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特許7560817モード同期レーザー装置およびモード同期方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】モード同期レーザー装置およびモード同期方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/11 20230101AFI20240926BHJP
【FI】
H01S3/11
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022528923
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2021021465
(87)【国際公開番号】W WO2021246531
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2020098091
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519318764
【氏名又は名称】セブンシックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 達俊
(72)【発明者】
【氏名】西浦 匡則
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-080013(JP,A)
【文献】特開2018-139279(JP,A)
【文献】特開2012-151313(JP,A)
【文献】特開2014-017457(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0048110(US,A1)
【文献】特開平09-321372(JP,A)
【文献】特表2018-502434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/10 - 3/102
H01S 3/105- 3/131
H01S 3/136- 3/213
H01S 3/23 - 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を生成するモード同期レーザー装置であって、
共振器内に設けられ、通過波長特性が少なくとも2つ以上の波長において極大値を有し、前記通過波長特性に応じて、光の波長成分を選択的に通過させるフィルタ部を備え、
前記レーザー光の発振後において、前記レーザー光の発振波長の波長成分である第1波長成分が、前記共振器内における前記レーザー光の伝搬経路において遮断されることなく前記共振器内を周回
前記第1波長成分における前記レーザー光の発振が、前記フィルタ部が通過させた前記レーザー光の第2波長成分であって前記第1波長成分とは異なる第2波長成分により、誘発される、
モード同期レーザー装置。
【請求項2】
可飽和吸収体として機能するNALMを更に備える、請求項1に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項3】
前記フィルタ部の前記通過波長特性は、いずれかの前記極大値の波長を含み、前記第1波長成分を選択的に通過させる第1通過帯域と、いずれかの前記極大値の波長を含み、前記第2波長成分を選択的に通過させる第2通過帯域とを有する
請求項1または2に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項4】
レーザー光を生成するモード同期レーザー装置であって、
共振器内に設けられ、通過波長特性が少なくとも2つ以上の波長において極大値を有し、前記通過波長特性に応じて、光の波長成分を選択的に通過させるフィルタ部と、
前記レーザー光の伝搬経路に設けられ、光ファイバーを含むか、または光ファイバーに接続される増幅部と、
を備え、
前記レーザー光の発振後において、前記レーザー光の発振波長の波長成分である第1波長成分が、前記共振器内における前記レーザー光の伝搬経路において遮断されることなく前記共振器内を周回し、
前記フィルタ部の前記通過波長特性は、いずれかの前記極大値の波長を含み、前記第1波長成分を選択的に通過させる第1通過帯域と、いずれかの前記極大値の波長を含み、前記発振波長とは異なる波長成分である第2波長成分を選択的に通過させる第2通過帯域とを有し、
前記光ファイバーの、前記第2波長成分の分布特性における誘導放出断面積は、前記第1波長成分の分布特性における誘導放出断面積よりも大きい、
モード同期レーザー装置。
【請求項5】
前記フィルタ部が通過させた前記レーザー光の前記第2波長成分は、前記発振波長における発振を誘発する
請求項4に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項6】
前記第2通過帯域の幅は、前記第1通過帯域の幅よりも狭い
請求項3から5のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項7】
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はYbファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長が、ともに1020nm以上、1100nm以下である
請求項からのいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項8】
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はErファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の第2中心波長が、ともに1530nm以上、1555nm以下もしくは1555nm以上、1600nm以下である
請求項からのいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項9】
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はNdファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長が、ともに1060nm以上、1080nm以下もしくは888nm以上、914nm以下である
請求項からのいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項10】
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はTmファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長が、ともに1960nm以上、2020nm以下もしくは1860nm以上、1960nm以下である
請求項からのいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項11】
前記第1通過帯域および前記第2通過帯域は可変であり、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長の波長差を増加させた場合に、前記第1通過帯域の幅を増加させる
