(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、ペレット、成形品及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240926BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20240926BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240926BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20240926BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240926BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L27/12
C08L79/08
B32B15/082 B
B32B27/30 D
B32B15/20
(21)【出願番号】P 2024022911
(22)【出願日】2024-02-19
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2023026291
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】関 豊光
(72)【発明者】
【氏名】丸橋 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】山口 修平
(72)【発明者】
【氏名】小森 政二
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133897(JP,A)
【文献】特開2001-072882(JP,A)
【文献】特表2020-517776(JP,A)
【文献】国際公開第94/013738(WO,A1)
【文献】特開2020-158664(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163913(WO,A1)
【文献】特開2016-081804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スーパーエンプラに属する非晶性樹脂(A)と、含フッ素共重合体(B)とを含み、
前記非晶性樹脂(A)又は前記含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r1と、ASTM D1238に従って、380℃又は樹脂組成物が溶融する温度以上で、5000g荷重下及び5分予熱にてメルトフローレートを測定した後の前記非晶性樹脂(A)又は前記含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r2との比r2/r1が1.70未満である樹脂組成物。
(ただし、r1及びr2は同じ樹脂又は同じ共重合体について測定したものである。)
【請求項2】
前記非晶性樹脂(A)のガラス転移温度が190℃~290℃である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記非晶性樹脂(A)の連続使用温度が140℃以上である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記非晶性樹脂(A)がイミド構造を有する請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記非晶性樹脂(A)がアミド構造及びイミド構造を有する請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記非晶性樹脂(A)が熱可塑性ポリイミドである請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記非晶性樹脂(A)がポリエーテルイミドである請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記含フッ素共重合体(B)の融点が200~323℃である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記含フッ素共重合体(B)が、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(1):
CF
2=CF-Rf
1 (1)
(式中、Rf
1は、-CF
3または-ORf
2を表す。Rf
2は、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記パーフルオロエチレン性不飽和化合物がヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記含フッ素共重合体(B)が、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項9記載の樹脂組成物。
【請求項12】
r1及びr2が前記非晶性樹脂(A)について測定したものである場合、r2が2.0μm以下であり、
r1及びr2が前記含フッ素共重合体(B)について測定したものである場合、r2が1.0μm以下である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項13】
非晶性樹脂(A)と含フッ素共重合体(B)との質量比(A):(B)が99:1~10:90である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記質量比(A):(B)が80:20~20:80である請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項15】
連続相及び分散相で構成された相構造を有し、前記分散相中に前記連続相の成分が存在する請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項16】
熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)の一方が連続相、他方が分散相となった相構造を有し、前記分散相中に前記連続相の成分が存在
し、
前記熱可塑性樹脂(X)がスーパーエンプラに属する非晶性樹脂(A)である樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1又は
16記載の樹脂組成物の製造方法であって、
下記式1から算出されるせん断速度が600/sec以上で、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)を溶融混練する工程を含む製造方法。
式1:γ=πDr/C
γ:せん断速度(/sec)
D:スクリュー外径(mm)
r:スクリュー回転数(rpm)
C:チップクリアランス(mm)
【請求項18】
前記せん断速度が800/sec以上、3000/sec以下であり、前記溶融混練の時間が5~300秒であり、前記溶融混練の温度が260~400℃である請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
請求項1又は2記載の樹脂組成物を成形して得られるペレット。
【請求項20】
請求項1又は2記載の樹脂組成物から形成される成形品。
【請求項21】
ASTM D6110-02に準拠し、衝撃試験機により測定したシャルピー衝撃強度が5kJ/m
2以上である請求項20記載の成形品。
【請求項22】
誘電特性が求められる材料に用いられる請求項20記載の成形品。
【請求項23】
高周波回路基板用材料である請求項20記載の成形品。
【請求項24】
金属箔と、請求項20記載の成形品とを含む積層体。
【請求項25】
前記金属箔が銅である請求項24記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、ペレット、成形品及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)に属する非晶性樹脂は、強度、耐熱性等の特性に優れていることから、種々の製品に利用されている。また、含フッ素共重合体も、摺動性、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐候性、柔軟性、電気的性質等の特性に優れていることから、種々の製品に利用されている。
【0003】
特許文献1では、それぞれ特定の物性を有する非晶性ポリマー(非晶性樹脂)及び含フッ素ポリマー(含フッ素共重合体)を含む含フッ素樹脂組成物を使用することで、表面剥離性が小さく、且つ均一性に富んだ強度の大きい射出成型品が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、衝撃強度に優れた成形品を製造できる樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示(1)は、スーパーエンプラに属する非晶性樹脂(A)と、含フッ素共重合体(B)とを含み、前記非晶性樹脂(A)又は前記含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r1と、ASTM D1238に従って、380℃又は樹脂組成物が溶融する温度以上で、5000g荷重下及び5分予熱にてメルトフローレートを測定した後の前記非晶性樹脂(A)又は前記含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r2との比r2/r1が1.70未満である樹脂組成物である。
