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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】含フッ素化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/653 20060101AFI20240926BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240926BHJP
   C08F 20/28 20060101ALI20240926BHJP
   C08F 20/58 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C07C69/653 CSP
C09K3/18 102
C08F20/28
C08F20/58
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022530535
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2021021425
(87)【国際公開番号】W WO2021251302
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020100920
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】稲益 礼奈
(72)【発明者】
【氏名】東 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 育男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知弘
(72)【発明者】
【氏名】高桑 達哉
(72)【発明者】
【氏名】松林 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 秀和
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193370(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058335(WO,A1)
【文献】特開2015-193615(JP,A)
【文献】特開2016-102070(JP,A)
【文献】Surface Coatings International,1998年,Vol.81, No.11,551-556
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,1993年,Vol.36, No.15,2134-2141
【文献】Journal of Organic Chemistry,2008年,Vol.73, No.17,6780-6783
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C08F
CAPlus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
L-(R-X-Rf-Y-R ・・・(1)
(式中、Lは、
下記一般式(L-1):
CH=CA-Z-* ・・・(L-1)
(式中、Aは、水素原子、炭素数1~4の炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、
Zは、-C(=O)O-*および-C(=O)NR-*(Rは、水素原子、または炭素数1~4の炭化水素基である)からなる群より選択される二価の連結基であり、
記号*は、Lの結合手である)
で表され、
nは、1であり、
Rfは、C単位、CFH単位およびCFRf’単位(Rf’は、炭素数1のフルオロアルキル基)の少なくともいずれかを1~4つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基であり、
は、炭素数1~4の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、
は、-(CH-O-(CHCH(dは0または1であり、cおよびeは、c+e=7~29の整数を満たす整数)であり、
XおよびYは、それぞれ、直接結合である。)
【請求項2】
一般式(1)において、RfがCF単位、CFH単位およびCFRf’単位の少なくともいずれかを1~2つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物であって、前記Lが前記一般式(L-1)で表される化合物から誘導された繰り返し単位を含む、重合体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化合物および請求項3に記載の重合体からなる群より選択される少なくとも1つから形成された表面を有する物品。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物および請求項3に記載の重合体からなる群より選択される少なくとも1つ、ならびに
液状媒体
を含む組成物。
【請求項6】
液状媒体が、水、または水と有機溶媒との混合物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
撥水剤である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
請求項5に記載の組成物によって処理された繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含フッ素化合物、ならびにこれを含む重合体、物品、組成物および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含フッ素化合物は、撥水撥油剤に利用可能であることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクリル系のフルオロアルキル基含有単量体および親水性基含有単量体からなる共重合体を主成分とする撥水撥油剤であって、フルオロアルキル基含有単量体が、下記一般式:
Rf’-R’-X’-R’C=CH
[式中、Rf’は、炭素数3~20の直鎖状のフルオロアルキル基、R’は炭素数1~10の直鎖状または分岐状のアルキレン基、R’は水素原子またはメチル基、X’は、-O-C(=O)-または-SO-N(A)-A-(式中、Aは、炭素数1~4のアルキル基、Aは、直接結合または-A-O-C(=O)-(Aは炭素数1~4のアルキレン基)である。)である。]
