(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240926BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240926BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20240926BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20240926BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
G01N33/574 D
G01N33/574 A
G01N33/53 D
G01N33/48 P
C12Q1/6883 Z
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2020114309
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 進
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇
(72)【発明者】
【氏名】大江 知里
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0057053(US,A1)
【文献】特表2018-510628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0309054(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0066050(US,A1)
【文献】国際公開第2017/165663(WO,A1)
【文献】吉田 崇,浸潤性膀胱癌における新規治療ターゲットとしての一次繊毛,2023年12月25日,https://kaken.nii.ac.jp/en/report/KAKENHI-PROJECT-20K07601/20K076012022hokoku/
【文献】EMOTO Katsura,Clinical significance of primary cilia in pancreatic ductal adenocarcinoma and analysis of pancreatic cancer cell lines,日本癌学会学術総会抄録集,2016年,Vol.75th,Page.ROMBUNNO.E-1079
【文献】WONG Sunny Y,Primary cilia can both mediate and suppress Hedgehog pathway-dependent tumorigenesis,Nature Medicine,2009年09月,Vol.15 No.9,Page.1055-1061
【文献】Li, Jingxian,STIL/AURKA axis promotes cell proliferation by influencing primary cilia formation in bladder cancer,Journal of Translational Medicine,2023年04月26日,Vol.21 No.1,Page.281
【文献】蘇原映誠,一次繊毛の生理的機能と嚢胞性腎疾患,日本腎臓学会誌,2019年05月,Vol.61 No.3,Page.251 S13-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
G01N 33/53
G01N 33/48
C12Q 1/6883
C12M 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取され
た尿路系上皮細胞
が、尿路系上皮腫瘍関連病変を来した状態であるかを検査する方法であって、IFT88を検出する工程を含む、
検査方法。
【請求項2】
前記尿路系上皮細胞において、IFT88が検出されなかった場合に、前記尿路系上皮細胞が尿路系上皮腫瘍関連病変尿路系上皮腫瘍関連病変を来した状態であると決定する工程をさらに含む、請求項1に記載の
検査方法。
【請求項3】
IFT88の検出が、前記尿路系上皮細胞を免疫染色することによって行われる、請求項1または2に記載の
検査方法。
【請求項4】
前記
尿路系上皮細胞が、
尿、血液、精液、髄液、リンパ液、腹水、胸水、及び細胞間質液から選択される体液試料;又は組織の生検試料若しくは手術切除試料から得られた
尿路系上皮細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項5】
尿路系上皮腫瘍関連病変は、癌である、請求項1から4のいずれか一項に記載の
検査方法。
【請求項6】
尿路系上皮腫瘍関連病変は、異形成を来した状態、または、扁平上皮分化を来した状態である、請求項1から4のいずれか一項に記載の
検査方法。
【請求項7】
被検者から採取された尿路系上皮細胞に存在するIFT88を、前記尿路系上皮細胞が尿路系上皮腫瘍関連病変を来した状態であるかを検査するためのバイオマーカーとして使用する方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の検査方法に使用するための検査試薬であって、前記検査試薬は、IFT88を検出するための抗体、又は核酸を含む、前記検査試薬。
【請求項9】
尿路系上皮腫瘍関連病変を来した状態である尿路系上皮細胞であるかを検出するためのバイオマーカーであって、前記バイオマーカーは尿路系上皮細胞に存在するIFT88である、バイオマーカー。
【請求項10】
処理部を備える、
尿路系上皮細胞が、尿路系上皮腫瘍関連病変を来した状態であるかを検出する装置であって、
前記処理部は、
被検者から採取され
た尿路系上皮細胞におけるIFT88の測定値を取得し、取得した測定値を、基準値と比較し、
取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、
前記尿路系上皮細胞が尿路系上皮腫瘍関連病変
を来した状態ではないことを示すラベルを出力する、及び/又は
取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合に、
前記尿路系上皮細胞が尿路系上皮腫瘍関連病変
を来した状態であることを示すラベルを出力する、
前記検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、尿路系上皮腫瘍関連病変の検出方法、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーを検出するための検査試薬、及び尿路系上皮腫瘍関連病変の検出装置が開示される。