(ただし、r1及びr2は同じ樹脂又は同じ共重合体について測定したものである。)
【0007】
本開示(2)は、前記非晶性樹脂(A)のガラス転移温度が190℃~290℃である本開示(1)記載の樹脂組成物である。
【0008】
本開示(3)は、前記非晶性樹脂(A)の連続使用温度が140℃以上である本開示(1)又は(2)記載の樹脂組成物である。
【0009】
本開示(4)は、前記非晶性樹脂(A)がイミド構造を有する本開示(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0010】
本開示(5)は、前記非晶性樹脂(A)がアミド構造及びイミド構造を有する本開示(4)記載の樹脂組成物である。
【0011】
本開示(6)は、前記非晶性樹脂(A)が熱可塑性ポリイミドである本開示(4)又は(5)記載の樹脂組成物である。
【0012】
本開示(7)は、前記非晶性樹脂(A)がポリエーテルイミドである本開示(4)~(6)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0013】
本開示(8)は、前記含フッ素共重合体(B)の融点が200~323℃である本開示(1)~(7)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0014】
本開示(9)は、前記含フッ素共重合体(B)が、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(1):
CF2=CF-Rf1 (1)
(式中、Rf1は、-CF3または-ORf2を表す。Rf2は、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体である本開示(1)~(8)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0015】
本開示(10)は、前記パーフルオロエチレン性不飽和化合物がヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種である本開示(9)記載の樹脂組成物である。
【0016】
本開示(11)は、前記含フッ素共重合体(B)が、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である本開示(9)又は(10)記載の樹脂組成物である。
【0017】
本開示(12)は、r1及びr2が前記非晶性樹脂(A)について測定したものである場合、r2が2.0μm以下であり、
r1及びr2が前記含フッ素共重合体(B)について測定したものである場合、r2が1.0μm以下である本開示(1)~(11)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0018】
本開示(13)は、非晶性樹脂(A)と含フッ素共重合体(B)との質量比(A):(B)が99:1~10:90である本開示(1)~(12)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0019】
本開示(14)は、前記質量比(A):(B)が80:20~20:80である本開示(13)記載の樹脂組成物である。
【0020】
本開示(15)は、連続相及び分散相で構成された相構造を有し、前記分散相中に前記連続相の成分が存在する本開示(1)~(14)のいずれかに記載の樹脂組成物である。
【0021】
本開示(16)は、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)の一方が連続相、他方が分散相となった相構造を有し、前記分散相中に前記連続相の成分が存在する樹脂組成物である。
【0022】
本開示(17)は、本開示(1)~(15)のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であって、下記式1から算出されるせん断速度が600/sec以上で、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)を溶融混練する工程を含む製造方法である。
式1:γ=πDr/C
γ:せん断速度(/sec)
D:スクリュー外径(mm)
r:スクリュー回転数(rpm)
C:チップクリアランス(mm)
【0023】
本開示(18)は、前記せん断速度が800/sec以上、3000/sec以下であり、前記溶融混練の時間が5~300秒であり、前記溶融混練の温度が260~400℃である本開示(17)記載の製造方法である。
【0024】
本開示(19)は、本開示(1)~(16)のいずれかに記載の樹脂組成物を成形して得られるペレットである。
【0025】
本開示(20)は、本開示(1)~(16)のいずれかに樹脂組成物から形成される成形品である。
【0026】
本開示(21)は、ASTM D6110-02に準拠し、衝撃試験機により測定したシャルピー衝撃強度が5kJ/m2以上である本開示(20)記載の成形品である。
【0027】
本開示(22)は、誘電特性が求められる材料に用いられる本開示(20)又は(21)記載の成形品である。
【0028】
本開示(23)は、高周波回路基板用材料である本開示(20)~(22)のいずれかに記載の成形品である。
【0029】
本開示(24)は、金属箔と、本開示(20)~(23)のいずれかに記載の成形品とを含む積層体である。
【0030】
本開示(25)は、前記金属箔が銅である本開示(24)記載の積層体である。
【発明の効果】
【0031】
本開示によれば、衝撃強度に優れた成形品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本開示の第一の樹脂組成物は、スーパーエンプラに属する非晶性樹脂(A)と、含フッ素共重合体(B)とを含み、前記非晶性樹脂(A)又は前記含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r1と、ASTM D1238に従って、380℃又は樹脂組成物が溶融する温度以上で、5000g荷重下及び5分予熱にてメルトフローレート(MFR)を測定した後の前記非晶性樹脂(A)又は前記含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r2との比r2/r1が1.70未満である。(ただし、r1及びr2は同じ樹脂又は同じ共重合体について測定したものである。)
【0033】
含フッ素共重合体は他の樹脂との相溶性が低いため、含フッ素共重合体及び他の樹脂を混合した樹脂組成物は、成形時に分散粒子が凝集し、物性の低下が生じる傾向がある。本発明者らが上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、混練時のせん断速度に着目し、混練中に効果的にせん断をかけることで、成形時の分散粒子の凝集を抑制できる樹脂組成物を製造できることを見出した。
本開示の第一の樹脂組成物は、上記構成を有することによって、成形時の分散粒子の凝集を抑制することができ、その結果、成形後も良好な機械物性を維持し、衝撃強度に優れた成形品を製造することができる。また、非晶性樹脂(A)単独の形態と比較して、柔軟性や電気特性を向上させることができる。
【0034】
本開示の第一の樹脂組成物では、非晶性樹脂(A)中に含フッ素共重合体(B)が粒子状に分散していること、又は、含フッ素共重合体(B)中に非晶性樹脂(A)が粒子状に分散していることが好ましい。
通常、非晶性樹脂(A)中に含フッ素共重合体(B)が粒子状に分散している形態では、非晶性樹脂(A)が連続相を、含フッ素共重合体(B)が分散相を形成し、含フッ素共重合体(B)中に非晶性樹脂(A)が粒子状に分散している形態では、含フッ素共重合体(B)が連続相を、非晶性樹脂(A)が分散相を形成する。非晶性樹脂(A)の含有量>含フッ素共重合体(B)の含有量の場合は前者の形態、非晶性樹脂(A)の含有量<含フッ素共重合体(B)の含有量の場合は後者の形態となることが一般的である。
【0035】
r1及びr2は、同じ樹脂又は同じ共重合体について測定したものであれば、非晶性樹脂(A)について測定したものであってもよいし、含フッ素共重合体(B)について測定したものであってもよい。
また、r1及びr2は、通常、分散相を形成する樹脂又は共重合体について測定したものである。よって、非晶性樹脂(A)中に含フッ素共重合体(B)が粒子状に分散している形態では、r1及びr2は含フッ素共重合体(B)について測定したものであり、フッ素共重合体(B)中に非晶性樹脂(A)が粒子状に分散している形態では、r1及びr2は非晶性樹脂(A)について測定したものである。
【0036】
本開示の第一の樹脂組成物において、r2/r1は、1.70未満である。粒子状に分散した非晶性樹脂(A)又は含フッ素共重合体(B)がMFR測定によって凝集すると、r2/r1が大きくなる。従って、r2/r1が1.70未満であることは、MFR測定後の非晶性樹脂(A)又は含フッ素共重合体(B)の粒子が凝集しにくいことを表す。
r2/r1は、1.70未満であればよいが、衝撃強度に一層優れた成形品が得られることから、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.40以下である。下限は特に限定されないが、例えば1.0であってもよい。
