(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】車両用電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240926BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20240926BHJP
H02H 3/16 20060101ALI20240926BHJP
B60L 1/00 20060101ALI20240926BHJP
B60L 3/04 20060101ALI20240926BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240926BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20240926BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H02J7/00 S
H02J7/00 302C
H02J7/00 302B
H02J7/02 G
H02H3/16 A
B60L1/00 L
B60L3/04 D
B60L50/60
B60L58/10
(21)【出願番号】P 2020065916
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【氏名又は名称】田下 明人
(72)【発明者】
【氏名】槇尾 大介
(72)【発明者】
【氏名】山野上 耕一
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026973(JP,A)
【文献】特開平09-084212(JP,A)
【文献】特開2013-158109(JP,A)
【文献】国際公開第2013/098873(WO,A1)
【文献】特開2010-124535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
H02H 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定低電圧で作動する電気負荷と、
前記所定低電圧を供給する各ノードを構成する複数の蓄電素子を直列に接続して高電圧の直流電源を得る高電圧電源と、
ワイヤーハーネスを介して高電圧電源と接続された高電圧負荷装置と、
前記電気負荷に前記所定低電圧を供給する各ノードに対応して設けられた複数の
スイッチング手段と、
少なくとも1つのノードからの電圧を供給する前記
スイッチング手段をオンし、他のノードからの電圧を供給する前記
スイッチング手段をオフにすることで電圧を供給するとともに、一旦全ての
スイッチング手段をオフにするデッドタイム期間を設けた後、次に電圧を供給するノードの前記
スイッチング手段をオンとし、他のノードからの電圧を供給する
スイッチング手段をオフにする制御を順次繰り返すことで、全ての前記蓄電素子から電圧を供給させる制御手段と、
前記高電圧電源と高電圧負荷装置との間の電気回路を遮断する遮断手段と、
高電圧電源と高電圧負荷装置とで形成される回路部位と接地電位との間の漏電抵抗を検出して前記制御手段に信号を送出する漏電検出手段と、を備えた車両用電源装置であって、
前記制御手段は、前記遮断手段がオフである期間に前記漏電検出手段から送出される信号を判定し、漏電抵抗が所定の値以下である場合には、前記スイッチング手段が全てオフである状態を所定期間保持することを特徴とする車両用電源装置。
【請求項2】
前記高電圧電源は、n個(n:自然数)で前記所定低電圧となるノードを構成する複数の蓄電素子を直列に(n×N(N:自然数))個接続して、前記所定低電圧のN倍の高電圧の直流電源を得ることを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
選択する複数の
前記ノードを周期的に変更するように前記
スイッチング手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、
選択する
前記ノードを決定することを特徴とする請求項3に記載の車両用電源装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、各ノードの選択保持時間を決定することを特徴とする請求項3に記載の車両用電源装置。
【請求項6】
前記遮断手段によって前記高電圧電源と高電圧負荷装置とを接続する時間は、前記高電圧電源から人体に流れる電流の継続時間が、人体の感電事故が起きる時間未満となるように設定したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項7】
前記遮断手段によって前記高電圧電源と高電圧負荷装置を接続する時間は、前記高電圧電源の電圧値に反比例した継続時間、又は、前記漏電検出手段が検出する漏電抵抗値に比例した継続時間としたことを特徴とする請求項6に記載の車両用電源装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記漏電検出手段の漏電抵抗検出値が所定の値以下の時、前記スイッチング手段を全てオフの状態に固定することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記漏電検出手段の漏電抵抗検出値が所定の値以下の時、前記スイッチング手段が全てオフである状態を所定の時間保持した後、再度、前記スイッチング手段が前記各ノードと前記電気負荷を選択的に接続する動作を繰り返すことを特徴とする請求
項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記漏電検出手段が検出した抵抗値が第一の閾値以下の時、前記スイッチング手段をオフとし、該抵抗値が前記第一の閾値より大きい第二の閾値以上となった場合に、再度、前記スイッチング手段をオンとする動作を繰り返すことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記遮断手段が前記高電圧電源と前記高電圧負荷装置とを接続している期間と、前記高電圧電源から人体に流れる電流値との積が0.003アンペア×1秒以下となるように前記遮断手段を制御することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記蓄電素子の各ノードにおける充放電深度の大きさが所定値以下となるように、前記スイッチング手段が選択するノードを切り替える周期を所定値以下に設定することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項13】
前記電気負荷と並列に低圧コンデンサが接続されることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項14】
前記高電圧負荷装置と並列に高圧コンデンサが接続されることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【請求項15】
