(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】トーションバー用鋼材及びトーションバー部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240926BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240926BHJP
C21D 9/02 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/14
C21D9/02 A
(21)【出願番号】P 2020113384
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新貝 康晴
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-120906(JP,A)
【文献】特開2003-105495(JP,A)
【文献】特開2011-099135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Si:
0.11%~0.60%、
Mn:0.30%~2.00%、
C:0.0400%以下、
P:0.100%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.005%~0.100%、
N:0.0100%以下、
B:0.0003%~0.0050%、及び
O:0.0150%以下
を含有し、
更に、Ti及びNbの1種又は2種を
Ti:0.500%以下、及び
Nb:0.500%以下
の範囲で、かつ、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)として[Ti*]及び[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が
1.06以上となる範囲で含有し、
残部が、Fe及び不純物からなり、
長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上であり、 引張強さが350~550MPaである、
シートベルト巻き取り装置のトーションバー用鋼材。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
【請求項2】
質量%で、
Si:
0.11%~0.60%、
Mn:0.30%~2.00%、
C:0.0400%以下、
P:0.100%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.005%~0.100%、
N:0.0100%以下、
B:0.0003%~0.0050%、及び
O:0.0150%以下
を含有し、
更に、Ti及びNbの1種又は2種を
Ti:0.500%以下、及び
Nb:0.500%以下
の範囲で、かつ、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)として[Ti*]及び[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が
1.06以上となる範囲で含有し、
残部が、Fe及び不純物からなり、
軸部の長手方向の中央において、前記長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上であり、
前記軸部の長手方向の中央において、前記長手方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが120~200HV10であり、
150℃で1時間保持する時効処理を行った後の、室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がそれぞれ0.60rad/mm以上である、
シートベルト巻き取り装置のトーションバー部品。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シートベルト巻き取り装置において、ロードリミッタとして用いられるトーションバーに使用されるトーションバー用鋼材及びトーションバー部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に装備されているシートベルト装置は、衝撃などによって車体に大きな減速度が作用した際に、シートベルトで乗員を拘束することにより乗員がシートから飛び出すことを防ぎ、乗員を保護している。しかし、シートベルトにより乗員が拘束されても、乗員が大きな慣性により前方に移動しようとするため、シートベルトには大きな荷重がかかるとともに、乗員はシートベルトから大きな衝撃を受ける。
したがって、乗員に作用する衝突エネルギーを吸収し、衝突時にシートベルトにかかる荷重を制限する機構が求められる。
【0003】
例えば、ロードリミッタ機構を備えたシートベルト巻き取り装置が特許文献1に開示されている。このシートベルト巻き取り装置は、トーションバーを備えており、衝突時にベルトの引き出しが阻止されようとすると、乗員の前方への慣性移動により、シートベルトに引張力が加えられるので、シートベルト巻き取りシャフトがこのトーションバーの捩れ部を捩りながら回転し、乗員の衝撃エネルギーを吸収する。このトーションバーが一定量捩れると、シートベルト巻き取りシャフトの回転が阻止されることで、シートベルトの引き出しが阻止されて乗員が保護されるとともに、トーションバーのねじりが阻止されて、トーションバーの破断が防止される。