【0037】
r1及びr2が非晶性樹脂(A)について測定したものである場合、r2は、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。r2が上記範囲内であれば、衝撃強度に一層優れた成形品が得られる。下限は特に限定されないが、例えば0.01μmであってもよい。
【0038】
r1及びr2が含フッ素共重合体(B)について測定したものである場合、r2は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、更に好ましくは1.0μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。r2が上記範囲内であれば、衝撃強度に一層優れた成形品が得られる。下限は特に限定されないが、例えば0.01μmであってもよい。
【0039】
r1及びr2は、以下の手順に従って決定する。
まず、樹脂組成物のストランド又はペレットから切出した切片を押出方向に対して垂直に切断し、その断面を共焦点レーザー顕微鏡で観察する。得られた顕微鏡画像を、画像解析ソフト(Image J)を用いることで解析する。そして、分散相を選択し、円相当径を求める。分散相20個分の円相当径を算出し、これを平均しr1(平均分散粒子径)とする。
r2は、MFR測定後の樹脂組成物のストランド又はペレットに対し、同様の操作を行うことで決定する。
【0040】
非晶性樹脂(A)は、スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)に属する樹脂である。このような樹脂としては、例えば、ガラス転移温度が特定の範囲内である樹脂や、連続使用温度が特定の範囲内の樹脂を用いることができる。非晶性樹脂(A)としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0041】
非晶性樹脂(A)のガラス転移温度は、好ましくは190℃以上、より好ましくは200℃以上、更に好ましくは210℃以上であり、また、好ましくは290℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは220℃以下である。
本明細書において、ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、20℃/分の昇温速度の条件下で測定される。
【0042】
非晶性樹脂(A)の連続使用温度は、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは170℃以上である。上限は特に限定されず、高ければ高いほど好ましいが、例えば260℃であってもよい。
本明細書において、連続使用温度とは、一定温度の大気中に40000時間放置したときに、その物性値が初期値から50%劣化した温度であり、UL746Bに準拠して測定される。
【0043】
非晶性樹脂(A)は、イミド構造を有することが好ましい。イミド構造を有する非晶性樹脂(A)としては、例えば、ポリイミド(PI)が挙げられる。
本明細書において、ポリイミドは、主鎖中にイミド構造を有する重縮合体である。成形性に優れることから、ポリイミドは、熱可塑性ポリイミド(TPI)であることが好ましく、ポリエーテルイミド(PEI)であることがより好ましい。
【0044】
非晶性樹脂(A)は、アミド構造及びイミド構造を有することも好ましい。アミド構造及びイミド構造を有する非晶性樹脂(A)としては、例えば、ポリアミドイミド(PAI)が挙げられる。
本明細書において、ポリアミドイミドは、主鎖中にアミド構造及びイミド構造を有する重縮合体である。
【0045】
非晶性樹脂(A)は、上述のポリイミド、ポリアミドイミド以外の樹脂であってもよい。例えば、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアリレート(PAR)も使用可能である。
【0046】
非晶性樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、380℃又は非晶性樹脂(A)が溶融する温度以上、5000g荷重の測定条件下で1~150g/10分であることが好ましく、5~130g/10分であることがより好ましく、10~100g/10分であることが更に好ましい。上記範囲であることにより、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができる。
非晶性樹脂(A)のMFRは、ASTM D1238に準拠し、予熱時間5分、温度380℃又は非晶性樹脂(A)が溶融する温度以上、荷重5000gで測定して得られる値である。非晶性樹脂(A)が溶融する温度以上の温度としては例えば400℃であってよい。
【0047】
含フッ素共重合体(B)は、例えば、少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体に基づく重合単位を有する重合体である。含フッ素共重合体(B)は、溶融加工性のフッ素樹脂であることが好ましい。含フッ素共重合体(B)としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0048】
含フッ素共重合体(B)としては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体〔FEP〕、TFE/HFP/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕、エチレン(Et)/TFE共重合体、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)/TFE共重合体、CTFE/TFE/PAVE共重合体、Et/CTFE共重合体、TFE/フッ化ビニリデン(VdF)共重合体、VdF/HFP/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル(PVF)が挙げられる。また、溶融加工性であれば、低分子量のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることも可能である。
PAVEとしては、炭素数1~6のアルキル基を有するものが好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)等が挙げられる。
【0049】
含フッ素共重合体(B)としては、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができることから、テトラフルオロエチレン(TFE)及び下記の一般式(1):
CF2=CF-Rf1 (1)
(式中、Rf1は、-CF3又は-ORf2を表す。Rf2は、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体であることがより好ましい。Rf1が-ORf2である場合、Rf2は炭素数が1~3のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0050】
一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物としては、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができることから、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0051】
含フッ素共重合体(B)としては、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができることから、FEP及びPFAからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0052】
含フッ素共重合体(B)は、全重合単位に対し、98~75質量%のTFEに基づく重合単位(TFE単位)及び2~25質量%の一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物から構成されることが好ましい。含フッ素共重合体(B)を構成するTFEの含有量の下限は、77質量%がより好ましく、80質量%が更に好ましく、83質量%が特に好ましく、85質量%が殊更に好ましい。上記含フッ素共重合体(B)を構成するTFEの含有量の上限は、97質量%がより好ましく、95質量%が更に好ましく、92質量%が殊更に好ましい。
また、含フッ素共重合体(B)を構成する一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の含有量の下限は、3質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。含フッ素共重合体(B)を構成する一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の含有量の上限は、23質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましく、17質量%が特に好ましく、15質量%が殊更に好ましい。
含フッ素共重合体(B)は、TFE及び一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性化合物のみからなる共重合体であることが好ましい。
