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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】睡眠の質改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/15 20060101AFI20240926BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20240926BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
A61K36/15
A61P25/20
A61K9/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020134487
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030442
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505026686
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大平 雅子
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-100520(JP,A)
【文献】特開2018-158906(JP,A)
【文献】特開2007-238610(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102858355(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0012002(US,A1)
【文献】鷲岡ゆきほか,生理・心理応答解析から見えてきたヒトと「かすかな」においの関係とその応用,J. Japan Association on Odor Environment,2016年,Vol.47, No.1,pp.34-43
【文献】清水邦義ほか,自然の香りの空間におけるヒトの睡眠改善効果,AROMA RESEARCH,2019年,Vol.20, No.3,pp.217-223
【文献】日本認知症予防学会誌,2019年,Vol.9, No.2,pp.3-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00 -36/9068
C11B
C11C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分を有効成分として含有することを特徴とする睡眠の質改善剤。
【請求項2】
トドマツの木質部及び/または葉を用いるものである請求項1記載の睡眠の質改善剤。
【請求項3】
睡眠の質改善剤が、起床時眠気改善剤、入眠潜時短縮剤、中途覚醒抑止剤、疲労回復感改善剤及び睡眠時間不足感改善剤よりなる群から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載の睡眠の質改善剤。
【請求項4】
睡眠の質改善剤が、起床時眠気改善剤である請求項3記載の睡眠の質改善剤。
【請求項5】
スティック状油性固形剤である請求項1~4のいずれかの項記載の睡眠の質改善剤。
【請求項6】
揮散させて適用するものである請求項1~5のいずれかの項記載の睡眠の質改善剤
【請求項7】
入眠時から睡眠中に継続して揮散させて適用するものである請求項1~5のいずれかの項記載の睡眠の質改善剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においてストレス、食物の偏食、環境等の要因により、不眠症又は睡眠不足に罹患しているヒトが増加している。睡眠不足は、肥満、高血圧、うつ病、糖尿病等の原因ともなるといわれており、睡眠不足の解消は重要である。近年は、睡眠の時間だけでなく、睡眠の質についても注目されている。
【0003】
睡眠の質としては、寝つきの良さ、睡眠の深さ、覚醒後の気分の良さなどが含まれるが、特に日中頻繁に眠気を催すと集中力が低下し、仕事や勉強のパフォーマンスが低下するとともに、作業中の事故などを引き起こすおそれもあるため、起床中の眠気を防止することは重要である。
【0004】
これまで睡眠の質の改善作用を有する有効成分として、例えば、スチルベン系化合物および/またはオリーブエキス(特許文献1)、植物ハマナスの花弁の香りを呈する揮発性有機化合物(特許文献2)、3ヒドロキシ酪酸単量体(特許文献3)、オクラ種子の酵素分解物由来のオクラ種子抽出物(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-24774号公報
【文献】特開2015-81227号公報
【文献】特開2019-172642号公報
