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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240926BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20240926BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240926BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20240926BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240926BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240926BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240926BHJP
   A23L 33/16 20160101ALI20240926BHJP
   A61K 31/09 20060101ALI20240926BHJP
   A61L 29/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A23L5/00 D
A23L29/281
A23L33/105
A23L33/15
A23L33/175
A61K9/51
A61K47/42
A61K47/22
A61K47/02
A61K47/12
A61K31/522
A61K31/122
A61K31/198
A23L33/16
A61K31/09
A61L29/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021522747
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020521
(87)【国際公開番号】W WO2020241562
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019098128
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019107181
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 康浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 進
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】長田 健二
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037461(JP,A)
【文献】特開2016-037460(JP,A)
【文献】特開2016-086705(JP,A)
【文献】特表2007-527881(JP,A)
【文献】CHEN Yu-Chi et al.,Novel Technology for the Preparation of Self-Assembled Catechin/Gelatin Nanoparticles and Their Characterization,J. Agric. Food Chem.,2010年,58(11),pp.6728-6734
【文献】近藤保 他 編,マイクロカプセル<その機能と応用>,第1版第1刷,日本規格協会,1991年,pp.244-247
【文献】ELZOGHBY, A. O.,Gelatin-based nanoparticles as drug and gene delivery systems: Reviewing three decades of research,Journal of Controlled Release,2013年,172,pp.1075-1091
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,B01J,B82Y
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を固形分として1重量%以上、
電解質を固形分として0.001重量%以上含有し、且つ
前記動物性タンパク質と前記電解質との固形分の重量比(電解質/動物性タンパク質)が0.001~0.1であり、且つ
平均粒子径が10~300nmであり、且つ
前記電解質がカテキンであり、且つ
前記平均粒子径の前後20nmの範囲内に70%以上が存在することを特徴とする、ナノ粒子。
【請求項2】
記カテキンを固形分として0.01重量%以上含有する請求項に記載のナノ粒子。
【請求項3】
生理活性物質を担持している、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記生理活性物質がユビキノール、スチルベン類、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、アミノ酸、カフェイン、及びカロテノイドならなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項5】
ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を溶媒に溶解、分散又は膨潤させて、動物性タンパク質液を調製する工程(A)、
前記工程(A)で得られた前記動物性タンパク質液に、前記動物性タンパク質の固形分重量1に対し、電解質を固形分重量0.001~0.1の割合で加えて、動物性タンパク質-電解質液を調製する工程(工程B)、及び
前記工程(B)で得られた前記動物性タンパク質-電解質液を72~95℃で、2~60分間加熱する工程(C)、
を有し、
得られるナノ粒子の平均粒子径が10~300nmであり、
前記電解質がカテキンであり、
前記平均粒子径の前後20nmの範囲内に70%以上が存在することを特徴とする、ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
さらに、生理活性物質を加える工程を含む、請求項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記生理活性物質がユビキノール、スチルベン類、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、アミノ酸、カフェイン、及びカロテノイドから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載のナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に比べカテキン量を低減させたナノ粒子及びその製造方法に関する。さらに、詳しくは、NaCl等の入手が容易で安価ないずれかの電解質を用いて、生理活性物質を安定的に保持できるナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然物由来のゼラチンは、豚や牛、魚の軟骨成分より抽出したタンパク質であり、食品のゲル化剤、増粘剤、安定剤等としての利用のほかにカプセル等の基材として止血剤等の医療分野でも利用されている。また、臭化カリウムと硝酸銀を加えた乳化コロイドは感光物質の保護コロイドとして用いられている。また、ゼラチンが水溶性であるという性質を利用し、有機溶媒に滴下することでマイクロカプセルを作製する技術も知られている。
【0003】
更に、近年ゼラチンをナノ粒子化することにより、医薬品成分を目的の臓器や組織に提供するためのドラッグデリバリーシステム(DDS)に利用する技術開発が進んでいる。ゼラチンのような食品由来の成分を用いたナノ粒子は安全性の観点から優位性が高いと考えられる。
【0004】
