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  • 特許-眼内インプラント用の抗微生物性ポリマ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】眼内インプラント用の抗微生物性ポリマ
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/16 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
A61L27/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020541780
(86)(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 US2018016257
(87)【国際公開番号】W WO2019152023
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519077322
【氏名又は名称】ケラメッド インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】シューイー イーチェー
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】池上 京子
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-47118(JP,A)
【文献】特開平6-256424(JP,A)
【文献】特表平11-507682(JP,A)
【文献】特表平11-502894(JP,A)
【文献】特表2019-528872(JP,A)
【文献】IOVS,2013年,Vol.54,pp.175-182
【文献】ACS Appl.Mater.Interfaces,2013年,Vol.5,pp.12789-12793
【文献】PLOS ONE, 2014, Vol.9, e112549, doi:10.1371/journal.pone.0112549
【文献】Prog.Polym.Sci.,2007年,Vol.32,pp.698-725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDREAMIII)
A61L15/00-33/18
A61F2/00-4/00
A01N
C08C19/
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の抗微生物性モノマと、
疎水性アクリルモノマと、親水性アクリルモノマと、から選択される少なくとも1種の他のモノマと、
を含み、
前記抗微生物性モノマは、1-[12-(メタクリロイルオキシ)ドデシル]ピリジニウムブロミド(MDPB)、2-メタクリルオキシエチルドデシルメチルアンモニウムブロミド(MAE-DB)、2-メタクリルオキシエチルヘキサデシルメチルアンモニウムブロミド(MAE-HB)、またはビス(2-メタクリルオキシエチル)ジメチルアンモニウムブロミド(IDMA-1)から選択される第4級アンモニウム塩系モノマであり、
前記疎水性アクリルモノマは、
ブタンジオールジアクリレートで架橋され、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとブタンジオールジアクリレートとのモノマと、
エチレングリコールジメタクリレートで架橋され、エチルアクリレートとエチルメタクリレートと2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、エチレングリコールジメタクリレートで架橋される、エチルアクリレートとエチルメタクリレートと2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートとのモノマと、
フェニルエチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとが架橋されたコポリマを形成する、フェニルエチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとのモノマと
-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、2-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのモノマと
から選択され、
前記親水性アクリルモノマは、
ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマを形成する、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマと
-ヒドロキシエチルメタクリレートと2-エトキシエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2-エトキシエチルメタクリレートとのモノマと、
2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマを形成する、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマと、
から選択される、
ことを特徴とする眼内インプラント用の抗微生物性ポリマ。
【請求項2】
前記抗微生物性ポリマは、透明、不透明、または半透明である、
請求項1記載の抗微生物性ポリマ。
【請求項3】
前記抗微生物性ポリマは、可逆的に変形可能である、
請求項1記載の抗微生物性ポリマ。
【請求項4】
前記眼内インプラントは、眼内レンズ、人工角膜、緑内障バルブ、人工網膜、または角膜内インプラントである、
請求項1記載の抗微生物性ポリマ。