【文献】特開2020-48481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記有効成分では、起床時の眠気を抑えるなど睡眠の質を十分に改善できるとは言い難かった。そこで、本発明は、起床時眠気改善等に優れる睡眠の質改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、起床時眠気改善等の睡眠の質改善効果に優れる成分を見出すべく種々検討した結果、トドマツの減圧水蒸気蒸留物の油性画分が、起床時の眠気を顕著に抑制できるなど優れた睡眠の質改善効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、トドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分を有効成分として含有することを特徴とする睡眠の質改善剤である。
【0009】
また本発明は、上記睡眠の質改善剤を揮散させて適用する睡眠の質改善方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の睡眠の質改善剤を適用することにより、速やかに入眠し、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠を維持することができ、目覚めもさわやかで疲労感の回復を感じることができる。さらに日中に眠気を催すことが抑制されるため、仕事等において集中力を維持し、高いパフォーマンスを安定的に発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の睡眠の質改善剤の有効成分として用いるトドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分を得るために使用するマイクロ波蒸留装置の構成を模式的に示す図である。
図2】VAS(Visual Analogue Scale)に用いたスケールである。
図3】本発明のスティック状の睡眠の質改善剤について、製剤を繰り出した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の睡眠の質改善剤は、トドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分を有効成分とする。
【0013】
原料となるトドマツの部位は、特に制限されるものではないが、間伐・枝打ちされる樹木の有効利用の観点や、睡眠の質改善効果に優れることから、木質部及び/または葉の部分が好適に用いられる。
【0014】
本発明に用いる有効成分は、トドマツを減圧水蒸気蒸留して得られる蒸留物の油性画分(精油)である。この減圧水蒸気蒸留物油性画分は濃縮、精製等の手間をかけなくても、モノテルペン類を高濃度で含有するため、さわやかな香気を有し香りの嗜好性が高く、かつ睡眠の質改善効果にも優れる。
【0015】
なお、蒸留にあたっての加熱は、一般のヒーター等による加熱でもかまわないが、マイクロ波による加熱が加熱効率の点で好ましく、特に水を加えずにマイクロ波を照射して加熱することが好ましい。マイクロ波を照射することにより、植物中に含まれる水分子が直接加熱されて水蒸気が生じ、これが移動相として作用して植物中の揮発性成分が蒸留されるため、この蒸留方法は、揮発性成分の沸点による減圧蒸留的な要素と、水蒸気蒸留的な要素とを包含するものと考えられる。
【0016】
このようなマイクロ波照射による蒸留物は、例えば図1に示す装置を使用することにより得ることができる。図中、1はマイクロ波蒸留装置、2は蒸留槽、3はマイクロ波加熱装置、4は撹拌はね、5は気流流入管、6は蒸留物流出管、7は冷却装置、8は加熱制御装置、9は減圧ポンプ、10は圧力調整弁、11は圧力制御装置、12は蒸留対象物、13は蒸留物をそれぞれ示す。
【0017】
この装置1では、蒸留対象物12となる原料のトドマツを蒸留槽2中に入れ、撹拌はね4で撹拌しながら、蒸留槽2の上面に設けられたマイクロ波加熱装置3からマイクロ波を放射し、原料を加熱する。この蒸留槽2は、気流流入5および蒸留物流出管6と連通されている。気流流入管5は、空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを蒸留槽2中に導入するものであり、この気流は、蒸留槽2の下部から導入される。また、蒸留物流出管6は、原料からの蒸留物を、蒸留槽2の上部から外に導出するものである。
【0018】
上記蒸留槽2内部は、これに取り付けられた温度センサおよび圧力センサ(共に図示せず)により温度および圧力が測定されるようになっており、加熱制御装置8および圧力制御装置11、圧力調整弁10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0019】
また、蒸留物流出管6を介して蒸留槽2から流出した気体状の蒸留物は、冷却装置7により液体に変えられ、蒸留物13として得られる。この蒸留物13には、油性画分13aと水性画分13bが含まれるが、このうち油性画分13aを分取して有効成分として用いる。
【0020】
