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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-25
(45)【発行日】2024-10-03
(54)【発明の名称】誘導加熱方法及び誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20240926BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240926BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20240926BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
H05B6/10 371
C21D1/10 H
C21D1/42 M
C21D9/08 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021003815
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108681
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】花木 昭宏
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0201584(US,A1)
【文献】特開2003-239018(JP,A)
【文献】特開平07-242934(JP,A)
【文献】特開2002-080914(JP,A)
【文献】特開2001-059116(JP,A)
【文献】特開2007-297718(JP,A)
【文献】特開2001-303125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/02 - 6/44
C21D 1/10
C21D 1/42
C21D 1/74
C21D 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のワークを誘導加熱するための誘導加熱方法であって、
(a)前記ワークを上下方向に立て、且つ、前記ワークの外周面を囲むように誘導コイルを配置し、且つ、前記ワークの外周面と前記誘導コイルとの間に仕切り管を配置した状態で、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間、及び、前記ワークの内部の各々に不活性ガスを下方から上方に向けて流すように供給しながら、前記誘導コイルにより前記ワークを誘導加熱するステップと、
(b)前記(a)の後に、前記ワークを上下方向に立て、且つ、前記ワークの外周面と前記誘導コイルとの間に前記仕切り管を配置した状態で、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間に不活性ガスを下方から上方に向けて流すように供給しながら、前記ワークの内部に冷却液を供給することにより前記ワークを冷却するステップと、を含む
誘導加熱方法。
【請求項2】
前記(b)では、冷却液を噴射するための噴射ノズルを前記ワークの内部に挿通した状態で、前記噴射ノズルから前記ワークの内部に向けて冷却液を噴射することにより、前記ワークを冷却する
請求項1に記載の誘導加熱方法。
【請求項3】
前記(b)では、前記噴射ノズルの外周面から前記ワークの内周面に向けて冷却液を放射状に噴射することにより、前記ワークを冷却する
請求項2に記載の誘導加熱方法。
【請求項4】
前記仕切り管は、石英管又はセラミック管である
請求項1~のいずれか1項に記載の誘導加熱方法。
【請求項5】
筒状のワークを誘導加熱するための誘導加熱装置であって、
前記ワークの外周面を囲むように配置され、前記ワークを誘導加熱する誘導コイルと、
前記ワークの外周面と前記誘導コイルとの間に配置された仕切り管と、
不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
冷却液を供給する冷却液供給部と、を備え、
前記誘導コイルにより前記ワークを誘導加熱する際には、前記ワークを上下方向に立てた状態で、前記不活性ガス供給部は、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間、及び、前記ワークの内部の各々に不活性ガスを下方から上方に向けて流すように供給し、
前記ワークを冷却する際には、前記ワークを上下方向に立てた状態で、前記不活性ガス供給部は、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間に不活性ガスを下方から上方に向けて流すように供給し、且つ、前記冷却液供給部は、前記ワークの内部に冷却液を供給する
誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のワークを誘導加熱するための誘導加熱方法及び誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
筒状のワークを誘導加熱するための誘導加熱方法が知られている。特許文献1に開示された誘導加熱方法では、ワークを誘導加熱する加熱工程が行われた後に、ワークを冷却する冷却工程が行われる。
【0003】
加熱工程では、ワークの外周面及び内周面の各々に沿って不活性ガスを流すことにより、ワークの内外を無酸化状態にした後に、誘導コイルによりワークを誘導加熱する。
【0004】
また、冷却工程では、冷却ジャケットから供給される冷却液をワークの外周面に向けて噴射することにより、ワークを冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-24515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の誘導加熱方法における冷却工程では、冷却液中の溶存酸素により、ワークの外周面に酸化スケール(酸化被膜)が形成されてしまい、ワークの外観品質が低下するという課題が生じる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決しようとするものであり、その目的は、筒状のワークの誘導加熱時及び冷却時に、ワークの外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる誘導加熱方法及び誘導加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る誘導加熱方法は、筒状のワークを誘導加熱するための誘導加熱方法であって、(a)前記ワークの外周面を囲むように誘導コイルを配置し、且つ、前記ワークの外周面と前記誘導コイルとの間に仕切り管を配置した状態で、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間、及び、前記ワークの内部の各々に不活性ガスを供給しながら、前記誘導コイルにより前記ワークを誘導加熱するステップと、(b)前記(a)の後に、前記ワークの外周面と前記誘導コイルとの間に前記仕切り管を配置した状態で、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間に不活性ガスを供給しながら、前記ワークの内部に冷却液を供給することにより前記ワークを冷却するステップと、を含む。
【0009】
本態様によれば、ワークを誘導加熱する際には、ワークの外周面と仕切り管の内周面との間、及び、ワークの内部の各々に不活性ガスを供給する。これにより、ワークの外周面と仕切り管の内周面との間、及び、ワークの内部の各々において空気(酸素)が遮断された状態で、ワークを誘導加熱することができる。その結果、ワークの誘導加熱時に、ワークの外周面及び内周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる。また、ワークを冷却する際には、ワークの外周面と仕切り管の内周面との間に不活性ガスを供給しながら、ワークの内部に冷却液を供給する。これにより、ワークの外周面と仕切り管の内周面との間において空気(酸素)が遮断された状態で、ワークを冷却することができる。その結果、ワークの冷却時に、ワークの外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる。したがって、ワークの外周面の外観品質を高めることができる。
【0010】
例えば、前記(b)では、冷却液を噴射するための噴射ノズルを前記ワークの内部に挿通した状態で、前記噴射ノズルから前記ワークの内部に向けて冷却液を噴射することにより、前記ワークを冷却するように構成してもよい。
【0011】
本態様によれば、冷却液を噴射するための噴射ノズルをワークの内部に挿通することにより、ワークを効率良く冷却することができる。
【0012】
例えば、前記(b)では、前記噴射ノズルの外周面から前記ワークの内周面に向けて冷却液を放射状に噴射することにより、前記ワークを冷却するように構成してもよい。
【0013】
本態様によれば、噴射ノズルの外周面からワークの内周面に向けて冷却液を放射状に噴射することにより、ワークをより一層効率良く冷却することができる。
【0014】
例えば、前記(a)では、前記ワークを上下方向に立てた状態で、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間、及び、前記ワークの内部の各々に不活性ガスを下方から上方に向けて流し、前記(b)では、前記ワークを上下方向に立てた状態で、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間に不活性ガスを下方から上方に向けて流すように構成してもよい。
【0015】