前記デッドタイム期間、又は、前記低圧コンデンサの容量値は、該デッドタイム期間中に前記電気負荷に印加される電圧の低下幅が所定値以下となるように設定されることを特徴とする請求項13に記載の車両用電源装置。
【請求項16】
前記遮断手段のオフ期間、又は、前記高圧コンデンサの容量値は、該遮断手段のオフ期間中に前記高電圧負荷装置に印加される電圧の低下幅が所定値以下となるように設定されることを特徴とする請求項14に記載の車両用電源装置。
【請求項17】
前記蓄電素子の各ノードと並列にコンデンサが配設されることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の車両用電源装置。
【請求項18】
前記複数の蓄電素子を直列に接続して高電圧の直流電源を得る高電圧電源の前記各ノードから、前記スイッチング手段によって前記電気負荷と接続する際の高電位側と低電位側との極性を所定期間ごとに交互に反転することによって、該電気負荷へ交流電力を供給することを特徴とする請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の車両用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される電源装置であって、特に走行駆動等に用いる高圧蓄電手段と、走行駆動用以外の電気負荷へ供給する低電圧電源とを具備するとともに、該高圧蓄電手段から降圧手段を介して前記低電圧電源を得るがごとく構成したものである。
【背景技術】
【0002】
上記電源装置として、本出願人の提案に係る車両用電源装置が公知である(特許文献1)。これによると、蓄電素子を直列に接続して形成した高圧電源から、所定の蓄電素子グループを選択的に低電圧電気負荷と接続することで、高電圧から低電圧へと電力変換を行う構成において、該蓄電素子グループを高速で切り替えることによってスイッチング手段のスイッチング損失を略ゼロにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行駆動用電力蓄電手段の電圧は48ボルト程度の低電圧から600ボルト程度の高電圧を用いたシステムまで様々な実施形態があり、一般的に60ボルトを超える電圧範囲においては人体が車両の蓄電手段と接続された電気回路部分に触れた際の感電事故防止に配慮することが必要である。
その為、車両の一般的な高電圧システムにおいては
図1に示すように高電圧部位と低電圧部位との間に絶縁トランスを備えたDC-DCコンバータを配置すると共に、高電圧回路は車体との直接接続を避けて負電位回路と正電位回路の双方をフローティングとすることで、人体が高電圧蓄電手段を含む回路部分のいずれの部位に触っても感電しない構成となっている。
【0005】
ここで、特許文献1によると、低電圧回路である負荷手段50の低電位側は一般的に12ボルト電源のボディーアースとして車体に接地されることになるから、スイッチ手段30~35の内、いずれか1つ以上が閉じている場合には高電圧側の直列に接続された蓄電手段20a~20Lの接続点のどこかが車体と直接接続されるので、人体が高電圧回路に触れると感電する。具体的には、蓄電手段20a~20Lの直列合計電圧が仮に480ボルトであるとして、スイッチ手段35が閉じている瞬間に蓄電手段20aの正電位側と車体との間に触れると人体に480ボルトの高電圧が印加されて感電事故が発生する可能性が考えられる。
【0006】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、車両に搭載され高電圧電源から降圧手段を介して低電圧電源を得る車両用電源装置において、高電圧側の電圧が人体の感電限界である60ボルトを超えるシステムとした場合においても、トランス等の絶縁手段を用いることなく感電事故を防止することができ、且つ低電圧側への電力変換機能において容易に略100%の電力変換効率を得る車両用電源装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明による車両用電源装置は、所定低電圧で作動する電気負荷と、前記所定低電圧を供給する各ノード(グループノード)を構成する複数の蓄電素子を直列に接続して高電圧の直流電源を得る高電圧電源と、ワイヤーハーネスを介して高電圧電源と接続された高電圧負荷装置と、前記電気負荷に前記所定低電圧を供給する各ノードに対応して設けられた複数のスイッチング手段と、少なくとも1つのノードからの電圧を供給する前記スイッチング手段をオンし、他のノードからの電圧を供給する前記スイッチング手段をオフにすることで電圧を供給するとともに、一旦全てのスイッチング手段をオフにするデッドタイム期間を設けた後、次に電圧を供給するノードの前記スイッチング手段をオンとし、他のノードからの電圧を供給するスイッチング手段をオフにする制御を順次繰り返すことで、全ての蓄電素子から電圧を供給させる制御手段と、制御手段によって前記高電圧電源と高電圧負荷装置との間の電気回路を周期的に遮断する遮断手段と、該高電圧電源と高電圧負荷装置とで形成される回路部位と接地電位との間の漏電抵抗を検出して前記制御手段に信号を送出する漏電検出手段と、を備える。そして、前記制御手段は、前記遮断手段がオフである期間に前記漏電検出手段から送出される信号を判定し、漏電抵抗が所定の値以下である場合には、前記スイッチング手段が全てオフである状態を所定期間保持することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明による車両用電源装置では、前記高電圧電源は、n個(n:自然数)で前記所定低電圧となるノードを構成する複数の蓄電素子を直列に(n×N(N:自然数))個接続して、前記所定低電圧のN倍の高電圧の直流電源を得る。
【0009】
請求項3の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、選択する複数の前記ノードを周期的に変更するように前記スイッチング手段を制御する。
【0010】
請求項4の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、前記複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、選択する前記ノードを決定する。
【0011】
請求項5の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、前記複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、各ノードの選択保持時間を決定する。
【0012】
請求項6の発明による車両用電源装置では、前記遮断手段によって前記高電圧電源と高電圧負荷装置とを接続する時間は、前記高電圧電源から人体に流れる電流の継続時間が、人体の感電事故が起きる時間未満となるように設定した。
【0013】
請求項7の発明による車両用電源装置では、前記遮断手段によって前記高電圧電源と高電圧負荷装置を接続する時間は、前記高電圧電源の電圧値に反比例した継続時間、又は、前記漏電検出手段が検出する漏電抵抗値に比例した継続時間とした。
