myopia Control with Bifocal Contact Lenses:A Randomized Clinical Trial,Optom Vis Sci 2016;93:344-352.;Ruiz-Pomeda,A Perez-Sanchez,B.Valls,I.,Prieto-Garrido FL,Gutierrez-Ortega R,Villa-Collar C.MiSight Assessment Study Spain(MASS):A 2-year randomized clinical trial,Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology 256,1011-1021,2018;Sankaridurg P,Bakaraju RC,Naduvilath T,Chen X,Weng R,Tilia D,Xu P,Li W,Conrad F,Smith EL III & Ehrmann K.Myopia control with novel central and peripheral plus contact lenses and extended depth of focus contact lenses:2 year results from a randomised clinical trial.Ophthalmic Physiol Opt 2019;39(4):294-307,Chamberlain P,Peixoto-De-Matos SC,Logan NS,Ngo C,Jones D,Young G.A 3-year Randomized Clinical Trial of MiSight Lenses for Myopia Control.Optom Vis Sci.2019;96(8):556-67)。これらの研究の大部分は、中心距離設計コンタクトレンズを使用して、近視の眼において相対的な遠視シフトを呈する傾向にある周辺視力への影響を通じて、眼の成長に停止信号を与えるという仮説を有している(例えば、Walline,JJ.Myopia Control:A Review.Eye & Contact Lens.Volume 42,Number 1,January 2016,3-8)。しかしながら、この理論は、近視の進行速度と周辺部遠視シフトとの間にほとんど相関がないことを示す様々な臨床研究の結果と矛盾している(Mutti,D.O,Sinnott,L.T.,Mitchell,G.L.,Jones-Jordan,L.A.,Moeschberger,M.L.,Cotter,S.A.,Kleinstein,R.N.,Manny,R.E.,Twelker,J.D.,Zadnik,K.(2011).Relative Peripheral Refractive Error and the Risk of Onset and Progression of Myopia in Children,Invest.Ophthal-mol.Vis.Sci.,52(1),199-205;Sng,C.C.A.,Lin,X.-Y.,Gazzard,G.,Chang,B.,Dirani,M.,Chia,A.,Selvaraj,P.,Ian,K.,Drobe,B.,Wong,T.-Y.& Saw,S.-M.(2011).Peripheral Refraction and Refractive Error in Singapore Chinese Children,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.,52(2),1181-1190;Hasebe S,Jun J,Varnas SR.Myopia control with positively aspherized progressive addition lenses:a 2-year,multicentre,randomized,controlled trial.Invest Ophthalmol Vis Sci.2014;55:7177-7188)。更に、2700人の中国の子供を含む大規模研究(Atchison,D.A.,Li,S.-M.,Li,H.,Li,S.-Y.,Liu,L.-R.,Kang,M.-T.,Meng,B.,Sun,Y.-Y.,Zhan,S.-Y.,Mitchell,P.and Wang,N. Relative peripheral hyperopia does not predict development and progression of myopia in children. Invest Ophthalmol Vis Sci.;2015;56:6162-6170)では、逆の相関関係であるが、遠視性の相対的周辺屈折率(RPR)が高い子供たちは、遠視性のRPRが低い子供たちよりも近視の進行が遅かった。したがって、本発明者らは、近視の子供における眼球の軸方向伸長を遅らせる二焦点コンタクトレンズの有効性が、周辺網膜ではなく、窩上に同時近視デフォーカスを提供することに依存すると仮定を立てた。
【0005】
若い患者のそのようなレンズに対する受容性に影響を与えないように、そのような同時近視デフォーカスを眼鏡レンズ内でどのように提供するかは、難しい問題である。この問題に対する概念的な解決策は、米国特許第10,268,050B2号明細書において、球面眼鏡レンズの表面に環状又は円形のマイクロレンズアレイを適用することによって提案された。マイクロレンズの環状アレイでは、眼鏡レンズの光学的中心を中心とし、且つ2つの瞳孔径の周りの小さな領域は、着用者の快適性を高め、受容性を支援するために、マイクロレンズがないままである。マイクロレンズを有する同様の眼鏡レンズは、国際公開第2019/166657A1号に開示されている。
【0006】
国際公開第2019/166654A1号は、眼鏡レンズの中心部にマイクロレンズがないままである、眼鏡レンズの光学的中心に中心を置くマイクロレンズの環状アレイを有する眼鏡レンズを開示している。国際公開第2019/166654A1号に開示された眼鏡レンズは、累進付加レンズとして実装され得る。調節遅れを低減するための累進付加レンズの使用は、例えば、調節遅れを低減するための、近方部分周辺に高い負の平均度数勾配を有する特殊な累進付加レンズを開示する、国際公開第2018/100012A1号から既知である。
【0007】
国際公開第2020/113212A1号は、散乱中心と、散乱中心を含まない2つのクリア開口とを有する眼鏡レンズを開示している。散乱中心は、0.001mm~1mmの範囲の寸法を有する眼鏡レンズの表面上の突起であってもよく、眼鏡レンズは、クリア開口のうちの1つが近方部分に配置されている累進付加レンズであってもよい。眼鏡レンズはまた、マイクロレンズが環状アレイを形成し、クリア開口には存在しないマイクロレンズを含んでもよい。クリア開口のうちの1つは、アレイの中心に配置され、他は、環状アレイの不連続性を形成する近方部分に配置されてもよい。しかしながら、国際公開第2020/113212A1号では、近方部分のいくつかの領域が、依然としてマイクロレンズによって覆われている。本発明の発明者らによって行われた、眼鏡レンズの光学的中心を中心とする小さな領域をクリアに残すマイクロレンズの環状アレイを有する眼鏡レンズの評価では、そのような眼鏡レンズが、マイクロレンズを通して近くのオブジェクトを中心窩性に見るときに不快感及び眼精疲労を生じさせる場合があることを示している。加えて、近方部分のクリア開口は累進眼鏡レンズの周辺ゾーンと重なり、国際公開第2018/100012A1号に開示されているような、近方部分の周辺に高い負の平均度数勾配を有する累進付加レンズでは、それらの累進付加レンズの近方部分が典型的には通常の累進付加レンズのものよりも狭いために、国際公開第2020/113212A1号の概念を用いることを困難にする。
【0008】
国際公開第2019/166654A1号に照らすと、本発明の第1の目的は、不快感及び眼精疲労を回避するのに役立ち、且つ近方部分周辺の高い負の平均度数勾配と容易に組み合わせることができる、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズを提供することである。
【0009】
