(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】多軸不織布、外壁用剥落防止シート及びコンクリート剥落防止シート
(51)【国際特許分類】
D04H 3/04 20120101AFI20240926BHJP
D04H 3/12 20060101ALI20240926BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240926BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
D04H3/04
D04H3/12
E01D22/00 A
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2021070087
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 哲也
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-132015(JP,A)
【文献】特開2008-063782(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0371657(US,A1)
【文献】特開2022-35408(JP,A)
【文献】特開2002-338935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 3/00-3/16
E01D 22/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列された複数の基体マルチフィラメント糸状と、該基体マルチフィラメント糸状と交差する複数の交差マルチフィラメント糸状と、該基体マルチフィラメント糸状と該交差マルチフィラメント糸状とを両者の交点において固定する交点固定樹脂とを含む多軸不織布であって、
該交点固定樹脂は、スチレンアクリル共重合体樹脂を含み、ガラス転移温度が2.5~28.5℃の範囲にあることを特徴とする多軸不織布。
【請求項2】
請求項1記載の多軸不織布において、前記交点固定樹脂は、ガラス転移温度が8.1~21.2℃の範囲にあることを特徴とする多軸不織布。
【請求項3】
請求項1記載の多軸不織布において、前記交点固定樹脂は、ガラス転移温度が14.7~21.0℃の範囲にあることを特徴とする多軸不織布。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項記載の多軸不織布において、前記基体マルチフィラメント糸状と、前記交差マルチフィラメント糸状とは、ビニロン繊維糸からなることを特徴とする多軸不織布。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項記載の多軸不織布において、前記交差マルチフィラメント糸状は、前記基体マルチフィラメント糸状と斜交する第1の斜交マルチフィラメント糸状と、該第1の斜交マルチフィラメント糸状と反対方向から該基体マルチフィラメント糸状と斜交する第2の斜交マルチフィラメント糸状とからなることを特徴とする多軸不織布。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項記載の多軸不織布を含むことを特徴とする外壁用剥落防止シート。
【請求項7】
請求項1~請求項5のいずれか1項記載の多軸不織布を含むことを特徴とするコンクリート剥落防止シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多軸不織布、外壁用剥落防止シート及びコンクリート剥落防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビニロン繊維糸をはじめとしたマルチフィラメント糸条を、経糸、緯糸、斜交糸としてこれらを積層し、これらの交点を熱可塑性樹脂からなる接着剤で固定した2~4本の軸を有する不織布(多軸不織布)を含み、トンネル等のコンクリート構造物の外壁からコンクリート片が剥落することを防止する、コンクリート剥落防止シートが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の前記外壁剥落防止シートは、接着用ポリマーセメントモルタルと共にコンクリート構造物の表面を被覆し、その上から水系塗料で被覆することにより、該コンクリート構造物の表面からコンクリート片が剥落することを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の前記コンクリート剥落防止シートを、角度や連続する方向が大きく変化する被施工面に施工しようとした場合、例えば、高速道路の高架下、又は、橋の欄干等の起伏に富んだコンクリート建構築物に用いようとする際や、とりわけ、コーナー部や軒部を備える建物外壁のタイル等の剥落防止に用いようとする際には、被施工面への追従性が不十分になり施工しにくくなるという不都合がある。
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、被施工面への高い追従性を備え、優れた賦形性及び優れた施工性を備えることができる、多軸不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明の多軸不織布は、並列された複数の基体マルチフィラメント糸状と、該基体マルチフィラメント糸状と交差する複数の交差マルチフィラメント糸状と、該基体マルチフィラメント糸状と該交差マルチフィラメント糸状とを両者の交点において固定する交点固定樹脂とを含む多軸不織布であって、該交点固定樹脂は、スチレンアクリル共重合体樹脂を含み、ガラス転移温度が2.5~28.5℃の範囲にあることを特徴とする。
【0008】
