(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】衣服用ファンおよびそれを備えた衣服
(51)【国際特許分類】
F04D 29/52 20060101AFI20240926BHJP
F04D 25/08 20060101ALI20240926BHJP
F04D 29/64 20060101ALI20240926BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
F04D29/52 B
F04D25/08 301A
F04D29/64 B
A41D13/005 103
(21)【出願番号】P 2020177000
(22)【出願日】2020-10-21
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】513167304
【氏名又は名称】長信ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】関 亮華
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-067058(JP,A)
【文献】登録実用新案第3226906(JP,U)
【文献】特開2019-049209(JP,A)
【文献】登録実用新案第3221981(JP,U)
【文献】特開2020-002482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0196686(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/52
F04D 25/08
F04D 29/64
A41D 13/005
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の羽根を設けたプロペラファンを収容し、吸入口と吐出口との間に環状部を設けたケーシングと、
前記環状部の外周面で螺合し、前記環状部の吸入口側に形成されたフランジと接する位置まで回転可能なリングとを備え、
前記フランジのリング対向面および前記リングのフランジ対向面に、
前記リング対向面と前記フランジ対向面との間に衣服を挟んだ状態で、前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近までの回転を許容
し、前記リングを締め回していくときに前記衣服に対して力を作用させ、そして、前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近から前記リングの緩める方向への回転を規制する凸部が、周方向に沿って互いに形成されていることを特徴とする衣服用ファン。
【請求項2】
前記フランジのリング対向面および前記リングのフランジ対向面の一方に形成される凸部が、前記リングの最大締め付け位置において、他方に形成される複数の凸部の間に介在することを特徴とする請求項1に記載の衣服用ファン。
【請求項3】
前記フランジのリング対向面および前記リングのフランジ対向面の一方に形成される凸部が、前記リングの最大締め付け位置到達までに、他方に形成される複数の凸部と一部接触することを特徴とする請求項1または2に記載の衣服用ファン。
【請求項4】
前記リングのフランジ対向面に、複数のリング側凸部が所定間隔で形成され、
前記フランジのリング対向面に、複数のフランジ側凸部が前記所定間隔より長い間隔で形成されることを特徴とする請求項3に記載の衣服用ファン。
【請求項5】
複数の羽根を設けたプロペラファンを収容し、吸入口と吐出口との間に環状部を設けたケーシングと、
前記環状部の外周面で螺合し、前記環状部の吸入口側に形成されたフランジと接する位置まで回転可能なリングとを備え、
前記リングのフランジ対向面に、複数のリング側凸部が等間隔で形成され、
前記フランジのリング対向面に、複数のフランジ側凸部が、前記リング側凸部よりも周方向に距離を空けて等間隔で形成され、
前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近において、前記複数のフランジ側凸部各々が、2つのリング側凸部の間に介在し、