本発明の第2の目的は、不快感及び眼精疲労を回避するのに役立ち、且つ近方部分周辺の高い負の平均度数勾配と容易に組み合わせることができる、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズの製造方法を提供することである。
【0010】
本発明の第3の目的は、不快感及び眼精疲労を回避するのに役立ち、且つ近方部分周辺の高い負の平均度数勾配と容易に組み合わせることができる、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズの数値表現を確立するための、データ処理システム、及びコンピュータプログラム、並びにコンピュータ実施方法を提供することである。
【0011】
第1の目的は、請求項1に記載の累進付加レンズによって、第2の目的は、請求項10に記載の方法によって、並びに第3の目的は、請求項20に記載のコンピュータプログラムによって、請求項21に記載の不揮発性記憶媒体によって、請求項22に記載のデータ処理システムによって、及び請求項23に記載のコンピュータ実施方法によって、達成される。従属請求項は、本発明の有利な展開を含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下の定義は、本明細書の範囲内で使用される。
【0013】
累進付加レンズ
累進度数レンズ(PPL)又はバリフォーカルレンズとも呼ばれることがある、累進付加レンズ(PAL)は、度数変化レンズ、すなわち、その領域の一部又は全部にわたって焦点度数の滑らかな変化を、不連続性なしに有する眼鏡レンズである。これは、焦点度数の2つの基準点を用いて2つ以上の焦点度数を提供するように設計されており、一般に老眼の矯正及び遠方から近方までのクリア視力を提供するように設計されている(DIN ISO 13666:2019、セクション3.7.8)。
【0014】
遠方部分
遠方部分とは、遠方視力用の屈折度数を有する、累進付加レンズの一部分を指す(DIN ISO 13666:2019、セクション3.15.1)。本明細書では、遠方視力用の屈折度数は、遠方屈折度数と呼ぶ。
【0015】
遠方基準点
遠方基準点は、遠方部分の確認度数が適用される眼鏡レンズの前面上の点であり(DIN ISO 13666:2019、セクション3.2.20)、ここで確認度数は、焦点計確認の基準として製造者によって特に計算及び提供される眼鏡レンズの屈折度数である。
【0016】
近方部分
近方部分とは、近方視力用の屈折度数を有する、累進付加レンズの一部分を指す(DIN ISO 13666:2019、セクション3.15.3)。
【0017】
近方基準点
近方基準点は、近方部分の確認度数が適用される眼鏡レンズの前面上の点であり(DIN ISO 13666:2019、セクション3.2.21)、ここで確認度数は、焦点計確認の基準として製造者によって特に計算及び提供される眼鏡レンズの屈折度数である。
【0018】
中間コリドー
「中間コリドー」という用語は、累進付加レンズのような度数変化レンズの一部分を指し、球面及び円柱頂点度数の意図された変化を提供するものとする。したがって、本発明に関連して、「中間コリドー」という用語は、低い表面非点収差、及び遠方視力部分のものから近方視力部分のものまで変化する表面度数を有する、累進追加レンズのゾーンを意味する。
【0019】
付加度数
付加度数とは、累進追加レンズの近方部分の頂点度数と累進追加レンズの遠方部分の頂点度数との間の差を指定し(DIN ISO 13666:2019、セクション3.16.3)、頂点度数は像側焦点の同軸後方焦点の逆数を表し、単位はメートルである。
【0020】
屈折度数
「屈折度数」という用語は、眼鏡レンズの焦点距離及びプリズム度数の総称を形成する。また、「焦点度数」という用語は、平行光の近軸ペンシルを単一焦点に集中させる球面頂点度数(処方では通常、「球面」値又は略称「sph」で考慮される)、及び平行光の近軸ペンシルを互いに直角の2つの別個の線焦点に集中させる眼鏡レンズの円柱頂点度数(処方では通常、「円柱」値又は略称「cyl」で考慮される)の総称を形成する(DIN ISO 13666:2019、セクション3.10.2)。「頂点度数」は、近軸頂点焦点距離の逆数である(DIN ISO 13666:セクション2019、3.10.7)。本明細書の範囲内では、ビームは、その直径が0.05mm、特に0.01mmを超えない場合、光線の近軸ペンシルであるとみなされる。
【0021】
度数変化面
度数変化面は、不連続性なしに、その領域の一部又は全部にわたって表面度数が滑らかに変化する表面であり(DIN ISO 13666:セクション2019、3.4.10)、ここで表面度数は、表面に入射する光線のペンシルのバージェンスを変化させる仕上げ表面の局所能力である(DIN ISO13666:2019、セクション3.10.4)。累進付加レンズの場合、度数変化面はまた、「累進面」と呼ばれ得る。
【0022】
着用時位置
着用時位置とは、着用中の眼及び顔に対する眼鏡レンズの位置(向きを含む)である(DIN ISO 13666:セクション2019、3.2.36)。
【0023】
眼鏡レンズの数値表現
本発明の意味において、眼鏡レンズの数値表現は、コンピュータ実施方法によって最適化を実行するための、及びCNCプロセスによって眼鏡レンズを製造するための、眼鏡レンズの数学的記述である。
【0024】
眼鏡レンズの最適化
本発明の範囲内において、眼鏡レンズを最適化することは、コンピュータ支援プロセスを実行することを意味し、このプロセスでは、眼鏡レンズの数値表現が、数値表現を記述する少なくとも1つのパラメータ化関数の助けを借りて、典型的には複数のパラメータ化関数の助けを借りて記述され、このプロセスでは、眼鏡レンズによって達成される目標特性が予め判定され、且つメリット関数が指定され、その値は、目標特性からのパラメータ化関数の現在のパラメータ値によって達成される特性の偏差を指定し、パラメータ化関数のパラメータ値は、目標関数の値が1つ又は複数のパラメータ値の変化の終了につながる終了基準を満たすまで変化する。
【0025】
処方
「処方」という用語は、診断された屈折異常を矯正するために必要な屈折度数を適切な値の形態で指定した概要を意味する。球面度数の場合、処方は、球面用の値「sph」を含むことができる。非点収差度数の場合、処方は、円柱用の値「cyl」及び軸用の値「axis」を含むことができ、プリズム度数の場合、処方は、プリズム値を含むことができる。更に、処方は、更なる値、例えば、多焦点眼鏡レンズの場合には「add」値を含むことができ、この「add」値は、眼鏡レンズの近方部分における頂点度数と眼鏡レンズの遠方部分における頂点度数との間の差を指定する。また、瞳孔間距離用の値「PD」が、処方に含まれ得る。
【0026】
目標設計
本発明の意味での目標設計とは、最適化プロセスにおいて達成されるべき、眼鏡レンズ上の像収差の分布の、又は眼鏡レンズの表面特性の仕様である。第1の場合、光学目標設計への参照がなされ、第2の場合、表面目標設計への参照がなされる。したがって、光学目標設計は、眼鏡レンズ全体、そうでなければ、その先にある、眼鏡着用者のビーム経路における像収差の分布の仕様(例えば、非点収差残留偏差、球面残留偏差、プリズム、水平対称性、歪み、又は例えばコマ収差などの高次収差)である。加えて、光学目標設計は、基準点(例えば、遠方設計基準点若しくは近方設計基準点)、又は測定装置の測定ビーム経路、例えば、頂点度数測定装置のビーム経路における付加度における、非点収差及び球面残留偏差の仕様を含み得る。対照的に、表面目標設計は、最適化プロセスにおいて達成されるべき自由曲面の表面特性、例えば、表面度数、表面非点収差、及び非点収差軸を指定する。ここで、表面度数とは、最適化点を取り囲む表面部分が、空気中から表面部分上に入射するビームのバージェンス(眼鏡レンズ材料の屈折率を波面の曲率半径により割ったもの)を変化させる能力を示す指標である。最適化点における表面非点収差は、表面の最適化点における主経線方向における表面度数の差を表す。以下のテキストは、光学目標設計又は表面目標設計には特に言及せず、目標設計にのみ参照する前提で、「目標設計」という用語が、常に両方のタイプの目標設計を含むべきものとする。
【0027】
RMSブラー