本発明者らも、製造の簡便性及び原料コストでの優位性を見出したゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物から選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質とガレート型カテキンを組み合わせたナノ粒子の製造方法を提案してきた(特許文献1)。本発明者らの方法はガレート型カテキンをゼラチン等の動物性タンパク質に対するコアセルベーターとして働かせる方法である。これはそれ自体が生理活性を有する物質をナノ粒子形成物質として用いた初めての方法である。
エピガロカテキンガレートに代表されるガレート型カテキンは、抗肥満作用や循環器系疾患予防作用、抗癌作用等幅広い生理機能を有していることが知られている。また、ガレート型カテキンには脂肪分解酵素であるリパーゼを阻害する作用を有するため、植物性油脂の効率的な抽出に用いる技術が報告されている(特許文献2)。また、本発明者らはガレート型カテキンと平均分子量5,000以上のタンパク質とを複合化させたリパーゼ阻害剤を報告している(特許文献3)。
【0005】
また、ガレート型カテキンは抗酸化作用についても注目されている。例えば、酸化に対して安定性の悪い(いわゆる、酸化されることで変質しやすい性質、以下、「酸化されやすい」という)生理活性物質の近傍にガレート型カテキンを配置することができれば、その生理活性物質の酸化を防止して、安定性を向上させることができることが予想される。しかしながら、ガレート型カテキンを酸化されやすい生理活性物質を近傍に選択的に配置させることは非常に困難である。また、ガレート型カテキンを含む市販の酸化防止剤は、特有の呈味を有していることから、多量の酸化防止剤を使用すると、酸化されやすい生理活性物質を保護する効果は発揮されるものの、得られる製品の呈味性に大きな影響を及ぼす場合もある。
【0006】
例えば、極めて、酸化されやすい生理活性物質として、空気中で簡単に酸化する還元型CoQ10(ユビキノール)が知られている。ユビキノールは、酸化されることでユビキノンになることが知られており、さらに、水への溶解度が低く、水中で結晶化や分離が起こりやすいため、水溶液中に安定に保持させることが困難であることも知られている。前記ユビキノールを安定化する方法としては、シクロデキストリンに包摂させる方法(特許文献4)、クエン酸類を用いる方法(特許文献5)、アスコルビン酸類と共存させる方法(特許文献6)が報告されている。又、ゼラチン等の水溶性賦形剤に還元型CoQ10を含有する油性成分を分散させた粒子状組成物(特許文献7)が報告されている。さらに、ユビキノール等の酸化されやすい生理活性物質を安定化させる技術として、本発明者らは、例えば、ユビキノールを0.01~20重量%、ガレート型カテキンを0.06~2重量%、コラーゲンを0.6~2.8重量%含有し、前記ガレート型カテキンと前記コラーゲンとで形成された複合体を含有する水溶液中に前記ユビキノールが分散されていることを特徴とする液状組成物(特許文献8)、ガレート型カテキンを固形分として0.1重量%以上、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物から選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を固形分として0.1重量%以上含有し、且つ、ガレート型カテキンの固形分と前記動物性タンパク質の固形分の重量比(動物性タンパク質/ガレート型カテキン)が0.07~8.0であり、且つ、酸化されやすい生理活性物質を担持し、前記酸化されやすい生理活性物質がユビキノール、スチルベン類、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン又はカロテノイドであり、平均粒子径が10~200nmであることを特徴とするナノ粒子(特許文献9)を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6369207号公報
【文献】特開2014-062192号公報
【文献】特開2013-082673号公報
【文献】特開2010-126492号公報
【文献】特許第3790530号公報
【文献】特許第3892881号公報
【文献】国際公開第2007/148798号
【文献】特許第6287123号公報
【文献】特許第6428165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献9等に記載のナノ粒子は、ガレート型カテキンに由来する苦渋味については改善されたものとなってはいるが、得られるナノ粒子の平均粒子径は計測できるものの、粒度分布を調べたところ、ブロードなものとなっており、食品等の製品原料として使用するには、品質を向上させる点及び取扱い性を良好にする点で改善の余地があった。
【0009】
また、前記特許文献1等に記載のナノ粒子は、その製造においてガレート型カテキンを必須成分としていたが、工業的な生産をより簡便に実施するにおいては、より安価で入手容易な原料成分を用いて製造する点で改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、動物性タンパク質に対するカテキンの固形分比率に着目し、従来より動物性タンパク質に対して少量のカテキンに調整することで、従来に比べ粒子サイズの揃ったナノ粒子を製造することを見出した。
また、さらに研究を進めたところ、ガレート型カテキンにかえて、電解質として、例えば、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム等の有機酸塩、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩、乳酸、コハク酸、フマル酸、グルコン酸等の有機酸を用いたところ、従来のナノ粒子と同等か、あるいはより小さいサイズのナノ粒子を製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の目的は、平均粒子径が10~300nmであり、さらにその粒径分布がシャープな、風味良好なナノ粒子及びその製造法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、ガレート型カテキンを含有しないナノ粒子及びその製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、
〔1〕ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を固形分として1重量%以上、
電解質を固形分として0.001重量%以上含有し、且つ、
前記動物性タンパク質と前記電解質との固形分の重量比(電解質/動物性タンパク質)が0.001~1.0であり、且つ
平均粒子径が10~300nmであることを特徴とする、ナノ粒子、
〔2〕前記電解質が、カテキン、無機塩、有機酸塩、及び有機酸から成る群から選択される少なくとも1種である、前記ナノ粒子、
〔3〕前記動物性タンパク質と前記電解質との固形分の重量比(電解質/動物性タンパク質)が0.001~0.2である、前記ナノ粒子、
〔4〕前記電解質がカテキンであり、前記カテキンを固形分として0.01重量%以上含有する前記ナノ粒子。
〔5〕前記ナノ粒子が、その平均粒子径の前後20nmの範囲内に70%以上が存在する、前記ナノ粒子。
〔6〕生理活性物質を担持している、前記ナノ粒子。
〔7〕前記生理活性物質がユビキノール、スチルベン類、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、アミノ酸、カフェイン、及びカロテノイドならなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記ナノ粒子。
〔8〕ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を溶媒に溶解、分散又は膨潤させて、動物性タンパク質液を調製する工程(A)、
