(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】ブレーキ設備のリターンポンプを作動させる方法、制御装置、ブレーキ設備
(51)【国際特許分類】
H02P 29/68 20160101AFI20240925BHJP
【FI】
H02P29/68
(21)【出願番号】P 2023506493
(86)(22)【出願日】2021-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2021070575
(87)【国際公開番号】W WO2022028912
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】102020209749.6
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】クラウター,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】グラウ,トマス
(72)【発明者】
【氏名】シャンツェンバッハ,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】グロートヘーア,オーラフ
(72)【発明者】
【氏名】コエーラー,クリスティアン
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-120781(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012214346(DE,A1)
【文献】特開2000-344073(JP,A)
【文献】特開2011-088268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ設備(1)のリターンポンプ(26)を作動させる方法であって、前記リターンポンプ(26)は、少なくとも1つのポンプ部材(27,28)と、前記ポンプ部材(27,28)を操作するために構成されたポンプモータ(29)とを有し、前記ポンプモータ(29)は、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つのモータ巻線とを有し、前記ロータについての目標回転数(NSoll)が設定され、前記モータ巻線は、前記ロータが前記ポンプ部材(27,28)の操作のために前記目標回転数(NSoll)で回転するように通電される、方法において、前記モータ巻線を通って流れる電気的なモータ電流の現在の電流値(iMot)が判定され、前記ポンプモータ(29)の熱的な過負荷を回避するために、および/または前記ポンプモータ(29)を制御するコンポーネントの熱的な過負荷を回避するために、
設定された電流閾値(iMax)を電流値(iMot)が上回ったときに前記目標回転数(NSoll)が引き上げられることを特徴とする、方法。
【請求項2】
電流値(iMot)が継続的に判定され、目標回転数(NSoll)が電流値(iMot)に依存して継続的に変更されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電流閾値(iMax)に対する電流値(iMot)の偏差が判定され、前記偏差に依存して目標回転数(NSoll)が引き上げられることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一方における電流値(iMot)と他方における電流閾値(iMax)との間の差異(Δi)が前記偏差として判定されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
一方における電流値(iMot)
の二乗と他方における電流閾値(iMax)の二乗との間の差異(Δi2)が前記偏差として判定されることを特徴とする、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
目標回転数(NSoll)の変更のダイナミクスを低減するために前記偏差が定数(k)と乗算されることを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記偏差の積分が、または定数(k)と乗算された前記偏差の積分が判定され、目標回転数(NSoll)は前記積分に依存して変更されることを特徴とする、請求項3から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