前記複数のフランジ側凸部および前記複数のリング側凸部が、前記リング対向面と前記フランジ対向面との間に衣服を挟んだ状態で、前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近までの回転を許容し、前記リングを締め回していくときに前記衣服に対して力を作用させ、そして、前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近から前記リングの緩める方向への回転を規制することを特徴とする衣服用ファン。
【請求項6】
前記複数のリング側凸部の数が、20~40の範囲に定められ、
前記複数のフランジ側凸部の数が、2~10の範囲に定められることを特徴とする請求項5に記載の衣服用ファン。
【請求項7】
複数の羽根を設けたプロペラファンを収容し、吸入口と吐出口との間に環状部を設けたケーシングと、
前記環状部の外周面で螺合し、前記環状部の吸入口側に形成されたフランジと接する位置まで回転可能なリングとを備え、
前記フランジのリング対向面および前記リングのフランジ対向面に、
前記リング対向面と前記フランジ対向面との間に衣服を挟んだ状態で、前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近までの回転を許容
し、前記リングを締め回していくときに前記衣服に対して力を作用させ、そして、前記リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近から前記リングの緩める方向への回転を規制する相補的プロファイルが、周方向に沿って互いに形成されていることを特徴とする衣服用ファン。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載された衣服用ファンを備えたことを特徴とする衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業着などの衣服に装着して外気を衣服内に送り込む衣服用ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
衣服用ファンは、衣服の背面などに装着して使用する送風機であり、ファンの回転によって外気を衣服内部に送ることで、衣服着用者の発汗を抑える。衣服用ファンは、モータに同軸配置された軸流式モータファンを備え、筒状本体(ケーシング)にモータファンを収納し、衣服に形成された取付穴の縁部分を本体に挟み込むことによって、衣服に装着させる。
【0003】
例えば、リング状部材を本体に螺合させることによって衣服用ファンを衣服に装着させる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。そこでは、本体の衣服外側端部にフランジを設け、フランジより上の本体側面に雄ネジを形成する一方、内周面に雌ネジを形成したリングを本体側面に螺合させることで、取付穴の縁部分がフランジとリングによって挟まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
衣服着用者は、作業現場において、建材の運び込み、組み立て作業などをしているため、長時間動き続けている。そのため、単に螺合だけでファンを衣服に取り付けてるだけでは、何らかの理由でリングの締め付けが緩み、衣服用ファンの取り付け位置のずれや落下を招く恐れがある。
【0006】
したがって、ねじ回しによって衣服用ファンを衣服へ確実に装着、固定することができる衣服用ファンの取付構造が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様である衣服用ファンは、衣服に装着可能なファンであって、複数の羽根を設けたプロペラファンを収容し、吸入口と吐出口との間に環状部を設けたケーシングと、環状部の外周面で螺合し、環状部の吸入口側に形成されたフランジと接する位置まで回転可能なリングとを備え、フランジのリング対向面およびリングのフランジ対向面に、リングの最大締め付け位置までの回転を許容する凸部が、周方向に沿って互いに形成されている。