(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】アイドルストップ制御装置
(51)【国際特許分類】
F02N 11/08 20060101AFI20240925BHJP
F02N 15/00 20060101ALI20240925BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
F02N11/08 K
F02N11/08 V
F02N11/08 F
F02N15/00 E
F02D29/02 321C
(21)【出願番号】P 2023550897
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036104
(87)【国際公開番号】W WO2023053330
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕勝
(72)【発明者】
【氏名】大澤 俊章
(72)【発明者】
【氏名】小山 寛晃
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-194655(JP,A)
【文献】特開2010-43534(JP,A)
【文献】特開2006-170068(JP,A)
【文献】特開2020-165343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/08
F02N 15/00
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(42)と、
前記エンジン(42)のクランクシャフト(52)に、該クランクシャフト(52)を回転させるトルクを出力するスタータモータ(44)と、
を有する鞍乗型車両(10)におけるアイドルストップ制御装置(78)であって、
前記エンジン(42)のアイドルストップ条件が成立したことを判定する条件成立判定部(138)と、
前記アイドルストップ条件が成立した場合に、前記エンジン(42)を停止させるエンジン制御部(140)と、
前記アイドルストップ条件が成立した場合に、前記スタータモータ(44)を制御して、前記クランクシャフト(52)を回転させる前記トルクを出力させるスタータモータ制御部(142)と、
を有し、
前記スタータモータ制御部(142)は、前記アイドルストップ条件が成立した場合の前記エンジン(42)の回転数に基づいて、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを設定し、
前記スタータモータ制御部(142)は、前記アイドルストップ条件が成立した場合の前記エンジン(42)の回転数と、前記アイドルストップ条件が成立した後の前記クランクシャフト(52)の回転角度とに基づいて、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを設定し、
前記スタータモータ制御部(142)は、前記アイドルストップ条件が成立してから前記エンジン(42)が停止する間に、前記クランクシャフト(52)の回転角度が、前記エンジン(42)のピストンの圧縮上死点に対応する回転角度に近くなるほど、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを大きく設定する、アイドルストップ制御装置(78)。
【請求項4】
請求項1に記載のアイドルストップ制御装置(78)であって、
前記スタータモータ制御部(142)は、前記エンジン(42)の回転数が低いほど、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを大きく設定する、アイドルストップ制御装置(78)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-165343号公報には、自動二輪車におけるエンジン始動制御装置が開示されている。このエンジン始動制御装置は、所定のアイドルストップ条件が成立した場合に、エンジンを停止するアイドルストップを行う。また、このエンジン始動制御装置は、アイドルストップの後にエンジンの再始動条件が成立した場合に、エンジンを再始動させる。エンジンを再始動させる前に、スタータモータにより、クランクシャフトをスイングバックさせる。その後、スタータモータにより、クランクシャフトを正回転させて、エンジンを再始動させる。スイングバックとは、スタータモータにより、クランクシャフトを逆回転させることを示す。クランクシャフトをスイングバックさせることにより、クランクシャフトの正回転方向において、クランクシャフトの回転角度を、ピストンの上死点に対応するクランクシャフトの回転角度から離すことができる。これにより、スタータモータがクランクシャフトを回転させる場合に、ピストンの圧縮上死点に対応するクランクシャフトの回転角度に達するまでに助走距離を確保できる。そのため、スタータモータは、クランクシャフトを勢いよく回転させることが可能となる。その結果、エンジンの再始動に要する時間を短縮できる。