請求項から10のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項12】
前記第1通過帯域および前記第2通過帯域は可変であり、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長の波長差を減少させた場合に、前記第2通過帯域の幅を減少させるか、または、前記第2通過帯域における減衰率を増加させる
請求項から10のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項13】
前記モード同期レーザー装置が出力する前記レーザー光において、前記第2波長成分の大きさは、前記第1波長成分の10%以下である
請求項1から12のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項14】
前記第2波長成分における波長は、前記第1波長成分における波長よりも小さい、請求項1から13のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項15】
前記レーザー光を伝搬する偏波保持ファイバーを更に備える
請求項1から14のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項16】
前記フィルタ部は、前記レーザー光の発振を開始するためのモード同期パルスを通過させる
請求項1から14のいずれか一項に記載のモード同期レーザー装置。
【請求項17】
レーザー光をモード同期させるモード同期方法であって、
前記レーザー光の共振器内において、少なくとも2つ以上の波長において極大値を有する通過波長特性に応じて、光の第1波長成分と、前記第1波長成分と異なる第2波長成分とを選択的に通過させて、前記レーザー光をモード同期させ、
前記レーザー光の発振後において、前記レーザー光の発振波長の波長成分である前記第1波長成分が、前記レーザー光の伝搬経路の全てを伝搬することにより、前記共振器内を周回
前記第2波長成分が、前記第1波長成分における前記レーザー光の発振を誘発する、
モード同期方法。
【請求項18】
前記通過波長特性は、いずれかの前記極大値の波長を含み前記第1波長成分を選択的に通過させる第1通過帯域と、いずれかの前記極大値の波長を含み前記第2波長成分を選択的に通過させる第2通過帯域とを有する、請求項17に記載のモード同期方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの異なる波長を選択的に用いることで自己始動モード同期を簡単に実現する方法およびレーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス幅が数十ピコ秒以下のレーザー光を出力するレーザー装置として光ファイバー等を用いたモード同期レーザー光源が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1 US8416817号
特許文献2 US7940816号
【解決しようとする課題】
【0003】
ピコ秒やフェムト秒パルスレーザー光を生成するレーザー装置においては、簡便な方法でモード同期レーザー発振し、短時間で安定することが好ましい。最近では、ファイバー小型で低コスト、環境安定性に優れたモード同期ファイバーレーザーが多くの産業用途で使用されている。特に、環境安定性に優れた偏波保持ファイバー(PMF)で構成され、また、レーザーの発振波長において正常分散を示す光学部品のみを用いたモード同期ファイバーレーザー(ANDi MLFL : All Normal Dispersion Mode-Locked Fiber Laser)は、高いパルスエネルギーを出力することができるため、微細加工などの応用に適している。通常、モード同期の自己始動のためには、励起光源として用いる半導体レーザーの出力調整や、偏波制御、温度制御などが必要であった。PMFを用いて構成したANDi MLFLにおいても自己始動は難しく、モード同期の自己始動のためには、励起光源として用いる半導体レーザーの出力変調など複雑な制御が必要となっていた。さらに、ANDi MLFLを構成する可飽和吸収部に半導体可飽和吸収ミラーなどの素子を用いず、可飽和吸収部に非線形偏波回転や非線形増幅ループミラーを用いるようなANDi MLFLでは特に自己始動が難しかった。また、レーザー装置においてはレーザー発振波長の選択肢が広いことが好ましいが、モード同期レーザーでは発振波長の選択性は低く、誘導放出断面積の小さな波長におけるモード同期レーザー発振を得ることは難しかった。
【一般的開示】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、自己始動モード同期を簡単に実現するモード同期パルス光生成フィルタ(フィルタ部)を備え、それを備えることでピコ秒やフェムト秒パルスレーザー光を生成するレーザー装置を提供する。レーザー装置は、共振器内にレーザー光を増幅して出力する増幅部を備えてよい。モード同期パルス光生成フィルタは、共振器内に設けられてよい。モード同期パルス光生成フィルタの通過波長特性が少なくとも2つ以上の波長において極大値を有してよい。モード同期パルス光生成フィルタは、当該通過波長特性に応じて、光の波長成分を選択的に通過させてよい。
【0005】
モード同期パルス光生成フィルタの通過波長特性は、レーザー光の発振波長の波長成分である第1波長成分を選択的に通過させる第1通過帯域と、発振波長とは異なる波長成分である第2波長成分を選択的に通過させる第2通過帯域とを有してよい。
【0006】
フィルタ部は、レーザー光の伝搬経路において一つの場所に設けられた一つのフィルタであってよい。フィルタ部は、異なる場所に設けられた二つ以上のフィルタを有してもよい。一つのバンドパスフィルタに第1通過帯域および第2通過帯域の両方が設定されてよい。第1通過帯域を選択する光ファイバーブラッググレーティング(FBGと称する)と、第2通過帯域を選択するFBGが、レーザー光の伝搬経路に設けられてよい。
【0007】
フィルタ部の通過波長特性は、2つの極大値の間に、極小値を有していてよい。極小値は、低いほうの極大値と比べて-10dB以上減衰した値であってよい。極小値は、当該極大値と比べて-20dB以上減衰していてよい。極小値は、当該極大値と比べて-30dB以上減衰していてよい。フィルタ部の通過波長特性は、2つの極大値の間がつながっていてよい。フィルタ部の通過波長特性は、2つの極大値の間がつながっていなくてよい。フィルタ部の通過波長特性は、第1通過帯域および第2通過帯域の間に、他の成分を有していてもよい。他の成分は、線状の成分であってよい。
【0008】
レーザー装置が出力するレーザー光において、第2波長成分の大きさは、第1波長成分の10%以下であってよい。
【0009】
第2フィルタ部の通過帯域幅は、第1フィルタ部の通過帯域幅よりも狭くてよい。
【0010】
第2フィルタ部の通過帯域幅が、0.2nm以上であってよい。
【0011】
第2フィルタ部の通過帯域幅が、4.6nm以下であってよい。
【0012】
第2フィルタ部の第2波長成分に対する減衰率は、第1フィルタ部の第1波長成分に対する減衰率よりも大きくてよい。
【0013】
第1フィルタ部の通過帯域の第1中心波長と、第2フィルタ部の通過帯域の第2中心波長との波長差が18nm以下であってよい。