本明細書に関連して、RMSブラーとは、人間の視力がそのような光学エラー(RMS=Sqrt(A・SphErr2+(B・AstErr/2)2)を統合する方法を反映するように、適切な重みA、Bと共に加えられる、二乗平均球面誤差(SphErr)及び二乗平均非点収差誤差(AstErr)により、累進付加レンズの着用者が経験する生理的ブラーであると考えられるものとする。重みA、Bの値は各々、0~1、特に1/2~1の範囲にあり得る。RMSブラーを計算するための1つの例は、重みが1及び1/2の、RMS=Sqrt(SphErr2+(AstErr/2)2)である。RMSブラーは、光線追跡の想定されたオブジェクトフィールドを使用するモデルレンズの光線追跡に基づいて計算される。加えて、RMSブラーの計算に対して、着用者は最大1.00Dの度数誤差に対応できると想定される。
【0028】
マイクロレンズ
本発明に関連して、「マイクロレンズ」という用語は、眼鏡レンズの表面上に提供され、且つ眼鏡レンズ自体の寸法よりも少なくとも大きさが1オーダー小さい横方向寸法を有する、レンズのほぼ球形の小さな凸状構造を指す。
【0029】
フィッティングクロス
フィッティングクロスは、眼鏡レンズのフィッティング点、すなわち、眼鏡レンズを眼の前に位置付けるために製造者によって規定された眼鏡レンズの前面上の点又はブランクを示す(DIN ISO 13666:2019、セクション3.2.24)。
【0030】
楕円マイクロレンズ
本発明に関連して、「楕円マイクロレンズ」という用語は、マイクロレンズが重畳される表面上のマイクロレンズの輪郭を指す。マイクロレンズは球形の部分であるが、その表面の輪郭が楕円である場合、マイクロレンズは楕円と呼ばれる。「楕円」という形容詞は、デカルト座標において、式、x2/a2+y2/b2=1(ここで、a、b、c>1、a=bの場合を除外しない)を満たす輪郭を特徴づけるために使用される。a=bの場合は円形になり、本発明に関連して、楕円の特殊なケースとみなされる。したがって、円形輪郭を有するマイクロレンズは、楕円マイクロレンズの特殊なケースとみなされる。
【0031】
作業用眼鏡レンズ
「作業用眼鏡レンズ」という用語は、最適化プロセスにおいて最適化すべき、少なくとも1つのパラメータ化表面を有する数値表現の形態で与えられる眼鏡レンズを示すために使用される。
【0032】
重畳
本発明に関連して、「重畳」という用語は、他の何かにわたって、その上方に、又はその上に、押し付け、配置し、又は設定することを意味する。
【0033】
本発明の第1の態様によれば、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズが定義される。累進付加レンズは、度数変化面を有する。度数変化面は、少なくとも、遠方視力に適合された累進付加レンズの上部に配置された指定遠方部分、近方部分が近方視力に適合された近方屈折度数を有する近方基準点を含む、累進付加レンズの下部内の指定近方部分、及び指定遠方部分と指定近方部分との間に延びる指定中間コリドーを提供する。近方基準点は、近方部分の頂点を定義し、この部分を垂直方向において区切ることができる。複数のマイクロレンズが、累進付加レンズの表面上に重畳されている。本発明によれば、マイクロレンズは、近方基準点より上方の垂直座標において累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線よりも下方に位置する、その表面の全ての領域から除外されており、この座標の値は、1.5mm~3mmの範囲にある。多くの場合、1.8mm~2.2mmの値、例えば、2mmの値が適切である。
【0034】
累進付加レンズの下部からマイクロレンズを除外することは、以下の2つの目的を果たす。(1)近方部分の近方視力に対する使用目的の遵守を容易にし、(2)近方部分の負の非球面化の有益な効果を維持して調節遅れを低減する。
【0035】
マイクロレンズアレイ
本明細書に関連して、マイクロレンズアレイは、アレイ領域と呼ばれる領域にわたるマイクロレンズの系統的な配置である。この系統的な配置は、例えば、マイクロレンズがアレイ領域上で規則的又は均一に分布することによって実現され得る。
【0036】
本発明は、以下の考察に基づくものである。
【0037】
香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University、HKPolyU)において、同数の対照者と共に約80名の子供に対して、マイクロレンズの環状アレイを有する眼鏡レンズの臨床試験に成功裏にテストしたところ、24ヶ月後の追跡調査では対照者に比べて近視の進行を52%遅らせ、眼球の軸伸長を62%遅らせ、脱落率が15%未満であることを示した(Lam CSY、Tang WC、Tse DYY、Lee RPK、Chun RKM、Hasegawa Kらによる、Defocus incorporated multiple segments(DIMS)spectacle lenses slow myopia progression:A 2-year randomised clinical trial.Br J Ophthalmol.2020;104(3):363-8)。この種の眼鏡レンズのテストでは、より長時間にわたる着用は快適とは程遠く、常にマイクロレンズのない眼鏡レンズの中心領域を見通したいという強い動機が存在することが明らかになった。これは、眼鏡レンズのこの領域がほとんどの時間、遠方視力及び近方視力に使用され、同時近視デフォーカスが、マイクロレンズで覆われた領域内に眼がそれたときにのみ断続的に窩に対して提供されることを意味する。近視デフォーカスは遠視デフォーカスよりも時間的統合性の点でより強く、眼長の進行に影響を与えることがよく知られているため、これは問題とはならない(Wallman J及びWinawer J.による、Homeostasis of Eye Growth and the Question of Myopia.Neuron 2004;43:447-468)。遠視デフォーカスを提供する負のレンズの終日着用が日中の4回の2分間の正の眼鏡レンズ着用(近視デフォーカス)で否定され得ることは、動物実験で示されている(Zhu,X.、Winawer,J.、及びWallman,J.(2003).The potency of myopic defocus in lens-compensation、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.44,2818-2827)。これは、同時近視デフォーカスに断続的にさらされることが、眼球の軸方向伸長に対する停止信号を提供するのに十分であり得ることを示唆している。
【0038】
国際公開第2019/166654A1号に開示された累進付加レンズでは、マイクロレンズの環状アレイはまた、近方部分にも存在する。マイクロレンズは近方基準点(NRP)における度数よりも正の度数を提供するため、マイクロレンズの存在により、二焦点コンタクトレンズを用いた調節の研究で示されたように、調節反応を低減させる可能性が高い(Gong CR、Troilo,D、及びRichdale K.による、Accommodation and Phoria in Children Wearing Multifocal Contact Lenses.Optom Vis Sci 2017;94:353-360)。したがって、本発明の発明者らは、調節反応に対する付加度数の正の効果を維持するために、近方視力に専用の累進レンズの下部からマイクロレンズを除外すべきであると結論付けた。更に、マイクロレンズは、マイクロレンズ間のプリズムの変化により、窩上に複数の像を生じさせる。そのため、近方作業の場合、マイクロレンズで覆われた領域を通して見るときに、安定した単一の像を提供するマイクロレンズ間の表面領域から来る像を調節してそれに焦点を合わせる必要がある。このシナリオでは、近視の眼はしばしば、眼精疲労、及び中心視野にマイクロレンズを提供する近視デフォーカスの存在による調節遅れの増加を経験することになる。国際公開第2020/113212A1号の近方部分にはマイクロレンズがないクリア開口が存在しているが、依然として、特に周辺部内の近方部分のいくつかの領域は、調節を弛緩させる刺激を与え、結果としてマイクロレンズ間のギャップによって生じる像内の調節遅れを増加させることになる相対的に正の度数を有するマイクロレンズで覆われている。
【0039】
