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特許7560682堅牢度向上剤組成物及びポリエステル系染色繊維製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-24
(45)【発行日】2024-10-02
(54)【発明の名称】堅牢度向上剤組成物及びポリエステル系染色繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 3/36 20060101AFI20240925BHJP
   D06P 5/08 20060101ALI20240925BHJP
   D06P 3/54 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
D06P3/36
D06P5/08 Z
D06P3/54 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023571981
(86)(22)【出願日】2023-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2023041098
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2023016242
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】品川 和博
(72)【発明者】
【氏名】野末 悠矢
(72)【発明者】
【氏名】米元 篤史
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/196902(WO,A1)
【文献】特開昭51-109381(JP,A)
【文献】特開2019-065403(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108301229(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112593423(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00-7/00
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル共重合体を含む堅牢度向上剤組成物であって、
前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、
前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含み、
前記ポリエステル共重合体を構成する前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来する単位のみからなり、かつ、
前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下であり、
前記堅牢度向上剤組成物が、還元剤として、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素、及び、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含む、
堅牢度向上剤組成物。
【請求項2】
ポリエステル系染色繊維製品の製造方法であって、
ポリエステル系繊維に対して、染色処理を行うこと、
前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、染色液と別浴で、ソーピング処理を行うこと、及び
前記ソーピング処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、湯洗処理及び水洗処理のうちの一方又は両方の洗浄処理を行うこと、
を含み、
前記ソーピング処理に用いられるソーピング液、及び、前記洗浄処理に用いられる洗浄液、のうちの一方又は両方が、ポリエステル共重合体を含み、
前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、
前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上20モル%以下含み、
前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、かつ、
前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である、
製造方法。
【請求項3】
ポリエステル系染色繊維製品の製造方法であって、
ポリエステル系繊維に対して、染色処理を行うこと、
前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、染色液と同浴で、ソーピング処理を行うこと、及び
前記ソーピング処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、湯洗処理及び水洗処理のうちの一方又は両方の洗浄処理を行うこと、
を含み
前記ソーピング処理に用いられるソーピング液が、前記染色処理後の前記染色液に対して、少なくともポリエステル共重合体を添加することによって調製されたものであ
前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、
前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上20モル%以下含み、
前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、かつ、
前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である、
製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の製造方法であって、
前記ソーピング液に含まれる前記ポリエステル共重合体の量が、0.005g/L以上、5.0g/L以下である、
製造方法。
【請求項5】
ポリエステル系染色繊維製品の製造方法であって、
ポリエステル系繊維に対して、染色処理を行うこと、
前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、染色液と同浴又は別浴で、ソーピング処理を行うこと、及び
前記ソーピング処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、湯洗処理及び水洗処理のうちの一方又は両方の洗浄処理を行うこと、
を含み、
前記洗浄処理に用いられる洗浄液が、ポリエステル共重合体を含み、
前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、
前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含み、
前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、かつ、
前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下であり、
前記洗浄液に含まれる前記ポリエステル共重合体の量が、0.005g/L以上、5.0g/L以下である、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は堅牢度向上剤組成物及びポリエステル系染色繊維製品の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリエステル系繊維の染色は、染料を含む染色液を使用して約120~135℃で染色処理を行った後に染色液を排液し、染色液とは別浴にて、ソーピング剤を含むソーピング液を使用して約60~100℃でソーピング処理を行う、2浴2段法と呼ばれる方法で行われている。例えば、特許文献1には、ポリエステル系繊維を染色した後取り出し、その後、グルコースなどの還元糖からなる液状還元剤を添加した還元洗浄浴を使用して85℃でソーピング処理を行う、2浴2段法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/196902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているような方法によって製造されるポリエステル系染色繊維製品は、堅牢度に関して改善の余地がある。ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度を向上させる新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
(態様1)
ポリエステル共重合体を含む堅牢度向上剤組成物であって、
前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、
前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含み、
前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、かつ、
前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である、
堅牢度向上剤組成物。
(態様2)
ポリエステル系染色繊維製品の製造方法であって、
ポリエステル系繊維に対して、染色処理を行うこと、
前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、染色液と同浴又は別浴で、ソーピング処理を行うこと、及び
前記ソーピング処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、湯洗処理及び水洗処理のうちの一方又は両方の洗浄処理を行うこと、
を含み、
前記ソーピング処理に用いられるソーピング液、及び、前記洗浄処理に用いられる洗浄液、のうちの一方又は両方が、ポリエステル共重合体を含み、
前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、
前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含み、
前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、かつ、
