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特許7560704クリオプレシピテートを作製するための凍結血漿の解凍方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】クリオプレシピテートを作製するための凍結血漿の解凍方法
(51)【国際特許分類】
   A61J 3/00 20060101AFI20240926BHJP
   A61K 35/16 20150101ALN20240926BHJP
【FI】
A61J3/00 300B
A61K35/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023581087
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2023012195
(87)【国際公開番号】W WO2023190337
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2022061438
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524251968
【氏名又は名称】株式会社スマートハンドレッド
(73)【特許権者】
【識別番号】717005512
【氏名又は名称】原田 英信
(74)【代理人】
【識別番号】100186288
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 英信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和人
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 直之
(72)【発明者】
【氏名】小砂子 智
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 實
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏康
【審査官】今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0014624(US,A1)
【文献】特開2002-272436(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0122072(US,A1)
【文献】国際公開第2013/159815(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 3/00
A61M 1/02
A23L 3/365
A01N 1/00-1/02
C12N 5/00
C12M 3/00
A61K 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用又は研究用の凍結血漿に対し、照射装置内で60MHzから140MHzの電磁波を照射することにより、迅速に解凍しタンパク質の劣化を抑え、上清部分を取り除いた沈殿分画で凝固因子を多く含有したクリオプレシピテートを作製するための凍結血漿の解凍方法。
【請求項2】
医療用又は研究用の凍結血漿に対し、照射装置内で60MHzから10MHzの電磁波を照射することにより、迅速に解凍しタンパク質の劣化を抑え、上清部分を取り除いた沈殿分画で凝固因子を多く含有したクリオプレシピテートを作製するための凍結血漿の解凍方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超短波、特に60MHzから140MHz、の電磁波を照射することによる医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍方法、クリオプレシピテート作製方法及び解凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学的、生物学的、生理学的および生化学的な研究においては、保存等のために凍結させた生体由来凍結物質を解凍し、さまざまな生体反応を解析することが広く行われている。解凍に時間がかかったり、解凍温度が高くなり過ぎたりすると、解凍した生体由来物質に障害が生じ正確な実験データが得られなくなる。現在、生体由来凍結物質を恒温水槽、冷蔵庫内もしくは流水中に置き解凍する場合が多いが、解凍による障害は払拭されず、より短時間でかつ生体由来凍結物質にダメージを与えることが少ない解凍方法が求められている。
特に医療用又は研究用においては、解凍した生体由来物質について、高い品質と安全性が求められている。
【0003】
例えば、冷凍血液(冷凍赤血球液又は凍結血漿など血液由来の凍結物質を意味する。)の解凍方法としては、特許文献1に記載されているように恒温水槽に満たした温水に凍結血液バッグ(冷凍血液を密封したバッグ)を浸す方法が一般的である。