蒸留にあたっては、上記蒸留槽2内の圧力を、3~95キロパスカル、好ましくは、3~40キロパスカル、さらに好ましくは3~20キロパスカル程度として行なえば良く、その際の蒸気温度は40℃~100℃になる。圧力が3キロパスカル以下では植物中の揮散性成分の蒸気圧上昇が抑制され、また、水蒸気蒸留的要素より、各成分の沸点による減圧蒸留的要素が主となり、沸点の低いものから順に流出してしまうため、水よりも沸点の高い成分の抽出が効率的に行われないという点及び忌避効率が低くかつ香りの嗜好性で劣る高沸点成分が多く抽出されてしまう点で好ましくない場合がある。また、95キロパスカル以上では、原料の温度が高くなるため、エネルギーロスが大きく、原料の酸化も促進されてしまうという点で好ましくない場合がある。
【0021】
また、蒸留時間は、0.2~8時間程度、好ましくは、0.4~6時間程度とすれば良い。0.2時間以下では植物中の未抽出成分が多く残存してしまい、8時間以上では原料が乾固に近い状態となってしまうため、抽出効率が低下する場合がある。
【0022】
更に、蒸留槽2内に導入する気体としては、空気でもかまわないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽2の0.001~0.1容量倍程度とすれば良い。
【0023】
本発明の睡眠の質改善剤における有効成分として、以上のようにして得られたトドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分をそのまま用いることもできるが、必要に応じて、常法により、更に濃縮したり、精製して使用してもよい。
【0024】
本発明の睡眠の質改善剤の剤型は特に限定されるものではなく、例えば、液剤、ゲル剤、固形剤、ポンプスプレー、エアゾール等の剤型とすることができる。
【0025】
液剤として用いる場合は、本発明の睡眠の質改善剤にはトドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分をそのまま用いることもできるが適当な溶媒で希釈することもできる。溶媒で希釈する場合のトドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分の含有量は、睡眠の質改善効果及び経済性の観点から、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1.0~5質量%である。
【0026】
溶媒の例としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキサイド等が挙げられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いることができる。
【0027】
トドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分を上記溶媒に溶解させるために、従来公知の、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることもできる。
【0028】
上記界面活性剤のうち、アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸石けん、石けん用素地、金属石けん、N-アシル-L-グルタミン酸トリエタノールアミン、N-アシル-L-グルタミン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム(N-ココイル-N-メチルタウリンナトリウム)、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルβ-アラニンナトリウム液、ラウロイルメチルタウリンナトリウム等の1種若しくは2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
また、カチオン系界面活性剤としては、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
更にノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、第3級アミンオキサイド等が挙げられる。このポリオキシエチレンアルキルエーテルはポリオキシエチレン鎖が3から18好ましくは7から12であり、アルキル鎖は直鎖または分岐のどちらでも良く、アルキル鎖長は8~22好ましくは12~14である。また、前記脂肪酸アルカノールアミドは、椰子油脂肪酸、ステアリン酸、ラウリン酸のモノエタノールアミド、ジエタノールアミド等が挙げられ、第3級アミンオキサイドとしては、ラウリルジメチルアミンオキサイド、椰子油脂肪酸ジメチルアミンオキサイド、ラウロイルアミノプロピルジメチルアミンオキサイド、オクチルジメチルアミンオキサイド、ミリスチルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0031】
