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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】香気濃縮物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20240926BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20240926BHJP
   A23L 27/12 20160101ALI20240926BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C11B9/00 Z
A23L27/10 C
A23L27/12
B01D61/00 500
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020177646
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068779
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390019460
【氏名又は名称】稲畑香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 晋一
(72)【発明者】
【氏名】大倉 修
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 百合
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 満
(72)【発明者】
【氏名】岩本 好平
(72)【発明者】
【氏名】前川 歩
(72)【発明者】
【氏名】太田 知詞
(72)【発明者】
【氏名】菊池 圭祐
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-038367(JP,A)
【文献】国際公開第2019/161444(WO,A1)
【文献】特表2021-514298(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098390(WO,A1)
【文献】特開2013-055916(JP,A)
【文献】特開2020-138119(JP,A)
【文献】特開2002-105486(JP,A)
【文献】特開2015-149950(JP,A)
【文献】特開2010-013510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00
A23L 27/10
A23L 27/12
B01D 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、
(b)前記工程aで得られる前記香気水を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第1香気濃縮物を得る工程と、
(c)前記工程bにおいて吸着されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第2香気濃縮物を得る工程と、
(d)前記工程bで得られる前記第1香気濃縮物と前記工程cで得られる前記第2香気濃縮物を混合して第3香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法。
【請求項2】
(e)前記工程aで得られる濃縮果汁と前記工程dで得られる前記第3香気濃縮物を混合して第4香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の香気濃縮物の製造方法。
【請求項3】
(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、
(f)前記工程aで得られる前記香気水をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第5香気濃縮物を得る工程と、
(g)前記工程fにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第6香気濃縮物を得る工程と、
(h)前記工程fで得られる前記第5香気濃縮物と前記工程gで得られる前記第6香気濃縮物を混合して第7香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法。
【請求項4】
(i)前記工程aで得られる濃縮果汁と前記工程hで得られる前記第7香気濃縮物を混合して第8香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項3に記載の香気濃縮物の製造方法。
【請求項5】
前記香気を有する植物の果実は、グレープ(Vitis vinifera L.)、リンゴ(Malus pumila Mill. Var. domestica Schneid.)、パイナップル(Ananas comosus Merr.)、メロン(Cucumis melo)、イチゴ(Fragaria chiloensis Duch. Var. ananassa L. H. Bailey)、モモ(Prunus persica Batsch)、みかん(Citrus unshiu)、レモン(Citrus Limon)、およびネーブル=オレンジ(Citrus sinensis Osbeck var. brasiliensis Tanaka)からなる群から選択される、請求項1-4のいずれか1項に記載の香気濃縮物の製造方法。
【請求項6】
(j)香気を有する植物および/またはその加工品を水蒸気蒸留することにより香気回収液を得る工程と、
(k)前記工程jで得られる前記香気回収液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第9香気濃縮物を得る工程と、
(l)前記工程kにおいて濃縮されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮した第10香気濃縮物を得る工程と、
(m)前記工程kで得られる前記第9香気濃縮物と前記工程lで得られる前記第10香気濃縮物を混合して第11香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法。
【請求項7】
(n)香気を有する植物および/またはその加工品の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキスと前記工程mで得られる前記第11香気濃縮物を混合して第12香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項6に記載の香気濃縮物の製造方法。
【請求項8】
(j)香気を有する植物および/またはその加工品を水蒸気蒸留することにより香気回収液を得る工程と、
(o)前記工程jで得られる前記香気回収液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第13香気濃縮物を得る工程と、
(p)前記工程oにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮した第14香気濃縮物を得る工程と、
(q)前記工程oで得られる前記第13香気濃縮物と前記工程pで得られる前記第14香気濃縮物を混合して第15香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法。
【請求項9】
(r)香気を有する植物および/またはその加工品の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキスと前記工程qで得られる前記第15香気濃縮物を混合して第16香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項8に記載の香気濃縮物の製造方法。
【請求項10】
前記香気を有する植物は、コーヒー豆(Coffea arabica L.または、Coffea robusta.)、チャノキ(Thea sinensis L.)、ハッカ(Mentha arvensis L. subsp. Piperascens Hara)、シソ(Perilla frutescens var.crispa)、およびラッカセイ(Arachis hypogaea L.)からなる群から選択される、請求項6-9のいずれか1項に記載の香気濃縮物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成吸着剤およびFO膜を用いた香気濃縮物の製造方法に関する。より詳しくは、香気含有液を合成吸着剤およびFO膜に通すことにより香気成分を濃縮し、香気濃縮物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グレープなどの果実やコーヒー豆などから各種香気抽出法により得られる香気含有液をさらに濃縮し、香気濃縮物を得ることが行われている。このようにして得られた香気濃縮物は、食品などに添加することにより、天然原料由来の香りを付与することができ、かつ香味を付与することもできる。また、香気濃縮物は食品以外のもの、例えば、布、歯磨き粉などに添加することもできる。このように、香気濃縮物は様々な用途に使用されている。
