IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両開発支援システム 図1
  • 特許-車両開発支援システム 図2
  • 特許-車両開発支援システム 図3
  • 特許-車両開発支援システム 図4
  • 特許-車両開発支援システム 図5
  • 特許-車両開発支援システム 図6
  • 特許-車両開発支援システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】車両開発支援システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240925BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023527184
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2021021649
(87)【国際公開番号】W WO2022259341
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 穣
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 裕司
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 篤司
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 常寛
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 聡
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/075089(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/047555(WO,A1)
【文献】特開2004-145685(JP,A)
【文献】佐々木茂,“先進運転支援システムの開発のために”,映像情報Industrial,日本,産業開発機構株式会社,2016年05月01日,第48巻,第5号(通巻867号),pp.61-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/007
G05B 23/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コックピットに搭乗している操作者が操作入力することで、評価対象となる車載機器である電子制御燃料噴射装置への操作信号を出力するアクセル操作機構と、
前記操作信号により、前記電子制御燃料噴射装置を制御する制御信号を出力するECUと、
前記制御信号により、前記電子制御燃料噴射装置を動作させる物理状態量を演算し、前記電子制御燃料噴射装置の動作をシミュレートすると共に、前記電子制御燃料噴射装置の動作に伴う車両挙動をシミュレートするリアルタイムシミュレータと、
前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果を前記ECUに入力する通信と前記制御信号を前記リアルタイムシミュレータに入力する通信とを同期させる同期装置と、
前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果によって映像情報を生成し当該映像情報を前記操作者が視認できるように表示する映像表示装置とを備え、
前記シミュレーション結果を反映して前記操作者のアクセル操作入力に伴って前記ECUが出力する前記制御信号と前記映像表示装置の表示とを同期させることを特徴とする車両開発支援システム。
【請求項2】
コックピットに搭乗している操作者が操作入力することで、評価対象となる車載機器である電動ステアリング装置への操作信号を出力するステアリング操作機構と、
前記操作信号により、前記電動ステアリング装置を制御する制御信号を出力するECUと、
前記制御信号により、前記電動ステアリング装置を動作させる物理状態量を演算し、前記電動ステアリング装置の動作をシミュレートすると共に、前記電動ステアリング装置の動作に伴う車両挙動をシミュレートするリアルタイムシミュレータと、
前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果を前記ECUに入力する通信と前記制御信号を前記リアルタイムシミュレータに入力する通信とを同期させる同期装置と、
前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果によって映像情報を生成し当該映像情報を前記操作者が視認できるように表示する映像表示装置とを備え、
