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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/00 20060101AFI20240926BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20240926BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20240926BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B60C9/00 B
B60C11/00 Z
B60C11/13 B
B60C11/00 F
B60C9/22 C
B60C9/00 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021507089
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004609
(87)【国際公開番号】W WO2021260995
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2020109448
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 敦人
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-156047(JP,A)
【文献】特開2012-091736(JP,A)
【文献】特開昭60-143106(JP,A)
【文献】特開平11-078415(JP,A)
【文献】米国特許第6446689(US,B1)
【文献】特開2017-226317(JP,A)
【文献】特開2011-126444(JP,A)
【文献】特表2002-524345(JP,A)
【文献】米国特許第5223187(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 11/00
B60C 11/13
B60C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝が形成され、これら主溝により複数列の陸部が区画された空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層は、ポリエステル繊維コードからなるカーカスコードで構成され、該カーカスコードの切断伸度EBが20%~30%であり、
前記トレッド部の接地領域における溝面積比率SgAが20%~40%であり、前記トレッド部のセンター領域における溝面積比率SgBが1.1≦SgB/SgA≦1.5の関係を満足し、前記センター領域に含まれる主溝の深さGが5mm~8mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記センター領域に含まれる少なくとも1列の陸部において、該陸部の主溝側端部におけるゴム厚さをTeとし、該陸部の中央部におけるゴム厚さをTcとしたとき、Tc>Teの関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記センター領域における前記カーカス層の層数が1層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向するカバーコードを含むベルトカバー層が配置され、前記カバーコードがナイロン繊維とアラミド繊維とのハイブリッドコードであり、前記センター領域における前記ベルトカバー層の層数が1層であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向するカバーコードを含むベルトカバー層が配置され、前記カバーコードがナイロン繊維コードであり、前記センター領域における前記ベルトカバー層の層数が1層又は2層であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度EMが5.0%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記カーカスコードの正量繊度CFが4000dtex~8000dtexであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
下記式(1)で表される前記カーカスコードの撚り係数Kが2000以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
K=T×D1/2 ・・・(1)
但し、Tは前記カーカスコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dは前記カーカスコードの総繊度[dtex]である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードからなるカーカス層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ドライ路面での操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性及びウエット路面での操縦安定性を改善し、これら性能を高度に両立することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、一般的に、一対のビード部間に装架されたカーカス層を備えており、カーカス層は複数本の補強コード(カーカスコード)で構成されている。カーカスコードとしては、主として有機繊維コードが使用される。特に、優れた操縦安定性が要求されるタイヤにおいては、剛性の高いレーヨン繊維コードが用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方で、近年、タイヤの軽量化や転がり抵抗の低減に対する要求が高まっており、トレッド部のゴムゲージを薄くすることが検討されている。しかしながら、上述のレーヨン繊維コードからなるカーカス層を備えたタイヤの場合、トレッド部の薄肉化に伴って、耐ショックバースト性が低下することが懸念される。耐ショックバースト性とは、走行中にタイヤが大きなショックを受けて、カーカスが破壊する損傷(ショックバースト)に対する耐久性であり、例えばプランジャーエネルギー試験(トレッド中央部に所定の大きさのプランジャーを押し付けてタイヤが破壊する際の破壊エネルギーを測定する試験)が指標となる。