現在の温度(T)が判定され、判定された温度(T)に依存して前記電流閾値(iMax)が設定されることを特徴とする、請求項3から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記目標回転数(NSoll)の引上げが最大限許容される引上げに制限される、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記モータ巻線の通電をもって開始される時間幅が設定され、早くとも前記時間幅の経過後に目標回転数(NSoll)が電流値(iMot)に依存して引き上げられることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのポンプ部材(27,28)と、前記ポンプ部材(27,28)を操作するために構成されたポンプモータ(29)とを備えたリターンポンプ(26)を有し、前記ポンプモータ(29)は、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つのモータ巻線とを有する、ブレーキ設備(1)のための制御装置において、前記制御装置(31)は、用途に即した使用時に請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法を実施するためにセットアップされることを特徴とする、制御装置。
【請求項12】
少なくとも1つのポンプ部材(27,28)と、前記ポンプ部材(27,28)を操作するために構成されたポンプモータ(29)とを備えたリターンポンプ(26)を有し、前記ポンプモータ(29)は、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つのモータ巻線とを有する、ブレーキ設備(1)
において、請求項11に記載の制御装置(31)を有することを特徴とする、ブレーキ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ設備のリターンポンプを作動させる方法に関し、リターンポンプは、少なくとも1つのポンプ部材と、ポンプ部材を操作するために構成されたポンプモータとを有し、ポンプモータは、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つのモータ巻線とを有し、ロータについての目標回転数が設定され、モータ巻線は、ロータがポンプ部材の操作のために目標回転数で回転するように通電される。
【0002】
さらに本発明は、ブレーキ設備のための制御装置に関する。
【0003】
さらに本発明は、ブレーキ設備に関する。
【背景技術】
【0004】
自動車のブレーキ設備は、通常、少なくとも1つのリターンポンプを有している。リターンポンプはブレーキ設備のアンチロックシステム(ABS)の一部であり、ABSによって制御介入が行われるときに限り作動する。
【0005】
リターンポンプは少なくとも1つのポンプ部材とポンプモータとを有し、ポンプモータはポンプ部材を操作するために構成される。ポンプ部材の吸込側は、ブレーキ設備の低圧フルードリザーバと流体工学的に接続される。ポンプ部材の圧力側は、ブレーキ設備のマスタブレーキシリンダと流体工学的に接続される。ポンプモータは、通常、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つの特に多相のモータ巻線とを有する。たとえばロータは、ハウジングに回転可能に支承されたシャフトに回転不能に配置される。モータ巻線は、たとえばポンプモータのステータのステータ巻線であり、それによりロータとモータ巻線とが互いに相対的に回転可能である。その代替として、モータ巻線はロータと回転不能に結合され、その意味においてロータ巻線として構成される。ポンプ部材はロータの回転によって操作可能である。ポンプ部材がポンプモータによって操作されると、低圧フルードリザーバの中にある作動液がポンプ部材によってマスタブレーキシリンダへと圧送され、または-ブレーキ設備の各弁の適切な位置のもとで-ブレーキ設備のホイールブレーキデバイスのスレーブシリンダへと圧送される。ポンプ部材を操作するために、通常、ロータについての目標回転数が設定され、モータ巻線は、ロータがポンプ部材の操作のために目標回転数で回転するように通電され、ないしは電流が印加される。
【0006】
このとき原則として、できる限り低い目標回転数をロータについて設定するのが好ましい。それによってポンプモータの静音動作が実現され、それにより、ABSの制御介入のもとでの自動車の運転者にとっての騒音負荷が少なくなる。たとえば、低圧フルードリザーバが制御介入中に満杯にならないようにするのにちょうど足りる目標回転数が設定される。しかし長時間続く制御介入が実行されて、その際に低い目標回転数が設定されると、このことは、ポンプモータの熱的な過負荷および/またはポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷を引き起こす可能性がある。