前記シミュレーション結果を反映して前記操作者のステアリング操作入力に伴って前記ECUが出力する前記制御信号と前記映像表示装置の表示とを同期させることを特徴とする車両開発支援システム。
【請求項3】
コックピットに搭乗している操作者が操作入力することで、評価対象となる車載機器であるアンチロックブレーキングシステム又はトラクションコントロールシステムへの操作信号を出力するブレーキ操作機構と、
前記操作信号により、前記アンチロックブレーキングシステム又はトラクションコントロールシステムを制御する制御信号を出力するECUと、
前記制御信号により、前記アンチロックブレーキングシステム又はトラクションコントロールシステムを動作させる物理状態量を演算し、前記アンチロックブレーキングシステム又はトラクションコントロールシステムの動作をシミュレートすると共に、前記アンチロックブレーキングシステム又はトラクションコントロールシステムの動作に伴う車両挙動をシミュレートするリアルタイムシミュレータと、
前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果を前記ECUに入力する通信と前記制御信号を前記リアルタイムシミュレータに入力する通信とを同期させる同期装置と、
前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果によって映像情報を生成し当該映像情報を前記操作者が視認できるように表示する映像表示装置とを備え、
前記シミュレーション結果を反映して前記操作者のブレーキ操作入力に伴って前記ECUが出力する前記制御信号と前記映像表示装置の表示とを同期させることを特徴とする車両開発支援システム。
【請求項4】
前記ECUは、他のECUと通信接続されており、
前記シミュレーション結果は、前記同期装置を介して前記他のECUに入力され、前記他のECUが出力する制御信号は、前記同期装置を介して前記リアルタイムシミュレータに入力されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の車両開発支援システム。
【請求項5】
前記リアルタイムシミュレータは、車両挙動に影響する車外環境を演算して前記シミュレーション結果に反映させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の車両開発支援システム。
【請求項6】
前記リアルタイムシミュレータは、車外環境に対してイベントを発生させて前記シミュレーション結果に反映させることを特徴とする請求項5記載の車両開発支援システム。
【請求項7】
前記車載機器は、前記コックピットを備えた枠体に搭載されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の車両開発支援システム。
【請求項8】
前記ECUは、車両に搭載される予定のECUの電子制御的な振る舞いを模擬した仮想ECUを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の車両開発支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の開発を支援する車両開発支援システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の開発に使用する評価システムとして、車両に搭載されているアクチュエータ等の挙動を制御する電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)又は複数のE
CUからなる制御システムによる車両の制御性能を評価するシステムが知られている。この評価システムは、試作車両を製造する代わりに、車両に搭載されるECUからなる実機部と、実機部に応じて設定された車両モデルに基づいて車両の挙動をシミュレートするシミュレータとにより仮想車両を構成し、仮想車両に対して種々の試験条件や仮想車両を制御する制御パラメータを設定することで、仮想車両におけるECUの制御性能を評価している(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-137332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術は、オペレーションPCが、前述した仮想車両に対する複数の試験条件をシミュレータに設定し、仮想車両の動作を制御するための制御パラメータの値を実機部のECUに設定することで、評価試験を行っている。
【0005】
