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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】水処理剤および水処理剤の安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/14 20060101AFI20240926BHJP
   C23F 11/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C23F11/14
C23F11/14 101
C23F11/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020114501
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012576
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390016540
【氏名又は名称】内外化学製品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】丸亀 和雄
(72)【発明者】
【氏名】花田 翔
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-157983(JP,A)
【文献】特開昭51-115248(JP,A)
【文献】特公昭45-036574(JP,B1)
【文献】特開2000-351704(JP,A)
【文献】特開2007-197790(JP,A)
【文献】特開2015-193876(JP,A)
【文献】特開2012-041606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00-11/18
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
C02F 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾール系化合物と、分子量が75以上500以下のアミノ酸と、ブロノポールとを含有し、
前記アミノ酸の含有率をX2[mol%]、前記ブロノポールの含有率をX3[mol%]としたとき、1≦X3/X2≦12000の関係を満足することを特徴とする水処理剤。
【請求項2】
前記アミノ酸は、酸性アミノ酸または中性アミノ酸である請求項1に記載の水処理剤。
【請求項3】
前記アミノ酸は、グリシン、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸およびそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の水処理剤。
【請求項4】
水処理剤中における前記アゾール系化合物の含有率をX1[mol%]、水処理剤中における前記アミノ酸の含有率をX2[mol%]としたとき、0.0008≦X2/X1≦30の関係を満足する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水処理剤。
【請求項5】
前記アゾール系化合物は、ベンゾトリアゾールである請求項1ないしのいずれか1項に記載の水処理剤。
【請求項6】
アゾール系化合物を含む水処理剤に、分子量が75以上500以下のアミノ酸と、ブロノポールとを含有させ
前記水処理剤中における、前記アミノ酸の含有率をX2[mol%]、前記ブロノポールの含有率をX3[mol%]としたとき、1≦X3/X2≦12000の関係を満足するようにすることを特徴とする水処理剤の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理剤および水処理剤の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用冷却水系等を構成する熱交換器、配管、各種機器類の金属材料(銅、鉄、軟鋼、鋳鉄等)は、常時水と接触しており、金属材料表面において腐食等の問題を発生し易い。このような問題の発生を防止する目的で、金属防食剤としてのアゾール系化合物を含む水処理剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、アゾール系化合物を含む水処理剤では、他の含有成分との組み合わせ等によっては、アゾール系化合物の濃度低下が著しく、アゾール系化合物の機能を長期間にわたって安定的に発揮させることが困難になったり、水処理剤中に沈殿物が生じて注入ポンプを閉塞させ水処理剤全般の機能が発揮できなくなる等の障害が発生したりする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-173994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、長期間にわたってアゾール系化合物の機能を安定的に発揮させることができる水処理剤を提供すること、また、長期間にわたってアゾール系化合物の機能を安定的に発揮させることができる水処理剤の安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)~()に記載の本発明により達成される。
(1) アゾール系化合物と、分子量が75以上500以下のアミノ酸と、ブロノポールとを含有し、
前記アミノ酸の含有率をX2[mol%]、前記ブロノポールの含有率をX3[mol%]としたとき、1≦X3/X2≦12000の関係を満足することを特徴とする水処理剤。
【0007】
(2) 前記アミノ酸は、酸性アミノ酸または中性アミノ酸である上記(1)に記載の水処理剤。
【0008】