前記工程(A)で得られた前記動物性タンパク質液に、前記動物性タンパク質の固形分重量1に対し、電解質を固形分重量0.001~1.0の割合で加えて、動物性タンパク質-電解質液を調製する工程(工程B)、及び
前記工程(B)で得られた前記動物性タンパク質-電解質液を72~95℃で、2~60分間加熱する工程(C)、
を有する、ナノ粒子の製造方法、
〔9〕前記電解質が、カテキン、無機塩、有機酸塩、及び有機酸から成る群から選択される少なくとも1種である、前記ナノ粒子の製造方法、
〔10〕さらに、生理活性物質を加える工程を含む、前記ナノ粒子の製造方法、
〔11〕前記生理活性物質がユビキノール、スチルベン類、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、アミノ酸、カフェイン、及びカロテノイドから成る群から選択される少なくとも1種である、前記ナノ粒子の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のナノ粒子は、平均粒子径が10~300nmであり、さらにその粒径分布がシャープな、風味良好なものとなっていることから、食品へ幅広く応用することが可能なナノ粒子である。
また、本発明のナノ粒子は、平均粒子径が10~300nmであり、かつ、食品添加物としてよく用いられている種々の電解質を含有していることで、体内への吸収性及び安全性に優れたものであり、特に食品へ幅広く応用することが可能なナノ粒子である。
また、本発明のナノ粒子には、生理活性物質を担持させることで、より機能性に優れた、例えば、生理活性物質のバイオアベイラビリティを向上させたナノ粒子とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のナノ粒子の粒度分布(シャープ)及び従来のナノ粒子の粒度分布(ブロード)の概略を示すグラフである。
図2図2は、比較例a-1の高濃度のカテキン存在下で調製したナノ粒子の粒子サイズ分布のグラフである。横軸は粒子半径を示しており、数値を2倍することで粒子径が算出される。
図3図3は、実施例a-1の低濃度のカテキン存在下で調製したナノ粒子の粒子サイズ分布のグラフである。横軸は粒子半径を示しており、数値を2倍することで粒子径が算出される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、本発明を限定するものではない。
【0015】
1.ナノ粒子
本発明のナノ粒子は、ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を固形分として1重量%以上、電解質を固形分として0.001重量%以上含有し、且つ、前記動物性タンパク質と前記電解質との固形分の重量比(電解質/動物性タンパク質)が0.001~1.0であり、且つ平均粒子径が10~300nmであることを特徴とする。
【0016】
本発明で用いる動物性タンパク質は、電解質とコアセルベートを形成可能なタンパク質であればよく、具体的には、ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物が挙げられる。
【0017】
本発明において使用されるホエイタンパク質とは、ウシ、ヒツジ、ヒト等の生乳から、カゼインと乳脂肪を取り除いた乳清(ホエイ)に含まれるタンパク質の総称を意味し、例えば、ホエイタンパク質濃縮物(Whey Protein Concentrate、WPCともいう)、ホエイタンパク質分離物(Whey Protein Isolate、WPIともいう)、さらにはホエイタンパク質からβ-ラクトグロブリン等の特定のタンパク質を取り出したもの、その他、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイ等)、その乾燥物(ホエイ粉等)、その凍結物等が挙げられる。ホエイタンパク質は、自ら調製して用いてもよいし、市販品を入手して用いてもよい。
【0018】
市販品のホエイタンパク質としては、例えば、チーズホエイ由来のWPC素材の「エンラクトHUS」(日本新薬株式会社)、「エンラクトALC」(日本新薬株式会社)、酸ホエイ由来のWPC素材の「PROGEL800」(日本新薬株式会社)、WPI素材の「エンラクトSAT」(日本新薬株式会社)、「エンラクトYYY」(日本新薬株式会社)、「ラクトクリスタル」(日本新薬株式会社)、「GermanProt 9000(WPI)」(ザクセンミルヒ社)等を挙げることができる。
【0019】
本発明において使用されるゼラチンとは、動物の皮や骨に多く含まれるコラーゲンを加熱することによりコラーゲンを構成する細長い3本の分子からなる三重螺旋構造を崩壊させ、水溶性のタンパク質へと変化させたもの意味する。ゼラチンの由来は、牛、豚、魚、ニワトリ等、及び遺伝子組み換え体のいずれかを用いることができる。なお、牛骨又は豚骨由来の動物性タンパク質は、500nm以下の粒子が一部形成されるものの、凝集及び沈殿が起こりやすいため、本発明では使用することが難しい。ただし、牛骨又は豚骨由来のタンパク質が含まれている動物性タンパク質であっても、平均粒子径10~300nmのナノ粒子が作製できれば、特に限定はなく使用することができる。
また、必要に応じて、コラーゲンやさらに分解したコラーゲンペプチドを使用することもできる。
【0020】
これらの動物性タンパク質は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、前記動物性タンパク質は乳化されていてもよい。
【0021】
本発明のナノ粒子中における前記動物性タンパク質の固形分含有量としては、1重量%以上であり、粒子径のばらつきの少ない平均粒子径10~300nmのナノ粒子を効率的に作製する観点から、1~99重量%が好ましく、1~95重量%がより好ましく、1~90重量%がさらに好ましい。
【0022】
本発明において「電解質」は、後述のようにホエイタンパク質等の動物性タンパク質を溶媒中でナノ粒子化するために用いられる。
本発明で使用される電解質としては、例えば、カテキン、無機塩、有機酸塩及び有機酸から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0023】
本発明において「カテキン」は、後述のようにホエイタンパク質等の動物性タンパク質を溶媒中でナノ粒子化するために用いられる。本発明で使用されるカテキンは、例えば、化学構造的に「ガレート基」が付いているエピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキンガレート(ECg)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)等の「ガレート型カテキン」、及び「ガレート基」が付いていないエピガロカテキン(EGC)、エピカテキン(EC)、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)等の「遊離型カテキン」が挙げられる。前記カテキンとしては、市販のカテキンであればよく、好ましくは緑茶特有のカテキンであればよい。
【0024】
本発明において、前記カテキンを単独で使用してもよいし、二種類以上を組み合わせたもの(カテキン混合物)として使用してもよい。このようなカテキン混合物としては、茶を水で抽出した茶抽出液を乾燥して得られる茶抽出物が挙げられる。茶抽出物は、自ら調製して用いてもよいし、市販品を入手して用いてもよい。市販品の茶抽出物として、例えば、「サンフェノン EGCg-OP」(太陽化学株式会社)、「サンフェノン90S」(太陽化学株式会社)、「サンフェノンBG-3」(太陽化学株式会社)、「サンフェノンBG-5」(太陽化学株式会社)、「カメリアエキス30S」(太陽化学株式会社)等を挙げることができる。
【0025】