このような従来技術によると、オペレーションPCの条件設定で評価試験が行われるので、運転者が車両運転中に車載機器を操作する際の使用感や、運転者の操作によって作動するECUや車載機器の作動性能をリアルタイムで評価することができない。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑み、車両運転中に車載機器を操作する際の使用感、或いは運転者の操作によって作動するECUや車載機器の作動性能をリアルタイムで評価することができる車両開発支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明の一実施形態における車両開発支援システムにあっては、コックピットに搭乗している操作者が操作入力することで、評価対象となる車載機器への操作信号を出力する操作装置と、前記操作信号により、前記車載機器を制御する制御信号を出力するECUと、前記制御信号により、前記車載機器を動作させる物理状態量を演算し、前記車載機器の動作をシミュレートすると共に、前記車載機器の動作に伴う車両挙動をシミュレートするリアルタイムシミュレータと、前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果を前記ECUに入力する通信と前記制御信号を前記リアルタイムシミュレータに入力する通信とを同期させる同期装置と、前記リアルタイムシミュレータのシミュレーション結果によって映像情報を生成し当該映像情報を前記操作者が視認できるように表示する映像表示装置とを備え、前記シミュレーション結果を反映して前記ECUが出力する前記制御信号と前記映像表示装置の表示とを同期させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態における車両開発支援システムにあっては、車両運転中に車載機器を操作する際の使用感、或いは運転者の操作によって作動するECUや車載機器の作動性能をリアルタイムで評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る車両開発支援システムのシステム構成を示した説明図。
図2】車両開発支援システムの信号の流れを示し、ECUが制御する車載機器が枠体に配備されている構成を示したブロック図。
図3】車両開発支援システムの信号の流れを示したブロック図。
図4】車両開発支援システムにおける各部の1制御サイクルにおける信号処理を示したシーケンス図。
図5】車両開発支援システムを用いた評価例を示す説明図(無操作状態)。
図6】車両開発支援システムを用いた評価例を示す説明図(アクセルペタルとステアリングホイールの操作)。
図7】車両開発支援システムを用いた評価例を示す説明図(イベント発生及びブレーキペタル操作)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0011】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る車両開発支援システム1は、コックピットCに搭乗する操作者(人)Mが介在する閉ループのシステムを構築することで、車載機器の使用感や操作者の操作で作動する車載機器の動作性能又は操作性能を評価できるようにしたものである。この際、評価を行う者(評価者)は、操作者M自身であってもよいし、操作者M以外の第三者であってよい。また、操作者Mの操作等を検出した検出結果から客観的な評価を行う評価装置(コンピュータ等)を別途設けてもよい。
【0012】
なお、後述する操作装置10を操作することが前提になる車載機器の評価では、操作者Mによる操作装置10の操作が必要になるが、操作装置10の操作を伴わない車載機器を評価する場合には、操作者Mによる操作装置10を必要としない。
【0013】
車両開発支援システム1は、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit:電
子制御装置)2とECU2によって制御される車載機器3を備えている。図1に示した例では、複数のECU2と複数の車載機器3を備える例を示しているが、評価対象を特定して、単体のECU2と単体の車載機器3を備えるようにしてもよい。複数のECU2と複数の車載機器3は、その中から選択されたもの或いは全てが評価対象になる。車両開発支援システム1における複数のECU2は、実車両と同様に車載ネットワーク(例えば、CAN(Controller Area Network)など)の通信回線L1を介して相互に通信可能に接続
されている。
【0014】
車両開発支援システム1は、操作装置10を備える。操作装置10は、操作者Mが人為的に操作入力することで、操作信号を出力し、これを評価対象となるECU2や車載機器3へ送信する。この操作装置10は、車両の操作機構(ステアリング操作機構、アクセル操作機構、ブレーキ操作機構、シフト操作機構、車載機器3の操作のためのスイッチなど)であり、開発を支援する実車両のそれに対応した位置に設置される。なお、車両開発支援システム1における操作装置10は、実車両に搭載される操作装置を模擬したもの(例