【0004】
そこで、レーヨン繊維コードを用いた場合と同程度に良好なドライ路面での操縦安定性を確保しながら、耐ショックバースト性を改善するために、カーカスコードとして、所定の物性を備えたポリエステル繊維コードを使用することが検討されている。その一方で、そのようなポリエステル繊維コードの採用によりトレッド部の薄肉化及びそれに伴う溝深さの低減を進めた場合、ウエット路面での操縦安定性が低下するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2015-205666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ドライ路面での操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性及びウエット路面での操縦安定性を改善し、これら性能を高度に両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、これら一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝が形成され、これら主溝により複数列の陸部が区画された空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層は、ポリエステル繊維コードからなるカーカスコードで構成され、該カーカスコードの切断伸度EBが20%~30%であり、
前記トレッド部の接地領域における溝面積比率SgAが20%~40%であり、前記トレッド部のセンター領域における溝面積比率SgBが1.1≦SgB/SgA≦1.5の関係を満足し、前記センター領域に含まれる主溝の深さGが5mm~8mmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明において、カーカス層を構成するカーカスコードは、切断伸度EBが20%~30%のポリエステル繊維コードであるため、その剛性をレーヨン繊維コードの場合と同等以上に維持することができ、ドライ路面及びウエット路面において良好な操縦安定性を発揮することができる。また、カーカスコードが上述の切断伸度EBを有するため、カーカスコードが局所変形に追従し易くなり、プランジャーエネルギー試験時(プランジャーに押圧された際)の変形を十分に許容することが可能になり、破壊エネルギーを向上することができる。つまり、走行時においてはトレッド部の突起入力に対する破壊耐久性が向上することになるので、耐ショックバースト性を向上することができる。更に、トレッド部の接地領域における溝面積比率SgAと、トレッド部のセンター領域における溝面積比率SgBと、センター領域に含まれる主溝の深さGとを上述の如く規定することにより、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性と耐ショックバースト性とをバランス良く改善することができる。その結果、ドライ路面での操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性及びウエット路面での操縦安定性を改善し、これら性能を高度に両立することが可能になる。
【0009】
本発明では、センター領域に含まれる少なくとも1列の陸部において、該陸部の主溝側端部におけるゴム厚さをTeとし、該陸部の中央部におけるゴム厚さをTcとしたとき、Tc>Teの関係を満足することが好ましい。このようにセンター領域に含まれる陸部の中央部におけるゴム厚さTcを相対的大きくすることにより、耐ショックバースト性を効果的に高めることができる。また、接地時には、陸部の中央部が先に接地するようになるため、排水性が良化し、ウエット路面での操縦安定性を改善することができる。
【0010】
センター領域におけるカーカス層の層数が1層であることが好ましい。これにより、良好な耐ショックバースト性を確保しながら、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。
【0011】
トレッド部におけるカーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向するカバーコードを含むベルトカバー層が配置される場合、カバーコードがナイロン繊維とアラミド繊維とのハイブリッドコードであり、センター領域におけるベルトカバー層の層数が1層であることが好ましい。これにより、ベルトカバー層の剛性に基づいてドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を改善すると共に、良好な耐ショックバースト性を確保しながら、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。
【0012】