【請求項5】
前記抗微生物性モノマは、抗微生物性ペプチドと共有結合する、
請求項1記載の抗微生物性ポリマ。
【請求項6】
抗微生物性ポリマを提供するために、少なくとも1種の抗微生物性モノマを、疎水性アクリルモノマと、親水性アクリルモノマと、から選択される少なくとも1種の他のモノマと反応させる工程と、
前記抗微生物性ポリマを眼内インプラントに使用する工程と、
を含み、
前記抗微生物性モノマは、1-[12-(メタクリロイルオキシ)ドデシル]ピリジニウムブロミド(MDPB)、2-メタクリルオキシエチルドデシルメチルアンモニウムブロミド(MAE-DB)、2-メタクリルオキシエチルヘキサデシルメチルアンモニウムブロミド(MAE-HB)、またはビス(2-メタクリルオキシエチル)ジメチルアンモニウムブロミド(IDMA-1)から選択される第4級アンモニウム塩系モノマであり、
前記疎水性アクリルモノマは、
ブタンジオールジアクリレートで架橋され、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとブタンジオールジアクリレートとのモノマと、
エチレングリコールジメタクリレートで架橋され、エチルアクリレートとエチルメタクリレートと2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、エチレングリコールジメタクリレートで架橋される、エチルアクリレートとエチルメタクリレートと2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートとのモノマと、
フェニルエチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとが架橋されたコポリマを形成する、フェニルエチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとのモノマと
-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、2-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのモノマと、
から選択され、
前記親水性アクリルモノマは、
ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマを形成する、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマと、
-ヒドロキシエチルメタクリレートと2-エトキシエチルメタクリレートとのコポリマを形成する、2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2-エトキシエチルメタクリレートとのモノマと
2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマを形成する、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマと
から選択される、
ことを特徴とする眼内インプラント用の抗微生物性ポリマの調製方法。
【請求項7】
前記抗微生物性ポリマは、透明、不透明、または半透明である、
請求項記載の抗微生物性ポリマの調製方法。
【請求項8】
前記抗微生物性ポリマは、可逆的に変形可能である、
請求項記載の抗微生物性ポリマの調製方法。
【請求項9】
前記眼内インプラントは、眼内レンズ、人工角膜、緑内障バルブ、人工網膜、または角膜内インプラントである、
請求項記載の抗微生物性ポリマの調製方法。
【請求項10】
前記抗微生物性モノマは、抗微生物性ペプチドと共有結合する、
請求項記載の抗微生物性ポリマの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、眼内インプラントデバイスと、眼内インプラントデバイスの調製方法および使用方法と、に関し、より詳細には、少なくとも1種の抗微生物性モノマを少なくとも1種の他のモノマと共重合させることにより得られる、眼内インプラントデバイス用の抗微生物性ポリマに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症は、眼内インプラント手術における深刻な合併症である。眼用インプラントの例として、眼内レンズと、緑内障バルブと、角膜プロテーゼ(keratoprostheses)としても知られている人工角膜と、が挙げられる。これらのいずれかのデバイスの眼内インプラント手術後の非制御の感染症は、結果として、視力喪失、さらには、目の喪失さえ生じさせ得る。
【0003】
コンタクトレンズと眼内インプラントとを区別することは重要である。両方とも医療機器であるとみなされるが、それらの目的と適切に機能するための要件とは、非常に異なる。
【0004】
コンタクトレンズは、ヒトの涙膜の上に浮かぶ透明なレンズである。コンタクトレンズは、いずれにおいても目に物理的には取り付けられておらず、コンタクトレンズと組織との間の直接的な接触は、角膜剥離(corneal abrasions)と感染症と角膜瘢痕(corneal scarring)とを含む合併症を引き起こすことが知られている。コンタクトレンズの目的は、網膜に光線の適切な焦点を与えるために、光を屈折させることである。
【0005】
対照的に、眼内インプラントは、眼組織内への埋め込みが可能な、透明、半透明、または不透明の任意のデバイスである。眼内インプラントは、機能するために、眼組織に対して生体適合性でなければならない。
【0006】