垂直座標が本発明の累進追加レンズの近方基準点よりも1.5mm~3mmの範囲から選択された距離、特に約2mmの値にある、近方基準点の上方の垂直座標において、累進追加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線の下方の全ての領域では、近視作業中にマイクロレンズが使用されないことを確実にすることができる。これは、2mmが近方基準点の上方の瞳孔の半径にほぼ対応している事実からもたらされる。したがって、近方作業中に使用され得る近方部分全体及び隣接領域にはマイクロレンズがない一方で、累進付加レンズの他の部分には依然としてマイクロレンズが存在し、その結果、累進付加レンズは、他の視力作業に対して同時近視デフォーカスを提供することができる。結果として、国際公開第2019/166654A1号及び国際公開第2020/113212A1号に開示された累進付加レンズと比較して、本発明の累進付加レンズは、より快適でありながら、依然として近視デフォーカスを提供するのに有効であり、且つ調節遅れを低減するのにより有効である。
【0040】
本発明の累進付加レンズでは、指定近方部分の左側及び右側に対して、平均付加度数が0.125Dを超えない周辺ゾーンが存在してもよい。近方部分の左側及び右側に対する周辺ゾーン間の間隔は、25mm以下、特に20mm以下である。これにより、左側及び右側の部分付近に近接する領域において、平均付加度数の大きな勾配を提供する。そのような大きな勾配は、調節遅れの低減に特に有効である。
【0041】
本発明の有利な展開では、累進付加レンズのマイクロレンズが除外されていない部分において、マイクロレンズは、RMS(Root Mean Square、二乗平均平方根)ブラーが0.25Dの閾値を超える前述の表面のゾーン内に存在する。これらのゾーンは、窩視力に大きな障害を引き起こすことなく、マイクロレンズで覆われ得る。外側のこの領域は、知覚可能な時間の長さに対して、快適に維持され得る最大の眼球回転にほぼ対応する約35mmの直径を有する円によって制限されてもよく、累進付加レンズの下部では、累進付加レンズの近方基準点の上方の瞳孔の半径付近にある垂直座標によって制限される。
【0042】
度数変化面は、典型的には、累進付加レンズの上部に配置された指定遠方部分を提供することができる。遠方部分は、遠方視力に適しており、且つ遠方屈折度数を有する遠方基準点を含む。次いで、近方基準点における近方屈折度数が、遠方屈折度数に第1の付加度数を加えたものによって与えられ、各マイクロレンズは、少なくとも第1の付加度数と同じ、好ましくはそれよりも強い第2の付加度数を提供する。通常、第1の付加度数は、1.50以上である。例えば、第1の付加度が1.50Dの場合、第2の付加度は1.50D以上であり、第1の付加度が2.00Dの場合、第2の付加度は2.00D以上である。好ましくは、第2の付加度数は、第1の付加度数よりも少なくとも0.5D強い。次いで、第1の付加度が1.50Dの例では、第2の付加度は2.00D以上であり、第1の付加度が2.00Dの例では、第2の付加度は2.50D以上である。しかしながら、第2の付加度数は、第1の付加度数より更に少なくとも1.0D高くなり得る。第1の付加度数よりも強い第2の付加度数を有することにより、近視焦点デフォーカスを確実にすることができる。
【0043】
通常、累進付加レンズには、フィッティングクロスが設けられる。マイクロレンズは、4~6mmのより小さい半径及び17mm~18mmのより大きい半径を有する半環(半環はフィッティングクロス(FC)を中心とする)に延びる遠方部分の領域にわたって分布されることが有利である。外側半径は、知覚可能な長さの時間にわたって快適に維持され得る最大の眼球回転にほぼ対応する。したがって、外側半径の外部にマイクロレンズを設けることは、あまり役に立たないことになる。加えて、内側半径を5mmとすることにより、窩遠位視力をクリアにすることが可能になる。更に、マイクロレンズは、遠方基準点を中心とし、且つ半径4mmの遠方度数測定円の内側から除外する必要がある。累進レンズにおける遠方基準点は、通常、フィッティングクロスの上方2~6mmに配置される。本発明の累進付加レンズのこの実施形態では、マイクロレンズは、近視デフォーカスを提供するのに有効である遠方部分の領域に配置される。
【0044】
本発明の累進付加レンズでは、その表面上に重畳されたマイクロレンズは、その表面上のアレイ領域を覆うマイクロレンズアレイを形成することができ、ここで、そのアレイ領域のうちマイクロレンズによって覆われる割合は、少なくとも30%である。デフォーカス領域の対応する空間的比率が33:67である、相反する近視及び遠視のデフォーカスをその眼にかけた、ヒヨコを用いた動物実験では、約33%のカバレッジで近視の進行を防ぐ十分な停止信号が得られた(Tse,DY及びTo,C-Hによる、Graded Competing Regional Myopic and Hyperopic Defocus Produce Summated Emmetropization Set Points in Chick,Invest Ophthalmol Vis Sci.2011;52:8056-8062)。それにもかかわらず、カバレッジは、例えば、少なくとも40%又は少なくとも50%より高くてもよい。
【0045】
本発明の有利な展開では、その表面上に重畳されたマイクロレンズは、マイクロレンズアレイを形成し、ここで、アレイの端部に配置されていない各マイクロレンズは、少なくとも4つの隣接マイクロレンズを有し、隣接マイクロレンズの中心間の距離は、1.3mm~2.0mmの範囲にあり、各マイクロレンズは、半長軸と半短軸との算術平均が0.25mm~0.75mmの範囲、特に、0.4mm~0.65mmの範囲にある楕円である。半長軸と半短軸は同一であってもよいことに留意すべきであり、その結果、本明細書では、「楕円マイクロレンズ」という用語はまた、限界ケースとして円形マイクロレンズも含むものとする。そのようなマイクロレンズアレイにより、領域カバレッジ率、すなわちマイクロレンズによって覆われるそのアレイ領域の割合を30%~60%とすることが可能になり、これにより、近視デフォーカスを提供するのと同時に、着用者に対する不快感を許容範囲内に保持するのに有効である。
【0046】
本発明の累進付加レンズでは、マイクロレンズが重畳されたその表面が度数変化面である場合、有利である。他の面上にマイクロレンズを設けることにより、累進付加レンズの周辺領域にわたって非点収差化することになる。マイクロレンズの非点収差画像化は、眼に対してクリアな近視デフォーカスを提供することはできない。実際、観察されるオブジェクトの向きによって、相反する焦点像を提供する場合がある。
【0047】
本発明の第2の態様によれば、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズの製造方法が定義される。方法は、少なくとも以下からなるステップを含む。
- 度数変化面を有する累進付加レンズを提供することであって、度数変化面が、少なくとも、遠方視力に適合された累進付加レンズの上部に配置された指定遠方部分、近方部分が近方視力に適合された近方屈折度数を有する近方基準点を含む、累進付加レンズの下部内の指定近方部分、及び指定遠方部分と指定近方部分との間に延びる指定中間コリドー、を提供する、ことからなるステップを含む、こと。近方基準点は、近方部分の頂点を定義し、この部分を垂直方向で区切ることができる。
- 累進付加レンズの表面上に複数のマイクロレンズ(13)を重畳すること。
【0048】
本発明によれば、マイクロレンズを重畳する際に、マイクロレンズの重畳は、近方基準点より上方の垂直座標において累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線よりも下方に位置する、その表面の全ての領域から除外されており、垂直座標は、近方基準点の上方の1.5mm~3mmの範囲にある。多くの場合、1.8mm~2.2mmの範囲の垂直座標の距離、例えば2mmの距離が適切である。
【0049】
本発明の方法により、本発明の累進付加レンズに関して説明された利点を実現する累進付加レンズを製造することを可能にする。
【0050】
度数変化面は、指定近方部分の左側及び右側に対して、平均付加度数が0.125Dを超えない周辺ゾーンを有し、近方部分の左側及び右側に対する周辺ゾーン間の間隔が、25mm以下、特に20mm以下であるように設けられ得る。これにより、左側及び右側の部分付近に近接する領域において、平均付加度数の大きな勾配を提供する。そのような大きな勾配は、調節遅れの低減に特に有効である。