【0003】
香気濃縮物を得る方法としては、例えば合成吸着剤を用いて香気成分を吸着濃縮する方法およびFO膜(正浸透膜)を用いて香気含有液を濃縮する方法などが従来行われている。
【0004】
合成吸着剤を用いる方法では、香気含有液を合成吸着剤に通液することにより合成吸着剤に香気成分を吸着させた後に、溶剤を用いて香気成分を回収して香気濃縮物を得る。
【0005】
FO膜を用いる方法では、フィード溶液として香気含有液、ドロー溶液として塩水溶液をそれぞれ用いることで香気含有液中の水がFO膜を通過し、香気濃縮物を得る。
【0006】
合成吸着剤を用いて香気成分を濃縮する方法として、例えば、特許文献1が知られている。特許文献1では、植物性材料を気-液向流接触抽出法に供し、得られる回収香を合成吸着剤に吸着せしめ、次いでエタノールにて脱着することにより水溶性香料を得る方法が開示されている。
【0007】
FO膜を用いて香気成分を濃縮する方法として、例えば、特許文献2が知られている。特許文献2では、コーヒー抽出液などの液状食品を正浸透プロセスによって濃縮を行う方法が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1による濃縮方法では、特定の香気成分については、ほとんど吸着することができないといった問題がある。そのため、例えばコーヒーの香気含有液を合成吸着剤のみを用いて濃縮した場合、コーヒー本来の香気を損なってしまう虞がある。
【0009】
また、特許文献2による濃縮方法においても、特定の香気成分について、ほとんど濃縮することができないといった問題がある。そのため、例えばコーヒーの香気含有液をFO膜のみを用いて濃縮した場合、コーヒー本来の香気を損なってしまう虞がある。そのため、これら特定の香気成分についても損なわない、新たな香気濃縮物の製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-105486号
【文献】特開2018-038367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、濃縮過程において特定の香気成分を損なわない、すなわち香気を有する植物の果実または香気を有する植物の本来の香気を損なわない、新たな香気濃縮物の製造方法の開発が望まれている。
【0012】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、合成吸着剤およびFO膜を用いて香気濃縮物を製造する方法を提供することを目的とする。合成吸着剤を用いる濃縮方法とFO膜を用いる濃縮方法を併用することにより、濃縮過程において特定の香気成分を損なわずに香気成分を濃縮することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、(b)前記工程aで得られる前記香気水を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第1香気濃縮物を得る工程と、(c)前記工程bにおいて吸着されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第2香気濃縮物を得る工程と、(d)前記工程bで得られる前記第1香気濃縮物と前記工程cで得られる前記第2香気濃縮物を混合して第3香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法に関する。
【0014】
請求項2に係る発明は、(e)前記工程aで得られる濃縮果汁と前記工程dで得られる前記第3香気濃縮物を混合して第4香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の香気濃縮物の製造方法に関する。
【0015】
請求項3に係る発明は、(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、(f)前記工程aで得られる前記香気水をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第5香気濃縮物を得る工程と、(g)前記工程fにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第6香気濃縮物を得る工程と、(h)前記工程fで得られる前記第5香気濃縮物と前記工程gで得られる前記第6香気濃縮物を混合して第7香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法。
【0016】
請求項4に係る発明は、(i)前記工程aで得られる濃縮果汁と前記工程hで得られる前記第7香気濃縮物を混合して第8香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項3に記載の香気濃縮物の製造方法に関する。
【0017】
請求項5に係る発明は、前記香気を有する植物の果実は、グレープ(Vitis vinifera L.)、リンゴ(Malus pumila Mill. Var. domestica Schneid.)、パイナップル(Ananas comosus Merr.)、メロン(Cucumis melo)、イチゴ(Fragaria chiloensis Duch. Var. ananassa L. H. Bailey)、モモ(Prunus persica Batsch)、みかん(Citrus unshiu)、レモン(Citrus Limon)、およびネーブル=オレンジ(Citrus sinensis Osbeck var. brasiliensis Tanaka)からなる群から選択される、請求項1-4のいずれか1項に記載の香気濃縮物の製造方法に関する。
【0018】
請求項6に係る発明は、(j)香気を有する植物および/またはその加工品を水蒸気蒸留することにより香気回収液を得る工程と、(k)前記工程jで得られる前記香気回収液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第9香気濃縮物を得る工程と、(l)前記工程kにおいて濃縮されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮した第10香気濃縮物を得る工程と、(m)前記工程kで得られる前記第9香気濃縮物と前記工程lで得られる前記第10香気濃縮物を混合して第11香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法に関する。
【0019】
請求項7に係る発明は、(n)香気を有する植物および/またはその加工品の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキスと前記工程mで得られる前記第11香気濃縮物を混合して第12香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項6に記載の香気濃縮物の製造方法に関する。
【0020】
請求項8に係る発明は、(j)香気を有する植物および/またはその加工品を水蒸気蒸留することにより香気回収液を得る工程と、(o)前記工程jで得られる前記香気回収液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第13香気濃縮物を得る工程と、(p)前記工程oにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮した第14香気濃縮物を得る工程と、(q)前記工程oで得られる前記第13香気濃縮物と前記工程pで得られる前記第14香気濃縮物を混合して第15香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法に関する。
【0021】
請求項9に係る発明は、(r)香気を有する植物および/またはその加工品の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキスと前記工程qで得られる前記第15香気濃縮物を混合して第16香気濃縮物を得る工程をさらに含む、請求項8に記載の香気濃縮物の製造方法に関する。