本発明の睡眠の質改善剤には、他の香料成分を添加してもよい。香料成分としては、例えば、l-メントール、dl-カンフル、ボルニルアアセテート、ボルネオール、カマズレン、テルピネン-4-オール、ゲラニオール、シトロネラール、ゲラニアール、ネラール、ヒノキチオール、ペパーミント油、ユーカリ油、ヒバ油、桂皮油、ベルガモット油、テレピン油、ローズ油、ウイキョウ、セージ、スギ、ヒノキ、ユーカリなどの精油等を挙げることができる。
【0032】
ゲル剤とする場合は、従来公知のゲル化剤を用いることができ、例えば、カラギーナン、ジェランガム、寒天、ゼラチン、グアーガム、ペクチン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アルギン酸ソーダ、セルロース誘導体、ジベンジリデン-D-ソルビトール、ヒドロキシプロピル化多糖類、ステアリン酸イヌリン、アクリル酸ナトリウム等の高吸水性樹脂、オクチル酸アルミニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
固形剤とする場合は、キャンデリラロウ、ミツロウ、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、合成炭化水素ワックスおよびエチレン・プロピレン共重合体などのワックス剤、オリーブ油、ホホバ油、マカデミア油などの植物油、イソノナン酸イソトリデシル、イソステアリン酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリルなどの脂肪酸エステル、ジオクタン酸エチレングリコール、ジオレイン酸エチレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコールなどの脂肪酸グリコール、ジイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリルなどの脂肪酸グリセリル、ヤシ油アルキル、オクチルドデカノールなどの高級脂肪酸アルコール、流動パラフィン、流動イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブテン、脂肪酸ポリグリセリル、ジリノール酸エステル、ロジン、ロジン誘導体、イソステアリン酸水添ヒマシ油、(PPG-7・コハク酸)コポリマー、(ヘキシルデカン酸・セバシン酸)ジグリセリルオリゴエステル、オレフィンオリゴマーなどを用いて油性固形剤とすることが好ましい。その形状は特に限定されないが、適用対象に塗布して適用可能なスティック状が好適である。
【0034】
その他の任意成分の例としては、増粘剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消臭剤等を例示できる。
【0035】
本発明の睡眠の質改善剤は、揮散させるか、空間中に噴霧して適用することが好ましい。これらの方法により、有効成分が鼻腔等から吸入され、その効果を発揮する。液剤の剤型の睡眠の質改善剤を揮散させる方法としては、そのまま、もしくは適当な含浸体に含浸させた状態で揮散させる方法、液剤を吸い上げて揮散体により揮散させる方法、リードディフューザーによる方法などが挙げられる。その他、常温揮散装置、ファン等による送風揮散装置、火や熱源等による加熱揮散装置などの適当な揮散装置を用いて揮散させる方法、ポンプスプレー、エアゾール、超音波振動子、加圧液噴霧スプレー、加圧空気霧化噴霧装置等を用いて噴霧する方法を用いることもできる。ゲル剤または固形剤の使用方法としては、そのまま静置して揮散させるか、まくらなどの寝具や寝間着の襟などに塗布し、その塗布部から揮散させる方法などが挙げられる。これらの方法のうち、鼻腔等から吸入される効率が高く、経済性や効果の持続性、効果の安定性の観点から、枕などの寝具に塗布する方法により揮散させることが好ましい。本発明の睡眠の質改善剤を寝具などに塗布または噴霧する場合、例えば、1mあたりトドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分として20~200mg程度適用すればよい。また空間中に噴霧する場合は、1mあたりトドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分として1~10mg程度適用すればよい。
【0036】
また本発明の睡眠の質改善剤は、外用剤として適用することもできる。外用剤としては、クリーム剤、外用液剤、湿布剤、軟膏剤、ローション剤、ロールオンなどを挙げることができ、通常外用剤に配合される任意成分を用いて常法に従って調製することができる。用量等は特に制限されるものではなく、年齢、体重等により適宜設定されるが、例えば、トドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分の含有量を1~10質量%程度含有する外用剤を、成人に対し1回あたり、トドマツの減圧水蒸気蒸留物油性画分として10~300mg程度の量を塗布等すればよい。
【0037】