(3) 前記アミノ酸は、グリシン、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸およびそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である上記(1)に記載の水処理剤。
【0009】
(4) 水処理剤中における前記アゾール系化合物の含有率をX1[mol%]、水処理剤中における前記アミノ酸の含有率をX2[mol%]としたとき、0.0008≦X2/X1≦30の関係を満足する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の水処理剤。
【0012】
) 前記アゾール系化合物は、ベンゾトリアゾールである上記(1)ないし()のいずれかに記載の水処理剤。
【0013】
) アゾール系化合物を含む水処理剤に、分子量が75以上500以下のアミノ酸と、ブロノポールとを含有させ
前記水処理剤中における、前記アミノ酸の含有率をX2[mol%]、前記ブロノポールの含有率をX3[mol%]としたとき、1≦X3/X2≦12000の関係を満足するようにすることを特徴とする水処理剤の安定化方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期間にわたってアゾール系化合物の機能を安定的に発揮させることができる水処理剤を提供すること、また、長期間にわたってアゾール系化合物の機能を安定的に発揮させることができる水処理剤の安定化方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]水処理剤
まず、本発明の水処理剤について説明する。
【0016】
本発明の水処理剤は、防食剤としての機能を有するアゾール系化合物を含むものである。そして、本発明の水処理剤は、アゾール系化合物に加えて、アミノ酸を含有することを特徴とする。
【0017】
これにより、水処理剤中におけるアゾール系化合物の安定性を向上させることができ、例えば、水処理剤中の他の成分等の影響等によるアゾール系化合物の濃度低下を効果的に防止することができる。その結果、水処理剤は、アゾール系化合物の機能(防食性等)を長期間にわたって安定的に発揮させることができるものとなる。
【0018】
なお、本発明において、水処理剤とは、水を主成分とする液体(例えば、水の含有率が50質量%以上の液体)と混合して用いられるもののことを指す。言い換えると、本発明の水処理剤による被処理物は、水を主成分とする液体(例えば、水の含有率が50質量%以上の液体)である。
水処理剤が適用される液体(水を主成分とする液体)としては、例えば、工業用水、工業用冷却水、プラント用水、排水等が挙げられる。
【0019】
また、水処理剤が適用される液体(水を主成分とする液体)は、海から採取した海水、河川、湖、池、沼等から採取した淡水、汽水、地下水、雨水等、自然から採取したものであってもよいし、水道水であってもよい。
【0020】
[1-1]アゾール系化合物
前述したように、本発明の水処理剤は、アゾール系化合物を含むものである。
アゾール系化合物は、水処理剤において、防食性を発揮する成分である。
【0021】
アゾール系化合物は、1つ以上窒素原子を複素5員環構造中に有する複素環式化合物である。言い換えると、アゾール系化合物は、複素5員環を有する化合物であって、当該複素5員環を構成する5つの元素のうち少なくとも1つが窒素原子である化合物である。
【0022】
アゾール系化合物としては、例えば、ピロール等のような複素5員環中に1つの窒素原子を有する化合物(狭義のアゾール)、ピラゾール(1,2-ジアゾール)、イミダゾール(1,3-ジアゾール)等のような複素5員環中に2つの窒素原子を有する化合物(ジアゾール)、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール等のような複素5員環中に3つの窒素原子を有する化合物(トリアゾール)、複素5員環中に4つの窒素原子を有する化合物(テトラゾール)、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン等のような、複素5員環中に、窒素原子に加えて他のヘテロ原子を含む化合物や、これらの化合物が有する水素原子のうちの少なくとも1つが他の原子または原子団で置換された構造の化合物等が挙げられるが、アゾール系化合物としては、複素5員環構造中に含まれるヘテロ原子が窒素原子のみである化合物が好ましい。
【0023】
これにより、水処理剤の防食性をより優れたものとすることができる。また、アミノ酸と併用することによる相乗効果をより顕著に発揮させることができる。
【0024】
中でも、アゾール系化合物は、ベンゾトリアゾールであるのが好ましい。
これにより、前述したような効果がさらに顕著に発揮される。
【0025】
[1-2]アミノ酸
前述したように、本発明の水処理剤は、アミノ酸を含むものである。
【0026】
アミノ酸は、水処理剤において、アゾール系化合物の安定性の向上に寄与する成分である。このようなアミノ酸をアゾール系化合物とともに含むことにより、例えば、水処理剤中の他の成分等の影響等によるアゾール系化合物の濃度低下を効果的に防止することができ、アゾール系化合物の機能(防食性等)を長期間にわたって安定的に発揮させることができる。
【0027】
アミノ酸は、分子内に、アミノ基およびカルボキシル基を有する化合物であればよく、当該アミノ基、当該カルボキシル基のうち少なくとも一方は、塩の形態をとっていてもよい。
【0028】
アミノ酸は、α-アミノ酸のほか、β-アミノ酸、γ-アミノ酸やδ-アミノ酸等であってもよいが、コストや入手の安定性等からα-アミノ酸が好ましい。
また、α-アミノ酸は、D体、L体のいずれであってもよい。