前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である、
製造方法。
(態様3)
態様2の製造方法であって、
前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、前記染色液と同浴で、前記ソーピング処理を行うこと、を含み、
前記染色処理に用いられる前記染色液が、前記ポリエステル共重合体を含み、かつ
前記染色液に含まれる前記ポリエステル共重合体の少なくとも一部が、前記ソーピング液に含まれる前記ポリエステル共重合体の少なくとも一部として利用される、
製造方法。
(態様4)
態様2又は3の製造方法であって、
前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、前記染色液と同浴で、前記ソーピング処理を行うこと、を含み、かつ
前記ソーピング処理に用いられる前記ソーピング液が、前記染色処理後の前記染色液に対して、少なくとも前記ポリエステル共重合体を添加することによって調製されたものである、
製造方法。
(態様5)
態様2~4のいずれかの製造方法であって、
前記ソーピング液に含まれる前記ポリエステル共重合体の量が、0.005g/L以上、5.0g/L以下である、
製造方法。
(態様6)
態様2~5のいずれかの製造方法であって、
前記洗浄液に含まれる前記ポリエステル共重合体の量が、0.005g/L以上、5.0g/L以下である、
製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の組成物及び製造方法によれば、例えば、ソーピング処理において所定のポリエステル共重合体を含むソーピング液を用いることで、従来の染色処理とソーピング処理とを行う場合と同等以上に、ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度を向上させることが可能である。
【0007】
近年、工程合理化による加工コストの低減のほか、節水やCO削減などの環境対応のために、染色処理とソーピング処理とを同浴(1浴)で行うこと(1浴2段法)が増えている。しかしながら、1浴2段法の場合、従来使用されているソーピング剤では、2浴2段法に比べ堅牢度の低下が特に顕著に見られる。本開示の組成物及び製造方法によれば、ソーピング処理を1浴2段で行った場合でも、良好な堅牢度が得られる。
【0008】
また、本開示の組成物及び製造方法によれば、例えば、ソーピング処理後の洗浄処理(湯洗処理及び/又は水洗処理)において所定のポリエステル共重合体を含む洗浄液を用いることで、ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度を向上させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.ポリエステル系染色繊維製品の製造方法
以下、一実施形態に係るポリエステル系染色繊維製品の製造方法について説明する。一実施形態に係るポリエステル系染色繊維製品の製造方法は、ポリエステル系繊維に対して、染色処理を行うこと、前記染色処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、染色液と同浴(1浴)又は別浴(2浴)で、ソーピング処理を行うこと、及び、前記ソーピング処理後の前記ポリエステル系繊維に対して、湯洗処理及び水洗処理のうちの一方又は両方の洗浄処理を行うこと、を含む。ここで、前記ソーピング処理に用いられるソーピング液、及び、前記洗浄処理に用いられる洗浄液、のうちの一方又は両方は、ポリエステル共重合体(ポリマーA)を含む。前記ポリエステル共重合体は、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含む。前記ジカルボン酸単位は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含む。前記ジオール単位は、分子量48以上900未満のジオールに由来する。前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率は、50質量%以上75質量%以下である。
【0010】
1.1 染色処理
本開示の製造方法は、ポリエステル系繊維に対して染色処理を行うこと、を含む。染色処理には染色液が用いられる。
【0011】
1.1.1 ポリエステル系繊維
染色処理対象であるポリエステル系繊維は、ポリエステル繊維を含むものであればよい。ポリエステル系繊維は、例えば、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、及びブチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種の単独重合物、又は、それらの共重合物からなるポリエステル繊維;ポリエステル繊維とその他の合成繊維や天然繊維との混紡、交織、及び、交編から選ばれる少なくとも1種の複合繊維;のうちの一方又は両方であってよい。ポリエステル系繊維の形態は、例えば、糸、編み物、織物、及び、不織布から選ばれる少なくとも1種の形態であってよい。ポリエステル系繊維は、精練されていることが好ましい。
【0012】
1.1.2 染色液の成分
染色液の成分は、水、有機溶剤、及び、界面活性剤等が挙げられる。また、染色液は、pH調整のための酸、キレート剤等を含んでいてもよい。さらに、後述するように、染色液は、所定のポリエステル共重合体(ポリマーA)を含んでいてもよい。或いは、後述するように、染色処理後の染色液に対して、所定のポリエステル共重合体(ポリマーA)が添加されてもよい。
【0013】
有機溶剤は、例えば、炭素数1~10のアルコールであってよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、及び、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0014】
界面活性剤は、特に限定されるものではなく、公知の界面活性剤であってよい。例えば、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び、カチオン界面活性剤、から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0015】
アニオン界面活性剤は、例えば、
脂肪族アルコール(脂肪族アルコールの炭素数1~22)のアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル、リン酸エステル、又は、それらの塩;
炭素数2~4のアルキレンオキサイドから得られるポリアルキレングリコールの硫酸エステル、リン酸エステル、又は、それらの塩;
モノ又はポリスチレン化フェノールのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル、リン酸エステル、又は、それらの塩;
モノ又はポリスチレン化アルキル(アルキル基の炭素数1~22)フェノールのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル、リン酸エステル、又は、それらの塩;
アルキル(アルキル基の炭素数8~22)ベンゼンスルホン酸、又は、その塩;
アルキル(アルキル基の炭素数8~22)スルホン酸、又は、その塩;
炭素数8~22のα-オレフィンスルホン酸、又は、その塩;及び
α-スルホ脂肪酸アルキルエステル(α-スルホ脂肪酸の炭素数8~22、アルキル基の炭素数1~12)、又は、その塩;
から選ばれる少なくとも1種であってよい。塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及び、アルカノールアミン塩から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0016】
非イオン界面活性剤は、例えば、
脂肪族アルコール(脂肪族アルコールの炭素数1~22)のアルキレンオキサイド付加物、又は、その脂肪酸(脂肪酸の炭素数8~24)エステル;
炭素数2~4のアルキレンオキサイドから得られるポリアルキレングリコール、又は、その脂肪酸(脂肪酸の炭素数8~24)エステル;
モノ又はポリスチレン化フェノールのアルキレンオキサイド付加物、又は、その脂肪酸(脂肪酸の炭素数8~24)エステル;及び
モノ又はポリスチレン化アルキル(アルキル基の炭素数1~22)フェノールのアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸(脂肪酸の炭素数8~24)エステル;
から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0017】
カチオン界面活性剤は、例えば、塩化ベンザルコニウム;長鎖アルキル基を1個又は2個有するトリアルキルアミンと4級化剤との反応物;モノ又はジアルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物と4級化剤との反応物;アルキルピリジニウム塩;から選ばれる少なくとも1種の第4級アンモニウム型界面活性剤であってよい。前記トリアルキルアミンの長鎖アルキル基の炭素数は、例えば、6~24であってよく、前記トリアルキルアミンの残りのアルキル基の炭素数は、例えば、1~5であってよい。前記モノ又はジアルキルアミンのアルキル基の炭素数は、例えば、6~24であってよい。前記アルキレンオキサイドは、例えば、炭素数2~4のアルキレンオキサイドであってよく、それらの付加モル数は、例えば、2~50であってよい。前記4級化剤は、例えば、炭素数1~5のアルキル基を有するアルキルハライド、及び、炭素数1~5のアルキル基を有するジアルキル硫酸、から選ばれる少なくとも1種であってよい。前記アルキルピリジニウム塩のアルキル基の炭素数は、例えば、3~24であってよい。
【0018】
均染性及び染着性により優れるという観点から、染色液は、アニオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を含むことが好ましい。
【0019】
染色液に含まれる界面活性剤等の量は、特に限定されるものではない。均染性及び染着性により優れるという観点から、染色液に含まれる界面活性剤の量は、好ましくは0g/L以上、25g/L以下であり、より好ましくは0.015g/L以上、6.0g/L以下である。
【0020】
1.1.3 染色処理におけるその他の条件
染色処理におけるその他の条件については、特に限定されるものではなく、上記の染色液によって上記のポリエステル系繊維を染色可能な条件が採用される。例えば、以下の条件が挙げられる。