【0014】
波長差が9nm以上であってよい。
【0015】
増幅部はYbファイバーを含んでよい。第1中心波長および第2中心波長が、ともに1020nm以上、1100nm以下であってよい。
【0016】
増幅部はErファイバーを含んでよい。第1中心波長および第2中心波長が、ともに1530nm以上、1555nm以下もしくは、1555nm以上、1600nm以下であってよい。
【0017】
増幅部はNdファイバーを含んでよい。第1中心波長および第2中心波長が、ともに1060nm以上、1080nm以下もしくは、888nm以上、914nm以下であってよい。
【0018】
増幅部はTmファイバーを含んでよい。第1中心波長および第2中心波長が、ともに1960nm以上、2020nm以下もしくは、1860nm以上、1960nm以下であってよい。
【0019】
第1通過帯域および第2通過帯域は可変であってよい。第1中心波長および第2中心波長の波長差を増加させた場合に、第1通過帯域の幅を増加させてよい。
【0020】
第1中心波長および第2中心波長の波長差を減少させた場合に、第2通過帯域の幅を減少させてよい。または、第2通過帯域における減衰率を増加させてよい。
【0021】
レーザー装置は、レーザー光を直線偏光にするポラライザーを備えてよい。レーザー装置は、レーザー光を伝搬する偏波保持ファイバーを備えてよい。レーザー装置は、可飽和吸収体として機能するNALMを備えてよい。
【0022】
増幅部はYbやEr等の希土類を含む平面導波路であってよい。
【0023】
レーザー装置は、光伝送部を伝送しているレーザー光と、励起レーザー光とを結合するレーザー入力部を備えてよい。レーザー入力部は、WDM(波長分割多重)カプラーであってよい。
【0024】
レーザー装置は、光伝送部を伝送しているレーザー光のうち、予め定められた割合を出力するレーザー出力部を備えてよい。レーザー入力部とレーザー出力部との間には、レーザー光の周回方向を規定する光アイソレータが設けられてよい。
【0025】
レーザー装置は、光伝送部と可飽和吸収部とを結合する結合部を備えてよい。結合部は、NALMのループに入力されるレーザー光を、ループを時計回りに伝搬する成分と、ループを反時計回りに伝搬する成分とに分離してよい。
【0026】
レーザー装置は、レーザー光を反射する反射部を備えてよい。増幅部に近い構成から、第2フィルタ部、第1フィルタ部および反射部の順番で配置されてよい。反射部は、第1フィルタ部を通過した第1波長成分のレーザー光を、第1フィルタ部に反射してよい。
【0027】
本発明の第2の態様においては、レーザー光をモード同期させるモード同期方法を提供する。当該方法は、レーザー光が伝搬する経路において、少なくとも2つ以上の波長において極大値を有する通過波長特性に応じて、光の波長成分を選択的に通過させて、レーザー光をモード同期させる。
【0028】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一つの実施形態に係るレーザー装置100の構成例を示す図である。
図2】フィルタ部10の通過波長特性の一例を示す図である。
図3】光伝送部101における電子のエネルギー準位を説明する図である。
図4】増幅部20に用いられるYbファイバーの誘導放出断面積を示す図である。
図5】第2フィルタ部10-2を有することで、第1波長における発振を短時間で安定化させることができることを説明する概念図である。
図6】第2フィルタ部10-2を設けない場合の、励起レーザーおよびレーザー光の時間波形および波長分布を示す図である。
図7】第2フィルタ部10-2を設けた場合の、励起レーザーおよびレーザー光の時間波形および波長分布を示す図である。
図8】光伝送部101および可飽和吸収部102の構成例を示す図である。
図9A図8のフィルタ部10に設定した第1通過帯域301および第2通過帯域302の一例を示す図である。
図9B図9Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。
図10A】第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。
図10B図10Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。
図11A】第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。
図11B図11Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。
図12A】第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。
図12B図12Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。
図13A】第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。
図13B図13Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。
図14A】第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。
図14B図14Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。
図15】フィルタ部10の他の構成例を示す図である。
図16】光伝送部101の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0031】
図1は、本発明の一つの実施形態に係るレーザー装置100の構成例を示す図である。レーザー装置100は、予め定められた発振帯域の波長成分を有するレーザー光を生成する装置である。レーザー装置100は、パルス幅がピコ秒オーダー(例えば、1ピコ秒から1000ピコ秒)またはフェムト秒オーダー(例えば、1フェムト秒から1000フェムト秒)のレーザー光を生成してよい。本明細書では、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長のうち、強度が最大となる波長を第1波長(または発振波長)と称する。また、レーザー装置100が出力するレーザー光に含まれる光のうち、第1波長の成分を第1波長成分と称する。発振帯域は、第1波長を中心とする帯域であってよい。
【0032】
レーザー装置100は、レーザー光が伝搬する経路に設けられたフィルタ部10、増幅部20、および、可飽和吸収部102を備える。可飽和吸収部102は、入射したレーザー光のうち、比較的に強度の低い時間成分の波長を吸収する。また可飽和吸収部102は、比較的に強度の高い時間成分は、吸収せずに伝搬させる。つまり可飽和吸収部102は、レーザー光の時間波形のうち、強度の低い裾部分を吸収し、強度の大きいピーク部分を通過させことで、レーザー光のパルスを、時間軸において狭帯域化する。可飽和吸収部102を設けることで、レーザー光を短パルス化できる。
【0033】