眼内インプラント手術後の感染症のリスクを減らすために使用される最も一般的な方策は、局所用抗生物質点眼薬の使用である。しかしながら、この療法は、医薬品が適切に投薬されることを保証するために、患者のコンプライアンスに頼る必要があるという重大な欠点を有する。感染症の問題は、現在、患者の生活のために、局所用抗生物質点眼薬の毎日の投与を必要とする、人工角膜インプラントの場合、特に厄介である。そのような抗生物質の使用は、現在の人工角膜が目の非滅菌表面に曝されるため、必要である。そのため、感染症のリスクが常に付きまとう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第6,976,997号
【0008】
他の発明者らは、眼内インプラント手術後の感染症を減らす方法として、抗生物質医薬品の不十分さを認識している。提案されている代替の方策の1つは、Noolandiらに発行された特許文献1において開示されているように、眼内インプラントの表面を抗菌性化学物質で被覆するか、または同表面に抗菌性化学物質を共有結合することである。この方法の限界は、被覆および共有結合した化学物質が、時間と共に浸食されて、インプラントの表面から離れ得ることである。そのため、これらのタイプのインプラントの抗菌特性は時間と共に低下し、それにより、感染症のリスクが増加することが予測される。
【0009】
過去に提案された別の方策は、眼内インプラントのポリマに抗菌性金属イオンを注入することである。特に、銀金属と銅金属とは、眼内インプラント用のポリマ中に注入する薬剤として、提案されている。ポリマ内での抗菌剤としての遊離金属イオンの使用は、市販のプラスチック商品と、カテーテルなどの短期的使い捨て医療機器と、において広く使用されているが、金属イオンは、目に対して危険であることが知られている。
【0010】
銀症(argyrosis)は、目の銀毒性に対する医学用語である。銀症は、結果として、結膜と虹彩とのスレートグレイ変色を生じさせることが報告されている。また、銀症は、結果として、白内障(cataracts)と網膜の黄斑症(retinal maculopathy)とを生じさせることも分かっており、これらは両方とも、視力を脅かす疾患である。
【0011】
目における銅毒性は、結果として、角膜の周りに、カイザー・フライシャー輪と呼ばれる特徴的な緑色の輪を生じさせる。さらに、複数の研究が、銅毒性が、眼内炎(ぶどう膜炎)、出血、硝子体液化、低眼圧(hypotony)、虹彩虚血(iris ischemia)、網膜損傷などの眼の合併症を引き起こし得ることを実証している。
【0012】
さらに、遊離金属イオンも、時間と共にポリマから浸出し得て、そのため、ポリマは、時間と共にその抗微生物特性を失い得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のような理由から、眼内インプラント手術後の微生物感染のリスクを減らす改良された組成物と方法とが、当技術分野において、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、少なくとも1種の抗微生物性モノマと、アクリルモノマ、シリコーンモノマ、ビニルモノマ、またはコラーゲンモノマから選択される少なくとも1種のモノマと、を共重合することにより得られる、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供する。本発明は、さらに、抗微生物性ポリマを提供するために、少なくとも1種の抗微生物性モノマを、アクリルモノマと、シリコーンモノマと、ビニルモノマと、コラーゲンモノマと、から選択される少なくとも1種の他のモノマと反応させることにより、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを調製する方法と、抗微生物性ポリマを眼内インプラントに使用する方法と、を提供する。
【0015】
本発明のコポリマは、抗微生物性、生体適合性、および可逆的に変形可能であり、さらに、透明、半透明、または不透明である。これらの特性は、小さな切開部を通じた眼組織の内側への移植(implantation)のために設計された眼内インプラントの最適な機能にとって望ましい。さらに、コポリマの表面だけでなく、コポリマの全体が抗微生物特性を有するため、これらのタイプのコポリマから作製された眼内インプラントは、たとえインプラントの表面が時間と共に浸食されても、それらの抗微生物特性を失わないであろう。このことは、瞬きがポリマ材料の浸食を引き起こすような、目の表面に曝される眼内インプラントにとって特に重要である。本発明のポリマの表面が浸食されたとき、表面の下の抗微生物性ポリマは、依然として微生物を殺し、それにより、患者の感染リスクを減らすであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、抗微生物性で、透明な、生体適合性の、可逆的に変形可能なポリマの重合の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、少なくとも1種の抗微生物性モノマを、アクリルモノマ、シリコーンモノマ、ビニルモノマ、またはコラーゲンモノマから選択される少なくとも1種の他のモノマと、共重合することにより得られる、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供する。結果として得られる抗微生物性ポリマは、抗微生物性、生体適合性、および可逆的に変形可能なインプラントを提供し、さらに、同インプラントは、透明、半透明、または不透明である。これらの特性は、小さな切開部を通じた眼組織の内側への移植のために設計された眼内インプラントの最適な機能にとって望ましい。さらに、コポリマの表面だけでなく、コポリマの全体が抗微生物特性を有するため、このタイプのコポリマから作製された眼内インプラントは、たとえインプラントの表面が時間と共に浸食されても、それらの抗微生物特性を失わないであろう。このことは、瞬きがポリマ材料の浸食を引き起こすような、目の表面に曝される眼内インプラントにとって特に重要である。