【0014】
請求項8の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、前記漏電検出手段の漏電抵抗検出値が所定の値以下の時、前記スイッチング手段を全てオフの状態に固定する。
【0015】
請求項9の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、前記漏電検出手段の漏電抵抗検出値が所定の値以下の時、前記スイッチング手段が全てオフである状態を所定の時間保持した後、再度、前記スイッチング手段が前記各ノードと前記電気負荷を選択的に接続する動作を繰り返す。
【0016】
請求項10の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、前記漏電検出手段が検出した抵抗値が第一の閾値以下の時、前記スイッチング手段をオフとし、該抵抗値が前記第一の閾値より大きい第二の閾値以上となった場合に、再度、前記スイッチング手段をオンとする動作を繰り返す。
【0017】
請求項11の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、前記遮断手段が前記高電圧電源と前記高電圧負荷装置とを接続している期間と、前記高電圧電源から人体に流れる電流値との積が0.003アンペア×1秒以下となるように前記遮断手段を制御する。
【0018】
請求項12の発明による車両用電源装置では、前記制御手段は、蓄電素子の各ノードにおける充放電深度の大きさが所定値以下となるように、前記スイッチング手段が選択するノードを切り替える周期を所定値以下に設定する。
【0019】
請求項13の発明による車両用電源装置では、前記電気負荷と並列に低圧コンデンサが接続される。
【0020】
請求項14の発明による車両用電源装置では、前記高電圧負荷装置と並列に高圧コンデンサが接続される。
【0021】
請求項15の発明による車両用電源装置では、前記デッドタイム期間、又は、前記低圧コンデンサの容量値は、該デッドタイム期間中に前記電気負荷に印加される電圧の低下幅が所定値以下となるように設定される。
【0022】
請求項16の発明による車両用電源装置では、前記遮断手段のオフ期間、又は、前記高圧コンデンサの容量値は、該遮断手段のオフ期間中に高電圧負荷装置に印加される電圧の低下幅が所定値以下となるように設定される。
【0023】
請求項17の発明による車両用電源装置では、蓄電素子の各ノードと並列にコンデンサが配設される。
【0024】
請求項18の発明による車両用電源装置では、前記複数の蓄電素子を直列に接続して高電圧の直流電源を得る高電圧電源の前記各ノードから、前記スイッチング手段によって前記電気負荷と接続する際の高電位側と低電位側との極性を所定期間ごとに交互に反転することによって、該電気負荷へ交流電力を供給する。
【発明の効果】
【0025】
請求項1、請求項2の発明によれば、低電圧電源の電圧をVLとすると、蓄電素子を直列に接続した高電圧電源の電圧VHはVL×N(Nは自然数)であって、且つ該蓄電素子の個数はN×n(nは自然数)であるので、例えばVLを12ボルトとして、N=40とした場合、VHは480ボルトとなるとともに、n=4とすると合計でN×n=160個の直列蓄電素子で高圧電源を構成することになると同時に、該蓄電素子1個当たりの電圧は3ボルトとなる。
【0026】
そこで、12ボルトの低電圧電源を得る為には4個の直列蓄電素子をクループ的に選択して電気負荷と接続すれば良い。
【0027】
しかるに、480ボルトの高圧電源から12ボルトの低電圧電源を得る為に、公知のスイッチング電源回路等によるDC-DCコンバータを用いる必要はなく、直列に接続された蓄電素子の各ノード(グループノード)から選択的に電気負荷と接続する単純なスイッチング手段によって降圧を実現可能である。
従って、スイッチング手段の構成が簡略化可能であるとともに、公知のスイッチング損失やインダクターから発生する損失を大幅に低減できるから、降圧のための電力損失を低減して放熱構造を簡略化し、その結果、かかる降圧のための装置を含む電源装置の重量とコストを低減できる。
【0028】
ここで、高電圧電源の直列に接続された蓄電素子のノードの一部がスイッチング手段を介して低電圧回路、即ち車体の金属部位と接続されるから、高電圧電源回路部位に触れると人体に感電電流が流れる。
しかしながら制御手段は、周期的に遮断手段をオフにして車両用電源装置の外部と接続された高電圧回路部位から流れる地絡電流を、漏電検出手段による漏電抵抗値として検出し、その値が所定値以下である場合には人体が高電圧回路に触れていると判定し、スイッチング手段をオフにして高電圧電源と低電圧回路、即ち車体の金属部位との接続を切り離すから、車体と高電圧電源との間に触れたことによる人体への通電を阻止して感電事故を防止することができる。
【0029】
請求項2の発明によれば、高電圧電源は、n個(n:自然数)で所定低電圧となるノードを構成する複数の蓄電素子を直列に(n×N(N:自然数))個接続して、所定低電圧のN倍の高電圧の直流電源を得る。このため、全ての蓄電素子を用いて効率的に高電圧と所定低電圧とを供給することができる。
【0030】
請求項3の発明によれば、制御手段によって、スイッチング手段が複数の蓄電素子の中から選択するノードを周期的に変更させるようにしたから、直列に接続された蓄電素子の内、一部の蓄電素子だけが放電してその他の蓄電素子が過充電となるといった不具合を防止することができる。
【0031】
請求項4の発明によれば、制御手段は、複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、選択するノードを決定するから、複数の蓄電素子を直列にして充放電する際に必要となる公知のセルバランス機能を兼ね備えることができる。
【0032】
請求項5の発明によれば、制御手段は、複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、各ノードの選択保持時間を決定する。複数の蓄電素子の充放電状態が略均一となるように、充電量の大きい蓄電素子の中から選択するノードに対しては放電時間が長くなるように、逆に充電量の小さい蓄電素子の中から選択するノードに対しては放電時間が短くなるように、各ノードの選択保持時間を決定する。複数の蓄電素子を直列にして充放電する際に必要となる公知のセルバランス機能を兼ね備えることができる。
【0033】
人体に高電圧を印加すると、5ミリアンペア以下の電流値であれば人体への影響がないとされている。これよりも大きな電流域ではその継続時間によって人体反応が変化することが知られており、電流値が大きくなる程に短時間の感電で人体が障害を受ける。
従って、一般的な商用電源に用いられる漏電遮断器においては30ミリアンペア×0.1秒の漏電検出感度が設定されている。
【0034】
そこで、請求項6の発明によれば、制御手段は、遮断手段によって高電圧電源と高電圧負荷装置とを接続する期間は、高電圧電源から人体に流れる漏電電流の継続時間が人体の感電事故が起きる時間未満としたから、人が高電圧部位に触れた場合においても人体への障害を無くすことができる。