【0022】
請求項10に係る発明は、前記香気を有する植物は、前記香気を有する植物は、コーヒー豆(Coffea arabica L.または、Coffea robusta.)、チャノキ(Thea sinensis L.)、ハッカ(Mentha arvensis L. subsp. Piperascens Hara)、シソ(Perilla frutescens var.crispa)、およびラッカセイ(Arachis hypogaea L.)からなる群から選択される、請求項6-9のいずれか1項に記載の香気濃縮物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明によれば、(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、(b)前記工程aで得られる前記香気水を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第1香気濃縮物を得る工程と、(c)前記工程bにおいて吸着されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第2香気濃縮物を得る工程と、(d)前記工程bで得られる前記第1香気濃縮物と前記工程cで得られる前記第2香気濃縮物を混合して第3香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法であるため、香気水を合成吸着剤に通液した際に吸着されなかった液を回収し、この吸着されなかった液をFO膜で濃縮して各香気濃縮物を混合しているため、特定の香気成分を損なわない香気濃縮物の製造方法を提供することができる。そのため、果実の本来の香気を損なわない香気濃縮物を提供できる。
【0024】
請求項2に係る発明によれば、(e)前記工程aで得られる濃縮果汁と前記工程dで得られる前記第3香気濃縮物を混合して第4香気濃縮物を得る工程をさらに含むため、果実本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物を提供できる。また、このようにして得た香気濃縮物は味も損なわないため、ガムまたはお菓子などの食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0025】
請求項3に係る発明によれば、(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、(f)前記工程aで得られる前記香気水をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第5香気濃縮物を得る工程と、(g)前記工程fにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第6香気濃縮物を得る工程と、(h)前記工程fで得られる前記第5香気濃縮物と前記工程gで得られる前記第6香気濃縮物を混合して第7香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法であるため、香気水をFO膜に通液した際に濃縮されなかった液を回収し、この濃縮されなかった液を合成吸着剤で吸着濃縮して各香気濃縮物を混合しているため、特定の香気成分を損なわない香気濃縮物の製造方法を提供することができる。そのため、果実の本来の香気を損なわない香気濃縮物を提供できる。
【0026】
請求項4に係る発明によれば、(i)前記工程aで得られる濃縮果汁と前記工程hで得られる前記第7香気濃縮物を混合して第8香気濃縮物を得る工程をさらに含むため、果実本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物を提供できる。また、このようにして得た香気濃縮物は味も損なわないため、ガムまたはお菓子などの食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0027】
請求項5に係る発明によれば、前記香気を有する植物の果実は、グレープ(Vitis vinifera L.)、リンゴ(Malus pumila Mill. Var. domestica Schneid.)、パイナップル(Ananas comosus Merr.)、メロン(Cucumis melo)、イチゴ(Fragaria chiloensis Duch. Var. ananassa L. H. Bailey)、モモ(Prunus persica Batsch)、みかん(Citrus unshiu)、レモン(Citrus Limon)、およびネーブル=オレンジ(Citrus sinensis Osbeck var. brasiliensis Tanaka)からなる群から選択されるため、上記果実の香気濃縮物を提供できる。
【0028】
請求項6に係る発明によれば、(j)香気を有する植物および/またはその加工品を水蒸気蒸留することにより香気回収液を得る工程と、(k)前記工程jで得られる前記香気回収液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第9香気濃縮物を得る工程と、(l)前記工程kにおいて濃縮されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮した第10香気濃縮物を得る工程と、(m)前記工程kで得られる前記第9香気濃縮物と前記工程lで得られる前記第10香気濃縮物を混合して第11香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法であるため、香気回収液を合成吸着剤に通液した際に吸着されなかった液を回収し、この吸着されなかった液をFO膜で濃縮して各香気濃縮物を混合しているため、特定の香気成分を損なわない香気濃縮物の製造方法を提供することができる。そのため、果実の本来の香気を損なわない香気濃縮物を提供できる。
【0029】
請求項7に係る発明によれば、(n)香気を有する植物および/またはその加工品の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキスと前記工程mで得られる前記第11香気濃縮物を混合して第12香気濃縮物を得る工程をさらに含むため、植物本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物を提供できる。また、このようにして得た香気濃縮物は味も損なわないため、食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0030】
請求項8に係る発明によれば、(j)香気を有する植物および/またはその加工品を水蒸気蒸留することにより香気回収液を得る工程と、(o)前記工程jで得られる前記香気回収液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第13香気濃縮物を得る工程と、(p)前記工程oにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮した第14香気濃縮物を得る工程と、(q)前記工程oで得られる前記第13香気濃縮物と前記工程pで得られる前記第14香気濃縮物を混合して第15香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法であるため、香気回収液をFO膜に通液した際に濃縮されなかった液を回収し、この濃縮されなかった液を合成吸着剤で吸着濃縮して各香気濃縮物を混合しているため、特定の香気成分を損なわない香気濃縮物の製造方法を提供することができる。そのため、果実の本来の香気を損なわない香気濃縮物を提供できる。
【0031】
請求項9に係る発明によれば、(r)香気を有する植物および/またはその加工品の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキスと前記工程qで得られる前記第15香気濃縮物を混合して第16香気濃縮物を得る工程をさらに含むため、植物本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物を提供できる。また、このようにして得た香気濃縮物は味も損なわないため、食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0032】