【0018】
多くのタイプの眼内インプラントが存在する。そのようなインプラントのタイプの1つは、人工角膜である。人工角膜において、コポリマは、抗微生物性で、透明で、生体適合性で、可逆的に変形可能であることが考えられる。いくつかの場合において、眼内インプラントは、それらの意図される機能を実現するために透明である必要はない。例えば、視軸の外側の、緑内障バルブと、人工網膜と、角膜内インプラントとは、それらの機能の一部として光を屈折する必要がないため、それらは、半透明または不透明でもよい。これらの場合、本発明のポリマは、半透明または不透明でもよい。様々な眼内インプラントとその方法とは、米国特許第8,029,515号と、米国特許第7,901,421号と、米国特許第7,223,275号と、において十分に記載されており、これらの各特許は、全ての目的のために、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0019】
抗微生物性ポリマは、抗微生物活性を有するか、または、細菌、真菌、および/または原虫などの微生物の増殖を抑制する能力を有する、ポリマの分類である。これらのポリマは、様々な微生物を殺すために、生きた動物の免疫系により使用される抗微生物性ペプチドを模倣する。抗微生物性ポリマは、概して、不揮発性で、化学的に安定であり、かつ、医薬の分野では感染症と戦うための手段として、食品産業では細菌汚染を防ぐために、水衛生においては飲料水中の微生物の増殖を抑制するために使用される。
【0020】
抗微生物性ポリマは、微生物の細胞を破裂させることにより、接触において微生物を殺す。例えば、抗微生物性ポリマは、概して、正電荷を有し、細菌の細胞壁の負に帯電した表面上に、容易に吸着され得る。抗微生物性ポリマは、一旦吸着されると、結合した細胞壁を通過して拡散し、細胞膜を崩壊させる。吸着は、カチオン性抗微生物性ポリマにより最も良好に達成されるが、一方、小分子の抗微生物剤は、その低分子量に起因して、拡散において優れている。細胞膜の崩壊と、それに続く細胞質成分の漏出とは、細菌の死を引き起こす。
【0021】
ほとんどの細菌の細胞壁は、負に帯電するため、ほとんどの抗微生物性ポリマは、吸着プロセスを容易にするために、正に帯電する。カウンターイオンの構造、または電荷のバランスを取るためにポリマと結合したイオンの構造は、さらに、抗微生物活性に影響を及ぼす。ポリマと強固なイオン対を形成するカウンターアニオンは、カウンターイオンがポリマと細菌との相互作用を阻むため、抗微生物活性を妨げる。しかしながら、緩いイオン対を形成するイオン、またはポリマから容易に解離するイオンは、ポリマが細菌と自由に相互作用することを可能にするため、活性に対して肯定的な影響を示す。
【0022】
図1は、抗微生物性で、透明な、生体適合性の、可逆的に変形可能なポリマの重合の実施形態を示す。この図において、抗微生物性ポリマは、少なくとも1種の抗微生物性モノマを、アクリルモノマ、シリコーンモノマ、ビニルモノマ、またはコラーゲンモノマから選択される少なくとも1種のモノマと、共重合することにより得られる。重合後、結果として得られるポリマ網目構造は、ポリマ網目構造の全体に亘って、間隔をおいて固定された抗微生物性ポリマを含む。
【0023】
一実施形態において、抗菌性モノマは、第4級アンモニウム塩系モノマから選択される。第4級アンモニウム塩系モノマの非限定的な例は、1-[12-(メタクリロイルオキシ)ドデシル]ピリジニウムブロミド(MDPB):
CH=C(CH)C(O)O(CH12(C)Br
MDPB
である。
【0024】
MDPBは、歯科用接着剤および歯科用樹脂と共重合する場合、虫歯のリスクを減らすための抗微生物性モノマとして使用されている。
【0025】
他の実施形態において、少なくとも1種の抗微生物性モノマは、第4級アンモニウム塩系モノマ、例えば、メタクリルオキシルエチルセチルジメチルアンモニウムクロリド(DMAE-CB)である。
CH=C(CH)C(O)O(CH(CH(CH15CHCl
DMAE-CB
【0026】
ポリマ材料に組み入れられ得る抗菌性モノマの量を増加することも可能であり、次いで、2つの重合可能なメタクリル部分を有するように第4級アンモニウム塩系モノマを修飾(modifying)することにより、抗菌活性を高めることも可能である。
【0027】
そのため、他の実施形態において、少なくとも1種の抗微生物性モノマは、第4級アンモニウム塩系モノマ、例えば、2-メタクリルオキシエチルドデシルメチルアンモニウムブロミド(MAE-DB)である。
【0028】
他の実施形態において、少なくとも1種の抗微生物性モノマは、第4級アンモニウム塩系モノマ、例えば、2-メタクリルオキシエチルヘキサデシルメチルアンモニウムブロミド(MAE-HB)である。
【0029】
他の実施形態において、少なくとも1種の抗微生物性モノマは、第4級アンモニウム塩系モノマ、例えば、ビス(2-メタクリルオキシエチル)ジメチルアンモニウムブロミド(IDMA-1):
CH=C(CH)C(O)O(CH(CH(CHO(O)CC(CH)=CHBr
IDMA-1
である。
【0030】