また、トレッド部におけるカーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層が配置され、該ベルト層の外周側にタイヤ周方向に配向するカバーコードを含むベルトカバー層が配置される場合、カバーコードがナイロン繊維コードであり、センター領域におけるベルトカバー層の層数が1層又は2層であることが好ましい。これにより、ベルトカバー層の剛性に基づいてドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を改善すると共に、良好な耐ショックバースト性を確保しながら、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。
【0013】
カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度EMは5.0%以下であることが好ましい。これにより、カーカスコードの剛性を十分に確保することができ、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を効果的に改善することができる。
【0014】
カーカスコードの正量繊度CFは4000dtex~8000dtexであることが好ましい。これにより、カーカスコードの剛性を十分に確保することができ、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を効果的に改善することができる。
【0015】
下記式(1)で表されるカーカスコードの撚り係数Kは2000以上であることが好ましい。これにより、カーカスコードの剛性を十分に確保することができ、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を効果的に改善することができる。
K=T×D1/2 ・・・(1)
但し、Tは前記カーカスコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dは前記カーカスコードの総繊度[dtex]である。
【0016】
本発明において、トレッド部の接地領域は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を負荷した条件にて測定されるタイヤ軸方向の接地幅に相当する領域である。トレッド部のセンター領域は、タイヤ赤道を中心とした接地幅の50%に相当する領域である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図2図1の空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図3図3図1の空気入りタイヤのトレッド部のセンター領域の陸部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図1において、CLはタイヤ中心位置である。図2において、TCWは接地幅である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0020】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0021】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のベルトコードを含み、かつ層間でベルトコードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、ベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7のベルトコードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0022】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、カバーコードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなるベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8としては、ベルト層7の幅方向の全域を覆うフルカバー層や、ベルト層7のタイヤ幅方向の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層をそれぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて設けることができる。ベルトカバー層8は、例えば、少なくとも1本のカバーコードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成することができる。ベルトカバー層8のカバーコードとしては、有機繊維コードが好ましく使用される。
【0023】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。また、トレッド部1にはキャップトレッドゴム層1Aが配置され、サイドウォール部2の各々にはサイドウォールゴム層2Aが配置され、ビード部3の各々にはリムクッションゴム層3Aが配置されている。
【0024】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本(図2では、4本)の主溝10が形成されている。主溝10は、溝幅が4mm以上、好ましくは、5mm以上20mm以下の範囲にあると共に、溝深さが5mm以上8mm以下の範囲にある周方向溝である。これにより、トレッド部1には、タイヤ中心位置(タイヤ赤道)CL上に位置するセンター陸部20と、該センター陸部20の外側に位置する一対の中間陸部30,30と、これら一対の中間陸部30の外側に位置する一対のショルダー陸部40,40が区画されている。また、各陸部20,30,40には、それぞれタイヤ幅方向に延びるラグ溝21,31,41が形成されている。