フィルタ部10および増幅部20は、光ファイバーを含む構成であってよく、光ファイバーに接続される構成であってもよい。フィルタ部10および増幅部20は、レーザー光が周回するループ中に配置されていてよく、レーザー光が往復する経路中に配置されていてもよい。また、フィルタ部10、増幅部20および可飽和吸収部102の各々は、レーザー装置100における特定の箇所に配置された単独の部品または回路であってよく、レーザー装置100において分散して配置された複数の部品または回路により構成されてもよい。また、レーザー装置100が全体として、フィルタ部10、増幅部20または可飽和吸収部102として機能してもよい。つまり、レーザー装置100の光ファイバー等の各構成部品が組み合わされて、フィルタ部10、増幅部20または可飽和吸収部102としての機能を奏してもよい。レーザー装置100においてレーザー光を伝搬する光ファイバーは、少なくとも一部が偏波保持ファイバー(PMF)であってよい。レーザー装置100を構成する全ての光ファイバーが、偏波保持ファイバーであってもよい。
【0034】
また、共通の部品が、フィルタ部10、増幅部20、および、可飽和吸収部102の少なくとも2つとして機能してもよい。例えば増幅部20がフィルタ部10の少なくとも一部の機能を奏してよく、可飽和吸収部102がフィルタ部10の少なくとも一部の機能を奏してもよい。
【0035】
増幅部20は、通過するレーザー光の強度を増幅する。増幅部20は、例えば希土類等の不純物が添加された光ファイバーを有してよい。当該不純物は例えばイッテルビウム(Yb)であるが、これに限定されない。また光ファイバーの材料は、例えば石英ガラスであるが、これに限定されない。増幅部20は、YbやEr(エルビウム)等の希土類を含む平面導波路を有していてもよい。
【0036】
フィルタ部10は、所定の通過波長特性を有し、当該通過波長特性に応じて、光(本例では、自然放射増幅光もしくはレーザー光)の波長成分を選択的に通過させる。通過波長特性とは、各波長において、入射される光の強度に対して通過させる光の強度の割合を示す特性である。一例としてフィルタ部10は、所定の通過帯域以外の波長成分を減衰させるバンドパスフィルタである。フィルタ部10の通過波長特性は、少なくとも2つ以上の波長において極大値を有する。本例のフィルタ部10は、レーザー光の発振を開始するためのモード同期パルスを通過させるフィルタとして機能する。
【0037】
なお、レーザー装置100は、光ファイバーを伝搬するレーザー光を直線偏光にするポラライザーを有してよい。ポラライザーとフィルタ部10間の偏波保持ファイバーの偏光軸の調整により、フィルタ部10からポラライザーを透過するレーザー光の強度を調整してもよい。
【0038】
図2は、フィルタ部10の通過波長特性の一例を示す図である。図2における横軸は、フィルタ部10を伝搬する光の波長を示しており、縦軸は、フィルタ部10における各波長の透過率を示している。透過率は、フィルタ部10を通過する前の光の強度に対する、フィルタ部10を通過した後の光の強度の割合である。
【0039】
フィルタ部10の通過波長特性とは、レーザー装置100全体の通過波長特性であってよい。一例としてレーザー光が所定のループ経路を周回する場合、フィルタ部10の通過波長特性とは、レーザー光がループ経路を1周したときの通過波長特性であってよい。また、レーザー光が所定の経路を往復する場合、フィルタ部10の通過波長特性とは、レーザー光が当該経路を1往復したときの通過波長特性であってよい。レーザー装置100が明示的なフィルタを備えている場合、フィルタ部10の通過波長特性とは、当該フィルタの特性であってもよい。明示的なフィルタとは、例えばFBGのようにフィルタとして公知の構造を有する部品である。
【0040】
上述したように、通過波長特性は、少なくとも2つの極大値(本例では極大値201、極大値202)を有する。本例では、極大値201の波長がレーザー装置100の発振波長(第1波長λ1と称する)に対応する。ただし、極大値201の波長は、発振波長と厳密に一致していなくてもよい。また、極大値202の波長(第2波長λ2と称する)は、発振波長とは異なる波長である。また、本例の通過波長特性は、各極大値を頂点とする山形の特性を有しているが、所定の波長幅で連続して極大値を示す平坦な特性を有していてもよい。
【0041】
フィルタ部10は、第1波長λ1を含む第1通過帯域301と、第2波長λ2を含む第2通過帯域302とを有する。図2においては、第1波長λ1が第2波長λ2より大きい例を示しているが、第1波長λ1は第2波長λ2より小さくてもよい。本例において各通過帯域は、透過率が極大値の半分以上の帯域である。上述したように第1通過帯域301は、第1波長λ1(発振波長)を含む帯域である。つまり第1通過帯域301は、入射した自然放射増幅光もしくはレーザー光のうち、発振帯域の波長成分である第1波長成分を選択的に通過させる。第2通過帯域302は、第1波長λ1とは異なる第2波長λ2を含む帯域である。本明細書では、経路を伝搬する自然放射増幅光もしくはレーザー光に含まれる第2波長λ2の成分を第2波長成分と称する。第2通過帯域302は、入射した自然放射増幅光もしくはレーザー光のうち、発振帯域とは異なる波長成分である第2波長成分を選択的に通過させる。
【0042】
フィルタ部10は、レーザー光の伝搬経路(つまり、レーザー光の共振器内)において一つの場所に設けられた一つのフィルタであってよく、異なる場所に設けられた二つ以上のフィルタを有してもよい。一例として、一つのバンドパスフィルタに第1通過帯域301および第2通過帯域302の両方が設定されてよい。他の例では、第1通過帯域301を選択する光ファイバーブラッググレーティング(FBGと称する)と、第2通過帯域302を選択するFBGが、レーザー光の伝搬経路に設けられてもよい。
【0043】
なお、フィルタ部10の通過波長特性は、2つの極大値の間に、極小値203を有していてよい。極小値203は、低いほうの極大値と比べて-10dB以上減衰した値であってよい。極小値203は、当該極大値と比べて-20dB以上減衰していてよく、-30dB以上減衰していてもよい。また、フィルタ部10の通過波長特性は、2つの極大値の間がつながっていてよく、つながっていなくてもよい。2つの極大値の間がつながっているとは、例えば極小値203が、低いほうの極大値の10%以上の場合である。また、フィルタ部10の通過波長特性は、第1通過帯域301および第2通過帯域302の間に、他の成分204を有していてもよい。成分204は、例えば線状の成分であってよい。
【0044】
フィルタ部10の通過波長特性が2つの極大値を有することで、レーザー光の伝搬経路の少なくとも一部分において、レーザー光は第1波長成分と第2波長成分を含む。レーザー光が、第1波長成分(発振波長)とは異なる第2波長成分を含むことで、第1波長λ1における発振を誘発することができ、第1波長λ1における発振を短時間で安定化させることができる。
【0045】
図3は、増幅部20におけるYbが添加された光ファイバーの電子のエネルギー準位を説明する図である。図3の例では、Ybが添加された光ファイバーを含む例を示すが、レーザー媒質はこれに限定されず、他の希土類が添加された光ファイバーでもよく、希土類が添加されたLINBO3やリン酸ガラス系、石英ガラス系の平面導波路でもよい。励起準位とレーザー上準位は同一でもよく、エネルギー準位はこれに限定されない。増幅部20の電子は、レーザー下準位1および2よりもレーザー上準位の電子数が多い、反転分布の状態となる。
【0046】