【0029】
α-アミノ酸の具体例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等が挙げられる。
【0030】
また、他のアミノ酸の具体例としては、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、サイロキシン、ホスホセリン、デスモシン、β-アラニン、サルコシン、オルニチン、シトルリン、クレアチン、γ-アミノ酪酸、オパイン、トリメチルグリシン、テアニン、トリコロミン酸、カイニン酸等が挙げられる。
【0031】
本発明の水処理剤は、上記のようなアミノ酸を少なくとも1種含んでいればよいが、2種以上のアミノ酸を含んでいてもよい。
【0032】
アミノ酸は、酸性アミノ酸または中性アミノ酸であるのが好ましい。
これにより、水処理剤中におけるアミノ酸の溶解性、水処理剤の保存安定性を特に優れたものとすることができる。特に、水処理剤が後述するようなpHを呈するものである場合に、前記のような効果がより顕著に発揮される。
【0033】
酸性アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
中性アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン等が挙げられる。
【0034】
アミノ酸の分子量は、75以上500以下であるのが好ましく、75以上250以下であるのがより好ましく、75以上200以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
また、本発明の水処理剤は、アミノ酸として、グリシン、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸およびそれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。
これにより、水処理剤中におけるアミノ酸の溶解性、水処理剤の保存安定性を特に優れたものとすることができる。特に、水処理剤が後述するようなpHを呈するものである場合に、前記のような効果がより顕著に発揮される。
【0036】
水処理剤中に含まれるアミノ酸全体に占める前記群のアミノ酸の割合は、50mol%以上であるのが好ましく、70mol%以上であるのがより好ましく、90mol%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0037】
水処理剤中におけるアゾール系化合物の含有率をX1[mol%]、水処理剤中におけるアミノ酸の含有率をX2[mol%]としたとき、0.0008≦X2/X1≦30の関係を満足するのが好ましく、0.001≦X2/X1≦20の関係を満足するのがより好ましく、0.01≦X2/X1≦10の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0038】
これにより、アゾール系化合物やアミノ酸の使用量を抑制しつつ、初期段階(水処理剤の製造直後)での防食性、および、水処理剤中におけるアゾール系化合物の安定性を、より高いレベルで両立することができる。
【0039】
なお、水処理剤がアゾール系化合物として複数種の化合物を含む場合、これらの含有率の和をX1とする。また、アミノ酸として複数種の化合物を含む場合、これらの含有率の和をX2とする。
【0040】
[1-3]液性媒体
本発明の水処理剤は、上記のようなアゾール系化合物とアミノ酸とを含んでいればよいが、これらを溶解または分散させる液性媒体、言い換えると、溶媒または分散媒として機能する液体成分を、さらに含んでいるのが好ましい。
【0041】
これにより、水処理剤の取り扱いの容易性、本発明の水処理剤の被処理物に対する混合のし易さ等を向上させることができる。
【0042】
液性媒体としては、例えば、水;メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン等のケトン系化合物;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等のアルコール系化合物;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、2-メトキシエタノールや、前記多価アルコールの縮合物(多価アルコールエーテル)、前記多価アルコールまたは前記多価アルコールエーテルのアルキルエーテル(例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル等)等のエーテル系化合物;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系化合物;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ジデカン、メチルシクロヘキセン、イソプレン等の脂肪族炭化水素系化合物;トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系化合物;ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、フルフリルアルコール等の芳香族複素環化合物系化合物;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化合物系化合物;アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸ブチル、クロロ酢酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル等のエステル系化合物;トリメチルアミン、ヘキシルアミン、トリエチルアミン、アニリン等のアミン系化合物;アクリロニトリル、アセトニトリル等のニトリル系化合物;ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ系化合物;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、アクリルアルデヒド等のアルデヒド系化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