【0051】
複数のマイクロレンズは、累進付加レンズのマイクロレンズが除外されていない部分において、RMSブラーが0.25Dの閾値を超える前述の表面のゾーン内にマイクロレンズが存在するように重畳され得る。これらのゾーンは、窩視力に大きな障害を引き起こすことなく、マイクロレンズで覆われ得る。外側のこの領域は、知覚可能な時間の長さに対して、快適に維持され得る最大の眼球回転にほぼ対応する35mmの直径を有する円によって制限されてもよく、累進付加レンズの下部では、近方基準点からの垂直座標の距離が瞳孔の半径にほぼ等しい、累進付加レンズの近方基準点の上方の垂直座標によって制限される。
【0052】
近方基準点における近方屈折度数は、遠方屈折度数に第1の付加度数を加えたものによって与えられてもよく、重畳されたマイクロレンズの各々は、少なくとも第1の付加度数と同じ、好ましくはそれよりも強い第2の付加度数を提供する。通常、第1の付加度数は、1.50以上である。例えば、第1の付加度が1.50Dの場合、第2の付加度は1.50D以上であり、第1の付加度が2.00Dの場合、第2の付加度は2.00D以上である。好ましくは、第2の付加度数は、第1の付加度数よりも少なくとも0.5D高く、第1の付加度数よりも少なくとも1.0D高くてもよい。次いで、第1の付加度が1.50Dの例では、第2の付加度は2.00D以上であり、第1の付加度が2.00Dの例では、第2の付加度は2.50D以上である。第1の付加度数よりも強い第2の付加度数を有することにより、近視焦点デフォーカスを確実にすることができる。第2の付加度数は、第2の付加度数が少なくとも第1の付加度数と同じ程度強い限り、マイクロレンズの各々に対して同じであってもよく、又はマイクロレンズ間で異なっていてもよい。
【0053】
本発明の方法では、累進付加レンズ上にフィッティングクロスが設けられ得る。マイクロレンズは次いで、4~6mmのより小さい半径及び17mm~18mmのより大きい半径を有する、フィッティングクロス(FC)を中心とする半環を形成する遠方部分の領域にわたって分布され得る。外側半径は、知覚可能な長さの時間にわたって快適に維持され得る最大の眼球回転にほぼ対応する。したがって、外側半径の外部にマイクロレンズを設けることは、はほとんど利益をもたらさないことになる。加えて、内側半径を5mmとすることにより、窩遠位視力をクリアにすることが可能になる。したがって、本発明の方法のこの展開では、マイクロレンズは、近視デフォーカスを提供するのに有効であり、且つコンピュータ実施方法に従って確立された累進付加レンズの受容度を増加させるある程度の快適さを依然として着用者に提供する、遠方部分の領域上に重畳される。
【0054】
本発明の方法では、マイクロレンズは、その表面上のアレイ領域を覆うマイクロレンズアレイを形成するようにその表面上に重畳され得、かかる重畳は、そのアレイ領域のマイクロレンズによって覆われる割合が少なくとも30%になるように行われる。少なくとも30%のカバレッジは、近視の進行を抑制するのに十分な停止信号を既に提供している。それにもかかわらず、カバレッジは、例えば、少なくとも40%又は少なくとも50%、より高くてもよい。
【0055】
この方法の更なる展開によれば、複数のマイクロレンズは、アレイの端部に配置されていない各マイクロレンズが少なくとも4つの隣接マイクロレンズを有するマイクロレンズアレイを形成するようにその表面上に重畳される。隣接マイクロレンズの中心間の距離は、1.3mm~2.0mmの範囲にあり、各マイクロレンズは、半長軸と半短軸との算術平均が0.25mm~0.75mmの範囲、特に0.4mm~0.65mmの範囲にある楕円である。そのようなマイクロレンズアレイにより、領域カバレッジ率、すなわちマイクロレンズによって覆われるそのアレイ領域の割合を30%~60%とすることが可能になり、これにより、近視の進行に対する停止信号を提供すると同時に、着用者に対する不快感を許容範囲内に保持するのに有効である。
【0056】
本発明の方法に従ってマイクロレンズが重畳される前述の表面は、度数変化面であってもよい。他の面上にマイクロレンズを重畳することにより、累進付加レンズの周辺領域にわたって非点収差化することになる。マイクロレンズの非点収差画像化は、眼に対して近視の進行のクリアな停止信号を提供しない。実際、像の焦点の位置が円柱軸の向きによって変化するため、任意の観察されるオブジェクトの端部の向きに応じて、屈折矯正のための相反する信号を提供する場合がある。
【0057】
累進付加レンズを提供すること、及び累進付加レンズのその表面上にマイクロレンズを重畳することは、累進付加レンズの数値表現を使用することによって実施することができる。次いで、累進付加レンズの数値表現に基づいてモールドを作製し、そのモールドを使用するモールディングプロセス又はキャスティングプロセスにより累進付加レンズを製造する。累進付加レンズの数値表示を必要としない更なる代替案として、累進付加レンズを提供して、累進付加レンズのその表面上にマイクロレンズを重畳することが、マイクロレンズなしの累進付加レンズを提供し、累進付加レンズのその表面上に更なる材料を付け、且つマイクロレンズを形成するように更なる材料を成形することによって行われ得る。更なる材料を追加すること、及び更なる材料を成形することは、様々な手段で行うことができる。例えば、熱リフロー法、エンボス加工、マイクロドロップレット噴射、又はMEMSベースの方法が使用され得る。マイクロレンズの形成にこれらの方法を使用することは、W.Yuanによる、J.Mech.Eng.(2018)31:16に掲載されている「Fabrication of Microlens Array and Its Application:A Review」に記載されている。したがって、熱リフロー法、エンボス加工、マイクロドロップレット噴射、及びMEMSベースの方法の更なる詳細については、この文献を参照されたい。
【0058】
本発明の第3の態様によれば、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズの数値表現を確立するためのコンピュータプログラムが定義される。コンピュータプログラムは、コンピュータによって実行されると、コンピュータに少なくとも、
- 累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得させ、累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得させる。
- 累進付加レンズの上部に配置された少なくとも遠方部分を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化させ、遠方部分が、遠方屈折度数を有する遠方基準点を含み、近方部分が、累進付加レンズの下部に配置され、近方部分が、近方屈折度数を有する近方基準点を含み、中間コリドーが、遠方部分と近方部分の間に延びている。近方基準点は、近方部分の頂点を定義し、この部分を垂直方向で区切ることができる。
- 累進付加レンズの表面に複数のマイクロレンズを重畳させる。
- 重畳されたマイクロレンズを有する最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、累進付加レンズの数値表現として確立させる。
【0059】
命令は更に、近方基準点より上方の垂直座標において累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線よりも下方に位置する、その表面の全ての領域からマイクロレンズが除外されるように、コンピュータに複数のマイクロレンズを重畳させ、この座標の値は、1.5mm~3mmの範囲にある。多くの場合、1.8mm~2.2mmの値、例えば、2mmの値が適切である。
【0060】
本発明の第3の態様によれば、プログラムコードが記憶された不揮発性コンピュータ可読記憶媒体も提供される。このプログラムコードは、累進付加レンズの数値表現を確立するための命令を含み、命令は、コンピュータによって実行されると、コンピュータに少なくとも、
- 累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得させ、累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得させる。
