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特許7560733推定装置、方法及びプログラム、並びに連続鋳造制御装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】推定装置、方法及びプログラム、並びに連続鋳造制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20240926BHJP
   B22D 46/00 20060101ALI20240926BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B22D11/16 Z
B22D46/00
B22D11/22 B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021018050
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022120968
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】北田 宏
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-048322(JP,A)
【文献】特開2014-140862(JP,A)
【文献】特開2013-035011(JP,A)
【文献】特開2019-098388(JP,A)
【文献】特開2012-187636(JP,A)
【文献】特開2019-141893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0068416(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109492317(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機で鋳造される鋳片の状態を推定する推定装置であって、
鋳造方向に間隔を有して設定される複数の伝熱凝固計算位置において、鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面であるトラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する伝熱凝固計算部と、
鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置の間に設定される少なくとも1つの中間計算位置において、前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行する伝熱計算部と、
を備え、
前記伝熱計算部は、鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの上流側の伝熱凝固計算位置における前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果を用いて、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行し、
前記伝熱凝固計算部は、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算の結果を用いて、前記上流側の伝熱凝固計算位置にある前記トラッキング面が鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの下流側の伝熱凝固計算位置に位置するときの当該トラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する、推定装置。
【請求項2】
前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算の結果を用いて、前記トラッキング面が前記上流側の伝熱凝固計算位置から前記下流側の伝熱凝固計算位置までに移動するまでの間の、前記鋳片と外部との間の熱伝達係数の平均的な値である平均熱伝達係数を算出する平均熱伝達係数計算部と、
前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算の結果と、前記平均熱伝達係数と、を用いて、前記トラッキング面が前記上流側の伝熱凝固計算位置から前記下流側の前記伝熱凝固計算位置に移動までの間の、前記鋳片の外部雰囲気温度の平均的な値である平均外部雰囲気温度を算出する平均外部雰囲気温度計算部と、
を、さらに備え、
前記伝熱凝固計算部は、前記平均熱伝達係数と、前記平均外部雰囲気温度と、に基づいて、前記上流側の伝熱凝固計算位置にある前記トラッキング面が前記下流側の伝熱凝固計算位置に移動するまでの前記鋳片の表面の熱流束を算出し、前記下流側の伝熱凝固計算位置における前記鋳片の表面の熱流束を用いて、前記上流側の伝熱凝固計算位置にある前記トラッキング面が前記下流側の伝熱凝固計算位置に位置するときの当該トラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記伝熱計算部は、前記鋳片の表面に対する伝熱計算として、前記表面が長辺面の場合は短辺面に沿う方向、前記表面が短辺面の場合は長辺面に沿う方向、に対する一次元の伝熱計算を実行し、
前記伝熱凝固計算部は、前記伝熱凝固計算として、前記トラッキング面に対する二次元の伝熱凝固計算を実行する、請求項1または2に記載の推定装置。
【請求項4】
鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置の間に複数の前記中間計算位置が設定され、
前記伝熱計算部は、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算を、前記上流側の伝熱凝固計算位置における前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果と、当該中間計算位置よりも上流側の前記中間計算位置に対する伝熱計算の結果と、を用いて実行する、請求項1~3のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記伝熱計算部は、
前記鋳片と外部との間の熱伝達係数と、前記鋳片の外部雰囲気温度と、を算出する第1計算部と、
前記第1計算部における計算の結果を用いて、中間外部温度を算出する第2計算部と、
前記第2計算部における計算の結果を用いて、中間平均外部温度と、中間温度変化速度パラメータと、を算出する第3の計算部と、
を有し、
前記第1の計算部における計算、前記第2の計算部における計算、および前記第3の計算部における計算は、計算対象の前記中間計算位置を、上流側の前記中間計算位置から順番に更新して繰り返し実行され、
前記中間外部温度は、計算対象の前記中間計算位置よりも1つ上流側の前記中間計算位置における、前記鋳片の内部および外部の温度に基づいて定められる温度であり、
前記中間平均外部温度は、前記上流側の伝熱凝固計算位置から、計算対象の前記中間計算位置までの間の、前記中間外部温度の平均的な値を表し、
前記中間温度変化速度パラメータは、前記上流側の伝熱凝固計算位置から、計算対象の前記中間計算位置までの間の、前記鋳片と外部との間における、熱および温度の伝わりやすさの平均的な値を表すパラメータである、請求項1~4のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記第2計算部は、前記第1計算部における計算の結果を用いて、前記鋳片の表面温度である中間表面温度をさらに算出し、
前記第1計算部は、計算対象の前記中間計算位置よりも1つ上流側の前記中間計算位置における前記中間表面温度を用いて、前記鋳片と外部との間の熱伝達係数を算出する、請求項5に記載の推定装置。
【請求項7】
前記推定装置は、前記連続鋳造機の二次冷却帯で冷却される鋳片の状態を推定し、
前記中間計算位置は、前記二次冷却帯において鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置の少なくとも1つの前記伝熱凝固計算位置における、前記鋳片の表面に対する冷却方式と、当該2つの前記伝熱凝固計算位置の間に設定される少なくとも1つの前記中間計算位置における、前記鋳片の表面に対する冷却方式と、が異なるように設定される、請求項1~6のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記推定装置は、前記連続鋳造機の二次冷却帯で冷却される鋳片の状態を推定し、
鋳造方向で隣接する前記2つの伝熱凝固計算位置の間に複数の前記中間計算位置が設定され、
鋳造方向で隣接する2つの前記中間計算位置の鋳造方向の間隔は、前記二次冷却帯において冷却水が前記鋳片に衝突する領域の鋳造方向の長さの最小値として想定される値の1/2以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項9】
前記伝熱凝固計算部は、前記トラッキング面の全面に対する伝熱凝固計算を実行する、請求項1~8のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項10】
前記伝熱計算部は、前記中間計算位置において、前記鋳片の表面を含む離散化された領域と、当該領域に対し前記鋳片の内側および外側で隣接する離散化された領域と、を伝熱の対象領域とする伝熱計算を実行する、請求項1~9のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の推定装置と、
前記推定装置により実行された、前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果に基づいて、前記連続鋳造機で鋳造されている鋳片の所定の位置における温度の目標値と計算値との偏差がゼロに近づくように、前記鋳片に対する冷却水の供給量を制御する制御装置と、
を備える、連続鋳造制御装置。
【請求項12】
連続鋳造機で鋳造される鋳片の状態を推定する推定方法であって、
鋳造方向に間隔を有して設定される複数の伝熱凝固計算位置において、鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面であるトラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する伝熱凝固計算工程と、
鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置の間に設定される少なくとも1つの中間計算位置において、前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行する伝熱計算工程と、
を有し、
前記伝熱計算工程は、鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの上流側の伝熱凝固計算位置におけるトラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果を用いて、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行し、
前記伝熱凝固計算工程は、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算の結果を用いて、前記上流側の伝熱凝固計算位置にある前記トラッキング面が鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの下流側の伝熱凝固計算位置に位置するときの当該トラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する、推定方法。
【請求項13】
請求項12に記載の推定方法により実行された、前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果に基づいて、前記連続鋳造機で鋳造されている鋳片の所定の位置における温度の目標値と計算値との偏差がゼロに近づくように、前記鋳片に対する冷却水の供給量を制御する制御工程を有する、連続鋳造制御方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の推定装置の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、方法及びプログラム、並びに連続鋳造制御装置及び方法に関し、特に、連続鋳造機で鋳片を鋳造するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造工程では、タンディッシュから鋳型内に溶鋼を供給して、鋳型から鋳片を引き抜く。そして、鋳型の下流側に配置される二次冷却帯において鋳片に冷却水を噴出して鋳片を冷却した後、二次冷却帯の下流側で鋳片に対して曲げおよび矯正を行う。その後、鋳片を切断してスラブ、ビレット、ブルーム等とする。ここで、鋳片の引き抜き方向の最下流の位置にあるロールの出口を機端出口と称する。二次冷却帯における冷却が適切でないと、鋳片の表面に割れ疵が生じたり、鋳片に中心偏析が生じたりする虞がある。また、機端出口において鋳片の中心まで凝固が完了せず、機端出口よりも先で鋳片の凝固が完了すると、鋳片が大きく膨張する虞がある。そこで、連続鋳造機で鋳造されている鋳片の温度および固相率を推定して管理することが行われる(例えば、特許文献1~2参照)。
【0003】
鋳片の温度および固相率を推定するためには、鋳片と外部との間における熱伝達係数が用いられる。従って、熱伝達係数の推定精度が低いと、鋳片の温度および固相率の推定精度も低くなる。そこで、特許文献1、2には、鋳片に施される複数の冷却手段それぞれの熱伝達係数を算出し、算出した熱伝達係数のうちの最大値を用いて伝熱計算を行うことが開示されている。また、特許文献2には、鋳片の温度推定を行う位置での各計算区間内の全抜熱量を算出し、算出した全抜熱量を用いて伝熱計算を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-35011号公報
【文献】特開2019-98388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、計算区間の上流端の位置における鋳片の表面温度を用いて当該計算区間の下流端の位置における伝熱計算を実行する。従って、同一の計算区間内において鋳造に伴って鋳片の表面温度が変化することを考慮していない。よって、同一の計算区間内において鋳片の表面温度が変化する場合でも、当該計算区間に対して1つの熱伝達係数が選択される。このため、例えば、同一の計算区間内において熱伝達係数が鋳片の表面温度に応じて大きく異なる場合、鋳片の温度および固相率の推定精度が低下する虞がある。この場合、計算区間の間隔を短くすることにより、同一の計算区間内における熱伝達係数の変化を小さくすることが考えられる。しかしながら、このようにすると、計算負荷が高くなり、計算区間の長さだけ鋳造が進む間に計算が完了しない虞がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、連続鋳造機で鋳造される鋳片の状態の推定精度の向上を、計算負荷の増加を抑制しつつ実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の推定装置は、連続鋳造機で鋳造される鋳片の状態を推定する推定装置であって、鋳造方向に間隔を有して設定される複数の伝熱凝固計算位置において、鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面であるトラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する伝熱凝固計算部と、鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置の間に設定される少なくとも1つの中間計算位置において、前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行する伝熱計算部と、