本態様によれば、誘導コイルにより誘導加熱されたワークの熱を利用して、不活性ガスを下方から上方に向けて流し易くすることができる。
【0016】
例えば、前記仕切り管は、石英管又はセラミック管であるように構成してもよい。
【0017】
本態様によれば、仕切り管を、非磁性及び耐熱性を有する材料で形成することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る誘導加熱装置は、筒状のワークを誘導加熱するための誘導加熱装置であって、前記ワークの外周面を囲むように配置され、前記ワークを誘導加熱する誘導コイルと、前記ワークの外周面と前記誘導コイルとの間に配置された仕切り管と、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、冷却液を供給する冷却液供給部と、を備え、前記誘導コイルにより前記ワークを誘導加熱する際には、前記不活性ガス供給部は、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間、及び、前記ワークの内部の各々に不活性ガスを供給し、前記ワークを冷却する際には、前記不活性ガス供給部は、前記ワークの外周面と前記仕切り管の内周面との間に不活性ガスを供給し、且つ、前記冷却液供給部は、前記ワークの内部に冷却液を供給する。
【0019】
本態様によれば、上述と同様に、ワークの誘導加熱時及び冷却時に、ワークの外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができ、ワークの外周面の外観品質を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様に係る誘導加熱方法等によれば、筒状のワークの誘導加熱時及び冷却時に、ワークの外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができ、ワークの外周面の外観品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態に係る誘導加熱装置を示す斜視図である。
図2図1のII-II線による、実施の形態に係る誘導加熱装置の概略要部断面図である。
図3図1のIII-III線による、実施の形態に係る誘導加熱装置の概略要部断面図である。
図4】実施の形態に係る誘導加熱装置の動作の流れを示すフローチャートである。
図5】加熱工程における、実施の形態に係る誘導加熱装置の概略要部断面図である。
図6】加熱工程における、実施の形態に係る誘導加熱装置の概略要部断面図である。
図7】冷却工程における、実施の形態に係る誘導加熱装置の概略要部断面図である。
図8】冷却工程における、実施の形態に係る誘導加熱装置の概略要部断面図である。
図9】比較例、実施例1及び2に係る各誘導加熱装置によりそれぞれ誘導加熱されたワークの外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0023】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、特許請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0024】
また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0025】
(実施の形態)
[1.誘導加熱装置の構成]
まず、図1図3を参照しながら、実施の形態に係る誘導加熱装置2の構成について説明する。図1は、実施の形態に係る誘導加熱装置2を示す斜視図である。図2は、図1のII-II線による、実施の形態に係る誘導加熱装置2の概略要部断面図である。図3は、図1のIII-III線による、実施の形態に係る誘導加熱装置2の概略要部断面図である。
【0026】
なお、図1図3において、誘導加熱装置2の左右方向をX軸方向、誘導加熱装置2の前後方向をY軸方向、誘導加熱装置2の上下方向をZ軸方向とする。また、図1図3において、Z軸のプラス側を「上方」、Z軸のマイナス側を「下方」とする。
【0027】
誘導加熱装置2は、ワーク4を高周波で誘導加熱(いわゆる、高周波焼き入れ)するための装置である。高周波焼き入れとは、例えば数kHz~数十kHz程度の高周波の電磁誘導を起こすことにより、ワーク4の表面を加熱させて焼き入れを行う熱処理である。
【0028】
ワーク4は、鋼等で形成された薄肉円筒状且つ長尺状の金属部品であり、例えばゴルフクラブのスチールシャフト等である。なお、ワーク4の肉厚は、例えば0.2~0.5mmであり、ワーク4の長さは、例えば約1000mmである。
【0029】
図1図3に示すように、誘導加熱装置2は、ベース部6と、支持ユニット8と、給気部10と、冷却液受け槽12と、不活性ガス供給部14a,14bと、排気部16と、受け治具18と、冷却液供給部20と、噴射ノズル22と、仕切り管24と、誘導コイル26とを備えている。
【0030】