【0021】
1.1.3.1 染色処理における浴比
ポリエステル系繊維と染色液との浴比は、目的とする性能等によって異なるが、例えば、1:3~1:30であってよく、好ましくは1:5~1:25であり、より好ましくは1:5~1:20である。
【0022】
1.1.3.2 染料
染料はポリエステル系繊維を染色可能なものであればよい。例えば、分散染料が好適である。染料の使用量は、適宜選択することができる。例えば、0.001%o.w.f.以上、20%o.w.f.以下であってよい。
【0023】
1.1.3.3 染色機械
染色処理に用いられる染色機械は、特に限定されるものではなく、従来のものを使用することができる。例えば、液流染色機、ウィンス染色機、ジッガー染色機、ビーム染色機、チーズ染色機、オーバーマイヤー染色機、高圧噴射染色機等が挙げられる。
【0024】
1.1.3.4 染色温度及び染色時間
上記の染色機械を用いて上記のポリエステル系繊維を染色液に接触させることで染色処理が行われる。染色温度及び染色時間については、従来と同様の条件を採用することができる。例えば、染色液を約40~60℃に加温し、通常は約50~80分、早く染色を完了させたい場合は約30~50分かけて徐々に昇温し、120~140℃(好ましくは125~135℃)で約0~90分間、好ましくは30~60分間の高温処理を行う方法が挙げられる。
【0025】
1.2 ソーピング処理
本開示の製造方法は、染色処理後のポリエステル系繊維に対して、染色液と同浴又は別浴で、ソーピング処理を行うこと、を含む。ここで、ソーピング処理に用いられるソーピング液は、後述のポリエステル共重合体(ポリマーA)を含み得る。
【0026】
1.2.1 ソーピング液
ソーピング液は、ポリマーAを含んでいてもよい。また、ソーピング液は、ポリマーAに加えて、ポリマーA以外の成分を含み得る。後述の洗浄処理における洗浄液がポリマーAを含む場合、ソーピング液は、ポリマーAを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。後述の洗浄液がポリマーAを含まない場合、ソーピング液は、ポリマーAを含む。
【0027】
1.2.1.1 ポリマーA
ポリマーAは、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含む。当該ポリマーAは、例えば、エステル交換法や直接重合法などによって得られる。
【0028】
(ジカルボン酸単位)
ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位(単位X)、並びに、トリカルボン酸に由来する単位(単位Y)、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含む。言い換えれば、ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、単位X及び単位Yの一方又は両方を合計で5モル%以上30モル%以下含み、かつ、残部が単位X及び単位Y以外のジカルボン酸単位からなる。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位Xを、好ましくは5モル%以上15モル%以下含み、より好ましくは5モル%以上12モル%以下含む。或いは、ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、トリカルボン酸に由来する単位Yを、好ましくは8モル%以上20モル%以下含み、より好ましくは10モル%以上20モル%以下含む。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位Xを有する場合において、当該単位Xが少な過ぎると、水への溶解性が悪くなり、染色処理やソーピング処理における染料が分散不良となる懸念がある。一方で、多過ぎると、十分な堅牢度が得られ難い。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位が、トリカルボン酸に由来する単位Yを有する場合についても同様である。
【0029】
尚、「トリカルボン酸に由来する単位」は、「カルボン酸基又はカルボン酸塩基を追加で1つ有するジカルボン酸に由来する単位」と表現することができる。すなわち、本願においては、例外的に、「トリカルボン酸に由来する単位」を「ジカルボン酸単位」の1種とみなす。一方で、本願において、「4価以上の多価カルボン酸に由来する単位」は、「「ジカルボン酸単位」とはみなさない。
【0030】
ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、脂肪族ジカルボン酸に由来するものであっても芳香族ジカルボン酸に由来するものであってもよいが、芳香族ジカルボン酸に由来するものであることが好ましい。芳香族ジカルボン酸は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β-ヒドロキシエトキシ安息香酸、及び、p-ヒドロキシ安息香酸等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。中でも、ポリマーAを構成するジカルボン酸単位がテレフタル酸及びイソフタル酸のうちの一方又は両方を含む場合に、より優れた性能が得られ易い。脂肪族ジカルボン酸は、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、及び、コハク酸等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。これらジカルボン酸は、酸無水物であってもよいし、低級アルコール又はグリコール類とのエステル誘導体であってもよい。
【0031】
スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸は、上述の各種のジカルボン酸にスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基が結合したものであってよい。スルホン酸塩基は、例えば、Li塩、Na塩、K塩、Mg塩のような金属塩の基であってもよく、アンモニア、トリエタノールアミンのようなアミン塩の基であってもよい。特に、アルカリ金属塩の基、中でもNa塩の基が好ましい。スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸は、例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、それらの塩、それらのジメチルエステル、ジエチルエステル、ジフェニルエステル等のエステル誘導体、から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0032】
トリカルボン酸(カルボン酸基及びカルボン酸塩基のうちの一方又は両方を追加で1つ有するジカルボン酸)は、上述の各種のジカルボン酸にカルボン酸基及び/又はカルボン酸塩基が結合したものであってよい。カルボン酸塩基は、例えば、Li塩、Na塩、K塩、Mg塩のような金属塩の基であってもよく、アンモニア、トリエタノールアミンのようなアミン塩の基であってもよい。特に、アルカリ金属塩の基、中でもNa塩の基が好ましい。トリカルボン酸(カルボン酸基含有ジカルボン酸)としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、それらの塩、それらのジメチルエステル、ジエチルエステル、ジフェニルエステル等のエステル誘導体、から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0033】
ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、例えば、スルホン酸基及びスルホン酸塩基を有せず、かつ、トリカルボン酸にも該当しないジカルボン酸a1に由来する単位と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有し、かつ、トリカルボン酸には該当しないジカルボン酸a2に由来する単位とを含み得る。或いは、ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、例えば、スルホン酸基及びスルホン酸塩基を有せず、かつ、トリカルボン酸にも該当しないジカルボン酸a1に由来する単位と、トリカルボン酸(カルボン酸基及びカルボン酸塩基のうちの一方又は両方を追加で1つ有するジカルボン酸)a3に由来する単位とを含み得る。ジカルボン酸a1の炭素骨格と、ジカルボン酸a2の炭素骨格と、トリカルボン酸a3の炭素骨格とは、互いに同種であってもよいし、異種であってもよい。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、例えば、スルホン酸基及びスルホン酸塩基を有せず、かつ、トリカルボン酸に該当しないジカルボン酸a1として、テレフタル酸及びイソフタル酸のうちの一方又は両方に由来する単位を含んでいてもよく、かつ、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有し、かつ、トリカルボン酸に該当しないジカルボン酸a2として、スルホイソフタル酸に由来する単位を含んでいてもよい。トリカルボン酸a3の具体例については、上述の通りである。
【0034】
ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、例えば、分子量100以上300以下のジカルボン酸に由来する単位であってもよい。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位は、上述のポリエステル系繊維を構成する多塩基酸単位と同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0035】
(ジカルボン酸単位以外の多価カルボン酸単位)
ポリマーAは構成単位として、上記ジカルボン酸以外に、例えば、テトラカルボン酸、ペンタカルボン酸、ヘキサカルボン酸などの4~6価の多価カルボン酸に由来する単位を含んでいてもよい。ポリマーAにおいて、多価カルボン酸単位全体に占める、ジカルボン酸単位の割合は、例えば、50モル%超、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上又は99モル%以上であってもよい。また、多価カルボン酸単位全体に占める、ジカルボン酸単位以外の多価カルボン酸単位の割合は、例えば、50モル%未満、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下又は1モル%以下であってもよい。