本発明の多軸不織布は、複数の基体マルチフィラメント糸状と、複数の交差マルチフィラメント糸状とが両者の交点において、交点固定樹脂により固定されている。ここで、本発明の多軸不織布は、前記交点固定樹脂が2.5~28.5℃の範囲のガラス転移温度を備え、スチレンアクリル共重合体樹脂を含むことにより、外壁用剥落防止シートとして用いられたときに、被施工面への高い追従性を備えることができる。
【0009】
この結果、本発明の多軸不織布は、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、優れた賦形性及び優れた施工性を備えることができる。
【0010】
本発明の多軸不織布が、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、優れた賦形性を備えるとは、A4判(210mm×297mm)にカットし、折り目が十分に形成されるように長手方向に半分に折り曲げ、手を離した際の反発復元角度が、90°~120°の範囲であることをいう。また、本発明の多軸不織布が、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、優れた施工性を備えるとは、JIS L-1096:2010に準拠して、タテ方向及びヨコ方向のガーレ剛軟度を測定し、これらの値の平均値を算出したときに、平均値が350mg以上650mg以下の範囲であることをいう。
【0011】
ここで、前記交点固定樹脂のガラス転移温度は、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0012】
本発明の多軸不織布において、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、被施工面への高い追従性を得るために、前記交点固定樹脂のガラス転移温度は、好ましくは8.1~21.2℃の範囲、より好ましくは14.7~21.0℃の範囲にある。
【0013】
また、本発明の多軸不織布において、前記基体マルチフィラメント糸状と、前記交差マルチフィラメント糸状とは、ビニロン繊維糸からなることが好ましい。
【0014】
また、本発明の多軸不織布は、前記交差マルチフィラメント糸状は、前記基体マルチフィラメント糸状と斜交する第1の交差マルチフィラメント糸状と、該第1の交差マルチフィラメント糸状と反対方向から該基体マルチフィラメント糸状と斜交する第2の交差マルチフィラメント糸状とからなることが好ましい。
【0015】
また、本発明の外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートは前記いずれかの多軸不織布を含むことを特徴とする。本発明の外壁用剥落防止シートは、例えば、建物の外壁に対し、外壁表面又はコンクリート建構築物表面にプライマー下地を形成し、次いでプライマー下地を本発明の剥落防止シ-トで覆うことにより、該外壁からコンクリート片が剥落することを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
本実施形態の多軸不織布は、並列された複数の基体マルチフィラメント糸状と、該基体マルチフィラメント糸状と交差する複数の交差マルチフィラメント糸状と、該基体マルチフィラメント糸状と該交差マルチフィラメント糸状とを両者の交点において固定する交点固定樹脂とを含み、該交点固定樹脂は、スチレンアクリル共重合体樹脂を含む。
【0018】
本実施形態の多軸不織布は、前記複数の交差マルチフィラメント糸状が、前記複数の基体マルチフィラメント糸状と斜交する複数の第1の斜交マルチフィラメント糸状と、該第1の斜交マルチフィラメント糸状と反対方向から該基体マルチフィラメント糸状と斜交する複数の第2の斜交マルチフィラメント糸状とからなる、3軸不織布であることが好ましい。また、本実施形態の多軸不織布は、前記複数の交差マルチフィラメント糸条が、前記複数の基体マルチフィラメント糸条と直交する複数の直交マルチフィラメント糸条からなる、2軸不織布であってもよく、前記複数の交差マルチフィラメント糸条が、前記複数の直交マルチフィラメント糸条と、前記複数の第1の斜交マルチフィラメント糸条と、前記複数の第2の斜交マルチフィラメント糸条とからなる4軸不織布であってもよい。
【0019】
本実施形態の多軸不織布において、前記基体マルチフィラメント糸状又は前記交差マルチフィラメント糸状としては、ビニロン繊維糸、ガラス繊維糸、炭素繊維糸、アラミド繊維糸を例示することができ、アルカリ性のモルタル下地に対して優れた耐アルカリ性を示すことから、ビニロン繊維糸であることが好ましい。
【0020】
前記基体マルチフィラメント糸状又は前記交差マルチフィラメント糸状は、同一種の又はそれぞれ異なる種類のマルチフィラメント糸条からなる糸条であってもよい。前記第1のマルチフィラメント糸条2が、複数のマルチフィラメント糸条からなる場合、その形態は、合糸であってもよく、合撚糸であってもよい。
【0021】
前記基体マルチフィラメント糸状と、前記交差マルチフィラメント糸状とは、同じマルチフィラメント糸状であっても、異なるマルチフィラメント糸状であってもよいが、同じマルチフィラメント糸状であることが好ましい。
【0022】
本実施形態の多軸不織布において、前記基体マルチフィラメント糸状又は前記交差マルチフィラメント糸状は、例えば、500~1500本のフィラメントにより構成され、好ましくは、700~1200本のフィラメントにより構成され、より好ましくは、750~1000本のフィラメントにより構成される。
【0023】
本実施形態の多軸不織布において、前記基体マルチフィラメント糸状又は前記交差マルチフィラメント糸状の単位長さ当たりの質量は、例えば、500~3000g/10000m(dtex)の範囲にあり、1000~2500g/10000mの範囲にあることが好ましく、1900~2200g/10000mの範囲にあることがより好ましい。