上記のように、トーションバーは、シートベルト巻き取り装置のエネルギー吸収部材として機能するため、乗員の衝撃エネルギーを吸収し終えるまでの間、捩れ塑性変形により破断しないことが求められる。
【0004】
トーションバーは、一般的にJIS G 3507の冷間圧造用炭素鋼に焼鈍を施した後、冷間鍛造して製造されている。これに対して、例えば次のようなトーションバー用鋼材が開示されている。
特許文献2には、AlおよびNbによって、固溶Nを固定することを特徴とする低温延性に優れたトーションバー用鋼が開示されている。
特許文献3には、熱間圧延された線材を焼鈍することなく冷間鍛造してトーションバー部品を製造できるトーションバー用鋼が開示されている。
特許文献4には、一般的な化学組成であっても、高い捻回特性と高い初期トルクを発揮することができるトーションバー用鋼が開示されている。
特許文献5には、均一なフェライト主体組織とすることで、優れた捻回特性を発揮することができるトーションバー用鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公昭61-11085号公報
【文献】特開2003―313626号公報
【文献】特開2011―225943号公報
【文献】特開2019―173068号公報
【文献】特開2009―120906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~5に開示されている従来の技術では、ひずみ時効による捻回特性の低下については検討されていない。
トーションバーを製造する際、伸線や圧造工程でひずみが導入されるため、製造後時間が経過するとひずみ時効が生じる。ひずみ時効によって硬化し、均一伸びが低下することで、早期に局部的な変形に移行しやすくなるため、ひずみ時効が生じるとトーションバーの捻回特性の低下が生じる。
しかし、十分なエネルギー吸収能力を発揮させる観点から、製造後時間が経過しても捻回特性の低下が抑制されることが望ましい。
【0007】
したがって、本開示が解決しようとする課題は、ひずみ時効が生じても十分な捻回特性を有するトーションバー用鋼材、及びひずみ時効が生じても十分な捻回特性を有し、かつ、衝突エネルギーを効果的に吸収することが可能なトーションバー部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 質量%で、
Si:0.02%~0.60%、
Mn:0.30%~2.00%、
C:0.0400%以下、
P:0.100%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.005%~0.100%、
N:0.0100%以下、
B:0.0003%~0.0050%、及び
O:0.0150%以下
を含有し、
更に、Ti及びNbの1種又は2種を
Ti:0.500%以下、及び
Nb:0.500%以下
の範囲で、かつ、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)として[Ti*]及び[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が1.00以上となる範囲で含有し、
残部が、Fe及び不純物からなり、
長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上であり、 引張強さが350~550MPaである、トーションバー用鋼材。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
<2> 質量%で、
Si:0.02%~0.60%、
Mn:0.30%~2.00%、
C:0.0400%以下、
P:0.100%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.005%~0.100%、
N:0.0100%以下、
B:0.0003%~0.0050%、及び
O:0.0150%以下
を含有し、
更に、Ti及びNbの1種又は2種を
Ti:0.500%以下、及び
Nb:0.500%以下
の範囲で、かつ、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)として[Ti*]及び[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が1.00以上となる範囲で含有し、
残部が、Fe及び不純物からなり、
軸部の長手方向の中央において、前記長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上であり、
前記軸部の長手方向の中央において、前記長手方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが120~200HV10であり、
150℃で1時間保持する時効処理を行った後の、室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がそれぞれ0.60rad/mm以上である、トーションバー部品。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ひずみ時効が生じても十分な捻回特性を有するトーションバー用鋼材、及びひずみ時効が生じても十分な捻回特性を有し、かつ、衝突エネルギーを効果的に吸収することが可能なトーションバー部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】トーションバー部品の軸部中央における長手方向に垂直な断面においてビッカース硬さの測定位置を示す図である。
【