請求項10に係る発明によれば、前記香気を有する植物は、コーヒー豆(Coffea arabica L.または、Coffea robusta.)、チャノキ(Thea sinensis L.)、ハッカ(Mentha arvensis L. subsp. Piperascens Hara)、シソ(Perilla frutescens var.crispa)、およびラッカセイ(Arachis hypogaea L.)からなる群から選択されるため、上記植物の香気濃縮物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】FO膜を用いた香気成分の濃縮方法を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態1に係る香気濃縮物の製造方法のフローチャートを示す図である。
図3】本発明の実施形態2に係る香気濃縮物の製造方法のフローチャートを示す図である。
図4】本発明の実施形態3に係る香気濃縮物の製造方法のフローチャートを示す図である。
図5】本発明の実施形態4に係る香気濃縮物の製造方法のフローチャートを示す図である。
図6】FO膜を用いる香気濃縮物の製造装置を示す説明図である。
図7】コーヒー豆の香気回収液におけるGC/MS(TIC)分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(1-1)香気濃縮物の製造
図1図2図3図4、および図5の添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る香気濃縮物の製造方法(以下、単に「本製造方法」ともいう)を説明する。
【0035】
合成吸着剤(9)を用いて香気成分を吸着濃縮する方法について説明する。
【0036】
図示しないが、合成吸着剤(9)を用いて香気成分を吸着濃縮する方法では、香気成分を含有する液、すなわち香気含有液を合成吸着剤(9)に通液することで香気成分を吸着させ、その後に溶剤を用いて香気成分を回収して濃縮する。一方で、合成吸着剤(9)を用いる香気成分の濃縮の際には、香気成分が合成吸着剤(9)を通過してしまい、「吸着されなかった液」が回収される。本製造方法では、この吸着されなかった液を後述するFO膜(6)でさらに濃縮することにより、合成吸着剤(9)のみでは濃縮しにくい香気成分を濃縮する。
【0037】
合成吸着剤(9)は、例えばイオン交換基を持たない多孔性構造を有する合成物質を用いる。これを用いた場合、合成吸着剤(9)の孔に香気成分を吸着させて分離する。このような合成吸着剤(9)としては、例えば三菱ケミカルホールディングス社製のセパビーズ SP850またはオルガノ社製のXAD4などを用いる。
【0038】
合成吸着剤(9)から香気成分を回収するための溶剤は、水、有機溶剤、またはその組み合わせを用いる。例えば、溶剤はエタノール、エチルアセテート、またはトリアセチンなどを用いる。香気を有する植物の果実(7)としてグレープを用いる場合は、溶剤はエタノールまたはエチルアセテートを用いることが好ましい。また、香気を有する植物としてコーヒー豆を用いる場合は、トリアセチンを用いることが好ましい。
【0039】
合成吸着剤(9)は、例えばカラムにセットして使用する。カラムの温度条件は香気を有する植物の果実(7)または香気を有する植物および/またはその加工品(31)に応じて適宜設定するのがよいが、通常は常温で十分な吸着が可能である。
【0040】
溶剤を用いて合成吸着剤(9)から香気成分を脱着させるときにも適宜温度を設定するのがよい。例えば、グレープの場合はカラム温度を25℃にして通液し、香気成分を脱着させることが好ましく、コーヒー豆の場合はカラム温度を80℃にして通液し、香気成分を脱着させることが好ましい。
【0041】
FO膜(6)を用いて香気成分を濃縮する方法について説明する。
【0042】
本明細書において、FO膜(6)とは正浸透膜(Foward Osmosis Membrane)のことを指す。FO膜(6)は、水分子を通し一定の大きさ以上の分子やイオンを通さない半透膜の一種である。
【0043】
FO(正浸透)とは、浸透圧の高い溶液(高浸透圧溶液)と浸透圧の低い溶液(低浸透圧溶液)を半透膜で仕切ると、水(4)のみが低浸透圧溶液から高浸透圧溶液に透過する現象を指す。このとき、低浸透圧溶液をフィード溶液(1)と呼び、高浸透圧溶液をDS(Draw Solution)(2)と呼ぶ。
【0044】
例えば、図1に示すように、フィード溶液(1)として水(4)および香気成分(3)を含む溶液を使用し、DS(2)として塩化ナトリウムなどの塩(5)を含む水溶液を使用した場合、水(4)のみがFO膜(6)を透過し、フィード溶液(1)の水(4)がDS(2)へと移動する。結果的に、フィード溶液(1)から水(4)が少なくなり、フィード溶液(1)を濃縮することができる。一方、FO膜(6)を用いる香気成分の濃縮の際には、香気成分(3)がFO膜(6)を透過してしまい、DS(2)に流れていくことがある。本製造方法において、このDS(2)に流れていった液は「濃縮されなかった液」として用いる。本製造方法は、この濃縮されなかった液を合成吸着剤(9)で濃縮することにより、FO膜(6)のみでは濃縮しにくい香気成分を濃縮する。
【0045】
FO膜(6)としては、例えば中空糸型のFO膜(6)を用いる。この中空糸型のFO膜(6)としては、例えばAQUAPORIN社製のHFFO2またはAQUAPORIN社製のHFFO14などを用いる。しかし、FO膜(6)はこれらに限定されず、香気を有する植物の果実(7)または香気を有する植物に応じてFO膜(6)を選択できる。
【0046】
DS(2)としては、例えば塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を用いる。DS(2)は、2M NaCl水溶液であるとより好ましい。DS(2)として2M NaCl水溶液を用いる場合、FO膜(6)による香気成分の濃縮を十分に行うことができる。また、NaCl原料は安価であるため、コスト面で優れている。DS(2)は、NaCl水溶液に限定されず、塩水溶液または糖液などを使用することもできる。
【0047】
本製造方法では、上述した合成吸着剤(9)による濃縮方法とFO膜(6)による濃縮方法を組み合わせて用いることにより、香気濃縮物を製造する。
【0048】
実施形態1および実施形態2は香気を有する植物の果実(7)から得られる香気水を用いる。実施形態3および実施形態4は香気を有する植物から得られる香気回収液を用いる。
【0049】
[実施形態1]
実施形態1に係る香気濃縮物の製造方法、すなわち香気を有する植物の果実(7)を用いて香気水(8)を得た後、合成吸着剤(9)による吸着濃縮に続くFO膜(6)での濃縮により、香気濃縮物を得る方法について説明する。
【0050】
図2に示すように、工程aでは、香気を有する植物の果実(7)から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水(8)と濃縮果汁(13)を得る。香気水(8)を得る方法としては、例えば蒸発濃縮などを用いる。この場合、果汁から水分を蒸発させることで蒸散水と濃縮果汁(13)を得る。なお、本明細書において蒸散水とは、果汁を蒸発濃縮したときに得られる、香気成分を含む凝縮水のことを指す。なお、この果汁の蒸発濃縮では、濃縮果汁と凝縮水が得られる。この蒸散水は、純粋に水というわけではなく、果汁を蒸発させる際に幾分蒸発した香気成分を含有する。また、蒸散水は、低沸点である香気成分を特に含有する。本製造方法では、例えば、この蒸散水を香気水(8)として使用し、合成吸着剤(9)とFO膜(6)を組み合わせることにより、香気水(8)から香気成分を濃縮し、香気濃縮物を製造する。この香気濃縮物は、果実に含まれる香気のうち低沸点のものを効率良く濃縮している。しかし、香気水(8)を得る方法は蒸発濃縮に限定されず、香気含有液が得られる方法であれば全て使用できる。この場合、果汁を濃縮する際に生じる廃液などを香気水(8)として使用する。
【0051】
香気を有する植物の果実(7)としては、例えば、グレープ(Vitis vinifera L.)、リンゴ(Malus pumila Mill. Var. domestica Schneid.)、パイナップル(Ananas comosus Merr.)、メロン(Cucumis melo)、イチゴ(Fragaria chiloensis Duch. Var. ananassa L. H. Bailey)、モモ(Prunus persica Batsch)、みかん(Citrus unshiu)、レモン(Citrus Limon)、またはネーブル=オレンジ(Citrus sinensis Osbeck var. brasiliensis Tanaka)などを用いる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0052】