【0024】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、前記基体マルチフィラメント糸状は、例えば、1.0~4.0本/25mmで並列され、好ましくは、1.1~3.0本/25mmで並列され、より好ましくは、1.4~2.8本/25mmで並列される。
【0025】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、隣り合う前記基体マルチフィラメント糸状の糸間隔は、例えば、5~25mmの範囲にあり、好ましくは、6~20mmの範囲にあり、より好ましくは、9~18mmの範囲にある。
【0026】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、前記第1の斜交マルチフィラメント糸状は、例えば、1.0~4.0本/25mmで並列され、好ましくは、1.1~3.0本/25mmで並列され、より好ましくは、1.4~2.8本/25mmで並列される。
【0027】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、隣り合う前記第1の斜交マルチフィラメント糸状の糸間隔は、例えば、5~25mmの範囲にあり、好ましくは、6~20mmの範囲にあり、より好ましくは、9~18mmの範囲にある。
【0028】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、前記第2の斜交マルチフィラメント糸状は、例えば、1.0~4.0本/25mmで並列され、好ましくは、1.1~3.0本/25mmで並列され、より好ましくは、1.4~2.8本/25mmで並列される。
【0029】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、前記基体マルチフィラメント糸状と前記第1の斜交マルチフィラメント糸状とがなす角度は、例えば、40~70°の範囲にあり、好ましくは、43~65°の範囲にある。
【0030】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、前記基体マルチフィラメント糸状と前記第2の斜交マルチフィラメント糸状とがなす角度は、例えば、40~70°の範囲にあり、好ましくは、43~65°の範囲にある。
【0031】
本実施形態の多軸不織布が3軸不織布である場合において、3軸不織布の単位面積当たりの質量は、例えば、35~90g/m2の範囲にあり、好ましくは、40~85g/m2の範囲にあり、より好ましくは、42~84g/m2の範囲にある。
【0032】
また、本実施形態の多軸不織布において、前記交点固定樹脂は、スチレンアクリル共重合体樹脂以外の樹脂を含んでもよいが、交点固定樹脂を構成する樹脂の全量に対して50質量%超がスチレンアクリル共重合体樹脂であることが好ましく、交点固定樹脂を構成する樹脂の全量に対して75質量%超がスチレンアクリル共重合体樹脂であることがより好ましく、交点固定樹脂を構成する樹脂の全量に対して90質量%超がスチレンアクリル共重合体樹脂であることがさらに好ましく、交点固定樹脂を構成する樹脂の全量に対して95質量%以上がスチレンアクリル共重合体樹脂であることが特に好ましく、交点固定樹脂を構成する樹脂の全量に対して100質量%がスチレンアクリル共重合体樹脂であることが最も好ましい。
【0033】
また、本実施形態の多軸不織布において、前記交点固定樹脂に含まれるスチレンアクリル共重合体樹脂は、1種類のスチレンアクリル共重合体樹脂であっても、ガラス転移温度の異なる複数種類のスチレンアクリル共重合体樹脂であってもよい。
【0034】
前記交点固定樹脂が、スチレンアクリル共重合体樹脂以外に含みうる樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂等を挙げることができる。
【0035】
前記スチレンアクリル共重合体樹脂は、少なくとも、スチレン単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体とを用いて、重合を行うことにより形成することができるが、含リン単量体を含まないことが好ましい。
【0036】
前記スチレン単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン等を挙げることができる。
【0037】
また、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、以下に示すアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体が代表的なものである。前記アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレートフェニル等を挙げることができる。また、メタクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。これらのなかでも、炭素数4~22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体であることがより好ましい。前記スチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、又は、メタクリル酸エステル単量体は、1種類を単独使用することもでき、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
前記スチレンアクリル共重合体樹脂の形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性、又は、水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法を挙げることができる。前記スチレンアクリル共重合体樹脂を形成する際には、重合に用いられる総単量体の質量を基準として、スチレン単量体と、(メタ)アクリル酸(エステル)単量体との合計量が、70質量%超であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0039】