図2】実施例における捻回特性評価試験について説明する図であり、(a)はトーションバー用鋼材(線材)を伸線加工した後の鋼線、(b)は(a)の鋼線を冷間鍛造して得た試験片、(c)は捻回特性評価試験方法を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一例である実施形態について説明する。
本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。ただし、「~」の前後に記載される数値に「超」または「未満」が付されている場合の数値範囲は、これら数値を下限値または上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよい。また、上限値又は下限値を実施例に示されている値に置き換えてもよい。
化学組成の元素の含有量について、「%」は「質量%」を意味する。
【0012】
[トーションバー用鋼材]
本開示に係るトーションバー用鋼材は、質量%で、
Si:0.02%~0.60%、
Mn:0.30%~2.00%、
C:0.0400%以下、
P:0.100%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.005%~0.100%、
N:0.0100%以下、
B:0.0003%~0.0050%、及び
O:0.0150%以下
を含有し、
更に、Ti及びNbの1種又は2種を
Ti:0.500%以下、及び
Nb:0.500%以下
の範囲で、かつ、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)として[Ti*]及び[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が1.00以上となる範囲で含有し、
残部が、Fe及び不純物からなり、
長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上であり、 引張強さが350~550MPaである。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
【0013】
<化学組成>
C:0.0400%以下
C(炭素)は、炭化物や炭窒化物を生成し、捻回特性を劣化させる元素である。Cがフェライト中に固溶した状態で存在する場合、ひずみ時効により捻回特性を劣化させる。
本開示に係るトーションバー用鋼材におけるC含有量は0.0400%以下である。C含有量が0.0400%を超えると、所望のミクロ組織(フェライト分率)を満足できず、形成したセメンタイトやフェライト中に析出した炭化物(NbC、TiC)もしくは炭窒化物(NbCN、TiCN)の増加に伴い、室温及び低温での捻回特性が低下する。C含有量は0.0200%以下でもよく、0.0100%以下でもよい。
C含有量の下限は限定されないが、製造性(製造コスト)を考慮し、C含有量は0.0015%以上であってもよい。
【0014】
Si:0.02%~0.60%
Si(珪素)は、脱酸元素であると共に、固溶強化の効果を有する元素である。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるSi含有量は0.02%~0.60%である。
Si含有量が0.02%を下回ると、所望の室温強度(引張強さ)を満足できない。Si含有量は0.05%以上でもよく、0.15%以上でもよい。
一方、Si含有量が0.60%を超えると、Siによるフェライトの固溶強化量が増大し過ぎて、室温及び低温での変形能が低下し、室温及び低温での捻回特性が低下する。Si含有量は0.50%以下でもよい。
【0015】
Mn:0.30%~2.00%
Mn(マンガン)は、固溶強化の効果を有する元素である。不純物として含有するS(硫黄)をMnSとして析出させることで、Sによる熱間脆性の低下が抑制される。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるMn含有量は0.30%~2.00%である。
Mn含有量が0.30%を下回ると所望の室温強度(引張強さ)を満足できない。Mn含有量は0.80%以上でもよい。
一方、Mn含有量が2.00%を超えると、Mnによるフェライトの固溶強化量が増大しすぎて、低温での変形能が低下し、室温及び低温での捻回特性が低下する。Mn含有量は1.50%以下でもよい。
【0016】
P:0.100%以下
P(リン)は、固溶強化の効果を有する元素である反面、結晶粒界に偏析して冷間加工性や捻回特性を劣化させる元素である。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるP含有量は0.100%以下である。P含有量が0.100%を超えるとPによるフェライトの固溶強化量が増大するとともに粒界偏析によって、低温での変形能が低下し、低温での捻回特性が低下する。P含有量は0.080%以下でもよい。
P含有量の下限は限定されないが、製造性(製造コスト)を考慮してP含有量の下限は0.001%でもよく、0.005%でもよい。
【0017】
S:0.020%以下
S(硫黄)は、Pと同様に、結晶粒界に偏析して冷間加工性や捻回特性を劣化させる元素である。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるS含有量はS:0.020%以下である。S含有量が0.020%を超えると、Sによる粒界偏析によって、低温での変形能が低下し、低温での捻回特性が低下する。S含有量は0.015%以下でもよく、0.010%以下でもよい。
