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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】半導体デバイス、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 25/07 20060101AFI20240925BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20240925BHJP
   H01L 23/52 20060101ALI20240925BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20240925BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20240925BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240925BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H01L23/52 Z
H01L27/04 L
H02M7/48 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023510679
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022008042
(87)【国際公開番号】W WO2022209496
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021058373
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
(72)【発明者】
【氏名】稲田 太朗
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-073812(JP,A)
【文献】特開2006-032805(JP,A)
【文献】特開2014-100053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 25/07
H01L 23/52
H01L 21/822
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が形成された第1のチップと、
半導体素子が形成された前記第1のチップと異なる第2のチップと、
前記第1のチップおよび前記第2のチップが実装される実装基板を備えるパッケージと、
前記パッケージの内部において前記第1のチップおよび前記第2のチップを磁気的に結合する磁性部材であって、一方のチップの電流によって発生する磁束を他方のチップに導き、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流を誘起する磁路を構成する前記磁性部材と
を備える半導体デバイス。
【請求項2】
前記磁性部材は、前記第1のチップと磁気的に結合される第1の環状磁路および前記第2のチップと磁気的に結合される第2の環状磁路が無端状に接続された循環する磁路を構成し、
前記第1の環状磁路の前記第1のチップの電流の周りの循環方向と、前記第2の環状磁路の前記第2のチップの電流の周りの循環方向が、互いに逆である
請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記第1のチップおよび前記第2のチップには半導体素子として電界効果トランジスタが形成され、
前記磁性部材は、前記第1のチップおよび前記第2のチップの電界効果トランジスタのソース同士またはドレイン同士を磁気的に結合する
請求項1または2に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記磁性部材は前記第1のチップおよび前記第2のチップのそれぞれの周りを囲む請求項1から3のいずれかに記載の半導体デバイス。
【請求項5】
前記第1のチップの電流端子と電気的に接続される第1の導通部材と、前記第2のチップの電流端子と電気的に接続される第2の導通部材を更に備え、
前記磁性部材は前記第1の導通部材および前記第2の導通部材のそれぞれの周りを囲む
請求項1から3のいずれかに記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記実装基板は、配線層を有し、
前記第1の導通部材は、前記配線層における配線と、当該配線と前記第1のチップの電流端子を接続する第1のビアによって構成され、
前記第2の導通部材は、前記配線層における配線と、当該配線と前記第2のチップの電流端子を接続する第2のビアによって構成され、
前記磁性部材は前記第1のビアおよび前記第2のビアのそれぞれの周りを囲む