【背景技術】
【0002】
無症候性肉眼的血尿患者において尿路上皮癌か否かを鑑別する事は、患者の予後に大きく関わり非常に重要である。尿路上皮癌は膀胱癌と上部尿路癌に分けられ、スクリーニングとして膀胱鏡、尿細胞診、CT検査などが推奨されている。
【0003】
また、非特許文献1には、尿中のサイトケラチンCK8及びCK18、並びに尿中核マトリックスプロテイン22(NMP22)を膀胱癌の診断に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】モダンメディア 56巻,5号,2010年,p100-p106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし問題点として、一般開業医レベルにおいては、膀胱鏡、CT検査を用いたスクリーニング検査は利用できない。また、尿細胞診は感度が30から50%程度と低く、特に低悪性度の癌に関しては見落としの原因となる事があげられる。さらに、非特許文献1に記載のCK8、CK18、NMP22は、非癌病変である尿路感染症での擬陽性率が高い等の問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、被検者から採取した試料を用いて検査することが可能であり、正診率の高い、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカー、尿路系上皮腫瘍関連病変の検出方法、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーを検出するための検査試薬、及び尿路系上皮腫瘍関連病変の検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、被検者から採取された試料中の尿路系上皮細胞におけるIFT88を、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーとして使用できることを見出した。
【0008】
本開示は、以下の態様を含む。
項1.被検者から採取された試料中の尿路系上皮細胞におけるIFT88を検出する工程を含む、尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出方法。
項2.前記尿路系上皮細胞において、IFT88が検出されなかった場合に、尿路系上皮腫瘍関連病変が存在すると決定する工程をさらに含む、項1に記載の検出方法。
項3.IFT88の検出が、前記尿路系上皮細胞を免疫染色することによって行われる、項1または2に記載の検出方法。
項4.前記試料が、尿、または尿路組織である、項1から3のいずれか一項に記載の検出方法。
項5.尿路系上皮腫瘍関連病変は、癌である、項1から4のいずれか一項に記載の検出方法。
項6.尿路系上皮腫瘍関連病変は、異形成を来した状態、または、扁平上皮分化を来した状態である、項1から4のいずれか一項に記載の検出方法。
項7.尿路系上皮細胞に存在するIFT88を、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーとして使用する方法。
項8.被検者から採取された尿路系上皮細胞におけるIFT88を、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーとして検出するための検査試薬であって、前記検査試薬は、IFT88を検出するための抗体、又は核酸を含む、前記検査試薬。
項9.IFT88からなる、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカー。
項10.処理部を備える、尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出装置であって、前記処理部は、被検者から採取された試料中の尿路系上皮細胞におけるIFT88の測定値を取得し、取得した測定値を、基準値と比較し、取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、尿路系上皮腫瘍関連病変がないことを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合に、尿路系上皮腫瘍関連病変があることを示すラベルを出力する、前記検出装置。
【発明の効果】
【0009】
被検者から採取した試料を用いて、高い正診率で、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出システム1000の概観図の一例を示す。
【
図2】尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出装置10のブロック図の一例を示す。
【
図3】尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出プログラムの処理の一例を示す。
【
図4】正常の膀胱組織、炎症を来した膀胱組織、異形成を来した膀胱組織、低異形乳頭癌組織、上皮内癌、浸潤癌、扁平上皮分化を来した膀胱組織の免疫染色の結果を示す。上段はHE染色画像である。下段はIFT88の免疫染色画像である。
【
図5】尿試料中の尿路上皮の剥離片の免疫染色画像を示す。左図は正常尿路上皮のIFT88の免疫染色画像である。右図は尿路上皮癌のIFT88の免疫染色画像である。
【
図6】正常膀胱組織、炎症性膀胱組織、異形成膀胱組織、上皮内癌組織、筋層浸潤癌組織に対してIFT88のin situ ハイブリダイゼーションを行い、IFT88 mRNAのシグナル数のカウントした結果を示す。*は、p<0.05を示す。**は、p<0.01を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.用語の説明
IFT88(intraflagellar transport 88:鞭毛内輸送タンパク質88)は、一次線毛の構造を形成及び維持する、鞭毛内輸送 (intraflagellar transport: IFT) 構成タンパク群の1つである。IFT88はIFT-B複合体の一部を構成する。本明細書において、ヒトIFT88は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)に、Gene ID:8100で登録されている遺伝子にコードされている転写産物及びその翻訳産物を意図する。Gene ID:8100で登録されている遺伝子の転写産物及びその翻訳産物は、以下のリストに列挙される転写産物及びその翻訳産物を意図する。また、下記リストの矢印は、“NM_”から始まるIDで表されるReference Sequence No.にて登録されたmRNAが、“NP_”から始まるIDで表されるReference Sequence No.にて登録されたポリペプチドに翻訳されることを意図する。