一方、Sは、Mnと共にMnSを形成し、快削性を向上させる元素である。MnSの生成によって快削性を向上させ、製造コスト(脱硫コスト)の増大を抑制する観点から、S含有量の下限は0.001%、0.002%、又は0.005%でもよい。
【0018】
Al:0.005%~0.100%
Al(アルミニウム)は、脱酸元素である。また、Alの窒化物であるAlNは結晶粒を細粒化し、これにより冷間加工性を高める。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるAl含有量は0.005%~0.100%である。
Al含有量が0.100%を超えると細粒化の効果が飽和すると共に、熱間圧延の際に疵が発生し易くなる。Al含有量は0.050%以下でもよい。
一方、Al含有量が0.005%を下回ると、脱酸効果が得られない。Al含有量は好ましくは0.010%以上である。
【0019】
N:0.0100%以下
N(窒素)は、フェライト中に固溶状態で存在することで、ひずみ時効により捻回特性を劣化させる元素である。フェライト中の固溶Nを窒化物(AlN、TiN、NbN)もしくは炭窒化物(TiCN、NbCN)として析出させ、捻回特性の劣化を抑制する。
本開示に係るトーションバー用鋼材におけるN含有量は0.0100%以下である。N含有量が0.0100%を超えるとフェライト中に析出した窒化物(AlN、TiN、NbN)もしくは炭窒化物(TiCN、NbCN)の増加に伴い、室温及び低温での捻回特性が低下する。N含有量の上限は0.0070%でもよい。
N含有量の下限は限定されないが、製造性(脱窒コストの増大)を考慮してN含有量の下限は0.0010%でもよい。
【0020】
B:0.0003%~0.0050%
B(硼素)は粒界を強化する元素であり、冷間加工性や捻回特性を確保するために含有される。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるB含有量は0.0003%~0.0050%である。
B含有量が0.0003%を下回ると、粒界強化ができず、室温及び低温での捻回特性が低下する。B含有量は0.0005%以上でもよい。
B含有量が0.0050%を超えると、Nとの化合物(BN)やFe、Cとの化合物(Fe23(B,C)6)、Nb、Tiとの化合物(NbB2、TiB2)を形成し、室温及び低温での捻回特性が低下する。B含有量は0.0035%以下でもよい。
【0021】
Ti:0.500%以下
Nb:0.500%以下
[Ti*]+[Nb*]:1.00以上
Ti(チタン)及びNb(ニオブ)は、選択元素であり、本開示に係るトーションバー用鋼材はこれらの元素の1種又は2種を含有する。Ti、Nbは、TiCやNbCのような炭化物、TiNやNbNのような窒化物、あるいはTiCNやNbCNのような炭窒化物を形成する元素であり、固溶C、固溶Nによるひずみ時効を抑制する作用を有する元素である。
本開示に係るトーションバー用鋼材は、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)としたとき、Ti:0.500%以下、Nb:0.500%以下の範囲内で、かつ、[Ti*]、[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が1.00以上となる範囲で含有する。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
上記式は、CとNの原子量組成の和に対するTiおよびNbの原子量組成比を表し、[Ti*]+[Nb*]が1.00となるとき、固溶したC、Nがちょうど同原子量組成のTiおよびNbと結合してTiC、NbCまたはTiN,NbNを形成する。
[Ti*]+[Nb*]が1.00を下回ると、フェライト中にC、Nが固溶するため、室温及び低温での捻回特性が低下する。[Ti*]+[Nb*]は2.00以上であってもよい。
一方、[Ti*]+[Nb*]の上限は、Ti、Nb、C、Nの各含有量が前述した範囲内であれば限定されないが、製造性(製造コスト)を考慮して好ましくは8.00である。
また、Ti含有量は0.300%以下でもよく、Nb含有量は0.300%以下でもよい。
【0022】
O:0.0150%以下
O(酸素)はAlやTi等と結合して酸化物系介在物を形成する元素であり、冷間加工性や捻回特性を低下させる。本開示に係るトーションバー用鋼材におけるO含有量は0.0150%以下である。
O含有量が0.0150%を超えると、室温及び低温での捻回特性が低下する。O含有量は0.0100%以下でもよい。
O含有量の下限は限定されないが、製造性(脱酸コストの増大)を考慮してO含有量の下限は0.0010%でもよい。
【0023】
残部:Fe及び不純物
本開示に係るトーションバー用鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから意図せずに混入するものを指す。
【0024】
<金属組織>
本開示に係る本開示に係るトーションバー用鋼材は、長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上である。これにより、トーションバー部品の捻回特性が向上する。フェライト面積率が98.0%を下回ると、室温及び低温での捻回特性が劣化する。フェライト面積率は99.0%以上が好ましく、100%でもよい。
フェライト以外の組織(残部組織)は特に限定されないが、通常、炭化物や窒化物を主体とする組織である。具体的には、セメンタイト、TiC、NbC、TiN、NbN、MnSである。また、残部組織には、AlN、TiCN、NbCN、TiS、Ti4C2S2、FeTiPなども含まれると考えられる。
【0025】
(フェライト面積率の測定方法)