また、本発明の一態様である衣服用ファンは、複数の羽根を設けたプロペラファンを収容し、吸入口と吐出口との間に環状部を設けたケーシングと、環状部の外周面で螺合し、環状部の吸入口側に形成されたフランジと接する位置まで回転可能なリングとを備え、リングのフランジ対向面に、複数のリング側凸部が等間隔で形成され、フランジのリング対向面に、複数のフランジ側凸部が、リング側凸部よりも周方向に距離を空けて等間隔で形成され、リングの最大締め付け位置または最大締め付け位置付近において、複数のフランジ側凸部各々が、2つのリング側凸部の間に介在する。さらに、本発明の一態様である衣服用ファンは、複数の羽根を設けたプロペラファンを収容し、吸入口と吐出口との間に環状部を設けたケーシングと、環状部の外周面で螺合し、環状部の吸入口側に形成されたフランジと接する位置まで回転可能なリングとを備え、フランジのリング対向面およびリングのフランジ対向面に、リングの緩める方向への回転を規制する相補的プロファイルが、周方向に沿って互いに形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ねじ回しによって衣服用ファンへ確実に固定するとともに、衣服から容易に取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】衣服用ファンの吸入口側から見た斜視図である。
【
図2】衣服用ファンの吐出口側から見た分解斜視図である。
【
図5】プロペラファンを吐出口側から見た斜視図である。
【
図6】プロペラファンおよびモータハウジングを吸入口側から見た分解斜視図である。
【
図8】リングとフランジ接触部分を示す
図3の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本実施形態である衣服用ファンについて説明する。
図1は、衣服用ファンの吸入口側から見た斜視図である。
図2は、衣服用ファンの吐出口側から見た分解斜視図である。
図3は、衣服用ファンの側面図である。
図1~
図3を用いて、衣服用ファンの全体的構成について説明する。
【0011】
衣服用ファン10は、専用の衣服100(
図2参照)に装着可能な小型送風装置であり、衣服100の背面側に形成された取付穴100Rに着脱自在に装着される。衣服用ファン10は、プロペラ状の軸流式ファン(以下、プロペラファンという)20と、プロペラファン20を収容する筒状のケーシング30とを備え、吸入口10I側が衣服外側、吐出口10F(
図2参照)側が衣服内側となるように装着される。
【0012】
ケーシング30は、本体部32とモータ装着部34から構成される。
図2に示すように、モータ装着部34は、係合部34Tによって本体部32から取り外し可能に装着されている。本体部32は、吸入口10I側の端部にフランジ32Fを形成する環状部36を備え、環状部36は、プロペラファン20を収容する。なお、
図2では、説明の便宜上、モータを図示していない。
【0013】
本体部32の吸入口10Iは、フランジ32Fを外枠としてリブ構造のある開口部であり、円筒状の中心部31から複数の径方向リブ32R1が放射状に延びるとともに、2つの環状リブ32R2が径方向リブ32R1と交差しながら同心円状に配置されている。
【0014】
モータ装着部34は、中心部に有底筒状のモータハウジング50を備え、リブ構造によって皿状の枠体を構成し、吐出口10Fとして機能する(
図3参照)。モータハウジング50は、ブラシレスモータなどのモータ(ここでは図示せず)をその内部空間54Bに収容する。また、モータ装着部34のリブ構造は、複数の径方向リブ34R1を同心円状の環状リブ34R2を交差させて環状の枠35に繋げた構造になっている。蓋60は、モータハウジング50の係合穴54Kに差し込み可能な係合片60Tを有し、モータハウジング50を塞ぐ。
【0015】
モータハウジング50の開口部付近には、径方向に突出する接続部55が形成されている。バッテリと接続する電源ケーブル(ともに図示せず)は、モータハウジング50の接続口55に設けられた入力端子54Mに接続される。プロペラファン20は、ケーシング30に同軸配置されるモータの出力シャフトに取り付けられ、モータの駆動によって回転する。衣服用ファン10は、出力電圧を変更することが可能なバッテリと接続可能であり、例えば4段階で出力電圧を段階的に調整することができる。プロペラファン20は、出力電圧に応じた風量を吐出口10F側へ送る。