特に、水処理剤は、液性媒体として水を含んでいるのがより好ましい。
これにより、水処理剤が適用される液体(水を主成分とする液体)への、水処理剤の拡散性をより優れたものとすることができ、当該液体に適用した際に、水処理剤の構成成分(例えば、アゾール系化合物等)の機能をより好適に発揮させることができる。また、例えば、水処理剤が適用された液体が自然環境に放出された場合であっても、環境への悪影響を抑制することができる。また、水処理剤の製造コストの低減等の観点からも好ましい。
【0044】
水処理剤を構成する液性媒体が水を含んでいる場合、本発明の水処理剤中に含まれる液性媒体全体に対する水の割合は、50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのがより好ましく、90質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0045】
[1-4]ブロノポール
水処理剤は、さらに、ブロノポールを含むものであってもよい。
【0046】
これにより、水処理剤に殺菌性を好適に付与することができる。また、ブロノポールは、水処理剤中において、アゾール系化合物と共存することにより、アゾール系化合物の濃度減少を促進してしまうという問題があることを、本発明者は見出していた。これに対し、本発明においては、アミノ酸が含まれることにより、ブロノポールとアゾール系化合物とが共存する場合であっても、アゾール系化合物の濃度減少を効果的に防止することができる。言い換えると、水処理剤が、アゾール系化合物とともに、ブロノポールを含有するものである場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0047】
水処理剤中におけるアゾール系化合物の含有率をX1[mol%]、水処理剤中におけるブロノポールの含有率をX3[mol%]としたとき、0.5≦X3/X1≦60の関係を満足するのが好ましく、1≦X3/X1≦50の関係を満足するのがより好ましく、2≦X3/X1≦40の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0048】
これにより、アゾール系化合物やブロノポールの使用量を抑制しつつ、水処理剤の殺菌性、防食性を、より高いレベルで両立することができる。
【0049】
水処理剤中におけるアミノ酸の含有率をX2[mol%]、水処理剤中におけるブロノポールの含有率をX3[mol%]としたとき、0.5≦X3/X2≦12000の関係を満足するのが好ましく、1≦X3/X2≦6000の関係を満足するのがより好ましく、2≦X3/X2≦1200の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0050】
これにより、アゾール系化合物やブロノポール、アミノ酸の使用量を抑制しつつ、水処理剤の殺菌性、初期段階(水処理剤の製造直後)での防食性、水処理剤中におけるアゾール系化合物の安定性等を、より高いレベルで、いずれも高いものすることができる。
【0051】
[1-5]チアゾリン系化合物
水処理剤は、さらに、チアゾリン系化合物を含むものであってもよい。
【0052】
これにより、水処理剤に殺菌性を好適に付与することができる。特に、前述したブロノポールとともに、チアゾリン系化合物を含有することにより、水処理剤の殺菌スペクトルをより好適なものとすることができる。言い換えると、水処理剤が、アゾール系化合物とともに、チアゾリン系化合物を含有するものである場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0053】
チアゾリン系化合物は、複素5員環構造中に窒素原子および硫黄原子を1つずつ含む複素環式化合物である。言い換えると、チアゾリン系化合物は、複素5員環を有する化合物であって、当該複素5員環を構成する5つの元素のうちの1つが窒素原子であり、他の1つが硫黄原子である化合物である。
【0054】
チアゾリン系化合物としては、例えば、2-チアゾリン、3-チアゾリン、4-チアゾリン、チアゾール、チアゾリジン、イソチアゾリノン、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノン、2-アミノチアゾリン-4-カルボン酸、ルシフェリン、や、これらの化合物が有する水素原子のうちの少なくとも1つが他の原子または原子団で置換された構造の化合物等が挙げられる。
【0055】
中でも、チアゾリン系化合物は、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノンおよびオクチルイソチアゾリノンよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0056】
水処理剤中におけるアゾール系化合物の含有率をX1[mol%]、水処理剤中におけるチアゾリン系化合物の含有率をX4[mol%]としたとき、0.1≦X4/X1≦50の関係を満足するのが好ましく、0.5≦X4/X1≦40の関係を満足するのがより好ましく、1≦X4/X1≦30の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0057】