で示される含フッ素化合物である撥水撥油剤が開示されている。具体的には、Rf’は、CF単位を6つ以上(末端のCF単位はCFとなる)で含むフルオロアルキル基であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-290640号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Sakuraba et al., "ERmod: Fast and Versatile Computation Software for Solvation Free Energy with Approximate Theory of Solutions", Journal of Computational Chemistry, 2014, Volume 35, Issue 21, pp. 1592-1608
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、含フッ素化合物を利用した製品において、フッ素の含有割合をできるだけ少なくすることが求められている。しかしながら、一般的には、含フッ素化合物におけるフッ素原子の数を少なくすると、これから得られる撥水性が低下すると考えられる。
【0007】
本開示は、フッ素原子の数が少なくても、高い撥水性が得られる含フッ素化合物を提供することを目的とする。更に、本開示は、かかる含フッ素化合物を含む重合体、物品、組成物および繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
L-(R-X-Rf-Y-R ・・・(1)
(式中、Lは、n価の有機基であり、
nは、1以上の整数であり、
Rfは、エーテル結合を有していてもよい、CF単位、CFH単位およびCFRf’単位(Rf’は、炭素数1のフルオロアルキル基)の少なくともいずれかを1~4つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基であり、
は、直接結合、または炭素数1~4の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、
は、エーテル結合を有していてもよい、フッ素原子を含まない炭素数7~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、
XおよびYは、それぞれ独立して、直接結合、または二価の連結基である。)
[2] 一般式(1)において、XおよびYが直接結合であり、RfがCF単位、CFH単位およびCFRf’単位の少なくともいずれかを1~2つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基である、上記[1]に記載の化合物。
[3] 一般式(1)において、XおよびYが、それぞれ独立して、-SO-、-SONR-、-NRSO-、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-N(-R)-、-N(-R)-C(=O)-、-N(-R)-C(=O)-N(-R)-、-O-C(=O)-N(-R)-、-N(-R)-C(=O)O-、および-C-(Rは、水素原子、または炭素数1~4の炭化水素基である)からなる群より選択される二価の連結基である、上記[1]に記載の化合物。
[4] 一般式(1)において、Lが、下記一般式(L-1):
CH=CA-Z-* ・・・(L-1)
(式中、Aは、水素原子、炭素数1~4の炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、
Zは、二価の連結基であり、
記号*は、Lの結合手である)
で表され、nが1である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
[5] 一般式(L-1)において、Zが、-C(=O)O-*および-C(=O)NR-*(Rは、水素原子、または炭素数1~4の炭化水素基である)からなる群より選択される二価の連結基である、上記[4]に記載の化合物。
[6] 一般式(1)において、Lが、
(a)イソシアネート、ジイソシアネートおよびポリイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート基含有化合物と、
(b)下記一般式(2a)、(2b)および(2c)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート反応性化合物と
を反応させることを含むプロセスによって調製される含炭素リンカー部である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
【化1】
(一般式(2a)および(2c)中:
各Rは、それぞれ独立して、-H、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)(CH(CH)CHO)H、-(CHCHO)(CH(CH)CHO)-*、または-(CHCHO)(CH(CH)CHO)C(O)-*であり、
各pは、それぞれ独立して0~20であり、
各qは、それぞれ独立して0~20であり、
p+qは、0より大きく、
記号*は、Lの結合手であり、
但し、該イソシアネート反応性化合物が、一般式(2a)または(2c)で表される場合、Rの少なくとも1つが、-Hまたは-(CHCHO)(CH(CH)CHO)Hであり、かつ、Rの別の少なくとも1つが、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)(CH(CH)CHO)-*、または-(CHCHO)(CH(CH)CHO)C(O)-*であり、
一般式(2b)中:
各R’は、それぞれ独立して、-H、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’H、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’-*、または-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’C(O)-*であり、
各R’’は、それぞれ独立して、-H、―*、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’H、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’-*、または-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’C(O)-*であり、
各p’は、それぞれ独立して0~20であり、
各q’は、それぞれ独立して0~20であり、
p’+q’は、0より大きく、
記号*は、Lの結合手であり、