【0035】
請求項7の発明によれば、制御手段は、遮断手段によって高電圧電源と高電圧負荷装置とを接続する期間を、高電圧電源の電圧値に反比例した継続時間か、又は、漏電検出手段が検出した抵抗値に比例した継続時間となるように設定される。高電圧電源の電圧値か、又は人体を介して接地との間で生じる抵抗値が小さくなって人体の感電電流が大きくなる場合には、人体への通電時間、すなわち感電時間を短くすることができるのでより安全性が向上する。
【0036】
請求項8の発明によれば、制御手段は、漏電検出手段の検出抵抗値が所定の値以下の時、スイッチング手段をオフの状態に固定する。これによって、高電圧電源と車体とが接続される電気回路を遮断することで、車体と高電圧電源との間に触れたことによる人体への通電を阻止して感電事故を防止することができるのでより安全性が向上する。
【0037】
請求項9の発明によれば、制御手段は、漏電検出手段の検出抵抗値が所定の値以下の時、スイッチング手段がオフである状態を0.5秒等の所定時間以上保持した後、スイッチング手段を再度オンとする動作を繰り返す。人体の感電に対して十分な休止時間を持たせて安全性を確保すると共に、車体各部の故障によって一時的な漏電が発生したとしても高電圧電源から低電圧の前記電気負荷への電力供給が再開するので、車両機能を維持することができる。
【0038】
請求項10の発明によれば、漏電検出手段の検出抵抗値が、例えば10キロオームとした第一の閾値以下の時スイッチング手段をオフとした後、検出抵抗値が例えば100キロオームとした第二の閾値以上となった場合には再度スイッチング手段をオンとする動作を繰り返す。検出抵抗値が小さく人体への感電電流が大きい危険な領域においては高電圧電源と低電圧回路との接続を遮断し、検出抵抗値が大きく感電電流が安全な値まで低下した場合には、再度接続するように構成したから、人体の安全性が確保されるとともに車体各部の故障によって一時的な漏電電流が発生したとしても高電圧電源から電気負荷への電力供給が再開するので、車両機能を維持することができる。
【0039】
請求項11の発明によれば、制御手段は、遮断手段が高電圧電源と高電圧負荷装置とを接続する期間と人体の感電電流値との積が0.003アンペア×1秒以下となるようにスイッチング手段を制御する。一般的な商用電源で採用される漏電遮断器の規格0.03アンペア×0.1秒以下と同程度の安全水準を確保することができる。
【0040】
請求項12の発明によれば、制御手段は、蓄電素子の各ノードにおける充放電深度の大きさが所定値以下となるように、前記スイッチング手段が選択するノードを切り替える周期を所定値以下に設定する。各蓄電素子の充放電深度が過大になることによる該蓄電素子の寿命低下を最小限に留めることができる。
【0041】
請求項13の発明によれば、制御手段がスイッチング手段に対して、全てのノードと電気負荷との間の接続を切り離す所謂デッドタイムの期間中に、低圧コンデンサから電力を供給することで該電気負荷へ供給される電圧が低下するのを抑止することができる。該電気負荷へ供給する電圧を安定に保つことができる。
【0042】
請求項14の発明によれば、制御手段が遮断手段をオフとしている期間中に、高圧コンデンサから高電圧負荷装置へ電力を供給することで該高電圧負荷装置へ供給される電圧が低下するのを抑止することができ、係る負荷装置へ供給する電圧を安定に保つことができる。
【0043】
請求項15の発明によれば、スイッチング手段が切り替わる前後の電気負荷に印加される電圧を保持できるから、該スイッチング手段がオンとなる直前の該スイッチング手段両端の電位差が無くなってスイッチング損失を排除できるという効果がある。
【0044】
請求項16の発明によれば、遮断手段が切り替わる前後の高電圧負荷装置に印加される電圧を保持できるから、該遮断手段がオンとなる(又はオフとなる)前後の該遮断手段両端の電位差が無くなってスイッチング損失を排除できるという効果がある
【0045】
次に、スイッチング手段が任意のノードに対して接続の切り替えを行った直後において、蓄電素子の内部抵抗が大きい場合には、電気負荷と並列に接続した低圧コンデンサを充電する為に多くの時間を要する。
その為、スイッチング手段が切り替わるタイミングにおける電気負荷へ供給される電圧の低下が避けられない。
【0046】
そこで、請求項17の発明によれば、蓄電素子の直列ノードと並列に内部インピーダンスの小さいコンデンサを配設したから、スイッチング手段が任意のノードに対して接続の切り替えを行った直後に、十分小さい電源インピーダンス、即ち大きな電流で前記低圧コンデンサを充電でき、電気負荷へ供給される電圧の低下を抑制することが可能である。
同様に、前記遮断手段がオンした場合に前記高圧コンデンサに対する充電電流を大きくすることができるので、高電圧負荷装置へ供給される電圧の低下を抑制できる。
【0047】
請求項18の発明によれば、複数の蓄電素子を直列に接続して高電圧の直流電源を得る高電圧電源の各ノードから、スイッチング手段によって電気負荷と接続する際の高電位側と低電位側との極性を所定期間ごとに交互に反転することによって、該電気負荷へ交流電力を供給する。車両において商用電源を必要とする家庭用電気製品を使用するための交流電源を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】一般的な車両用電源装置の基本的構成を表す図である
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の基本的構成を表す図である
【
図3】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の基本的動作を表すタイミングチャートである
【
図4】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の感電防止方法を説明する図である
【
図5】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の感電防止方法を説明する図である
【
図6】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の感電防止方法を説明する図である
【
図7】蓄電素子各ノードの電圧を測定する構成を表す図である
【
図9】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の一実施態様を表す図である
【
図10】スイッチング素子の電力損失を説明した図である
【
図11】スイッチング素子の電力損失を説明した図である
【
図13】本発明の実施形態に係る車両用電源装置の他の実施態様を表す図である
【
図14】電気負荷へ交流電力を供給する方法を説明した図である
【
図15】蓄電素子の電圧を昇圧する構成とした実施態様を示す図である
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0049】