【発明の概要】
【0003】
特開2020-165343号公報に開示されたエンジン始動制御装置では、エンジンの再始動条件が成立した後に、クランクシャフトのスイングバックを行うための時間が必要となる。そのため、エンジンの再始動条件が成立してからエンジンが再始動するまでに時間を要する課題がある。
【0004】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【0005】
本発明の態様は、エンジンと、前記エンジンのクランクシャフトに、該クランクシャフトを回転させるトルクを出力するスタータモータと、を有する鞍乗型車両におけるアイドルストップ制御装置に関する。
【0006】
この場合、第1の構成として、前記エンジンのアイドルストップ条件が成立したことを判定する条件成立判定部と、前記アイドルストップ条件が成立した場合に、前記エンジンを停止させるエンジン制御部と、前記アイドルストップ条件が成立した場合に、前記スタータモータを制御して、前記クランクシャフトを回転させる前記トルクを出力させるスタータモータ制御部と、を有し、前記スタータモータ制御部は、前記アイドルストップ条件が成立した場合の前記エンジンの回転数に基づいて、前記スタータモータが出力する前記トルクを設定する。
【0007】
第2の構成として、前記スタータモータ制御部は、前記アイドルストップ条件が成立した場合の前記エンジンの回転数と、前記アイドルストップ条件が成立した後の前記クランクシャフトの回転角度とに基づいて、前記スタータモータが出力する前記トルクを設定する。
【0008】
第3の構成として、前記スタータモータ制御部は、前記アイドルストップ条件が成立してから前記エンジンが停止する間に、前記クランクシャフトの回転角度が、前記エンジンのピストンの圧縮上死点に対応する回転角度に近くなるほど、 前記スタータモータが出力する前記トルクを大きく設定する。
【0009】
第4の構成として、前記スタータモータ制御部は、前記エンジンの回転数が低いほど、前記スタータモータが出力する前記トルクを大きく設定する。
【0010】
第1の構成によれば、アイドルストップ後に、エンジンの再始動条件が成立してからエンジンが始動するまでに要する時間を短縮できる。
【0011】
第2~第4の構成によれば、エンジンが停止する前に、クランクシャフトを、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】
図3は、エンジン制御装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
[鞍乗型車両の構成]
図1は、鞍乗型車両10の側面図である。以下の説明において、
図1の矢印で示す方向に基づいて、前、後、上及び下の各方向を記載する。また、運転者が、鞍乗型車両10の前方を向いて鞍乗型車両10に乗車している場合に、運転者の左手側を左と記載し、運転者の右手側を右と記載する。
【0014】
本実施形態の鞍乗型車両10はスクータ型の自動二輪車である。鞍乗型車両10は、スクータ型以外のバイクであってもよい。また、鞍乗型車両10は、自動三輪車、自動四輪車等であってもよい。
【0015】
本実施形態の鞍乗型車両10は、アイドルストップ機能が搭載される。アイドルストップ機能は、鞍乗型車両10が停車するときに所定条件が成立した場合に、自動的にエンジン42を停止する機能である。アイドルストップ機能には、エンジン42を停止した後に、自動的にエンジン42を再始動する機能も含まれる。アイドルストップは、アイドリングストップ、アイドル低減、ノーアイドル、スタート-ストップ等と呼ばれることがある。
【0016】
鞍乗型車両10は、車体フレーム12を有する。車体フレーム12は、ヘッドパイプ14、ダウンフレーム16、ロアフレーム18及びリアフレーム20を備える。
【0017】
ヘッドパイプ14は、前下方に延びる。ダウンフレーム16は、ヘッドパイプ14から後下方に延びる。ロアフレーム18は、ダウンフレーム16の下端から左右に分岐する。左右に分岐したロアフレーム18は、後方に延びる。リアフレーム20は、左右それぞれのロアフレーム18の後端から後上方に延びる。