【0036】
(ジオール単位)
ポリマーAを構成するジオール単位は、分子量48以上900未満のジオールに由来する。当該ジオールの分子量は、60以上600以下が好ましく、60以上300以下がより好ましく、60以上200以下がさらに好ましい。ジオールの分子量が低過ぎると、十分な水溶性が得られず、浴中での安定性が不良となる懸念がある。一方で、高過ぎると、過度に水溶性となり、堅牢度向上性能に悪影響を与える懸念がある。
【0037】
ポリマーAを構成するジオール単位は、脂肪族ジオールに由来するものであっても芳香族ジオールに由来するものであってもよいが、脂肪族ジオールに由来するものであることが好ましい。そのようなジオールとしては、例えば、アルキレングリコールやポリアルキレングリコールが挙げられる。ジオールは、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、炭素数3以上のアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリプロピレングリコール、プルロニック(登録商標)型界面活性剤、及び、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量200~600のポリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。ポリマーAを構成するジオール単位は、上述のポリエステル系繊維を構成する多価アルコール単位と同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0038】
(ジオール単位以外の多価ヒドロキシ化合物単位)
ポリマーAは構成単位として、上記ジオール以外に、例えば、トリオール、テトラオール、ペンタオール、ヘキサオールなどの3~6価の多価ヒドロキシ化合物に由来する単位を含んでいてもよい。ポリマーAにおいて、多価ヒドロキシ化合物単位全体に占める、ジオール単位の割合は、例えば、50モル%超、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上又は99モル%以上であってもよい。また、多価ヒドロキシ化合物単位全体に占める、ジオール単位以外の多価ヒドロキシ化合物単位の割合は、例えば、50モル%未満、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下又は1モル%以下であってもよい。
【0039】
(ポリマーAの重量平均分子量)
ポリマーAの重量平均分子量は、特に限定されるものではない。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位を含む場合、当該ポリマーAの重量平均分子量は、例えば、2000以上80000以下、又は、5000以上70000以下であってもよい。ポリマーAを構成するジカルボン酸単位が、トリカルボン酸に由来する単位を含む場合、当該ポリマーAの重量平均分子量は、例えば、2000以上80000以下、又は、2000以上20000以下であってもよい。ポリマーAの重量平均分子量がこのような範囲内である場合、ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度を一層向上させることができる。なお、本願において「重量平均分子量」とは、サイズ排除クロマトグラフィーにより、機器:HLC-8120(東ソー(株)製)、カラム:TSK-GEL Super AWM-H(東ソー(株)製)を用い、移動相に10mM LiBr-DMFを用いて、ポリスチレンを標準物質として測定されたものである。
【0040】
(ポリマーAにおけるジカルボン酸単位の分子内含有比率)
ポリマーAにおけるジカルボン酸単位の分子内含有比率は、50質量%以上75質量%以下、好ましくは55質量%以上75質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上75質量%以下である。当該比率が低過ぎても、高過ぎても、十分な堅牢度が得られ難い。
【0041】
(ソーピング液に含まれるポリマーAの量)
ソーピング液に含まれるポリマーAの量は、特に限定されるものではない。ソーピング液に含まれるポリマーAの量は、好ましくは0.005g/L以上、5.0g/L以下であり、より好ましくは0.010g/L以上、3.0g/L以下であり、さらに好ましくは0.1g/L以上、2.5g/L以下である。
【0042】
1.2.1.2 ポリマーA以外の成分
ソーピング液は、ポリマーA以外の成分を含み得る。ポリマーA以外の成分としては、ソーピング処理において使用される公知の成分(アルカリ、還元剤等)が挙げられる。また、ソーピング液は、水、有機溶剤、界面活性剤等を含み得る。これらは、染色液に由来するものであってもよい。有機溶剤、界面活性剤等の詳細については、上述した通りである。また、ソーピング液は、pH調整のための酸、キレート剤等を含んでいてもよい。
【0043】
還元剤は、例えば、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素、及び、還元糖類(D-グルコースやD-キシロース等)から選ばれる少なくとも1種であってよい。この場合のpH調整剤は、例えば、苛性ソーダ、ソーダ灰などのアルカリ性の物質であればいずれでもよい。還元剤として、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素、及び、還元糖類から選ばれる少なくとも1種を用いる場合のpH調整剤は、ソーピング効果の観点から、苛性ソーダであることが好ましい。或いは、還元剤として、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、及び、二酸化チオ尿素から選ばれる少なくとも1種を使用する場合のpH調整剤は、同様の観点から、ソーダ灰であってもよい。
【0044】
還元剤は、例えば、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムなどから選ばれる少なくとも1種のスルフィン酸又はその塩であってよく、この場合のpH調整剤は、例えば、酢酸、ギ酸などの酸性の物質であればいずれでもよい。
【0045】
還元剤は、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素、及び、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、及び、二酸化チオ尿素から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。上記のポリマーAとともに、このような還元剤が組み合わされた場合、堅牢度が一層顕著に向上し易い。
【0046】
1.2.2 ソーピング処理におけるその他の条件
ソーピング処理におけるその他の条件については、特に限定されるものではなく、上記のソーピング液によって上記のポリエステル系繊維をソーピング可能な条件が採用される。例えば、以下の条件が挙げられる。
【0047】
1.2.2.1 ソーピング処理における浴比
ポリエステル系繊維とソーピング液との浴比は、目的とする性能等によって異なるが、例えば、1:3~1:30であってよく、好ましくは1:5~1:25であり、より好ましくは1:5~1:20であり、さらに好ましくは1:5~1:15である。
【0048】
1.2.2.2 ソーピング処理温度及びソーピング処理時間
ソーピング処理の温度は、一般の染色加工における処理温度、すなわち60~140℃の範囲であってよいが、繊維製品の諸物性や風合いの低下等を考慮すると、好ましくは70~100℃、より好ましくは70~90℃の範囲である。ソーピング時間は、例えば、5~60分間であってよい。十分にソーピングできる観点、繊維製品の諸物性の低下を抑える観点から、10~30分間が好ましい。
【0049】
1.3.別浴処理(2浴2段法)
上記の染色処理とソーピング処理とが別浴(2浴)で行われる形態(2浴2段法)としては、例えば、以下の第1形態が挙げられる。
【0050】
第1形態:染色処理を行った後、染色液を廃液し、新たにソーピング液(ソーピング浴)を調整し、ソーピング処理を行う形態。
【0051】
1.4.同浴処理(1浴2段法)
上記の染色処理とソーピング処理とが同浴(1浴)で行われる形態、すなわち、染色処理とソーピング処理とが、1浴2段法により行われる形態としては、具体的には、染色処理の後、染色液の全量排液を行うことなく、染色液の一部又は全部を残し、ソーピングに必要な成分を添加してソーピング処理を行う形態が挙げられる。このように、染色処理とソーピング処理とを同浴(1浴)で行うことにより、節水及びエネルギー削減が可能である。
【0052】
1浴2段法のように、ソーピング液中に染色液に由来する成分(染料等)が残留した状態でソーピング処理が行われた場合、ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度がより低下し易いという問題がある。これに対し、本開示の製造方法においては、上述の通り、ソーピング液がポリエステル共重合体(ポリマーA)を含むことで、1浴2段法にてソーピング処理を行った場合でも、従来の2浴2段法によって染色処理及びソーピング処理を行った場合と同等以上の堅牢度が確保され得る。
【0053】
本開示の製造方法においては、例えば、染色液の20体積%以上100体積%以下、50体積%以上100体積%以下、70体積%以上100体積%以下、又は、90体積%以上100体積%以下が利用されて、ソーピング液が調製されてもよい。染色処理後、染色液の排液を行わない場合、染色液の100体積%がソーピング液として利用されることとなる。
【0054】
染色処理とソーピング処理とを同浴(1浴)で行う場合の具体的な形態としては、例えば、以下の第2形態や第3形態が挙げられる。尚、本開示の製造方法においては、下記第2形態のように、染色処理に用いられる染色液にポリエステル共重合体(ポリマーA)が含まれていたとしても、染色液によるポリエステル系繊維の染色処理が適切に行われる。
【0055】
第2形態:染色処理に用いられる染色液が、ポリエステル共重合体(ポリマーA)を含み、かつ、当該染色液に含まれるポリマーAの少なくとも一部が、ソーピング液に含まれるポリマーAの少なくとも一部として利用される形態。より具体的には、例えば、ポリマーAを含む染色液で染色処理を行った後、当該染色液(染色浴)に対してpH調整剤及び還元剤等を添加してソーピング液(ソーピング浴)を調製し、ソーピング処理を行う形態。