えば簡易的に制作したもの)であってもよい。また、操作装置10は、実車両に対応して
後述するリアルタイムシミュレータ20上に設けてもよい。
【0015】
車両開発支援システム1は、必要に応じて、単数又は複数の仮想ECU2Vを備える。仮想ECU2Vは、実車両に搭載される実体物のECU(実ECU)に代わり、車両搭載時の実ECUの電子制御的な振る舞い(電子制御機能)を模擬するものであり、ラピッドコントロールプロトタイピング(rapid control prototyping:RCP)などの汎用コン
トローラやPCを用いて構成することができる。開発途中のECUなどをこの仮想ECU2Vで構成することにより、車両全体のECUの連携に関する評価を開発途中であっても行うことができる。
【0016】
車両開発支援システム1は、リアルタイムシミュレータ20を備える。リアルタイムシミュレータ20は、複数のプロセッサとプロセッサによって実行されるプログラムが記憶されたメモリを備えるコンピュータによって構成することができる。リアルタイムシミュレータ20は、ECU2或いは仮想ECU2Vが出力する制御信号により、車載機器3を動作させる物理状態量を演算し、車載機器3の動作をシミュレートすると共に、車載機器3の動作に伴う車両挙動をシミュレートする。
【0017】
リアルタイムシミュレータ20のソフトウエア構成としては、制御対象となる車載機器及び車両の物理状態量を演算してシミュレーション結果を出力する車両運動計算部(車両運動計算モデル)21と、車両挙動に影響する車外環境を演算してシミュレーション結果に反映させる車外環境演算部(車外環境演算モデル)22と、車外環境に対してイベントを発生させてシミュレーション結果に反映させるイベント発生部(イベント発生モデル)23を備える。
【0018】
車両開発支援システム1は、映像表示装置30を備える。映像表示装置30は、映像情報を演算処理するコンピュータによって構成され、後述するディスプレイ33に映像情報を送信することで映像を表示させる。リアルタイムシミュレータ20によるシミュレーション結果は、映像表示装置30に送信される。
【0019】
映像表示装置30は、リアルタイムシミュレータ20のシミュレーション結果によって映像情報を生成し、生成した映像情報を操作者Mが視認できるように表示するものであり、映像表示装置30のプロセッサを動作させて映像情報を生成するプログラムである映像情報生成部31と、映像表示装置30のプロセッサを動作させて生成された映像情報を出力するプログラムである映像表示出力部32を備える。映像表示装置30から出力された映像情報は、ディスプレイ33によって動画または静止画で表示される。
【0020】
そして、車両開発支援システム1は、リアルタイムシミュレータ20のシミュレーション結果をECU2に入力する通信とECU2の制御信号をリアルタイムシミュレータ20に入力する通信とを同期させる同期装置4を備えている。同期装置4は、ECU2側の通信回線L1とリアルタイムシミュレータ20側の通信回線L2を同期接続するインターフェースであり、この同期装置4を介することで、ECU2が制御信号を送信する処理とリアルタイムシミュレータ20がシミュレーション結果を送信する処理を同期させることができる。なお、車両開発支援システム1が備える1つのECU2と他のECU2とは、車載ネットワーク(例えば、CAN)の通信回線L1で互いに通信可能に接続されていることで、互いに同期した通信を行うことができるようになっている。
【0021】
このように構成される車両開発支援システム1は、操作者Mが搭乗するコックピットCを枠体1Mに設置することができる。この際、枠体1Mには、車両に搭載させる車載機器3の一部が配備される。枠体1Mに配備される車載機器3は、各種センサ類と機器を動作させるアクチュエータを備えている。
【0022】
車両開発支援システム1においては、枠体1Mから、例えば、パワートレイン系の車載機器を省くことができる。しかしながら、車両開発支援システム1は、枠体1Mから省いた車載機器を含めて、実車両に搭載させる全ての車載機器を制御するECUを、ECU2(実ECU)と仮想ECU2Vによって配備させることができる。
【0023】
このような車両開発支援システム1の信号の流れを説明する。図2は、評価対象のECU2に対して、そのECU2が制御する車載機器3が、枠体1Mに配備されている場合を示している。ここでの車載機器3は、機器を動作させるアクチュエータ3Aとアクチュエータ3Aの動作を検出するセンサ3Bを備える。
【0024】
図2において、操作者Mが人為的な操作入力aを操作装置10に対して行うと、操作装置10は、操作信号bを評価対象のECU2に入力する。また、車載機器3の種類によっては、操作信号bが車載機器3に入力され、これによってアクチュエータ3Aが動作し、その動作を検出したセンサ3Bの検出信号cが入力信号としてECU2に入力される。