しかしながら、温水に浸して解凍する方法は、解凍に要する時間が長く、さらには温水による雑菌の混入や、冷凍血液解凍後の品質低下など使用勝手や安全性に問題がある。
【0004】
そこで、温水を使わない解凍方法として、特許文献2、3のような凍結血液バッグを上下からプレートや熱媒体封入のバッグで挟み込み、上下のヒータでそのプレート等を介して凍結血液バッグを温め、さらに凍結血液バッグを上下から挟んだ構造の一部又は全体を揺動させることで解凍する方法が提案されている。
【0005】
ここで、凍結血液バッグ内の成分は、例えば-30℃以下に凍結している状態であり、そのような状態では凍結血液バッグの周辺部分が破損しやすく、凍結血液バッグをプレート等で挟むのは危険を伴う。
【0006】
さらに、特許文献4には、凍結血液バッグを吊り下げ、下から温風を吹き付けて解凍する方法が提案されているが、温風は、温水に浸したり、プレート等で挟んだりする場合と比較すると、冷凍血液への伝熱の効率が悪く、さらに解凍に時間がかかり過ぎてしまう。
【0007】
また、このような従来の解凍方法は何れも凍結血液バッグ表面に熱を与えて冷凍血液の外側から内側方向へ熱を伝導することで解凍させるものであり、この原理によれば冷凍血液の外側部分と内側部分との温度差が大きくなると品質に悪影響を及ぼしてしまう。
すなわち、冷凍血液は、37℃を越えた温度で融解すると、凝固因子活性の低下を認め、さらに50℃以上では蛋白の変性による固まりを生じるという性質があり、例えば、冷凍血液の内側部分の温度が-3℃であったとしても外側部分の温度が37℃を超えた温度になると、品質に問題が生じてしまう。
【0008】
また、クリオプレシピテートの作製は、凍結血漿を4℃で24~30時間かけて緩速解凍することから、最低でも2日を要する。そのため緊急時に適切に対応するため短時間でフィブリノゲン回収率を損なうことのないクリオプレシピテート作製方法が待たれている。
【0009】
また、例えば、精子・卵子等の凍結保存ヒト細胞などについては凍結保存し必要時に利用する試みがなされている。出産の高年齢化や体外受精による出産の増加に対し、安全で迅速な精子・卵子の保存、復元、供給が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-50316号公報
【文献】特開2013-252204号公報
【文献】特開2007-61245号公報
【文献】特開2001-218817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、雑菌の混入の危険を避けるとともに、解凍時の温度むらを無くすことで品質低下を押さえ、解凍時間の短縮化が図れる生体由来凍結物質の解凍方法及び解凍装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍方法は、前記生体由来凍結物質に対し、60MHzから140MHzの電磁波を照射することにより、前記生体由来凍結物質の品質低下を押さえて迅速に解凍する。
【0013】
また、本発明の生体由来凍結物質の解凍方法は、前記生体由来凍結物質が冷凍血液である。
【0014】
また、本発明の生体由来凍結物質の解凍方法は、前記冷凍血液が冷凍赤血球液である。
【0015】
また、本発明の生体由来凍結物質の解凍方法は、前記冷凍血液が凍結血漿である。
【0016】
また、本発明のクリオプレシピテートの作製方法は、前記凍結血漿の解凍方法を用いる。
【0017】
また、本発明の生体由来凍結物質の解凍方法は、前記生体由来凍結物質が凍結保存ヒト細胞である。
【0018】
本発明の医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍装置は、前記生体由来凍結物質に対し、60MHzから140MHzの電磁波を照射することにより、前記生体由来凍結物質の品質低下を押さえて迅速に解凍する。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によると雑菌の混入の危険を避けるとともに、解凍時の温度むらを無くすことで品質低下を押さえ、解凍時間の短縮化が図れる生体由来凍結物質の解凍方法及び解凍装置を提供することができる。
またその結果として、廃棄血液の削減、稀な血液型の患者への迅速な対応、災害時医療への貢献、衛生状態の保持及び貯血式自己血輸血の利用等を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】-50℃に保管した生体由来凍結物質(5cm×5cm×4cm、約90g)を60MHz、100MHz、140MHz、170MHzおよび300MHzの電磁波で解凍する際の、中心部での温度変化(解凍曲線)を示した図である。
図2】生体由来凍結物質を60MHzから300MHzの電磁波照射で解凍し続けた際の-2度から20℃通過所要時間を示す図である。