これにより、アゾール系化合物やチアゾリン系化合物の使用量を抑制しつつ、水処理剤の殺菌性、防食性を、より高いレベルで両立することができる。
【0058】
なお、水処理剤がアゾール系化合物として複数種の化合物を含む場合、これらの含有率の和をX1とする。また、チアゾリン系化合物として複数種の化合物を含む場合、これらの含有率の和をX4とする。
【0059】
水処理剤中におけるアミノ酸の含有率をX2[mol%]、水処理剤中におけるチアゾリン系化合物の含有率をX4[mol%]としたとき、0.05≦X4/X2≦6000の関係を満足するのが好ましく、0.1≦X4/X2≦2000の関係を満足するのがより好ましく、0.5≦X4/X2≦600の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0060】
これにより、アゾール系化合物やチアゾリン系化合物、アミノ酸の使用量を抑制しつつ、水処理剤の殺菌性、初期段階(水処理剤の製造直後)での防食性、水処理剤中におけるアゾール系化合物の安定性等を、より高いレベルで、いずれも高いものとすることができる。
【0061】
水処理剤中におけるブロノポールの含有率をX3[mol%]、水処理剤中におけるチアゾリン系化合物の含有率をX4[mol%]としたとき、0.01≦X4/X3≦30の関係を満足するのが好ましく、0.05≦X4/X3≦20の関係を満足するのがより好ましく、0.1≦X4/X3≦10の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0062】
これにより、ブロノポールやチアゾリン系化合物の使用量を抑制しつつ、水処理剤の殺菌性をより優れたものとすることができる。
【0063】
[1-6]スケール防止剤
水処理剤は、さらに、スケール防止剤を含むものであってもよい。
スケール防止剤としては、例えば、アクリル酸、ホスホン酸、マレイン酸系化合物等が挙げられる。
【0064】
マレイン酸系化合物としては、例えば、マレイン酸やその誘導体をモノマー単位に有する重合体等およびこれらの塩を好適に用いることができる。
【0065】
マレイン酸の誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、(N-ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。重合体は、マレイン酸またはその誘導体の単独重合体であっても、それらと共重合し得るモノマーとの共重合体であってもよい。共重合し得るモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イソブチレン、アミレン、アクリルアミドメチルプロパノールスルホン酸、アリルスルホン酸等が挙げられる。
【0066】
水処理剤中におけるスケール防止剤の含有率は、0.5質量%以上60質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上55質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以上50質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
[1-7]その他の成分
水処理剤は、上記以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、チアゾリン系化合物およびブロノポール以外の殺菌剤、アゾール系化合物以外の防食剤、pH調整剤、トレーサー物質、酸化防止剤、賦形剤、増粘剤、ゲル化剤、着色剤、充填剤、結合剤、凝固剤、滑たく剤、潤滑剤、溶解補助剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、乳濁剤、懸濁剤、芳香剤、香料、コーティング剤等が挙げられる。
【0068】
アゾール系化合物以外の防食剤としては、例えば、亜鉛化合物、リン酸化合物、第6族元素の金属酸やこれらの塩等が挙げられる。
【0069】
前記リン酸化合物としては、例えば、縮合リン酸、オルトリン酸、ホスホン酸等が挙げられ、より具体的には、ポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ウルトラメタリン酸等が挙げられる。
【0070】
前記第6族元素の金属酸としては、例えば、クロム酸、モリブデン酸、タングステン酸等が挙げられる。
【0071】
リン酸化合物、第6族元素の金属酸の塩としては、例えば、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0072】
ただし、水処理剤中におけるその他の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
[1-8]水処理剤全体としての物性・特性
本発明の水処理剤は、以下の条件を満足するのが好ましい。
【0074】
すなわち、23℃における水処理剤のpHは、0.0以上3.0未満であるのが好ましく、0.0以上2.8未満であるのがより好ましく、0.0以上2.7未満であるのがさらに好ましい。
【0075】
これにより、水処理剤中の各成分の安定性を、より高いレベルにすることができる。
【0076】
また、本発明の水処理剤を50℃の密閉条件下で14日間静置した場合における、アゾール系化合物の残存率が、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
【0077】
これにより、より長期間にわたってアゾール系化合物の機能を安定的に発揮させることができる。
【0078】
本発明の水処理剤は、いかなる形態をなすものであってもよく、本発明の水処理剤の形態としては、例えば、タブレット状、粉末状(顆粒を含む)、ゲル状、液状、ペースト状等が挙げられる。