(1) NM_001318491.2 → NP_001305420.1 [isoform 3]
(2) NM_001318493.2 → NP_001305422.1 [isoform 1]
(3) NM_001353565.2 → NP_001340494.1 [isoform 1]
(4) NM_001353566.2 → NP_001340495.1 [isoform 1]
(5) NM_001353567.2 → NP_001340496.1 [isoform 1]
(6) NM_001353568.2 → NP_001340497.1 [isoform 2]
(7) NM_001353569.2 → NP_001340498.1 [isoform 5]
(8) NM_001353570.2 → NP_001340499.1 [isoform 5]
(9) NM_001353571.2 → NP_001340500.1 [isoform 6]
(10) NM_001353572.2 → NP_001340501.1 [isoform 7]
(11) NM_001353573.2 → NP_001340502.1 [isoform 8]
(12) NM_001353574.2 → NP_001340503.1 [isoform 9]
(13) NM_001353575.2 → NP_001340504.1 [isoform 10]
(14) NM_001353576.2 → NP_001340505.1 [isoform 11]
(15) NM_001353577.2 → NP_001340506.1 [isoform 11]
(16) NM_001353578.2 → NP_001340507.1 [isoform 12]
(17) NM_001353579.2 → NP_001340508.1 [isoform 13]
(18) NM_006531.5 → NP_006522.2 [isoform 2]
(19) NM_175605.5 → NP_783195.2 [isoform 1]
【0012】
本明細書において、尿路系上皮腫瘍関連病変は、尿路系上皮細胞に由来する腫瘍に関連する病変である限り制限されない。尿路系上皮には、上部尿路上皮及び膀胱上皮を含む。尿路系上皮腫瘍関連病変には、腫瘍性の病変及び腫瘍性病変に進展する可能性のある前病変を含む。腫瘍性病変には、良性腫瘍及び悪性腫瘍を含み得る。腫瘍性病変は、好ましくは悪性腫瘍、すなわち癌である。尿路系上皮に由来する悪性腫瘍には、上部尿路癌、及び膀胱癌と、これらの転移癌、及び浸潤癌とを含み得る。腫瘍性病変に進展する可能性のある前病変には、尿路系上皮が異形成を来した状態、又は尿路系上皮が化生、例えば扁平上皮分化を来した状態を含み得る。
本明細書において、被検者は、検査の対象となるヒトを意図する。
【0013】
本明細書において、試料は、被検者から採取された検体である限り制限されない。例えば、試料として、尿、血液、精液、髄液、リンパ液、腹水、胸水、細胞間質液等の体液試料、組織を採取した生検試料又は手術切除試料等を挙げることができる。
体液試料は、組織からの剥離細胞、浸潤細胞等を含み得る。
【0014】
組織は、原発巣である尿路系組織を含む。また、組織は、転移巣、浸潤巣、又は播種巣である尿路、リンパ節、肝臓、肺、骨、副腎、脳、乳腺、腹膜、子宮、卵巣、膣、膵臓、腸の組織を含み得る。
【0015】
2.尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカー及びその検出方法
本開示のある態様は、尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカー及びその検出方法に関する。前記検出方法は、尿路系上皮細胞内のIFT88を検出することを含む。すなわち、尿路系上皮細胞に存在するIFT88は、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0016】
尿路系上皮細胞内のIFT88の検出は、被検者から採取された試料を用いて行う限り制限されない。被検者から採取された試料は、IFT88の検出方法に応じて後述する前処理を施される場合がある。
IFT88は、タンパク質として、又はmRNAとして検出することができる。
【0017】
IFT88をタンパク質として検出する方法は、免疫染色、ウエスタンブロッティング、ELISA等の公知の方法を挙げることができる。また、IFT88をmRNAとして検出する方法は、in situ ハイブリダイゼーション、RT-PCR(定量的RT-PCRを含む)、マイクロアレイ、RNA-Seq、ナノポアシークエンス等の公知の方法を挙げることができる。
【0018】
組織試料を使って、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、組織をホルマリン、又はパラホルムアルデヒド等の公知の固定液で固定してから、パラフィン包埋ブロックを作製する。あるいは、組織を固定してから、若しくは固定せずに、OCTコンパウンド(登録商標)等の凍結ブロック作製用の樹脂に包埋し、凍結ブロックを作製する。次に、作製したパラフィン包埋ブロック、又は凍結ブロックを薄切して組織切片を作製し、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションに供する。ここで、ブロックに包埋されている組織は、腫瘍部のみであってもよいが例えば正常部位等を含んでいてもよい。
【0019】
体液試料を使って、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、細胞をスライドグラスに塗抹又は収集し、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、又はエタノール等で固定する。
【0020】
IFT88をタンパク質としてウエスタンブロッティング、ELISA等で検出する場合には、前処理として、体液試料から回収した細胞又は組織を所定の溶解バッファーで溶解する。溶解バッファーで溶解されたサンプルを検査サンプルとする。
【0021】
IFT88をmRNAとしてRT-PCR、マイクロアレイ、RNA-Seq、ナノポアシークエンス等で検出する場合には、前処理として、体液試料から遠心分離等で回収した又は組織からtotal RNA又はmRNAを抽出する。また、必要に応じて、抽出したtotal RNA又はmRNAを鋳型として逆転写を行い、相補的DNA(cDNA)を合成してもよい。total RNA若しくはmRNA、又はcDNAを検査サンプルとする。