【0018】
鞍乗型車両10は、操舵系21を有する。操舵系21には、ステアリングステム22、ボトムブリッジ24、フロントフォーク26及び操舵ハンドル30が含まれる。
【0019】
ヘッドパイプ14の内部に、ステアリングステム22が挿入される。ヘッドパイプ14は、ステアリングステム22を回転可能に支持する。ステアリングステム22の下端に、ボトムブリッジ24を介して、フロントフォーク26が連結される。フロントフォーク26は、その上端で左右に分かれる。左右に分かれたフロントフォーク26は、前下方に延びる。フロントフォーク26の下端には、前輪28が取り付けられる。前輪28は、左右のフロントフォーク26の両方に回転可能に支持される。
【0020】
ステアリングステム22の上端は、操舵ハンドル30が取り付けられる。運転者が操舵ハンドル30を操舵することにより、前輪28が転舵する。操舵ハンドル30の左端には、グリップ32が取り付けられる。操舵ハンドル30の右端には、スロットルグリップ34が取り付けられる。運転者がスロットルグリップ34を回転させることにより、運転者はスロットルバルブの開度を調整できる。
【0021】
左右のリアフレーム20のそれぞれには、リアサスペンション36が取り付けられる。リアサスペンション36は、後下方に延びる。リアサスペンション36の先端部分に、後輪54が取り付けられる。後輪54は、リアサスペンション36に回転可能に支持される。
【0022】
ロアフレーム18の後端に、リンク機構38を介して、スイングユニット40が連結される。スイングユニット40は、エンジン42、ACG(AC Generator:交流発電機)スタータモータ44、無段変速機46、エアクリーナ48及び燃料噴射装置50を有する。
【0023】
エンジン42は、単気筒の4サイクルエンジンである。エンジン42は、シリンダ(不図示)の内部においてピストン(不図示)を往復運動させるクランクシャフト52(
図2)を有する。ACGスタータモータ44は、エンジン42を始動させるときにクランクシャフト52を回転させる。エンジン42が始動した後には、ACGスタータモータ44は、交流発電機として発電を行う。
【0024】
無段変速機46は、エンジン42と後輪54との間に設けられる。無段変速機46は、遠心クラッチ(不図示)を有する減速機56を介して後輪54に接続される。
【0025】
エアクリーナ48は、吸気管58を介してエンジン42に接続される。燃料噴射装置50は、吸気管58に設けられる。燃料噴射装置50は、吸気管58の内部に燃料を噴射する。
【0026】
車体フレーム12は、合成樹脂製の車体カバー60により覆われる。車体カバー60は、フロントカバー62、フロントフェンダ64、ハンドルカバー66、レッグシールド68、ロアカバー70、サイドカバー72、及びリアフェンダ74を有する。
【0027】
フロントカバー62は、ヘッドパイプ14の前方及び後方を覆う。フロントカバー62には、メインスイッチ76が設けられる。運転者は、メインスイッチ76を操作することにより、メインスイッチ76のオンとオフとを切り換えることができる。フロントカバー62内に、エンジン制御装置78が配置される。フロントフェンダ64は、前輪28の上方及び後方を覆う。
【0028】
ハンドルカバー66は、操舵ハンドル30の幅方向における中央部分、及びステアリングステム22を覆う。ハンドルカバー66には、スタータスイッチ80が設けられる。メインスイッチ76がオンに操作されている場合に、運転者がスタータスイッチ80を操作することにより、エンジン42が始動する。レッグシールド68は、ダウンフレーム16、及び運転者の脚の前方を覆う。ロアカバー70は、左右に設けられたロアフレーム18の上方を覆う。ロアカバー70は、フロアステップ82を有する。サイドカバー72は、左右に設けられたリアフレーム20の外側を覆う。サイドカバー72の上部には、シート84が取り付けられる。リアフェンダ74は、後輪54の上方を覆う。
【0029】
[スイングユニットの構成]
図2は、スイングユニット40の断面図である。
図2は、スイングユニット40が
図1のII-II線で切断された断面を示す。スイングユニット40は、クランクケース86を有する。クランクケース86は、左ケース88及び右ケース90を有する。
【0030】
クランクシャフト52は、クランクケース86に設けられた軸受92及び軸受94により回転可能に支持される。クランクシャフト52には、クランクピン96を介してコンロッド98が連結される。