【0007】
熱的な過負荷を回避するために、従来技術では、ポンプモータの設定された熱的な負荷限界への到達をソフトウェアベースのモデルによって予測し、モデルベースの予測に基づいて熱的な負荷限界に達するとただちに、ポンプモータを熱的に安全な動作モードのもとで、引き上げられた目標回転数で作動させることが知られている。しかし引き上げられた目標回転数に基づき、そこから運転者にとっての増大した騒音負荷が生じる。
【0008】
熱的な負荷限界の設定にあたっては、ポンプモータの部材全体の許容範囲が考慮される。最大限容認される許容範囲が存在する場合にも、ポンプモータの熱的な過負荷が回避されるようにするために、通常、熱的に安全な動作モードが不必要に早期から設定され、そこから不必要に高い騒音負荷が帰結される。
【発明の概要】
【0009】
請求項1の構成要件を有する本発明の方法は、モータ巻線を通って流れる電気的なモータ電流の現在の電流値が判定され、ポンプモータの熱的な過負荷を回避するために、および/またはポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷を回避するために、判定された電流値に依存して目標回転数が引き上げられることを特徴とする。すなわち電流値に依存して、目標回転数の引上げが行われる。モータ電流とは、たとえばモータ巻線の単一の位相を通って流れる電流であり、または、モータ巻線のそれぞれ異なる位相を通って流れる電流の合計である。目標回転数が引き上げられると、フルードリザーバからの作動液のいっそう迅速な取出が実現される。それによって特に、制御介入中にポンプモータが一時的にアイドリングで作動することが実現される。その結果として、ポンプモータにより生成されるトルクが、およびそれに応じてモータ電流の電流値が、少なくとも一時的に低減される。このとき、ポンプモータおよびポンプモータを制御するコンポーネントの熱負荷は、モータ電流の電流値の大きさに実質的に対応するものと想定される。したがってモータ電流を参照して、ポンプモータおよび/またはポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷が実際にどの時点以降に生じるかを、特別に正確に見積もることができる。本発明によると、判定された電流値に依存して目標回転数が引き上げられるので、ポンプモータおよび/またはポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷を回避するために実際に必要である場合にのみ、引上げが実行される。特に本発明に基づく方式により、不必要に早く目標回転数が引き上げられることが回避される。それによって最終的に、長時間続く制御介入のもとでもポンプモータの特別に静音の動作が実現される。現在の電流値は、ポンプモータのパワーエレクトロニクスの主回路図を用いて、ローレベルソフトウェアの制御信号に依存して判定されるのが好ましい。その代替または追加として現在の電流値が電流センサによって検出され、電流センサによる検出も判定であると理解される。ポンプモータを制御するコンポーネントは、たとえばポンプモータを制御する制御装置の部材、たとえば半導体、引込回線、プラグ、接点などである。これらの部材もモータ電流によって熱負荷を受ける。
【0010】
1つの好ましい実施形態では、電流値が継続的に判定され、目標回転数が電流値に依存して継続的に変更されることが意図される。すなわち目標回転数は電流値に依存して制御され、それにより、電流値の判定と目標回転数の変更とが制御ループの一部となる。それにより、ポンプモータの熱負荷という観点からいっそう信頼度の高い目標回転数の特別に正確な設定が実現される。たとえば目標回転数の先行する引上げがモータ電流の電流値の十分な低下につながっていないことが電流値に依存して確認されると、目標回転数の引上げが増大される。目標回転数の先行する引上げがモータ電流の予期せぬ大きな低下につながっているために、ポンプモータおよびポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷のリスクを冒すことなく目標回転数の引上げの縮小が可能であるときには、目標回転数の引上げが縮小されるのが好ましい。目標回転数が無段階に変更されるのが好ましい。その代替として、目標回転数が段階的に変更される。
【0011】