を備え、前記伝熱計算部は、鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの上流側の伝熱凝固計算位置における前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果を用いて、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行し、前記伝熱凝固計算部は、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算の結果を用いて、前記上流側の伝熱凝固計算位置にある前記トラッキング面が鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの下流側の伝熱凝固計算位置に位置するときの当該トラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する。
【0008】
本発明の連続鋳造制御装置は、前記推定装置と、前記推定装置により実行された、前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果に基づいて、前記連続鋳造機で鋳造されている鋳片の所定の位置における温度の目標値と計算値との偏差がゼロに近づくように、前記連続鋳造機の二次冷却帯における冷却水の供給量を制御する制御装置と、を備える。
【0009】
本発明の推定方法は、連続鋳造機で鋳造される鋳片の状態を推定する推定方法であって、鋳造方向に間隔を有して設定される複数の伝熱凝固計算位置において、鋳造方向に垂直な前記鋳片の断面であるトラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する伝熱凝固計算工程と、鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置の間に設定される少なくとも1つの中間計算位置において、前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行する伝熱計算工程と、を有し、前記伝熱計算工程は、鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの上流側の伝熱凝固計算位置におけるトラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果を用いて、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算を実行し、前記伝熱凝固計算工程は、前記中間計算位置における前記鋳片の表面に対する伝熱計算の結果を用いて、前記上流側の伝熱凝固計算位置にある前記トラッキング面が鋳造方向で隣接する2つの前記伝熱凝固計算位置のうちの下流側の伝熱凝固計算位置に位置するときの当該トラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する。
【0010】
本発明の連続鋳造制御方法は、前記推定方法により実行された、前記トラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果に基づいて、前記連続鋳造機で鋳造されている鋳片の所定の位置における温度の目標値と計算値との偏差がゼロに近づくように、前記連続鋳造機の二次冷却帯における冷却水の供給量を制御する制御工程を有する。
【0011】
本発明のプログラムは、前記推定装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、連続鋳造機で鋳造される鋳片の状態の推定精度の向上を、計算負荷の増加を抑制しつつ実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】連続鋳造機の構成の一例を示す図である。
図2】鋳片に対する冷却方式の一例を説明する図である。
図3】各領域における熱伝達係数の計算値の一例を示す図である。
図4】推定装置および制御装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図5】伝熱凝固計算位置のトラッキング面の計算点の一例を概念的に示す図である。
図6】伝熱凝固計算位置と温度計算位置との関係の一例を示す図である。
図7】中間計算位置における伝熱計算対象断面の計算点の一例を概念的に示す図である。
図8】連続鋳造制御方法の一例を説明するフローチャートである。
図9】基準例と比較例における、幅中央温度と鋳造長との関係を示す図である。
図10】基準例と発明例における、幅中央温度と鋳造長との関係を示す図である。
図11図10の一部分を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
尚、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0015】
(連続鋳造機の概略構成)
図1は、連続鋳造機の構成の一例を示す図である。尚、連続鋳造機自体は、公知の技術で実現することができるので、図1では、本実施形態の説明に必要な部分のみを簡略化して示す。
【0016】
不図示のタンディッシュから不図示の浸漬ノズル等を介して鋳型1内に溶鋼が供給される。鋳型1内において溶鋼の最上部には溶鋼メニスカス4が形成される。鋳型1内で溶鋼が冷却され外側が凝固した鋳片5を、複数の支持ロール7a~7v、8a~8pで挟んで支持しながら引抜速度(鋳造速度)で鋳型1から引き抜く。複数の支持ロール7a~7v、8a~8pは、鋳片5を間に挟むように相互に対向する位置に配置されると共に、鋳造方向に所定の間隔をあけて配置される。鋳造方向で隣接する2つの支持ロールの間には、鋳片5へ向けて冷却水を噴出する冷却スプレー2a~2tが配置される。本実施形態では、冷却スプレー2a~2tが、ミスト状の冷却水(水とエアーとの気液二相流体)を噴出するミストスプレーである場合を例に挙げて説明する。ただし、鋳片5を冷却する冷却水は、ミスト状の冷却水に限定されない。例えば、ミストスプレーに代えてまたは加えて水スプレー(水のみの単相流体を噴出するスプレー)を用いてもよい。
【0017】
冷却スプレー2a~2tにより噴出される冷却水の流量は、配管10a~10jに設置された流量調整弁3a~3eにより調整される。流量調整弁3a~3eの開度は、制御装置100bから与えられる水量指示値に基づいて調整される。本実施形態では、鋳片5の鋳造方向に垂直な方向の断面の形状が矩形である場合を例に挙げて説明する。以下の説明では、鋳造方向の下流側(機端出口9付近)において上方を向く上面または下方(重力方向)を向く下面となる鋳片5の面(5b、5c)を鋳片5の長辺面と称し、水平方向を向く側面となる鋳片5の面(5a)を鋳片5の短辺面と称する。本実施形態では、鋳片5の短辺面5aに対向する位置に冷却スプレーを配置せずに、鋳片5の長辺面5b~5cに対向する位置に冷却スプレー2a~2tを配置する場合を例に挙げて説明する。従って、冷却スプレー2a~2tは、鋳片5の長辺面5b~5cに対して冷却水を噴出する。本実施形態では、連続鋳造制御装置100が推定装置100aと制御装置100bとを独立した装置として備え、冷却スプレー2a~2tにおける冷却水の流量(以下、冷却水量と称する)が、推定装置100aで推定される鋳片5の表面および内部の温度に基づいて制御装置100bによって制御される場合を例に挙げて説明する。
【0018】
配管10a~10jは、ストランドの鋳造方向の長さを複数個に区分した冷却ゾーン(冷却ゾーン境界線6a~6fによって区分された冷却ゾーン)に対応して設置される。ストランド内(機内)の鋳造方向の冷却水量の分布は、冷却ゾーンごとに制御される。これらの冷却ゾーンの全体(冷却ゾーン境界線6a~6fの間)を二次冷却帯と称する。
【0019】
また、支持ロール8hは、鋳片5の鋳造速度を逐次測定するための鋳造速度測定ロールとしても機能する。図1では、鋳造方向(引き抜き方向)の最下流に配置される一対の支持ロール8h、8pのうち下側にある支持ロール8hを鋳造速度測定ロールとする場合を例に挙げて示す。背景技術の欄で説明したように、鋳造方向の最下流に配置される一対の支持ロール8h、8pの出口が機端出口9になる。
【0020】
(伝熱凝固モデル)
連続鋳造機の操業状態の管理上、鋳片5の表面温度、内部温度、および固相率を算出する必要がある。そこで、本実施形態では、伝熱凝固計算を実行することにより、鋳片5の表面温度、内部温度、および固相率を算出する。以下に伝熱凝固計算に用いる伝熱凝固モデルの一例について説明する。本実施形態では、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報に記載されている伝熱凝固モデルを用いて伝熱凝固計算を実行する場合を例に挙げて説明する。従って、ここでは、伝熱凝固モデルの主要な部分の説明を行い、詳細な部分の説明を省略する。
【0021】
鋳型1内の湯面(溶鋼メニスカス4)から機端出口9までの領域において鋳造方向に一定間隔Δzで設定した伝熱凝固計算位置で鋳造方向に垂直な方向に鋳片5を切った場合の鋳片5の断面を、伝熱凝固計算対象断面と称することとする。特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報に記載されているように、ストランド内における鋳片5の温度および固相率の分布は、各伝熱凝固計算対象断面内の鋳片5の温度および固相率の分布を、各伝熱凝固計算対象断面内の各計算点における冷却条件を反映した熱伝達係数の境界条件のもとで離散化した熱伝導方程式を解くことで計算される。ここで、熱伝達係数は、鋳片5と外部との間の熱伝達係数である(このことは以降の説明でも同じである)。
【0022】
尚、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報では、伝熱凝固計算対象断面を、計算対象断面と称している。本実施形態では、後述する伝熱計算対象断面と区別するために、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報において計算対象断面と称しているものを伝熱凝固計算対象断面と称する。尚、詳細は後述するが、伝熱計算対象断面は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算対象断面の間隔を短くしなくても、伝熱凝固計算の精度向上を実現するために、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算断面の間に設定されるものであり、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報には記載されていないものである。
【0023】
各伝熱凝固計算対象断面に対する熱伝導方程式の初期条件として、当該伝熱凝固計算対象断面に対し上流側で隣接する伝熱凝固計算対象断面における計算結果が設定される。鋳片5の引き抜きにより、伝熱凝固計算対象断面が、当該伝熱凝固計算対象断面が存在する伝熱凝固計算位置から、当該伝熱凝固計算位置の1つ下流側の伝熱凝固計算位置へ移動するまでの当該伝熱凝固計算対象断面内のエンタルピー、温度(温度分布)、および固相率の時間変化の計算を繰り返す。このような繰り返し計算を、伝熱凝固計算対象断面のそれぞれについて実行することにより、鋳片5の全体の温度および固相率が算出される。
【0024】
鋳造速度および冷却水量の指示値の変更に対応するために、鋳片5が一定距離Δzだけ引き抜かれるたびに、鋳型1内の溶鋼メニスカス4の位置(z=0)に伝熱凝固計算対象断面を新たに発生させ、逐次、伝熱凝固計算対象断面の位置を追跡する。以下の説明では、この伝熱凝固計算対象断面のことをトラッキング面と称する。鋳造方向に一定間隔Δzで設定した伝熱凝固計算位置にトラッキング面が位置すると、当該トラッキング面に対する伝熱凝固モデルによる計算が行われる。トラッキング面には、温度および固相率を算出する計算点が格子状に配置される。トラッキング面の境界線にも計算点が配置される。前述したように本実施形態では、鋳片5の鋳造方向に垂直な方向の断面の形状は矩形である。従って、トラッキング面の形状も矩形になる。トラッキング面の境界線は、当該矩形の輪郭線であり、鋳片5の表面に対応する。このようにしてトラッキング面に配置される各計算点の温度および固相率が伝熱凝固モデルに基づいて算出される。伝熱凝固モデルによる計算は、溶鋼メニスカス4から、少なくとも二次冷却帯の出口の位置までにある各々のトラッキング面について実行される。
【0025】
本実施形態では、伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔と、トラッキング面を発生させる鋳造方向の間隔と、が共に一定間隔Δzである場合を例に挙げて説明する。これにより、同一時刻において、全てのトラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行することができる。尚、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報に記載されているように、トラッキング面を発生させる鋳造方向の間隔は、伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔の整数倍であればよい。即ち、当該整数倍は1倍に限定されず、2倍以上の整数倍であってもよい。
【0026】
前述したように、各トラッキング面に対する熱伝導方程式の初期条件には、当該トラッキング面に対し上流側で隣接するトラッキング面における計算結果が設定される。鋳片5の引き抜きにより、伝熱凝固計算位置に存在するトラッキング面が、当該伝熱凝固計算位置から、当該伝熱凝固計算位置の1つ下流側の伝熱凝固計算位置へ移動するまでの当該トラッキング面内のエンタルピー、温度、および固相率の時間変化の計算を繰り返すことを各トラッキング面について実行することにより、鋳片5の全体の温度および固相率が算出される。
【0027】
<断面内座標と状態変数>
前述したように本実施形態では、トラッキング面の形状は矩形である。ここで、鋳片5の鋳造方向に垂直な方向の断面において、鋳片5の長辺面5b~5cにあたる辺に沿う方向を幅方向と称し、鋳片5の短辺面5aに沿う方向を厚み方向と称する。図1では、冷却ゾーン境界線6a~6fを示す破線に沿う方向が厚み方向であり、図1の紙面に垂直な方向が幅方向であり、幅方向および厚み方向に垂直な方向が鋳造方向である。鋳片5の鋳造方向に垂直な方向の断面内の座標は、鋳片5の或る1つの頂点を原点0(ゼロ)とする座標とする。この座標の幅方向の軸をx軸、厚み方向の軸をy軸とする。また、鋳片5の幅をX、厚みをYとする。また、この座標のz軸は、鋳片5の引き抜き方向(即ち、鋳造方向)の軸とする。尚、図1では、溶鋼メニスカス4の位置にx-y-z座標を示す。x-y-z座標を示す記号として、〇の中に×を付している記号は、紙面の手前側から奥側に向かう矢印線に対応する(図1に示す当該記号は、紙面の手前側から奥側に向かう方向がx軸の正の方向であることを示す)。
【0028】
伝熱凝固モデルでは、以下のものを、時刻tにおけるトラッキング面(伝熱凝固計算対象断面)内の座標(x,y)における状態変数とする。尚、μは、溶鋼中における溶質成分を識別する番号である。
エンタルピー:H(x,y,t)
温度:T(x,y,t)
固相率:fs(x,y,t)
固液界面における液相側の溶質成分濃度:C(x,y,t)