【0031】
左ケース88は、無段変速機46の変速機ケースを兼ねる。クランクシャフト52の左端には、駆動プーリ100が取り付けられる。駆動プーリ100は、固定プーリ102及び可動プーリ104を有する。固定プーリ102は、クランクシャフト52の左端にナット103によって固定される。可動プーリ104は、クランクシャフト52にスプライン嵌合される。可動プーリ104は、クランクシャフト52の回転軸方向に沿って移動可能である。固定プーリ102と可動プーリ104との間に、ベルト106が挟まれる。
【0032】
可動プーリ104よりも右側において、ランププレート107がクランクシャフト52に固定される。ランププレート107の外周には、スライドピース109が取り付けられる。可動プーリ104の外周には、ボス111が形成される。ボス111は、可動プーリ104から右方向に延びる。スライドピース109は、ボス111に係合される。ランププレート107の外周には、テーパ面113が形成される。テーパ面113は、ランププレート107の内周から外周に向かうにつれて、可動プーリ104に近づく方向に傾斜して形成される。テーパ面113と可動プーリ104との間に、複数のウェイトローラ115が配置される。
【0033】
クランクシャフト52の回転速度が増加すると、遠心力によってウェイトローラ115がランププレート107の外周に向かって移動する。これにより、ウェイトローラ115が可動プーリ104を押して、可動プーリ104を固定プーリ102に接近させる。その結果、固定プーリ102と可動プーリ104とに挟まれたベルト106が、駆動プーリ100の外周側に移動する。そのため、ベルト106の駆動プーリ100に対する巻径が大きくなる。
【0034】
エンジン42から駆動プーリ100に入力されたトルクは、ベルト106を介して従動プーリ(不図示)に伝達される。従動プーリに伝達されたトルクは、減速機56を介して後輪54に伝達される。
【0035】
右ケース90の内部には、ACGスタータモータ44が配置される。ACGスタータモータ44は、三相ブラシレスモータである。ACGスタータモータ44は、ロータ108及びステータ110を有する。
【0036】
ロータ108は、クランクシャフト52の先端にボルト112により固定される。ロータ108は、クランクシャフト52と一体に回転する。ロータ108は、複数のマグネット114を有する。複数のマグネット114は、ロータ108の周方向に並べられる。
【0037】
ステータ110は、ロータ108の内周側に配置される。ステータ110は、右ケース90にボルト116により固定される。ステータ110には、U相、V相及びW相のそれぞれに対応するコイル118が巻回される。
【0038】
ロータ108には、ファン120が取り付けられる。ファン120は、ボルト122によりロータ108に固定される。ファン120よりも右側には、カバー部材124が取り付けられる。カバー部材124はラジエータ126を有する。
【0039】
クランクシャフト52には、スプロケット128が固定される。スプロケット128は、ACGスタータモータ44と軸受94との間に配置される。スプロケット128には、カムシャフト(不図示)を駆動するカムチェーン(不図示)が巻回される。スプロケット128は、ポンプギヤ130と一体に形成される。ポンプギヤ130は、クランクシャフト52のトルクをポンプ(不図示)に伝達する。ポンプは、エンジン42等を潤滑するオイルを吐出する。
【0040】
[エンジン制御装置の構成]
図3は、エンジン制御装置78の制御ブロック図である。エンジン制御装置78は、駆動回路132、レギュレータ134、及び演算部136を有する。エンジン制御装置78は、本発明のアイドルストップ制御装置に相当する。
【0041】
駆動回路132は、インバータ又はコンバータとして機能する。バッテリの電力によりACGスタータモータ44が力行する場合には、駆動回路132は、インバータとして機能する。ACGスタータモータ44を回生させてバッテリを充電する場合には、駆動回路132は、コンバータとして機能する。駆動回路132がインバータとして機能する場合には、駆動回路132は、PWM制御により、ACGスタータモータ44に出力する電圧を調整する。これにより、ACGスタータモータ44が出力するトルクが制御される。
【0042】
レギュレータ134は、駆動回路132から出力される電圧を所定の電圧に調整して、バッテリを充電する。
【0043】