1つの好ましい実施形態では、設定された電流閾値を電流値が上回ったときに、目標回転数が引き上げられることが意図される。電流値が電流閾値を下回っているときには、ポンプモータおよび/またはポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷はきわめて蓋然性が低い。
【0012】
電流閾値に対する電流値の偏差が判定されるのが好ましく、偏差に依存して目標回転数が引き上げられる。偏差は、目標回転数の必要な引上げと、ないしは目標回転数の引上げの許容される縮小と、格別に正確に対応する。
【0013】
1つの好ましい実施形態では、一方における電流値と他方における電流閾値との間の差異が偏差として判定されることが意図される。すなわち偏差は、電流値から電流閾値を減算することで得られる。このようにして偏差を特別に簡易に判定可能である。
【0014】
一方における電流値の二乗と他方における電流閾値の二乗との間の差異が偏差として判定されるのが特別に好ましい。すなわち偏差は、二乗された電流値の減算によって得られる。このようにして判定された偏差は、モータ巻線の加熱出力に比例する。それに応じて偏差を参照して、目標回転数の引上げが必要か否かを、ないしは目標回転数の引上げの縮小が許容されるか否かを、特別に正確に判定可能である。
【0015】
1つの好ましい実施形態では、目標回転数の変更のダイナミクスを低減するために、偏差が定数と乗算されることが意図される。電流値の判定および電流値に依存する目標回転数の変更を含む、上に述べた第1の制御ループに追加して、別の第2の制御ループが意図されるのが好ましい。第2の制御ループは、たとえば所望の制御介入を実行するために、ポンプ部材についての目標容積置換の設定を含み、および、目標容積置換に依存する目標回転数の設定を含む。したがって、これら両方の制御ループが目標回転数に作用する。偏差が定数と乗算されることで、第1の制御ループによる目標回転数の変更は、第2の制御ループによる目標回転数の設定よりも低いダイナミクスで進行する。
【0016】
偏差の積分が、または定数と乗算された偏差の積分が、判定されるのが好ましく、目標回転数は積分に依存して変更される。すなわち、第1の制御ループはIコントローラないし積分コントローラである。
【0017】
1つの好ましい実施形態では、現在の温度が判定され、判定された温度に依存して電流閾値が設定されることが意図される。この温度はポンプモータの温度であるのが好ましい。このケースでは温度は、モータ電流の電流値のそれまでの推移に依存して判定されるのが好ましい。その代替として現在の温度は、検出される温度、たとえばブレーキ設備のブレーキ液の検出される温度や、ポンプモータの周囲の検出される温度であるのが好ましい。-どのような現在の温度が生じているかに応じて-それぞれ異なる電流閾値が、ポンプモータおよびポンプモータを制御するコンポーネントの熱的に安全な動作を保証すると想定される。したがって現在の温度を考慮することで、ポンプモータを特別に好ましく騒音最適化して作動させることができる。設定されるべき電流閾値を現在の温度に依存して表現する特性曲線に依存して、電流閾値が設定されるのが特別に好ましい。
【0018】
目標回転数の引上げは、最大限許容される引上げに制限されるのが好ましい。それにより、ポンプモータを損傷させる恐れがある実際回転数でロータが回転することが回避される。たとえば最大限許容される引上げとして、目標回転数を4000RPMだけ引き上げることが設定される。
【0019】
1つの好ましい実施形態では、モータ巻線の通電をもって開始される時間幅が設定され、早くともこの時間幅の経過後に目標回転数が電流値に依存して引き上げられることが意図される。それにより、短い時間幅のあいだだけ実行される制御介入のもとでは、目標回転数の引上げが行われないことが実現される。短い制御介入のもとでは、目標回転数の引上げは必要ない。ポンプモータおよびポンプモータを制御するコンポーネントの熱的な過負荷は、短い制御介入中にはきわめて蓋然性が低いからである。
【0020】
少なくとも1つのポンプ部材と、ポンプ部材を操作するために構成されたポンプモータとを備えたリターンポンプを有し、ポンプモータは、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つのモータ巻線とを有する、ブレーキ設備のための本発明による制御装置において、請求項12の構成要件をもって、用途に即した適用時に本発明による方法を実施するために制御装置が特別にセットアップされることを特徴とする。その結果としても、すでに挙げた利点がもたらされる。その他の好ましい構成要件や構成要件の組合せは、上記の説明ならびに特許請求の範囲から明らかとなる。
【0021】