また、伝熱凝固モデルにおける物性パラメータは、以下の通りである。
熱伝導率(温度に依存):λ(x,y,t)=λ(T(x,y,t))
鋼の比熱(温度に依存):c(x,y,t)=c(T(x,y,t))
凝固潜熱:Lh
液相線温度:TL
密度:ρ
【0029】
<伝熱凝固モデルの基礎方程式>
エンタルピーは、凝固潜熱を含めたトラッキング面内の各計算点におけるエネルギーであるので、各計算点における熱収支を表す熱伝導方程式である以下の式(1)により、その時間変化を表すことができる。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、qxはx軸方向の熱流束を表し、qyはy軸方向の熱流束を表す。トラッキング面の境界線以外の点である内点では、以下の式(2)および式(3)が成り立つ。
【0032】
【数2】
【0033】
ここで、λxはx軸方向の熱伝導率を表し、λyはy軸方向の熱伝導率を表す。従って、式(2)および式(3)より、トラッキング面の内点において式(1)は、以下の式(4)のように表される。
【0034】
【数3】
【0035】
<境界条件>
トラッキング面の境界線上の位置のうち、x=xB(xB=0またはX)の位置では以下の式(5)で熱流束が表され、y=yB(yB=0またはY)の位置では以下の式(6)で熱流束qx、qyが表されるものとする。尚、x=xBは、鋳片5の短辺面5aの幅方向の位置(x軸座標)になり、y=yBは、鋳片5の長辺面5b~5cの厚み方向の位置(y軸座標)になる。
【0036】
【数4】
【0037】
ここで、ht(xB,y,t)は、鋳片5の短辺面5aにおける熱伝達係数であり、ht(x,yB,t)は、鋳片5の長辺面5b~5cにおける熱伝達係数である。また、Ta(xB,y,t)は、鋳片5の短辺面5aの周囲における外部雰囲気温度であり、Ta(x,yB,t)は、鋳片5の長辺面5b~5cの周囲における外部雰囲気温度である。詳細は後述するが、本実施形態では、式(5)および式(6)に示す境界条件を、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に設定される少なくとも1つの中間計算位置における鋳片5の表面に対する伝熱計算の結果に基づいて設定する(式(43)および式(44)を参照)。この点が、本実施形態で用いる伝熱凝固モデルと、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報に記載されている伝熱凝固モデルと、の大きな相違点の一つである。
【0038】
尚、特開2019-48322号公報、特開2019-141893号公報に記載されているように、対称性を利用して、トラッキング面のうち、鋳片5のコーナーから鋳片5の中央までのいわゆる四分の一断面を計算対象領域としてもよい。
【0039】
<エンタルピーと温度および固相率との関係>
合金である鋼では、鋼の温度が成分濃度で定まる液相線温度TLを下回ると凝固が始まって固相率fsが0を上回る(fs>0となる)。その後、鋼の温度は、凝固が完了して固相率fsが1(fs=1)となるまでの間に低下する。固相率fsが0≦fs≦1であることを考慮すると、エンタルピーHと温度Tとの関係は、以下の式(7)で表される。
【0040】
【数5】
【0041】
ここで、T0は、任意の積分定数であり、Tは、トラッキング面における計算点における温度である。
<エンタルピーを変数とする熱伝導方程式>
式(7)の両辺に対して、xにより偏微分すると以下の式(8)になるので、x軸方向の熱流束qxは、以下の式(9)で表される。同様に、式(7)の両辺に対して、yにより偏微分することにより、y軸方向の熱流束qyは、以下の式(10)で表される。
【0042】
【数6】
【0043】
式(1)へ、式(9)および式(10)を代入することにより、トラッキング面の内点では、熱伝導方程式を、エンタルピーHを変数とする以下の式(11)に書き換えることができる。このように、本実施形態では、x軸方向およびy軸方向に熱伝達が生じるものとして、二次元の伝熱凝固計算が実行される。
【0044】
【数7】
【0045】
温度Tと固相率fsとの関係を表すモデルは、これまでにいくつか提案されている。その一つに、以下の式(12)のように、凝固が開始する液相線温度TLと、凝固が完了する固相線温度と、の間で、固相率fsを補間するモデルがある。
【0046】
【数8】
【0047】
補間関数φ(T(x,y,t))は一般に単調増加であり、温度Tについて一次式とする方法や、温度Tについて二次式とする方法がある。
【0048】
式(7)、式(11)、および式(12)は、変数H、T、およびfsについて閉じている。従って、これらの式を連立して解くことにより、トラッキング面内のエンタルピーH(x,y,t)、温度T(x,y,t)、および固相率fs(x,y,t)が得られる。
【0049】
固液共存領域内では固相と液相との界面での液相側溶質濃度により温度が定まるので、状態図から、温度Tと固相率fsとの関係を表す別のモデルとして、以下の式(13)および式(14)のように表されるモデルを用いてもよい。ここで、μmaxは、伝熱凝固モデルで考慮する溶質成分の最大個数である。
【0050】
【数9】
【0051】
式(7)、式(11)、式(13)、および式(14)は、変数H、T、fs、Cについて閉じている。従って、これらの式を連立して解くことにより、トラッキング面内のエンタルピーH(x,y,t)、温度T(x,y,t)、固相率fs(x,y,t)、および固液界面の液相側溶質濃度CLμ(x,y,t)が得られる。
【0052】
式(7)、式(11)、および式(12)(または式(13)および式(14))を連立して解く際には、偏微分方程式を空間および時間で離散化することにより数値解を得る。即ち、本実施形態では、式(11)の微分方程式を、トラッキング面内およびトラッキング面の境界線上で空間的に離散化し、鋳片5の表面における境界条件を組み込んだ形で、離散化した時刻t=1,2,・・・において、1時刻前のt-1における値から更新するモデルを用いる。時刻t=0は計算開始の時点を意味しており、式(1)から式(14)で示した連続時間のモデルにおける初期条件を各変数に設定するものとする。
【0053】
前述したようにトラッキング面は、鋳造方向において、一定間隔Δzで設定されるものとする。伝熱凝固計算位置を示す番号nは、以下のように定められるものとする。即ち、鋳型1内の湯面位置(溶鋼メニスカス4の位置)を0(n=0)とし、以下、引き抜き方向(鋳造方向)にΔzの一定間隔で並ぶ各位置を1、2、・・・、nmax(n=1、2、・・・、nmax)とする。トラッキング面の内部および境界線上には、複数の計算点が、各トラッキング面において同じ配置となるように設定される。上流側の伝熱凝固計算位置n-1のトラッキング面から下流側の伝熱凝固計算位置nのトラッキング面に状態変数を更新する場合、時刻の離散化刻みΔtを、以下の式(15)で表す。
【0054】
【数10】
【0055】
ここで、vcは、鋳造速度である。
トラッキング面の計算点の座標(xi,yj)において離散化したモデルは、エンタルピーと、温度と、固相率と、当該計算点に隣接する計算点におけるエンタルピーおよび固相率と、を用いて、以下の式(16)、式(17)のように表される。ここで、座標(xi,yj)の計算点に隣接する計算点は、座標(xi+1,yj)、座標(xi,yj+1)、座標(xi-1,yj)、および座標(xi,yj-1)の計算点である。
【0056】
【数11】
【0057】
ここで、N(i、j)は、計算点(座標(xi,yj))に隣接する計算点の集合を表す。また、at i,jは、式(11)の偏微分方程式を中心差分により離散近似し、式(16)の形に整理した場合のHi,j,tにかかる係数である。αt i,jは、同じくfsi,j,tにかかる係数である。係数at i,jは、式(11)に現れる熱伝導率λxまたはλy、比熱ρ、および凝固潜熱Lhを含む。係数αt i,jは、式(11)に現れる熱伝導率λxまたはλy、比熱c、および密度ρを含む。また、bi,jは、座標(xi,yj)の計算点がトラッキング面の境界線上の点でない場合は常に0(ゼロ)である。一方、座標(xi,yj)がトラッキング面の境界線上の点である場合、bi,jは、式(11)の偏微分方程式を中心差分により離散近似し、式(16)の形に整理した場合の(Ta-ωTi,j,t-(1-ω)Ti,j,t-1)にかかる係数であり、式(5)および式(6)における熱伝達係数ht(xB,y,t-1)またはht(x,yB,t-1)を含む。
【0058】
また、式(16)において計算安定化パラメータωは、0以上1以下の値(0≦ω≦1)を採る変数である。エンタルピーを更新するに際し、ω<1の場合、時間刻みΔtが長いと、計算結果が不安定になり発散することがあり、ωが小さい場合には不安定になりやすいことが知られている。そのため適切なωを設定することで計算を安定化する。ω=0の場合は陽解法、ω=1の場合は陰解法、ω=1/2の場合は半陽半陰解法(Crank-Nicholson法)を用いることを意味する。
【0059】
また、式(17)におけるTp,tおよびHp,tにおけるpは、計算点の座標(xi,yj)を表す省略記法である。また、温度Tがとりうる値の範囲を予め複数の温度区分に分割しておく。k(p)は、温度T(p)を含むTk(p)≦T(p)<Tk(p)+1なる温度区分の番号である。また、Ic(Tk(p))は、式(7)における積分を温度T0からの境界値Tk(p)までの範囲で実行することにより予め算出される値である。c* k(p)+1/2は、温度区分k(p)における溶鋼の比熱cの代表値であり、例えば温度区分k(p)における溶鋼の比熱cの平均値を、代表値c* k(p)+1/2として用いる。尚、c* k(p)+1/2は、式(17)において、c* k(p)+1/2のkの上に*が付されている記号に対応する。
【0060】
(熱伝達係数のモデル)
図2は、鋳片5に対する冷却方式の一例を説明する図である。図2では、鋳造方向で隣接する2つの支持ロール7l、7mの間の、鋳片5の支持ロール7l、7m側の領域を取り出して、厚み方向と鋳造方向とに平行な断面(図1のy-z断面)における鋳片5の冷却方式の違いを例に挙げて示す。
【0061】
図2において、領域aは、鋳片5の長辺面5bの領域のうち、支持ロール7l、7mと接触する領域である。領域aは、主に、支持ロール7l、7mとの接触により冷却される。領域bは、鋳片5の長辺面5bの領域のうち、支持ロール7l、7mおよび冷却水が接しない領域である。領域bは、主に、輻射放熱により冷却される。領域cは、鋳片5の長辺面5bの領域のうち、冷却スプレー2kから噴出された冷却水が水膜状になって接するが、冷却スプレー2kから噴出された空気は直接衝突しない領域である。領域cは、主に、冷却水により生じる水膜により冷却される。領域dは、鋳片5の長辺面5bの領域のうち、冷却スプレー2kから噴出された冷却水および空気がミストとなって直接衝突する領域である。領域dは、主に、ミスト状の冷却水により冷却される。領域eは、上方から水膜として流れた冷却水が支持ロール7mと鋳片5との間に溜まる領域である。領域eは、主に、支持ロール7mと鋳片5との間に溜まった水により冷却される。以上のように、鋳造方向で隣接する2つの支持ロール7l、7m間には、冷却方式が異なる複数の領域a~eが存在する。尚、領域a~eは、支持ロール7a~7vのうち、鋳造方向で隣接する2つの支持ロールの間の全てに存在する。ただし、鋳片5(鋳造方向)が水平の場合には、領域eは存在しない。
【0062】
領域a、領域c、および領域eでは、一定の熱伝達係数が用いられることが多い。一方、領域bでは、例えば、輻射放熱に関するステファン・ボルツマンの法則に基づく以下の式(18)で表される熱伝達係数htが用いられる。また、領域dでは、例えば、モデル実験に基づいて得られる以下の式(19)の数式モデルで表される熱伝達係数htが用いられる。
【0063】
【数12】
【0064】
ここで、εは、輻射率であり、σは、ステファン・ボルツマン定数である。Tは、鋳片5の表面温度であり、Taは、鋳片5の外部雰囲気温度である。Aは、鋳片5の表面温度の条件に応じて定められる係数であり、Wは、鋳片5に衝突する冷却水の流量密度である。f、gは、無次元の定数である。定数gは負の値である。従って、領域dでは、鋳片5の表面温度Tが低くなるほど熱伝達係数htは大きくなる。また、領域dでは、熱伝達係数htと鋳片5の表面温度Tとの関係が非線形になるため、鋳片5から外部への熱流束qyの大きさが鋳片5の表面温度Tに対して非線形特性になる。
【0065】
(着想)
図3は、各領域a~eにおける熱伝達係数の計算値の一例を示す図である。領域a~eの熱伝達係数の大きさを比較すると、図3に示すように、冷却水量が多い領域c~eの熱伝達係数と、支持ロール7l、7mと接触する領域aの熱伝達係数は、領域bの熱伝達係数の数十倍の大きさになることがある。
【0066】
また、各領域a~eの鋳造方向の長さは、例えば、以下のようになる。即ち、領域aの鋳造方向の長さは10mm程度である。領域dの鋳造方向の長さは、冷却スプレー2a~2kの噴出口の形状により異なるが、15~30mm程度である。また、鋳片5(鋳造方向)が水平でない場合、領域dの上方の領域cの鋳造方向の長さは10~50mm程度であり、領域dの下方の領域cは、領域dの下端から領域eの上端まで広がる(領域dの下方の領域cは、領域d、eに挟まれた領域として定まる)。領域eの鋳造方向の長さは、10~30mm程度である。領域bの鋳造方向の長さは、鋳造方向で隣接する2つの支持ロール間の残りの部分の長さである。前述したように鋳片5(鋳造方向)が水平の場合には領域eは発生せず、この場合、領域cの鋳造方向の長さは20~50mm程度である。
【0067】
一方、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔Δzは、例えば50mm程度を最小値として設定される。伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔Δzが短くなるほど、同時に伝熱凝固計算を実行するトラッキング面の個数が増加するため、計算負荷が増加する。一方、伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔Δzが大きくなるほど、鋳造方向で隣接する2つのトラッキング面の間隔が大きくなるため、計算精度が低下する。図1に示すように連続鋳造中に、推定装置100aによる推定結果を用いて制御装置100bによる冷却水の流量制御を行う場合には、鋳造速度に応じた時間的な制約の下で推定を行う必要があり、伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔Δzは、計算精度(推定精度)と計算負荷(計算時間)との兼ね合いで定められる。
【0068】
鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔Δzを50mmとする場合、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置(即ち、2つのトラッキング面)の間に複数の冷却方式で冷却される領域が存在する場合がある。このため、冷却方式の違いによる熱伝達係数の大きさの違いを正確に評価しなければ、鋳片5の温度の計算値に大きな誤差が生じる虞がある。冷却方式の違いは、鋳片5の表面温度に特に大きな影響を与えるため、鋳片5の表面温度の計算値に特に大きな誤差が生じる虞がある。尚、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に存在する冷却方式の数は、伝熱凝固計算位置の場所および間隔によって、1つになることも、2つになることも、3つ以上になることもある。
【0069】