【0025】
ECU2は、入力された信号に応じた演算処理を行い、制御信号dを出力する。この際、ECU2と車載機器3との間では、制御信号dによってアクチュエータ3Aが動作し、その動作をセンサ3Bが検出して検出信号cをECU2に送信し、ECU2は検出信号cに基づく制御信号dを出力するという閉ループが構成される。
【0026】
また、ECU2と他のECU2’との間では、ECU2が出力した制御信号dが他のECU2’に送信され、他のECU2’は、制御信号dに応じた演算処理を行い、制御信号eをECU2に送信し、ECU2は制御信号eに基づく制御信号dをECU2’に送信するという閉ループが構成される。
【0027】
そして、ECU2とリアルタイムシミュレータ20との間では、制御信号dが同期装置4を介してリアルタイムシミュレータ20に送信され、リアルタイムシミュレータ20では、制御信号dに応じた演算処理(車両運動計算処理など)が行われ、シミュレーション結果fである車載機器3や車両を動作させる物理状態量が、同期装置4を介してECU2に送信される。
【0028】
この際、評価対象のECU2の制御信号dは、操作信号bと検出信号cと制御信号eとシミュレーション結果fに応じて演算処理されて出力され、リアルタイムシミュレータ20のシミュレーション結果fは、操作装置10に対する操作、ECU2の動作、車載機器3の動作、他のECU2’の動作が反映したものになる。
【0029】
なお、ここでの他のECU2’は、他の操作信号bが入力されるECU2として構成することができ、この際には、他のECU2’にもECU2と同様に、リアルタイムシミュレータ20のシミュレーション結果fが送信され、他のECU2’からリアルタイムシミュレータ20に制御信号eが送信される。
【0030】
図3は、評価対象のECU2が制御する車載機器が、枠体1Mに配備されていない場合を示している。この場合には、操作者Mの操作入力aに伴う操作信号bが操作装置10から評価対象のECU2に入力されると、ECU2は制御信号dを出力し、制御信号dは他のECU2’に送信されると共に同期装置4を介してリアルタイムシミュレータ20に送信される。そして、ECU2と他のECU2’との間では、前述したように、制御信号dの送信に対して制御信号eが帰還する閉ループが構成され、ECU2とリアルタイムシミュレータ20との間でも、前述したように、制御信号dの送信に対してシミュレーション結果fが帰還する閉ループが構成される。ここでの他のECU2’も、前述したように、操作信号bとシミュレーション結果fが入力される構成にすることができる。
【0031】
図4は、車両開発支援システム1における各システム構成の1制御サイクルの信号処理を示している。ここでは、ECU2とリアルタイムシミュレータ20は、同期装置4を介して通信接続されることで、制御サイクル毎の処理が同期している。すなわち、ECU2とリアルタイムシミュレータ20は、ECU2と車載ネットワーク(例えばCAN)を介して接続されている他のECUと同様に、同期した信号の送受信が可能な状態になっている。
【0032】
ECU2は、各制御サイクルにおいて、前回の制御サイクルで操作信号bの入力があるか否かの判断を行い(ステップS10)、前回の制御サイクルで操作信号bの入力が無い場合には、以下のステップをスキップして、今回の制御サイクルを終了する。
【0033】
またECU2は、前回の制御サイクルでセンサ3Bからの検出信号cの入力があるか否かの判断を行い(ステップS12)、検出信号cの入力がある場合には、検出信号cに基づく制御信号dを算出し(ステップS13)、検出信号cの入力が無い場合には、ステップS13をスキップする。
【0034】
またECU2は、前回の制御サイクルでリアルタイムシミュレータ20からのシミュレーション結果fの入力があるか否かの判断を行い(ステップS14)、シミュレーション結果fの入力がある場合には、シミュレーション結果fに基づく制御信号dを算出し(ステップS15)、シミュレーション結果fの入力が無い場合には、ステップS15をスキップする。
【0035】
そして、ECU2は、1制御サイクルでの制御信号dの算出がなされると、算出した制御信号dを車載機器3とリアルタイムシミュレータ20に送信し、1制御サイクルの処理を終了する。
【0036】
これに対して、車載機器3は、制御信号dがECU2から送信されると、制御信号dに応じてアクチュエータ3Aを作動させ(ステップS01)、アクチュエータ3Aの作動状態をセンサ3Bで検出して検出信号cをECU2に送信する(ステップS02)。
【0037】
一方、リアルタイムシミュレータ20は、前述したECU2の処理と同期した制御サイクルにおいて、設定変更の有無を判断し(ステップS20)、設定変更が有る場合には、車外環境演算部22にて車外環境演算処理を行い(ステップS21)、設定変更が無い場合には、初期設定或いは前回設定の維持がなされる(ステップS24)。