励起準位の電子が、より低い準位に遷移することで、エネルギー準位差に応じた波長の光が放出される。レーザー上準位の電子が多様な準位に遷移することで、レーザー光には多様な波長成分が含まれる。本例では、第1波長λ1に相当するレーザー下準位をレーザー下準位1とし、第2波長λ2に相当するレーザー下準位をレーザー下準位2とする。
【0047】
図4は、増幅部20に用いられるYbファイバーの誘導放出断面積を示す図である。図4において横軸は波長であり、縦軸は断面積である。図4の例では、光ファイバーがYbを含む例を示すが、光ファイバーの材料はこれに限定されない。
【0048】
フィルタ部10における第1波長λ1は、図4に示す波長成分の分布特性において、誘導放出断面積が一定以上の波長に設定される。第1波長λ1を選択的に通過させることで、第1波長λ1で発振しやすくなる。また、フィルタ部10における第2波長λ2も、波長成分の分布特性において、誘導放出断面積が一定以上の波長に設定される。第2波長λ2は、波長成分の分布特性における断面積が、第1波長λ1よりも大きい波長に設定されてよい。
【0049】
図5は、第2通過帯域302を有することで、第1波長λ1における発振を短時間で安定化させることができることを説明する概念図である。図5では、増幅部20を伝送するレーザー光に含まれる第1波長成分と、第2波長成分の時間波形を分離して示している。
【0050】
図1の増幅部20において、Qスイッチ動作により第2波長成分で大きな誘導放出が起こると、図3において説明したレーザー下準位2の電子量が増加する。これにより、レーザー上準位とレーザー下準位2間の反転分布は小さくなり、第2波長成分は時間とともに小さくなっていく。一方で、第1波長成分では大きな誘導放出が起きないため、レーザー上準位とレーザー下準位1間では反転分布が維持される。これにより、第1波長成分が適度に増幅され、第1波長における発振が短時間で生じやすくなる。
【0051】
一般的なモード同期レーザーでは、一度モード同期パルス発振が停止してしまった場合、再度モード同期パルスを得るために、レーザー励起用の半導体レーザーの駆動電流の再調整が必要である。これには通常、数十秒から数分程度の時間がかかる。本方法では、何らかの要因で第1波長における発振が停止してしまった場合であっても、第2波長成分が存在することで第1波長における発振を自動で且つ高速に再開できる。
【0052】
図6は、第1通過帯域301を設け、第2通過帯域302を設けない場合の、励起レーザーおよびレーザー光の時間波形および波長分布を示す図である。レーザー光は、レーザー装置100が出力するレーザー光である。
【0053】
段階501において励起レーザー光の強度を大きくする。励起レーザー光の強度を大きくすると、レーザー光には強度の大きい発振成分が生じる(段階S502)。段階S502の状態は、数秒から数分間継続する。励起レーザー光の強度を維持すると、時間波形では、複数のモード同期パルスが発生する(段階S503)。この状態で、励起レーザー光の強度を下げていくと、所定の発振波長のモード同期パルスが残存する(段階S504)。
【0054】
このように、第2通過帯域302を設けない場合、レーザー光の発振を開始させるために、励起レーザー光の強度を大きく上げて、非常に高強度のパルスを生成するQスイッチ発振を起こす(段階S502)。その後、高強度のパルスが複数のパルスに分かれて発振器内に1個以上のパルスが存在するマルチパルス発振と呼ばれる状態になる(段階S503)。最後に、励起レーザー光の強度を下げることで、安定なシングルパルス発振を実現する(段階S504)。このため、所定の発振波長のレーザー光を生成するのに、数分程度要する場合があった。
【0055】
図7は、第1通過帯域301および第2通過帯域302を設けた場合の、励起レーザーおよびレーザー光の時間波形および波長分布を示す図である。上述したように、第2通過帯域302を設けることで、第1波長λ1での発振が可能となる。本例では、段階S601において励起レーザー光の強度を大きくしなくてもよく、Qスイッチ発振で生成されるパルスが比較的小さい。その結果、マルチパルス発振の状態を経ることなく、第1波長λ1での発振が開始される(S603)。一例では、Ybファイバーを用いて、第1波長λ1を1040nm、第2波長λ2を1030nmとした場合に、平均2秒以内にレーザー光を生成できた。
【0056】
図8は、レーザー装置100の構成例を示す図である。本例のレーザー装置100は、光伝送部101および可飽和吸収部102を有する。光伝送部101は、フィルタ部10、増幅部20として機能する長尺のファイバー部23、増幅部21、レーザー入力部30、レーザー出力部40、光ファイバー50、光アイソレーター60および結合部70を有する。光伝送部101の各構成要素は、光ファイバー50により接続されている。本例の光伝送部101においては、レーザー光が光伝送部101中をループする。また、光伝送部101は、各構成要素が光ファイバーにより形成された、全ファイバー装置であってよい。本例の光伝送部101は、光ファイバー50により可飽和吸収部102と接続されており、光伝送部101と可飽和吸収部102との間でレーザー光が往復する。本例では可飽和吸収部102として、非線形増幅ループミラー(Nonlinear Amplifying Loop Mirror:NALM)を用いている。
【0057】
レーザー入力部30には、励起レーザー光が入力される。レーザー入力部30は、光伝送部101を伝送しているレーザー光と、励起レーザー光とを結合して、光ファイバー50を伝送させる。レーザー入力部30は、例えばWDM(波長分割多重)カプラーである。
【0058】
本例の増幅部21は、レーザー入力部30と、レーザー出力部40との間に設けられている。なお、ループ状の光伝送部101において、構成Aと、構成Bとの間とは、レーザー光の周回方向において、構成Aから構成Bまでの領域を指す。増幅部21はYbが添加された光ファイバー(YDF)を有してよい。長尺のファイバー部23は、レーザー入力部30と、レーザー出力部40との間に設けられている。本例のファイバー部23は、増幅部21と、レーザー出力部40との間に設けられている。ファイバー部23は、非偏波保持ファイバー(Non-PMF)を有してよい。ファイバー部23および増幅部21はいずれか一方だけが設けられていてもよい。ファイバー部および増幅部21は、励起レーザー光により、光伝送部101を伝送しているレーザー光の強度を増幅する。長尺のファイバー部23および増幅部21の配置は、図8の例に限定されない。
【0059】
レーザー入力部30とレーザー出力部40との間には、レーザー光の周回方向を規定する光アイソレーター60が設けられてよい。本例の光アイソレーター60は、増幅部21と長尺のファイバー部23との間に設けられている。
【0060】
本例のレーザー出力部40は、長尺のファイバー部23と、フィルタ部10との間に配置されている。レーザー出力部40は、光伝送部101を伝送しているレーザー光のうち、予め定められた割合を出力する。例えばレーザー出力部40は、通過するレーザー光の10%から80%程度を、出力レーザー光として外部に出力する。レーザー出力部40を通過するレーザー光に対する出力レーザー光の比率の下限は、10%より小さくてもよい(例えば1%)。また当該比率の上限は、90%程度であってもよい。残りのレーザー光は、光伝送部101を伝送する。レーザー出力部40は、例えばOC(出力カプラー)である。