香気を有する植物の果実(7)としてグレープを用いる場合、香気成分としては、例えば、アセトアルデヒド、イソプロピルアセテート、イソプロピルアルコール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、イソブチルアルコール、2-アミルアルコール、n-ブチルアルコール、クロトン酸エチル、イソアミルアルコール、n-アミルアルコール、アセトイン、2-メチルブテノール、n-ヘキシルアルコール、シス-3-ヘキセノール、トランス-2-ヘキセノール、酢酸、フェニルエチルアルコール、またはアントラニル酸メチルなどを含む。
【0053】
工程bでは、工程aで得られる香気水(8)を合成吸着剤(9)に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第1香気濃縮物(10)を得る。本明細書において、香気濃縮物とは、香気成分を含む溶液から溶媒を除去することにより濃縮して得た濃縮液のことを指す。なお、吸着濃縮とは、合成吸着剤(9)に香気成分を吸着させた後に溶剤を通液して濃縮することを指す。また、工程bでは、香気水(8)が合成吸着剤(9)に吸着されずに通過してしまった、吸着されなかった液も得る。
【0054】
工程cでは、工程bにおいて得られる吸着されなかった液をFO膜(6)に通液することにより香気成分を濃縮して第2香気濃縮物(11)を得る。
【0055】
工程dでは、工程bで得られる第1香気濃縮物(10)と工程cで得られる第2香気濃縮物(11)を混合し、第3香気濃縮物(12)を得る。この第3香気濃縮物(12)は合成吸着剤(9)のみでは吸着濃縮しにくい香気成分も含有しており、果実本来の香気を十分に含有する香気濃縮物である。
【0056】
工程eでは、工程aで得られる濃縮果汁(13)と工程dで得られる第3香気濃縮物(12)を混合し、第4香気濃縮物(14)を得る。この第4香気濃縮物(14)は、果実本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物であり、味も損なわないため、ガムまたはお菓子などの食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0057】
[実施形態2]
実施形態2に係る香気濃縮物の製造方法、すなわち香気を有する植物の果実(7)を用いて香気水(8)を得た後、FO膜(6)での濃縮に続いて合成吸着剤(9)により吸着濃縮する方法について説明する。
【0058】
図3に示すように、工程aでは、香気を有する植物の果実(7)から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水(8)と濃縮果汁(13)を得る。これは上述した実施形態1の工程aと同様であり、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0059】
工程fでは、工程aで得られる香気水(8)をFO膜(6)に通液することにより香気成分を濃縮して第5香気濃縮物(15)を得る。また、工程fでは、香気水(8)中の香気成分がFO膜(6)を通過し、DS(2)に流れてしまった、濃縮されなかった液も得る。
【0060】
工程gでは、工程fにおいて得られる濃縮されなかった液を合成吸着剤(9)に通液することにより香気成分を吸着濃縮し、第6香気濃縮物(16)を得る。
【0061】
工程hでは、工程fで得られる第5香気濃縮物(15)と工程gで得られる第6香気濃縮物(16)を混合し、第7香気濃縮物(17)を得る。この第7香気濃縮物(17)はFO膜(6)のみでは濃縮しにくい香気成分も含有しており、果実本来の香気を十分に含有する香気濃縮物である。
【0062】
工程iでは、工程aで得られる濃縮果汁(13)と工程hで得られる第7香気濃縮物(17)を混合し、第8香気濃縮物(18)を得る。この第8香気濃縮物(18)は、果実本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物であり、味も損なわないため、ガムまたはお菓子などの食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0063】
[実施形態3]
実施形態3に係る香気濃縮物の製造方法、すなわち香気を有する植物および/またはその加工品(31)を用いて香気回収液(32)を得た後、合成吸着剤(9)による吸着濃縮に続いてFO膜(6)で濃縮し、香気濃縮物を得る方法について説明する。
【0064】
工程jでは、香気を有する植物および/またはその加工品(31)を水蒸気蒸留することにより香気回収液(32)を得る。
【0065】
香気を有する植物としては、例えば、コーヒー豆(Coffea arabica L.または、Coffea robusta.)、チャノキ(Thea sinensis L.)、ハッカ(Mentha arvensis L. subsp. Piperascens Hara)、シソ(Perilla frutescens var.crispa)、またはラッカセイ(Arachis hypogaea L.)などを用いることができる。また、香気を有する植物の加工品とは、例えば、香気を有する植物を焙煎したもの、または香気を有する植物を粉砕したものなどを指す。
【0066】
香気回収液(32)は、例えば、水蒸気蒸留したときの蒸留水を用いることができる。この蒸留水を用いる場合、単に香気を有する植物および/またはその加工品(31)に熱水または冷水を加えた香気含有液を用いる場合と比較して、FO膜(6)での目詰まりが生じにくく、高い効率で濃縮できる。水蒸気蒸留の方法としては、例えば常圧水蒸気蒸留法を用いる。常圧水蒸気蒸留法は、水蒸気を香気を有する植物に通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに濃縮させる方法である。しかし、香気回収液(32)はこれに限定されず、香気含有液であれば使用することができる。
【0067】
香気回収液(32)を得る1つの例として、常圧水蒸気蒸留法を用いる例を説明する。始めに、焙煎コーヒー豆を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として蒸留水である香気回収液(32)を捕集する。
【0068】
香気を有する植物がコーヒー豆である場合、香気成分としては、例えば、2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、2-メチルピラジン、アセトール、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2-エチルピラジン、酢酸、フルフラール、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、プロピオン酸、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、フルフリルアルコール、イソ吉草酸、および4-ビニルグアイアコールなどを含む。一方、香気成分は、香気を有する植物に応じて様々な化合物を含み得る。したがって、香気成分は上記成分に限定されるものではない。
【0069】
工程kでは、工程jで得られる香気回収液(32)を合成吸着剤(9)に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第9香気濃縮物(33)を得る。また、工程kでは、香気回収液(32)が合成吸着剤(9)に吸着されずに通過してしまった、吸着されなかった液も得る。
【0070】
工程lでは、工程kにおいて濃縮されなかった液をFO膜(6)に通液することにより香気成分を濃縮し、第10香気濃縮物(34)を得る。
【0071】
工程mでは、工程kで得られる第9香気濃縮物(33)と工程lで得られる第10香気濃縮物(34)を混合し、第11香気濃縮物(35)を得る。この第11香気濃縮物(35)は合成吸着剤(9)のみでは吸着濃縮しにくい香気成分も含有しており、植物本来の香気を十分に含有する香気濃縮物である。
【0072】
工程nでは、香気を有する植物および/またはその加工品(31)の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキス(36)と工程mで得られる第11香気濃縮物(35)を混合し、第12香気濃縮物(37)を得る。この第12香気濃縮物(37)は、果実本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物であり、味も損なわないため、ガムまたはお菓子などの食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0073】
[実施形態4]