請求項5に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記第1のチップおよび前記第2のチップは、ワイドバンドギャップ半導体により構成される請求項1から6のいずれかに記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記第1のチップおよび前記第2のチップは、入力された電力を変換して出力する電力変換部を構成し、
前記磁性部材は、前記第1のチップおよび前記第2のチップの電力の差を小さくする磁束を発生する
請求項1から7のいずれかに記載の半導体デバイス。
【請求項9】
高電位の高電位端子と低電位の低電位端子を含み、両端子の間で直流電力が入力または出力される直流電力端子と、
交流電力が入力または出力される交流電力端子と、
前記高電位端子側と前記交流電力端子側を接続する高電位トランジスタと、
前記低電位端子側と前記交流電力端子側を接続する低電位トランジスタと、
前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタに制御信号を入力し、それぞれの導通状態を互いに相補的に切り替えることで前記直流電力と前記交流電力の間の変換を行うドライバと
を備える電力変換装置であって、
前記高電位トランジスタおよび前記低電位トランジスタの少なくともいずれかは、前記ドライバによって同一の制御信号が入力される第1のトランジスタと第2のトランジスタを含み、
前記第1のトランジスタは第1のチップに形成され、
前記第2のトランジスタは前記第1のチップと異なる第2のチップに形成され、
前記第1のチップおよび前記第2のチップが実装される実装基板を備えるパッケージが設けられ、
前記パッケージの内部において前記第1のチップおよび前記第2のチップを磁気的に結合する磁性部材であって、一方のチップの電流によって発生する磁束を他方のチップに導き、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流を誘起する磁路を構成する前記磁性部材が設けられる
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
膨大な数のトランジスタが一つのチップに集積された集積回路に対し、トランジスタを含む各半導体素子を異なるチップに形成し、それらを一つのパッケージの内部に実装した複数チップからなる半導体デバイスが知られている。例えば、電力の制御を担ういわゆるパワー半導体の分野では、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード等の各半導体素子を異なるチップに形成することで、各チップが大きな電力を扱えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2619851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各半導体素子が異なるチップに形成されている場合、各チップの製造時のばらつき等によって、各チップの電流が所期の値から乖離する可能性がある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数のチップの電流のばらつきを効果的に低減できる半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の半導体デバイスは、半導体素子が形成された第1のチップと、半導体素子が形成された第1のチップと異なる第2のチップと、第1のチップおよび第2のチップが実装される実装基板を備えるパッケージと、パッケージの内部において第1のチップおよび第2のチップを磁気的に結合する磁性部材であって、一方のチップの電流によって発生する磁束を他方のチップに導き、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流を誘起する磁路を構成する磁性部材とを備える。
【0007】
この態様によれば、第1のチップと第2のチップを磁気的に結合する磁性部材によって、一方のチップの電流の増減が他方のチップの電流の増減を誘起するため、両チップの電流のばらつきを低減できる。
【0008】