【0056】
第3形態:染色処理後の染色液(染色浴)に対して、少なくともポリエステル共重合体(ポリマーA)を添加することによってソーピング液を調製し、ソーピング処理を行う形態。より具体的には、例えば、染色処理後の染色液(染色浴)に対して、ポリマーAとともにpH調整剤及び還元剤等を添加してソーピング液(ソーピング浴)を調製し、ソーピング処理を行う形態。
【0057】
上記第2形態及び第3形態のいずれについても、染色処理後の染色液に対してpH調整剤及び還元剤等を添加するタイミングは、特に限定されるものではない。中でも、染色処理後の降温時、又は、ソーピング処理を行う温度まで降温後(好ましくはソーピング処理を行う温度まで降温後)に、染色液に対してpH調整剤及び還元剤等を添加することが好ましい。第3形態において当該ポリエステル共重合体(ポリマーA)を添加する場合のタイミングについても同様である。尚、第2形態においては、当該ポリエステル共重合体(ポリマーA)を含む染色液によって染色処理後、染色液に対してさらに当該ポリエステル共重合体(ポリマーA)を添加してもよいし、しなくてもよい。第2形態において、染色処理後の染色液に対してさらに当該ポリエステル共重合体(ポリマーA)を添加する場合、そのタイミングは上記と同様であってよい。
【0058】
1.5 洗浄処理
本開示の製造方法は、ソーピング処理後のポリエステル系繊維に対して、湯洗処理及び水洗処理のうちの一方又は両方の洗浄処理を行うこと、を含む。ここで、洗浄処理に用いられる洗浄液は、上述のポリマーAを含んでいてもよい。また、洗浄液は、ポリマーAに加えて、ポリマーA以外の成分を含み得る。上述のソーピング処理におけるソーピング液がポリマーAを含む場合、洗浄処理における洗浄液は、ポリマーAを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ソーピング液がポリマーAを含まない場合、洗浄液は、ポリマーAを含む。
【0059】
(洗浄液に含まれるポリマーAの量)
洗浄液に含まれるポリマーAの量は、特に限定されるものではない。洗浄液に含まれるポリマーAの量は、好ましくは0.005g/L以上、5.0g/L以下であり、より好ましくは0.010g/L以上、3.0g/L以下であり、さらに好ましくは0.1g/L以上、2.5g/L以下である。
【0060】
(ポリマーA以外の成分)
洗浄液は、ポリマーA以外の成分を含み得る。ポリマーA以外の成分としては、湯洗処理及び/又は水洗処理において使用される公知の成分(pH調整剤など)が挙げられる。
【0061】
(洗浄処理におけるその他の条件)
洗浄処理におけるその他の条件については、特に限定されるものではなく、上記の洗浄液によって上記のポリエステル系繊維を湯洗及び/又は水洗可能な条件が採用される。例えば、以下の条件が挙げられる。
【0062】
(洗浄処理における浴比)
ポリエステル系繊維と洗浄液との浴比は、目的とする性能等によって異なるが、例えば、1:3~1:30であってよく、好ましくは1:5~1:25であり、より好ましくは1:5~1:20であり、さらに好ましくは1:5~1:15である。
【0063】
(洗浄処理温度及び洗浄処理時間)
洗浄処理の温度は、一般的な処理温度であってよく、例えば、20~100℃の範囲であってよく、好ましくは30~90℃の範囲である。洗浄処理の時間は、例えば、2~60分間であってよい。十分に洗浄できる観点、繊維製品の諸物性の品位向上の観点から、5~30分間が好ましい。
【0064】
(ポリマーAの添加方法)
本開示の製造方法においては、染色液、ソーピング液、及び、洗浄液のうちの少なくとも一つが前述のポリエステル共重合体(ポリマーA)を含む場合、良好な性能を得ることができる。特に、染色液、ソーピング液、及び、洗浄液のうちの少なくとも二つ又は三つが前述のポリエステル共重合体(ポリマーA)を含むことが好ましい。ポリエステル系染色繊維製品の色目の変化が少ないといった観点から、ソーピング液及び洗浄液に添加することがより好ましい。
【0065】
1.6 その他の処理
本開示の製造方法は、所定のポリエステル共重合体(ポリマーA)を用いて、染色処理とソーピング処理とを同浴(1浴)又は別浴(2浴)で行い、その後、洗浄処理を行うものであればよく、それ以外の各種処理をさらに含んでいてもよい。例えば、本開示の製造方法においては、上記の染色処理の前に精練を行うことが好ましい。精練は、例えば、精練剤を用いて、ウィンスや液流染色機によるバッチ方式、又は、連続精練装置による連続方式等により行われる。精練剤は、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテル等の非イオン界面活性剤;非イオン界面活性剤と、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族アルコール硫酸エステル塩等のアニオン界面活性剤との配合物;から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0066】
2.堅牢度向上剤組成物
本開示の技術は、上記のポリエステル系染色繊維製品の製造方法としての側面のほか、堅牢度向上剤組成物としての側面も有する。すなわち、一実施形態に係る堅牢度向上剤組成物は、ポリエステル共重合体(ポリマーA)を含む。ここで、前記ポリエステル共重合体は、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含む。前記ジカルボン酸単位は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含む。前記ジオール単位は、分子量48以上900未満のジオールに由来する。前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率は、50質量%以上75質量%以下である。
【0067】
堅牢度向上剤組成物に含まれるポリエステル共重合体(ポリマーA)の詳細については、上述の通りである。本開示の堅牢度向上剤組成物は、例えば、ポリマーAに加えて、ポリマーA以外のその他の成分を含んでいてもよい。ポリマーA以外のその他の成分についても上述の通りである。本開示の堅牢度向上剤組成物は、例えば、ポリエステル系繊維の染色の際に使用されるものであってもよいし、ポリエステル系染色繊維のソーピング処理の際に使用されるものであってもよいし、ソーピング処理後に使用されるものであってもよい。
【0068】
3.補足
尚、上記説明では、ポリエステル共重合体(ポリマーA)を構成する「ジカルボン酸単位」に、「トリカルボン酸に由来する単位(カルボン酸基及びカルボン酸塩基のうちの一方又は両方を追加で1つ有するジカルボン酸に由来する単位)」が例外的に含まれるものとして説明した。一方、仮に「ジカルボン酸単位」と「トリカルボン酸に由来する単位」とを区別した場合、本開示のポリエステル共重合体(ポリマーA)は、以下のポリエステル共重合体A1及びポリエステル共重合体A2のうちの一方又は両方として表現することもできる。すなわち、本開示の技術は、下記ポリエステル共重合体A1及びポリエステル共重合体A2のうちの一方又は両方を含む堅牢度向上剤組成物としての側面や、下記ポリエステル共重合体A1及びポリエステル共重合体A2のうちの一方又は両方を用いたポリエステル系染色繊維製品の製造方法としての側面も有する。
【0069】
(ポリエステル共重合体A1)
ポリエステル共重合体A1は、ジカルボン酸単位A1-1と、ジオール単位A1-2とを含み、
前記ジカルボン酸単位A1-1が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位を、5モル%以上30モル%以下含み、
前記ジオール単位A1-2が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、かつ、
前記ポリエステル共重合体A1における前記ジカルボン酸単位A1-1の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である。
【0070】
(ポリエステル共重合体A2)
ポリエステル共重合体A2は、ジカルボン酸単位A2-1と、ジオール単位A2-2と、トリカルボン酸単位A2-3とを含み、
前記ジカルボン酸単位A2-1と前記トリカルボン酸単位A2-3との合計に占める前記トリカルボン酸単位A2-3の割合が、5モル%以上30モル%以下であり、
前記ジオール単位A2-2が、分子量48以上900未満のジオールに由来し、
前記ポリエステル共重合体A2における前記ジカルボン酸単位A2-1及び前記トリカルボン酸単位A2-3の合計の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である。
【0071】
ポリエステル共重合体A2において、ジカルボン酸単位A2-1は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位Xを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ジカルボン酸単位A2-1に占める単位Xとトリカルボン酸に由来する単位Yとの合計の割合は、5モル%以上30モル%以下であってもよい。
【実施例
【0072】
以下、実施例を示しつつ本開示の製造方法についてさらに説明するが、本開示の製造方法は以下の実施例に限定されるものではない。本開示の製造方法においては、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件が採用され得る。
【0073】
1.ポリエステル共重合体(ポリマーA)の準備
1.1 合成例1
反応容器に、テレフタル酸ジメチル155.4g(0.8モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩59.2g(0.2モル)、エチレングリコール62g、分子量600のポリエチレングリコール12g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら、150℃から230℃まで約3時間かけて昇温してエステル交換反応を行い、揮発物を系外に留出させた。次いで、チタン酸テトラブチル0.1gを加えて徐々に減圧していき、内圧を約10kPaとし、250℃で2時間反応させて、ポリエステル共重合体約224gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約72質量%であり、重量平均分子量は19,000であった。