実施形態4に係る香気濃縮物の製造方法、すなわち香気を有する植物および/またはその加工品(31)を用いて香気回収液(32)を得た後、FO膜(6)での濃縮に続いて合成吸着剤(9)により吸着濃縮する方法について説明する。
【0074】
工程jでは、香気を有する植物および/またはその加工品(31)を水蒸気蒸留することにより香気回収液(32)を得る。これは上述した実施形態3の工程jと同様であり、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0075】
工程oでは、工程jで得られる香気回収液(32)をFO膜(6)に通液することにより香気成分を濃縮して第13香気濃縮物(38)を得る。また、工程oでは、香気回収液(32)中の香気成分がFO膜(6)を通過し、DS(2)に流れてしまった、濃縮されなかった液も得る。
【0076】
工程pでは、工程oにおいて濃縮されなかった液を合成吸着剤(9)に通液することにより香気成分を吸着濃縮した第14香気濃縮物(39)を得る。
【0077】
工程qでは、工程oで得られる第13香気濃縮物(38)と工程pで得られる第14香気濃縮物(39)を混合し、第15香気濃縮物(40)を得る。この第15香気濃縮物(40)はFO膜(6)のみでは濃縮しにくい香気成分も含有しており、植物本来の香気を十分に含有する香気濃縮物である。
【0078】
工程rでは、香気を有する植物および/またはその加工品(31)の水蒸気蒸留後の残渣物から冷水もしくは温水により香気成分を抽出した残渣エキス(36)と工程qで得られる第15香気濃縮物(40)を混合し、第16香気濃縮物(41)を得る。この第16香気濃縮物(41)は、植物本来の香気を余すことなく濃縮した香気濃縮物であり、味も損なわないため、ガムまたはお菓子などの食品等に添加することにより十分な香味を付与することができる。
【0079】
(1-2)香気濃縮物の製造装置
本製造方法では、例えば以下のような香気濃縮物の製造装置(以下、単に「本製造装置」ともいう)により実施することができる。
【0080】
本製造装置は、合成吸着剤を備える濃縮装置およびFO膜を備える濃縮装置を任意の順に接続して使用する。実施形態1、3では、合成吸着剤を備える濃縮装置、FO膜を備える濃縮装置(19)の順に接続して使用する。実施形態2、4では、FO膜を備える濃縮装置(19)、合成吸着剤を備える濃縮装置の順に接続して使用する。
【0081】
合成吸着剤を備える濃縮装置は当業者に自明のものは全て使用でき、例えば合成吸着剤(9)をクロマトカラムにセットしたものを用いる。
【0082】
FO膜を備える濃縮装置も当業者に自明のものであれば全て使用でき、例えば図6に示すような装置を用いる。図6のFO膜を備える濃縮装置(19)は、FO膜(6)、フィード溶液通路(20)、およびDS通路(23)を備えている。フィード溶液通路(20)は、フィード溶液通路入口(21)とフィード溶液通路出口(22)を備える。
【0083】
フィード溶液通路入口(21)とフィード溶液通路出口(22)は、それぞれ1以上の管(26)と接続でき、他の器具と接続できる。例えば、フィード溶液通路入口(21)に接続した管(26)は、その先端をフィード溶液タンク(28)に浸すことによりフィード溶液(1)を吸い上げることができる。
【0084】
フィード溶液タンク(28)中のフィード溶液(1)として香気水(8)を用いる場合、フィード溶液通路出口(22)に接続した管(26)は、その先端から香気濃縮物を排出する。
【0085】
フィード溶液タンク(28)は、フィード溶液(1)を溜めるためのタンクである。なお、フィード溶液タンク(28)は取り換え可能である。例えば、香気水(8)を含むフィード溶液タンク(28)を用いた後に、溶剤を含むフィード溶液タンク(28)に取り換えることができる。
【0086】
2以上のフィード溶液タンク(28)をフィード溶液通路入口(21)に同時に接続することもできる。また、フィード溶液タンク(28)はタンク内に1室のみでなく、2室以上設けることができる。例えば、1つのフィード溶液タンク(28)が2室を有している場合、1室に香気水(8)を溜めておき、もう1室に溶剤を溜めておくなどして用いることができる。この場合、1つのフィード溶液タンク(28)で香気濃縮物と濃縮されなかった液を製造することができる。
【0087】
DS通路(23)は、DS通路入口(24)とDS通路出口(25)を備え、それぞれ1以上の管(26)と接続できる。この管(26)は、例えばDSタンク(29)と接続する。
【0088】
図6を参照しつつ、FO膜を備える濃縮装置(19)を用いて香気濃縮物を得る工程cについて説明する。
【0089】
まず、工程bで得られた吸着されなかった液をフィード溶液タンク(28)中に溜める。吸着されなかった液を管(26)で吸い取り、フィード溶液通路(20)に注入する。フィード溶液通路入口(21)を通過後、吸着されなかった液の水がFO膜(6)を透過していき、DS(2)側に流れていく。これにより、吸着されなかった液は、フィード溶液通路出口(22)に到達するまでに徐々に濃縮されていく。なお、FO膜(6)を透過する矢印は水の動きを示す。
【0090】
濃縮していった液は、香気濃縮物として香気濃縮物タンク(30)に溜めておき、続く工程において使用する。
【0091】
一方、この濃縮の過程において、香気成分はDS(2)にも流れている。本製造方法では、この香気成分を含有するDS(2)を濃縮されなかった液として使用することができる。
【0092】
排出される香気濃縮物はタンクに溜めておき、次の工程で使用する。フィード溶液通路出口(22)は、管(26)を用いて1以上のタンク等の容器と接続できる。図示しないが、管(26)中に配置される開閉バルブの操作により、液回収を任意のタンクで行える。
【0093】
本製造装置は自動化して用いることができる。また、本製造装置は、必要に応じて計算ソフトを用いることができる。例えば、フィード溶液(1)の種類、濃度、および水量ならびにDS(2)の種類、濃度、および水量を入力し、FO膜(6)の最適段組み、および最適流速などを設計できる。
【実施例
【0094】
以下、本発明に係る香気濃縮物の製造方法の実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
(グレープ香気濃縮物の製造)
実施例1では、香気を有する植物の果実(7)がグレープである、実施形態1の香気濃縮物(第3香気濃縮物)を製造した。
【0096】
実施例1のグレープ香気濃縮物(第3香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0097】
実施例1のグレープ香気濃縮物は、香気成分として主にアセトアルデヒド、イソプロピルアセテート、イソプロピルアルコール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、イソブチルアルコール、2-アミルアルコール、n-ブチルアルコール、クロトン酸エチル、イソアミルアルコール、n-アミルアルコール、アセトイン、2-メチルブテノール、n-ヘキシルアルコール、シス-3-ヘキセノール、トランス-2-ヘキセノール、酢酸、フェニルエチルアルコール、およびアントラニル酸メチルを含んでいた。
【0098】
GC/MS分析結果から、香気水に対する実施例1のグレープ香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。この濃縮倍率は、ガスクロマトグラフィーのチャートで得られる、各香気成分のピーク面積値を基に算出した。
【0099】
[実施例2]
実施例2では、グレープの濃縮果汁と実施例1の香気濃縮物を混合し、第4香気濃縮物を製造した。
【0100】
実施例2のグレープ香気濃縮物(第4香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0101】
グレープの香気水、実施例1の香気濃縮物、および実施例2の香気濃縮物の味見試験を実施した。
【0102】
味見試験は官能試験によって行った。味が良い場合は◎、味がある場合は○、味が薄い場合は△、味がほとんどない場合は×として評価した。以降の味見試験も同様の評価を行なった。
【0103】
[実施例3]
実施例3では、香気を有する植物の果実(7)がグレープである、実施形態2の香気濃縮物(第7香気濃縮物)を製造した。
【0104】
実施例3のグレープ香気濃縮物(第7香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0105】
実施例3のグレープ香気濃縮物は、香気成分として主にアセトアルデヒド、イソプロピルアセテート、イソプロピルアルコール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、イソブチルアルコール、2-アミルアルコール、n-ブチルアルコール、クロトン酸エチル、イソアミルアルコール、n-アミルアルコール、アセトイン、2-メチルブテノール、n-ヘキシルアルコール、シス-3-ヘキセノール、トランス-2-ヘキセノール、酢酸、フェニルエチルアルコール、およびアントラニル酸メチルを含んでいた。