本発明の別の態様は、電力変換装置である。この電力変換装置は、高電位の高電位端子と低電位の低電位端子を含み、両端子の間で直流電力が入力または出力される直流電力端子と、交流電力が入力または出力される交流電力端子と、高電位端子側と交流電力端子側を接続する高電位トランジスタと、低電位端子側と交流電力端子側を接続する低電位トランジスタと、高電位トランジスタおよび低電位トランジスタに制御信号を入力し、それぞれの導通状態を互いに相補的に切り替えることで直流電力と交流電力の間の変換を行うドライバとを備える。高電位トランジスタおよび低電位トランジスタの少なくともいずれかは、ドライバによって同一の制御信号が入力される第1のトランジスタと第2のトランジスタを含み、第1のトランジスタは第1のチップに形成され、第2のトランジスタは第1のチップと異なる第2のチップに形成され、第1のチップおよび第2のチップが実装される実装基板を備えるパッケージが設けられ、パッケージの内部において第1のチップおよび第2のチップを磁気的に結合する磁性部材であって、一方のチップの電流によって発生する磁束を他方のチップに導き、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流を誘起する磁路を構成する磁性部材が設けられる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のチップの電流のばらつきを効果的に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インバータ装置の構成を概略的に示す図である。
図2】インバータを構成する高電位トランジスタおよび低電位トランジスタを、それぞれ二つのトランジスタで構成する例を示す図である。
図3】異なるチップに形成されたトランジスタの間で電流のバランスを保つ構成を模式的に示す図である。
図4】本発明の技術的思想を絶縁ゲートバイポーラトランジスタに適用した例を示す図である。
図5】本発明の技術的思想を横型構造の電界効果トランジスタに適用した例を示す図である。
図6】複数のトランジスタの実装例を示す図である。
図7】複数のトランジスタの他の実装例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態が適用されるインバータ装置10の構成を概略的に示す。インバータ装置10は、電源から供給される3相の交流電力を整流して直流電力(脈流)に変換するコンバータ11と、コンバータ11で変換された直流電力を平滑して波形を整えるコンデンサ12と、コンデンサ12で平滑された直流電力を交流電力に変換するインバータ13を備える。
【0013】
コンバータ11は、電源から供給される3相(U,V,W)の交流電力を一定の方向(図の下から上に向かう方向)に整流するダイオード111~116を備える。ダイオード111はU相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード112はU相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード113はV相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード114はV相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード115はW相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード116はW相の交流電圧が負の時に電流を流す。これらのブリッジ状に接続されたダイオード111~116によって、コンバータ11の出力端子間には、方向が一定で大きさが変動する脈流が現われる。コンデンサ12は、コンバータ11で得られた脈流を平滑した直流電力をインバータ13に供給する。
【0014】
以下、コンバータ11およびコンデンサ12を経て、インバータ13の高電位入力端子131と低電位入力端子132の間に入力される直流電圧をVDCと表す。高電位入力端子131が接続される高電位入力ラインの電位をVdd、低電位入力端子132が接続される低電位入力ラインの電位をVssとすれば、VDC=Vdd-Vssである。以下、特に断らない限り、VDCは一定であるものとする。
【0015】
インバータ13は、高電位入力端子131と低電位入力端子132の間で入力される直流電圧VDCに基づいて3相の交流電力を生成する電力変換装置である。具体的には、直流電圧VDCに基づいてU相の交流電力を生成するU相インバータ13Uと、直流電圧VDCに基づいてV相の交流電力を生成するV相インバータ13Vと、直流電圧VDCに基づいてW相の交流電力を生成するW相インバータ13Wが並列に設けられる。各相のインバータ13U、13V、13Wの構成は共通であるため、以下では適宜インバータ13と総称してまとめて説明する。
【0016】
インバータ13は、高い直流電源電位Vddが入力される高電位入力端子131と、低い直流電源電位Vssが入力される低電位入力端子132と、高電位入力端子131と低電位入力端子132の間に設けられてVddとVssの間で変動する交流電圧を出力する出力端子133を備える。高電位入力端子131と出力端子133の間には高電位トランジスタ134Hが接続され、低電位入力端子132と出力端子133の間には低電位トランジスタ134Lが接続される。高電位トランジスタ134Hは、その制御電極に接続された高電位ドライバ135Hからの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。低電位トランジスタ134Lは、その制御電極に接続された低電位ドライバ135Lからの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。