また、カテキン以外の前記電解質としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム等の有機酸塩、乳酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸等の有機酸等が挙げられる。
これらの電解質としては、市販品を用いればよく、中でも、食品添加物として使用される市販品を用いることが好ましい。市販品の電解質(無機塩)として、例えば、「塩化カリウム」(赤穂化成株式会社)、「塩化ナトリウム」(赤穂化成株式会社)等を挙げることができる。市販品の電解質(有機酸塩)として、例えば、「精製クエン酸三カリウム」(扶桑化学工業株式会社)、「精製クエン酸三ナトリウム」(扶桑化学工業株式会社)等を挙げることができる。市販品の電解質(有機酸)として、例えば、「発酵乳酸90」(扶桑化学工業株式会社)、「コハク酸」(扶桑化学工業株式会社)、「フマル酸」(扶桑化学工業株式会社)、「精製クエン酸(結晶)」(扶桑化学工業株式会社)等を挙げることができる。
【0026】
本発明において、前記電解質を単独で使用してもよいし、二種類以上を組み合わせたものとして使用してもよい。
【0027】
本発明のナノ粒子中における前記電解質の固形分含有量としては、0.001重量%以上であり、平均粒子径10~300nmの粒子径のナノ粒子を効率的に作製する観点から、0.01~6.4重量%が好ましく、0.08~3.2重量%がより好ましく、0.1~1.6重量%がさらに好ましい。
また、前記電解質としてカテキンを用いる場合には、本発明のナノ粒子中における前記カテキンの固形分含有量としては、平均粒子径10~300nmの粒子径のばらつきの少ないナノ粒子を効率的に作製する観点から、0.01重量%以上が好ましく、0.08~6.4重量%がより好ましく、0.1~3.2重量%がより好ましく、0.8~1.6重量%がさらに好ましい。
【0028】
本発明のナノ粒子は、前記動物性タンパク質と前記電解質との固形分の重量比(電解質/動物性タンパク質)が0.001~1.0に調整されている。本発明においては、前記動物性タンパク質と前記電解質との固形分の重量比を前記範囲に調整していることで、塩析効果による前記動物性タンパク質の凝集を防ぎながら10~300nmの粒子径のナノ粒子を効率的に作製することができるという利点がある。
前記重量比(電解質/動物性タンパク質)は、例えば、粒子径のばらつきの少ない10~300nmのナノ粒子を効率的に作製するための観点から、下限は0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましく、また上限は1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.2以下がさらに好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
より詳細には、例えば、電解質としてカテキンを用いる場合には、前記重量比(カテキン/動物性タンパク質)が0.001~0.2に調整されていることで、カテキンに由来する苦渋味の発現を抑えて良好な風味としながら、ナノ粒子の粒度分布がシャープな高品質のナノ粒子となる。前記重量比は、粒子径のばらつきの少ない10~300nmのナノ粒子を効率的に作製するための観点から、0.001~0.15、より好ましくは0.02~0.125、さらに好ましくは0.03~0.1である。
また、電解質として、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム等の有機酸塩を用いる場合には、0.001~0.5がより好ましく、0.001~0.2がさらに好ましい。
また、電解質として、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩を用いる場合には、0.001~0.2がより好ましく、0.001~0.1がさらに好ましい。
また、電解質として、乳酸、コハク酸、フマル酸、及びクエン酸等の有機酸を用いる場合には、0.001~1.5がより好ましく、0.01~1.2がさらに好ましい。
【0029】
なお、本発明のナノ粒子は、カテキン以外の電解質を用いる場合、ガレート型カテキン含量は0とすることもできるが、必要に応じて、本発明のナノ粒子中にガレート型カテキンを含有させることも可能である。その場合、ガレート型カテキン含有量としては、0.001~1重量%が好ましい。
【0030】
また、本発明のナノ粒子は、必要に応じて、生理活性物質を担持させることができる。本発明のナノ粒子では、ナノ粒子に生理活性物質が担持されることで、安定性がよくなったり、生理活性物質のバイオアベイラビリティを向上させたりすることができる。
【0031】
なお、本発明において、「担持」とは、ナノ粒子中に生理活性物質が含まれている状態及びナノ粒子表面に付着している状態をいう。
また、ナノ粒子中に生理活性物質が担持されていることは、後述の虐待試験においても、生理活性物質が変化及び/又は活性低下及び/又は成分減少していないことから判別することができる。
また、本発明でいう「安定性」とは、生理活性物質が他物質(例えば、酸素、糖等)と反応しにくくなることをいう。ここで、他物質との反応の例としては、酸化反応、メーラード反応等が挙げられる。
また、本発明でいう「バイオアベイラビリティ」とは、人体に投与された物質のうち、どれだけの量が全身に循環するのかを示す指標をいう。
【0032】
前記生理活性物質としては、一般的に酸化されることで変質しやすい物性を有する物質であればよく、例えば、有用性の観点から、ユビキノール、スチルベン類、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、アミノ酸、カフェイン、カロテノイド等が挙げられる。
中でも、ナノ粒子への担持率の観点から、ユビキノール、スチルベン類、脂溶性ビタミン、アミノ酸、特に疎水性アミノ酸、カロテノイド等のような、比較的疎水性の高いものが好ましい。
【0033】
本発明に用いられるユビキノールは、還元型コエンザイムQ10とも言われる機能性成分であり、油溶性の固体状物質である。ユビキノールとしては、市販品を用いればよく、株式会社カネカ製のものが挙げられる。例えば、株式会社カネカ製の精製品である「カネカQH」や調製品である「カネカQH安定化粉末(P30)」等が挙げられるが、コスト面や物性面で「カネカQH」が望ましい。
【0034】
本発明に用いられるスチルベン類は、レスベラトロール、プテロスチルベン、ピセアタンノール等が挙げられる。またこれらを含有する組成物であってもよい。スチルベン類は市販品を用いればよく、例えば、ピセアタンノールを含有する丸善製薬社製のノブドウエキスやレスベラトロールを含有するビーエイチエヌ社製のビネアトロール等が挙げられる。
【0035】
本発明に用いられる水溶性ビタミンとしては、ビタミンB群、ビタミンC、葉酸が挙げられる。ビタミンB群にはビタミンB1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12がある。これらは市販品を用いればよい。
【0036】
本発明に用いられる脂溶性ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等が挙げられる。これらは市販品を用いればよい。
【0037】
本発明に用いられるアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン 、バリン、ヒスチジン、 リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、システイン・シスチン、グルタミン、グルタミン酸、 グリシン、プロリン、セリン、チロシン等が挙げられる。これらは市販品を用いればよい。疎水性アミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン 、バリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン、プロリン、アラニン、グリシン等が挙げられる。