以下、各図を参照しながら本発明の車両用電源装置の実施態様について説明する。
図2は、本発明にかかる基本的な実施態様であり、車両用電源装置1は、図示しない車両に搭載してエンジンとモータによって走行を行う駆動機構と機械的に連結された発電手段によって充電される、二次電池からなる蓄電素子1a~40dと、スイッチング手段S1a~S40b、制御手段200、漏電検出手段100、遮断手段500、501とから構成される。また、車両用電源装置1は12ボルトで作動するとともに負電位側の一端が車体と電気的に接続された電気負荷300と接続されるとともに、外部に延びたワイヤーハーネスW1、W2を介して高電圧負荷装置400と接続して高電圧の蓄電素子1a~40dの電力を高電圧負荷装置400へ供給する。
【0050】
尚、
図2においては蓄電素子3bから39d、及びそれら蓄電素子と接続されるスイッチング手段S3bからS39a、さらに該スイッチング手段と制御手段200とが接続される部位の図は省略してある。
【0051】
図示しない発電手段は、車両電装品に必要な電力を供給する為、エンジンによって駆動されるとともに、車両の減速時には駆動機構を介して減速時の運動エネルギーを回生して蓄電素子1a~40dを充電するが如く作用する。
【0052】
蓄電素子1a~40dの各ノードは、例えば充電電圧3Vのリチウムイオン電池であり、該蓄電素子1aから40dの全ノードを直列に接続して、電気負荷300の要求電圧12ボルトに対する倍数Nを40として、合計480ボルトの高圧電源が形成される。また、該高圧電源は車載されたモータ、インバータ等から成る高電圧負荷装置400へ供給して、エンジンの駆動トルクをアシストするように作用する。これによって、車両の力行時には、減速時に回生したエネルギーを再利用して走行できるから車両の走行燃費向上を図ることが可能になる。
【0053】
蓄電素子1a~40dは、1aから1dのノードを第1のグループノードとして、2aから2dのノードを第2のグループノードとして、3aから3dのノードを第3のグループノードとして、最終的に40aから40dのノードを第40のグループノードとして、それぞれ各グループノードの両端部へスイッチング手段S1a~S40bを接続してある。
【0054】
尚、蓄電素子1a~40dのノード総個数は、倍数N=40に各グループノード内の個数n=4を掛け合わせて、合計はN×n=160個としてある。請求項中で、グループノードは単にノードとして参照される場合がある。
ここで、第1から第40の各グループノードにおける直列蓄電素子の合計電圧は3ボルト×4=12ボルトとなる。
【0055】
図2において、200は制御手段でありスイッチング手段S1aからS40bのオン/オフ状態と遮断手段500、遮断手段501のオン/オフ状態とを制御するように作用する。
【0056】
制御手段200は、
図3に示す如くスイッチング手段S1aとS2aとをオンにして電気負荷300と蓄電素子の第1グループノードを例えば10ミリ秒に設定したTon時間の間接続する。この時、スイッチング手段S1aとS2a以外のスイッチング手段はオフとなっている。スイッチング手段S2aは第1グループノードの正極側とつながっており、スイッチング手段S1aは第1グループノードの負極側とつながっているから、Tonの間、電気負荷300に12ボルトの直流電圧が印加されることになる。
【0057】
次に制御手段200は、
図3に示す期間Tdの間、前述したすべてのスイッチング手段S1a~S40bをオフに維持する。該時間Tdを設ける理由は、例えばスイッチング手段S1aとスイッチング手段S1bとが同時にオンする期間があると、該スイッチング手段S1aとスイッチング手段S1bと蓄電素子のノード1a、1b、1c、1dとで形成される閉回路に過大な電流が流れて、スイッチング手段の破損或いは、各蓄電素子の充電電力を無駄に消費するといった事態を招くからである。
【0058】
スイッチング手段S1a~S40bとして、例えば公知のMOSFETを採用した場合には、制御手段200から各スイッチング手段のオン/オフを制御する信号を送出した際に、実際に該スイッチング手段S1a~S40bが応動するまでに時間遅れが発生することが知られている。従って、制御手段200は所望のスイッチング手段をオフにしてから、他のスイッチング手段をオンするまでに十分な待ち時間Tdを要する。このTdをデッドタイムと称し、一般的なMOSFETの場合数十ナノ秒から数マイクロ秒が必要である。
【0059】
以上のようにして制御手段200は、蓄電素子の第1グループノードにおいては、スイッチング手段S1a、S2aをTonの間オンにして、電気負荷300と接続することによって該電気負荷300へ要求電圧の12ボルトを供給し、続いて第2グループノードにおいては、スイッチング手段S1b、S3aを介してTonの間、電気負荷300と接続し、さらに第3グループノードにおいては、スイッチング手段S2b、S4aを介してTonの間、電気負荷300と接続し、最終的に第40グループノードにおいては、スイッチング手段S39b、S40bを介してTonの間、電気負荷300と接続するが如く、
図3のT(Ton時間10ミリ秒×グループノード数40=0.4秒)を1周期として繰り返し、電気負荷300へ12ボルトの直流電力の供給を続けるように作用するものとしたから第1から第40の各蓄電素子グループノードの充放電状態を略均一に保つことができる。
【0060】
次に
図2、
図4及び
図5を参照して、漏電検出手段100の作用を説明する。
漏電検出手段100は端子T102と端子T101とを介して、車両用電源装置の外部に延びたワイヤーハーネスW1とW2とによる高電圧回路部位へ接続するとともに、端子T103を経由して車体へ接地してある。ここで、該漏電検出手段100はその内部に図示しない電圧源を具備しており、端子T101と接地端子T103との間に流れる電流、及び端子T102と接地端子T103との間に流れる電流の値から、該端子T101と接地との間の電気的抵抗値と、端子T103と接地との間の電気的抵抗値を測定して、いずれか小さい方の抵抗値を制御手段200へ出力するように構成してある。
【0061】
遮断手段500と501とがオフである期間において、漏電検出手段100の端子T101と端子T102とは車体に対してフローティングとなっているから上記漏電抵抗値は略無限大となっている。ところが、ワイヤーハーネスW1側の高電圧回路部位に人体が触れると、該人体の抵抗値が5KΩ程度であることから端子T101と接地端子T103との間に比較的小さい抵抗値が検出される。
【0062】
図4に示す如く制御手段200は遮断手段500、501をTNの期間オンとし、TF1(TF2)の期間オフとする動作を周期TSで繰り返し、該遮断手段500、501がオンとなっている期間は蓄電素子1aから40dによる高電圧電源が高電圧負荷装置400へ供給され、遮断手段500、501がオフとなっている期間は車両用電源装置1から外部と接続されるワイヤーハーネスW1、W2による高電圧回路部位が遮断されてフローティング状態となっている。
従って、