【0074】
1.2 合成例2
反応容器に、テレフタル酸ジメチル165.1g(0.85モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩44.4g(0.15モル)、エチレングリコール62g、分子量600のポリエチレングリコール12g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約219gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約71質量%であり、重量平均分子量は6,500であった。
【0075】
1.3 合成例3
反応容器に、テレフタル酸ジメチル174.8g(0.9モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩29.6g(0.1モル)、エチレングリコール31g、ネオペンチルグリコール52g、分子量600のポリエチレングリコール12g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約235gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約65質量%であり、重量平均分子量は65,000であった。
【0076】
1.4 合成例4
反応容器に、テレフタル酸ジメチル174.8g(0.9モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩29.6g(0.1モル)、ジエチレングリコール106g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約244gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約62質量%であり、重量平均分子量は9,000であった。
【0077】
1.5 合成例5
反応容器に、テレフタル酸ジメチル116.5g(0.6モル)、イソフタル酸49.8g(0.3モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩29.6g(0.1モル)、エチレングリコール62g、分子量600のポリエチレングリコール12g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約214gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約70質量%であり、重量平均分子量は16,000であった。
【0078】
1.6 合成例6
反応容器に、テレフタル酸ジメチル155.4g(0.8モル)、アジピン酸14.6g(0.1モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩29.6g(0.1モル)、エチレングリコール49.6g、ネオペンチルグリコール20.8g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約206gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約71質量%であり、重量平均分子量は22,000であった。
【0079】
1.7 合成例7
反応容器に、テレフタル酸ジメチル145.7g(0.75モル)、トリメリット酸31.5g(0.15モル)、ドデカン二酸23.0g(0.1モル)、エチレングリコール23g、1,4-ブタンジオール23g、ネオペンチルグリコール39g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約228gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約68質量%であり、重量平均分子量は2,800であった。
【0080】
1.8 合成例8
反応容器に、テレフタル酸ジメチル172.8g(0.89モル)、トリメリット酸23.1g(0.11モル)、エチレングリコール39g、ネオペンチルグリコール39g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約213gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約69質量%であり、重量平均分子量は4,100であった。
【0081】
1.9 比較合成例1
反応容器に、テレフタル酸ジメチル116.5g(0.6モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩118.4g(0.4モル)、エチレングリコール62g、分子量600のポリエチレングリコール24g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約256gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約71質量%であり、重量平均分子量は29,000であった。
【0082】
1.10 比較合成例2
反応容器に、テレフタル酸ジメチル126.2g(0.65モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩103.6g(0.35モル)、エチレングリコール62g、分子量600のポリエチレングリコール120g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約347gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約53質量%であり、重量平均分子量は41,000であった。
【0083】
1.11 比較合成例3
反応容器に、テレフタル酸ジメチル174.8g(0.9モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩29.6g(0.1モル)、エチレングリコール62g、分子量3100のポリエチレングリコール310g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約512gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約32質量%であり、重量平均分子量は85,000であった。
【0084】
1.12 比較合成例4
反応容器に、テレフタル酸ジメチル116.5g(0.6モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩118.4g(0.4モル)、エチレングリコール57g、分子量1000のポリエチレングリコール86g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約314gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約59質量%であり、重量平均分子量は31,000であった。
【0085】
1.13 比較合成例5
反応容器に、テレフタル酸ジメチル186.2g(0.96モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩11.8g(0.04モル)、エチレングリコール31g、分子量600のポリエチレングリコール12g、ネオペンチルグリコール52g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約229gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約64質量%であり、重量平均分子量は19,000であった。
【0086】
1.14 比較合成例6
反応容器に、テレフタル酸ジメチル135.8g(0.7モル)、5-スルホイソフタル酸ジメチル・ナトリウム塩88.8g(0.3モル)、エチレングリコール62g及び酢酸亜鉛0.1gを仕込んだ以外は合成例1と同様に反応させて、ポリエステル共重合体約223gを得た。得られたポリエステル共重合体のジカルボン酸成分単位の含有量は約76質量%であり、重量平均分子量は30,000であった。
【0087】
下記表1に、上記の合成例及び比較合成例に係る各々のポリエステル共重合体について、全ジカルボン酸単位に占める特定のジカルボン酸(スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸)に由来する単位の量(モル%)、ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率、及び、ポリエステル共重合体の重量平均分子量を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
2.ソーピング剤の準備
2.1 ソーピング剤A-1
混合釜に、合成例1で得られたポリエステル共重合体を25.0質量部と水75.0質量部とを仕込み、80~90℃で均一に混合し、ソーピング剤A-1を得た。
【0090】
2.2 ソーピング剤A-2~A-8、B-1~B-6
下記表2に示される成分を使用したこと以外は、ソーピング剤A-1と同様にして、ソーピング剤A-2~A-8、B-1~B-6を得た。
【0091】
【表2】
【0092】
2.3 ソーピング剤C-1~C-6(従来技術)
混合釜に、下記表3に示される成分を仕込み、50~60℃で均一に混合し、ソーピング剤C-1~C-6を得た。
【0093】
【表3】
【0094】
3.染色処理及びソーピング処理
3.1 第1形態(2浴2段法):実施例1-1、1-2、比較例1-1、2-1、3-1、1-2、2-2及び3-2
ポリエステル系繊維に対して2浴2段法により染色処理とソーピング処理とを行った。
【0095】
3.1.1 染色処理
試験布としてポリエステル100%織物を用い、試験機器としてミニカラー染色機(Rapid製)を用い、浴比1:15となるように、下記の組成を有する染色液に試験布を入れて、130℃で60分間(60℃から2℃/minで昇温)、染色処理を行った。
【0096】
<染色液の組成>
80%酢酸 0.4g/L
染色助剤NICCA SUNSOLT RM-3406 0.5g/L
分散染料
Foron Rubine(ARCHROMA製) 4.5%o.w.f.
或いは
Disperse Black(興和江守製) 7.5%o.w.f.