【0025】
上述した空気入りタイヤにおいて、カーカス層4を構成するカーカスコードは、ポリエステル繊維のフィラメント束を撚り合わせたポリエステル繊維コードで構成される。このカーカスコード(ポリエステル繊維コード)の切断伸度EBは20%~30%である。このような物性を有するカーカスコード(ポリエステル繊維コード)をカーカス層4に用いているので、従来のレーヨン繊維コードを用いた場合と同等以上の剛性を維持することができ、ドライ路面及びウエット路面において良好な操縦安定性を発揮することができる。また、カーカスコードが上述の切断伸度EBを有するため、カーカスコードが局所変形に追従し易くなり、プランジャーエネルギー試験時(プランジャーに押圧された際)の変形を十分に許容することが可能になり、破壊エネルギーを向上することができる。つまり、走行時においてはトレッド部1の突起入力に対する破壊耐久性が向上することになるので、耐ショックバースト性を向上することができる。
【0026】
ここで、カーカスコードの切断伸度EBが20%未満であると、耐ショックバースト性を改善する効果を得ることができない。逆に、カーカスコードの切断伸度が30%を超えると、中間伸度も大きくなる傾向があり、タイヤの横剛性が低下し、操舵時のレスポンスが低下するため、操縦安定性が悪化する。特に、カーカスコードの切断伸度EBは22%~28%であることが望ましい。なお、「切断伸度EB」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、コード切断時に測定される試料コードの伸び率(%)である。
【0027】
また、上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1の接地領域Raにおける溝面積比率SgAは20%~40%の範囲内に設定され、トレッド部1のセンター領域Rbにおける溝面積比率SgBは1.1≦SgB/SgA≦1.5の関係を満足し、センター領域Rbに含まれる主溝10の深さGが5mm~8mmの範囲内に設定されている。接地領域Raは接地幅TCWに相当する帯状領域であり、センター領域Rbはタイヤ中心線CL(タイヤ赤道)を中心とした接地幅TCWの50%に相当する帯状領域である。溝面積比率SgAは接地領域Raに占める溝要素の踏面での面積比率(%)であり、溝面積比率SgBはセンター領域Rbに占める溝要素の踏面での面積割合(%)である。
【0028】
このようにトレッド部1の接地領域Raにおける溝面積比率SgAと、トレッド部1のセンター領域Rbにおける溝面積比率SgBと、センター領域に含まれる主溝の深さGとを規定することにより、ドライ路面での操縦安定性とウエット路面での操縦安定性と耐ショックバースト性とをバランス良く改善することができる。
【0029】
ここで、トレッド部1の接地領域Raにおける溝面積比率SgAが20%未満であると、排水性の低下によりウエット路面での操縦安定性が悪化し、逆に40%を超えると、グリップの低下によりドライ路面での操縦安定性が悪化する。特に、溝面積比率SgAは20%~35%であることが望ましい。また、SgB/SgAの値が1.1未満であると、より接地し易いセンター領域Rbの溝面積が少なくなるためウエット路面での操縦安定性が悪化し、逆に1.5を超えると、より接地し易いセンター領域Rbの溝面積が多くなるためドライ路面での操縦安定性が悪化し、更には、センター領域Rbにおけるゴムボリュームが減少し、衝撃時にトレッド部1の反力が低下し、カーカス層4やベルト層7への応力集中が大きくなることで、耐ショックバースト性が悪化する。更に、センター領域Rbに含まれる主溝10の深さGが5mm未満であると、ウエット路面での操縦安定性及び耐ショックバースト性が悪化し、逆に8mmを超えると、ドライ路面での操縦安定性が悪化する。
【0030】
上述した空気入りタイヤでは、図3に示すように、センター領域Rbに含まれるセンター陸部20において、該センター陸部20の主溝側端部におけるゴム厚さをTeとし、該センター陸部20の幅方向の中央部におけるゴム厚さをTcとしたとき、Tc>Teの関係を満足することが好ましい。即ち、センター陸部20はタイヤ子午線断面において中央部が最も高くなるようにタイヤ径方向外側に向かって滑らかに膨出した輪郭形状を有することが好ましい。ゴム厚さTe,Tcはベルト層7及びベルトカバー層8の外周側に位置するトレッドゴム層1Aの厚さである。
【0031】
このようにセンター領域Rbに含まれるセンター陸部20の中央部におけるゴム厚さTcを相対的大きくすることにより、耐ショックバースト性を効果的に高めることができる。また、接地時には、センター陸部20の中央部が先に接地するようになるため、排水性が良化し、ウエット路面での操縦安定性を改善することができる。なお、このような輪郭形状は、少なくとも一部がセンター領域Rbに掛かる少なくとも1列の陸部に適用することが可能である。
【0032】
上述した空気入りタイヤにおいて、センター領域Rbにおけるカーカス層4の層数は1層(単層)であると良い。このようにカーカス層4の層数を最小限にすることで、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。しかも、カーカス層4のカーカスコードは所定の切断伸度EBを有するポリエステル繊維コードで構成されるので、良好な耐ショックバースト性を確保することができる。
【0033】