【0038】
次に、リアルタイムシミュレータ20は、イベント発生指示の有無が判断され(ステップS22)、イベント発生指示がある場合には、イベント発生の演算処理がなされ(ステップS23)、イベント発生指示が無い場合には、ステップS23がスキップされる。
【0039】
また、リアルタイムシミュレータ20は、制御信号dの受信の有無が判断され(ステップS25)、受信している場合には、制御信号dに応じた車両運動計算を行い(ステップS26)、受信していない場合には、ステップS26がスキップされる。そして、リアルタイムシミュレータ20は、1つの制御サイクルで演算処理したシミュレーション結果fをECU2に送信して(ステップS27)、今回の制御サイクルを終了する。
【0040】
このように、ECU2とリアルタイムシミュレータ20は、互いに同期した制御サイクルで処理が進められる。これに対して、映像表示装置30は、必ずしもECU2やリアルタイムシミュレータ20の各制御サイクルに同期した処理はなされなくてもよいが、シミュレーション結果fを反映してECU2が出力する制御信号dと、映像表示装置30の映像表示出力とを、操作入力aの入力タイミング対してリアル感が得られる程度の所定タイミングで同期させる。
【0041】
具体的には、映像表示装置30は、リアルタイムシミュレータ20から送信されたシミュレーション結果fを受信すると(ステップS30)、映像情報生成部31にて映像情報の生成を行い(ステップS31)、映像表示出力部32にてディスプレイ33に映像の表示出力を行う(ステップS32)。この際、映像表示出力(ステップS32)をECU2やリアルタイムシミュレータ20の制御サイクルを複数回行う毎に実施することで、映像表示装置30の映像表示出力を制御信号dの出力タイミングに同期させる。
【0042】
このような構成の車両開発支援システム1によると、同期装置4を介してECU2とリアルタイムシミュレータ20を接続することで、リアルタイムシミュレータ20は、車載ネットワークに接続されるセンサやECUを模擬した状態になり、実際に車両を走行させないと得ることができないセンサやECUの出力情報を、リアルタイムシミュレータ20のシミュレーション結果fで生成して車載ネットワークに乗せることができる。これによって、実際に車両が走行している状況を模擬して、操作装置10の操作でECU2や車載機器3を動作させ、その動作状態をリアルタイムで映像に反映させ、映像を観ながらECU2や車載機器3の動作性能を評価することができる。
【0043】
図5図7において、車両開発支援システム1を用いた評価例を説明する。ここでは、図示省略した操作者が、操作装置10のアクセルペタル11とステアリングホイール12とブレーキペタル13を操作する場合を例示する。
【0044】
先ず、操作装置10が操作されない状態では、ECU2の制御信号dがリアルタイムシミュレータ20に送信されないので、リアルタイムシミュレータ20は、予め設定された条件に基づいて車両運動計算部21の計算を行い、設定された車外環境を反映したシミュレーション結果fを映像表示装置30に送信する。この場合、図5に示すように、映像表示装置30のディスプレイ33には、初期設定の車外環境を反映したシミュレーション結果fに基づく映像(例えば、車両停車状態の映像など)が表示される。
【0045】
そして、図6に示すように、リアルタイムシミュレータ20の設定が変更され、一例として、車外環境演算部22によってカーブ路を走行するシチュエーションが設定され、それに応じて、操作者がアクセルペタル11を踏み込み、ステアリングホイール12を回動操作する場合を説明する。
【0046】
この場合には、アクセルペタル11の踏み込み(操作入力a)によって、1つの車載機器3(例えば、EGI:Electronic Gasoline Injection電子制御燃料噴射装置)に操作
信号bが入力され、車載機器3(EGI)は、操作信号bに応じた入力信号としてアクセル開度をECU2(EGI・ECU)に送信する。これにより、ECU2(EGI・ECU)は、入力信号に応じた演算処理を行い、目標エンジントルクや目標変速比などを算出し、これを制御信号dとしてリアルタイムシミュレータ20に送信する。
【0047】
また、ステアリングホイール12の回動操作(操作入力a)がなされると、他の車載機器3(例えば、EPS:Electronic Power Steering 電動ステアリング装置)に操作信号bが入力され、車載機器3(EPS)は、操作信号bに応じた入力信号をECU2(EPS・ECU)に送信する。これにより、ECU2(EPS・ECU)は、入力信号に応じたアシストトルクなどを算出し、これを制御信号dとしてアクチュエータ3A(アシストモータ)に送信する。この制御信号dは、操舵角としてリアルタイムシミュレータ20に送信される。