他の実施形態において、少なくとも1種の抗微生物性モノマは、アルキル鎖長に基づいて異なってもよい。これらの例としては、次に限定されるわけではないが、ジメチルアミノプロピルメタクリレート(DMAPM)、ジメチルアミノヘキシルメタクリレート(DMAHM)、ジメチルアミノヘプチルメタクリレート(DMAHPM)、ジメチルアミノオクチルメタクリレート(DMAOM)、ジメチルアミノノニルメタクリレート(DMANM)、ジメチルアミノデシルメタクリレート(DMADM)、ジメチルアミノウンデシルメタクリレート(DMAUDM)、ジメチルアミノドデシルメタクリレート(DMADDM)、ジメチルアミノトリデシルメタクリレート(DMATDM)、ジメチルアミノテトラデシルメタクリレート(DMATTDM)、ジメチルアミノペンタデシルメタクリレート(DMAPDM)、ジメチルアミノヘキサデシルメタクリレート(DMAHDM)、ジメチルアミノヘプタデシルメタクリレート(DMAHPDM)、ジメチルアミノオクタデシルメタクリレート(DMAODM)、ジメチルアミノノナデシルメタクリレート(DMANDM)、ジメチルアミノイコシルメタクリレート(DMAIOM)、ジメチルアミノヘンイコシルメタクリレート(DMAHOM)、ジメチルアミノドコシルメタクリレート(DMADOM)、および/またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
他の実施形態において、抗微生物性モノマは、第1級アミノ基、第2級アミノ基、または第3級アミノ基を有してもよい。これらのタイプの抗菌性モノマの例としては、次に限定されるわけではないが、オルト-ジメチルアミノメチルスチレン、メタ-ジメチルアミノメチルスチレン、および/またはパラ-ジメチルアミノメチルスチレン、N[2-(ジメチルアミノ)エチル]アクリルアミド、N-(2-アミノエチル)アクリルアミド、n-ブチルアクリルアミド、およびジアリルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。
【0032】
さらなる他の実施形態において、抗微生物性モノマは、抗微生物性ペプチドと共有結合してもよい。抗微生物性ペプチドの例としては、次に限定されるわけではないが、2つから4つのジスルフィド架橋により安定化されるβ-シートペプチド(例えば、ヒトα-ディフェンシンおよびヒトβ-ディフェンシン、プレクタシン、またはプロテグリン);αヘリックスペプチド(例えば、LL-37、セクロピン、またはマガイニン);グリシン、プロリン、トリプトファン、アルギニン、またはヒスチジンに富む拡張された構造(例えば、インドリシジン);ならびに1つまたは複数のジスルフィド架橋を有するループペプチド(例えば、バクテリオシン)が挙げられる。
【0033】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、アクリルモノマ、シリコーンモノマ、ビニルモノマ、またはコラーゲンモノマから選択される。これらのモノマは、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供するために、前述のとおりの少なくとも1種の抗微生物性モノマとの重合を受けることができる。例えば、眼内インプラントは、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとによるコポリマなどの、典型的には、眼内レンズ(IOL)を形成するために一般的に用いられるタイプの高分子ヒドロゲルの、単一のブランク材または材料のブロック、または疎水性アクリル材料、から形成されてもよい。また、高分子ヒドロゲル材料は、例えば、プラズマ表面処理が施されている、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマなどの、疎水性および親水性の両方の特性を有し得る。あるいは、眼内インプラントは、コラーゲンベースのヒドロゲルから、成形、機械加工、またはレーザー切断され得る。
【0034】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、疎水性アクリルモノマから選択される。疎水性アクリルモノマの例としては、次に限定されるわけではないが、以下のものが挙げられる。
【0035】
ブタンジオールジアクリレートで架橋され、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとのコポリマ(AcrySof(登録商標) IOL)を形成する、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとブタンジオールジアクリレートとのモノマ、Alcon、A Novartis Division、6201 South Freeway、Fort Worth、TX 76134-2001から入手可能。
エチレングリコールジメタクリレートで架橋され、エチルアクリレートとエチルメタクリレートと2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートとのコポリマ(Tecnis(登録商標) (AMO))を形成する、エチレングリコールジメタクリレートで架橋される、エチルアクリレートとエチルメタクリレートと2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートとのモノマ、Johnson & Johnson Vision Surgical、1700 E St Andrew Pl、Santa Ana、CA 92705から入手可能。
【0036】
フェニルエチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとが架橋されたコポリマ(AF-1(登録商標) (HOYA))を形成する、フェニルエチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとフルオロアルキルメタクリレートとのモノマ、Hoya Corporation、7-5、Naka-Ochiai 2-chome、Shinjuku-ku Tokyo、Japanから入手可能。
【0037】
ブタンジオールジアクリレートで架橋され、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとのコポリマ(HI56)を形成する、フェニルエチルアクリレートとフェニルエチルメタクリレートとブタンジオールジアクリレートとのモノマ、Contamac(登録商標) Ltd.、Carlton House、Shire Hill、Saffron Walden、Essex CB11 3AUから入手可能。