【0053】
含フッ素共重合体(B)のメルトフローレート(MFR)は、0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~80g/10分であることがより好ましく、0.5~70g/10分であることが更に好ましい。上記範囲であることにより、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができる。
また、含フッ素共重合体(B)のMFRは、7g/10分以上であってもよい。
含フッ素共重合体(B)のMFRは、ASTM D1238に準拠し、380℃又は含フッ素共重合体(B)が溶融する温度以上、5000g荷重の条件下で、メルトインデクサーを用いて測定する。含フッ素共重合体(B)が溶融する温度以上の温度としては例えば400℃であってよい。
【0054】
含フッ素共重合体(B)の融点は、得られる成形品の耐熱性を向上させることができることから、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、更に好ましくは240℃以上である。また、混練時の熱劣化を抑制できることから、好ましくは323℃以下、より好ましくは320℃以下、更に好ましくは315℃以下である。
フッ素樹脂(II)の融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めたものである。
【0055】
含フッ素共重合体(B)は、公知の方法によりフッ素ガス処理したものであってもよいし、アンモニア処理したものであってもよい。
【0056】
本開示の第一の樹脂組成物において、含フッ素共重合体相(B)の凝集・合体を抑制し、その分散粒子径の変化率を所望の範囲に制御しやすくする観点から、反応性官能基を含有する含フッ素共重合体を用いることができる。反応性官能基は特に限定されるものではなく、具体的には、ビニル基、エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、エステル基、アルデヒド基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、水酸基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、加水分解性シリル基などを例示できるが、中でもエポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基及び水酸基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。これら反応性官能基が2種類以上含まれていてもよい。また、反応性官能基は含フッ素共重合体の主鎖末端もしくは側鎖のどちらに導入されていてもよい。
【0057】
反応性官能基を含有する含フッ素共重合体の官能基量は、特に限定されるものではないが、反応を十分に進行させる観点と流動性の悪化の観点を考慮すると、0.01モル%~15モル%以下の範囲が好ましい。
【0058】
含フッ素共重合体(B)は、反応性官能基を構造内に有しないものであってもよい。反応性官能基を構造内に有しない含フッ素共重合体(B)は、例えば、末端をフッ素化することで得られる。
【0059】
本開示の第一の樹脂組成物において、非晶性樹脂(A)と含フッ素共重合体(B)との質量比(A):(B)は特に限定されないが、例えば、99:1~10:90であることが好ましい。
また、この質量比において、非晶性樹脂(A)の上限は、好ましくは95、より好ましくは80であり、下限は、好ましくは20、より好ましくは35、更に好ましくは40である。含フッ素共重合体(B)の上限は、好ましくは80、より好ましくは65、更に好ましくは60であり、下限は、好ましくは5、より好ましくは20である。
【0060】
本開示の第一の樹脂組成物は、連続相及び分散相で構成された相構造を有し、分散相中に連続相の成分が存在することが好ましい。これにより、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができる。
なお、非晶性樹脂(A)が連続相、含フッ素共重合体(B)が分散相であってもよいし、その逆であってもよい。
【0061】
本開示の第一の樹脂組成物において、分散相中の成分の確認方法は特に限定されないが、例えば、赤外分光分析(IR)を用いることができる。より詳細には、樹脂組成物から単離した分散相に対し、JIS K0117:2017に従ってIRを行った際に、分散相の成分のピークだけではなく、連続相の成分のピークが検出された場合、分散相中に連続相の成分が存在する。
なお、分散相中に存在する連続相の成分の量は特に限定されない。
【0062】
本開示の第一の樹脂組成物は、380℃又は樹脂組成物が溶融する温度以上におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~200g/10分であることが好ましく、1~150g/10分であることがより好ましい。MFRが上記範囲内にある樹脂組成物は、流動性に一層優れる。上記範囲より小さくなると、成形加工性に劣るおそれがある。また、上記範囲より大きくなると、所望の性能を発現できないおそれがある。
本開示の第一の樹脂組成物のMFRは、ASTM D1238に準拠し、予熱時間5分、温度380℃又は樹脂組成物が溶融する温度以上、荷重5000gで測定して得られる値である。樹脂組成物が溶融する温度以上の温度としては例えば400℃であってよい。
【0063】
本開示の第一の樹脂組成物は、比誘電率が3.0以下であることが好ましい。より好ましくは、2.9以下であり、更に好ましくは2.7以下である。比誘電率の下限は特に制限されないが、2.1以上が好ましい。
比誘電率は、空洞共振器摂動法により測定した値である。
【0064】
本開示の第一の樹脂組成物は、誘電正接が0.006以下であることが好ましい。より好ましくは、0.005以下であり、更に好ましくは0.004以下である。誘電正接の下限は特に制限されないが、0.0001以上が好ましい。
誘電正接は、空洞共振器摂動法により測定した値である。
【0065】
本開示の第一の樹脂組成物は、必要に応じて非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)以外の成分を含んでいてもよい。非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)以外の成分としては特に限定されないが、チタン酸カリウム等のウィスカ、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維、アラミド繊維、その他の高強度繊維等の繊維状の強化材;タルク、マイカ、クレイ、カーボン粉末、グラファイト、人造黒鉛、天然黒鉛、ガラスビーズ等の無機充填材;着色剤;難燃剤等通常使用される無機又は有機の充填材;シリコーンオイル、二硫化モリブデン等の潤滑剤;顔料;カーボンブラック等の導電剤;ゴム等の耐衝撃性向上剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑剤;ベンゾトリアゾール化合物等の紫外線吸収剤;窒化ホウ素などの発泡剤;その他の添加剤等を用いることができる。
これらの添加剤は、本願の効果を損なわない範囲で、原料の非晶性樹脂(A)に加えてもよく、原料の含フッ素共重合体(B)に加えてもよい。また、本願の効果を損なわない範囲で、非晶性樹脂(A)と含フッ素共重合体(B)を混練する際、溶融状態の原料に、サイドフィード方式等により添加してもよい。
【0066】
繊維状充填剤(C)
本開示の第一の樹脂組成物は、更に、繊維状充填剤を含むことが好ましい。本開示の樹脂組成物に用いられる繊維状充填材は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンミルドファイバー、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、およびセピオライトなどの繊維状無機充填材、アラミド繊維、ポリイミド繊維およびポリベンズチアゾール繊維などの耐熱有機繊維に代表される繊維状耐熱有機充填材、並びにこれらの充填剤に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した繊維状充填材などが例示される。異種材料を表面被覆した充填材としては、例えば金属コートガラス繊維および金属コート炭素繊維などが例示される。異種材料の表面被覆の方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の各種メッキ法(例えば、電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、およびスパッタリング法などを挙げることができる。これら繊維状充填材の中でも、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンミルドファイバー及びアラミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ガラス繊維及び炭素繊維からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