以上のように、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に、熱伝達係数が数十倍異なる複数の領域(例えば、領域bと領域a、領域bと領域d)が存在する場合には、冷却方式の違いによる熱伝達係数の大きさの違いを考慮するか否かで計算精度に大きな差が生じる虞がある。さらに、領域dのように、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に、熱伝達係数が大きく、且つ、熱伝達係数が鋳片5の表面温度に依存する領域がある場合には、鋳片5の表面温度の変化による熱伝達係数の変化を考慮しなければ、冷却による鋳片5からの抜熱を高精度に評価することができなくなる虞がある。このような課題に対して、伝熱凝固計算位置の鋳造方向の間隔Δzを短くすることも考えられるが、上記の間隔Δzを短くすると計算負荷が高くなり、間隔Δzだけ鋳造が進む間に、各トラッキング面に対する伝熱凝固計算が完了しない虞がある。
【0070】
そこで、本実施形態では、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間を移動する一つのトラッキング面に対する式(16)および式(17)に基づく伝熱凝固計算において、これらの隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に少なくとも1つの中間計算位置を設定する。そして、中間計算位置において、鋳片5の表面に対する伝熱計算を、上流側の伝熱凝固計算位置におけるトラッキング面に対する伝熱凝固計算の結果を用いて実行し、当該伝熱計算の結果を用いて、上流側の伝熱凝固計算位置にあるトラッキング面が下流側の伝熱凝固計算位置に移動したときの当該トラッキング面に対する伝熱凝固計算を実行する。このように、中間計算位置における伝熱計算を実行することにより、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間における、鋳片5の表面およびその近傍の領域の温度変化を考慮することができる。従って、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面に対する伝熱凝固計算の際に、当該温度変化に応じた熱伝達係数を用いることができるので、鋳造中の鋳片の状態(温度および固相率)の推定精度を向上することができる。また、中間計算位置では、鋳片5の表面に対する伝熱計算を実行するので、伝熱凝固計算位置における伝熱凝固計算のように広い領域(トラッキング面)を計算対象の領域とする必要がなくなると共に、固相率fsを算出する必要がない。従って、中間計算位置に対する計算負荷は、伝熱凝固計算位置におけるトラッキング面全体に対する計算負荷よりも軽くなるので、計算負荷の増大を抑制しつつ、鋳片の状態の推定精度を向上することができる。以下に説明する本実施形態の推定装置100aは、このような着想に基づいてなされたものである。
【0071】
(推定装置100a、制御装置100b)
図4は、推定装置100aおよび制御装置100bの機能的な構成の一例を示す図である。推定装置100aおよび制御装置100bのハードウェアは、例えば、プロセッサ(例えばCPUなど)、ROM、RAM、および各種のインターフェースを備えた情報処理装置、または、専用のハードウェアを用いることにより実現される。以下に本実施形態の推定装置100aおよび制御装置100bが有する機能の一例を説明する。
【0072】
まず、推定装置100aが有する機能の一例を説明する。
<操業データ取得部410>
操業データ取得部410は、連続鋳造機の操業データを取得する。連続鋳造機の操業データには、例えば、鋳造方向に垂直な方向の鋳片5の大きさ、鋳造速度vc、鋳型1内の溶鋼の温度、溶鋼中の溶質成分の濃度、溶質成分の濃度を用いて算出される溶鋼の液相線温度TL、および、二次冷却帯の各冷却ゾーンに配置された冷却スプレー2a~2tから噴出された冷却水量、および鋳片5の表面の各点における冷却条件が含まれる。操業データ取得部410は、例えば、不図示の上位プロコンまたは下位計装装置から、連続鋳造機の操業データを受信することにより、連続鋳造機の操業データを取得する。
【0073】
ここで、冷却条件には、例えば、冷却スプレー2a~2tから噴出された冷却水が鋳片5の表面に衝突する範囲を示すデータが含まれる。操業データ取得部410は、冷却スプレー2a~2tから噴出された冷却水の冷却水量を示すデータと、冷却スプレー2a~2tから噴出された冷却水が鋳片5の表面に衝突する範囲を示すデータと、冷却スプレー2a~2tの本数および配置と、を用いて、鋳片5の表面全体における冷却水の流量密度Wの分布を算出する。
【0074】
<伝熱凝固計算位置設定部420>
伝熱凝固計算位置設定部420は、鋳型1内の溶鋼メニスカス4の位置をz=0として、鋳造方向の間隔がトラッキング面の鋳造方向の発生間隔となるように、鋳片5の鋳造方向の位置zを、伝熱凝固計算位置として設定する。本実施形態では、トラッキング面の発生間隔は、式(15)に示すΔzであり、予め定められた一定間隔である。
【0075】
伝熱凝固計算位置設定部420は、伝熱凝固計算位置におけるトラッキング面の計算点を設定する。図5は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1とnにあるトラッキング面の計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bの一例を概念的に示す図である。図5では、伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定される温度計算位置kも併せて示す。前述したように、鋳型1内の湯面位置(溶鋼メニスカス4の位置)に一致する伝熱凝固計算位置に対してn=0が与えられ、以降引き抜き方向(鋳造方向)に沿って一定間隔Δzで並ぶ各伝熱凝固計算位置に対してn=1、2、・・・、nmaxが上流側の伝熱凝固計算位置から順番に与えられる。n=nmaxは、最下流の伝熱凝固計算位置(本実施形態では機端出口9の位置)を示す。図5では、これらの伝熱凝固計算位置n=0、1、2、・・・、nmaxのうち、鋳造方向で隣接する任意の2つの伝熱凝固位置n-1、nを示す。鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固位置n-1、nの組の数はnmaxである。
【0076】
図5では、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1とnの各々にトラッキング面500aと500bがあり、時刻t-Δtにおいて伝熱凝固計算が実行された直後における状態が示されている。トラッキング面内およびトラッキング面の境界線上で空間的に離散化した伝熱凝固計算を実行するために、伝熱凝固計算位置設定部420は、各トラッキング面500aと500bを格子状に分割し、分割したそれぞれの矩形領域に計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bを1つずつ設定する。図5では計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bを黒丸(●)で示す(表記が煩雑になるので符号を付すことを省略しているが、符号が付されていない黒丸(●)も計算点を示す)。尚、図5に示すように、トラッキング面500aと500bに設定される矩形領域の大きさは、同じでなくてもよい。
【0077】
伝熱凝固計算位置設定部420は、以上のようにして、複数の伝熱凝固計算位置nを設定し、複数の伝熱凝固計算位置nのそれぞれにおいて、複数の矩形領域および複数の計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bを設定する。
【0078】
<中間計算位置設定部430>
中間計算位置設定部430は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定される1以上(図5では複数)の中間計算位置kの間隔を設定する。例えば、中間計算位置設定部430は、ユーザによる入力を通して指定される間隔に設定しても良いし、同様に指定される中間計算位置kの設定数およびΔzに基づく中間計算位置kの間隔の計算値に設定しても良い。本実施形態では、複数の中間計算位置k=0~Nが等間隔に設定される場合を例に挙げて示す。図6は、伝熱凝固計算位置nと温度計算位置kとの関係の一例を示す図である。kは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnを両端とする区間に設定される中間計算位置を示す番号である。図5および図6に示すように、上流側の伝熱凝固計算位置n-1をk=0とし、以下、引き抜き方向(鋳造方向)にk=1、2、・・・、Nとする。下流側の伝熱凝固計算位置nをk=Nとする。
【0079】
図6では、各伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面(伝熱凝固計算対象断面)を、鋳造方向に垂直な実線で示す。ここでは、時刻t-Δtにおいて、図5に示す伝熱凝固計算位置n-1およびnのnが2(n=2)であるものとして、図5に示すトラッキング面500a、500bを図6に示す。その他の伝熱凝固計算位置n(n=0,3,・・・,nmax-1,nmax)にもトラッキング面がそれぞれ存在する。図6では、時刻t-Δtにおいて、伝熱凝固計算位置n=0、nmax-1、nmaxにあるトラッキング面をトラッキング面500c、500d、500eと表記している。
【0080】
また、各中間計算位置kにおける伝熱計算対象断面600を、鋳造方向に垂直な破線で示す。伝熱計算対象断面600は、各中間計算位置kにおいて鋳造方向に垂直な方向に鋳片5を切った場合の鋳片5の断面である。尚、中間計算位置k=0、Nにおける伝熱計算対象断面600は、伝熱凝固計算位置n-1およびnにおけるトラッキング面(例えば、トラッキング面500a、500b)の各々と重なるため、鋳造方向に垂直な実線で示される。
【0081】
中間計算位置設定部430は、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnを両端とする区間のそれぞれにおいて、複数の中間計算位置kの間隔を設定する。
【0082】
図6に示すように、例えば、伝熱凝固計算位置n=1は、伝熱凝固計算位置n=0に対しては下流側の伝熱凝固計算位置nとなる。従って、伝熱凝固計算位置n=0にあるトラッキング面500cに対しては、伝熱凝固計算位置n=1にあるトラッキング面500aは、下流側のトラッキング面となる。よって、伝熱凝固計算位置n=0、1を両端とする区間においては(トラッキング面500cが伝熱凝固計算位置n=1に移動するまでのトラッキング面500cに対する伝熱凝固計算を実行する際には)、伝熱凝固計算位置n=1は中間計算位置k=Nと一致する(図5を参照)。
【0083】
一方、伝熱凝固計算位置n=1は、伝熱凝固計算位置n=2に対しては上流側の伝熱凝固計算位置n-1となる。従って、伝熱凝固計算位置n=2にあるトラッキング面500bに対しては、伝熱凝固計算位置n=1にあるトラッキング面500aは、上流側のトラッキング面500となる。よって、伝熱凝固計算位置n=1、2を両端とする区間においては(トラッキング面500aが伝熱凝固計算位置n=2に移動するまでのトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算を実行する際には)、伝熱凝固計算位置n=1は、中間計算位置k=0と一致する。
【0084】
ここで、トラッキング面500a~500dが移動するとは、トラッキング面500a~500dの位置を当該トラッキング面が位置していた伝熱凝固計算位置n-1から、伝熱凝固計算位置nまで、当該トラッキング面500a~500dに対する伝熱凝固計算の結果を含めて移動させることをいう。尚、伝熱凝固計算位置n=nmaxよりも下流側の伝熱凝固計算位置はないので、伝熱凝固計算位置n=nmaxにあるトラッキング面500eを移動させることは、トラッキング面500eを消滅させることと等価である。
【0085】
以上のように、伝熱凝固計算位置n=1は、中間計算位置k=0になる場合と、中間計算位置k=Nになる場合と、がある。
伝熱凝固計算位置n=2、・・・、nmax-1も、伝熱凝固計算位置n=1と同様に、中間計算位置k=0になる場合と、中間計算位置k=Nになる場合と、がある。
【0086】
最上流の伝熱凝固計算位置n=0は、伝熱凝固計算位置n=0、1を両端とする区間においては、中間計算位置k=0となる。最上流の伝熱凝固計算位置n=0よりも上流側に伝熱凝固計算位置nはない。従って、最上流の伝熱凝固計算位置n=0が中間計算位置k=Nとなることはない。
【0087】
また、最下流の伝熱凝固計算位置n=nmaxは、伝熱凝固計算位置n=nmax-1、nmaxを両端とする区間においては、中間計算位置k=Nとなる。最下流の伝熱凝固計算位置n=nmaxよりも下流側に伝熱凝固計算位置nはない。従って、最下流の伝熱凝固計算位置n=nmaxが中間計算位置k=0となることはない。
【0088】
以上のように、中間計算位置k=0、Nは伝熱凝固計算位置nと一致する。従って、同一の中間計算位置k=0、N(同一の伝熱凝固計算位置n)において、後述する伝熱計算部440による伝熱計算と、後述する伝熱凝固計算部470による伝熱凝固計算と、により、同一の時刻に同一の変数(例えば鋳片の表面温度)が算出される場合が生じる。本実施形態では、このような場合、伝熱凝固計算部470による伝熱凝固計算の結果が優先して採用されるものとする。
【0089】
以下では、トラッキング面500aに対する伝熱凝固計算を実行する場合を例示する。その他のトラッキング面500b~500eについても、トラッキング面500aと同様に、同じ時刻tにおいて並列的に処理が実行される。
図2および図3を参照しながら説明したように、鋳造方向で隣接する2つの支持ロール7l、7mの間には、冷却方式が異なる複数の領域a~eが存在し得る。中間計算位置kは、このような冷却方式の違いによる鋳片5の表面温度の変化を、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算に反映させることを目的の一つとして設定される。従って、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの少なくとも1つにおける冷却方式と、当該2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定される少なくとも1つの中間計算位置kにおける冷却方式と、が異なるように、2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に中間計算位置kが設定されるようにするのが好ましい。このようになるように中間計算位置kを設定することで、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnを両端とする領域に、2種以上の冷却方式の領域を含めることができ、冷却方式の違いによる鋳片5の表面温度の変化を、下流側の伝熱凝固計算位置におけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算に反映させることができる。尚、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnにおける冷却方式が異なり、且つ、当該2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnにおける冷却方式の双方と、当該2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定される少なくとも1つの中間計算位置kにおける冷却方式と、が異なる場合、当該2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnを両端とする領域には、3種以上の冷却方式の領域が含まれる。