本発明によるブレーキ設備は、少なくとも1つのポンプ部材と、ポンプ部材を操作するために構成されたポンプモータとを備えたリターンポンプを有し、ポンプモータは、回転可能に支承されたロータと、少なくとも1つのモータ巻線とを有する。このブレーキ設備は、請求項13の構成要件をもって、本発明による制御装置を有することを特徴とする。その結果としても、すでに挙げた利点がもたらされる。その他の好ましい構成要件や構成要件の組合せは、上記の説明ならびに特許請求の範囲から明らかとなる。
【0022】
次に、図面を参照しながら本発明について詳しく説明する。そのために次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】ブレーキ設備のリターンポンプを作動させる方法である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、ブレーキ設備1の液圧図を示している。ブレーキ設備1は、詳しくは図示しない自動車の一部である。ブレーキ設備1は、本例ではタンデム型マスタブレーキシリンダ3として構成されたマスタブレーキシリンダ3を有している。その意味でブレーキ設備1は、第1のブレーキ回路4および第2のブレーキ回路5を含む2回路ブレーキ設備1として構成されている。
【0025】
ブレーキ設備1は、自動車の右側のリヤホイールに付属する第1の摩擦ブレーキデバイス2Aと、自動車の左側のフロントホイールに付属する第2の摩擦ブレーキデバイス2Bと、自動車の右側のフロントホイールに付属する第3の摩擦ブレーキデバイス2Cと、自動車の左側のリヤホイールに付属する第4の摩擦ブレーキデバイス2Dとを有している。摩擦ブレーキデバイス2A,2B,2C,2Dの図示しないスレーブシリンダが、マスタブレーキシリンダ3と流体工学的に接続されている。ここでは第1の摩擦ブレーキデバイス2Aと第2の摩擦ブレーキデバイス2Bは第1のブレーキ回路4の一部であり、その意味で、マスタブレーキシリンダ3に支承された第1の液圧ピストンの変位によって操作可能である。第3の摩擦ブレーキデバイス2Cと第4の摩擦ブレーキデバイス2Dは第2のブレーキ回路5の一部であり、その意味で、マスタブレーキシリンダ3に支承された第2の液圧ピストンの変位によって操作可能である。
【0026】
液圧ピストンを変位させるために、ブレーキ設備1は操作デバイス6を有している。操作デバイス6は、本例では、自動車の運転者によって操作可能であるブレーキペダル7と、ブレーキペダル7が操作されたときに電気モータによって液圧ピストンを変位させるために構成された電気機械式のブレーキ力発生器8とを有している。
【0027】
以下においては、第1のブレーキ回路4の構造について詳しく説明する。第2のブレーキ回路5は、その構造に関して第1のブレーキ回路4に実質的に相当する。第1のブレーキ回路4は、マスタブレーキシリンダ3と流体工学的に接続された第1のフルード配管9を有している。第1の分岐部10で、第1のフルード配管9は第1のフルード部分配管11と第2のフルード部分配管12とに分かれる。第1のフルード部分配管11は第1の摩擦ブレーキデバイス2Aと流体工学的に接続されており、第2のフルード部分配管12は第2の摩擦ブレーキデバイス2Bと流体工学的に接続されている。さらに第1のブレーキ回路4は、マスタブレーキシリンダ3と流体工学的に接続された第2のフルード配管13を有している。第2の分岐部14で、第2のフルード配管13は第3のフルード部分配管15と第4のフルード部分配管16とに分かれる。第3のフルード部分配管15は第1の摩擦ブレーキデバイス2Aと流体工学的に接続されており、第4のフルード部分配管16は第2の摩擦ブレーキデバイス2Bと流体工学的に接続されている。
【0028】
第1のブレーキ回路4は、第1のフルード配管9に配置された切換弁17を有している。切換弁17は常時開であり、それにより、第1のブレーキ回路4にある作動液が切換弁17を開いた状態で貫流することができる。切換弁17が通電されると切換弁17は閉じ、それにより切換弁17の貫流が遮断される。
【0029】
さらに第1のブレーキ回路4は、第1のフルード部分配管11に配置された第1の流入弁18と、第2のフルード部分配管12に配置された第2の流入弁19とを有している。これらの流入弁18および19は常時開である。流入弁18および19が通電されると、流入弁18および19が閉じる。
【0030】
第1のブレーキ回路4は、第2のフルード配管13に配置された高圧切換弁20を有している。高圧切換弁20は常時閉である。高圧切換弁20が通電されると、高圧切換弁20が開く。
【0031】