【0016】
リング40は、本体部32のフランジ32Fとの間に衣服100(取付穴100Rの周縁部)を挟み込む保持部材であり、本体部32の環状部36と螺合する(
図2参照)。リング40は、環状部36の外周面に形成された雄ネジ36Mに沿って回転し、リング40の吐出口側端部に形成されたフランジ40Fが本体部32のフランジ32Fと接触するまで回転可能である。
【0017】
ユーザは、リング40を外した状態でケーシング30をモータ装着部34側から衣服100の取付穴100Rに挿入する。そして、衣服内側からリング40をケーシング30周りに回転させて締め付ける。これによって、衣服用ファン10が衣服100に装着、固定される。本体部32のフランジ32Fの側面32Sは、フランジ32Fが一度で掴みやすい滑らかな波型形状であり、指が引っ掛かるような凸部やエッジが形成されていない。
【0018】
本実施形態の衣服用ファン10は、ファン軸E方向に沿った幅の狭い薄型ファン(
図3参照)であり、プロペラファン20の構成によって実現している。また、バッテリにおいて出力電圧を増加させた場合などにおいても、モータの過熱を防ぐモータハウジング50の構成になっている。さらに、リング40をケーシング30周りに締め付けるとき、リング40の緩む方向への回転を規制する構成になっている。以下、これらについて詳述する。
【0019】
まず、
図4、5を用いて、プロペラファン20の構成について説明する。
図4は、吸入口10I側(正面側)から見たプロペラファン20の平面図である。
図5は、吐出口10F側から見たプロペラファン20の斜視図である。軸流式のプロペラファン20は、円筒状ハブ21に8枚の羽根(以下では、必要に応じて翼ともいう)20A~20Hを取り付けた羽根車であり、ハブ21の先端面21T2の中央部には、円筒状突出部21T1が形成されている。ハブ21の中心軸はケーシング30の軸(モータの軸)Eと一致する(以下、ハブの軸もEで表す)。
【0020】
衣服用ファン10は、吸入口10I側を正面とした単段軸流式ファンであり、モータの出力シャフトに取り付けられたハブ21が回転することによって、吸入口10Iから吐出口10F(背面側)へ空気が送り出される。羽根20A~20Hの形状、取付角度などといった翼プロファイルは、この流れを作り出すように定められている。プロペラファン20は、吐出口10F(背面側)から見て時計回りに回転する。
【0021】
8枚の羽根20A~20Hの3次元翼形状、取付角度ξは、ここでは同じである。ここでの取付角度ξは、ハブ21の先端面21T2、すなわちハブ21の軸Eに垂直な面に対する傾斜角度として定められる。例えば、羽根20Bの場合、ハブ21の側面21Sに対する付け根部分の翼前縁K1と翼後縁K2とを結ぶ直線の傾斜角度として表される。ここでの取付角度ξは45°より大きい角度に定められ、例えば50°を超えた角度に定めることができる。
【0022】
本実施形態では、8枚の羽根20A~20Hが、ハブ21の側面21Sに周方向に沿って等間隔で取り付けられている。すなわち、隣り合う羽根同士を、中心からの角度α=45°だけ離れた角度位置に定めている。角度αは、ハブ21の軸Eに垂直な面で規定される角度であり、例えば、羽根20A、20Bの翼の最も外側(最外遠)の翼辺に当たる前縁部分K3、K5、後縁部分K4、K6との間の角度αは、いずれも45°になる。
【0023】
8枚の羽根20A~20Hは、ハブ21の側面(以下、ハブ側面といもいう)21Sの軸方向全体に渡って取り付けられている。すなわち、羽根20A~20Hのハブ側面21Sにおける軸方向幅Iが、ハブ側面21Sの軸方向長さLに対応している。例えば、羽根20Bの場合、付け根の翼前縁K1はハブ21の下端21P付近に位置し、翼後縁K2はハブ21の先端面21T2の縁21N付近に位置する。
【0024】