【0097】
3.1.2 ソーピング処理
上記の染色処理後、染色液を約80℃まで冷却したうえで、排液した。新たに、下記の組成を有するソーピング液を準備したうえで、浴比1:15で、80℃で20分間、ソーピング処理を行った。
【0098】
<ソーピング液の組成>
ソーピング剤 0又は1g/L
苛性ソーダ48% 0.8又は1.0g/L
ハイドロサルファイトナトリウム 0.8又は1.0g/L
【0099】
3.1.3 洗浄処理等
上記のソーピング処理後のポリエステル系繊維に対して、水洗、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。水洗に用いた洗浄液には、ソーピング剤を含ませなかった。
【0100】
3.2 第2形態(1浴2段法):実施例2~3、比較例4~7
染色液において染色助剤及びソーピング剤を併用してポリエステル系繊維の染色処理を行い、その後、染色浴に薬剤を投入してソーピング液を調製したうえで、ソーピング処理を行った。
【0101】
3.2.1 染色処理
試験布としてポリエステル100%織物を用い、試験機器としてミニカラー染色機(Rapid製)を用い、浴比1:15となるように、下記の組成を有する染色浴に試験布を入れて、130℃で60分間(60℃から2℃/minで昇温)、染色処理を行った。
【0102】
<染色浴の組成>
80%酢酸 0.4g/L
染色助剤NICCA SUNSOLT RM-3406 0.5g/L
ソーピング剤 0又は1g/L
分散染料
Foron Rubine(ARCHROMA製) 4.5%o.w.f.
或いは
Disperse Black(興和江守製) 7.5%o.w.f.
【0103】
3.2.2 ソーピング処理
上記の染色処理後、染色液を約80℃まで冷却し、下記の薬剤を添加してソーピング液を調製したうえで、80℃で20分間、ソーピング処理を行った。ここで、ポリエステル系繊維とソーピング液との浴比が1:15のままとなるように、下記の薬剤を各々1g/Lとなるように添加した。
【0104】
<薬剤>
苛性ソーダ48% 1g/L
ハイドロサルファイトナトリウム又は二酸化チオ尿素 1g/L
【0105】
3.2.3 洗浄処理等
上記のソーピング処理後のポリエステル系繊維に対して、水洗、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。水洗に用いた洗浄液には、ソーピング剤を含ませなかった。
【0106】
3.3 第3形態(1浴2段法):実施例4~15、比較例8~20
染色液において染色助剤を用いてポリエステル系繊維の染色処理を行い、その後、染色浴にソーピング剤及び薬剤を投入してソーピング液を調製したうえで、ソーピング処理を行った。
【0107】
3.3.1 染色処理
試験布としてポリエステル100%織物を用い、試験機器としてミニカラー染色機(Rapid製)を用い、浴比1:15となるように、下記の組成を有する染色液に試験布を入れて、130℃で60分間(60℃から2℃/minで昇温)、染色処理を行った。
【0108】
<染色液の組成>
80%酢酸 0.4g/L
染色助剤NICCA SUNSOLT RM-3406 0.5g/L
分散染料
Foron Rubine(ARCHROMA製) 4.5%o.w.f.
或いは
Disperse Black(興和江守製) 7.5%o.w.f.
【0109】
3.3.2 ソーピング処理
上記の染色処理後、染色液を約80℃まで冷却し、下記の薬剤を添加してソーピング液を調製したうえで、80℃で20分間、ソーピング処理を行った。ここで、ポリエステル系繊維とソーピング液との浴比が1:15のままとなるように、下記の薬剤を下記の量にて添加した。
【0110】
<薬剤>
ソーピング剤 1g/L
苛性ソーダ48%又はソーダ灰 1或いは5g/L
ハイドロサルファイトナトリウム又は二酸化チオ尿素 1g/L
【0111】
3.3.3 洗浄処理
上記のソーピング処理後のポリエステル系繊維に対して、水洗、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。水洗に用いた洗浄液には、ソーピング剤を含ませなかった。
【0112】
3.4 その他(1段2浴法):実施例16~26、比較例21~22
上記では、染色液又はソーピング液に所定のソーピング剤を1種類のみ添加した場合を示した。以下、ソーピング液において複数種類のソーピング剤を組み合わせて添加した場合や、ソーピング処理後の洗浄処理(湯洗処理及び/又は水洗処理)に用いられる洗浄液にソーピング剤を添加した場合を示す。
【0113】
3.4.1 実施例16~18
3.4.1.1 染色処理及びソーピング処理
上記の第3形態と同様にして染色処理を行った後、染色液を約80℃まで冷却し、下記の薬剤を任意に添加してソーピング液を調製したうえで、80℃で20分間、ソーピング処理を行った。ここで、ポリエステル系繊維とソーピング液との浴比が1:15のままとなるように、下記の薬剤を下記の量にて添加した。
【0114】
ソーピング剤 0或いは0.5g/L
苛性ソーダ48% 1g/L
ハイドロサルファイトナトリウム又は二酸化チオ尿素 1g/L
【0115】
3.4.1.2 洗浄処理
上記のソーピング処理後、下記の薬剤を添加して洗浄液を調製したうえで、80℃で湯洗処理或いは30℃で水洗処理を20分間行った。ここで、ポリエステル系繊維と洗浄液との浴比が1:15となるように、下記の薬剤の添加量を下記の通り調整した。その後、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。
【0116】
<薬剤>
ソーピング剤A-3 0.5g/L或いは1g/L
【0117】
3.4.2 実施例19~22、比較例21
染色処理後の染色液に対して、80%酢酸とソーピング剤C-5(液体還元剤、特許文献1に開示されたものに相当)とを添加してソーピング処理を行ったこと以外は、第3形態と同様にして染色処理及びソーピング処理を行った。具体的には以下の通りである。
【0118】
3.4.2.1 染色処理
試験布としてポリエステル100%織物を用い、試験機器としてミニカラー染色機(Rapid製)を用い、浴比1:15となるように、下記の組成を有する染色液(染色浴)に試験布を入れて、130℃で60分間(60℃から2℃/minで昇温)、染色処理を行った。
【0119】
<染色液の組成>
80%酢酸 0.4g/L
染色助剤NICCA SUNSOLT RM-3406 0.5g/L
分散染料
Foron Rubine(ARCHROMA製) 4.5%o.w.f.
或いは
Disperse Black(興和江守製) 7.5%o.w.f.