- 累進付加レンズの上部に配置された少なくとも遠方部分を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化させ、遠方部分が、遠方屈折度数を有する遠方基準点を含み、近方部分が、累進付加レンズの下部に配置され、近方部分が、近方屈折度数を有する近方基準点を含み、中間コリドーが、遠方部分と近方部分の間に延びている。近方基準点は、近方部分の頂点を定義し、この部分を垂直方向で区切ることができる。
- 累進付加レンズの表面上に複数のマイクロレンズを重畳させる。
- 重畳されたマイクロレンズを有する最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、累進付加レンズの数値表現として確立させる。
【0061】
プログラムコードは、近方基準点より上方の垂直座標において累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線よりも下方に位置する、その表面の全ての領域からマイクロレンズが除外されるように、コンピュータに複数のマイクロレンズを重畳させる命令を更に含み、この座標の値は、1.5mm~3mmの範囲にある。多くの場合、1.8mm~2.2mmの値、例えば、2mmの値が適切である。
【0062】
更に、本発明の第3の態様によれば、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズの数値表現を確立するためのデータ処理システムも定義される。データ処理システムは、プロセッサと、少なくとも1つのメモリと、を備え、メモリに記憶されたコンピュータプログラムの命令によって、プロセッサが、少なくとも、以下を行うように構成された少なくとも1つのメモリとを備える。
- 累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得し、累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得する。
- 累進付加レンズの上部に配置された少なくとも遠方部分を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化し、遠方部分が、遠方屈折度数を有する遠方基準点を含み、近方部分が、累進付加レンズの下部に配置され、近方部分が、近方屈折度数を有する近方基準点を含み、中間コリドーが、遠方部分と近方部分の間に延びている。近方基準点は、近方部分の頂点を定義し、この部分を垂直方向で区切ることができる。
- 累進付加レンズの表面上に複数のマイクロレンズを重畳する。
- 重畳されたマイクロレンズを有する最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、累進付加レンズの数値表現として確立する。
【0063】
メモリに記憶された命令によって、プロセッサは、近方基準点より上方の垂直座標において累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線よりも下方に位置する、その表面の全ての領域からマイクロレンズが除外されるように、複数のマイクロレンズを重畳するように更に構成されており、この座標の値は、1.5mm~3mmの範囲にある。多くの場合、1.8mm~2.2mmの値、例えば、2mmの値が適切である。
【0064】
本発明のデータ処理システムは、本発明のコンピュータ実施方法を実行し、したがって、本発明の累進追加レンズの数値表現を確立することを可能にする一方で、本発明のコンピュータプログラム及び本発明の不揮発性コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータを本発明のデータ処理システムに変換することを可能にする。データ処理システム、コンピュータプログラム、及び不揮発性コンピュータ可読記憶媒体の更なる展開は、本発明のコンピュータ実施方法の更なる展開を実行することを可能にするようなものであり得る。
【0065】
加えて、本発明の第3の態様によれば、同時近視デフォーカス提供マイクロレンズを有する累進付加レンズの数値表現を確立する方法が定義される。コンピュータ実施方法は、少なくとも以下からなるステップを含む。
- 累進付加レンズの上部において遠方視力に適合された遠方屈折度数を取得し、累進付加レンズの下部において近方視力に適合された近方屈折度数を取得すること、
- 累進付加レンズの上部に配置された少なくとも遠方部分を提供するように、数値表現の作業用眼鏡レンズの表面を最適化することであって、遠方部分が、遠方屈折度数を有する遠方基準点を含み、近方部分が、累進付加レンズの下部に配置され、近方部分が、近方屈折度数を有する近方基準点を含み、中間コリドーが、遠方部分と近方部分の間に延びている、こと、
- 累進付加レンズの表面上に複数のマイクロレンズを重畳すること、
- 重畳されたマイクロレンズを有する最適化された数値表現の作業用眼鏡レンズを、累進付加レンズの数値表現として確立すること。
【0066】
マイクロレンズは、近方基準点より上方の垂直座標において眼鏡レンズの鼻限界から側頭限界まで延びる想定線よりも下方に位置する、その表面の全ての領域からマイクロレンズが除外されるように重畳され、垂直座標は、近方基準点(7)の上方の距離にあり、その距離は、1.5mm~3mmの範囲にある。多くの場合、1.8mm~2.2mmの距離、例えば、2mmの値が適切である。
【0067】
本発明のコンピュータ実施方法は、本発明の累進追加レンズの数値表現を確立することを可能にする。コンピュータ実施方法の更なる展開は、本発明のコンピュータ実施方法の更なる展開を実行することを可能にするようなものであり得る。
【0068】
本発明の更なる特徴、特性、及び利点は、添付の図面と併せて、本発明の例示的な実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】マイクロレンズがその表面上に重畳された、累進付加レンズの第1の例示的な実施形態を示す図である。
【
図2】マイクロレンズがその表面上に重畳された、累進付加レンズの第2の例示的な実施形態を示す図である。
【
図3】マイクロレンズがその表面上に重畳された、累進付加レンズの第3の例示的な実施形態を示す図である。
【
図4】マイクロレンズがその表面上に重畳された、累進付加レンズの第4の例示的な実施形態を示す図である。
【
図5】マイクロレンズがその表面上に重畳された、累進付加レンズの数値表現を確立するコンピュータ実施方法の例示的な実施形態を示す図である。
【
図6】マイクロレンズを有する累進付加レンズを成形するモールドの一部を示す図である。
【
図7-10】マイクロレンズを有する累進付加レンズを製造するための製造プロセスにおける異なる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
ここで、本発明の累進付加レンズの様々な例示的な実施形態を
図1~
図4に関して説明する。これらの図は、それぞれの度数変化面上に重畳された+2.50Dの第2の付加度数を有するマイクロレンズのアレイと共に、+1.50Dの第1の付加度数を有する累進付加レンズの度数変化面のRMSブラーの輪郭プロットを示している。最も内側の輪郭は0.25DのRMSブラーを表し、隣接する輪郭は0.25DのRMSブラーの増分を表す。例示的な実施形態の輪郭プロットは各々、直径40mmの累進付加レンズを表している。
【0071】
RMSブラーの輪郭プロットは、遠方基準点においてレンズ度数-3.00Dを提供するベースカーブ3.10D及び球面後面6.11Dを有する屈折率1.60、プリズム基準点においてゼロプリズム、及び中心厚1.5mmを有し、眼の回転中心から27mm後方頂点に配置された眼球の前に、着用したときに腹腔鏡方向に7度傾けた構成で配置された材料における、モデル累進付加レンズの光線追跡に基づくことに留意されたい。光線追跡の想定されたオブジェクトフィールドは、フィッティングクロス(FC)の上方の位置において前レンズ面を横切る全ての光線が無限遠(0.00Dの屈折距離)から開始し、FCより下方の屈折オブジェクト距離が、オブジェクト距離が0.40m(2.50Dの屈折オブジェクト距離)であった最大近方基準点まで直線的に増加する、垂直方向に変化する距離を有した。加えて、RMSブラーの計算に対して、着用者は最大1.00Dの度数誤差に対応できると想定された。
【0072】