さらに第1のブレーキ回路4は、第3のフルード部分配管15に配置された第1の流出弁21と、第4のフルード部分配管16に配置された第2の流出弁22とを有している。これらの流出弁21および22は常時閉である。流出弁21および22が通電されると、流出弁21および22が開く。
【0032】
第1のブレーキ回路4は、第2の分岐部14と高圧切換弁20との間で第2のフルード配管13に配置された逆止め弁23を有している。逆止め弁23は高圧切換弁20の方向に開く。さらに第1のブレーキ回路4は、第2の分岐部14と逆止め弁23との間で第2のフルード配管13と流体工学的に接続された低圧フルードリザーバ24を有している。
【0033】
さらに第1のブレーキ回路4は、バイパス配管25を有している。バイパス配管25は、逆止め弁23と高圧切換弁20との間で第2のフルード配管13に連通する。さらにバイパス配管25は、切換弁17と第1の分岐部10との間で第1のフルード配管9に連通する。
【0034】
ブレーキ設備1はリターンポンプ26を有している。リターンポンプ26は、第1のブレーキ回路4のバイパス配管25に配置された第1のポンプ部材27を有している。ポンプ部材27の吸込側は、低圧フルードリザーバ24と流体工学的に接続されている。ポンプ部材27の圧力側は、第1のフルード配管9と流体工学的に接続されている。切換弁17が開いているとき、圧力側がマスタブレーキシリンダ3と流体工学的に接続される。流入弁18および19が開いているとき、圧力側が摩擦ブレーキデバイス2Aおよび2Bと流体工学的に接続される。さらにリターンポンプ26は、第2のブレーキ回路5の一部である第2のポンプ部材28を有している。第2のブレーキ回路5における第2のポンプ部材28の配置は、第1のブレーキ回路4における第1のポンプ部材27の配置に呼応する。
【0035】
さらに、リターンポンプ26はポンプモータ29を有している。ポンプモータ29は、回転可能に支承されたロータを有している。本例ではロータは、回転可能に支承されたシャフト30に回転不能に配置されている。さらにポンプモータ29は、モータ巻線を有している。モータ巻線は、本例ではポンプモータ29のステータの一部であり、その意味でステータ巻線を構成する。モータ巻線は、ロータおよびこれに伴ってシャフト30がモータ巻線への適当な通電によって回転可能であるように、ロータの周りに配分されて配置されている。ポンプ部材27および28は、ポンプ部材27および28をシャフト30の回転によって操作可能であるように、シャフト30と連結されている。
【0036】
ブレーキ設備1は、上に説明した各弁を適切に制御することでABS制御介入を行うために構成されている。そのために必要な各弁の制御は従来技術から知られており、ここでは詳しくは説明しない。このような種類の制御介入中にポンプモータ29が少なくとも一時的にアクティブになり、ポンプ部材27および28を操作し、それにより、ポンプ部材27および28によって、低圧フルードリザーバ24および24Aにある作動液が低圧フルードリザーバ24および24Aから出るように圧送される。その際には基本的に、ロータおよびそれに伴ってシャフト30をできる限り低い回転数で回転させるのが好ましい。その結果として、ポンプモータ29の静音動作がもたらされる。しかし、低い回転数でのポンプモータ29の動作は、低圧フルードリザーバ24および24Aが制御介入中に完全に空にならず、もしくは非常に遅れてしか空にならないことにつながる。その場合、長時間続く制御介入中に、低い回転数でのポンプモータ29の動作がポンプモータ29の熱的な過負荷につながりかねず、および/またはポンプモータ29を制御するコンポーネント熱的な過負荷につながりかねない。
【0037】
ポンプモータ29を制御するために、ブレーキ設備1は制御装置31を有している。制御装置31は、ロータについての目標回転数を設定し、ポンプモータ29のパワーエレクトロニクスの切換部材を制御して、ロータがポンプ部材27および28の操作のために目標回転数で回転するようにモータ巻線が通電され、ないしは電圧が印加されるようにするために構成される。
【0038】
次に
図2を参照しながら、リターンポンプ26を作動させる好ましい方法について説明する。そのために
図2は、フローチャートを用いてこの方法を示している。特にこの方法により、長時間続く制御介入のもとでも、ポンプモータ29の熱的な過負荷が回避されることが保証される。
【0039】
ステップS1で、制御装置31が、ポンプ部材27および28の目標容積置換qAVおよびロータの現在の実際回転数NIstに依存して、ロータの目標回転数Nsollを判定する。そしてステップS2で、制御装置31がポンプモータ29のパワーエレクトロニクスの切換部材を制御し、それによりポンプモータ29のモータ巻線が通電されて、ロータが目標回転数NSollで回転するようにされる。ステップS1およびS2は継続的に実行される。