また、8枚の羽根20A~20Hは、付け根から径方向最遠端までの翼前縁(羽根20Bの場合、翼前縁K1から翼後縁K3までの翼辺)は、ハブ21の軸Eに垂直な面に沿っている。翼後縁についても同じであり(羽根20Bの場合、翼後縁K2から翼後縁K4までの翼辺)、前縁と後縁は互いに平行である。さらに、各羽根は、前縁および後縁((羽根20Bの場合、K3およびK4)でエッジのある翼形状になっている。
【0025】
一方、羽根20A~20Hの3次元翼形状を径方向に沿って見ると、ハブ21の下端21P付近の翼辺(羽根20Bの場合、K1~K3の翼辺)と比べて、ハブ21の先端面縁21N付近の翼辺(羽根20Bの場合、K2~K4の翼辺)の方が湾曲度合が大きく、ハブ21の先端面縁21Nに近いほどひねりのある曲面形状となっている。そのため、ハブ21に対する付け根付近の翼弦長(羽根20Bの場合、K1とK2を結ぶ直線の長さに対応)よりも、径方向最外遠の翼辺の翼弦長(羽根20Bの場合、K3とK4を結ぶ直線の長さに対応)の方が長い。
【0026】
また、羽根20A~20Hは、ハブ21の先端面21T2側でひねりのある翼形であるため、径方向に最外遠となる翼辺の前縁と後縁とを結ぶ直線の傾斜角度β(羽根20Bの場合、K3とK4を結ぶ直線のハブ軸Eに垂直な面に対する傾斜角度)は、取付角度ξよりも小さい。ここでは、45°より小さくなるように、羽根20A~20Hの翼曲面形状が定められている。
【0027】
このような羽根20A~20Hの翼曲面形状に従い、隣り合う羽根との間にスペースが確保される (
図4参照)。例えば、羽根20Bの後縁K4と軸Eを結ぶ直線を規定した場合、その直線は隣の羽根20Aと重ならない。ここで、羽根20A~20Hを翼列として展開させると、翼列の弦節比(翼弦長とスペーシングとの比)は比較的小さい。
【0028】
スペーシング(ピッチ)、すなわち隣り合う羽根の最外遠翼辺の後端距離間隔(羽根20A、20Bの場合、K4とK6との周方向に沿った距離間隔に相当)は、翼弦長(羽根20A、20Bの場合、K3とK4を結ぶ直線、K5とK6を結ぶ直線の長さ)よりも大きい。なお、スペーシング、翼弦長については当業者にとって技術常識であるため、翼列の展開図は省略している。
【0029】
このように、8枚という多翼でありながら、ハブ軸方向から見た時に隣り合う羽根との間のスペースを確保する翼形状にすることによって、以下説明するように、衣服用ファン10の薄型化、静粛性、ファン運転時の送風機能の安定性を実現することができる。
【0030】
従来では、翼枚数が偶数枚の場合、共振などが生じやすくなり、騒音などの悪影響が生じると考えられ、扇風機や自動車のラジエータ冷却ファン、コンピュータの小型冷却ファンなどでは、翼枚数が奇数に定められている(扇風機の場合、3枚、5枚あるいは7枚)。すなわち、各羽根の対向する位置からオフセットした位置に羽根が取り付けられている。
【0031】
しかしながら、衣服用ファン10が使用される作業現場やイベント会場では、ある程度の騒音、雑音が必然的な使用環境となり、翼枚数による騒音への影響は比較的小さい。それよりも、衣服用ファン10の場合、ケーシング30の吸入口10I、吐出口10Fに形成されるリブ構造に起因する風切り音が、騒音に大きく影響する。このリブ構造は、ケーシング30の強度維持、プロペラファン20の外部器具との接触防止などを理由として必要な構造である。
【0032】
一方、衣服用ファン10は、コンピュータ用の冷却ファン、自動車の冷却ファンなどと違い、運転時の位置が同じ場所にあらず、衣服着用者の動きによって位置や姿勢が大きく変化する。この場合、対向する位置に羽根を設けた偶数枚のプロペラファン20は、回転対称だけでなく線対称となるため、より重心バランスが良好となり、姿勢変化や力を受けたとき羽根の耐性が優れたものとなる。さらに、バッテリにより出力電圧を段階的に調整する場合、対向位置に羽根があるため、プロペラファン20の回転速度を瞬間的に上げやすい。
【0033】
一方、羽根を偶数枚で構成する場合、翼枚数を少なくして必要な風量を得ようとすると、羽根をできる限り寝かせた状態(ハブ先端面21T2に沿わせた状態)でハブに取り付け、翼幅を大きくする必要がある。しかしながら、取付角度を小さくして翼幅の広い羽根で構成すると、羽根の根元部分にかかる力が大きくなり、ハブ強度の観点からハブの側面の軸方向長さを十分確保しなければならない。ハブの軸方向長さが増すことによって、ファン薄型化を実現することができない。