【0038】
2-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのコポリマ(BENZ HF-1.2)を形成する、2-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのモノマ、Benz Research & Development Corporation、6447 Parkland Drive、Sarasota、FL 34243から入手可能。
【0039】
2-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのコポリマ(Benz HF-2)を形成する、2-フェニルエチルアクリレートと2-フェニルエチルメタクリレートとのモノマ、Benz Research & Development Corporation、6447 Parkland Drive、Sarasota、FL 34243から入手可能。
【0040】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、親水性アクリルモノマから選択される。親水性アクリルモノマの例としては、次に限定されるわけではないが、以下のものが挙げられる。
【0041】
ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマ(CI26)を形成する、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマ、Contamac(登録商標) Ltd.、Carlton House、Shire Hill、Saffron Walden、Essex CB11 3AUから入手可能。
【0042】
ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマ(MICS22)を形成する、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマ、Contamac(登録商標)Ltd.、Carlton House、Shire Hill、Saffron Walden、Essex CB11 3AUから入手可能。
【0043】
ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマ(CI18)を形成する、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマ、 Contamac(登録商標)Ltd.、Carlton House、Shire Hill、Saffron Walden、Essex CB11 3AUから入手可能。
【0044】
2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2-エトキシエチルメタクリレートとのコポリマ(Benz IOL 125)を形成する、2-ヒドロキシエチルメタクリレートと2-エトキシエチルメタクリレートとのモノマ、Benz Research & Development Corporation、6447 Parkland Drive,Sarasota、FL 34243から入手可能。
【0045】
2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマ(BenzFlex 26)を形成する、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとのモノマ、Benz Research & Development Corporation、6447 Parkland Drive、Sarasota、FL 34243から入手可能。
【0046】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、角膜と、目と、身体と、に対して生体適合性である。好適なモノマとしては、次に限定されるわけではないが、コラーゲン、ウレタン、(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ビニルピロリドン、グリセロールメタクリレート、ビニルアルコール、エチレングリコール、メタクリル酸、シリコーン、アクリル樹脂、フルオロカーボン、ホスホコリンを有するモノマ、から選択される1種または複数種のモノマが挙げられる。
【0047】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、ヒドロゲルを含む。他の実施形態において、材料は、メタクリル酸と、ヒドロキシエチルメタクリレート(PHBMA/MAA)と、を含む。
【0048】
他の実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、眼内レンズに使用されるものなどの、可逆的に変形可能なアクリルモノマを含む材料である。好適なモノマの例としては、次に限定されるわけではないが、ヒドロキシエチルメタクリレートとメチルメタクリレートとが挙げられる。さらなる態様において、モノマは、インプラントの光学表面の滑らかな濡れを可能にするために、本質的に親水性である変形可能なポリマを提供する。濡れ性は、涙膜が良好な光学界面として機能することを可能にする、眼内インプラントの重要な特性である。
【0049】