図1に示すように、ベース部6は、誘導加熱装置2全体の土台となる部材である。ベース部6は、例えば室内の床面上に載置される。
【0031】
支持ユニット8は、仕切り管24を支持するための部材である。図1に示すように、支持ユニット8は、下側支持プレート28と、複数の支持柱30と、上側支持プレート32とを有している。
【0032】
下側支持プレート28は、仕切り管24の下端部を支持するための部材である。図1に示すように、下側支持プレート28は、略矩形状の平板であり、ベース部6の上端部に配置されている。図2に示すように、下側支持プレート28の中央部には、円形状の開口部34が形成されている。また、図1及び図2に示すように、下側支持プレート28には、配管プラグ36a,36bが配置されている。配管プラグ36a,36bは、XY平面視で開口部34に対して略対称な位置に配置され、下側支持プレート28を貫通するように配置されている。
【0033】
複数の支持柱30は、上側支持プレート32を支持するための部材である。複数の支持柱30は、長尺状の円柱状に形成され、下側支持プレート28の上面から上方に立設されている。
【0034】
上側支持プレート32は、仕切り管24の上端部を支持するための部材である。図1に示すように、上側支持プレート32は、略矩形状の平板であり、複数の支持柱30の各上端部に支持されている。すなわち、上側支持プレート32は、下側支持プレート28の上方に対向して配置されている。図3に示すように、上側支持プレート32の中央部には、円形状の開口部38が形成されている。
【0035】
図2に示すように、給気部10は、下側支持プレート28の下面に取り付けられている。給気部10には、下側支持プレート28の開口部34と連通する給気・排水用流路40及び給気用流路42が形成されている。給気・排水用流路40の上端部は、下側支持プレート28の上面に開口され、給気・排水用流路40の下端部は、下側支持プレート28の下面に開口されている。同様に、給気用流路42の上端部は、下側支持プレート28の上面に開口され、給気用流路42の下端部は、下側支持プレート28の下面に開口されている。
【0036】
また、給気部10の下端部には、給気用流路42と連通する配管プラグ44が取り付けられている。配管プラグ44は、チューブ46を介して上述した配管プラグ36aに接続されている。
【0037】
冷却液受け槽12は、ワーク4の内部を通して流下した冷却液(後述する)を受けるための水槽である。図1及び図2に示すように、冷却液受け槽12は、下側支持プレート28の下面に取り付けられており、給気部10を下方から覆うように配置されている。なお、図1に示すように、冷却液受け槽12の下端部には、当該冷却液受け槽12に溜まった冷却液を外部に排出するための排水管48が配置されている。
【0038】
図2に示すように、不活性ガス供給部14a,14bは、例えば窒素又はアルゴン等の不活性ガスを供給する供給源である。不活性ガス供給部14a,14bはそれぞれ、チューブ(図示せず)を介して配管プラグ36a,36bに接続されている。
【0039】
図3に示すように、排気部16は、上側支持プレート32の上面に取り付けられている。排気部16には、上側支持プレート32の開口部38と連通する第1の排気用流路50、第2の排気用流路52及び第3の排気用流路54が形成されている。
【0040】
第1の排気用流路50は、排気部16の上面から下面まで延びている。すなわち、第1の排気用流路50の上端部は、排気部16の上面に開口され、第1の排気用流路50の下端部は、排気部16の下面に開口されている。また、第1の排気用流路50の上端部には、配管プラグ56が取り付けられている。
【0041】
第2の排気用流路52は、排気部16の下面から側面まで延びている。すなわち、第2の排気用流路52の一端部は、排気部16の下面に開口され、第2の排気用流路52の他端部は、排気部16の側面に開口されている。なお、第2の排気用流路52の他端部には、逆止弁を配置してもよい。
【0042】
第3の排気用流路54は、第1の排気用流路50から分岐して側方に延びている。すなわち、第3の排気用流路54の一端部は、第1の排気用流路50の側面に開口され、第3の排気用流路54の他端部は、排気部16の側面に開口されている。なお、第3の排気用流路54の他端部には、逆止弁を配置してもよい。
【0043】
受け治具18は、ワーク4を上下方向に立てた状態に保持するための治具である。図2及び図3に示すように、受け治具18は、下側受け治具58と、下側接触治具60と、上側受け治具62と、上側接触治具64とを有している。
【0044】
図2に示すように、下側受け治具58は、円筒状に形成され、例えば樹脂で形成されている。下側受け治具58は、給気部10の上面から下側支持プレート28の開口部34を通して上方に立設している。下側受け治具58の内部は、給気部10の給気・排水用流路40と連通し、且つ、ワーク4の内部と連通している。下側接触治具60は、リング状に形成され、例えばセラミックで形成されている。下側接触治具60は、下側受け治具58の上端部に配置されており、上下方向に立てたワーク4の下端部を着脱自在に支持する。