【0048】
そして、リアルタイムシミュレータ20は、1つのECU2(EGI・ECU)の制御信号d(目標エンジントルクや目標変速比など)と他のECU2(EPS・ECU)の制御信号d(操舵角)に応じて、車両運動計算部21が車載機器3(EGIとEPS)及び車両の物理状態量を演算し、例えば、エンジントルク、エンジン回転数、車速、ステアリング特性といった状態量をシミュレーション結果fとして、ECU2(EGI・ECUとEPS・ECU)に送信する。
【0049】
これによって、ECU2(EGI・ECUとEPS・ECU)は、随時変化する操作信号b(アクセルペタル11の踏み込み量やステアリングホイール12の回動量)に応じた入力信号とシミュレーション結果f(エンジントルク、エンジン回転数、車速、ステアリング特性といった状態量)に基づく制御信号dを、リアルタイムシミュレータ20に送信し、リアルタイムシミュレータ20は、そのシミュレーション結果fを反映した制御信号dに基づいて、シミュレーション結果fを更新して出力する。
【0050】
このシミュレーション結果fは、映像表示装置30に送信されて映像化され、操作者が視認できるディスプレイ33に表示される。この際、ディスプレイ33に表示される映像は、制御信号dの出力タイミングに同期して表示出力されることで、操作者は、操作装置10(アクセルペタル11とステアリングホイール12)の操作に伴うECU2と車載機器3の動作及びこの動作に伴う車両の挙動を反映した映像を、操作装置10の操作タイミングに合わせて視認することができる。
【0051】
これによると、操作者は、ディスプレイ33に表示させる車外環境の映像に合わせて、図6に示すように、操作装置10(アクセルペタル11とステアリングホイール12)を操作し、その操作によって変化する車両挙動の映像をリアルタイムで視認することができる。これにより、開発途中の車両を実際に運転している状況を模擬体験しながら、操作装置10の操作で動作するECU2と車載機器3の動作性能をリアルタイムで評価することができ、また、操作装置10によってECU2や車載機器3を動作させる際の使用感を、車両の運転を模擬した状況で体感することができる。
【0052】
具体的には、EPSの操舵トルクは、車速などの車両挙動によって制御されるが、操作者は、アクセルペタル11の踏み込みで変化する車速をディスプレイ33の映像で体感しながら、操作するステアリングホイール12の操舵反力で操舵トルクの使用感を体感することができる。これにより、車速変化に応じたEPSの操舵トルク特性をリアルタイムで評価することができる。
【0053】
なお、この際にリアルタイムシミュレータ20が設定する車外環境は、図6に示すようなカーブ路走行のシチュエーションだけでなく、車外環境演算部22によって様々なシチュエーションの設定を行うことができる。リアルタイムシミュレータ20の車両運動計算部21は、車外環境演算部22が設定する様々なシチュエーションを反映させて、評価対象の車載機器及び車両の物理状態量を演算し、シミュレーション結果fを出力する。
【0054】
また、リアルタイムシミュレータ20は、イベント発生部23の演算処理をシミュレーション結果fに反映させることで、図7に示すように、ディスプレイ33に表示される映像に歩行者や対向車といったイベントを発生させることができる。このようなイベントの発生は、例えば、操作装置10におけるブレーキペタル13の操作性或いは使用感の評価に適している。
【0055】
ブレーキペタル13が操作されるか、或いはそれに合わせてステアリングホイール12などが操作させると、ブレーキ制御に係る車載機器3(例えば、ABS:Anti-lock Braking System、TCS:Traction Control System、ESC:Electronic Stability Controlなど)を制御するECU2(ABS・ECU、TCS・ECU、ESC・ECUなど)
に操作信号bが入力され、これらECU2で演算処理された制御信号dがリアルタイムシミュレータ20に送信される。
【0056】
リアルタイムシミュレータ20では、このような制御信号dに応じて、車両運動計算部21が車載機器3及び車両の物理状態量を演算し、車両を制動する状態量をシミュレーション結果fとしてECU2と映像表示装置30に送信する。これにより、シミュレーション結果fに伴うECU2の動作が実行され、シミュレーション結果fを映像化した車両制動の映像がディスプレイ33に表示される。
【0057】