【0106】
GC/MS分析結果から、香気水に対する実施例3のグレープ香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。
【0107】
[実施例4]
実施例4では、グレープの濃縮果汁と実施例3の香気濃縮物を混合し、第8香気濃縮物を製造した。
【0108】
実施例3の香気濃縮物および実施例4の香気濃縮物の味見試験を実施した。
【0109】
[比較例1]
比較例1では、香気を有する植物の果実(7)がグレープであり、合成吸着剤(9)のみを用いて香気濃縮物(第1香気濃縮物)を製造した。
【0110】
比較例1のグレープ香気濃縮物(第1香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0111】
比較例1のグレープ香気濃縮物は、香気成分として主にアセトアルデヒド、イソプロピルアセテート、イソプロピルアルコール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、イソブチルアルコール、2-アミルアルコール、n-ブチルアルコール、クロトン酸エチル、イソアミルアルコール、n-アミルアルコール、アセトイン、2-メチルブテノール、n-ヘキシルアルコール、シス-3-ヘキセノール、トランス-2-ヘキセノール、酢酸、フェニルエチルアルコール、およびアントラニル酸メチルを含んでいた。
【0112】
GC/MS分析結果から、香気水に対する比較例1のグレープ香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。
[比較例2]
比較例2では、香気を有する植物の果実(7)がグレープであり、FO膜(6)のみを用いて香気濃縮物(第5香気濃縮物)を製造した。
【0113】
比較例2のグレープ香気濃縮物をGC/MSにて分析した。
【0114】
比較例2のグレープ香気濃縮物は、香気成分として主にアセトアルデヒド、イソプロピルアセテート、イソプロピルアルコール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、イソブチルアルコール、2-アミルアルコール、n-ブチルアルコール、クロトン酸エチル、イソアミルアルコール、n-アミルアルコール、アセトイン、2-メチルブテノール、n-ヘキシルアルコール、シス-3-ヘキセノール、トランス-2-ヘキセノール、酢酸、フェニルエチルアルコール、およびアントラニル酸メチルを含んでいた。
【0115】
GC/MS分析結果から、香気水に対する比較例2のグレープ香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。
【0116】
[実施例5]
(コーヒー豆香気濃縮物の製造)
実施例5では、香気を有する植物がコーヒー豆である、実施形態3の香気濃縮物(第11香気濃縮物)を製造した。
【0117】
焙煎・粉砕されたコーヒー豆(コロンビア豆L値20、株式会社アートコーヒー製)を水蒸気蒸留法に供し、原料の3倍量の香気回収液を得た。
【0118】
香気回収液をGC/MSにて分析した。結果を図7に示す。
【0119】
図7の結果より、香気回収液は、香気成分として2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、2-メチルピラジン、アセトール、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2-エチルピラジン、酢酸、フルフラール、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、プロピオン酸、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、フルフリルアルコール、イソ吉草酸、および4-ビニルグアイアコールを主に含むことが分かった。
【0120】
合成吸着剤(スチレン-ブタジエン系)30mLをクロマトカラムにセットし、得られたコーヒー由来の香気回収液1Lを流速SV20にて通液し、吸着部と吸着されなかった液に分けた。吸着部は、溶剤を用いて香気成分を脱着させ、90mLの第9香気濃縮物を得た。
【0121】
吸着されなかった液をFO膜(AQUAPORIN社製 HFFO2)に通液し、第10香気濃縮物を得た。
【0122】
第9香気濃縮物と第10香気濃縮物を混合し、第11香気濃縮物を得た。
【0123】
実施例5のコーヒー豆香気濃縮物(第11香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0124】
実施例5のコーヒー豆香気濃縮物は、香気成分として主に2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、アセトール、2,5-ジメチルピラジン、フルフラール、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、フルフリルアルコール、イソ吉草酸、または4-ビニルグアイアコールを含んでいた。
【0125】
GC/MS分析結果から、香気回収液に対する実施例5のコーヒー豆香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。結果を表1に示す。
【0126】
[実施例6]
実施例6では、水蒸気蒸留後のコーヒー豆の残渣物から温水により香気成分を抽出した残渣エキスを得た。続いて、得られた残渣エキスと実施例5の香気濃縮物を混合し、第12香気濃縮物を得た。
【0127】
コーヒー豆の香気回収液、実施例5の香気濃縮物、および実施例6の香気濃縮物の味見試験を実施した。結果を表2に示す。
【0128】
[実施例7]
実施例7では、香気を有する植物がコーヒー豆である、実施形態4の香気濃縮物(第15香気濃縮物)を製造した。
【0129】
焙煎・粉砕されたコーヒー豆(コロンビア豆L値20、株式会社アートコーヒー製)を水蒸気蒸留法に供し、原料の3倍量の香気回収液を得た。
【0130】
香気回収液をFO膜(AQUAPORIN社製 HFFO2)に通液し、第13香気濃縮物を得た。また、DSを回収した。
【0131】
合成吸着剤(スチレン-ブタジエン系)30mLをクロマトカラムにセットし、回収したDSを合成吸着剤に通液することで吸着濃縮し、第14香気濃縮物を得た。
【0132】
第13香気濃縮物と第14香気濃縮物を混合し、第15香気濃縮物を得た。
【0133】
実施例7のコーヒー豆香気濃縮物(第15香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0134】
実施例7のコーヒー豆香気濃縮物は、香気成分として主に2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、アセトール、2,5-ジメチルピラジン、フルフラール、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、フルフリルアルコール、イソ吉草酸、または4-ビニルグアイアコールを含んでいた。
【0135】
GC/MS分析結果から、香気回収液に対する実施例7のコーヒー豆香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。結果を表1に示す。
【0136】
[実施例8]
実施例8では、水蒸気蒸留後のコーヒー豆の残渣物から温水により香気成分を抽出した残渣エキスを得た。続いて、得られた残渣エキスと実施例7の香気濃縮物を混合し、第16香気濃縮物を得た。
【0137】
実施例7の香気濃縮物および実施例8の香気濃縮物の味見試験を実施した。結果を表2に示す。
【0138】
[比較例3]
比較例3では、香気を有する植物がコーヒー豆であり、合成吸着剤(9)のみを用いて香気濃縮物(第9香気濃縮物)を製造した。
【0139】
焙煎・粉砕されたコーヒー豆(コロンビア豆L値20、株式会社アートコーヒー製)を水蒸気蒸留法に供し、原料の3倍量の香気回収液を得た。
【0140】
合成吸着剤(スチレン-ブタジエン系)30mLをクロマトカラムにセットし、得られたコーヒー由来の香気回収液1Lを流速SV20にて通液し、吸着部と濃縮されなかった液に分けた。吸着部は、溶剤を用いて香気成分を脱着させ、90mLの第9香気濃縮物を得た。
【0141】
比較例3のコーヒー豆香気濃縮物(第9香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0142】