【0120】
3.4.2.2 ソーピング処理
上記の染色処理後、染色液を約80℃まで冷却し、下記の薬剤を添加してソーピング液を調製したうえで、80℃で20分間、ソーピング処理を行った。ここで、ポリエステル系繊維とソーピング液との浴比が1:15のままとなるように、下記の薬剤の添加量を下記の通り調整した。
【0121】
<薬剤>
80%酢酸 0.5g/L
ソーピング剤C-5(液体還元剤) 1g/L
ソーピング剤A-3 0或いは0.5g/L或いは1g/L
【0122】
3.4.2.3 洗浄処理A:実施例19、比較例21
上記のソーピング処理後のポリエステル系繊維に対して、水洗、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。水洗に用いた洗浄液には、ソーピング剤を含ませなかった。
【0123】
3.4.2.4 洗浄処理B:実施例20~22
上記のソーピング処理後、下記の薬剤を添加して洗浄液を調製したうえで、80℃で湯洗処理或いは30℃で水洗処理を20分間行った。ここで、ポリエステル系繊維と洗浄液との浴比が1:15となるように、下記の薬剤の添加量を下記の通り調整した。その後、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。
【0124】
<薬剤>
ソーピング剤A-3 0.5g/L或いは1g/L
【0125】
3.4.3 実施例23~26、比較例22
染色液において染色助剤を用いてポリエステル系繊維の染色処理を行い、その後、染色浴にソーピング剤及び薬剤を投入してソーピング液を調製したうえで、ソーピング処理及び湯洗処理または水洗処理を行った。具体的には以下の通りである。
【0126】
3.4.3.1 染色処理
試験布としてポリエステル100%織物を用い、試験機器としてミニカラー染色機(Rapid製)を用い、浴比1:15となるように、下記の組成を有する染色液(染色浴)に試験布を入れて、130℃で60分間(60℃から2℃/minで昇温)、染色処理を行った。
【0127】
<染色液の組成>
80%酢酸 0.4g/L
染色助剤NICCA SUNSOLT RM-3406 0.5g/L
分散染料
Foron Rubine(ARCHROMA製) 4.5%o.w.f.
或いは
Disperse Black(興和江守製) 7.5%o.w.f.
【0128】
3.4.3.2 ソーピング処理
上記の染色処理後、染色液を約80℃まで冷却し、下記の薬剤を添加してソーピング液を調製したうえで、80℃で20分間、ソーピング処理を行った。ここで、ポリエステル系繊維とソーピング液との浴比が1:15のままとなるように、下記の薬剤の添加量を下記の通り調整した。
【0129】
<薬剤>
苛性ソーダ48% 1g/L
ソーピング剤C-6(液体還元剤) 1g/L
ソーピング剤A-3 0或いは0.5g/L或いは1g/L
【0130】
3.4.3.3 洗浄処理A:実施例23、比較例22
上記のソーピング処理後のポリエステル系繊維に対して、水洗、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。水洗に用いた洗浄液には、ソーピング剤を含ませなかった。
【0131】
3.4.3.4 洗浄処理B:実施例24~26
上記のソーピング処理後、下記の薬剤を添加して洗浄液を調製したうえで、80℃で湯洗処理或いは30℃で水洗処理を20分間行った。ここで、ポリエステル系繊維と洗浄液との浴比が1:15となるように、下記の薬剤の添加量を下記の通り調整した。その後、脱水及び乾燥を行い、ポリエステル系染色繊維製品を得た。
【0132】
<薬剤>
ソーピング剤A-3 0.5g/L或いは1g/L
【0133】
4.ポリエステル系染色繊維製品の評価
4.1 洗濯堅牢度の評価
洗濯堅牢度は、JIS L0844:2011のA-2法により行い、汚染用グレースケール(JIS L 0805:2005)にて堅牢度を判定した。評価の級数が大きいほど、堅牢度に優れているといえる。尚、各級の間を4分割し、堅牢性の微差を表現した。例えば4級と5級の間は、4.3、4.5、4.8と表現した。他の級も同じである。
【0134】
4.2 乾燥及び湿潤摩擦堅牢度の評価
乾燥及び湿潤摩擦堅牢度は、JIS L0849:2013の摩擦試験機II形(学振形)法により行い、洗濯堅牢度の場合と同様に評価した。
【0135】
5.評価結果
評価結果を下記表4~8に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
【表8】
【0141】
表4~8に示される結果から、以下のことが分かる。
(1)比較例1-1、2-1、3-1、1-2、2-2及び3-2と、実施例1-1及び1-2とは、第1形態に係る2浴2段処理において、還元剤量を減らした時の堅牢度への影響を示した例である。実施例1-1及び1-2は、比較例に比べて、堅牢度の低下が少なく、2浴2段処理での堅牢度の向上が期待できることが分かる。
(2)第2形態に係る1浴2段処理の場合、実施例2及び3並びに比較例4~7の結果から、染色時に所定のポリエステル共重合体を用いても、ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度を向上することができた。
(3)第3形態に係る1浴2段処理の場合、実施例4~15は、比較合成した樹脂からなるソーピング剤を用いた比較例8~15や、これまでの活性剤系ソーピング剤を用いた比較例16~20、酸性還元剤を用いた比較例21、及び還元糖を用いた比較例22に比べ、堅牢度が優れており、比較例1の2浴2段の堅牢度と同等以上の結果であった。また、ソーピング時に用いるアルカリは、苛性ソーダ或いはソーダ灰どちらでも効果があった。
(4)第3形態に係る1浴2段処理の場合、実施例7、16~18、20~22、24~26の結果から、ソーピング剤A-3は、ソーピング処理及び洗浄処理(湯洗処理及び/又は水洗処理)のいずれかに添加すればよく、また、分割して添加してもよいことがわかった。更に、湯洗液または水洗液にソーピング剤A-3を追加することでも優れた堅牢度が得られた。その際、ソーピング剤A-3は、ソーピング液と洗浄液(湯洗液及び/又は水洗液)との両方に入れてもよいことがわかった。更に、実施例19及び実施例23のように、酸性還元剤を用いた比較例21、及び還元糖を用いた比較例22において、さらにソーピング剤A-3を追加することで、それぞれの比較例に比べて優れた堅牢度が得られた。ただし、実施例4~26の比較から、ソーピング剤と組み合わせられる還元剤は、還元糖よりも、硫黄含有化合物(特に、ハイドロサルファイト、ハイドロサルファイトナトリウム、二酸化チオ尿素、及び、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種)が好ましいことがわかった。
【0142】
以上の結果から、以下の(1)~(5)を満たすポリエステル共重合体を用いれば、2浴2段処理での堅牢度の向上が期待できる。さらに、1浴2段法でも堅牢度の低下を抑え、2浴2段法で得られるポリエステル系染色繊維製品と同等以上の製品を得ることができ、工程合理化によるCO削減、排水を一回減らすことによる節水ができる。以下の(1)~(5)を満たすポリエステル共重合体は、例えば、堅牢度向上剤として採用され得る。また、当該ポリエステル共重合体は、例えば、上記実施例に示されるように、ソーピング液に添加される成分(ソーピング剤)やソーピング後の湯洗及び/又は水洗の際の洗浄液に添加される薬剤として採用され得る。
(1)前記ポリエステル共重合体が、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含む。
(2)前記ジカルボン酸単位が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含む。
(3)前記ジオール単位が、分子量48以上900未満のジオールに由来する。
(4)前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率が、50質量%以上75質量%以下である。
【要約】
ポリエステル系繊維の染色処理及びソーピング処理を行う場合に、ポリエステル系染色繊維製品の堅牢度を向上させる。ポリエステル系繊維の染色処理後のソーピング処理において、所定のポリエステル共重合体を含むソーピング液を用いる。前記ポリエステル共重合体は、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とを含み、前記ジカルボン酸単位は、スルホン酸基及びスルホン酸塩基のうちの一方又は両方を有するジカルボン酸に由来する単位、並びに、トリカルボン酸に由来する単位、のうちの少なくとも1種を、5モル%以上30モル%以下含み、前記ジオール単位は、分子量48以上900未満のジオールに由来し、前記ポリエステル共重合体における前記ジカルボン酸単位の分子内含有比率は、50質量%以上75質量%以下である。