【0090】
また、中間計算位置kは、領域dのように、熱伝達係数が鋳片5の表面温度に依存し、且つ、鋳片5から外部への熱流束の大きさが鋳片5の表面温度に対して非線形特性になる領域に対する伝熱凝固計算の精度を高めることを目的の他の一つとして設定される。従って、鋳造方向で隣接する2つの中間計算位置kの鋳造方向の間隔は、領域dの鋳造方向の長さの最小値として想定されている値の1/2以下とするのが好ましい。このようにして中間計算位置kを設定することで、領域dに対して複数の中間計算位置kを設定することができる。従って、領域d内での鋳片5の表面温度の変化を、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算に反映させることができる。
【0091】
尚、複数の中間計算位置k=0~Nの間隔は、等間隔でなくてもよいし、固定値でなくてもよい。例えば、領域dに対応する中間計算位置kの間隔を、他の領域a~c、eよりも短くしてもよい。また、操業データの内容に応じて、複数の中間計算位置k=0~Nの間隔を変更してもよい。
【0092】
中間計算位置設定部430は、以上のようにして設定された間隔に従って、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に中間計算位置kを設定し、各中間計算位置kにおける伝熱計算対象断面600に計算点を設定する。中間計算位置kの設定は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnを両端とする区間のそれぞれに対して実行される。
【0093】
図7は、中間計算位置kにおける伝熱計算対象断面600に対して設定される計算点711、721、731の一例を概念的に示す図である。中間計算位置設定部430は、伝熱計算対象断面600を、トラッキング面500a同じように格子状に分割し、分割した矩形領域のうち、鋳片5の表面を含む矩形領域710と、当該矩形領域710に(内側で)隣接する矩形領域720と、に計算点711、721を1つずつ設定する(計算点711は、鋳片5の表面を含む矩形領域710に設定される計算点であり、計算点721は、鋳片5の表面を含む矩形領域710に(内側で)隣接する矩形領域720に設定される計算点である)。このように、トラッキング面500aに設定される矩形領域510a、520aの数、大きさ、および配置は、伝熱計算対象断面600に設定される矩形領域710、720の数、大きさ、および配置と同じになる。尚、以下の説明では、鋳片5の表面を含む矩形領域710を、表層の矩形領域と称し、鋳片5の表面を含む矩形領域710に内側で隣接する矩形領域720を、第2層の矩形領域と称する。
【0094】
図7において、伝熱計算対象断面600の表層の矩形領域710に設定される計算点711は、図5に示すトラッキング面500aの表層の矩形領域510aに設定される計算点511aと同じように配置される。同様に図7において、伝熱計算対象断面600の第2層の矩形領域720に設定される計算点721は、図5に示すトラッキング面500aの第2層の矩形領域520aに設定される計算点521aと同じように配置される。
【0095】
図7では、伝熱計算対象断面600の表層の矩形領域710に設定される計算点711を黒丸(●)で示し、伝熱計算対象断面600の第2層の矩形領域720に設定される計算点721を白丸(〇)で示す(表記が煩雑になるので符号を付すことを省略しているが、符号が付されていない黒丸(●)および白丸(〇)も計算点を示す)。図7に示す伝熱計算対象断面600は、図5に示す中間計算位置k=0~Nのそれぞれに設定される。本実施形態では、伝熱計算対象断面600に設定される矩形領域のうち、第2層の矩形領域720の内側の矩形領域には計算点は設定されない。即ち、第2層の矩形領域720の内側の領域は、伝熱計算の対象の領域ではない。
【0096】
また、本実施形態では、中間計算位置設定部430は、後述する伝熱計算部440が、中間計算位置kに設定された伝熱計算対象断面600の周囲の外部雰囲気温度を算出するために、図7に示すようにして外部矩形領域730を設定する。外部矩形領域730は、伝熱計算対象断面600の周囲の領域を、伝熱計算対象断面600に設定された矩形領域の辺を外側に延長した仮想線を用いて区画した矩形領域である。外部矩形領域730のうち、鋳片5の長辺面5b~5cに沿う方向(x軸方向)に並ぶ矩形領域のy軸方向の長さは、例えば、第2層の矩形領域720のy軸方向の長さとする。外部矩形領域730のうち、鋳片5の短辺面5aに沿う方向(y軸方向)に並ぶ矩形領域のx軸方向の長さは、例えば、第2層の矩形領域720のx軸方向の長さとする。
【0097】
また、中間計算位置設定部430は、外部矩形領域730のそれぞれに計算点731を1つずつ設定する。図7では外部矩形領域730の計算点を黒丸(●)で示す(表記が煩雑になるので符号を付すことを省略しているが、符号が付されていない黒丸(●)も計算点を示す)。
【0098】
<伝熱計算部440>
伝熱計算部440は、各中間計算位置kにおいて、鋳片5の表面に対する時刻tでの伝熱計算を実行する。
<<伝熱モデル>>
伝熱計算部440で実行される伝熱計算に用いる計算モデルである伝熱モデルの一例について説明する。
【0099】
図7において、本実施形態では、鋳片5の長辺面5b~5cに沿う方向(x軸方向)に並ぶ表層の矩形領域710の厚み方向(y軸方向)の長さΔysの範囲において温度が一定であり、且つ、鋳片5の短辺面5aに沿う方向(y軸方向)に並ぶ表層の矩形領域710の幅方向(x軸方向)の長さΔxsの範囲において温度が一定であるとして、空間的な離散化を実行する。また、図5および図7において、伝熱凝固計算位置n-1とnの間に設定される中間計算位置k=1~N-1の伝熱計算対象断面600の第2層の矩形領域720に設定される計算点721の温度は、当該トラッキング面500aの第2層の矩形領域520aに設定される計算点721に対して後述する伝熱凝固計算部470で算出された温度Ts(x,y,t-Δt)で一定であるものとする。以下、Ts(x,y,t)を単にTsと表記する。また、第2層の矩形領域720に設定された計算点721の温度Tsを表面直下温度と称する。
【0100】
また、中間計算位置kの伝熱計算対象断面600の周囲における外部雰囲気温度Ta_k(x,y,t)は、中間計算位置k-1の伝熱計算対象断面600の周囲における外部雰囲気温度Ta_k-1(x,y,t)で一定であるものとする。外部雰囲気温度Ta_k-1(x,y,t)は、後述するようにして伝熱計算部440(第1計算部441)により算出される外部雰囲気温度である。尚、以下の説明において、中間計算位置kを特定しない場合の外部雰囲気温度を単にTaと表記する。
【0101】
また、以下の説明では、外部雰囲気温度Ta以外の変数についても、記号「_」の隣にk、k-1、k-2等を付すことにより、当該変数が、中間計算位置k、k-1、k-2等における変数であることを示すものとする。また、外部雰囲気温度Ta以外の変数についても、中間計算位置kを特定しない場合には、記号「_」の隣に付すk、k-1、k-2等の中間計算位置を示す記号の表記を省略するものとする。
【0102】
本実施形態では、伝熱計算部440は、外部矩形領域730ごとに外部雰囲気温度Taを算出する。尚、外部矩形領域730の計算点731の温度が、当該外部矩形領域730における外部雰囲気温度Taとなる。ただし、外部矩形領域730ごとに外部雰囲気温度Taを算出する必要はない。例えば、1つの伝熱計算対象断面600の周囲の領域のうち、鋳片5の長辺面5b~5cの周囲の領域に対する外部雰囲気温度Taとして共通の温度を採用すると共に、鋳片5の短辺面5aの周囲の領域に対する外部雰囲気温度Taとして共通の温度を採用してもよい。
【0103】
また、鋼の密度ρ(x,y,t)および比熱c(x,y,t)は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間で一定であるものとする。以下、ρ(x,y,t)、c(x,y,t)を単にρ、cと表記する。また、熱伝達係数ht(x,y,t)を単にhtと表記する。
【0104】
以下では、数式の表記が複雑になることを避けるため、伝熱計算対象断面600の各計算点711、721における熱伝達係数htを、以下の式(20a)~式(20b)に示す離散化熱伝達係数Htとして表す。また、伝熱計算対象断面600の各計算点711、721におけるx軸方向・y軸方向の熱伝導率λx・λyを、以下の式(21a)~式(21b)に示す離散化熱伝導率Lとして表す。尚、離散化熱伝達係数Htおよび離散化熱伝導率Lは、x、y、tの関数であるが、ここでは、x、y、tの関数であることの表記を省略する。
【0105】
【数13】
【0106】
ここで、式(20a)および式(21a)は、鋳片5の長辺面5b~5cに対する伝熱計算を実行する場合に使用される。式(20b)および式(21b)は、鋳片5の短辺面5aに対する伝熱計算を実行する場合に使用される。また、図7に示すように、Δxcは、伝熱計算対象断面600の境界線のうち、鋳片5の短辺面5aに平行な方向(y軸方向)の境界線から、第2層の矩形領域720の計算点721のうち、当該境界線の直下にある計算点721までのx軸方向の長さである。Δycは、伝熱計算対象断面600の境界線のうち、鋳片5の長辺面5b~5cに平行な方向(x軸方向)の境界線から、第2層の矩形領域720の計算点721のうち、当該境界線の直下にある計算点721までのy軸方向の長さである。
【0107】
鋳片5の表面に平行な方向の熱伝達を無視し、鋳片5の表面に垂直な方向の一次元の熱伝達が生じるものとすると、空間的に離散化された鋳片5の表面温度Tのモデル式は、非定常一次元熱伝導方程式に基づいて、以下の式(22)で表される。
【0108】
【数14】
【0109】
外部雰囲気温度Ta、表面直下温度Ts、熱伝達係数ht、密度ρ、および比熱cが時刻tから時刻t+Δtまでの範囲で一定の場合、0≦τ≦Δtとすると、時刻t+τにおける中間表面温度T(t+τ)は、以下の式(23)のように解析解で表される。ここで、中間表面温度は、中間計算位置kにおける鋳片5の表面温度である。
【0110】
【数15】
【0111】
式(23)の右辺第2項において、(Hta+LTs)/(Ht+L)は、温度を表す座標軸において、外部雰囲気温度Taを示す点と表面直下温度Tsを示す点とを結ぶ線分を、離散化熱伝達係数Ht:離散化熱伝導率Lで内分する点を示す温度であり、以下の説明では、中間外部温度と称する。また、中間外部温度を表す記号をTbとする。尚、離散化熱伝達係数Htおよび離散化熱伝導率Lがx、y、tの関数であるため、中間外部温度Tbもx、y、tの関数となる。
【0112】
本実施形態では、伝熱計算部440は、式(23)に基づく伝熱計算を実行する。式(23)では、鋳片5の表面に垂直な方向の一次元の熱伝達が生じるものとし、外部雰囲気温度Taおよび表面直下温度Tsにより中間表面温度T(t+τ)が定められる。従って、式(23)により、表層の矩形領域710、第2層の矩形領域720、および外部矩形領域730の範囲内で、鋳片5の表面に垂直な方向の一次元の伝熱が生じるものとして伝熱計算が実行される。本実施形態では、伝熱計算部440は、第1計算部441、第2計算部442、および第3計算部443を備える。伝熱計算部440は、k=1を初期値、k=Nを最終値として、伝熱計算の対象の中間計算位置を示すkの値をインクリメント(昇順に繰り返し1ずつ増加)して、以下の第1計算部441、第2計算部442、および第3計算部443の処理を繰り返し実行することを、時刻の離散化刻みΔtの時間隔の各時刻tにおいて実行する。このように本実施形態では、伝熱計算部440は、k=0を上流側の伝熱凝固計算位置n-1として、中間計算位置kにおける時刻tでの鋳片5の表面に対する伝熱計算を、当該上流側の伝熱凝固計算位置n-1における時刻t-Δtでの伝熱凝固計算の結果と、当該上流側の伝熱凝固計算位置n-1よりも下流側で、かつ当該k=1~N-1で特定される中間計算位置kよりも上流側の中間計算位置に対する時刻t-(1-k/N)Δtに対応する鋳片5の表面に対する伝熱計算の結果と、を用いて実行する。
【0113】
<<第1計算部441>>
第1計算部441は、鋳片5の表面全体における冷却水の流量密度Wの分布に基づいて、伝熱凝固計算位置n-1およびnとの間に設定された中間計算位置k-1が、領域a~eのうち、どの領域に属するかを特定する。そして、第1計算部441は、特定した領域に応じて、中間計算位置k-1における熱伝達係数ht_k-1および外部雰囲気温度Ta_k-1を算出する。尚、前述したように本実施形態では、鋳片5の表面全体における冷却水の流量密度Wの分布は、操業データ取得部410により算出されるものとする。
【0114】
まず、中間計算位置k-1における熱伝達係数ht_k-1の算出方法の一例を説明する。
第1計算部441は、領域a、領域c、および領域eに属する中間計算位置k-1については、予め設定された一定の熱伝達係数ht_k-1とする。また、第1計算部441は、領域b、dに属する中間計算位置k-1については、それぞれ、式(18)、式(19)を用いて熱伝達係数ht_k-1を算出する。このとき、式(18)、式(19)のTには、中間計算位置k-1に対して後述する第2計算部442で計算された中間表面温度T^kが代入される(式(24)を参照)。尚、T^kは、式(24)においてTkのTの上に^が付されている記号に対応する。このような表記は、T^k以外の変数の^の表記においても同じである。
【0115】
次に、中間計算位置k-1における外部雰囲気温度Ta_k-1の算出方法の一例を説明する。
第1計算部441は、外部雰囲気温度Taとしてどのような温度を採用するのかが冷却方式(領域a~e)ごとに予め登録されたテーブルを参照する。このテーブルに登録される内容の一例を説明する。
【0116】
領域aにおける外部雰囲気温度Taとして、例えば、中間計算位置k-1において鋳片と接する支持ロールの表面温度を用いることが登録される。
領域bにおける外部雰囲気温度Taとして、例えば、外気温を用いることが登録される。
【0117】
領域c、dにおける外部雰囲気温度Taとして、例えば、冷却スプレー2a~2tのうち中間計算位置k-1に最も近い位置にある冷却スプレーにおける冷却水の温度を用いることが登録される。
【0118】
領域eにおける外部雰囲気温度Taとして、例えば、冷却スプレー2a~2tのうち支持ロール7mより上流側にあり,かつ中間計算位置k-1に最も近い位置にある冷却スプレーにおける冷却水の温度を用いることが登録される。
尚、ここで示した例のように、外部雰囲気温度Taの算出のために回帰式を用いる場合、例えば、二次冷却帯を模擬するモデル実験の結果や、二次冷却帯を模擬する数値シミュレーションの結果を用いて、回帰係数を決定すればよい。
【0119】
また、本実施形態では、支持ロール7a~7vは、鋳片5の短辺面5aに接触しない。さらに、冷却スプレー2a~2tは、鋳片5の長辺面5b~5cに対向する位置にあり、鋳片5の短辺面5aに対向する位置にはない。従って、鋳片5の短辺面5aに対する外部雰囲気温度Taについては、全て外気温としてもよい。即ち、前述したテーブルは、鋳片5の長辺面5b、5cに対する外部雰囲気温度Taを算出するために用いるものとしてもよい。
【0120】
第1計算部441は、以上のようなテーブルに登録されている内容に従って、外部雰囲気温度Ta_k-1を算出する。尚、前述したようにしてテーブルを登録する場合には、テーブルに登録されている内容の計算を実行するために必要な情報(支持ロール7a~7vの温度や外気温等)も操業データとして操業データ取得部410により取得されるものとする。