このようにして、有効成分が鼻腔等から吸入されるか、経皮吸収されることによって睡眠の質を改善する効果が発揮される。睡眠の質の改善としては、入眠潜時(覚醒状態から眠りに入るまでの所要時間)の短縮、夜中に目が覚めるの防ぐ中途覚醒抑止、覚醒時の疲労感を解消する疲労回復改善、睡眠状態を維持する睡眠時間増加、覚醒時に感じる睡眠時間の不足を解消する睡眠時間不足感改善、起床中に眠気を催すことを抑制する起床時眠気改善などが含まれ得る。特に日中眠気を誘発すると集中力が低下し、仕事等のパフォーマンスが低下するとともに、作業中の事故などを引き起こすおそれもあるため、起床時の眠気を防止することは重要である。
【実施例
【0038】
以下、実施例、製造例等を挙げ、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0039】
製 造 例 1
トドマツの葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製;図1)で粉砕し、その約50kgを、マイクロ波水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入した。攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し(蒸気温度は約67℃)、1時間マイクロ波照射して蒸留物を得、その油性画分(以下「トドマツ精油」という)を分取した。得られたトドマツ精油の量は180mLであり、投入試料に対する割合は、0.34%であった。
【0040】
実 施 例 1
下記表1に示す処方及び下記製造方法にて、スティック状の油性固形製剤を作成した。
(処方)
【表1】
【0041】
(製造方法)
製造例1のトドマツ精油以外の全ての成分を混合、加熱融解した後、製造例1のトドマツ精油を添加・混合し、型に流し込んで冷却してスティック状に成型した。図3に示すとおり、このスティック状油性固形製剤(22)を、繰り出し容器(23)に装着し、スティック状製剤(21)とした。
【0042】
試 験 例 1
睡眠の質改善試験(1):
上記実施例1で製造したスティック状製剤を用いて睡眠の質改善効果について試験を行った。
(試験方法)
対象者:寝付きに困難を抱えている高齢者(60歳以上)
選定条件:
・治療中の睡眠障害がない
・日常的に睡眠薬を服薬していない
・毎日ほぼ同じ時刻に床に就いている
・ピッツバーグ睡眠質問紙の得点が6-8点の者
・嗅覚障害のない者
以上の条件を満たした男性7名、女性4名の計11名を対象に試験を実施した。
【0043】
対象者の枕に、実施例1で製造したスティック状製剤1g(精油分10mg)を、1枚の面積が7cmのシールの貼付面と反対の面に塗布し、それを枕に2枚貼り付けた。このトドマツ精油処理枕を用いて午前0時頃就寝してもらい、翌日起床後午前7時から8時の間にOSA睡眠調査票(山本由華吏、田中秀樹、高瀬美紀、山崎勝男、阿住一雄、白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠感調査票(MA版)の開発と標準化.脳と精神の医学10:401-409,1999)に基づくアンケートを実施した。コントロールとして、実施例1で製造したスティック状製剤を塗布したシールを貼付していない枕を使用して同様の試験を行った。実験の間隔は2日以上のインターバルを設けた。
【0044】
(起床時の睡眠内省評価)
対象者の質問の回答に対し下記表2の数値をあてはめ、質問項目ごとに全対象者の平均値を算出した。結果を表2に併せて示す。さらに表2の結果に基づき、各心理尺度における因子について評価した。結果を表3に示す。
【0045】
(香りの印象(好き嫌い・強さ等)評価)
VAS(Visual Analogue Scale)により「快不快」、「落ち着き」、「強さ」の各評価項目について、左端を0、右端を100として線分上の位置を示してもらい、その平均値としてVAS測定値を求めた。結果を表4に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表2,3より、トドマツ精油を枕に適用することにより、「起床時眠気」、「入眠と睡眠維持」、「疲労回復」および「睡眠時間」の各因子において睡眠の質を改善することが示された。「入眠と睡眠維持」が改善されることにより、「入眠潜時」の短縮及び「中途覚醒」の抑止が実現され得る。また表4に示すとおり、トドマツ精油は香りの嗜好性に優れることが確認された。
【0050】
試 験 例 2
睡眠の質改善試験(2):
試験例1の対象者11名に対し、実施例1で製造したスティック状製剤1g(精油分10mg)を、1枚の面積が7cmのシールの貼付面と反対の面に塗布し、それを枕に2枚貼り付けた。このトドマツ精油処理枕を用いて就寝した状態で、アリスPDx(Phillips社)により睡眠ポリグラフ検査を実施した。睡眠ポリグラフに基づく覚醒、入眠などの睡眠段階の判定は文献(野田明子、古池保雄:終夜睡眠ポリグラフィ、生体医工学46(2):134-143,2008)の記載に従って行った。下記の式により総睡眠時間、睡眠効率、入眠時間、中途覚醒時間についてそれぞれ平均値を求めた。また、コントロールとして、実施例1で製造したスティック状製剤を塗布したシールを貼付していない枕を使用して同様の試験を実施した。結果を表5に示す。