但し、該イソシアネート反応性化合物が、一般式(2b)で表される場合、R’およびR’’の少なくとも1つが、-Hまたは-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’Hであり、かつ、R’およびR’’の別の少なくとも1つが、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’-*、または-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’C(O)-*である)
[7] ジイソシアネートおよびポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネートホモポリマー、3-イソシアネートメチル-3,4,4-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、下記一般式(3a)、(3b)、(3c)および(3d)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[6]に記載の化合物。
【化2】
[8] 上記[4]または[5]に記載の化合物から誘導された繰り返し単位を含む、重合体。
[9] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の化合物および上記[8]に記載の重合体からなる群より選択される少なくとも1つから形成された表面を有する物品。
[10] 上記[1]~[7]のいずれかに記載の化合物および上記[8]に記載の重合体からなる群より選択される少なくとも1つ、ならびに
液状媒体
を含む組成物。
[11] 液状媒体が、水、または水と有機溶媒との混合物である、上記[10]に記載の組成物。
[12] 撥水剤である、上記[10]または[11]に記載の組成物。
[13] 上記[10]~[12]のいずれかに記載の組成物によって処理された繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、フッ素原子の数が少なくても、高い撥水性が得られる含フッ素化合物が提供される。更に、本開示によれば、かかる含フッ素化合物を含む重合体、物品、組成物および繊維製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】溶媒和エネルギーΔGを計算する各ステップを示したフローチャートである。
図2】含フッ素化合物の重合体について、水の接触角(°)と水に対する溶媒和自由エネルギーΔG(kcal/mol)との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(含フッ素化合物)
本開示の含フッ素化合物は、下記一般式(1)で表される。
L-(R-X-Rf-Y-R ・・・(1)
(式中、Lは、n価の有機基であり、
nは、1以上の整数であり、
Rfは、エーテル結合を有していてもよい、CF単位、CFH単位およびCFRf’単位(Rf’は、炭素数1のフルオロアルキル基)の少なくともいずれかを1~4つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基であり、
は、直接結合、または炭素数1~4の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、
は、エーテル結合を有していてもよい、フッ素原子を含まない炭素数7~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、
XおよびYは、それぞれ独立して、直接結合、または二価の連結基である。)
【0012】
本開示の含フッ素化合物によれば、フッ素原子の数が少なくても、(末端に-Rfを有する化合物に比べて)高い撥水性を得ることができる。
【0013】
Rfは、エーテル結合を有していてもよい、CF単位、CFH単位およびCFRf’単位(Rf’は、炭素数1のフルオロアルキル基)の少なくともいずれかを1~4つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基である。これら3種の単位(CF単位、CFH単位およびCFRf’単位)は、Rfの主鎖を構成するフルオロメチレン基(Rf’で置換されていても、いなくてもよい)に着目した単位である。CF単位、CFH単位およびCFRf’単位の少なくともいずれかの数が1~4つに限定されていることにより、フッ素原子の数が少なくなっている(Rfのフルオロアルキレン基が、これら3種の単位の少なくともいずれかを2つ~4つ含む場合には、これら3種の単位の1種または2種以上がフルオロアルキレン基に混在していてよい)。また、Rfが、化合物末端に存在するフルオロアルキル基ではなく、アクリル系構造により近い位置に存在するフルオロアルキレン基であることにより、より高い撥水性を得ることができる。このことは、本発明者らが得た独自の知見であり、化合物末端にフルオロアルキル基が存在するほうが高い撥水性を得るのに寄与し得るであろうという従来の知見とは異なるものである。Rf’は、炭素数1のフルオロアルキル基であり、より詳細には-CF、-CFH、-CFH等であり得る。Rfは、エーテル結合(-O-)を有しないものであり得るが、エーテル結合(-O-)を有する場合にも、撥水性に対して実質的に影響せず、高い撥水性を得ることができる。より詳細には、Rfは、-(CF(CFH)(CFRf’)-(n、mおよび1は、0~4の整数であり、かつ1≦n+m+l≦4を満たし、CF単位、CFH単位およびCFRf’単位の出現順序は任意である)であり得、または、かかる式中にて、CF単位、CFH単位およびCFRf’単位から選択される(互いに隣接する)任意の2つの単位の間にエーテル結合(-O-)が存在していてもよい。Rfは、好ましくは-(CFn’-(n’は、1~4の整数である)、-(CF-O-(CFa’-(aおよびa’は、0~4の整数であり、かつ1≦a+a’≦4を満たす)である。また、Rfは、CF単位、CFH単位およびCFRf’単位の少なくともいずれか、ならびに存在する場合にはエーテル結合に加えて、場合により、例えばCH単位、任意の適切な置換基、酸素以外のヘテロ原子等(-S-等)を含んでいてもよい。
【0014】
は、直接結合、または炭素数1~4の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~2の直鎖状または分岐状の炭化水素基であり、更に好ましくはメチレン基またはエチレン基であり、特に好ましくはメチレン基である。
【0015】
は、エーテル結合を有していてもよい、フッ素原子を含まない炭素数7~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基である。Rに関して、フッ素原子を含まない炭素数7~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基は、フッ素原子を含まない炭素数7~29の直鎖状または分岐状のアルキル基であり得る。Rは、エーテル結合(-O-)を有しないものであり得るが、エーテル結合(-O-)を有する場合にも、撥水性に対して実質的に影響せず、高い撥水性を得ることができる。より詳細には、Rは、例えば、-(CH-O-(CHCH(dは0または1であり、cおよびeは、c+e=7~29の整数を満たす整数)であり得る。