上記繊維状充填材は、その繊維径が0.1~20μmの範囲が好ましい。繊維径の上限は18μmがより好ましく、15μmが更に好ましい。一方繊維径の下限は1μmがより好ましく、6μmが更に好ましい。ここでいう繊維径とは数平均繊維径を指す。尚、かかる数平均繊維径は、成形品を溶剤に溶解するかもしくは樹脂を塩基性化合物で分解した後に採取される残渣、およびるつぼで灰化を行った後に採取される灰化残渣を走査電子顕微鏡観察した画像から算出される値である。
本開示の樹脂組成物に用いられる繊維状充填材がガラス繊維である場合、ガラス繊維のガラス組成は、Aガラス、Cガラス、およびEガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス充填材は、必要に応じてTiO2、SO3、およびP2O5等の成分を含有するものであってもよい。これらの中でもEガラス(無アルカリガラス)がより好ましい。かかるガラス繊維は、周知の表面処理剤、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、またはアルミネートカップリング剤等で表面処理が施されたものが機械的強度の向上の点から好ましい。また、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂が機械的強度の点から特に好ましい。集束処理されたガラス繊維の集束剤付着量は、ガラス繊維100質量%中好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。本開示の樹脂組成物に用いられる繊維状充填材として、扁平断面ガラス繊維を用いることもできる。この扁平断面ガラス繊維としては、繊維断面の長径の平均値が好ましくは10~50μm、より好ましくは15~40μm、さらに好ましくは20~35μmで、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が好ましくは1.5~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2.5~5であるガラス繊維である。長径と短径の比の平均値がこの範囲の扁平断面ガラス繊維を使用した場合、1.5未満の非円形断面繊維を使用した場合に比べ、異方性が大きく改良される。また扁平断面形状としては扁平の他、楕円状、眉状、および三つ葉状、あるいはこれに類する形状の非円形断面形状を挙げることができる。なかでも機械的強度、低異方性の改良の点から扁平形状が好ましい。また、扁平断面ガラス繊維の平均繊維長と平均繊維径の比(アスペクト比)は2~120が好ましく、より好ましくは2.5~70、さらに好ましくは3~50であり、繊維長と平均繊維径の比が2未満であると機械的強度の向上効果が小さくなる場合があり、繊維長と平均繊維径の比が120を超えると異方性が大きくなる他、成形品外観も悪化する場合がある。かかる扁平断面ガラス繊維の平均繊維径とは、扁平断面形状を同一面積の真円形に換算したときの数平均繊維径をいう。また平均繊維長とは、本開示の樹脂組成物中における数平均繊維長をいう。尚、かかる数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、並びに薬品による分解等の処理で採取される充填材の残さを光学顕微鏡観察した画像から画像解析装置により算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維径を目安にそれ以下の長さのものはカウントしない方法による値である。
繊維状充填剤(C)の質量比は、本開示の樹脂組成物に対し、0~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。
【0067】
(その他の添加剤)
本開示の第一の樹脂組成物は、その意匠性等の改良のために、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。
【0068】
染顔料(D)
本開示の第一の樹脂組成物は更に各種の染顔料を含有し多様な意匠性を発現する成形品を提供できる。本開示の樹脂組成物で使用する染顔料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更に本開示の樹脂組成物はメタリック顔料を配合してより良好なメタリック色彩を得ることもできる。メタリック顔料としては、アルミ粉が好適である。また、蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。
【0069】
熱線吸収能を有する化合物(E)
本開示の第一の樹脂組成物は熱線吸収能を有する化合物を含有することができる。かかる化合物としてはフタロシアニン系近赤外線吸収剤、ATO、ITO、酸化イリジウムおよび酸化ルテニウム、酸化イモニウム、酸化チタンなどの金属酸化物系近赤外線吸収剤、ホウ化ランタン、ホウ化セリウムおよびホウ化タングステンなどの金属ホウ化物系や酸化タングステン系近赤外線吸収剤などの近赤外吸収能に優れた各種の金属化合物、ならびに炭素フィラーが好適に例示される。かかるフタロシアニン系近赤外線吸収剤としてはたとえば三井化学(株)製MIR-362が市販され容易に入手可能である。炭素フィラーとしてはカーボンブラック、グラファイト(天然、および人工のいずれも含む)およびフラーレンなどが例示され、好ましくはカーボンブラックおよびグラファイトである。これらは単体または2種以上を併用して使用することができる。フタロシアニン系近赤外線吸収剤の含有量は、本開示の樹脂組成物100質量部に対して、0.0005~0.2質量部が好ましく、0.0008~0.1質量部がより好ましく、0.001~0.07質量部がさらに好ましい。金属酸化物系近赤外線吸収剤、金属ホウ化物系近赤外線吸収剤および炭素フィラーの含有量は、本開示の樹脂組成物中、0.1~200ppm(質量割合)の範囲が好ましく、0.5~100ppmの範囲がより好ましい。
【0070】
光高反射用白色顔料(F)
本開示の第一の樹脂組成物には、光高反射用白色顔料を配合して光反射効果を付与することができる。かかる白色顔料としては二酸化チタン(特にシリコーンなど有機表面処理剤により処理された二酸化チタン)顔料が特に好ましい。かかる光高反射用白色顔料の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、3~30質量部が好ましく、8~25質量部がより好ましい。尚、光高反射用白色顔料は2種以上を併用することができる。
【0071】
紫外線吸収剤(G)
本開示の第一の樹脂組成物には紫外線吸収剤を配合して耐候性を付与することができる。かかる紫外線吸収剤としては、具体的にはベンゾフェノン系では、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5-ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンソフェノン、および2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。紫外線吸収剤としては、具体的に、ベンゾトリアゾール系では、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-クミル-6-ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾ-ル、並びに2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や2-(2’―ヒドロキシ-5-アクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2-ヒドロキシフェニル-2H-ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。紫外線吸収剤は、具体的に、ヒドロキシフェニルトリアジン系では、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-メチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-エチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-プロピルオキシフェノール、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4-ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。紫外線吸収剤は、具体的に環状イミノエステル系では、例えば2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-m-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2,2’-p,p’-ジフェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)などが例示される。また紫外線吸収剤としては、具体的にシアノアクリレート系では、例えば1,3-ビス-([(2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。前記の中でも紫外線吸収能の点においてはベンゾトリアゾール系およびヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましく、耐熱性や色相の点では、環状イミノエステル系およびシアノアクリレート系が好ましい。具体的には例えばケミプロ化成(株)「ケミソーブ79」、BASFジャパン(株)「チヌビン234」などが挙げられる。前記紫外線吸収剤は単独であるいは2種以上の混合物で用いてもよい。