例示的な実施形態では、度数変化面は各々、累進付加レンズの上部に指定遠方部分1を提供し、及び累進付加レンズの下部に指定近方部分3を提供する。遠方部分1は、処方に従った遠方屈折度数を着用者に提供する、遠方基準点5を含む。同様に、近方部分3は近方基準点7を含み、これにより、近方オブジェクトを観察する際の調節遅れを低減するための付加度数を提供する。遠方部分1と近方部分3との間には、累進付加レンズによって提供される屈折度数が遠方視力から近方視力へと徐々に増加する中間コリドー9が延びている。典型的には、近方基準点7は、眼鏡レンズの幾何学的中心の下方6~12mmに、特に眼鏡レンズの幾何学的中心の下方7~10mmに配置され、幾何学的中心に対して鼻方向又は側頭方向にシフトされてもよい。例示的な本実施形態では、近方基準点7は、円形アンカット累進付加レンズの幾何学的中心の8mm下に配置されている。
【0073】
例示的な実施形態では、近方屈折度数は、処方において、遠方屈折度数に、遠方屈折度数と同様に与えられる付加度数を加えた結果得られる度数である。全ての例示的な実施形態では、この付加度数は1.50Dであり、中間コリドーの長さは12mmである。近方部分の左側及び右側には、平均付加度数が0.125D以下の周辺ゾーン11が存在する。これらの近方部分の左側と右側のゾーン間の間隔は25mm以下であり、特に、20mm以下であり得る。結果として、度数変化面は、左側及び右側の部分付近に隣接する領域において、平均付加度数の大きな勾配を提供する。そのような度数変化面は、国際公開第2018/100012A1号に記載されている。したがって、度数変化面に関する更なる詳細については、この文献を参照されたい。
【0074】
同時近視デフォーカスを提供するために、マイクロレンズ13は、累進付加レンズの度数変化面に重畳される。全ての例示的な実施形態では、度数変化面は、それぞれの累進付加レンズの前面である。しかしながら、原理的には、度数変化面は、前面の代わりに、それぞれの累進付加レンズの後面であってもよい。そのような場合、マイクロレンズは裏面にも適用される必要があり、それらは、下にある凹状の裏面に対してより少ない凹状形状を有する必要があることになる。
【0075】
例示的な実施形態では、マイクロレンズ13は、アレイの端部に配置されたマイクロレンズ13を除いて、各マイクロレンズ13が6つの最も近い隣接マイクロレンズを有するマイクロレンズの六角形グリッドの形態で度数変化面上に重畳される。マイクロレンズ13の幾何学的中心から測定された最も近い隣接マイクロレンズの距離は一定であり、1.3mm~2.0mmの範囲の値である。結果として、マイクロレンズ13は、六角形パターンで配置される。しかしながら、本発明の代替的な実施形態では、マイクロレンズ13の位置は、同様に、矩形パターン、特に2次パターンを形成することができ、これは、アレイの端部に配置されていない各マイクロレンズ13が4つの最も近い隣接マイクロレンズのみを有することを意味する。
【0076】
例示的な本実施形態では、各マイクロレンズ13は、(本明細書に関連して第1付加度数と呼ばれ得る)近方基準点7における付加度数よりも1.0D強い、第2の付加度数を提供する。例示的な実施形態では、近方基準点7における第1の付加度数は、1.50Dであり、各マイクロレンズ13は、2.50Dの第2の付加度数を提供する。
【0077】
マイクロレンズ13が存在する表面の領域は、30%~50%の割合でマイクロレンズによって覆われてもよい。隣接マイクロレンズ13間の距離を上記のようにすると、これは、半長軸と半短軸との算術平均が0.25mm~0.75mmの範囲にある楕円マイクロレンズを使用すれば達成され得る。楕円マイクロレンズは、半長軸と半短軸が同一寸法であれば、円形マイクロレンズとなることに留意されたい。本明細書では、そのような円形マイクロレンズは、楕円マイクロレンズの特殊なケースとして考えるものとする。
【0078】
図1~
図4に示す例示的な実施形態は、マイクロレンズ13によって覆われるそれぞれの累進付加レンズの領域と、これらの領域においてマイクロレンズ13のそれぞれのアレイによって提供されるカバレッジ率において互いに異なっている。しかしながら、例示的な実施形態の全ては、累進付加レンズの鼻限界から側頭限界まで延び、且つ基準点7付近の上方の垂直座標y=2mmに配置された想定線15、すなわち基準点7付近の上方2mmの距離にある座標yの下方に配置された、度数変化面の全ての領域からマイクロレンズが除外されるという共通点を有する。
図1~
図4に示される等高線プロットは、想定線15が水平線で表されるような向きにある。加えて、
図1及び
図3に示される例示的な実施形態では、マイクロレンズ13は、光線追跡RMSブラーが0.25Dの閾値を超える領域においてのみ存在する。本明細書に関連して、RMSブラーは、累進付加レンズの着用者が、二乗平均球面誤差(SphErr)及び二乗平均非点収差誤差(AstErr)を、人間の視覚がそのような光学エラーを統合する方法を反映するために適切な重みA、Bと共に加えられることにより経験する生理的ブラーと見なされるものとする。RMSブラーを計算する1つの例は、それぞれ、重みが1及び1/2である、RMS=Sqrt(SphErr
2+(AstErr/2)
2)である。しかしながら、他の例では、重みは各々、0~1の範囲から取られた値を有し得る。
【0079】
図1に示される例示的な実施形態では、マイクロレンズ13のアレイは、中間コリドー9の実質的に左側及び右側に配置される。近方部分3は、完全に想定線15の下に位置しているため、マイクロレンズ13が全くない。全てのマイクロレンズ13は、その半長軸とその半短軸が0.25mm~0.75mmの寸法を有する楕円である。マイクロレンズ13のいくつかは、別個の楕円状を有するが、他のもの、特にアレイの上端部に配置されたものはより円形の形状を有する。隣接マイクロレンズ13の中心間の距離は、例示的な本実施形態では1.5mmであり、これにより、約42%のカバレッジ率をもたらす。
【0080】
図2に示される累進付加レンズの例示的な実施形態は、
図1に示される例示的な実施形態の修正である。
図2に示される例示的な実施形態は、マイクロレンズ13のアレイがまた遠方部分1の部分にも存在し、RMSブラーが0.25Dの閾値未満である点で、
図1に示される例示的な実施形態とは異なる。遠方部分1におけるマイクロレンズ13のアレイは、フィッティングクロス17を中心とする半環を形成し、半環の内側半径は5mmである一方、半環の外側半径は17.5mmである。加えて、マイクロレンズは測定円から除外されていて、光学式ディスペンサによるレンズ度数の確認を容易にする。
図2から分かり得るように、遠方部分1におけるマイクロレンズ13は、中間コリドー9の左側及び右側に配置されたマイクロレンズ13よりも円形である。これは、遠方部分1における表面非点収差の量が、中間コリドー9の左側と右側の領域における表面非点収差の量よりも少ないためである。表面非点収差が大きいほど、マイクロレンズ13は楕円になる。フィッティングクロス周辺のマイクロレンズによるレンズ表面のカバレッジ率が大きいほど、着用者はより頻繁に同時近視デフォーカスにさらされ、フィッティングクロス上の遠方視力の適切なセンタリングを容易にすることができる。アジア人の若い着用者は鼻が低いことで、フレームのスリップが問題となることが多く、フレームが意図される位置から鼻の下にずれてしまうと、近方基準点が下になりすぎるため、これが、近くのオブジェクトを見るためのPAL近方ゾーンが適切に使用することを妨げる。
【0081】
本発明の累進付加レンズの第3の例示的な実施形態を
図3に示す。この例示的な実施形態は、隣接マイクロレンズ13の中心間の距離が1.5mmではなく1.8mmであり、その結果、マイクロレンズ13によって覆われる領域のカバレッジ率が30%となる点で、
図1に示される例示的な実施形態とは異なっている。他の全ての点では、
図3に示される例示的な実施形態は、
図1に示される例示的な実施形態とは異なっていない。
【0082】
本発明の累進付加レンズの第4の例示的な実施形態を
図4に示す。この例示的な実施形態は、
図2に示された例示的な実施形態と同様である。隣接マイクロレンズ13間の距離が1.5mmではなく1.8mmであり、その結果、マイクロレンズ13によって覆われる領域のカバレッジ率が30%となる点で、
図2に示される実施形態とは異なっている。他の全ての点では、
図4に示される例示的な実施形態は、