【0045】
図3に示すように、上側受け治具62は、円筒状に形成され、例えば樹脂で形成されている。上側受け治具62は、排気部16の下面から上側支持プレート32の開口部38を通して下方に延びている。上側受け治具62の内部は、排気部16の第1の排気用流路50と連通し、且つ、ワーク4の内部と連通している。上側接触治具64は、リング状に形成され、例えばセラミックで形成されている。上側接触治具64は、上側受け治具62の下端部に配置されており、上下方向に立てたワーク4の上端部を着脱自在に支持する。
【0046】
図3に示すように、冷却液供給部20は、誘導加熱されたワーク4を冷却するための冷却液(焼入液)を供給する供給源である。冷却液は、例えばPAG(ポリアルキレングリコール)等のポリマーを含有する水溶液である。冷却液供給部20は、チューブ(図示せず)を介して配管プラグ56に接続されている。
【0047】
図3に示すように、噴射ノズル22は、冷却液を噴射するための長尺状のノズルである。噴射ノズル22の上端部は、パッキン66を介して配管プラグ56の内周面に取り付けられている。これにより、噴射ノズル22は、配管プラグ56と連通している。噴射ノズル22は、配管プラグ56から下方に延び、その一部は、上側受け治具62及び上側接触治具64の各内部、及び、受け治具18により上下方向に立てた状態に保持されたワーク4の内部に挿通される。図2に示すように、噴射ノズル22の下端部は、ワーク4の下端部よりもやや上方に配置されている。噴射ノズル22の外周面のうち、ワーク4の内部に挿通される領域には、ワーク4の内周面に向けて冷却液を放射状に噴射するための複数のノズル孔(図示せず)が形成されている。
【0048】
仕切り管24は、受け治具18により上下方向に立てた状態に保持されたワーク4の外周面と誘導コイル26とを仕切るための部材であり、薄肉円筒状且つ長尺状に形成されている。仕切り管24は、非磁性及び耐熱性を有する材料で形成されており、例えば石英管又はセラミック管である。図2に示すように、仕切り管24の下端部は、下側支持プレート28の開口部34の内周面上に取り付けられている。また、図3に示すように、仕切り管24の上端部は、上側支持プレート32の開口部38の内周面上に取り付けられている。これにより、仕切り管24は、受け治具18と、当該受け治具18により上下方向に立てた状態に保持されたワーク4の外周面とを囲むように配置される。
【0049】
誘導コイル26は、ワーク4を誘導加熱するためのものであり、電源回路(図示せず)に電気的に接続されている。図1に示すように、誘導コイル26は、例えば銅製のパイプを螺旋状に巻回することにより形成された、いわゆるマルチターンコイルである。誘導コイル26は、複数の支持柱30に取り付けられたコイルサポート68に支持されており、仕切り管24の外周面を囲むように配置されている。すなわち、図2及び図3に示すように、誘導コイル26は、ワーク4の全長に亘ってワーク4の外周面を囲むように配置され、仕切り管24は、ワーク4の外周面と誘導コイル26との間に配置されている。
【0050】
[2.誘導加熱装置の動作]
次に、図4図8を参照しながら、実施の形態に係る誘導加熱装置2の動作について説明する。図4は、実施の形態に係る誘導加熱装置2の動作の流れを示すフローチャートである。図5及び図6は、加熱工程における、実施の形態に係る誘導加熱装置2の概略要部断面図である。図7及び図8は、冷却工程における、実施の形態に係る誘導加熱装置2の概略要部断面図である。
【0051】
[2-1.加熱工程]
図4に示すように、まず、誘導コイル26によりワーク4を誘導加熱する加熱工程が行われる(S1)。
【0052】
加熱工程では、誘導加熱すべきワーク4の生材を、受け治具18により上下方向に立てた状態に保持する。これにより、誘導コイル26は、ワーク4の外周面を囲むように配置され、仕切り管24は、ワーク4の外周面と誘導コイル26との間に配置される。この状態で、図5に示すように、不活性ガス供給部14a,14bがともに動作をオンし、図6に示すように、冷却液供給部20が動作をオフする。
【0053】
図5の矢印で示すように、不活性ガス供給部14aからの不活性ガスは、(a1)配管プラグ36a、(a2)チューブ46、(a3)配管プラグ44、(a4)給気部10の給気用流路42、(a5)下側支持プレート28の開口部34、及び、(a6)下側受け治具58の外周面と仕切り管24の内周面との間を通して、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間に供給される。
【0054】
その後、図6の矢印で示すように、不活性ガスは、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間を下方から上方に向けて流れ、(a7)上側支持プレート32の開口部38、及び、(a8)排気部16の第2の排気用流路52を通して、外部に排出される。