【0022】
免疫染色又はウエスタンブロッティングによってIFT88を検出するための一次抗体は、IFT88を検出できる限り制限されない。例えば、ヒトIFT88のペプチドを抗原として調製した抗体を一次抗体として使用することができる。一次抗体としてより具体的には、IFT88 抗体(マウスモノクローナル抗体、カタログ番号: 60227-1-Ig、クローン番号: 4A4G5、ProteinTech社)、goat anti-IFT88 (Novus Biologicals社:NB100-2475)、Anti-IFT88 抗体 [EPR14850] - N-terminal (ab184566)(アブカム社)、rabbit anti-IFT88 (LS-B9610)(LSBio社)等を挙げることができる。IFT88と結合した一次抗体は、一次抗体と結合する酵素標識二次抗体と、前記酵素と基質の反応により検出することができる。または、一次抗体を一次抗体と結合する蛍光標識二次抗体と、その蛍光により検出することができる。免疫染色を行う場合には、脱パラフィン及び浸水処理を行った後に、組織切片をトリプシン等のタンパク質分解酵素で処理してから、免疫染色を行ってもよい。
【0023】
in situ ハイブリダイゼーションに使用するプローブの作製方法は公知である。また、市販のプローブを使用してもよい。例えば、RNAscope(商標)(Advanced Cell Diagnostics社)のRNAscope Probe- Hs-IFT88(Cat No. 456541、456549、456548)を用いることができる。
【0024】
RT-PCRに使用するプライマー(定量的RT-PCRの場合にはプローブを含んでいても良い)はIFT88配列(NM_175605.5)を元に設計、または市販されているものを使用することができる。また、マイクロアレイも市販されているものを使用することができる。
【0025】
RNA-Seqは、次世代シーケンサー(例えば、イルミナ社製)等を使用して、IFT88 mRNAのリード数を得ることができる。ナノポアシークエンスもOxford Nanopore Technologies社の技術を利用して、IFT88 mRNAのリード数を得ることができる。
【0026】
免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションによってIFT88を検出する場合、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションが施された細胞標本又は組織標本を顕微鏡、又はスライドスキャナ等を使ってヒトが観察することにより、IFT88の有無を検出することができる。組織標本内の腫瘍細胞内に免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションのシグナルが確認された場合に、IFT88が検出されたと判定(決定)することができる。例えば、顕微鏡、又はスライドスキャナの所定の区画、例えば上皮組織の100μm2あたりに存在しているIFT88陽性細胞数をカウントし、そのカウントが、正常組織におけるIFT88陽性細胞数を下回った場合に、「IFT88が検出されなかった」又は、「IFT88の発現が陰性である」と判定してもよい。あるいは、カウントが、正常組織におけるIFT88陽性細胞数を同等であった場合に、「IFT88が検出された」又は、「IFT88の発現が陽性である」と判定してもよい。
【0027】
ウエスタンブロッティング、ELISA、RT-PCR、RNA-Seq、ナノポアシークエンスによって、IFT88を検出する場合、体液試料から回収した細胞又は組織から抽出されたサンプルにおいてIFT88が検出された場合に、「IFT88が検出された」又は、「IFT88の発現が陽性である」と決定してもよい。あるいは、体液試料から回収した細胞又は組織に由来する検査サンプルと正常細胞又は正常組織に由来するIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量を比較して、体液試料から回収した細胞又は組織に由来する検査サンプルにおけるIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量が、正常細胞又は正常組織由来するIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量よりも低値を示す場合に、「IFT88が検出されなかった」、又は「IFT88の発現が陰性である」と決定してもよい。また、体液試料から回収した細胞又は組織に由来する検査サンプルにおけるIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量が正常細胞又は正常組織由来するIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量と同程度である場合に、「IFT88が検出された」、又は「IFT88の発現が陽性である」と決定してもよい。
【0028】
また、IFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量を比較する前に、各検査サンプル中のタンパク質量、又はRNA量を、GAPDH、β2-ミクログロブリン、β-アクチン等のハウスキーピング遺伝子由来のタンパク質量又はmRNA量で正規化してもよい。タンパク質量は質量、又は濃度で表されても良いが、基質の発光強度等で表されてもよい。mRNA量は、mRNAのコピー数又はリード数であってもよいが、蛍光強度等で表されてもよい。
【0029】
ここで、「下回る」または「低値を示す」とは、正常細胞又は正常組織由来するIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量の0.9倍以下、好ましくは0.8倍以下、より好ましくは0.7倍以下、さらに好ましくは0.5倍以下の値を示す場合を例示できる。「同程度」とは、0.9倍を超える値から1.1倍程度を例示できる。
【0030】