この際、操作者は、ディスプレイ33に表示された映像を観ながら、イベント発生に起因するブレーキペタル13の操作で、ブレーキ制御に係る車載機器3の動作によって車両がどのような挙動を示すのかを確認することができる。ブレーキ制御による車両の挙動は、路面状態などで大きく変わることになるが、リアルタイムシミュレータ20は、車外環境演算部22によって路面状態等を様々に設定してシミュレーション結果fを演算処理することができるので、設定する路面状態などを適宜変更して、様々な状況におけるブレーキ制御の性能を映像体験によって評価することができる。
【0058】
車両開発支援システム1は、前述したような、自身の動作で車両挙動を変化させるECU2や車載機器3だけでなく、車載される全てのECU2や車載機器3を評価対象にすることができる。例えば、ヘッドランプ可変装置(AFS:Adaptive Front-Lighting System)のECU2(AFS・ECU)は、操作装置10の操作入力aだけなく、様々な走行環境(カーブ走行、市街地走行、高速走行、雨天時走行など)に応じて自動で配光パターンを変化させるものであるが、リアルタイムシミュレータ20の車両運動計算部21と車外環境演算部22で物理状態量を演算したシミュレーション結果fをECU2(AFS・ECU)に入力して、制御信号dを得ることで、様々な状況での配光パターンを映像化して視認評価することができる。
【0059】
また、車両開発支援システム1は、操作者による操作入力を伴わないECU2や車載機器3の評価も同様に行うことができる。例えば、ADAS(Advanced Driver-Assistance
Systems;先進運転支援システム)と称される運転支援システムは、運転者に代わって車両を自動制御することで、運転者の運転支援を行う制御システムであり、ACC(Adaptive Cruise Control System)、FCW(Forward Collision Warning)、AEBS(Advanced Emergency Braking System)、NV/PD(Night Vision/Pedestrian Detection)
、TRS(Traffic Sign Recognition)、LKAS(Lane Keeping Assist System)、BSM(Blind Spot Monitoring)、APA(Advanced Parking Assist)などの各種の車載機器3とそれに応じたECUから構成される機能を備えているが、これらECUの動作は、必ずしも操作者の操作入力を伴うものではない。
【0060】
このような車載機器3(ADAS)においても、車外環境演算部22とイベント発生部23の演算処理を反映させて車両運動計算部21が演算した物理状態量を、リアルタイムシミュレータ20のシミュレーション結果fとして、ECU2(ADAS・ECU)に入力し、制御信号dを得ることで、様々な状況でのADAS性能を映像化して評価することができる。
【0061】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る車両開発支援システム1によると、車両が走行している状況を模擬して、車両運転中に車載機器3を操作する際の使用感、或いは運転者の操作によって作動するECU2や車載機器3の作動性能をリアルタイムで把握して、ユーザーの使用感に沿った性能改善を行うことで、車両開発を効果的に支援することができる。
【0062】
その際、評価対象となるECU2や車載機器3の動作を映像化して視認できるようにしているので、コックピットCに搭乗している操作者Mだけでなく、複数の開発者間で開発状況を共有化することできる。
【0063】
また、操作入力に対して同期した映像でECU2や車載機器3の動作を評価できるので、操作入力に対する応答性を含めた動作性能を実際の使用感に基づいて改善させることができる。
【0064】
また、車外環境やイベント発生の設定を変えて様々なシチュエーションでシミュレーション結果fを得ることができ、様々なシチュエーションにおいて、複数ある車載機器3を適宜選択して操作するユースケースを、容易に抽出することができる。これにより、多くのユースケースに対応して、ECU2や車載機器3の性能改善を行うことができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:車両開発支援システム,1M:枠体,
2:ECU,2V:仮想ECU,
3:車載機器,3A:アクチュエータ,3B:センサ,4:同期装置,
10:操作装置,11:アクセルペタル,12:ステアリングホイール,
13:ブレーキペタル,20:リアルタイムシミュレータ,
21:車両運動計算部,22:車外環境演算部,23:イベント発生部,
30:映像表示装置,31:映像情報生成部,32:映像表示出力部,
M:操作者,C:コックピット,L1,L2:通信回線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7