【0017】
具体的には、高電位ドライバ135Hおよび低電位ドライバ135Lからなるドライバ対135は、高電位トランジスタ134Hおよび低電位トランジスタ134Lからなるトランジスタ対134の導通状態を相補的に切り替えるスイッチング制御を行うことで直流電力を交流電力に変換する。ここで「相補的に切り替える」とは、各トランジスタ134H、134Lのオンオフ状態が互いに逆となるように制御することを意味する。すなわち、トランジスタ134Hがオンの時はトランジスタ134Lをオフとし、トランジスタ134Hがオフの時はトランジスタ134Lをオンとする。これによって、高電位トランジスタ134Hがオンの時は出力端子133に高電位Vddが現われ、低電位トランジスタ134Lがオンの時は出力端子133に低電位Vssが現われる。このようなスイッチング制御を繰り返すことで、出力端子133には高電位Vddと低電位Vssが交互に現われるため交流電力が生成される。
【0018】
なお、図1では各相のインバータ13U、13V、13Wがそれぞれ一つのトランジスタ対134とドライバ対135を備える例を示したが、トランジスタ対およびドライバ対は各相に複数設けてもよい。例えば、図1の構成に対して、高電位トランジスタ134Hと高電位入力端子131の間に第2の高電位トランジスタを設け、低電位トランジスタ134Lと低電位入力端子132の間に第2の低電位トランジスタを設けることで、第1のトランジスタ対134の外側に第2のトランジスタ対を設ける。第2のドライバ対は第2のトランジスタ対を相補的にスイッチング制御するが、そのタイミングは第1のドライバ対によるスイッチング制御より前とする。これによって、出力端子133に現われる交流電圧を精緻に制御できるだけでなく、電源ライン間で直列的に接続される複数のトランジスタ対の耐圧が加算される形でインバータ13全体の耐圧を高めることができる。
【0019】
インバータ13で生成された3相の交流電力は、例えばモータ20の駆動に使用される。モータ20は、U相、V相、W相の3相のコイル20U、20V、20Wを持つ3相ブラシレスモータである。U相コイル20UにはU相インバータ13UからのU相電流が流れ、V相コイル20VにはV相インバータ13VからのV相電流が流れ、W相コイル20WにはW相インバータ13WからのW相電流が流れる。各相のインバータ13U、13V、13Wは、モータ20のホール素子H1、H2、H3が検知した回転子の回転位置に基づき、互いに位相が異なる交流電力を各相のコイル20U、20V、20Wに印加することで回転磁界を発生させる。この回転磁界によって回転する回転子から所望の回転動力が得られる。なお、モータ20は、交流電圧で駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ20の相の数は3に限られず、2以上の任意の自然数でよい。
【0020】
以上のようなインバータ装置10に代表されるパワー半導体デバイスは、電気自動車や再生可能エネルギーの普及におけるキーデバイスとして近年注目されており、製品に対する要求も益々高まっている。例えば、より大きな電力を扱えるパワー半導体デバイスが求められており、従来の主流材料であるSiよりもバンドギャップが大きいSiCやGaN等のいわゆるワイドバンドギャップ半導体を用いた高耐圧デバイスの開発が活発に進められている。また、実質的に同一または類似の動作をする複数の半導体素子を並列に設けることで、デバイス全体としての大電力化を図ることもできる。
【0021】
図2は、インバータ13を構成する高電位トランジスタ134Hおよび低電位トランジスタ134Lを、それぞれ二つのトランジスタで構成する例を示す。具体的には、高電位トランジスタ134Hは並列に設けられた二つの高電位トランジスタ1341H、1342Hを含み、低電位トランジスタ134Lは並列に設けられた二つの低電位トランジスタ1341L、1342Lを含む。高電位トランジスタ1341H、1342Hの制御電極には共通の高電位ドライバ135Hから同一の制御信号が入力されるため、あたかも一つの高電位トランジスタ134Hのように一体的に動作するが、出力端子133では各高電位トランジスタ1341H、1342Hからの電流が加算されるため、図1の構成と比較してインバータ13の出力電流が増加する。同様に、低電位トランジスタ1341L、1342Lの制御電極には共通の低電位ドライバ135Lから同一の制御信号が入力されるため、あたかも一つの低電位トランジスタ134Lのように一体的に動作するが、出力端子133では各低電位トランジスタ1341L、1342Lからの電流が加算されるため、図1の構成と比較してインバータ13の出力電流が増加する。