本実施形態の多軸不織布では、前記交点固定樹脂のガラス転移温度が、2.5~28.5℃の範囲、より好ましくは6.8~24.0℃の範囲であることにより、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、被施工面への高い追従性を備えることができ、優れた賦形性及び優れた施工性を備えることができる。
【0040】
また、本実施形態の多軸不織布では、前記交点固定樹脂のガラス転移温度が、さらに好ましくは8.1~21.2℃の範囲であることにより、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、優れた賦形性及び優れた施工性を備えることができ、さらに、優れた交点接着強度を備えることができる。
【0041】
ここで、本実施形態の多軸不織布が優れた交点接着強度を備えるとは、JIS R3420:2013準拠して多軸不織布のヨコ方向の引張強度を測定したときに、引張強度が25N/25mm以上であることをいう。
【0042】
また、本実施形態の多軸不織布では、前記交点固定樹脂のガラス転移温度が、特に好ましくは14.7~21.0℃の範囲、最も好ましくは17.5~20.9℃の範囲であることにより、特に優れた賦形性及び特に優れた施工性を備えることができ、さらに、優れた交点接着強度を備えることができる。
【0043】
ここで、本実施形態の多軸不織布が特に優れた賦形性を備えるとは、A4判(210mm×297mm)にカットし、折り目が十分に形成されるように長手方向に半分に折り曲げ、手を離した際の反発復元角度が、90°以内であることをいう。また、本発明の多軸不織布が、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、特に優れた施工性を備えるとは、JIS L-1096:2010に準拠して、タテ方向及びヨコ方向のガーレ剛軟度を測定し、これらの値の平均値を算出したときに、平均値が450mg以上550mg以下の範囲であることをいう。
【0044】
なお、本実施形態の多軸不織布において、前記交点固定樹脂のガラス転移温度は、例えば、ガラス転移温度の異なる複数のスチレンアクリル共重合体樹脂を混合することによって調整することができる。
【0045】
本実施形態の多軸不織布において、前記交点固定樹脂に含まれるスチレンアクリル共重体樹脂のガラス転移温度は、2.5~28.5℃の範囲にあることが好ましく、6.8~24.0℃の範囲にあることがより好ましく、8.1~21.2℃の範囲にあることがさらに好ましく、14.7~21.0℃の範囲にあることが特に好ましく、17.5~20.9℃の範囲にあることが最も好ましい。ここで、前記交点固定樹脂が複数種類のスチレンアクリル共重合体樹脂を含む場合、スチレンアクリル共重合体のガラス転移温度は、これらの混合物のガラス転移温度を意味する。
【0046】
本実施形態の多軸不織布において、前記交点固定樹脂は、主剤となる樹脂以外に、硬化剤、着色剤等の添加剤を、主剤となる樹脂の質量を基準として0~10質量%の範囲で含んでもよい。
【0047】
本実施形態において、前記基体マルチフィラメント糸状と、前記交差マルチフィラメント糸状とは、全表面が前記交点固定樹脂で被覆されていることが好ましく、このようにすることにより、該基体マルチフィラメント糸状と該交差マルチフィラメント糸状とを両者の交点において該交点固定樹脂により固定することができる。
【0048】
前記基体マルチフィラメント糸状及び前記交差マルチフィラメント糸状の全表面が前記交点固定樹脂で被覆されている場合、前記交点固定樹脂の被覆量は、前記交点樹脂が被覆された状態の多軸不織布の質量を基準として、例えば、10~30質量%の範囲にあり、好ましくは、15~25質量%の範囲にあり、より好ましくは、17~23質量%の範囲にある。
【0049】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0050】
〔実施例1〕
本実施例では、基体マルチフィラメント糸条、第1の斜交マルチフィラメント糸条、及び、第2の斜交マルチフィラメント糸条として、フィラメントが1000本集束されてなり、2000g/10000m(2000dtex)の単位長さ当たりの質量を備えるビニロン繊維糸を用い、1.9本/25mmで並列された複数の第1の斜交マルチフィラメント糸状が、1.9本/25mmで並列された複数の基体マルチフィラメント糸状と斜交する一方、1.9本/25mmで並列された複数の第2の斜交マルチフィラメント糸状が該第1の斜交マルチフィラメント糸状と反対方向から該基体マルチフィラメント糸状と斜交しており、57g/m2の単位面積当たりの質量を備える、3軸不織布を得た。
【0051】
前記3軸不織布では、基体マルチフィラメント糸条、第1の斜交マルチフィラメント糸条、及び、第2の斜交マルチフィラメント糸条はいずれも全表面が前記交点固定樹脂で被覆されており、該基体マルチフィラメント糸条と、交差マルチフィラメント糸条としての該第1の斜交マルチフィラメント糸条、及び、第2の斜交マルチフィラメント糸条とが、両者の交点において該交点固定樹脂により固定されている。
【0052】
本実施例では、前記交点固定樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種のスチレンアクリル共重合体樹脂を混合することにより、ガラス転移温度が20.5℃に調整された交点固定樹脂を用いた。
【0053】
次に、本実施例で得られた3軸不織布の賦形性、及び、施工性を以下の方法により評価した。また、本実施例に用いた交点固定樹脂のガラス転移温度、及び、本実施例で得られた3軸不織布の交点接着強度(N/25mm)を、以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0054】