さらなる他の実施形態において、眼内インプラントは、インプラントの表面上での上皮化を促進するモノマから製造されてもよい。そのような材料の例としては、コラーゲンとN-イソプロピルアクリルアミド、コラーゲンと1-エチル-3,3’(ジメチル-アミノプロピル)-カルボジイミド、ならびにコラーゲンとN-ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NHS)が挙げられる。他の態様において、ポリマは、さらに、フィブロネクチン、ラミニン、サブスタンスP、インスリン様成長因子-1、またはフィブロネクチン接着促進ペプチド(FAP)などのペプチド配列などの、細胞外マトリックスタンパク質を含有してもよい。
【0050】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、アクリルモノマである。アクリルモノマの非限定的な例としては、次に限定されるわけではないが、メチルアクリレート(MA)とメチルメタクリレート(MMA)とが挙げられる。MAとMMAとは、それぞれ、式:CH=CHCOCH、CH=C(CH)COCH、を有する有機化合物である。これらの無色の液体は、それぞれ、ポリ(メタクリレート)(PMA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の生成のために、大規模に生成される。MAとMMAとは、刺激物であるが、対して、MAとMMAとのポリマは、生体適合性であり、温度、化学作用、ヒト組織の細胞作用への長時間の曝露に対して、耐性がある。アクリルモノマは、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供するために、前述されたとおりの少なくとも1種の抗微生物性モノマとの重合を受けることができる。
【0051】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、シリコーンである。シリコーンは、式:RSiOを有し、式中、Rは、メチル、エチル、またはフェニルなどの有機基である。シリコーンは、4価のケイ素原子に結合された有機側基Rを伴う繰り返し無機ケイ素-酸素主鎖(---Si-O-Si-O-Si-O---)を含む、ポリシロキサンを形成するために、重合を受けることができる。-Si-O-鎖長と、側基と、架橋と、を変えることにより、多種多様な特性と組成とを有するポリシロキサンは、合成され得る。これらは、液体からゲル、ゲルからゴム、ゴムから硬質プラスチックへと稠度において変わり得る。最も一般的なシロキサンは、線状ポリジメチルシロキサン(PDMS)、すなわち、シリコーンオイル、である。シリコーンモノマも、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供するために、前述されたとおりの少なくとも1種の抗微生物性モノマとの重合を受けることができる。
【0052】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、ビニルモノマである。ビニルモノマの非限定的な例としては、次に限定されるわけではないが、ビニルエステル(アクリレート)と、ビニルカーボネート(ROC(O)OCH=CH)と、ビニルカルバメート(R’R”NC(O)OCH=CH)と、が挙げられる。これらのモノマは、概して多くの生物医学的応用にとって好適であると知られている。特に、ビニルカーボネートとビニルカルバメートのようなモノマは、概して、アクリレートに対して同様の反応性を有するにも関わらず、低い細胞毒性を有する。例えば、ビニルカーボネートとビニルカルバメートとの分解は、分解生成物として非毒性の低分子量ポリビニルアルコールと、グリセロールまたはポリエチレングリコールなどの様々な他の非毒性アルコールと、を提供するように、容易に変わり得る。この概念は、再生医療のためのヒドロゲルの分野において、ヒアルロン酸のビニルエステル誘導体とゼラチンとを提供するためにも使用されている。ビニルモノマも、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供するために、前述されたとおりの少なくとも1種の抗微生物性モノマとの重合を受けることができる。
【0053】
一実施形態において、少なくとも1種の他のモノマは、コラーゲンモノマである。単一のコラーゲン分子であるトロポコラーゲンは、繊維などのより大きなコラーゲン凝集物を構成するために使用される。繊維は、3つのポリペプチド鎖で構成され、各ポリペプチド鎖は、左巻らせんの立体構造を有する。これら3つの左巻らせんは、一緒に撚り合わされて、水素結合により安定化した協力的な4次構造の、右巻の3重らせんまたは微小繊維を形成する。各微小繊維は、次いで、隣接する微小繊維と互いにかみ合わされる。さらに、コラーゲンモノマは、様々なリンカーを用いて、1つまたは複数のアクリレートモノマまたはビニルモノマと結合してもよい。コラーゲンモノマも、眼内インプラント用の抗微生物性ポリマを提供するために、前述されたとおりの少なくとも1種の抗微生物性モノマとの重合を受けることができる。一実施形態において、眼内インプラントは、コラーゲンとN-イソプロピルアクリルアミド、コラーゲンと1-エチル-3,3’(ジメチル-アミノプロピル)-カルボジイミド、ならびにコラーゲンとN-ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NHS)を含んでもよい。
【0054】
前述の説明において、本開示は、その具体的な例示的実施形態を参照しながら説明される。しかしながら、特許請求の範囲において詳細に説明されるように、本開示の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更や変化が為されてもよいことは明らかである。したがって、明細書と図面とは、限定的としてではなく、例示的なものとして見なされるべきである。本開示は、様々な他の組合せと実施形態とを使用することができ、ならびに本明細書内で説明されるような本発明の概念の範囲内においていかなる変化や変更も行うことができることが理解されよう。

図1