【0022】
以上のような構成において、並列に設けられるトランジスタは、それぞれが可能な限り大きな電力を扱えるように、異なるチップに形成されるのが好ましい。すなわち、並列に設けられる高電位トランジスタ1341H、1342Hは互いに異なるチップに形成され、並列に設けられる低電位トランジスタ1341L、1342Lは互いに異なるチップに形成される。このように同一の動作をすべき複数のトランジスタが異なるチップに形成されている場合、各チップの製造時のばらつき等によって各トランジスタを流れる電流に差が生じる可能性がある。この電流のアンバランスによって一方のトランジスタに過度な電流が集中する状況が継続すると、トランジスタまたはデバイス全体の不具合の発生の可能性が高まる。このように大電力化のためにトランジスタ等の半導体素子を異なるチップに形成する場合、半導体素子間の電流のバランスを適切に保つことが重要である。
【0023】
図3は、異なるチップに形成されたトランジスタ1341、1342の間で電流のバランスを保つ構成を模式的に示す。まず、トランジスタ1341、1342の構造を説明する。トランジスタ1341、1342は、縦型構造の電界効果トランジスタまたはMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)であり、異なるシリコンウェーハ(チップ)に形成される点を除いて互いに同一の構造を有する。
【0024】
各トランジスタのシリコンウェーハの表面(図3の上方の面)には、トランジスタのゲートを構成するゲート電極31がゲート絶縁膜32を介して設けられる。トランジスタのソースを構成するソース領域33は、上面視でゲート電極31を両側から挟むようにまたは環状に囲むようにシリコンウェーハに形成されるn型領域である。また、p型のチャネル領域34がソース領域33を囲むようにシリコンウェーハに形成される。n型のソース領域33およびp型のチャネル領域34を除くシリコンウェーハの大部分はn型の基板本体35を構成する。シリコンウェーハの裏面(図3の下方の面)には、トランジスタのドレインを構成するドレイン電極36が設けられる。
【0025】
以上の構成のトランジスタにおいて、ゲート電極31に正の電圧が印加されると、ゲート絶縁膜32の直下のp型のチャネル領域34にn型の反転層(チャネル)が形成されるため、n型のソース領域33とn型の基板本体35およびドレイン電極36が導通する。このように導通したソースとドレインの間には、おおよそ図3の上下方向すなわちシリコンウェーハの表面と裏面を結ぶ方向に電流を流すことができる。図3では、ドレイン(下)からソース(上)に流れる電流を上向きの矢印で示すが、電流はソース(上)からドレイン(下)に流すこともできる。
【0026】
トランジスタ1341のソース/ドレイン間で流れる電流をIとし、トランジスタ1342のソース/ドレイン間で流れる電流をIとする。これらのトランジスタ1341、1342を、図2の高電位トランジスタ1341H、1342Hとして使用する場合や、図2の低電位トランジスタ1341L、1342Lとして使用する場合は、各トランジスタ1341、1342のゲート電極31に共通のドライバ(135Hまたは135L)から同一の制御信号が入力されるため、流れる電流は常に等しい(I=I)はずである。しかし、各トランジスタ1341、1342が形成される各チップの製造時のばらつき等によって、流れる電流に差が生じる(I>IまたはI<I)可能性がある。
【0027】
このような電流のアンバランスを解消するために、本実施形態では磁性部材40が設けられる。図3に模式的に示すように、磁性部材40は上面視で「8」または「∞」の形状をした無端状の循環磁路を構成する。具体的には、トランジスタ1341が形成された第1のチップと磁気的に結合される第1の環状磁路41と、トランジスタ1342が形成された第2のチップと磁気的に結合される第2の環状磁路42が、無端状に接続されて循環する磁路が構成される。ここで、第1の環状磁路41の第1のチップの電流Iの周りの循環方向と、第2の環状磁路42の第2のチップの電流Iの周りの循環方向が互いに逆である。図3の矢印で例示するように、上向きの電流Iの周りの第1の環状磁路41の循環方向を時計回り方向とした場合、同じく上向きの電流Iの周りの第2の環状磁路42の循環方向は反時計回り方向となる。
【0028】