別の態様として、IFT88タンパク質量又はRNA量の基準値をあらかじめ決定しておき、体液試料から回収した細胞又は組織に由来する検査サンプル中のIFT88タンパク質量又はRNA量が基準値よりも高い場合に、「IFT88が検出された」、又は「IFT88の発現が陽性である」と決定してもよい。また、体液試料から回収した細胞又は組織に由来する検査サンプル中のIFT88タンパク質量又はRNA量が基準値よりも低い場合に、「IFT88が検出されない」又は、「IFT88の発現が陰性である」と決定してもよい。基準値は、IFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量が検出されているか、又は発現が陽性であるかを判別できる値である限り制限されず、公知の方法により決定することができる。IFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量が検出されているか、又は発現が陽性であるかを判別できる値は、ROC(receiver operating characteristic curve)曲線、判別分析法、モード法、Kittler法、3σ法、p‐tile法等により決定することもできる。また、基準値として、感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率、第一四分位数等を例示できる。
【0031】
尿路系上皮腫瘍関連病変の検出方法は、前記尿路系上皮細胞において、IFT88が検出されなかった場合に、尿路系上皮腫瘍関連病変が存在すると決定する工程を含んでいてもよい。
【0032】
3.検査試薬
本開示の別の態様は、尿路系上皮細胞に存在するIFT88を、尿路系上皮腫瘍関連病変を検出するためのバイオマーカーとして検出するための検査試薬に関する。
検査試薬は、IFT88タンパク質検出用試薬及び/又はIFT88 mRNA検出用試薬を含み得る。
【0033】
IFT88タンパク質検出用試薬は、少なくともIFT88タンパク質の一部に結合可能な一種又は複数の抗体(例えば、一次抗体)を含む。「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、前記抗体は、抗体ライブラリからスクリーニングされたものであってもよく、キメラ抗体、scFv等であってもよい。
また、抗体は必ずしも精製されている必要はなく、抗体を含む抗血清、腹水、これらから画分された免疫グロブリン画分等であってもよい。
【0034】
検査試薬に含まれる抗体は、乾燥状態であってもよく、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファーに溶解されていてもよい。さらに、検査試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0035】
IFT88と結合する抗体は、酵素や蛍光色素で標識されていてもよい。IFT88と結合する抗体はマイクロプレート、磁性ビーズ等に固定されていてもよい。
【0036】
IFT88タンパク質検出用試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、IFT88と結合する抗体が未標識の一次抗体である場合には、検査キットに酵素又は蛍光色素で標識された二次抗体が含まれていてもよい。さらに、検査キットには前記酵素と反応する基質が含まれていてもよい。
【0037】
IFT88mRNA検出用試薬は、IFT88mRNA又はIFT88cDNAの全体又は一部とハイブリダイズする核酸を含む。核酸は、プライマー、及び/又はプローブとしての機能を有する検出用の核酸(DNA又はRNA)であることが好ましい。検出用核酸の長さは、特に制限されない。
【0038】
検出用核酸が、PCR反応に使用されるプライマーであれば、IFT88mRNA又はIFT88cDNAとハイブリダイズする配列が、好ましくは50 mer以下であり、より好ましくは30 mer以下であり、さらに好ましくは、15~25 mer程度である。プライマーには、IFT88mRNA又はIFT88cDNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。また、プライマーは、蛍光色素等で標識されていてもよい。
【0039】
また、RT-PCRには、プライマーの他にPCR産物のリアルタイムの定量のために使用される、PCR反応中に分解される定量用プローブを使用することもできる。定量用プローブもIFT88mRNA又はIFT88cDNAとハイブリダイズする限り、制限されない。定量用プローブは、IFT88mRNA又はIFT88cDNAとハイブリダイズする配列を含む、5~20 mer程度の核酸であることが好ましい。さらに定量用プローブの一端には、蛍光色素が標識され、定量用プローブのもう一端には、当該蛍光色素のクエンチャーが標識されていることが好ましい。
【0040】
検出用核酸が、マイクロアレイ等においてキャプチャープローブとして使用されるものであれば、IFT88mRNA又はIFT88cDNAとハイブリダイズする配列が、好ましくは100 mer程度であり、より好ましくは60 mer程度であり、さらに好ましくは、20~30 mer程度である。キャプチャープローブには、IFT88mRNA又はIFT88cDNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。さらにキャプチャープローブは、チップに固定化されていることが好ましい。
【0041】
検出用核酸が、in situハイブリダイゼーション用のプローブである場合、検出用核酸は、IFT88mRNAとハイブリダイズする配列が、15~100 mer程度のオリゴヌクレオチドであってもよく、100 merを超えるポリヌクレオチドであってもよい。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。in situハイブリダイゼーション用のプローブには、ジゴキシゲニン、蛍光色素等の標識物質が結合されうる。プローブには、IFT88mRNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。
【0042】
IFT88mRNA検出用試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、RT-PCRによりIFT88mRNA又はIFT88cDNAを検出する場合には、検査キットに核酸増幅試薬(耐熱性DNAポリメラーゼ、バッファー、dNTP等を含む)、逆転写酵素等を含んでいてもよい。核酸増幅試薬には、必要に応じてSYBER GREEN(登録商標)等の色素が含まれていてもよい。マイクロアレイによりIFT88mRNA又はIFT88cDNAを検出する場合には、検査キットにハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。in situハイブリダイゼーションによりIFT88mRNAを検出する場合には、検査キットに、プロティナーゼK等のタンパク質分解酵素、ハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。