演算部136は、処理回路によって実現される。処理回路は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって構成される。また、処理回路が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって構成されるようにしてもよい。なお、処理回路が、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサによって構成されるようにしてもよい。この場合、不図示の記憶部に記憶されているプログラムがプロセッサによって実行されることによって処理回路が実現される。
【0044】
演算部136は、条件成立判定部138、エンジン制御部140、及びスタータモータ制御部142を有する。
【0045】
条件成立判定部138は、エンジン42が駆動しているときに、エンジン42のアイドルストップ条件が成立したことを判定する。アイドルストップ条件とは、例えば、以下の(1)~(3)の条件である。
【0046】
(1)鞍乗型車両10の車速が所定車速以下である
(2)運転者のブレーキ操作量が所定操作量以上である
(3)バッテリのSOC(State Of Charge)が所定値以上である
アイドルストップ条件として、上記の(1)~(3)以外の条件を有してもよい。
【0047】
また、条件成立判定部138は、エンジン42のアイドルストップ後に、エンジン42の再始動条件が成立したことを判定する。エンジン42の再始動条件とは、例えば、以下の(4)~(6)である。
【0048】
(4)運転者のブレーキ操作量が所定操作量未満である
(5)スロットルグリップ34の回転角度が所定回転角度以上である
(6)バッテリのSOCが所定値未満である
エンジン42の再始動条件として、上記の(4)~(6)以外の条件を有してもよい。
【0049】
アイドルストップ条件が成立した場合に、エンジン制御部140は、燃料噴射装置50を制御して、燃料噴射を停止させる。燃料噴射装置50が燃料噴射を停止した直後には、クランクシャフト52は慣性により回転を続けようとする。その後の、エンジン42は停止する。
【0050】
アイドルストップ条件が成立した場合に、スタータモータ制御部142は、駆動回路132を制御して、ACGスタータモータ44に、クランクシャフト52を正回転させるトルクを出力させる。スタータモータ制御部142は、エンジン42の回転数に応じて、駆動回路132のPWM(Pulse Width Modulation)制御のデューティ比を設定する。スタータモータ制御部142は、エンジン42が停止するまでのクランクシャフト52の回転角度に応じてデューティ比を設定する。これにより、ACGスタータモータ44が出力するトルクが制御される。
【0051】
燃料噴射装置50が燃料噴射を停止した後に、クランクシャフト52の慣性による回転を、ACGスタータモータ44が後押しする。ACGスタータモータ44の後押しにより、エンジン42が停止する前に、クランクシャフト52を、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。その結果、エンジン42が停止したときのクランクシャフト52の回転角度が、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越えた回転角度となる。アイドルストップ条件が成立した場合におけるACGスタータモータ44が出力するトルクの制御については、後に詳述する。
【0052】
エンジン42の再始動条件が成立した場合に、スタータモータ制御部142は、駆動回路132を制御して、ACGスタータモータ44に、クランクシャフト52を回転させるトルクを出力させる。アイドルストップ条件が成立した場合に、エンジン制御部140は、燃料噴射装置50を制御して、燃料噴射を開始させる。これにより、エンジン42が再始動する。
【0053】
[ACGスタータモータのトルクの制御について]
図4は、デューティ比のマップである。
図4のマップは、アイドルストップ条件が成立した場合に、駆動回路132のPWM制御に用いられる。
図4は、エンジン42の回転数とクランクシャフト52の回転角度との組み合わせに対応するデューティ比を示す。駆動回路132のPWM制御のデューティ比が高いほど、ACGスタータモータ44が出力するトルクは大きい。
【0054】
マップからデューティ比を求めるときに用いられるエンジン42の回転数は、アイドルストップ条件が成立した時点の回転数である。アイドルストップ条件が成立した後に、燃料噴射装置50が燃料の噴射を停止した時点のエンジン42の回転数が用いられてもよい。
【0055】