紫外線吸収剤の含有量は、本開示の樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.01~1質量部、さらに好ましくは0.05~1質量部、特に好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0072】
帯電防止剤(H)
本開示の第一の樹脂組成物には、帯電防止性能が求められる場合があり、かかる場合帯電防止剤を含むことが好ましい。かかる帯電防止剤としては、例えば(1)ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩に代表されるアリールスルホン酸ホスホニウム塩、およびアルキルスルホン酸ホスホニウム塩などの有機スルホン酸ホスホニウム塩、並びにテトラフルオロホウ酸ホスホニウム塩のようなホウ酸ホスホニウム塩が挙げられる。該ホスホニウム塩の含有量は、本開示の樹脂組成物100質量部に対し、5質量部以下が適切であり、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは1~3.5質量部、更に好ましくは1.5~3質量部の範囲である。帯電防止剤としては例えば、(2)有機スルホン酸リチウム、有機スルホン酸ナトリウム、有機スルホン酸カリウム、有機スルホン酸セシウム、有機スルホン酸ルビジウム、有機スルホン酸カルシウム、有機スルホン酸マグネシウム、および有機スルホン酸バリウムなどの有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩が挙げられる。かかる金属塩は前述のとおり、難燃剤としても使用される。かかる金属塩は、より具体的には例えばドデシルベンゼンスルホン酸の金属塩やパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩などが例示される。有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の含有量は本開示の樹脂組成物100質量部に対して、0.5質量部以下が適切であり、好ましくは0.001~0.3質量部、より好ましくは0.005~0.2質量部である。特にカリウム、セシウム、およびルビジウムなどのアルカリ金属塩が好適である。
帯電防止剤としては、例えば(3)アルキルスルホン酸アンモニウム塩、およびアリールスルホン酸アンモニウム塩などの有機スルホン酸アンモニウム塩が挙げられる。該アンモニウム塩は本開示の樹脂組成物100質量部に対して、0.05質量部以下が適切である。帯電防止剤としては、例えば(4)ポリエーテルエステルアミドのようなポリ(オキシアルキレン)グリコール成分をその構成成分として含有するポリマーが挙げられる。該ポリマーは本開示の樹脂組成物100質量部に対して、5質量部以下が適切である。
【0073】
充填材(I)
本開示の第一の樹脂組成物には、繊維状充填剤以外の強化フィラーとして公知の各種充填材を配合することができる。かかる充填材としては、各種の板状充填材および粒状充填材が挙げられる。ここで、板状充填材はその形状が板状(表面に凹凸を有するものや、板が湾曲を有するものを含む)である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含むこれら以外の形状の充填材である。
板状充填材としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリン、メタルフレーク、カーボンフレーク、およびグラファイト、並びにこれらの充填剤に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した板状充填材などが好ましく例示される。その粒径は0.1~300μmの範囲が好ましい。かかる粒径は、10μm程度までの領域は液相沈降法の1つであるX線透過法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、10~50μmの領域ではレーザー回折・散乱法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、50~300μmの領域では振動式篩分け法による値である。かかる粒径は樹脂組成物中での粒径である。板状充填材は、各種のシラン系、チタネート系、アルミネート系、およびジルコネート系などのカップリング剤で表面処理されてもよく、またオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂などの各種樹脂や高級脂肪酸エステルなどにより集束処理されるか、または圧縮処理された造粒物であってもよい。
【0074】
他の樹脂やエラストマー(J)
本開示の第一の樹脂組成物には、本開示の効果を損なわない範囲で、樹脂成分の一部に代えて、他の樹脂やエラストマーを本開示の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。他の樹脂やエラストマーの配合量は本開示の樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、最も好ましくは3質量部以下である。かかる他の樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。また、エラストマーとしては、例えばイソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/スチレン/ブタジエン)ゴム、MB(メタクリル酸メチル/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴム、フッ素ゴム、含フッ素エラストマー等が挙げられる。
【0075】
その他の添加剤(K)
本開示の第一の樹脂組成物には、その他の流動改質剤、抗菌剤、流動パラフィンのような分散剤、光触媒系防汚剤およびフォトクロミック剤などを配合することができる。
【0076】
本開示の第一の樹脂組成物は、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)の合計が100質量%~50質量%であることが好ましい。50質量%未満になると、十分な衝撃強度や柔軟性が得られないおそれがある。
また、本開示の第一の樹脂組成物は、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)の合計が、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、99.5質量%以上であってもよく、99.9質量%以上であってもよい。
【0077】
本開示の第二の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)の一方が連続相、他方が分散相となった相構造を有し、前記分散相中に前記連続相の成分が存在する。
【0078】
本開示の第二の樹脂組成物は、上記構成を有することによって、本開示の第一の樹脂組成物と同様、成形時の分散粒子の凝集を抑制することができ、その結果、成形後も良好な機械物性を維持し、衝撃強度に優れた成形品を製造することができる。また、熱可塑性樹脂(X)単独の形態と比較して、柔軟性や電気特性を向上させることができる。
【0079】
本開示の第二の樹脂組成物において、分散相中の成分の確認方法は特に限定されないが、例えば、本開示の第一の樹脂組成物と同様の方法で確認できる。
なお、分散相中に存在する連続相の成分の量は特に限定されない。
【0080】
本開示の第二の樹脂組成物では、熱可塑性樹脂(X)中に含フッ素共重合体(B)が粒子状に分散していること、又は、含フッ素共重合体(B)中に熱可塑性樹脂(X)が粒子状に分散していることが好ましい。
通常、熱可塑性樹脂(X)中に含フッ素共重合体(B)が粒子状に分散している形態では、熱可塑性樹脂(X)が連続相を、含フッ素共重合体(B)が分散相を形成し、含フッ素共重合体(B)中に熱可塑性樹脂(X)が粒子状に分散している形態では、含フッ素共重合体(B)が連続相を、熱可塑性樹脂(X)が分散相を形成する。熱可塑性樹脂(X)の含有量>含フッ素共重合体(B)の含有量の場合は前者の形態、熱可塑性樹脂(X)の含有量<含フッ素共重合体(B)の含有量の場合は後者の形態となることが一般的である。
【0081】
本開示の第二の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(X)又は含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r1と、ASTM D1238に従って、380℃又は樹脂組成物が溶融する温度以上で、5000g荷重下及び5分予熱にてメルトフローレート(MFR)を測定した後の熱可塑性樹脂(X)又は含フッ素共重合体(B)の平均分散粒子径r2とのr2/r1は、好ましくは1.70未満、より好ましくは1.50以下、更に好ましくは1.40以下である。下限は特に限定されないが、例えば1.0であってもよい。
なお、r1及びr2は、同じ樹脂又は同じ共重合体について測定したものであれば、熱可塑性樹脂(X)について測定したものであってもよいし、含フッ素共重合体(B)について測定したものであってもよい。熱可塑性樹脂(X)が溶融する温度以上の温度としては例えば400℃であってよい。