【0043】
4.尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出装置
4-1.尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出装置の構成
本開示の一実施形態は尿路系上皮腫瘍関連病変の検出システム1000及び尿路系上皮腫瘍関連病変の検出装置10に関する。
【0044】
図1は、尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出システム1000(以下、単に検出システム1000という)の概観図であり、検出システム1000は一態様として、尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出装置10(以下、単に検出装置10という)の他、分析装置5a又は分析装置5bとを備えていてもよい。
図2に、検出装置10のハードウェアを示す。検出装置10は、入力部111と、出力部112と、記憶媒体113とに接続されていてもよい。
【0045】
検出装置10において、処理部101と、主記憶部102と、ROM(read only memory)103と、補助記憶部104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108は、バス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。主記憶部102と補助記憶部104とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0046】
処理部101は、検出装置10のCPUである。処理部101は、GPUと協働してもよい。処理部101が、補助記憶部104又はROM103に記憶されているオペレーションシステム(OS)104aと協働して検出プログラム104bを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、コンピュータが検出装置10として機能する。
【0047】
ROM103は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成され、処理部101により実行される検出プログラム104b及びこれに用いるデータが記録されている。処理部101はMPU101としてもよい。ROM103は、検出装置10の起動時に、処理部101によって実行されるブートプログラムや検出装置10のハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0048】
主記憶部102は、SRAM又はDRAMなどのRAM(Random access memory)によって構成される。主記憶部102は、ROM103及び補助記憶部104に記録されている検出プログラム104bの読み出しに用いられる。また、主記憶部102は、処理部101がこれらの検出プログラム104bを実行するときの作業領域として利用される。
【0049】
補助記憶部104は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。補助記憶部104には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部101に実行させるための種々の検出プログラム104b及び検出プログラム104bの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、基準値等を不揮発性に記憶する。
【0050】
通信I/F105は、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(Network interface controller:NIC)等から構成される。通信I/F105は、処理部101の制御下で、分析装置5a,5b又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて検出装置10が保存又は生成する情報を、分析装置5a,5b又は外部に送信又は表示する。通信I/F105は、ネットワークを介して分析装置5a,5b又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0051】
入力I/F106は、例えばUSB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成される。入力I/F106は、入力部111から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。
【0052】
入力部111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、検出装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力部111は、検出装置10の外部から接続されても、検出装置10と一体となっていてもよい。
【0053】
出力I/F107は、例えば入力I/F106と同様のインタフェースから構成される。出力I/F107は、処理部101が生成した情報を出力部112に出力する。出力I/F107は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、出力部112に出力する。
【0054】
出力部112は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、分析装置5a,5bから送信される測定結果及び検出装置10における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0055】
メディアI/F108は、記憶媒体113に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。また、メディアI/F108は、処理部101が生成した情報を記憶媒体113に書き込む。メディアI/F108は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、記憶媒体113に書き込む。
【0056】
記憶媒体113は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。記憶媒体113は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F108と接続される。記憶媒体113には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0057】