以上のような構成の磁性部材40によれば、一方のチップの電流によって発生する磁束が他方のチップに導かれ、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流が誘起される。例えば、トランジスタ1342の上向きの電流Iによって第2の環状磁路42に発生する磁束Bが、磁性部材40によって第1の環状磁路41に導かれる。ここで、第2の環状磁路42に発生した磁束Bは反時計回り方向であるが、第1の環状磁路41に導かれた磁束Bは時計回り方向である。トランジスタ1341では、トランジスタ1342の電流Iによって発生した磁束Bを打ち消すための電流Iが誘起される。具体的には、時計回り方向の磁束Bを打ち消す反時計回り方向の磁束B′を発生させるために、上向きの電流Iが誘起される。このように、磁性部材40によって、トランジスタ1342の上向きの電流Iが、トランジスタ1341の上向きの電流Iを誘起する。同様に、トランジスタ1341の上向きの電流Iが、トランジスタ1342の上向きの電流Iを誘起する。更に電流I、Iが下向きの場合も同様である。
【0029】
各トランジスタ1341、1342を流れる電流が等しい(I=I)理想的な場合は、両トランジスタ間で上記の作用がバランスするため、いずれのトランジスタにも電流は誘起されない。一方、各トランジスタ1341、1342を流れる電流に差が生じる場合は、電流の大きいトランジスタが電流の小さいトランジスタに電流を誘起するため、電流の差が自然に解消される。このように、磁性部材40によれば、トランジスタ1341、1342間の電流のバランスを適切に保つことができる。
【0030】
上記の作用を奏する限りにおいて、磁性部材40を設置する位置や態様が限定されるものではないが、図3に三つの設置位置40A~40Cを例示する。設置位置40Aでは、磁性部材40がシリコンウェーハの表面より上方に配置され、ソース領域33を流れる各ソース電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。設置位置40Bでは、磁性部材40の各環状磁路41、42がトランジスタ1341、1342のそれぞれのシリコンウェーハの側面または周りを囲むように配置され、基板本体35を流れる各基板電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。ここで、磁性部材40がシリコンウェーハを「囲む」とは、磁性部材40とシリコンウェーハが隙間なく接触している場合だけでなく、磁性部材40とシリコンウェーハの間に空間や絶縁部材等が介在している場合も含む。設置位置40Cでは、磁性部材40がシリコンウェーハの裏面より下方に配置され、ドレイン電極36を流れる各ドレイン電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。
【0031】
図4は、図3の技術的思想を絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)に適用した例を示す。図3のMOSFETと同等の構成要素には同一の符号を付すが、IGBTでは33がエミッタ領域となり36がコレクタ電極となる。また、基板本体35とコレクタ電極36の間にはp型層37が設けられ、p型のチャネル領域34およびn型の基板本体35とpnp型のバイポーラトランジスタを構成する。
【0032】
ゲート電極31に正の電圧が印加されると、図3のMOSFETと同様にゲート絶縁膜32直下のチャネル領域34にチャネルが形成され、n型のキャリアである電子がエミッタ領域33から基板本体35に流入する。この電子の流れが上記のpnp型のバイポーラトランジスタへのベース電流となるため、バイポーラトランジスタも導通状態となってエミッタとコレクタが導通する。このように導通したエミッタとコレクタの間には、図3のMOSFETと同様におおよそチップの表面と裏面を結ぶ方向に電流を流すことができる。図4では、コレクタ(下)からエミッタ(上)に流れる電流を上向きの矢印で示すが、電流はエミッタ(上)からコレクタ(下)に流すこともできる。両IGBT1341、1342の電流I、Iのバランスを保つための磁性部材40の構成や作用は図3と同様のため説明を省略する。
【0033】
図5は、図3の技術的思想を横型構造の電界効果トランジスタまたはMOSFETに適用した例を示す。横型構造のMOSFETでは、上面視でゲート電極31を両側から挟むようにn型のソース領域33とn型のドレイン領域36がシリコンウェーハに形成される。ゲート電極31に正の電圧が印加されると、ゲート絶縁膜32の直下のp型のチャネル領域34にn型の反転層(チャネル)が形成されるため、n型のソース領域33とn型のドレイン領域36が導通する。このように導通したソースとドレインの間には、おおよそ図5の左右方向すなわちシリコンウェーハの表面近傍でソース領域33とドレイン領域36を結ぶ方向に電流を流すことができる。図5では、ドレイン(右)からソース(左)に流れる電流を左向きの矢印で示すが、電流はソース(左)からドレイン(右)に流すこともできる。
【0034】