〔3軸不織布の賦形性〕
3軸不織布を、A4判(210mm×297mm)の大きさにカットし、折り目が十分に形成されるように長手方向に半分に折り曲げ、手を離した際の反発復元角度が、90°以内である場合をA、90°~120°の範囲である場合をB、120°~180°の範囲である場合をCと評価する。
【0055】
〔3軸不織布の施工性〕
3軸不織布を、JIS L-1096:2010に準拠して、タテ方向及びヨコ方向のガーレ剛軟度を測定し、これらの値の平均値を算出したときに、平均値が450以上550以下の場合をA、350以上450未満又は550超650以下の場合をB、350未満又は650超の場合をCと評価する。
【0056】
〔交点固定樹脂のガラス転移温度〕
3軸不織布からソックスレ-抽出器にてトルエン溶媒下で煮沸して交点固定樹脂を溶融抽出し、抽出された交点固定樹脂について、示唆走査熱量計(NETZSCH社製、品番:DSC 3500 Sirius)を使用して、ガラス転移温度を測定する。
【0057】
〔3軸不織布の交点接着強度〕
JIS R-3420:2013に準拠して3軸不織布のヨコ方向の引張強度を測定する。
【0058】
〔実施例2〕
本実施例では、前記交点固定樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種のスチレンアクリル共重合体樹脂を混合することにより、ガラス転移温度が8.8℃に調整された交点固定樹脂を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、3軸不織布を得た。
【0059】
次に、本実施例で得られた3軸不織布の賦形性、及び、施工性を実施例1と全く同一にして評価し、本実施例に用いた交点固定樹脂のガラス転移温度、及び、本実施例で得られた3軸不織布の交点接着強度(N/25mm)を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0060】
〔実施例3〕
本実施例では、前記交点固定樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種のスチレンアクリル共重合体樹脂を混合することにより、ガラス転移温度が22.0℃に調整された交点固定樹脂を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、3軸不織布を得た。
【0061】
次に、本実施例で得られた3軸不織布の賦形性、及び、施工性を実施例1と全く同一にして評価し、本実施例に用いた交点固定樹脂のガラス転移温度、及び、本実施例で得られた3軸不織布の交点接着強度(N/25mm)を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例1〕
本比較例では、前記交点固定樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種のスチレンアクリル共重合体樹脂を混合することにより、ガラス転移温度が-4.5℃に調整された交点固定樹脂を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、3軸不織布を得た。
【0063】
次に、本比較例で得られた3軸不織布の賦形性、及び、施工性を実施例1と全く同一にして評価し、本実施例に用いた交点固定樹脂のガラス転移温度、及び、本実施例で得られた3軸不織布の交点接着強度(N/25mm)を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0064】
〔比較例2〕
本比較例では、前記交点固定樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種のスチレンアクリル共重合体樹脂を混合することにより、ガラス転移温度が35.5℃に調整された交点固定樹脂を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、3軸不織布を得た。
【0065】
次に、本比較例で得られた3軸不織布の賦形性、及び、施工性を実施例1と全く同一にして評価し、本実施例に用いた交点固定樹脂のガラス転移温度、及び、本実施例で得られた3軸不織布の交点接着強度(N/25mm)を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0066】
〔比較例3〕
本比較例では、前記交点固定樹脂として、ガラス転移温度が-40℃のアクリル酸エステル共重合体樹脂を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、3軸不織布を得た。
【0067】
次に、本比較例で得られた3軸不織布の賦形性、及び、施工性を実施例1と全く同一にして評価し、本実施例に用いた交点固定樹脂のガラス転移温度、及び、本実施例で得られた3軸不織布の交点接着強度(N/25mm)を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1から、スチレンアクリル共重合体樹脂を含み、ガラス転移温度が2.5~28.5℃の範囲にある交点固定樹脂を用いる実施例1~3の3軸不織布によれば、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、優れた賦形性及び優れた施工性を備えることが明らかである。一方、スチレンアクリル共重合体樹脂を含むが、ガラス転移温度が2.5℃未満、又は、28.5℃超である交点固定樹脂を用いる比較例1、2の3軸不織布、及び、交点固定樹脂としてアクリル酸エステル共重合体樹脂を用いる比較例3の3軸不織布によれば、外壁用剥落防止シート又はコンクリート剥落防止シートとして用いられたときに、十分な賦形性及び十分な施工性を備えることができないことが明らかである。