【0034】
8枚の羽根20A~20Hで構成されるプロペラファン20は、多翼化によって羽根20A~20H各々の受ける力が翼枚数を少なくした場合に比べて小さくなる。また、8枚の羽根20A~20Hとの間でスペーシングを確保して翼を寝かせないようにすることで、羽根付け根部分に過度な力がかからない。
【0035】
そのため、ハブ21の軸方向長さLに応じた軸方向幅Iをもつ羽根20A~20Hを構成しても、ハブ21の強度が十分確保される。したがって、ハブ21の軸方向長さLをケーシング30の環状部36の軸方向長さW(
図3参照)より短くする、すなわち、羽根20A~20Hの回転区域を環状部36に収めることができる。このことは、衣服用ファン10の軸方向幅を短くする(薄くする)ことに繋がる。
【0036】
なお、8枚の羽根20A~20Hのスペーシングが比較的大きく、取付角度が大きい(羽根が寝ていない)構成であっても、衣服100に装着される衣服用ファン10は身体近くに位置するため、扇風機のようにファン軸方向に沿って遠方まで送風する必要はなく、逆に、周囲に流れていく方向に送風するのが好ましい。
【0037】
プロペラファン20がケーシング30の環状部36に収まることで、径方向最外遠の翼辺(羽根20Bの場合、K3~K4の翼辺)付近を流れていく空気は、最も回転速度が早い翼部分の影響を受け、リブ構造であるモータ装着部34の枠35付近から吐出される。その結果、効果的流れを衣服内に作り出すことができる。また、8枚の羽根20A~20Hの取付角度が比較的大きく、翼幅が抑えられているため、各羽根の騒音が抑え得られる。
【0038】
さらに、8枚の羽根20A~20Hでプロペラファン20を構成する場合、出力電圧が低く設定された回転速度が低速になったとき、吐出口10F側との比較で吸入口10I側での負圧が保たれる。そのため、同一回転速度の場合、翼枚数の少ないプロペラファンと比べて効率よく送風するこができる。
【0039】
8枚より翼枚数を多くして羽根を構成する場合、10枚、12枚の羽根で構成することが比速度(形式数)の観点から可能である。しかしながら、スペーシングを確保することが難しくなり、羽根にかかる力が大きくなって高速回転に不向きとなるため、8枚の羽根20A~20Hで構成するが好ましい。ただし、10枚、12枚の羽根で構成しても、偶数枚の場合の効果を得ることができる。なお、羽根に関して線対称性があると許容できる範囲であれば、不等間隔で偶数枚の羽根をハブに取り付けてもよい。スペーシングの確保を考慮すれば、線対称性をもつ不等間隔で8、10、12枚の羽根を取り付けることが可能である。
【0040】
次に、
図2、6を用いて、モータの過熱を防ぐモータハウジング50の構造について説明する。モータハウジング50は、先端面52Kを有する円筒部52と、円筒部52の下端から延びるスカート部54から構成される。先端面52Kには、モータ70の出力シャフトを通す穴が形成され、モータ70が先端面52Kの裏面52B(
図2参照)に接する位置でモータハウジング50内に固定されている。
【0041】
プロペラファン20のハブ21は、モータハウジング50の円筒部52を収容可能なサイズを有し、円筒部52がハブ21に覆われる(取り囲まれる)。このとき、ハブ21の下端21Pの位置は、ハウジング軸方向に沿って開口部52Mの位置を超える(
図6の破線L’参照)。ハブ21の内周面21M(
図5参照)と円筒部52の側面52Sの間には、隙間が形成されている。
【0042】
円筒部52には、先端面52Kの縁部から軸方向に沿って複数の開口部52Mが形成されている。ここでは、6つの矩形状開口部52Mが、ハウジング周方向に沿って等間隔で形成されている。また、6つの開口部52Mのうち4つの開口部52Mは、蓋60との係合穴54Kから軸方向に沿って離れた位置に形成されている。
【0043】