【0038】
カロテノイドとしては、特に限定されないが、α-クリプトキサンチン、β-クリプトキサンチン、イソクリプトキサンチン、アクチノエリスロール、アスタキサンチン、アスタシン、アドニキサンチン、フェニコキサンチン、アロキサンチン、アンテラキサンチン、イソアゲラキサンチン、イソゼアサキンチン、オシラキサンチン、カロキサンチン、α-カロテン、β-カロテン、β-カロテノン、δ-カロテン、ε-カロテン、カンタキサンチン、ギロキサンチン、グアラキサンチン、クリスタキサンチン、クロコキサンチン、クロセチン、クロロキサンチン、ケトミクソコキサンチン、ゲリオデスキサンチン、ジアトキサンチン、デヒドロリコペン、シトラナキサンチン、スタフィロキサンチン、ゼアキサンチン、タラキサンチン、ツナキサンチン、ネオキサンチン、ノストキサンチン、バクテリオルビキサンチン、バクテリオルベリン、バスタキサンチン、パラシロキサンチン、ハラシンチアキサンチン、ビオラキサンチン、フィリプシアキサンチン、フェニコキサンチン、フコキサンチン、プラシノキサンチン、フラブキサンチン、メソ・ゼアキサンチン、モナドキサンチン、ラクツーカキサンチン、リコペン、ルテイン、ルビキサンチン、ロドキサンチン、ロドピナール、ロドピノール、ロドビブリン等が挙げられる。これらは必要に応じて市販品を用いればよい。
【0039】
カフェインとしては、コーヒーノキ、チャノキ、マテ、カカオ、ガラナ等から得られるものであればよく、特に限定はない。また、カフェインは精製物でもよい。これらは必要に応じて市販品を用いればよい。
なお、前記電解質としてカテキンを用いる場合、カフェインは、カテキンと反応して複合体を形成し易いことが知られているが、本発明では、前記のように、カテキン含有量が低減されているため、カフェインを添加しても、白濁沈殿物の生成等がせず、カフェインを含有したナノ粒子を効果的に製造することができる。
【0040】
本発明において、前記生理活性物質は、自然界から得られる天然由来のものでも、化学合成品でもよい。さらに、前記生理活性物質を単独で使用してもよいし、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明のナノ粒子において、前記生理活性物質の含有量としては、粒子径のばらつきの少ない平均粒子径10~300nmのナノ粒子を効率的に作製するための観点から、0.001~50重量%が好ましく、0.001~20重量%がより好ましく、0.001~10重量%がさらに好ましい。
【0042】
本発明のナノ粒子の平均粒子径は、10~300nmである。本発明のナノ粒子は、微小な粒子となっていることから、例えば、経口で摂取した場合に、動物性タンパク質、電解質に加えて、前記生理活性物質を用いている場合には、これらの機能性成分を腸等から、体内に吸収し易いため、前記生理活性物質を単で摂取した場合に比べ、バイオアベイラビリティが向上するという性質を有する。
前記平均粒子径としては、機能性成分の分散安定性の観点から、好ましくは10~200nmであり、より好ましくは20~150nm、さらに好ましくは20~120nmである。
なお、前記ナノ粒子の平均粒子径は、後述の実施例に記載のように、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)にて測定することができる。
【0043】
また、本発明のナノ粒子は、前記電解質としてカテキンを用いる場合、ナノ粒子の平均粒子径の前後20nmの範囲内に70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上が存在するものとなる。
このように、本発明のナノ粒子の粒度分布がシャープなものであることで、本発明のナノ粒子を食品等の原料として使用しても、得られる食品の物性に粒度分布のバラつきにともなう予期しない変化が生じること等がなく、高品質の製品を効率よく得ることができる。
前記平均粒子径の前後20nmの範囲内に存在するナノ粒子の量については、前記平均粒子径の測定に使用する、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システムを用いて測定することができる。
【0044】
また、本発明のナノ粒子は、担持した生理活性物質の安定性を高める目的で、安定剤、乳化剤、タンパク質結合剤等を含有していてもよい。
【0045】
前記安定剤としては、キサンタンガム、寒天、アラビアガム、ペクチン、大豆多糖類、CMC(カルボキシメチルセルロース)、カゼインナトリウム等が挙げられる。
【0046】
また、前記乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
また、ナノ粒子の形成安定剤としてトリポリリン酸ナトリウムやトランスグルタミナーゼ等のタンパク質結合剤が挙げられる。
【0047】
2.ナノ粒子の製造方法
本発明のナノ粒子は、前記動物性タンパク質と、前記電解質とを、いずれも粉体状態で使用し、溶媒と混合して混合液にしてナノ粒子を形成させてもよいが、効率よくナノ粒子を形成させることができ、また、操作性に優れる観点から、例えば、
ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を溶媒に溶解、分散又は膨潤させて、動物性タンパク質液を調製する工程(A)、
前記工程(A)で得られた前記動物性タンパク質液に、前記動物性タンパク質の固形分重量1に対し、電解質を固形分重量0.001~1.0の割合で加えて、動物性タンパク質-電解質液を調製する工程(工程B)、及び
前記工程(B)で得られた前記動物性タンパク質-電解質液を72~95℃で、2~60分間加熱する工程(C)を経ることにより製造することができる。
【0048】
以下、工程(A)~工程(C)を説明する。なお、前記ナノ粒子と重複する成分については、詳細な説明を省略する。
【0049】
〔工程(A)〕
本工程(A)では、ホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物からなる群より選ばれる少なくとも1種の動物性タンパク質を溶媒に溶解、分散又は膨潤させて、動物性タンパク質を均一に含む動物性タンパク質含有溶液又は膨潤液(動物性タンパク質液という)を調製する。
【0050】
本工程(A)で用いる動物性タンパク質については、前記電解質とコアセルベートを形成可能なホエイタンパク質、ゼラチン、コラーゲン、及びこれらの分解物であればよい。
【0051】
本工程(A)において使用される溶媒とは、水、有機溶媒、又は含水有機溶媒が挙げられる。ここで、含水有機溶媒とは、水と有機溶媒の混合溶媒である。
前記有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定はされないが、得られたナノ粒子の使用用途に適した溶媒を選択することが好ましく、例えば、食品用途に適した溶媒としてはグリセリン、プロピレングリコール、エタノール等が挙げられ、医薬品用途に適した溶媒としては上記に加えてメタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0052】
前記溶媒に前記動物性タンパク質を溶解、分散又は膨潤させる手段としては、公知の手段であれば特に限定はない。例えば、前記動物性タンパク質を、前記溶媒に添加・混合することで、溶解、分散又は膨潤させることができる。
なお、膨潤とは、動物性タンパク質に溶媒を添加してゲル状にすることをいう。
また、前記溶解、分散又は膨潤させる際には、効率的に溶解、分散又は膨潤させる観点から、前記溶媒の温度を20~90℃に調整しておくことが好ましい。
なお、前記動物性タンパク質と前記溶媒との混合液中において前記動物性タンパク質の状態としては、完全に溶解又は膨潤していてもよいし、溶解又は膨潤していない一部が分散していてもよい。
また、前記混合時には、動物性タンパク質液を撹拌することで、効率よく混合することができる。