【0016】
XおよびYは、それぞれ独立して、直接結合、または二価の連結基である。Xおよび/またはYに該当する二価の連結基は、特に限定されないが、例えば-SO-、-SONR-、-NRSO-、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-N(-R)-、-N(-R)-C(=O)-、-N(-R)-C(=O)-N(-R)-、-O-C(=O)-N(-R)-、-N(-R)-C(=O)O-、および-C-(または二置換ベンゼン)からなる群より選択され得る。存在する場合、Rは、水素原子、または炭素数1~4の炭化水素基である。Rに関して、炭素数1~4の炭化水素基は、例えば、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基であり得、好ましくはメチル基である。Rは、好ましくは水素原子である。XおよびYは、好ましくは直接結合または-O-であり、特に好ましくは直接結合である。
【0017】
好ましい態様において、XおよびYが直接結合であり得、RfがCF単位、CFH単位およびCFRf’単位の少なくともいずれかを1~2つ含む直鎖状または分岐状のフルオロアルキレン基(エーテル結合を有しない)であり得る。
【0018】
Lは、n価の有機基であり、nは、1以上の整数である。換言すれば、本開示の含フッ素化合物においては、Lの有するn個の結合手(本発明において、記号*で示すことがある)のそれぞれに、-R-X-Rf-Y-Rが結合している(RがLの結合手と結合している)。nの値は、Lに応じて異なり得、例えば含フッ素化合物が重合体(後述)である場合にはnは相当大きくなり得、上限値は特段存在しない。
【0019】
例えば、Lは、下記一般式(L-1):
CH=CA-Z-* ・・・(L-1)
(式中、Aは、水素原子、炭素数1~4の炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、
Zは、二価の連結基であり、
記号*は、Lの結合手である)
で表され、nが1であってよい。
【0020】
この場合、含フッ素化合物は、下記一般式(1a)で表される。
CH=CA-Z-R-X-Rf-Y-R ・・・(1a)
【0021】
一般式(1a)で表される含フッ素化合物は、重合性単量体として理解され得る。かかる含フッ素化合物によれば、フッ素原子の数が少なくても、十分に高い撥水性を示す重合体を得ることができる。
【0022】
より詳細には、一般式(1a)で表される含フッ素化合物は、α位が置換されていてもよいアクリル系モノマーの1つとして理解され得る。一般式(1a)において、Aは、水素原子、炭素数1~4の炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である。Aに関して、炭素数1~4の炭化水素基は、例えば、炭素数1~4の直鎖状または分岐状のアルキル基であり得、好ましくはメチル基である。Aは、好ましくは水素原子またはメチル基である。
【0023】
Zに該当する二価の連結基は、特に限定されないが、例えば-C(=O)O-*および-C(=O)NR-*(Rは、水素原子、または炭素数1~4の炭化水素基である)からなる群より選択され得る。
【0024】
一般式(1a)で表される含フッ素化合物は、任意の適切な方法により合成され得る。例えば、一般式(1)で表される含フッ素化合物は、下記一般式(p)および(q)で表される原料化合物:
CH=CA-Z-R-X’ ・・・(p)
X’’-Rf-Y-R ・・・(q)
(式中、X’およびX’’は、Xの反応前駆体である一価の有機基であり、Xに応じて選択され得る)
から、X’およびX’’の結合反応により合成してよい。
【0025】
また例えば、Lは、
(a)イソシアネート、ジイソシアネートおよびポリイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート基含有化合物(以下、単に「イソシアネート基含有化合物」とも言う)と、
(b)下記一般式(2a)、(2b)および(2c)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種のイソシアネート反応性化合物(以下、単に「イソシアネート反応性化合物」とも言う)と
を反応させることを含むプロセスによって調製される含炭素リンカー部であってよい。
【化3】
(一般式(2a)および(2c)中:
各Rは、それぞれ独立して、-H、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)(CH(CH)CHO)H、-(CHCHO)(CH(CH)CHO)-*、または-(CHCHO)(CH(CH)CHO)C(O)-*であり、
各pは、それぞれ独立して0~20であり、
各qは、それぞれ独立して0~20であり、
p+qは、0より大きく、
記号*は、Lの結合手であり、
但し、該イソシアネート反応性化合物が、一般式(2a)または(2c)で表される場合、Rの少なくとも1つが、-Hまたは-(CHCHO)(CH(CH)CHO)Hであり、かつ、Rの別の少なくとも1つが、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)(CH(CH)CHO)-*、または-(CHCHO)(CH(CH)CHO)C(O)-*であり、
一般式(2b)中:
各R’は、それぞれ独立して、-H、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’H、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’-*、または-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’C(O)-*であり、
各R’’は、それぞれ独立して、-H、―*、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’H、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’-*、または-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’C(O)-*であり、
各p’は、それぞれ独立して0~20であり、
各q’は、それぞれ独立して0~20であり、
p’+q’は、0より大きく、
記号*は、Lの結合手であり、