【0121】
<<第2計算部442>>
中間計算位置kにおける中間表面温度T^kおよび中間計算位置k-1における中間外部温度Tb_k-1は、式(23)に基づいて、以下の式(24)のように表される。
【0122】
【数16】
【0123】
式(24)に示すように、中間計算位置kにおける中間表面温度T^kは、温度を表す座標軸において、中間計算位置k-1における中間表面温度T^k-1を示す点と中間計算位置k-1における中間外部温度Tb_k-1を示す点を結ぶ線分を、γk-1:1-γk-1で内分する点を示す温度で表される。ここで、γk-1およびTb_k-1は、以下の式(25a)~式(29)で表される。
【0124】
【数17】
【0125】
ここで、式(25a)および式(26a)は、鋳片5の長辺面5b~5cに対する伝熱計算を実行する場合に使用される。式(25b)および式(26b)は、鋳片5の短辺面5aに対する伝熱計算を実行する場合に使用される。尚、式(27)において、Ts_n-1は、上流側の伝熱凝固計算位置n-1における表面直下温度(第2層の矩形領域720に設定された計算点721の温度)であり、後述する伝熱凝固計算部470により時刻t-Δtにおいて既に算出されているものである。尚、表面直下温度Ts以外の変数についても、記号「_」の隣にn、N-1等を付すことにより、当該変数が、伝熱凝固計算位置n、N-1等における変数であることを示すものとする。
【0126】
第2計算部442は、式(24)~式(29)の計算を実行することにより、中間計算位置kにおける中間表面温度T^kおよび中間計算位置k-1における中間外部温度Tbk-1を算出する。前述したように、第2計算部442により算出された中間計算位置kにおける中間表面温度T^kは、kの値がインクリメントされて実行される次回の第1計算部441の計算において、式(18)、式(19)のTに代入される。尚、伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に、領域b、dのように熱伝達係数htが鋳片5の表面温度Tに依存する領域が含まれない場合には、中間表面温度T^kの算出は実行されなくてもよい。
【0127】
<<第3計算部443>>
鋳片5の表面に平行な方向の熱伝達を無視し、鋳片5の表面に垂直な方向の一次元の熱伝達が生じるものとすると、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から中間計算位置kまでの離散化した熱伝導方程式として、以下の式(30)が得られる。
【0128】
【数18】
【0129】
ここで、T0は、下流側の伝熱凝固計算位置nにトラッキング面500aが位置するときのトラッキング面500aにおける鋳片5の表面温度である。βk-1は、中間計算位置k-1における中間温度変化速度パラメータである。Tb * _k-1は、中間計算位置k-1における中間平均外部温度である。尚、Tb * _k-1は、式(30)において、Tb_k-1のbの上に*が付されている記号に対応する。このような表記は、Tb * _k-1以外の変数の*の表記においても同じである。
【0130】
中間計算位置k-1における中間平均外部温度Tb * _k-1は、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から中間計算位置kまでの間の中間外部温度Tb ^ _0~Tb ^ _kの平均的な値を表す。中間計算位置k-1における中間温度変化速度パラメータβk-1は、中間計算位置k-1における離散化熱伝達係数Ht_k-1と、離散化熱伝導率Lと、に基づいて定められるパラメータであり、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から中間計算位置kまでの間の、鋳片5と外部との間における、熱および温度の伝わりやすさの平均的な値を表すパラメータである。
【0131】
尚、下流側の伝熱凝固計算位置nにトラッキング面500aが位置するときの当該トラッキング面500aにおける鋳片5の表面温度T0は、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aの表層の矩形領域510bに設定される各計算点511bの温度であり、x、y、tの関数であるが、ここでは、x、y、tの関数であることの表記を省略する。また、中間外部温度Tbがx、y、tの関数であるため、中間平均外部温度Tb *もx、y、tの関数であるが、ここでは、x、y、tの関数であることの表記を省略する。また、離散化熱伝達係数Htおよび離散化熱伝導率Lがx、y、tの関数であるため、中間温度変化速度パラメータβも、x、y、tの関数であるが、ここでは、x、y、tの関数であることの表記を省略する。
【0132】
上流側から数えてk-1番目の中間計算位置k-1について式(30)は、以下の式(31)のように表される。
【0133】
【数19】
【0134】
k≧2の場合においては,式(24)と式(31)とからT^ k-1を消去した式の左辺をT^ k-T0とすると共に右辺をT0の1次式として整理した式と、式(30)の左辺をT^ k-T0とすると共に右辺をT0の1次式として整理した式と、の右辺のT0にかかる係数を比較することで、以下の式(32)が得られる。同様に、これらの式の右辺の定数項を比較することで、以下の式(33)が得られる。
【0135】
【数20】
【0136】
一方k=1の場合においては、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から中間計算位置kまでの離散化した熱伝導方程式は式(24)と一致するので、以下の式(34)式および式(35)が得られる。
【0137】
【数21】
【0138】
第3計算部443は、式(32)または式(34)の計算を実行することによって、中間計算位置k-1における中間温度変化速度パラメータβk-1を算出し、式(33)または式(35)の計算を実行することによって、中間計算位置k-1における中間平均外部温度Tb * _k-1を算出する。
前述したように、第1計算部441、第2計算部442、および第3計算部443の処理は、k=1を初期値、k=Nを最終値とするそれぞれのkの値について実行される。
【0139】
<平均熱伝達係数計算部450>
平均熱伝達係数計算部450は、伝熱計算部440における伝熱計算の結果を用いて、平均熱伝達係数ht_aveを算出することを、時刻の離散化刻みΔtの時間隔の各時刻tにおいて実行する。平均熱伝達係数ht_aveは、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から下流側の伝熱凝固計算位置nまでの間の、鋳片5と外部との間の熱伝達係数の平均的な値である。本実施形態では、平均熱伝達係数計算部450は、伝熱計算部440において最終的に計算された中間温度変化速度パラメータβN-1を用いて、以下の式(36a)および式(36b)の計算を実行することにより、平均熱伝達係数ht_aveを算出する。
【0140】
【数22】
【0141】
式(36a)は、鋳片5の長辺面5b~5cに対する平均熱伝達係数ht_aveを算出する場合に使用される。式(36b)は、鋳片5の短辺面5aに平行な方向(y軸方向)に対する平均熱伝達係数ht_aveを算出する場合に使用される。
【0142】
式(36a)および式(36b)は、以下のようにして導かれる。
平均熱伝達係数ht_aveを式(20a)または式(20b)のhtに代入することにより得られる離散化熱伝達係数をHt_aveとすると、中間表面温度T^Nは、式(23)より以下の式(37)のように表される。
【0143】
【数23】
【0144】
また、式(30)において、k=Nとすると以下の式(38)が得られる。
【0145】
【数24】
【0146】
式(37)の左辺をT^N-T0とすると共に右辺を(T0-Tb * _N)に係数がかかる形になるように変形した式の右辺と、式(38)の右辺と、を比較すると、以下の式(39)が得られる。そして、式(39)を式変形すると、以下の式(40)が得られる。式(40)の右辺を、式(20a)および式(20b)の左辺に与えることにより、式(36a)および式(36b)が得られる。
【0147】
【数25】
【0148】
<平均外部雰囲気温度計算部460>
平均外部雰囲気温度計算部460は、伝熱計算部440における伝熱計算の結果と、平均熱伝達係数ht_aveと、を用いて、平均外部雰囲気温度Ta_aveを算出することを、時刻の離散化刻みΔtの時間隔の各時刻tにおいて実行する。平均外部雰囲気温度Ta_aveは、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から下流側の伝熱凝固計算位置nまでの間の、鋳片5の外部雰囲気温度Taの平均的な値である。本実施形態では、平均外部雰囲気温度計算部460は、伝熱計算部440において最終的に計算された中間平均外部温度Tb * _N-1と、平均熱伝達係数ht_aveと、を用いて、以下の式(41a)および式(41b)の計算を実行することにより、平均外部雰囲気温度Ta_aveを算出する。
【0149】
【数26】
【0150】
式(41a)は、鋳片5の長辺面5b~5cに対する平均外部雰囲気温度Ta_aveを算出する場合に使用される。式(41b)は、鋳片5の短辺面5aに対する平均外部雰囲気温度Ta_aveを算出する場合に使用される。
【0151】
式(41a)、式(41b)は、式(27)に基づいて得られる以下の式(42)を、左辺がTa_aveとなるように変形した式のHt_aveに、式(20a)、式(20b)の右辺をそれぞれ代入することにより得られる(ただし、式(20a)~式(20b)の右辺のhtをht_aveとする)。
【0152】
【数27】
【0153】
<伝熱凝固計算部470>
伝熱凝固計算部470は、時刻の離散化刻みΔtの時間間隔の各時刻tにおいて伝熱計算部440における伝熱計算の結果を用いて、時刻t-Δtにおいて,上流側の伝熱凝固計算位置n-1にあるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算を実行する。本実施形態では、伝熱凝固計算部470は、平均熱伝達係数ht_ave(xB,y;t)、ht_ave(x,yB;t)と、平均外部雰囲気温度Ta_ave(xB,y;t)、Ta_ave(x,yB;t)と、に基づいて、トラッキング面500aが伝熱凝固計算位置nに到達するまでの伝熱凝固計算における鋳片5の表面の熱流束qx(xB,y;t)、qy(x,yB;t)を算出する。ここでの熱伝達係数と、外部平均温度と、および熱流束との表記におけるかっこ内のセミコロン「;」は時刻t-Δtからtまでの平均であることを意味する。そして、伝熱凝固計算部470は、伝熱凝固計算位置n-1における各計算点511a、521a、531a~534aにおける温度T(x,y,t-Δt)および固相率fs(x,y,t-Δt)を初期条件として用いると共に、鋳片5の表面の熱流束qx(xB,y;t)、qy(x,yB;t)を境界条件として用いて、前述した伝熱凝固モデルにより、下流側伝熱凝固計算位置にトラッキング面500aが到達した時点での各計算点511a、521a、531a~534aにおける温度T(x,y,t)および固相率fs(x,y,t)を算出する。従って、本実施形態では、式(5)および式(6)に対し、ht(xB,y,t)をht_ave(xB,y;t)に、ht(x,yB,t)をht_ave(x,yB;t)に、T(xB,y,t)をT0(xB,y,t-Δt)に、T(x,yB,t)をT0(x,yB,t-Δt)に、Ta(xB,y,t)をTa_ave(xB,y;t)に、Ta(x,yB,t)をTa_ave(x,yB;t)にした以下の式(43)および式(44)を境界条件として用いる。
【0154】
【数28】
【0155】
本実施形態では、後述するように制御装置100bにおいて鋳片5の所定の位置における温度の目標値と計算値とを比較する場合、当該所定の位置または当該所定の位置に最も近い位置にある計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bを、温度T(x,y,t)および固相率fs(x,y,t)の計算対象の計算点に含める。例えば、トラッキング面500aの中心の位置または中心に最も近い位置にある計算点531a~534aと、表面の位置または表面に最も近い位置にある計算点511aと、のうち少なくとも一方の計算点を、温度T(x,y,t)および固相率fs(x,y,t)の計算対象の計算点に含めるのが好ましい。
【0156】
伝熱凝固計算部470は、時刻t-Δtにおいて上流側伝熱凝固計算位置n-1にあったトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算を実行して時刻tに下流側の伝熱凝固計算位置nに到達したときの結果を得ると、当該トラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の結果(時刻tにおけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の結果)を、次回の時刻t+Δtにおいて、伝熱凝固計算位置n+1におけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の初期値として用いる。すなわち、伝熱凝固計算部470は、時刻tにおけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の結果を、時刻t+Δtにおいて伝熱凝固計算位置nから開始するトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の初期条件として用いる。
【0157】
このようにして、時刻tにおける、上流側の伝熱凝固計算位置n-1にあったトラッキング面500aの伝熱凝固計算の結果は、時刻t+Δtにおいて下流側伝熱凝固計算位置nから開始する同じトラッキング面500aの伝熱凝固計算の初期値として用いる。このときの移動距離は、時刻の離散化刻みΔtと、鋳造速度vcとに基づく距離Δzである(式(15)を参照)。本実施形態では、伝熱凝固計算位置n-1およびnの鋳造方向の間隔と、トラッキング面500aを発生させる鋳造方向の間隔と、が共に一定間隔Δzである。このため、同一時刻において、全てのトラッキング面が伝熱凝固計算位置n-1およびnのいずれかに位置する。
【0158】
そして、伝熱凝固計算部470は、次の時刻t+Δtにおいて、鋳型1内の溶鋼メニスカス4の位置(z=0)である伝熱凝固計算位置n=0に、新たなトラッキング面を上流側のトラッキング面として発生させる。例えば、図6において、時刻tにおいて、伝熱凝固計算位置n=1におけるトラッキング面500aに対して実行された伝熱凝固計算の結果は、時刻t+Δtにおいては、伝熱凝固計算位置n=1から開始する同じトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の初期条件となる。
【0159】
尚、本実施形態では、鋳型1内の溶鋼メニスカス4の位置(z=0)に設定される伝熱凝固計算位置n=0のトラッキング面500aの各計算点511a、521a、531a~534aにおける固相率fs(x、y、t)および温度T(x,y,t)は、固相率fsは全ての(x、y)で0、および、温度Tは全ての(x、y)においてタンディッシュ内の溶鋼温度実測値から推定される温度を初期値として定められているものとする。
伝熱凝固計算部470は、以上のような処理を、時刻tを逐次更新して実行する。
【0160】
<出力部480>