図3】本発明の実施の形態の生体由来凍結物質の解凍に使用する解凍装置の構成概念を表すブロック図である。
図4図3に示す構成を基に作成した解凍装置の正面図である。
図5】洗浄液中のヘモグロビン量を示す比較図である。
図6】各凝固因子濃度及び活性に関連する測定値を示す表である。
図7】凍結ヒト細胞株の解凍例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施の形態等により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の第1の実施の形態による医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍方法は、前記生体由来凍結物質に対し、60MHzから140MHzの電磁波を照射することにより、前記生体由来凍結物質の品質低下を押さえて迅速に解凍する。
【0023】
本実施の形態によれば、このような超短波の電磁波、特に60MHzから140MHzの電磁波は生体由来凍結物質への浸透性が高く、生体由来凍結物質の内側と外側の温度差を少なくしながら、生体由来凍結物質全体を迅速に解凍することが可能である。なお、超短波の電磁波とは、30MHz以上300MHz以下の電磁波を意味する。
【0024】
ここで、図1は医療用又は研究用の生体由来凍結物質の例として、-50℃に保管した生体由来凍結物質(5cm×5cm×4cm、約90g)を60MHz、100MHz、140MHz、170MHzおよび300MHzの電磁波で解凍した際の、中心部での温度変化(解凍曲線)を示した図である。
また、上記生体由来凍結物質を60MHz、100MHz、140MHz、170MHzおよび300MHzの電磁波で解凍した際の物質中心部が-2℃から20℃に達するまでを通過する所要時間を測定した結果を図2に示す。
なお、電磁波での解凍は、後述する解凍装置を使用した。電磁波出力は25Wとし、周波数および電磁波出力は解凍が完了するまで変更せず照射した。また、生体由来凍結物質の中心部(表面から2.5cm)に奥行き2.5cmに穿刺した光ファイバー温度計(ASTECH社製)によって温度を測定した。
【0025】
ここで、生体由来凍結物質として医療用又は研究用のものは、他の用途のもの(例えば食品用等)と比較して高い品質と安全性が求められている。
この点、140MHzを超えた電磁波での解凍では、解凍後(-2℃以上)に急激な温度上昇を生じる(図1において170MHz及び300MHzのものを参照)為、温度制御が難しくターゲットとする適正な温度(例えば37℃)を超える恐れが高く、その場合、組織(細胞)破壊を生じたり、生体由来凍結物質縁辺部等に煮え(Boiled)が発生(図2において170MHz及び300MHzのものを参照)してしまう。また、生体由来凍結物質の熱分布の不均一性が高まり、それに起因した諸問題(ドリップ、細胞の劣化等)が発生し易くなる。
一方でこのような高周波よりは低周波の方が一般的には電磁波による加熱等で生じる悪影響は少なく安全と考えられるが、周波数が小さくなるにつれて解凍時間は急激に大きくなってしまう。特に60MHz未満の電磁波では、-50℃から20℃まで解凍するのに70分を超えてしまう(図2参照)。
また、生体由来物質を構成する各種タンパク質(例えば、ミオグロビン、ヘモグロビン等)の変性(例えば、メト化等)が生じやすい温度帯(-5℃から-2℃)を迅速に通過させるためには、少なくとも60MHz以上の電磁波であることが望ましい。
【0026】
したがって、これらを総合的に考慮すると、上記医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍に適切な周波数帯域は60MHzから140MHzの範囲ということになる。
ここで、上記医療用又は研究用の生体由来凍結物質として、ヒト由来のものは入手困難で実験も難しいため、本実施形態では、高い品質と安全性が担保できるように、温度変化の影響を受けやすく、実験し易く(例えばドリップ量及びメト化程度を判断し易く、また、液体状ではないので部分的な温度測定がし易く)、入手し易い冷凍マグロブロックで実験を行った。
なお、電磁波照射における周波数の違いによる生体由来物質への影響については、ヒト及びヒト以外の動物(例えば魚、牛、豚、鶏等)間では程度は異なるが、細胞、各種タンパク質及び水分等を含んだ組織から構成されている点ではほぼ同等であり、特段の違いは特に認められないと考えられる。
【0027】
すなわち、本発明は従来のような熱を表面から内部方向へ伝導させ解凍させるものではなく、60MHzから140MHzの電磁波エネルギーが生体由来凍結物質内で熱エネルギーに転換するという転換熱の原理を利用するものなので、最も深くまで熱を及ぼす事ができ、外側と内側隔たり無く全体的にむらなく加熱することが可能である。