図4の期間TF1における漏電検出手段100の漏電抵抗値RLeakは無限大である。しかし、期間TF2は人体が車両用電源装置外部の高電圧回路部位に触れている為、漏電検出手段100が検出する漏電抵抗値RLeakは比較的小さな値となる。
【0063】
制御手段200は、上記漏電検出手段100の端子T100を介して制御手段200の端子T200へ漏電抵抗値RLeakを取り込んでおり、RLeakが所定の閾値RLth以下であることを検出した場合、
図4に示すようにスイッチング手段S1a~S40bをオフとして固定する。
別の実施態様として、制御手段200は
図5で示す如くスイッチング手段S1a~S40bがオフである期間Tholdを例えば0.5秒程度に設定し、再度スイッチング手段S1a~S40bが各グループノードを選択接続する動作を繰り返しても良い。
【0064】
図5において、制御手段200は遮断手段500、501のオフ期間TF2において漏電抵抗値RLeakが閾値RLthよりも小さいことから、前記高電圧回路部位へ人体が接触していると判断し、Tholdの期間スイッチング手段S1a~S40bをオフとする。
【0065】
次に制御手段200は、スイッチング手段S1a~S40bの内、前記期間TF2の間に選択されていたグループノートの次に選択されるべき順位にあるグループノードを選択接続するスイッチング手段として、例えばS2bとS4aとをオンにする。
【0066】
続けて制御手段200は、遮断手段500、501のオフ期間TF3における漏電抵抗値RLeakが閾値RLthよりも小さいことから、未だ人体が高電圧回路に接触していると判断し、スイッチング手段S2b、S4aとを含む全てのスイッチング手段を再度オフとした状態をThold期間だけ継続することで前記オンとオフを約0.5秒の周期で繰り返す。
【0067】
遮断手段500、501のオフ期間TF※(※は任意)における漏電検出手段100の漏電抵抗値RLeakが閾値RLth以上である場合には、人体が高電圧回路に接触していないと判断されスイッチング手段S1a~S40bはオン状態へ移行して前記グループノードの電圧を選択的に低電圧の電気負荷300へ供給する動作を再開する。
【0068】
さらに別の実施態様として、
図6に示すように制御手段200は、遮断手段500、501のオフ期間TF2において漏電抵抗値RLeakが第一の閾値RLth1以下であることを検出した場合、スイッチング手段S1a~S40bをオフ状態とし、その後期間TF3において漏電抵抗値RLeakが未だ第一の閾値RLth1以下であることから、スイッチング手段S1a~S40bをオフ状態として継続し、さらに期間TF4において漏電抵抗値RLeakが前記第一の閾値RLth1より大きい第二の閾値RLth2以上となったことを検出した場合にスイッチング手段S1a~S40bの内、所定の一組を再度オンにして前記グループノードの電圧を選択的に低電圧の電気負荷300へ供給する動作を再開しても良い。
【0069】
尚、前記第一の閾値RLth1は、前記高電圧電源の電圧値480Vを、人体への影響が無いとされる電流値5ミリアンペアで割り算して、約100キロオームに設定し、第二の閾値RLth2は該RLth1と、前記フローティングとなった高電圧回路と接地間の略無限大となる絶縁抵抗値との中間付近の抵抗値として1メガオーム程度に設定することが望ましい。
【0070】
上記のように構成することで、制御手段200はスイッチング手段S1a~S40bをオフにすることで高電圧電源と低電圧回路、即ち車体の金属部位との接続を切り離すから、車体と高電圧電源との間に触れたことによる人体への通電を阻止して感電事故を防止することができる。尚、車両用電源装置1は図示しない筐体で囲むことによって、該車両用電源装置1の内部に直接人体が触れて感電することが防止されている。
【0071】
次に、図示しない発電手段は、蓄電素子1aから40dのノード全体を直列にした電圧が所定の最大値になるように、該蓄電素子の充電電圧を制限している。
【0072】
一方で、電気負荷300の消費電流は一定ではなく、例えば電動パワーステアリングのように運転者の操作状態によって短時間で大きく変化する場合がある。この場合、制御手段200によってスイッチング手段S1aからS40bの制御を行い、蓄電素子の第1グループノードから第40グループノードを等間隔で切り替えると、各グループノードの充電状態に差異が発生することがある。
【0073】
しかるに、制御手段200は
図7に示す端子T201、T202、T203~T239、T240を介して蓄電素子の各グループノードの電圧をモニターしながら、電圧の高いグループノードを優先的に電気負荷300と接続し、電圧の低いグループノードは電気負荷300と接続しないように、放電すべき蓄電素子グループ(グループノード)を選択的に切り替えることによって各蓄電素子グループ(グループノード)の充電状態を略均一に保つことができる。
【0074】
別の実施態様として、
図8に示すように制御手段200は
図7に示す端子T201、T202、T203~T239、T240を介して蓄電素子の各グループノードの電圧をモニターしながら、電圧の高いグループノードに対してはスイッチング手段をオンとしている期間を長く設定し、電圧の低いグループノードに対してはスイッチング手段をオンとしている期間を短く設定するように、該蓄電素子グループ(グループノード)の充電量と電気負荷300へ流れる電流値とから
図8に示すTon1~Ton40を個別に算出して制御することもできる。これによって各蓄電素子グループ(グループノード)の充電状態を略均一に保つことができる。
【0075】
漏電検出手段100の作用は前述の如く、
図4の遮断手段500、501がオンとなっている期間TNの間に人体が高電圧回路部位に接触したことによる感電の有無を、遮断手段500、501がオフとなった期間における漏電検出手段100の漏電抵抗値が閾値RLth以下であるか否かによって検出して、人体の接触がある場合にはスイッチング手段S1a~S40bをオフにするものとしたから、実際に人体への感電電流が流れる時間は最大でTNとなる。
【0076】
しかるに、TNの時間は蓄電素子1aから40dによる高電圧電源の電圧値と人体の抵抗値とから決まる感電電流とその継続時間から想定される人体反応が、人体に無害である範囲内である必要があって、一般的には電流値が30ミリアンペアの時に感電時間が0.1秒以下であれば致命的な人体反応は無いとされている。
即ち、安全な人体反応に抑制するには感電電流と感電時間との積の最大値が0.003アンペア秒であるとされている。
【0077】
その為、本実施態様においては高電圧電源の電圧値480ボルトと人体抵抗5KΩとから最大感電電流は約100ミリアンペアであると仮定し、人体に危害の無い感電時間は0.03秒以下と計算されるから、遮断手段500、501がオンとなっている期間TNの最大値は十分に余裕を持って小さな値である0.001秒と設定した。
【0078】
一方で、制御手段200が遮断手段500、501を遮断するオフ期間TF1、TF2、TF※(※は任意)の間に前記漏電検出手段100が漏電抵抗RLeakを測定する必要があるので、該漏電検出手段100を形成する図示しない公知のオペアンプ増幅回路等の応答性に鑑みて、該オフ期間は10マイクロ秒程度とすることが望ましい。