【0082】
r1及びr2が熱可塑性樹脂(X)について測定したものである場合、r2は、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。r2が上記範囲内であれば、衝撃強度に一層優れた成形品が得られる。下限は特に限定されないが、例えば0.01μmであってもよい。
【0083】
r1及びr2が含フッ素共重合体(B)について測定したものである場合、r2は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、更に好ましくは1.0μm以下である。r2が上記範囲内であれば、衝撃強度に一層優れた成形品が得られる。下限は特に限定されないが、例えば0.01μmであってもよい。
【0084】
含フッ素共重合体(B)としては、本開示の第一の樹脂組成物と同様のものを使用できる。
【0085】
熱可塑性樹脂(X)としては、本開示の第一の樹脂組成物で説明した非晶性樹脂(A)を好適に使用することができる。
【0086】
熱可塑性樹脂(X)としては、非晶性樹脂(A)以外の樹脂を使用してもよい。非晶性樹脂(A)以外の樹脂としては、例えば、スーパーエンプラに属する結晶性樹脂が挙げられる。
【0087】
スーパーエンプラに属する結晶性樹脂としては、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフタルアミド(PPA)を用いることができる。
【0088】
本開示の第二の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(X)と含フッ素共重合体(B)との質量比(X):(B)は特に限定されないが、例えば、99:1~10:90であることが好ましい。
また、この質量比において、熱可塑性樹脂(X)の上限は、好ましくは95、より好ましくは80であり、下限は、好ましくは20、より好ましくは35、更に好ましくは40である。含フッ素共重合体(B)の上限は、好ましくは80、より好ましくは65、更に好ましくは60であり、下限は、好ましくは5、より好ましくは20である。
【0089】
本開示の第二の樹脂組成物において、MFR、比誘電率、誘電正接の好ましい範囲は、本開示の第一の樹脂組成物と同様である。
【0090】
本開示の第二の樹脂組成物は、必要に応じて含フッ素共重合体(B)及び熱可塑樹脂(X)以外の成分を含んでいてもよい。含フッ素共重合体(B)及び熱可塑樹脂(X)以外の成分としては、本開示の第一の樹脂組成物で説明したものを使用可能である。
【0091】
本開示の第一の樹脂組成物は、例えば、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)に高いせん断力をかけながら溶融混錬することで製造することができ、本開示の第二の樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)に高いせん断力をかけながら溶融混錬することで製造することができる。具体的には、下記式1から算出されるせん断速度が600/sec以上の条件で溶融混練することで製造することができる。
本開示は、下記式1から算出されるせん断速度が600/sec以上で、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)を溶融混練する工程を含む樹脂組成物の製造方法をも提供する。
式1:γ=πDr/C
γ:せん断速度(/sec)
D:スクリュー外径(mm)
r:スクリュー回転数(rpm)
C:チップクリアランス(mm)
本開示はまた、上記式1から算出されるせん断速度が600/sec以上で、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)を溶融混練する工程を含む樹脂組成物の製造方法をも提供する。
【0092】
せん断速度は、好ましくは700/sec以上、より好ましくは800/sec以上、更により好ましくは900/sec以上、更により好ましくは1400/sec以上、更により好ましくは1500/sec以上、更により好ましくは1600/sec以上である。これにより、得られる樹脂組成物が流動性に一層優れるものとなり、また、衝撃強度に一層優れた成形品を得ることができる。上限は特に限定されないが、例えば3000/secであってもよい。
【0093】
溶融混練は、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)、又は、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)に高いせん断力をかけながら実施することが好ましい。溶融混練に使用する装置は特に限定されないが、特殊スクリューや、高回転数、狭いクリアランスなどの、よりせん断を効果的に加えることができる混練条件を整えることで、従来用いられている二軸押出機、単軸押出機、多軸押出機、タンデム押出機やバッチ式混練機であるロール練り機、ラボプラストミル、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、配合ミルでも実施可能である。これにより、非晶性樹脂又は熱可塑性樹脂(X)中に含フッ素共重合体を、あるいは、含フッ素共重合体中に非晶性樹脂又は熱可塑性樹脂(X)をサブミクロンオーダーで分散させることが可能になり、更に成形時に非晶性樹脂又は含フッ素共重合体が凝集する挙動を抑制することができる。その結果、衝撃強度に一層優れた成形品を与えることができるものとなる。高いせん断力をかけることができる装置としては、二軸押出機や混練部に内部帰還型スクリューを有する高せん断加工機(還流式高せん断加工機)を使用して実施することが好ましい。
内部帰還型スクリューは、先端部から後端側に向けてスクリュー中心軸に沿う帰還穴が形成されたスクリューである。混練部に内部帰還型スクリューを有する高せん断加工機においては、混練部に注入された溶融樹脂が内部帰還型スクリューの回転とともに先端側に送られ、先端部の流入口より帰還穴に流入して後方へ流れて吐出口より吐出され、再び内部帰還型スクリューの回転とともに先端側へ送られる循環がなされる。この循環により、溶融樹脂が高度に分散・混合され、分散相のサイズを小さくすることができる。上記高せん断加工機としては、特開2005-313608号公報、特開2011-046103号公報等に記載された装置が例示できる。
混練機として二軸押出機を用いる場合、L/Dの大きいスクリュー構成を有する二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機のスクリュー構成はL/D=30以上が好ましく、より好ましくはL/D=35以上であり、更に好ましくはL/D=40以上である。なお、L/Dは、スクリューの有効長さ(L)/スクリュー直径(D)である。混練性、生産性向上の観点から、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
【0094】
溶融混練の時間は、1~600秒が好ましく、5~300秒がより好ましい。溶融混練時間が上記時間より長くなると、樹脂の劣化が著しく、望む性能を発現することができないおそれがある。また、溶融混練時間が上記時間より短くなると分散性が悪くなり、所望の性能を得ることができないおそれがある。
溶融混練の温度は、非晶性樹脂(A)のガラス転移温度及び含フッ素共重合体(B)の融点以上であることが必要であり、240~450℃が好ましく、260~400℃がより好ましい。
【0095】
本開示の第一及び第二の樹脂組成物の形態は特に限定されないが、ペレットであってよい。すなわち、本開示の第一及び第二の樹脂組成物を成形して得られるペレットも本開示の一つである。
【0096】
本開示のペレットは、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)を混練して第一の本開示の樹脂組成物を得た後、又は、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)を混練して第二の本開示の樹脂組成物を得た後、混練物を混練機から取り出して、その後、ペレットの形状に成形したものであってもよいし、混練機を用いて非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)、又は、熱可塑性樹脂(X)及び含フッ素共重合体(B)を混練した後、混練機から溶融押出等により押出して成形したものであってもよい。
【0097】
成形方法としては特に限定されないが、例えば、二軸押出機等を用いて溶融押出する方法等が挙げられる。
【0098】
ペレットは、ペレットの形状に成形された後、後添加してもよいし、公知の成分を添加したものであってもよい。ペレットへの添加方法としては公知の方法が使用でき、ペレットにスプレー等で噴霧する方法、ペレットと添加物の粉末をドライブレンドする方法等が例示できる。例えば、ペレットは、成形後に滑剤(例えばステアリン酸マグネシウムなど)が添加されたものであってもよい。上記ペレットから形成された成形品は衝撃強度に優れる。
また、ペレットは、後添加してもよい公知の成分(例えば、滑剤)を添加した後にさらに混練してもよい。
また、上記製造方法により得られる樹脂組成物を成形して得られるペレット、及び、成形後に滑剤が添加されたペレットも本開示の一つである。
【0099】