【0055】
また、図5の矢印で示すように、不活性ガス供給部14bからの不活性ガスは、(b1)配管プラグ36b、(b2)冷却液受け槽12、(b3)給気部10の給気・排水用流路40、(b4)下側支持プレート28の開口部34、及び、(b5)下側受け治具58の内部を通して、ワーク4の内部に供給される。
【0056】
その後、図6の矢印で示すように、不活性ガスは、ワーク4の内部を下方から上方に向けて流れ、(b6)上側支持プレート32の開口部38、(b7)排気部16の第1の排気用流路50、及び、(b8)排気部16の第3の排気用流路54を通して、外部に排出される。
【0057】
以上のようにして、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間、及び、ワーク4の内部の各々には、不活性ガスが供給される。その結果、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間、及び、ワーク4の内部では、不活性ガスによって空気(酸素)が遮断されるようになる。
【0058】
この状態で、電源回路により生成された高周波電流が所定時間の間、誘導コイル26に供給されることによって、ワーク4が誘導コイル26により当該ワーク4の全長に亘って誘導加熱される。この時、上述したように、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間、及び、ワーク4の内部において空気(酸素)が遮断されているので、いわゆる無酸化状態でワーク4を誘導加熱することができる。
【0059】
この時、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間、及び、ワーク4の内部を流れる不活性ガスは、誘導加熱されたワーク4の熱によってスムーズに上昇することができる。また、ワーク4を誘導加熱することにより、ワーク4の外周面及び内周面から発生した油蒸気は、不活性ガスと同様に、排気部16の第2の排気用流路52及び第3の排気用流路54を通して、外部に排出される。
【0060】
なお、上記所定時間の経過後、誘導コイル26への高周波電流の供給が停止し、誘導コイル26によるワーク4の誘導加熱が停止する。
【0061】
[2-2.冷却工程]
図4に示すように、加熱工程(S1)が行われた後、誘導加熱されたワーク4を冷却する冷却工程が行われる(S2)。
【0062】
冷却工程では、加熱工程から引き続き、誘導加熱されたワーク4を、受け治具18により上下方向に立てた状態に保持する。この状態で、図7に示すように、不活性ガス供給部14aが動作をオン、不活性ガス供給部14bが動作をオフし、図8に示すように、冷却液供給部20が動作をオンする。
【0063】
図7の矢印で示すように、不活性ガス供給部14aからの不活性ガスは、(c1)配管プラグ36a、(c2)チューブ46、(c3)配管プラグ44、(c4)給気部10の給気用流路42、(c5)下側支持プレート28の開口部34、及び、(c6)下側受け治具58の外周面と仕切り管24の内周面との間を通して、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間に供給される。
【0064】
その後、図8の矢印で示すように、不活性ガスは、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間を下方から上方に向けて流れ、(c7)上側支持プレート32の開口部38、及び、(c8)排気部16の第2の排気用流路52を通して、外部に排出される。
【0065】
なお、不活性ガス供給部14bは動作をオフしているので、ワーク4の内部には不活性ガスは供給されない。
【0066】
また、図8の矢印で示すように、冷却液供給部20からの冷却液は、配管プラグ56を通して噴射ノズル22に供給される。噴射ノズル22に供給された冷却液は、噴射ノズル22の内部を流下する間に、複数のノズル孔からワーク4の内周面に向けて放射状に噴射される。これにより、ワーク4は、冷却液によって当該ワーク4の全長に亘って冷却される。この時、上述したように、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間において空気(酸素)が遮断されているので、いわゆる無酸化状態でワーク4を冷却することができる。
【0067】
なお、ワーク4の冷却時にワーク4の内周面で発生した蒸気は、第3の排気用流路54を通して外部に排出される。これにより、ワーク4の内部への不活性ガスの供給を停止した場合であっても、ワーク4の内周面で発生した高温の蒸気が外部に排出されるので、ワーク4の内部に空気(酸素)が再度流入するのを抑制することができ、無酸化状態を維持することができる。
【0068】