具体的には、生体由来凍結物質に60MHzから140MHzの電磁波を透過させると、生体由来凍結物質内の水分子が振動を起こし、この水分子の振動により水分子間の摩擦熱が発生し、生体由来凍結物質自体が発熱する。該電磁波は、生体由来凍結物質を十分に透過するため、生体由来凍結物質の表面のみならず生体由来凍結物質の深部も加温することができる。すなわち、表面の熱が内部に熱伝導するのではなく、生体由来凍結物質の成分自体が発熱する。従って、本発明の60MHzから140MHzの電磁波による解凍方法は生体由来凍結物質の成分全体を効率よく温めることができる。
【0028】
この点、従来の原理による解凍方法では仮に電磁波を利用したとしても、超短波、特に60MHzから140MHzの電磁波でないから、生体由来凍結物質の内側と外側に温度差が生じてしまう。
すなわち、凍結している状態から解凍するまで使用すると内側がまだ凍結しているにも関わらず、外側が高温になることがあり、高温による品質低下が生じてしまう。これを回避するために例えば、電磁波を15秒照射し、外側の温度を冷ますために30秒休止するという工程を複数回行うというものはあるが、継続的に電磁波を照射することは難しかった。
【0029】
本発明はこのような熱を表面から伝導させるものではないので、凍結している状態から解凍するまで休止することなく継続的に照射することも可能である。
これにより、エネルギー効率の良い迅速解凍が可能となった。
また、継続的に照射する際には、同一の照射装置内で行ったり、同一の周波数を用いることが好ましい。
また、従来の温水解凍機と比較すると、あらかじめ解凍温度を設定維持する必要がなくスイッチONで直ちに使用でき、緊急時の迅速対応が可能であり、エネルギー消費も抑制される。
【0030】
また、本発明において、医療用又は研究用の生体由来凍結物質とは、例えば、生体由来物質を含有する液体(生体由来液状物)又は固体等を凍結させたものがある。具体的には、例えば、細胞懸濁液、血液等が挙げられる。細胞懸濁液としては、幹細胞移植に用いられる造血幹細胞(臍帯血、骨髄液、末梢血幹細胞等)が挙げられる。細胞懸濁液の細胞はこれに限定されるものではないが、筋芽細胞、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、軟骨細胞等の接着系細胞、全血、赤血球、白血球、リンパ球(Tリンパ球、Bリンパ球)、樹状細胞、血漿、血小板及び多血小板血漿等の血液細胞や血液成分、骨骸単核細胞、造血幹細胞、ES細胞、多能性幹細胞、iPS細胞由来の細胞(例えば、iPS細胞由来の心筋細胞)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)、精子細胞及び卵子細胞等の細胞である。これらの細胞は遺伝子治療等に用いられる遺伝子が導入された細胞であってもよい。
なお、医療用又は研究用であり、かつ、生体に由来した物質を凍結したものであれば本発明の生体由来凍結物質に含まれ得る。
【0031】
また、本発明の実施形態はヒトの生体由来凍結物質を対象とするだけでなく、ヒト以外の動物の生体由来凍結物質も対象とし得る。
なお、本明細書中で使用している用語について、「解凍」と「融解」は同じ意味として用いている。
同様に「凍結」と「冷凍」も同じ意味として用いている。
【0032】
また、生体由来凍結物質は衛生上容器に収容されていることが望ましい。
ここで容器とは生体由来凍結物質を包装できればよく、例えばビニールラッピングも本発明の容器に含み得る。
容器は生体由来凍結物質よりも超短波の電磁波を吸収しない素材から構成されていることが望ましい。
容器は、例えば、樹脂素材(例えば、容易に変形する樹脂フィルムによる軟質バッグ等)や、硬質素材により構成されていてもよい。
通常、樹脂素材は生体由来凍結物質よりも超短波の電磁波を吸収しないので、樹脂素材により構成された容器においては、容器にて吸収された電磁波を原因とする生体由来凍結物質の温度上昇や変質を抑えることができる。容器の形状は、全体として扁平形状が望ましく、平面視で四角形状、円形状或は楕円形状等に形成されていてもよい。
【0033】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による生体由来凍結物質の解凍方法において、前記生体由来凍結物質は、冷凍血液である。
【0034】
ここで血液は赤血球、白血球、血小板等からなる細胞成分(血球)と液体成分(血漿)からなり、細胞成分と血漿成分の構成割合は概ね45:55である。
血漿は多様なたんぱく質を主成分として含んだ溶液であり、特に血液凝固に関わるたんぱく質としてフィブリノゲンなどが存在する。
【0035】
本実施の形態によれば、特に生体由来凍結物質が冷凍血液の場合、解凍状態が塩分を含んだ液状物であることから、前記60MHzから140MHzの電磁波の範囲だと、迅速な解凍ができ、各種タンパク質の変性を回避でき、焦げや煮え等も避けることができる。