【0079】
車両の高電圧電源を備えたシステムは、人体が高電圧回路部位へ触れた場合のみならず、搭載される電子部品のリークや絶縁部分の機能不良、及び走行中の振動等によって一時的に漏電電流が流れる場合がある。そのような場合に、制御手段200の作用によって高電圧電源から低電圧電気負荷300への電力供給が完全に停止すると、車両が走行中に各部機能を喪失して危険な場合がある。
【0080】
そこで
図5、及び
図6の実施態様によれば、制御手段200は前述したように、漏電検出手段100が検出した漏電抵抗値RLeakが所定の閾値RLth以下の時、スイッチング手段S1a~S40bがオフである状態を0.5秒以上(Thold)保持した後、再度スイッチング手段S1a~S40bをオンとするか、又は漏電抵抗値RLeakが所定の第二の閾値RLth2以上まで増加した場合に再度スイッチング手段S1a~S40bをオンにする動作を周期的に繰り返すが如く構成した。
【0081】
これによって、車体各部の故障等によって一時的な漏電電流が発生したとしても高電圧電源から電気負荷300への電力供給が再開するので車両機能が回復して走行安全性を維持することができる。また、スイッチング手段S1a~S40bがオフである状態を0.5秒以上とすれば、漏電電流が車両の故障に伴うものでは無く、実際には人体の感電による場合であっても人体への致命的な影響を無くすことができる。
【0082】
ここで制御手段200は、
図4に示すように遮断手段500、501をオンとする時間TNnは、前記蓄電素子1aから40dによる高電圧電源の電圧値に反比例して短くするか、及び/又は漏電検出手段100が検出した漏電抵抗値RLeakの最小値に比例して短くすることが望ましい。これによって、漏電が車両起因ではなく人体の感電であった場合は、高電圧電源の電圧が高い程人体への通電時間が短くなり、及び/又は感電電流が大きい程人体への通電時間が短くなるのでより安全性が向上する。
【0083】
次に、本発明の実施態様に係る車両用電源装置1において、制御手段200がスイッチング手段S1a~S40bを切り替えて、蓄電素子1a~40dの各グループノードを切り替える周期に関し、
図12に従って説明する。
【0084】
尚、制御手段200は各グループノードを周期Tで切り替えて電気負荷300へ所定の低電圧電源を供給しているものとし、また図示しない発電手段は、直列蓄電素子1a~40dの合計電圧が所定の値となるように常時充電しているものとする。
【0085】
ここで、制御手段200によって選択された蓄電素子のグループノードは、例えば
図12の第1グループノードを例にすると、オン期間には電気負荷300を流れる電流によって当該グループノードが放電状態となって充電電圧が降下していく。同時に、非選択グループノードにおいては、全蓄電素子1a~40dの合計電圧が一定になるように、発電手段から充電電流が供給されているので、増加方向へ電圧が変化する。この時の、特定グループノードにおける最大電圧と最低電圧の差が所謂充放電深度であり、この幅が大きくなると蓄電素子の寿命が低下する。
【0086】
しかるに、蓄電素子寿命の観点から制御手段200によって蓄電素子グループ(グループノード)を選択的に電気負荷300と接続している時間Tonを短くするとともに全蓄電素子グループ(グループノード)の選択を一巡する制御周期Tを短くするべきであることが判る。
【0087】
ところが、本実施態様においてはスイッチング手段S1a~S40bにおけるスイッチング損失は
図10に示すように各スイッチング手段のオン遷移過程において、該スイッチング手段が開放状態の時の両端電圧Vが、オン動作に伴って減少するのに連動して電流Iが増加する。この時の損失I×Vは、例えば蓄電素子の各グループノードの電圧を12ボルトとし、電気負荷300の電流を200アンペアとすると12×1/2×200×1/2=600ワットのピーク損失が発生する。また、このスイッチング損失はスイッチング手段のオフ遷移過程においても同様に発生する。
【0088】
加えて、かかるスイッチング損失は前記デッドタイムTdの間で発生することから、制御手段200の制御周期Tに対するスイッチング損失の平均値はTd/Tとなるので、前述のように制御周期Tを短くすることによって、該スイッチング損失が過大となるといった問題がある。
【0089】
さらに、本実施態様によると
図3で示したデッドタイムTdの期間の電気負荷300への印加電圧VLは、スイッチング手段S1a~S40bが全てオフである期間において0ボルトとなる。その為、電気負荷300への供給電力が瞬断されるので、低電圧の車両電気負荷が瞬間的に停止するといった問題がある。
【0090】
そこで、
図9に示すように電気負荷300と並列に低圧コンデンサ310を配設した。
これによって、低圧コンデンサ310に充電された電圧が電気負荷300へ供給され続けることから、前記電圧VLは0ボルトまで降下することなく、
図3の破線VLaで示す如く、ピーク電圧から僅かの電圧降下に留めることができる。この場合の電圧降下量は、電気負荷300へ流れる電流と、低圧コンデンサ310の容量と、デッドタイムTdとによって決まり、該デッドタイムTdと電気負荷300へ流れる電流を固定した場合には該低圧コンデンサ310の容量が大きい程、VLaの降下量を小さくすることができる。
【0091】
尚、低圧コンデンサ310の容量と、デッドタイムTdと電気負荷300へ流れる電流値とによって、VLaの降下量が決まるのであるから該低圧コンデンサ310の容量を規定するとデッドタイムTdの時間を短くすることによってVLaの降下量を減らすことができるのは言うまでもない。
【0092】
従って、電気負荷300へ供給される電圧の瞬断を防ぐことができる。さらに、スイッチング手段S1a~S40bのいずれかがオン状態に遷移する過程では、いずれかのスイッチング手段がオンになって接続される蓄電素子のグループノードにおける直列蓄電素子の電圧合計が12ボルトであって、且つ、低圧コンデンサ310の電圧が略12ボルトであることから、該スイッチング手段が開放状態である時のスイッチング手段の両端電圧を略0ボルトとすることができるので、この場合のスイッチング損失は
図11に示すように、電圧Vが略0ボルトのまま電流Iが増加するので損失I×Vは極小となる。
【0093】
言い換えると、蓄電素子の1つのグループノードの電圧を電気負荷300へ供給する電圧として出力するのであり、該グループノードの電圧を低圧コンデンサ310が保持していることを利用することによって各グループノードの電圧が同じであれば、全てのグループノードを切り替える最の各グループノードの電圧と電気負荷300(低圧コンデンサ310)の電圧が同じであるので、スイッチング手段の動作は所謂ZVS(公知のゼロボルトスイッチング)となって理論的にスイッチング損失を発生しないことになる。
【0094】