【0061】
フィルタ部10は、光伝送部101を伝送するレーザー光のうち、設定される通過帯域の波長成分を通過させ、通過帯域外の波長成分は減衰させる。本例のフィルタ部10は、図1から図7において説明した第1通過帯域301および第2通過帯域302が設定される光学バンドパスフィルタである。フィルタ部10とレーザー出力部40との間には、光アイソレーター60が設けられてよい。
【0062】
結合部70は、光伝送部101と可飽和吸収部102とを結合する。本例の結合部70は、NALMのループに入力されるレーザー光を、ループを時計回りに伝搬する成分と、ループを反時計回りに伝搬する成分とに分離する。本例の結合部70は、ファイバー部23と、レーザー出力部40との間に配置されているが、結合部70の配置はこれに限定されない。
【0063】
可飽和吸収部102は、レーザー入力部30を通過したレーザー光を受け取り、所定の強度以下のパルスの時間成分を構成する波長成分を吸収する。可飽和吸収部102は、光伝送部101から受光したレーザー光のうち、所定の強度より高い波長成分を光伝送部101に入力する。
【0064】
本例の可飽和吸収部102は、時計回りに伝搬する成分と、反時計回りに伝搬する成分とに対して、強度差に応じて位相差を生じさせる。結合部70においては、2つの成分の位相差に応じた透過特性で、可飽和吸収部102から光伝送部101にレーザー光を伝搬する。このため、可飽和吸収部102は、比較的に低強度の時間成分については減衰させ、比較的に高強度の時間成分については光伝送部101の時計回り方向に伝搬させる。
【0065】
本例の可飽和吸収部102は、増幅部103、光ファイバー106、レーザー入力部104を有する。可飽和吸収部102の各構成要素は、光ファイバー106によりループ状に接続されている。レーザー入力部104は、励起レーザー光と、可飽和吸収部102を反時計回りに伝送しているレーザー光とを結合する。
【0066】
増幅部103は、結合部70からレーザー入力部104に時計回りで向かう経路に配置され、レーザー光を増幅する。増幅部103は、例えばYbがドープされた光ファイバーである。
【0067】
図9Aは、図8のフィルタ部10に設定した第1通過帯域301および第2通過帯域302の一例を示す図である。図9Aの縦軸は、フィルタ部10に入力されたレーザー光の強度に対する、フィルタ部10が出力するレーザー光の強度の比を示している。つまり、強度が1の場合、フィルタ部10における減衰は0dBである。
【0068】
本例の第1通過帯域301は、中心波長(第1波長)が1040nm、帯域幅が1.8nmである。また、第2通過帯域302は、中心波長(第2波長)が1030nm、帯域幅が1.5nmである。図9Aの例では、第1通過帯域301がガウス形状であり、第2通過帯域302が矩形形状であるが、第1通過帯域301および第2通過帯域302の形状は、それぞれガウス形状および矩形形状のいずれを選択してもよい。
【0069】
図9Bは、図9Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。本例では、励起レーザー光を投入してから瞬時に(5秒以内)に、図9Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。これに対して、第1通過帯域301だけをフィルタ部10に設定した場合、励起レーザー光を投入してから20分程度が経過してから、図9Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。つまり、第2通過帯域302を設定することで、第1波長で発振したレーザー光を瞬時に得られることがわかる。
【0070】
なお、レーザー装置100が出力するレーザー光において、第2波長成分の大きさP2は、第1波長成分の大きさP1の10%以下であってよい。P2はP1の1%以下であってよく、0.1%以下であってもよい。
【0071】
第2通過帯域302の通過帯域幅は、第1通過帯域301の通過帯域幅よりも小さくてよい。フィルタ部10の通過帯域の幅は、入力されたレーザー光の波長成分の強度が、半分以下となる波長帯域の幅であってよい。つまり、フィルタ部10の透過率が50%以上である波長帯域の幅であってよい。第2通過帯域302の通過帯域幅は、第1通過帯域301の通過帯域幅の90%以下であってよく、70%以下であってよく、50%以下であってもよい。
【0072】
図10Aは、第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。本例の第1通過帯域301は、中心波長(第1波長)が1048nm、帯域幅が3.5nmである。また、第2通過帯域302は、図9Aの例と同一である。
【0073】
図10Bは、図10Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。本例では、励起レーザー光を投入してから5秒程度経過すれば、図10Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。これに対して、第1通過帯域301だけをフィルタ部10に設定した場合、第1波長で発振したレーザー光は得られなかった。
【0074】
図11Aは、第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。本例の第1通過帯域301は、図9Aの例と同一である。第2通過帯域302は、中心波長(第2波長)が1030nm、帯域幅が1.8nmである。ただし、第2通過帯域302は、第2波長において-1.5dB減衰する。これに対し、第1通過帯域301は、第1波長における減衰は0dBである。
【0075】
図11Bは、図11Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。本例においても、励起レーザー光を投入してから少なくとも10秒程度経過すれば、図11Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。このように、第2通過帯域302の第2波長成分に対する減衰率は、第1通過帯域301の第1波長成分に対する減衰率よりも大きくてよい。第2通過帯域302の第2波長成分に対する減衰率は、第1通過帯域301の第1波長成分に対する減衰率の90%以下であってよく、70%以下であってよく、50%以下であってもよい。これにより、レーザー装置100から出力されるレーザー光において、第2波長成分を抑制しやすくなる。
【0076】
図12Aは、第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。本例の第1通過帯域301は、図9Aの例と同一である。第2通過帯域302は、中心波長(第2波長)が1030nm、帯域幅が4.6nmである。
【0077】