マップからデューティ比を求めるときに用いられるクランクシャフト52の回転角度は、アイドルストップ条件が成立した時点からエンジン42が停止する時点までの回転角度である。クランクシャフト52の回転角度は、アイドルストップ条件が成立した時点からエンジン42が停止する時点までの間、時々刻々と変化する。クランクシャフト52の回転角度の変化に応じて、マップから求められるデューティ比は変化する。マップからデューティ比を求めるときに用いられるクランクシャフト52の回転角度は、アイドルストップ条件が成立した場合に、燃料噴射装置50が燃料の噴射を停止した時点からエンジン42が停止する時点までの回転角度であってもよい。
【0056】
図4に示すマップでは、ピストンの排気上死点に対応するクランクシャフト52の回転角度を360度とする。
図4に示すマップでは、ピストンの圧縮上死点に対応するクランクシャフト52の回転角度を720度とする。
【0057】
図4に示すように、エンジン42の回転数が低いほど、デューティ比は高く設定される。この結果、エンジン42の回転数が低いほど、ACGスタータモータ44が出力するトルクは大きく設定される。
【0058】
図4に示すように、エンジン42の回転数が低い場合、クランクシャフト52の回転角度が小さいうちからデューティ比を上げ始める。
図4に示すように、エンジン42の回転数100rpm~300rpmであって、クランクシャフト52の回転角度が10度~360度である場合には、デューティ比は10%~30%に設定される。この結果、ACGスタータモータ44は、ACGスタータモータ44が停止しない程度のトルクを出力できる。
【0059】
[作用効果]
従来から、アイドルストップ後にエンジン42の再始動条件が成立した場合に、クランクシャフト52をスイングバックさせる技術がある。これにより、クランクシャフト52の正回転方向において、クランクシャフト52の回転角度を、ピストンの上死点に対応するクランクシャフト52の回転角度から離すことができる。そのため、ACGスタータモータ44は、クランクシャフト52を勢いよく回転させることが可能となる。その結果、エンジン42の再始動に要する時間を短縮できる。
【0060】
しかし、エンジン42の再始動条件が成立した後に、クランクシャフト52のスイングバックを行うための時間が必要となる。そのため、エンジン42の再始動条件が成立してからエンジン42が再始動するまでに時間を要する。
【0061】
本実施形態のエンジン制御装置78では、アイドルストップ制御が成立した場合に、スタータモータ制御部142は、ACGスタータモータ44を制御して、クランクシャフト52を正回転させるトルクを出力させる。スタータモータ制御部142は、アイドルストップ条件が成立した時点のエンジン42の回転数に応じて、ACGスタータモータ44が出力するトルクを設定する。
【0062】
エンジン42の圧縮工程において、クランクシャフト52がピストンの圧縮上死点に対応する回転角度に近づくほどシリンダ内の空気が圧縮されるため、クランクシャフト52の回転を妨げる抵抗が大きくなる。本実施形態のエンジン制御装置78では、燃料噴射装置50が燃料噴射を停止した後に、クランクシャフト52の慣性による回転を、ACGスタータモータ44が後押しする。ACGスタータモータ44の後押しにより、エンジン42が停止する前に、クランクシャフト52を、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。その結果、エンジン42が停止したときのクランクシャフト52の回転角度が、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越えた回転角度となる。そのため、エンジン42が停止した時点で、クランクシャフト52の正回転方向において、クランクシャフト52の回転角度を、ピストンの上死点に対応するクランクシャフト52の回転角度から離すことができる。アイドルストップ後にエンジン42の再始動条件が成立した場合に、クランクシャフト52をスイングバックさせる必要がない。そのため、エンジン42の再始動条件が成立してからエンジン42が再始動するまでの時間を短縮できる。
【0063】
また、本実施形態のエンジン制御装置78では、スタータモータ制御部142は、アイドルストップ条件が成立した時点のエンジン42の回転数が低いほど、ACGスタータモータ44が出力するトルクを大きく設定する。エンジン42の回転数が低いほど、クランクシャフト52を回転させる慣性力は小さい。エンジン42の回転数が低く、クランクシャフト52を回転させる慣性力は小さい場合には、ACGスタータモータ44によりクランクシャフト52の回転を後押しするトルクを大きく設定する。これにより、エンジン42が停止する前に、クランクシャフト52を、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。