上述した空気入りタイヤにおいて、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層7が配置され、ベルト層7の外周側にタイヤ周方向に配向するカバーコードを含むベルトカバー層8が配置される場合、ベルトカバー層8のカバーコードがナイロン繊維とアラミド繊維とのハイブリッドコードであり、センター領域Rbにおけるベルトカバー層8の層数が1層(単層)であると良い。これにより、ベルトカバー層8の剛性に基づいてドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を改善することができる。また、ベルトカバー層8の層数を最小限にすることで、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。しかも、ベルトカバー層8の層数が少ない方がポリエステル繊維コードからなるカーカスコードに基づく耐ショックバースト性の改善効果をより効果的に享受することができる。
【0034】
或いは、上述した空気入りタイヤにおいて、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜するベルトコードを含む複数層のベルト層7が配置され、ベルト層7の外周側にタイヤ周方向に配向するカバーコードを含むベルトカバー層8が配置される場合、ベルトカバー層8のカバーコードがナイロン繊維コードであり、センター領域Rbにおけるベルトカバー層8の層数が1層(単層)又は2層であると良い。これにより、ベルトカバー層8の剛性に基づいてドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を改善することができる。また、ベルトカバー層8の層数を最小限にすることで、タイヤ重量を低減し、転がり抵抗を低減することができる。しかも、ベルトカバー層8の層数が少ない方がポリエステル繊維コードからなるカーカスコードに基づく耐ショックバースト性の改善効果をより効果的に享受することができる。
【0035】
上述した空気入りタイヤにおいて、カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度EMは5.0%以下、より好ましくは4.0%以下であると良い。このような物性を有するカーカスコードを用いることで、カーカスコードの剛性を十分に確保することができるので、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を改善するには有利になる。カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度EBが5.0%を超えると、剛性の低下により操縦安定性の改善効果が低下する。なお、「1.0cN/dtex負荷時の中間伸度」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、1.0cN/dtex負荷時に測定される試料コードの伸び率(%)である。
【0036】
上述した空気入りタイヤにおいて、カーカスコードの正量繊度CFは4000dtex~8000dtex、より好ましくは5000dtex~7000dtexであると良い。このような正量繊度CFを有するカーカスコードを用いることで、カーカスコードの剛性を十分に確保することができるので、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を改善するには有利になる。カーカスコードの正量繊度CFが4000dtex未満であると操縦安定性の改善効果が低下する。一方、カーカスコードの正量繊度CFが8000dtexを超えると耐ショックバースト性の改善効果が低下する。
【0037】
上述した空気入りタイヤにおいて、カーカスコードの熱収縮率は0.5%~2.5%、より好ましくは1.0%~2.0であると良い。このような熱収縮率を有するカーカスコードを用いることで、加硫時にカーカスコードにキンク(捩じれ、折れ、よれ、形くずれ等)が発生して耐久性が低下することや、ユニフォミティの低下を抑制することができる。カーカスコードの熱収縮率が0.5%未満であると、加硫時にキンクが発生し易くなり、耐久性を良好に維持することが難しくなる。カーカスコードの熱収縮率が2.5%を超えると、ユニフォミティが悪化する虞がある。なお、「熱収縮率」は、JIS L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件150℃×30分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの乾熱収縮率(%)である。
【0038】
上述した空気入りタイヤにおいて、下記式(1)で表されるカーカスコードの撚り係数Kは2000以上、より好ましくは2100~2400であると良い。この撚り係数Kは、ディップ処理後のカーカスコードの数値である。このような撚り係数Kを有するカーカスコードを用いることで、カーカスコードの剛性を十分に確保することができるので、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性を向上するには有利になる。また、コード疲労性を良好にすることができ、優れた耐久性を確保することもできる。このとき、カーカスコードの撚り係数Kが2000未満であると、剛性の低下により操縦安定性の改善効果が低下する。
K=T×D1/2 ・・・(1)
但し、Tは前記カーカスコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dは前記カーカスコードの総繊度[dtex]である。
【0039】
カーカスコードを構成するポリエステル繊維の種類は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)、ポリブチレンナフタレート繊維(PBN)を例示することができ、PET繊維を好適に用いることができる。いずれの繊維を用いた場合も、各繊維の物性によって、操縦安定性と耐ショックバースト性とを高度に両立することができる。特に、PET繊維の場合は、PET繊維が安価であることから、空気入りタイヤの低コスト化を図ることができる。また、コードを製造する際の作業性を高めることもできる。