但し、該イソシアネート反応性化合物が、一般式(2b)で表される場合、R’およびR’’の少なくとも1つが、-Hまたは-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’Hであり、かつ、R’およびR’’の別の少なくとも1つが、-*、-C(O)-*、-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’-*、または-(CHCHO)p’(CH(CH)CHO)q’C(O)-*である)
なお、p、q、p’およびq’は、1個のみの含フッ素化合物においては0~20の整数であるが、複数の含フッ素化合物の集合体である場合には平均値として表され得る。
【0026】
この場合、含フッ素化合物におけるLは、イソシアネート基含有化合物(a)と、イソシアネート反応性化合物(b)とを反応させることを含むプロセスによって調製される含炭素リンカー部であり、かかる含炭素リンカー部は通常は多価であり得るが、これに限定されない。イソシアネート反応性化合物(b)は、一般式(2a)または(2c)で表される場合、-OH基を少なくとも1つ有し、一般式(2b)で表される場合、-OH基または-COOH基を少なくとも1つ有する。よって、イソシアネート基含有化合物(a)と、イソシアネート反応性化合物(b)とを反応させることにより、これらがウレタン結合またはアミド結合で結合した反応生成物を得ることができる。かかる反応は既知であり、任意の適切な条件で実施され得る。
【0027】
かかる含フッ素化合物において、イソシアネート反応性化合物(b)に由来する部分に存在するn個の結合手(記号*で示す)のそれぞれに、-R-X-Rf-Y-Rが結合している(RがLの結合手と結合している)。「-R-X-Rf-Y-R」の部分は、反応前のイソシアネート反応性化合物(b)に存在する結合手(記号*で示す)に結合している。イソシアネート反応性化合物(b)は、一般式(2a)、(2b)および(2c)で表される化合物からなる群より選択される1種または任意の2種以上の混合物であり得、なかでも、一般式(2a)で表されるものが好ましい。
【0028】
イソシアネート基含有化合物(a)は、イソシアネート、ジイソシアネートおよびポリイソシアネートからなる群より選択される1種または任意の2種以上の混合物であり得る。イソシアネート基含有化合物(a)がジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートであり、イソシアネート反応性化合物(b)が-OH基および/または-COOH基を合計2つ以上有する場合、これらから得られる反応生成物は、場合により高分子であってよいが、これに限定されない。
【0029】
ジイソシアネートおよびポリイソシアネートは、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートホモポリマー、3-イソシアネートメチル-3,4,4-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、下記一般式(3a)、(3b)、(3c)および(3d)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。
【化4】
【0030】
一般式(3a)、(3b)、(3c)および(3d)で表される化合物は、ジイソシアネートトリマーとして理解される。ジイソシアネートトリマーは、一般式(3a)、(3b)、(3c)および(3d)で表される化合物からなる群より選択される1種または任意の2種以上の混合物であり得、なかでも、一般式(3c)で表されるものが好ましい。
【0031】
(重合体)
本開示の重合体は、上述した一般式(1a)で表される含フッ素化合物(重合性単量体)から誘導された繰り返し単位を含む。
【0032】
なお、かかる本開示の重合体は、本開示の一般式(1)で表される含フッ素化合物の一形態として理解することも可能である。例えば、Lは、下記一般式(L-1’):
【化5】
(式中、Aは、水素原子、炭素数1~4の炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、Zは、二価の連結基であり、記号*は、Lの結合手である)
で表され、nは、一般式(1a)で表される含フッ素化合物(重合性単量体)から誘導された繰り返し単位の数であり、一般式(1)におけるnに一致するものであってよい。
【0033】
本開示の重合体は、フッ素原子の数が少ない一般式(1a)で表される含フッ素化合物を使用しつつも、十分に高い撥水性を示す。
【0034】
本開示の重合体は、他の重合性単量体から誘導された繰り返し単位を更に含んでいてもよい。他の重合性単量体は、フルオロアルキル基およびフルオロアルキレン基を有さないことが好ましい。
【0035】
例えば、他の重合性単量体は、下記一般式(b)で表される化合物であり得る。
CH=CB-T ・・・(b)
(式中、Bは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、
Tは、水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~40の鎖状または環状の炭化水素基、あるいはエステル結合を有する炭素数2~41の鎖状または環状の有機基である。)
【0036】
一般式(b)で表される化合物(重合性単量体)は、α位が置換されていてもよいアクリル系モノマーの1つとして理解され得、一般式(1a)で表される化合物(重合性単量体)と共重合し得る。一般式(b)において、Bは、水素原子、メチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子であり、好ましくは水素原子またはメチル基である。Tは、水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1~40の鎖状または環状の炭化水素基、あるいはエステル結合を有する炭素数2~41の鎖状または環状の有機基である。
【0037】
本開示の重合体は、一般式(1a)で表される化合物から誘導された繰り返し単位を、重合体全体に対して2~100質量%で、好ましくは10~100質量%、より好ましくは30~100質量%で含み得る。100質量%の場合、重合体は、一般式(1a)で表される化合物(重合性単量体)のホモポリマーである。100質量%未満の場合、重合体は、一般式(1a)で表される化合物(重合性単量体)と、他の重合性単量体(代表的には一般式(b)で表される化合物)との共重合体(コポリマー)である。共重合体は、特に限定されないが、例えばランダム、ブロックまたはグラフト共重合体であり得る。
【0038】
ホモポリマーの場合、その融点はRf基の結晶性に由来し、これは示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。Rf基の結晶の存在は、広角X線回折でその自己凝集に由来するピークを観測することによっても確認される。通常、結晶性は次式に示す結晶化度で表わされる。