【0040】
ポンプモータ29の熱的な過負荷、およびポンプモータ29を制御するコンポーネントの熱的な過負荷を、たとえば制御装置31の熱的な過負荷を、回避するために、制御ループ32が意図される。制御ループ32により、目標回転数NSollの引上げを行うことができる。目標回転数NSollが引き上げられると、作動液がいっそう迅速に低圧フルードリザーバ24および24Aから取り出され、ポンプモータ29が制御介入中に少なくとも一時的にアイドリングで作動する。それにより、ポンプモータ29およびポンプモータ29を制御するコンポーネントの熱負荷が低減され、ないしは、熱的な過負荷が回避される。制御ループ32の各方法ステップも継続的に実行される。
【0041】
制御ループ32の第3のステップS3で、モータ巻線を通って流れる電気的なモータ電流の電流値iMotを制御装置31が判定する。たとえば制御装置31は、ポンプモータ29が電気エネルギーの供給を受けるエネルギー蓄積器の電気的なバッテリ電圧に依存して、および/またはポンプモータ29のパワーエレクトロニクスの切換部材のデューティ比に依存して、電流値iMotをモデルベースで判定する。ポンプモータ29によって生成されるトルクおよびポンプモータ29の熱負荷と、モータ電流の電流値iMotとが相関関係づけられる。
【0042】
第4のステップS4で、モータ電流の最大限許容される電流閾値iMaxを制御装置31が判定する。このとき制御装置31は、ポンプモータ29の周囲の現在の温度Tを考慮する。この電流閾値iMaxは、ポンプモータ29および/またはこれを制御するコンポーネントの熱的な過負荷のリスクを冒すことなしに最大限許容される、モータ電流の電流値である。
【0043】
制御ループ32の第5のステップS5で、電流閾値iMaxに対する電流値iMotの偏差を制御装置31が判定する。本例では制御装置31は、一方における判定された電流値iMotの二乗と、他方における電流閾値iMaxの二乗から、差異Δi2を偏差として判定する。
【0044】
差異Δi2が正であるとき、すなわち電流値iMotが電流閾値iMaxよりも高いとき、制御装置31は制御ループ32の第6のステップS6で、差異Δi2を定数kと乗算する。このとき定数kは、目標回転数NSollの変化のダイナミクスが制御ループ32によって低減されるように設定される。
【0045】
制御ループ32のステップS7で、定数kと乗算された差異Δi2を制御装置31が積分する。
【0046】
この積分に依存して制御装置31はステップS8で、目標回転数NSollが引き上げられるべき回転数差NAddを判定する。さらにステップS8で、回転数差NAddの制限が行われる。そのために、最大限許容される引上げが設定される。この引上げはたとえば4000RPMである。当初に判定された回転数差NAddが、最大限許容される引上げよりも大きいときは、当初に判定された回転数差に代えて、最大限許容される引上げが回転数差NAddとしてその後の方法の基礎となる。
【0047】
そして第9のステップS9で、当初に設定された目標回転数NSollを制御装置31が回転数差NAddだけ引き上げる。それにより、引き上げられた目標回転数NSoll_Addが得られる。そして、この引き上げられた目標回転数NSoll_Addが、当初に設定された目標回転数NSollの代わりに、制御信号が判定される第2のステップS2で基礎とされ、それにより、引き上げられた目標回転数NSoll_Addでロータが回転する。
【0048】
電流値iMotを低減するのに、引き上げられた目標回転数NSoll_Addの設定が十分でないときは、引き上げられた目標回転数NSoll_Addが制御ループ32によりさらに引き上げられる。しかし、電流値iMotが目標回転数NSollの引上げによって低下したときは、制御ループ32により、さらに低い回転数差NAddが判定され、それにより、目標回転数NSollの引上げが縮小される。それによってポンプモータ29の騒音発生が低減される。
【0049】
制御ループ32は、モータ巻線への通電をもって開始される時間幅の経過後に初めて開始されるのが好ましい。その根底にある考察は、電流値iMotが電流閾値iMaxよりも高い場合であってさえ、短い制御介入はポンプモータ29を熱的に過負荷しないということにある。
【符号の説明】
【0050】
1 ブレーキ設備
26 リターンポンプ
27,28 ポンプ部材
29 ポンプモータ
31 制御装置
iMot 電流値
iMax 電流閾値
NSoll 目標回転数
Δi 差異
k 定数
T 温度