非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)以外の成分は、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)に予め添加して混合しておいてもよいし、非晶性樹脂(A)及び含フッ素共重合体(B)を配合するときに添加してもよい。非晶性樹脂(A)の代わりに熱可塑性樹脂(X)を使用する場合も同様である。
【0100】
本開示の第一の樹脂組成物、第二の樹脂組成物又はペレットから形成される成形品も本開示の1つである。
【0101】
本開示の第一の樹脂組成物又は第二の樹脂組成物からなる成形品は、通常かかるペレットを射出成形して得ることができる。かかる射出成形においては、通常のコールドランナー方式の成形法だけでなく、ランナーレスを可能とするホットランナーによって製造することも可能である。また射出成形においても、通常の成形方法だけでなくガスアシスト射出成形、射出圧縮成形、超高速射出成形、射出プレス成形、二色成形、サンドイッチ成形、インモールドコーティング成形、インサート成形、発泡成形(超臨界流体を利用するものを含む)、急速加熱冷却金型成形、断熱金型成形および金型内再溶融成形、並びにこれらの組合せからなる成形法等を使用することができる。またフィルム成形、押出成形、押出による電線成形、チューブ成形、シート成形を使用することができる。
【0102】
本開示の成形品は、シャルピー強度が5KJ/m2以上であることが好ましく、10KJ/m2以上であることがより好ましい。シャルピー衝撃強度は大きいほどよく、上限は限定されないが、例えば100KJ/m2であってもよい。
シャルピー強度は、ASTM D6110-02に準拠し、衝撃試験機により測定した値である。
【0103】
本開示の成形品は、曲げ弾性率が1000MPa以上であることが好ましく、2000MPa以上であることがより好ましい。上限は限定されないが、例えば3000MPaであってもよい。
曲げ弾性率は、ASTM D 790に準拠し、万能材料試験機により測定した値である。
【0104】
本開示の成形品は、柔軟性が高く、また、比誘電率及び誘電正接が低いことから、誘電特性が求められる材料(特に、高周波回路基板用材料)として好適に用いられる。
【0105】
高周波回路基板は、高周波帯域でも動作させることが可能な回路基板である。高周波帯域とは、1GHz以上の帯域であってよく、3GHz以上の帯域であることが好ましく、5GHz以上の帯域であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、100GHz以下の帯域であってもよい。
【0106】
本開示の成形品を高周波回路基板用材料等として用いる場合、金属箔と、本開示の成形品とを積層体として用いることが好ましい。
金属箔と、本開示の成形品とを含む積層体も本開示の一つである。
【0107】
金属箔としては、銅、ステンレス、アルミニウム、鉄、銀、金、ルテニウム等が挙げられる。また、これらの合金も使用可能である。なかでも、銅が好ましい。銅としては、圧延銅、電解銅等を使用できる。
【0108】
本開示の積層体は、シートであることが好ましい。積層体の厚みは、例えば、1μm~1mmであってよく、1~500μmであることが好ましい。より好ましくは、150μm以下であり、更に好ましくは、100μm以下である。
【0109】
本開示の積層体は、金属箔及び本開示の成形品に、他の層が更に積層されたものであってもよい。
【実施例】
【0110】
つぎに本開示を実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0111】
<ガラス転移温度(Tg)>
JIS K7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、20℃/分の昇温速度の条件下で測定した。
【0112】
<連続使用温度>
UL746Bに準拠して測定した。
【0113】
<メルトフローレート(MFR)>
含フッ素共重合体及び非晶性樹脂のMFRは、ASTM D1238に準拠し、予熱時間5分、380℃又は400℃、5000g荷重の条件下で、メルトインデクサーを用いて測定した。含フッ素共重合体と非晶性樹脂とを混合して得られた樹脂組成物のMFRも、上記と同様の方法で測定した。
測定温度については、非晶性樹脂(1)を用いた例は380℃、非晶性樹脂(2)を用いた例は400℃とした。
【0114】
<融点>
示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0115】
<平均分散粒子径の算出>
実施例及び比較例で得られた混練物(樹脂組成物)、実施例及び比較例で得られた混練物のMFR測定後のストランド、並びに、実施例及び比較例で得られた射出成形品(成形品)から切出した切片を、流れ方向に対し垂直に切断し、その断面を共焦点レーザー顕微鏡にて撮影し、得られた顕微鏡画像を画像解析ソフト(Image J)により解析した。分散相を選択し、円相当径を求めた。分散相20個分の円相当径を算出し、これを平均して平均分散粒子径r1及び平均分散粒子径r2とした。
【0116】
<混練時せん断速度>
混練時のせん断速度(γ)は、下記式1を用いて求めた。
式1:γ=πDr/C
D:スクリュー外径(mm)
r:スクリュー回転数(rpm)
C:チップクリアランス(mm)
【0117】
<衝撃強度(シャルピー衝撃強度)>
上述した方法で作製した射出成形品にノッチを入れ、ASTM D6110-02に準拠し、衝撃試験機により測定を行った。
【0118】
<曲げ弾性率>
上述した方法で作製した射出成形品を用いて、ASTM D 790に準拠し、万能材料試験機により測定した。測定条件は、試験速度2mm/minで行った。
【0119】
<比誘電率及び誘電正接>
上述した方法で作製した射出成形品を、幅2mm・長さ100mmの短冊状に切り出し、空洞共振器摂動法(ネットワークアナライザ)にて、25℃、20GHzにおける比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0120】
<IRピーク>
樹脂組成物から単離した分散相に対し、JIS K0117:2017に従ってIRを行った。結果は以下の基準で表記した。
〇:分散相の成分のピークだけではなく、連続相の成分のピークが検出
×:分散相の成分のピークだけが検出
なお、分散相が存在しない比較例2、比較例5や、分散相を単離できなかった実施例3、比較例4、実施例5、8は、IRを測定できなかったため、「-」と表記した。
【0121】
実施例及び比較例では、下記の材料を用いた。
非晶性樹脂(1):PEI(Tg:217℃、連続使用温度:170℃、MFR:58g/10分)
非晶性樹脂(2):TPI(Tg:250℃、連続使用温度:240℃、MFR:50g/10分)
含フッ素共重合体(1):FEP(TFE/HFP/PPVE共重合体(反応性官能基あり)、MFR:30g/10分、融点:260℃)
含フッ素共重合体(2):PFA(TFE/PAVE共重合体(反応性官能基あり)、MFR:16g/10分、融点:306℃)
含フッ素共重合体(3):FEP(TFE/HFP/PPVE共重合体(反応性官能基なし)、MFR:37g/10分、融点:260℃)
【0122】
実施例1~6、比較例1~4
表1、2に示す割合(質量%)で材料をドライブレンドし、120℃で8時間乾燥させたものを、還流式高せん断加工機(株式会社ニイガタマシンテクノ製)を用いて、以下に示す所定の条件で溶融混練し、樹脂組成物を製造した。なお、帰還穴の径はφ2.5mmのものを使用した。
スクリューのL/D:1.8
混練温度:360℃
混練時のせん断速度:表1、2に記載
混練時間:10秒
【0123】
実施例7
材料を表2に示す割合(質量%)で予備混合した後、二軸押出機(φ25mm、L/D=52.5)を使用して、シリンダー温度360℃、せん断速度2090sec-1の条件下で溶融混練し、樹脂組成物を製造した。
【0124】
比較例5、実施例8
表2に示す割合(質量%)で材料をドライブレンドし、混練温度を400℃とする以外は実施例1と同様の条件で樹脂組成物を製造した。
【0125】
<射出成形品の作製>
実施例及び比較例で製造した樹脂組成物を120℃で8時間乾燥した後、小型射出成形機により射出成形することでASTM多目的試験片(127mm×12.7mm×3.2mm)を得た。
【0126】
【0127】
【0128】
組成が同じ実施例、比較例を比較すると、r2/r1が1.70未満である実施例は、衝撃強度が良好であった。また、実施例1~7は、非晶性樹脂のみを用いた比較例2と比較して、柔軟性が高く、かつ、比誘電率、誘電正接が低い傾向があった。実施例8と比較例6との比較でも同様の傾向があった。
【0129】
非晶性樹脂(A)の含有量>含フッ素共重合体(B)の含有量である実施例1、2、4、6、7、8、比較例1、3では、非晶性樹脂(A)が連続相を、含フッ素共重合体(B)が分散相を形成した。非晶性樹脂(A)の含有量<含フッ素共重合体(B)の含有量である実施例3、5、比較例4では、含フッ素共重合体(B)が連続相を、非晶性樹脂(A)が分散相を形成した。
【0130】
実施例1、2、4、6、7は、IRピークの結果が〇であり、分散相中に連続相の成分が存在していた。実施例3、5、8はIRを実施することができなかったが、他の実施例と同様の改善効果が得られていることから、分散相中に連続相の成分が存在すると推測される。