出力部480は、伝熱凝固計算部470により実行された、下流側の伝熱凝固計算位置nに対する伝熱凝固計算の結果を示す情報を出力する。本実施形態では、出力部480は、伝熱凝固計算部470により計算された、下流側の伝熱凝固計算位置nに移動後のトラッキング面500aの計算点511a、521a、531a~534aにおける温度T(x,y,t)のうち、温度の目標値が定められている所定の位置の計算点511aまたは当該所定の位置に最も近い計算点531a~534aにおける温度T(x,y,t)を含む情報を、制御装置100bに対して送信する。尚、推定装置100aと制御装置100bとの通信は、有線通信であっても無線通信であってもよい。
【0161】
次に、制御装置100bが有する機能の一例を説明する。
<制御部490>
制御部490は、推定装置100a(伝熱凝固計算部470)により実行された、下流側の伝熱凝固計算位置nにおける伝熱凝固計算に基づいて、連続鋳造機で鋳造されている鋳片5の所定の位置における温度の目標値と計算値との偏差がゼロに近づくように、連続鋳造機の二次冷却帯における冷却水量を制御する。鋳片5の所定の位置における温度の目標値は、例えば、鋳片5の仕様(例えば、鋳片5に含まれる成分等の品質)に基づいて制御装置100bに予め設定される。
【0162】
制御部490は、各伝熱凝固計算位置nにおける鋳片5の所定の位置の温度の目標値と計算値との偏差をゼロに近づけるように、冷却ゾーンごとの冷却水量を操作量として求める。鋳片5の所定の位置と計算点511bの位置とが一致する場合、伝熱凝固計算部470により計算された、下流側の伝熱凝固計算位置nに移動後のトラッキング面500aにおける計算点511aの温度T(x,y,t)が計算値となる。鋳片5の所定の位置と計算点531a~534aの位置とが一致しない場合、制御部490は、伝熱凝固計算部470により計算された、下流側の伝熱凝固計算位置nに移動後のトラッキング面500aにおける計算点531a~534aの温度T(x,y,t)を用いて、当該所定の位置における温度を算出して計算値として用いる。例えば、下流側の伝熱凝固計算位置nに移動後のトラッキング面500aにおける計算点531ba~534aの温度T(x,y,t)の代表値(例えば平均値)が計算値として用いられる。そして、制御部490は、求めた冷却水量に基づいて冷却スプレー2a~2tのそれぞれに対する水量指示値を設定し出力する。流量調整弁3a~3eは、冷却スプレー2a~2tから噴出される冷却水量が水量指示値に応じた流量となるように動作する。
【0163】
尚、冷却ゾーンごとの冷却水量の制御は、例えばPI制御などのフィードバック制御を実行することにより実現される。また、鋳片5の所定の位置は、伝熱凝固計算位置の間に設定された位置であれば、どの位置であってもよく、例えば、鋳片5の表面であっても中心部であってもよい。
【0164】
(フローチャート)
次に、図8のフローチャートを参照しながら、連続鋳造制御装置100を用いた連続鋳造推定方法の一例を説明する。尚、本実施形態では、連続鋳造制御装置100を用いた連続鋳造推定方法は、推定装置100aを用いた推定方法と、制御装置100bを用いた制御方法とを用いることにより実現される。
まず、ステップS801において、推定装置100aは、時刻tを初期時刻ti(例えば0や現在時刻など)に設定する。初期時刻tiは、推定装置100aにおける処理を開始する時刻であり、例えば、推定装置100aに対してオペレータが処理の開始を指示するための操作を実行したタイミングを意味する。以下のステップS802~S815の処理は、時刻tに対する処理として実行される。
次に、ステップS802において、操業データ取得部410は、連続鋳造機の操業データを取得する。
【0165】
次に、ステップS803において、伝熱凝固計算位置設定部420は、伝熱凝固計算位置nおよび各伝熱凝固計算位置nの計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bを設定する。尚、伝熱凝固計算位置nおよび伝熱凝固計算位置nの計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531b~534bが時刻tによらずに一定である場合、ステップS803の処理は、ステップS801の前に実行されてもよい。
【0166】
次に、ステップS804において、中間計算位置設定部430は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間における複数の中間計算位置kの間隔を設定する。そして、中間計算位置設定部430は、設定した間隔kに従って中間計算位置kを設定し、各中間計算位置kにおける伝熱計算対象断面600に計算点711、721、731を設定する。尚、ステップS804の処理は、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのそれぞれについて実行される。
【0167】
次に、ステップS805において、伝熱計算部440は、kに1を設定する。
次に、ステップS806において、第1計算部441は、中間計算位置k-1における熱伝達係数ht_k-1および外部雰囲気温度Ta_k-1を算出する。
【0168】
次に、ステップS807において、第2計算部442は、式(24)~式(29)の計算を実行することにより、中間計算位置kにおける中間表面温度T^kおよび中間計算位置k-1における中間外部温度Tb_k-1を算出する。
次に、ステップS808において、第3計算部443は、式(32)または式(34)の計算を実行することによって、中間計算位置k-1における中間温度変化速度パラメータβk-1を算出する。また、第3計算部443は、式(33)または式(35)の計算を実行することによって、中間計算位置k-1における中間平均外部温度Tb * _k-1を算出する。
【0169】
次に、ステップS809において、伝熱計算部440は、kの値がNであるか否かを判定する。Nは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間における複数の中間計算位置kの数に1を加算した値である。この判定の結果、kの値がNでない場合(ステップS809でNOの場合)、ステップS810の処理が実行される。ステップS810において、伝熱計算部440は、kの値をインクリメントする。そして、インクリメントした後のkについてステップS806~S809の処理が実行される。
【0170】
尚、ステップS805~S810の処理は、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのそれぞれにおいて実行される。鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnによって中間計算位置kの数が異なる場合、例えば、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのうち、それらの間に設定される中間計算位置kの数が最大の伝熱凝固計算位置n-1およびnにおける当該中間計算位置kの数に1を加算した値をNとする。このようにする場合、伝熱計算部440は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのうち、全てのkについてステップS806~S810の処理が終了した伝熱凝固計算位置n-1およびnについては、その時点で、ステップS806~S810の処理を終了させる。そして、伝熱計算部440は、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのうち、全てのkについてステップS806~S810の処理が終了していない伝熱凝固計算位置n-1およびnに対してのみ、ステップS806~S810の処理を継続させる。尚、k=0における値は、例えば、上流側の伝熱凝固計算位置n-1におけるトラッキング面500aの各計算点511a、521a、531a~534aにおける伝熱凝固計算(温度T(x,y,t-Δt)および固相率fs(x,y,t-Δt))の結果を用いることにより定められる。
【0171】
ステップS809の判定の結果、kの値がNである場合(ステップS809でYESの場合)、ステップS811の処理が実行される。ステップS811において、平均熱伝達係数計算部450は、k=NのときにステップS808で算出された中間温度変化速度パラメータβN-1を用いて、式(36a)および式(36b)の計算を実行することにより、平均熱伝達係数ht_aveを算出する。尚、中間温度変化速度パラメータβN-1は、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのそれぞれにおいて算出される。従って、平均熱伝達係数ht_aveも、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのそれぞれにおいて算出される。
【0172】
次に、ステップS812において、平均外部雰囲気温度計算部460は、k=NのときにステップS808で算出された中間平均外部温度Tb * _N-1と、ステップS811で算出された平均熱伝達係数ht_aveと、を用いて、式(41a)および式(41b)の計算を実行することにより、平均外部雰囲気温度Ta_aveを算出する。尚、中間温度変化速度パラメータβN-1および平均熱伝達係数ht_aveは、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのそれぞれにおいて算出される。従って、平均外部雰囲気温度Ta_aveも、伝熱凝固計算位置n=0~nmaxのうち鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのそれぞれにおいて算出される。
【0173】
次に、ステップS813において、伝熱凝固計算部470は、ステップS811で算出された平均熱伝達係数ht_ave(xB,y;t)、ht_ave(x,yB;t)と、ステップS812で算出された平均外部雰囲気温度Ta_ave(xB,y;t)、Ta_ave(x,yB;t)と、に基づいて、時刻tにおいて下流側の伝熱凝固計算位置nに位置するトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の境界条件として用いる、鋳片5の表面の熱流束qx(xB,y;t)、qy(x,yB;t)を算出する。
【0174】
そして、伝熱凝固計算部470は、上流側の伝熱凝固計算位置n-1におけるトラッキング面500aの各計算点511a、521a、531a~534aにおける温度T(x,y,t-Δt)および固相率fs(x,y,t-Δt)を初期条件として用いると共に、下流側の伝熱凝固計算位置nに位置するトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算において、鋳片5の表面の熱流束qx(xB,y;t)、qy(x,yB;t)を境界条件として用いて、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aの各計算点511a、521a、531a~534aにおける温度T(x,y,t)および固相率fs(x,y,t)を算出する。そして、伝熱凝固計算部470は、当該初期条件として用いた上流側の伝熱凝固計算位置n-1におけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の結果(時刻t-Δtにおける伝熱凝固計算の結果)を、時刻t+Δtにおいて当該下流側の伝熱凝固計算位置nから開始するトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算の初期値として用いる。
【0175】
尚、ステップS813の処理は即、伝熱凝固計算位置n=1~nmaxのそれぞれにおいて実行され、各計算点511a、511b、521a、521b、531a~534a、531a~531bにおける温度T(x,y,t)および固相率fs(x,y,t)が算出される。
【0176】
次に、ステップS814において、出力部480は、ステップS813で計算された、下流側の伝熱凝固計算位置nに移動後のトラッキング面500aの計算点511a、521a、531a~534aにおける温度T(x,y,t)のうち、温度の目標値が定められている所定の位置の計算点511aまたは当該所定の位置に最も近い計算点531a~534aにおける温度T(x,y,t)を含む情報を、制御装置100bに対して送信する。
【0177】
次に、ステップS815において、制御装置100bの制御部490は、各伝熱凝固計算位置nにおける鋳片5の所定の位置の温度の目標値と計算値との偏差をそれぞれゼロに近づけるように、冷却ゾーンごとの冷却水量を操作量として求める。尚、鋳片5の所定の位置と、ステップS814で送信された温度T(x,y,t)を示す計算点511aの位置とが一致する場合、計算値は、当該温度T(x,y,t)となる。鋳片5の所定の位置と、ステップS814で送信された温度T(x,y,t)を示す計算点511aの位置とが一致しない場合、計算値は、当該温度T(x,y,t)を用いて算出される当該所定の位置の温度となる。そして、制御部490は、求めた冷却水量に基づいて冷却スプレー2a~2tのそれぞれに対する水量指示値を設定し出力し、流量調整弁3a~3eの開度を調整する。
【0178】
次に、ステップS816において、推定装置100aは、推定装置100aにおける処理を終了するか否かを判定する。例えば、推定装置100aは、オペレータが処理の終了を指示するための操作を推定装置100aに対して実行すると、推定装置100aにおける処理を終了すると判定する。ステップS816の判定の結果、推定装置100aにおける処理を終了しない場合(ステップS816でNOの場合)、ステップS817の処理が実行される。ステップS817において、推定装置100aは、時刻tを時刻t+Δtに更新する。そして、更新後の時刻tに対して、ステップS802~S816の処理が実行される。
ステップS816の判定の結果、推定装置100aにおける処理を終了する場合(ステップS816でYESの場合)、図8のフローチャートによる処理は終了する。
【0179】
(計算例)
次に、計算例を説明する。
本計算例では、基準例、発明例、および比較例のそれぞれにより、連続鋳造機の二次冷却帯における鋳片5の表面温度を算出した。
基準例では、二次冷却帯における各冷却方式の変化を反映した伝熱凝固計算を実行することができるように、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間隔(上述したΔz)を5mmと短くして鋳片5の表面温度を伝熱凝固計算により算出する。基準例では、中間計算位置は設定されず、各伝熱凝固計算位置における伝熱凝固計算を、当該伝熱凝固計算位置に上流側で隣接する伝熱凝固計算位置での伝熱凝固計算の結果を用いて実行する。基準例では、例えばΔzを50mmに設定した場合よりも計算精度は高いが、その反面として計算時間が長くなる。
【0180】
一方、発明例では、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間隔(上述したΔz)を50mmとし、中間計算位置をこの間隔内に5mm間隔で9点設定し、前述した実施形態の手法で鋳片5の表面温度を算出する。つまり、発明例のΔzは基準例のΔzの1/10にしているので、発明例では基準例に対し、計算負荷の高い伝熱凝固計算の回数を1/10に減少させることができる。
【0181】