このような開口部52Mを形成することで、モータ70の過熱を抑えることができる。すなわち、モータ70の回転中、モータ70の温度が上昇し、特に、ハブ21に近いモータ70の先端側の温度が上昇する。これは、バッテリの出力電圧を増加させた場合に顕著になる。しかしながら、モータ70の熱は、開口部52Mを通じてモータハウジング50とハブ21との隙間に放出されることで、モータ70の温度上昇が抑えられる。
【0044】
すなわち、モータハウジング50のモータ70先端付近で暖められた空気は、温度が高いため、開口部52Mから流れ出てモータハウジング50とハブ21との隙間から外部に流出しやすい。この流れによって比較的温度の低い空気がモータハウジング50内に流れ込む気流を作り出す。また、開口部52Mからハウジング軸方向に沿って離れた位置に係合穴54Kが設けられていることにより、熱をもつ空気がモータハウジング50とハブ21との間の隙間から流れ出る気流が作り出されやすくなる。
【0045】
ところで、衣服用ファン10は、送風によって発汗を抑えることが本来の機能であり、モータ70の放熱によって暖められた空気が衣服100内に送風されるのは好ましくない。しかしながら、開口部52Mがハブ21によって覆われているため、ハブ21とモータハウジング50との隙間から流れ出る空気は、スカート部54の表面付近に沿って吐出口10F側へ流れていく。
【0046】
プロペラファン20の羽根20A~20Hは翼端ほど回転速度が大きく、衣服用ファン10の風量は、翼端付近を流れる空気に大きく影響される。したがって、モータハウジング50に沿って放出される熱がそのまま衣服100内に送り込まれる空気に影響を与えるのを抑えることができる。
【0047】
開口部52Mの形状、位置などの構成は、上述した構成に限定されず、ハウジング径方向に沿って延びる開口部を形成し、あるいは、不等ピッチで開口部を形成することも可能である。また、モータハウジング50の円筒部52の側面52Sから先端面52Kに渡って開口部を形成してもよく、先端面52Kだけに独立した開口部を形成してもよい。一方、ハブ21が開口部を部分的に覆う構成(
図6の符号L’が開口部52Mの途中に位置する)でもよく、先端面52Kの縁から離れてハウジング軸方向に沿って吐出口10F側に開口部を形成してもよい。
【0048】
次に、
図2、7、8を用いて、リング40のねじ回しによる衣服用ファン10への装着について説明する。リング40の内周面には、雌ネジ40Mが形成されており(
図7参照)、リング40は本体部32のフランジ32Fと接触するまでねじ回し可能である。そして、リング40とフランジ32Fとの接触する面には、リング40の緩む方向への回転を規制する互いに相補的なプロファイルを周方向に沿って形成している。
【0049】
図2、7、8には、そのプロファイルの一例として、凸部が互いの面に形成された構成を示している。
図7に示すように、リング40の底面(以下、フランジ対向面という)42Pには、複数の凸部42が所定間隔(ここでは等間隔で30個)で周方向全体に渡って形成されている。一方、本体部32のフランジ32Fの上面(以下、リング対向面という)32Pにも、複数の凸部が周方向に沿って所定間隔で形成されている。ここでは、4つの凸部33が等間隔で形成されている(
図2には2つ、
図8には1つ図示されている)。
【0050】
リング40のフランジ対向面42Pに形成された凸部42は、ここでは周方向に沿って滑らかに湾曲した断面形状を有し、その表面部分にエッジが形成されていない。一方、本体部32のリング対向面32Pに形成された凸部33は、ここでは断面台形状でエッジが形成されている。凸部42のフランジ対向面42Pからの高さは、凸部33のリング対向面32Pからの高さと略等しい。
【0051】
図8では、衣服100を挟んでない状態でリング40が最も締め付けられた位置(雌ねじ40M、雄ねじ36との関係でそれ以上リング40が回らない位置、以下、最大締め付け位置という)にあるときの凸部42と凸部33の接触状態を示している。リング40のフランジ対向面42Pに形成された凸部42の互いの周方向距離間隔は、本体部32(フランジ32F)に形成された凸部33の周方向幅より長い。リング40が最大締め付け位置にあるとき、凸部33各々は、その両側にある隣り合った凸部42の間に介在する。
【0052】