本開示に係るトーションバー用鋼材のフェライト面積率は以下のようにして測定する。
トーションバー用鋼材の長手方向に垂直な断面(以下、単にC断面と呼ぶ)を、3%ナイタール液を用いてエッチングし、金属組織を現出させる。
次に、トーションバー用鋼材の軸部径をDとしたとき、エッチング後のC断面における軸部表面(外周面)から深さが0.25Dの位置(即ち、円周状の位置)から、円周方向に90°おきに4箇所の観察位置を選び、各々の観察位置について、光学顕微鏡を用い、倍率500倍の光学顕微鏡写真を撮影する。得られた4つの光学顕微鏡写真において、フェライト以外の組織(セメンタイト等)を目視でマーキングし、金属組織全体に対するフェライト以外の組織の面積率(面積%)を画像解析によって求める。得られたフェライト以外の組織の面積率(面積%)を100%から差し引くことにより、フェライトの面積率(%)が得られる。
【0026】
<引張強さ>
トーションバーが、乗員に作用する衝突エネルギーを吸収し、乗員の車外放出や二次衝突を防ぐとともに衝突時の乗員への負荷を軽減するという機能を果たすため、引張強さは適切な範囲内にあることが求められる。本開示に係るトーションバー用鋼材の引張強さは350~550MPaである。
引張強さが350MPaを下回ると、トーションバーの衝撃吸収エネルギーが不十分となり、乗員身体が二次衝突する可能性がある。
一方、引張強さが550MPaを上回ると、トーションバーの室温及び低温での捻回特性が劣化し、衝突エネルギーを吸収している間に破断する可能性がある。引張強さは500MPa以下でもよい。
本開示に係るトーションバー用鋼材の引張強さは、JIS Z2241:2011の14A号試験片を用い、JIS Z2241:2011に記載の試験方法に準拠して測定した値である。
【0027】
[トーションバー部品]
本開示に係るトーションバー部品は、質量%で、
Si:0.02%~0.60%、
Mn:0.30%~2.00%、
C:0.0400%以下、
P:0.100%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.005%~0.100%、
N:0.0100%以下、
B:0.0003%~0.0050%、及び
O:0.0150%以下
を含有し、
更に、Ti及びNbの1種又は2種を
Ti:0.500%以下、及び
Nb:0.500%以下
の範囲で、かつ、元素Xの含有量を[X](単位は質量%)として[Ti*]及び[Nb*]をそれぞれ下記式で表した場合に、[Ti*]+[Nb*]が1.00以上となる範囲で含有し、
残部が、Fe及び不純物からなり、
軸部の長手方向の中央において、前記長手方向に垂直な断面における金属組織のフェライト面積率が98.0%以上であり、
前記軸部の長手方向の中央において、前記長手方向に垂直な断面におけるビッカース硬さが120~200HV10であり、
150℃で1時間保持する時効処理を行った後の、室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がそれぞれ0.60rad/mm以上である。
[Ti*]=[Ti]/{(48/12)[C]+(48/14)[N]}
[Nb*]=[Nb]/{(93/12)[C]+(93/14)[N]}
本開示に係るトーションバー部品の化学組成、金属組織は、前述した本開示に係るトーションバー用鋼材と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0028】
<ビッカース硬さ>
トーションバーが、乗員に作用する衝突エネルギーを吸収し、乗員の車外放出や二次衝突を防ぐとともに衝突時の乗員への負荷を軽減するという機能を果たすため、ビッカース硬さは適切な範囲内にあることが求められる。本開示に係るトーションバー部品の軸部中央のC断面におけるビッカース硬さは120~200HV10である。
ビッカース硬さが120HV10を下回ると、トーションバーの衝撃吸収エネルギーが不十分となり、乗員身体が二次衝突する可能性がある。
一方、ビッカース硬さが200HV10を上回ると、トーションバーの室温及び低温での捻回特性が劣化し、衝突エネルギーを吸収している間に破断する可能性がある。ビッカース硬さは190HV10以下でもよい。
本開示に係るトーションバー部品のビッカース硬さは、次のように測定した値である。
トーションバー部品の軸部径をDとしたとき、
図1に示すように、トーションバー部品の長手方向に垂直で軸部中央を含むような断面(C断面)における軸部表面(外周面)から深さが0.25Dの位置(即ち、円周状の位置)から、円周方向に90°おきに4箇所を選び、各々の位置についてビッカース硬さを測定し、4箇所のビッカース硬さの平均値をトーションバー部品のビッカース硬さとした。なお、各々の位置におけるビッカース硬さは、JIS Z2244:2009に記載の試験方法に準拠して測定した値である。
なお、トーションバー部品の金属組織の測定についてもビッカース硬さと同様の位置、すなわち、軸部中央におけるC断面において軸部表面から深さが0.25Dの位置において円周方向に90°おきに4箇所を選んで金属組織を測定し、平均値を求める。
【0029】
<時効処理後の室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角>
本開示に係るトーションバー部品は、150℃で1時間保持する時効処理を行った後の、室温(25℃)及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がそれぞれ0.60rad/mm以上である。すなわち、本開示に係るトーションバー部品はひずみ時効が生じても十分な捻回特性を有し、十分なエネルギー吸収能力を発揮することができる。