ただし、蛋白の変性による固まりが生じないようにするには常に50℃未満であることが望ましく、凝固因子活性の低下が生じないようにするには常に37℃以下であることがさらに望ましい。
【0036】
なお、本発明において、冷凍血液とは、前述のとおり、冷凍赤血球液や凍結血漿などであるが、これらに限られない。血液に由来した物質を凍結したものであれば本発明の冷凍血液に含まれ得る。
冷凍血液の場合、より適切な電磁波の範囲として、迅速性を考慮すると65MH以上の電磁波が望ましい。また、135MHz以下の電磁波だと品質低下がさらに抑えられるので好ましい。
【0037】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による生体由来凍結物質の解凍方法において、前記冷凍血液は、冷凍赤血球液である。
【0038】
ここで冷凍赤血球液は主に輸血に用いられるが、解凍後2~6℃で保存し有効期間は製造後4日間しかない。そのため余ってしまった血液を廃棄していた。
本実施の形態によれば、良質な解凍が行われ、従来の解凍方法と比較して解凍赤血球液の洗浄中の溶血率が低くなるので、余分な冷凍赤血球液を解凍する必要が無くなり廃棄血液の削減に繋がる。
【0039】
冷凍赤血球液の場合、電磁波の周波数が低い方が赤血球細胞の劣化が抑えられるので、上記電磁波の範囲(60MHzから140MHz)の上限値が、130MHz又は125MHzであることが好ましく、120MHz又は115MHzであればさらに好ましい。また、迅速性を考慮すると、上記電磁波の範囲の下限値が、70MHz又は75MHzであることが好ましく、80MHz又は85MHzであればさらに好ましい。
【0040】
本発明の第4の実施の形態は、第2の実施の形態による生体由来凍結物質の解凍方法において、前記冷凍血液は、凍結血漿である。
【0041】
凍結血漿の解凍方法は、これまで30~37℃の温水で融解させるので長時間かかり、またそのことによる病原菌感染の危険性など衛生上の懸念もあった。
本実施の形態によれば、そのような衛生上の懸念を無くし、品質低下を押さえながら、迅速に解凍することができる。
【0042】
凍結血漿の場合、迅速に解凍することでタンパク質の劣化が抑えられるので、上記電磁波の範囲(60MHzから140MHz)の下限値が、70MHz又は75MHzであることが好ましく、80MHz又は85MHzであればさらに好ましい。また、凍結血漿全体の品質低下をさらに抑えるためには、上記電磁波の範囲の上限値が、130MHz又は125MHzであることが好ましく、120MHz又は115MHzであればさらに好ましい。
【0043】
本発明の第5の実施の形態によるクリオプレシピテートの作製方法は、第4の実施の形態による解凍方法を用いる。
【0044】
これまで止血療法として投与する凍結血漿にはフィブリノゲン等の凝固因子が通常濃度しか含まれないため大量出血時の急速なフィブリノゲン補充には大量投与が必要となり患者への負荷が懸念されることから、フィブリノゲン等の凝固因子が濃縮されたクレオプレシピテートを院内で調製し使用しているが、作製のための解凍に時間がかかる等の問題があった。
本実施の形態によれば、各種フィブリノゲン回収率を低下させずに、迅速にクリオプレシピテートの作製が可能となる。
【0045】
本発明のクリオプレシピテートの作製方法(調整方法)について、本発明は公知の方法の内、凍結血漿を解凍(融解)する工程に本発明の解凍方法を用いるものである。解凍(融解)以外の工程については、公知の方法が利用できる。
なお、クリオプレシピテートの作製方法(調整方法)について公知の方法としては、例えば、日本赤十字社ホームページ上で公開されている「新鮮凍結血漿(FFP)の融解方法について」や、日本輸血・細胞治療学会ホームページ上で公開されている”クリオプレシピテート作製プロトコール”がある。
【0046】
クリオプレシピテートの場合、迅速に解凍することでタンパク質の劣化が抑えられるので、上記電磁波の範囲(60MHzから140MHz)の下限値が、70MHz又は75MHzであることが好ましく、80MHz又は85MHzであればさらに好ましい。また、全体の品質低下をさらに抑えるためには、上記電磁波の範囲の上限値が、130MHz又は125MHzであることが好ましく、120MHz又は115MHzであればさらに好ましい。
【0047】
本発明の第6の実施の形態は、第1の実施の形態による生体由来凍結物質の解凍方法において、前記生体由来凍結物質は、凍結保存ヒト細胞である。
【0048】
凍結保存ヒト細胞の場合、電磁波の周波数が低い方がヒト細胞の劣化が抑えられるので、上記電磁波の範囲(60MHzから140MHz)の上限値が、130MHz又は125MHzであることが好ましく、120MHz又は115MHzであればさらに好ましい。また、迅速性を考慮すると、上記電磁波の範囲の下限値が、70MHz又は75MHzであることが好ましく、80MHz又は85MHzであればさらに好ましい。
【0049】