比較例3のコーヒー豆香気濃縮物は、香気成分として主に2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、アセトール、2,5-ジメチルピラジン、フルフラール、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、フルフリルアルコール、イソ吉草酸、または4-ビニルグアイアコールを含んでいた。
【0143】
GC/MS分析結果から、香気回収液に対する比較例3のコーヒー豆香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。結果を表1に示す。
【0144】
[比較例4]
比較例4では、香気を有する植物がコーヒー豆であり、FO膜(6)のみを用いて香気濃縮物(第13香気濃縮物)を製造した。
【0145】
焙煎・粉砕されたコーヒー豆(コロンビア豆L値20、株式会社アートコーヒー製)を水蒸気蒸留法に供し、原料の3倍量の香気回収液を得た。
【0146】
香気回収液をFO膜(AQUAPORIN社製 HFFO2)に通液し、第13香気濃縮物を得た。
【0147】
比較例4のコーヒー豆香気濃縮物(第13香気濃縮物)をGC/MSにて分析した。
【0148】
比較例4のコーヒー豆香気濃縮物は、香気成分として主に2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、アセトール、2,5-ジメチルピラジン、フルフラール、2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、フルフリルアルコール、イソ吉草酸、または4-ビニルグアイアコールを含んでいた。
【0149】
GC/MS分析結果から、香気回収液に対する比較例4のコーヒー豆香気濃縮物の濃縮倍率を算出した。結果を表1に示す。
【0150】
比較例3の香気濃縮物および比較例4の香気濃縮物の味見試験を実施した。結果を表2に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
【表2】
【0153】
(結果)
先に表2の結果について説明する。香気回収液および実施例5-8、比較例3、比較例4における味の評価を行なった結果、実施例6と実施例8の香気濃縮物の味が最も良いことが分かった。実施例5、実施例7、および比較例3の香気濃縮物については、薄い味はするという評価になった。一方で、香気回収液および比較例4はほとんど味がないという評価であった。
【0154】
(考察)
表2の結果より、呈味成分は残渣エキス側に多く存在することがわかった。したがって、十分な香味を有する香気濃縮物を製造するには、残渣エキスを加える必要があることがわかった。
【0155】
(結果)
続いて表1の結果について説明する。比較例3の香気濃縮物について、2,5-ジメチルピラジンおよび5-メチル2-フルフラールが、11.4倍および14.7倍となった。一方で、アセトールおよびγ-ブチロラクトンが0.2倍および2.8倍となった。比較例4の香気濃縮物について、アセトール、5-メチル2-フルフラール、γ-ブチロラクトン、およびフルフリルアルコールが、4.8倍、4.3倍、5.6倍、4.2倍となった。一方で、2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、フルフラール、フルフリルアセテート、および4-ビニルグアイアコールが、2.4倍、1.5倍、2.1倍、および1.5倍となった。実施例5の香気濃縮物について、アセトールおよびγ-ブチロラクトンが、5.0倍および8.7倍となった。実施例7の香気濃縮物について、フルフラールが3.9倍となった。
【0156】
(考察)
表1の結果について考察する。実施例5の香気濃縮物は他の香気濃縮物と比較して、ほとんどの化合物群において濃縮効率が高いことが分かった。また、比較例3および比較例4の香気濃縮物の濃縮率を比較すると、合成吸着剤によって濃縮しやすい香気成分と濃縮しにくい香気成分があること、およびFO膜によって濃縮しやすい香気成分と濃縮しにくい香気成分があることが分かった。
【0157】
例えば、合成吸着剤での濃縮は、2-メチルテトラヒドロフラン-3-オン、2,5-ジメチルピラジン、フルフラール、フルフリルアセテート、5-メチル2-フルフラール、フルフリルアルコール、および4-ビニルグアイアコールの濃縮効率が良いことが分かった。
【0158】
一方、FO膜での濃縮は、アセトールおよびγ-ブチロラクトンの濃縮効率が良いことが分かった。
【0159】
したがって、合成吸着剤を用いる香気成分の濃縮方法とFO膜を用いる香気成分の濃縮方法を組み合わせることにより、コーヒー豆に含まれる主な香気成分全般を余すことなく濃縮できていることが、表1の分析から分かった。
【0160】
(その他の香気濃縮物の味見試験)
香気を有する植物の果実として、グレープ、みかん、およびモモを用いて、実施例1-4、比較例1-2と同様の製法により、それぞれ第1香気濃縮物、第3香気濃縮物、第4香気濃縮物、第5香気濃縮物、第7香気濃縮物、および第8香気濃縮物を製造した。
【0161】
香気水、第1香気濃縮物、第3香気濃縮物、第4香気濃縮物、第5香気濃縮物、第7香気濃縮物、および第8香気濃縮物の味見試験を実施した。結果を表3に示す。
【0162】
【表3】
【0163】
また、香気を有する植物として、コーヒー豆、チャノキ、およびシソを用いて、実施例5-8、比較例3-4と同様の製法により、それぞれ第9香気濃縮物、第11香気濃縮物、第12香気濃縮物、第13香気濃縮物、第15香気濃縮物、および第16香気濃縮物を製造した。
【0164】
香気回収液、第9香気濃縮物、第11香気濃縮物、第12香気濃縮物、第13香気濃縮物、第15香気濃縮物、および第16香気濃縮物の味見試験を実施した。結果を表4に示す。
【0165】
【表4】
【0166】
(考察)
表3および表4の結果から、表2の結果とほぼ同様の傾向が見られることが分かった。したがって、合成吸着剤を用いる香気成分の濃縮方法とFO膜を用いる香気成分の濃縮方法を組み合わせることにより、香気を有する植物の果実または香気を有する植物に含まれる主な香気成分全般を余すことなく濃縮できているものと推察された。したがって、本製造方法は、香気を有する植物の果実および香気を有する植物を特に限定するものではないと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明に係る香気成分濃縮物の製造方法によれば、(a)香気を有する植物の果実から得られる果汁を濃縮して、蒸散水である香気水と濃縮果汁を得る工程と、(b)前記工程aで得られる前記香気水を合成吸着剤に通液することにより香気成分を吸着濃縮して第1香気濃縮物を得る工程と、(c)前記工程bにおいて吸着されなかった液をFO膜に通液することにより香気成分を濃縮して第2香気濃縮物を得る工程と、(d)前記工程bで得られる前記第1香気濃縮物と前記工程cで得られる前記第2香気濃縮物を混合して第3香気濃縮物を得る工程とを含む、香気濃縮物の製造方法であるため、香気水を合成吸着剤に通液した際に吸着されなかった液を回収し、この吸着されなかった液をFO膜で濃縮して各香気濃縮物を混合しているため、特定の香気成分を損なわない香気濃縮物の製造方法を提供することができる。そのため、果実の本来の香気を損なわない香気濃縮物を提供できる。
【0168】
したがって、本発明に係る香気濃縮物の製造方法は、特定の香気成分を損なわずに濃縮することができる、香気濃縮物の製造方法として、好適に幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0169】
1 フィード溶液
2 DS
3 香気成分
4 水
5 塩
6 FO膜
7 香気を有する植物の果実
8 香気水
9 合成吸着剤
10 第1香気濃縮物
11 第2香気濃縮物
12 第3香気濃縮物
13 濃縮果汁
14 第4香気濃縮物
15 第5香気濃縮物
16 第6香気濃縮物
17 第7香気濃縮物
18 第8香気濃縮物
19 FO膜を備える濃縮装置
20 フィード溶液通路
21 フィード溶液通路入口
22 フィード溶液通路出口
23 DS通路
24 DS通路入口
25 DS通路出口
26 管
28 フィード溶液タンク
29 DSタンク
30 香気濃縮物タンク
31 香気を有する植物および/またはその加工品
32 香気回収液
33 第9香気濃縮物
34 第10香気濃縮物
35 第11香気濃縮物
36 残渣エキス
37 第12香気濃縮物
38 第13香気濃縮物
39 第14香気濃縮物
40 第15香気濃縮物
41 第16香気濃縮物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7