処理部101は、検出装置10の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM103又は補助記憶部104からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの補助記憶部内に格納されており、このサーバコンピュータに検出装置10がアクセスして、検出プログラム104bをダウンロードし、これをROM103又は補助記憶部104に記憶することも可能である。
【0058】
また、ROM103又は補助記憶部104には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、検出装置10は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0059】
検出システム1000は一カ所に設置されている必要はなく、検出装置10と分析装置5a,5bが別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、検出装置10は、入力部111や出力部112を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
【0060】
分析装置5aは、タンパク質の量又は濃度を測定するための装置であり、試料置き場51と、反応部52と、検出部53とを備える。試料置き場51にセットされた細胞溶解液は、反応部52に設置された抗原捕捉用抗体が固相されたマイクロプレートに分注されインキュベーションされる。必要に応じて未反応の抗原を除去した後、検出用抗体がマイクロプレートに分注され、インキュベーションされる。必要に応じて未反応の抗原を除去した後、検出用抗体を検出するための基質がマイクロプレートに分注され、マイクロプレートが検出部53に移動され、基質が反応して発生したシグナルが測定される。
【0061】
また、分析装置5aの別態様は、マイクロアレイ解析によるmRNAの発現量を測定するための装置であり、試料置き場51にセットされた逆転写反応物を反応部52にセットされたマイクロアレイチップ上に分注し、ハイブリダイゼーションを行い、洗浄した後、検出部53に移動させシグナルを検出する。
【0062】
さらに、分析装置5aの別態様は、RT-PCR、又はナノポアシークエンスによるmRNAの発現量を測定するための装置であり、試料置き場51にセットされた逆転写反応物を反応部52にセットされたマイクロチューブ内に分注し、続いて定量的PCR用試薬をマイクロチューブ内に分注する。反応部52でPCR反応を行いながら、検出部53でチューブ内のシグナルを検出する。
【0063】
分析装置5bは、RNA-Seq法によってmRNAの発現量を測定するための装置であり、配列解析部54を備える。RNA-Seq用の反応を行ったサンプルを配列解析部54にセットし、配列解析部54内で、塩基配列の解析をおこなう。
【0064】
分析装置5bは、ウエスタンブロッティングによりタンパク質量を測定するための全自動ウエスタンブロッティング装置であり、化学発光シグナル検出部54を備える。溶解バッファーで溶解された細胞又は組織のサンプルを自動ウエスタンブロッティング装置の所定の位置にセットし、SDS-PAGE、メンブレンへのブロッティング、抗体反応、化学発光を行い、化学発光シグナル検出部54にて解析をおこないシグナル強度を定量化する。
【0065】
また、分析装置5bは、細胞標本あるいは組織標本を顕微鏡相当の拡大機能を有する撮像機能、及びシグナル検出能を備えるスライドスキャナであってもよい。スライドスキャナにより、標本上の目的とするシグナル強度を半定量化あるいは、定量化することができる。
【0066】
分析装置5a、及び5bは、有線又は無線によって検出装置10に接続されている。分析装置5aは、タンパク質の測定値、又はmRNAの測定値をA/D変換して、デジタルデータとして検出装置10に送信する。同様に、分析装置5bは、mRNAの測定値をA/D変換して、デジタルデータとして検出装置10に送信する。これにより、検出装置10は、タンパク質の測定値、又はmRNAの測定値を、演算処理可能なデジタルデータとして取得することができる。
【0067】
4-2.尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出プログラムの処理
図3に尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーの検出プログラム(以下、単に検出プログラムと呼ぶ)の処理のフローチャートの一例を示す。
【0068】
検出装置10の処理部101は、オペレータが入力部111から処理開始の入力を行うことにより、尿路系上皮腫瘍関連病変のバイオマーカーを検出するための処理を開始する。ステップS11において、処理部101は、分析装置5a又は分析装置5bから、被検者から採取された試料中の尿路系上皮細胞におけるIFT88のタンパク質量、又はIFT88のmRNA量若しくはこれらを反映する値をIFT88の測定値として取得する。あるいは、オペレータが免疫染色又はin situハイブリダイゼーションによるIFT88の発現が陽性であるか陰性であるか(あるいは、IFT88が検出されたか否か)を入力部111から入力し、処理部101がこの入力をIFT88の測定値として取得してもよい。
次に処理部101は、ステップS12において、記憶部に記憶されているIFT88の基準値と、ステップS11で取得した測定値とを比較する。
【0069】
処理部101は、ステップS13において、取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合には、ステップS14(YES)に進み、尿路系上皮腫瘍関連病変があると決定し、決定結果を示すラベルを出力部112に出力する(ステップS16)。また、ステップS13において、取得した測定値が基準値よりも同等であるか高い場合に、ステップS15(NO)に進み、尿路系上皮腫瘍関連病変がないと決定し、決定結果を示すラベルを出力部112に出力する(ステップS16)。尿路系上皮腫瘍関連病変があると決定した場合におけるラベルには、「尿路系上皮腫瘍関連病変が有る」、又は「尿路系上皮腫瘍関連病変を示唆する」ことを示す情報が含まれる。尿路系上皮腫瘍関連病変がないと決定した場合におけるラベルには、「尿路系上皮腫瘍関連病変がない」、又は「尿路系上皮腫瘍関連病変を示唆しない」ことを示す情報が含まれる。前記情報は、×、〇、感嘆符等のマークであってもよい。
基準値、比較方法、測定値が基準値よりも高いか低いかの判定方法等の詳細は、上記2.の説明をここに援用する。