[結晶化度(%)]=IRf/(IRf+Iam)×100
ここで、IRfは2θ=18°に現れるRf基のピーク強度、Iamは非晶領域のピーク強度である。
【0039】
本開示の重合体の重量平均分子量は、1,000~500,000、好ましくは5,000~200,000であってよい。重量平均分子量が1,000以上であれば、膜の形態にしたときに高い耐久性が得られ、重量平均分子量が500,000以下であれば、組成物の形態にしたときに、作業し易い粘度が得られる。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算により求めた値である。重量平均分子量は、連鎖移動剤により調節することも可能である。
【0040】
本開示の重合体は、一般式(1a)で表される化合物および場合により他の重合性単量体を用いて、使用する原料(化合物/重合性単量体)に応じて適切な方法により製造可能である。重合方式は、例えば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、放射線重合などを適用し得る。例えば、原料(化合物/重合性単量体)を適当な有機溶媒に溶解し、重合開始源(使用する有機溶媒に可溶の過酸化物、アゾ化合物または電離性放射線など)の作用により溶液重合させる方法が採用され得る。具体的には反応系の重合開始剤として、過酸化物、アゾ系または過硫酸系の各種の化合物を使用し得る。また、共重合しようとする化合物の混合物を界面活性剤の存在下に水に乳化させ撹拌下に共重合させる方法も採用され得る。
【0041】
本開示の重合体は、常法に従い、液状組成物(液状媒体に重合体を溶解、分散または懸濁させたもの等)、エアゾールなどの任意の形態に調製でき、撥水剤とすることができる。
【0042】
(物品)
本開示の物品は、上述した本開示の含フッ素化合物および上述した本開示の重合体からなる群より選択される少なくとも1つ(以下、「本開示の含フッ素化合物等」と言う)から形成された表面を有する。
【0043】
本開示の物品は、撥水性を示す表面を有することができる。
【0044】
かかる表面は、被処理物品の種類や含フッ素化合物等の調製形態(組成物、エアゾールなど)などに応じて、任意の適切な方法で被処理物品に適用され得る。例えば、組成物である場合には、浸漬塗布等のような被覆加工の既知の方法により、被処理物品の表面に付着させ、乾燥させる方法が採用され得る。また、必要ならば適当な架橋剤と共に適用しキュアリングを行なってもよい。また例えば、エアゾールである場合には、これを単に噴射して被処理物品に吹き付けるだけで良く、直ちに乾燥した後、充分な撥水性を発揮し得る。
【0045】
被処理物品(ひいては処理後の物品)は、特に限定されず、任意の適切な材料から成り得、例えば後述する繊維や、石材、紙、木材、皮革、金属、セラミックス、ガラス、プラスチックなどであり得る。
【0046】
(組成物)
本開示の組成物は、上述した本開示の含フッ素化合物等(上述した本開示の化合物および上述した本開示の重合体からなる群より選択される少なくとも1つ)、および液状媒体を含む。
【0047】
本開示の組成物は、被処理物品に適用されて、該被処理物品に撥水性を付与することができる。より詳細には、本開示の組成物は、撥水剤の1つの形態として理解され得、本開示の含フッ素化合物等が撥水剤の有効成分である。
【0048】
本開示の組成物は、本開示の含フッ素化合物等を、組成物全体に対して1~99質量%で、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~50質量%で含み得る。
【0049】
本開示の組成物において、液状媒体に本開示の含フッ素化合物等が溶解、分散または懸濁していてよく、本開示の組成物は、溶液、分散液または懸濁液(例えば乳濁液)であり得る液状組成物であってよい。
【0050】
液状媒体は、水、または水と有機溶媒との混合物であり得る。この場合、本開示の組成物は、水性組成物として理解され得る。
【0051】
水と混合される有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類などが挙げられる。水と有機溶媒との混合物において、水:有機溶媒の質量比は、1:99~99:1であり得る。
【0052】
しかしながら、液状媒体は、水、または水と有機溶媒との混合物に限定されず、例えば有機溶剤であってもよい。有機溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどのアルコール類、クロロホルム、パークロルエチレン、トリクレン、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC-141b)などのハロゲン化炭化水素、オクタン、石油、トルエン、キシレンなどの炭化水素、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、エチレングリコールが挙げられる。
【0053】
本開示の組成物は、場合により他の成分、例えば界面活性剤(例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤)などを含んでいてもよい。
【0054】
アニオン界面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ココイルサルコシンナトリウム、ナトリウムN-ココイルメチルタウリン、ポリオキシエチレンヤシアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ジエーテルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、パーフルオロアルキルカルボン酸塩などである。
【0055】
カチオン界面活性剤の例は、ジアルキル(C12~C22)ジメチルアンモニウムクロライド、アルキル(ヤシ)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、牛脂アルキルプロピレンジアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキル(牛脂)トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキル(ヤシ)トリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ビフェニルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキル(牛脂)イミダゾリン4級塩、テトラデシルメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキル(C12~C22)ベンジルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンラウリルモノメチルアンモニウムクロライド、1-ヒドロキシエチル-2-アルキル(牛脂)イミダゾリン4級塩、疎水基としてシロキサン基を有するシリコーン系カチオン界面活性剤、疎水基としてフルオロアルキル基を有するフッ素系カチオン界面活性剤などである。