また、発明例による温度の計算精度の確認のため、比較例では、以下のようにして鋳片5の表面温度を算出する。比較例でも、発明例と同様に、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間隔を50mmとし、中間計算位置をこの間隔内に5mm間隔で9点設定する。比較例では、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に設定される中間計算位置における熱伝達係数を、特許文献2に記載の技術と同様に、上流側の伝熱凝固計算位置における伝熱凝固計算の結果(鋳片5の表面温度)を用いて算出する。比較例では、このようにして算出される各中間計算位置における熱伝達係数の算術平均値を平均熱伝達係数として用いて、下流側の伝熱凝固計算位置における伝熱凝固計算を実行し、鋳片5の表面温度を算出する。比較例では、何れの中間計算位置においても、上流側の伝熱凝固計算位置における鋳片5の表面温度の計算値を用いて熱伝達係数が算出されるので、発明例のように、伝熱凝固計算位置の間の鋳片5の表面温度の変化を考慮していない。
【0182】
図9は、基準例と比較例における、幅中央温度と鋳造長との関係を示す図である。図10は、基準例と発明例における、幅中央温度と鋳造長との関係を示す図である。幅中央温度とは、幅方向(x軸方向)の中央における鋳片5の表面温度を指す。鋳造長とは、溶鋼メニスカス4の位置を0(ゼロ)とする鋳造方向の長さを指す。図9および図10では、溶鋼メニスカス4の位置から機端出口9の位置までの各位置における幅中央温度を示す。
【0183】
図9に示すように、比較例の手法で算出した幅中央温度と基準例の手法で算出した幅中央温度とには80℃~100℃程度の大きな乖離がある。一方、図10に示すように、図9と同じ温度スケールでは、発明例の手法で算出した幅中央温度と基準例の手法で算出した幅中央温度との差を表すことができず、発明例の手法で算出した幅中央温度は、Δzが基準例の手法よりも10倍長いにもかかわらず、基準例の手法で算出した幅中央温度との区別がつかない。図11は、図10の一部分を拡大して示す図である。発明例の手法では、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間隔が基準例の手法よりも大きいにもかかわらず、図11に示すように、全体としては発明例と基準例とで概ね一致している。このように、本発明の手法は、基準例の手法に近い精度を実現しながらも、計算時間については基準例の手法の1/10近くまで短縮できている。従って、発明例では、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間隔の長さだけ鋳造が進む間に、下流側の伝熱凝固計算位置における伝熱凝固計算を完了させることを、実用上要求される精度で実現することができることが分かる。
【0184】
(まとめ)
以上のように本実施形態では、推定装置100aは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnのうち上流側の伝熱凝固計算位置n-1におけるトラッキング面500aに対する時刻t-Δtでの伝熱凝固計算の結果を用いて、伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定された中間計算位置kにおける鋳片表面に対する伝熱計算を実行し、当該伝熱計算の結果を用いて、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aに対する時刻tでの伝熱凝固計算を実行する。従って、伝熱凝固計算を実行するトラッキング面の間隔を短くしなくても、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間における、鋳片5の表面およびその近傍の領域の温度変化を考慮して、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算を実行することができる。よって、連続鋳造機で鋳造される鋳片5の温度および固相率の推定精度の低下と計算負荷の増加との双方を抑制することができる。
【0185】
また、本実施形態では、推定装置100aは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置nおよびn-1の間に設定された中間計算位置kに対する時刻tでの伝熱計算の結果を用いて、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から下流側の伝熱凝固計算位置nまでの間の、鋳片5と外部との間の熱伝達係数の平均的な値である平均熱伝達係数ht_aveを算出する。また、推定装置100aは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に設定された中間計算位置kに対する時刻tでの伝熱計算の結果と、平均熱伝達係数ht_aveと、を用いて、上流側の伝熱凝固計算位置n-1から下流側の伝熱凝固計算位置nまでの間の、鋳片5の外部雰囲気温度Taの平均的な値である平均外部雰囲気温度Ta_aveを算出する。そして、推定装置100aは、平均熱伝達係数ht_aveと、平均外部雰囲気温度Ta_aveと、に基づいて、鋳片5の表面における時刻tでの熱流束qx(xB,y;t)、qy(x,yB;t)(即ち、トラッキング面500aが上流側の伝熱凝固計算位置n-1から下流側の伝熱凝固計算位置nに移動するまでの鋳片5の表面における各時刻tの熱流束qx(xB,y;t)、qy(x,yB;t))を算出し、鋳片5の表面における時刻tでの熱流束qx、qyを用いて、下流側の伝熱凝固計算位置nにおける時刻tでの伝熱凝固計算を実行する。従って、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間における、熱伝達係数htの変化を考慮して、トラッキング面500aが下流側の伝熱凝固計算位置nに位置するときの伝熱凝固計算を実行することができる。よって、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置の間に、領域dのような、熱伝達係数htの値が大きく、且つ、熱流束qx、qyが温度に対して非線形に変化する領域が含まれている場合でも、連続鋳造機で鋳造される鋳片5の温度および固相率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0186】
また、本実施形態では、推定装置100aは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定された中間計算位置kに対する時刻tでの鋳片5の表面に対する伝熱計算を、鋳片5の表面に垂直な方向の一次元の伝熱計算として実行し、下流側の伝熱凝固計算位置nにおける対する時刻tでの伝熱凝固計算を、鋳片5の表面に平行な方向および垂直な方向の二次元の伝熱凝固計算として実行する。従って、伝熱凝固計算の計算負荷よりも伝熱計算の計算負荷をより低減することができる。
【0187】
また、本実施形態では、推定装置100aは、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に複数の中間計算位置kを設定し、各中間計算位置kに対する時刻tでの鋳片5の表面に対する伝熱計算を、上流側の伝熱凝固計算位置n-1における時刻t-Δtでの伝熱凝固計算の結果と、当該中間計算位置kよりも上流側の中間計算位置に対する時刻tでの鋳片5の表面に対する伝熱計算の結果と、を用いて実行する。従って、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に、多くの中間計算位置kを設定することができる。よって、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間の鋳片5の表面およびその近傍の領域の温度変化をより正確に反映して、下流側の伝熱凝固計算位置nにおけるトラッキング面500aに対する伝熱凝固計算を実行することができる。
【0188】
また、本実施形態では、推定装置100aは、中間計算位置k-1における熱伝達係数ht_k-1および外部雰囲気温度Ta_k-1を算出し、算出した結果を用いて、中間計算位置k-1における中間外部温度Tb_k-1を算出し、算出した結果を用いて、中間計算位置k-1における中間平均外部温度Tb * _k-1および中間温度変化速度パラメータβk-1を算出することを、kを1からNまで更新して繰り返し実行する。従って、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間における、鋳片5の表面およびその近傍の領域の温度変化を、中間平均外部温度Tb * _k-1を用いて定量的に表現することができると共に、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間における、鋳片5と外部との間の熱および温度の伝わりやすさの変化を、中間温度変化速度パラメータβk-1を用いて定量的に表現することができる。よって、鋳片5の温度および固相率の推定精度の低下を、より一層抑制することができる。
【0189】
また、本実施形態では、推定装置100aは、中間計算位置k-1における熱伝達係数ht_k-1および外部雰囲気温度Ta_k-1の算出結果を用いて、中間計算位置kにおける中間表面温度T^kを算出し、中間計算位置k-1における熱伝達係数ht_k-1を、中間計算位置kにおける中間表面温度T^k-1を用いて算出する。従って、温度に依存して変化する熱伝達係数htを定量的に求めることができる。
【0190】
また、本実施形態では、二次冷却帯において鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの少なくとも1つの伝熱凝固計算位置における鋳片5の表面に対する冷却方式と、当該2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に設定される少なくとも1つの中間計算位置kにおける鋳片5の表面に対する冷却方式と、が異なるように、中間計算位置kを設定する。従って、伝熱凝固計算位置n-1から伝熱凝固計算位置nまでの間に、複数の冷却方式の領域が存在する場合であっても、当該2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間の領域における鋳片5の表面およびその近傍の領域の温度変化を、中間計算位置kにおける伝熱計算の結果に基づいて推定することができる。よって、鋳片5の温度および固相率の推定精度の低下を、より一層抑制することができる。
【0191】
また、本実施形態では、鋳造方向で隣接する2つの中間計算位置kの鋳造方向の間隔は、冷却スプレー2a~2tから噴出されたミスト状の冷却水が鋳片5に衝突する領域dの鋳造方向の長さの最小値として想定されている値の1/2以下とする。従って、複数の中間計算位置kが領域dに位置するようになる。従って、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に、領域dのような、熱伝達係数htの値が大きく、且つ、熱流束qx、qyが温度に対して非線形に変化する領域における鋳片5の表面およびその近傍の領域の温度変化を、当該複数の中間計算位置kにおける伝熱計算の結果に基づいて推定することができる。よって、鋳造方向で隣接する2つの伝熱凝固計算位置n-1およびnの間に領域dが含まれている場合の鋳片5の温度および固相率の推定精度の低下を、より一層抑制することができる。
【0192】
また、本実施形態では、推定装置100aは、トラッキング面500aの全面に対する伝熱凝固計算を実行する。従って、トラッキング面500aの温度T(x,y,t)および固相率fs(x,y,t)の分布を、より高精度に算出することができる。
また、本実施形態では、推定装置100aは、表層の矩形領域710と、表層の矩形領域710に対して鋳片5の内側で隣接する第2層の矩形領域720と、表層の矩形領域710に対して鋳片5の外側で隣接する外側矩形領域730と、を伝熱対象の領域とする伝熱計算を実行する。従って、鋳片5の表面に対する伝熱の影響を及ぼす範囲を限定することができる。よって、鋳片5の表面に対する伝熱計算の計算負荷をより低減することができる。
【0193】
また、本実施形態では、制御装置100bは、推定装置100aにより実行された伝熱凝固計算位置n-1およびnの間におけるに伝熱凝固計算の結果に基づいて、連続鋳造機で鋳造されている鋳片5の所定の位置(例えば、表面や中心部)における温度の目標値と計算値との偏差がゼロに近づくように、流量調整弁3a~3eの動作(連続鋳造機の二次冷却帯における冷却水量)を制御する。従って、鋳片5の表面に割れ疵が生じたり、鋳片5に中心偏析が生じたり、機端出口9において鋳片5の中心まで凝固が完了しなかったりすることを抑制することができる。
【0194】
(変形例)
本実施形態では、推定装置100aと制御装置100bとをそれぞれ独立した装置として備える連続鋳造制御装置10(システム)を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。推定装置100aが有する機能と制御装置100bが有する機能とを含む1つの装置として連続鋳造制御装置を構成してもよい。
【0195】
また、本実施形態では、平均熱伝達係数ht_aveと、平均外部雰囲気温度Ta_aveと、に基づいて、鋳片5の表面における時刻tでの熱流束qx、qyを伝熱凝固計算における境界条件として算出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、伝熱凝固計算における境界条件を、中間計算位置kに対する伝熱計算の結果を用いて設定していれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、上流側の伝熱凝固計算位置n-1における伝熱凝固計算の結果を出発点として、中間計算位置kに対する伝熱計算の結果を用いて、各中間計算位置kにおける熱伝達係数および外部雰囲気温度を計算することを、計算対象の中間計算位置kを下流側にずらしながら行うことにより、伝熱凝固計算における境界条件を算出してもよい。
【0196】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。また、本発明の実施形態は、PLC(Programmable Logic Controller)により実現されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されてもよい。
【0197】
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0198】
1 鋳型
2a~2t 冷却スプレー
3a~3e 流量調整弁
4 溶鋼メニスカス
5 鋳片
5a 短辺面
5b~5c 長辺面
6a~6f 冷却ゾーン境界線
7a~7v 支持ロール
8a~8p 支持ロール
9 機端出口
100 連続鋳造制御装置
100a 推定装置
100b 制御装置
410 操業データ取得部
420 伝熱凝固計算位置設定部
430 中間計算位置設定部
440 伝熱計算部
441 第1計算部
442 第2計算部
443 第3計算部
450 平均熱伝達係数計算部
460 平均外部雰囲気温度計算部
470 伝熱凝固計算部
480 出力部
490 制御部
500a~500e トラッキング面
510a~510b 表層の矩形領域
511a、512a 計算点
520a~520b 第2層の矩形領域
520a、521b 計算点
531a~534a 計算点
531b~534b 計算点
600 伝熱計算対象断面
710 表層の矩形領域
711 計算点
720 第2層の矩形領域
721 計算点
730 外部矩形領域
731 計算点
a~e 冷却方式の異なる領域
n-1~n 伝熱凝固計算位置
k 中間計算位置
Δxc 伝熱計算対象断面の境界線から第2層の計算点までのx軸方向の長さ
Δyc 伝熱計算対象断面の境界線から第2層の計算点までのy軸方向の長さ
Δxs y軸方向に並ぶ表層の矩形領域のx軸方向の長さ
Δys x軸方向に並ぶ表層の矩形領域のy軸方向の長さ
図1
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図11