リング40を最大締め付け位置まで回転させていくと、リング40のフランジ対向面42Pは、徐々に本体部32のリング対向面32Pへ近づいていく。最大締め付け位置に到達するまでの間に、本体部32のリング対向面32Pのいくつかの凸部33は、リング40のフランジ対向面42Pの凸部42と接触し、リング40は抵抗を受けながら最終的な最大締め付け位置まで回転していく。
【0053】
ところで、リング40は、リング40とフランジ32Fとの間に衣服100を挟んだ状態で実際には締め回すことになる。衣服100の生地が非常に薄い場合、生地による影響がほとんどなく最大締め付け位置までリング40を回すことができる。したがって、一度リング40を最大締め付け位置まで回転させることで、凸部42が凸部33を乗り越えようとすると抵抗を受けるため、リング40の緩める方向への回転を規制する。
【0054】
また、衣服100の生地が比較的厚い場合でも、リング40が最大締め付け位置に到達するまでに凸部42と凸部33とが衣服100を間に挟んで互いに抵抗を受ける相補的形状を有するため、最大締め付け位置付近においても、リング40の緩める方向への回転を抑えることができる。
【0055】
さらに、凸部42と凸部33との間に挟まれた衣服が波打つことで摩擦抵抗が増加し、凸部42と凸部33とが衣服100を間に挟んで互いに抵抗を受ける前の位置でもリング40の緩める方向への回転を抑えることが可能である。
【0056】
一方、フランジ32Fの凸部33がリング40の隣り合う凸部42の間に介在するとき、凸部33のその両隣の凸部42との間に僅かな隙間がある。この隙間がリング40の僅かな微小回転を許す隙間となり、ユーザは、リング40を緩める方向へ回転させるときに勢いをつけることで、凸部33が凸部42を乗り越えリング40を緩めることを可能にする。なお、凸部33、凸部42の形状は、上記以外の形状にすることも可能であり、リング40をねじ回していくときに衣服100を挟んで互いに力を作用させ、最大締め付け位置あるいはその付近の位置までリング40を回転させることができるような高さ、断面形状であればよい。
【0057】
以上説明したように、凸部42と凸部33との接触がリング40の緩める方向への回転の規制手段となる相補的なプロファイルを形成することで、衣服用ファン10を衣服100へ確実に取り付けることができる。また、多数の凸部42を比較的短い距離間隔でフランジ対向面42Pに形成し、凸部33の周方向幅をその距離間隔より短くすることにより、フランジ対向面42Pとリング対向面32Pとの隙間間隔が周方向全体に渡って略等しくなり、衣服100の生地を周方向全体に渡って均等な力で挟みやすい。
【0058】
凸部42、凸部33の数は、上記数以外(例えば、凸部33を20~40の範囲、凸部42を2~10の範囲)に設定することが可能である。また、リング対向面32Pに凸部33、フランジ対向面32Pに凸部42を形成してもよく、一方の凸部を他方の凸部の数より大きくすればよい。また、相補的なプロファイルは互に凸部を形成する構成に限定されず、凹部と凸部の構成にしてもよい。
【0059】
上述した偶数枚多翼によるプロペラファン20の構成は、リング40とフランジ32Fの対向面の相補的プロファイルをもつ構成、モータハウジング50の放熱構造を持たない衣服用ファンにも適用することができる。同様に、モータハウジング50の放熱構造は、偶数枚多翼によるプロペラファン20の構成、リング40とフランジ32Fと間の対向面の相補的プロファイルをもつ構成を持たない衣服用ファンに適用可能であり、リング40とフランジ32Fの対向面の相補的プロファイルをもつ構成は、偶数枚多翼によるプロペラファン20の構成、モータハウジング50の放熱構造をもたない衣服用ファンに適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 衣服用ファン
20 プロペラファン
20A~20H 羽根
21 ハブ
30 ケーシング
32 本体部
32F フランジ
32P リング対向面
33 凸部
34 モータ装着部
40 リング
42 凸部
42P フランジ対向面
50 モータハウジング
52M 開口部
70 モータ