【0056】
ノニオン界面活性剤の例は、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテル変性シリコーンオイル(商品名:SH3746、SH3748、SH3749、SH3771(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製))、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、フルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルオリゴマーなどである。
【0057】
(繊維製品)
本開示の繊維製品は、上述した本開示の組成物によって処理されている。
【0058】
本開示の繊維製品は、処理表面において撥水性を示すことができる。
【0059】
繊維製品としては種々の例を挙げることができる。例えば、綿、麻、羊毛、絹などの動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維などの無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。繊維製品は、繊維、糸、布等の形態のいずれであってもよい。
【0060】
本開示の組成物は、処理時に、本開示の含フッ素化合物等の含有割合が0.1~30質量%、好ましくは1~10質量%となるように適宜希釈して使用することが可能である。かかる含フッ素化合物等の含有割合に適宜希釈することにより、繊維製品に撥水性を適切に付与しつつも、繊維製品の風合いの低下を防止することができる。
【実施例
【0061】
(化合物合成例)
表1に示す化合物A1、A2、Zを合成した。
【0062】
【表1】
【0063】
化合物A1は、本開示の含フッ素化合物の実施例であり、化合物A2および化合物Zは比較例である(表1中、本開示の含フッ素化合物の実施例を記号「」で示し、以下の表においても同様とする)。化合物A1において、RfのCF単位数は1であり、Rの炭素数は7(エーテル結合有)である。化合物A2は、化合物A1と逆転した対応構造を有する。具体的には、化合物A2において、化合物末端のフルオロアルキル基のCF(フルオロアルキル基末端ではCF)単位数は1であり、アクリル系構造により近い位置に存在するフッ素原子を含まない炭化水素基の炭素数は7(エーテル結合有)である。化合物Zは、撥水性を示すものとして従来代表的な化合物である。化合物Zにおいて、化合物末端のフルオロアルキル基のCF(フルオロアルキル基末端ではCF)単位数は6であり、アクリル系構造により近い位置に存在するフッ素原子を含まない炭化水素基の炭素数は2(エーテル結合無)である。
【0064】
化合物A1、A2の合成手順は下記の通りとした。なお、化合物Zは既知であり、合成手順の説明は省略する。
【0065】
・化合物A1
反応容器に1-ヘキサノール(10g)および1,2-ジメトキシエタンを仕込み、冷却した。得られた混合溶液に60%NaH(4.3g)を添加し、その後、室温で撹拌した。冷却しながら2,2,3,3-テトラフルオロオキセタン(6.4g)を添加し、室温まで昇温させて終夜攪拌した。得られた反応液に水を加え、反応生成物を抽出し、洗浄、脱水した。有機溶媒を減圧留去して、粗生成物18gを得た。精製を行い、化合物(ア)10gを得た。
反応容器にジエチルエーテルおよび化合物(ア)(10g)を仕込み、冷却した。得られた混合溶液に1.0MのLAH(水酸化アルミニウムリチウム)ジエチルエーテル溶液(98mL)を滴下し、室温まで昇温させた。得られた反応液を冷却して、硫酸ナトリウム・十水和物を添加した。ろ液(ジエチルエーテル溶液)を減圧濃縮して、粗生成物 約9.0gを得た。精製を行い、ガスクロマトフィー分析純度96質量%の化合物(イ)を6.0g得た。
反応容器にTHF(テトラヒドロフラン)、化合物(イ)(6.0g)およびトリエチルアミン(6.0g)を仕込み、攪拌しながら冷却した。この混合液に塩化アクリロイル(3.1g)を滴下し、その後、室温まで昇温させた。得られた反応液に水を加え、反応生成物を抽出し、洗浄、脱水した。有機溶媒を減圧留去して、粗生成物 約6.0gを得た。精製を行い、化合物A1 3.0gを得た。
【0066】
・化合物A2
反応容器に1,2-ジメトキシエタンおよび2,2,2-トリフルオロエタノール(5.5g)を仕込み、冷却した。得られた混合溶液に60%NaH(2.4g)を添加し、その後、室温で攪拌した。この混合溶液に6-クロロ-1-ヘキサノール(5.0g)を添加し、83℃(還流)にて加熱攪拌を行った。その後、ナトリウム2,2,2-トリフルオロエトキシド溶液を添加した。反応液に水(50mL)を加え、反応生成物を抽出し、洗浄、脱水した。有機溶媒を減圧留去して、粗生成物約6.3gを得た。精製を行い、6-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ヘキサノール4.0gを得た。
反応容器にTHF、6-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ヘキサノール(4.0g)およびトリエチルアミン(4.0g)を仕込み、攪拌しながら冷却した。この混合液に塩化アクリロイル(2.0g)を添加し、その後、室温まで昇温させた。得られた反応液に水を加えて、反応生成物を抽出し、洗浄、脱水した。有機溶媒を減圧留去して、粗生成物 約4.4gを得た。精製を行い、化合物A2を1.6g得た。
【0067】
(重合体製造例)
【0068】
化合物A1を重合させて重合体(ホモポリマー)を製造した。製造手順は下記の通りとした。
【0069】
反応容器に化合物A1を1.0g入れ、トルエン4.0gを添加してこれに溶解させ、反応フラスコ内を窒素置換した後、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.007gを添加し、65℃で一晩反応させて、粗重合体を得た。粗重合体を再沈殿させて、固体として、精製された重合体(化合物A1の重合体)を得た。
化合物A1の重合体の重量平均分子量は32000(ポリスチレン換算)であった。
【0070】
化合物A2および化合物Zについても、上記と同様にして、それぞれ重合体(ホモポリマー)を製造した。化合物A2および化合物Zの重合体の重量平均分子量は、それぞれ28000および42000(ポリスチレン換算)であった。
【0071】
(撥水性評価:水の接触角測定)