室温(25℃)及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がそれぞれ0.65rad/mm以上であることが好ましく、0.70rad/mm以上であることがより好ましい。
【0030】
[トーションバー用鋼材及びトーションバー部品の製造方法]
本開示に係るトーションバー用鋼材及びトーションバー部品の製造方法は特に限定されないが、例えば以下のような方法によって製造することができる。
本開示に係るトーションバー用鋼材の化学組成を有する鋼片を溶製する。得られた鋼片を加熱した後、熱間圧延を行い、線材(トーションバー用鋼材)とする。なお、析出した炭化物や窒化物、炭窒化物を安定化させる観点から、熱間圧延の後に熱処理を施してもよい。続いて、得られた線材を伸線加工し、鋼線を製造する。その後、得られた鋼線を冷間鍛造し、トーションバー部品の形状に加工する。なお、トーションバー部品の形状に加工する際、切削加工を用いてもよい。また、トーションバー部品に防錆性を持たせる観点から、トーションバー部品の形状に加工した後に電気めっき処理を施してもよい。
【0031】
なお、本開示の実施形態に係るトーションバー部品は少なくとも軸部を有するが、寸法、形状等は特に限定されない。例えば、後述する実施例では、直径が9.0mmである鋼線を製造してトーションバー部品に成形しているが、製造される鋼線の直径は9.0mmに限定されるものではなく、本開示の実施形態に係るトーションバー部品の寸法に応じて、適切な直径が選択されればよい。
また、伸線加工は単一パスで行う必要はなく、伸線減面率に応じて適切なパス数で行えばよい。
また、トーションバー部品の軸部の形状は、軸部全体が同じ径に限らず、例えば、軸部中央における径と端部における径が異なるテーパ形状を有していてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本開示のトーションバー用鋼材及びトーションバー部品について実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本開示のトーションバー用鋼材及びトーションバー部品を制限するものではない。
【0033】
<トーションバー用鋼材の製造>
表1に示す化学組成を有する150kgの鋼塊を高周波真空溶解炉にて溶製した。表1中の各鋼種の化学組成において、表1に示した元素以外の残部は、Fe及び不純物である。下線が引かれている項目は,本開示の範囲から外れることを示す。
【0034】
【0035】
その後、鋼塊を1250℃に加熱した後、熱間鍛造により直径20mmの丸棒にし、得られた丸棒の外周を切削加工することで、直径が9.2~12.0mmである線材(トーションバー用鋼材)を製造した。線材の化学組成は、鋼塊の化学組成と同一であると見なせる。その理由は、熱間鍛造、切削加工は、いずれも線材の化学組成に影響を及ぼさないためである。なお、製造される線材の直径は上記範囲に限定されるものではなく、本開示の実施形態に係るトーションバー部品の寸法に応じて、適切な直径が選択されればよい。
表1に、前述した方法により測定した線材の金属組織に占めるフェライトの面積割合(フェライト面積率)、および線材から14A号試験片(JIS Z2241:2011)を作製して評価した引張強さを示す。
【0036】
<トーションバー部品の製造>
続いて、得られた線材を650℃で5時間保持した後、その後炉冷する焼鈍を実施した。その後、伸線加工し、直径が9.0mmである鋼線を製造した。
その後、得られた鋼線を冷間鍛造し、
図2(b)に示すトーションバー部品の形状(軸部長さ45mm)に加工した。
【0037】
<トーションバー部品の捻回特性評価>
得られたトーションバー部品の捻回特性を次のように評価した。
製造したトーションバー部品を150℃で1時間保持する時効処理を行い、トーションバー部品の捻回特性を評価した。トーションバー部品の捻回特性評価試験は、次の手順で実施した。
各鋼種のトーションバー部品をそれぞれ6本用意し、上記時効処理を施した。6本のうち、3本は室温(25℃)捻回特性評価試験、3本は低温(-40℃)捻回特性評価試験に供した。トーションバー部品の片側を治具で固定し、もう一方の側を治具で毎秒250回転で回転させて破断させた。その後、捩れ破断時の比捩れ角により捻回特性を評価した。すなわち、3本の捩れ回転数(単位:rad)をトーションバー部品の軸部長さで割って求めた値(=捩れ破断時の比捩れ角)の平均値を捩れ破断時の比捩れ角とし、これをトーションバー部品の捻回特性とした。
捻回特性評価試験の合否判定は、室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がいずれも0.60rad/mm以上の場合を合格(○)とした。上記条件を満たさない場合は、不合格(×)とした。
【0038】
【0039】
化学組成及びフェライト面積率が本開示の範囲内にある水準1~21では、ビッカース硬さが120~200HV10であり、室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角がいずれも0.60rad/mm以上であった。
一方、水準22~35では、化学組成又はフェライト面積率が本開示の範囲外であり、ビッカース硬さが120HV10未満又は200HV10超、又は室温及び-40℃における捩れ破断時の比捩れ角が0.60rad/mm未満であった。
さらに、水準36、37は伸線加工時の減面率が低いため、硬さ不足であった。
また、水準38は伸線加工時の減面率が高過ぎたため、硬さ過剰であった。