なお、本発明において「撹拌」とは、容器内の内容物が混合されることを意味する。具体的には、撹拌は、撹拌棒等を使用して手動で行なってもよいし、マグネチックスターラやミキサーなどの攪拌機を使用して行ってもよい。
【0053】
前記動物性タンパク質液中の動物性タンパク質の固形分値は、平均粒子径10~300nmのナノ粒子を効率的に作製する観点から、0.1~19重量%であることが好ましく、0.1~10重量%であることがより好ましいが、所望のナノ粒子が作製できれば、特に限定されることはない。例えば、ホエイタンパク質を使用する場合、動物性タンパク質液中のホエイタンパク質の固形分値は、好ましくは0.1~7%重量%、より好ましくは0.2~6重量%、さらに好ましくは0.2~5重量%である。また、ゼラチンを使用する場合、前記固形分値が20重量%以上であれば液の粘度の上昇により扱いにくくなるので、19重量%以下が好ましい。また、コラーゲンを使用する場合、0.1~0.3重量%が好ましい。
【0054】
〔工程(B)〕
本工程(B)では、前記工程(A)で得られた前記動物性タンパク質液に、前記動物性タンパク質の固形分重量1に対し、電解質を固形分重量0.001~1.0の割合で加えて、動物性タンパク質-電解質液を調製する。
また、前記電解質としてカテキンを用いる場合、カテキンの固形分重量は、0.001~0.2の割合で加えるのが好ましい。
上記のように、前記動物性タンパク質の固形分重量に対するカテキンを固形分重量を顕著に減らしたことで、従来の方法において、ブロードになりがちな粒度分布が、意外にもシャープな粒度分布となり、粒子サイズの揃ったナノ粒子を効率よく得ることができる(図1)。
なお、図1において、シャープな粒度分布を示している曲線が本発明のナノ粒子であり、ブロードな粒度分布を示している曲線が従来のカテキン量の多い条件化で調製したナノ粒子である。
【0055】
本工程(B)において添加される電解質の量は、目的の粒子サイズにナノ粒子の作製を効率よく行う観点から、前記動物性タンパク質の固形分重量1に対し、例えば、下限は0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましく、また上限は1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましく、0.2以下がさらに好ましく、0.15以下がさらに好ましく、0.125以下がさらに好ましく、0.1以下がさらに好ましい。
より詳細には、前記電解質として、カテキンを用いる場合には、粒度分布のシャープなナノ粒子の作製を効率よく行う観点から、前記動物性タンパク質の固形分重量1に対し、カテキンを固形分重量として、0.001~0.2、好ましくは0.001~0.15、より好ましくは0.02~0.125、さらに好ましくは0.03~0.1である。
また、前記電解質として、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム等の有機酸塩を用いる場合には、0.001~0.5がより好ましく、0.001~0.2がさらに好ましい。
また、前記電解質として、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩を用いる場合には、0.001~0.2がより好ましく、0.001~0.1がさらに好ましい。
また、前記電解質として、乳酸、コハク酸、フマル酸、及びクエン酸等の有機酸を用いる場合には、0.001~1.5がより好ましく、0.01~1.2がさらに好ましい。
【0056】
前記電解質を添加する際の条件としては、20~50℃に調整しておくことが好ましい。
また、電解質を添加する際には、動物性タンパク質液を撹拌していてもよいし、静置していてもよい。
【0057】
また、本発明においては、本工程(B)を実施するかわりに、前記工程(A)で使用する溶媒中に、所定量の電解質を添加することで、工程(A)と工程(B)とを同時に実施してもよい。この場合、前記動物性タンパク質及び電解質を溶媒に添加して、前記動物性タンパク質を溶解、分散又は膨潤させて、動物性タンパク質を均一に含み、かつ電解質を含有する動物性タンパク質-電解質液を調製する。
【0058】
〔工程(C)〕
本工程(C)では、前記工程(B)で得られた動物性タンパク質-電解質液を72~95℃で、2~60分間加熱する。
本工程(C)では、平均粒子径10~300nmのナノ粒子を効率よく得る観点から、72~95℃で2~60分間、好ましくは72~90℃で2~60分間、より好ましくは72~85℃で2~60分間、さらに好ましくは72~80℃で2~60分間処理することが望ましい。
なお、前記の加熱処理は、前記動物性タンパク質-電解質液を撹拌しながら行うことが好ましい。
【0059】
また、本工程(C)では、ナノ粒子の粒子径を所望の範囲に調整する観点から、前記動物性タンパク質-電解質液のpHは、酸性側又はよりアルカリ性側に調整することが好ましい。
例えば、酸性側のpHとしては、好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.5~2.2、さらに好ましくは1.7~2.0である。
また、アルカリ性側のpHとしては、好ましくは5.0~8.0、より好ましくは5.5~7.0、さらに好ましくは6.0~6.8である。
なお、pHが1.0未満又は3.9付近では粒子径が大きくなったり、ナノ粒子が溶解して、得られる量が減少したりする傾向がある。
なお、前記pHの調整については、市販のpH調整剤を用いて行えばよく、pH調整剤の種類については特に限定はない。
【0060】
〔工程(D)〕
本発明の製造方法では、生理活性物質をナノ粒子に担持させるために、水又は有機溶媒又は含水有機溶媒に生理活性物質を溶解させた生理活性物質含有溶液を、前記工程(A)~工程(C)の各調製段階において、添加することができる。
本工程(D)を実施するタイミングとしては、特に限定はなく、例えば、工程(A)と工程(B)との間、工程(B)と工程(C)との間、又は工程(C)の後のいずれかのタイミングで実施することができる。また、前記工程(A)と工程(B)と前記工程(C)とを同時に実施してもよい。
【0061】
前記溶媒に生理活性物質を溶解させる手段としては、公知の手段であれば特に限定はない。例えば、生理活性物質を、前記溶媒に添加・混合することで、溶解させることができる。
【0062】
前記生理活性物質含有溶液中の生理活性物質の固形分値は、平均粒子径10~300nmのナノ粒子を効率的に作製する観点から、0.001~10重量%であることが好ましいが、所望のナノ粒子が作製できれば、特に限定されることはない。
【0063】
さらに、本工程(D)を実施する場合、生理活性物質の凝集や沈殿などを防ぐ目的で、安定剤、乳化剤、タンパク質結合剤等を加えてもよい。
【0064】
以上の製造方法により調製された本発明のナノ粒子は、さらに製剤化してもよい。この製剤形態としては特に限定されず、例えば、錠剤、被覆錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、トローチ剤、チュアブル錠、シロップ剤等の経口剤等が挙げられる。製剤化の際には、担体、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤等が用いられる。
【0065】
担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0066】
滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール及びこれらの混合物等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウム及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0067】
崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0068】