本実施態様によれば、高圧電源から低圧電源へ降圧する最にスイッチング損失を発生しないので、降圧に用いるスイッチング素子の発生する熱損失が極端に少なくなり、発明者らの実験において出力2.5KWの降圧装置を製作した際に電力変換効率は99.5%となって、放熱板が不要になるといったシステムコストの大幅な低減を可能にした。
【0095】
尚、本実施態様においては前述の如く制御手段200は、遮断手段500、501をオフとした期間に漏電検出手段100によって高電圧部位と接地間の絶縁抵抗値を測定するものとした。
【0096】
この場合に、高電圧電源から高電圧負荷装置400への電源供給は所定期間停止されるから、当該停止期間においても高電圧負荷装置400へ供給される電圧を保持するように、
図2に示す如く高電圧負荷装置400と並列に所望の容量を具備した高圧コンデンサ700を配設することが好ましい。
【0097】
さらに、該高圧コンデンサ700を配設することによって周期的に断続する遮断手段500、501のスイッチング損失を低減することができる。これは前述の、スイッチング手段に生じるスイッチング損失を、前記低圧コンデンサ310を付加することによって低減できるのと同じ理由であるので詳細説明を省略する。
【0098】
次に別の実施態様として、
図13に示すように、蓄電素子1aから40dの内、4個ずつのノードを直列にして形成される各蓄電素子グループ(グループノード)の両端にコンデンサ601、602~640を接続して構成した。
【0099】
蓄電素子は、例えばリチウムイオン電池を採用した場合、図示しない内部抵抗として数十mΩの等価直列抵抗値を持っていることが公知である。その為、本実施態様における1つのグループノードにおける4個の直列蓄電素子の場合は蓄電素子の1グループノードあたり約100mΩの内部抵抗を備えることになる。
【0100】
図3のデッドタイムTdを終了して、いずれかのスイッチング手段がオンすることによって電気負荷300の電圧VLが上昇する際に、かかる上昇部分の電気的時定数は、コンデンサ310の静電容量と、前述の内部抵抗との積で表される。
【0101】
従って、蓄電素子の内部抵抗によってコンデンサ310が充電される場合のVLの上昇波形は
図3のVLbで示す如く、時定数が大きく、電圧の低い状態が長く継続することになる。さらに、これを周期Tで繰り返すことから、電気負荷300へ供給される電圧の平均値が低下する要因となるので、かかる時定数はできるだけ小さいことが望ましい。
【0102】
静電容量素子としてのコンデンサの等価直列抵抗は数mΩと小さいのが一般的である。そこで本実施態様の如く、蓄電素子の各グループノードと並列にコンデンサ601、602~640を接続すると、該蓄電素子の内部抵抗を見かけ上小さくすることになり、内部抵抗によってコンデンサ310が充電される場合のVLの上昇波形は
図3のVLcで示す如く、時定数が小さく、電圧の低い状態が短くなる。これを周期Tで繰り返すことから、電気負荷300へ供給される電圧の平均値の低下が少なく該電気負荷300へ供給する電圧の精度が向上する。
【0103】
以下、直列に接続して高電圧電源を形成した複数の蓄電素子から、商用電源で作動する機器に供給する為の交流電力を出力する方法に関し、
図14を用いて説明する。尚、基本的な構成は前述までの実施態様と類似するので、本実施態様における構成を示す図は省略する。
【0104】
先ず、蓄電素子は3ボルト単位のセル電圧を持つリチウムイオン電池を180個直列にし、全体電圧を540ボルトとしてある。次に、60個の蓄電素子を1グループノードとして、全体をG1~G3の3グループノードに分割し、スイッチング手段によって各グループノードの電圧を1ミリ秒毎に切り替えて商用電源負荷に供給する。10ミリ秒が経過した時点で、選択されているグループノードはG1となっており、次にG2を選択して商用電源負荷へ供給する際に、該商用電源負荷と接続する際の蓄電素子グループ(グループノード)の極性が反転するように、スイッチング手段を操作する。続けて、同じ極性を維持したままG3,G1と切り替え、最終的にG2が選択された次のサイクルでG3を選択接続する際に、再度商用電源負荷と接続する際の蓄電素子グループ(グループノード)の極性を反転する。
【0105】
以上の操作を繰り返して、商用電源負荷に対して50Hz、±90ボルトの矩形交流電圧を印加することができる。
【0106】
以上の如く、本発明の実施態様に係る車両用電源装置は、蓄電素子を直列に接続して形成した高圧電源から、所定の蓄電素子グループ(グループノード)を選択的に低電圧電気負荷と接続することによって、高電圧から低電圧へと電力変換を行うことができ、その際、該蓄電素子グループ(グループノード)を高速で切り替えることによって該蓄電素子の充放電深度を小さくして寿命を改善するとともに、切り替えを行うスイッチング手段のスイッチング損失を略ゼロにすることができるので、該スイッチング素子の放熱にかかる部材の重量、コストを大幅に改善できるといった優れた特徴を有する。
【0107】
加えて遮断手段によって高電圧回路を一時的に遮断した状態で漏電抵抗値を測定し、該抵抗値の低下が認められた場合には人体が高電圧回路部位に触れているとして、高電圧電源と、車体へ接続された低電圧回路との接続を継続的に、又は所定期間の間遮断するものとしたから絶縁型DC-DCコンバータ等の手段を用いることなく、感電時の危険な人体反応を抑制することができる。
【0108】
尚、別の実施態様として
図15に示す如く、前述までの実施態様における蓄電素子と電気負荷手段を入れ替えることによって、該蓄電素子の電圧を昇圧して電気負荷手段に供給することが可能であることは、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に想到し得る事項である。
図14に示す実施形態においては、コンデンサがノードでありスイッチング手段を介して蓄電素子の電圧が各ノードに充電されることで、直列に接続したコンデンサから昇圧された電力を取り出すように構成されている。
【0109】
また、本実施態様においても電気負荷手段と接続される高電圧側に遮断手段を付加して、前記実施態様と同様に漏電検出手段によって高電圧側の接地間抵抗値を測定し、人体への感電が測定された場合に、各ノードを選択的に接続するスイッチング手段遮断して感電事故を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の実施態様においては、実施例として限定的な構成と作用を示しているに過ぎず、直列蓄電素子の数、蓄電素子の種類、スイッチング手段の素子種類と構成、遮断手段の素子種類、遮断手段の配置場所と数、遮断手段の断続周期とスイッチング手段の断続周期との同期有無を含む制御手段の動作タイミングは任意の形態をとることが可能であると同時に、漏電検出手段の構成として各種公知技術が存在すること、及び各種故障検出手段と故障時のフェールセーフ機能を追加しても良いことは容易に理解されるべきである。
【符号の説明】
【0111】
1a~40d 蓄電素子(ノード)
S1a~S40b スイッチング手段
100 漏電検出手段
200 制御手段
300 電気負荷
400 高電圧負荷装置
500、501 遮断手段