【0064】
また、本実施形態のエンジン制御装置78では、スタータモータ制御部142は、アイドルストップ条件が成立してからエンジン42が停止する間のクランクシャフト52の回転角度に基づいて、ACGスタータモータ44が出力するトルクを設定する。具体的には、スタータモータ制御部142は、クランクシャフト52の回転角度が、エンジン42のピストンの圧縮上死点に対応する回転角度に近くなるほど、ACGスタータモータ44が出力するトルクを大きく設定する。クランクシャフト52の回転角度が、エンジン42のピストンの圧縮上死点に対応する回転角度に近くなるほど、クランクシャフト52の回転を妨げる抵抗が大きくなる。抵抗が大きくなるクランクシャフト52の回転角度では、ACGスタータモータ44によりクランクシャフト52の回転を後押しするトルクを大きく設定する。これにより、エンジン42が停止する前に、クランクシャフト52を、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【0066】
〔実施形態から得られる発明〕
上記実施形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0067】
エンジン(42)と、前記エンジン(42)のクランクシャフト(52)に、該クランクシャフト(52)を回転させるトルクを出力するスタータモータ(44)と、を有する鞍乗型車両(10)におけるアイドルストップ制御装置(78)であって、前記エンジン(42)のアイドルストップ条件が成立したことを判定する条件成立判定部(138)と、前記アイドルストップ条件が成立した場合に、前記エンジン(42)を停止させるエンジン制御部(140)と、前記アイドルストップ条件が成立した場合に、前記スタータモータ(44)を制御して、前記クランクシャフト(52)を回転させる前記トルクを出力させるスタータモータ制御部(142)と、を有し、前記スタータモータ制御部(142)は、前記アイドルストップ条件が成立した場合の前記エンジン(42)の回転数に基づいて、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを設定する。これにより、エンジンの再始動条件が成立してからエンジンが再始動するまでの時間を短縮できる。
【0068】
上記のアイドルストップ制御装置であって、前記スタータモータ制御部(142)は、前記アイドルストップ条件が成立した場合の前記エンジン(42)の回転数と、前記アイドルストップ条件が成立した後の前記クランクシャフト(52)の回転角度とに基づいて、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを設定してもよい。これにより、エンジンが停止する前に、クランクシャフトを、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。
【0069】
上記のアイドルストップ制御装置であって、前記スタータモータ制御部(142)は、前記アイドルストップ条件が成立してから前記エンジン(42)が停止する間に、前記クランクシャフト(52)の回転角度が、前記エンジン(42)のピストンの圧縮上死点に対応する回転角度に近くなるほど、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを大きく設定してもよい。これにより、エンジンが停止する前に、クランクシャフトを、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。
【0070】
上記のアイドルストップ制御装置であって、前記スタータモータ制御部(142)は、前記エンジン(42)の回転数が低いほど、前記スタータモータ(44)が出力する前記トルクを大きく設定してもよい。これにより、エンジンが停止する前に、クランクシャフトを、ピストンの圧縮上死点に対応する回転角度を越える回転角度まで回転させることができる。
【符号の説明】
【0071】
42…エンジン
44…ACGスタータモータ(スタータモータ)
52…クランクシャフト
78…エンジン制御装置(アイドルストップ制御装置)
138…条件成立判定部 140…エンジン制御部
142…スタータモータ制御部