希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0069】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ホウ酸、ブドウ糖、グリセリン及びこれらの混合物等が挙げられる。pH調整剤及び緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0070】
以上のようにして得られる本発明のナノ粒子は、食品に利用可能な条件(具体的には、食品に利用可能な溶媒等を用いた場合)で作製した場合は、飲食品に配合してもよい。飲食品としては特に限定されず、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子、機能性食品、健康食品、健康志向食品等が挙げられる。保存性、携帯性、摂取の容易さ等を考慮すると、菓子類が好ましく、菓子類の中でも、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット、チューイングガム等が好ましい。
【0071】
本発明のナノ粒子を飲食品に配合する場合、本発明のナノ粒子の飲食品における含有量は、その生理活性効果が期待できる量であればよい。通常1日あたり10~10000mg、より好ましくは100~3000mg摂取できるように配合量を決定することが好ましい。例えば、固形状食品の場合には5~50重量%、飲料等の液状食品の場合には0.01~10重量%が好ましい。
【0072】
また、本発明のナノ粒子は、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤又は飼料に配合してもよい。飼料としては、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフードが挙げられる。
【0073】
本発明のナノ粒子は医薬品に配合してもよい。前記医薬品としては、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、ゲル剤等が挙げられる。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりすることもできる。または胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、注射剤、点滴剤に配合して使用してもよい。
【0074】
本発明のナノ粒子を医薬用途で使用する場合、例えば、その摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。1日当たり約0.1mg~1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1~4回に分けて摂取することができる。
【0075】
本発明のナノ粒子は医薬部外品に配合してもよい。前記医薬部外品としては、口腔に用いられる医薬部外品、例えば、歯磨き、マウスウオッシュ、マウスリンスや、感染症予防等を目的とした滋養強壮系ドリンク剤等が挙げられる。
本発明のナノ粒子を医薬部外品に添加する場合には、該医薬部外品中に、通常0.001~30重量%添加するのが好ましい。
【0076】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例
【0077】
〔実施例a-1〕カテキン添加量を抑えた条件化でのナノ粒子の製造(試験検体の製造)
まず、蒸留水95gにホエイタンパク質(商品名:エンラクトSAT、タンパク質含量89%、日本新薬株式会社製)5gを加え、20~30℃(室温)でよく撹拌することで100gのホエイタンパク質水溶液を調製した。(工程(A))
次いで、得られたホエイタンパク質水溶液に緑茶抽出物(商品名:EGCg-OP、EGCg含量 94%以上、太陽化学製)を20mg~320mgを20~30℃(室温)で添加した(混合溶液中のEGCg濃度:0.02%~0.32%)。(工程(B))
次いで、得られた混合液を、pH調整液を用いてpH6~7に調整し、緩やかに攪拌しながら、80℃で30分間加熱してナノ粒子を形成させた。(工程(C))
得られたナノ粒子の平均粒子径をゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)を用いて測定した。
【0078】
〔比較例a-1〕 従来のカテキン添加量でのナノ粒子の製造(対照検体の製造)
前記と同様に、蒸留水95gにホエイタンパク質(商品名:エンラクトSAT、タンパク質含量89%、日本新薬株式会社製)5gを加え、よく撹拌することで100gのホエイタンパク質水溶液を調製した。(工程(A))
次いで、得られたホエイタンパク質水溶液に緑茶抽出物(商品名:EGCg-OP、EGCg含量 94%以上、太陽化学製)を2.5g~12.5gを添加した(溶液中のEGCg濃度:2.5%~12.5%)。
次いで、得られた混合液を、緩やかに攪拌しながら80℃で30分間加熱してナノ粒子を形成させた。
得られたナノ粒子の平均粒子径をゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)を用いて測定した。
【0079】
〔実施例a-2〕 苦渋味の改善効果の評価
実施例a-1で調製したナノ粒子を、従来の製造方法により比較例a-1で調製したナノ粒子を比較対象として、苦渋味をパネラー10名により、苦渋味の官能評価を実施した。評価基準は表1の通りである。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例a-1及び比較例a-1において調製したナノ粒子の粒子サイズを複数回計測した結果及び実施例a-2において実施した官能試験の結果を表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示した通り、実施例a-1で得られた本発明のナノ粒子は、比較例a-1(従来法)の場合に比べ、カテキン添加量を顕著に抑えているにもかかわらず、従来法と同様の粒子サイズを備え、かつ苦渋味が顕著に抑えられたものであることがわかる。
【0084】
〔実施例a-3〕 カテキン添加量を減らした場合の粒子サイズ分布の検証
比較例a-1及び実施例a-1において示した手順で調製したナノ粒子の粒子サイズ分布のゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)を用いて粒子径2,000nm以下の範囲について測定し、代表的な測定結果をそれぞれ図2及び図3に示した。図中の横軸は半径を表しているので、横軸の数値を2倍した数値が粒子径となる。
図2は従来の高濃度のカテキン条件化(9.1%)で調製したナノ粒子を、図3はカテキン量を減らした条件下(0.08%)で調製したナノ粒子の粒子サイズ分布を示している。
なお、図2の比較例a-1で得られたナノ粒子では、粒子径が20~400nmの範囲にブロードは範囲にわたっていた。
これに対して、図3の実施例a-1で得られたナノ粒子では、粒子径が70nmを中心にその前後20nmの範囲内に99%以上が存在する粒度分布となっていた。
したがって、図2、3から明らかなように、動物性タンパク質に対するカテキン量を特定の範囲に調整することで、カテキンの含有量が低くても粒度の揃った高品質のナノ粒子を製造できることが明らかとなった。
【0085】
〔実施例a-4〕 他物質との反応性が高い生理活性物質を担持したナノ粒子の製造方法
まず、蒸留水95gにホエイタンパク質(商品名:エンラクトSAT、タンパク質含量89%、日本新薬株式会社製)5gを加え、室温でよく撹拌することで100gのホエイタンパク質水溶液を調製した。
次いで、得られたホエイタンパク質水溶液に緑茶抽出物(商品名:EGCg-OP、EGCg含量 94%以上、太陽化学製)を80mgを室温で添加した(混合溶液中のEGCg濃度:0.08%)。