図12Bは、図12Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。本例においても、励起レーザー光を投入してから少なくとも10秒程度経過すれば、図12Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。ただし、第2通過帯域302の帯域幅を大きくしたことにより、レーザー光の一部が第2通過帯域302を通過してしまった。一方で、第1通過帯域301を通過したレーザー光は、レーザー装置100内で自己位相変調効果により波長成分が大きく広がる。第2通過帯域302を通過したレーザー光の一部と、自己位相変調効果により広がった波長の一部が重なりこれらの波長成分が干渉してしまっている。このため第2波長近傍の雑音成分が大きくなっている。第2通過帯域302の帯域幅は、4.6nm以下であることが好ましい。
【0078】
なお、第2通過帯域302の帯域幅を0.2nmまで小さくしても、図9Bに示した例と同様に、第1波長で発振したレーザー光が得られた。しかし、第2通過帯域302の帯域幅を小さくしすぎると、第1波長でのレーザー発振がしにくくなる場合がある。第2通過帯域302の帯域幅は、0.2nm以上であることが好ましい。
【0079】
本例では、第2通過帯域302の帯域幅を変更したが、第1通過帯域301の帯域幅を変更しても、同様に第1波長のレーザー光を得られる。ただし、第1通過帯域301の帯域幅が小さすぎると、第1波長のレーザー光が得にくくなるので、第1通過帯域301の帯域幅は0.8nm以上であってよい。第1通過帯域301の帯域幅は、第2通過帯域302の50%以上であってよい。
【0080】
図13Aは、第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。本例の第1通過帯域301は、図9Aの例と同一である。第2通過帯域302は、中心波長(第2波長)が1033nm、帯域幅が1.5nmである。
【0081】
図13Bは、図13Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。本例においても、励起レーザー光を投入してから少なくとも10秒程度経過すれば、図13Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。ただし、第2通過帯域302と第1通過帯域301の波長差を小さくしたことにより、第2通過帯域302を通過したスペクトル成分が、第1通過帯域301を通過した後に自己位相変調効果により広がったスペクトル成分に干渉しやすくなる。このため、図13Bに示すように、1033nm-1040nmの帯域において、雑音成分が大きくなっている。図13Aの例では、第2通過帯域302の第2波長を変更したが、第1通過帯域301の第1波長を変更しても、第1波長のレーザー光を得ることができる。
【0082】
第1通過帯域301の中心波長(第1波長)と、第2通過帯域302の中心(第2波長)との波長差は、9nm以上であることが好ましい。当該波長差は10nm以上であってもよい。また、当該中心波長の差分から、それぞれの通過帯域の帯域幅の半分を減じた値は、7.35nmであってよい。
【0083】
また、第1波長および第2波長の波長差が大きすぎると、第2波長の光が発生しても、第1波長の光を誘発しにくくなる場合がある。このため、第1波長と第2波長との波長差は、18nm以下であることが好ましい。当該波長差は15nm以下であってよく、12nm以下であってもよい。また、当該中心波長の差分から、それぞれの通過帯域の帯域幅の半分を減じた値は、16.35nm以下であってよい。
【0084】
図14Aは、第1通過帯域301および第2通過帯域302の他の例を示す図である。本例の第2通過帯域302は、図9Aの例と同一である。第1通過帯域301は、中心波長(第1波長)が1040nm、帯域幅が1.8nmである。ただし、第1通過帯域301は、第1波長において-2.8dB減衰する。
【0085】
図14Bは、図14Aに示した第1通過帯域301および第2通過帯域302を用いた場合に、レーザー装置100が出力するレーザー光の波長分布を示す図である。本例においても、励起レーザー光を投入してから少なくとも10秒程度経過すれば、図14Bに示す波長分布を有するレーザー光が得られた。ただし、第1通過帯域301の減衰率を大きくしたことにより、第2波長成分(1030nm)の相対的な大きさが、図9Bの例よりも大きくなっている。このため、第1通過帯域301の第1波長における減衰率は、第2通過帯域302の第2波長における減衰率の50%以上であってよく、70%以上であってよく、90%以上であってもよい。
【0086】
第1通過帯域301および第2通過帯域302は、増幅部20の光ファイバーの材料に応じた帯域であることが好ましい。つまり、図4において説明したように、光ファイバーで生成されるレーザー光の強度が一定以上となる波長帯域に、それぞれの通過帯域が設定されることが好ましい。
【0087】
一例として、増幅部20がYbファイバーを含む場合、第1波長および第2波長は、ともに1020nm以上、1050nm以下であることが好ましい。増幅部20がErファイバーを含む場合、第1波長および第2波長は、ともに、1530nm以上、1555nm以下もしくは1555nm以上、1600nm以下であることが好ましい。一方の波長が1530nm以上、1555nm以下であり、他方の波長が1555nm以上、1600nm以下であってもよい。増幅部20がNdファイバーを含む場合、第1波長および第2波長は、ともに、1060nm以上、1080nm以下もしくは888nm以上、914nm以下であることが好ましい。一方の波長が1060nm以上、1080nm以下であり、他方の波長が888nm以上、914nm以下であってもよい。増幅部20がTmファイバーを含む場合、第1波長および第2波長は、ともに、1960nm以上、2020nm以下もしくは1860nm以上、1960nm以下であることが好ましい。一方の波長が1960nm以上、2020nm以下であり、他方の波長が1860nm以上、1960nm以下であってもよい。
【0088】
第1通過帯域301および第2通過帯域302は可変であってよい。つまり、各通過帯域の中心波長および帯域幅が可変であってよい。例えば、第1通過帯域301の中心波長(第1波長)は、生成すべきレーザー光の波長に応じて変更されてよい。フィルタ部10は、第1通過帯域301の中心波長(第1波長)および第2通過帯域302の中心波長(第2波長)の波長差を増加させた場合に、第1通過帯域301の帯域幅を増加させてよい。波長差が増加することで第1波長成分の誘発がされにくくなるが、第1通過帯域301の帯域幅を増加させることで、第1波長での発振を促進できる。
【0089】
また、第1波長および第2波長の波長差を減少させた場合、第2通過帯域302の帯域幅を減少させてよい。波長差が減少することで第2波長成分が第1通過帯域301に干渉する割合が増大するが、第2通過帯域302の帯域幅を減少させることで、当該干渉を抑制できる。また、第1波長および第2波長の波長差を減少させた場合、第2通過帯域302の第2波長における減衰率を増加させてもよい。これによっても、当該干渉を抑制できる。
【0090】
図15は、フィルタ部10の他の構成例を示す図である。本例のフィルタ部10は、結合部80を介して、ループ状の光ファイバー50と接続されている。結合部80は、ループ状の光ファイバー50を周回するレーザー光をフィルタ部10に伝搬させ、フィルタ部10からの光をループ状の光ファイバー50に伝搬させる。
【0091】