化合物A1、A2、Zから得た各重合体(ホモポリマー)について、水の接触角を測定した。具体的には、重合体を1質量%でクロロホルム中に含む溶液を調製し、この溶液をシリコン基板上に載せ、2000rpmで25秒間スピンコートして膜を作製した。得られた膜に水を滴下して接触角を測定した。接触角の測定は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、水2μLにて25℃環境下で実施した。水の接触角(°)の測定結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2を参照して、化合物A1の重合体は、化合物Zの重合体に比べて、大きい接触角を示し、十分に高い撥水性を示した。他方、化合物A2の重合体は、化合物A1の重合体および化合物Zの重合体に比べて、小さい接触角を示し、低い撥水性を示した。
【0074】
(撥水性評価:シミュレーションによるΔG計算)
ある化合物から得られる重合体(ホモポリマー)について、シミュレーションにより、水に対する溶媒和エネルギーΔG(kcal/mol)を計算することができる。具体的には、適切な計算装置(入力装置、出力装置、CPU、メモリ等を含む)を利用して、図1を参照して、下記ステップS1~S4によりΔGが計算される。
【0075】
・ステップS1
水(小分子)を溶質、重合体(ホモポリマー)を溶媒と定義し、ステップS1で、系のデータを取得する。系は、溶質と溶媒からなる対象溶液系である。データには、溶質および溶媒を構成する複数の原子の種類、各原子の力場の情報が含まれ、更に、各原子の初期位置、各原子の初速度等も含まれる。溶媒分子(重合体)については、重合体の分類の情報、例えば、単独重合系、結晶性、分子量等の情報も、これらのデータに含まれる。また、溶媒分子(重合体)が溶質分子(水)を吸収するときの条件、例えば温度、圧力等も、これらのデータに含まれる。
【0076】
・ステップS2
続いて、分子動力学シミュレーションによって、溶質および溶媒のそれぞれに含まれる各原子の運動を計算する。これにより、計算の開始から終了までの複数の時刻における各原子のそれぞれの座標を取得する。
【0077】
・ステップS3
続いて、各時刻における各原子の座標に基づいて、下記式(c)から生成される溶質と溶媒のエネルギー分布関数を計算する。
【0078】
【数1】
式中、
εは、溶質と溶媒の相互作用エネルギーであり、
ρは、分布関数であり、
ψは、溶質の座標であり、
xiは、i番目の溶媒の座標であり、
ν(ψ,xi)は、溶質と溶媒の相互作用ポテンシャルであり、
δは、デルタ関数である。
【0079】
上記式(c)は、溶質と溶媒の相互作用エネルギーεを横軸とする分布関数ρを表したものであり、溶質の周りの溶媒の瞬間的な分布を表す。すなわち、上記式(c)は、対象となる系の瞬間配置における溶質と溶媒とのペアの相互作用エネルギーのヒストグラムを表すものである。分子構造の詳細を直接に扱わず、相互作用エネルギーに着目することで、溶質分子、溶媒分子のそれぞれを、全体として1つのユニットと見ている。サンプルされた各瞬間配置で上記式(c)を計算し、その統計平均(全瞬間の上記(c)の平均)からエネルギー分布関数(上記分布関数ρの統計平均<ρ>)を求める。このエネルギー分布関数は、溶媒への溶質の導入の「前」と「後」の状態でのみ計算される。したがって、このエネルギー分布関数を計算することが、「溶媒」への「溶質」の導入の「前」と「後」の状態だけの分子動力学シミュレーションを行うことに相当する。
【0080】
・ステップS4
続いて、ステップS3で計算されたエネルギー分布関数と、自由エネルギー汎関数とを用いて、溶媒和自由エネルギーΔGを計算する。具体的には、予め用意した自由エネルギー汎関数に、ステップS3で計算されたエネルギー分布関数を代入する。自由エネルギー汎関数は、エネルギー分布関数から溶媒和自由エネルギーを近似的に導くためのものである。自由エネルギー汎関数としては、非特許文献1で定式化されたものが用いられる。
【0081】
上記のようにして、化合物A1、A2、Zから得られる重合体(ホモポリマー)について、水に対する溶媒和エネルギーΔG(kcal/mol)を計算した。ΔGの計算結果を表2に併せて示す。更に、表2の結果から、水の接触角(°)と、水に対する溶媒和自由エネルギーΔG(kcal/mol)との相関関係を示すグラフを図2に示す。
【0082】
図2から、含フッ素化合物の重合体について、水の接触角とΔGは高い相関関係を示すことが理解される。更に、表1および図2から、化合物Aの場合と同程度に高い撥水性(同程度に大きい水の接触角)を得るためには、ΔGが-1kcal/mol以上であればよいことが理解される。
【0083】
更に、表3~4に示す化合物B1~G1およびB2~G2から得られる重合体(ホモポリマー)について、上記と同様にして、水に対する溶媒和エネルギーΔG(kcal/mol)を計算した。ΔGの計算結果を表5に示す。なお、表3~5中、上記化合物A1、A2についても再掲する。化合物A2~G2は、それぞれ化合物A1~G1と逆転した対応構造を有する。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
表5を参照して、化合物A1~G1の重合体のΔGは、これらの各々と逆転した対応構造を有する化合物A2~G2の重合体のΔGより高かった(表5中、ΔGの差を参照)。このことから、化合物末端にフルオロアルキル基を有するよりも、アクリル系構造により近い位置にフルオロアルキレン基を有するほうが、高い撥水性が得られることが理解される。そして、本開示の含フッ素化合物である化合物A1~D1、F1~G1の各重合体では、ΔGが-1kcal/mol以上となったことから、十分に高い撥水性が得られることが理解される。更に、化合物A1の重合体のΔGと化合物B1の重合体のΔGとが実質的に等しかったことから、エーテル結合(-O-)の有無は、撥水性に対して実質的に影響しないことが理解される。他方、比較例の化合物E1、A2~G2の各重合体では、ΔGが-1kcal/mol未満となったことから、撥水性が不十分であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の含フッ素化合物は、撥水性が求められる種々の用途に利用可能である。本開示の含フッ素化合物および/または該含フッ素化合物から誘導された繰り返し単位を含む重合体(本開示の「含フッ素化合物等」と言う)は、物品の表面を形成することにより物品に撥水性を付与することができる。また、本開示の含フッ素化合物等を含む組成物は、繊維製品などに撥水性を付与するために使用される撥水剤として利用可能である。
【0089】
本願は、2020年6月10日付けで日本国にて出願された特願2020-100920に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0090】
S1、S2、S3、S4 ステップ
図1
図2