【実施例
【0040】
タイヤサイズが275/40ZR20(106Y)であり、図1及び図2に示す基本構造を有する空気入りタイヤにおいて、カーカスコードの材質、カーカスコードの切断伸度EB、トレッド部の接地領域における溝面積比率SgA、トレッド部の接地領域における溝面積比率SgAとトレッド部のセンター領域における溝面積比率SgBとの比SgB/SgA、センター領域に含まれる主溝の深さG、センター領域に含まれる陸部の主溝側端部におけるゴム厚さTeとその中央部におけるゴム厚さTcとの比Tc/Te、センター領域におけるカーカス層の層数、ナイロン繊維とアラミド繊維とのハイブリッドコードからなるベルトカバー層の層数、ナイロン繊維コードからなるベルトカバー層の層数、カーカスコードの1.0cN/dtex負荷時の中間伸度EM、カーカスコードの正量繊度CF、カーカスコードの撚り係数Kを表1及び表2のように設定した従来例、比較例1~7及び実施例1~8のタイヤを製作した。
【0041】
カーカスコードの材質については、レーヨン繊維コードを用いた場合を「レーヨン」、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)コードを用いた場合を「PET」と表示した。
【0042】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、耐ショックバースト性、ウエット路面での操縦安定性、転がり抵抗、ドライ路面での操縦安定性を評価し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0043】
耐ショックバースト性:
各試験タイヤを、リムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧を220kPaとし、JIS K6302に準拠して、プランジャー径19mm±1.6mmのプランジャーを負荷速度(プランジャーの押し込み速度)が50.0mm±1.5m/minとなる条件でトレッド中央部に押し付けるタイヤ破壊試験(プランジャー破壊試験)を行い、タイヤ強度(タイヤの破壊エネルギー)を測定した。評価結果は、従来例の測定値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど破壊エネルギーが大きく、耐ショックバースト性に優れることを意味する。
【0044】
ウエット路面での操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして試験車両(3Lクラスの欧州車(セダン))に装着し、平坦な周回路を有するウエット路面からなるテストコースにて、60km/h以上100km/h以下の速度で走行し、操縦安定性(テストドライバーがレーンチェンジ及びコーナリングを行う際の操舵性と、直進時における安定性)について官能評価を行った。評価結果は、従来例を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどウエット路面での操縦安定性に優れることを意味する。
【0045】
転がり抵抗:
各試験タイヤをリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、半径854mmのドラムを備えた転がり抵抗試験機に装着し、空気圧250kPa、負荷荷重5.80kN、速度80km/hの条件にて30分間の予備走行を行った後、同条件にて転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0046】
ドライ路面での操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付けて、空気圧を240kPaとして試験車両(3Lクラスの欧州車(セダン))に装着し、平坦な周回路を有するドライ路面からなるテストコースにて、60km/h以上100km/h以下の速度で走行し、操縦安定性(テストドライバーがレーンチェンジ及びコーナリングを行う際の操舵性と、直進時における安定性)について官能評価を行った。評価結果は、従来例を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどドライ路面での操縦安定性に優れることを意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
これら表1及び表2から判るように、実施例1~8のタイヤは、従来例との対比において、ドライ路面での操縦安定性を良好に維持しながら、耐ショックバースト性及びウエット路面での操縦安定性を改善し、これら性能を高度に両立することができた。一方、比較例1のタイヤでは、特にカーカスコードの切断伸度EBが大き過ぎるため、ドライ路面及びウエット路面での操縦安定性が悪化していた。比較例2のタイヤでは、特に溝面積比率SgAが大き過ぎるため、ドライ路面での操縦安定性及び耐ショックバースト性が悪化していた。比較例3のタイヤでは、比SgB/SgAが大き過ぎるため、ドライ路面での操縦安定性及び耐ショックバースト性が悪化していた。比較例4のタイヤでは、比SgB/SgAが小さ過ぎるため、ウエット路面での操縦安定性が悪化していた。比較例5~7のタイヤでは、カーカスコードの切断伸度EBが小さ過ぎるため、耐ショックバースト性が悪化していた。
【符号の説明】
【0050】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
10 主溝
20,30,40 陸部
21,31,41 ラグ溝
CL タイヤ中心位置(タイヤ赤道)
図1
図2
図3