本例のフィルタ部10は、第1通過帯域301の光を選択して伝搬させる第1フィルタ部10-2と、第2通過帯域302の光を選択して伝搬させる第2フィルタ部10-2を有する。本例の第1フィルタ部10-1および第2フィルタ部10-2は、FBGである。第1フィルタ部10-1および第2フィルタ部10-2は、結合部80に対して直列に設けられている。第1フィルタ部10-1および第2フィルタ部10-2は、いずれが結合部80の近くに設けられてもよい。
【0092】
図16は、光伝送部101の他の構成例を示す図である。本例の光伝送部101は、増幅部20、増幅部21、レーザー入力部30、光アイソレーター60を有さない点で、図8または図15において説明した光伝送部101と相違する。他の構造は、図8または図15の例と同様である。光ファイバー50が、増幅部20または増幅部21として機能してよい。本例のフィルタ部10は、レーザー出力部40と結合部70との間に配置されている。フィルタ部10は、図15の例と同様に、結合部80を介して光ファイバー50と接続されてよい。
【0093】
なお、図1から図16の例において、可飽和吸収部102はNALMであったが、可飽和吸収部102は、半導体可飽和吸収ミラー(SESAM)等の吸収体を用いてもよい。また、非線形光ループミラー(Nonlinear Optical Loop Mirror;NOLM)や、非線形偏波回転(Nonlinear Polarization Rotation:NPR)を用いた可飽和吸収機構を用いてもよい。
【0094】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0095】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
[項目1]
レーザー光を生成するレーザー装置であって、
共振器内に設けられ、通過波長特性が少なくとも2つ以上の波長において極大値を有し、前記通過波長特性に応じて、光の波長成分を選択的に通過させるフィルタ部を備えるレーザー装置。
[項目2]
前記フィルタ部の前記通過波長特性は、いずれかの前記極大値の波長を含み、前記レーザー光の発振波長の波長成分である第1波長成分を選択的に通過させる第1通過帯域と、いずれかの前記極大値の波長を含み、前記発振波長とは異なる波長成分である第2波長成分を選択的に通過させる第2通過帯域とを有する、項目1に記載のレーザー装置。
[項目3]
前記レーザー装置が出力する前記レーザー光において、前記第2波長成分の大きさは、前記第1波長成分の10%以下である、項目2に記載のレーザー装置。
[項目4]
前記第2通過帯域の幅は、前記第1通過帯域の幅よりも狭い、項目2または3に記載のレーザー装置。
[項目5]
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はYbファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長が、ともに1020nm以上、1100nm以下である、
項目2から4のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目6]
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はErファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記通過帯域の第2中心波長が、ともに1530nm以上、1555nm以下もしくは1555nm以上、1600nm以下である、
項目2から4のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目7]
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はNdファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長が、ともに1060nm以上、1080nm以下もしくは888nm以上、914nm以下である、
項目2から4のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目8]
前記共振器において前記レーザー光を増幅する増幅部を備え、
前記増幅部はTmファイバーを含み、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長が、ともに1960nm以上、2020nm以下もしくは1860nm以上、1960nm以下である、
項目2から4のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目9]
前記第1通過帯域および前記第2通過帯域は可変であり、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長の波長差を増加させた場合に、前記第1通過帯域の幅を増加させる、
項目2から8のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目10]
前記第1通過帯域および前記第2通過帯域は可変であり、
前記第1通過帯域の中心波長および前記第2通過帯域の中心波長の波長差を減少させた場合に、前記第2通過帯域の幅を減少させるか、または、前記第2通過帯域における減衰率を増加させる、
項目2から8のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目11]
前記レーザー光を伝搬する偏波保持ファイバーを更に備える、項目1から10のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目12]
可飽和吸収体として機能するNALMを更に備える、項目1から11のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目13]
前記フィルタ部が通過させた前記レーザー光の前記第2波長成分は、前記発振波長における発振を誘発する、項目2から10のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目14]
前記フィルタ部は、前記レーザー光の発振を開始するためのモード同期パルスを通過させる、項目1から13のいずれか一項に記載のレーザー装置。
[項目15]
レーザー光をモード同期させるモード同期方法であって、
前記レーザー光の共振器内において、少なくとも2つ以上の波長において極大値を有する通過波長特性に応じて、光の波長成分を選択的に通過させて、前記レーザー光をモード同期させるモード同期方法。
【符号の説明】
【0096】
10・・・フィルタ部、10-1・・・第1フィルタ部、10-2・・・第2フィルタ部、20・・・増幅部、21・・・増幅部、23・・・ファイバー部、30・・・レーザー入力部、40・・・レーザー出力部、50・・・光ファイバー、52・・・波長特性、60・・・光アイソレーター、70・・・結合部、80・・・結合部、100・・・レーザー装置、101・・・光伝送部、102・・・可飽和吸収部、103・・・増幅部、104・・・レーザー入力部、106・・・光ファイバー、201・・・極大値、202・・・極大値、203・・・極小値、204・・・成分、301・・・第1通過帯域、302・・・第2通過帯域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16