図2に示される例示的な実施形態とは異なっていない。
【0083】
次に、本発明のコンピュータ実施方法に対する例示的な実施形態が、方法のステップを表すフローチャートを示す
図5に関して説明される。例示的な本実施形態では、本方法は、コンピュータによって実行されると、コンピュータ実施方法を実行させる命令を含むプログラムコードを有するコンピュータプログラムによって、累進付加レンズの数値表現を確立するためのデータ処理システムに変換されている、コンピュータ上で実行される。そのようなコンピュータプログラムは、不揮発性記憶媒体からコンピュータのメモリにロードされ得る。次いで、メモリにロードされたコンピュータプログラムの命令は、累進付加レンズの数値表現を確立する方法を実行するために、コンピュータのプロセッサによって実行され得る。
【0084】
方法を開始した後の最初のステップでは、着用者に処方された遠方屈折度数及び付加度数がコンピュータ内にロードされる。遠方屈折度数及び付加度数により、着用者の近方屈折度数を取得することが可能になることに留意されたい。加えて、ステップS1において、目標設計もロードされる。着用者の非点収差、斜視、又は他の光学的収差がある場合、ステップS1において更なるデータがコンピュータ内にロードされ得る。例えば、円柱及び円柱軸の値、又はプリズムの値がロードされ得る。しかしながら、例示的な本実施形態の説明では、それらの更なる収差は、説明された方法を理解するために必要ではないため、無視される。
【0085】
ステップS1においてロードされた遠方基準度数、付加度数、及び目標設計に基づいて、数値表現の作業用眼鏡レンズの前面が最適化される。本実施形態では、作業用眼鏡レンズの前面を最適化しているが、作業用眼鏡レンズの後面を最適化することもまた可能である。この最適化は、前面が表現されるパラメータ化された区分的定義関数のパラメータを繰り返し最適化することにより行われる。反復の各ステップでは、作業用眼鏡レンズを通過する光線の複数のペンシルの現在の後方焦点距離は、選択された材料の屈折率、区分的定義された関数のパラメータの現在のセットによって定義される、作業用眼鏡レンズの前面の現在の曲率、後面の曲率、作業用眼鏡レンズの厚さ、及び光線のペンシルが現れるオブジェクトの距離、に基づく光線追跡プロセスによって計算される。光線のペンシルは、作業用眼鏡レンズを通した眼の異なる視線方向を表している。光線のペンシルに対する現在の後方焦点長の計算では、着用時の位置による眼の前の累進付加レンズの位置もまた考慮される。光線のペンシルの現在の後方焦点長に加えて、処方から生じる後方焦点長からの、計算された現在の後方焦点長の偏差が判定される。次いで、計算された偏差と目標設計によって与えられた偏差との間の差が判定される。この差は、重み付けされ、グローバルメリット関数において合計される。任意選択的に、メリット関数はまた、目標値からの非光学的偏差、例えば、表面の所望の曲率からの偏差、又は累進付加レンズの所望の厚さからの偏差を含み得る。
【0086】
メリット関数の値が計算された後、計算された値が最小値を表すかどうかがチェックされる。「はい」の場合、反復は終了し、方法はステップS3に進み、「いいえ」である場合、次の反復ステップが実行される。
【0087】
最適化が終了すると、ステップS3において、作業用眼鏡レンズの数値表現の度数変化面上に、マイクロレンズアレイが重畳される。マイクロレンズの各々は、例示的な本実施形態では、近方屈折度数を取得するために遠方屈折度数に加えられる付加度数に少なくとも等しいか又はそれよりも強い第2の付加度数を提供する。マイクロレンズは楕円であり、その楕円の程度は、下にある表面非点収差によって判定される。マイクロレンズ間の距離は、マイクロレンズが覆う領域の所望のカバレッジ率が達成されるように設定される。
【0088】
マイクロレンズアレイを度数変化面上に重畳した後、得られた表面が、ステップS4において、所望の累進付加レンズの数値表現として出力される。
【0089】
累進付加レンズの数値表現に基づいて、適切な製造プロセスを使用することにより、対応する物理的な累進付加レンズを製造することができる。例えば、累進付加レンズの数値表現に基づいてモールド31を形成し、これを熱可塑性材料の射出成形に使用することができる。
図6に、マイクロレンズを有する累進付加レンズを成形するためのモールド31の一部を概略的に示している。
図6に示される部分は、マイクロレンズを有する表面を形成するために使用される部分であり、例示的な本実施形態では、度数変化面である。それは、製造される度数変化面の形状を反転させたモールド面33を提供するものである。このモールド面33には、形成されるマイクロレンズの反転形状を有するへこみ35が存在する。
【0090】
上記に例示した累進付加レンズの製造の代替的な方法は、マイクロレンズのなしの累進付加レンズを提供し、累進付加レンズの表面上、特に度数変化面上に更なる材料を
付けることである。この更なる材料は、マイクロレンズ13を形成するために成形され得る。
付けることと成形
することは、例えば、マイクロドロップレットの表面張力がマイクロレンズの形状を提供するマイクロドロップレット噴射により、単一ステップにおいて、又は連続ステップにおいて行うことができる。
付けることと成形
することを連続ステップにおいて行う製造方法の例示的な実施形態として、熱リフロー法を、製造プロセス中の累進付加レンズの異なる状態を概略的に示す、
図7~
図10を参照して説明する。
【0091】
この方法の開始時に、マイクロレンズ13なしの累進付加レンズ19が提供される。この累進付加レンズ19は、累進付加レンズを製造する任意の既知の方法に従って製造され得る。次に、累進付加レンズ19の表面上、特に度数変化面23(
図7を参照)上に、更なる材料の層21が
付けられる。更なる材料としては、フォトレジスト材料が使用される。次いで、フォトレジスト材料の層21の上に、楕円構造27を有するマスク25が適用される。楕円構造27は、更なる層21の表面のマイクロレンズ13が形成される領域を覆っている。次に、
図8に示されるように、フォトレジスト材料でマスクされた層21が、紫外線27に露光される。この露光により、マスク25の楕円構造27に覆われていない部分の更なる層21のフォトレジスト材料が除去され、表面23上にフォトレジスト材料の円柱状の島29が残る(
図9を参照)。次のステップでは、この構造に熱処理を施すことにより、円柱状の島29のフォトレジスト材料に粘性を持たせて、円柱状の島29の材料がマイクロレンズ13の球面形状内に流れ込ませる。このようにして得られたマイクロレンズ13を有する累進付加レンズ19を
図10に示している。
【0092】
熱リフロー法が、付けることと成形することが連続ステップにおいて行われる製造方法の例示的な実施形態として説明されたが、例えばエンボス法のような、他の方法もまた可能である。
【0093】
本発明は、説明の都合上、その例示的な実施形態を参照して説明された。しかしながら、当業者であれば、本発明の範囲内で例示的な実施形態からの逸脱が可能であることを認識する。例えば、30%又は42%以外のカバレッジ率も可能であり、例えば40%又は60%であっても、カバレッジ率が少なくとも30%である限り可能である。加えて、累進付加レンズは、1.50D以外の付加度数を有することができ、同様に、マイクロレンズによって提供される第2の付加度数は、近方屈折度数を取得するために使用される付加度数と少なくとも同程度である限り、例示的な実施形態で説明された2.50Dと異なっていてもよい。また、近点基準点の上方の垂直座標は、累進付加レンズの鼻側から側頭限界まで延びる想定線が近点基準点から2mmの距離を有するように選択されている。しかしながら、代替の実施形態では、垂直座標が近方基準点の上方にある距離は、1.5mm~3mmの範囲から外れた任意の値であり得る。したがって、本発明は、例示的な実施形態によって画定されるのではなく、独立請求項によってのみ画定されるものとする。
【符号の説明】
【0094】
1 遠方部分
3 近方部分
5 遠方基準点
7 近方基準点
9 中間コリドー
11 平均付加度数が0.125D以下のゾーン
13 マイクロレンズ
15 想定線
17 フィッティングクロス
19 累進付加レンズ
21 更なる材料の層
23 度数変化面
25 マスク
27 楕円構造
29 島
31 モールド
S1 ローディング
S2 最適化
S3 マイクロレンズの重畳
S4 累進付加レンズの数値表現の出力