次いで、得られた混合液に、0.1gのアスタキサンチン(Astabio AP1)或いは0.1gの還元型コエンザイムQ10(カネカ製)を5gエタノールに溶解した還元型CoQ10溶液を添加し、ホエイタンパク質-カテキン-生理活性物質混合液を得た。
次いで、得られた混合液を、pH調整液を用いてpH6~7に調整し、緩やかに攪拌しながら、80℃で30分間加熱してナノ粒子を形成させた。
得られたナノ粒子の平均粒子径は、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)を用いて測定し、所定の粒子径となっていることを確認した。
【0086】
〔実施例a-5〕 カフェインを担持したナノ粒子の製造方法
実施例a-4において、他物質との反応性が高い生理活性物質を添加する工程(C)において、カフェイン10mgをさらに添加している以外は、実施例a-4と同様にしてナノ粒子を製造した。
カフェインを添加しても、カテキンとカフェインとが複合すること形成される白濁沈殿物の生成が見られなかっことから、得られたナノ粒子には、カテキンと共にカフェインも含有したナノ粒子になっていることがわかった。
【0087】
〔実施例a-6〕 生理活性物質の安定性
実施例a-4、a-5で得られたナノ粒子を常温、紫外線照射下での虐待試験に供することで、担持されている他物質との反応性が高い生理活性物質の安定性を測定した。対照として、蒸留水95gに0.1gのアスタキサンチン(Astabio AP1)又は0.1gの還元型コエンザイムQ10(カネカ製)を5gエタノールに溶解し液体を添加し、アスタキサンチン溶液又は還元型CoQ10溶液を得た。次いで、公知の測定方法に基づいて、アスタキサンチン及び特許第6287123号公報の試験例1に記載の方法に準じて還元型CoQ10の含有量をそれぞれ計測した。
実施例a-4、a-5で得られたナノ粒子は、対照品と比べてアスタキサンチン及び還元型CoQ10の酸化が有意に抑えられ、安定性に優れたものであることが判明した。
【0088】
〔実施例a-7〕 ナノ粒子を配合したグミキャンディ
公知の手法に基づいて、実施例a-1、a-4、a-5で得られたナノ粒子を固形分含有量が10重量%となるように、グミキャンディ液に配合し、固化したところ、得られたグミキャンディのいずれを食べても強い苦味・渋味等は感じられず、摂取しやすかった。
【0089】
〔実施例b-1〕有機酸塩を用いたナノ粒子の製造(試験検体の製造)
ホエイタンパク質(商品名:エンラクトSAT、タンパク質含量89%、日本新薬株式会社製)5gを、5mM(0.162%)クエン酸三カリウム溶液又は5mM(0.147%)クエン酸三ナトリウム溶液に加えて20℃で緩やかに攪拌して溶解し、100mlとした。
次いで、緩やかに攪拌しながら80℃、30分間加熱しナノ粒子を形成させた。
得られた溶液中のナノ粒子を、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム( ベックマン・コールター株式会社製、「Delsa Max PRO」)を用いて粒子径を測定した。
【0090】
〔実施例b-2〕無機塩を用いたナノ粒子の製造(試験検体の製造)
ホエイタンパク質(日本新薬製:エンラクトSAT)5gを、5mM(0.037%)塩化カリウム(KCl)溶液又は5mM(0.029%)塩化ナトリウム(NaCl)溶液に加えて20℃で緩やかに攪拌して溶解し、100mlとした。
次いで、緩やかに攪拌しながら80℃、30分間加熱しナノ粒子を形成させた。
得られた溶液中のナノ粒子を、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「Delsa Max PRO」)を用いて粒子径を測定した。
【0091】
〔実施例b-3〕有機酸を用いたナノ粒子の製造(試験検体の製造)
ホエイタンパク質(日本新薬製:エンラクトSAT)5gを、200mM(1.8%)乳酸溶液、200mM(2.36%)コハク酸溶液、200mM(2.32%)フマル酸溶液、又は200mM(3.84%)クエン酸溶液に加えて20℃で緩やかに攪拌して溶解し、100mlとした。
次いで、緩やかに攪拌しながら80℃、30分間加熱しナノ粒子を形成させた(ここで、pHは2.4に調整した)。
得られた溶液中のナノ粒子を、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「Delsa Max PRO」)を用いて粒子径を測定した。
【0092】
〔比較例b-1〕 従来のカテキン添加量でのナノ粒子の製造(対照検体の製造)
前記と同様に、蒸留水95gにホエイタンパク質(商品名:エンラクトSAT、タンパク質含量89%、日本新薬株式会社製)5gを加え、20℃でよく撹拌することで100gのホエイタンパク質水溶液を調製した。
次いで、得られたホエイタンパク質水溶液に緑茶抽出物(商品名:EGCg-OP、EGCg含量 94%以上、太陽化学製)を2.5g~12.5gを添加した(溶液中のEGCg濃度:2.4%~11.1%)。
次いで、得られた混合液を、緩やかに攪拌しながら80℃で30分間加熱してナノ粒子を形成させた。
得られたナノ粒子の平均粒子径をゼータ電位・ナノ粒子径測定システム(ベックマン・コールター株式会社製、「DelsaMax PRO」)を用いて測定した。
【0093】
実施例b-1~b-3及び比較例b-1において調製したナノ粒子の粒子サイズを表3に示した。
【0094】
【表3】
【0095】
表3に示した通り、実施例b-1~b-3で得られた電解質を用いて調製した本発明のナノ粒子は、比較例b-1(従来法)の場合と同等か、あるいはより小さな粒度のナノ粒子であることが判明した。これにより、従来法におけるカテキンの代わり種々の電解質を用いてナノ粒子を製造できることが判明した。
【0096】
〔実施例b-4〕 生理活性物質を担持したナノ粒子の製造
ホエイタンパク質(日本新薬製:エンラクトSAT)5gを、5mM(0.162%)
クエン酸三カリウム溶液90mlに加えて20℃で緩やかに攪拌して溶解した。次いで、1mg/mL還元型CoQ10エタノール溶液を5ml添加後、pH調整液を用いてpH6~7になるように調整しながら、さらに5mM(0.162%)クエン酸三カリウム溶液を加え最終容量を100mLとした。その後、緩やかに攪拌しながら、80℃で30分間加熱してナノ粒子を形成させた。
得られた溶液中のナノ粒子を、ゼータ電位・ナノ粒子径測定システム( ベックマン・コールター株式会社製、「Delsa Max PRO」)を用いて粒子径を測定したところ、平均粒子径は、90.7~120.7nmであった。
【0097】
〔実施例b-5〕 ナノ粒子における生理活性物質の安定性
ナノ粒子に担持させた生理活性物質の安定性を常温、UV下での虐待試験により検討した。検討には、実施例b-4で得られたナノ粒子溶液(本発明品)、還元型コエンザイムQ10を乳化剤で分散させたコエンザイムQ10溶液(比較品)を用いて実施した。作製した各試料を透明ガラス容器に入れ、常温、UV下で虐待を行った。1週間間隔にてサンプルを回収し、試料中に含まれる還元型コエンザイムQ10濃度を測定した。その結果、本発明品では、比較品と比べると、生理活性物質である還元型コエンザイムQ10を長期間保存しても酸化させることなく安定に保持することができることが判明した。
したがって、従来、ナノ粒子の製造に用いられてきた、ガレート型エピガロカテキンの代わりに、クエン酸三カリウム等の食品製造において汎用される電解質を用いても、生理活性物質を安定的に担持したナノ粒子を製造することができることが判明した。
【0098】
以上のように作製された本発明のナノ粒子は、生理活性物質を安定的に担持しているものであり、かつ、平均粒子径が10~300nmと非常に小さなものであるため、例えば、経口で摂取した場合に、動物性タンパク質、電解質、さらには前記生理活性物質を腸等から、体内に吸収し易いため、前記生理活性物質を単で摂取した場合に比べ、バイオアベイラビリティが向上するという性質を有することがわかる。
図1
図2
図3