両トランジスタ1341、1342の電流I、Iのバランスを保つための磁性部材40は、両トランジスタのソース電流同士および/またはドレイン電流同士を磁気的に結合するように設けられる。磁性部材40Sは両トランジスタ1341、1342のソース同士を磁気的に結合し、図示の例では共に上向きのトランジスタ1341のソース電流I、トランジスタ1342のソース電流Iが、第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。ここで、両トランジスタ1341、1342のドレイン電流が磁性部材40Sに鎖交しないようにレイアウトが適宜調整されているものとする。磁性部材40Dは両トランジスタ1341、1342のドレイン同士を磁気的に結合し、図示の例では共に下向きのトランジスタ1341のドレイン電流I、トランジスタ1342のドレイン電流Iが、第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。ここで、両トランジスタ1341、1342のソース電流が磁性部材40Dに鎖交しないようにレイアウトが適宜調整されているものとする。以上のような磁性部材40によって、トランジスタ1341、1342間のソース電流および/またはドレイン電流のバランスを適切に保つことができる。
【0035】
図6は、トランジスタ1341、1342の実装例を示す。トランジスタ1341、1342を収容するパッケージ50は、トランジスタ1341が形成された第1のチップおよびトランジスタ1342が形成された第2のチップが実装される一対の実装基板51U、51Dを内部に備える。上方の実装基板51Uには、図3のトランジスタ1341、1342のゲートおよびソースが設けられる表面が実装される。下方の実装基板51Dには、図3のトランジスタ1341、1342のドレインが設けられる裏面が実装される。各実装基板51U、51Dは、ゲート、ソース、ドレイン等のチップの端子と電気的に接続されて信号を入出力する配線層52を有する。配線層52における各配線と各チップの各端子は、配線層52に垂直な方向あるいはパッケージ50の厚さ方向に延びるビア53によって電気的に接続される。
【0036】
両チップの電流I、Iのバランスを保つための磁性部材40は、図3と同様の設置位置40A~40Cの少なくとも一つに設けられる。設置位置40Aでは、磁性部材40が両チップの表面より上方のビア53のそれぞれの周りを囲むように配置され、これらのビア53を上下方向(図示の例では上向き)に流れる電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。設置位置40Bでは、磁性部材40の各環状磁路41、42が第1のチップ、第2のチップのそれぞれの側面または周りを囲むように配置され、チップの厚さ方向に流れる電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。設置位置40Cでは、磁性部材40が両チップの裏面より下方のビア53のそれぞれの周りを囲むように配置され、これらのビア53を上下方向(図示の例では上向き)に流れる電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。いずれの設置位置40A~40Cに設けられた場合も、磁性部材40はパッケージ50の内部において第1のチップおよび第2のチップを磁気的に結合し、一方のチップの電流によって発生する磁束を他方のチップに導き、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流を誘起する磁路を構成する。
【0037】
以上の設置位置40A~40Cでは、各チップを上下方向に流れる電流I、Iと鎖交するように磁性部材40を配置したが、これらの電流I、Iは配線層52では図6の水平面内の配線を流れるため、これらの配線と鎖交するように磁性部材40を構成してもよい。抽象化して表現すれば、各チップの電流端子と電気的に接続される導通部材のそれぞれの周りを囲むように磁性部材40を構成すればよい。本実施形態では配線層52およびビア53が導通部材を構成する。
【0038】
図7は、トランジスタ1341、1342の他の実装例を示す。図6のパッケージ50では上下一対の実装基板51U、51Dで第1のチップおよび第2のチップを挟む構成だったのに対し、図7のパッケージ50では一つの実装基板51の内部に第1のチップおよび第2のチップが実装される。図示の例では、各チップの各端子は下方の配線層52における各配線とビア53によって電気的に接続される。両チップの電流のバランスを保つための磁性部材40は、両チップのビア53のそれぞれの周りを囲む設置位置40Cに配置され、これらのビア53を上下方向(図示の例では上向き)に流れる電流I、Iが第1の環状磁路41、第2の環状磁路42とそれぞれ鎖交する。
【0039】