図7に示すように、ワーク4を冷却した冷却液は、下側受け治具58の内部、及び、給気部10の給気・排水用流路40を通して流下し、冷却液受け槽12に溜められる。冷却液受け槽12に溜まった冷却液は、排水管48(図1参照)を通して外部に排出される。
【0069】
[3.効果]
上述したように、加熱工程では、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間、及び、ワーク4の内部において空気(酸素)が遮断された状態で、ワーク4を誘導加熱することができる。これにより、加熱工程において、ワーク4の外周面及び内周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる。
【0070】
また、冷却工程では、ワーク4の外周面と仕切り管24の内周面との間において空気(酸素)が遮断された状態で、ワーク4を冷却することができる。これにより、冷却工程において、ワーク4の外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる。
【0071】
したがって、ワーク4の誘導加熱時及び冷却時に、ワーク4の外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができ、ワーク4の外周面の外観品質を高めることができる。
【0072】
[4.実施例及び比較例]
本実施の形態による効果、すなわち、ワーク4の誘導加熱時及び冷却時に、ワーク4の外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる効果を確認するため、以下の実験を行った。図9は、比較例、実施例1及び2に係る各誘導加熱装置によりそれぞれ誘導加熱されたワークの外観を示す写真である。
【0073】
比較例では、図9の(a)に示す鋼製の円筒状のワークの生材に対して、大気中において8kHzの高周波で誘導加熱した後に、大気中においてワークを冷却した。その結果、図9の(b)に示すように、ワークの外周面には酸化スケールが形成され、ワークの外周面が黒くなった。
【0074】
実施例1では、図9の(a)に示す鋼製の円筒状のワークの生材に対して、窒素雰囲気中において42kHzの高周波で誘導加熱した後に、窒素雰囲気中においてワークを冷却した。その結果、図9の(c)に示すように、ワークの外周面には酸化スケールが形成されず、ワークの外周面は生材の光沢を保っていた。
【0075】
実施例2では、図9の(a)に示す鋼製の円筒状のワークの生材に対して、窒素雰囲気中において8kHzの高周波で誘導加熱した後に、窒素雰囲気中においてワークを冷却した。その結果、図9の(d)に示すように、ワークの外周面には酸化スケールがほとんど形成されず、ワークの外周面は生材に近い光沢を保っていた。
【0076】
以上のことから、実施の形態に係る誘導加熱装置2では、ワーク4の誘導加熱時及び冷却時に、ワーク4の外周面に酸化スケールが形成されるのを抑制することができる効果を得られることが確認された。
【0077】
(変形例等)
以上、本発明の1つ又は複数の態様に係る誘導加熱装置について、上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の1つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0078】
上記実施の形態では、誘導コイル26をマルチターンコイルとしたが、これに限定されず、例えば銅製のパイプを折り曲げることにより形成された、いわゆるラインコイルとしてもよい。
【0079】
また、上記実施の形態では、噴射ノズル22の一部をワーク4の内部に挿通したが、必ずしもワーク4の内部に挿通しなくてもよい。この場合、噴射ノズル22の下端部は、ワーク4の上端部よりも上方に配置され、噴射ノズル22の下端部から下方に向けて噴射した冷却液は、ワーク4の上端部における開口部を通してワーク4の内部に供給される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば金属部品の高周波焼き入れを行うための誘導加熱装置等に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
2 誘導加熱装置
4 ワーク
6 ベース部
8 支持ユニット
10 給気部
12 冷却液受け槽
14a,14b 不活性ガス供給部
16 排気部
18 受け治具
20 冷却液供給部
22 噴射ノズル
24 仕切り管
26 誘導コイル
28 下側支持プレート
30 支持柱
32 上側支持プレート
34,38 開口部
36a,36b,44,56 配管プラグ
40 給気・排水用流路
42 給気用流路
46 チューブ
48 排水管
50 第1の排気用流路
52 第2の排気用流路
54 第3の排気用流路
58 下側受け治具
60 下側接触治具
62 上側受け治具
64 上側接触治具
66 パッキン
68 コイルサポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9