本実施の形態によれば、凍結保存ヒト細胞に対して迅速で良質な解凍が行われ、品質低下を抑えることが可能になる。
【0050】
本発明の第7の実施の形態による医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍装置は、前記生体由来凍結物質に対し、60MHzから140MHzの電磁波を照射することにより、前記生体由来凍結物質の品質低下を押さえて迅速に解凍する。
【0051】
本実施の形態によれば、上記解凍装置を使用することで、医療用又は研究用の生体由来凍結物質に対して、本発明の第1~6の実施形態による効果を得ることが可能となる。
【0052】
以下、具体的な解凍装置を説明し、続けてその解凍装置を用いた実施例を説明する。
【0053】
<解凍装置>
図3は本発明の解凍装置のブロック図である。照射炉体(キャビティ)11と、増幅器(アンプ)12と、整合器(マッチング)13とを備える。照射炉体11内部にはアンテナを備える。整合器13は照射された電磁波の強度と反射される電磁波の強度を検知し、両者の差を実質的な出力(ワット数、W)とし、初期設定した値になるように調整している。また、整合器13は周波数帯の異なった物が複数用意されていて、使用する周波数帯の物に交換することが可能である。
【0054】
図4は、図3に基づいて作成された解凍装置である。図4中の番号は、それぞれ図3の番号に対応する構成である。
【符号の説明】
【0055】
11 照射炉体(キャビティ)
12 増幅器(アンプ)
13 整合器(マッチング)
【0056】
以下、本発明による医療用又は研究用の生体由来凍結物質の解凍方法について実施例を示して詳細な説明を行う。なお、生体由来凍結物質は何れもヒト由来であり、それぞれ容器に収容された状態であるが、容器に収容されていない状態であっても同様である。
また、照射する60MHzから140MHzの電磁波としては、何れもその中間値である100MHz(但し照射誤差を考慮すると100MHz±10MHz)の電磁波を用いた。
【0057】
以下に本発明の実施例1~3を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
<冷凍赤血球液の解凍>
医療用又は研究用の冷凍赤血球液の解凍に求められる要件は、迅速にかつ溶血促進のダメージを与えることなく迅速に解凍することである。
そこで、実施例1では、常法の温水解凍を行ったものと上記電磁波を照射して解凍を行ったものに対して、それぞれ解凍赤血球の洗浄中の溶血率を測定した。
この測定結果を図5に示すが、この場合のヘモグロビン量は、凍結時に赤血球が溶血するのを防ぐために加えた凍結障害防止剤(グリセリンなど)を除くための洗浄操作で、洗浄液に出てくる赤い色素は溶血した赤血球に由来するヘモグロビンのことである。そのためヘモグロビン量の低い方が溶血程度を低くおさえているので優れていることになる。
すなわち、実施例1、図5によると、洗浄液中のヘモグロビン量は、上記電磁波照射による解凍の方が低く、従来よりも良質な解凍法であることが示された。
【実施例2】
【0059】
<クリオプレシピテートの作製>
通常、クリオプレシピテートは新鮮凍結血漿(FFP)を1~6℃で緩徐に融解(解凍)し、遠心分離にて上清部分を取り除いた沈殿分画で、フィブリノゲン、凝固第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)、凝固第XIII因子、フィブロネクチン、血小板マイクロパーティクルを多く含有する。この沈殿分画を少量の血漿にて再浮遊して凍結保存したものがクリオプレシピテートで、必要時に融解(解凍)して使用する。
実施例2、図6は、クリオプレシピテート作製時の新鮮凍結血漿製剤の解凍工程において、上記電磁波を照射して解凍したものである。
クリオプレシピテート調製時の解凍は、常法 (4℃, 20時間) と比較し短時間 (25分) で解凍が可能で活性も保たれていた。
【実施例3】
【0060】
<凍結ヒト細胞株の解凍>
実施例3、図7は、RPMI 1640培地(10% FBS)にて継代培養し増殖させたヒト細胞株(HL60)を凍結培地にて冷凍保存(-80℃)した後、凍結細胞を上記電磁波を2分照射することで解凍した(電磁波解凍)細胞と37℃の温水で解凍した(常法)細胞の生残率を比較したものである。
【0061】
生残率は、5×104 cell/ml濃度の培地100μlを96穴プレートに播種しCell Counting Kit-8(同仁化学)を加えCO2インキュベータ―内に150分置いた後450 nmの吸光度を測定して算出した
(https://www.dojindo.co.jp/manual/CK04.pdf)。
【0062】
図7より生残率を比較すると上記電磁波解凍で高く、常法と比較して細胞に対する有害性が低く抑えられ優れた解凍方法といえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7