本実施形態の磁性部材40は、図6図7のようにパッケージ50内部におけるチップとの電気的接続にボンディングワイヤを使用しない半導体デバイスに好適である。ボンディングワイヤを使用する半導体デバイスでは、チップの端子とパッケージのリードを接続するボンディングワイヤ自身やリードのインダクタンスや抵抗によって、チップ間の電流のばらつきがある程度自然に抑制されていた。これに対し、ボンディングワイヤを使用しないフリップチップボンディング等の技術を使用すれば、ボンディングワイヤのための空間をパッケージ50内部に用意する必要がなくなるため、高密度実装が可能になる。一方で、ボンディングワイヤやリードによるチップ間電流のばらつき抑制効果が失われるため、それを補うために本実施形態の磁性部材40が設けられる。換言すれば、本実施形態の磁性部材40によって各チップの製造時等のばらつきの影響を抑制できるため、ばらつきを厳密に考慮したチップの選別を行う必要がなくなる。なお、各チップの電流経路にバランスリアクトルを設けることで、チップ間の電流のアンバランスを低減することもできるが、ナノ秒レベルの高速スイッチングが求められる用途では、信号経路上に大きなインダクタンス成分を配置することは高速動作の阻害要因となるため好ましくない。本実施形態の磁性部材40は各チップと電気的に接続されていないため半導体デバイスの高速動作と両立しうる。
【0040】
磁性部材40の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、3Dプリンタを用いて所望の磁性材料から造形できる。また、チップをパッケージ50の内部に実装する際に、チップの周囲の所望の位置に積層した磁性粒子をレーザ等で順次硬化させることで、所望の形状の磁性部材40を形成できる。また、磁性部材40を形成する磁性材料も特に限定されるものではないが、例えば、半導体デバイスの高速動作を必要以上に阻害しないように、電圧時間積および飽和磁束密度が小さく、角形に近い(角形比が1に近い)ヒステリシスを持つ磁性材料を使用するのが好ましい。
【0041】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0042】
実施形態では半導体素子としてトランジスタを例示したが、サイリスタやダイオード等の他の半導体素子にも本発明は適用できる。すなわち、複数の半導体素子と磁気的に結合する磁性部材40によって、半導体素子間の電流のバランスを適切に保つことができる。
【0043】
実施形態ではSiに半導体素子を形成する例を説明したが、Siよりもバンドギャップが大きいSiCやGaN等のワイドバンドギャップ半導体材料に半導体素子を形成してもよい。
【0044】
実施形態では実質的に同一の動作をするトランジスタ1341、1342の電流を磁性部材40によってバランスさせる例を説明したが、異なる動作をする半導体素子間の電流をバランスさせる用途や、電流のばらつきを抑制する用途に磁性部材40を使用してもよい。
【0045】
実施形態では磁性部材40は上面視で「8」または「∞」の形状としたが、「パッケージ50の内部において第1のチップおよび第2のチップを磁気的に結合し、一方のチップの電流によって発生する磁束を他方のチップに導き、当該他方のチップにおいて一方のチップと同じ方向の電流を誘起する磁路を構成する」という作用を奏する限りにおいて磁性部材40の形状は任意である。
【0046】
実施形態では、第1のチップ(トランジスタ1341)および第2のチップ(トランジスタ1342)によって、直流電力を交流電力に変換するインバータ13(電力変換部)を構成したが、交流電力を直流電力に変換する電力変換部としてのコンバータを構成してもよい。また、直流電力同士または交流電力同士で大きさや周波数(交流電力同士のみ)を変換する電力変換部を第1のチップおよび第2のチップで構成してもよい。このような電力変換部に磁性部材40を適用すれば、第1のチップおよび第2のチップの電力の差を小さくする磁束を発生させることができる。
【0047】
実施形態では、電力変換装置として直流電力を交流電力に変換するインバータ13を例示したが、交流電力を直流電力に変換するコンバータ、直流電力間で電力を変換するDC/DCコンバータ等の他の電力変換装置にも本発明は適用できる。
【0048】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0049】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は半導体デバイスに関する。
【符号の説明】
【0051】
10 インバータ装置、13 インバータ、20 モータ、40 磁性部材、41 第1の環状磁路、42 第2の環状磁路、50 パッケージ、51 実装基板、52 配線層、53 ビア、131 高電位入力端子、132 低電位入力端子、133 出力端子、134 トランジスタ対、135 ドライバ対、1341 トランジスタ、1342 トランジスタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7