【0079】
[2]水処理剤の安定化方法
次に、本発明の水処理剤の安定化方法について説明する。
【0080】
本発明の水処理剤の安定化方法は、アゾール系化合物を含む水処理剤に、アミノ酸を含有させることを特徴とする。
【0081】
これにより、長期間にわたってアゾール系化合物の機能を安定的に発揮させることができる水処理剤の安定化方法を提供することができる。
【0082】
アミノ酸を含有させた後に得られる最終的な水処理剤は、上記[1]で詳述した条件を満足するものであるのが好ましい。
これにより、前述した効果が得られる。
【0083】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【実施例
【0084】
以下に具体的な実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に温度条件、湿度条件を示していない処理は、室温(23℃)、相対湿度50%において行ったものである。また、各種測定条件についても、特に温度条件、湿度条件を示していないものは、室温(23℃)、相対湿度50%における数値である。
【0085】
[3]水処理剤の製造
(実施例1)
アゾール系化合物、アミノ酸等の各成分を所定の割合で混合することにより、表1に示す組成の水処理剤を製造した。
【0086】
(実施例2~18)
構成成分の種類、含有率が、表1に示すものとなるように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水処理剤を製造した。なお、実施例8、9、12、13については、表1に示す所定のpHとなる様に、塩酸または水酸化ナトリウムを併せて混合した。
【0087】
(比較例1~4)
アミノ酸を用いず、構成成分の種類、含有率が、表1に示すものとなるように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水処理剤を製造した。なお、比較例2~4については、表1に示す所定のpHとなる様に、塩酸または水酸化ナトリウムを併せて混合した。
【0088】
前記各実施例および各比較例の水処理剤の構成を表1にまとめて示す。また、表1中には、水処理剤中におけるアゾール系化合物の含有率をX1[mol%]、水処理剤中におけるアミノ酸の含有率をX2[mol%]、水処理剤中におけるブロノポールの含有率をX3[mol%]、水処理剤中におけるチアゾリン系化合物の含有率(複数種類を含む場合は合計値)をX4[mol%]としたときのこれらの比率(X2/X1、X3/X1、X3/X2、X4/X1、X4/X2、X4/X3)および23℃における水処理剤のpHの値も併せて示す。なお、表1中、ベンゾトリアゾールを「BTA」、グリシン(中性アミノ酸)を「Gly」、L-グルタミン酸ナトリウム(酸性アミノ酸)を「GluNa」、L-グルタミン酸(酸性アミノ酸)を「GluAcid」、L-グルタミン(中性アミノ酸)を「Glu」、L-アラニン(中性アミノ酸)を「Ala」、L-アルギニン(塩基性アミノ酸)を「Arg」、L-アスパラギン酸(酸性アミノ酸)を「AspAcid」、ブロノポールを「BNP」、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを「CMIT」、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを「MIT」、イソブチレン-マレイン酸共重合物のナトリウム塩を「PIBMNa」で示した。
【0089】
【表1】
【0090】
[4]評価
前記各実施例および各比較例の水処理剤を50℃の遮光条件下で14日間静置し、その後、高速液体クロマトグラフィーを用いた測定により、製造直後の水処理剤中における含有量との比較を行い、その結果から、アゾール系化合物およびブロノポールの残存率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0091】
A:残存率が90%以上。
B:残存率が70%以上90%未満。
C:残存率が50%以上70%未満。
D:残存率が30%以上50%未満。
E:残存率が30%未満。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2から明らかなように、本発明の水処理剤は、優れた効果が得られたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0094】
また、実施例2、4、比較例1の水処理剤について、消毒力の評価を行ったところ、アミノ酸の含有による消毒力の低下は認められなかった。
消毒力の評価は、以下のようにして行った。
【0095】
すなわち、まず、試験菌株としてシュードモナス属菌(Pseudomonas Fluorescens NBRC-3081)を用意した。
上記試験菌株をMueller Hinton Agar(関東化学株式会社製)で30℃±1℃、18~24時間培養した後、シュードモナス属菌を単離するため、Mueller Hinton Broth(ベクトン・ディッキンソン社製)に1白金耳接種させ、30℃±1℃、18~24時間培養した後にOD値を測定した。OD値が0.5に最も近い単離後1世代目の培養菌液より、もう一度Mueller Hinton Brothに1白金耳接種させ、30℃±1℃、18~24時間培養した後、OD値を測定しOD値が0.5に最も近い単離後2世代目の培養菌液を試験菌液とした。
【0096】
滅菌済み蒸留水を用いて、前記各実施例および各比較例の水処理剤を添加濃度の10倍に希釈し、このようにして得られた各希釈液1mlをMueller Hinton Broth2世代目の培養菌液を1白金耳接種して、30℃±1℃、18~24時間培養した後にOD値を測定した。