【0070】
4-3.検出プログラムを格納する記憶媒体
本実施形態は、ステップS11~S16の処理をコンピュータに実行させる、検出プログラム104bを含む。
さらに、本実施形態のある実施形態は、前記検出プログラム104bを記憶した、記憶媒体等のプログラム製品に関する。すなわち、前記検出プログラム104bは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に格納され得る。また、記憶媒体はサーバ装置等のコンピュータであってもよい。記憶媒体へのプログラムの記録形式は、訓練装置200Aがプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記録は、不揮発性であることが好ましい。
【0071】
5.尿路系上皮腫瘍の治療方法
本開示において、尿路系上皮腫瘍が陽性であるか陰性であるかに応じて治療方法を決定することができる。例えば、被検者から採取された試料中の尿路系上皮細胞においてIFT88が陰性である場合には、公知の治療を行うことを提示することができる。
【0072】
被検者から採取された試料中の尿路系上皮細胞においてIFT88が陰性である場合、外科的切除、放射線治療、BCG(ウシ型弱毒結核菌)投与、抗がん剤の投与等を提示することができる。外科的切除には、膀胱全摘、経尿道的膀胱腫瘍切除術を含み得る。抗がん剤には、ゲムシタビン、シスプラチン、シスプラチン、メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン等を含み得る。また、抗がん剤の投与には、GC療法(ゲムシタビンとシスプラチン)、MVAC療法(シスプラチン、メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン)等の多剤併用投与を含み得る。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明の実施形態は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0074】
1.実施例1:組織試料におけるIFT88タンパク質の検出
1-1.免疫染色
関西医科大学附属病院を受診した被検者から採取した膀胱組織を用いてパラフィン包埋組織を作製した。
パラフィン包埋組織を薄切し、スライドグラスにとり、スライド標本を作製した。
【0075】
スライド標本に対して、キシレンで脱パラフィンを行い、エタノールで親水処理し、その後一旦乾燥させた。乾燥後のスライド標本をPBSで、5分間、3回洗浄した。抗原の賦活化及びブロッキングを行わずに、0.3% Triton X-100加PBSで50倍希釈したMouse Anti-IFT88(ProteinTech社, 60227-1-Ig)を洗浄後のスライド標本にのせ、室温で90分間インキュベートした。
インキュベート終了後のスライド標本を0.3% Triton X-100加PBSで、5分間、3回洗浄した。
【0076】
洗浄後のスライド標本に、0.3% Triton X-100加PBSで2000倍希釈したGoat anti-Mouse IgG (H+L) Cross-Adsorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 594(Invitrogen, A-11005)をのせ、室温で60分間インキュベートした。
インキュベート終了後のスライド標本を0.3% Triton X-100加PBSで5分間、2回洗浄後、蒸留水で5分間、2回洗浄した。
【0077】
洗浄後のスライド標本を、Dapi-Fluoromount-G(商標)(SouthernBiotech, 0100-20)を使用しカバーガラスをかけ封入した。
【0078】
1-2.結果
正常の膀胱組織、炎症を来した膀胱組織、異形成を来した膀胱組織、低異形乳頭癌組織、上皮内癌、浸潤癌、扁平上皮分化を来した膀胱組織について免疫染色を行った。その結果を
図4に示す。
図4上段はHE染色画像であり、下段はIFT88の免疫染色画像である。IFT88の存在を示す蛍光シグナルは、正常膀胱組織、及び炎症性膀胱組織において検出されたが、前癌病変である異形成膀胱組織、及び扁平上皮分化膀胱組織では、検出されなかった。また、癌組織においても、IFT88の存在を示す蛍光シグナルは検出されなかった。
【0079】
これらの結果から、IFT88の存在は、正常組織及び炎症性病変のグループと、前癌病変及び癌病変のグループを識別する際のマーカーとして使用できることが示された。
【0080】
さらに、正常膀胱組織6例、炎症性膀胱組織6例について検討を行った。いずれもIFT88は陽性であった。このことから、CK8、CK18、NMP22のような炎症性疾患における擬陽性は少ないものと考えられた。
【0081】
2.実施例2:尿試料中の尿路上皮の剥離片の免疫染色
被検者から採取した尿試料中の尿路上皮の剥離片に対して、免疫染色を行った。
尿試料を遠心して細胞を回収し、細胞標本を作製した。細胞標本に対して、1-1.と同じ抗体と試薬を用いて免疫染色を行った。
【0082】
結果を
図5に示す。正常尿路上皮は、細胞全体にIFT88の存在を示す蛍光シグナルが検出された。一方、尿路上皮癌の細胞では、IFT88の存在を示す蛍光シグナルは検出されなかった。
この結果から、尿試料中の細胞を用いても、正常組織及び炎症性病変のグループと、前癌病変及び癌病変のグループを識別することが可能であると考えられた。
【0083】
3.実施例3: IFT88 mRNAの検出
RNAscope(商標)(Advanced Cell Diagnostics社)を用いてIFT88のin situ ハイブリダイゼーションを行い、正常膀胱組織、炎症性膀胱組織、異形成膀胱組織、上皮内癌組織、筋層浸潤癌組織のIFT88 mRNAの検出を行った。有意差は、ボンフェローニ補正をかけた上で、ステューデントt検定を行い検定した。
【0084】
結果を
図6に示す。
図6は、各組織の3視野について100μm
2あたりのIFT88 mRNAのドット状のシグナルをカウントし、平均値を求めた結果である。異形成膀胱組織、上皮内癌組織、筋層浸潤癌組織では、正常膀胱組織よりも著しくシグナル数が減少していた。また、炎症性膀胱組織では、正常膀胱組織よりもシグナル数が有意に増加していた。
【0085】
このことから、IFT88 mRNAも、正常組織及び炎症性病変のグループと、前癌病変及び癌病変のグループを識別する際のマーカーとして使用できることが示された。
また、炎症性病変でシグナル数が正常組織よりも増加することから、炎症性病変でIFT88が陰性となるリスクは少ないものと考えられた。