(算定式)
総睡眠時間(分)=(入眠から最終覚醒までの時間(分))-(中途覚醒時間(分))
睡眠効率(%)=((入眠から最終覚醒までの時間(分))/(総睡眠時間(分)))×100
入眠時間(分)=消灯時間から入眠(いずれかの睡眠段階が出現した時点)までの時間
中途覚醒(分)=覚醒時間の総和(分)
【0051】
【表5】
【0052】
表5より、トドマツ精油を枕に適用することにより、コントロールに比べ、総睡眠時間が長くなり、睡眠効率も改善されることが認められた。また入眠までの時間が短くなり、中途覚醒時間も短くなるため、総合的に睡眠の質が顕著に改善されることが確認された。
【0053】
製 剤 例 1
ジプロピレングリコール90質量%に製造例1のトドマツ精油10質量%を配合し、空間噴霧用睡眠の質改善剤を製造した。得られた空間噴霧用睡眠の質改善剤を超音波霧化装置((株)ミクニ製)を用いて寝室内に噴霧したところ、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠が維持され、目覚めもさわやかであり、睡眠の質が改善できた。
【0054】
製 剤 例 2
3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール50質量%に製造例1のトドマツ精油50質量%を配合し、空間噴霧用睡眠の質改善剤を製造した。この睡眠の質改善剤を加熱蒸散装置(エステー(株)社製消臭プラグ)を用いて寝室に蒸散させたところ、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠が維持され、目覚めもさわやかであり、睡眠の質が改善できた。
【0055】
製 剤 例 3
製造例1のトドマツ精油2質量%を界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)7質量%で水に可溶化させて、空間噴霧用睡眠の質改善剤を製造した。この睡眠の質改善剤を市販のポンプスプレーを用いて空間に噴霧し睡眠に入ったところ寝つきよく睡眠に入ることができた。
【0056】
製 剤 例 4
製造例1のトドマツ精油0.1質量%を水99.9質量%に分散させて、空間噴霧用有睡眠の質改善剤を製造した。この睡眠の質改善剤を超音波霧化装置(エコーテック(株)製)を用いて寝室に噴霧したところ、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠が維持され、目覚めもさわやかであり、睡眠の質が改善できた。
【0057】
製 剤 例 5
製造例1のトドマツ精油3.0g、プロピレングリコール10gおよび水84gの混合物中に、ゲル化剤としてκ-カラギーナン3gを分散させ、約60℃に加熱分散後、上面開放のカップ型容器に充填し、冷却固化してゲル状の空間揮散用睡眠の質改善剤を製造した。これを寝室の枕元に設置して揮散させながら睡眠に入ったところ、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠が維持され、目覚めもさわやかであり、睡眠の質が改善できた。
【0058】
製 剤 例 6
製造例1のトドマツ精油2質量%を、界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)5質量%で水に可溶化させて空間揮散睡眠の質改善剤を製造した。この睡眠の質改善剤をお部屋の消臭力(登録商標、エステー(株)製)の容器に収納し、寝室の枕元で揮散させながら睡眠に入ったところ、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠が維持され、目覚めもさわやかであり、睡眠の質が改善できた。
【0059】
製 剤 例 7
製造例1のトドマツ精油を、定量バルブ付きエアゾール容器に充填し、自動でシュパッと(登録商標、エステー(株)製)にセットし、90分おきに寝室内に噴霧させ睡眠に入ったところ、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠がされ、目覚めもさわやかであり、睡眠の質が改善できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の睡眠の質改善剤は、起床時の眠気を抑制できるなど優れた睡眠の質改善効果を有するものであり、安全性にも優れるため有用なものである。
【符号の説明】
【0061】
1 … … マイクロ波蒸留装置
2 … … 蒸留槽
3 … … マイクロ波加熱装置
4 … … 撹拌はね
5 … … 気流流入管
6 … … 蒸留物流出管
7 … … 冷却装置
8 … … 加熱制御装置
9 … … 減圧ポンプ
10 … … 圧力調整弁
11 … … 圧力制御装置
12 … … 蒸留対象物
13 … … 蒸留物
21 … … スティック状製剤
22 … … スティック状油性固形製剤
23 … … 繰り出し容器
図1
図2
図3